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勇者「遊び人と大罪の勇者達」
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675 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/28(水) 23:49:17.54 ID:HzPjqMxl0
乙
676 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 00:25:21.81 ID:Z7HvKCQr0
〜小さな村の牢屋にて〜
勇者「なんで畑の食べ物なんて盗んだんだ」
遊び人「わたし、冒険に疎くて。地面に食料が実ってる地域にたどり着いたと思ったんです」
勇者「あるのかそんなこと。というか仲間はいないのか」
遊び人「……いません」
勇者「そうか。金はあるのか?金を出せば許して貰えるかもしれない」
遊び人「お金がないから食べ物に困ってたんですよ」
勇者「カジノに行くくらいに余裕あったんだろ」
遊び人「カジノに行ったからですよ」
勇者「…………」
勇者「生活費を全てギャンブルに注ぎ込んだのか?」
遊び人「恥ずかしながら……」
677 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 00:29:11.20 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「困りました……」
勇者「俺はこの前あんたの世話になったからな。なんとかして助けてやりたいが、いかんせん俺も金に困ってるんだ」
遊び人「今は何をされてるんですか?」
勇者「この村で短期間の労働だ」
遊び人「囚人の監視ですか?」
勇者「ちがうよ。家畜見張りだよ。ついでにあんたの見張りも頼まれてるだけだ」
遊び人「えっ」
勇者「餌やりの時間だから行ってくる。ほら、これはあんたの分だ」
遊び人「今や私は家畜同然ですか」
678 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 00:40:59.42 ID:Z7HvKCQr0
ゴゴゴゴゴ……
勇者「うわわわ!!なんか凄い魔力の波動が!!」
勇者「あの女の牢屋から気配が!!」
タッタッタ…
勇者「何をしている!?」
遊び人「…………」
勇者「……どうして逆立ちしてるんだ」
遊び人「脱獄しようと思って……」
勇者「なるほど。それで逆立ちしたわけか」
遊び人「はい」
勇者「なんでだよ!!」
遊び人「なんか呪文を唱えようとすると遊んでしまうみたいで」
勇者「なんだそりゃ」
遊び人「地に足をつけて生きられない呪いなんです」
勇者「手はついてるけどな」
遊び人「脱獄には逆転の発想が必要ですから。逆立ちだけに」
勇者「…………」
遊び人「ところで、腕が限界なのでもう降りていいですか?」
勇者「好きにしてくれ」
679 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 00:47:39.67 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「あれ、教えてくださいよ」
勇者「なんだよ」
遊び人「私の前から一瞬で消えたじゃないですか。魔力の気配を一切出さずに。あんな特技が外界にはあるんだなって」
勇者「なんだよ外界って」
遊び人「あれができれば私もこの牢屋から脱獄できます」
勇者「やり方は簡単だ。毒針を自分の首に突き刺すだけだ」
遊び人「死にますよね?」
勇者「うん。死ぬ」
遊び人「でもあなたは生きている」
勇者「完全には死んでないからな」
遊び人「なんですかそれ。ゾンビみたいですね」
勇者「アンデット系男子」
遊び人「ちょっとかっこよく聞こえます」
680 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 00:57:36.00 ID:Z7HvKCQr0
勇者「ギャンブル系女子に仲間はいないのか」
遊び人「その響きはかわいくないですね。ちなみに酒場に行って仲間の募集を探しに行ったりはしましたよ」
勇者「どうだった」
遊び人「お酒が苦手だということが判明しました」
勇者「それは残念だったな。ところで仲間の募集についてはどうだ」
遊び人「ろくに戦闘のできない遊び人を仲間にいれたがるのはろくでもない男ばかりに見えました」
勇者「そうだろうな」
遊び人「自分がろくにならないと見合った禄は与えられないというわけです」
勇者「一理ある」
遊び人「あなたはどうでした?行ったことあるんでしょ?」
勇者「ろくに戦闘をしようとしない勇者を仲間にいれたがらないのはまともな冒険者に見えました」
遊び人「えっ、ろくに戦闘をしようとしないんですか」
勇者「だって戦うのってしんどいから。ああでもないこうでもないと言い訳を並べて戦闘から逃げ続けてきた」
遊び人「世界平和は勇者ではなくあなたのような人が生み出すのかもしれませんね」
勇者「そうだな。勇者なんてろくでもない職業だ」
遊び人「でしたら遊び人はろくでもある職業ですね」
勇者「ああでもないしこうでもないけどろくではある職業」
681 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 01:07:24.85 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「そこで何をしてるんですか?」
勇者「鳥の数を数えてる。仕事のうちの1つだ」
遊び人「誰の役に立つんです?」
勇者「これをすることで俺にお金が手渡されて俺が助かる」
遊び人「もっといい人助けがあるんですが」
勇者「どんな」
遊び人「逃してくれませんか?」
勇者「俺の仕事がなくなっちまう」
遊び人「この前助けてあげたでしょ!!」
勇者「そんな悪く無いじゃん、この環境」
遊び人「この牢屋に入れられてもみてよ」
勇者「俺が立ってる場所もあんたが座ってる場所も大して変わりないだろ。むしろ俺は勤務中は立ちっぱなしだから疲れるんだ」
遊び人「いいところに気が付きました。そう、あなたは労働という檻の中に閉じ込められているのです。そこで1ついいことを教えてさしあげましょう。実はこの檻の内側だと思われている私の寝ている場所こそが世界で唯一の外であり、この檻の外側だと思われている世界全てが檻の中なのです。さあ、檻をあけてください。そして入れ替わりましょう。外の世界は目と鼻の先ですよ」
勇者「シラフなのに飛んだ発言をするのはやめてくれ」
遊び人「それを言うなら逆立ちもしていないのに逆転の発想はやめてくれ、でしょ。私お酒飲めないんですから」
勇者「ただの天然か」
遊び人「天然ってなんですか?」
勇者「そういうとこだよ」
682 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/05(木) 01:20:57.50 ID:Z7HvKCQr0
勇者「俺もあんたも金がないだろ。ここでなら飯は食える」
遊び人「家畜の餌食べさせられてるんですよ」
勇者「俺だって同じもん支給されてるぞ」
遊び人「えっ!?そうなんですか!?あははは!!」
遊び人「ごめんなさい、今ちょっと笑いそうになっちゃいました」
勇者「思いっきり笑ってたな」
遊び人「私をここに閉じ込めている理由は何なのでしょう。こんな小さな村だから、私以外に囚人もいないみたいです。もしかして、私自身も家畜とみなされていて、食べられるまでここで飼育される運命なのでしょうか……あわわわ……」
勇者「さあな。俺だってこの村に来たばかりでろくに情報を教えてもらっちゃいないんだ」
遊び人「あなたも最後には村人の餌にされてしまうかもしれませんよ?」
勇者「それは困る」
遊び人「一緒に逃げましょうよ。さぁ、ここの鍵をあけてみましょう。大丈夫、私がついているから。やらずに後悔するより、やって後悔するほうがいい」
勇者「励ます風にしたらやると思ったら大間違いだぞ」
遊び人「やって後悔するより、やらずに後悔するより、他人にやらせて後悔させる方が良い」
勇者「うわ、最低なこと言ったよ。うまいこと責任俺に背負わせて逃げ出すつもりだよ」
遊び人「家畜として、社畜の隣で生涯を終えるとは思いませんでした」
勇者「誰が社畜だ」
683 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/05(木) 04:01:40.05 ID:AZBWYvaT0
乙
684 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 17:13:26.70 ID:D6bjl4o10
ガヤガヤ…
勇者「なんだか外が騒がしいな」
遊び人「お祭りでもやるんでしょうか」
勇者「だとしたら何か生贄を捧げる儀式でもする可能性があるな」
遊び人「ちょっと!怖いこと言わないでください!」
勇者「ふわふわの綿毛に囲まれながら、甘いクリームをお口いっぱいに頬張るのだ」
遊び人「怖いことを言うなって言ったんです。かわいいことを言えなんて言ってません」
バタバタ…
村人「おーい、日雇い!村長さんがお呼びだで!!」
勇者「俺は日雇いじゃない!!期間契約の労働者だ!!」プルプル…
遊び人「怒ることではないでしょう」
村人「そこの女も連れて来いとのことだ」
遊び人「えっ……あの、許してくれるんですか?」
村人「詳しいことは村長さんに聞きな。早く行くべ」
勇者「そうだ。早く行くぞ、7番」
遊び人「……この男ぉ……」
685 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 17:20:36.68 ID:D6bjl4o10
広場を通り過ぎると、一人の青年を村中の人が囲っていた。
勇者「あれは誰ですか?」
村人「吟遊詩人だ。昔この村から冒険に出て、今日ついに帰ってきたんだ」
遊び人「昔から有望な少年だったんですか?」
村人「罪人は口を慎むんだな」
遊び人「…………」
勇者「昔から有望な少年だったんですか?」
村人「そうだとも。呪文を使える者なんてほぼ皆無のこの村で、あの子だけは呪術を使用できたのさ。すっかり大きくなっちまって」
勇者「へえー、そうなんですね」
遊び人「(私の代わりに質問してくれた……気を遣ってくれたのかな)」
遊び人「あの、ありが……」
勇者「へっへーん!労働者の俺は罪人のあんたと違って、質問に答えて貰えるべさ!」ニヤニヤ
遊び人「…………」
686 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 18:09:03.97 ID:D6bjl4o10
村人「連れて参りました」
村長「うむ。下がってよろしいい」
村人「はっ」
ガチャリ…
村長「……さて。いきなり本題に入ろうかの」
勇者「そうですね。私の賃金の支給に関して」
村長「この村では毎年、大蛇の魔物に生贄を捧げておる」
遊び人「えっ……」
村長「その表情、理解が早くて助かるわい」
村長「今年はあんたが生贄になるんじゃ。村娘からこれ以上犠牲者は出せん」
遊び人「はいわかりました、と素直に言えるわけないでしょう。にげだしますよ」
村長「あの道具を置いてか?」
村長は鉄製の箱の中に入れられている道具袋と壺を指さした。
村長「あんな材質の壺、触れたこともない。貴重なものなのじゃろう?壺の中は見えないくせに、手を入れても何も入っておらんかった。何か特殊な用途のものに違いない」
村長「そこでじゃ。生贄を要求する魔物を無事討伐できたら、持ち物ごとお主を無罪放免にしてやろう」
遊び人「私の職業は遊び人です。戦闘なんて出来ません。近くの王国から兵士でも要請すればいいでしょう」
村長「……ふぉっふぉ」
村長「近くにあった王国は既になくなったのじゃよ」
遊び人「大蛇に滅ぼされたのですか」
村長「より肥沃な土地を求めて国民ごと大移動しただけじゃ。あの王国があった頃は魔物も手を出してこんかった」
村長「王国という脅威が去ってから、魔物はこの村から生贄を要求してくるようになったのじゃ」
687 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 18:10:44.48 ID:D6bjl4o10
遊び人「その生贄に私がなれというのですか」
遊び人「定期的に生贄を要求するような魔物なら、知能が高く、言語もある程度理解できるのでしょう」
遊び人「私は正直に、よその場所から来た冒険者だって伝えます。それでも魔物は認めてくれるのでしょうか」
村長「怒りをかってもいいんじゃよ。わしらも命がけじゃ」
遊び人「えっ?」
村長「ここの地域一帯に魔法を使えるようなものはろくにおらん。神から見捨てられたようなこの土地で、ほそぼそと生きることを望むだけの我らに、精霊は力を貸そうとはしてこなかった」
村長「しかし、ついに今日、一矢報いる可能性が帰ってきたのじゃ」
遊び人「さっきの吟遊詩人……」
勇者「一人の魔法使いに頼って、大蛇を倒そうというのですか?」
村長「そのとおりじゃ」
688 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 18:12:35.00 ID:D6bjl4o10
遊び人「危険だわ!!近くに国がないのなら、強力な冒険者が来るのを待ったほうが……」
村長「こんな土地に強き冒険者など来ないわい。それに、他の国に強さを借りるという発想はもちろんしたわい」
村長「力だけでは勝てんのは百も承知じゃ。力と智をあわせてこそ強大な力となりうる」
勇者「智とは何のことですか?」
村長「村1番の賢き者を、税金でMBA取得のためよその都の留学に行かせたのだ。数年前のことじゃがな」
遊び人「えむびーえー?」
勇者「それで帰ってきたのがあの吟遊詩人?」
村長「いや、わしじゃ」
勇者「お前かよ!」
689 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 18:13:13.50 ID:D6bjl4o10
村長「魔法こそてんで駄目じゃが、学識の方はお手の物じゃわい」
村長「特技としてSWOT分析を修得しておる」
遊び人「すうぉっとぶんせき?」
村長「たとえば、そこの雇い人」
勇者「はい」
村長「あんたを主軸に、大蛇と戦うことを想定した場合はこうなるじゃろう」
カキカキ…
勇者「どれどれ?」
・強み…弱みの数の多さ。
・弱み…身体弱そう。おつむ弱そう。根暗そう。貧乏そう。女子苦手そう。挙動不審。
・機会…この時期は花粉が少なく、花粉への炎症持ちでも大丈夫。
・脅威…わし
勇者「強みが強みじゃねーしなこれ!てか弱み多すぎだろ!!」
690 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 18:30:38.30 ID:D6bjl4o10
〜牢屋〜
遊び人「説明を一通り聞いてまたここに逆戻りです……」
勇者「仕事の期間延びた!やったった!こんな楽な仕事今までなかったし!!」
遊び人「はぁー」
勇者「気を落とすなって。なんとかなるって」
遊び人「なんとかなるのはなんとかしようとしてきた人だけですよ」
勇者「堅いこと言うなよ」
遊び人「あの、お願いですからあれのやり方教えてくれませんか」
勇者「あれってなんだよ」
遊び人「私の前から消えた奴ですって」
勇者「……無理だよ」
遊び人「あんな転移の方法なんて見たことないです。呪力の気配もないし、特技でも聞いたこともないし」
遊び人「自殺の行動を取ったあとに蘇るなんて、まるで冒険譚に読んだような……」
遊び人「…………えっ。うそ」
遊び人「あなた、もしかして……」
勇者「もう消灯の時間だ。また明日な、7番」
遊び人「ちょっと!!!」
トコトコトコ…
691 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 19:04:58.36 ID:D6bjl4o10
〜翌日〜
遊び人「あなた、勇者なんでしょう!!!」
勇者「…………」
勇者「朝の第一声で昨日のテンションを引きずって来るなよ。いい感じで途切れたのに」
遊び人「パーティを結成することで発生する精霊の加護。それによる教会への転移があの瞬間移動の正体だったのですね」
遊び人「お願いです!私を仲間にしてください!!」
勇者「精霊の加護目当てか?」
遊び人「……否定できません」
勇者「それとも、身体目当てか?」
遊び人「否定します。精霊の加護目当てです」
勇者「……やだよ」
遊び人「どうして!!」
遊び人「あなたにどんな信念があるか知りませんが。人の命がかかってるんですよ!!」
勇者「確かに俺を冤罪から救ってくれた恩人ではあるが……」
遊び人「大蛇を倒せなかったら、村娘が毎年攫われて……」
勇者「はっ?」
勇者「自分を牢屋に入れてる村の心配している場合かよ。あんたの生き死にがかかってるんだぜ」
遊び人「……たしかに、そうですね」
遊び人「では、助けてくれるんでしょうか」
勇者「わかったよ。パーティの結成も解除も簡単だ。俺があんたをパーティと認めて、あんたも俺をパーティと認めてくれれば結成できる」
勇者「おそらく俺が前回訪れた小さな町の教会で復活する。そこで復活して、それでパーティを解除して、俺もあんたも晴れて自由の身だ」
遊び人「……駄目です」
勇者「何がだよ。例の大切な壺か?諦めろって」
遊び人「それもありますが……村を裏切るなんて」
勇者「ちょ、ちょっと。お前それ本気で言ってんの?」
遊び人「私の里は滅んだんです。だから、この村が大蛇によって苦しめられているのを放っておくことなんて」
勇者「じゃあどうするんだよ。戦うのか?俺は嫌だぞ」
遊び人「勇者なのに戦わないのですか?」
勇者「勇者じゃねーよ。ふざけんな」
遊び人「な、何なんですかじゃあ」
勇者「俺は、人殺しだ」
勇者は家畜の餌やりに向かうと、その日は中々戻っては来なかった。
692 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 19:07:33.32 ID:D6bjl4o10
〜翌日〜
遊び人「私は、寿命泥棒ですから」
勇者「朝からなんなんだよ」
遊び人「時間が無いんです。だから、本音で話し合わないといけないんです」
勇者「戦闘準備を整えているらしいな。あと数日で出発だとか」
遊び人「寿命ですよ」
勇者「寿命?」
遊び人「私の寿命には、限りがあるんです。それも、人よりとても短く」
遊び人「あなたが自分を殺人者だと言った一言には、きっと過去の深い意味が込められているのでしょう。それを掘り起こされたくなければ、私は掘り起こしません」
遊び人「私が寿命泥棒だと言った一言には、過去の深い意味が込められています。それを掘り起こしたくはありませんが、今あなたに伝えるべき内容だと確信しています」
勇者「俺の協力を得るためか?」
遊び人「はい」
勇者「俺があんたに同情して何でも協力してやると言ったら、どうするつもりなんだ?」
遊び人「魔物に大人しく食べられます」
勇者「それで?」
遊び人「死んだらすぐ教会に転移して逃げ出せます」
勇者「俺があらかじめ死んでいた場合は、口の中に入ったあんたが急に消えることになる。俺が生きていた場合は、口の中に入っていたあんたが棺桶にかわり、大蛇の口に広がることになる」
勇者「食べさせたと錯覚させることは困難だぞ。それに、生贄ってのが食べることを意味するのかわからないじゃんか。もっと残酷な趣味のことを意味してるかもしんないんだぞ」
遊び人「…………」
勇者「まあ後のことはお前の好きにすればいい。過去のことについて話したいならどうぞ話してくれ。一日中暇だからな」
遊び人「……感謝します」
693 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 19:09:09.98 ID:D6bjl4o10
……
…………
………………
勇者「……なんだよ大罪の一族って。冒険譚に出てくるような話だったぞ。里が装備に吸い込まれたって。信じろっていうのかよ」
遊び人「信じなくてもいいから同情してください。この長い時間話したことが仮に全て嘘であったとしても、こんな嘘をつくくらいに追い詰められているんだと」
勇者「その7つの装備は人間の欲望を満たすことができ、さらに7つ集めれば吸い込まれた者達の寿命を吸収することができるんだったな?」
勇者「あんた、あと10年くらいしか生きられないんだろう?だったらさ、おばあちゃんになれるくらいまで寿命貰っちゃいなよ」
勇者「あんたに生きてほしいと思ってる人は、あの世にも、この世にも、たくさんいると思うぜ」
遊び人「……味方になってくれるんですか?」
勇者「割り切った関係でいいならな。あんたは精霊の加護を利用する。俺はあんたに一切手を貸さない」
遊び人「ありがとうございます!!!!」
694 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 19:15:02.26 ID:D6bjl4o10
勇者「ギャンブルで生活費なくして、俺以下の存在に出会えたと見下せていたのにな」
遊び人「酷いこと言いますね」
勇者「それは俺が酷い奴だからだよ。俺は俺が最低だって知ってるから、他人のことを最低だと言っても許されるんだ」
遊び人「あなたが最低なら、他人の人は最低にはならないでしょう。最低とは言わない方が敵も増やしませんよ」
勇者「理屈っぽいやつだな。これだからエリートは」
遊び人「別にエリートなんかじゃ……」
勇者「学習しない人、成長しない人は、世界中から疎まれる」
勇者「駄目なままでは、ダメですか、と聞きたいよ」
勇者「毎朝起きた時、いつも憂鬱だった」
勇者「毎朝眠いのは、毎晩寝る前に、明日を迎えたくなくて、寝なくちゃいけないのに夜更かしをしてしまったからだ」
勇者「不器用で弱い俺にとって、冒険は自己嫌悪と劣等感を味わう日々の連続に過ぎ無かったよ」
695 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 19:16:39.06 ID:D6bjl4o10
勇者「もしも明日世界が滅びるとしたら」
遊び人「えっ?」
勇者「よく周囲の大人から言い聞かされてた。嫌いだったなこの言葉」
勇者「どうする?明日しんじゃうって聞いたら」
遊び人「えーっと」
遊び人「移動の翼を体中につけて、どこまで飛べるか実験してみたいです」
勇者「純粋で良いな」
遊び人「あなたは?」
勇者「バニーガー」
勇者「植物でも眺めて過ごすかな」
遊び人「純粋で悪いこと言いかけましたね」
696 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 21:23:07.80 ID:D6bjl4o10
勇者「ちょっと前はさ、1つの明確な答えがあったんだ」
遊び人「世界が滅ぶ前日に何をしたいんですか?」
勇者「世界が滅ぶことを願う」
勇者「笑えるだろ。実話だ。俺はさ、精霊の加護を授かって、仲間と一緒に魔王討伐の冒険に出ててさ」
勇者「それでもその旅があまりにもつらくてさ。自分を否定する毎日が続いて。いっそ世界が滅ぼされてしまえなんて願ってた」
勇者「俺は精霊の加護こそ与えられているが、勇者じゃないんだよ」
勇者「戦いなんて大っ嫌いだ。争うのがいやとかじゃなくて、戦闘センスがなさすぎる」
勇者「精霊の信頼もないから魔法も1つも使えない。というか、自分が何の職業かもわからないくらいに特徴がない」
勇者「だからさ。間違っても、俺のことは勇者様なんて呼ばないでくれ」
勇者「もうあの頃のように、期待されて、それを裏切る日々には戻りたくないんだ……」
697 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 21:25:00.34 ID:D6bjl4o10
勇者「精霊の加護を目当てに、俺の仲間になりたいと言ってくれるやつはいたさ。結成しては、数日で解散して、みたいな日も実はあったんだ」
勇者「圧倒的な実力不足だった。他人より努力しても、剣術の腕は並に劣っていた」
勇者「呪文だってそう。世界が滅べと願う男に、精霊が信頼してくれるわけもない。頭を垂れてお願いしても何の呪文も使えず、命に数Gの価値しかない」
勇者「性格だってそう。魔王を倒そうという意識もない」
勇者「一番最初の仲間とは、冒険が進むに連れて段々険悪な雰囲気になった。『俺を棺桶に閉じ込めたままお前らで冒険してろ!!魔王を倒したら復活させてくれ!!』なんて言ったこともあった。殴られたけどな」
勇者「勇者でもないのに勇者の使命を与えられた。天職じゃなかったんだ。精霊の加護を与えられたばかりに無理やり故郷を追い出されて冒険に出された」
勇者「そんな俺と旅してると、強い志のもと冒険している仲間じゃ、ぎくしゃくしちまうよな。巨大な魔物を倒してるのをだまって後ろで見てるだけ。魔物を倒したあと長く歩く無言の時間がきつかった」
勇者「俺じゃなければよかったのに。俺じゃなくて、然るべきものがちゃんと精霊の加護を受け取っていたら……」
勇者「俺は毎日早起きしてまで世界を救いたくなかったんだ」
698 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 21:27:10.52 ID:D6bjl4o10
勇者「誰かと群れるのが嫌になって。独りで冒険を始めた」
勇者「いろんな場所にたどり着いてさ。のんきな街もあれば、殺気だった村もあって」
勇者「道具屋が冒険者にクレームつけられて土下座させられてたり、宿屋で変な客が暴れてたり、酒場で食い逃げした冒険者をぼこぼこにしたって話しを聞いたり」
勇者「ある屋敷の令嬢を慕っていた青年が、失恋の悲しみで無理心中したり。新呪文の開発のプレッシャーに押しつぶされた術士が自殺したり」
勇者「魔物と人間の殺し合いだけが苦しみじゃないこの世界で。みんな、どうして生きてるんだろうな。何のために頑張ってるんだろうな」
勇者「ただ生きるのって、どうしてこんなに大変なのかな」
勇者「何のために生きてるんだろう」
遊び人「…………」
遊び人「生きることは、つらいよね」
勇者「あんたみたいなやつでもそういうこと言うんだな」
遊び人「こっちのセリフですよ」
遊び人「私の一族なんて寿命も短いしさ。生きることを考えなければならないという焦燥感がある一方、そんなことを考える暇も無駄っていう諦観もあってさ」
遊び人「何のために生きてるかわからないけど」
遊び人「何のために生きてるかわからないのに生きてることが、生きる価値の裏付けにもならないかな」
遊び人「人間には何か成すべき一事があって、それを成すために生きている。って考えると楽だけどさ」
遊び人「私が思うのはさ。生きることの意味は、生まれる前や、まして死んだ後にできるものではなくて」
遊び人「今、生きているこの時間、この私の中にあるものなんだと思う」
遊び人「お母さんはね。ずっといたい人とずっといるために生きてるんだって言ってた」
遊び人「もう、死んじゃったんだけどね」
遊び人「でも、故人を偲ぶ時間も、苦しみそのものだけど、生きている大切な理由の1つに違いないよね」
遊び人「つらくても、生きるんだよ。大切な人との時間を重ね続けていくために」
勇者「…………」
勇者「俺には、そんな相手は……」
ガチャリ
699 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 21:40:53.91 ID:D6bjl4o10
〜出発の日〜
村長「今までご苦労じゃったの。ほれ、賃金じゃ」
勇者「…………」
村長「なんじゃ、不満かの?」
勇者「いいえ……」
勇者「あ、あの」
村長「なんじゃ」
勇者「今夜、あの吟遊詩人と、遊び人は本当に2人で大蛇の討伐に行くんですか」
村長「お主には関係のないことじゃろう」
700 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 21:44:58.51 ID:D6bjl4o10
〜牢屋〜
遊び人「どうされたんですか?」
勇者「逃げるぞ。俺のパーティになれ。心中してどっかの教会に行くんだ」
遊び人「大蛇を倒しにいかなければなりません。私がオトリになって呼び寄せる必要があるんですから」
勇者「あの吟遊詩人が倒せると信じているのか?」
遊び人「信じていませんよ。話したこともありませんし」
勇者「じゃあどうして!」
遊び人「言ったでしょう。好きな人と時間を重ねるために生きてるんだって」
勇者「だから、あんたが生き延びて、あんたの心の中に生き続ける故人のためにも……」
遊び人「生きることはつらいって、言ったじゃないですか……」
勇者「なんだよ。なんで泣いてるんだよ。俺に偉そうに励ましてたじゃないかよ」
遊び人「他者が生きることを願うのは簡単です。でも、自分が生きることを自身で肯定するのは、私には難しいことなんです」
勇者「世界が滅ぶことを願って、自分が生き延びることだけを考えてる俺より、あんたの方がよっぽど生きる価値があるだろ」
遊び人「私のせいであれだけの命が奪われてしまったのだから。せめて、私の命をもって……」
勇者「なんだよなんだよ。自暴自棄かよ。というか、大人しく生贄になるつもりじゃないだろうな」
遊び人「出てってください……」
勇者「どういうことだよ!!今更自己否定かよ!!」
遊び人「黙ってくださいよ!世界なんて滅べばいいと思ってたのなら、私の命1つくらいどうだっていいでしょう!!」
勇者「この数日間話してたことに何の意味があったんだよ!!」
遊び人「意味なんてありません!!」
勇者「っ…………!」
勇者「そうかよ!!あー、そうかよ!!」
勇者「独りで死んでろ!!」
701 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 22:05:35.09 ID:D6bjl4o10
〜荒野〜
ズカズカ!!
勇者「…………」イライラ
勇者「知るかよ。世界なんか知るかよ」
勇者「幼馴染を捨てたんだ。親友を見殺しにしたんだ。そんな俺が、今更他人を救おうだなんて、罪滅ぼしに過ぎないだろ」
勇者「独りで冒険している時間があまりにも長過ぎた。自分について孤独に考える時間があまりにも多すぎた。そのせいで、こんなにも偽善者になっちまった」
勇者「……あー!!!」
勇者「パーティを組むくらいならいいだろ!!!」
勇者「大蛇には畑の飯でも食わせときゃいいんだよ!!」
〜牢屋〜
勇者「おい!!どこにいる!!」
村人「何だお前。出てったんじゃなかったのか」
勇者「あの遊び人はどこへ!!」
村人「もう洞窟へ向かっただろ」
勇者「くそ!!」
村人「ちょ、ちょっと待つべ!!!何するつもりだぁ!!!」
ザワザワ…
村人2「どうしたべ!?」
村人「こいつ取り押さえるだ!!!」
勇者「ふざけんな!!やめろよ!!」
村人「早く牢屋へ入れるべさ!!」
勇者「くっそ!!なんだこいつ!!力つえぇ!!!」
村人2「冒険者の癖に貧弱だべさ!!」
勇者「うわ、やめろ!!離せ!!!」
村人「道具も取り上げろ!!」
勇者「やめろおおおお!!!!」
702 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 22:25:57.20 ID:D6bjl4o10
前〜
遊び人「ここね」
吟遊詩人「…………」
遊び人「道中に魔物が一体も出なかったですね。あなたが楽しそうに大きな音で演奏して歩いていたにも関わらず。気持ちを落ち着けたいとかなんとか言ってましたけど」
吟遊詩人「…………」
遊び人「幸運だと思いますか?」
吟遊詩人「…………」
遊び人「私、こう見えても呪文の達人で。呪文の解析には自信があるんです」
遊び人「魔除けの呪文を使っていたでしょう」
吟遊詩人「だ、だから何だと言うんだ」
遊び人「あなたが村を出てから数年間の間、同じように冒険していたんじゃありませんか?」
遊び人「あなた、ろくに魔物と戦ったことがないでしょう?」
吟遊詩人は怯えと怒りの混じった表情で遊び人を睨みつけた。
吟遊詩人「お、お前みたいな女に命懸けの冒険の恐怖がわかるか……!!」
遊び人「やっぱり。今夜は私を見殺しにして、大蛇に差し出すつもりだったんでしょう。これから私にかけるのは眠りの呪文ですか、それとも麻痺の呪文ですか?」
吟遊詩人「お前……ま、マハンシャが使えるのか?」
遊び人「内緒です。でもあなたに何かをされるのは癪なので、かけようなんて思わないでくださいね」
703 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 22:29:53.33 ID:D6bjl4o10
遊び人「仕方ないことですよ。人を見捨てることは、絶対に許されることではなくて、しかし逃れられない選択です」
遊び人「その十字架を背負って生きてください。あなたが悪人であればのんきに生きられます。その代りに他者の恨みによって殺されるでしょう。あなたが善人であれば、自身の罪悪感によって自分を殺して生きるでしょう」
遊び人「きっと、この洞窟の前に立って、同じ選択をした人は多くいたに違いありません。魔王城の前に立って、同じ選択をした冒険者もたくさんいたに違いません」
遊び人「職業についている人はかわいそうですね。戦士は戦わなければならない。盗賊は盗まなければならない。魔法使いは魔物を焼かなければならない。僧侶の仕事でさえ、傷つく仲間を癒す前に、傷つく仲間を一度は後ろから見なければならないんですから」
遊び人「逃げることは仕方がないことです。ただ、逃げた相応の報いが訪れるだけです」
吟遊詩人「し、死を前に何を悟ったふりをしている!!黙って進め!!」
遊び人「黙りません。でも進んであげますよ。あなたの魔除けの呪文もあると便利ですしね」
遊び人は、遊ばず祈った。
戦わなかった戦士に、祝福を。
欺いた武道家に、祝福を。
祈りを捨てた僧侶に、祝福を。
毒を放ちし魔法使いに、祝福を。
逃げ出した勇者に、祝福を。
遊び人「逃げ出したくて、逃げ出した人なんていなかったんだよね」
そう言いつつも、遊び人は洞窟の中に入った。
704 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 22:43:11.12 ID:D6bjl4o10
大蛇「……来たか。待ちくたびれたぞ。不快な音をさっきから出しおって。女の匂いがしたから出てきてやったが」
吟遊詩人「ほ、本当にいた……」
大蛇「奇跡にすがりついていたか。しかし、私は伝説ではなく確かにここにいる」
巨大な牙を剥き出しにしながら大蛇は語りかけてきた。
大蛇「今夜の生贄はお前か」
遊び人「はい」
大蛇「今夜余に喰い殺される気分はどうだ」
遊び人「可哀想です」
大蛇「かわいそう?」
遊び人は考えた。
大蛇の目的は、娯楽だと。
死に怯える村娘と、村娘を殺された怒りに震える村人。
それを味わうことを愉しんでいる。
しかし、遊び人が死んでも悲しむ人もいなければ。
遊び人自身、一人ぼっちのこの世界で、死んでしまいたい気持ちが沸いていた。
ただ、大人しく、村娘のふりをして死ぬつもりでいた。
大蛇「ふふ……いつまで強情を張っていられるか楽しみだ」
大蛇「おい、そこの男。わしを殺すことを目的に来たのだろ?」
吟遊詩人「そ、そんな!滅相もない!この娘を無事送り届けるために……」
大蛇「毎年女は独りでここに来ていた。わしがこの周囲の魔物に手を出さぬよう指示をしていたのでな」
大蛇「見栄を張ってきたんじゃろう。お前みたいな臆病者のクズは吐き気がするんじゃよ。男はまずくて食えんが、どれ、余興に遊んでやろう」
大蛇があらわれた!
705 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 22:50:23.65 ID:D6bjl4o10
吟遊詩人「う、うわあ!!」
吟遊詩人はにげだした!
しかし、まわりこまれてしまった!
大蛇「遅いわ」
大蛇は巨大な尾で吟遊詩人を叩きつけた。
吟遊詩人「ぎやぁ!!!!」
倒れた吟遊詩人の身体に、激しく何度も振り下ろされる、
吟遊詩人「ギッ!!」
吟遊詩人「ゴッ!!」
吟遊詩人「グェッ!!」
村で囲まれていた時の落ち着いた吟遊詩人の姿とは対象的に。
両目があらぬ方向を向き、血と一緒に奇妙な声を上げていた。
遊び人「……う、うわ、わ……」
大蛇「トドメはまだ刺さんぞ」
大蛇は尾を吟遊詩人に巻きつけると、きつくしばりあげた。
ポキポキポキポキ。
吟遊詩人「……グェエエエエエ!!!!!!」
どばどばどば、と、吐瀉物を吐き出した。
遊び人「ひっ、わ、あ……」
遊び人はにげだした!
大蛇「ふっはっは!!やっと恐怖を実感したか!!」
しかし、まわりこまれてしまった!!
706 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 23:09:52.18 ID:D6bjl4o10
遊び人「う、うぅ、うっ……」ポロポロポロ…
大蛇「足が震えているではないか。さっきの落ち着いた態度はどうした」
遊び人「あぅ、あ……」
遊び人「ゆ、許して……」
大蛇「何を許せと?」
大蛇は尾を緩めた。
吟遊詩人は地面に倒れ込んだ。
吟遊詩人「……クヒュ―。クヒュ―」
遊び人「い、生贄は1人だから……」
大蛇「ほおっ!?」
大蛇は感情を剥き出しにして嬉しそうな表情をした。
遊び人「い、生贄は毎年ひとりって決まってて……」
遊び人「も、もうその人、死んじゃうから……」
遊び人「だ、だから……」
大蛇「……いいや」
遊び人「えっ」
大蛇「まだ、死んではおらん」
遊び人「えっ……」
吟遊詩人「クヒュー。クヒュー」
大蛇「選べ」
遊び人「え、選ぶって……」
大蛇「わしがこいつを殺すか。それともこいつを殺さないか」
遊び人「……た、愉しみたいだけでしょ」
遊び人「わ、わたしがその人を、こ、こ、殺してって言葉を言わせたいだけなんでしょ……」
大蛇「それだけではないぞ。お前ら2人を見逃す選択肢もある。その代わり、村を壊滅させに向かうがな」
遊び人「た、愉しんでるだけじゃない……」
大蛇「早く決めろ。こいつが死ぬ。その前にお前を締め殺すぞ」
大蛇は遊び人に詰め寄った。
707 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/08(日) 23:10:37.76 ID:EmfGW+4n0
エレファント速報ですがまとめさせてもらいます
708 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 23:11:43.76 ID:D6bjl4o10
遊び人「あ、う、あ……」
大蛇は尾を遊び人の身体に巻き付けた。
汚物の臭いが遊び人の鼻腔をついた。
遊び人「ひ、ひっ、ひっ……」
遊び人「う、ああ、や、やめ……ご、ごべんなざい……」
遊び人「ゆ、ゆるじでくだざい……」
大蛇「言うべきことを言えば考えてやらんこともない」
遊び人「う、うっ……おぇ……」
遊び人「いぎだい……」
遊び人「じにだくない……」
大蛇「ふはは!そうではないだろう!」
遊び人「そ、そいつを……」
大蛇「そいつを?」
遊び人「こ、こ、こ……」
遊び人「こ、こ……」
遊び人「殺して……」
大蛇「ふははは!!!」
大蛇が狂喜に満ちた顔をした。
大蛇は牙を吟遊詩人に突き刺した。
大蛇「おっと、もう既に死んでおるようじゃ!!」
大蛇「結局は人間の子よ!!一晩かけてお前を……」
遊び人「殺して……勇者様!!」
勇者のこうげき!
709 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 23:55:42.48 ID:D6bjl4o10
大蛇に1のダメージ。
驚いた大蛇はとぐろをほどき、洞窟の隅へと逃げた。
勇者「勇者様って呼ぶなって言っただろ」
遊び人「う、うう……」
勇者「ほら、死ぬのは怖いだろ」
遊び人「う、うん……」
勇者「人を見殺しにするのもつらいだろ」
遊び人「うん……」
勇者「とかいって。俺は死ぬこともないし、自ら人を見殺しにしたからさ。絶対ろくな死に方しないんだけどな。お前には話したくもない過去だけど」
勇者「そこの蛇も言ってるだろ。所詮は人間だって。善悪とか、そういうものを超越した感情が、人間にはあるんだよ」
勇者「俺がお前を助けに来たことは、あの村を見捨てることを意味するんだから」
大蛇「なんだ貴様……この俺様を倒そうというのか……」
勇者「既に勝負はついている」
大蛇「……なに?」
勇者「致死性の毒針を打ち込んだ。残念だったな」
大蛇「…………」
遊び人「…………」
遊び人「大蛇に毒って効くのかな?」
勇者「…………」
大蛇のこうげき!
710 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/08(日) 23:57:13.76 ID:D6bjl4o10
大蛇は尾をふりかざした!
勇者は必要以上に距離をとって避けた。
勇者「うぉわ!?」
大蛇「愚弄しおって……!!」
大蛇は遊び人めがけて尾を伸ばした。
大蛇「今すぐ絞め殺してくれるわ!!あの男はあとでなぶり殺してくれる!!」
勇者「遊び人!!」
遊び人「な、なに!?」
勇者「俺の、仲間になってくれ!」
遊び人「えっ」
勇者「ここまで来るのも大変だったんだ。武器もないまま牢屋に入れられたもんだからさ。物凄い痛みに耐えて牢屋に頭打ちつけたり、首を爪で引っ掻いたりして、激痛に耐えて自殺して。まあ俺はすぐ転送されやすいんだけどさ」
勇者「隣町の教会で目覚めて、移動の翼を盗んで、こっそり村に飛んで。この洞窟への地図の入った道具袋も一緒に回収して。急いでここまで駆けてきたんだ」
勇者「はやく仲間になれ!!」
遊び人「私が生贄にならないと、あの村は!!」
勇者「死にたいのかよ!」
遊び人「生きたいよ!」
勇者「そうだろ!」
遊び人「誰にも迷惑をかけずに、生きたいんだよ!」
勇者「諦めろ!!」
遊び人「わ、私は大勢の人間を犠牲にさせた大罪人なの!!」
勇者「俺に関係あるのかよ」
遊び人「無いよ。あなたとは数日間一緒に話しをしただけよ」
勇者「救うよ」
遊び人「勇者だから?」
勇者「俺は、人殺しだから」
遊び人「私は、寿命泥棒だから」
勇者「知るかよ。滅んじまえばいいだろこんな世界」
遊び人「だったら私一人なんて」
勇者「自分を許してくれた人を、世界と天秤にかけられるかよ!!
711 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/09(月) 00:00:14.78 ID:4y9IhOFv0
勇者「戦わなくていいなんて、女の子から言われたことなかったんだ!!」
勇者「精霊の加護目当てで集まってきたくせに。精霊の加護に見合った力を周囲は期待してきた!!」
勇者「俺は、精霊の加護の存在に苦しめられていたんじゃない!!勇者の素質をもたないことに、俺自身の力を否定されることに苦しんでいたんだ!!」
勇者「何度でも言うよ。俺は勇者様なんかじゃないよ。勇気の欠片もなくて、強くなくて、世界が大嫌いな男なんだ」
勇者「自分が歩き出すことで花を踏み潰したっていいって思ってるほどだ。その花だって、周りの土の養分を吸い取って生きているって言い訳をしてな」
勇者「あんたみたいにやさしい人が、幸せになれない世界なんて否定しちまえよ!!」
遊び人「…………あなたのこと、大嫌いだな」
遊び人「好きの裏返しとかじゃなくて、ただただ大嫌い……」
勇者「俺はあんた以上に俺のことが嫌いだよ。生きるけどな」
大蛇の尾が遊び人の全身を巻き付けた。
遊び人「強み!!」
遊び人「それでもやさしいところ!!」
遊び人の身体は大蛇の尾によって潰された。
大蛇「ぐぉつ!?」
強烈な締め付けを跳ね返すほどの棺桶が出現した。
勇者「中の死体には絶対触れさせないほどの防御力を誇るんだ。外面は剣で表面をなぞっただけで傷がつくただの木箱なんだけどな」
712 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/09(月) 00:08:59.34 ID:4y9IhOFv0
大蛇「妙な術を……」
勇者「遊び人はそこでゆっくり寝てな。あとは俺に任せろ」
大蛇「小僧!!本気で俺様を怒らせたな!!」
勇者「小僧って呼ぶのやめてくれないか」
大蛇「今から死ぬ者に呼び名などないわ!!」
勇者「勇者様って呼べって言ってんだよ!!」
勇者は大蛇に飛びかかった。
大蛇は勇者に体当りすると、勇者は無残に吹き飛んだ。
勇者の身体は出現した棺桶に保管された。
二つの棺桶は教会に転送された。
〜教会〜
勇者「やべやべやべやべ」
勇者「強すぎワロタ」
神官「…………」
勇者「すいません!遊び人を蘇らせてください!」
神官:1,900G頂きますがよろしいでしょうか。
勇者「はい。1,900……はぁ!?」
勇者「遊び人だろ!?今呪文も使えない状態だってのにそんな金額すんのかよ!!」
神官:1,900G頂きますがよろしいでしょうか。
勇者「は、はらうよ!わかったよ!!俺のここ数日の労働代が……」
勇者はさきほど村から取り戻した道具袋からお金を取り出した。
遊び人「ぷはぁ!!」
遊び人「はぁ…!はぁ…!」
勇者「気分はどうだ?」
遊び人「えっと……いつの間にか寝てたみたい……」
勇者「死の恐怖を和らいでくれるのは精霊の加護の恩恵の1つだ。よし、今すぐ村に戻るぞ」
遊び人「えっ?」
713 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/09(月) 00:31:37.02 ID:4y9IhOFv0
村長「何をしておる!」
勇者「あっ、見つかった」
勇者と遊び人は村長の屋敷に忍び込み、檻の鍵を見つけ、封印の壺を回収した。
村長「何をしておるのだ!!」
勇者「にげだしました」
村長「逃げた?お、おい、そこの女は……」
遊び人「にげだしちゃいました」
勇者「大蛇がこの村を壊滅させに今からやってきます」
勇者と遊び人は村長の脇を通り抜けて村の広場に出た。
勇者「号外!!号外!!」
勇者「生贄がにげだしました!!今に大蛇が襲ってきます!!」
遊び人「わたしがにげだしました!!」
勇者「これから村人で新たな地を求めた大移動です!!」
勇者「ここに、少しおすそ分けしておきますね」
勇者は教会のある町から盗んだ大量の移動の翼を村の広場にばらまいた。
言葉の意味を理解しはじめた村人が、血相を変えて駆け寄ってきた。
勇者「よし、にげるぞ」
遊び人「にげちゃいましょうよ」
2人は移動の翼をつかった。
混乱に陥る村の夜空をあがっていった。
勇者「勇者失格だな」
遊び人「ええ。確かに、冒険譚では見たことないです。村人を見捨てる冒険者の物語」
714 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/09(月) 00:34:11.18 ID:4y9IhOFv0
遠くの村に降り立ち、あてもなく2人は草原を歩いていた。
勇者「勇む心を持たぬ勇者」
遊び人「遊ぶ余裕も猶予もない遊者もここにいます」
勇者「やっと開き直ってくれたか」
遊び人「はい。世界に心を開きなおりました」
勇者「たとえ世界からぼろくそに言われようが。信頼を失い続けようが。それでも生き続けるんだよ」
遊び人「私たちには、私達しか知らない私達がいるはずだから?」
勇者「ろくでもない自分の正体を、自分だけが知っているってだけだ。精霊の加護を持ちながら、魔王や魔物なんか見向きもしない」
勇者「俺は、したいこともないし、がんばりたくもない」
遊び人「それならなおさら私と冒険しましょう」
勇者「精霊の加護目当てだろ?」
遊び人「自由に考えて良し」
勇者「俺は戦えないよ?」
遊び人「逃げるのも良し」
勇者「いつも昼過ぎに起きるよ?」
遊び人「早起きして稽古しなくても良し!!」
勇者「俺は……」
遊び人「世界を救わなくても良し」
遊び人「村長の願いを聞き届けなくても良し!!魔物に襲われている村を素通りしても良し!!」
遊び人「世界に散らばった装備を盗んで集めるだけの簡単なお仕事です!!」
勇者「おいおい。さっきとは打って変わったな」
遊び人「死の恐怖を前にして、生きることに執着がわいてしまいました。善悪の比ではありませんでしたよ」
勇者「精霊の加護があると生に執着が沸かないみたいな言い方だな」
遊び人「そんなことありませんよ。私には生きるためにあなたが必要なんです」
勇者「俺の精霊の加護がだろ?」
遊び人「自由に考えて良し」
勇者「さっきも聞いた。まあいいか」
遊び人「いつか、冒険譚に載るといいですね」
勇者「何が」
遊び人「村を見捨てて。魔王も討伐しようとせず。寿命を手に入れようとする冒険者の物語」
勇者「人殺しと、寿命泥棒か」
運命の人とは、きまって不思議な出会い方をする。
10人にも20人にも心を求めて近づいては、拒絶されて気力もなくなった頃に。
下心もないまま会話をいつの間にかしている、やさしくてかわいい女の子。
無数の星が振り向いてくれない人に限って。
遊び人「あはは!お互い、大罪人ね!!」
月だけが振り向いてくれる運命なのかもしれない。
715 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/09(月) 00:46:08.50 ID:4y9IhOFv0
遊び人「一つだけお願いが」
勇者「どうぞ」
遊び人「バニーガールの格好じゃなくてもいいですか?」
勇者「自由に考えて悪し。着てください」
遊び人「明日世界が滅ぶなら考えてあげる」
勇者「明日滅ぶかなぁ」
遊び人「いいよ別に。明日、世界が滅ぶからなんなの。好きなもの食べて、本読んで、寝てやりましょうよ。それこそ、明日世界が滅びるとわかった時にやりたいことなんじゃない?」
勇者「いつでも出来ることだろそれ」
遊び人「当たり前だよ。いつでも出来ることは、世界が滅ぶ前にもできるってことだもの」
勇者「なんかウキウキしてないか?さっきまで足が震えてたのに」
遊び人「してるよ。私、生きてるんだって。怖かったのに、怖くなくなったって。ほら、今も」
勇者「おわっ!いつの間に!」
魔物の群れが現れた!
遊び人「記念すべき第一戦!私達の冒険の始まりだね!!
勇者「はぁー。誰にも自慢できない冒険譚になるぞこれ」
勇者 たたかう
まほう
どうぐ
にげる▼
勇者たちはにげだした!
殺人勇者と泥棒遊者 〜fin〜
716 :
◆uw4OnhNu4k
[sage]:2018/04/09(月) 00:59:18.43 ID:4y9IhOFv0
>>707
仮面浪人の道の時は細部まで丁寧にまとめてくださってありがとうございました。宜しくお願いします。
717 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/09(月) 01:06:29.47 ID:cOo0Bs2DO
乙
718 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/09(月) 01:10:21.21 ID:Ue+fOZ2A0
乙
719 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/09(月) 19:20:31.47 ID:WyNz/uSn0
乙
720 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:18:12.53 ID:/yKl3BVY0
『焼餅(やくきもち)』
喉から手が出るほど欲しいものといえば。
青く見える隣の芝生。
赤く見える隣の花。
面白く聞こえるあの男の話。
やさしく聞こえるあの女の声。
賢く映るあの年下の頭。
美しく映るあの年下の顔。
死んでしまえばいいと願ったのは、それは私が努力しても手に入れられなかったものだから。
殺してしまいたいと望んだのは、努力しても手に入らないと諦めるほどの輝きだったから。
あらゆる欲望を包括する、この、嫉妬こそ。
人間を破滅足らしめる7つの大罪のうち、最も災厄の欲望である。
罪を背負わされて生まれし、罪なき人間に、精霊はただ願う。
【第7章 嫉妬の王国 『渇望の首飾り』】
さち、あれかし。
721 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:18:47.35 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国〜
コツン…
旅の荒くれ者「ふっざけんじゃねえよぉおおおおおおお!!ぶつかってんじゃねえよクソ女ぁああああああ!!!!!」
怠惰「……邪魔よ」ジロリ
旅の荒くれ者「うっ……な、なんでもねえよぉおおお!!」
〜城内〜
怠惰「久しぶりに王国に来たのに、下民に触れて不快だわ」イライラ…
お姫様「あれー、怠惰なひきこもりお姉さま。働かずに何をしていたんですの?」
怠惰「あら、いたの。今のあなたに言われたくないわ。立派な遊び人さん」
お姫様「私は嫉妬様の身代わりになったの!!私が庇わなければ嫉妬様が遊び人にされていたのよ!!」
怠惰「庇ったんじゃなくて盾にされたんでしょ」
お姫様「あ、あなたね……」
怠惰「そんなことはどうでもいいわ。それより嫉妬様はどこ?」
お姫様「例の”旧”決闘場よ。いつも研究者の男どもといるのよ……」
722 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:19:39.06 ID:/yKl3BVY0
お姫様「そういえば、話に聞いたけど、あんたが捕獲していた勇者、逃げ出したそうじゃない。大罪の装備がありながら、自分の統括する故郷でまんまとしてやられたわね!!」
怠惰「…………」
お姫様「へへーん、なんか言ったらどうなの?」
怠惰「廃人にさせるわよ」ジロリ…
お姫様「ひっ……」
お姫様「せ、せいぜい見つかることを祈ることね!!あの遊び人を人質にしたら来てくれるかもしれないし」
バタン
怠惰「……来ないわよ。かつて、仲間を見殺しにした奴だもの」
〜外〜
主人「おら、さっさと働け!!!」バチン!!
奴隷「ひっ!!」
主人「俺の同僚がまた屋敷を建て替えたんだ。負けてらんねぇんだ……」
青年「……許せない。あいつが研究者に選ばれ、俺は落ちた……。いつも成績は及ばなかった……。なんで……なんであいつばっかり……」
令嬢「どうしてあの方は、小汚い農家出身の選んだというの……。何よ……私の何があの女に及ばなかったというの……。い、色仕掛けをしたに違いないわ……。穢らわしい……こ、ころしてやる……」ギリリ…
怠惰「何度訪れてもまともじゃないわね。負の感情で満ちた国」
怠惰「だけど、嫉妬という感情がこの国を覆うようになってから、以前にも増してこの王国は巨大な力を持つようになった。近隣国の滅亡と引き換えに」
怠惰「うちの故郷とは大違いね。今や怠惰な囚人が寝そべるだけ」
怠惰「私はそこで、何もせずただ日々を無為に過ごすだけ」
723 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:21:11.42 ID:/yKl3BVY0
〜旧決闘場〜
嫉妬「よく来てくれた」
怠惰「足枷を持ちながらの移動はしんどいですわ。これだけは肌身離さず持ち歩けと嫉妬様から言われてるから仕方ないですけど」
嫉妬「君のそばにあるのが一番安全だからな」
怠惰「このまま故郷を離れてたら故郷の囚人がやる気を取り戻してしまいそうです」
嫉妬「そうだな。全員に脱走されてしまうかもしれん。先日、あの男にも逃げられたそうじゃないか」
怠惰「……っ!!も、申し訳ございません!!」
嫉妬「俺は気にしていない。逃げ回るしか脳のない雑魚だ。あの男に私怨があるのは君の方だろう」
怠惰「ええ。あいつがのうのうと余生を過ごすことは私が許しません」
嫉妬「ふん、私怨を晴らすのは大罪の装備が見つかってからにしてほしいものだ」
怠惰「はい……。ところで、これを」
怠惰の勇者は報告書を嫉妬に手渡した。
怠惰「怠惰の装備が故郷に与える影響の記録です。いつものように、定刻に看守に記録させたものを集めています」
嫉妬「君自身が書いてある箇所もあるだろう。そこを読むのが愉しみでな」
怠惰「自分の装備の特徴について記して置きたいですから。私の身の回りの世話人、私と会話する道具屋、装備の持ち主である私と直接触れ合うものについての記録も残しています」
怠惰「ただ、申し訳ございませんが、世話人の勘違いか私の記載した今回報告分は破棄してしまったようで……」
嫉妬「そうか。殺したか」
怠惰「クビにしただけです」
嫉妬「相変わらず甘い女だ」
怠惰「ところで、嫉妬様は連日ここで研究者と何をしているのですか」
嫉妬「自動感知呪文の調整をしている」
怠惰「自動感知呪文?」
怠惰は地面に描かれた巨大な魔法陣を見た。
【TIPS】
嫉妬の王国には、二つの決闘場がある。
旧決闘場。新決闘場。
旧来使っていた決闘場が老朽化し、近年になってから新しい決闘場がつくられた。
旧決闘場は現在研究施設として使われている。
嫉妬の勇者が奴隷時代に、実験台にされていたのもこの旧決闘場である。
724 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:22:32.37 ID:/yKl3BVY0
嫉妬「感知には二種類の方法があるのは知っているな」
怠惰「1つは直接対象を絞り出す感知です。もう1つが、対象以外の要素を全て特定し、全体から差し引く感知です」
嫉妬「そうだ。差し引く感知は時間と魔力こそ膨大にかかるものの、世界規模の広さを範囲の対象にすることを可能にし、感知対策も無効化できる。エルフの里の特定も、魔王城の特定も、この方法によって可能にしてきた」
嫉妬「数多の勇者共の捕縛にもこの方法を使った。暴食の勇者、色欲の勇者を運良く感知にかけることもできた。大罪の装備は手放していた後だったがな」
怠惰「それで大罪の装備も?」
嫉妬「傲慢の盾は感知にひっかけることができた。赤い糸の呪文に気付く前は散々錯乱させられたがな。今は特集な物質であればたいてい感知することができる」
嫉妬「だが、封印の壺だけは別だ。あれは感情を物に閉じ込める研究によって造られた。直接にせよ間接にせよ感知をしようにも、ただの特徴のない壺に過ぎないのだ。世界中の壺と同じ扱いのため対象を絞りきれない」
嫉妬「だが、大罪の装備を抑え続けるには限界がある。壺が割れた時には、自動感知呪文が暴食の鎧と色欲の鞭を感知する」
怠惰「あの……その魔法陣の感知呪文を使えば、あの勇者も……」
嫉妬「ふはは。それは無理だ」
怠惰「感知の力を割くのさえもったいないと?」
嫉妬「ただの特徴のない壺と一緒だ。航海士だったか、無職だったか忘れたが、あの程度の男はあまりにも多すぎる」
怠惰「そうですか……」
嫉妬「もっといい方法がある。あの遊び人を日時指定で処刑すると脅せばよい」
怠惰「お姫様からも言われました」
嫉妬「不満か?」
怠惰「勝てない戦いに挑むような奴ではありませんよ」
嫉妬「利口ではないか」
怠惰「勝つための脳がないだけです」
725 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:24:07.76 ID:/yKl3BVY0
怠惰「今日私をここにお呼びた理由は何でしょう。大罪の装備の発見は、封印の壺が割れるまでの時間の問題に思えます。何もせず待っていれば自然と……」
嫉妬「怠惰の勇者らしい発想だ」
怠惰「申し訳ありません」
嫉妬「君の言う通りだ。だが、俺のやることはただ寿命を延ばすことだけではないのだ」
嫉妬「この旧決闘場は、研究施設の他にもう一つの顔がある。地下室にもう一つの”檻”としての役割がな」
怠惰「檻ですか。私の故郷と同じですか」
嫉妬「こちらに閉じ込めているものは人間の貴族などではない。そこでだ、怠惰の装備が与える影響を見せてくれ」
怠惰「はぁ、囚人ですか……。怠惰の足枷を使うまでもない対象だと思いますが」
嫉妬「そうかな」
怠惰「もしや、ドラゴンやゴーレムのような魔物でしょうか。あ。あるいは、勇者の生き残り……」
嫉妬「どちらかといえば、勇者に近いかもしれん」
地下の奥にたどり着いた嫉妬は、檻の中の”ソレ”を怠惰に見せた。
怠惰の表情は、凍りついた。
726 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:24:50.83 ID:/yKl3BVY0
遊び人が嫉妬の王国に囚われてから、時は過ぎ。
三ヶ月以上が経った。
その間に、嫉妬の王国は以前にも増して勢力を伸ばし。
怠惰の監獄には多くの罪なき人々が収監され。
魔王が君臨していた頃、いや、その時以上にも増して。
世界は不機嫌な表情を見せるようになっていた。
ただ1人を除いて。
研究者「国王。緊急のご報告です。自動感知に波形の乱れが現れました。封印の壺の耐久が間もなく尽きる前兆です」
嫉妬「ほほう、ようやくか」
嫉妬「いよいよ、俺の欲望を永遠に満たし続ける世界が訪れる」
「にへへへ!!そこの旅人のお姉さん!!どうですかこの僕のバニー姿!ようこそこの……」
旅人「ギャー!!!」
いや、ただもう1人を除いて。
727 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:26:05.12 ID:/yKl3BVY0
〜祭り 当日〜
お姫様「はぁー、退屈。嫉妬様は怠惰の女の故郷に行っちゃうし。お祭りの祝日で相手してくれる研究者もいないし。まぁそれは計画が順調に進んでるってことなんだろうけど」
お姫様「ねえ、あんた。独りぼっちって虚しくない?」
遊び人「…………」
お姫様「怠惰の監獄でもないのに死んだみたいな表情してるんじゃないわよ」
お姫様「ねえ、あんた、嫉妬ってしたことある?」
お姫様「私はあるわよ。金が無限にあるような地位に生まれて、音楽の才能も、術士としての才能にも恵まれて生まれてきたこの私でさえね」
お姫様「母親の愛情に恵まれている女を見ると、殺してやりたくなった」
お姫様「一番求めたいものを得られないから心に闇が生まれるの」
お姫様「持っている本人を見るなら憎悪。受け取っている他人を見るなら嫉妬。私は母を憎悪し、母親の愛情を受け取っている小娘に嫉妬した」
お姫様「もういいんだけどね。私には嫉妬様がいるから。それに、お父さんはちゃんと私のこと愛してくれてたっぽいし」
遊び人「…………」
お姫様「男に愛されないのが一番可哀想なことよ。本当に惨めな女。自分のせいで親がイカれた研究を続けて、里が滅んで、遊び人になってやっと出会った男にまで見捨てられた」
お姫様「嫉妬様はあんたを何かの材料として手元に残しておきたいみたい。もう人間としての余生じゃないわね」
遊び人「……見捨てても許してあげる。とかさ」
お姫様「は?」
遊び人「自由に生きて、っていうのはやさしさなんだろうけど。それは、以前の私なら平気で言ってた言葉なんだろうけど」
遊び人「勇者はきっと助けに来てくれる。そう信じてる。だから、見捨てたら許さないんだ」
お姫様「……羨ましい頭ね」
728 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:26:37.38 ID:/yKl3BVY0
夜になった。
お祭りが始まり、王国中は賑わいに包まれた。
奴隷は自由こそないものの、主人が家を留守にするため、一時的に労働から解放された。
色とりどりの呪文が夜空に打ち上げられ、鮮やかに城下町を照らした。
“魔王消滅の日”
世界中でそう噂されたのがこの日である。
嫉妬の王国だけでなく、世界中が今日という日を祝っている。
遊び人「そんな日に、嫉妬の勇者は怠惰の監獄に何をしに行ってるんだろうか」
遊び人「そんな日に、私はこんな場所でどうして閉じ込められているんだろうか」
遊び人「はぁー、勇者のお金使ってカジノに行って、大負けしてやりたいなぁ……」
729 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:27:39.45 ID:/yKl3BVY0
〜怠惰の監獄〜
高速移動型の鳥型の魔物が、手紙を運んできた。
怠惰「嫉妬の勇者様の文章だわ」
“怠惰の装備を奪い取った、勇者の徒党について記した後、この魔物を送り返せ”
怠惰「なによそれ」
怠惰は窓を開けて外を見る。
いつも通りの、ひとけの全く感じさせない虚しい故郷の夜だった。
怠惰「この魔物に遅れて、嫉妬の勇者様が今こっちに向かっているということよね」
怠惰「こんな記念すべき日に!!冗談じゃ済まされないわ!!」
怠惰「”魔王を討伐したのは嫉妬様なんだもの”」
怠惰の勇者は一言書き添え、手紙を魔物にくくりつけて送り返した。
“情報は嘘です。貴方が不在の嫉妬の王国に、侵入しようとしている者がいるはずです”
怠惰「嫉妬様への報告書が、世話人の勘違いで捨てたものだと思っていたけど……それがもし誰かに盗まれたものだとしたら。私の字体を模倣して、嫉妬様に手紙を送ったに違いない」
怠惰「私と嫉妬様の関係を知っていて、私の住処を知っていて」
怠惰「嫉妬様に敵対しているもので、私を知っている者。私の字体を判別した者」
怠惰「あいつ!!!!」
730 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:28:24.56 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国 出入り口〜
怠惰「はぁ…はぁ…やっとたどり着いたわ」
怠惰は王国内に入ろうとした。
案内人G「待ちたまえ!!!!俺が案内してやろう!!!」
怠惰「急いでいるのよ。もうここの国のことは知ってるわ」
案内人G「今夜まつりが行われてることもか?」
怠惰「全部知ってるわ。邪魔よ」
案内人G「…………」
案内人G「確認案内料20,000Gになりまーす!!!」
怠惰「はぁ?」
案内人G「確認案内料、いただきまーす!!!貰うまで通せませーん!!!!お祭り見れませーん!!!!」
怠惰「ふざけるんじゃないわよ……」スタスタ…
案内人G「盗っ人だぁああ!!!情報の盗っ人が現れたぁああああああ!!!誰かお金を取り返してくれぇえええ!!!」
ザワザワ…
怠惰G「な、なによ!!こんなことで時間取ってる場合じゃないのよ!!」
怠惰G「は、払うわよ!!」
チャリン
怠惰は20,000Gを手渡した。
案内人G「うっほほー!!毎度ありー!!」
怠惰「後で覚えておきなさい……」
怠惰は怒りを抑えながら、王国内へ駆けて行った。
案内人G「はっはー!!愉快愉快!!」
案内人G「ようこそ!!強欲の都へ!!!」
731 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:28:58.78 ID:/yKl3BVY0
怠惰「な、なによこれ!!!!?」
怠惰は王国の中の情景を見て驚いた。
酒場主人「今夜は酒乱じゃなく、淫乱じゃああ!!!!!///」
バニーガール「いらっしゃいー!!お姉さんこれからいい店来ない?」
半裸の姿の男女が、まつりの熱に浮かれながら痴態を曝け出していた。
案内人S「お姉さん、お店をお探しですか」
怠惰「どうなってるのよ!!王国の中にこんな乱れた一画が出来てたなんて……」
案内人S「好きな男性のタイプはございますか。筋肉質、知的、肥え気味。お好みの職業もあればあわせて……」
怠惰「私が探しているのは普通の男よ!頼りない感じで、体格は貧弱な……」
案内人S「こんな感じでしょうか」ボロン
案内人Sはマントを脱いだ!
案内人Sがあらわれた!!
怠惰「っ!?」
怠惰は案内人Sを蹴り飛ばした。
案内人S「いひひひ!?!!いだいぃいいい!!!///」
怠惰「訳がわからないわ……」
怠惰の勇者は再び駆け出した。
案内人S「……色欲の谷へようこそ///」
732 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:29:33.42 ID:/yKl3BVY0
怠惰「慌ててたから、来る場所を間違えたのかしら。でも街並みは記憶のままだし……」
怠惰「あの、ちょっと聞いてもいいかしら」
案内人B「…………」ムシャムシャ
怠惰「ここの国の名前を教えて貰える?」
案内人B「……この肉は、ラム肉……」ムシャムシャ…
怠惰「違うの。肉じゃないの。国。ニクじゃく、クニ」
案内人B「このラム肉は……」
怠惰「だから、肉じゃなくて……」
案内人B「このクニの……」
怠惰「うん!」
案内人B「このクニのラム肉は美味……」
怠惰は案内人Bを蹴り飛ばした。
案内人B「うぼろろろ……」
怠惰「どいつもこいつも使えないわね!!」
733 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:30:26.64 ID:/yKl3BVY0
怠惰「何かがおかしいわ。祭りだからって、ここまで雰囲気が……」
案内人P「あらあら、お困りのようで。迷子の子供かい?」
案内人P「何でも知ってるこの俺が、特別に案内して差し上げてもいいが?」
怠惰「……案内人?」
案内人P「見ればわかるだろ?天才的な案内人だって」
怠惰「さっきから話しかけてくるのは案内人ばかり……」
怠惰「この異様な空気が洗脳によるものだとしたら、まだ洗脳にかかっていないものをこいつらが選んで話しかけている……?」
案内人P「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
怠惰「教えて欲しいことがあるんです」
案内人P「ぐははは!!よろしい、特別にこたえてやろう!!」
怠惰「ここは、なんていう名前の場所ですか?」
案内人P「…………」
怠惰「あの」
案内人P「頭を地面に擦り付けてから、もう一度尋ねなさい」
怠惰「っ!?」
案内人P「なんか文句でもあるのか?教えてあげなくてもいいんだが」
怠惰「…………っ」ググッ…
怠惰は、腰を降ろし、地面に頭をつけた。
怠惰「……この国の名前はなんですか?」
案内人P「傲慢の街に決まってるだろ。馬鹿か」
怠惰「傲慢の街は遥か遠方にあるはずです、ここは嫉妬の王国のはずです」
案内人P「傲慢の街……嫉妬の王国……」
怠惰「あなたはいつからここで働いているのですか?」
案内人P「俺は……ずっとここで……案内人として……」
怠惰「目を覚ましなさい!!ここは嫉妬の王国よ!!あなた、冒険者の格好をした男に何かを吹き込まれたんじゃないの!?」
案内人P「俺は……この街を……傲慢の街だと旅人に伝え続けてきた……ま、ま、間違いなど許され……」
怠惰「目を覚まして!!」
案内人P:この街は世界で1番凄い街さ!!どのくらいすごいかって?手で表現すると……
怠惰「目が虚ろになった。神官が同じ表情をするのをみたことがある。もう何を話しかけても無駄ね……」
怠惰はあたりを見渡した。
店主「この店の料理は世界で一番うまいんだぜ!!」
客「この俺は、どんなにクソな料理でも世界で一番うまく感じる才能があるんだぜ!!」
怠惰「案内人の性格が、そのまま住人にも感染(うつ)されている……」
怠惰「以前王国を訪れたときも、おかしなやつらが声をかけてきた。そして、そいつらはどれもこの国の住人ではなく、旅の者だった」
怠惰「7つの大罪の地の影響を色濃く与えやすい案内人と、影響を色濃く受けやすい旅人」
怠惰「あいつが、仕込んでいたっていうの……」
734 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:31:30.09 ID:/yKl3BVY0
〜回顧〜
「あのー、すみません。旅の商人をしているものなのですが、ちょっと道を教えていただきたくて」
勇者「それはあの分岐点を右に進んで、それから……」
「わかりました!ありがとうございます!」
怠惰「勇者、何やってたの?」
勇者「道聞かれてさ、教えてた」
剣士「おとといも、その数日前も聞かれてなかったか?」
勇者「あー、確かに言われてみれば」
怠惰「よその国の人からしたら、そんなに賢そうに見えるのかしらねえ?」
勇者「全然納得してない顔」
剣士「冒険者が道を尋ねるのは、ある特徴を持った相手だって聞いたことがある」
勇者「なにそれ。気になる」
剣士「この人なら、助けてくれそうだって思う相手に人は道を尋ねるそうだ」
怠惰「信頼そのものじゃない」
剣士「実際どうしてくれるかはともかくな」
勇者「一言多いなぁ!!……あっ」
怠惰「ん?」
勇者「やべ、教えた道間違えたかも!」
剣士「ほらな」
勇者「ちょっと追いかけるわ!!」
タッタッタ…
怠惰「……なるほど」
怠惰「助ける力があるかじゃなくて、助けようとしてくれるかどうかってことなのね」
735 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:32:15.32 ID:/yKl3BVY0
TIPS
【案内人の特徴】
・案内人はその村に入ってきた者とファーストコンタクトを取る職業である。
・案内人が告げる街の名前を冒険者は疑うことなく信じる。
・入り口付近に立つ待ち人を冒険者は案内人と判断する。
【勇者の才能】
・よそ者と住民の判別の的中率が高い。
・声をかけられやすい。
・よその国の案内人を洗脳する話術を持つ。
736 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:33:29.71 ID:/yKl3BVY0
〜旧闘技場前〜
怠惰「凄い人だかりね……」コツン
案内人H「痛ってぇええええええええ!!!!!?」
案内人H「ぶつかってんじゃねえよぉおおおおおおおおおおお!!!?」
怠惰「……はぁ、またか」
案内人H「表出ろやあああああ!!!!」
案内人H「ってここ表じゃねえかぁあああああああああ!!!!!!!!」
怠惰「時間がないの。寿命に命は変えられないわよね」
怠惰は、道具袋から怠惰の足枷を取り出した。
怠惰「宴はおしまい」
案内人H「うらぁああああああ!!!!!!!!!!」
両足に足枷をはめて、怠惰は祈りを込めた。
怠惰「廃人と化せ」
怠惰の足枷が鈍く光った。
旧闘技場の周辺の道に立っていた大勢の人が、重なる様に地面に横たわっていた。
怠惰「うぐっ……さすがにこの人数にかけるのは代償が大きいみたいね……」
怠惰は心臓部分の胸部を抑えながら、死体のように転がっている人の群れの上を歩き出した。
737 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:34:38.73 ID:/yKl3BVY0
旧闘技場の中に入り、怠惰は地下室の前へと辿り着いた。
一人の女性が座り込んでいた。
案内人T「…………」
怠惰「あなたも邪魔する気?」
案内人T「……喋りかけないでよ。さぼってるところなんだから」
怠惰「……あなた、もしかして、アカデミーで一緒だった」
案内人T「あれ……怠惰ちゃん?」
怠惰「何してるのよ、こんなところで」
案内人T「何って、故郷の案内人よ」
案内人T「故郷のみんなは嫉妬の王国に連れて行かれちゃったけど。故郷で働くことを許された奴隷は、定期的に嫉妬の王国と行き来することになってるの。故郷は気が重くなる瘴気で満ちて働けなくなってしまうから」
案内人T「嫉妬の王国で休養する間は、私達は働かなくてもいいの。はやく交代の日が訪れないかなぁ……」
怠惰「今の故郷はつらい?」
案内人T「そりゃあね。夢も希望もないよ。でも、頑張る気力もないから、希望を打ち砕かれる絶望もない」
怠惰「そう……」
案内人T「そろそろ魔法石に触らなくちゃ、さぼってるのがばれちゃう」
怠惰「あのね、あなたが今いるここは……」
案内人T「なに?」
怠惰「いいえ。何でもないわ。お勤めごくろうさまです」
案内人T「えへへ。働いてないよ」
怠惰「ちょっと教えてくれる?勇者のやつここを通っていかなかった?」
案内人T「さっき通っていったよ。門番もさぼって寝てたからすんなりとね。まだ戻ってきてはないなぁ」
怠惰「わかった、ありがとう。またね」
案内人T「またね〜」
738 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:35:29.15 ID:/yKl3BVY0
研究所地下内の複雑な経路を抜け、怠惰は探し求めていた相手と対峙した。
その男は、痩せ細った女性を両腕に抱えていた。
「相変わらず凄いね。これだけ事前準備を尽くしたのに、立ちはだかってくるなんて」
怠惰「逃げること以外を覚えたのね。どうしてここにその子がいることが特定できたのかはわからないけれど。あなたの冒険は今度こそ終わりよ」
「いつまでもにげることを許してくれないんだな」
怠惰「あなたを逃げさせないことが、私の死なない甲斐といってもいいほどなんだもの」
「弱者の僕は、そんな風でありたかった。その強さも、賢さも、全てが妬ましかった」
怠惰「一番この王国にふさわしいことを言うじゃない」
「もちろん。今や、この国の案内人なんだから」
勇者「ようこそ。嫉妬の王国へ」
勇者があらわれた!
739 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:36:25.76 ID:/yKl3BVY0
勇者は遊び人を地面にそっと横たわらせた。
遊び人「……ごめんね。無理やり来させちゃって」
勇者「小指のずっと見えてたし。気づいてたし」
遊び人「ほんとう?」
勇者「こっちだって色々準備整えてたのに、毎日ガンガンに引っ張りやがって」
遊び人「3ヶ月も待ちくたびれたよ。いつから気づいてた?」
勇者「こっちのセリフだよ。いつから巻き付けた?」
遊び人「勇者が寝てる時」
勇者「いつでも寝てたからなぁ、昼過ぎまで」
遊び人「ふふっ、たしかに」
勇者「遊び人」
遊び人「なに?」
勇者「今日は、たたかう」
勇者は剣を抜き取った。
怠惰「……いいじゃない。精霊の加護がなくなった今、本当の死の恐怖を思い知らせてあげるわ!!」
740 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:37:15.49 ID:/yKl3BVY0
怠惰は声こそ荒げながらも、頭の中は冷静だった。
怠惰の足枷を使用し、剣を交えることもなく戦闘を終えるつもりであった。
怠惰は道具袋に手を伸ばした。
同時に、勇者も道具袋に手を伸ばした。
怠惰は足枷を掴んだ。
勇者は複数の魔法石を掴んだ。
ブオン!!
地下室の灯りが全て消えた。
怠惰「くっ……消灯させたのね。相変わらず正面から戦わない男ね」
怠惰は構わず装備を取り出した。
勇者「それだけじゃない」
地震のような音が頭上から響いてきた。
「おいこのやろおぉおおお!!ゲームのはじまりの合図が鳴ったぞぉおおおお!!」
「勝利条件が表示されたぞぉおお!!」
「一番最初に虹色の卵を見つけたやつは……30万Gだと!!?」
怠惰「足音がする……!自分の位置を把握させないつもりね!!」
怠惰は神経を尖らせた。
左手で剣を構え、右手で装備を地面に落とした。
わずかな動きも捉えようと、暗闇を注意深く見つめた。
ピカン!!!
怠惰「くっ!!?」
眩いばかりの光が勇者の剣先から輝き、怠惰の瞳に映った。
741 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:37:52.83 ID:/yKl3BVY0
怠惰「ど、洞窟照らしの呪文!!それも、無口詠唱で……」グラ…
勇者は怠惰を地面に投げ倒した。
怠惰の勇者は頭を強く打った。
カランカランという音、ドタドタという音、するりと右手から物が抜ける感触。
混乱する頭でも、大切なものがこの一瞬の間に、憎しみの対象から奪われていることを理解していた。
「おい、真っ暗だぞ!!灯りをつけろ!!」
お祭りのゲームに夢中になっていた住民は叫んだ。
魔法使いが洞窟照らしの呪文を唱えた。
怠惰「ぐふ……」
「お、おい。何寝てるんだ?」
怠惰「この研究施設でゲームだなんて、許されるわけもない。賞金なんて嘘っぱちよ」
「ないってどういうことだよぉおおお!!!?ふざけんじゃねえぉおおおお!!!?」
怠惰「怒りっぽい住民ばかりね。おそらく憤怒の案内人から噂を流されたんでしょうね。当人も騙されてるんだろうけど」
怠惰「虹色の卵なんて……人をどこまで侮辱したら気が済むのかしら」
怠惰は惨めさに打ちひしがれながら、立ち上がろうとした。
しかし、自分の脇にあったはずの足枷が奪われていることに気づき、立ち上がる気力を失った。
怠惰「あんな装備に頼ろうとしたから、負けたんだ。最初から私も明かりをつけていればよかったんだ」
怠惰「ここのところ、戦闘をさぼっていたから、勘が鈍りすぎちゃったみたい」
怠惰「嫉妬様に、殺されちゃうだろうなぁ……」
怠惰「また、逃げられちゃった」
742 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:38:25.60 ID:/yKl3BVY0
怠惰は、勇者が人混みに紛れ、地上に逃げ込んだものと思い込んでいた。
勇者「おい、どこ行くんだよ!!」
遊び人「……見て欲しいものがあるの。聞いた話を紡ぎ合わせただけで、確証はないんだけど」
遊び人は自分を抱える勇者に指示を出し、地下内の別の場所に移動させていた。
勇者「もしかして、憤怒と傲慢の装備があるのか?」
遊び人「それはここにはないよ。嫉妬の王国に影響を与える装備を、あいつはこの王国に置きたがらないみたい」
勇者「確かに、混乱は生じやすくなるからな。奴隷を統治する国ならなおさら、不安定な要素は置きたくないだろうし。実際俺がやった作戦も、いろんな国の要素をこの国に集めることだったし……」
遊び人「何してたの?」
勇者「あとで説明するよ」
遊び人「わかった。ところでさ、強くなったね」
勇者「えっ、さっきのか。あんなの……」
遊び人「私のこと持ち上げてるじゃん。お姫様抱っこ」
勇者「こっちか。お前が軽くなったんだよ」
遊び人「そうかなぁ」
勇者「そうだよ」
遊び人「お姫様抱っこする人は、どんな人か知ってる?」
勇者「王子様?」
遊び人「残念、勇者様でした。だから、勇者様抱っことも呼ぶの」
勇者「余計なこと喋るとつかれるぞ」
遊び人「余計じゃない人と喋ることに余計なことなんてないよ」
勇者「ど、どうも」
遊び人「あはは。照れてる」
743 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:39:18.40 ID:/yKl3BVY0
勇者「はぁ…はぁ…、まだか。あんまり寄り道してると、嫉妬の勇者が……」
遊び人「この先だよ。ごめんね、もう自分で歩くから」
遊び人はふらふらの状態であったが、勇者の肩を借りながら歩き出した。
長い廊下だった。
奥に大きな檻と魔法陣、そして巨大な結界と鎖が見えた。
勇者「何だよあれ、何が閉じ込められているんだよ」
遊び人「魔物だよ」
勇者「魔物?」
勇者はコツコツと歩き出した。
遊び人「私を救いに来る者もいないと笑っていたお姫様は、いろんなことを話してくれたわ」
遊び人「魔族には四天王と呼ばれる強大な存在がいた」
遊び人「砂の怪物。それは砂粒の魔力の集まりのような存在で、大きな一体の魔物でありながら無数の魔物の群れでもあった。あらゆる物理攻撃が効かないとされていた。しかし、暴食の鎧を身に付けた暴食の勇者によって食された」
遊び人「夢を司る球体。戦闘者を自分の夢の世界の中に引きずり込むの。そこは球体がかつて訪れていた場所で、夜が開けるまでに幼い頃の球体を見つけ出して破壊しないと夢に飲み込まれるの。色欲の鞭を装備した色欲の勇者によって、安眠を妨害させて撃退した」
遊び人「召喚を司る少女マリア。自分で創造した絵を具現化させたり、対象者のコントロールを得る人形を吐き出すことができる。憤怒の兜を身に付けた憤怒の勇者によって倒された」
遊び人「再生を司る巨壁。膨大な体力を持ち、自身を完全回復させる祈りの呪文を唱えることができる。攻撃の祈りもとても強力で、相手を腐敗させる光を放ち、それには回復の呪文を無効化する禁術級の状態異常が付与されている。強欲の腕輪を身に着けた強欲の勇者によって倒された」
遊び人「そして、側近と呼ばれるもの。精霊殺しの陣の設計者。魔剣の管理も任されていた。罠の呪文を得意とし、いかなるところからの攻撃も反射すると言われていた。怠惰の足枷を使用した怠惰の勇者によって、衰弱死させられた」
遊び人「彼、彼女らは主君を守るために存在していた。特殊なまじないによって、主君自ら手出しをしなければ相手からも気づかれない、村や街のような守護の中に隠れていたの。守護者がいなくなったことで、主君は認知不可の領域から放り出された」
遊び人「彼はかつての世界の支配者。魔族の頂点に立つもの。嫉妬の勇者を精霊ごと一度殺害するも、ストックされていた精霊により復活され、再び戦いを挑まれた。嫉妬の勇者を殺害足らしめた彼独特の呪術は全て攻略化・無効化され、二度目の戦闘では為す術もなく倒された」
遊び人「嫉妬の勇者は、その存在を殺害しなかった。強力な呪力をもつものとして、この奥に閉じ込めた」
勇者「それじゃあ、まさか……」
勇者達は偉大な存在の前に歩み寄った。
漆黒のローブに覆われた、人型の魔物が立っていた。
勇者「こいつが、魔王!」
魔王があらわれた!
744 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:39:59.96 ID:/yKl3BVY0
幾重にも張り巡らされた結界のせいで、容姿をはっきりと確認することは難しかった。
勇者「魔王は生きていたんだ!!この世から消えてなどいなかった!!」
遊び人「ええ。でも、これを生きているといっていいのか……」
遊び人「魔王の消滅の噂と同時に、瘴気は薄まり、魔物の出現もずっと少なくなったわ。それはもうこの魔王の力が世界に及ばないことを意味しているんだと思う」
勇者「それじゃあ、こいつは何のために閉じ込められているんだよ」
遊び人「……触媒よ」
勇者「触媒?」
遊び人「巨大な魔力を持つものは、特殊な呪文の発動を成功させやすくするの。里にいた頃の幼い私がそうであったように」
勇者「呪文って、どんな……」
勇者はつぶやきながら、大きな空の容器があることに気づいた。
勇者「あの空の容器は、何に使うんだ?」
遊び人「……空じゃないわ」
勇者「でも、何にも入って」
遊び人「私には、精霊が見えるから」
勇者「それって……!」
遊び人「ここで勇者を殺して、宿りついた精霊を保管しているよの」
遊び人「あなたと旅をしてから出会った、勇者達の精霊もそこに……」
崩れそうになった遊び人を、勇者が支えた。
その時だった。
「おーい、そこにいるのは誰だ。魔王様の手下かぁ?」
研究者Aがあらわれた!
745 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:40:48.83 ID:/yKl3BVY0
勇者「遊び人、下がれ!」
勇者は剣を構えた。
「庶民共がぞろぞろ大事な研究施設に入っていくもんだから驚いちまったよ。門番はサボってるし、住民は血気盛んだし、この王国はどうかしちまったんかね。それとも、全部あんたの仕業か?」
勇者「ぐっ……」
「西方の国に伝わる物語だったか。笛を吹いた少年に町の子供がついていき、ほらあなの中に閉じ込められてしまうお話は」
「よその国の案内人がこの国に何人も紛れ込んでいた。捕らえて状態異常を回復する呪文を何度もかけて、ようやく記憶を取り戻したようだった。ある一人の案内人を名乗る男に話術で洗脳され、ここに連れてこられたって」
「まずは旅人を騙すところから始めたんだろう。嫉妬の王国に他の大罪の性格を持ち込み始めたんだ。そして嫉妬の王国の住民にも次第に影響が伝播し始め、今夜のお祭りの開けたムードによって各国の色が爆発した」
「嫉妬の性格という統一した性格によって秩序が保たれていたこの国だったが。大食らい、変態、自慢屋、怒りん坊、がめついやつ、サボり人が溢れ出したら秩序なんて崩壊する。現に今、脱走や反乱を試みている奴隷への対応で兵士共は必死だ」
「世界のどこにあるかわからぬ物を探すのに必死で、研究者はこの国の異変にろくに目を向けようとはしなかった。庶民と触れるようなことも普段からしないからな」
「本当に見事だ。並大抵の洗脳術じゃない。案内人という職業の特権を、才能を、ここまで活かす者がいるとは思わなかった」
「で、だ」
研究者は懐から魔法石を取り出した。
「戦闘用の術士に危険信号を知らせておいた。間もなくここに来る。彼らにここの存在は秘匿なんだが、まああとで全員分記憶を消せばいいだろう」
「さて、目的を話してくれないか。怠惰の足枷を奪い、魔王の膝下まで来たわけを」
研究者が右手を振りかざした。
勇者が反応するよりも早く、怠惰の足枷が小さな結界の中に封じ込まれた。
746 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:41:22.13 ID:/yKl3BVY0
勇者「くそっ!」
遊び人「そんな……。ごめん、私がこんなとこに寄ろうって言わなければ……」
勇者「こいつを気絶させて結界を解いて、足枷を使って全員気絶させれば済む話だ」
「ただのガリ勉だと舐められちゃ困るな」
研究者は頭を指でかいた。
勇者「行くぞ」
勇者は地面を蹴った。
研究者は空中に小さな結界を創った。
勢いよく駆け出した勇者のみぞおちにめり込んだ。
勇者「ぐぉっ……」
研究者「空中に固定する結界だ。僕が飲み物をちょっと置きたくなった時なんかに使う」
勇者「うぁああ!!!」
勇者は小さな結界を避け、再び勢いよく駆け出した。
研究者は再び右手をふるった。
勇者「うぁっ!?」
勇者は足を空回りさせ、激しくころんだ。
研究者「時縮化の呪文だ。少し足をはやくしてやった」
勇者「く、くそっ!!」
勇者は怒りの形相を見せた。
勇者「死ね!!」
やけっぱちな言葉を吐き、剣を投げつけた。
研究者「ぶははは!!小悪党のセリフじゃないか!!」
研究者は再び結界を出して、剣を弾こうとした。
その瞬間に、剣先から眩い光が放たれた。
研究者「なっ!?」
研究者の前に出現し始めていた結界は消滅した。
剣を避けるため強引に研究者は身体を反らした。
勇者「うおらぁあああ!!!!」
勇者はすてみでたいあたりした。
研究者のふところに向かって突撃した。
747 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:42:22.39 ID:/yKl3BVY0
勇者「いっ……」
勇者「痛ぇえええ!!!」
「ごめんごめん、身体のまわりに結界をつくることにしたんだよ。間一髪だ」
研究者は右手を勇者の頭にかざした。
「燃やすことも、突き刺すことも、頭ごと結界に閉じ込めることも何でもできる。大人しく処刑されるのを待つんだな。今すぐ死ぬよりかはいいだろう?そうでもないか?」
勇者は身動きが取れなくなった。
「恋人との冒険ごっこもおしまいだ。さて、奥にいるお嬢さんも大人しく……」
遊び人は、研究者の顔を見つめていた。
「ん、どうした?」
遊び人「……えっと」
「惚れたか?」
遊び人「い、いいえ……」
「違うのかよ。じゃあいいや」
遊び人「あの、お父さん……」
「いやいや。なにそれ、そういう甘え方するから許し方してもらおうってこと?ダメダメ。愛する妻と息子は裏切れないよ」
遊び人「ち、違います!」
遊び人「わ、私の父の知り合いですか?故郷の研究書物の挿絵にあった似顔絵に、見覚えが……」
「…………」
「あ、あんた……」
同僚「あの馬鹿研究者の娘か!?」
748 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:42:49.73 ID:/yKl3BVY0
同僚「ま、まてまて。えーっと」
同僚「嫉妬の奴隷が脱獄した時に、バカ上司に逆らってあいつは左遷されて」
同僚「大罪の賢者の里を滅ぼすようなことをやらかした。そこの里から生き延びた少女が一人いて」
同僚「その子は最近捕らわれて、この国のどこかに幽閉されていて」
同僚「と思ったら抜け出して、今ここにいる、ってことか」
同僚「まじかよ……。俺もあの嫉妬様脱獄事件が起きてから、結界の開発に関わってたもんだから、あんたの情報なんかろくに入って来なかったんだよ……」
同僚「……困った。これは非常に困った」
遊び人「何が困ったんですか?」
同僚「俺は、あんたの父さんのことが好きだったんだ」
勇者「えっ……」
遊び人「え、えええええ!!?」
同僚「おい男引くなよ。それは勘違いだよ。というかなんで嬢さんは嬉しそうな顔をしてるんだ?」
749 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:43:42.24 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ち、父と……ぶふぉっ……!わ、わたしの父とどういう関係で?」
同僚「ただの同僚だ。理屈っぽくて、小難しい話をするやつだが、親父さんのために研究を続ける熱心なやつだった」
同僚「俺がこの仕事を辞めようか迷った時も励ましてくれたりしてな。なかなか大変な仕事でな、周りはやめて楽になれなんて気軽に言うんだけど、あいつだけは熱心に引き止めてくれたんだ」
同僚「少し前のことになるが、俺の開発した結界のおかげで1つの町を自然災害から救うことができた。他国を侵略してばかりのこの王国の研究者として働いて、あんなに感謝されることになるとは思わなかったよ。実は、今の妻ともそこで出会ったんだ」
同僚「返そうにも返しきれない恩を受け取ったまま死なれちまったんだ。またあいつと仕事ができたらどんなにいいだろうって今でも思うほどだ」
同僚「うーん、どうしたものか……」
同僚が頭を抱えていると、足音が近づいてきた。
同僚「まずいな。仲間が来てしまった」
勇者「ええー……」
遊び人「あなたが呼んだんじゃん……」
同僚「大丈夫だ。この国の結界は、俺の管轄そのものだ」
同僚は右手を空中に突き出し、ゆっくりと円を描き始めた。
石臼がひかれるようなごろごろとした音が聞こえた後、カチッ、という音が聞こえた。
同僚「ほら、持て。ちょっと特殊な仕組みで、脱出呪文は使えないのでな。常に持ち歩いてる」
懐から移動の翼を3つ取り出し、念を込めた。
同僚「仲良く頭をぶつけるぞ!!」
遊び人「ちょ、ちょっと!!」
三人は地下で移動の翼を利用した。
天井をすり抜けて、地上へと降り立った。
人気のない、修理中の屋外便所にたどり着いた。
750 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:44:53.47 ID:/yKl3BVY0
同僚「王国の外に出て、移動の翼を使え。さすがに国に張られた守護を全て解くことはできん。かなりの人数と時間を要する」
同僚は移動の翼を何枚も手渡した。
同僚「悪いが、俺ができるのはここまでだ。今すぐ地下に戻って、他の研究者には悔しそうな顔をする予定だ。家庭ある身なんでな」
遊び人「充分です。本当にありがとうございました」
同僚「あんた、そこの子を守ってやれよ。その子に生きててほしいと願った者達のためにも」
勇者「はい」
同僚「達者でな。こんなクソまみれの王国、さっさと滅ぼしてくれ」
研究者は移動の翼を掴み、念じた。
地面に吸い込まれるように、瞬く間に姿を消した。
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:45:52.80 ID:/yKl3BVY0
勇者「……遊び人」
遊び人「ええ。今度こそ逃げましょう」
勇者「ここまでうまくいくとは思わなかった。もう切り上げどきだ」
勇者「とにかく、王国の外まで!!」
勇者達は走り出した。
祭りで浮かれる人混みの群れに逆らい、王国の外へと。
赤い糸の呪文で結ばれている2人だったが。
自然と、手を繋いでいた。
もう、はぐれないように。
もう、はなれないように。
もう……。
ゴォオオオオオ…………
遊び人「な、なんなの……」
ゴォオオオオオオオオ…………
遊び人「あの巨大な黒雲は……」
勇者「遊び人、伏せろ!!」
―――雷が降り注ぐ一瞬、世界は無音に包まれた―――
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:46:57.41 ID:/yKl3BVY0
王国の広場には、巨大な大穴が空いていた。
そこは奇しくも、かつて奴隷に空から降り注いだ精霊が宿った場所であった。
脱走を試みていた数多くの奴隷は、黒焦げの死体となった。
住民も、奴隷も、貴族も、研究者も、全員が恐怖に引き攣った顔をしていた。
嫉妬「異変は薄々感じていたが。それよりも大事な用事に最近追われていたのでな」
嫉妬「さて。この国の誇りを取り戻そうではないか」
祭りの陽気さは消え去り、一瞬にして冷たい空気が辺りに流れた。
遊び人「どうしよう……嫉妬が到着したんだわ」
遊び人「もしも、勇者が案内人だってことがばれたら、直接感知で特定されてしまうわ。この国にいる案内人はそう何十人もいないはずだし……」
勇者「いや。それは大丈夫なはずだ」
勇者「俺は今日感知呪文に一度もひっかかっていないんだ。さっきの研究者も、案内人が混乱の源だと踏んでおきながら、感知呪文で探したとは言っていなかった」
勇者「王国内だと移動呪文が唱えられないように、感知呪文を唱えられない制限があるんだ。自動感知呪文のような巨大な装置を除いて」
遊び人「……なるほど。この王国の中で感知呪文を使う者がいるとしたら、それは嫉妬の勇者を暗殺したい敵対国なんかに違いないよね」
勇者「今はとにかく、王国の外へ逃げるんだ」
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:49:08.10 ID:/yKl3BVY0
勇者達はにげだした。
しかし、まわりこまれてしまった。
兵士「これより、一切の出入りを禁ずる!!」
兵士「王国を囲うように見張りを張り巡らせた!!」
遊び人「どうする、勇者。術士があちこちに……それに、戦闘用の魔物も、王国を囲うように配備されているみたい。王国の中でじっと隠れてる?」
勇者「研究者がいうには、結界の調整には数日要する。感知呪文の規制を解いたら、”案内人”にフィルターを掛けて俺を探すつもりだろう」
遊び人「為す術ないね」
勇者「そうだな。様子もわからないし、とりあえず、脱ごっか」
遊び人「はっ?」
〜防具屋〜
遊び人「どう、似合う?」
遊び人は魔法のドレスを身に付けた!
勇者「もっと黒くてピチピチした格好の方がよかったんじゃないか?」
遊び人「バニースーツ着させようとしないで。また殴っちゃうよ」
勇者「しばらくは様子を伺おう。隙きを見て逃げ出すんだ」
遊び人「隙きなんて見せてくれるかなぁ」
勇者「数時間後の俺が頑張って作り出してくれるさ」
遊び人「おお、頼もしいね」
勇者「まずは腹ごしらえでもしよう」
遊び人「いいね。なんか、ひさしぶりだね」
勇者「なにがだ?」
遊び人「こういうのだよ。こんなことをしてる場合じゃないのに、こんなことをしている感じ」
勇者「そうだな。こういうの、久々だな」
754 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:50:07.64 ID:/yKl3BVY0
勇者「ふぅー、食った食った。横になりてぇ」
遊び人「こんな非常時に」
勇者「なーんかいい脱出方法ないかぁ〜」
遊び人「いい仕事ないかなーみたいなノリで言わないで」
勇者「足枷を使って国民全員気絶させるとか」
遊び人「何人いると思ってるのよ。それに寿命がどれだけ消費されるか……」
勇者「実際、どれくらいなんだろうな。各装備の寿命の消費量」
遊び人「個人の寿命がどれほどのものか不明だから実験さえできないけど。使用感による目安はあるってお姫様が言ってた」
遊び人「嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい」
遊び人「だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの」
勇者「一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん」
遊び人「そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい」
勇者「じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな」
勇者「というか、無効化に寿命ほどんど使わないなら、強欲の都の時の戦闘みたいに嫉妬はマハンシャなんかかける必要なかったんじゃん」
遊び人「吸収するより跳ね返す方がいいでしょう。それに、寿命なんてたとえ一時間でも削りたいものではないんだから。塵も積もれば山となるもの」
勇者「嫉妬は大罪の装備を全て集めて、何をするつもりなんだろう」
遊び人「永遠の命でも欲しいんじゃないかな」
勇者「永遠の命かぁ」
755 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:51:21.44 ID:/yKl3BVY0
2人は出店で販売されていた、魔物のお面を被りながら王国を歩いた。
巨大な落雷により、お祭りムードは消え、人々は緊張感に包まれていた。
勇者「……嫉妬の勇者だ。遠くに見える」
遊び人「私達を探しているのかしら」
勇者「どうしよっか。さっきの修理中のトイレを壊して、下水管の中にでも隠れようか?汚物に塗れるかもしれないけど、絶対探して来ないと思うんだ」
遊び人「うーん……やだなぁ。命と天秤にかけるなぁ……」
勇者「あっ、研究者が誰か連れて出てきたぞ」
遊び人「……怠惰の勇者だね」
勇者「…………」
遊び人「こ、殺されちゃうのかな」
勇者「…………」
嫉妬「なんだこの有様は」
怠惰「申し訳ございません……」
嫉妬「怠惰の装備が盗まれたというのは、事実とは異なるのだな?」
怠惰「いえ……」
嫉妬「いえ?」
怠惰「う、奪われました……」
嫉妬「奪われた?誰に?」
怠惰「ゆ、勇者です……」
嫉妬「…………」
嫉妬は、怒りの形相を見せた。
嫉妬「無能がぁ!!!!」
嫉妬が放った雷撃によって、付近にいた住民は焼かれた。
倒れて痙攣する者がいても、全員恐怖で身動きが取れないようであった。
嫉妬「来い!!」
嫉妬は怠惰を掴んで。引きずり出した。
人垣がさぁーと開いて道を開けた。
遊び人「まずい、こっちに来るわ!!」
勇者「教会がある!!とりあえず入るぞ!!」
756 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:51:51.01 ID:/yKl3BVY0
〜教会〜
遊び人「通り過ぎたようね」
勇者「暴君だな。かつて自分が奴隷にされていたからか、住民に対する容赦がないな」
遊び人「あー、本当に心臓に悪いね。いつ死ぬかもわからないって気持ち、ずっと忘れてたから」
勇者「……ごめん」
遊び人「どうして謝るの?」
勇者「精霊の加護がないから……」
遊び人「そこっ!!?」
勇者「えっ?」
遊び人「あははは!!!」
2人しかいない教会で、遊び人は大声で笑いだした。
勇者「……怒るよ」
遊び人「あはは、ごめんごめん。大きな心でやさしく受け止めて」
遊び人「ねえ、だってさ。精霊の加護もないのに、救いに来てくれた方がよっぽど嬉しいことだと思わない?」
勇者「嬉しい嬉しくないの問題じゃないだろ……」
遊び人「嬉しいことは問題にならないのよ」
757 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:52:44.75 ID:/yKl3BVY0
勇者「今更聞くのも恥ずかしいんだけどさ。どうして俺なんかを頼ってくれたんだ。精霊の加護があったからかな……」
遊び人「頼る?何を偉そうなこと言ってるのよ」
遊び人「強そうだとか。賢そうだとか。お金を持っていそうとか。はたまた精霊の加護があるからとか。あなたの長所を頼って一緒に冒険をしようとしたんじゃないのよ」
勇者「じゃあ」
遊び人「放っておけなかったの」
勇者「なんだそれ」
遊び人「なんだろうね、よくわかんない」
遊び人はニッコリと笑った。
遊び人を救うまでの三ヶ月間、勇者は心身をすり減らして動き続けた。
動きながら、身体を鍛えて、動きながら、賢くなった。
勝ててよかった、と勇者は心底思った。
今、この瞬間のためだけにも。
寿命を削り、気力を削り、努力をした甲斐があったと。
少しでも生まれ変わった自分に、彼女の笑顔に、安堵した。
758 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:54:11.58 ID:/yKl3BVY0
遊び人「はぁー。教会でこんな大声で笑ったの初めて」
勇者「神官もいないしな。お祭りだからだろうか」
遊び人「ねえ、この建物、本当に教会なのかな?」
勇者「教会だろ。外から見た時十字架のマークあったし。立派な教卓も前方に置いてあるし。横に長い椅子も見覚えのある形だし」
遊び人「うーん。明かりも付いてるし、鍵もかかってなかったし、確かに機能はしてるんだろうけど」
勇者「何がそんなに気になるんだよ」
遊び人は教卓の方に歩いていった。
遊び人「呪文集があるわ」
勇者「それがどうした?」
遊び人「たぶんね。今ここは、アカデミーの代わりに使われているのよ」
勇者「こんな小さな建物なのに?」
遊び人「孤児か、あるいは奴隷の子供のための施設なのかもしれない。肉体労働以外の仕事にも従事させるために」
遊び人「嫉妬はさ、今神官の職業をしているわよね。だから、精霊の加護を持つ者がこの国で倒れた場合、嫉妬の前で蘇ることになると思うの」
遊び人「もしも他に神官がいたら、その神官近くで蘇ってしまうことになるわよね。各国の勇者の精霊を集めている嫉妬からしたら、他の神官のところで蘇られて逃亡でもされるのは痛手よね」
遊び人「だから、おそらくこの国にいた神官を全員クビにしたはず。自分だけがこの国の神官となるために」
勇者「……なるほど」
遊び人「この発見を嫉妬の撃退に活かせないかな?」
勇者「うーん、もう俺達に精霊の加護もないしなぁ。特に々思い浮かばないな」
勇者「それに、今日はお祭りだろ?神官も息抜きに各国から来ているんじゃないかな」
遊び人「うーん……」
759 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:56:19.25 ID:/yKl3BVY0
勇者達が考えあぐねていると、拡声石によって王国中に嫉妬の声が響き渡った。
嫉妬『国王が留守の間に、随分浮かれていたようだな』
嫉妬『勇者と遊び人、お前らもまだこの王国の中にいるはずだ』
嫉妬『俺は今から国民の前で3つのことを言わせてもらう』
嫉妬『1つ。怠惰の勇者を捕らえた。浮かれて奴隷の統治すらもできなくなった国民への見せしめとして、今から1時間後にこの女を新闘技場にて処刑する』
嫉妬『1つ。勇者よ、1時間以内に怠惰の足枷を持って遊び人を闘技場に連れてくれば、お前の命は保証する。好きな国へ飛ぶがよい。奴隷を統治するこの国では、約束を反故にすることの弊害は大きいから安心しろ。お前一人の命が救われようが俺にとってはどうでもよい』
嫉妬『1つ。いかなる者もこの国を出ることは許さない。脱出は不可能だ。王国を囲うように術士を配備しており、結界で出口を塞いでいる。移動の翼で空から脱出しようとするものは、俺が全て落雷で撃墜する。飛行系の魔物も配備している』
嫉妬『利口な選択をすることだな』
遊び人「勇者……」
勇者「…………」
勇者「3つのことを言うときにさ。1つ、1つ、1つ、って三回言うよりもさ」
勇者「1つ、2つ、3つって言ってくれる方がわかりやすいんだよな」
遊び人「…………」
勇者「状況はだいたいわかったよ。逃げるのは簡単だ」
遊び人「えっ?」
勇者「出入り口付近にいる見張りを、怠惰の足枷で無力化すればいい」
遊び人「結界はどうするの?」
勇者「遊び人が分析して、俺が呪文で解くよ」
遊び人「呪文……そういえば、勇者、あなたどうして呪文を……」
勇者「精霊が信頼してくれたんだ。基本的な結界破りも、時縮化の呪文も、理論だけは強欲の都で師匠に叩き込まれたから唱えることはできる」
遊び人「こんな短期間で精霊に信頼してもらえるなんて……勇者、頑張ったんだね」
勇者「……あ、ああ」
恥ずかしい話を、打ち明けることはできなかった。
勇者はまた、ずるをした。
封印の壺のダミーを隠した術士の一人と、強欲の都で再会した。
勇者の案内人としての才能を発揮させながら、監視の目を通り抜け、かつて修行に励んだ研究施設へと潜り込んだ。
そこで”大罪の枕詞”を付与する呪術を再びかけてもらっていた。
以前は肉体強化の呪術だったが、今回は魔力強化を目的として。
寿命を精霊に差し出す身体になった。
一月も経つと元通りになる、一時しのぎのものだった。
今まで誰かが積み重ねてきたものに、簡単に追いつけると信じることができなかった。
ただ、遊び人にそのことを打ち明けて、”寿命泥棒”だと悲しませたくはなかった。
760 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:56:59.67 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ねえ、いいの?」
勇者「…………」
遊び人「怠惰の勇者が処刑されても」
遊び人「ずっと、悔やんでるんでしょ?」
勇者「全部過去の話を聞いたのか」
遊び人「聞いた。勇者が中々話したがらなかった過去も、全部」
勇者「失望した?」
遊び人「本人しか本人の気持ちなんてわからないよ」
勇者「俺が遊び人のこと裏切るとは思わなかったか?」
遊び人「うーん、あまり」
勇者「一度仲間を裏切ったのに?」
遊び人「一度仲間を裏切ったから、ずっとそのことを後悔しているんでしょう?」
勇者「もう剣士は死んでしまった。償うことなんてできないよ」
遊び人「償いたいの?」
勇者「わかんないよ」
遊び人「このまま逃げて、大丈夫なの?」
勇者「敵国の中で大人数相手に、救えっていうのかよ」
遊び人「自分に嘘をつかないでよ……」
勇者「なんだよそれ。どうしてお前が泣いてるんだよ」
遊び人「あなたが泣いているからよ!!」
勇者「……っ!!」ポロポロ…
遊び人「勇者」
遊び人「戦いましょう」
761 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:57:37.18 ID:/yKl3BVY0
たたかうとは、怠惰の足枷を使う、ということを意味していた。
寿命の価値を知っている遊び人が、それほどまでに戦うことを要求するのは。
それが、今の勇者にとって、命に天秤にかけるほど大切な選択であると確信しているからに違いなかった。
勇者「……失敗したら、死ぬ間際後悔するぞ」
遊び人「その時はめちゃくちゃ恨むよ。だから失敗しないでよ」
勇者「大きな心で受け止めてくれ」
遊び人「人間だから無理だと思う。死の恐怖は善悪を超越するから」
勇者「経験者は語るか」
〜新闘技場〜
嫉妬「間もなくだ。また見捨てられたようだな」
怠惰「…………」
嫉妬「いつまでも隠れて、馬鹿なやつだ。明日には王国内での感知呪文が可能になるよう調整をしている。案内人に対象を絞れば見つかるまで時間もかかるまい」
嫉妬「自動感知呪文の魔法陣はいじりたくないのでな。怠惰の足枷に対象を絞る場合、また全世界から対象を差し引いていく必要がある。俺が直接見つけてやれば問題あるまい」
嫉妬「さて、目立つところに移動しよう。国民を楽しませるのも国王の義務なのでな」
762 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:58:15.18 ID:/yKl3BVY0
闘技場には大勢の国民が呼び寄せられていた。
お面をつけた2人は、人混みに紛れながら闘技場の中央を眺めた。
遊び人「怠惰の勇者が放り出されてる。剣を持ってるということは、魔物と戦わせられるのかした」
勇者「もうあいつの考えることは嫌というほどわかるよ。勇者という存在にあてがう魔物といったら、ただ一人しかいない。ほら、地下から出てきた」
闘技場の隅を見ると、地下室への出入り口から、さきほど勇者達を助けてくれた研究者が出てきた。
出てきた多くの研究者のいずれもが、疲労と困惑に満ちた顔をしていた。
嫉妬「さあ、剣をとって、戦え」
嫉妬は怠惰に告げた。
地下から、人形の魔物が出てきた。
嫉妬「闘技場の歴史上、最も見ることを望まれた戦いであろう?」
嫉妬「勇者と、魔王の戦いは」
闘技場に魔王があらわれた!
763 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/15(日) 18:58:36.31 ID:pfhvxYoC0
どうなる?
764 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:59:30.84 ID:/yKl3BVY0
国民のざわめきの中、怠惰と、魔王は立ち尽くしていた。
怠惰「……あなたも懲り懲りよね。魔族の王としての誇りを持って生きてきたのに。大罪の装備なんかが現れたせいで、人間のおもちゃにされて」
怠惰「戦う気なんかないのでしょう。封印されている間もずっと、死ぬことを考えていたんじゃないかしら」
怠惰「あなたに、戦う理由はある?」
魔王は答えなかった。
ただその場に立ち尽くしていた。
怠惰「あなたに勝ったら、私は自由になれるのかしら」
怠惰「ここから外の世界に、救いなんかなかったから、ここに来たというのにね」
怠惰は、詠唱を唱えた。
怠惰『フルゴラ!!』
雷撃の呪文が魔王に迸った。
魔王「……自殺だと」
魔王「余を見くびるな」
魔王はぼろぼろになった怠惰の勇者を見下ろし、言った。
怠惰「げはっ!!ごぼっ……」
怠惰の唱えた呪文は全て、魔王の無口詠唱のマハンシャによって跳ね返された。
魔王「我を倒すほどの首飾りが、あの愚者の手に渡ったことだけが残念だ」
魔王「貴様を殺すついでに、あの白衣を来た男共も道連れにしてやろう」
魔王は右手を高く掲げた。
禍々しい黒玉が出現し、エネルギーを蓄え始めた。
怠惰「や、やめて……」
魔王「さらばだ、勇者」
765 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:01:10.11 ID:/yKl3BVY0
理不尽な、世界だった。
生まれてくる価値のない、人生だった。
信頼するに値しない、人々だった。
死ぬ理由がないという理由で、生きることを強要され。
いざ、生きることを望んだ時には。
全身から脳裏まで震えるほどの恐怖に包まれながら、殺されてしまう。
ねえ。
確かに、こんな世界。
怠惰「……見捨てたくも、なるよね」
魔王の攻撃力が大幅に下がった。
魔王の防御力が大幅に下がった。
魔王の素早さが大幅に下がった。
魔王の魔力が大幅に減った。。
魔王の反応力が大幅に下がった。
魔王の集中力が大幅に下がった。
魔王の判断力が大幅に下がった。
魔王の決断力が大幅に下がった。
魔王の呪文が怠惰に放たれた。
怠惰「きゃぁあああああ!!!」
魔王の攻撃をあびて、怠惰は吹き飛んだ。
怠惰「……痛い!!痛いぃいいい!!!」
怠惰「痛いよぉ……ううっ……」ポロポロ
勇者「泣くなよ。俺だって我慢してたんだから」
怠惰「……勇者?」
勇者「さすが魔王だけあるな。大罪の装備を使っても、呪文の威力がここまでしか落ちないのか」
怠惰「……いまさら罪滅ぼしのつもりで救いに来たなら、逃げたほうがいいわよ」
勇者「罪なんて滅ぼせるかよ。俺が望んだのは世界が滅ぶことだけだ」
766 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:01:55.25 ID:/yKl3BVY0
怠惰「魔王に怠惰の足枷が及ぼす効力については実験済みだわ……」
怠惰「その結果、勇者による勝率は2割程度だということが判明したの」
勇者「ま、まじかよ」
怠惰「嫉妬の首飾りくらいよ、魔王を完全に手懐けるほどの力を持つ装備は」
怠惰「逃げるならさっさと逃げなさいよ……」
勇者「ああ、逃げるさ。逃げることしか能がないからな」
勇者「今度は、お前と一緒にな」
勇者は怠惰の手を引っ張った。
怠惰は反射的に手を振り払った。
怠惰「……逃げるわ。でも一人で立てるから」
勇者「自由にしてくれ」
勇者たちはにげだした!
767 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:03:56.94 ID:/yKl3BVY0
術士「逃がすな!!」
術士たちがあらわれた!!
勇者「何の意味もなく、こんなだせえ靴履くかよ!!」
勇者は装備していた怠惰の足枷に祈りを込めた。
行く手を阻もうとしていた術士達は、全員その場に倒れ込んだ。
勇者「うぐっ……」
怠惰「ゆ、勇者」
遊び人「勇者、こっちよ!!」
虹色に爆発する小さな花火を遊び人はばらまいていた。
パニックになった観客者は慌てて道を退けた。
勇者「……遊び人としてのスキルが大役立ちだな」
遊び人「あっ、確かに!初めて遊んで役に立ったかも!」
場外へ出た勇者達は、王国の出入り口付近へと走り出した。
勇者「もう少しだ……」
遊び人「勇者、顔色悪いよ?」
勇者「なんだか、けだるくて……」
遊び人「やくそうかなんか……」
「止まれ!!今すぐ降伏しろ!!」
術士A,B,C,D,Eがあらわれた!!
遊び人「きりがない!!」
勇者「こっちもきりなく攻撃するまでだ……」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
術士達は瞬く間に地面に倒れ込んだ。
遊び人「行くよ、勇者!また敵が現れる前に……」
勇者「…………」
遊び人「勇者?」
勇者「……駄目だ」
遊び人「どうしたの?」
勇者「足が……重くて動かない……」
勇者はその場に座り込んでしまった。
「いたぞ!!」
術士A,B,C,D,E,F,Gがあらわれた!!
768 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:04:54.52 ID:/yKl3BVY0
怠惰「副作用よ」
遊び人「副作用?」
怠惰「怠惰の足枷の使用には、寿命の消費だけじゃなくて、使用者の気力を奪う反動もあるの」
遊び人「そんな……」
怠惰「残念ながら、私も魔王との戦いで魔力があまり残ってないわ」
遊び人「だったら、私が足枷を装備して……」
怠惰「ただでさえ寿命が少ないんでしょ、やめておきなさい」
怠惰は服の内側から、薬草を取り出した。
怠惰「ほら、飲みなさい」
勇者「…………」
怠惰「口を開けて」
ぼぉーっとしていうことを効かない勇者の口に、怠惰はやくそうをねじ込んだ。
遊び人「何するの!?」
怠惰「即効性があるから、大丈夫よ」
怠惰「これは、意思の薬と呼ばれるもの。私が名付けたんだけんどね」
遊び人「意思の薬?」
769 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:05:55.57 ID:/yKl3BVY0
勇者「……ありがとう」
勇者は立ち上がった。
勇者「もう少しだ」
怠惰の足枷を再び使用した。
術士「……ぐぁ……」
術士達は気絶した。
怠惰「怠惰の足枷によって故郷に影響が色濃く出てからしばらくして、新種のやくそうが育ち始めたの」
怠惰「飲み込んだもののやる気、戦闘、意思、そういったものを一時的に高める効果がある」
遊び人「……そういえば、暴食の村でも新種の植物が育ったって言ってた。真実草っていう、飲んだものに秘密を吐き出させる薬……」
怠惰「怠惰の装備による影響を、植物たちは克服しようとしたのよ。このままじゃ枯れて死んでしまうから突然変異を起こしたのか。あるいは、怠惰の装備があっても生き残りやすい種類の植物の繁栄に偏ったのかはわからないけど」
怠惰「生きることを、植物は切望した。そして、これを食したものはその意思を与えられる」
怠惰「いくつか持っておきなさい。怠惰の装備の呪いさえ乗り越えるとても強力なものよ」
遊び人「……それって、嫉妬の勇者も持っているの?」
怠惰「残念ながらね。これを口に含んで戦われたら、少なくとも気絶はしないわね」
770 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:06:29.20 ID:/yKl3BVY0
勇者達は王国出入り口の結界箇所までたどり着いた。
勇者「遊び人、どうなってる?」
遊び人「……やっぱり。憤怒の城下町で使われていたものと同じ。時縮化の呪文で崩せるわ」
勇者「本物の結界を用意して練習する時間が取れなかったんだ……うまくいくかな」
怠惰「自信がないならどいてなさい。代わりに、場外にいる魔物を追い払う呪文でも唱えてて。低級呪文のはずよ」
勇者「ええーっと……」
遊び人「ほら、昔勇者が大蛇から私を助けに来てくれた時。吟遊詩人が」
勇者「ああ!追いかける途中で聞こえてきた!!試してみる!!」
勇者は剣に祈りを込めた。
勇者が剣を爪でひっかくと、特殊な音が響き始めた。
魔物の群れが遠のき始めた。
遊び人「勇者、本当に呪文に強くなったのね!」
勇者「……ま、まぁな」
771 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:07:51.71 ID:/yKl3BVY0
パキ…。
パキパキ……。
遊び人「もうすぐ!!」
パキパキパキ…………
パキン!
遊び人「開いた!!」
人一人通れるほどの隙間が、結界から生じた。
怠惰「はぁ……はぁ……先に行って。時間が経つと閉じるわ……」
「こっちだ!!」
研究者A,B,C,D,Eがあらわれた!!
勇者「遊び人急げ!!」
772 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:08:51.09 ID:/yKl3BVY0
勇者「……やるしかない」
勇者は意思の薬を飲み込んだ。
勇者「うぉおおお!!!」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
研究者達は、耐えきった。
怠惰「まさか……」
研究者「意思の薬の成分を凝縮した薬瓶を飲み干してきたのさ。なかなかいけた味じゃなかったがね。術士共はただの時間稼ぎ要員さ」
勇者「……ぐっ…ぅ……」
研究者「閉じろ!!」
研究者は結界を施そうとした。
怠惰「勇者!!逃げて!!」
怠惰は、虚ろになっている勇者を結界から押し出した。
外から遊び人が引きずり出した。
結界は閉ざされた。
怠惰の勇者が取り残された。
773 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:09:43.36 ID:/yKl3BVY0
遊び人「勇者!!意思の薬を!!」
遊び人は勇者の口に意思の薬を含ませた。
研究者「くそっ!!あいつらを捕らえなければ意味がない!!今すぐ結界を解除するんだ」
研究者達は結界の解除を始めた。
瞬く間に結界がほどかれ始めた。
怠惰「……逃げて」
勇者「馬鹿言うな……」
怠惰「あの時とは状況が違うから……」
勇者「俺自身も違うから……」
怠惰「わかってるよ。もう、いいんだって」
怠惰「なんだか、疲れちゃったしさ」
怠惰が、何年ぶりかの笑顔を勇者に向けた。
勇者「なんだよそれ!!」
怠惰は勇者の言葉に応えず、祈りを唱え始めるた。
結界の崩壊の速度が少し緩んだ。
研究者「邪魔な女だ!!」
研究者は風の呪文を唱えた。
怠惰の身体は切り刻まれた!!
勇者「怠惰!!!」
774 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/15(日) 22:57:35.12 ID:mJbV6Ie7O
なんで俺こんな名作を知らなかったんだろう
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クオリティの高いサービスを貴方に
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