【コンマ】崩壊した世界を旅する19【安価】

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472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 20:21:14.60 ID:qKkAhYWyO
本編終了後は穴はどうなるんだろう?
473 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 20:51:13.42 ID:XWY0zrXEO
2130メドに再開。

>>471
そうですね。かなりの規模まで生活域は広がってます。
上にも旧都イーリスとありますが、これは元々教団の首都だった場所です。(次の話に出ます)

>>472
後で述べるつもりですが、浅い層は観光地化してます。
ただ、「穴」の活動自体は止まってません。深層は依然危険なままです。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 20:59:36.96 ID:X/5Wv9RmO
結局コーウィンの教団絡みの話はほとんど聞けずじまいだったな。続編で明かされるのかそれとももう語られることはないのか
475 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:01:53.85 ID:XWY0zrXEO
>>474
うーん、その話はなさそうですね。大会議ルートに向かった時点で消えちゃった感があります。
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 21:05:46.52 ID:FnfnvQlBO
質問ターンは回数制限の都合上、必要ない話は聞けなかったからなあ……選択肢にはそれっぽいのあったけど……ちなみにどんなルートなら教団メインの話になってたんだろう
477 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:23:42.73 ID:XWY0zrXEO
>>476
帝国と全面対決ルートですね。この場合、とりあえず対立勢力は片っ端から倒す感じになったかと思います。
多分ブレイズとも対立可能性はあったかと。早々に「一族」の全貌が明らかになったため、教団云々は脇に置かれましたが。

なお、500年後の世界は資源不足のため結構ギスギスしてます。鉱山の汚染が消えるのが遅かったため、500年たってるのに文明レベルは19世紀後半〜20世紀初頭ぐらいです。
ただ、携帯だけはそこそこ普及してます。
478 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:29:07.97 ID:XWY0zrXEO
では、再開します。
479 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:51:51.39 ID:XWY0zrXEO
【ランダムの「酒の細道」】
その2・テルモン風辛豆腐と紹興酒

テルモンは寒冷地だ。夏はいいが、冬はどか雪が降るのも珍しくない。だからか、身体を中から暖めるために辛い食い物が発達してきた。
災厄の日までは、南にある魔候国からは香辛料が、北のジェスタル帝国からは毛皮や肉類が交易されていた。それはしばらく止まっていたが、ここ10年ぐらいからはまた随分と活発になってきた。
まあ、ベビーラッシュで人口が一気に増えたからな。21年前のサロメによる襲撃で減った分は、テルモンでは大分戻ったと言っていい。

まあ、交易が活発になれば旨いものも増える。香辛料が前提になっていたテルモン料理も、昔の水準を取り戻してきた、ってわけだ。
中でもこの「テルモン風辛豆腐」はいい。飯が進む。普通の酒にはそう合わないが、少し癖のある甘さの紹興酒にはピッタリだ。
もちろん、テルモンには紹興酒はない。白酒とほぼ同じの製法の酒はあるらしいが。
そのうち農地が拡がり、麦の量が増えてくればウイスキーもまた作られるだろう。ヘイルポリスの辺りは、昔は名産地だったからな。

俺はテルモンの食堂で辛豆腐に唐揚げ、そして自分で持ってきていた20年物の紹興酒に舌鼓を打っていた。
辛い豆腐の味をさっと紹興酒の甘さが洗い流す。実にいい。

「ランダムさん……ですよね。お久し振りです」

いきなり横から呼び掛けられた。ぎょっとして見ると、大人しそうな黒髪の青年がいる。……よく見ると、小さめだが白い翼があった。

「お前さん、アイルか」

「ええ。……10年ぶりぐらいでしょうか」

アイルは穏やかに笑った。親父のシデに、よく似ている。
480 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:07:14.86 ID:XWY0zrXEO
「こんなとこで会うとは奇遇だな。アングヴィラに行ってたんじゃなかったのかい」

「え、ええ。まあ、色々ありまして」

アイルは15になって、テルモンの統領職を辞したシデと一緒にアングヴィラに戻っていたはずだ。
シデとダナは「少し休みたい」と慣れ親しんだアングヴィラで穏やかに暮らしていると聞いていたが、アイルは違うのだろうか?

「まあ、なんだ。積もる話もあるから、一杯やるかい?」

「ええ、お言葉に甘えて」

アイルはあっさりと同意した。シデは酒をほとんど飲まなかったが、ダナの血かね?

「じゃあ僕は、この細切り肉の帝国風炒め、それと辛豆腐で。あとお酒は……」

「ああ、持ってきてるからそれはいいぜ。大将、持ち込み問題ねえよな?」

店主は苦笑しながら「宣伝お願いしますよ」という。

「ランダムさん、今のは?」

「ああ、たまに地上に出ては、旨い店の宣伝とかやってるんだよ。助言もやってる。無論、無償だ。
んで、ギルドハウスで吟遊詩人のふりして、さりげなく旨い店を冒険者に教えてるってわけだ」

「まあ、ランダムさんなら間違いないですからね。……いけますね、このお酒。ふくよかな香りに、コクが凄い」

俺はにやっと笑った。酒が分かる男に育って嬉しいぜ。

「『会稽山』って酒だ。無論、この地上の酒じゃねえ。……何かあったか」

アイルは言いづらそうな顔をしている。

……

30以上でイベント発生
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:08:41.01 ID:0pN3WxvC0
482 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:36:32.80 ID:XWY0zrXEO
※イベント発生せず

「……あ、いや、大したことじゃないんです。テルモンには、勉強に来ただけなので」

「本当か?シデやダナと何かあった訳じゃねえよな」

「あ、それはないです。父さんも母さんも、元気そのものですよ。じき、開拓団とトリス森王国の辺りに視察に行くって言ってました」

トリス森王国か。エルヴィンとかいうアングヴィラの前村長の出身地だな。
エルヴィンは完全に楽隠居の身だが、トリス森王国とのパイプ役になっていると聞いている。
あそこも最近人口が増えてきて、街中でエルフを見かけることも珍しくなくなった。

「そうか、やっぱ根が冒険者なのか、じっとしてられねえのかね。弟や妹は?」

俺は唐揚げを頬張った。これにもピリ辛のタレがかかっている。酒が進むわけだ。

「シルヴァは父さんたちと同行してます。ピアは、アングヴィラに。たまに『穴』に行ってるみたいです。あいつが一番、冒険者の適性があるみたいですね」

「『穴』か。まあ浅い階層はともかく、深いとこはまだ危険だからな。『穴』の物理法則とか分かってねえことは多いし。
俺もたまに行くが、第三十階層から下はやっぱシデたちじゃなきゃ難しいだろ」

「そうなんですか?最近二十八階層まで行ったって聞きましたけど。ミドルさんのとこのミハイル君と一緒に」

俺は驚いた。二人でそこまでってのは大したもんだ。しかも、ピアはまだ15とかそのぐらいだったはずだ。

「……大したもんだな。血は争えないか」

「戦闘は父さん、性格は母さん似ですけど。僕とは逆ですね」

よく見ると、アイルの腰には神器「村正」の鞘がある。アイルは剣術なら当代一の達人として知られ始めていた。

しかし、こいつの悩み事って何だろうか?世界の行く末なのか?……それなら俺に素直に言うはずだが。
アングヴィラから離れたかった、そんな気すらする。……何だろうか?

※安価下5ぐらいで自由安価。
このぐらいの若者が抱える悩みって、決まってますよね。ただ、彼の場合はちょっと面倒です。現代でも、なかなか難儀な悩みです。
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:43:18.47 ID:0pN3WxvC0
自分が何をしたいのかわからないとか?(経験談)
484 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:45:44.78 ID:XWY0zrXEO
ヒントは「アングヴィラから離れたかった」です。偉大な両親へのコンプレックスではありません。(アイル君はそこは乗り越えてます)
もっと下世話な話です。
485 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:47:30.34 ID:XWY0zrXEO
あと、普通の人は多分ほとんど体験しない悩みです。アイル君は普通の人のはずですが……
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:50:55.97 ID:BvFsmt5Vo
親がいつもイチャイチャしてて家にいずらいとか
487 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 23:09:01.47 ID:XWY0zrXEO
とりあえず今日はここまで。自由安価は明日の更新まで延ばします。

なお、この悩みにはアングヴィラにいるはずの誰かかが絡んでます。
ややぶっ飛んだ悩みですので、お気軽に。(不正解の場合でも、話は進みます)
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 23:37:22.47 ID:UPJLzmXz0
妹?がブラコンすぎて辛いとか?
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 00:01:53.71 ID:54L/C7to0
ミドルんとこの娘さんに恋しちゃったけど身分の違いがうんたらかんたらとか?
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 03:37:04.71 ID:VM+BDQpv0
ピンと来た
アレだろ血の繋がった妹好きになったとか面倒くさいやつ
それ以外ならまさかの実は弟の方が本命とか…?
491 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 06:45:03.40 ID:IUMNhW0VO
更新は夜です。

>>490
いい線行ってますが違います。近親系ではありません。
(そういうのはミハイル君担当ですね)
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 07:08:42.19 ID:CEwY5jQgo
好きになったのが誰かの嫁だったとか?
ジュリアとかライラとか
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:32:20.09 ID:pxvsYQkPO
ジュリアに惚れたとかはありそうだなあ。一族とのハーフだからまだライラよりは見た目年齢若そうだし
494 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 21:42:35.72 ID:Nji5x8CvO
再開します。さすがに正解の方はいませんでしたね。
色恋沙汰でジュリアが噛んでいるというのは当たってますが、その斜め上です。
(ジュリアの設定を考えれば……?)
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 21:57:21.73 ID:3ZzBzgluO
そーいやジュリアが両生具有なのって何か理由あったんかな。一族のハーフにもいろいろあるみたいなこといって明かされないままになってる気がするけど
496 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:10:08.91 ID:Nji5x8CvO
「悩みがあるんだろ?……ずばり、色恋沙汰だな。違うか」

俺はニヤッと笑ったが、アイルは苦笑とも困惑ともつかぬ微妙な顔をした。

「色恋……なんですかね。僕には、よく分からないんです」

「ん、どういうことだ?」

シデには朴念仁な所があったが、その息子であるアイルもそれを受け継いじまったってことなのか?
しかし、紹興酒を一気に飲み干した奴の言葉は、俺の想像の斜め上を行っていた。

「自分が抱いている感情が、恋なのか友情なのか……分からないんですよ。
おかしいと思いませんか?男が男に恋をする、って」

「……何??」

アイルは自虐気味に笑った。

「まあ、そういう反応になりますよね。……もちろん、父さんや母さんには話してません。
当の本人は、気付いてると思うんですが……。ランダムさんなら、拒絶せずに話を聞いてもらえると思ったんですが」

俺は心底驚いた。同性愛者は、今のこの世界では珍しい。
少なくとも、それを公言できる素地などほとんどないはずだ。そりゃ、悩むわな。

「いや、俺は拒絶しねえぜ。愛の形は、人それぞれだ。
問題は、相手が誰か、だな。詳しい話、聞かせてもらえねえか」

「はい。……ミドルさんとライラさんの第二子……ユリウスです。
彼とは昔から仲が良くて、いい弟分だとずっと思ってました。一つ下ですけど、思慮深くて。頼りになる奴だなって。
でも……15ぐらいになってから、どうしても彼を見る目が変わっちゃったんです。
彼が髪をかき上げる仕草、横を通り抜ける時に漂う薫り。
ユリウスは男のはずなのに、心の臓が高鳴ってたまらないんです」

ん?第二子?俺は引っかかるものを感じた。
アイルは紹興酒のグラスを空にして、話を続ける。

「それが決定的になったのが、一か月前でした。ユリウスは、アングヴィラから旧都イーリスへの調査団に入ることになって。
先遣隊のネモさんの下で、しばらく働くことになったそうです。
それで……彼が僕にも一緒に来てくれ、と。……僕は戸惑いました。彼をただの友人と思っているだけなら、断る理由などどこにもないんです。
でも……彼を恋愛対象と見ていたなら。そしてそれが彼にばれたなら、あるいは周囲に漏れたなら。
……僕はその時に何が起きるのか怖くて、逃げたんですよ。ここに」

アイルの目には、薄く涙が滲んでいる。まあ、気持ちは分かるわな。
だが、アイルはいくつか勘違いをしている。

「まず、一つ。逃げたのは良くねえな。親父さんやお袋さんは、どんな時も逃げなかったぜ。
もちろん、お前さんはシデやダナと違う。だが、一応正面から当たってみる必要は、あったんじゃねえか?
泥沼に足を踏み出したら沈むかもしれないが、うまく先に進めるかもしれない。
だが、足を踏み出さなかったら前進はない。説教臭くなっちまって悪いが、そういうこった」

アイルは唇を噛む。

「……その通りです……返す言葉もありません」
497 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:15:58.41 ID:Nji5x8CvO
「二つ目。一緒に来てくれとユリウスが言った時、どんな感じだった?」

「……彼は僕を抱きしめてきたんです。……元々、よく僕の身体を触る奴でしたから、その延長線とばかり。
……『考えさせてくれ』と言った時、とても寂しそうだったのは忘れられませんが」

俺は頭をかいた。……こりゃあ、もう9割方間違いねえな。

「お前さんのそういう鈍感なところ、親父さんにやっぱり似ちまったんだなあ。
ユリウスもお前さんに気があるんだよ。それを何でわかんねえかねえ」

「だって!ユリウスは男ですよ!?僕が普通じゃない性癖なら、そんな普通じゃないのがそんなにいるはずが……」

「そこだよ。お前さんが一番勘違いしているのは。三つ目。ユリウスの本当の父親、誰か知ってるか?」

※70以上で知っている
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:17:25.89 ID:k4cI6lkDo
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:17:42.86 ID:54L/C7to0
500 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:52:27.01 ID:Nji5x8CvO
※知っている

アイルははっとしたような表情を浮かべた。

「そう言えば……聞いたことがあります。ユリウスはミドルさんの子じゃなくって、ジュリアさんの子だってこと。
世間体上ミドルさんの子ってことにしてるって、随分昔に母さんが……。
でも、そんなはずないと思ってました。……でも、確かに言われてみれば、金髪に青い目って、ジュリアさんによく似てる」

「知ってりゃ話は早いな。その通り、ユリウスはジュリアとライラの息子……であって娘でもある。
ジュリアは両性具有者なんだよ。俺ら『一族』の話は聞いているだろう?
んで、ジュリアの親父もジュリアンっていう『一族』だ。ちなみにシデもダナも、『一族』の血が混ざってる。無論、お前さんもだ。
で、『一族』ってのは、人体の設計図を思い切り弄って作られた存在だ。だから、特定の組み合わせで『バグ』――ある種の不具合が起きる。
ジュリアは元々、ジェスタル帝国の末裔だったわけだが、『一族』とジェスタルの血が混ざるとたまにこの不具合が起きたらしい」

俺は唐揚げをがぶりとやって、それを酒で流し込んだ。

「その不具合が、両性具有だとでも?」

「ご名答だ。過去の帝国の王家にも、そういうのが何人かいたらしいぜ?しかも決まって名君だったらしい。
んで、お前さんも知っての通り、ミドルんとこは3人そろってえらく仲がいい。セックスの時も、必ず3人で致すって話だ。
まあ、お前さんには刺激が強い話だろうが……。つまり、そういう過程で生まれたのがユリウスってことだ。
もちろん、そのこと自体はあの一家の中じゃそんなの大したことじゃないわけだが、唯一問題があったのは両性具有が遺伝しちまったってことだな」

アイルがぽかんとした顔になっている。そりゃそうなるわな。

「てことは……僕が抱いていた感情は」

「分かんねえけど、多分男が女に感じるそれじゃねえか?少なくとも、ユリウス……あの親だから裏では『ユリア』とか呼んでそうだが、
そいつがお前に感じていたのは友情では多分ねえよ。見た目が中性的だから、仕方ねえ面もあるがな」

ユリウスに俺が会ったのは7年ほど前だ。まだ12ぐらいだが、男とも女とも取れる外見だったのを覚えている。
そういや、昔のジュリアもそんなんだったな。

「だとしたら、早く戻らなきゃ!!……でも、何と言えばいいんだろう……」

「あ?んなの素直に気持ちを言やいいんだよ。
だが、どうしても勇気が出ないなら、これを飲め」

俺は懐から一つの瓶を取り出し、空になったアイルのグラスに注いだ。透明な液体が、グラスの4分の1ほどを満たす。

「……これは?」

「『花酒』という。地上じゃもう数万年も造られていない酒だ。
はるか昔、ある島で造られていたらしいが詳しくは知らねえ。俺がデータを元に再現したもんだ。
とにかく強い、しかし旨味も強い。気付けにはちょうどいいぜ」

アイルは少し躊躇していたが、意を決してそれを飲み干した。

「うっ……強い……!でも、確かにコクが凄いですね。それに、何だか身体が温まったような」

「だろう。……どうせプレーンウォークはできねえんだろ?連れて行ってやろうか?
確かまだ、調査団はアングヴィラのはずだったよな」

調査団の出発は、なぜか無期限延期になっていた。間違いなく、ユリウスも気に病んでいるってことだろう。
これで気付かないってのだから、アイルも大概に鈍感な男だ。

「え、ええ。お願いします。……このお礼は、必ず」

「ああ。旨い酒を見つけてくれれば、それで構わねえぜ」

##########

数年後、アイルからはジンによく似た酒が送られてきた。廃墟になったイーリスを発掘した際に見つかった文献から、再現したのだという。

##########

イーリスの辺りには、今でも翼人が比較的多い。それと、ごくまれに両性具有者が生まれることもあるという。
「神の授かりものだ」という奴もいるらしいが、真相はつまり、そういうことだ。

なお、公的にはアイルもユリウスも生涯独身ということになっている。
ただ、夫婦と見紛うばかりに仲睦まじかったことから、後世になって一部の女たちが色々創作したらしい。
女性だけの劇団がその創作を演じているが、それもまた、別の話だ。
501 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:58:15.37 ID:Nji5x8CvO
番外編その2はここまで。明日からその3やります。
多分、ノリが大分変わる気がしますが……大丈夫ですかねえ。

>>495
その辺りの回答にもなっております。まあ、メタな話をすると単に筆者の趣味というのと、
「噂では死んだのは女児なのに、今いる皇太子は男」というのを矛盾なく説明するにはこれしかないと考えたからなわけですが。

ちなみに、結局ジュリアが「針」を起動するシーンがなく終わってしまったためこの辺りはうやむやになってますが、
実は本当に一度ジュリアは死んでます。厳密に言えば、死ぬ直前まで行っています。
針を通してジュリアンから送られる魔力で生命維持をしている状況であったわけで、
ジュリアンが死ぬとジュリアも死んでしまうという設定がありました。
ベネディクトのジュリアン襲撃は、その意味でキャラロストの危機だったのですね。
(「死の復讐者」なら、ジュリアン殺害はできてしまうため)
502 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:02:03.35 ID:Nji5x8CvO
ちなみに上の理屈で言えばジュリアも相当長寿になるはずです。
実際長寿なのですが、500年後にはさすがに死んでます。(細かく設定してないですが、大体200〜300歳ぐらいで死去のイメージ)
後半100年ぐらいは、実質的な世界の取りまとめ役にならざるを得ず、色々大変だったらしいようです。
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:04:39.36 ID:Y3+7Ma1eO
次はアリスとヴォルガか

この二人はいつまで生きてるんだろう
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:05:35.98 ID:snMl78wxO
マリーンは果てしなく一族に近いとかいってたけど500年後も生きてるのかしら
505 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:07:22.15 ID:Nji5x8CvO
>>503
その3ではその辺りについて触れる感じですかね。
テロメア限界を延ばしているため非常に長寿ですが、ヴォルガは500年後は死んでます。
アリスは、多分どこかで登場するでしょう。さすがに少女姿ではありえないですけど。
506 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:09:10.49 ID:Nji5x8CvO
>>504
こちらは普通に存命中です。500年後も出るでしょう。多分。
なお……
(不吉な内容ではありません)
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:24:31.99 ID:OVJB4Yp1O

今思えばユミナ、アイルに最後にアリス&ヴォルガって順番はうまいこと出来てるよなぁ
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:47:55.09 ID:d7ypJZh70
ジャックとデアドラの関係とか選択肢には出てたけど聞けなかったな
知りたい
509 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:53:16.32 ID:bN9w8u04O
>>508
これは作中でも示唆してあったはずです。まあ、ジャックの最期はやりますのでお待ちを。
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 03:46:29.65 ID:Wx1zU0yn0
前スレ埋まったからこっちで話すけどクリティカル範囲増加は回数制限でもつけたらどうか?1日2〜3回くらいで

正直今作後半の戦闘はクリティカル狙うの前提になってた感あるけど
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 05:38:52.34 ID:B/PStSVk0
めっちゃ面白かった(´・ω・`)
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 09:15:20.87 ID:a4dXGQh1O
シデ一行は力でねじ伏せるようなパーティだったけど次回作はもう少し頭も使った戦闘スタイルでいきたいかも
513 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 12:52:48.01 ID:uqBRCD2eO
少し進めます。
514 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 13:29:12.15 ID:uqBRCD2eO
【ランダムの「酒の細道」】
その3・ヒラメの薄造りと大吟醸

魔素が止まって30年と少しになる。段々と住める土地は広がっていき、イーリスやファルーダの辺りにも人が立ち入れるようになった。
沿岸部にも探索の手が広がっている。魚介類なんざ久しく出回っていなかったが一部では食えるようになった。
といっても、まだ相当高い。漁の技術も途絶えているから、良質な魚介はなおのこと貴重品だ。
それを上手く料理できる奴となると、さらに少ねえ。

「……で、俺を呼んだってわけか」

「すみません、ランダムさんしか心当たりがいないもので……」

俺の前には強面の男がいる。話してみると存外気弱なわけだが。
テルモンを中心に運送業と飲食業を手掛けているコバレフという男だ。
両親はシデたちと関わりのあった人間と聞くが、無論俺の素性は知らねえ。

目の前には平べったい魚がある。……これ何だっけな、ヒラメだったかカレイだったか?

「調査団の網にかかった魚なんですが、食べられるかを調べて欲しく思いまして。
もし量が取れるなら、流通に回したいと思ってるんですが」

どちらだったか全く自信がない。むむむと唸っていると、ある考えが思い浮かんだ。

いるじゃねえか。俺より海に詳しそうな奴が。

###########

「で、私たちを呼んだってわけ?」

少し不機嫌そうな顔でアリスが言った。随分と会っていないが、少女とまでは行かずとも20ぐらいにしか見えない。

「魚か、久し振りに見るのお」

その後ろから灰色の長い髪と髭の男が顔を出した。ヴォルガだ。こちらはほとんど変わってないな。

「悪いな、知識面じゃ俺よりあんたらだと思ってな。分かるかい」

アリスとヴォルガはテルモンの「ダリオ総合学院」の理事長と副理事長に納まっている。
たまに教鞭をとるらしいが、内容が専門的でついていくのが大変だとの噂だ。
それでもミドルの息子やアレスの娘など、優秀な人材も育っていた。

「簡単よこんなの。目が左側でしょ、ヒラメよ。
というか、魚介類取れるようになったのね。昔からほとんど獲れなかったって話だけど」

「推測じゃが、魔素の流出が止まって海の汚染も急激に改善したのじゃろうな。
これからは漁業も少しずつ盛んになるじゃろ。……というか、腹が減ったのお」

ヴォルガがヒラメの方をじっと見ている。アリスがはあとため息をついた。

「食い意地が張ったジジイだなあ。これ、食べられないの?」

コバレフは少し困惑していたが、俺が然るべき金は払うというと「料理法教えてくださいよ」と言って譲ってくれた。

「さて……場所変えるか。場所はどこがいい?」

アリスは少し思案した後言った。

「私たちの家でいいかな?ちょっと相談事もあるし」
515 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 13:29:59.69 ID:uqBRCD2eO
本格更新は夜です。
516 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 15:59:14.37 ID:Dt7VxAj0O
余談。ロールプレイその2です。

http://lousy.s53.xrea.com/cgi-bin/up/dat/lup12789.txt

*勝利*手前ですが、耐久力が……。★運命のオーブとか欲しいですねえ。
あと火力が微妙に足りないので、★エクスカリバー辺りが望まれるところ。
なお、プレイ時間が異常なことになっているのは数日間つけっぱなしで放置してしまったためで、実際は15時間ぐらいです。多分。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 16:51:37.71 ID:uUNj62n3O
ザックに入れっぱなしってのもなんかアレだし後日談でボレルさんに会いに行くとかどうかしら。シデたちは鉄塊の意味まだ知らんわけだしさ
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 21:57:45.14 ID:0QXuNT1yO
世界救った後のシデの話をリクエストしてみる。本編では結局使う機会のなかった時間遡行はどうしてるんだろ。あとプレーンウォークとかも。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 22:56:15.69 ID:DdJmSYGtO
ダナのギガブレイクも地味に使われてなかったりする…唯一使われそうなタイミングですら線切りを優先されたと言う(しかも5発ヒットのクリティカル)
520 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 23:03:55.20 ID:AMGYa3DUO
再開します。

>>517
ボレルはジャック編で少し出す予定です。

>>518
うーん、どうでしょう。シデよりもミドル一家の方が書きやすい気がします。やるならR板ですかね。
なお、シデは医術の祖的な役割も担うわけですが、治療の過程でこっそり時間遡行とかは使っていたかもしれないです。
(ちなみに、本文中でも記述があったかもですが、シデの父が「偉大なる癒し手」と呼ばれたのはこの力を使っていたからです)
521 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 23:48:04.97 ID:AMGYa3DUO
##########

アリスたちの家は、テルモン郊外にあった。質素なその家は、この世界で最大の学術機関の長の家とは到底思われないだろう。
「ウィルコニアに永くいすぎたせいか、こういうロハスな暮らしに憧れてたのよね」とはアリスの弁だ。

「あ、お母さん。お帰りなさい」

出迎えたのは10歳ぐらいの少年だ。お母さん?

「ああ、私の息子よ。旦那も中にいるわ」

「旦那って……ヴォルガじゃないのか」

「あー、ないない。こいつは単なる後輩よ。それに、研究馬鹿のジジイはさすがに恋愛対象にはならないわ」

ヴォルガはホッホッホと温和に笑っている。まあ、この見た目でこの子の父親やってたら驚くわな。

家の中身は外見通り質素だが、所々この世界のものではない機材がある。PCか。

「シデさんに頼んで、ウィルコニアから持ってきたのよ。接続はウィルコニアに繋がってる。
あそこ、まだ生きてるからね。『穴』の研究と『結界』の監視が、ここからでもできるようにしてるってわけ。
あ、ヒラメは私が捌くわ。何かリクエストある?」

「んー。ああ、今酒持ってきてるんだよ。『日本酒』。分かるかい?」

「『ニホンシュ』……あー、『サケ』ね!ここでそんな単語聞くとは思わなかったわ。
まさかこの時代でも作られてるの?」

「いんや、俺がオルドの所にいた時、趣味で奴のデータベースから酒関連のデータを片っ端から抜き取った。
ハッキングだけは奴にも負けねえ技量があったからな。んで、それを上手い事復元したってわけよ。
製法もブランドごとに忠実に再現してある。だから、味は問題なしだ」

アリスの顔が明るくなった。こいつも実は飲める口だったか。

「それなら素材の味を生かしたのがいいわね。カルパッチョでいい?」

「あー、構わねえよ。白ワインでもいいが、日本酒でも十分だろ」

奥の方から、30ぐらいの優男が顔を出し一礼した。……どこかで見覚えがあるような。

「旦那は普通の人間だよな。……実年齢ウン万歳のお前が、よく誰かとくっつく気になったな」

「……うっさいわね。ヘルラ副船長の息子じゃなかったら、蹴っ飛ばしてるところよ。
まあ、年齢と言っても寝てる時間が随分長かったからね。
世界崩壊直前にテロメア延長の施術をオルドに受けさせられたから、恋とか何とか知る暇もなくこうなっちゃったし」

「……お前さんも難儀してるんだな」

俺は苦笑した。俺ら「一族」もそうだが、アリスも普通の人間とは全く違う。
しかもその人生の大半を、「穴」に縛り付けられてきた。ある意味、本当の意味の人生を送った時間はアリスもヴォルガも短いのだ。

「あんたはどうなのよ。『一族』なのに、人間とそんなに付き合ってていいの?」

「俺は元よりそういう役割だからな。酒、たまに娼婦。そして旨い食い物。それだけありゃ十分だ」

アリスはふうと息をついて、「あんたも大概に変わってるわね」とこぼした。
522 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 23:48:44.85 ID:AMGYa3DUO
###########

「じゃあ、20年ぶり?ぐらいの再会を祝して。乾杯」

チンとグラスが鳴った。ヴォルガは「わしは下戸じゃからの」とお茶での乾杯だ。
目の前にはヒラメのカルパッチョ、それと……ドレッシングのかかってない薄造りがある。

「こいつは……?」

「ああ、その塩を少しつけて食べて。本当は醤油がいいんでしょうけど、そんなものこの時代にはないし」

見ると、塩にレモンが添えてある。……こりゃいける。

「旨いな。塩の方が、ヒラメの甘味が引き立っている気がするぜ」

「ありがと。私とヘルラ、地中海沿岸の出身だったからね。魚介の扱いは、ママたちから教わってたのよ。
……って地中海って言って、あんた分かったかしら?」

「ああ、俺はいいぜ。何故か生まれた時から知識はあったから。
お前の旦那はぽかーんのようだが」

アリスは気付くと、旦那に向けて「ごめんっ!またやらかしちゃった」と謝る。
彼は「いや、アリスさんのことはちゃんと分かってるから」と困った風に笑っている。

「随分ベタぼれだな。いや、本当にどうして所帯を?」

「この子……ヴリンってんだけどね。私の教え子なのよ。
まあ優秀なんだけど、それ以上に私の気持ちを察してくれるのよね。……この子と会って、やっと『孤独じゃない』って思えたのよ」

※40以上で追加情報
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 23:49:50.50 ID:PgZiaKvso
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 23:49:52.41 ID:Wx1zU0yn0
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 23:59:57.20 ID:KlwVofN7o
なるほどシデが時々治療の際にやってた超回復は無意識に時間遡行を使ってたわけか
526 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:12:27.20 ID:TPSF6JeyO
※追加情報あり

俺はヴリンというアリスの旦那の顔を見て、誰に似ているか思い出した。ジェイクだ。あいつの息子、というわけか。
ジェイクの能力はブレイズからの借り物と聞いたが、今のアリスの言葉からしてちゃっかり遺伝していたらしい。
本人に気付かれず精神感応術を使うのは、相当な技術のはずだ。

ヴリンは俺の思考に気付いたのか、軽く頭を下げた。
アリスは寿命以外は普通の人間だから、多分ヴリンの力は知らない。
あるいは知っていて受け入れているのかどっちかだろう。前者な気はするが。

俺は静かに笑って酒を飲んだ。旨い。

「……にしても、このお酒美味しいわね。すごくフルーティで、しかもしっかりとした旨味がある。
『大吟醸』っての?これ」

「『十四代龍泉』って酒だ。日本酒の中でも最高峰だぜ」

「本当に美味しいです。お酒が苦手な僕でも、これは飲めますよ」

蚊帳の外に置かれたヴォルガが「うーん、飲みたいのお」と言っていたので少しグラスに注いでやった。

「……で、悩みって何だい。家庭……のことじゃねえよな」

アリスは頷いた。

「もう学院ができてから、30年でしょ?そろそろ、潮時かなって思って。
……ああ、教えるのが嫌とか、そういうんじゃないのよ。ただ、私の外見が……ねえ」

「ああ……確かに」

彼女の外見は20そこそこにしか見えない。30年ちょい前に学院の理事長になった時も、「こんな子供が?」と一悶着あったのを覚えている。
その時はシデとダナがごり押ししたのだが、30年もたっているのにほとんど年を食っていないのは、さすがに異常と思われるだろう。

「ヴォルガは、まだごまかせるのよ。元がジジイだし、年齢が55から85になりました、と言っておけばまだ通じるから。
私はそうはいかない。実際、一部からは怪しい目で見られ始めてる。
シデ君たちがとりなしてはくれるだろうけど、ちゃんと後任に道を譲って、隠居しようかなってね。研究は、家でもできるし」

「確かにな。『一族』も地上とは不干渉のスタンスになったわけだし、『ウィルコニア』の存在も機密にしたいってのはよく分かるぜ。
不穏因子を出さないためには、賢明な考えかと俺は思うがねえ」

「そうなのよ。でも、まだ教えなきゃいけないことはたくさんある。……ヴォルガが理事長、って柄でもないしねえ。それもそう続けられないでしょうし」

※20以上でイベント続行
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 00:13:56.36 ID:pWiDcBAm0
528 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:21:20.47 ID:TPSF6JeyO
※イベント続行

「じゃあ、僕がやりましょうか?」

ヴリンが手を上げた。……なるほどな。

「えっ、大丈夫なの?確かに教え方が上手いって評判ではあるけど」

「事前にある程度アリスさんが教えてくれれば大丈夫ですよ。そこは心配しないでください。
あまり専門的なのは、それなりの準備期間がいりますけど……」

ヴリンは精神感応術でアリスの思考を読み取り、それを教壇で伝える考えらしい。上手くしたものだ。

「うん、分かった。ヴリンがそこまで言うなら。
後は、隠居先ね。ここでも構わないけど……」

※自由安価でアリスの隠居先を示してください。
明日夜更新まで受け付けます。

※ぶっちゃけた話どこでもそう変わりはないのですが、500年後の続編に少し関わります。
「できるだけ安全そうな場所」を考えてみてください。
529 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:23:16.82 ID:TPSF6JeyO
今日はここまで。

明日はアリス編を終わらせて、ジャック編の導入という感じでしょうか。
しかし軽いノリになるかと思ったら、思いのほか話が全うな方向に…。

ジャック編は誰を語り部にするか検討中です。ランダムも出すのでこの番外編のノリでもいいのですが。
530 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:25:23.34 ID:yGiKqvSrO
ちなみに、十四代龍泉は20万以上するらしいです。
通常の十四代は飲んだことがありますが、さすがにこいつは無理です。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 00:28:26.88 ID:pWiDcBAm0
アンバライト組は汚染された土地の浄化を促進させる役割を担えないかしら。
532 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:35:11.85 ID:yGiKqvSrO
>>531
土壌の問題ですから、魔素を吸いとろうにも限度があるってわけです。
水ならある程度吸収できますが、それでも一個人ができる浄化などたかが知れているとご承知して頂ければ。

あと、ブランドは今後のことを予期して何かやってますし、ジャックはそのうち分かりますが汚染地域に行けない理由があります。
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 00:43:31.37 ID:GLCjyPBcO
魔素って魔翌力の源みたいなものなんだっけ、やっぱり浄化進むにつれて魔法の影響力は弱まって行くのか?最悪使えなくなる可能性も
534 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 00:48:47.66 ID:HS4jou9uO
>>533
その通りです。魔法を使える人間は徐々に限られた人間だけになります。
後世では魔術師は別途コミュニティを作って活動しています。

ただ、続編スタート時では……
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 03:46:52.79 ID:4vdcfRVJO

安直に考えるなら後世では三大都市の一つになってるであろうアングヴィラかな?
三大都市の中では田舎寄りなイメージあるし
人をもっと避けたいとか秘密裏にいくならアングヴィラから近いサラスとか?
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 08:47:29.20 ID:YZOZGbH3o
ドワーキンとかメイドは、コーウィンが亡くなった後は何やってんだろ
537 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 08:50:09.58 ID:68lZArvEO
>>536
世界に散り散りになってます。……あの戦闘で生き残ったメイドは少ないですけどね。
ドワーキンは、500年後にも出ます。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 13:39:42.69 ID:ICAYqbMmO
地上ならアングヴィラ近辺、穴の中なら38階層かなぁ
ウィルコニアの問題は一族ともかかわってくるしいざという時近くに一族がいるのは心強いと思う

度々>>1が言及してたけど、弱点看破は確かに強すぎた感あるな。属性弱点はともかくとして、部位弱点を1発も外さずに狙うってのは描写的に少し違和感あるし(というか敵側も弱点を多少なりと庇おうとはするだろうし)看破に成功してたら弱点を突ける可能性が出来るくらいでよかったのかもな
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 14:25:42.44 ID:p64xIOfAO
コールドスリープ抜きにしても120年近く少女の姿だったのに30年そこらで二十歳手前くらいまでに成長したのか?
540 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 16:19:12.56 ID:68lZArvEO
更新は多分夜です。

>>539
魔素が止まったことで老化が少し早まったというのはあります。
ラジウム泉が人体に有益であるように、魔素(オルディニウム)も特殊な操作を受けた人間には有益であった、というわけです。
世界崩壊前のオルドは、その意味で歴史的発見をした偉大なる科学者であったわけです。
541 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 21:34:55.27 ID:uzYoF7pIO
再開します。
542 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 21:52:30.44 ID:uzYoF7pIO
「そうさな、ここよりはアングヴィラ……いや、あそこも大分人口増えているからな。
その近くのサラス辺りが無難だろう。あそこならゆっくりできるはずだぜ」

「……テルモンからは大分遠いわね」

アリスの表情が少し陰った。夫と離れるのはさすがに堪えるのだろう。

「まあ、そう言うと思ってな。これを渡しておく」

俺はポンと薄い板を渡した。もう一枚はヴリンの手に置く。

「……これは、『電話』?」

「その通り。プレーンウォークは誰にでもできるもんじゃない。『一族』とその近い親族以外ではシデとジュリアしかできねえ。
だが、互いの『電話』の位置情報を登録しておけば、もう片方の『電話』の持ち主の居場所に移動することは可能だ。
魔素は薄まっているが、まだこの機能は全然使えるはずだぜ」

アリスは見た目相応の、素直な笑みを浮かべた。

「ありがと。……前時代の遺物も、捨てたもんじゃないってことね」

「まあな。元々、大半はそういうものだったはずだ。……魔素――オルディニウムだって、本来望まれていた使われ方をしていれば違ったんじゃねえか」

アリスは考え込んでいる。そこにヴォルガが口を挟んだ。

「オルドは……元々は邪悪な男じゃなかったはずじゃ。少なくとも、わしが研究員として入った時は。
あれには、何かがあるんじゃろう。人の心を狂わせるに足る何かが。
わしらは鉱石自体を直に研究していたわけじゃないが、多分、そういうことだと思うぞ」

「かもな。……一つ聞きたい。ベネディクトやケインは、どこまでオルディニウムについて知っていたんだ?」

※10以上でベネディクトについて、70以上でケインについての情報あり
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 21:53:40.36 ID:ZnTcNR9so
はい
544 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 22:19:02.99 ID:uzYoF7pIO
「ベネディクトは知っていたはずよ。……あいつは、サロメが何をやろうとしているかを知っていて、しかもそれに共感すらしていた。
オルディニウムについても、積極的に知ろうとしていたはず。……純度の低いオルディニウムも、持っていたと思う。
サロメの協力とウィルコニアの情報だけじゃ、『作り物』は作れないの。特に『終末兵器』は。
あの動力は、オルディニウムなのよ。その変位体であるアンバライトじゃ、あの出力は出ない。
ケインは知らないわ。誰かが言ってたけど、オルディニウムによる半ば先天的な人格異常なんじゃないかしらね」

「つまり、オルディニウムは今でもどこかで手に入る可能性がある、ってことか」

俺の背中に嫌な汗が流れた。

「分からないわ。それを知るかもしれない二人は既にこの世にいない。
まあ、人間が近づいてもそこから漏れる魔素で即死でしょうし、『一族』でも永くはもたないでしょうけど。
それに、あれは地中5km以上の深層にしか存在しない。今地上に魔素漏れが起きてないことを鑑みれば、杞憂でしょうね」

「……ならいいんだがな」

今の所、地中5kmなんて穴を掘る技術は人類にはねえ。「穴」にしても、第四十九階層に行こうなんて酔狂はいねえはずだ。
だが、不安要素ではある。アリスの言う通り、まず起こり得ない杞憂と言っていいんだろうが。

###########

俺はその後しばらくして、アリスの家を辞した。その後の会話は、孫をかわいがるジェイクとリリアの近況や、
父親と同じく女難の相があるミドルの息子の笑い話が中心だった。飯も酒も旨い、いい酒宴だった。

だが、どうしてもオルディニウムの話だけが引っかかった。
世界に不穏因子は、今のところいない。オルディニウムの話だって、すぐにどうこうって話にはまずならねえだろう。
それでも、喉に刺さった骨のように、この話の嫌な後味は残った。



……俺はこの時の会話を、470年後に思い出すことになる。



545 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 22:21:14.23 ID:uzYoF7pIO
次はジャックの死になります。

先だって、誰の視点でやるかを募集します。

1 シデ
2 ミドル
3 ライラ
4 ランダム

安価下5多数決でお願いします。考察は特に要りません。
多分、書きやすさでいえば4>2>1>3かなと。狂言回し役としてランダムは使いやすいんですよねえ。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:26:46.28 ID:pWiDcBAm0
4
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:31:08.07 ID:0Ee9Tj61O
ランダムは500年後も会えるしせっかくだからシデ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:33:41.82 ID:ZnTcNR9so
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:36:33.57 ID:tpFOv98DO
ここはライラかなぁ 弟子からの視点で見たい
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:37:12.96 ID:0zj3Wu6BO
ライラ
書きにくいと宣言されているところ申し訳ないが、やはりジャック関連ではライラの心情が知りたい
551 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/14(月) 22:41:43.21 ID:uzYoF7pIO
ライラで決定します。ウェットな文章が苦手なのですが、頑張ります。

構成など練りたいので、今日はここまで。
ジャック編が終わったら、R板編含めて次のお題を募集します。

今月下旬ぐらいをメドに、続編「崩壊する世界を旅する」を始めます。
なお、予告しますが「??」が再登場する予定です。フルネームで。
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:56:49.59 ID:tMW9MZ/6O
アレス関連みたいなあー

仇とった報告の件もあるけどハーレムの行く末とか純粋に興味あるw
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 22:58:00.74 ID:tpFOv98DO
乙乙
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 09:11:13.51 ID:V/U6qSpi0
ナーミ達のその後とか気になる。

これはリクエストじゃないけど、コバレフの親って誰?
555 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 13:46:14.56 ID:MnWXbaKCO
>>554
サーリャとホッズです。

あと、本編やる前に少し決めます。
ジャック編は……

01〜30 EDから1年後
31〜70 EDから3年後
71〜90 EDから5年後
91〜98 EDから10年後
99、00 EDから20年後
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 13:53:54.57 ID:sly0Q1H9o
557 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 13:56:22.35 ID:MnWXbaKCO
3年後ですね。本編再開は9時以降。
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 16:08:43.52 ID:ba8HJplz0
苦手の文章って悩むよなー
人のを参考しようとして、いざ書こうとしても悩むっていう

それにしても続編始めるのありがたくて楽しみなんだけどこんなに早く再開しちゃって大丈夫?
559 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 20:34:00.76 ID:WxdXOdEkO
しばらくしたら再開します。

山中は衰えですかね。ソリス戦でその兆候はありましたが、ネリのスイングに反応できてなかった辺りどうしようもなかった気が。
再起は難しいでしょうが、とにかくお疲れさまでした。
560 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 20:57:51.26 ID:WxdXOdEkO
>>558
別の話を構想していたのですが、上手い具合に続編として成立することに気付いたのが大きいですね。
蛇足にはならないと思います。多分。なお、その伏線を今回張る予定です。

なお、ウェットな文を書くのが苦手なので、その克服のために本作を書いたという面はあります。
カラカラに乾いた刑事モノとかが一番書きやすいのですけどね。
561 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 21:31:21.01 ID:WxdXOdEkO
葬式というものは、人が死んでから行うものと相場が決まっている。
だが、人が死ぬ前、それも「死ぬと決まっている日」に行われる葬式は、ほとんど前代未聞のはずだ。

これは、そんな奇妙な葬式の話だ。



【長いお別れ】



562 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 21:47:37.07 ID:WxdXOdEkO
「よう、来やがったな」

ベッドの上で軽く手を上げる、小柄で痩せた男がいる。声は細いが、まだしっかりしていた。

「お師匠……本当に今日なんですか」

「ああ。俺の心の臓が、そう言ってる」

ベッドの横には、酒の入ったグラスと紙巻きたばこ。「別に吸ったり飲んだりするわけじゃねえ、雰囲気だ」とお師匠は笑う。

あたしは唇を噛んだ。……仕方ないこととはいえ、お師匠の命を絶つ原因は、あたしたちが作った。
それしか、あたしたち、そして世界が救われる手段はなかったといっていい。
でも、いざ別れの時を前にすると……言葉が詰まった。

「いいんだって。本来ずっと前に終わってた命だ。
この3年は、本当に楽しかったぜ。……湿っぽいのはよそうや」

お師匠……ジャック・オルランドゥはからからと笑った。

#########

お師匠の命が残り少ない、と聞いたのは1年ほど前だ。
ダリオさんが魔素の流出が止まって1年半で死んだ時に、覚悟はしていた。
それでも、魔力制御装置が新しくなったことから、お師匠は大丈夫だと、どこかで思っていた。

だが、シデさんがジャックさんを診た時、その甘い願望は打ち砕かれた。

『魔素の流出が、身体の維持の前提になっていたようだ。
わずかな魔素の減少でも……この身体はもたない。すまないが……もって1年だろう』

その言葉を聞いた時、あたしは初めてシデさんに掴みかかった。
嘘だ、冗談でしょ、信じたくない……一通り取り乱し、ミドルとジュリアちゃんに取り押さえられた。
そして、人生で一番泣いた。いや、同率一位、だろうか。

それは、あたしの弟が死んで、救えなかったのを知った時。

あたしは、無力だと改めて思い知らされた。
563 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 22:11:33.61 ID:WxdXOdEkO
ひとしきり泣いた後、あたしはお師匠の所に行くことにした。
ミハイルと生まれて間もないジャクリーンをミドルたちに預け、わざわざ一人でモリブスに行った。
お師匠がどう受け止めているのか、知りたかったからだ。

久々に来たお師匠の家は、嘘のように片付いていた。

『よう、どうした』

くわえ煙草でお師匠が現れた時は、驚いたというより拍子抜けした。
シデさんから、自分の身体のことは聞いていなかったのだろうか?

『お師匠……身体は』

『ああ、死ぬんだろ?一年後に。覚悟は決めてたさ』

魔素を止め、サロメを倒した後にその後に起きうることはお師匠に伝えていた。
その時も、お師匠はさして驚いても落胆もしていなかった。

『どうして……どうしてそんなに冷静でいられるんですか!?
死ぬんですよ??もう会えないんですよ??』

お師匠は苦笑した。

『まあ、そうだな。だが、人はいつか死ぬ。そして、俺は一回死んでるんだ。
言ってみれば、『ジャック』に戻ってからの人生はおまけの人生みたいなもんだ。
だから、こんだけ穏やかな死を迎えられるなら、悪くねえと思ってるんだぜ』

あたしは、納得できなかった。あたしに会えないことに、お師匠は……無念さを感じてないんだろうか??

『納得できねえ、って顔をしてんな。来なよ。ちょっとゆっくり話をしよう』

##########

「湿っぽいのはよそう、ですか……。頭では分かってるんですがね。
そういうのは、1年前にやっちゃいましたし」

あたしはふうと長い息を吐いた。

「違いねえな。あ、『宿題』どうした?」

「……あんなの1年でできるわけないですよ。あと20年はかかりそうです」

「はっは。そんなに楽はさせねえよ。俺が生きていた『証』を作るんだ、簡単なもんじゃねえ」

あたしは苦笑しながら、バッグから一冊の本を出した。

「それでも、何とかこれだけは。『魔道百論〜序論〜』です。ちょっと読んでみてくれません?」

お師匠はパラパラとそれを流し読みした。そして少し首をひねる。

「……お前、これ一人でやったんじゃねえな」

「バレました?ジュリアちゃんとリリアさんにも協力をお願いしているんです。
できるだけ質の高いものにしようと思ったら、あたしだけじゃ無理だと思って」

お師匠は微笑んだ。

「まあ、そんなことだろうとは思ったぜ、アホ弟子。
だが、許してやる。魔素が消えゆく中、魔術の在り方を一から百まで記録して魔道の道をつなげ、と言ったのは俺だからな。
基本ほとんどお前が書いているようだし、完成度を高めるならそれもありだ」

あたしは安堵した。怒鳴られることも、少しは想定していたからだ。

「まあ、この感じだとまだ先は長いですけどね。
まとまったら、魔道学院でも開きますか?『ジャック魔道院』とか、『オルランドゥ魔道院』とか」

「よせよ、俺の名は入れてくれるな。恥ずかしいだろうが」

お師匠は、青白くなった顔を赤くした。その時、ノックの音が飛び込んできた。

「あたしよ。入っていい?」
564 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 22:52:17.39 ID:WxdXOdEkO
「おお、いいぞ」

入ってきたのは、デアドラさんだ。足元には、耳の先が尖った小さな男の子がいる。

「あら、ライラさん。1年ぶりね」

「ええ。お葬式前の、最期の面会ってことで。……おっきくなりましたね」

男の子はどこかお師匠似だ。生意気そうなところが特に。

「ええ。……こらシェイド、挨拶はどうしたの?」

シェイドと呼ばれた男の子は、いやいやをしてデアドラさんの後ろに引っ込んだ。デアドラさんが眉をひそめる。

「ちゃんとご挨拶しないとダメよ?……ったく、頑固なところは、誰に似たのやら」

「さあ、誰だろうなあ。……まあでも、こいつなりに察してるのかもな」

デアドラさんの表情が曇った。さすがに2歳の子に、人の死は理解できないだろう。
だが、少なくとも、もう父親に会えないのだろうというのは分かっているのかもしれない。

「そうね……。今日が、最期ですものね」

「シェイドの成長を見届けられなかったのは、たった一つの心残りだな。
だが、子を残すことなどないと思っていたからな。天国のあいつには悪いが、お前には本当に感謝している」

天国のあいつ……あたしの叔母さんに当たる人か。
ほとんど会ったことはなかったけど、穏やかな人だったとは聞いている。
デアドラさんと、どこか似た人だったのかもしれない。

「ありがと。……随分長く生きたけど、この3年は一番幸せだったわ。
ライラさんも含め、あなたが生きていた証はちゃんとある。シェイドのことは、任せといて」

お師匠とデアドラさんは、封印後も一緒に暮らしていた。夫婦になるのは、自然な流れだっただろう。
すぐに子供ができたことに、二人はとても喜んでいたらしい。
特にデアドラさんは「絶対にないと思ってた」と驚いていた。これも、魔素が止まった影響なんだろうか。

「ああ。シェイドは、ここで育てるんだよな?」

「ええ。ただ、随分永く生きそうだからどうするかはじっくり考えるわ。
私もコーウィンお兄様がいた、アヴァロン邸に行くかもしれない。
メイドは世界に散り散りになっちゃったし、探して集めないといけないけど」

コーウィンさんの所にいたメイドは、人工的に作られた存在であるらしい。
寿命も人間よりは長いようだ。「混乱の種になるかもしれない」と、シデさんが情報収集を急いでいたのが思い出される。
ただ、ドワーキンさんの行方は、未だに分からなかった。

「そうか、『一族』の親族も大変だな。……さて、お前と話す時間も、残り少ないな。何か、言っておくことはあるか」

※安価下5ぐらいで募集します。適切かつ面白いものを採用します。
※1年前の昔話はこの後にちゃんとやりますので、ご安心を。
565 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/15(火) 23:32:07.19 ID:8jEFDV5MO
明日夜までにします。本日も早いですがここまで。
566 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/16(水) 00:05:15.92 ID:JMP6I31NO
日付が変わったので上げます。

あと、選択制にします。

1 いえ……特には
2 ベネディクトに捕まっていた時の記憶、あるんですか?
3 この1年、何をしてました?
4 蔵書、どうしましょう?
5 怖くはないんですか?
6 エリックの行方、知ってますか?
7 その他自由安価

※続編への伏線になりうるものもあります。
567 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/16(水) 00:05:41.61 ID:JMP6I31NO
※明日21時ぐらいまで多数決です。
568 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/16(水) 01:45:47.41 ID:8pihy38+O
上げます。
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/16(水) 02:48:10.49 ID:tGNrXZyCO
伏線云々なら6かな
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/16(水) 03:39:42.94 ID:ItZIBQLe0
オルディニウム関連なら2も怪しい。2
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/16(水) 03:55:52.18 ID:s5MwAo6CO
6
エリックは続編でジェラード的な位置になりそうだし
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