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【モバミリ】佐久間式P独占法
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1 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:38:31.05 ID:nUQ6Xw160
※
===
「私、女子力上げたいんだ!」
目の前に座った海美さんは、キラキラとした瞳をこちらに向けて言いました。
対する私はと言うと、「はぁ」と曖昧な返事をして、思わず小首も傾げちゃいます。
「女子力ですか? 海美さん」
「うん! 女子力! 上げたいの!」
「……どうして私なんでしょう?」
「だってほら、まゆちゃんは女子力の塊〜って感じがするからさ!」
はて、そんな塊で出来ている覚えはありませんが。
どうやら彼女にしてみれば、私は女子力の権化だそうで。
「それにそれに! まゆちゃんは困ってる私のこと、見捨てたりなんてしないよね?」
お祈りをするように両手を組んだ、海美さんが私を見つめます。
眉はたれ、泣きそうな目。結んだ口が表す不安。
ああ、そんな迷える子羊みたいな表情で人を見つめるのは反則ですよ。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1501954710
2 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:41:33.73 ID:nUQ6Xw160
……その時、私はある人のことを思い出しました。
こういう相談を持ち掛けるのに、私以上に適任な人を。
それに何より、私一人では満足の行く回答ができるかどうかも怪しいから。
「海美さんさえ良かったら、朋花ちゃんをここに呼び出しても?」
「……美味しいよね、豚肉」
そっと視線を横に逸らして、呟く姿で察しました。
どうやらここに来る前に、既にひと悶着があったようです。
「だってさー、話の最中に子豚ちゃん子豚ちゃんって言われると……。お腹が空いてきちゃうでしょ?」
不満げに口を尖らせる海美さん。でも、それは人それぞれだと思いますよ?
……とはいえ、私も朋花ちゃんに同情している場合ではありません。
突然「女子力を上げたい」なんて言われても、
具体的にどんなことをすれば良いかなんて、サクッと答えられるような私じゃないですから。
3 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:44:29.40 ID:nUQ6Xw160
大体、この相談の内容自体困りものです。
だって、海美さんは十分女子力ありそうですし、実際可愛らしい方ですし、
溢るる元気とコロコロと変わる表情は、見ている人を自然に笑顔にしてしまって。
「プロデューサーにも言ったんだけどさー。今のままで十分女子力高いって」
「……プロデューサーさん?」
「そう! 海美は今でも可愛いから、そのままのお前で良いんだよって」
驚愕! 「まったく他人事だと思って、適当ばっかり言うんだもん」と
頬を膨らませる彼女には悪いですが、まゆは大変ショックです。
頭を木槌で殴られたような衝撃的な発言に、思わず表情筋が死に絶えます。
はぁ? なに? プロデューサーさんから「可愛い」と?
……ちょっと聞き捨てならないセリフですねぇ。
「まっ、最近は料理の腕も上がってるし、日課のランニングも欠かしてないし。
女子力の底上げ自体はされてるのかもしれないけど」
「はぁ」
「でもでもでもっ! もーっと効率的に女子力を磨く方法が何か無いかなって!
だからほら、相談! まゆちゃんに! 女子力の磨き方を教えてよー♪」
4 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:46:33.45 ID:nUQ6Xw160
弾ける笑顔でお願いしてくる海美さんとは対照的に、
まゆの顔はフィラメントが焼き切れた電球のよう。
いいえ、こんなのカビの生えたアンパンマンです。
くすんでしまったレンズです。
新刊を買えなかった百合子ちゃんが見せるような、
絶望と虚無が入り混じった顔と言ってもいいでしょう。
電球は取り替えればいいですし、アンパンも交換すれば問題無し。
くすみも磨けばとれますし、百合子ちゃんにも通販と言う最終手段が残ってます。
でもまゆの、まゆのプロデューサーさんはたったの一人だけだから!
「……聞いてる? まゆちゃん」
「女子力、上げましょう! まゆのプライドにかけてでも、海美さんを立派なレディーにしてみせます!」
答え、頷き、彼女の両手を取る私は力強く。
まゆの返事に「やったー!」と、海美さんが無邪気にはしゃぎます。
……ふっ、なんて愚かで可哀想な人なんでしょう。
これからまゆに、どんな仕打ちを受けることになるかを知りもしないで。
いいです、よいです、構いません。
でも心していてくださいね? 貴女にこれから施すのは、女子力アップとは真逆のこと。
まゆのプロデューサーさんをたぶらかすようなライバルは、一人でも少ない方が良いですから……。
うふっ、ふふふっ、うふふふふふふ……♪
5 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:48:03.55 ID:nUQ6Xw160
===
「まぁ! それでわざわざ、私のところへ二人は来たの?」
海美さんを連れて向かった先。事務所の休憩室に居たその女性は、
ニコニコと美しい顔をほころばせながら言いました。
「はい。私たち二人に、大人の女子力を教えて頂ければ嬉しいなと」
「私、もっともーっと自分に磨きをかけたいんですっ! だからどうか、教えてください楓さん!」
そうしてお願いするために、ペコリと二人並んで頭を下げる。
高垣楓さん――事務所でも指折りの美貌を持っているのに、
子供っぽい言動が時々残念な二十五歳――そんな彼女の残念な部分を、海美さんが習得するとどうなるか?
イケナイこととは分かっていても、
まゆはその結果を想像するだけで背中がゾクゾクしちゃうんです♪
6 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:49:07.51 ID:nUQ6Xw160
「大人の女子力……。ふふっ、飲んべぇの私なんかにあるかしら?」
「謙遜なんてしないでください。楓さんの小粋なジョークテクニックは、まさしく知性の言葉遊び」
「知的な女子力、素敵ですっ! 憧れます!」
「ああ、女子力って……そういうので良いのね」
合点がいったと手を合わせ、楓さんが私たち二人の顔を交互に見ます。
そして傍に置いてあった自分の鞄から、何やらケースのような物を取り出すと。
「こうして眼鏡を顔にかけると、女子力がたちまち上がるそうですよ?」
それは紛うこと無き眼鏡ケース。
飾り気のないシンプルフレームがとても上品な一品を、
自らの顔にかけた楓さんがニッコリ笑顔で微笑んで。
あわやこのまま「まぁまぁ二人も眼鏡どうぞ」と言いだしかねない雰囲気の中、
彼女は嬉しそうに口を開いたんです。
7 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/08/06(日) 02:50:45.03 ID:nUQ6Xw160
「その理由は、超視力上げれば女子力もアップ♪」
「えっ」
「女子力アップ調子もよく」
「えぇっとぉ……」
「翌朝女子力超上昇、初心者手法で急上昇……ふふっ、まだまだよー♪」
愕然! 溢れ出た流暢な言葉の波は私たち二人を包み込むと、
論理的思考と言う名の活動をあっさり止めてしまいました。
後はもう、ようやく解放された一時間後の未来まで高垣楓の独壇場。
楓さん、それは洒落と言うより早言です。ジョークではなくライムです!
そう私たちが指摘する暇も与えずに、彼女は次々とネタを披露して……。
「いけない、そろそろレッスンの時間が来ちゃう。
……私の話が少しでも、二人の役に立ったならいいんだけど」
恥ずかしそうにはにかむと、「楽しかったですよ」と部屋を後にする。
楓さんの背中を見送って、抜け殻のようになった海美さんがポツリと呟きます。
「まゆちゃん」
「はい」
「私さ、楓さんの女子力は布団が吹っ飛んだとかのレベルでいいと思うんだ」
「奇遇ですね。私も猫が寝込んだ程度でいいと思います」
そうして仲良く頭を抱えた私たちは、こびりついた数々の韻の足跡を、
うんうんと唸りながら拭き取る羽目になったのでした。
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