他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
勇者「遊び人と大罪の勇者達」
Check
Tweet
523 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 15:50:26.69 ID:Hga49WgN0
都の周辺に辿りついたとき、遊び人は不思議と懐かしさを感じていた。
それは、遊び人のお父さんがこの辺りの風景を描いた絵や、薬草辞典の本などを里に置いていたからなのだろう。
勇者は奇跡的な再会を、ただ感動しながら眺めていた。
それに気づいた錬金は、表情を変えて睨んできた。
錬金「愚か者!!」
錬金が手をかざすと、勇者の身体が吹き飛ばされた。
羊皮紙の書類が舞い散った。
勇者「グボォ!!」
遊び人「お爺ちゃん!!」
強欲「部屋の中でやめてくれ……」
錬金「なんたる脆弱!!なんたる浅学!!」
錬金は遊び人から離れ、壁に叩きつけられた勇者の元に詰め寄ってきた。
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 15:57:43.47 ID:Hga49WgN0
錬金「この子を危険な目に遭わせおって!!精霊の加護がついているからと安心していたが、勇者ですらないそうではないか!!」
錬金「お前たちの旅路の噂を集めていたぞ!!棺桶を引きずる遊び人のオナゴの噂がどれだけ世界に散らばってると思ってる!!嫉妬の王国に対抗するために集めていた情報だったが、それらの噂が全てわしの孫娘のことだったとはな!」
遊び人「どうして私がお父さんの子だってわかったんですか」
錬金「嫉妬の王国の魔物の中には、わしらの国のスパイの魔物もおる。鳥系の魔物が多いんじゃが、何匹かの羽毛に”集声石”を隠している」
錬金術師は石を取り出し、念を込めた。
石から遊び人の声が響いた。
『リコルダーティ・スケルツォ・ベルスーズ』
『主を失いし旋律の怨嗟よ』
『大罪の仇讎曲を奏で給え』
勇者「これは、遊び人が憤怒の街で唱えようとした呪文……」
錬金「呪文の詠唱は個人によってやり方にアレンジが加わる。禁術ともなると無口詠唱で唱えるのは難しい。そこで、有口詠唱をするとなると、精霊への敬意の示し方に使用者の癖が見られるようになる」
錬金「『大罪の』という枕詞を付けたな。あの里の十八番とも言える言葉じゃ。ノーマルの人間ならまずつけることもないことばで、つけても効力を発揮しない」
錬金「この術自体は、遥か昔に魔王討伐を果たした勇者一行の術士が創造したと言われているものじゃ。こちらノーマル側の一部の人間しか知らぬもので、賢者の里で知っているものもそうはいまい」
錬金「わしの息子が持ち帰った本に書いてあったのだろう」
錬金「私達と通じている嫉妬の王国の研究者も言っていた。大罪の賢者は消滅し、ノーマルは殺されるか王国に拉致されていたと。そして、わしの息子の亡骸を見たところ、強制転職の痕跡があったとも」
錬金「もしかしたらと思っていたよ……。本当に、生きていてよかった……」
遊び人「お爺ちゃん……」
『……死ね私』
遊び人「……………」
勇者「あっ、これは石を投げて口でキャッチした時のイデデデ!!足、足痛い!!」
525 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 22:58:17.49 ID:Hga49WgN0
強欲「不思議な縁があるものだ。おかげで話は早く済んだ」
強欲「俺の持つ『強欲の腕輪』を近々やつは奪いに来る。この都でやつの息の根をとめる」
強欲は懐から、黄金色の鮮やかなブレスレットを取り出した。
遊び人「それが、強欲の腕輪……」
強欲「悲しいことに、俺の存在は勿論、この大罪の装備は既に感知されている。つい先日にその痕跡を見つけた」
強欲「感知呪文対策はしていたし、今まではそれで防げていたんだがな」
勇者「それはきっと遊び人が、赤い糸の呪文で嫉妬をコントロールしていたおかげだ。大罪の装備を認知不可の領域に持ってこれていたんだ。けれど今は、呪文を破られてしまって……」
錬金「……愚かなことをするわい。敵との絆を作るなんて、どこでアダになるかわからんぞ」
錬金は頭を抱えた。
強欲「次に嬉しい報せだが、やつがこの都に侵入してくる日も大方把握できている。嫉妬の王国に我々の味方がいるからな」
勇者「二重スパイの可能性はないか?」
勇者は手を顎に乗せ、鋭い眼光で指摘した。
遊び人「何か酔ってるよ……」
強欲「強欲の都で長をしている俺だ。信頼等という尺度は持たない代わりに、利害関係は熟知しているつもりだ」
強欲「それに、わが都きっての優秀な占い師もいる。緻密に準備して、返り討ちにしてやるさ」
遊び人「二つの大国の全面戦争になるのかしら」
強欲「そうはならない。俺だけをターゲットにした暗殺だ」
強欲「この戦いは詰まるところ、大罪の装備を奪った者が勝ちなのだ」
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 23:06:49.41 ID:Hga49WgN0
遊び人「でも、気になることがあるの。あなたの強さも知らずに失礼なことを言ってしまうけど」
遊び人「奴には絶対に勝てないわ。大罪の装備の中で、嫉妬は頂点に君臨すると言ってもいい」
遊び人「私たちは嫉妬の首飾りの力を見たの。そして、どうしてあいつが精霊を集めて体内に複数宿しているのかの理由もわかった」
遊び人「嫉妬の首飾りはね『一度起きた妬ましい状況を発生させない』装備なの」
遊び人「あいつは一度被害に遭った攻撃に対して、無効化する力を持っているの」
2人は憤怒の勇者に起こった出来事を忘れない。
憤怒の兜を被った彼が、目で捕らえられぬほどの速度で嫉妬に飛び出して行ったものの。
首飾りから冷気のようなものが吹き出し、憤怒を包み込み我に返させた。
遊び人「捕縛の結界の中を自由に出歩くことができたのも、一度その結界内に入ったことがあるからに違いないわ」
遊び人「あいつは一度受けた攻撃に対して免疫を持つの。だからこそ、一度目の攻撃は効いても、二度目は絶対に効かない」
遊び人「精霊を複数体内に宿しているのもきっとそのためよ。精霊殺しの陣、魔剣、大罪の力、今では精霊の加護を打ち砕く手段が複数存在する。それらを克服するためには、当然その方法で一度は破壊されなくちゃならないんだもの」
遊び人「あいつの体内にはまだ6体の精霊がいるの。その腕輪の力で一体分倒したところで……」
強欲「だからこそ、知恵を絞るのだ。さっきも言っただろう、この戦いは大罪の装備を奪った者が勝ちだ。奴の嫉妬の首飾りさえ奪うことができればいいのだ」
強欲「あいつに関する情報を、詳しく教えてくれ」
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 23:19:25.01 ID:Hga49WgN0
勇者「こういうの苦手だからお願いしたい」
遊び人「はいよ」
強欲「筆記具も使ってくれ。地形や絵を書きながら説明してくれると助かる」
遊び人は机の上に置いてあった羊皮紙と筆記具を手に取り、語りだした。
遊び人「どこから話し出せばいいかな」
強欲「大罪の装備にまつわる全ての街の記憶についてだ。何か手がかりを掴めるかもしれない」
遊び人「わかった。まずは、暴食の村についてから。ええっと、私は教会で目覚めたところからしか……」
錬金「また死んでいたのか!!お前はわしの孫を常に棺桶に閉じ込めていたのか!!」
勇者「ひっ……」
強欲「構わん、続けてくれ」
528 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 23:29:45.25 ID:Hga49WgN0
暴食の村、色欲の谷について、(恥ずかしい記憶はそれとなく濁しながら)遊び人は一通り記憶を語り終えた。
遊び人「それじゃあ、続いては、憤怒の街での出来事について」
強欲「嫉妬が現れた場所だな。一番詳しく聞きたいところだ」
遊び人「もう知ってるみたいだけど、私たちはまずお嫁さんの候補としての演説会に出場したの。それから……」
遊び人「お姫様との戦闘が終わったかと思った時、私の赤い糸が電撃で焼き切られたの。それであいつは街に侵入してきた」
遊び人「物体感知に傲慢の盾がひっかかったって言ってた。多分、あいつは赤い糸の呪文に以前から気づいていたのよ。赤い糸の呪文は見抜かれた瞬間に効力が切れるものなの」
遊び人「私と会話しているうちに、傲慢の勇者の爆発呪文があいつに直撃したわ。煙がなくなると、傲慢は嫉妬に剣で刺しぬかれていた」
遊び人「最後は教会の内部に入った嫉妬を憤怒が倒して、ガラスが激しく割れた音がした。奴の精霊が砕けた音ね」
遊び人「勝利に喜んだのも束の間。教会から嫉妬が出てきて、やつの体内に精霊が6体いるのがみえた」
遊び人「兜を被った憤怒が再び襲いかかったけれど、あっけなくやられたの。傲慢の盾も使う間もなく一瞬で奪われてしまったわ」
遊び人「それから、私たちは、移動の翼で逃げ出して……」
錬金「もうよい。よく話してくれた」
529 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/31(日) 23:36:42.59 ID:Hga49WgN0
強欲「…………」
強欲は顎に手をあて、深く考え込んでいるように見えた。
遊び人「今の話を聞いて何かわかった?」
強欲「話を聞いてもわからぬことは多いが。手が語ってくれたことはある」
遊び人「手?」
遊び人は自分が描いた数々の図を見た。
その中でも嫉妬との戦闘シーンを記した図を見ると、嫉妬の移動にある特徴が見られた。
遊び人「……全然気づかなかった」
勇者「嫉妬の行動範囲が、ほとんど教会付近だ」
強欲「どういう訳かわからんが、教会の中に入ろうとしているように見える。傲慢の爆発が起きてから憤怒と戦うまで」
勇者「捕縛の結界があるからじゃないか?」
強欲「やつにとって教会にいることは何か意味があるのかもしれない、力を引き出すとか、弱点を防ぐとか」
強欲「爆発が最初に起きたと言ったな。嫉妬は確かに死んだのか?」
遊び人「煙がたっていたからなんとも」
強欲「妙だな。嫉妬の首飾りは無効化する装備なのだろう。だとしたら、爆発そのものを防ぐのではないのか」
遊び人「爆発が効かない身体になるのか、爆発そのものを抑えるのかは私達にもわからないわ」
強欲「もしかしたら、直撃していたかもしれんな」
強欲「なにせ、通常呪文で倒されたところですぐそばの教会ですぐに復活できるのだ。嫉妬のパーティメンバーは他にはいないと聞いている。」
強欲「首飾りの乱用をしたくないのかもしれない。大罪の装備の使用は術者の寿命を食らう」
強欲「自分が浴びる全ての呪文を無効化なんかしていたら、それだけで寿命が大方持って行かれてしまうだろう。奴は麻痺や石化などの状態異常に関する呪文だけに首飾りの能力を使用するのではないだろうか。もちろん、一度でも精霊の加護の破壊を遂げた攻撃に対しても、全て無効化しているのだろう」
530 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 00:02:50.30 ID:OQIpRnKs0
遊び人「さっきも言ったけど、あいつの体内にはまだ6つ精霊が宿っているの。そして、憤怒の兜による攻撃はもう無力化されている」
遊び人「嫉妬の首飾りを除いたら、残る大罪の装備は5つよ。それら全てを使用しても奴の精霊を全ては破壊できない」
遊び人「加えて、精霊のストックもあるって言ってたわ。また体内に補充しているかもしれない……」
錬金「それは難しいじゃろう。可能な限り体内に詰め込んだ結果が、今の数のはずじゃ。賢者の石の発明を試みたわしだからわかる」
錬金「半年に1体ほどのスペースじゃろうて。それでも困ったことじゃがな」
強欲「だからこその、捕縛なのだ。奴の身動きを一度封じ、首飾りさえ奪えれば良い」
遊び人「状態異常の呪文は全て無効化の対象にしているに違いないわ。眠り、麻痺、混乱、そういった意思をコントロールする呪文はきっと効かない」
遊び人「魔法陣による呪縛も無効化の対象にしていたのだから、きっと呪文の捕縛も出来ないわよ」
強欲「大方の攻撃は無意味だろう。だが、奴の装備はこの世の全てを支配する能力を持っているわけではない。勝機は探せばいくらでもある」
強欲「俺は強欲な男なのでな。ここで人生を終わらせるつもりはないんだ」
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 00:09:27.13 ID:OQIpRnKs0
強欲「さて、今までの旅の状況はわかった。だが、1つ気になることがある。勇者といったか」
勇者「な、なんだよ」
強欲「お前の職業が勇者ではないとしたら。一体、何なのだ?」
勇者「何だろ」遊び人「なんなんだろうね」
強欲「はぁあ!?」
強欲「お前、自分の職業もわからずにずっと冒険してきていたのか!?」
勇者「ずっと昔、旅の仲間と冒険してた時に転職神殿を訪れたことがあったけど、わからないって言われたんだ。イレギュラーな存在だって言われて」
勇者「でも何の能力も発現しないし。自分の適性もよくわからないし。戦術に優れたわけでもないし、呪文もほとんど使えないし」
勇者「困っちゃうよね……はは……」
錬金「こやつ……」
錬金「転職神殿が近くにある!一流の占い師がおるからそこで鑑定してもらえ!!」
錬金「無職だったら何かしらの職業についてこい!!」
勇者「ひっ!!」
遊び人「い、行きましょ!勇者!」
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 00:18:02.51 ID:OQIpRnKs0
〜転職神殿〜
勇者「けっこうな人だかりだな」
遊び人「各地から集まっているそうよ。世界にある転職神殿の中でも最も優秀な神官、術士、占い師が集まっているからって」
勇者「それにしても多いよ。みんな自分の職業に満足していないのかな」
遊び人「キャリアアップをしたいんじゃない?」
勇者「賢者とか一流の職業を目指すのかな」
遊び人「だとしたら遊び人になるのかしらね」
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 01:31:59.06 ID:4FxQJvj00
あけおめ乙
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 12:58:44.66 ID:OQIpRnKs0
勇者「色んなコーナーがあるな」
遊び人「転職相談をしている場所もあるわ。ちょっと覗いてみましょ」
武道家「今まで武道家をしていたんですけど、どう考えても、剣や槍を持った方が強いということに気づきまして……。もう辞めたいです……。毎朝起きた時から憂鬱で……新卒のときを思い出しては、若気の至りで長武器を持とうとしなかったことに後悔していて……」
僧侶「わたし、生まれつき魔力の器が小さくて。すぐ尽きてしまうんです。だから結局、呪文じゃなくてやくそうを使って仲間を回復してるんです。これだったらもう僧侶やめたほうがいいなって」
盗賊「犯罪じゃないですか。僕らの職業って。まずいなって、ふと気づいたんです」
勇者「人の悩みはそれぞれだな」
遊び人「みんな深刻な表情ね」
535 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 12:59:58.23 ID:OQIpRnKs0
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。
536 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 13:11:26.45 ID:OQIpRnKs0
遊び人「あっちでは面接をしてるね。こちらも覗いてみましょ」
面接官「自己紹介をお願いします」
踊り子「私は踊り子と申します。故郷で飲食店を中心に働いていました。食べるという目的で集まった人達を、演技によって一層食事の時間を楽しんでもらうことに、やりがいを感じていました」
面接官「なるほど、素敵な経験ですね。それでは、僧侶への志望動機をお願いします」
踊り子「はい。私が僧侶への転職を志望する理由は、人々のために祈り、より多くの人達への救いに貢献したいと考えたからです。回復手段や補助手段が一層多いことに僧侶への魅力を感じています」
面接官「そうですか。でも、踊り子のままでも味方に回復呪文をかけることはできるんじゃないですか?魔法封じの呪文をかけられても踊りであれば使用することもできます」
踊り子「はい。確かに踊りで回復することはできます。しかし、僧侶のように身体の傷を完全に癒やすほどの力もなく、また、瀕死の者を救う呪文などは使用できません。また、踊りを封じる敵もいるため、その場合は回復手段が失われてしまいます」
踊り子「私は、踊り子という職業を否定するつもりはなく、僧侶を経験してこの踊り子という職業を別の視点で振り返ってみたいと考えています。踊れる僧侶、が私の目指す姿です」
面接官「……わかりました。合否の結果は後日お知らせします。採用、不採用に関わらず1ヶ月以内に連絡致します。本日はありがとうございました。。お気をつけてお帰り下さい」
踊り子「はい。ありがとうございました。失礼します」
537 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 13:26:03.81 ID:OQIpRnKs0
遊び人「面接官が満足げな顔してるわ」
勇者「合格したんだろうな」
遊び人「面接の模擬練習もできるみたい。ねーねー、私達もやってみようよ」
勇者「ええー、嫌だよ。ここで見てるからやってこいよ」
遊び人「つれないなぁー。じゃあ行ってくるね」
勇者「志望職種は何にするんだよ」
遊び人「遊び人に決まってるでしょ」
面接官「まずは自己紹介をお願いします」
遊び人「エントリーシートに書いてありますのでそちらを御覧ください」
面接官「失礼しました。それでは、あなたが直近で打ち込んだことを教えてください」
遊び人「はい、私はギャンブルにお金を注ぎ込みました。汗水たらして仲間が魔物を倒して稼いだお金を浪費して、自分の趣味に投資していました。リターンはかえってこず、野宿する羽目に何度もあいました」
面接官「わかりました……。では、あなたを物に例えるとなんですか?」
遊び人「私を物に例えると、やくそうです」
面接官「なぜ?」
遊び人「噛めば噛むほど、味がでるからです」
面接官「それはスルメのことでは?」
遊び人「やくそうだと言ったでしょう!どうしていきなりスルメがでてくるんですか!話聞いてくださいよ―」
面接官「…………」
面接官「最後に何か質問はございますか」
遊び人「はい。食事補助付きクエストの昼食代の支給に関して、昼食を取らずに私的に利用することは可能でしょうか」
面接官「あくまで労働者の方が昼食を摂取することを目的とした支給ですので、適切な使い方をして頂きたいというのが我々の気持ちでして……。他に質問はございますでしょうか」
遊び人「着替えの時間は勤務時間に含まれますでしょうか」
面接官「それに関しては……」
遊び人「また、入社三年目で退職した場合、退職金はどのくらい出るでしょうか」
遊び人「やった!!合格間違い無しだって!!ここ近年で最高得点だって言われた!!」
勇者「お前の右に出る遊び人はそんなにいないと思う」
遊び人「えへへ」
538 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 14:34:29.72 ID:OQIpRnKs0
勇者「意外とやってみたら俺も行けたりして」
遊び人「おっ、やる気でてきたかな?」
勇者「でもこういうの苦手だしさ」
遊び人「やめとく?」
勇者「子供じゃないんだ。たまにはリーダーらしいところ見せてやろうかな」
遊び人「おお!」
勇者「ここで見ててくれ」
面接官「はーいつぎー。自己紹介してー」
勇者「し、しつれいじまず!!」カクカック
遊び人「(めっちゃあがってるじゃん……)」
面接官「希望する職業は何?」
勇者「はい、私は」
面接官「っていうかさ、レベルも20にも達していないのに転職できないよ」
勇者「(うっ、これ圧迫面接だ……)」
面接官「まあいいや、あなたのことを聞かせてよ。あなたをものにたとえるとなんですか」
勇者「わ、わたしは潤滑油です!!」
面接官「何故?」
勇者「なぜなら、人と人との間をぬるぬる、ぬちゃぬちゃ、効率よくぬちゃぬちゃ、することが得意だからでしゅ!!」
遊び人「(噛んだ……)」
面接官「私にはそうは見えないけどなぁ」
勇者「ど、どのように見えましゅか?」
面接官「見る限り、武道の心もない。神に対する信仰心もない。精霊に対する敬意も勿論見えない」
面接官「その割には中途半端に善意の心も持ち合わせている。盗みの心もないし、詐欺の心も無い」
面接官「戦士にも、武道家にも、魔法使いにも、僧侶にも適性がない。農夫、道具屋、盗っ人、商人も難しいだろうな」
面接官「最後になんか質問ある?」
勇者「……いいえ、ありません」
面接官「採用の通知については1ヶ月以内にお知らせ致します」
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 14:35:06.81 ID:OQIpRnKs0
遊び人「あっ、勇者が肩を落としてこちらに歩いてくる……」
主婦A「最近の若い人たちは、やりたいことばかり口にして、すぐにやめちゃうっていうからねえ……」
主婦B「石の上にも3年って言う言葉もあるのにね」
勇者「うっうっ……乗せてくれる石もねぇんだよぉ……」ポロポロ…
勇者「職業選択の自由はどごにあるんだお……」
遊び人「勇者!泣かないで!一旦世間から逃げましょ!」
勇者「うう……」
勇者「今度こそ頑張ろうと思っでだのにぃ……」
遊び人「勇者は何もわるくないよ!!世間、政治、経済、社会がわるいのよ!!」
勇者「ビェええエン!!!」シクシク…
遊び人「ううう泣かないでぇ…」
勇者たちはにげだした!
540 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 17:23:08.31 ID:OQIpRnKs0
勇者「俺なんか無職がお似合いなんだ……」
遊び人「元気を出して」
勇者「このまま都に帰るの嫌だなぁ」
遊び人「あれ、勇者。あそこにあるのって」
勇者「占い師がいるみたいだな。俺は占いなんて信じねーぞ」
遊び人「でも凄い人気みたいだよ。そういえばお爺ちゃんも、この都には優れた占い師がいるから会いにいけって言ってたじゃない」
勇者「本当に占いなんてあたるのかよ」
遊び人「私は占い好きなんだけどな。ねっ、ちょっと行ってみましょ」
勇者「ええー……」トボトボ…
541 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 17:25:42.70 ID:OQIpRnKs0
勇者「やっと順番まわってきた」
遊び人「よろしくおねがいします」
占い師「あらあら、よろしくね」
遊び人「この人が職業のことで悩みを抱えているんです。相談に乗って頂けませんか?」
勇者「遊び人、ちょっと待てって。占って貰う前に、本物の実力持った占い師なのか証明して貰わないと。例えば、今俺たちが持っている所持金の額を当ててもらうとかさ」
遊び人「何言ってるのよ!」
占い師「申し訳ないけど、それは出来ないわ」
勇者「ほらな」
占い師「額はわからないけれど。最近まともな食事を摂っていないようね。肌に表れているわ。冒険者の身なりをしている割には、装備も安価なもの。あなた達のお金の使い方は特殊なようね」
勇者「…………」
占い師「私は目の前の人の生い立ちもわからなければ、水晶玉の中に未来を見る力もない」
占い師「その代わりに、人を見る勘にかけては長けていると自負しているわ。占いって、本来そういうものだとも思ってるの」
占い師「ほら、あそこで面接を受けている人をみてみなさい」
女盗賊「僧侶への転職を希望するわ!!僧侶ならみんな安心して近寄ってくるし、盗み放題、騙し放題に違いないんだもの!!人を騙すにはまず見た目からよ!!」
占い師「彼女の未来は明るいと思う?暗いと思う?」
勇者「暗いだろ。神の遣いを偽って人を騙したことがばれたら、殺されかねないぞ」
占い師「ほら、あなたにも未来が見えた」
占い師「自然の成り行きに未来は通じる。今自分の瞳に映る光景を適切に判断することは、未来予知と一緒よ」
占い師「それはパーティメンバーのリーダーこそ、最も数多く、そして責任を抱えてやっていることでもあるわ」
占い師「かつて偉大な勇者様もこうおっしゃっていたわ。自分の仕事はただ二つの指令を与えることだけだったと。すなわち、『たたかう』か『にげる』か」
占い師「私に任せれば、あなたに関する”自然の成り行き”を見通すことができる。あなたにとって最善な選択を、今この瞬間の状況からきっと判断してみせるわ」
占い師「どうする?『たたかう』か『にげる』か、選んでごらんなさい」
勇者「……こんな長蛇の列に並んで、今更帰るわけないだろ。俺を診てほしい」
占い師「ふふ、そう言うと思っていたわ」
542 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 18:03:44.48 ID:OQIpRnKs0
占い師「……それで、あなた自身は、かつての勇者様のようになりたいと強く願っていると」
勇者「はい、そうです」
占い師「……わかりました。診断結果が出ました」
占い師「あなたにふさわしい職業は……」
勇者「…………」
占い師「案内人です」
勇者「はっ!?」
遊び人「案内人って……」
占い師「村や街の入口付近で立っている住民のことです。『ここは○○の村だよ!』というセリフパターンが多いですね」
遊び人「適性があるとは、どういうことでしょうか?」
占い師「あなた達が出会った案内人の中には、個性がある者もいたでしょう」
遊び人「確かに、暴食の村の案内人は食べ物を食べていたし、色欲の谷の案内人は変な椅子に乗ってたかな……。傲慢の街については自慢気に語られて、憤怒の城下町ではいきなり怒ってきたし。強欲の都の案内人からはお金をふんだくられちゃったよ」
占い師「その街がどういう街かを示すのに、彼らは素晴らしい仕事をしていたと言えるでしょう」
占い師「周囲の環境を自分に反映させるという能力において、彼らは人より極めて優れているのです。そして、あなたも」
占い師「今すぐ、案内人の募集をかけている場所に行きなさい。仕事を始めたその日から、あなたは頭角を現すでしょう。もしかしたら、世界中の案内人の誰よりも、その才能を発揮するかもしれません」
勇者「ちょっとまってくれ。意味わかんねーよ。そもそも、そんなことに得意な自覚なんて持ったことねーよ」
占い師「自分は根無し草だと、蔑んでいた過去はありませんか?」
勇者「…………」
占い師「欠けていることと、長けていることは表裏一体です。どこにでも馴染めるのは、どこにでも定着できなかったからです」
占い師「あなたは心に柔らかい壁を張っている。人々はそれを突き破ろうとはしないけれど、寄り掛かるにはちょうどいいと感じます。あなたが案内人として住み着いた場所は、人々の交流を盛んにさせ、やがて大きな発展を遂げるでしょう。自分がもう不要になったと感じたあなたは、他の村にまた移動することを繰り返すのでしょう」
占い師「世界中の町村があなたを求めることになりますよ」
勇者「勇者の適性は……」
占い師「そのことについて全く言及しないのは、あなたを傷つけたくないからですよ」
勇者「……わかったよ。ありがとうよ。もう帰るわ」
遊び人「勇者……」
543 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 18:12:56.17 ID:OQIpRnKs0
勇者「1つ聞きたいんだけど。あんたが占い師になったのは、自分で自分が占い師として大成する未来が見えたからなのか?」
占い師「違いますよ。占い師として、世界中に共通している定説が1つあるのです。それは、占い師は自身の未来は見通せないということです」
占い師「同情を引くわけではありませんが、占い師は、自身が悲惨な人生を送っている人がとても多いのです。手に入れられなかった経験、認められなかった経験、結ばれなかった経験が、常人とは比較にならないほど深く刻まれていたりするのです」
占い師「どうして占い師は自分のことを占えないのか。それは、都合の良い予防線なんかではないのです」
占い師「とても自身を、直視することなんて出来ないからなのです。優れた占い師は、無数の他者への占いを通して、自身を見ることを望んでいるのです」
占い師「他者は自身の鑑であり、自身は他者の鑑である。そういう意味で、人を映す水晶玉を覗くことは、理にかなっている行為なのかもしれませんね」
占い師「それでは、良き未来を選択することを願っています」
544 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 21:07:05.22 ID:OQIpRnKs0
勇者「職業差別なんかいけないっていう価値観は、当たり前のように持ってるけどさ」
勇者「自分が案内人として、村の入口に1日中立ち続けるのが最もふさわしい人生だって言われたら、どうすりゃいいかわかんねーよ」
勇者「それどころか、魔物から逃げに逃げてきたせいで、まだ転職できるレベルでも無いらしいんじゃんか」
勇者「転職できないし、適性あるのは案内人だけ。俺って、何なんだろうな」
遊び人「適性が1つでもあることは凄いことだと思うよ。案内人としては世界で最も優秀な存在になれるかもしれないって言われてたじゃない」
勇者「いいよな遊び人は。昔から賢者の一族きってのエリートだったんだから。他人事だよな」
遊び人「私はそんなつもりで言ったんじゃ……」
勇者「もう罵られてもいいからあの2人に報告にいくよ。僕は一流の案内人になれそうですってさ」
勇者は子供のように露骨に不貞腐れて先に歩いていった。
遊び人は呆れたりはしなかった。
これが憤怒の街を訪れる前であったら、遊び人もつられて不機嫌になっていたのかもしれないが。
人は自分の弱さや臆病さを、怒りで押し隠す不器用な生き物であると、今までの冒険を通して学んでいた。
545 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 21:07:34.40 ID:OQIpRnKs0
能力を否定されることほど、男性にとってつらいことはない。
やさしい心を持っている勇者は普段、表ではなんでもなさそうにヘラヘラ笑っていても。
夜の布団の中では、ちゃんと一人で傷ついている。
遊び人「他人事じゃないよ」
遊び人「この職業になって、何もかもできなくなってから見えてきたことも、ちゃんとあるんだよ」
遊び人「何もできないというあなたが、それでも何かは成し遂げようと頑張ってくれてる姿、ちゃんと見ているつもりだよ」
遊び人は不貞腐れた子供のもとへ、走っていった。
546 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 22:16:30.96 ID:OQIpRnKs0
〜夜 宮殿内〜
強欲「またせたな。ここのところやることがあまりに多くてな。もちろん嫉妬の王国に関する仕事だが」
強欲「さきほど占い師と話をしていた。そういえばお前らも昼間、彼女にあったそうだな。不機嫌にさせたようで申し訳ないと言っていたよ」
勇者「別に……」
強欲「嫉妬との戦闘の日に関して、情報の更新があったそうだ。今日から一月ほど経った頃になるそうだ。その日が嫉妬にとって最も暗殺をしやすい日にあたるとのことだ」
遊び人「なにそれ。だったらその日が訪れる前に、こちらから仕掛ければいいじゃない」
強欲「占いによって未来は変わらない。占い師によれば、それが俺達にとって最も防衛しやすい日でもあるそうだ」
勇者「占いさまさまだな。どうせどちらが勝つかの予言はできないって言うんだろう」
不機嫌そうに言った勇者に、錬金が睨みつけて返答した。
錬金「彼女にできるのは今を把握することだけじゃ。スタート地点に双子の子供が並んでいるのを見ることはできても、どちらが先にゴールするかは予測できまい」
錬金「わしらが今成すべきことは、不確定要素の多い未来に対し、勝利の可能性をできるだけ積み上げることじゃ」
547 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 22:17:33.69 ID:OQIpRnKs0
錬金「と、いうことで、案内人の貴様」
勇者「案内人じゃねーよ。仕事についてないから無職だよ」
錬金「徹底的に鍛えてやる。精霊の加護を持つ貴様は必ず戦闘の要になる」
勇者「なんだよそれ。急に言われても」
強欲「錬金、孫娘に関わることだからといって感情的になるな。勇者、これはお互いにとって全く悪い話しじゃない」
強欲「もしもお前らが根無し草なら、俺達の都の住人になれ。無謀な冒険もここで終わりだ」
勇者「何言ってるんだよ!そしたら遊び人は……」
強欲「大罪の装備については俺もこの爺さんから話を聞いている」
強欲「7つの大罪の装備を揃えたら、遊び人、あなたに70年分ほどの寿命を吸わせよう。そのあとは全ての装備を俺に預けてもらう。俺は大罪の装備の力を利用して、世界を統一する」
強欲「俺の父親は魔物に、母親は人間によって殺された。俺はくだらない争いの起きるこの世界を調停する鍵が欲しいんだ」
強欲「俺らの仲間になってくれ、勇者、遊び人」
548 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 22:36:27.79 ID:OQIpRnKs0
〜宮殿裏 寮〜
寮母「今日からここがあなた方のお家です。男子寮は手前の建物、女子寮は奥の建物になります」
勇者「うわ、外観からして綺麗だな」
遊び人「本当に泊まっていいのかな……」
寮母「宮殿に勤務する職員の宿舎として使われているの。門限は無いけれど、あまり夜まで遊ばないようにね。私たちはそこの事務所の中にいるから、用があったらいつでも声をかけてね」
遊び人「ついに、私達にもこんな平穏な寝床が……」
寮母「それと、男子寮は女子禁制、女子寮は男子禁制ですので。デートは街中のレストランにでも行ってくださいな」
遊び人「だって勇者」
勇者「な、なんだよそのフリ」
549 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 22:49:21.78 ID:OQIpRnKs0
〜部屋〜
勇者「ふぅー、なんてふかふかなベッドなんだ。寮母さんのご飯も、温かくて美味しかったし」
勇者「宿屋に泊まる時はいつも最安値の場所だったからな。飯もろくなものなかったし」
勇者「俺なんかと冒険させたせいで、遊び人には苦労をかけたなぁ」
勇者「はぁー」
勇者「部屋に一人きりって、変な感じがするな」
勇者「女の子と相部屋なんて、落ち着かないしで、最初はすげぇ困ってたのにな」
勇者「女風呂を覗くのは望んでも、混浴で女性を直視はできないのと一緒だって言ったらドン引きされたんだったな」
勇者「変なところでズボラだったり、変なところで几帳面だったりで、文句の言い合いや我慢のし合いで正直ストレスが溜まることも多かったけど」
勇者「もうそれにも、けっこう慣れてきた頃だったんだけどな」
勇者「さて、明日も早いし寝るか」
550 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/01(月) 23:01:09.03 ID:OQIpRnKs0
〜早朝 前〜
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
勇者「う、うわ!!何の音だ!!」
勇者「机の上からだ!!」
真っ暗な部屋の中を手探りで進みながら、勇者は震える石を手に握った。
勇者「昨日錬金から貰った目覚まし石か!ギュッと握ったら止まるんだったな……。うへー、すげぇ振動」
勇者がしばらく石を握ると、振動は落ち着いた。
勇者「でも、どうしてこんな時間に。まだ日も登ってないし。うう、寒い」
勇者「あの神経質そうな爺さんが時間の設定を間違えるだろうか。ただの嫌がらせをするような人でもあるまいし」
勇者「……もしかして」
勇者「もう出社の時間ってこと?」
551 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 00:00:43.23 ID:do1GsOP20
〜宮殿 地下室〜
錬金「待っておったぞ」
勇者「どうしてこんなに早いんだよ。もっと遅くでいいじゃんか」
錬金「馬鹿言うな。時間がないことへの自覚が足らんのか。夜も遅くまで付き合ってもらうぞ」
勇者「修行って何するんだよ。憤怒の勇者も、傲慢の勇者も勝てなかった相手に、俺が一ヶ月訓練したからって何になるんだよ」
錬金「……どこから叩き直せば良いのか」
勇者「こんな寝ぼけた状態で。まともに修行できるかよ。もっと、短時間で、集中的に、効率的に鍛錬してさ……」
錬金「その思考回路の結果が、今のお前じゃろう」
勇者「…………」
錬金「お前が届かないと言っている者達も、決して才能や効率的な努力だけでのしあがって来たわけではない。無駄な時間も、無意味な時間も、常人よりはるかに多く積み重ねてきたはずじゃ」
錬金「その点では嫉妬の者も、勇者に選ばれるだけの素質があったのじゃ。妬みや嫉みを、自分の力に変えてきたのじゃ」
552 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 00:02:12.02 ID:do1GsOP20
錬金「だが、確かに貴様の言う通り、ちまちまと魔物を倒しても大した進歩はない。そこでだ」
錬金「強欲の都には、嫉妬の王国に引けを取らぬ技術の粋が集められておる。まだ未公表のものも多いが、貴様を確実に強くさせてくれる研究の成果物もある」
錬金「その部屋に入って、兜を身に着けろ」
勇者は大きな牢獄のような部屋に入り、特殊な形をした兜をかぶった。
勇者「あれ!!どういうことだ!!」
勇者「闘技場の真ん中にいる!!」
錬金「その兜には、強欲の勇者の電流が蓄積されておる。今のお前は洗脳されている状態じゃ」
錬金「装着者の脳内に保管されている戦闘の記憶を呼び出すこともできれば、こちらから戦闘データの転送を行うこともできる」
錬金「安心しろ。精霊の加護がなくとも死にはせんし、負けても経験値は手に入る。それも、通常に戦うよりも短時間でな」
錬金「まずは、その過去をやり直してみろ」
勇者はいつの間にか剣を握っていた。
そして、足元には使い捨ての魔法銃と移動の翼が散らばっていた。
勇者「見覚えがあるぞ」
勇者「だとしたら、対戦相手は……」
傲慢「…………」
夜中の闘技場に、傲慢の勇者があらわれた!
553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 00:04:11.30 ID:do1GsOP20
勇者「ぶはぁっっ!!!!」
勇者「痛ぃいい!!!だ、たずげで!!!ごろざれるぅうう!!!」
汗だくになった勇者は、兜を外すと同時に床に転がり落ちた。
錬金は呆れた顔を向けた。
錬金「傷1つついてないわい。情けない。もう60回は負けてるぞ。まだ昼にもなっておらんというのに」
錬金「対戦相手のデータは、貴様の記憶と、既に兜に蓄積されている強者のデータの混合物じゃ。当然、オリジナルには遥かに劣る戦闘力のはずじゃぞ」
錬金「さあ、また兜をつけろ。今日中にそやつを攻略する勢いで戦うんじゃ」
勇者「ちょっと、ちょっとまってくれよ」
錬金「一月後に嫉妬を前にして同じセリフを吐くつもりか?『ちょっとまってくれ
、俺がお前より強くなるまで。あと100年ほど』」
錬金「笑わせるわ。さあ、戦って、勝つんじゃ」
勇者は錬金に、何度もそうされたように無理やり兜を被らされた。
結局、勇者は一日中、”精霊の加護の無い状態で殺される体験””を繰り返し、一度も脳内の傲慢に勝てないまま帰路についたのだった。
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/02(火) 01:28:46.16 ID:OuVvj/sDO
正月更新乙
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 12:47:59.98 ID:do1GsOP20
遊び人「寮母さん、こんにちは」
寮母「遊び人ちゃん、こんにちは」
遊び人「勇者は今部屋にいますか?」
寮母「下駄箱に靴があるか見てごらんなさい。女性は入り口まで入っても大丈夫だから」
遊び人「わかりました」
遊び人「……えーっと、ここかな」
遊び人「あれ、カラだ。今日も外出してるみたい」
寮母「忙しいみたいね。遊び人ちゃんはこれから何か用事あるの?」
遊び人「はい、宮殿の方に呼ばれていて。色んな施設を見学させて貰えるみたいです」
寮母「あら、よかったわね。いってらっしゃい」
遊び人「はい!いってきます!」
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 12:49:08.01 ID:do1GsOP20
勇者「う、うぇ、うぇええ……」
勇者「オェエエエエ!!!」ビチャビチャビチャ!!
錬金「精霊の加護に依存してきた報いじゃ。全ての冒険者は死と隣り合わせの覚悟で戦ってきたんじゃ。嫉妬と戦う貴様にもその覚悟を身に着けてもらわねばならん」
錬金「じゃが、精神の前に、やはり身体面の能力が低すぎるみたいじゃ。肉体を鍛えれば精神も鍛えられよう」
錬金「午後からは別室で肉体の鍛錬じゃ。昼の間に吐瀉物を掃除しておけ。わしゃ飯を食ってくる」
そう言うと錬金は去っていった。
勇者「…………」
勇者「……くそ、ちくしょう」
勇者「死んじまえ。ぶっ殺してやる」
遊び人と冒険していた頃には無かったような、負の感情を勇者は抱えた。
勇者「あれが、遊び人のお爺ちゃんって、本当なのかよ。嘘ついてんじゃねーのか」
勇者「亡くなった奥さんを蘇らせようと賢者の石の創造に狂っていたって聞いたことがあるけど」
勇者「叶わなかった夢の腹いせに、弱い冒険者を虐め抜いている腐れジジィじゃねーか」
勇者は掃除用具を手に取り、悪態をつきながら掃除を始めた。
557 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 13:04:25.28 ID:do1GsOP20
勇者「ウグァ……!!アアアア!!」
勇者は小さい結界内に閉じ込められ、腹ばいになって呻いていた。
錬金「話で聞いた憤怒の城下町の教会に張られていた結界と同じものを用意した。術士の人数が多いほど力が増すものじゃ。わし一人分の力しかないんじゃからさっさと抜け出せ」
勇者「無理だこんなの……指一本動かすので精一杯だ……」
錬金「口は立派に動いてるじゃないか」
勇者「……なんか、ヒントとか」
錬金「はぁ?」
勇者「ヒントをくれ……相殺できる呪文とか、特技とか……」
錬金「…………」
錬金「お前はそんなことを、わしの孫娘の前でも言ってきたのか」
勇者「……えっ」
錬金「答えをやろう。自殺すればよい。教会に転送されて、あんたは晴れて自由の身じゃ」
錬金「そしたらもう明日から来なくても良い」
錬金はそう言うと、勇者を置いて部屋から出ていった。
558 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 13:54:12.58 ID:do1GsOP20
〜夜〜
錬金「……とっくに逃げていると思っていたが」
錬金「この都まで生き延びてきただけのことはあるようじゃ」
勇者「…………」
勇者は気絶をしていた。
結界によって、身体中を床に押し付けられ、かなりのダメージが蓄積されているにも関わらず。
錬金「精霊の加護が出現していないということは、精霊が少しでもこやつを信用しているという証じゃろう」
錬金は呪文を唱えると、結界がガラガラと音を立てて崩れていった。
気絶している勇者に、錬金は気付けの呪文をかけた。
勇者「うう……」
錬金「ほれ、起きろ。今日の訓練は終わりじゃ。早めに返してやる」
錬金「明日は武器と防具の選定じゃ。遅刻するでないぞ」
身体中が激痛に侵されていた勇者は、長い時間をかけて寮までたどり着いた。
身体を洗う気力もわかず、そのままベッドに倒れ込んだ。
気絶しながらも耐え抜いた、という達成感など微塵もなく。
理不尽な痛みに耐え続けている自分に、惨めさと悔しさで涙が出そうだった。
559 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 14:00:38.71 ID:do1GsOP20
兵士「久しぶりだな」
遊び人「この前案内してくれた兵士さん!」
兵士「元気でやってるか?」
遊び人「はい!色々宮殿の中も見学させてもらいました!」
勇者「…………」
兵士「勇者さん、大丈夫か?」
勇者「ええ、あ、ああ」
遊び人「勇者は最近1日中訓練してるみたいで、疲れてるんだ」
兵士「なるほどな。俺もこの都で働き始めた頃は大変だったよ。鬼隊長直属のチームに所属しちまってな。丸太担がされたり、焼けた地面の上を素足で走らされたり、訳のわからん地獄の特訓を受けたもんだよ」
兵士「まあじきに慣れるさ。今日は俺と散歩するだけだから、身体を休めるといいさ」
勇者「……ああ」
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 14:55:15.93 ID:do1GsOP20
遊び人「こんな上質のローブ買って貰っちゃってよかったのかしら。道具も一通り揃えてもらったし。おいしいごはんまで奢ってもらっちゃって」
兵士「強欲の勇者様が、あんた達の望みは何でも叶えてあげるようにとおっしゃっていた。勇者様の特別な客人に、俺も失礼したな。身なりがあまりにボロボロなんで同じ田舎者出身かと思っちまったよ」
遊び人「あはは、気にしなくていいよ。私が無駄遣いをよくしたもので、装備を買うお金もなくってさ」
兵士「はは、なんつー冗談だ」
勇者「…………」
遊び人「勇者、どうしたの、浮かない顔して」
勇者「……明日からまた訓練が始まる」
兵士「お互い大変だな。宮殿内も最近バタバタしててよ、俺もろくに遊ぶ時間もねぇ」
兵士「まあ自分のペースでやるこったな。そんじゃあ、俺は宮殿に戻ることにするわ」
遊び人「私も宮殿に呼び出されてるの。上級術士の人が里の呪文について詳しく聞きたいんだって。私も都の開発した呪文に興味があるから話だけでも伺いたいなって」
勇者「……そっか」
遊び人「じゃあね、勇者。今日はゆっくり休んでね」
勇者「ああ」
遊び人「それと、この皮のドレス。捨てずに大事に取っておくからね!」
兵士と遊び人は笑顔で勇者に手を振った。
勇者「あの笑顔を守れる可能性が増えるなら」
勇者「それと引き換えに俺が憂鬱になることは、仕方のないことなのかもな」
勇者は重い足取りで寮に帰った。
561 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 15:06:25.23 ID:do1GsOP20
勇者「…………」
勇者「わっ!!」
勇者「酷い夢見たな……てか、今何時だ!?」
勇者は慌てて布団から飛び出し、外を見た。
街中はまだ真っ暗だった。
勇者「はぁー、よかった。寝坊したかと思った……。二度寝するか」
勇者「…………」
勇者「……神経が張り詰めて、ろくに熟睡もできないよな」
勇者「嫌だぁな。半日後にはまたあの地獄の訓練場にいるんだよな」
〜早朝〜
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
勇者「……時間か」
勇者は石を握りしめ、音をとめた。
勇者「こんな石に無理やり叩き起こされて。ぼこぼこにされるとわかっている場所に自ら足を運びに行く」
勇者「俺が今客人として迎えられてるのも、優遇をきかされているのも、精霊の加護を持つ者として立派に働くことを期待されているからなんだ」
勇者「はぁー、逃げ出しちゃいたいなぁ。みんなの期待を裏切って、案内人として自分のペースで生きていくのもいいかもなぁ」
勇者「ずっと昔にそうやって、仲間を裏切ったように」
勇者「…………」
勇者「はぁー。行くか」
562 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 15:27:46.63 ID:do1GsOP20
勇者「……今日は何をやるんだよ」
錬金「陣の真ん中に立て」
地下室の中には、錬金と勇者の他に、術士が6名、円をつくるように立っていた。
地面には六芒星の陣が描かれていた。
錬金「いつもとやることは変わらん。兜を被って、脳内の敵と戦闘をするんじゃ」
錬金「今日は強欲の勇者のデータを転送しておる。最も蓄積の多いデータじゃ。記憶の中の傲慢の勇者とは比較にならない強さじゃろうて」
錬金「今日は中断は無しじゃ。戦闘に負けた瞬間から、また別の場所から戦闘を再開するようになっておる。途中で兜ははずせん」
錬金「では、検討を祈ろう」
勇者「ちょっと待てよ!!こいつらは何なんだよ!!この地面に書かれた魔法陣は一体!!」
勇者が喚くも、身体を硬直させられ、兜を無理やり被らされた。
訳のわからぬまま、勇者は痛覚の感じる世界で強欲の勇者との戦闘を開始させられた。
半日で殺された回数は、数百回に及んだ。
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 15:37:42.20 ID:do1GsOP20
〜真夜中〜
遊び人「どうしたの?」
公園にあるベンチに座っている勇者に、遊び人が心配そうに話しかけた。
遊び人「ここ数日少しも会えなかったから、心配して寮に行ったんだよ」
遊び人「寮母さんに聞いたらまだ帰ってないって聞いたから。お爺ちゃんのところに聞きにいったんだけど、まともに取り合ってくれなくて。心配して探しに来たんだよ」
勇者「…………」
遊び人「何かあったの?」
勇者「…………」
勇者「……しにたい」ポロポロ…
遊び人「つらいことがあったの?話せる?」
勇者「大丈夫……。大丈夫だから」
遊び人「大丈夫じゃないよ」
勇者「扉が……」
遊び人「扉?」
勇者「朝起きて、心を無にしたつもりで、外に出ようとするんだけど」
勇者「扉に手をかけた瞬間、身体が凄く重たくなって」
勇者「それでも、あの地下室に向かうしかなくて……」
勇者「逃げたいって思った壁は、一生立ちはだかり続けてくるものなんだって思い知らされてさ……」
遊び人「…………」
勇者「俺、また逃げ出しちゃうのかな……」
勇者は手に顔を埋めて言った。
564 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 15:47:39.30 ID:do1GsOP20
遊び人「そっか」
勇者「…………」
遊び人「よっこいしょっと」
遊び人はうなだれている勇者の隣に座った。
遊び人「助けてって、私に言ってくれればよかったのに」
勇者「…………」
遊び人「言っても何も変わらないことを言うことと、何も言わないことは全然違うことだと思うよ」
遊び人「まあ、私も自分の中にしまいこんじゃうタイプだから偉そうには言えないけどさ」
遊び人の独り言を、勇者は黙って聞いていた。
自分の弱さにほとほと嫌気がさしていた。
こんなことなら、まっすぐ寮に帰るんだった。
尋ねてきた遊び人に、何でもない顔をして、冗談の1つでも言えればよかったのに。
強くあることを願いながら。
弱いままだった。
遊び人「ねえ、勇者」
遊び人「そばにおいで」
遊び人はぽんぽんと、自分の膝の横を叩いた。
遊び人「そばにおいで。やさしくしてあげる」
565 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 16:19:08.68 ID:do1GsOP20
勇者「…………」
勇者「お邪魔します」
遊び人「ふふ、いらっしゃい」
元々開いてない距離を、勇者は腰を動かして移動した。
勇者は遊び人の肩にもたれかかった。
遊び人「……私達が出会ってから、どれくらいになるんだろうね」
遊び人「二人きりで冒険している癖に。二人とも、心の底では意地でもお互いに縋ろうとはしなかった気がするな」
遊び人「私達、頑張らなかったもんね。どこかでは、諦めちゃっていた気もするものね」
遊び人「ねえ、勇者」
遊び人「私は私のせいで、もう誰かが傷つくところを見るのは嫌なんだ」
遊び人「もしも勇者が今苦しんでいるならさ。また、逃げ出したって……」
勇者「頼みがあるんだ」
勇者は遊び人の言葉を遮った。
遊び人「頼み?」
勇者は遊び人の肩から離れ、言った。
勇者「戦ってって、励まして欲しい。勝てって、応援して欲しい」
勇者「この時を逃したら。俺は一生変われないままだと思うから」
勇者「俺、強くなりたいんだ」
戦わなくてもいいと言ってくれた人のために、勇者は戦う。
566 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 16:46:07.03 ID:do1GsOP20
ピキ…ピキピキ…
勇者「ウォラアアアア!!!!!!」
錬金「ほほお」
ガラガラ、という音とともに、結界は崩れ落ちた。
錬金「短期間でよくここまで強くなったものじゃ」
勇者「…………」
錬金「なんだ、その目は」
勇者「騙していたな」
錬金「何を」
勇者「6人の術士が囲っていた魔法陣。あれの正体が何かわかったんだよ」
勇者「俺に”枕詞”を付与させただろ!”大罪”という名前のな!!」
錬金「……前にも言わなかったか。時間がないと」
錬金「幼少の頃よりさぼってきたお前と、鍛錬を続けてきた勇者達。その差をどうやれば埋められると思う」
錬金「時間の差は、時間で埋めるしかあるまいて」
錬金「この世には強制転職呪文と呼ばれるものがある。それを少し改良した呪術を創造したのじゃよ」
錬金「お前の身体を変化させた。寿命と引き換えに、身体能力を増幅させるようにな」
錬金「大罪の賢者の一族が、寿命の漏れと引き換えに、呪力を手に入れたのと同じじゃ」
勇者「人の命をなんだと……」
錬金「内緒にでもしなければまともに戦ってくれないと思ったからの。安心せい。こんなまがい物の呪い、一月もすれば勝手に解けるわい。お前はノーマルのままじゃ。大罪の賢者に比べれば足元にも及ぶまい」
錬金「元に戻してほしければ、今すぐにでも戻してやるが」
勇者「……このままでいい」
錬金「そういうと思ったぞ」
勇者「あんたたちの手の平で転がされてばっかりだ」
錬金は誤魔化すように笑った。
錬金「じゃが、確かに心も身体も多少は強くなったようだ。今日はもう帰って良い。明日からの訓練はまた難易度をあげるからの」
錬金はそう言い残すと、帰っていった。
勇者はというと。
勇者「……えっ。うそ!」
勇者「あれ!ちょっと褒められた!?」
普段滅法厳しい実力者から、認められることの喜びを知った。
567 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 18:14:03.24 ID:do1GsOP20
遊び人「おばちゃん、ごめんください」
寮母「あら、どうしたの」
遊び人「勇者に届け物があるんですけど」
寮母「なにそれ、大きな荷物だけど」
遊び人「剣なんです。特注品でつくってもらったのが完成して」
寮母「普通の荷物だったら私が預かるんだけどねぇ」
遊び人「じゃあ勇者が帰るまで待ってよっかな」
寮母「あの子の帰り最近とても遅いわよ」
遊び人「そうらしいですね……」
寮母「よかったら、勇者くんの部屋にそれ置いてきて貰えるかしら?」
遊び人「いいんですか?」
寮母「今日はお部屋の点検で生活術士の方が入るって伝えてあるから、見られてもいいように片付けてるはずだもの。それに、ずっと一緒に冒険してきた仲間なんでしょう。合鍵渡しておくから」
寮母「私は街中にちょっと買い物に行ってくるから。鍵はそこの机の引き出しの中にでもしまっておいてちょうだい」
遊び人「わかりました」
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 18:16:04.44 ID:do1GsOP20
遊び人「ということで」
コンコン
遊び人「おじゃましまーす」
遊び人「本当だ。勇者にしてはけっこう片付いてる。今の私の部屋よりよっぽどマシだな」
遊び人「勇者は誰よりも早く起きて、誰よりも遅く帰って、この部屋で睡眠を取っていたんだね」
遊び人「ずっと一緒に泊まってたのに。今こうして、当たり前のように別室で暮らしてるのって、なんだか不思議な感覚だな」
遊び人「…………」
遊び人「剣を置いて、出るとしますかね」
遊び人「どうしようかな。部屋の真ん中に置いとけばいいのかな。万が一盗っ人とか入ってきちゃったら大変だな」
遊び人「洋服棚の中とかにしまっておいたほうがいいのかな」
パカ
遊び人「……あの野郎」
遊び人「色欲の谷で着せられそうになったバニースーツがかけてある。まだ諦めていなかったのか」
遊び人「昔洞窟の中にいたときも気持ち悪かったもんなー。身も心もニギニギされたくなったらバニースーツを着ろとかなんとか」
遊び人「この服装がそんなにいいかね」
遊び人「…………」
遊び人「…………」チラッ チラッ
遊び人「部屋には姿見もあるんだ」
遊び人「ちょ、ちょっとだけ」
569 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 18:27:00.53 ID:do1GsOP20
遊び人「あっ」
勇者「…………」バサリ
勇者は道具袋を落とした。
遊び人「……えっと」
遊び人「剣、完成したんだって」
勇者「…………」
遊び人「そこに置いておいたから」
遊び人「では、これにて失礼」
勇者「ちょっと!!」
遊び人「なに?」
勇者「なんでバニーガールの格好してるの!?」
遊び人「うるさいな!!遊び人がバニースーツ着て何が悪いのよ!!」
勇者「ついに目覚めたのか!!やったぁああああ!!勝利の日が訪れた!!!!」
遊び人「ちょ、見るな!!観覧料500G!!10秒につき発生します!!」
勇者「払う払う!!1000秒は見る!!」
遊び人「やだ!!脱ぐ!!もう脱ぐ!!」
勇者「ええっ、脱ぐの!?500Gでぇえええ!!?脱ぐの!!?」
遊び人「脱がないわよ馬鹿!!!」
勇者「じゃあバニースーツ!!」
遊び人「嫌よ!!脱ぐわよ!!」
勇者「脱ぐの!!!?」
遊び人「もう!!!私のバカヤロー!!!!!」
570 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 18:52:07.75 ID:do1GsOP20
遊び人はバニースーツの上から、元着ていた服装を身に着けた。
勇者「それはそれでそそるな……」
遊び人「自分の部屋に戻ったらちゃんと着替えるからね!!」
勇者「厳しい修行の良いご褒美が貰えたな今日は」
遊び人「ご褒美じゃないから!!観覧料5000G、慰謝料1万G、剣運び代1000G、払ってもらうからね!!私は今や強欲な女なんだからね!!」
勇者「いやいいよそういうの。強欲の腕輪の影響を受けてバニースーツ着ちゃったみたいな言い訳。誰もいない部屋でバニースーツ着るのなんて100%色欲だよ。お兄ちゃんは嬉しいよ」
遊び人「よりによってなんで今日に限って早いのよ……」
勇者「師匠も忙しいみたいだからな。本来俺の修行に付き合ってくれてるのがおかしいくらいなんだよ」
遊び人「師匠?」
勇者「あー、えーっと、遊び人のお爺ちゃんのこと」
遊び人「無理やりそう呼ばされてるの?」
勇者「ち、違うって!好きで呼んでるの!!本人は嫌がるけどさ」
遊び人「なにそれ。男心ってよくわかんないわね」
勇者「俺は女心がわかるけどな」
遊び人「はぁ?」
勇者「うさみみも付けてみたくなったらいつでも言ってくれ」
遊び人のこうげき!
勇者「ぐぼぉ……」
遊び人「まだまだ修行が足りないみたいね!!また鍛えてらっしゃい!!お邪魔しました!!」
571 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 19:15:05.14 ID:do1GsOP20
錬金「……よし」
錬金「100点じゃ。今日はもう帰って良い」
勇者「やったー!!遊んでくるー!!」
錬金「馬鹿、子供か」
勇者「今日もありがとうございました!!」
勇者は錬金に一礼すると、部屋を出ていった。
部屋には筆記用具と、紙束が残されていた。
錬金「……頭の回転は鈍いが、記憶力は悪くないようじゃのう」
錬金「この数日間でよく全ての職業の特徴を覚えたわい。あの兜の世界で直接身体に叩き込んだおかげでもあるんじゃろうが」
勇者、音術士をはじめ、賢者、踊り子、呪術師等の特技と呪文、及び大型モンスターの特徴を全て頭に叩き込んだのだった。
錬金「勇者。お前がどう考えようと、精霊が宿っていることは、蘇りの効力を抜きにしても素晴らしいことなのじゃ」
錬金「精霊からの絶大な信頼を得て、無口詠唱を唱えられる魔王でさえ、その体内に精霊を宿すことはついぞ叶わなかったのじゃ」
錬金「精霊はこう考えたのじゃ。魔王であれ、勇者であれ、強きものは守るに値する」
錬金「だが、精霊を守ってくれるのは、勇者というものだけであると」
錬金「精霊が加護を与えるものは、精霊を守護する者だけなのじゃ」
錬金「守れるほどに、強くなるんじゃぞ」
572 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 20:06:41.61 ID:do1GsOP20
勇者「遊び人とご飯食べに行くの、久しぶりだな」
勇者「最近全然会ってなかったから、妙に緊張しちゃうよな」
まだ夕日の残る都の中を、勇者は軽い足取りで歩いていた。
勇者「この数週間、本当にえぐかったな」
勇者「嘔吐なんて当たり前で。血も吐くわ、ストレスで顔面にぶつぶつができるわ」
勇者「師匠と実戦した時は骨もバキバキに折れたし。その後回復させられてまたすぐ戦闘で」
勇者「でも、それらに耐えて強くなろうと思い続けられたのは、全部遊び人のおかげなんだ」
勇者「自分に絶望して孤独に彷徨っていた時に、あの子だけは精霊の加護を抜きにして俺のことを見てくれて」
勇者「戦わなくてもいいって言ってくれたのは、あの子だけだった」
勇者「俺は、恵まれてるんだな。強くなる理由が先にあって、強くなろうと努力した」
勇者「普通は、強くなってはじめて、自分を慕ってくれる人が現れるものなのに。だからこそみんな、守るべき人がいない状態から強くなるのが世の常なのに」
勇者「俺は幸いにも、弱い時からあの子がいてくれた。にもかかわらず、強くなろうとさえしなかった」
勇者「負けたらどうなるか、目を反らし続けていた」
戦って、勝たなくちゃいけない日は訪れる。
その時負けたらどうなるかは明確で。
手に入れたかったものを手に入れられなくなるか。
失いたくなかったものを失ってしまう。
勇者「今は思う。あの子を守れるようになった強い自分の物語というものを見てみたいって」
勇者「隣にいてくれる女の子にふさわしい人になりたくて、男は強くなるんだ」
勇者「嫉妬を、必ず倒そう」
573 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 23:27:24.12 ID:do1GsOP20
目覚ましの音は、いつも嫌いだった。
母親のぬくもりから引き剥がされ、冷たい世界に放り出される気がした。
お母さん。
自分を産んでくれた女性をそう呼んでいられたのは、いつまでだったろうか。
世界から無価値であると突きつけられながら、無理やり引きずり出されるようになったのはいつからだったろうか。
朝日も。鳥の鳴き声も。川のせせらぎも。
心地よいまどろみから自分を引き剥がすものは全て憎らしく思えた。
戦いたくない。
全てのことから逃げることを許して欲しい。
それが、許されないのだとしたら。
せめて、こんな風に。
やさしく手を握って、起こしてくれたら。
574 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 23:27:56.48 ID:do1GsOP20
勇者「……お母さん?」
遊び人「ごめん、起こしちゃった」
真っ暗闇の部屋の中でも、ベッドのそばにいるのが遊び人だとわかった。
遊び人はもぞもぞと、掛け布団の位置を直すような動作をしていた。
勇者「俺、いつの間に」
遊び人「疲労が溜まってたんだね。帰り道からふらふらしだして、部屋まで連れてきたんだよ」
遊び人「修行、一段落したんだってね。おつかれさま。勇者も、緊張が解けて気が抜けちゃったのかもね」
勇者「……そっか」
575 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 23:30:46.33 ID:do1GsOP20
遊び人「大変だったんだね」
勇者「…………」
勇者「うん、大変だった」
勇者「冒険譚を昔に読んでてさ。強い敵に勝てなかった勇者が、修行をして再び強くなる場面とかがあって、憧れも抱いてたりしたんだけど」
勇者「強くなるって、ただただつらい日々の連続だった。地味だし、面倒くさいし、泣きたいし、吐きそうになるしで、修行なんてのはやりたくないことの寄せ集めだった」
勇者「自分ひとりの野望のために生きている人には、強くなるための行為なんて絶対できないよ。だから正義はいつも悪を倒せるんだ」
少なくとも物語の中では、と勇者はぼそっと付け足した。
勇者「誰よりも頑張っていたつもりだったけど。修行場所に向かう途中、朝の暗闇の中で鍛錬をしている戦士や武道家を見かけた。修行場所から帰る途中、夜の暗闇の中で呪文の練習をしている魔法使いや僧侶を見かけた」
勇者「今守りたい誰かがいるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。いずれにせよ、今の自分を変えるために日々を注いでいる人は、何かを壊したくて強さを欲しているんじゃなくて、何かを築きたくて強さを欲しているように見えた」
勇者「今強い人達って、人生のどこかで強くなろうとした人達だってわかったんだ」
勇者「遊び人も、俺の見えないところで頑張ってきたんだろ。これまでの冒険でも、この都に来てからの数週間の間にも」
勇者「聞かせてほしい。遊び人がした、努力の話」
遊び人「……うん」
遊び人「その代わり、勇者がしてきた努力の話も教えてね」
苦しいその時に、独りぼっちだったとしても。
それを乗り越えた後で、同じように乗り越えてきた人が、耳を傾けてくれる日はやがて来る。
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/02(火) 23:44:45.38 ID:do1GsOP20
〜宮殿 地下〜
強欲「戦いの日が近づいてきた。君たちも今日からはここに泊まれ」
宮殿の地下室にて、強欲は告げた。
勇者が修行を受けていた部屋の他にも、無数の部屋が存在していた。
強欲「封印の壺もここに保管していた。宮殿の最深部だ」
勇者「逃げる時どうするんだよ」
強欲「逃げるという選択肢は基本的にはない。奴らが同じ轍を踏むとは思えん。移動の翼や、精霊の加護による転送の対策を間違いなく講じてくるだろう。可能な限りの防衛策は当然施すつもりではあるが」
強欲「だからこそ、その裏をかいた戦略を立ててきた。作戦を遂行できれば問題はない」
勇者「……覚悟を決めるしかないか」
錬金「猶予はないんじゃ。封印の壺にもヒビがはいってきてるじゃろ」
遊び人「うん。表面が割れてきてる」
錬金「装備の魔力にたえきれなくなっておるんじゃ。割れたら最後、物体感知に容易にひっかかるぞ。人間の感知よりもずっと容易で、広範囲の距離で特定されるぞ」
錬金「逃げるのも、疲れたじゃろうて。勝って終わりにしようぞ」
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 00:56:03.27 ID:Ru5fbabL0
【TIPS】
禁術が禁術足るのは、下記3つの要因のいずれかに当てはまることによる。
・殺戮性の高さ <例:総魔力放出呪文>
・影響力の強さ <例:音讎の呪文>
・術者へのペナルティ <例:強制転職呪文>
使ってはいけない、と言われるようになったのは。
それらが使われた過去において、数多くの不幸が生み出されたからである。
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 01:12:29.04 ID:Ru5fbabL0
明日一通り投稿をした後に、再び書き溜めます。
当初の予定より大幅に文章が膨らんでしまい、
あらすじも一通りできているため簡潔に終わらせるべきか悩んだのですが、
納得いくまで文章を書き続けたいと思いました。
投稿当初から読んでくださっている方には申しございません。
新年も引き続きよろしくお願いします。
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 01:33:54.90 ID:1Cl7f4sA0
乙
580 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 12:53:29.47 ID:Ru5fbabL0
お姫様「……ギャッ!!!」
強欲の都の敷地外で、お姫様はよろめいた。
研究員「何をしている。勇者感知は成功したのか」
お姫様「いたた……電流を流されたみたい……」
研究員「逆感知されたんだ。場所を変えるぞ」
「もう遅い」
移動の翼の羽根がぱらぱらと頭上から落ちてきた。
複数の術士がお姫様達を囲み込んだ。
上級術士「いきなり親玉の左腕が現れて光栄だぞ」
お姫様「誰が左腕よ!!右腕よ!!」
上級術士「そこの女は音を操る術士だ。白衣の男の結界には時縮化の呪文を唱えよ。後ろに魔物も複数体いるようだから気をつけろ」
術士達は詠唱を唱えると、耳の周りがシャボン玉のようなもので覆われた。
シャボン玉はどれも、統一された緑色に染まっていた。
お姫様「暗号術よ。あいつら同士の会話は通じるけれど、こちらからは解読もできないし音を伝えることもできないわ。緑色なんて、一番調節が難しい色なのに」
研究員「仕方ない。おい、魔物、出番だ」
研究員は牛型の魔物に命令をした。
研究員「すてみだ。行け」
魔物「ぐぉおお!!!」
牛型の魔物が突進するのを、術士達は躱した。
研究員は無口詠唱で、火炎の呪文を唱えた。
魔物「グモォオオオオオオオオ!!!」
魔物に火がつくと同時に爆風が起こり、胃袋の中から無数の鉄製の玉が飛び出した。
581 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 12:54:54.23 ID:Ru5fbabL0
強欲「奴らが来たようだ。都の東側の入口から侵入してきたらしい」
遊び人「逆感知できる人なんて、旅に出てから初めてあったかも」
強欲「待ち構えてさえいれば、上級の術士なら誰でも出来る。随分舐めた真似をしてくれる。俺達も嫉妬の勇者の感知は何度も試みているが、対象は奴の所持物だ。逆感知の恐れもなく、感知の範囲も広いからな」
強欲「トラップで強力な呪いをかけられた装備を感知させられた時は、少々痛い目を見るが」
勇者「敵はどれくらいの人数で来ているんだ」
強欲「確認できたのは東門の数名だけだ。各方角から同時に侵入している可能性が高い」
強欲「都の中に既に何名かは侵入していたのだろう。外部にいるものを中から招き入れるのは容易だからな」
強欲「既に都中に警報は発令している。あとは宮殿に繋がる経路を、奴らが突破できるか否かだ」
582 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 13:29:45.33 ID:Ru5fbabL0
お姫様「肉体強化、呪文反射、爆風緩和。奴らも戦闘が始まる前から、可能な限りの補助呪文をかけているわね」
研究員「西側からの連絡が途絶えた。侵入に失敗したみたいだ」
お姫様「使えないわね。そういえば、あの女はどこから侵入する予定か聞いてるかしら」
研究員「あの女?」
お姫様「もう1人の側近よ!根暗のくせに嫉妬様に妙に気に入られててムカツク奴……」
研究員「あの方は、嫉妬様と共に行動している」
お姫様「はぁ!?」
研究員「嫉妬様も、強欲の勇者を私達が打ち倒せるとは思っていない。最期の戦いには自らが出るとのお考えだ」
研究員「入り口を壊すのが私達の役目。最期の場まで伴うのがあの女性の役目。役目が分かれているんだ」
お姫様「……なによ。なによそれ。嫉妬様は、そんなこと……」
お姫様「あの女……許せない……ムカツク……」ギリリリリ…
お姫様「私の……私の居場所を……!!」
583 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 13:31:27.30 ID:Ru5fbabL0
上級術士「見つけたぞ!!」
上級術士「巨大な結界を張って閉じ込めるんだ!!」
命令が他の術士に伝達され、詠唱を唱え始めた。
お姫様は立ち上がり、広けた空間に向かって歩んだ。
お姫様「私一人で充分だってこと、嫉妬様にもわかってもらわないと」
お姫様から独特の魔力の気配が広がった。
研究員「待て!!何を考えてる!!」
お姫様「この一月で私がどれだけ成長したか、みんなに聴かせてあげるのよ」
研究員「禁術を発動するつもりか!!味方もろとも破滅するぞ!!」
お姫様「『リコルダーティ』」
研究員「くそっ!!自分にかける羽目になるとはよ!!」
研究員は悪態を尽き、自分の周囲に結界を張り始めた。
お姫様「『スケルツォ』」
お姫様「『ベルスーズ』」
お姫様「『主を失いし旋律の怨嗟よ』」
お姫様「『仇讎曲を奏で給え』」
お姫様「『Morte』」
お姫様「『Tremolo』」
お姫様「『Sonate』」
584 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 15:31:21.25 ID:Ru5fbabL0
――――トン
一滴の、静かな音が広がった。
585 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 15:32:21.94 ID:Ru5fbabL0
研究員「……(うっ)」
研究員「(一体、何が……)」
簡易に張られた結界の中で、研究員は精一杯耳を抑えて身構えていた。
目を上げると、術士達が生気を失ったように、倒れているのが見えた。
お姫様は、ただ立ち尽くしていた。
その手に持つ鋭利な装備には血が滴っていた。
研究員「おい、どうなっている!そんな装備で倒したのか!?」
研究員「ちゃんと術は発動し……」
『グモォオオオオオオオオ!!!』
研究員「ひぃ!なんだ!」
研究員の耳の内側から、魔物の鳴き声が響いた。
『や、やめてくれ!!息子だけは!!』
『お前らはそれでも人間か!!!』
研究員「これは……」
『使えない研究者め……』
『もうここには来なくていい』
研究員「お、俺が、過去に聞いた……」
『……ごめんなさい。あなたとは……』
研究員「やめろ……やめてくれ!!」
過去に聞いた悲しい言葉の記憶が、激流のように研究員の脳内に鳴り響いた。
『嫌vぬあ;んbにあえb:ゔぁ憎ゔぁ;んれんぶpな』 『弱:k−0い3j5死m:ゔぁvりあ@bんじょいえk疎v;あvbギs』 『去gbbsんdvjsj;bjぬ;sb主;んfb;svkzんbおいっvbん;jsぬgjs;:gm』 『呪jvん;あんふいゔぉ@あ恨vんmfなあううrjvbんrんゔぁ;』『讐にvにあうえh8えjvまお;んゔあえrhb』
『産むんじゃなかった』
586 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 15:32:54.60 ID:Ru5fbabL0
扉が開く音がした。
お姫様「……久しぶりね」
遊び人「あなたは!!!」
お姫様「この前は、エグい呪文を使おうとしてくれたじゃないの」
遊び人「さっきの魔力の気配……やはり、音讎の呪文を使ったのね!!」
587 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 15:33:34.53 ID:Ru5fbabL0
TIPS
『音讎の呪文』
過去に聞いたことのある、忘れたい全ての音を一斉に呼び起こす呪文。
全ての音の再生が終わるまで呪文は解けない。
特徴として、対処が極めて困難なことがあげられる。
呪文の音が耳の鼓膜に届けば発動するため、手で耳を抑える程度の対処はもちろん、魔法反射や簡易結界でも防ぎ切ることができない。
完全な結界や、空間の空気を抜き取る呪文等、発動に時間がかかる対処呪文しか存在しない。
状態異常に分類されるため、精霊の加護がある者は自殺すれば解除される。
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 15:34:44.03 ID:Ru5fbabL0
遊び人「音讎(おんしゅう)の呪文。私もまだ幼い頃に唱えてしまって、泣き続けたことがあるってお父さんから聞いたことがある」
遊び人「これが禁術とされるようになったのは。一度でも戦争に参加したことのある成人がかかった場合、必ずと言っていいほど自殺を試みるからなのよ」
遊び人「あなたが、ここまで来れたのも不思議なくらいに、感情ごと呼び起こす呪文なのに……」
お姫様「…………」
遊び人「まさか、あなた!!自分の耳を!!」
お姫様の両耳から、血が流れ出していた。
お姫様は不気味な笑みを浮かべながら、詠唱を始めた。
お姫様「『リコルダーティ・スケルツォ・ベルスーズ』」
589 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 00:48:07.12 ID:GAmWAbrDO
乙
590 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/04(木) 01:54:50.26 ID:JNFXVCVn0
強欲「……ふぅ」
強欲「まずは、一名捕らえたな」
強欲の勇者は、一瞬で完全な結界を出現させた。
お姫様は中に閉じ込められ、彫像のように動きを止められていた。
遊び人「こんな完全な結界をたった一瞬で!!一体どうやって……」
強欲「俺の実力が1だとしたら、こいつの力が99だ」
強欲は自分の腕をひらひらと振った。
腕輪が黄金色に輝いていた。
強欲「通常攻撃も、魔法攻撃も、道具の使用も、この腕輪は自分の望んだ威力にまで瞬時に引っ張り上げる能力がある」
錬金「油断するな。足音が聞こえる。おそらく時間差で味方を送り込んだのじゃろう」
錬金「なんとしてでも防げ。世界の命運がわしらにかかっている」
足音は大きくなり、白衣を来た男たちが次々と現れた。
591 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/04(木) 02:15:44.82 ID:JNFXVCVn0
錬金「はぁ…はぁ…」
錬金「これで、最後かの……」
迷路のように広がっている地下を移動しながら、勇者達は敵と対峙した。
しかし、あくまで戦闘の前線に立ったのは、錬金を始めとした宮殿に仕える術士達であった。
今回の戦いにおける最大の目的は、嫉妬の勇者の捕縛。
作戦の根幹に関わる教会への転送に関して ”絶対に勇者、遊び人、強欲の三人が死んではいけない” 理由があった。
強欲「……信号が入った。地上にある教会は、完全に結界を張られたそうだ。敵側の援軍の力はやはり教会の攻略に注ぎ込まれていたらしい」
強欲「だが、我らの大罪の装備に打ち克つことができるのは、同じ大罪の装備を所持している嫉妬の勇者しかいない」
強欲「奴は必ず自らここに来る。我らの側にある『暴食の鎧』『色欲の鞭』『強欲の腕輪』この3つの装備を全て使用しても、奴の体内に宿っている6つの精霊は倒しきれない。そして一度精霊を破壊した武器は嫉妬の首飾りによって攻略化される」
強欲「奴は死ぬことを恐れないはずだ。大罪の装備以外による攻撃で絶命しても、やつが転送されるのは、既に奴の手中に落ちた教会だと考えるはずだ」
強欲「なんとしてでも、先手で奴を絶命させ……」
嫉妬「誰を、どうすると言ったか」
無様に寝転がる研究者を蹴り飛ばしながら、嫉妬の勇者が現れた。
592 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/04(木) 02:16:23.18 ID:JNFXVCVn0
強欲「やっと来てくれたか。待ちわびたぞ」
嫉妬「教会を基地にしなくてよかったのか。何度でも蘇りが効いたぞ。貴様のかつてのパーティメンバーは四天王との戦いで全員死んだと聞いている」
強欲「俺を倒せるのはお前くらいしかいない。そして、お前に倒される時は、俺が精霊ごと殺される時だ。ならば、奥深くで休んでいるのがよいだろう」
嫉妬「なるほど、光栄だ」
嫉妬「といいたいところだが。あまりに無様な状況だ。他の者ではやはり、大罪の装備には手も足も出まいか」
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/04(木) 02:17:09.38 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「それにしても、お前は本当に結界の中が好きだな」
嫉妬は結界に足を歩み入れた。
首飾りが鈍く輝いていた。
嫉妬「禁術を唱えて東の部隊を味方もろとも不能にさせたそうじゃないか」
嫉妬はお姫様を掴み、結界の外へと引きずり出した。
強欲「平気で完全結界の中に……。既に首飾りで攻略化(とりこみ)済みというわけか」
594 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/04(木) 02:18:14.09 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「まずは、話の聞ける状態にせねば」
嫉妬が回復呪文を唱えようとすると、錬金が即座に動いた。
錬金「奴に動く隙きを与えるな!!」
錬金の命令と同時に、術士は詠唱を始めた。
誰よりも早く、錬金は呪文を発動した。
錬金「『魔壁剥がし』!!」
嫉妬「ほほう。人間に唱えられるものがいるとは」
錬金の杖からは緑色の蔓(つる)のようなものが伸びた。
しかし、枯れ葉の色に変色し朽ちてしまった。
錬金「これも攻略化しておったか……呪文中断!!」
術士達は詠唱を中断した。
錬金「奴は魔反射をかけておる。生半可な魔力では全て返り討ちにされるぞ」
錬金「後は任せたぞい、大将」
強欲「ああ。下がっていろ。生半可でない呪文で魔壁ごと吹き飛ばしてやる」
他の術士は後ろに下がり、強欲と嫉妬が対峙した。
嫉妬「強欲。身の丈に合わぬ願いを叶えようとする醜き心に選ばれた勇者よ!」
強欲「嫉妬。叶わぬ願いを手に入れた者を引きずり落とす醜き心に選ばれた勇者よ!」
嫉妬「拭い去る!!」
強欲「奪い取る!!」
2人は同時に呪文を唱えた。
595 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/05(金) 00:34:21.18 ID:WLApPFvDO
乙乙
596 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/06(土) 09:01:28.70 ID:nY42ru3vo
乙!
597 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 14:46:44.06 ID:cSlOzYY80
TIPS
『嫉妬の首飾り』
・攻略化…一度持ち主を破滅に陥らせたことのある呪文・特技・装備・道具等の情報を取り込む
・無効化…一度攻略化したことのある呪文・特技・装備・道具等の効力を消し去る。無効化の度に寿命を消費する。
通常攻撃は無効化の対象外である。
<例>色欲の鞭によって嫉妬の首飾りの所有者が倒され、攻略化した場合。
復活後、再び色欲の鞭によって攻撃された時に無効化を行うと、それは付与効果のないただの鞭の攻撃となる。
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 14:47:40.73 ID:cSlOzYY80
戦闘する2人を、遊び人は注意深く観察していた。
遊び人「大罪の装備の使用には寿命を消費する。それは嫉妬の首飾りにも当然あてはまること。だから、呪文の無効化に首飾りを多用するのは避けたいはずよ」
遊び人「マハンシャさえ唱えておけば、嫉妬は大概の呪文を防ぐことができる。そして、魔壁剥がしなどの特殊呪文だけを無効化すれば、実質全ての呪文を防げるといってもいい」
強欲「『雷槍で穿て、ペルクナス』!!」
強欲の右腕から7つの電気の槍が飛び出した。
嫉妬「無駄だ」
嫉妬の首飾りが鈍く輝いた。
強欲「勇者の呪文は当然攻略化済みというわけか。自分で自分に攻撃した時はさぞ痛かったろう」
嫉妬「残念なことに、この世の大概の呪文は攻略化済みだ」
遊び人「……やはりそう。強欲の腕輪、という装備を攻略化していなくとも。雷撃の呪文を過去に攻略化済みであったら、無効化されてしまうんだわ」
599 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 14:48:32.22 ID:cSlOzYY80
嫉妬「勝利のためならあらゆる手段を試みる強欲な勇者よ。その大胆さとは裏腹に、計画性、緻密性、慎重性をそなえた人物だという話をよく聞く」
嫉妬「我々のことや大罪の装備についてもこそこそと嗅ぎ回っていたようだが。その腕輪で精霊ごと倒したところで、俺は復活する。俺の体内には複数の精霊が宿っているのでな。そこの小娘から話を聞いたであろう」
嫉妬は遊び人を横目で見て言った。
嫉妬「俺を倒せる方法でも思いついたのなら、聞かせてほしいものだ」
嫉妬は右腕に大きな力を貯めた。
嫉妬「その前に、貴様が死ななければな!!」
嫉妬は雷撃呪文を、無口詠唱で唱えた。
強欲は相殺化しようと、雷撃の呪文を唱え返した。
しかし、強欲の放った雷撃は消滅してしまった。
強欲「ぐぉおおおおお!!!」
嫉妬「寿命さえ惜しまねば、いくらでも呪文を消すこともできるのでな」
600 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 14:57:59.46 ID:cSlOzYY80
遊び人「やはり、呪文同士の戦いでは勝ち目がないわね」
勇者「でも、憤怒は兜を装備して奴を倒したじゃないか」
遊び人「それは、嫉妬の首飾りにも攻略できない対象があるからよ」
強欲「……貴様の呪文の特徴は掴んだ」
強欲「あとは、俺の得意なこれだけで行くとしよう」
強欲は呪文の詠唱の構えを解き、通常攻撃の構えを取った。
強欲「行くぞ!!」
強欲は腕輪の力を全て、剣技に注ぎ込んだ。
嫉妬「ぐっ!!!」
剣を振るあまりの速度に、風を切る音が轟いた。
一度宙を切った風の音が、分裂したかのように幾重にも重なって響いた。
強欲「この腕輪は一太刀の振るいで幾百かの攻撃を加える!!」
強欲「通常攻撃に関しては、首飾りの力を存分に発揮できないようだな!」
嫉妬「大罪の腕輪め……」
嫉妬は呪文を繰り出しながら、強欲と戦闘をしていた。
本来であれば、通常攻撃だけでは呪文と剣技の組み合わせに勝てるはずもないのだが。
強欲の腕輪の力により、あまりあるほど剣技の強さで圧倒していた。
強欲「終わりだ!!!」
強欲が剣は、防御呪文の障壁を突き抜け、嫉妬の胸に突き刺さった。
嫉妬「……がぁっ……」
バリイイィイイインン!!!
精霊が砕ける音が響いた。
601 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:04:58.78 ID:cSlOzYY80
〜決戦前日〜
錬金「強欲の勇者。そして勇者と遊び人。お前らは戦闘当日、絶対に死んではならん」
錬金「この地下内に、もう一つの教会を創った。ここじゃ」
宮殿地下の迷路のような道を歩き、異質な空間があるのを勇者と遊び人は目撃した。
神官「…………」
遊び人「神官様がいる」
強欲「普段は他の場所にいた神官だ。勇者復活の使命を帯びている。試しに一度自殺を試みたが、確かにここで復活をした」
強欲「地上に通常の教会が1つ。ここに新たな教会が1つ。戦闘で死んだ位置から、最も近い位置の教会で復活することになる」
勇者「一体、何のために……」
錬金「ここで、わしの長年の研究の出番じゃ」
錬金はそういうと、他の部屋の案内をした。
そこでは、見たこともない材質の塊を囲んで、多くの術士が作業に取り掛かっていた。
錬金「賢者の石の失敗作じゃ」
遊び人「賢者の石……」
錬金「硬度が極めて高く、魔法を跳ね返す性質をそなえておる。他にも様々な魔物の繊維を合成させておる」
錬金「この材質で出来た武器で切りつけたら攻略化されるかもわからんが。ただの空間として設置した場合に無効化はできまい」
錬金「この物質で出来た檻を作る。戦闘で死んだ奴を、この教会に転送させる。復活は神官の目の前。ここにあらかじめ檻を作成しておき、閉じ込めるというわけじゃ」
錬金「加えて、真上の部屋に、雨水を大量に保管しておる。やつがこの檻に入ったタイミングで、水を流し衰弱させる」
錬金「自然に存在しているものを、嫉妬の首飾りは攻略化できないはずじゃ。もしもあらゆるものを消滅させたりすることができるのであれば、傲慢や憤怒と戦闘している時に、空気を消滅させて窒息させて戦闘不能にでもしてたはずじゃな」
錬金「なんとしてでも奴を一度殺害する。そしてこの檻の中に出現させ、窒息させる。奴が衰弱している間に槍でも伸ばして首飾りを奪えば良い」
――――――――
602 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:08:53.18 ID:cSlOzYY80
強欲は、剣を嫉妬に突き刺したままであった。
嫉妬からは血が流れ出し、意識が遠のいているようにみえた。
強欲「朽ちてくれ」
嫉妬が教会へ転送される瞬間を待った。
檻の中に閉じ込め、水を流し、窒息させ、気絶したところで首飾りを奪う。
首飾りさえなくなれば、強欲の腕輪の力を以て、精霊ごと何度でも殺害をすることができる。
強欲「はやく、飛べ!!」
その時だった。
強欲「ぐぁっ!!!」
バコン!という音が一瞬聞こえたかと思うと、嫉妬に突き刺していた剣が弾け飛んだ。
強欲「木の音!!肉体保護の棺桶が出現したのだな!!」
しかし、音が聞こえたのは一瞬で、棺桶は目視する間もなく消滅したようだった。
遊び人「おかしいわ!!教会への転送がされるはずじゃ……」
混乱している一同の前で、一人の人物が口を開いた。
嫉妬「おお、私よ。死んでしまうとは情けない」
傷が完全に癒えた状態で、嫉妬の勇者が復活していた。
603 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:21:46.33 ID:cSlOzYY80
遊び人「どういうことよ!!絶命したはずよ!!なのに神官の元への転送もなく、そのまま復活をするなんて……」
嫉妬「ちゃんと神官の元で、俺は蘇ったさ」
嫉妬はにんまりと笑みを浮かべていた。
錬金「…………なるほどの」
錬金は何かを察したようだった。
錬金「勇者であることを捨てたか」
嫉妬「捨ててはいないさ。転職はしたがな」
嫉妬「俺の今の職業は、神官様だ」
604 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:24:53.45 ID:cSlOzYY80
嫉妬「俺は元々、今の俺が支配している王国の奴隷だった」
嫉妬「精霊が宿った俺は被験体にされ、様々な実験をさせられた」
嫉妬「俺が神官もろとも雷撃を落として自殺を試みた時に、不思議な現象が起きた」
嫉妬「一度目に落ちた雷は、俺と神官に直撃した。だが、俺はその場で蘇った」
嫉妬「二度目に落とした雷は、俺に直撃し、研究者が用意していた別の教会で俺は復活した」
嫉妬「一度目の雷で、何故俺だけ復活したのか。それは、タイムラグがあったからだ」
嫉妬「神官は、精霊からその職業を全うする能力を託されている。自分の身が滅びつつある時でさえ、気絶している時でさえ、勇者の蘇生を果たす。いうならば、神官の身体を通して、精霊の力が勇者を蘇生させていたわけだ」
嫉妬「自分自身が神官になった場合。死亡した時点で最も近い位置にいる神官は、俺自身であるため、他の神官の元へ送還されることはない。精霊の加護を宿している俺を、神官である俺自身が蘇生することになる」
嫉妬「かつて、魔王が神官を魔王城に置き、勇者の精霊の加護による逃亡を阻止しようとしたことがあった。これは失敗した。神官は自分のいる領域を、人間の領域であると認識できなかったからだ」
嫉妬「俺は俺自身の中に復活する。当然、人間の領域であると認識できる。魔王城の中であろうがな」
嫉妬「研究者共はこのタイムラグを何かに活かせないかと悩んだ末、答えを見つけられないままだった。しかし俺は、最も有効な活用方法を考えついた」
嫉妬「精霊の加護による、教会への転送の省略。これによって、結界の張られた教会に転送されるようなこともない。お前らもそのような作戦を立てていたのだろう」
錬金は焦りの表情を浮かべていた。
嫉妬「だが。この仕組の真価は別のところにある」
嫉妬「精霊殺しの陣による死亡の可能性の排斥だ」
嫉妬「俺の中に宿っている精霊が魂から飛び出すのは、俺が死亡した時だ。そこが精霊殺しの陣が敷かれているエリアであれば、俺の精霊は飛び出した瞬間に破壊される」
嫉妬「俺自身が神官であるため、精霊は転送する必要もなく、俺の魂から飛び出す過程も省かれる」
嫉妬「精霊殺しの陣によって俺は死ぬことはなくなったのだ」
605 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:33:06.51 ID:cSlOzYY80
遊び人「でも、神官は精霊に託された者のみがまっとうできる職業なんでしょ。通常の転職神殿でも、神官への転職はできないわ。そもそも、勇者という職業の者は転職自体許されていないはず!どうして……」
嫉妬「それはお前が一番よくご存知のはずだろう」
遊び人「……まさか」
遊び人「……強制転職呪文」
嫉妬「グリモワールと書かれた書物を見させて貰った。お前の父親は実に素晴らしい術を記載してくれていた」
錬金「あの馬鹿息子……」
錬金はショックを受けたような顔をした。
嫉妬「呪文の才能を持った術士が、真に対象者の転職を願った時にのみ使える禁術だ。『大罪の賢者』という、本来転職不可能な職業から『遊び人』に変えられたのも、この呪文の力だ。対価として、極めし職業1つ分のスキルの放棄という大きな代償がつくだけはある」
嫉妬「使用出来る器のあるものがいなかったのでな。自分自身で使用させてもらった。勇者という職業から、神官という職業へな」
遊び人「雷撃の呪文を使っていたはず……。勇者という職業を放棄したのではないの?」
嫉妬「悲しいことに、俺はまだ勇者という職業を極めていない。俺だけではない。古代の勇者は自身の力だけで魔王を葬った。大罪の装備等に頼らなければ四天王さえ倒せない今の世界の勇者に、勇者という職業を極めたといえるものはおらんだろう」
嫉妬「職業の格によって、極めの水準は大きく異る。例えば、遊び人という職業は極めるのに容易い。最低限度のレベルを積んで賢者に転職するのが通常だが。遊び人を限界まで極めれば、強制転職呪文で大罪の賢者になることも可能だ」
嫉妬「強制転職呪文は等価交換ではない。誇り高き職業のスキルを放棄して卑しい職業へ転職することもできれば、卑しい職業のスキルを放棄して誇り高き職業に転職することも可能だ」
嫉妬「俺も1つの職業を既に極めていたので、放棄させてもらった!!」
突如、嫉妬は怒りに歪んだ表情をして叫んだ。
嫉妬「奴隷という、忌まわしい職業をな!!!」
606 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:34:37.31 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、再び淡々と語りだした。
嫉妬「嫉妬という感情は、敗者の感情だ」
嫉妬「この首飾りも、本来であれば最弱なものだ。一度、敗北をした相手にしか効力を発揮しない」
嫉妬「俺はそれを、自身の才覚で全て乗り越えたのだ」
嫉妬「どうする。強欲の腕輪の力はもう発揮しないぞ」
嫉妬「残りの大罪の装備で、時間稼ぎでもするか?」
607 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:37:40.19 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、右腕に雷の力を蓄え始めた。
強欲「『マハンシャ』!!」
嫉妬「たいていの呪文は攻略化済みだといったはずだ」
首飾りが光ると、魔法障壁は粉々に散ってしまった。
強欲「くそっ!!」
強欲は通常攻撃を繰り出そうと、瞬時に飛び出した。
嫉妬「剣で雷を斬れるものか」
嫉妬は雷の呪文を放った。
強欲は腕輪に念じた。
だが、いつものような黄金色の輝き放つことはなかった。
強欲「ぐぁあああああ!!!!」
608 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:41:13.36 ID:cSlOzYY80
強欲「はぁ……はぁ……」
強欲の身体は、燃焼と再生を繰り返していた。
嫉妬「無口詠唱で回復呪文を唱え続けたか。素晴らしい集中力だ」
嫉妬「よかったな。回復呪文は攻略化の対象外だ。俺を敗北に至らしめるにあたって、敵の回復は間接的な要因にすぎないとの認識らしい」
嫉妬「さて、そろそろこいつにも働いてもらわねば」
隅で倒れていたお姫様に、嫉妬は回復呪文をかけた。
お姫様の体の傷が癒え、耳からの出血も止まった。
お姫様「……嫉妬様」
嫉妬「耳は聞こえるな。大罪の装備を後ろで隠れているやつらが守っている。奪ってこい。強欲は俺が相手をする」
お姫様「……かしこまりました」
お姫様は急激な回復に伴う副作用でよろけながらも、勇者達を見据えた。
609 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:42:34.55 ID:cSlOzYY80
強欲は叫んだ。
強欲「逃げろ!!例の場所で落ち合うぞ!!」
にげる。
作戦が完全に失敗にしたとわかった時に、発する命令だった。
ただがむしゃらに逃げ出して。あらかじめ定めていた『誓いの書簡の村』で落ち合うという、それだけの命令だった。
勇者「……やるしかないのか」
お姫様「あんたみたいな雑魚、一瞬で葬ってやるわよ」
目の前の女の子はぼろぼろになりながら立っているものの。
傲慢と憤怒の2人を相手に戦っていた、嫉妬の王国最強の術士である。
遊び人「勇者、どうするの」
遊び人は足を震わせながら尋ねた。
勇者「どうするって、逃げるしか無いだろ」
勇者「俺が道を切り開く。その間に、地上に逃げろ」
勇者「地上に出た瞬間、移動の翼で逃げるんだ。嫉妬が強欲と戦闘している今、空から雷で撃たれる恐れもない」
勇者「さあ!」
勇者と遊び人は、同時に駆け出した。
610 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:48:35.95 ID:cSlOzYY80
お姫様「待ちなさい!!」
ふらふらになりながらも、お姫様は笛を口に咥えた。
勇者は、瞬時に飛び出し、一瞬でお姫様との間合いを詰めた。
お姫様「なっ!!」
勇者「うぁああああ!!!」
勇者はお姫様を蹴り飛ばした。
お姫様「うぅ……おぇえ!!!」
お姫様「う、うそ……」
吹き飛んだお姫様が他の楽器を取り出すも、勇者に一瞬で間合いを詰められた。
お姫様「なんて速度……」
勇者はお姫様の楽器を吹き飛ばし、再び蹴りを加えた。
吐瀉物の音が響いた。
611 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:50:20.43 ID:cSlOzYY80
お姫様「く……くそ……雑魚だったはずなのに……おえぇえええ……」
お姫様「……女の子に……暴力振るうなんて……」
勇者「剣を心臓に刺すよりはマシだろ」
お姫様「……舐めやがって。殺さなかったこと、後悔させてやるわ!!」
お姫様は、簡易的な呪文を詠唱した。
しかし、それ以上に早く勇者は距離を詰め、腕を斬りつけた。
お姫様「いやぁあああああああ!!!」
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:51:23.75 ID:cSlOzYY80
お姫様「いだい……うぐっ……どういうことよ……」
勇者「ずるをしたんだよ。大罪の賢者の力に近づこうと、寿命を肉体強化にまわす呪いをかけてもらったんだ」
勇者「今の俺は、大罪の無職といったところだけどな」
遊び人が出口を駆け上がっていくのを、勇者は見届けた。
自嘲的に言いながらも、勇者はこの場を制したことに達成感を覚えていた。
勇者「少しだけ、強くなったんだ」
今強い人達は、人生のどこかで強くなろうとした人達。
勇者も、強くなった。
他者との戦いに、勝てるほどまでに。
勇者「殺さなければ、後悔するんだったな」
勇者は剣を大げさに構え、突進をした。
お姫様「ひっ……」
お姫様は怯んだ。
勇者「うぉらあああ!!!!!!」
勇者は横を素通りすると、遊び人の後に続いていった。
お姫様「……へっ?」
勇者「殺せるわけないだろ」
勇者「女の子に救って貰った人生なんだから」
勇者達はにげだした!
613 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:56:30.00 ID:cSlOzYY80
勇者は宮殿の1Fに出た。
勇者「酷い……」
味方の術士が血を流しながら、横たわっている惨状を目の当たりにした。
勇者「遊び人!!どこにいる!!」
宮殿には複数の出口がある。
勇者は迷いながらも、正面玄関に向かい、空の真下へと出た。
空を見上げるが、遊び人の姿はなかった。
勇者「もう逃げ出せたのか。他の出口からでたのかもしれない」
勇者「よかった」
勇者は安堵した。
自分も誓いの書簡の村に飛び立とうと、移動の翼を取り出そうとした。
勇者「……なんだ、この感覚」
気だるさが、どっと勇者を襲った。
嫌な予感がし、勇者は辺りを見回した。
614 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 15:58:16.34 ID:cSlOzYY80
前方の広場に、人影が見えた。
髪の長い女性が1人立っており。
その傍らでは。
勇者「遊び人!!」
ぼろぼろになった遊び人が横たわっていた。
勇者「……許さない。嫉妬の仲間か!!」
勇者は剣を構え、遠く離れた女性に向かって叫んだ。
勇者「お前は一体……」
「そんな遠くから話しかけないで、もっとこっちに寄っておくれよ。この子みたいに、雷で撃ち落としたりやしないからさ」
勇者は、背筋が凍る思いがした。
「これでも威力を弱めてあげたんだ。その証拠に棺桶が出現していないだろ」
長い黒髪を持つ女性は、淡々と勇者に話しかける、
「精霊の加護なんてものに頼っているから、命に危機感を持たないんだよ。あんなもの、無い方がマシだと思わない?」
「ねえ、勇者」
勇者「嘘だ……」
倒れていた遊び人は、痛みに耐えながら勇者に尋ねた。
遊び人「……勇者。こいつを、知ってるの……?」
「知ってるも何も」
ショックを受けている勇者に変わって、美しい女性は代わりに答えた。
怠惰「同じ故郷出身の、元パーティメンバーよ」
怠惰の勇者が現れた!
615 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:00:48.09 ID:cSlOzYY80
勇者「ど、どうして……」
勇者「ち、違うんだ……俺は、あの時……!!」
勇者は混乱している!
怠惰「久しぶりの再会で、いきなり言い訳だなんて。相変わらず、情けない男だね」
勇者「なんで……死んだと思っていた……」
怠惰「死んだと思ってた、って。遠回りな言い方をするんだね」
怠惰「勇者は、私達を殺そうとしたんじゃない」
遊び人「なによそれ……」
勇者は怯えた目で遊び人を見た。
勇者「やめろ、違うんだ……」
怠惰「こいつはね」
勇者「やめろって!!!」
叫ぶ勇者を見て、怠惰は笑みを浮かべた。
怠惰「ははーん。この女の子には聞かれたくないってことかしら。確かに、精霊の加護だけが唯一の存在価値であるあんたに、その取り柄を根本から否定するような話だもんね」
勇者「やめてくれ!!!!!!」
勇者は錯乱した!!
616 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:02:46.20 ID:cSlOzYY80
勇者「うぁあああああああああああ!!!!!!!!!」
勇者は怠惰に向かって、すてみで突進をした。
怠惰「相変わらず、考えることから逃げてばっかりね」
怠惰「あなたが見捨てたこの命を、これが救ってくれたのよ」
“怠惰の足枷が鈍く光った。”
勇者「…………がぁっ……」
勇者の攻撃力が極限まで下がった。
勇者の防御力が極限まで下がった。
勇者の素早さが極限まで下がった。
勇者の魔力が0になった。
勇者の反応力が極限まで下がった。
勇者の集中力が極限まで下がった。
勇者の判断力が極限まで下がった。
勇者の決断力が極限まで下がった。
勇者の生きる意志が極限まで下がった。
勇者は力が抜け足元から崩れ落ちた。
勇者は廃人になった。
勇者「……………………ぁ………」
勇者は虚ろな目をして、四肢をだらりと投げ出していた。
口は薄く開き、端からよだれが垂れていた。
遊び人「勇者っ!!!」
617 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:03:50.07 ID:cSlOzYY80
怠惰「さて、と」
怠惰は、腰に2本携えている剣のうち、1本を取り出した。
怠惰「貴重な素材を殺すなとはあの方から言われているけど。あなた達は転送を利用して逃げ回るのが得意みたいだからね」
怠惰「私の仕事は、大罪の賢者の生き残り、あなたを連れて帰ることだもの。こいつの精霊の捕縛は二の次よ」
怠惰の勇者は、紫色に輝く剣を両手で持ち、横たわる勇者の横で高く持ち上げた。
遊び人「紫色に輝く剣……」
遊び人「せ、精霊殺しの魔剣!!」
怠惰「さよなら」
遊び人「やめて!!!」
怠惰の勇者は、魔剣を深々と勇者の身体に突き刺した。
ガラスの砕ける大きな音が響き渡った。
618 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:04:41.43 ID:cSlOzYY80
遊び人「あ……あぁ……」
遊び人「ゆ、勇者……」
遊び人「精霊の光が……見えないよ……」
わなわなと震える遊び人を見て、怠惰の勇者は苦笑していた。
怠惰「やだ。そんな悲しい顔しなくてもいいのよ。魔剣は精霊だけを斬りつけることのできる剣。刃は人間には触れられないのよ」
怠惰は剣を引き抜き、鞘に収めた。
勇者の胸部の装備に穴は空いておらず、出血の様子も見られなかった。
怠惰「それよりもね。そいつは、死んで誰かが悲しむような、ろくなやつでもないのよ」
怠惰「よかったじゃない。これで、自動的にパーティメンバーも解除されるわ。もう二度とこいつと一緒に冒険しなくても済むのよ」
619 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:08:18.32 ID:cSlOzYY80
怠惰「どうやらあっちも終わったみたいね」
嫉妬の勇者が、強欲の勇者を引きずって表に出てきた。
怠惰「楽勝でしたか?」
嫉妬「こいつの仲間の老人が、強制転職呪文をかけてきた。奴が大元の開発者だったみたいだ。危うく遊び人にされるところだった」
怠惰「ふふふ。遊び人になったあなたは見てみたかったかも。防げたのですか?」
嫉妬「禁術はマハンシャでは防げない。嫉妬の首飾りで攻略化したこともない。だから、姫様に身代わりになってもらったよ」
怠惰「お姫様も可哀想に。酷い王子様に使い捨てにされて」
嫉妬「遊び人から音術士に戻るのは、時間はかかるが簡単だ。転職に必要な最低限度の経験を積むのに時間はかかるがな」
嫉妬「お前の方は、首尾良くいったようだな」
怠惰「ええ。しかし、大罪の賢者の脱走の可能性があるため、勇者の精霊の加護は破壊致しました。申し訳ございません」
嫉妬「俺もこいつらとの鬼ごっこには飽きていたところだ。これで大罪の装備はすべて揃った。あとは時間をかけて我々の計画を進めれば良い」
怠惰「ついにこの日が訪れましたね」
嫉妬「ああ。どれほど待ちわびたことか」
怠惰「この女はあなた様に差し上げます」
怠惰の勇者は遊び人を見下ろしていった。
怠惰「そして、この勇者は、私が責任をもって、故郷に連れ戻します」
嫉妬「なるほど、あの地か。任せよう」
620 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:15:55.60 ID:cSlOzYY80
嫉妬は狂喜に満ちた表情を浮かべていた。
嫉妬「俺の持つ嫉妬の首飾り。お前の持つ怠惰の足枷」
嫉妬「この前の侵略で奪った憤怒の兜。傲慢の盾」
嫉妬「先程こいつから奪った強欲の腕輪」
嫉妬は足元に投げ出した強欲の勇者を見下ろした。
嫉妬「そして」
嫉妬は遊び人から道具袋を奪い取った。
嫉妬「封印の壺の中に閉じ込められている、暴食の鎧、色欲の鞭」
嫉妬「大罪の7つ装備。ついに、すべてを手に入れた」
嫉妬「ただの寿命の延長なんぞで、俺は満足しない」
嫉妬「永遠に、この世界の支配者となるのだ」
嫉妬は、都の支配者足る強欲の頭を掴み、電流を流した。
都の結界は解かれ、外で待機していた魔物の侵入を許した。
研究者達も嫉妬の元に集まり、手配を整えた。
遊び人は、嫉妬の王国へ連れて行かれ。
勇者は、怠惰の勇者とともに故郷へと連れて行かれた。
パーティは、解散した。
621 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:18:35.40 ID:cSlOzYY80
【強欲の勇者の思い出】
錬金「……久しぶりだな、若造。わしの研究室に勝手に入ってくるなと言ったのを忘れたか」
若き青年に、堅物そうな男性は言った。
強欲「研究が進んでいるか尋ねに来たんだ。世界一の錬金術師に」
錬金「ふん、くだらん。錬金術師など今この世界にいるものか。賢者の石でさえ創造できん癖に。死者の復活に取り組むなど、狂気の沙汰だと思わんか」
錬金「金と酒と女に溺れた凡人の方がよっぽど健全じゃ。」
強欲「あんたの口からそんな言葉が出るとは」
錬金「これでも昔はヤンチャで優秀な研究者での。地位も名誉も欲した。贅沢な暮らしもな。あの頃は健全じゃった」
強欲「でも、今のあんたは研究を続けている。亡くなった奥方を蘇らせるために」
錬金「人の傷心の理由に興味があるだけなら帰ってくれ。魔王討伐の旅の途中ではなかったか」
強欲「パーティが全滅したんだ。他の者は、みな死んでしまった」
622 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/08(月) 16:21:48.67 ID:cSlOzYY80
錬金は驚いた顔をした。
錬金「なんと……。精霊の加護はどうした」
強欲「精霊殺しの陣の上で戦ったんだ。魔王城の中で、四天王の一体を相手に」
錬金「そやつは、一体どんな」
強欲「再生を司る四天王だった」
錬金「再生?」
強欲「魔族は人間とは比較にならないほどの体力を有している。そのせいか、回復呪文の効果は薄い。人間が生き延びることを優先しているとしたら、魔族は破壊することを優先とした戦闘能力を有している」
強欲「奴は、膨大な体力を持ちながらも、自身の体力を全快させることのできる巨大な魔物だった。人間の場合に生じる回復呪文に伴う副作用も、一切抜きでな」
強欲「奴の攻撃パターンは二つ。祈りを捧げた後の全体攻撃。そして、祈りを捧げた後の完全回復」
強欲「祈りの時間は長く、行動速度だけは劣っていたといえる。祈りを捧げている間に俺達は攻撃を加え、やつが祈りを終えそうになったら遠くへ離れて防御の結界を張る。そして再び祈りを唱えたところを攻撃する」
強欲「奴は俺らを見くびっていたと思う。攻撃の回数こそ多いものの、回復の回数は非常に少なかった。俺らがコツコツとやつに貯めていたダメージは、本当に些細なものだったのだろう」
強欲「奴の回復が再生だとして、攻撃は腐敗だった」
強欲「放射線状に伸びる腐敗の光は、強力な防御結界さえも溶かした。部屋が広大で逃げ切ることなど出来ずに、攻撃される度に防御の結界で防いだ。」
強欲「行動を繰り返す度に俺らは体力や魔力をすり減らしていった」
879.27 KB
Speed:0.3
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)