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【艦これ】提督「風病」 2【SS】
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1 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:00:34.74 ID:Yh/EkjdW0
バグで続きを投下できそうにないので新スレを立てました。
こちらは風病の続きとなっております。
・前スレ
【艦これ】提督「風病」【SS】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423330282/
・twitter
https://mobile.twitter.com/hl_zikaki
新スレでもよろしくお願いします。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1501948834
2 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:06:07.27 ID:Yh/EkjdW0
第三章
「霹靂」
3 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:08:18.33 ID:Yh/EkjdW0
罪を犯すということは、まっさらなキャンバスに絵を描いてしまうようなものである。
元の、何も描かれていない状態に戻すことはできない。
だが、消せないとしても薄めることは可能である。
例えば時間。時間はすべての万能薬であるという表現はまさに的を射ており、それは罪に対してもあてはまってしまう。場合によっては、思い出にまで昇華されてしまうことだってある。少年時代の悪行は、大人になれば酒を進める題材として扱われるようになるのはよくある話だ。
しかし、時間は遅効性である。緩く穏やかで、人間の良心に期待し依存する。全ての人間に平等に与えられる薬ではあるが、それで許される罪というのは実に軽い。
だから、重い罪に対しては時間に合わせて、もう一つ劇薬が必要となってくる。
それは、その罪に相応の罰を指す。
だから俺は、浜風へ劇薬を与えることに決めた。不本意ではあるが、それが責任のある立場についた人間の果たすべき役割でもあるから。
浜風は薬を受け入れた。不満など一つも漏らすことなく、穏やかに微笑みながら艤装を背負った。
榛名『――撃ち方、やめ! 両者元の位置に戻ってください』
榛名のアナウンスが聞こえる。甲高い砲音が止み、海は静けさを取り戻す。
二本の白波が引き合うように広がっていた。浜風と、対戦相手の深雪、両者の脚部ユニットのスクリューが作り出す人工的な波だ。両者はところどころペイント弾の粘っこい色味を体に浸み込ませて、ペンキを被ったかのごとき有様になっている。
俺は双眼鏡の倍率を上げて、浜風を見た。
一目見た瞬間、疲弊しきっていることが分かった。肩で息をして、航行が若干おぼつかなくなっている。疲労が足にきて震えているからだろう。無理もない。深雪との戦闘で三十一試合目だ。どれだけ屈強に鍛え上げた戦士であろうとも動けなくなってもおかしくはないくらいの対戦数である。
苦し気に歪んだ浜風の表情をみていると、胸が締め付けられる。
頑張れ。心の中でそう叫んでしまう。
だが、声に出すことは許されない。喉から出そうになった声を、下唇を噛んで堪えた。
この試合こそ、浜風に与えた罰なのだから。
4 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:12:02.62 ID:Yh/EkjdW0
五十人組手。艦娘の演習試合において最も難易度の高い荒行の一つである。原則として一対一の決闘の形をとり、一試合の長さは三分であるが、大破判定が出ても続行不可能と判断されるまで試合は続く。その苦しさはまさに地獄と表現されるほどのものである。これに挑戦したものは過去十名ほどしかおらず、その中で達成したものは三名しかいないことからもそれは明らかだ。挑戦したもののほとんどは戦闘における負傷のみならず、脱水症状や肝機能不全などで演習終了後に入渠による治療を受けている。
この荒行はあくまで『挑戦』の一種で、罰として実施するのはこれまでの事例にはない。それも当然、罰と言えば謹慎や体罰などが一般的だからだ。だが、浜風の犯した罪の重さを考えれば、通常の罰では到底贖えるとはいえない。俺はともかく、周囲はその程度では納得しない。浜風の今後の生活のためにも、ここにいる者たちの多くを納得させる形で罰を受けさせる必要があった。
その手段として、この荒行の実施を決めた。
死刑に比べれば軽いかもしれないが、それでも誰も実施したがらないような苦行には変わりない。実際、この罰を実施するにあたって最初は眉を顰めていたものたちも、今では浜風の奮闘ぶりを固唾を呑んで見守っているし、応援するものまで現れている。
この罰の実施自体は成功していると言えるだろう。
ただ、問題は浜風が耐えられるかどうか、だ。
俺は次の対戦相手を目にして、息を飲んだ。
とうとう彼女の出番か。
陽炎。
赤い髪を靡かせる彼女の目つきは獣のように鋭い。浜風が疲弊しきっているからといって、一切の手心を加える気がないのだろう。鈍く光る鋼鉄の義手を揉んで、腰辺りに取り付けられた第一砲塔のハンドルを触っている。隻腕でも引き金を引けるように改造された障がい者用の特殊艤装。ハンドルの動きに合わせ仰角や方向を変えられるようになっており、砲身がすべて浜風へと牙を剥いた。
周囲のざわつきが一層大きくなった。陽炎の気迫が波のように広がり、伝わっている。
榛名『両者、位置について』
榛名の声が、少しだけ震えていた。
榛名『――打ち方はじめ!』
5 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:14:08.10 ID:Yh/EkjdW0
陽炎が斉射を放った。轟音に叩きつけられる。頭の先から下腹まで電流のような震えが走り抜け、無意識に息を止めてしまう。息を吐く間もなく連撃が加えられた。
反応が遅れた浜風はなす術なく水柱に包まれた。いや、もはや水の壁というべきだろうか。浜風の姿が視認できない。
陽炎は走った。第二、第三、最大戦速で接近する。陽炎の艤装は並の艦娘のそれよりも性能が高く、トップスピードに至るまでの時間が優に速い。卓越した運動神経と艤装適正をもつ彼女だからこそ扱える「特別製」だ。
かなりの接近を許した段階で、浜風はようやく水柱から出てきた。右舷側に抜ける形で走行する。先ほどの斉射をくらったのか、新しい塗料がこべりついている。組手が始まって四度目の大破判定。普通の演習ならこの時点で終了だが、五十人組手はここで終わらない。
三分間、陽炎の攻撃を堪える必要がある。
浜風は肉薄する陽炎に気づき砲を構えた。ギリギリのタイミングである。砲身を陽炎の眼前につきつけ、引き金を引いた瞬間――。
陽炎の姿が消えた。ふっと、瞬きをする間もなく、霧のように。
上だ。陽炎は、浜風が砲撃を行うその瞬間に跳躍したのだ。空気抵抗も摩擦も慣性も重力も、すべてを忘れたかのような鮮やかすぎる動きだった。遠くから観戦している俺も思わず見失いかけるほどの常識を逸した回避行動。人間に、いや「船」である艦娘に出来る動きではない。
会場が静まり返った。刹那のこと。空気が凍ったその一瞬、陽炎が浜風の真後ろに着地し、浜風の砲弾が水柱を上げた。
二人の姿が、巻き起こった水の中に消えた。
時津風「な、なにが起こったの……?」
時津風の呟きは、この場にいるほとんどの者の感想を代弁していた。
戦いが始まってまだ二十秒も経っていない。
俺たちの認識が追いつかない。
浜風が、水柱を突き破って出てきた。
6 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:15:29.40 ID:Yh/EkjdW0
「……ひっ!」
誰かの押し殺した悲鳴が上がる。浜風の右腕があり得ない方向に捻じ曲がっている。
思わず口を押さえた。
陽炎が、関節技で破壊したのだろう。
歯を噛み締め、浜風は連装砲を構えた。が、水柱を切るような陽炎の鋭い蹴りが浜風の腕を跳ね上げた。軌道をずらされ、砲弾が空へと消える。瞬間、途切れることなく陽炎の反対の足が跳ね上がる。回転蹴りが浜風の眉間を捉えた。
よろめく浜風。装甲の効果で打撃のダメージはほとんどないが、それでも寸瞬間の目くらましには十分である。
着地した陽炎は浜風の腕を掴むと、勢いよく引っ張った。ぐんと伸びきった直後に足をかけ、浜風をうつ伏せに倒すとそのまま脇固めへと移行する。極まった。なんとか抜けようと足掻く浜風だったが、それを許すような陽炎ではない。鷹のように鋭い目つきで、体重をかけた。
ゴムが千切れるような音が聞こえた。
それは錯覚である。距離の関係上、聞こえるはずがない。だが、たしかに俺の耳には聞こえた。それだけ陽炎の関節技が見事に極まっていたということなのだろう。みんなが、小さく呻いた。
見ていられなくて目を閉じた。
これ以上はもう……もう無理だ。
陽炎、すまない。
俺は手を挙げて、無線を繋いだ。
提督「試合を中止しろ」
7 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:16:46.31 ID:Yh/EkjdW0
廊下に乾いた音が響いた。陽炎の平手打ちが俺の頬で爆ぜたのだ。
足から力が抜け、思わず尻餅をついてしまった。目の前が真っ白に染まり、鼓膜が痺れる。
手加減されてはいるが、怒りの乗った一撃だった。重い。鍛えていない人間なら頚椎を痛めただろう。
陽炎「……失礼しました」
陽炎が目を伏せ、謝罪を述べた。
陽炎「不敬を働いてしまいました。罰は、どんなものでも受けます」
提督「いや、いい」
口の中が鉄臭い。口元を拭うと、立ち上がる。若干の立ち眩みを覚えたが、なんとか堪えた。赤く染まった袖を見ないふりして、陽炎の肩に手を置く。
提督「この件は不問にする。……こちらこそ、無理をさせてすまなかった」
先ほどの五十人組手で、手加減をせず徹底的に浜風を攻撃した陽炎だったが、あれは俺の命令を受けてのことであった。
浜風の無断出撃を不問にするためには、ある程度の材料が必要となってくる。五十人組手はそのための一つのカードで、それをさらに強化する手段が陽炎に下した命令だ。
要は演出である。陽炎が浜風と旧知の仲であることは周知されていることだし、その陽炎が浜風相手に容赦のない攻撃を行い、徹底して「罰」を与えれば、周りも納得せざるをえなくなる。後日、浜風の件は不問にすると問題なく宣言できるようになるのだ。表面的な不満や反発が浜風へ向くこともなくなるだろう。
だが、この命令はあまりにも悪趣味なものだ。言い換えるなら、公開拷問に加担しろと言っているようなものだから。陽炎が憤慨するのは当然だ。いくら理屈を述べようと、親友を痛めつけることを感情的な部分で納得できるわけがない。
俺が頭を下げようとすると、陽炎は手で静止した。
8 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:20:27.29 ID:Yh/EkjdW0
陽炎「……もう、こんなことは二度とやりません」
提督「ああ」
陽炎「後は上手くやってください。提督なら、みんなを納得させられると思います」
苦笑いを浮かべそうになった気持ちは、胸中に押し隠す。この事態の遠因は、俺の甘さと俺の「平等主義」にあるのだ。
まったく、皮肉な話である。
陽炎は、俺の手を振り払うように距離を取ると、窓辺に寄り掛かって海を見た。一雨くるのだろうか。重たく覆うような雲に仄暗い黒さが沈んでいる。アメジストの瞳が、切なげに揺れる波を受け止めていた。
ぬるい潮風が、カーテンと俺たちを揺らす。
陽炎「浜風のこと、大切にしてあげてくださいね」
提督「約束するよ」
陽炎「本当ですよ? あの子は、ああ見ても繊細なんですから」
たしかに、繊細かもしれない。
ほとんど表情の起伏がなく、普段は凍るように冷静でニヒルだが、彼女の内面は誰よりも複雑で、しかし純粋だと思う。
意味のない命令違反も、病室で取り乱したときのことも……あの、温もりを知ったときの涙も。
浜風という少女の脆さが形となったものだ。
ここにいるみんなと、変わらない。だからこそ、大切にしなければならない。守らなければならない。
提督「浜風は、俺が守るよ」
陽炎「……」
陽炎が、小さく笑った気がした。
陽炎「なら、安心ですね。ここにいるみんなと同じように、守ってあげてください」
頷くと、陽炎は踵を返して歩き出した。
9 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:23:03.38 ID:Yh/EkjdW0
陽炎「それでは、私はそろそろ仕事に戻りますね。先日の遠征結果のレポート、上げないといけませんし」
提督「そうだったな。明日までには提出してくれよ」
陽炎「ええ、ええ。分かってますとも。……それより、後ろに大きな猫が隠れていますから、気をつけてください提督」
提督「え?」
……猫?
瞬きをしているうちに、陽炎は廊下の角を曲がってしまった。
俺は首を捻りながら、振り返る。
浜風「……猫ですか、私は」
廊下の角から、浜風がひょっこりと顔を出していた。猫と言われたのが少々不満だったのか、小さく頬を膨らませている。
提督「聞いていたのか」
浜風「ええ。本館についたのはついさっきなので、少ししか聞いていませんが…….」
浜風は珍しく言葉を詰まらせて、こちらを伺うようにしている。
浜風「その……本当、ですか?」
提督「……なにが?」
浜風「私を守る、というのは……」
遠慮がちに、上目遣いで、言葉尻を弱らせながら訊いてきた。頬に朱が差しているように見えるのは、廊下を照らす光のせいではない。
なんとなく決まりが悪くて頬をかいた。
提督「それは……その、そうだな」
浜風「……」
提督「それより、浜風。身体は大丈夫なのか? さっきまで入渠して戻ってきたばかりだろ」
浜風「体調は大丈夫ですよ。……話を逸らさないで」
ダメか。
提督「……えっと」
浜風「……」
提督「……本当だよ。なにがあっても、その……俺は浜風の味方だから」
顔を伏せてしまったのは仕方がないと思う。
恥ずかしいなんてものじゃない。浜風の顔を見ることなんて、とてもじゃないができない。
10 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:26:02.99 ID:Yh/EkjdW0
浜風「そうですか」
浜風の声は少しだけ弾んでいた。
浜風「ふふ、提督が守ってくれるなら、とても頼もしいですね」
提督「……そんなことないよ」
そんなことあるわけない。
俺は頼もしさなんてものとは無縁の人間だ。
浜風「そんなこと、あります。あなたは、私に温もりをくれた人だから」
それは、ただの錯覚にすぎない。盲目になっているだけ。
そう思いながらも言えなかったのは、彼女が向けてくれる信頼に水を差すのが躊躇われたためである。怖かったのだ。昔から、俺はそうだ。期待を失うことに堪えられない。堪えられないのだ。
浜風「あの提督……。お願いが、あります」
提督「なんだ?」
浜風「もう一度、手を握ってください」
まるでお菓子をねだる臆病な子供のように。甘く、それでいて遠慮を感じさせる声で、そう言った。
顔をゆっくりと上げる。薄い朱色に頬を染めた浜風は、まるで瑞々しい果実のようであった。かつての死んだように冷たい少女の面影はそこにはない。
静かに差し出された手を見る。淡い電灯の光を吸い込んだしなやかな手は、美しいの一言につきた。
俺が躊躇っていると、浜風の眉が少しずつハの字を書き始めた。
ええい、仕方がない。
俺は浜風の手を取った。雪のように冷たい手であった。それが重ねられ、冷たさに挟まれる。だが、愛おしさを感じさせる手つきだった。
浜風「えへへ……」
浜風の頬が綻び、解れた。
浜風「温かいです、とても」
提督「……」
浜風「温かい……」
じっくりと味わうように撫でられる。さすがに気恥ずかしくてたまらない。
だが、浜風の笑顔を見ていると、離せなくなってしまう。
死の病が取り払われた美しい笑顔を、少しでも翳らせたくないから。
11 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:27:50.44 ID:Yh/EkjdW0
雷「司令官」
凍てつくように冷たい声がした。感情が欠片もない、抑揚というものを限りなく抹殺した声である。背筋を走り抜けた悪寒に、思わず肩が震えた。
浜風の後ろに、雷が立っていた。
提督「い、雷……」
廊下が暗くなったのは、雲がさらに深まったからではない。目に光がない雷の異様さに空気が支配されたためだ。
浜風の手を振り払ってしまう。遠ざかった温もりを惜しむ小さな呟きが余韻を漂わせた。
雷「……執務室にいないと思ったら、こんなところで油売っていたんだ。仕事、まだ終わってないでしょ?」
提督「あ、ああ……」
雷「さっさと戻るわよ」
雷は有無を言わさず俺の手を取ると、信じられないほどの力で俺を引っ張った。ぐん、と身体ごと持って行かれる。
提督「い、雷……。痛い、もう少しゆっくり……」
雷は答えず、ずんずんと進む。
背後から感じる鋭い気配は、苛立ちの具現化というべきもので。彼女はこうなると俺の言うことなどまったく聞きはしない。
諦めて大人しく従うしかない。
俺は浜風の方を見た。
浜風「……」
青い瞳が、じっとこちらに向けられている。
先ほどとは違って、感情の篭っていない瞳だった。
彼女が何かを呟いた。
何を言っているかは、分からなかった。
12 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/08/06(日) 01:29:16.36 ID:Yh/EkjdW0
投下終了です
13 :
全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる
[sage saga]:2017/08/06(日) 07:10:12.27 ID:nxoMlVsA0
須賀京太郎×浜風の薄い本出ろ
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/06(日) 15:39:32.08 ID:wdKikOuG0
いいですね。浜風はやっぱりこうでなくちゃって感じの可愛さになってきました。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 00:49:57.14 ID:s9p/pcqhO
拠り所が見付かってよかったなあ
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 06:58:43.26 ID:OcsXLuTa0
乙でした。
拠り所は、雷も同じなんだよな。共存は・・・できませんよねww
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/09(水) 16:08:42.75 ID:wOnqlWEKO
雷の提督への執心が描写される度に冒頭で出てきていないことの不穏さが煽られる
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 22:28:57.07 ID:/EfBPuYfO
乙です。 ゾクゾクするんじゃあ〜
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 00:03:49.94 ID:lkW8F3iK0
かなーしーみのー
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/26(土) 23:17:35.44 ID:Hlt7PJs+0
やっぱりヤンデレは最高だぜ!
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/31(木) 20:30:10.36 ID:chLC6Y280
あ
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/01(金) 00:29:53.26 ID:2hcyqsbk0
い
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/01(金) 08:45:10.33 ID:2hcyqsbk0
う
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/03(日) 22:54:49.85 ID:noluQSef0
え
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/05(火) 19:24:39.09 ID:rrU576TC0
やっと追いついた
本当に引き込まれる文章だね、楽しみにしてます
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/05(火) 19:43:24.29 ID:UKfE4wxco
>>21-25
sageろks
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/16(土) 14:24:08.79 ID:GDYL9kQ30
次は雷の過去についてですかね?
ゆっくり待ってます。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 18:01:18.20 ID:1dVCHsmr0
にょむん
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/27(水) 23:19:07.11 ID:ExVLEaBn0
まだぁ?
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/16(月) 21:17:38.04 ID:tNN/w3FO0
むふぁさ
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/24(火) 02:28:43.43 ID:+ykNWrkFo
楽しみに待ってるよ
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/24(火) 08:31:15.46 ID:0oAW65HxO
全裸で待ってます
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 22:50:48.28 ID:vSAq6mfX0
久々に覗きに来たけど、更新なしかぁ。
そろそろ続き来てくれないかな。
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 23:19:32.33 ID:1eChFKvbo
まあ待ちましょーよ
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:26:38.93 ID:/D93QT2M0
浜風
36 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/11/28(火) 13:35:29.60 ID:qYOO9WP20
>>1
です。お久しぶりです。
いろいろ忙しくて書けませんでしたが、これから少しずつ書いていきます。お待たせして申し訳ありませんでした。
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/28(火) 14:29:23.04 ID:6qaS3efqO
いいぞ!
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 23:58:55.04 ID:rKzMhph50
続き楽しみにしてますよ!
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 01:27:17.06 ID:oHFzzczH0
全裸でのんびり待機してます
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 23:28:28.61 ID:SSbz/Qai0
マッチョった
41 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:06:48.41 ID:eg0K5nIp0
■
帝国歴二十九年、七月。
雨しかない七月だった。
晴れた日のことを思い出せないのは、雨の日以外のことをロクに覚えていないせいだ。とくに雨が多い月だったわけでもなかったし、蝉がたくさん鳴いていたのは記憶の片隅に残っている。普通と変わらぬ夏だったはず。
だけど、その夏はあまりにも私の最愛の人たちが死にすぎた。そして、ことごとくその日が雨だったから、雨が頭の中に黴のようにこべりついて離れない。
雨、雨、雨。濡れて垂れ下がる髪、頬を伝い首筋を流れる冷たさ、肌に張り付く濡れたシャツ。雨の嫌な記憶、そして感触や匂い。すべてが私を脅かす。
第六駆逐隊のみんなを最後に迎えたのは、全部そんな嫌な思いに襲われるときの、暗く澱んだ港でだった。
電を出迎えたときも暁を出迎えたときも、響を出迎えたときも。
雨が煩かった。
42 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:07:59.99 ID:eg0K5nIp0
三人とも、リランカ島沖での対潜訓練に参加していた。秋の大規模作戦に向けて鎮守府全体の練度を上げるために行われた訓練だったと思う。第六駆逐隊は、その筆頭訓練候補に選ばれたのだ。
最初、それを聞いたときは三人とも嬉しそうにしていた。提督から期待をかけていただいていることが、光栄だったから。あの奥手な電も、鼻の穴を広くして興奮していたほどだ。舞い上がった私たちは、絶対にこの訓練で強くなって大規模作戦に参加する艦隊に選ばれようと誓い合った。
そのときの気持ちは、忘れられない。小さいからと小馬鹿にされ続け、それでも毎日頑張ってきた成果が花開こうとしていたのだ。それがどれだけ私たちの誇りを呼び起こしたか。どれだけ私たちの心が熱くなったか。
だが、その喜びは線香花火のように一瞬で消えた。
誰一人。誰一人も、無事に帰ってきてはくれなかった。私以外の三人はそれぞれ個別に出撃し、それぞれが無残に戦死した。
まず最初に犠牲となったのは電だった。
彼女は、艤装の不具合で航行不能となったときに、戦艦タ級の主砲の直撃を受けた。一瞬で、電はバラバラになってしまった。随伴艦が助ける暇なんてなく。
帰ってきたのは、辛うじて残った「腕」だった。
その「腕」を、三人で出迎えた。雨が降っていたのに、誰も傘をさしていなかった。ずぶ濡れになりながら呆然と「腕」を見つめていた。暁が膝から崩れ落ちて、「腕」にしがみついた。
43 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:08:58.62 ID:eg0K5nIp0
暁「電……電? 嘘よね? いくらあんたでも、こんなに小さくないわよ。ね、電。本当は、どこかに隠れているんでしょ?」
暁の言葉には、誰も答えなかった。答えられるはずがなかった。
「腕」を持ち帰ってきた出撃部隊のみんなに、暁は「電はどこ? 電を出して?」と語りかけていた。みんな、俯いて口を噤んだ。誰も何も言わなかったが、暁はそれでも縋り付いていた。
響「暁……」
響が、暁の肩に手を置いて首を横に振る。暁はその手を払い、出撃部隊旗艦の長門さんに掴み掛かった。
暁「嘘よ! こんなのが、こんなのが電なわけないでしょ! あんたたち、嘘をついているんでしょ? いいから電を出しなさいよ!」
長門「……もう出している」
長門さんが、唇に鉛でも吊り下げているかのように、重たく、苦しげに言った。
長門「その腕が、電だ。我々が回収できたのはそれだけだった」
暁「うるさい! 嘘をつくなって言っているでしょ! いいから早く電を出せ!」
長門「……もう、出しているんだ」
暁「いい加減に――」
長門「電は戦死した!」
長門さんの叫びが雨の音をかき消した。出撃部隊のみんなも、暁も、目を見開く。
44 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:10:21.88 ID:eg0K5nIp0
長門さんは唇を戦慄かせ、声を震わせた。
長門「いいか、暁。電は死んだ。戦士として立派な最後だった」
握りしめた手から血が溢れ、雨に濡れた地面に溶ける。ただ、それを見詰めることしかできない。
長門「我々のせいだ。我々が、もっとちゃんと守っていれば……もっと早く助けに行けていたら……。こんなことにはならなかった。すべては、この艦隊の部隊長を務めた私の責任だ」
長門さんはそう言って、深々と頭を下げた。濡れた髪が重たげに垂れ下がる。
残酷な事実を突きつけられた暁は、よろめき、尻餅をついた。首を何度も横に振り、長門さんの揺れる瞳を見て、最後に「腕」に目を移すと号泣した。
割れんばかりの慟哭が、沈黙の港を引き裂いた。
響も唇を噛み締めて泣き、長門さんも目から涙を止めどなく流していた。出撃部隊のみんなも、すすり泣いていた。
私は、ただ呆然とその光景を見ていた。涙が流れたかどうかなんて、覚えていない。妹のように可愛がっていた親友が死んだ事実を、受け止められなかったのだと思う。きっと、暁よりも信じていなかった。
――嘘なのです。
そんな風に笑いながら、電がどこかから出てくるんじゃないか。
けど、現実は残酷で。電は、もう帰ってはこなかった。二度と笑いかけてはくれなかった。
あるのは、痛々しいほどに千切れた「腕」だけ。
司令官がやってきたのは、それから少ししてからだった。
東「……電」
変わり果てた電を見て、司令官は重たい声を絞り出すように呟いた。
長門「提督、すまない……」
東「電の最期は……どうだった?」
長門「立派だった。戦士として、誇り高い最期を迎えた」
東「そうか」
司令官は、泣き崩れる暁の側にしゃがんだ。
45 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:11:39.25 ID:eg0K5nIp0
暁「しれい……かん……」
東「……」
暁「電が……私の妹が……、なんで、なんでなの……? どうしてあの子が死ななくちゃならないの?」
黒く塗りつぶされた目で、暁は尋ねていた。
東「ここは、戦場だ。残酷だが人が死ぬ」
暁「でも……」
東「暁……君は戦士だろう? 戦士なら分かるはずだ。辛いことだとは思うが、君は電の死を受け入れなければならない。受け入れて、進むしかないのだ」
暁「……」
東「それが、残されたものの役目。電は、真の戦士だった。彼女の勇敢さを忘れてはならない。君も……私も……彼女の勇姿を網膜に焼き付けて、戦うんだ」
暁「戦う……」
東「そうだ! 我々は、戦うしかない。戦って、彼女の無念を晴らそう! 掛け替えのない仲間の命を奪った奴らに鉛玉をくれてやれ!」
提督は、暁を強く抱き寄せる。暁の目が大きく見開かれた。雨の音を吹き飛ばす提督の力強い言葉が、暁の、そして私たちの耳朶を震わせた。
東「鎮魂の歌は、連装砲で奏でるのだ! それが戦場の仕来りなのだから!」
暁「……私は」
東「仇を取ろう。私は、絶対に奴らを許さない」
暁は提督の腕に手を置いて、僅かな逡巡を漂わせた後に「腕」を見た。火傷で黒ずんだ指が、暁や私たちへと助けを求めるように伸びている。電の怨嗟が、雨に混じって聞こえた気がした。
暁が頷いた。ゆっくりと、しかし力強く。響も鋭い眼差しを空へと向ける。憎しみの火が、硝煙の香りを伴いながら私たち三人の心に焼き付いた。
東「――」
司令官の言葉は、雨に消されていた。
なんて言ったのかは分からない。
ただ、司令官は三日月のように口元を歪め、笑っていた。
46 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:12:15.11 ID:eg0K5nIp0
投下終了です
47 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/10(日) 19:18:27.15 ID:eg0K5nIp0
提督→司令官ですね……。すいません。つい、癖で提督と書いてしまいます…
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/10(日) 21:23:29.84 ID:lAcGWgp/O
乙
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/11(月) 21:37:52.23 ID:1/MQFVLeO
乙です
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 23:52:53.71 ID:k7OaJJZ60
乙です
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/18(月) 07:49:10.05 ID:x9BjxNeF0
乙乙!
52 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:13:43.84 ID:rVvkDkxp0
■
私は、やり直す。
提督の側で。提督の温もりに抱かれるために。
陽炎「浜風?」
陽炎姉さんの言葉で我に帰る。怪訝そうなアメジストの瞳が私を捉えていた。
いけない、また提督のことを考えていた。彼のことを考え出すとどうしてか止まらなくなってしまう。思考がいつの間にか彼で埋まってしまうのだ。
任務中は、考えないようにしていたのだが。
浜風「すいません」
陽炎「分かっているとは思うけど、任務に集中しなさいよ」
浜風「はい」
注意を受けてしまった。私としたことが。
私は、連装砲のグリップをしっかりと握り直した。辺りを見渡す。海。水平線の向こうが空と溶け合うほどに青い海だ。波を砕く飛沫に洗われながら、私は海上を疾駆している。前方には眼を凝らす時津風と深雪、隣には陽炎姉さんがいる。私が所属する南西鎮守府第一駆逐隊のメンバーだ。
私たちは、重油資源の確保を目的とした遠征任務に就いていた。南西鎮守府は五月に入り東部オリョール海の攻略を終え、鬼門と言われる沖ノ島海域への挑戦権を得ていた。それに備えて重油を蓄えておきたいからだろう。ここ一週間はほとんど重油資源の確保に重点を置いた遠征が行なわれていた。
時津風「どうしたの浜風〜? 浜風がぼーっとするなんて珍しいこともあるもんだね」
時津風が振り返り、言った。
浜風「少し考え事をしていました」
時津風「考え事? なになに?」
浜風「それは……」
提督のことだとは言い辛い。適当に誤魔化そうと言葉を選んでいると、陽炎姉さんから肩を叩かれた。
53 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:14:46.34 ID:rVvkDkxp0
陽炎「私語はほどほどにしなさいよ。時津風も、前を向きなさい」
時津風「はーい」
時津風は少し面白くなさそうに顔を顰めたが、素直に前を向いた。
深雪「たく、二人とも弛んでるぜ。しっかりしてくれよなー」
時津風「むむっ、深雪に言われると腹立つなあ」
深雪「なんでだよっ? あたしは真面目に警戒してんだろ?」
時津風「いつもいい加減じゃん」
深雪「任務のときはちゃんとやるさ。おら、それより集中しな。あたしまで隊長さんに怒鳴られるのはごめんだぜ」
時津風「……ちっ」
時津風の舌打ちに、深雪が何か言いたそうに口を開きかけたが、何も言わずに警戒に戻った。陽炎姉さんを怒らせたら怖いことを骨身に沁みて知っているからだろう。
陽炎「まったく……」
陽炎姉さんは呆れたように息を吐き、腕に巻かれた羅針盤に眼を落とした。
陽炎「そろそろ目的地に到着するわよ! いつも通り妖精たちが回収作業をしている間、私たちは対潜・対空警戒に当たること。もし、敵と会敵するリスクがある場合は作業を中断してすぐに引き上げるわよ! いいわね?」
了解。私たちはそれぞれ声を張り上げて答えた。いつもやっていることだとはいえ、指先一つ分でも命を天秤にかけている以上は力が入る。
だが、私は例外だ。敵に発見された場合、時津風や深雪以上に集中して狙われてしまうが、それでも深海棲艦の攻撃では死ぬことは叶わない。そういう呪われた身体を持っていた。だから、私が声を張り上げたのはただの演技である。
しばらくすると、水平線に島影が見えた。回収地点。
陽炎姉さんが、曳航していたドラム缶の鎖を手繰り寄せ言った。
陽炎「それでは、作戦を開始する。各自警戒を怠るな!」
54 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:15:56.94 ID:rVvkDkxp0
undefined
55 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:16:43.28 ID:rVvkDkxp0
undefined
56 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:18:26.43 ID:rVvkDkxp0
遠征を終えて鎮守府に戻ると、遠征隊のみんなが私たちを出迎えた。帰還の鐘が静寂を揺らしていた。
私たちはドラム缶を携えて港に上がる。みんなが集まって囲ってきた。
「陽炎、お帰り!」
「資源はどう? 回収できたの?」
「敵とは遭遇した?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問は恒例のものである。そんなに毎回大袈裟に聞く必要もないと思うが、ただでさえ娯楽が少ないのが鎮守府という場所だ。出迎えも、艦娘にとって楽しみの一つになるのも無理はない。
陽炎姉さんはドラム缶を豪快に地面に置いて、胸を張った。
陽炎「何事もなく回収できたわよ〜。それもいつもの二倍くらいね!」
感心する声が一斉に上がった。
「二倍! そんなに回収したんだ!」
「すごいね……」
時津風「浜風が考案した遠征ルートが見事に当たったね〜。ほとんど敵と合わなかったよ」
深雪「ああ。いつもより若干遠回りだったけど、びっくりした。あんないいルートがあったんだな」
時津風と深雪の言葉に、視線が一斉に私の方へと向いた。説明をせがまれているようだったので答えることとした。
浜風「以前所属していた鎮守府で私が発見したルートです。あの場所は、地図上には記載がない岩礁地帯と被っていて潜水艦の活動には適さないんですよ。それに、それ以外の艦種も『餌』である魚類の活動が活発ではないからか、避けてくれます。深雪の言うとおり遠回りになってしまうから、提督の皆さんは最初から無視しているようですが」
陽炎「まさに、急がば回れってやつよね。浜風の言う通りドラム缶の量をいつもより増やしていて良かったわ。いつも通りの量だったら、回収しきれなくて油まみれになるところだったろうし。――さすが私の妹」
陽炎姉さんは満足気に笑いながら私の背中を叩いてくる。たぶん、手を抜いてはいてもそれなりに力が入っているはずだ。後で赤くなるのだろうな。
57 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:19:30.21 ID:rVvkDkxp0
「浜風さん、頭いいなあ……」
「たしかに。浜風さんの物の捉え方や考え方ってかなり鋭いと思う。海域の情報や敵の生態にも専門家が顔負けするくらいに詳しい。悔しいけど、頭の出来が違うわ」
「本当に本配属されてから二年目なの?」
浜風「ありがとうございます。とても、嬉しいです。皆さんの役に立てていれば良いのですが……」
陽炎「役に立つもなにも。浜風の考えたことで、みんな本当に助けられてるんだから。胸を張りなさい」
浜風「姉さん……」
陽炎「真面目なあんたのことだから、負い目があったんでしょうけどね。あんたはきちんと罰を受けた。そして、自分の能力を生かして迷惑をかけた皆にお返しもしている。やってしまったことは消せないけど、あんたが誠意を持って償っていることは皆見ているわ。ね、そうでしょ?」
陽炎姉さんが周りに同意を求めると、みんなそれぞれに顔を見合わせて頷いてくれた。もちろん、この人だかりにいない人間もいるから全員ではないが……それでも多くの人間が、私を許そうと、歩み寄ろうとしてくれているのを実感できる。
浜風「……ありがとうございます」
私は、瞳を潤ませてみせた。
浜風「姉さん、皆さん……。これからも、頑張ります……」
58 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:20:26.63 ID:rVvkDkxp0
陽炎「な、泣かなくてもいいでしょ。ちょっと……」
時津風「陽炎慌ててる〜」
陽炎「あ、慌ててないわよ!」
深雪「どう見ても慌ててるんだよなあ」
陽炎「う、うるさい! ほら、浜風……。ハンカチで涙拭いて」
浜風「……」
私はハンカチを受け取り、目元を拭う。
本当、お人好しな姉だ。騙されているとも知らずに手を差し伸べてくるなんて。
私に向けられている優し気な目線の数々にも失笑をこぼしたくなる。なんて、単純な人たちなんだろう。反省の色を示し二三回涙を見せただけで、もう許す気になって心まで開こうとしている。
この鎮守府には、私と同じように他所の鎮守府で「辛い境遇」を経験して流れ着いてきた者たちが多いとはいえ……。はぐれ者に対してある程度寛容なのは分かるが、それにしても生温いのではないか。
しかし、呆れる一方で都合がいいとも感じる。優しさや寛容さほど、利用しやすいものはない。
時津風「げっ」
時津風が一歩引きながら小さく呟いた。苦手な野菜を前にしたときの子供のような反応である。視線の先を追いかけると、その理由が分かった。
雷さんがこちらに来たからだ。
59 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:21:42.12 ID:rVvkDkxp0
雷「お疲れ様、陽炎ちゃん」
陽炎「お疲れ様」
陽炎姉さんが雷さんを不思議そうに眺めていた。提督がいないからだろう。
雷「司令官はいないわよ。忙しくて手が離せない状況だったから、私が代わりに成果の確認に来たの」
陽炎「ああ、それで……。やっぱ、沖ノ島海域攻略ともなると忙しくなるわよねえ」
雷「鬼門だからね」
苦笑いしながら答えると、雷さんは手に持っていたファイルを広げた。
雷「それじゃ、確認するわよ。今回の鼠輸送任務で獲得した重油は」
言いかけて、固まる。私たちが持ち帰ったドラム缶の量を目にしたからだろう。
雷「えっと……。もしかして、このドラム缶全部持って行っていたの?」
陽炎「そうよ」
雷「ずいぶん無茶なことするわね。それで、どれだけ獲得できた?」
陽炎「これ全部」
60 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:22:36.67 ID:rVvkDkxp0
陽炎姉さんが、ドラム缶に肘をついて得意げに言うと、雷さんは目を白黒させた。
雷「えっ!? 通常の倍くらい量があるのに? う、嘘でしょ」
陽炎「本当だってば。よかったら確認してみてよ」
雷さんは陽炎姉さんの言葉に従い、ドラム缶一つ一つを検分し始めた。彼女のポケットには妖精たちが潜んでいたようで、ドラム缶の上に躍り出ると注入口を開く。匂いを嗅いだり、微量の重油を取り出して検査薬で品質を確かめたり、忙しなく働いていた。
やがて検査が終わると、妖精たちは雷さんの肩に止まり、耳打ちをして結果を伝えた。
雷「……全部、基準値をクリアーしているね。本当なんだ」
陽炎「まあ、信じられないのも無理ないわよね……」
雷「間違いなく、今までの鼠輸送で一番の成果よ。これは司令官、大喜びすると思う」
陽炎「そっか〜! だってよ、浜風。よかったじゃない」
陽炎姉さんがニヤニヤと笑いながら言ってくる。
浜風「はい。そうですね」
陽炎「なんか物足りない反応ね。もっと喜んでいいのよ、もっと」
浜風「一応、喜んでいるつもりですが……」
61 :
◆jc3o0gJHYo
[sage saga]:2017/12/31(日) 12:23:46.23 ID:rVvkDkxp0
雷「えっと、陽炎ちゃんどういうこと? なんで浜風さんが……」
困惑を表情に貼り付けて雷さんが訊ねてくる。
陽炎「あれ、雷ちゃん知らない? 今回の遠征は浜風がルートを組んだのよ。この大成功もそのおかげってわけ。……司令にも話し通していたから、聞いていたかと思ってたけど」
雷「一応、第一駆逐隊が遠征ルートの変更を上申してきたとは聞いていたけど……。浜風さんが考えた案だったのね。てっきり、陽炎ちゃんが考えたのかと思ってたわ」
陽炎「ちゃんと浜風が考えた案で行くとは言ってたんだけどね。提督が伝え忘れたのかも」
雷「そ、それで、どんなルートだったの? 私、そこまでは聞いてないから……」
陽炎姉さんが説明をする。黙って説明を聞いていた雷さんは、目から鱗とでも言うように驚いた表情を浮かべたが、だんだん苦々しい表情になっていった。私の提案の優位性を素直に認めたくないのだろう。
雷「……ふうん。そんなルートがあるんだ」
雷さんは唇を尖らせながら言った。
雷「すごいじゃない、浜風さん。命令違反ばかりする勝手な人だと思っていたけど、それだけじゃないんだね」
浜風「ええ、どうも」
雷「ちょっと見直しちゃったわ。この調子で、司令官のために頑張ってね」
浜風「……」
貴女に言われるまでもない。
私は提督のためになるのなら、なんでもやるつもりだ。そう、なんでも。
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