映姫「霧の湖で、恋を知る」

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1 : ◆Uq/hUTiii9pg [sage saga]:2017/07/23(日) 17:30:34.13 ID:RZsCc4M/0
・東方プロジェクトの映姫、チルノ中心SSです。
地の文、百合要素有り。長めですが、書き溜めはあります。

よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500798633
2 : ◆Uq/hUTiii9pg [sage saga]:2017/07/23(日) 17:31:58.66 ID:RZsCc4M/0
―――恋の歌。

あの夏の日に、貴女が教えてくれた歌。
私はきっと、この先忘れることはないだろう。



貴女に出会えて、本当に良かった。
3 : ◆Uq/hUTiii9pg [sage saga]:2017/07/23(日) 17:33:01.60 ID:RZsCc4M/0
―水無月ノ第二日曜日―

梅雨も半ばにさしかかり、じっとりとした暑さが続くこの時節。
今日はたまたま晴れているものの、不快指数の高さはただ事ではない。
昨日まで降り続いた雨のおかげで、今日の幻想郷はまるで蒸し風呂状態だ。

そんな気候にはめげもせず、私、四季映姫は、その日も各地を説教して回り、声を張り上げていた。



「―――だから、何度も言っているでしょう!惰性が人間を一番ダメにするのです。そもそも博麗の巫女として自覚があるのなら」
「もう、しつこいわねえ。別に私だって好きでダラダラしてるんじゃないのよ?ただ、こう暑くっちゃ」
「冬は冬で『こう寒くっちゃ』と言っていましたし、春秋は『こう良い気候だと眠くなって』と言っていましたよね!?貴女は一体いつやる気を出すんですか!?」

他ならぬ閻魔に、こうまで言わせる神職の者というのもどうなんだろう。
そんなことを思いつつ、ジト目で『博麗の巫女』こと博麗霊夢を睨んでやるも、一切効果なし。
まるで馬の耳に念仏というか、蛙の面に……いやいや。
ともかく、霊夢は私の事などまるで意に介さないように、きわめてマイペースな振舞いをみせる。

「私は私なりに、きちんとした生活を送っているつもりよ?」
「ほう、どんな風にです?」
「朝ごはんを食べて、洗濯して、境内を掃除して、あとはボーっとして」
「その『ボーっとして』が良くないと言うのに!」
「はいはい。分かったってば」

ぼんやりと虚空を眺めながらそんな風に返されれば、力も抜けるというものだ。これ以上、彼女に何を言っても仕方がないだろう。
私は『はあ』とわざとらしくため息をつくと、次の場所へと向かうべく、仕度を始める。

「今日はここまでにしておきますが、最後に一つ。貴女は少し時間を無駄に使いすぎる」
「有効活用していると言ってほしいわね」
「やかましい!……こほん。ともかく、人の身である貴女にとって、一生など、あまりに短い時間なのですからね?それだけは忘れないように」
「はいはい」

聞いているのやらいないのやら。
少しムッとしつつも「それでは」と言って私が玄関に向かおうとすると、後ろから「ちょっと待って」と霊夢の声が飛んでくる。

「何です?」
「二つだけ。まず一つ。素敵な賽銭箱はあちら」
「帰りますね」
「連れないわねえ。それともう一つ」
「……今度は何ですか」
「人里の人間ならともかく、それ以外であんたの話をまともに聞くような人妖は、幻想郷にはいないわよ」



「皆、自分の性分をよく分かってる奴らばかりだし、今更それを変える気もないだろうしね」

それだけ言うと、霊夢のごろりと横になったであろう音が聞こえる。

『さっき私が説教したばかりでその態度か』と怒る気には、到底なれなかった。
4 : ◆Uq/hUTiii9pg [sage saga]:2017/07/23(日) 17:36:34.73 ID:RZsCc4M/0
結論から言えば、霊夢の言葉は正しかったという事だろうか。
あの後、さらに幻想郷を巡った私は、そんなことを痛感した。

永遠亭。
蓬莱山輝夜の所に向かえば「わざわざ私なんかに説教するためこんな所まで来るなんて、閻魔様も大概暇なのね」と呆れ顔で言われた。

紅魔館。
パチュリー・ノーレッジに「本ばかりでなく、外の世界を実際に見てみること」の大切さを語れば「そのために今、水晶玉を改良中なのよ」と軽くかわされ。
レミリア・スカーレットに「慈悲と自省の大切さを知らなければ地獄に堕ちる」と説けば「そうだとして、私がそんな運命を恐れると思う?地獄なんて退屈しなさそうだしね」と笑われた。

たまたま見かけた因幡てゐに説教しようと近づいた時には、彼女謹製の落とし穴へと落とされた。
しかもその後で「あー!何やってんの、せっかく鈴仙を落とそうと思ってたのに!」と、逆に説教される始末で、もはや言い返す気力もなかった。

「あんたの話をまともに聞くような人妖は、幻想郷にはいないわよ」という、霊夢の言葉が頭をよぎる。
本当は、以前から自分でも気付いていたのだと思う。
ただ、私自身がそれを認めたくなかったというだけの話で。

幻想郷に集まる人妖は、一部を除き、弱肉強食の中を好き勝手に生き抜いてきた連中の集まりだ。
つまりは、気儘で、それでいてプライドが高く、他人に言われた程度で簡単に己の生き方を変えたりはしない。

「分かってるんです」

誰にともなく、私は呟く。

「分かってるんですよ。私だって」

自分でも聞き取れないほど小さな声は、吹き渡る風の音にかき消され、消えていった。
5 : ◆Uq/hUTiii9pg [sage saga]:2017/07/23(日) 17:38:19.58 ID:RZsCc4M/0
ポチャリ、ポチャリ。
湖へ、私の投げた石の沈む音だけが響き渡る。

落とし穴へと落ちた後、どうにもやるせなさに襲われた私は、霧の湖にてしばしの休息を取っていた。
高く高く昇っている太陽とは裏腹に、私の心は沈んでいる。
ポチャリ、ポチャリと石を投げれば投げる程、心も、深く、深く沈み込んでいった。

私のやっていることは何なんだろう。もしかして、とても無意味なことなのではないだろうか。
考えても仕方ないとは分かっていても、頭にはそんなことばかりが浮かんでしまう。

「今日はもう、帰りましょうか」

自分自身がこんなに後ろ向きになっていては、人に何かを説くことなどできない。ならば、今日はこれ以上、無理をすることもない。
そう考えて、私が重い腰を上げようとした時の事だった。

「……何やってんの?」

不思議そうな目で私に声をかけてきたのは、かつて説教をした覚えもある氷精・チルノだった。



「ふーん。どこに行っても、誰も閻魔様の話を聞いてくれないから、落ち込んでたんだ」
「……まあ、そんな所です。それと『閻魔様』なんて堅苦しい呼び方をしてくれなくても良いですよ。映姫と呼んでください」
「分かった。えーき」

湖のほとりで、私はチルノへと今日の出来事を話していた。
自分でも、この子に悩みを話すなんて、馬鹿なことだとは分かっている。
私は閻魔なのに。人を裁く立場として、ある意味で誰よりも強くなければならない閻魔が、妖精などに弱みを見せてどうするのだ、と。
それでも、今は誰かにこの気持ちを聞いてほしかった。いくら閻魔といえど、一人で全てを抱え込めるほどには、私は強くない。

「それで、えーきはどこに行ってきたの?」
「博麗神社に永遠亭。それと、紅魔館へも」
「大変だね」
「慣れたものですよ。休日も殆ど、各地を説教して回っていますから」

私が言うと、チルノは目を丸くして驚いてみせる。

「よく知らないけど、えーきって普段も『さいばんちょう』とかいう仕事してるんでしょ?それで、お休みの日も、人に会ってお説教して潰しちゃうの?」
「ええ」
「それじゃあえーきは、いつ休んだり、遊んだりしてるの?」
「……そうですね。最後に丸一日休んだのは、いつだったか」

言われてみれば、ここ最近はきちんと休んだ記憶がない。
平日は当然ずっと仕事に追われていたし、そうでなくとも素行の気になる者の所へ行って、説教をしていたからだ。

「もしかして、えーきの所って、お休みでもお休みしちゃいけない決まりなの?」
「え?いえ、そんなことはないですよ。毎週土日には、皆きちんと休めるようになっています」
「じゃあ、誰かに『働け!働け!』って言われてるとか」
「それもないです。あくまで、私が自主的にそうしているだけで」
「ふーん……」

チルノは、私の話を聞くと、何やら難しい顔をして考え込んでみせる。

「えーきは、本当に頑張り屋さんだね」
「!」
「だって、そんな思いまでしても、あんまり人に話を聞いてもらえないんでしょ?あたいだったら、親友の大ちゃんやルーミアやみすちーにそんな風にされたら、がまんできないもん」
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