【エグゼイド】駆け抜けるSonic!【ソニック】

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1 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 13:49:47.66 ID:YY88d/+10
!CAUTION!
・仮面ライダーエグゼイド×ソニック・ザ・ヘッジホッグのクロスオーバーです
 (どちらかというとエグゼイド寄り)
・エグゼイド本編およびソニックシリーズ一部作品のネタバレがあります
・1日1回まったり進行
・ゆっくりペースですがエグゼイド最終回までには完結させたい
!CAUTION!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501994987
2 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 13:55:01.00 ID:YY88d/+10
           - Tutorial. A New Venture -


[SONIC]


青きハリネズミが、大地を駆け抜けていく。
勢いのまま黒煙を突き破ると、回転しながらその先にいる敵へ突撃し、跳ねかえった反動すら勢いに変える。
まさに目にも止まらぬ速さ。彼の名――ソニックに違わぬ姿だった。

「オレから逃げられると思ってたのかい、ドロボウさん!」

クルっとターンし、ソニックは噂の泥棒と相対する。
体躯はソニックより一回り大きい程度。
黄色い金属質のボディに、背中からバイクのような排煙パーツが生えている。
姿を見たのは初めてだったが、その悪行と名前は既に聞き及んでいた。


「どういうつもりか知らないが、ソイツを渡すわけにはいかないな。
 返してもらうぜドロボウ……いや、モータス!」
3 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 13:57:32.62 ID:YY88d/+10
「気をつけて、ソニック。そのモータスってメカ、エッグマンのロボットとは違うみたい。
 出方もわからないから注意して」

「No problem! あとは取り返すだけでおしまいさ」


後方から見守る二本尻尾の狐の少年・テイルスの警戒を、ソニックは軽く受け流した。
今いる場所は緑生い茂るグリーンヒルの最北部。
このモータスなる泥棒がよほど優れたスイマーかダイバーでもない限り、もはや逃げ場はない。
そしておそらく、ソニックの超スピードは水場に踏み込むことすら許さないだろう。

それでもなお、テイルスははっきりとしない顔をしていた。
もちろん、ソニックの強さと速さは誰よりも知っている。
だが実際に盗みの被害に遭ったテイルスの目から見て、モータスの手口はあまりに巧妙過ぎた。
わずか1日で自分だけでなくシャドウ、あるいはGUNの管理下にあった場所へ次々と侵入し、
騒ぎを知って駆け付けたソニックの探索先すら読むかのようにして鮮やかに盗みを完遂している。

そんな相手が、ソニックに追い詰められることを予期しないものか――
4 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 14:00:35.44 ID:YY88d/+10
不安に思う間にも、ソニックが黄金のリングの輪をくぐって突撃する。
何度目かの直撃。
そのまま回転力を活かした二段蹴りが決まると、背中の噴煙口がいくつか砕け散った。
形勢は明らかにソニックに傾いていたが、それでもモータスは倒れも降参もしなかった。

「ガッツだけは中々だな。でも、そろそろおネンネの時間だ。
 これ以上やったらバラバラになっちまうぜ?」

「今回モ勝テヌカ。ダガ遅イ、モウコノ世界ニ用ナドナイ」

「どういうことだ?」

「見ヨ……コノ身体ヲ」

ようやく口を開いたモータスを、ソニックは正面から睨みつけた。
機械的で無機質な声からは感情がほとんど感じられない。
だが大の字に広げられたその身は、ソニックを警戒させるのに十分だった。

いつの間にか、モータスの各所から色とりどりの輝きが透けて見えている。
ソニックの攻撃を受けながらも、モータスは盗んだ7つの宝石全てを無理矢理に体内へ取り込んでいた。
5 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 14:02:08.34 ID:YY88d/+10
反撃を警戒し、ソニックとテイルスが動きやすいよう体勢を整える。
だが対するモータスは構えるでもなく、そのまま大の字に手足を広げたまま。
全く戦うのに向かないポーズに違和感を抱いた頃には、モータスが背にした海上が暗くなっていた。
唐突に現れた闇。しかし、ソニック達には見覚えがあった。

「あれは……時空の穴!?」

「なるほど、あくまで逃げの一手ってことか!」

大の字の体勢のまま、海上に生まれた穴へモータスが吸い込まれていく。
それを見逃すソニックではない。

「レディー、GO!」

迷うことなく、ソニックがモータスの後を追う。
閃光のごとく水上を走り、そのまま穴目掛けて飛び込んでいった。
だがソニックが突き抜けていった直後、穴が段々と縮んでいく。
このままでは間もなく消えてしまうだろう。
6 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 14:03:24.28 ID:YY88d/+10
本気の一端を出したソニックに追いつけるほど、テイルスの足は早くない。
代わりにテイルスは、すぐさま近くに置かれた水上バイクへ駆け寄った。
海上への逃走を予期して準備したウェーブサイクロン号だ。
そのハンドル部に念のため用意していた腕輪をくくりつけ、さらにスロットルを全開のまま固定する。
そのままテイルスが飛び乗ると、マシンはソニックもかくやという速さで水上を突き進んでいく。

「お願い、間に合って……うわぁ!」

暴れ馬と化した車体からテイルスが放り出される。
同時に乗り手を失ったウェーブサイクロン号が、消える直前の穴へ潜り込んでいく。
その光景を確認すると、テイルスは水に落ちる前に尻尾を回転させ、そのまま自らの工房へと飛んで行った。




――ソニック・ザ・ヘッジホッグ。

彼の何度目かの、そしてこれまでと少し違う冒険が始まった瞬間である。
7 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/06(日) 14:04:38.59 ID:YY88d/+10
-------------------------------------------------


Kamen Rider EX-aid


          --------------→
           駆け抜けるSonic!
          ←--------------


                    Sonic the Hedgehog


--------------------------------------------------
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 15:13:48.19 ID:ZJcbZFGq0
やっとソニックSSを書いてくれる人が現れたか
期待
9 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/07(月) 00:41:06.80 ID:stI1Y6Hv0
           - Zone.1 Open Your Heart -


[EX-AID]


「モータスの亡霊?」

永夢は思わず、貴利矢にそう聞き返した。


ムテキゲーマーがクロノスを破ったその夜、CRでは勝利の余韻に浸る間もなくミーティングが開かれていた。
なにせ壇正宗の懐に忍び込んでいた九条貴利矢がその配下を脱し、CRへ帰還したのである。
仮面ライダークロニクルの内情など、敵地にある貴重な情報の共有は急務だった。

だが一応はクロノスに勝利し自分も無事に帰ってこれた以上、状況は好転をしている。
気を吐いてばかりというのもよろしくない。
そう判断した貴利矢が息抜きがてら提供したのは、幻夢コーポレーション内で噂の怪現象だった。

「ああ。なんでか知らないが、夜中にモータスが社内をウロウロしてる、なんていう話が流れててな。
 偶然見つけても襲いかかってくるでもなし、その途端に姿を消しちまうらしい。
 そんな始末だから、消されたバイクの亡霊がモータスの姿を取ってさ迷ってるんじゃないか?
 ……なーんて、すっかり怪談めいた尾ヒレがついてくるようになったワケだ」

「あ、あはは……」

永夢の口から乾いた笑いがこぼれる。
なにせ、リプログラミングでバイクを消し去ったのは誰あろう永夢なのである。
その亡霊がさ迷っているなら、標的は自分以外に考えられない。
大天空寺にでも相談しようか、とまで考えて、ようやくこの話が噂に過ぎないことを思い出した。
10 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/07(月) 00:46:36.82 ID:stI1Y6Hv0
……そんな永夢はさておき、もう一人の天才ゲーマーはあくまでゲーマーらしく事を捉えていた。

「モータスが1人でも2人でもいいけどさ、仮面ライダークロニクルに関係ないなら放置でいいっしょ。
 アイツそんな強くないけど、逃げ足だけは早いから面倒なんだよ。それに大我がゆうれ――」

「別にモータスの野郎とわかってりゃ何も問題ねえよ」

ニコが言い終える前に、大我が割り込む。
強引なのは明らかだったが、貴利矢はそれをバグスター相手の必死さと取ったのだから甲斐はあったのだろう。

「あー、そんなムキになるなって。そもそも真偽すら定かじゃない噂だ。
 何度もコンティニューできるはずのバグスターの亡霊、ってのは面白いが、本当だとしてもあっちでカタつけるだろ。
 なんたってあちらさん、仮面ライダークロニクルを広めるために特に痛い腹探られたくない時期だからな。

 ……ただ、開発関連か上層部でもない限り表に出なかったバグスターの話が、
 噂話程度で出るくらいに空気が毒されてるのは事実ってワケだ」

幻夢コーポレーションの内部事情につなげて貴利矢が締めようとした時、室内に内線電話のコール音が響き渡った。
緊急通報。仮面ライダークロニクルが展開中である以上、いつ鳴ってもおかしくない。
幾度となく聞いたその音に応じ、いつものように永夢は素早く受話器を取った。

「はい、電脳救命センター」

「オマエガ『ホウジョウエム』……『エグゼイド』カ」

「……え?」

どこか聞き覚えがあって、同時に違和感を覚える声。
そして自分の名前ならまだしも、なぜエグゼイドと問うのか。
動揺が漏れるのも無視して、電話口の声は続く。
11 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/07(月) 00:50:01.70 ID:stI1Y6Hv0
「ゲーム病患者ヲ出シタクナケレバ、今スグ聖華公園ニコイ」

「聖華公園? 待ってください、どういうことですか!?」

言いたいことだけ言って、電話は切れてしまう。
その慌てようにすぐさま顔を向けたのは貴利矢だった。

「ただの通報、って感じじゃなさそうだな」

「ええ。ゲーム病患者を出したくなければ聖華公園に来いって……。
 僕やエグゼイドの名を出したのも変ですし、何より声に覚えがあるんです。
 ちょっとヘンでしたけど」

「ほう? ハズレでもいい、誰っぽかったんだ」

「……モータスです」

永夢の出した名に、一瞬場が静まり返る。
嫌が応にも、話に出たばかりのモータスの亡霊が思い起こされる。

「まさか、マジで亡霊?」

「そんなワケあるか。おおかた、クロノスの野郎にけしかけられてるんだろ」

またしても大我が亡霊の存在を否定するが、今度は新たな伏兵が現れた。
腕を組んで座っていた黎斗、もとい新檀黎斗である。

「亡霊という可能性もなくはない、か」

「なんだとテメエ……!」

「気にするな、霊魂だのなんだのという話ではない。
 バグスターのダミーを用意するくらいあの男は平然と指示するということさ。
 クロニクルの管理下にあるコンティニューデータから細工すれば、私ほどの腕がなくてもできるだろう。
 本人を脅す以上に効率的で、クロニクルを汚さない。いかにも壇正宗が選びそうな手じゃないか?」
12 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/07(月) 00:54:28.35 ID:stI1Y6Hv0
大我の言うことも、そして黎斗の言うことも一理ある。永夢はそう感じた。

モータスとは最近遭遇していない。仮面ライダークロニクルのスレッドでも話題が出ていない。
そしてスイッチ一つでバグスターの命が管理されている光景を、永夢は既に見ている。
鏡飛彩すら引き入れた正宗のこと、バグスター自身の命という強力な交渉材料を表沙汰にすれば、
管理下から外れうるパラドやポッピー以外のバグスターは逆らえないだろう。

同時に目の前の九条貴利矢がそうであるように、人間のバックアップデータから再生ができるならば、
バグスターでも同じことができておかしくはない。
電話越しに聞こえたモータスの声が不自然だったことも、本人でないなら説明が付く。
主力商品と言ってはばからないデスゲーム『仮面ライダークロニクル』のコンテンツとして
バグスターを見ている正宗が、そのコンテンツを自ら歪める手法を避けたがるのも筋は通っている。


だがそのどちらを選んでも、永夢には腑に落ちない部分があった。


(なんでモータスを使ったんだ……?)


パラドやグラファイトは難しいにしても、より戦闘に適したバグスターは他にいくらでもいる。
元々がレースゲームのキャラであり、今となってはバイクもなく、噴煙とダッシュ力程度しか特徴はない。
そんな現在のモータスを駒に選ぶことのメリットが永夢には思いつかなかった。
まさか社内の怪談話に乗った、などという酔狂な真似でもあるまい。

捨て駒にする前提だからか、気付いていないだけでモータスにしかない何かがあるのか。
あるいは何か別の狙いが……と考え込む永夢の肩がポンと叩かれる。


「考えてダメなら、ここは現場百遍と行こうじゃない。
 罠なら2人がかりでブチ破ればいいし、噂の亡霊だったらここできっちり縁切るのが一番だ」

「貴利矢さん……」

「レーザーターボにもアンチバグスターエリアが実装されてるのは知ってるよな?
 誰かさんが永夢を乗っ取ってどこか遠いところで決闘、ってのは自分でも防げるワケさ。安心だろ?」


左手に握られたゲーマードライバーを揺らしながら、貴利矢が笑う。
本当に帰ってきたんだ、という実感と共に永夢は力強く答えた。


「わかりました。行きましょう!」
13 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:06:39.18 ID:HK192tjE0
[SONIC]


「まさか、またここに来るなんてな。どこまで行っても張り合いがないぜ」


思わず肩をすくめながらソニックはぼやいた。
モータスを追ってきた先にあったのは、見渡す限り真っ白な世界。
何もない世界で走る爽快感など、大海にジュースの粉末を混ぜるようなものだ。
だがソニックにとって半ば生き地獄のようなこの光景は、初めて見たものではなかった。

そんな世界に突如けたたましいモーター音が響く。
背後を見ずに飛び上がると、地面に叩きつけられるようにして何かが滑り込んで来た。
陸地には不似合いで、そして見覚えのある水上バイク。


「Wow! こいつは思い切りがいいや」

「……ソニック、大丈夫? そこにいる?」

「こっちは無事だ。モータスは見失っちまったけどな……。
 にしても、ピザのデリバリーにしてはずいぶん派手だったぜ」

「ごめん。でも他に手がなかったんだ」


ハンドル部から回収した腕輪をさっそく右腕に巻き付け、ソニックはテイルスと交信を続けた。
何度目かの横転の末に停止したウェーブサイクロン号はスクラップ同然の有様だったが、
元より拾い物の資材で作り上げた急造品である。

少なくともソニックに渡った腕輪型通信機は、急造のマシン1台よりはるかに価値があった。
これがあれば離れた場所どころか、離れた世界にいてもサポートできるのだから。


「やっぱりその場所、この前と同じ時空の歪みみたいだね。
 通信機の機能が生きてるのがその証拠だよ」

「なんでアイツがタイムイーターと同じチカラを持ってるのか知らないが、
 ここが残ってるってことはまだ終わっちゃいなかったってことか。
 まだ帰って来たかわからないままだったよな、エッグマンのヤツ」

「たしかにそうだけど、エッグマンが自作じゃないメカを投入してくるかな……。
 動物はともかく、メカに限っては必ず自分のメカで勝負してくるのが意地だと思ってたけど」


工房で検証作業を進めながら、テイルスは少し前のことを思い出していた。
14 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:09:30.82 ID:HK192tjE0
……タイムイーター。
今から1週間ほど前にソニック達を襲った、時空を超える魔物である。
悪の科学者・Dr.エッグマンに操られたタイムイーターは、ソニックがこれまで訪れた時代と場所を切り取り、
ソニックとその仲間達を謎の白い空間に吸いこんだのだ。
それだけでなく、タイムイーターの凶行はソニックをライバル視するメタルソニックや、
現代に居合わせなかったシルバーやブレイズ、終いには過去の時代のソニックまでも巻き込んでいた。

だが、その異変は2人のソニックが切り取られた時空を駆け抜けることで正常化し、最後はタイムイーターそのものを撃破。
巻き込まれた仲間達は無事に帰還し、空間も元通りになったことで、全て終わったはずだった。




今いる白い世界は、まさにタイムイーターの展開したものと同じ。
通信機からの収集データはテイルスにその事実を示していた。
同時に、何もかもが同じではないということも。

「この間と違って、切り取られた空間が1つもないね」

「ほっといたらこれから増えるってことだろ? そうなる前に捕まえないとな」

「……案外、そうでもないみたい」

「どういうことだ、テイルス?」

「ウェーブサイクロン号が突入した時のデータと、タイムイーター事件の時のデータを比較してたんだけど、
 見た目はそっくりでも時空の穴の性質がずいぶん変わってるみたい。
 少なくとも時間の流れを消し去ったり、他の空間をそこに繋ぎ止める能力はなくなってると思う」

「時間移動じゃないって? じゃあ、あの穴はどこに繋がってるんだ?」
15 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:11:33.58 ID:HK192tjE0
言いながら、ソニックが通信機のカメラを前方へ向ける。
そこにはたしかに、今しがたソニックが突入してきたものと同じような穴があった。
踏み込まないように注意しつつ穴の先を見るが、わずかに見える光景に見覚えはない。


「多分だけど、行き先は別の世界だよ。ぼく達が時空移動した時の反応に似てるんだ。
 ただ、モータスがそこに入ったかまではちょっと……」

「そいつは心配なさそうだぜ」

穴の前に落ちているものを拾いながら、ソニックが不敵な笑みを浮かべる。
何もない空間に転がるパイプ状のパーツ片はひどく目立つ。
足跡が残らないこの場所にあって、それは決定的な痕跡だった。

「アタリだな。壊したのが背中じゃ、気付かなくても仕方ないか」

「モータスはその穴の先にいるってことだね。
 移動した先で待ち伏せされてる可能性もあるから、出る時に注意して」

「Don't mind! なら突っ切って行くだけさ。
 留まってたところでアイツの悪だくみを黙って見てるだけだ。
 それに……カンタンな冒険じゃつまらないだろ?」


たとえ行く先がどこだろうと、相手が誰だろうと、彼に恐れなどない。
テイルスに力強く答えると同時に軽くその場で跳ね、スタートの姿勢を整える。
駆け抜ける準備はできた。あとは行くのみ。


「待ってろよ、モータス!」


青い光が、また別の異界へと突き抜けていった。
16 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:15:14.82 ID:HK192tjE0
[EX-AID]


聖華公園。

聖都第8地区の中央にあるこの公園は、入口以外の周囲が高い木々に囲まれている上、
21時過ぎともなればわずかにある子供の影もなくなってしまう。
その視認性の悪さから夜に様々な事を起こす輩が絶えないこの公園は、なるほど罠にはうってつけで、
同時に複数の発見者が現れにくい以上は善意の可能性も否定できない場所でもあった。

そして辿りついた永夢と貴利矢が見たのは――見慣れたバグスターの姿だった。

「モータス!」

黄色をベースに青に塗られ、背中からバイクのマフラーを生やしたその姿は紛れもなくモータスのもの。
何故かマフラーの幾つかが砕けていたが、その程度で見間違えるはずもない。
そのバグスターが、仁王立ちで永夢達の前に立っている。

「来タナ、『エグゼイド』。我ハ『モータス』」

「おいおい、こっちには挨拶なしか?
 今さら自己紹介がいるような間柄でもないけどさ」

「オ前ハ……『レーザー』カ。面白イ」
17 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:20:22.89 ID:HK192tjE0
言葉と裏腹に、全く面白がるような感情を見せない声。
そんなモータスを前に永夢は再び思案していた。

何度見たところで、マフラーの破損以外はなんらモータスと変わらない姿形。
だが、実際に対峙してなお機械的な不自然さを感じさせる声と、異様な硬さを感じる話し方は、
あの調子乗りで軟派なバグスターとは違い過ぎる。


「……貴利矢さん、どう見ます? 」

「とりあえず実体はありそうだ、ってくらいか。
 幽霊や映像系のダミーってセンは外せそうだが、あの社長さん何でもやりかねないからな……。
 ま、どっちにしろあのモータスが元なら大した敵じゃないだろ。このまま倒すぞ」

「はい。すぐに終わらせましょう」


力強く頷きながら、永夢はガシャットに手を掛けた。
既にオリジナルのモータスは永夢の敵ではない。
それどころか、この間に至ってはニコとポッピーを前に逃走するような身なのだ。
多少の変化なら押し切れると判断するのは自然の成り行きだった。


だがそれと同時に、モータスが指から光を放つ。
それが攻撃手段でなくバグスターウィルスの放出だと気付いた時には、
既にオレンジに発光するウィルスでトゲ付きのホイールが形成されていた。


「バグスターユニオン!?」

「なぜ完全体のコイツがユニオンを……」


疑問に思いながらも、2人は急いでゲーマドライバーを腰にセットする。
バグスターユニオンはその性質上、戦える相手は限られてしまう。
誰が誰と戦うかはすぐに決まった。
18 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:28:03.24 ID:HK192tjE0
「僕がユニオンを叩きます。貴利矢さんはモータスを!」

「おう、任された! 」


『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム?
 アイム・ア・カメンライダー!』

『爆走!独走!激走!暴走!爆走バイク!!』


揃ってガシャットをドライバーに挿し、そして貴利矢だけがレバーを倒す。
変身完了と同時に、ずんぐりむっくりとしたLv1のエグゼイドがバグスターユニオンに突撃していく。
それを横目にスマートな体型のレーザーターボは、モータスと対峙していた。


「お前がゆっくりしてる間にこっちはターボに乗り換えててな。
 さぁて、ついてこれるかな?」

「イキガルナ……人間」

「悪いけど自分、もう真人間じゃなくてさぁ! そらっ!」


言うや否や、レーザーターボはキレのあるステップでモータスに接近し、側面目掛けて蹴りを放った。
貴利矢の得意技・飛び回し蹴りである。
蹴り足を裏拳で受けられても勢いは止まらない。
ローキックをアクセントに、後ろ回し蹴り、膝蹴り、飛び踵落としと次々に蹴りを見舞っていく。


「なるほどー、防御はお上手になったもんだ」

「オ前程度ノ速サナド、対応ノ範囲内ダ」

「言ってくれるじゃない。でも、受けてばかりじゃ説得力ねえぞっと!」


避けて防ぎ、いなしては受けと巧みに耐え続けるモータスだが、不思議なことに全く反撃してこない。
俄然レーザーターボの攻勢が強まり、連撃がさらに激しさを増す。
守りが強いなら崩すまで。貴利矢は勝負に出た。

ローキックを再び振る。
モータスがスネを合わせてくるが、その手前でレーザーターボの足が止まる。
直後に放たれたのはミドルキックだった。
寸止めから放ったことで威力は落ちるが、受けを超えた一撃はモータスを確実にぐらつかせた。
それを見逃す貴利矢ではない。すかさず体重を乗せた前蹴りが放たれ、守勢のほころびを広げていく。
そしてモータスが体勢を立て直すよりも、レーザーターボの踏み込みの方が早かった。


次の瞬間、モータスは高々と打ち上げられていた。
19 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:31:02.95 ID:HK192tjE0
「派手にダウン取って一本、ってところか?
 そろそろ永夢も患者を助ける頃合いだからな、お遊びは終いだ。
 もっとトレーニングしたいなら後はお友達にでも相手してもらうといいぞ」

「ククク……」


渾身のサマーソルトキックで宙に浮かされてなお、モータスは余裕を崩していない。
それどころかゆっくりと起き上ったモータスは笑っているようにすら見えた。
不可解な反応。蹴り倒されたのがそんなに嬉しいか。

だがキメワザスロットに手を伸ばした時、貴利矢は気付いた。
起き上った瞬間から、モータスの視線が自分ではなくエグゼイドへ向いていることに。


(……まさか、ユニオンに何か仕掛けてあるのか!?)


慌てて振り向くと同時に見えたのは、エグゼイドが大ジャンプで飛び上がる姿だった。


「トドメだ!」


ハンマーモードのガシャコンブレイカーを構え、トゲの勢いを超える衝撃を叩きこむ。
その一撃で結合が解け、集合したウィルスが分散していく。
これで取り込まれたゲーム病患者を救出し、バグスターと分離させられる。
Lv1はそのために用意された形態である。

だが、その場に残されたのは患者ではなかった。


「え……なんだ、コレ?」


戸惑うエグゼイドの前に現れたのは一台のバイクだった。
シャープかつ凶暴なシルエットを形成する、剥き出しのメタルフレーム。
わずかに貼りつく外装部は濃紺に塗られ、夜の闇に溶け込む。
そしてハンドルの前に鎮座する、血のように紅いヘッドライト。


「我ガマシン『メタルマッドネス』ダ」

「マシンだと……うおっ!?」


先ほどまでの防御一辺倒が嘘のような、俊敏な踏み込みからのフック。
反射的に防御してしまったレーザーターボの肩を踏みつけながら、モータスが高く跳躍する。
そのままモータスはバイク――メタルマッドネスのシートに着地していた。
20 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/08(火) 00:38:54.66 ID:HK192tjE0
「わざわざ呼び付けたのは、これが狙いだったのか?」

「そういや、前のアイツのマシンもバグスターウィルスの寄せ集めだったか……。
 バイクの亡霊ってのはある意味当たってたのかもな。
 どうにも実力隠してるようだし、思ったよりタチ悪いぞコイツ」


警戒するエグゼイド達に応えるがごとく、モータスはメタルマッドネスのエンジンを思い切り噴かす。
だが、それだけだった。逃走する様子はない。
それどころか、かかってこいと言わんばかりに指先で挑発してくる。


「『最速』ノ一里塚ヲ試ス。レース勝負デオレヲ倒シテミロ」


同時に車体をエグゼイドに向け、再びエンジンを噴かして煽ってきた。
準備をする時間は与えるが、レースに応じなければこのまま轢く、と言わんばかりだ。
下手に無視して暴走されれば、甚大な周辺被害と感染拡大につながりかねない。

永夢達に選択の余地はなかった。
すぐさまゲーマドライバーのレバーを開き、エグゼイドが細身のLv2へ姿を変える。

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!』

「よっと!レースならこうじゃないとな!」

「永夢、今回は自分もレーサーとして挑ませてもらうぜ」

「え?」


驚くエグゼイドに、レーザーターボが取り出したのは『爆走バイク』のガシャットだった。
ただしエグゼイドが今まさに取り出したものや、レーザーターボが変身に使っているものとは違う。
フレームが黒く、ラベルはモノクロ。
それは紛うことなきプロトガシャットだった。


「プロト爆走バイク!?」

「調査に使うつもりで抜いたのをそのまま持って来ちまった。
 今となっちゃ手荒に扱いたくないんだが、自重一つで取り逃がしたら笑い話にもならねえ」

「よし……なら、2台で一気に!」

『爆走バイク!』
『爆走バイク!』


2本のガシャットが起動し、ホルダーに収まる。
同時にエグゼイドとレーザーターボの背後から、それぞれバイクが現れた。
瞳がないことを除けば、かつてレーザーが変形したものと同じ黄色く派手なが並ぶ。

2台のレーザーがメタルマッドネスに真っ向勝負を挑む。
そしてレースにふさわしく、かつ被害を避けられる場所として『爆走バイク』のステージを選んだ。



――いや、選べなかった。
21 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/09(水) 01:16:26.15 ID:GkMp1b0U0
[SONIC]


「What!? どうなってるんだ……?」


目の前の光景に、ソニックは呆然としていた。

穴を踏み越えて見えたのは夜の住宅街だった。
そこから進んで、今立っているのは広大な公園の入り口。
待ち伏せはないがモータスを追う手がかりも途切れている。
見知らぬ世界の、見知らぬ場所。

だが、突如として現れた光輝くラインが現れた。
それが格子状に公園一帯を囲むと、風景が急速に変わっていく。
そして気付いた時、ソニックの前にあったのは――


「あれ? ソニック、今ステーションスクエアにいたっけ……?」

「違う。ここはオレ達の世界じゃないし、ついさっきまでここは公園だったんだ」

「そ、そうだよね。でも、通信機からの視点だとわからないくらい同じに見えるよ」


ネオンが輝く夜のビル街に、360度ループの道路や空中移動ロケットが配置されたその場所は、
ソニックだけでなくテイルスにも見覚えがあった。
ステーションスクエア。その夜の名所であるスピードハイウェイ。
ソニックの世界にあるはずのそれが、突如として現れている。
足場になっている高層ビルも、数秒前には存在しなかったものだった。
22 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/09(水) 01:25:02.93 ID:GkMp1b0U0
「これもモータスの仕業か?」

「そうかもしれない……前にタイムイーターが吸い込んだ時間にあったよね、この場所」

「ああ。でもアレは昔の、本物のステーションスクエアだった。
 今ここにあるのはただ再現しただけのニセモノだ」


あえてソニックはそう言い切った。
本物の都市なら、格子状のラインの手前で道路が寸断されてしまうことなどあり得ない。
展開された空間の端に偶然いたことで見えたものだ。
その事実をはっきり自己認識しなければならないほど、内部の再現度は本物と変わらなかった。


「ヘンなことになったが、とりあえずモータスを探すか。
 こんなマネしても時間稼ぎになんかならないって教えてやるさ」

「帰るためにもまずはそうするしかないね……同じ構造なら、少しは探すのだって簡単かも」

「こっちのホームみたいなもんだからな。サービスがいいや」


ビルからビルへと飛び移りながら、ソニックは偽りの街を軽快に駆ける。
時空の穴に謎の空間、どちらもモータスの手によるものならまだ遠くには行っていない。
その考えが正しいと証明されるのに、さしたる時間はかからなかった。
23 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/09(水) 01:25:41.28 ID:GkMp1b0U0
「見えた、モータスだ! バイクに乗ってるみたいだがアイツのはずだ」

「こっちからも反応、確認できたよ!」

「やっぱり間違いないか。それに他にも誰かいるみたいだぜ?
 なんかエミィみたいなヤツだが、モータスの仲間ってワケじゃなさそうだ」


眼下に見覚えのある壊れたマフラーを確認したソニックは、同時にその後方にいる何者かにも気付いていた。
ピンクの頭髪に小型ハンマーを手にした姿はソニックの知人を思い起させたが、彼女より戦士然としている。
そんな謎の戦士だが、どうもモータスの乗っている謎のマシンに苦戦しているようだ。
ならばとソニックはビルの壁面を駆け降り出した。
バイクを使われた程度で、スピード勝負に負ける気など毛頭ない。


だがビルの中腹に降り立った瞬間、一瞬その足が止まった。
止めたのは疲労ではなく不可解さだった。


「なんでアイツが、あの力を使ってるんだ……?」
24 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:08:34.73 ID:RW40Lctt0
[EX-AID]


「ったく、こいつはまるでジェットコースターだな!」


立体ループする道路をなんとか走り抜けながら、レーザーターボがヤケクソ気味に叫ぶ。
2台のレーザーは高速道路と高層ビルが立ち並ぶ夜の街を走っていた
金色に輝くリングが点在し、各所にはバネやブースターが置かれ、
空中移動用なのか小型ロケットらしきものすら見える。

『爆走バイク』のステージである荒野のレース場と、あまりにもかけ離れた光景。
展開方法はゲームエリアのそれだが、エグゼイドもレーザーターボもこんなエリアは知らない。
その場にいるのが3人しかいない以上、犯人はおのずと絞られた。


「こっちのステージセレクトに割り込んで来るなんて!」

「クロノスやパラドばかりに気を取られてる場合じゃなかったな、こりゃ。
 男子三日会わざればなんとやらってヤツか」


言いながらも、今度はレーザーターボのバイクが路上停車中の車の真上に着地した。
ズドン! という音は、仮に車中に人がいれば事故死を免れない衝撃を物語っている。
ここが現実から隔離された場所であるからできる芸当だった。
だがそんな無理をしてもなお、メタルマッドネスの赤いヘッドライトすら見えない。
25 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:13:14.69 ID:RW40Lctt0
このゲームエリアには『爆走バイク』のような既定のゴールが存在しない。
故に順位を競うスピードレースも成立し得ない。
必然的にモータスから仕掛けられたレース勝負は、相手に追いつきクラッシュさせるバトルレースになっていた。

だがモータスはそんなことなど知らぬかのように、全く減速せず走り去っていく。
ドリフト走行で急激なカーブを平然と曲がり、その勢いで螺旋状に回転する道路を駆け抜け、
ビルとビルの間を平然と最高速のまま大ジャンプしていく様はあまりに命知らずで、そして速かった。


「ノリが良いのも大概にしろよアイツ……普通にやってちゃ追いつけないぞ」

「普通? そうか、なら普通じゃない方法で!」


メタルマッドネスが360度ループに入ったのを見るや、エグゼイドはその手前のブースター目掛けて突っ込む。
そして角度を調整し、ループに乗らず真っすぐ飛び込んでいった。


「ナイス名人芸!」


エグゼイドを追い、レーザーターボも同じようにループを丸々すっ飛ばして距離を縮めていく。
コースアウトすれば脇にそびえる高層ビルに突っ込みかねないが、それだけに速度差を埋められるだけの短縮になる。
モータスの移動先を見てはそんなショートカットを敢行していく中、ついに長い直線路が見えてきた。
26 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:16:28.21 ID:RW40Lctt0
「永夢、ケリをつけるぞ! 自分が行くから援護頼むわ!」

「オーケー!」


ダブルライダーが勝負に出た。
直線前のカーブをドリフト走行するメタルマッドネスに、あえてエグゼイドが真っすぐ突っ込んでいく。
そしてそのままガシャコンブレイカーを振りかぶった。
ガードレールへの接触と引き換えに、メタルマッドネスの後輪へハンマーが直撃する。
体勢を崩したままのモータスが直線路に入るや否や、今度はレーザーターボがキメワザスロットに手をかけた。


『キメワザ!爆走・クリティカルストライク!』

「最速で決めるぜ!」


レーザーターボが一気に急加速する。
元々出力で勝るプロトガシャットの上、専用の連携機構を持つレーザーターボとなれば出力ロスは皆無に近い。
正規版を超える最高速度を発揮し、カーブからの立て直しで隙を見せたメタルマッドネスを猛追していく。
そしてメタルマッドネスの側面目掛け、黄色のオーラを纏ったプロトレーザーが激突した。

耳障りな金属音と共にモータスがバイクごと派手に吹き飛ばされていく。
やがて高速道路の料金所に激突すると盛大な爆炎が上がった。


「やった!」

「やっぱりターボの方が速かったってワケだ!」


追いついてきたエグゼイドとともに、バイクを停止させたレーザーターボは会心のガッツポーズをとった。
まだクリア表示はないが、いくらかレベルアップしていてもゲームオーバー必至だろう。
これまでのモータスなら1回倒してお釣りが出るダメージなのは間違いない。
27 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:20:13.50 ID:RW40Lctt0
――だからこそ、その声は聞こえるはずのないものだった。


「ナルホド、オ前モ少シハヤルナ……」


直撃、していたはずだ。
モータスなら耐えられないほどの攻撃も、確かなはず。
だが爆炎の中から現れたモータスとメタルマッドネスには何らのダメージも見出せない。
鮮やかな緑の閃光を時折放ちながら悠然と歩く姿からは、レース前以上の余裕すら漂っていた。


「ダガソレデ『最速』トハ笑エヌ冗談ダ」

「アンタのタフさはキツい冗談だけどな……!」

「音ヲ上ゲルノダケハ最速カ?
 ドレ、セカンドラップト行コウジャナイカ」


言い放つと同時に、メタルマッドネスを急加速させて突っ込んで来る。
だがそのまま轢くような真似はせず、エグゼイドとレーザーターボの間をすり抜け、来た道を逆走していく。
どうやらこれがセカンドラップということらしい。
すぐさまマシンを旋回させ、2台のレーザーは再びモータスを追う。

だが、その様相は1週目と全く違うものとなった。


「なんだ、車が吹き飛ばされてくる!?」

「遠隔で操ってやがるのか?」


驚愕しながらも、ハンドルを切って前方から飛ばされてきたものを避ける。
同時に道路の中央を、横転した乗用車が転がっていく。それも1台や2台ではない。
近隣の道路から、ビルの地下駐車場から、あるいはカーショップの中から引き抜かれた車が
音もなく宙に浮き、そして次々とエグゼイド達目掛けて打ち出されていく。
そのいずれもが妖しい緑色に輝いていた。
28 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:32:48.78 ID:RW40Lctt0
「くっそ、二度も乗せられるとかさぁ!」


貴利矢のキレ気味の叫びが響いた。
最初は様子見し、好機と見るや隠していた実力で反撃に転じる。
警戒したにも関わらず、また同じやり口にハメられた己自身に怒りが沸く。

だが叫ぼうとどうしようと金属製の雨は止まらない。
ショートカットどころか回避すら難しい中、次第に2台のレーザーにもダメージが蓄積されていく。


「ちっ……!」

「貴利矢さん!?」


ついにレーザーターボが宙を舞うワゴン車と接触し、転倒しかける。
間一髪でエグゼイドが救助するも、さらに飛んで来たミニバンに向けてマシンを盾にせざるをえなかった。
車体に傷、というレベルでは済まないと吹き飛んだ外装パーツが物語っている。
爆発の心配がないことだけが不幸中の幸いだった。


「悪ぃ、助かった。乗せるのは上手いが乗るのはまだまだらしい」

「直撃を避けれたならまだやれるさ。死ななきゃ安いって言うしな!」

「ありがとよ。とはいえ、どうしたもんかな……」


ホルダーから爆走バイクのガシャットを外し、クラッシュした2台のレーザーを元に戻す。
こちらを嘲笑うかのようにモータスは動きを止めていた。
車の雨も止んでいたが、マシンがないことには追跡のしようもない。
ゲーマ召喚用のガシャットは、ダメージを受け過ぎると再起動までにクールタイムが生じてしまうのだ。

あるいは、身体能力だけで追いつければ――


「こうなりゃやるか、乗れ! 永夢!」

「貴利矢さん!?」

「してやられたまんまってのはシャクだからな……よっと!」


エグゼイドの目前でレーザーターボが飛び上がり、そのシルエットが変わり始めた。
改造が施されているとはいえレーザーターボもまたレーザー、ならば彼も変形できる。
それは完成したバイク形態に、先ほどまでと違う瞳が浮かんでいることが証明していた。


これが3台目の、最後のバイク。
しくじれば後がないばかりか、今度は貴利矢にもダメージが及ぶ。
それでも永夢に迷いはなかった。
29 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:37:22.80 ID:RW40Lctt0
「よし、行くぞレーザーターボ!」

「OK! できれば回避率100%ってので頼むわ」

「ああ、天才ゲーマーMの腕前を見せてやるぜ!」


アクセルを回し、レーザーターボに乗ったエグゼイドが駆ける。
人間形態に主眼を置いただけに、レーザーターボのバイク形態は外装の大部分が省略されている。
被弾一つでライダーゲージがごっそり減るであろうことは明らかだった。
だが代わりに速力と機動力は、わずかだがプロトレーザーすらも上回る。
何より貴利矢の身を賭けた疾走には覚悟が乗っていた。


「パターンが読めた! 逆転させてもらうぜ!」


再び前進し始めたモータスを追い、飛んでくる車を時に避け、時に足場にして乗り越えて突き進む。
エグゼイドはただ車を避けていたのではない。
車の射出軌道がランダムでないことを見抜き、パターンを覚えることで適切な対処を組んでいたのだ。
さらにショートカットも逃さずこなし、再びモータスの背が見える距離に来た。


「気をつけろ! アイツ、まだ隠し玉持っててもおかしくないぞ!」

「わかった!」


改めて警戒を促すレーザーターボに応じつつ、エグゼイドはガシャコンキースラッシャーを呼び出し、
すかさずマキシマムマイティXのガシャットを挿した。
今度は最大出力。
次の一撃で、どんな手が残っていようと出しようがないオーバーキルを叩きこむ。



だがトドメ目指してスピードを上げる2人が感じたのは、背後からの巨大な影だった。
30 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/10(木) 00:42:08.73 ID:RW40Lctt0
「メテオスマッシュ……!」


そんな声が聞こえたかと思った頃には、その威容は組み上がりつつあった。
浮遊した車が、道路標識が、あるいは廃材が次々と集まり、球状の巨大な鉄の塊となっている。
そのまま完全に道路を塞ぐ大きさとなったそれが、後ろから転がってきた。

さらにモータスが再び車を飛ばしてくる。
それもこれまでのように降り注ぐのような軌道ではなく、真上から叩き潰す形で。


「あっぶねえ!」


パターンに慣れているほどハマる罠。
それを反射神経だけで切り抜けたエグゼイドはさすがだったが、無理な回避運動で速度が落ちるのは避けられない。
減速したレーザーターボの背後には、徐々に鉄塊が迫っていた。


「永夢逃げろ!飛び下りればお前だけでも助かる!」

「そんなこと……!」


エグゼイドがハンドルを握りしめる。
たとえ自分がCRの切り札だろうとレーザーターボを、いや貴利矢を見捨てることなどできない。
だが判断を躊躇している猶予はもうわずかしかない。
もはや少しでもアクセルを緩めれば、その瞬間に圧殺されるところまできていた。



空気が変わったのは、その時だった。



「フン、来タカ……」


モータスの声から余裕の色が消える。
マスク越しの永夢にもはっきり見える、青い光。
肉眼で捉えるにはあまりに速かったが、横切った一瞬で姿は眼に焼き付いていた。


白い手袋に、白ラインの入った赤い靴。

レーザーターボすらはるか凌駕する超スピード。

そして青い体毛の、二足歩行するハリネズミ――



「ソニック!?」


そこが戦場であることも、今まさにピンチにあることも忘れ、永夢はそう叫んでいた。
31 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/11(金) 00:43:46.79 ID:Lokw6DTz0
[SONIC]


「やっぱりこれ、シルバーの超能力だよ!」

「らしいな! 一体どういうカラクリなんだか……な!」


ビルの壁面を蹴り、ハイウェイの路上へ飛んだソニックが、回転したまま降り注ぐ乗用車へ激突する。
そのまま次のターゲットを定めると、急激な方向転換を伴いつつ再び飛んだ。
空中で軌道を調整しながら回転突撃する、ホーミングアタックというソニックの得意技だ。
それが次々と決まり、モータスを追っていたピンク色の戦士を救う。

だが終わりではない。そのまま、戦士をすり抜けるようにして背後へ向かう。
巨大な鉄塊の中心部目掛けて、ソニックが再び青い閃光と化す。
寄せ集めでできた鉄塊が砕け散り、構成部品だった乗用車が四散していった。


突然乱入したソニックに驚いてか、戦士がバイクを止める。
同時に道路を1本挟んだ先にモータスも現れた。
バイクに跨ったままの仁王立ちは、嫌味なほどに威風堂々として見える。


「追いかけっこならオレも混ぜてもらおうか、モータス!」

「ソニック、世界ヲ超エテマデ我ヲ追ウカ」

「お前が逃げてるだけだろ? このくらいで躊躇すると思ったら大間違いだぜ」

「結構ナコトダ。ダガ……今ハコレデ終イダ」


モータスが会話を打ち切るかのように、メタルマッドネスを反転させる。
急激に加速し出したバイクを追って、ソニックも走り出した。


「おい、待て!」

「マシンヲ得テ、エメラルドノパワーモ1ツ解放シタ……益ノナイオ前トノ戦イハ必要ナイ」


ソニックが道路を飛び越えてようとするのと、背を向けたままモータスが右腕を掲げたのは同時だった。
手首から透けて見える緑色に輝く宝石に応じるかのように、また1台の車が飛んでくる。
すぐさまホーミングアタックで跳ねのけるが、乗用車の車体で一瞬視界を塞がれてしまった。

風景が変化したのはその瞬間だった。
立っているのが公園であると気付いた頃には、既にモータスの姿はなくなっていた。
32 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/11(金) 00:50:20.98 ID:Lokw6DTz0
「また逃げたか!」

「時空の穴を使ったワケじゃなさそうだね。でもどうやって姿を消してるんだろう?
 こんなにあっさり逃げられたら、ずっとペースを握られっぱなしだよ……どうしよう」


通信機越しのテイルスだけでなく、ソニックも焦っていた。
白い空間で見失った時は、ただ単純に別の穴へ早々に入りこまれたからだと思っていた。
だが今度は目前で姿が消えている。時空の穴の痕跡もなかった。
いくら超スピードがあろうと、さすがに見えない相手は捕まえられない。



その時、ふと背後に気配を感じた。
振り向くとそこには、黄色いスーツの戦士が立っている。
色や顔は違うが、先ほど助けたピンク色の戦士にベルトやスーツが似ていた。


「ゲームエリアの解除を目くらまし代わりにされちゃ、見失うのも仕方ないか」

「ゲームエリア? 今のニセモノのステーションスクエアのことか?」

「ステーションスクエア?……なんの話だ?」


会話が噛み合わない。互いに知っている部分が違い過ぎる。
そんなソニックと黄色い戦士の間に立ったのは、あのピンク色の戦士だった。


「ゲームエリアは、さっきみたいな隔離空間のことさ。
 普通はライダーガシャットの力で展開されるんだけど、今回はモータスが展開してたみたいだ。
 そしてステーションスクエアは、キミの世界にある都市の名前……だよな?」

「そいつは合ってるが、また聞いたことのない名前が出たな。
 ライダーガシャットってのは何だい?」

「これのことさ」


言いながら、2人の戦士がベルトからカートリッジ状の物体を抜く。
途端にピンクと黄色のスーツが消え、その下から白衣を着た青年と、アロハシャツを着た男が現れる。
その様子にソニックは派手に驚いてみせた。


「Wow! すごいな、変身してたのか!
 それで、そのカセットみたいなのがガシャットってヤツか」

「うん。モータスは人に感染するウィルスを持っているバグスターって存在でね。
 それも、感染すると人間が消滅しちゃうこともある危険なウィルスなんだ。
 だから僕達が変身して戦ってる。患者を救うためにね」


白衣の青年がかいつまんで説明する。
全くわからなかったモータスの素性がわかっただけでも、ソニック達にとっては収穫である。
33 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/11(金) 00:53:33.68 ID:Lokw6DTz0
「なるほど、その白衣は医者のセンセイだからか。
 モータスのヤツ、こっちでも泥棒してるのかと思ったらもっとタチが悪いとはな」

「泥棒?」

「ああ。カオスエメラルドを盗んだアイツを追って、オレはここまで来たんだ」

「カオス……なんだって?」


聞き返そうとするアロハシャツの男を、白衣の青年が制する。
その顔色がかすかに青ざめているように見えたのは、ソニックの気のせいではないはずだった。
普通ならおかしくないが、この場所でそんな反応を見せるには理由がいる。


「カオスエメラルドを知ってるのか?」

「え? あ、いや、ちょっとね。……そうだ、キミの名前は?
 僕は宝生永夢。聖都大学附属病院の研修医なんだ」


モータスという共通の敵を追っている以上、長く付き合うことになるかもしれない。
強引な切り出し方に若干の不自然さを感じながらも、ソニックは改めて名乗った。


「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 ちょっとスゴいハリネズミさ」
34 : ◆oZuontUvSM [sage saga]:2017/08/11(金) 00:55:49.23 ID:Lokw6DTz0
[EX-AID]


「ウェーブサイクロン号じゃないか! へぇ、こっちの世界のゲームでも出てるのか」

「そりゃあ、サザン島での事件全部ゲーム化した作品だからね!
 あ、そういや今でもこの水上バイク乗ってんの?」

「たまに乗ってたけど、本物はついさっきモータスを追うために派手に壊れちゃったんだ……。
 作り直すのは難しくないし、そのおかげでここに辿りついたんだから無駄じゃないけどね」

「うっそマジで!? 絶対モータスしばき倒してやる!」

ソニックやテイルスと話しながら、ニコが堂々とゲームのソニックシリーズをプレイしている。
そんな光景に永夢は頭を抱えていた。


モータスを追って現れたのが紛れもないソニックだと知った永夢は、
CRまで彼を連れて来る際になるべく人目につかないルートを選んでいた。
同じゲームキャラでもパックマンの時と違い、ソニックは人語が話せるし、実体も残り続ける。
もし本来知り得ない事実を知った場合、それがどのような事態を招くか永夢には推し量りきれない。

だからこそ衆目を集めるのはやむを得ない――ソニックの速さなら証拠も残りにくいだろうが――としても、
事後を考えソニックに「自分がゲームキャラである」とわかる要素は見せないようにしていたのだ。
だが……


「運が悪かったとしか言いようねえな」

「大我さん……」

「本だろうがゲームだろうが、何かやってる最中に本人来たら舞い上がるに決まってるだろ。
 コイツがもうちょっと年くってて、ゲーマーでもなけりゃまた違ったんだろうけどよ」


大我の言う通り、CRへ来たソニックが最初に会ったのは、よりによってソニックのゲームをプレイしていたニコだった。
元々CRの正式なメンバーではない上に未成年の少女、さらに相手は幻夢コーポ製のゲームが出る以前からのレジェンド。
秘匿意識というものが薄かったこともあって、あっさりとソニックに出自をバラしてしまった。
それどころか通信機越しのテイルス――ソニックの無二の相棒だ――ともベラベラ喋っている。
これなら出会った喜びを殺してまで誤魔化す必要などなかった、と今になって思う。
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