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【艦これ】提督「風病」 2【SS】
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402 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:24:40.77 ID:zyk0IZBD0
時津風「あ、浜風と司令じゃ〜ん」
私達が演習場に着くと、時津風がいた。ボラードに腰掛けて、見学をしているようだった。
時津風「二人とも視察? 休みなのに仕事熱心だねえ」
提督「俺に休みはないさ。栄光なる帝国海軍のカレンダーには、土曜日と日曜日は載っていないんだ」
提督は肩をすくめて皮肉を口にする。時津風はほんの一瞬眉をひそめたが、すぐに顔を戻して「そうだねえ」と同意した。
提督「それで、陽炎はもう新しい艤装を試したのか?」
時津風「うん。これがすごくてさ〜。あんなの普通の駆逐艦が使ったら、身体がおかしくなっちゃうと思うよ」
浜風「戦艦の装備を改装したものですからね」
私は海の方に目をやった。水平線に無数の点が浮かんでいた。ブイや的、深海棲艦を模した型。いくつかは壊れ、ひしゃげている。その中央に佇む人影が、陽炎姉さんだった。やや下を向いているが、表情までは伺いしれない。ただ、この距離からでも、陽炎姉さんの背中に張り付く無骨な鉄の塊は、一際目立っていた。
試製三十五・六センチ単装砲。規格外にもほどがある特注品だ。通常の駆逐艦では、まず使いこなせない装備である。時津風の言うとおり、仮に使うことができたとしても、けっして無事では済まないだろう。三半規管をやられ、身体中の筋肉や骨が軋み壊れてしまうに違いない。陽炎姉さん、「覚醒」した艦娘にのみ許される禁術のようなものだ。
403 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:25:36.85 ID:zyk0IZBD0
「覚醒」とは、艦娘が特異点へ到達したことを指す。それはいわゆる改や改二などの「改装」とは、定義を異にするものだ。「改装」によって艦娘はたしかに進化を果たし強くなるが、あくまで「艦娘という枠内」での変質でしかない。「覚醒」は、枠外を超えていく。つまり、「艦娘ではない別の何か」に変異することを意味する。
では、通常の艦娘とは何が決定的に違うのか。それは、艤装適性と妖精との同調率だ。艦娘の艤装適性は、文字通り艤装との相性である。例外もあるが、艦種に相応しい装備以外は使えないのが通例だ。無理に装備すれば、キックバックという現象によって脳が深刻なダメージを受ける。しかし、この定石は覚醒した艦娘には当てはまらない。自分の身体能力、艤装の耐久力の許される範囲で、あらゆる装備を使いこなすことができるようになるのだ。
また、最大の違いが同調率である。艦娘は妖精たちと感覚を共有しなければ、艤装を使うことができない。その値が優れていればいるほど、優秀な艦娘であることを意味するのだが、どんなに練度を上げた艦娘であっても、せいぜい感覚の半分を共有できればいい方だ。私でも三十六パーセントが最大値である。陽炎姉さんの数値は二百二十パーセント……百パーセントを有に超える。それはつまり、妖精を支配する力をもつということでもあるのだ。
提督たちと、同等……いやそれ以上の力だ。さすがに、鎮守府中の妖精を支配できる提督たちの権能と比べたら範囲は狭いが、こと自分の艤装に住まう妖精への影響力は提督たちを上回っている。
提督の支配からさえも外れた存在。艦娘が行き着く究極の姿。この領域に踏み込んだものは、艦娘制度が始まってから三十年で数えるほどもいない。
そのうちの一人が、陽炎姉さんだ。右腕は、その領域に至る過程で無くしてしまったもの。ある地獄が、彼女を変えたのだ。
404 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:26:30.42 ID:zyk0IZBD0
陽炎姉さんは空を見上げた。艦載機が、空を引裂きながら彼女の元へと向かっていく。瑞鳳さんの演習用艦爆隊である。
提督「始まったな」
提督が緊張した声で言った。
艦爆が高らかに舞う。急降下。完全なる不意打ち。だが、陽炎姉さんは動じない。必要最小限の動きで取舵を切る。爆音。紫色の水柱が膨れ上がった。陽炎姉さんは機銃を唸らせた。弾き出される曳光弾。吸い込まれるように艦爆機を捉える。錐揉みして落ちていく。それとすれ違うように、陽炎姉さんは前に出る。戦闘機の返礼は彼女に当たらない。それさえ、見切ってかわした。撃ち落とす。二機の戦闘機が死んだ。その最中、彼女は最大の武器を展開していく。
背中から伸びる単装砲が、牙を向いた。
陽炎「おあああっ!」
鋭い裂帛とともに、凄まじい黒煙が上がる。烈風が、空気を破壊しながら私たちを叩いた。息が吸えなくなり、肺が呼吸を取り戻した瞬間には、一つの的が粉砕しているのが見えた。
それを知覚した瞬間には、元の場所から陽炎姉さんの姿は消えていた。驚異的な速度で動き続け、艦載機を次々と叩き落としている。
必死だった。あまりにもひたむきだった。後悔を払い落とそうと、蟠りをぶつけようと、恐怖とトラウマを打ち消そうと。
時津風「……相変わらず、すごいな」
時津風の声には感嘆だけではなく、寂寞が込められている。苦しさがある。叫びのような舞をみせる陽炎姉さんに対して、負い目を感じているのだろう。
それは、提督も同じだった。不自然な明るさは落ちていた。暗く淀んだ三白眼を、陽炎姉さんに向けながら後ろ髪に引かれる思いに耐えている。
405 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:27:18.05 ID:zyk0IZBD0
提督「浜風」
提督は私に顔を寄せ、小さな声を出した。耳朶が溶けてしまいそうだった。思わず足が震える。歓喜の声が出ないようにするのが大変だった。
浜風「なんでしょう?」
提督「まだ見つからないのか?」
何が、とは言わなくてもわかる。寄生虫に薬を与え、寄生虫の艤装を停止させ、やつを殺した犯人。提督は何も知らない。私の刷り込みを、信じ続けてくれている。そして、犯人が見つかることを切望している。
薬と艤装の故障、そしてあの赤い艦載機。同一人物の仕業で間違いない。私たちを嘲笑うかのような快楽主義者にも似た手口が、共通しているからだ。明確な根拠に乏しくても、それだけはわかる。
だが、一ヶ月半が経っても犯人は見つからない。寄生虫の戦死以降、一切の目立つ行動を見せないからだ。証拠や痕跡もまったくといっていいほど見つからない。これでは、いくら私でも探しようがなかった。
はやく見つけたい。私もそう思う。しかし、相手は油断ならない存在だ。私の計画を察知したほどの知能の持ち主であり、赤い艦載機を出せるほどの戦力をもつ怪物だ。下手に動けば、私が食われてしまう可能性もなくはない。慎重にいかねばならない。
これまでの雑魚共とは、明らかに違う。
浜風「すいません、まだです。おそらく警戒されているのでしょう。なかなか尻尾を出しませんね」
質問に答えると、提督は落胆するように肩を落とした。心が痛んだ。提督の期待に答えられないことがこんなにも辛いなんて。
406 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:29:07.26 ID:zyk0IZBD0
提督「……そうか」
浜風「なるべく早く特定します。お辛いでしょうが、もうしばらく堪えていただけますか?」
提督「ああ。すまないな、急かすようなことを言ってしまって」
浜風「いえ、お気持ちはわかりますので」
それから、提督は口を閉ざした。沈黙が寂しかったが、私も何も言わない。
爆発音が、虚しく響いた。
浜風「……」
しかし、だ。
犯人の手がかりがまったくないかというと、そうでもない。実はある程度、容疑者の絞り込みは進んでいる。
あるカテゴリーに属する者たちが、候補者だ。
それは、最大級のトラウマを抱えるものたち。
東鎮守府に所属していた艦娘たちだ。
なぜ、彼女たちが怪しいのか?
理由は、過去の事件を知っていれば自ずとはっきりする。私は、南鎮守府にいたときに「捨て艦事件」の報告書を盗み見たことがあった。なので、あの事件の内容は大体頭に入っている。あの事件の発端、第六駆逐隊の相次ぐ事故死。その内容は、すべて「艤装の故障」によるものだ。そう、つまり、寄生虫が死んだときと同じ現象が起きていたということだ。
407 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:29:59.26 ID:zyk0IZBD0
そんな偶然、あり得るはずがない。だから、ほぼ間違いなく犯人は東鎮守府にいた者たちの誰かだ。
これは、黒幕のヒントとは考えにくい。挑発の手段であっても、ヒントを与える意図まではないということだ。事件は未だにトップシークレット扱いだ。この鎮守府の中でさえ、事件の詳細を知っているものは限られている。カウンセラーや提督など一部の人間以外には、ほんの一握りの情報しか開示されていない。大体何があったのかは知っていても、詳細までは誰も知らないのだ。だから、私がここまで情報を握っているとは黒幕も考えないだろう。私が当事者たちから聞き出したことを考慮した可能性もあるが、その線は薄いと見た方がいい。なぜなら、あの事件についてはみんな口を固く閉ざしているからだ。
黒幕は、殺しに無秩序な美学を持っている。寄生虫の事故を、同じような手段で演出したのも、それが理由だと考えると納得がいく。
吐き気を催すほどの邪悪だ。もはや黒幕は、人の精神を持ち合わせてはいないだろう。紛う事なき、精神病質者だ。気が狂っているとしか言いようがない。
そして、私はこれとまったく同じ感想を抱いたことがある。はじめて、「捨て艦事件」の資料に目を通したときに。この事件の首謀者に対して、そう思った。
苦虫をかみ潰すという比喩は、こういうときに使うのだろう。苦いとはどういうことか知らないけど、言葉の意味するところくらいは理解できる。
408 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:30:48.11 ID:zyk0IZBD0
考えたくはない、可能性だ。
だが、あの提督の死亡は明確に確認されたわけではない。牢獄の中で爆死したそうだが、死体は一切見つかっていないのだ。それに、厳重な体制の敷かれた留置場に爆薬を持ち込めるはずはないから、ずっと引っかかっていた。しかし、一つだけ方法がある。たった一つだけ……。
何事にも例外は存在する。私というイレギュラーが存在し、赤い艦載機というさらなるイレギュラーを見てしまった以上、可能性として考慮しておかねばならない。
――少なくとも、この鎮守府に、私と同じ存在がもう一体いることは間違いないのだから。
陽炎「あああっ!」
陽炎姉さんの叫び。砲撃と風。艦載機の唸りと響き。私は、彼女の舞を見ながら深い溜息をついた。
409 :
◆WvruwVSMos
[sage saga]:2020/06/05(金) 00:34:10.69 ID:zyk0IZBD0
投下終了しました。
すいません。章台を上げ忘れていました。
今回から五章です。ようやく本番に入ってきた感じです。よろしくお願いします
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 08:56:44.08 ID:9UwGATFx0
乙
おっしゃー、新章じゃあ
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/07(日) 07:27:13.07 ID:VFWzWtfz0
順当にいけば、東出身のサイコパスはアイツしかいねぇ、、、
雷ちゃん退場は読者も寂しい
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/14(日) 00:26:59.14 ID:mpz5nmGt0
さぁ、こっからどうなるか
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/29(月) 05:02:53.12 ID:rIPoceQh0
まってる
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/29(月) 22:48:48.52 ID:FwfDZN50O
いくらでもまったる
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/07/04(土) 19:46:17.15 ID:/802lPrEO
楽しみにしてます
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/07(火) 19:14:03.94 ID:6y9+ZfAF0
作者どうか無理はせずやってくれ。リアルが大変なのは理解しとる。
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/23(木) 14:52:22.33 ID:wOmuIj/W0
良いものを書くための溜めの期間なんや
まったるでー
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/12(水) 15:54:27.29 ID:upkCLPDO0
がんばれ
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/15(土) 07:10:34.33 ID:ApsKN9kf0
重い話書くって自分の精神も削れるからなー。書きたいときに書けばいいと思うのー。
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/08/17(月) 03:55:18.94 ID:bK2qJIcX0
作者「コロナ」
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 15:37:17.91 ID:5XpX/icU0
続き、、、待ってるゾ、、、
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/07(水) 20:03:45.93 ID:3mkGJLf90
いつまーでも、まーってるぅー
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/17(火) 18:05:15.21 ID:bmDcJ5BR0
作者、フツーに心配なんだが、もし気力あったら生存報告たのむ、、、続きは好きな時に書いたらええ、、
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/12/20(日) 11:56:35.71 ID:RhCsz5ZqO
支援
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/21(月) 22:22:17.14 ID:wi5VITEc0
支部で読んだ
続き期待してる
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/01/06(水) 01:06:01.45 ID:9NfFptep0
作者、コロナで逝った説
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/01/23(土) 02:23:47.59 ID:ay2vKzyE0
まだ戻ってくると信じてます
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/02/12(金) 17:11:15.70 ID:kGyRhf4r0
作者、やっぱりコロナでイッた説
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/04/17(土) 00:55:39.03 ID:GBuLCITl0
俺は信じて待ってるゾ、再び戻ってきてくれることを
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/22(木) 13:41:13.38 ID:qDpa4piLO
ダメみたいね…
未完になるのは悲しいなぁ
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/12/20(月) 00:06:54.68 ID:gzooSF6WO
a
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/03/02(水) 23:50:30.17 ID:YVLfzzKtO
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