勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:21:11.42 ID:/yKl3BVY0
〜旧決闘場〜

嫉妬「よく来てくれた」

怠惰「足枷を持ちながらの移動はしんどいですわ。これだけは肌身離さず持ち歩けと嫉妬様から言われてるから仕方ないですけど」

嫉妬「君のそばにあるのが一番安全だからな」

怠惰「このまま故郷を離れてたら故郷の囚人がやる気を取り戻してしまいそうです」

嫉妬「そうだな。全員に脱走されてしまうかもしれん。先日、あの男にも逃げられたそうじゃないか」

怠惰「……っ!!も、申し訳ございません!!」

嫉妬「俺は気にしていない。逃げ回るしか脳のない雑魚だ。あの男に私怨があるのは君の方だろう」

怠惰「ええ。あいつがのうのうと余生を過ごすことは私が許しません」

嫉妬「ふん、私怨を晴らすのは大罪の装備が見つかってからにしてほしいものだ」

怠惰「はい……。ところで、これを」

怠惰の勇者は報告書を嫉妬に手渡した。

怠惰「怠惰の装備が故郷に与える影響の記録です。いつものように、定刻に看守に記録させたものを集めています」

嫉妬「君自身が書いてある箇所もあるだろう。そこを読むのが愉しみでな」

怠惰「自分の装備の特徴について記して置きたいですから。私の身の回りの世話人、私と会話する道具屋、装備の持ち主である私と直接触れ合うものについての記録も残しています」

怠惰「ただ、申し訳ございませんが、世話人の勘違いか私の記載した今回報告分は破棄してしまったようで……」

嫉妬「そうか。殺したか」

怠惰「クビにしただけです」

嫉妬「相変わらず甘い女だ」

怠惰「ところで、嫉妬様は連日ここで研究者と何をしているのですか」

嫉妬「自動感知呪文の調整をしている」

怠惰「自動感知呪文?」

怠惰は地面に描かれた巨大な魔法陣を見た。


【TIPS】

嫉妬の王国には、二つの決闘場がある。

旧決闘場。新決闘場。

旧来使っていた決闘場が老朽化し、近年になってから新しい決闘場がつくられた。

旧決闘場は現在研究施設として使われている。

嫉妬の勇者が奴隷時代に、実験台にされていたのもこの旧決闘場である。
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:22:32.37 ID:/yKl3BVY0
嫉妬「感知には二種類の方法があるのは知っているな」

怠惰「1つは直接対象を絞り出す感知です。もう1つが、対象以外の要素を全て特定し、全体から差し引く感知です」

嫉妬「そうだ。差し引く感知は時間と魔力こそ膨大にかかるものの、世界規模の広さを範囲の対象にすることを可能にし、感知対策も無効化できる。エルフの里の特定も、魔王城の特定も、この方法によって可能にしてきた」

嫉妬「数多の勇者共の捕縛にもこの方法を使った。暴食の勇者、色欲の勇者を運良く感知にかけることもできた。大罪の装備は手放していた後だったがな」

怠惰「それで大罪の装備も?」

嫉妬「傲慢の盾は感知にひっかけることができた。赤い糸の呪文に気付く前は散々錯乱させられたがな。今は特集な物質であればたいてい感知することができる」

嫉妬「だが、封印の壺だけは別だ。あれは感情を物に閉じ込める研究によって造られた。直接にせよ間接にせよ感知をしようにも、ただの特徴のない壺に過ぎないのだ。世界中の壺と同じ扱いのため対象を絞りきれない」

嫉妬「だが、大罪の装備を抑え続けるには限界がある。壺が割れた時には、自動感知呪文が暴食の鎧と色欲の鞭を感知する」

怠惰「あの……その魔法陣の感知呪文を使えば、あの勇者も……」

嫉妬「ふはは。それは無理だ」

怠惰「感知の力を割くのさえもったいないと?」

嫉妬「ただの特徴のない壺と一緒だ。航海士だったか、無職だったか忘れたが、あの程度の男はあまりにも多すぎる」

怠惰「そうですか……」

嫉妬「もっといい方法がある。あの遊び人を日時指定で処刑すると脅せばよい」

怠惰「お姫様からも言われました」

嫉妬「不満か?」

怠惰「勝てない戦いに挑むような奴ではありませんよ」

嫉妬「利口ではないか」

怠惰「勝つための脳がないだけです」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:24:07.76 ID:/yKl3BVY0
怠惰「今日私をここにお呼びた理由は何でしょう。大罪の装備の発見は、封印の壺が割れるまでの時間の問題に思えます。何もせず待っていれば自然と……」

嫉妬「怠惰の勇者らしい発想だ」

怠惰「申し訳ありません」

嫉妬「君の言う通りだ。だが、俺のやることはただ寿命を延ばすことだけではないのだ」

嫉妬「この旧決闘場は、研究施設の他にもう一つの顔がある。地下室にもう一つの”檻”としての役割がな」

怠惰「檻ですか。私の故郷と同じですか」

嫉妬「こちらに閉じ込めているものは人間の貴族などではない。そこでだ、怠惰の装備が与える影響を見せてくれ」

怠惰「はぁ、囚人ですか……。怠惰の足枷を使うまでもない対象だと思いますが」

嫉妬「そうかな」

怠惰「もしや、ドラゴンやゴーレムのような魔物でしょうか。あ。あるいは、勇者の生き残り……」

嫉妬「どちらかといえば、勇者に近いかもしれん」

地下の奥にたどり着いた嫉妬は、檻の中の”ソレ”を怠惰に見せた。

怠惰の表情は、凍りついた。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:24:50.83 ID:/yKl3BVY0
遊び人が嫉妬の王国に囚われてから、時は過ぎ。

三ヶ月以上が経った。

その間に、嫉妬の王国は以前にも増して勢力を伸ばし。

怠惰の監獄には多くの罪なき人々が収監され。

魔王が君臨していた頃、いや、その時以上にも増して。

世界は不機嫌な表情を見せるようになっていた。

ただ1人を除いて。

研究者「国王。緊急のご報告です。自動感知に波形の乱れが現れました。封印の壺の耐久が間もなく尽きる前兆です」

嫉妬「ほほう、ようやくか」

嫉妬「いよいよ、俺の欲望を永遠に満たし続ける世界が訪れる」






「にへへへ!!そこの旅人のお姉さん!!どうですかこの僕のバニー姿!ようこそこの……」

旅人「ギャー!!!」

いや、ただもう1人を除いて。
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:26:05.12 ID:/yKl3BVY0
〜祭り 当日〜

お姫様「はぁー、退屈。嫉妬様は怠惰の女の故郷に行っちゃうし。お祭りの祝日で相手してくれる研究者もいないし。まぁそれは計画が順調に進んでるってことなんだろうけど」

お姫様「ねえ、あんた。独りぼっちって虚しくない?」

遊び人「…………」

お姫様「怠惰の監獄でもないのに死んだみたいな表情してるんじゃないわよ」

お姫様「ねえ、あんた、嫉妬ってしたことある?」

お姫様「私はあるわよ。金が無限にあるような地位に生まれて、音楽の才能も、術士としての才能にも恵まれて生まれてきたこの私でさえね」

お姫様「母親の愛情に恵まれている女を見ると、殺してやりたくなった」

お姫様「一番求めたいものを得られないから心に闇が生まれるの」

お姫様「持っている本人を見るなら憎悪。受け取っている他人を見るなら嫉妬。私は母を憎悪し、母親の愛情を受け取っている小娘に嫉妬した」

お姫様「もういいんだけどね。私には嫉妬様がいるから。それに、お父さんはちゃんと私のこと愛してくれてたっぽいし」

遊び人「…………」

お姫様「男に愛されないのが一番可哀想なことよ。本当に惨めな女。自分のせいで親がイカれた研究を続けて、里が滅んで、遊び人になってやっと出会った男にまで見捨てられた」

お姫様「嫉妬様はあんたを何かの材料として手元に残しておきたいみたい。もう人間としての余生じゃないわね」

遊び人「……見捨てても許してあげる。とかさ」

お姫様「は?」

遊び人「自由に生きて、っていうのはやさしさなんだろうけど。それは、以前の私なら平気で言ってた言葉なんだろうけど」

遊び人「勇者はきっと助けに来てくれる。そう信じてる。だから、見捨てたら許さないんだ」

お姫様「……羨ましい頭ね」
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:26:37.38 ID:/yKl3BVY0
夜になった。

お祭りが始まり、王国中は賑わいに包まれた。

奴隷は自由こそないものの、主人が家を留守にするため、一時的に労働から解放された。

色とりどりの呪文が夜空に打ち上げられ、鮮やかに城下町を照らした。



“魔王消滅の日”



世界中でそう噂されたのがこの日である。

嫉妬の王国だけでなく、世界中が今日という日を祝っている。

遊び人「そんな日に、嫉妬の勇者は怠惰の監獄に何をしに行ってるんだろうか」

遊び人「そんな日に、私はこんな場所でどうして閉じ込められているんだろうか」

遊び人「はぁー、勇者のお金使ってカジノに行って、大負けしてやりたいなぁ……」
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:27:39.45 ID:/yKl3BVY0
〜怠惰の監獄〜

高速移動型の鳥型の魔物が、手紙を運んできた。

怠惰「嫉妬の勇者様の文章だわ」

“怠惰の装備を奪い取った、勇者の徒党について記した後、この魔物を送り返せ”

怠惰「なによそれ」

怠惰は窓を開けて外を見る。

いつも通りの、ひとけの全く感じさせない虚しい故郷の夜だった。

怠惰「この魔物に遅れて、嫉妬の勇者様が今こっちに向かっているということよね」

怠惰「こんな記念すべき日に!!冗談じゃ済まされないわ!!」

怠惰「”魔王を討伐したのは嫉妬様なんだもの”」

怠惰の勇者は一言書き添え、手紙を魔物にくくりつけて送り返した。

“情報は嘘です。貴方が不在の嫉妬の王国に、侵入しようとしている者がいるはずです”

怠惰「嫉妬様への報告書が、世話人の勘違いで捨てたものだと思っていたけど……それがもし誰かに盗まれたものだとしたら。私の字体を模倣して、嫉妬様に手紙を送ったに違いない」

怠惰「私と嫉妬様の関係を知っていて、私の住処を知っていて」

怠惰「嫉妬様に敵対しているもので、私を知っている者。私の字体を判別した者」






怠惰「あいつ!!!!」
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:28:24.56 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国 出入り口〜

怠惰「はぁ…はぁ…やっとたどり着いたわ」

怠惰は王国内に入ろうとした。

案内人G「待ちたまえ!!!!俺が案内してやろう!!!」

怠惰「急いでいるのよ。もうここの国のことは知ってるわ」

案内人G「今夜まつりが行われてることもか?」

怠惰「全部知ってるわ。邪魔よ」

案内人G「…………」

案内人G「確認案内料20,000Gになりまーす!!!」

怠惰「はぁ?」

案内人G「確認案内料、いただきまーす!!!貰うまで通せませーん!!!!お祭り見れませーん!!!!」

怠惰「ふざけるんじゃないわよ……」スタスタ…

案内人G「盗っ人だぁああ!!!情報の盗っ人が現れたぁああああああ!!!誰かお金を取り返してくれぇえええ!!!」

ザワザワ…

怠惰G「な、なによ!!こんなことで時間取ってる場合じゃないのよ!!」

怠惰G「は、払うわよ!!」

チャリン

怠惰は20,000Gを手渡した。

案内人G「うっほほー!!毎度ありー!!」

怠惰「後で覚えておきなさい……」

怠惰は怒りを抑えながら、王国内へ駆けて行った。

案内人G「はっはー!!愉快愉快!!」

案内人G「ようこそ!!強欲の都へ!!!」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:28:58.78 ID:/yKl3BVY0
怠惰「な、なによこれ!!!!?」

怠惰は王国の中の情景を見て驚いた。

酒場主人「今夜は酒乱じゃなく、淫乱じゃああ!!!!!///」

バニーガール「いらっしゃいー!!お姉さんこれからいい店来ない?」

半裸の姿の男女が、まつりの熱に浮かれながら痴態を曝け出していた。

案内人S「お姉さん、お店をお探しですか」

怠惰「どうなってるのよ!!王国の中にこんな乱れた一画が出来てたなんて……」

案内人S「好きな男性のタイプはございますか。筋肉質、知的、肥え気味。お好みの職業もあればあわせて……」

怠惰「私が探しているのは普通の男よ!頼りない感じで、体格は貧弱な……」

案内人S「こんな感じでしょうか」ボロン

案内人Sはマントを脱いだ!

案内人Sがあらわれた!!

怠惰「っ!?」

怠惰は案内人Sを蹴り飛ばした。

案内人S「いひひひ!?!!いだいぃいいい!!!///」

怠惰「訳がわからないわ……」

怠惰の勇者は再び駆け出した。

案内人S「……色欲の谷へようこそ///」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:29:33.42 ID:/yKl3BVY0
怠惰「慌ててたから、来る場所を間違えたのかしら。でも街並みは記憶のままだし……」

怠惰「あの、ちょっと聞いてもいいかしら」

案内人B「…………」ムシャムシャ

怠惰「ここの国の名前を教えて貰える?」

案内人B「……この肉は、ラム肉……」ムシャムシャ…

怠惰「違うの。肉じゃないの。国。ニクじゃく、クニ」

案内人B「このラム肉は……」

怠惰「だから、肉じゃなくて……」

案内人B「このクニの……」

怠惰「うん!」

案内人B「このクニのラム肉は美味……」

怠惰は案内人Bを蹴り飛ばした。

案内人B「うぼろろろ……」

怠惰「どいつもこいつも使えないわね!!」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:30:26.64 ID:/yKl3BVY0
怠惰「何かがおかしいわ。祭りだからって、ここまで雰囲気が……」

案内人P「あらあら、お困りのようで。迷子の子供かい?」

案内人P「何でも知ってるこの俺が、特別に案内して差し上げてもいいが?」

怠惰「……案内人?」

案内人P「見ればわかるだろ?天才的な案内人だって」

怠惰「さっきから話しかけてくるのは案内人ばかり……」

怠惰「この異様な空気が洗脳によるものだとしたら、まだ洗脳にかかっていないものをこいつらが選んで話しかけている……?」

案内人P「何をぶつぶつ言ってるんだ?」

怠惰「教えて欲しいことがあるんです」

案内人P「ぐははは!!よろしい、特別にこたえてやろう!!」

怠惰「ここは、なんていう名前の場所ですか?」

案内人P「…………」

怠惰「あの」

案内人P「頭を地面に擦り付けてから、もう一度尋ねなさい」

怠惰「っ!?」

案内人P「なんか文句でもあるのか?教えてあげなくてもいいんだが」

怠惰「…………っ」ググッ…

怠惰は、腰を降ろし、地面に頭をつけた。

怠惰「……この国の名前はなんですか?」

案内人P「傲慢の街に決まってるだろ。馬鹿か」

怠惰「傲慢の街は遥か遠方にあるはずです、ここは嫉妬の王国のはずです」

案内人P「傲慢の街……嫉妬の王国……」

怠惰「あなたはいつからここで働いているのですか?」

案内人P「俺は……ずっとここで……案内人として……」

怠惰「目を覚ましなさい!!ここは嫉妬の王国よ!!あなた、冒険者の格好をした男に何かを吹き込まれたんじゃないの!?」

案内人P「俺は……この街を……傲慢の街だと旅人に伝え続けてきた……ま、ま、間違いなど許され……」

怠惰「目を覚まして!!」

案内人P:この街は世界で1番凄い街さ!!どのくらいすごいかって?手で表現すると……

怠惰「目が虚ろになった。神官が同じ表情をするのをみたことがある。もう何を話しかけても無駄ね……」

怠惰はあたりを見渡した。

店主「この店の料理は世界で一番うまいんだぜ!!」

客「この俺は、どんなにクソな料理でも世界で一番うまく感じる才能があるんだぜ!!」

怠惰「案内人の性格が、そのまま住人にも感染(うつ)されている……」

怠惰「以前王国を訪れたときも、おかしなやつらが声をかけてきた。そして、そいつらはどれもこの国の住人ではなく、旅の者だった」

怠惰「7つの大罪の地の影響を色濃く与えやすい案内人と、影響を色濃く受けやすい旅人」

怠惰「あいつが、仕込んでいたっていうの……」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:31:30.09 ID:/yKl3BVY0
〜回顧〜

「あのー、すみません。旅の商人をしているものなのですが、ちょっと道を教えていただきたくて」

勇者「それはあの分岐点を右に進んで、それから……」

「わかりました!ありがとうございます!」

怠惰「勇者、何やってたの?」

勇者「道聞かれてさ、教えてた」

剣士「おとといも、その数日前も聞かれてなかったか?」

勇者「あー、確かに言われてみれば」

怠惰「よその国の人からしたら、そんなに賢そうに見えるのかしらねえ?」

勇者「全然納得してない顔」

剣士「冒険者が道を尋ねるのは、ある特徴を持った相手だって聞いたことがある」

勇者「なにそれ。気になる」

剣士「この人なら、助けてくれそうだって思う相手に人は道を尋ねるそうだ」

怠惰「信頼そのものじゃない」

剣士「実際どうしてくれるかはともかくな」

勇者「一言多いなぁ!!……あっ」

怠惰「ん?」

勇者「やべ、教えた道間違えたかも!」

剣士「ほらな」

勇者「ちょっと追いかけるわ!!」

タッタッタ…

怠惰「……なるほど」

怠惰「助ける力があるかじゃなくて、助けようとしてくれるかどうかってことなのね」
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:32:15.32 ID:/yKl3BVY0
TIPS

【案内人の特徴】

・案内人はその村に入ってきた者とファーストコンタクトを取る職業である。

・案内人が告げる街の名前を冒険者は疑うことなく信じる。

・入り口付近に立つ待ち人を冒険者は案内人と判断する。

【勇者の才能】

・よそ者と住民の判別の的中率が高い。

・声をかけられやすい。

・よその国の案内人を洗脳する話術を持つ。
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:33:29.71 ID:/yKl3BVY0
〜旧闘技場前〜

怠惰「凄い人だかりね……」コツン

案内人H「痛ってぇええええええええ!!!!!?」

案内人H「ぶつかってんじゃねえよぉおおおおおおおおおおお!!!?」

怠惰「……はぁ、またか」

案内人H「表出ろやあああああ!!!!」

案内人H「ってここ表じゃねえかぁあああああああああ!!!!!!!!」

怠惰「時間がないの。寿命に命は変えられないわよね」

怠惰は、道具袋から怠惰の足枷を取り出した。

怠惰「宴はおしまい」

案内人H「うらぁああああああ!!!!!!!!!!」

両足に足枷をはめて、怠惰は祈りを込めた。

怠惰「廃人と化せ」

怠惰の足枷が鈍く光った。





旧闘技場の周辺の道に立っていた大勢の人が、重なる様に地面に横たわっていた。

怠惰「うぐっ……さすがにこの人数にかけるのは代償が大きいみたいね……」

怠惰は心臓部分の胸部を抑えながら、死体のように転がっている人の群れの上を歩き出した。
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:34:38.73 ID:/yKl3BVY0
旧闘技場の中に入り、怠惰は地下室の前へと辿り着いた。

一人の女性が座り込んでいた。

案内人T「…………」

怠惰「あなたも邪魔する気?」

案内人T「……喋りかけないでよ。さぼってるところなんだから」

怠惰「……あなた、もしかして、アカデミーで一緒だった」

案内人T「あれ……怠惰ちゃん?」

怠惰「何してるのよ、こんなところで」

案内人T「何って、故郷の案内人よ」

案内人T「故郷のみんなは嫉妬の王国に連れて行かれちゃったけど。故郷で働くことを許された奴隷は、定期的に嫉妬の王国と行き来することになってるの。故郷は気が重くなる瘴気で満ちて働けなくなってしまうから」

案内人T「嫉妬の王国で休養する間は、私達は働かなくてもいいの。はやく交代の日が訪れないかなぁ……」

怠惰「今の故郷はつらい?」

案内人T「そりゃあね。夢も希望もないよ。でも、頑張る気力もないから、希望を打ち砕かれる絶望もない」

怠惰「そう……」

案内人T「そろそろ魔法石に触らなくちゃ、さぼってるのがばれちゃう」

怠惰「あのね、あなたが今いるここは……」

案内人T「なに?」

怠惰「いいえ。何でもないわ。お勤めごくろうさまです」

案内人T「えへへ。働いてないよ」

怠惰「ちょっと教えてくれる?勇者のやつここを通っていかなかった?」

案内人T「さっき通っていったよ。門番もさぼって寝てたからすんなりとね。まだ戻ってきてはないなぁ」

怠惰「わかった、ありがとう。またね」

案内人T「またね〜」
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:35:29.15 ID:/yKl3BVY0
研究所地下内の複雑な経路を抜け、怠惰は探し求めていた相手と対峙した。

その男は、痩せ細った女性を両腕に抱えていた。

「相変わらず凄いね。これだけ事前準備を尽くしたのに、立ちはだかってくるなんて」

怠惰「逃げること以外を覚えたのね。どうしてここにその子がいることが特定できたのかはわからないけれど。あなたの冒険は今度こそ終わりよ」

「いつまでもにげることを許してくれないんだな」

怠惰「あなたを逃げさせないことが、私の死なない甲斐といってもいいほどなんだもの」

「弱者の僕は、そんな風でありたかった。その強さも、賢さも、全てが妬ましかった」

怠惰「一番この王国にふさわしいことを言うじゃない」

「もちろん。今や、この国の案内人なんだから」

勇者「ようこそ。嫉妬の王国へ」

勇者があらわれた!
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:36:25.76 ID:/yKl3BVY0
勇者は遊び人を地面にそっと横たわらせた。

遊び人「……ごめんね。無理やり来させちゃって」

勇者「小指のずっと見えてたし。気づいてたし」

遊び人「ほんとう?」

勇者「こっちだって色々準備整えてたのに、毎日ガンガンに引っ張りやがって」

遊び人「3ヶ月も待ちくたびれたよ。いつから気づいてた?」

勇者「こっちのセリフだよ。いつから巻き付けた?」

遊び人「勇者が寝てる時」

勇者「いつでも寝てたからなぁ、昼過ぎまで」

遊び人「ふふっ、たしかに」

勇者「遊び人」

遊び人「なに?」

勇者「今日は、たたかう」

勇者は剣を抜き取った。

怠惰「……いいじゃない。精霊の加護がなくなった今、本当の死の恐怖を思い知らせてあげるわ!!」
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:37:15.49 ID:/yKl3BVY0
怠惰は声こそ荒げながらも、頭の中は冷静だった。

怠惰の足枷を使用し、剣を交えることもなく戦闘を終えるつもりであった。

怠惰は道具袋に手を伸ばした。

同時に、勇者も道具袋に手を伸ばした。

怠惰は足枷を掴んだ。

勇者は複数の魔法石を掴んだ。

ブオン!!

地下室の灯りが全て消えた。

怠惰「くっ……消灯させたのね。相変わらず正面から戦わない男ね」

怠惰は構わず装備を取り出した。

勇者「それだけじゃない」

地震のような音が頭上から響いてきた。

「おいこのやろおぉおおお!!ゲームのはじまりの合図が鳴ったぞぉおおおお!!」

「勝利条件が表示されたぞぉおお!!」

「一番最初に虹色の卵を見つけたやつは……30万Gだと!!?」

怠惰「足音がする……!自分の位置を把握させないつもりね!!」

怠惰は神経を尖らせた。

左手で剣を構え、右手で装備を地面に落とした。

わずかな動きも捉えようと、暗闇を注意深く見つめた。





ピカン!!!

怠惰「くっ!!?」

眩いばかりの光が勇者の剣先から輝き、怠惰の瞳に映った。
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:37:52.83 ID:/yKl3BVY0
怠惰「ど、洞窟照らしの呪文!!それも、無口詠唱で……」グラ…

勇者は怠惰を地面に投げ倒した。

怠惰の勇者は頭を強く打った。

カランカランという音、ドタドタという音、するりと右手から物が抜ける感触。

混乱する頭でも、大切なものがこの一瞬の間に、憎しみの対象から奪われていることを理解していた。



「おい、真っ暗だぞ!!灯りをつけろ!!」

お祭りのゲームに夢中になっていた住民は叫んだ。

魔法使いが洞窟照らしの呪文を唱えた。

怠惰「ぐふ……」

「お、おい。何寝てるんだ?」

怠惰「この研究施設でゲームだなんて、許されるわけもない。賞金なんて嘘っぱちよ」

「ないってどういうことだよぉおおお!!!?ふざけんじゃねえぉおおおお!!!?」

怠惰「怒りっぽい住民ばかりね。おそらく憤怒の案内人から噂を流されたんでしょうね。当人も騙されてるんだろうけど」

怠惰「虹色の卵なんて……人をどこまで侮辱したら気が済むのかしら」

怠惰は惨めさに打ちひしがれながら、立ち上がろうとした。

しかし、自分の脇にあったはずの足枷が奪われていることに気づき、立ち上がる気力を失った。

怠惰「あんな装備に頼ろうとしたから、負けたんだ。最初から私も明かりをつけていればよかったんだ」

怠惰「ここのところ、戦闘をさぼっていたから、勘が鈍りすぎちゃったみたい」

怠惰「嫉妬様に、殺されちゃうだろうなぁ……」

怠惰「また、逃げられちゃった」
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:38:25.60 ID:/yKl3BVY0
怠惰は、勇者が人混みに紛れ、地上に逃げ込んだものと思い込んでいた。

勇者「おい、どこ行くんだよ!!」

遊び人「……見て欲しいものがあるの。聞いた話を紡ぎ合わせただけで、確証はないんだけど」

遊び人は自分を抱える勇者に指示を出し、地下内の別の場所に移動させていた。

勇者「もしかして、憤怒と傲慢の装備があるのか?」

遊び人「それはここにはないよ。嫉妬の王国に影響を与える装備を、あいつはこの王国に置きたがらないみたい」

勇者「確かに、混乱は生じやすくなるからな。奴隷を統治する国ならなおさら、不安定な要素は置きたくないだろうし。実際俺がやった作戦も、いろんな国の要素をこの国に集めることだったし……」

遊び人「何してたの?」

勇者「あとで説明するよ」

遊び人「わかった。ところでさ、強くなったね」

勇者「えっ、さっきのか。あんなの……」

遊び人「私のこと持ち上げてるじゃん。お姫様抱っこ」

勇者「こっちか。お前が軽くなったんだよ」

遊び人「そうかなぁ」

勇者「そうだよ」

遊び人「お姫様抱っこする人は、どんな人か知ってる?」

勇者「王子様?」

遊び人「残念、勇者様でした。だから、勇者様抱っことも呼ぶの」

勇者「余計なこと喋るとつかれるぞ」

遊び人「余計じゃない人と喋ることに余計なことなんてないよ」

勇者「ど、どうも」

遊び人「あはは。照れてる」
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:39:18.40 ID:/yKl3BVY0
勇者「はぁ…はぁ…、まだか。あんまり寄り道してると、嫉妬の勇者が……」

遊び人「この先だよ。ごめんね、もう自分で歩くから」

遊び人はふらふらの状態であったが、勇者の肩を借りながら歩き出した。

長い廊下だった。

奥に大きな檻と魔法陣、そして巨大な結界と鎖が見えた。

勇者「何だよあれ、何が閉じ込められているんだよ」

遊び人「魔物だよ」

勇者「魔物?」

勇者はコツコツと歩き出した。

遊び人「私を救いに来る者もいないと笑っていたお姫様は、いろんなことを話してくれたわ」

遊び人「魔族には四天王と呼ばれる強大な存在がいた」

遊び人「砂の怪物。それは砂粒の魔力の集まりのような存在で、大きな一体の魔物でありながら無数の魔物の群れでもあった。あらゆる物理攻撃が効かないとされていた。しかし、暴食の鎧を身に付けた暴食の勇者によって食された」

遊び人「夢を司る球体。戦闘者を自分の夢の世界の中に引きずり込むの。そこは球体がかつて訪れていた場所で、夜が開けるまでに幼い頃の球体を見つけ出して破壊しないと夢に飲み込まれるの。色欲の鞭を装備した色欲の勇者によって、安眠を妨害させて撃退した」

遊び人「召喚を司る少女マリア。自分で創造した絵を具現化させたり、対象者のコントロールを得る人形を吐き出すことができる。憤怒の兜を身に付けた憤怒の勇者によって倒された」

遊び人「再生を司る巨壁。膨大な体力を持ち、自身を完全回復させる祈りの呪文を唱えることができる。攻撃の祈りもとても強力で、相手を腐敗させる光を放ち、それには回復の呪文を無効化する禁術級の状態異常が付与されている。強欲の腕輪を身に着けた強欲の勇者によって倒された」

遊び人「そして、側近と呼ばれるもの。精霊殺しの陣の設計者。魔剣の管理も任されていた。罠の呪文を得意とし、いかなるところからの攻撃も反射すると言われていた。怠惰の足枷を使用した怠惰の勇者によって、衰弱死させられた」

遊び人「彼、彼女らは主君を守るために存在していた。特殊なまじないによって、主君自ら手出しをしなければ相手からも気づかれない、村や街のような守護の中に隠れていたの。守護者がいなくなったことで、主君は認知不可の領域から放り出された」

遊び人「彼はかつての世界の支配者。魔族の頂点に立つもの。嫉妬の勇者を精霊ごと一度殺害するも、ストックされていた精霊により復活され、再び戦いを挑まれた。嫉妬の勇者を殺害足らしめた彼独特の呪術は全て攻略化・無効化され、二度目の戦闘では為す術もなく倒された」

遊び人「嫉妬の勇者は、その存在を殺害しなかった。強力な呪力をもつものとして、この奥に閉じ込めた」

勇者「それじゃあ、まさか……」

勇者達は偉大な存在の前に歩み寄った。

漆黒のローブに覆われた、人型の魔物が立っていた。

勇者「こいつが、魔王!」



魔王があらわれた!
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:39:59.96 ID:/yKl3BVY0
幾重にも張り巡らされた結界のせいで、容姿をはっきりと確認することは難しかった。

勇者「魔王は生きていたんだ!!この世から消えてなどいなかった!!」

遊び人「ええ。でも、これを生きているといっていいのか……」

遊び人「魔王の消滅の噂と同時に、瘴気は薄まり、魔物の出現もずっと少なくなったわ。それはもうこの魔王の力が世界に及ばないことを意味しているんだと思う」

勇者「それじゃあ、こいつは何のために閉じ込められているんだよ」

遊び人「……触媒よ」

勇者「触媒?」

遊び人「巨大な魔力を持つものは、特殊な呪文の発動を成功させやすくするの。里にいた頃の幼い私がそうであったように」

勇者「呪文って、どんな……」

勇者はつぶやきながら、大きな空の容器があることに気づいた。

勇者「あの空の容器は、何に使うんだ?」

遊び人「……空じゃないわ」

勇者「でも、何にも入って」

遊び人「私には、精霊が見えるから」

勇者「それって……!」

遊び人「ここで勇者を殺して、宿りついた精霊を保管しているよの」

遊び人「あなたと旅をしてから出会った、勇者達の精霊もそこに……」

崩れそうになった遊び人を、勇者が支えた。



その時だった。

「おーい、そこにいるのは誰だ。魔王様の手下かぁ?」

研究者Aがあらわれた!
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:40:48.83 ID:/yKl3BVY0
勇者「遊び人、下がれ!」

勇者は剣を構えた。

「庶民共がぞろぞろ大事な研究施設に入っていくもんだから驚いちまったよ。門番はサボってるし、住民は血気盛んだし、この王国はどうかしちまったんかね。それとも、全部あんたの仕業か?」

勇者「ぐっ……」

「西方の国に伝わる物語だったか。笛を吹いた少年に町の子供がついていき、ほらあなの中に閉じ込められてしまうお話は」

「よその国の案内人がこの国に何人も紛れ込んでいた。捕らえて状態異常を回復する呪文を何度もかけて、ようやく記憶を取り戻したようだった。ある一人の案内人を名乗る男に話術で洗脳され、ここに連れてこられたって」

「まずは旅人を騙すところから始めたんだろう。嫉妬の王国に他の大罪の性格を持ち込み始めたんだ。そして嫉妬の王国の住民にも次第に影響が伝播し始め、今夜のお祭りの開けたムードによって各国の色が爆発した」

「嫉妬の性格という統一した性格によって秩序が保たれていたこの国だったが。大食らい、変態、自慢屋、怒りん坊、がめついやつ、サボり人が溢れ出したら秩序なんて崩壊する。現に今、脱走や反乱を試みている奴隷への対応で兵士共は必死だ」

「世界のどこにあるかわからぬ物を探すのに必死で、研究者はこの国の異変にろくに目を向けようとはしなかった。庶民と触れるようなことも普段からしないからな」

「本当に見事だ。並大抵の洗脳術じゃない。案内人という職業の特権を、才能を、ここまで活かす者がいるとは思わなかった」

「で、だ」

研究者は懐から魔法石を取り出した。

「戦闘用の術士に危険信号を知らせておいた。間もなくここに来る。彼らにここの存在は秘匿なんだが、まああとで全員分記憶を消せばいいだろう」

「さて、目的を話してくれないか。怠惰の足枷を奪い、魔王の膝下まで来たわけを」

研究者が右手を振りかざした。

勇者が反応するよりも早く、怠惰の足枷が小さな結界の中に封じ込まれた。
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:41:22.13 ID:/yKl3BVY0
勇者「くそっ!」

遊び人「そんな……。ごめん、私がこんなとこに寄ろうって言わなければ……」

勇者「こいつを気絶させて結界を解いて、足枷を使って全員気絶させれば済む話だ」

「ただのガリ勉だと舐められちゃ困るな」

研究者は頭を指でかいた。

勇者「行くぞ」

勇者は地面を蹴った。

研究者は空中に小さな結界を創った。

勢いよく駆け出した勇者のみぞおちにめり込んだ。

勇者「ぐぉっ……」

研究者「空中に固定する結界だ。僕が飲み物をちょっと置きたくなった時なんかに使う」

勇者「うぁああ!!!」

勇者は小さな結界を避け、再び勢いよく駆け出した。

研究者は再び右手をふるった。

勇者「うぁっ!?」

勇者は足を空回りさせ、激しくころんだ。

研究者「時縮化の呪文だ。少し足をはやくしてやった」

勇者「く、くそっ!!」

勇者は怒りの形相を見せた。

勇者「死ね!!」

やけっぱちな言葉を吐き、剣を投げつけた。

研究者「ぶははは!!小悪党のセリフじゃないか!!」

研究者は再び結界を出して、剣を弾こうとした。

その瞬間に、剣先から眩い光が放たれた。

研究者「なっ!?」

研究者の前に出現し始めていた結界は消滅した。

剣を避けるため強引に研究者は身体を反らした。

勇者「うおらぁあああ!!!!」

勇者はすてみでたいあたりした。

研究者のふところに向かって突撃した。
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:42:22.39 ID:/yKl3BVY0
勇者「いっ……」

勇者「痛ぇえええ!!!」

「ごめんごめん、身体のまわりに結界をつくることにしたんだよ。間一髪だ」

研究者は右手を勇者の頭にかざした。

「燃やすことも、突き刺すことも、頭ごと結界に閉じ込めることも何でもできる。大人しく処刑されるのを待つんだな。今すぐ死ぬよりかはいいだろう?そうでもないか?」

勇者は身動きが取れなくなった。

「恋人との冒険ごっこもおしまいだ。さて、奥にいるお嬢さんも大人しく……」

遊び人は、研究者の顔を見つめていた。

「ん、どうした?」

遊び人「……えっと」

「惚れたか?」

遊び人「い、いいえ……」

「違うのかよ。じゃあいいや」

遊び人「あの、お父さん……」

「いやいや。なにそれ、そういう甘え方するから許し方してもらおうってこと?ダメダメ。愛する妻と息子は裏切れないよ」

遊び人「ち、違います!」

遊び人「わ、私の父の知り合いですか?故郷の研究書物の挿絵にあった似顔絵に、見覚えが……」

「…………」

「あ、あんた……」

同僚「あの馬鹿研究者の娘か!?」
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:42:49.73 ID:/yKl3BVY0
同僚「ま、まてまて。えーっと」

同僚「嫉妬の奴隷が脱獄した時に、バカ上司に逆らってあいつは左遷されて」

同僚「大罪の賢者の里を滅ぼすようなことをやらかした。そこの里から生き延びた少女が一人いて」

同僚「その子は最近捕らわれて、この国のどこかに幽閉されていて」

同僚「と思ったら抜け出して、今ここにいる、ってことか」

同僚「まじかよ……。俺もあの嫉妬様脱獄事件が起きてから、結界の開発に関わってたもんだから、あんたの情報なんかろくに入って来なかったんだよ……」

同僚「……困った。これは非常に困った」

遊び人「何が困ったんですか?」

同僚「俺は、あんたの父さんのことが好きだったんだ」

勇者「えっ……」

遊び人「え、えええええ!!?」

同僚「おい男引くなよ。それは勘違いだよ。というかなんで嬢さんは嬉しそうな顔をしてるんだ?」
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:43:42.24 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ち、父と……ぶふぉっ……!わ、わたしの父とどういう関係で?」

同僚「ただの同僚だ。理屈っぽくて、小難しい話をするやつだが、親父さんのために研究を続ける熱心なやつだった」

同僚「俺がこの仕事を辞めようか迷った時も励ましてくれたりしてな。なかなか大変な仕事でな、周りはやめて楽になれなんて気軽に言うんだけど、あいつだけは熱心に引き止めてくれたんだ」

同僚「少し前のことになるが、俺の開発した結界のおかげで1つの町を自然災害から救うことができた。他国を侵略してばかりのこの王国の研究者として働いて、あんなに感謝されることになるとは思わなかったよ。実は、今の妻ともそこで出会ったんだ」

同僚「返そうにも返しきれない恩を受け取ったまま死なれちまったんだ。またあいつと仕事ができたらどんなにいいだろうって今でも思うほどだ」

同僚「うーん、どうしたものか……」

同僚が頭を抱えていると、足音が近づいてきた。

同僚「まずいな。仲間が来てしまった」

勇者「ええー……」

遊び人「あなたが呼んだんじゃん……」

同僚「大丈夫だ。この国の結界は、俺の管轄そのものだ」

同僚は右手を空中に突き出し、ゆっくりと円を描き始めた。

石臼がひかれるようなごろごろとした音が聞こえた後、カチッ、という音が聞こえた。

同僚「ほら、持て。ちょっと特殊な仕組みで、脱出呪文は使えないのでな。常に持ち歩いてる」

懐から移動の翼を3つ取り出し、念を込めた。

同僚「仲良く頭をぶつけるぞ!!」

遊び人「ちょ、ちょっと!!」

三人は地下で移動の翼を利用した。

天井をすり抜けて、地上へと降り立った。

人気のない、修理中の屋外便所にたどり着いた。
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:44:53.47 ID:/yKl3BVY0
同僚「王国の外に出て、移動の翼を使え。さすがに国に張られた守護を全て解くことはできん。かなりの人数と時間を要する」

同僚は移動の翼を何枚も手渡した。

同僚「悪いが、俺ができるのはここまでだ。今すぐ地下に戻って、他の研究者には悔しそうな顔をする予定だ。家庭ある身なんでな」

遊び人「充分です。本当にありがとうございました」

同僚「あんた、そこの子を守ってやれよ。その子に生きててほしいと願った者達のためにも」

勇者「はい」

同僚「達者でな。こんなクソまみれの王国、さっさと滅ぼしてくれ」

研究者は移動の翼を掴み、念じた。

地面に吸い込まれるように、瞬く間に姿を消した。
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:45:52.80 ID:/yKl3BVY0
勇者「……遊び人」

遊び人「ええ。今度こそ逃げましょう」

勇者「ここまでうまくいくとは思わなかった。もう切り上げどきだ」

勇者「とにかく、王国の外まで!!」



勇者達は走り出した。

祭りで浮かれる人混みの群れに逆らい、王国の外へと。

赤い糸の呪文で結ばれている2人だったが。

自然と、手を繋いでいた。

もう、はぐれないように。

もう、はなれないように。



もう……。






ゴォオオオオオ…………

遊び人「な、なんなの……」



ゴォオオオオオオオオ…………



遊び人「あの巨大な黒雲は……」

勇者「遊び人、伏せろ!!」





―――雷が降り注ぐ一瞬、世界は無音に包まれた―――





752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:46:57.41 ID:/yKl3BVY0
王国の広場には、巨大な大穴が空いていた。

そこは奇しくも、かつて奴隷に空から降り注いだ精霊が宿った場所であった。

脱走を試みていた数多くの奴隷は、黒焦げの死体となった。

住民も、奴隷も、貴族も、研究者も、全員が恐怖に引き攣った顔をしていた。



嫉妬「異変は薄々感じていたが。それよりも大事な用事に最近追われていたのでな」

嫉妬「さて。この国の誇りを取り戻そうではないか」

祭りの陽気さは消え去り、一瞬にして冷たい空気が辺りに流れた。



遊び人「どうしよう……嫉妬が到着したんだわ」

遊び人「もしも、勇者が案内人だってことがばれたら、直接感知で特定されてしまうわ。この国にいる案内人はそう何十人もいないはずだし……」

勇者「いや。それは大丈夫なはずだ」

勇者「俺は今日感知呪文に一度もひっかかっていないんだ。さっきの研究者も、案内人が混乱の源だと踏んでおきながら、感知呪文で探したとは言っていなかった」

勇者「王国内だと移動呪文が唱えられないように、感知呪文を唱えられない制限があるんだ。自動感知呪文のような巨大な装置を除いて」

遊び人「……なるほど。この王国の中で感知呪文を使う者がいるとしたら、それは嫉妬の勇者を暗殺したい敵対国なんかに違いないよね」

勇者「今はとにかく、王国の外へ逃げるんだ」
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:49:08.10 ID:/yKl3BVY0
勇者達はにげだした。

しかし、まわりこまれてしまった。

兵士「これより、一切の出入りを禁ずる!!」

兵士「王国を囲うように見張りを張り巡らせた!!」



遊び人「どうする、勇者。術士があちこちに……それに、戦闘用の魔物も、王国を囲うように配備されているみたい。王国の中でじっと隠れてる?」

勇者「研究者がいうには、結界の調整には数日要する。感知呪文の規制を解いたら、”案内人”にフィルターを掛けて俺を探すつもりだろう」

遊び人「為す術ないね」

勇者「そうだな。様子もわからないし、とりあえず、脱ごっか」

遊び人「はっ?」



〜防具屋〜

遊び人「どう、似合う?」

遊び人は魔法のドレスを身に付けた!

勇者「もっと黒くてピチピチした格好の方がよかったんじゃないか?」

遊び人「バニースーツ着させようとしないで。また殴っちゃうよ」

勇者「しばらくは様子を伺おう。隙きを見て逃げ出すんだ」

遊び人「隙きなんて見せてくれるかなぁ」

勇者「数時間後の俺が頑張って作り出してくれるさ」

遊び人「おお、頼もしいね」

勇者「まずは腹ごしらえでもしよう」

遊び人「いいね。なんか、ひさしぶりだね」

勇者「なにがだ?」

遊び人「こういうのだよ。こんなことをしてる場合じゃないのに、こんなことをしている感じ」

勇者「そうだな。こういうの、久々だな」
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:50:07.64 ID:/yKl3BVY0
勇者「ふぅー、食った食った。横になりてぇ」

遊び人「こんな非常時に」

勇者「なーんかいい脱出方法ないかぁ〜」

遊び人「いい仕事ないかなーみたいなノリで言わないで」

勇者「足枷を使って国民全員気絶させるとか」

遊び人「何人いると思ってるのよ。それに寿命がどれだけ消費されるか……」

勇者「実際、どれくらいなんだろうな。各装備の寿命の消費量」

遊び人「個人の寿命がどれほどのものか不明だから実験さえできないけど。使用感による目安はあるってお姫様が言ってた」

遊び人「嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい」

遊び人「だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの」

勇者「一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん」

遊び人「そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい」

勇者「じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな」

勇者「というか、無効化に寿命ほどんど使わないなら、強欲の都の時の戦闘みたいに嫉妬はマハンシャなんかかける必要なかったんじゃん」

遊び人「吸収するより跳ね返す方がいいでしょう。それに、寿命なんてたとえ一時間でも削りたいものではないんだから。塵も積もれば山となるもの」

勇者「嫉妬は大罪の装備を全て集めて、何をするつもりなんだろう」

遊び人「永遠の命でも欲しいんじゃないかな」

勇者「永遠の命かぁ」
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:51:21.44 ID:/yKl3BVY0
2人は出店で販売されていた、魔物のお面を被りながら王国を歩いた。

巨大な落雷により、お祭りムードは消え、人々は緊張感に包まれていた。

勇者「……嫉妬の勇者だ。遠くに見える」

遊び人「私達を探しているのかしら」

勇者「どうしよっか。さっきの修理中のトイレを壊して、下水管の中にでも隠れようか?汚物に塗れるかもしれないけど、絶対探して来ないと思うんだ」

遊び人「うーん……やだなぁ。命と天秤にかけるなぁ……」

勇者「あっ、研究者が誰か連れて出てきたぞ」

遊び人「……怠惰の勇者だね」

勇者「…………」

遊び人「こ、殺されちゃうのかな」

勇者「…………」



嫉妬「なんだこの有様は」

怠惰「申し訳ございません……」

嫉妬「怠惰の装備が盗まれたというのは、事実とは異なるのだな?」

怠惰「いえ……」

嫉妬「いえ?」

怠惰「う、奪われました……」

嫉妬「奪われた?誰に?」

怠惰「ゆ、勇者です……」

嫉妬「…………」

嫉妬は、怒りの形相を見せた。

嫉妬「無能がぁ!!!!」

嫉妬が放った雷撃によって、付近にいた住民は焼かれた。

倒れて痙攣する者がいても、全員恐怖で身動きが取れないようであった。

嫉妬「来い!!」

嫉妬は怠惰を掴んで。引きずり出した。

人垣がさぁーと開いて道を開けた。

遊び人「まずい、こっちに来るわ!!」

勇者「教会がある!!とりあえず入るぞ!!」
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:51:51.01 ID:/yKl3BVY0
〜教会〜

遊び人「通り過ぎたようね」

勇者「暴君だな。かつて自分が奴隷にされていたからか、住民に対する容赦がないな」

遊び人「あー、本当に心臓に悪いね。いつ死ぬかもわからないって気持ち、ずっと忘れてたから」

勇者「……ごめん」

遊び人「どうして謝るの?」

勇者「精霊の加護がないから……」

遊び人「そこっ!!?」

勇者「えっ?」

遊び人「あははは!!!」

2人しかいない教会で、遊び人は大声で笑いだした。

勇者「……怒るよ」

遊び人「あはは、ごめんごめん。大きな心でやさしく受け止めて」

遊び人「ねえ、だってさ。精霊の加護もないのに、救いに来てくれた方がよっぽど嬉しいことだと思わない?」

勇者「嬉しい嬉しくないの問題じゃないだろ……」

遊び人「嬉しいことは問題にならないのよ」
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:52:44.75 ID:/yKl3BVY0
勇者「今更聞くのも恥ずかしいんだけどさ。どうして俺なんかを頼ってくれたんだ。精霊の加護があったからかな……」

遊び人「頼る?何を偉そうなこと言ってるのよ」

遊び人「強そうだとか。賢そうだとか。お金を持っていそうとか。はたまた精霊の加護があるからとか。あなたの長所を頼って一緒に冒険をしようとしたんじゃないのよ」

勇者「じゃあ」

遊び人「放っておけなかったの」

勇者「なんだそれ」

遊び人「なんだろうね、よくわかんない」

遊び人はニッコリと笑った。



遊び人を救うまでの三ヶ月間、勇者は心身をすり減らして動き続けた。

動きながら、身体を鍛えて、動きながら、賢くなった。

勝ててよかった、と勇者は心底思った。

今、この瞬間のためだけにも。

寿命を削り、気力を削り、努力をした甲斐があったと。

少しでも生まれ変わった自分に、彼女の笑顔に、安堵した。
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:54:11.58 ID:/yKl3BVY0
遊び人「はぁー。教会でこんな大声で笑ったの初めて」

勇者「神官もいないしな。お祭りだからだろうか」

遊び人「ねえ、この建物、本当に教会なのかな?」

勇者「教会だろ。外から見た時十字架のマークあったし。立派な教卓も前方に置いてあるし。横に長い椅子も見覚えのある形だし」

遊び人「うーん。明かりも付いてるし、鍵もかかってなかったし、確かに機能はしてるんだろうけど」

勇者「何がそんなに気になるんだよ」

遊び人は教卓の方に歩いていった。

遊び人「呪文集があるわ」

勇者「それがどうした?」

遊び人「たぶんね。今ここは、アカデミーの代わりに使われているのよ」

勇者「こんな小さな建物なのに?」

遊び人「孤児か、あるいは奴隷の子供のための施設なのかもしれない。肉体労働以外の仕事にも従事させるために」

遊び人「嫉妬はさ、今神官の職業をしているわよね。だから、精霊の加護を持つ者がこの国で倒れた場合、嫉妬の前で蘇ることになると思うの」

遊び人「もしも他に神官がいたら、その神官近くで蘇ってしまうことになるわよね。各国の勇者の精霊を集めている嫉妬からしたら、他の神官のところで蘇られて逃亡でもされるのは痛手よね」

遊び人「だから、おそらくこの国にいた神官を全員クビにしたはず。自分だけがこの国の神官となるために」

勇者「……なるほど」

遊び人「この発見を嫉妬の撃退に活かせないかな?」

勇者「うーん、もう俺達に精霊の加護もないしなぁ。特に々思い浮かばないな」

勇者「それに、今日はお祭りだろ?神官も息抜きに各国から来ているんじゃないかな」

遊び人「うーん……」
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:56:19.25 ID:/yKl3BVY0
勇者達が考えあぐねていると、拡声石によって王国中に嫉妬の声が響き渡った。

嫉妬『国王が留守の間に、随分浮かれていたようだな』

嫉妬『勇者と遊び人、お前らもまだこの王国の中にいるはずだ』

嫉妬『俺は今から国民の前で3つのことを言わせてもらう』

嫉妬『1つ。怠惰の勇者を捕らえた。浮かれて奴隷の統治すらもできなくなった国民への見せしめとして、今から1時間後にこの女を新闘技場にて処刑する』

嫉妬『1つ。勇者よ、1時間以内に怠惰の足枷を持って遊び人を闘技場に連れてくれば、お前の命は保証する。好きな国へ飛ぶがよい。奴隷を統治するこの国では、約束を反故にすることの弊害は大きいから安心しろ。お前一人の命が救われようが俺にとってはどうでもよい』

嫉妬『1つ。いかなる者もこの国を出ることは許さない。脱出は不可能だ。王国を囲うように術士を配備しており、結界で出口を塞いでいる。移動の翼で空から脱出しようとするものは、俺が全て落雷で撃墜する。飛行系の魔物も配備している』

嫉妬『利口な選択をすることだな』




遊び人「勇者……」

勇者「…………」

勇者「3つのことを言うときにさ。1つ、1つ、1つ、って三回言うよりもさ」

勇者「1つ、2つ、3つって言ってくれる方がわかりやすいんだよな」

遊び人「…………」

勇者「状況はだいたいわかったよ。逃げるのは簡単だ」

遊び人「えっ?」

勇者「出入り口付近にいる見張りを、怠惰の足枷で無力化すればいい」

遊び人「結界はどうするの?」

勇者「遊び人が分析して、俺が呪文で解くよ」

遊び人「呪文……そういえば、勇者、あなたどうして呪文を……」

勇者「精霊が信頼してくれたんだ。基本的な結界破りも、時縮化の呪文も、理論だけは強欲の都で師匠に叩き込まれたから唱えることはできる」

遊び人「こんな短期間で精霊に信頼してもらえるなんて……勇者、頑張ったんだね」

勇者「……あ、ああ」



恥ずかしい話を、打ち明けることはできなかった。

勇者はまた、ずるをした。

封印の壺のダミーを隠した術士の一人と、強欲の都で再会した。

勇者の案内人としての才能を発揮させながら、監視の目を通り抜け、かつて修行に励んだ研究施設へと潜り込んだ。

そこで”大罪の枕詞”を付与する呪術を再びかけてもらっていた。

以前は肉体強化の呪術だったが、今回は魔力強化を目的として。

寿命を精霊に差し出す身体になった。

一月も経つと元通りになる、一時しのぎのものだった。

今まで誰かが積み重ねてきたものに、簡単に追いつけると信じることができなかった。

ただ、遊び人にそのことを打ち明けて、”寿命泥棒”だと悲しませたくはなかった。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:56:59.67 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ねえ、いいの?」

勇者「…………」

遊び人「怠惰の勇者が処刑されても」

遊び人「ずっと、悔やんでるんでしょ?」

勇者「全部過去の話を聞いたのか」

遊び人「聞いた。勇者が中々話したがらなかった過去も、全部」

勇者「失望した?」

遊び人「本人しか本人の気持ちなんてわからないよ」

勇者「俺が遊び人のこと裏切るとは思わなかったか?」

遊び人「うーん、あまり」

勇者「一度仲間を裏切ったのに?」

遊び人「一度仲間を裏切ったから、ずっとそのことを後悔しているんでしょう?」

勇者「もう剣士は死んでしまった。償うことなんてできないよ」

遊び人「償いたいの?」

勇者「わかんないよ」

遊び人「このまま逃げて、大丈夫なの?」

勇者「敵国の中で大人数相手に、救えっていうのかよ」

遊び人「自分に嘘をつかないでよ……」

勇者「なんだよそれ。どうしてお前が泣いてるんだよ」

遊び人「あなたが泣いているからよ!!」

勇者「……っ!!」ポロポロ…






遊び人「勇者」

遊び人「戦いましょう」
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:57:37.18 ID:/yKl3BVY0
たたかうとは、怠惰の足枷を使う、ということを意味していた。

寿命の価値を知っている遊び人が、それほどまでに戦うことを要求するのは。

それが、今の勇者にとって、命に天秤にかけるほど大切な選択であると確信しているからに違いなかった。

勇者「……失敗したら、死ぬ間際後悔するぞ」

遊び人「その時はめちゃくちゃ恨むよ。だから失敗しないでよ」

勇者「大きな心で受け止めてくれ」

遊び人「人間だから無理だと思う。死の恐怖は善悪を超越するから」

勇者「経験者は語るか」





〜新闘技場〜

嫉妬「間もなくだ。また見捨てられたようだな」

怠惰「…………」

嫉妬「いつまでも隠れて、馬鹿なやつだ。明日には王国内での感知呪文が可能になるよう調整をしている。案内人に対象を絞れば見つかるまで時間もかかるまい」

嫉妬「自動感知呪文の魔法陣はいじりたくないのでな。怠惰の足枷に対象を絞る場合、また全世界から対象を差し引いていく必要がある。俺が直接見つけてやれば問題あるまい」

嫉妬「さて、目立つところに移動しよう。国民を楽しませるのも国王の義務なのでな」
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:58:15.18 ID:/yKl3BVY0
闘技場には大勢の国民が呼び寄せられていた。

お面をつけた2人は、人混みに紛れながら闘技場の中央を眺めた。

遊び人「怠惰の勇者が放り出されてる。剣を持ってるということは、魔物と戦わせられるのかした」

勇者「もうあいつの考えることは嫌というほどわかるよ。勇者という存在にあてがう魔物といったら、ただ一人しかいない。ほら、地下から出てきた」

闘技場の隅を見ると、地下室への出入り口から、さきほど勇者達を助けてくれた研究者が出てきた。

出てきた多くの研究者のいずれもが、疲労と困惑に満ちた顔をしていた。

嫉妬「さあ、剣をとって、戦え」

嫉妬は怠惰に告げた。

地下から、人形の魔物が出てきた。

嫉妬「闘技場の歴史上、最も見ることを望まれた戦いであろう?」

嫉妬「勇者と、魔王の戦いは」

闘技場に魔王があらわれた!
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 18:58:36.31 ID:pfhvxYoC0
どうなる?
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:59:30.84 ID:/yKl3BVY0
国民のざわめきの中、怠惰と、魔王は立ち尽くしていた。

怠惰「……あなたも懲り懲りよね。魔族の王としての誇りを持って生きてきたのに。大罪の装備なんかが現れたせいで、人間のおもちゃにされて」

怠惰「戦う気なんかないのでしょう。封印されている間もずっと、死ぬことを考えていたんじゃないかしら」

怠惰「あなたに、戦う理由はある?」

魔王は答えなかった。

ただその場に立ち尽くしていた。

怠惰「あなたに勝ったら、私は自由になれるのかしら」

怠惰「ここから外の世界に、救いなんかなかったから、ここに来たというのにね」

怠惰は、詠唱を唱えた。

怠惰『フルゴラ!!』

雷撃の呪文が魔王に迸った。




魔王「……自殺だと」

魔王「余を見くびるな」

魔王はぼろぼろになった怠惰の勇者を見下ろし、言った。

怠惰「げはっ!!ごぼっ……」

怠惰の唱えた呪文は全て、魔王の無口詠唱のマハンシャによって跳ね返された。

魔王「我を倒すほどの首飾りが、あの愚者の手に渡ったことだけが残念だ」

魔王「貴様を殺すついでに、あの白衣を来た男共も道連れにしてやろう」

魔王は右手を高く掲げた。

禍々しい黒玉が出現し、エネルギーを蓄え始めた。

怠惰「や、やめて……」

魔王「さらばだ、勇者」
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:01:10.11 ID:/yKl3BVY0



理不尽な、世界だった。

生まれてくる価値のない、人生だった。

信頼するに値しない、人々だった。

死ぬ理由がないという理由で、生きることを強要され。

いざ、生きることを望んだ時には。

全身から脳裏まで震えるほどの恐怖に包まれながら、殺されてしまう。

ねえ。

確かに、こんな世界。

怠惰「……見捨てたくも、なるよね」





魔王の攻撃力が大幅に下がった。

魔王の防御力が大幅に下がった。

魔王の素早さが大幅に下がった。

魔王の魔力が大幅に減った。。

魔王の反応力が大幅に下がった。

魔王の集中力が大幅に下がった。

魔王の判断力が大幅に下がった。

魔王の決断力が大幅に下がった。

魔王の呪文が怠惰に放たれた。



怠惰「きゃぁあああああ!!!」

魔王の攻撃をあびて、怠惰は吹き飛んだ。

怠惰「……痛い!!痛いぃいいい!!!」

怠惰「痛いよぉ……ううっ……」ポロポロ

勇者「泣くなよ。俺だって我慢してたんだから」

怠惰「……勇者?」

勇者「さすが魔王だけあるな。大罪の装備を使っても、呪文の威力がここまでしか落ちないのか」

怠惰「……いまさら罪滅ぼしのつもりで救いに来たなら、逃げたほうがいいわよ」

勇者「罪なんて滅ぼせるかよ。俺が望んだのは世界が滅ぶことだけだ」
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:01:55.25 ID:/yKl3BVY0
怠惰「魔王に怠惰の足枷が及ぼす効力については実験済みだわ……」

怠惰「その結果、勇者による勝率は2割程度だということが判明したの」

勇者「ま、まじかよ」

怠惰「嫉妬の首飾りくらいよ、魔王を完全に手懐けるほどの力を持つ装備は」

怠惰「逃げるならさっさと逃げなさいよ……」

勇者「ああ、逃げるさ。逃げることしか能がないからな」

勇者「今度は、お前と一緒にな」

勇者は怠惰の手を引っ張った。

怠惰は反射的に手を振り払った。

怠惰「……逃げるわ。でも一人で立てるから」

勇者「自由にしてくれ」



勇者たちはにげだした!
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:03:56.94 ID:/yKl3BVY0
術士「逃がすな!!」

術士たちがあらわれた!!

勇者「何の意味もなく、こんなだせえ靴履くかよ!!」

勇者は装備していた怠惰の足枷に祈りを込めた。

行く手を阻もうとしていた術士達は、全員その場に倒れ込んだ。

勇者「うぐっ……」

怠惰「ゆ、勇者」



遊び人「勇者、こっちよ!!」

虹色に爆発する小さな花火を遊び人はばらまいていた。

パニックになった観客者は慌てて道を退けた。

勇者「……遊び人としてのスキルが大役立ちだな」

遊び人「あっ、確かに!初めて遊んで役に立ったかも!」

場外へ出た勇者達は、王国の出入り口付近へと走り出した。

勇者「もう少しだ……」

遊び人「勇者、顔色悪いよ?」

勇者「なんだか、けだるくて……」

遊び人「やくそうかなんか……」

「止まれ!!今すぐ降伏しろ!!」

術士A,B,C,D,Eがあらわれた!!

遊び人「きりがない!!」

勇者「こっちもきりなく攻撃するまでだ……」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

術士達は瞬く間に地面に倒れ込んだ。

遊び人「行くよ、勇者!また敵が現れる前に……」

勇者「…………」

遊び人「勇者?」

勇者「……駄目だ」

遊び人「どうしたの?」

勇者「足が……重くて動かない……」

勇者はその場に座り込んでしまった。

「いたぞ!!」

術士A,B,C,D,E,F,Gがあらわれた!!
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:04:54.52 ID:/yKl3BVY0
怠惰「副作用よ」

遊び人「副作用?」

怠惰「怠惰の足枷の使用には、寿命の消費だけじゃなくて、使用者の気力を奪う反動もあるの」

遊び人「そんな……」

怠惰「残念ながら、私も魔王との戦いで魔力があまり残ってないわ」

遊び人「だったら、私が足枷を装備して……」

怠惰「ただでさえ寿命が少ないんでしょ、やめておきなさい」

怠惰は服の内側から、薬草を取り出した。

怠惰「ほら、飲みなさい」

勇者「…………」

怠惰「口を開けて」

ぼぉーっとしていうことを効かない勇者の口に、怠惰はやくそうをねじ込んだ。

遊び人「何するの!?」

怠惰「即効性があるから、大丈夫よ」

怠惰「これは、意思の薬と呼ばれるもの。私が名付けたんだけんどね」

遊び人「意思の薬?」
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:05:55.57 ID:/yKl3BVY0
勇者「……ありがとう」

勇者は立ち上がった。

勇者「もう少しだ」

怠惰の足枷を再び使用した。

術士「……ぐぁ……」

術士達は気絶した。

怠惰「怠惰の足枷によって故郷に影響が色濃く出てからしばらくして、新種のやくそうが育ち始めたの」

怠惰「飲み込んだもののやる気、戦闘、意思、そういったものを一時的に高める効果がある」

遊び人「……そういえば、暴食の村でも新種の植物が育ったって言ってた。真実草っていう、飲んだものに秘密を吐き出させる薬……」

怠惰「怠惰の装備による影響を、植物たちは克服しようとしたのよ。このままじゃ枯れて死んでしまうから突然変異を起こしたのか。あるいは、怠惰の装備があっても生き残りやすい種類の植物の繁栄に偏ったのかはわからないけど」

怠惰「生きることを、植物は切望した。そして、これを食したものはその意思を与えられる」

怠惰「いくつか持っておきなさい。怠惰の装備の呪いさえ乗り越えるとても強力なものよ」

遊び人「……それって、嫉妬の勇者も持っているの?」

怠惰「残念ながらね。これを口に含んで戦われたら、少なくとも気絶はしないわね」
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:06:29.20 ID:/yKl3BVY0
勇者達は王国出入り口の結界箇所までたどり着いた。

勇者「遊び人、どうなってる?」

遊び人「……やっぱり。憤怒の城下町で使われていたものと同じ。時縮化の呪文で崩せるわ」

勇者「本物の結界を用意して練習する時間が取れなかったんだ……うまくいくかな」

怠惰「自信がないならどいてなさい。代わりに、場外にいる魔物を追い払う呪文でも唱えてて。低級呪文のはずよ」

勇者「ええーっと……」

遊び人「ほら、昔勇者が大蛇から私を助けに来てくれた時。吟遊詩人が」

勇者「ああ!追いかける途中で聞こえてきた!!試してみる!!」

勇者は剣に祈りを込めた。

勇者が剣を爪でひっかくと、特殊な音が響き始めた。

魔物の群れが遠のき始めた。

遊び人「勇者、本当に呪文に強くなったのね!」

勇者「……ま、まぁな」
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:07:51.71 ID:/yKl3BVY0



パキ…。

パキパキ……。

遊び人「もうすぐ!!」

パキパキパキ…………



パキン!

遊び人「開いた!!」

人一人通れるほどの隙間が、結界から生じた。

怠惰「はぁ……はぁ……先に行って。時間が経つと閉じるわ……」

「こっちだ!!」

研究者A,B,C,D,Eがあらわれた!!

勇者「遊び人急げ!!」
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:08:51.09 ID:/yKl3BVY0
勇者「……やるしかない」

勇者は意思の薬を飲み込んだ。

勇者「うぉおおお!!!」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

研究者達は、耐えきった。

怠惰「まさか……」

研究者「意思の薬の成分を凝縮した薬瓶を飲み干してきたのさ。なかなかいけた味じゃなかったがね。術士共はただの時間稼ぎ要員さ」

勇者「……ぐっ…ぅ……」

研究者「閉じろ!!」

研究者は結界を施そうとした。

怠惰「勇者!!逃げて!!」

怠惰は、虚ろになっている勇者を結界から押し出した。

外から遊び人が引きずり出した。

結界は閉ざされた。

怠惰の勇者が取り残された。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:09:43.36 ID:/yKl3BVY0
遊び人「勇者!!意思の薬を!!」

遊び人は勇者の口に意思の薬を含ませた。

研究者「くそっ!!あいつらを捕らえなければ意味がない!!今すぐ結界を解除するんだ」

研究者達は結界の解除を始めた。

瞬く間に結界がほどかれ始めた。

怠惰「……逃げて」

勇者「馬鹿言うな……」

怠惰「あの時とは状況が違うから……」

勇者「俺自身も違うから……」

怠惰「わかってるよ。もう、いいんだって」

怠惰「なんだか、疲れちゃったしさ」

怠惰が、何年ぶりかの笑顔を勇者に向けた。

勇者「なんだよそれ!!」

怠惰は勇者の言葉に応えず、祈りを唱え始めるた。

結界の崩壊の速度が少し緩んだ。

研究者「邪魔な女だ!!」

研究者は風の呪文を唱えた。

怠惰の身体は切り刻まれた!!

勇者「怠惰!!!」
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 22:57:35.12 ID:mJbV6Ie7O
なんで俺こんな名作を知らなかったんだろう
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 00:21:44.09 ID:HDdFD9bn0
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 01:40:48.92 ID:hTLEd+NDO
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:44:41.53 ID:kvW2N9mC0
怠惰「勇者……」

怠惰「あんた、強くなったね……」

勇者「何言ってんだよ……今もこんな無力で……」

怠惰「……命懸けであの子を助けようとしたんでしょ。死ぬと決めた人間は、強くなるのかしらね」

勇者「違う!!本気で生きると決めたんだ!!」

勇者「だから、怠惰も一緒に!!」

怠惰「馬鹿。10年遅いわよ……」

「来い!!逃げられるぞ!!数で押せ!!」

術士A,B,C,D,E,Fがあらわれた!

魔術師A,B,C,D,E,Fがあらわれた!

怠惰「勇者、逃げなさい!!」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:45:15.35 ID:kvW2N9mC0
勇者「…………」

怠惰「何してるの!!はやく!!」

勇者「……うぉおおおおおおおおお!!!!!!!」

勇者「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

遊び人「勇者!!!!」

勇者は怠惰の足枷をつかった!



「ぐぁ…………」

バタリ。

バタリ。バタリ。

「…………ぁ……」「……うぉ…………」


バタバタバタバタ。バタリ。

ドサドサドサ……


バタリバタリバタリバタリ……。




怠惰の周囲を囲っていた者は全て倒れた。

勇者「…………ぁ…………」



勇者は廃人となった。



779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:45:51.15 ID:kvW2N9mC0
遊び人「勇者……しっかりして。ねえ、勇者」

遊び人は意思の薬を勇者の口の中に押し込もうとした。

勇者はだらりと口を開け、よだれを垂らした。

遊び人「ねえ!!勇者!!しっかりして!!」

遊び人は怠惰の足枷を勇者から外そうとした。

しかし、頑丈に縛り付けられており、外すことができなかった。



嫉妬「ちょうどいい頃合いだな」

嫉妬の勇者があらわれた!



遊び人「なっ……」
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:46:21.71 ID:kvW2N9mC0
嫉妬「怠惰の足枷を攻略化していないのでな。体内の精霊の補充はそうやすやすとできないもので、攻略化のために殺される気にはなれなかったのだ。雑魚どもがいい身代わりになってくれた」

嫉妬「さて。約束は破られたわけだ。三人まとめて処刑するとしよう」

嫉妬は結界を開き始めた。

怠惰「勇者を連れて移動の翼で逃げなさい」

遊び人「でも……」

怠惰「私が食い止めるから!!」

遊び人「……わかった」

遊び人は移動の翼を使用した。



嫉妬「愚かな……。焼き尽くしてくれる」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬が呪文を唱えると、黒雲が夜空に出現し始めた。

バチバチ、バチバチ、と、遠くの夜空から黄色い閃光が弾き始めた。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:47:11.46 ID:kvW2N9mC0
満身創痍になりながらも、怠惰は立ち上がった。

怠惰「はぁあああああ!!!!」

怠惰は近くで気絶していた兵士の剣を取り、嫉妬を切りつけようとした。

嫉妬「小癪なやつだ」

嫉妬は身を翻し躱した。

嫉妬の呪文は中断され、黒雲は霧散した。

嫉妬「先に死にたいようだな。『マハンシャ』」

怠惰「魔法をかけるつもりもないわ。通常攻撃は首飾りの攻略化の対象外なのでしょう」

嫉妬「通常攻撃が俺の弱点だと思いこんでいるならめでたいことだ」

嫉妬は剣を抜いた。
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:47:43.85 ID:kvW2N9mC0
怠惰「がふっ!!ぐふっ!!」

嫉妬「口ほどにもない」

嫉妬は左腕を突き出した。

火の玉が怠惰の腹部に直撃した。

怠惰「ぐぁ…………」

嫉妬「剣技だけでも倒せる確証はあるが、やつらを今すぐ撃ち落とさねばなるまいのでな。呪文と剣術の組み合わせが最も強かろう」

嫉妬「さて」

嫉妬は再び祈りを唱え始めた。

嫉妬「『レヴィ……』」

嫉妬は後ろを振り返らないまま身を反らした。

怠惰「はぁ……はぁ……」

嫉妬「……かつて拾ってやった恩を忘れたか」

嫉妬「あの勇者の方が、そんなに大切か」

嫉妬の勇者は、屈辱の形相を浮かべた。

嫉妬「貴様から絶命させてやろう!!」
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:48:22.81 ID:kvW2N9mC0
勇者を抱えたまま、遊び人は夜空を飛んでいた。

幸いにも、黒雲の気配に怯えた鳥獣の魔物は遠くに逃げていた。

勇者「……あ、遊び人……」

遊び人「勇者!!」

勇者「怠惰は……?」

遊び人「……勇者。今は逃げるしかないの……」

勇者「怠惰は……?」

遊び人「あなたは悪くない。仕方のないことなの……」

勇者は朦朧としながらも、王国の方にクビを向けた。

さきほどまで自分達がいた場所の頭上に、黒雲が立ち込めていた。

勇者「……おい。あそこ。あそこにいるんだろ……」

勇者「戻らないと……怠惰が……」

遊び人「勇者……駄目なのよ……」

勇者「なんだよ……なんだよそれ……」

勇者「ひどい……ひどいよ……」

勇者「やっと、やっと。変われるかもしれないって思ったのに…………」

勇者「なんだよこの世界……ひどいよ……」

勇者「こんな……、こんな世界なんか……」

784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:49:12.79 ID:kvW2N9mC0
『やっほー、年下のお子様くん』

『その呼び方やめろって』

『今日も稽古さぼったって聞いたよ』

『瞑想の練習してたんだよ』

『家のお布団の中で?』

『まあな』

『はぁー。将来好きな女の子が出来た時に守れなくなっちゃうよ』

『女子なんて興味ねーし!』

『うっわ、ガキ』

『せめてお子様くんにしてよ』

『現れてから強くなるもんじゃないのよ』

『強くならないと現れないから?』

『違うの。現れてから強くなろうとしても、間に合わなくなることがあるから』

『よくわかんねーよ』

『瞑想ばっかりしているからよ』

『うるさいなー』

『ねえ、じゃあさ。好きな女の子がいないなら、今は私のために強くなってよ』

『な、なんだよそれ!』

『将来の練習だと思ってさ』

『はぁー!明日も瞑想するし!!うるせーし!!』タッタッタ…

『あはは、子供だなぁ』
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:51:59.09 ID:kvW2N9mC0
勇者「……う、うぐ……」

勇者「……うぐ……!!」

遊び人「勇者?」

勇者「……うううぉおおおああああああああああ!!!!!」

勇者「うあぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




嫉妬「『レヴィアタン』!!」

黒雲から雷撃が落下した瞬間。




勇者「うぉおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




夜空から眩いばかりの、青白い光が現れ。

遊び人「この光は!!!」






勇者の身体に直撃した。


786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 01:30:12.74 ID:54ZHoJkDO
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 22:52:57.26 ID:plqGsBdE0

嫉妬「どういうことだ!!」

嫉妬「何故、肉体保護の棺桶が!!」

落雷が怠惰に直撃した後、その場には1つの棺桶が残されていた。




遊び人「い、今のは!!精霊の光り!!」

遊び人「勇者の体内の中に、精霊が宿ってる!!」

遊び人「でも、どうして!ここ数年、勇者の誕生なんて一人も聞かなかったのに」

遊び人「…………」

遊び人「もしかしたら」

遊び人「あの地下室で、闘技場で、、勇者が”魔王の生存を認知したこと”に鍵があったのかもしれない」
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:01:49.65 ID:plqGsBdE0
遊び人「精霊は元々、人間の魔王討伐の使命を補助するために降臨していた」

遊び人「魔王消滅の噂によって、勇者は魔王の生存を信じなくなった。そのせいで、精霊の降臨自体を受け容れる姿勢が失われていた」

遊び人「勇者が魔王の生存を認知した今、精霊も勇者に宿る意義を見つけたんだわ」

遊び人「だとしたら、パーティの結成も可能になっているはず!」

遊び人「勇者!!怠惰はきっと無事よ!!」

勇者「……うぅ……うぐ……」

遊び人「どうしたの!?精霊の降臨に痛みが伴うなんて話は……」

勇者「……あ……あし……あしが……」

遊び人が勇者の足を見ると、どす黒い痣で覆われていた。

遊び人「怠惰の足枷の副作用……」
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:03:17.57 ID:plqGsBdE0
神官「ちきしょー、せっかく祭りに訪れたってのに、入場制限ってなんだそりゃ。遅くまで教会に残って老人共の悩みを聞くんじゃなかったぜ」



遊び人「地上に神官がいる!」

遊び人「大罪の装備による身体への影響は、一回の死亡で治るはず……」

遊び人「勇者、よく聞いて」

勇者「……うぐ……」

遊び人「一回自殺を試みるわ。そしたらすぐに足枷を脱いで、私と怠惰を蘇らせるの」

遊び人は勇者の道具袋から、短剣を取り出した。

遊び人「迷ってる時間はないわよね……」

遊び人「勇者、行くわよ!!」

遊び人は勇者の首に短剣を突き刺した。

棺桶が出現し、勇者の死体を保護した。

遊び人「大丈夫ってわかってても心臓に悪いなぁこれ……」

遊び人「……んっ!!!!!」

遊び人はナイフを自分の首に突き刺した。

棺桶が出現し、遊び人の死体を保護した。

勇者、遊び人、怠惰の3つの棺桶は精霊によって即座に神官の前に運び込まれた。
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:03:53.53 ID:plqGsBdE0
勇者「……ぷは!!」

勇者「蘇った……んだよな?」

神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。しんだなかまをよみがえらせますか。

勇者「仲間を……っ!?」

勇者「うげぇえ!!なんだこの気色悪い感触!!」

勇者は足元を見ると、足枷が不気味な魔力を放っているのを感じた。

勇者「のろわれたそうびを解除してくれ!!」

神官:のろわれているそうびはありません。

勇者「なんだよそれ!!じゃあ仲間!!仲間を蘇らせてくれ!!まずは遊び人から!!」

神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「高くなってるし!!なに!?ここ物価高いの!?」

勇者「なんでもいいから蘇らせてくれ!!」

神官:うけたまわりました。
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:07:38.82 ID:plqGsBdE0
遊び人「……ぷはっ!勇者!!」

勇者「ぐぅのおおお!!!」

勇者「脱げた!!」

勇者は怠惰の足枷を脱いだ。

勇者「次は怠惰を蘇らせてくれ!!」

神官:2000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「あれ、昔の方が高かった気が……まあいい、お願いする!」

神官:うけたまわりました。

神官:怠惰の魂をこの世に……

神官は祈りを始めた。

遊び人「あ、あのさ!!勇者!!」

勇者「ん?」

遊び人「ありがとう!」

勇者「えっ」

遊び人「あ、ありがとうって言ってんの!」

勇者「……へへっ。どういたしまして」
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:08:37.19 ID:plqGsBdE0
怠惰「……んんっ……」

勇者「寝起きのところ悪いが、急ぐぞ。追手に見つかる前に」

怠惰「……眠い……あと5分」

勇者「はぁ?」

怠惰「……風邪引いたっぽい……今日休む……」

勇者「おいどうした。なんだその定番のセリフは。お前が仮病なんて、熱でもあるのか?」

遊び人「熱があったら仮病じゃないから!さっさと行くわよ!!」





勇者達は移動の翼を使いながら、遠くへ逃げた。

さきほどまでの絶望は過ぎ去り。

混乱や恐怖とは無縁の、静かな夜の空に出た。



勇者達は、にげきった。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:11:13.34 ID:plqGsBdE0
3人は移動の翼で夜の空を飛び続けた。

怠惰は自分が蘇ったことの意味を理解しているはずだが、そのことについて言及してこようとはしなかった。

遊び人「うう、夜の飛行は冷えるなぁ」

遊び人「ねえ勇者、足はもう大丈夫?」

勇者「うん、平気。びっくりしたよ。気味の悪い痣みたいなのもできてたし」

怠惰「……大罪の装備をずっと身に着けるなんて、愚かにもほどがあるわ」

怠惰「装備の種類にもよるけど、怠惰の足枷はすぐに装備者を飲み込もうとする傾向が強いわ。私も戦闘中以外は基本身に付けないようにしていたもの」

遊び人「嫉妬なんかいつも首飾りつけてるんじゃないの?」

怠惰「身につけることの副作用が元々少ない装備なのかもしれないけれど。それ以上に、嫉妬の勇者自身が装備を上回るほどの感情の強さを持っているのよ」

遊び人「…………」
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:13:02.20 ID:plqGsBdE0
怠惰「ところで、私達はいつまで飛び続けるつもりなの?」

遊び人「とにかく遠くへ行ってるつもりだったけど。見覚えある地域に出てきたね。庭の宝の村もこのあたりじゃなかったっけ」

勇者「そう言われればそうだな」

遊び人「せっかく蘇えらせてくれたところ悪いんだけどさ。一度ここら辺りで自殺しておきましょうか」

勇者「なんで!?蘇生にいくらかかると思ってんだ!!」

遊び人「気づかない内に鳥系の魔物が尾行してるかもしれないじゃん。精霊の加護による転送なら完全に巻くことができるでしょ。念の為よ。命はお金より大切でしょ?」

勇者「また見つかるよりましか。よし」

勇者は短剣を取り出した。

遊び人「ナイフは慣れないなぁ。毒針もまた買わないといけないね」

怠惰「毒って苦しくないの?」

遊び人「ちょっと痺れて気絶する感覚かなぁ。精霊による死の恐怖の柔和のおかげかもしんないけど。本当はのたうちまわるほど苦しかったりして」

勇者「怖いこと言うなって。ナイフが嫌なら飛び降りるぞ」

遊び人「あっ、それいいかも!!」

勇者「じゃあ決まりだな」

怠惰「本気で言ってるの!?」

遊び人「本気だよ!!」

勇者「本気で死ぬぞ」



地上より遥か上空で、3人は移動の翼に祈りを込めるのをやめ、手放した。

3人は凄まじい速度で落下し、地面に激突した。

パーティは全滅した。
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:13:37.75 ID:plqGsBdE0
〜教会〜

神官「…………」

勇者「無事蘇ったか。むしろ無事じゃなかったから蘇ったという方が正しいか」

勇者「さて、遊び人を……」

勇者「…………」

勇者「神官。怠惰を蘇らせてくれ」





怠惰「……んん」

勇者「目が覚めたか」

怠惰「……ええ。酷い悪夢を見た気がする」

勇者「高い所苦手だったっけか」

怠惰「…………」

怠惰「私を先に蘇らせたのは、何か意味があるんでしょう?」

勇者「……ああ」

勇者「怠惰」

勇者「……あの時は、本当にごめん」
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:14:27.50 ID:plqGsBdE0
怠惰「…………」

怠惰「ごめん、か」

怠惰はそうつぶやくと、勇者の持っていたナイフを奪った。

怠惰「そうやって、罪を贖った気になって生きていくのよね!!」

怠惰「この、人殺し!!」

怠惰はパーティからぬけだした。

勇者「怠惰っ!?」

怠惰のこうげき!

勇者「ぐばっ……」

怠惰のふりかざしたナイフは勇者の首を掻っ切った。

勇者は死亡した。

神官の前で、勇者は蘇った。

怠惰「償えないわよ!!」

怠惰はナイフを勇者の心臓に突き刺した。

勇者は死亡した。

神官によって勇者は蘇った。

怠惰「剣士はもう帰ってこないのよ!!」

怠惰は勇者の腹部にナイフをめった刺しにした。

勇者は死亡した。

勇者は蘇った。
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:14:56.69 ID:plqGsBdE0
怠惰「どれだけ、どれだけつらい日々を、剣士を大切に思っていた人達が過ごすことになったと思うの!!これまでも!!これからも!!」

怠惰は勇者の額にナイフを突き立てた。

勇者は死亡した。

勇者は蘇った。

怠惰「あんたの!!あんたの弱さのせいで!!!」

怠惰のこうげき!




勇者は殺された。

勇者は蘇った。

勇者は殺された。

勇者は蘇った

勇者は……


…………


……




798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:16:48.43 ID:plqGsBdE0
怠惰「はぁ……はぁ……」

返り血で真っ赤になった怠惰は、その場に座り込んだ。

勇者「…………」

怠惰「…………」

怠惰「なんか、言いなさいよ……」

勇者「…………」

怠惰「…………」

怠惰「本当に、あんたなんかパーティじゃなければよかった」

怠惰「…………」

怠惰「精霊がさ、あんたにまた宿ったわよね」

怠惰「精霊は勇者にのみ宿るものだと思っていた。でも、精霊は、勇者じゃないあんたに宿った」

怠惰「勇者という資質を持ったものが精霊を呼び寄せやすかっただけで。勇者という資質を持たなくとも、ふさわしい思いを持つものに精霊は宿るのかもしれなかったのね」

怠惰「私はさ、私に宿るはずだった精霊が、背中におぶっていたあんたに奪われたものだとずっと恨んでいたけれど」

怠惰「あの精霊も、はじめからあんたに宿るつもりだったのかもしれないね。だとしたら、理不尽に責めていたかもね。今更わかんないけどさ」

怠惰「幼馴染としての私達は、うまくやっていけてたのにね。冒険者というパーティメンバーになった途端、何もかもがうまくいかなくなってしまったね」

怠惰「一緒にいることの目的が違うだけで、同じ相手でも、全く関係性って変わってしまうものなのね」

怠惰「どうして私に怠惰の装備が現れたのかずっとわからなかった。幼い頃から努力してきたし、怠惰なあんたを憎んですらいたのに。それこそ、あんたにこそふさわしい装備よ」

怠惰「きっとね、私は最も怠惰を知る必要のある勇者だったのよ。怠惰という感情から、過去への向き合い方を学ぶべき勇者だったって」
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:17:43.95 ID:plqGsBdE0
怠惰「7つの大罪は。人間に救う7つの欲望は、幸せと隣にあるものだった」

怠惰「食べること。愛すること。誇ること。熱くなること。欲すること。羨むこと。そして、さぼること」

怠惰「怠惰って、7つの大罪の中で唯一特別なものだと思わない?」

怠惰「他の6つの大罪が『求めることの幸せ』だとしたら、唯一怠惰のみが『求めないことの幸せ』なのよ」

怠惰「何者かになりたいと思っても、何もしたくなかったあなた」

怠惰「何も積み重ねずに過ごす日々に自分を呪っていたあなた」

怠惰「そんなあなたが望む日常は、やはり、何もせず、ただ日々を過ごすことなのよね」

怠惰「大切な人と、だらだらと」

勇者「……そんな日常、今ではもう手に入るかどうか」

怠惰「勇者」

怠惰「魔王城へ行きなさい」
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:19:50.60 ID:plqGsBdE0
勇者「魔王城……」

怠惰「傲慢の盾、憤怒の兜はそこに保管されているわ。主なき魔王城は今は誰でも認知することができるから入れるはずよ」

怠惰「嫉妬はね、世界を統一する計画を立てているの。嫉妬の王国と、魔王城を拠点にね」

怠惰「主要な居住区を結ぶように一定間隔で建物を建造し、人間と魔物を等間隔に配備する」

怠惰「全ての村、町、都、里、谷、人間の住まうところを繋いで1つの王国にする」

怠惰「全ての洞窟、塔、祠、そして魔王城、魔物の住まうところを繋いで1つの王国にする」

怠惰「そして二つの王国を結び、自分が両者の世界の王となる。」

怠惰「あんたが嫉妬の王国に各国の案内人をばらまいたのとは訳が違うわ。7つの大罪を、7つの大罪の装備によって管理するの。完全な世界統治よ」

勇者「こんな広い世界で居住区を全て繋げるなんてこと可能なのか?どれだけの月日が……」

怠惰「小さな村から洞窟まで全てを網羅するなんて到底できないわ。嫉妬がやろうとしていることは、今ある世界を支配することじゃない。新しい世界を作り上げることなのよ」

怠惰「そのためには、自分の王国に繋がれないような地域は破滅させてもいいとの考えよ。大罪の7つ装備の力を利用すれば、世界を破壊するのは容易いから」

怠惰「ねえ、勇者」

怠惰「世界を救って」
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:21:29.15 ID:plqGsBdE0
勇者「…………」

勇者「……冗談じゃない」

怠惰「!?」

勇者「世界なんて救うつもりはない」

怠惰「冗談で言ってるなら……」

勇者「冗談じゃない!冗談だなんて冗談じゃない!!」

勇者「世界が嫌いなんじゃない。歩み寄っても受け入れられない、自分自身が大嫌いだった!」

勇者「それを認めたくなくて、世界が嫌いだなんて自分に嘘をついているうちに、本当に世界のことが嫌いになってしまった」

勇者「でも、そんな自分のことを、許してくれる存在がたった一人だけ現れた」

勇者「だから……俺は、その子のためだけに戦うよ。それがたまたま、世界を救うことにつながろうが、知ったことじゃない」

怠惰「……まわりくどいわね。以前にまして、ひねくれものね。良い開き直りっぷり」

怠惰「おかげさまで、あんたがあいつを倒しても、あんたが死んでも、どっちにしても気が晴れそうだわ」

勇者「それはよかった」
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:30:46.27 ID:plqGsBdE0
怠惰は教会の出口へと歩んだ。

勇者「どこへ行くんだ」

怠惰「あんたがいる以外のどこか」

勇者「正解だな」

怠惰「あなたは、償えないわよ」

勇者「うん」

怠惰「今から世界中の人を救っても、そのことに変わりはないわ」

勇者「うん」

怠惰「でも。それは私も同じこと」

怠惰「私は、大切な感情の1つを乗り越えることができなかった。それがきっと、怠惰の感情」

怠惰「つまり、人間らしさを許すことをできなかったのよ」

怠惰「あーあ。嫌だわ。悪人が目の前にいるのに、自分を嫌悪してしまうこの世界なんて。滅んじゃえばいいのにね」

勇者「…………」

怠惰「今はもう滅んでほしくないのかしらね」

怠惰「ねえ」

怠惰「命懸けで、助けに来てくれたこと、感謝するわ」

勇者「……うん」

怠惰「それじゃあね。勇者」

勇者「うん。怠惰」





勇者・怠惰「さようなら」
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:47:27.54 ID:plqGsBdE0
遊び人「……よっこらしょ。って、なんじゃこの血の海はぁああ!!?」

勇者「…………」

遊び人「無反応だし」

遊び人「あれ、怠惰の勇者は?」

勇者「……パーティから出ていった」

遊び人「そっか」

勇者「…………」

遊び人「これだけ血液を生み出せる方法があれば、賢者の石つくれちゃう気がするんだよねぇ」

勇者「…………」

遊び人「…………」

遊び人「私は、出ていかないからね」

勇者「…………」

遊び人「ギャンブルで遊ぶお金がなくなっても」

遊び人「精霊の加護がなくなっても」

遊び人「早起きしなくても。魔物と戦わなくても」

遊び人「私のパーティは、勇者だけだよ」

勇者「…………」ポロポロ…

遊び人「ほら、こっち向いて」

勇者「なんだよ……」





遊び人「ただいま」



勇者「……ああ!!」

勇者「おかえり!!」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 00:59:13.76 ID:h5HxVKtb0
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 02:23:12.37 ID:8b7CRenDO
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:20:46.22 ID:9XHV72F70
【嫉妬の勇者の思い出】

〜思い出 1〜

女奴隷「わたしたち、自由よ!!」

青空の下。

女奴隷は、自分を地獄の王国から連れ出してくれた男奴隷に言った。

嫉妬「慣れないものだな。枷をつけられて生きてきたせいで、自由を後ろめたく感じる」

女奴隷「わたしはずっと夢見てた。地獄みたいなこの人生を、救ってくれる何かが起こるって」

女奴隷「そしてあなたに救われた。私が白衣の男たちによってひどい目に遭わせられているときも、いつも味方でいてくれた」

嫉妬「……俺はただ」

女奴隷「勇者は、優者」

女奴隷「人にやさしくすることもまた、選ばれし者にしかできない行為なのよ」

嫉妬「自由に浮かれて綺麗事を話すか。生きることは地獄の塊だったはずだ」

女奴隷「綺麗事を抜きにしたら、何も話せなくなっちゃうわ。だって、生きることは本当に綺麗なんだもの」

女奴隷「私はこの世界が大好きよ。長生きしたいと思うくらいに」

嫉妬「長生きか。そんな言葉ろくに口にしたこともなかった」

女奴隷「さっさと死んでしまいたかった?」

嫉妬「ああ」

女奴隷「どうして死ななかったの?」

嫉妬「何か起こるかもしれないと期待していたからな」

女奴隷「そして起こった」

嫉妬「…………」

女奴隷「私達もこれで、立派な冒険者の仲間入りよ」

嫉妬「魔王なんぞに挑むほど、俺はこの世界を救いたいとは思っていないぞ」

女奴隷「それは私も。とにかくね」

女奴隷「この世界が大嫌いでも、長生きしたいと思える人と出会えたら、それはやっぱり生きててよかったってことなのよ」

女奴隷は笑った。
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:21:25.69 ID:9XHV72F70
〜思い出 2〜

女奴隷「……ガハッ!!ガハッ!!」

嫉妬「どうした!!何故棺桶が出現しない!!」

巨大なネズミ型の魔物を撃退したあと、女奴隷が激しく咳き込んだ。

嫉妬は混乱に陥りながらも、どうぐ袋に入れていたやくそうを女奴隷に使用した。

しかし、効果はまったくなかった。

「生死には全く影響を及ばない呪いだからね。菌、と呼ぶんだ。毒と似たようなものだけど、そこらのやくそうでは治せないよ」

青い服を身にまとった男が突如現れた。

嫉妬「誰だお前は……僧侶か?」

「そんなに出来た存在じゃない。鼻持ちならない職業さ」

男は自分の額を指で叩いた。

「失礼するよ」

男は女奴隷の胸部に手を置いた。

嫉妬「お前!!何をする!!」

「解決するのさ」

賢者「それが僕の職業の役目だからね」
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:22:51.25 ID:9XHV72F70
〜思い出 3〜

今夜も、女奴隷は賢者の語る物語をうっとりと聞いていた。

賢者「道具屋の娘に失恋した夜に、鍛冶屋の青年は嘆いた。世界は、なかなか認めてくれないものだと」

賢者「死んではいけないと言ってくれる人はたくさんいても、あなたと生きたいと言ってくれる人は1人も現れてくれないと知った」

賢者「彼の親友は励ました。今まで積み上げたものがなかった者でも、意思の切り替えによって、一日にして何もかもが変わることもあると」

賢者「そして鍛冶屋の青年は決めた。今まで嫌々してきた、代々引き継がれてきたこの仕事で輝いてみせようと」

賢者「彼は細長い筒に、魔法を取り入れることを試みた。それが今の魔法銃の起源だと……」



…………

女奴隷「……zzz」

賢者「もう寝たか。あれだけせがんできたのに」

嫉妬「子供のようなやつだからな」

賢者「なあ、僕の話は退屈だったか?」

嫉妬「そんなことは決してない。何故?」

賢者「嫉妬が退屈そうな表情をしていたからさ。心配になったんだ」

嫉妬「退屈なものか。毎晩毎晩、人に語れるだけの話をよく引き出してこれるものだと感心していたほどだ」

賢者「それは褒められているのかな?」

嫉妬「生まれも育ちも違うからな。かなわない」

賢者「……そんなことないさ」

嫉妬「何を言う。魔法使いの都の出身なんだろう?」

賢者「これを旅の仲間に話すのは生まれて初めてかもしれないな」

嫉妬「何だ?実は王子様か?」

賢者「実は僕も、奴隷出身なんだ」



賢者の男は、照れくさそうに笑った。

どういうわけかもわからないが。

嫉妬はこの時、自分の胸の中に、紫色に鈍く光るものを感じた気がした。
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:23:33.32 ID:9XHV72F70
〜思い出 4〜

キスをしていた。

女奴隷が賢者に惹かれていることはわかっていた。

それでも、救世主である自分を選んでくれると信じていた。



翌朝起きると、2人は何でもないような顔をして話しかけてきた。

パーティメンバーを一人追加しよう、賢者が言った。

賛成よ、と女奴隷が言った。女性の仲間がほしいわ、と。

どういうつもりなのだろう。

もうひとりの女と俺が結ばれれば、自分達の仲も隠す必要がなくなるとでも考えているのだろうか。

俺はパーティメンバーを増やすつもりなどない。



減らせばいいのだ。
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:27:27.75 ID:9XHV72F70
〜思い出 5〜

女奴隷「どうして賢者を殺したの!!」

激しい雨の中。

賢者は血を流したまま倒れていた。

嫉妬「……彼には、故郷に妻がいる」

嫉妬「酔った勢いで打ち明けてきた。君は旅の間だけの女だって。遊び相手に過ぎないと」

女奴隷「嘘よ!!」

嫉妬「僕を疑うというのか」

女奴隷「あの人を信じているのよ!!」

嫉妬「信じたい気持ちと真実には何の関係もない」

女奴隷「どうして殺したのよ!!」

嫉妬「許せなかったからだ!!」

女奴隷「どうしてあなたが!!」

嫉妬「君のことが好きだからだ!!」

女奴隷「…………」

嫉妬「もう一度、2人で冒険をやりなおさないか」

嫉妬「自由を感じていたあの頃に戻ろう。二人だけで、行きたい場所にだけ行って、それで……」

女奴隷「…………あなたの気持ちはよくわかった」

女奴隷は短剣を取り出した。

嫉妬「何をする!!」

女奴隷「錯覚を守るためなら、人は命懸けで狂うのよ。信じたことを真実にするの」

女奴隷「わたしは、あなたの物にはならない」

女奴隷は、短剣で自身の首を切り裂いた。

女奴隷は血しぶきをあげ、地面に倒れた。

女奴隷は死亡した。

嫉妬「……棺桶が出現しない。パーティから抜け出したということか」

嫉妬「……ふ。ふふふふ!」

嫉妬「俺は、選ばれなかったというわけか!!!」

嫉妬「ははははは!!!!」

嫉妬「ヒヒヒヒヒ!!!ハハハハハ!!!」

嫉妬は二つの死体の横で、狂ったように笑い転げた。

それは世界では、ありきたりな痛みであっても。

生まれてから奴隷として育った嫉妬にとっては、世界はあまりにも小さすぎた。

1つしか希望のない世界から、その1つが奪われた時。

嫉妬の中の何かが壊れた。
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:28:59.62 ID:9XHV72F70
〜思い出 6〜

「どうされましたか?何かよくないことでも……」

馬車の中から降りてきた若い女の魔法使いが、嫉妬の顔色を心配して尋ねた。

今や、嫉妬の仲間は30人を超えていた。

しかし、精霊の加護が及ぶパーティメンバーとしては誰一人として選出されていなかった。

嫉妬「なんでもない……悪い夢を見た……」

「貴方様にも、そういうことがあるのですね」

魔法使いは小さな笑顔を見せた。



「嫉妬様、緊急のご報告です。さきほど戦士が、深手の傷を負って帰ってきました。今は僧侶が治療中です」

嫉妬「相手は?」

「女一人です。高価な装備を揃えていたので、金目のものを奪おうと戦士は考えていたようです……」

嫉妬「勝手な真似はするなと言っただろう。相手は魔法使いか?」

「それが、戦士はうめきながら、こう言ったんです」

「雷に、襲われたと……」

嫉妬「……女勇者か。面白い」

嫉妬は剣を握った。

今や彼の強さは、他の勇者の中でも群を抜いていた。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:31:33.42 ID:9XHV72F70
〜思い出 7〜

怠惰「貴方様は、何を目指しているのですか」

怠惰は嫉妬に尋ねた。

嫉妬「……どういう意味だ」

怠惰「気分を害されたのなら申し訳ございません」

怠惰「ただ、あなたは嫉妬の首飾りを手に入れ、この国を治め、魔王を撃退し捕縛しました。今や世界最強の勇者です」

怠惰「なのに、あなたは全く満たされていないようにみえます。今はまだ何かの途中にしか過ぎないと」

嫉妬「そう見えるか」

怠惰「はい」

嫉妬「埋められない心の穴がある場合、どうすれば良いと思う?」

怠惰「代わりのもので満たす、ですか?」

嫉妬「新しい心に取り替えるのだ」

嫉妬「俺はこの世界に復讐を果たす。永遠にな。俺以外の全ての人間が、地獄を見続ける世界にさせてやるのだ」

嫉妬「数え切れぬほどの人が住まうこの世界で。自分以外の幾千幾万を超す全ての人間が、自殺を図る光景はさぞかし美しいとは思わんか?」

うっとり笑う嫉妬を見て、怠惰は恐怖に震えた。

そんな怠惰の頭に、嫉妬はやさしく手を置いた。

嫉妬「お前は見捨てないでやろう。俺の隣で黙って見ていろ」

怠惰はその言葉に感激し、安堵して目を閉じた。



嫉妬には人を惹き付ける不思議な魅力があった。

それは、創られた魅力であった。

自分が他者に打ち明けた真心を裏切られた人間は、虚飾を磨く生き方に変わる。

あるがままの自分というものを捨て、嫉妬は世界を手に入れるのにふさわしい自分を演じ続けた。

かつて手に入れられなかったものが手に入るようになった嫉妬は、しかし満たされなかった。

それはもはや、自分自身ではないからだ。

嫉妬「……どうすれば、満たされるかだと」

嫉妬「俺以外の全ての人間の心を、空虚で満たした時であろう」

失われたものを、取り戻すのではない。

得られなかった世界を、嫉妬は壊そうとしていた。



嫉妬の勇者達 〜fin〜
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:37:59.97 ID:9XHV72F70
次回で最終章です。去年の夏から書き始めましたが、今週中に完結する予定です。
ネットで読むには大変な量の物語ですが、お付き合い頂きありがとうございました。
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 02:00:12.29 ID:NdpHUhQDO

終わっちゃうのか…
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 08:34:33.13 ID:eLiqNQsDO
全裸待機
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 18:47:01.82 ID:lRAHu/8S0
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:15.06 ID:ih6hDcQ/0
お姫様「ねえ、そこのあんた。勇者って奴のことを知らないかしら」

奴隷「……存じておりません」

お姫様「あっそ」



お姫様「どうして私がこんな仕事を……。これで今日何人の奴隷と話したことか」

案内人T「ふぁーあ」

お姫様「あいつも奴隷の格好してる。サボってるように見えるけど」

お姫様「ねーねー。あんた勇者って奴のこと知ってる?怠惰の牢獄の地の出身なんでしょ」

案内人T「知ってるよー」

お姫様「ラッキー!!じゃあさ、あいつの両親が今どこにいるか知らない?この王国で奴隷として働いてるのかしら?」

案内人T「勇者の親かー」

案内人T「父親はどこかで生きてるかも知らないな。母親は昔に亡くなったんじゃなかったっけ」
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:56.68 ID:ih6hDcQ/0
勇者「止まって」

遊び人「えっ?」

勇者「罠がある」

草むらの中を歩いていた遊び人が足元に目を凝らすと、毒矢の罠が仕掛けてあった。

遊び人「うわっ!ほんとだ!よく気づいたね」

勇者「細い糸が空中に光った気がしてさ」

遊び人「勇者、なんだか変わったね」

勇者「俺が立派になりすぎて寂しくなったか?」

遊び人「誇らしいよ。でも確かに寂しいかも」

勇者「なんだそりゃ。心配すんなって。俺がいくら最強になろうとも、俺は俺のままだぜ」

勇者が照れながら歩いていると石に躓き、木に固定されていた毒矢の本体に首から刺さった。

遊び人の前に棺桶が現れた。

遊び人「…………」

遊び人「一生心配するっての!!」
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:22:37.80 ID:ih6hDcQ/0
ズゴゴゴ!!ズゴゴ!!

遊び人「重い!!棺桶引きずるのにブランクあったからな」

遊び人「えーっと、この先に村が一個あるんだったな。教会で蘇らせてもらおうっと」




〜教会〜

遊び人「蘇らせてください」

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「はいはい。25G」

神官:お金が足りません

遊び人「えっ、出してるよ」

遊び人は25G差し出した

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「…………」

遊び人「ええぇえええええええ!!?」



神官:おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。

勇者「ぷはぁ!!」

勇者「あれ、遊び人のやつ棺桶に入ってやがる」

勇者「魔物にやられたのかな。それとも引きずるのがめんどくさくなって自殺したとか?」

勇者「困るんだよなぁ。遊び人の蘇生代馬鹿高いんだから」

勇者「でもおかしいな、この村初めて来た気がするんだけど……まあいっか」

勇者「遊び人を蘇らせてくれ」
神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「ひょえー。仕方ない。頼む、蘇らせてくれ」

神官:承りました

神官:遊び人の御霊を呼び戻し給え
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:23:24.33 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「…………」

勇者「蘇ったな。なあ、魔物にやられたのか?引きずるの大変かもしれないけど遊び人の蘇生代金ってかなりの値段が……」

遊び人「勇者様」

勇者「うん。ん。ん?さま?」

遊び人「私めの命に比べてあなたの命があまりにも尊かったので、もう死ぬしかないと……」

勇者「いやいやどうしたいきなり。神官、呪いか毒がかけられてるみたいなんだけど」

遊び人「私と離れていた短期間で精霊の信頼をそこまで勝ち取るなんて……」

遊び人「もはや私三人分よりも価値ある人間に……」

勇者「意味わかんねえって。それより飯食いに行くぞ。旨いもの食おうぜ」

遊び人「ご一緒させて頂きます」

勇者「うわーやりづれぇ」
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:25:27.77 ID:ih6hDcQ/0
ふたりは、暇だった。

嫉妬の王国の自動感知呪文は、封印の壺に対象を設定をされている。

一度勇者達の持つ大罪の装備に対象を定め直した場合、またこの世界の全てから対象物以外の要素を差し引く必要があるため、膨大な時間がかかる。

だから、封印の壺が割れるまでは、嫉妬の王国が勇者達を見つけることはない。

魔王城に踏み込むのであれば、封印の壺に入った暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れてから向かうのが賢明であった。

一度、強欲の都の近くにあった転職神殿の占い師に相談をしても、同じような回答が返ってきた。

それまでの時間、2人はとくに生き急ぐわけでもなく、今までのようにのんびりと冒険をしていた。



そして、幾日が過ぎた。
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:26:32.26 ID:ih6hDcQ/0
〜ほらあな〜

夜中、勇者はふと目を覚ました。

勇者「あれ、遊び人?」

首を動かして辺りをみまわしても、遊び人の姿は見えなかった。

ふと、自分のお腹の上に使い古された赤色のメモ帳が乗っているのに気づいた。

“お花をつみに行ってきます”



遊び人「あら、起きてる」

勇者「お花は見つかったか」

遊び人「排泄しながら探したけど見つからなかった」

勇者「いやもうそれ綺麗な表現で隠そうとした意味ないから」

遊び人「寝起きなのにツッコミ頑張るなぁ」

遊び人は勇者の隣に寝転んだ。

遊び人「冒険譚はそこらへんの描写が甘いよね。魔王との決戦中に尿意を催すことだって現実ではあり得るのにさ」

勇者「世界の半分はいらないから、尿意の半分でも消してくれとか心の中で願うんだろうな」

遊び人「描写するに値しない些細なことが大切だったりするからね」

勇者「本当だよ。新品の革靴履いて足にできたマメが痛いとかな。毒地でもないのに歩く度にダメージ負うからな」

遊び人「職業が遊び人だと自己紹介する時にけっこう世間に気まずい思いをするとかね。賢者見習いとか言うけど杖も持ってないとかね」

勇者「戦闘中も、敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に『やべ、財布落としちゃうかも……』とか気になったり」

遊び人「うふふふ」

勇者「あれ、今のそんなに面白かった?へへ」

遊び人「ねえ、気づいてた?」

勇者「なにが?」

遊び人「ここさ。私達が暴食の村につく前に寝ていた洞窟じゃない?」
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