【デレマス】白菊ほたる、10歳の夏

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 02:59:35.54 ID:JGoEMGt90
・アイドルマスターシンデレラガールズ 白菊ほたるのSSです。
・地の文あり マイナーCP オリジナル設定 初投稿 の四重苦です。

暖かく見守って下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501437575
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:00:27.07 ID:JGoEMGt90

 白菊ほたるの、十歳だった私の、とある夏を話そう。
 その日、私は母親と共に東京に訪れていた。
 親戚に用があった、そう記憶している。

 私を見下ろす、天まで届きそうな建物の数々。
 炎天下を行き交う人々の、逞しさと力強さ。
 大きな音で走る宣伝車を見て、声を上げる。
 狭い感覚で何度も走り去る電車を見て、母親の裾を引く。

 私は、太陽に熱せられた東京の街に期待を抱き、心の底から喜んだ。
 私の憧れの街、あの人たちが住む街、あの東京が、ここに。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:01:11.80 ID:JGoEMGt90

「お母さん?」

 しかしここは、当時の私が想像していた百倍は恐ろしい世界であった。

 津波のように押し寄せる人混み。
 耳を劈く機械たちのノイズ。
 押され、引かれ、また押され、時すでに遅し。
 強く握っていた母親の右手は、いつしか私の手から消えてしまっていた。

「お母さん、どこ……?」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:02:36.62 ID:JGoEMGt90
 
––––思えば、これがこの街での最初の不幸だったかもしれない。

 見知らぬ土地の中、私を遠くから見下すビル群。
 小さな子供の声を掻き消す、騒音の渦。
 そして、独り取り残された子供。

 救いようの無い孤独感と無力感に襲われた。
 足元が、傾くような、崩れるような、力の抜ける感覚だった。
 小さな私には、都会に初めて立った少女には、保護者の喪失は余りにも大きすぎた。

 私は、道の隅に立ち止まって泣いてしまった。
 なんて寂しい街。
 炎天下に熱せられても歩き続ける大人達の瞳は冷たくて、誰も一人ぼっちの少女に手を貸すことはなかった。

「ううっ……」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:03:52.09 ID:JGoEMGt90

 声帯が潰されてしまったみたいで、音を出せなかった。
 誰も彼もが他人。
 夏なのに、冷たい空気に肌を包みこまれて。

 そんな中、一つだけ私を呼ぶ控えめな声があった。

「あ、あの、大丈夫? えっと、お母さんは?」

 真新しい、白いシャツを着た制服の少女。
 中学一年生、高森藍子だ。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:05:24.87 ID:JGoEMGt90
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「えっと、どこから来たの、かな?」
「ひっ…… えっぐ……」

 そのお姉さんは、とても優しい人だった。
 ハンカチを貸してくれて、人の少ない日陰まで手を引いてくれた。

 安心とか、不安とかに似た、難しい感情が押し寄せてきて。
 ずっと泣いて困らせたくないから、頑張って泣き止もうとする。
 そのせいで、もっと気持ちが追いつかなくなって泣いてしまって。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:06:05.87 ID:JGoEMGt90

「えっと、え〜っと。お、お名前は?」
「ぐすっ、しら、きく、ほたる……」
「……! ほたるちゃん、ですね! えーっと、お母さんは?」
「はぐれ、ちゃって、ごめんなさい、ごめん、なさい……」

 ごめんなさい、私がフラフラしてたから。
 ごめんなさい、私がうじうじほたるだから。
 ごめんなさい、お母さん。
 ごめんなさい、優しいお姉さん。
 ごめんなさい……
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:07:59.42 ID:JGoEMGt90

「––––ほたるちゃん」

 いつしか、怖くて震えていた手は止まっていた。
 いや、止められていた。
 少しして、何をされたかが分かった。
 お姉さんが、私の手を包み込んでくれていた。
 優しい、白い手が。

「大丈夫、謝らなくて、大丈夫だよ」

 ゆっくりと、絵本を読み聞かせるように。

「謝らないで。大丈夫、誰も責めたりしないから。何があったか教えてください。精一杯協力しますから、ね?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:08:35.23 ID:JGoEMGt90

「……ん、大丈夫、です。落ち着き、ました。」
「うん、ほたるちゃんは、強いですね」
「私だって、もう十歳です。それに…… お姉さんが、いてくれる、なら……」
 溜まった涙で歪んだ視界で、お姉さんを見上げた。
「お姉さん、もう少しだけ、お願い、します……」
「……はい!」
 
強がった私は、包まれた手を、少しだけ体に寄せた。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:09:50.48 ID:JGoEMGt90
--- --- ---

 その人の名を、アイコさんといった。
 私より、三つも上の中学生さんだそうだ。
 中学生、私はこの人のように格好良くなれているのだろうか。

「鳥取から、ですか。遠い所ですね……」
「はい、お母さんと一緒に」
「うーん、それだと余計に私がしっかりしないと……」

 私たちは、作戦会議として、近くの公園の日陰にいた。
 頭の上から、蝉の歌声が響いている。
 その間も、アイコさんと手を繋いだままで、少し照れくさかった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/31(月) 03:10:45.03 ID:JGoEMGt90

「そうだ、お母さんは、電話は持っていますか?」
「えっと、はい、電話番号も言えます……」
「うん、えらい」

 少し屈んで、目線を合わせてくれるアイコさん。
 そういう所が、とても素敵な人だ。
 アイコさんが、ポケットからスマートフォンを取り出した。
 黒猫の絵が入った、可愛らしいカバー。
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