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老ガイル
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:06:54.16 ID:m60a5kLz0
俺ガイルssです。
これは八幡と雪乃の未来のifストーリーになります。
※このssに出てくる二人が童○と処○です。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1502114813
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:07:21.27 ID:m60a5kLz0
家族、それは男女が愛を交わして
その愛が育みやがて子供が生まれるという
人類が有史以前から持ち合わせているコミュニティの一種だ。
この俺、比企谷八幡もそのコミュニティのおかげでこの世に生を持てた。
だが俺の場合は家族というカテゴリーからかなりかけ離れる。
何故なら我が家には俺の他にMyスウィートエンジェル小町ちゃんがいる。
両親は小町にたっぷりと愛情を注ぐには生憎と俺には…
生まれてこの方、俺は家族からの愛というものをろくに知らない。
それに誰かに好かれたことも一度だってない。
精々小町から茶化される程度のモノしか受け取れていない。
そんな俺が家族など持てるわけがない。そう思い今日まで生きてきた。
こうして捻くれ者として人生を歩み続けて彼此87年の歳月が過ぎた。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:08:55.10 ID:m60a5kLz0
「ヒキタニさん。ヒキタニのお爺さん。朝ですよ!起きてください!」
「うぅ…うるさいのぅ…もっと寝かせろ…」
「何言ってるんですか!もう朝の9時過ぎ。とっくに食堂が閉まっている時間ですよ!」
介護のヘルパーさんに叩き起されて俺はようやく目が覚めた。
比企谷八幡、御年87歳。既に高校を卒業してもう70年が過ぎた。
本来なら一人気ままに余生を過ごすはずが近所の民生委員により介護施設にぶち込まれた。
なんでも老人の一人暮らしは危険だとかそんな理由だ。
まったく余計なお世話だ。俺は最期までぼっちとして生き抜くつもりだったのにな。
だがここでの生活は案外悪くはない。
日々、職員たちが身の回りの世話をしてくれるので食いっぱぐれる心配はない。
まあヘルパーさんが未だに俺の名前を間違っているのだけは納得いかんのだが…
けど俺の担当ヘルパーさんだが
もう5年も付き合いあるのに未だに俺の名前を間違えたままなのは問題あるだろ。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:09:31.96 ID:m60a5kLz0
「さあ、食べちゃってください。それで食べ終わったら声を掛けて。すぐに片付けます。」
「わかったよ。それじゃあいただきます。」
ヘルパーさんは他の部屋も担当しているので俺ばかりに引っ付いているわけにもいかない。
だから俺は一人で黙々とメシを食っているわけだ。
うん、実に…普通の味だ。別に悪いとかそんなんじゃない。
だが…なんといえばいいのだろうか…
時折妙に居た堪れない気分になる。
何で一人こんな寂しくメシなど食わねばならんのだとそう思える。
いや、これはぼっちとして歩んできた俺の人生。こうなるのは当然のことだろ。
それに俺が誰かに愛されたことがあるか?俺を愛してくれた人間なんていたか?
いなかっただろ。だからこんな末路を迎えたんだ。
そう、これは当然のこと…
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:10:29.53 ID:m60a5kLz0
「あら、相変わらず侘しい一人ご飯なのね。」
そんな俺の元へある老女が尋ねてきた。
それは俺と同じくこの施設に入居している雪ノ下雪乃、御年87歳だ。
思えばこいつとは高校時代からずっと腐れ縁が続いた。
出会いは高校時代から始まり大学、就職先とずっと一緒だった。
それがまさか介護施設まで一緒になるとは…
一体何のめぐり合わせなんだかな。
「あなたらしいわね。そうやって一人ぼっちで取り残されながら食事を取るなんて…」
「おいやめろ。
小学校時代の給食時間に嫌いなトマトを食いきれなくて
休み時間ずっと食わされていたトラウマを掘り起こすんじゃねえ。」
「そうね、今日の献立はおかずにトマトが載ってあるわ。
実は私のトマトをあなたのために残してあげたのよ。ほら、食べなさい。」
くっ…雪ノ下め…
俺が入居してからというものの毎日こんな嫌がらせをしてくる。
いや、それ以前からか。
職場ではこいつが上司だったからアホみたく業務を俺に押し付けて…
それは高校時代に奉仕部をやっていた頃からちっとも変わらないやりとりだ。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:11:08.88 ID:m60a5kLz0
「ちゃんとトマトを食べられたようね。フフ、87歳も生きると苦手も克服出来るものね。」
「うるせえ、無理やり飲み込んだんだ。ところで…今日はわかってるな…」
「ええ、もう支度は出来ているわ。あなたも早く支度しなさい。」
朝食を終えると俺たちは外出の準備を行った。
一応介護施設に入居している身とはいえ許可を貰えば外出くらいはできる。
用意を整えた俺たちはとある場所へと赴くのだが…
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:11:35.45 ID:m60a5kLz0
「痛っ…やはり歳は取りたくないものね…」
施設の敷地から出たばかりなのにこれだ。
雪ノ下は数年前から足腰が悪くなり満足に歩けない。
そのためこいつは滅多に外出などしない。
だが今日はちがう。今日だけはなんとしてもある場所へ赴かなくてはならなかった。
「無理すんな。ほれ、おぶんぶしてやる。」
「いいわよ。このくらいなんともないわ。あなたの助けなんて…」
「馬鹿言うな。時間がないんだぞ。このまま間に合わなかったらどうするつもりだ。」
「………わかったわ。それでは責任持って必ず間に合わせなさい。」
渋々ながら俺の背中におぶられる雪ノ下。いつもこんな感じだ。
どれだけ嫌がっても最後は俺の背中におんぶされる。
昔だったら気恥ずかしくて出来なかったろうが
俺も雪ノ下もいい加減こんなやりとりを日常のものに感じつつあった。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:13:35.83 ID:m60a5kLz0
「あなたの背中随分曲がりだしたわね。若い頃から猫背だった影響ね。
ちゃんと姿勢を整えていればもう少しは見栄えも良かっただろうに自業自得よ。」
「うるせえ、お前だって若い頃もっと身体を動かしていたらこうはならなかっただろ。」
売り言葉に買い言葉。
その応酬もいつものことだ。もうこんなやりとりを続けて70年目だ。
他人から見れば飽きることなくようやるもんだろ呆れるだろう。
だが俺たちにしてみれば不思議と悪くなく心地よくも思える。
さて、そんな最中に俺の携帯が鳴った。連絡の主はどうやらあいつだ。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:16:37.19 ID:m60a5kLz0
「なんじゃ。またお前か。何?遺産?馬鹿が!お前になんぞ一銭たりとも残すか!?」
「またあの子からの連絡?」
「ああ、小町の娘からだ。とうとうあの馬鹿娘が小町たちの財産を食い潰しちまった。」
俺の親族は両親が30年前に死んだ。
それに小町も夫の川崎大志と一緒に10年前にぽっくりとあの世に旅立った。
それから俺の親族はあの小町の馬鹿娘だけになった。
あいつときたら…会う度に金をせびってくる。
俺はあいつに両親の遺産をすべて譲ったんだぞ。
それなのにヤツは3年もしないうちにその遺産をすべて使い切った。
そして今も小町たちの遺産を使い切ったと泣き喚いてきた。
悪いが俺は助けるつもりなどない。
これもすべてはうちの親や小町たちの自業自得だろう。
生まれてからずっとあいつを甘やかし続けたんだ。
それで今更俺のところに泣きつかれても困るわけだがな。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:17:11.69 ID:m60a5kLz0
「小町が大志と結婚して良かったことといえば戸塚と親戚になれたことくらいだな。」
「そうね。戸塚くんは川崎沙希さんと結婚したのよね。」
「まったく戸塚は最高だったわい。あんな可愛い婆さんは他にいねえからなぁ。」
「何を言っているの?戸塚くんはお爺さんだったでしょ。」
どうやら雪ノ下は頭がボケ始めたらしい。哀れな…
あんな可愛い子がお爺さんとかありえんわ!全国の戸塚ファンと俺に謝れ!
まあそんな戸塚の婆さんと川なんとかは15年前に揃って死んじまった。
家族に看取られての安らかな眠りだった。
「そういえばあなたは珍しくあの子を甘やかさなかったわね。何故なの?」
「さあな。どうにもあいつは気に食わなかった。小町の娘だというのにおかしなもんだ。」
雪ノ下の疑問に俺は改めて自分でも思うところがあった。
何故俺は姪っ子をここまで煙たがるのだろうか?
あの可愛い妹の小町。その娘なのに俺はあの姪っ子をちっとも可愛いと思えなかった。
その理由は何なのか?
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:18:39.18 ID:m60a5kLz0
「つか金の問題ならお前だって大変だろ。遺産問題やばくねえか?」
「それなら問題ないわ。
行かず後家で終わった私に両親は大したものを残さなかったもの。
それに私の死後、お金は寄付に回してもらう予定だから。」
俺と同じく雪ノ下もまたこの歳までずっと独身だ。子供なんていやしない。
お互いぼっちであるために孤独の老後だ。
ちなみにこいつの姉である雪ノ下陽乃だが2年ほど前に亡くなっている。
雪ノ下さんも生涯独身であったため、雪ノ下家は遠縁の縁者が跡を継いだらしい。
そのため雪ノ下が独身で子なしでも何の問題もなくなった。
だが独身であったため、雪ノ下もまた俺と同じく孤独なぼっちの人生を歩んだ。
周りに家族でもいれば少しはちがったのだろうがこれもまた人生。
仕方のないことだと思って諦めるしかない。
まあそんな物思いに耽っているうちにバス停まで到着した。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:19:08.71 ID:m60a5kLz0
「オイ、もうすぐバスに乗るが小便は済ませたか?」
「あなたという男は何年経ってもデリカシーがないわね。女性の前でそんなこと言う?」
「その歳になってデリカシーも糞もあるか。漏らして一番困るのはお前なんだぞ。」
「バカ…外出前にちゃんと済ませたわよ…」
これもまた長生きの弊害ってヤツだがもうこの歳になると尿漏れだって起きる。
以前は抵抗のあった紙おむつだって付けなきゃ周囲に臭いを気取られる。
俺たちぼっち…というか爺婆はそんな周囲から蔑まれる視線に人一倍敏感だ。
だからなるべくしてリスクは避けたいのが現状だ。
まったく若い頃ならしなくてもいい心配に晒される。本当に歳なんて取りたくなかった。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:19:37.24 ID:m60a5kLz0
「パパ!ママ!ディスティニーランド楽しみね!」
「そうだな。久しぶりの家族団らんだし大いに楽しもうな。」
「本当に今日はお天気日よりでなによりね。」
バスに乗ったはいいがどういうわけか家族連れに遭遇した。
まあ別にこれといってどうという問題でもない。
こっちがスルーしていれば向こうだって気にも止めないだろう。
だが雪ノ下はそうでもない。若い家族連れを見ると雪ノ下はいつも不機嫌になる。
不快そうな顔であの若い家族を睨みつけようとする。
おい、やめろ。連中は俺たちに何も危害なんて行っていないんだ。
「アハハハハッ!面白〜い!」
そんな時だった。
あの家族の子供がバス内で大はしゃぎを始めた。
本来なら止めなければならないが生憎とバス内には俺たちとこの家族連れの二組だけ。
そのため両親も子供のことだからとスルーしていた。
だがその行動が雪ノ下の逆鱗に触れてしまった。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:20:19.31 ID:m60a5kLz0
「失礼だけどあなたたち、そこのお猿さんをしっかりと躾たらどうなの。
それはあなたたちが盛って産んだモノなのでしょう。
それなら他人さまに迷惑をかけないように心掛けておくべきではないかしら。」
恐ろしく冷たい口調で子供の親にそんなことを告げてしまう雪ノ下。
歳を取ってからもその毒舌は未だに健在。むしろ切れ味が増している。
氷の女王、未だに健在ってか。
「な…お婆さん…アンタうちの子が猿だと!」
「あなた何なんですか!うちの子に恨みでもあるの!?」
まあこうなるとあっちも喧嘩腰になるわな。
まったく決まったやりとりだ。
こいつと出会ってもう70年経つがいい加減どうにかならんものかとたまに思う。
まあもうどうにもならんのだろうな。
「すいませんねえ。こいつちょっと機嫌が悪くて…」
喧嘩沙汰になったら体力のない俺たちに不利なのは確実。
ここは逃げるが勝ち。
雪ノ下は俺の背中で文句を言い続けているが適当な言い訳をしてさっさと逃げるが得策。
そんなわけで目的地のひとつ前の停留所で逃げるように降りた。
ハァ…ここから雪ノ下を背負って歩きか…中々しんどいわい…
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:22:23.44 ID:m60a5kLz0
「ふぅ、やっと着いたぞ。」
「情けないわね。息も絶えているじゃない。」
「無茶言うな。この歳でお前一人担ぐのは相当力が要るんだぞ。」
「そんな泣き言など聞きたくもないわ。男なら女の一人くらい背負ってみせなさい。」
相変わらず女王さま気質の雪ノ下をおんぶしながらようやく目的地へとたどり着いた。
そこは病院。俺たちのように病気になりがちな老人には欠かせない場所。
俺は息も絶える状態で雪ノ下をおんぶしたままその玄関をくぐり抜けた。
つかもうこのまま入院したい。
誰か担架持ってきて。それでこのままベッドまで直行してくれ。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:23:33.03 ID:m60a5kLz0
「雪ノ下のおばさま。こんなところで会うなんて奇遇ですね。」
病院の玄関を潜ると一人の若い男が俺たちを待ち構えていた。
この金髪でキザったらしいまでに端正に整えた顔。
ある男の面影がある。高校の頃、面倒事ばかり持ち込んできた葉山のヤツだ。
「葉山くんのお孫さんね。あなたどうしてここへ?」
「どうしてってここはうちの病院じゃないですか。
それに来週は親族会議がありますからね。その打ち合わせで親に呼び出されたんです。
おばさまはもう何年も欠席していますよね。たまにはお顔を出したらどうですか?」
もう何年も雪ノ下に関わっているとこの手の話を嫌というほど耳にしてしまう。
雪ノ下家は今も尚、この千葉の名家だ。
それに葉山の家も親が弁護士で医者と生まれながらの勝ち組。
そうなると両家共に相続する財産は俺のような庶民の考えが及ばないほど莫大なモノだ。
だから骨肉の争いは絶えない。
しかしその争いを止められる者はいない。
何故ならその当人である葉山自身はもう10年ほど前にポックリ死んじまったからだ。
ヤツの嫁だったあーしさんは
それはもうひどく悲しんでそのひと月後にあとを追うように死んじまった。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:25:03.85 ID:m60a5kLz0
「お爺さんが生きていたらもっとスムーズに済むのに…」
「そうね。あの男は最後まで面倒を押し付けて行ったものだわ。」
雪ノ下がそう呟くように葉山の家も相当な遺産を遺していた。
普通に考えれば相続に当たるのはこの直系の孫なんだが
葉山の家は親戚が多いらしくそうなるとやはり財産を巡って骨肉の争いが起きる。
そのためヤツの死後に俺まで駆り出されてその処理を負わされたわけだ。
まったく俺には子供がいなくてよかった。あーっ!生涯ぼっちでよかったわ!
「あ、比企谷のお爺さんもお元気そうでなによりです。」
「けっ、今更気づいたフリすんな。そういうところは爺さんにそっくりだぞ。」
「ハハ、けどお二人はいつもご一緒ですね。本当に仲良し夫婦なんだから。」
そんないらないことを言って葉山の孫は親の待つ部屋に行ってしまった。
あのバカ…まだ俺たちが夫婦だと勘違いしているのか…
俺たちは夫婦なんかじゃない。長年の腐れ縁なだけだ。
まあ確かにあいつの言うように
いつも一緒にいるかもしれんがどこを勘違いしたら俺たちが夫婦に思えるんだ?
「夫婦ね…まったくあの子は…」
「ああ、いい加減勘違いを改めてほしいな。」
「あら、勘違いを改めるのはどっちの方でしょうね。」
なにやら雪ノ下が不機嫌だが俺は何も悪いことは言ってないはず。
まあこんな雑談を繰り返しても仕方がない。
とりあえず俺たちはこの病院のとある一室へと趣いた。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/07(月) 23:26:25.81 ID:az0QffyQo
あっ…
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/07(月) 23:26:34.79 ID:m60a5kLz0
「…やっはろ…」
病室へたどり着くと一人の老女が俺たちを快く迎えてくれた。
本来ならもっと大きな声で俺たちを出迎えたかったのだろうが
生憎とこいつは医者から病を宣告されていた。
だから今日俺たちはなんとしてもこいつに会わなければならなかった。
そう、由比ヶ浜結衣。俺たち二人にとって無二の親友だ。
「ゴホッ…二人とも来てくれて…ありがとね…ケホッ…」
「由比ヶ浜さん無理しないで。もう喋るのもきついのでしょう。」
「もう…年寄り扱いしないでよ…アタシだってまだ若いんだから…」
若いわけねえだろ。
由比ヶ浜と同い年の俺たちが87歳だ。
しかも由比ヶ浜は俺たちよりも誕生日が早いから88歳になる。
88歳といえば米寿。
昔は60歳の還暦、70歳の古稀、77歳の喜寿、最後に祝われる88歳の米寿と長寿を祝った。
だが昨今の少子化問題でそんな祝いも廃れる一方だ。
だから世間からしてみれば
由比ヶ浜がこの歳まで生きたところで俺たち以外は誰も祝っちゃくれないだろう。
それに由比ヶ浜だが…
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