杉坂海「オンショアをつかまえて」

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1 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:49:41.93 ID:GPsfCuOW0
・モバマスのSS

・地の文あり

・ある程度書けたら順次投稿

・少し長めになる予定

それでは始めて行きます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500036581
2 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:50:35.10 ID:GPsfCuOW0
1.ビーチの出会い

ボードを持ち、セイルを持って、ウチは海に入る。
本当なら、まだ海に入るの早い時期。ウェットスーツとシューズ越しとはいえ、冷たい海水が身に沁みる。
まぁこの感覚も、ウチは好きなんだけど。

「よいしょ、っと……!」

ボードを海に浮かべ、セイルを支える。
時間はまだまだ早朝だけれど、風は西よりのオンショア。
強すぎず、適度に波も立っていて……うん、いいカンジ。これは、早起きした甲斐があったかな。
回りを見てみれば、ウチと同じようなウィンドサーファーが、次々と海へ出て行く。
3 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:51:20.31 ID:GPsfCuOW0
「よしっ……それじゃあウチも行くとするかな!」

ホントは良くないのだけれど……一瞬片手を放して、ぱんっと頬を叩いて気合を入れた。
そうしてから、もう一度セイルをしっかり掴んで、後ろの足をボードに乗せて引き寄せる。
決してボードを蹴り出さないようにしながら、反り上がるように体を上げて、前の足をそっとボードに乗せた。
そして――

「セイルで風を……掴む!」
4 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:52:03.91 ID:GPsfCuOW0
ボードに乗った瞬間、ぐっとセイルが力を受けるのを感じる。
その力に体を支えてもらえるようにしながら、風を掴んで、推進力に変えていく。
風を掴んで、風を切って、波を切って、大海原を進む。
まだまだ風は冷たい時間帯だけれど、すぐに熱くなっていく体には寧ろ丁度いい。
波と波の間でターンすれば、飛沫が飛び散り、朝日に照らされて宝石みたいにキラキラ輝く。
そんな飛沫は思いっきり顔に掛かるけれど、そんなことはまったく気にならない。
冷たい飛沫は心地よくて、風を受けて、風を切って進むのは気持ち良くて。

ああ、もうこの瞬間が本当に、心の底から!

「―――最ッ高!」
5 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:52:42.51 ID:GPsfCuOW0
そう叫んだ瞬間、一際大きい波が砕けて、ウチの方へと襲い掛かる。
けれどそれに負けじと風に乗って、海を滑って飛沫の中を走り抜けた。
ああ、気持ちいい……本当に気持ちいい!
こうやって風に乗り、海を滑るたび、思い知らされる。
ウチは――杉坂海は、ウィンドサーフィンがたまらなく大好きなんだって。
6 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:53:14.20 ID:GPsfCuOW0


それから一時間ほど風に乗って海を滑り、ウチは浜へと上がっていた。
レイルジャイブもだいぶ出来るようになってきたし、いい感じかな。まあ、倒れたりもしたけれど……ウォータースタートの練習にもなったし。
途中、風がオフショア気味になったので少し心焦ったけど、戻る頃にはまたオンショアになってて一安心だった。
まだウチの技量じゃ、オフショアの時に上手く戻れる自信がないからなぁ。
まぁその辺は今後の課題ってことにして、とりあえず、ボードとセイルを艇庫に仕舞って、シャワーを浴びようかな。
もうそろそろ行かないと、短大の授業も間に合わないしね。
朝ご飯はどこで食べようかな――なんて、考えていたその時。
7 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:53:48.33 ID:GPsfCuOW0
「いやー、ウィンドサーフィンしてるところ見てたんだけど、キミ上手いねぇ!」

パチパチパチと拍手しながら、近づいてくる男の人がいた。
何だろう、と思ってそちらにちゃんと視線を向けてみたけれど……。

「……はぁ、どうも」

その瞬間、思わず身構えてしまった。
いやだって、正直これはウチじゃなくても身構えると思う。
歳の頃は、きっとウチよりも少し年上。20代半ばか後半くらいかな。
日焼けして色黒な肌に、赤茶けた髪。おまけになんだか軽いノリ。歯が白いのもやけに目立つ。なんかサメの歯のネックレスしてるし。
ウェットは着てるから、サーファーかウィンドサーファーなんだろうけど……なんというか、だからこそ余計というか。

うん。一言でいって、チャラい。

ウチがそんな風に身構えてるのを知ってか知らずか、その男は親しげな調子で続ける。それも少しずつ近づきながら。
8 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:54:19.07 ID:GPsfCuOW0
「途中コケても、すんなりウォータースタートしてたし、かなり上手いよね。もう結構長いの?」
「んー……まぁ、一応」

一応、山口にいたころからやってたから、歴はそれなりに長いことにはなる。
けど、いきなりそんなこと聞いてくるなんて何が……っていうか距離近っ!
な、なんか急にぐいっと近づいてきてるし!
何、都会の人ってこんなにパーソナルスペース近いわけ!?
9 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:55:04.03 ID:GPsfCuOW0
「やっぱそうだよね。いやー、あんま上手いんで驚いたよ」

「あの、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど……何か、」

「あ、ゴメンゴメン。キミが滑ってるところ、ホント綺麗だったからさぁ! 思わず見惚れちゃってさぁ。そんで声かけたんだ」

「んなっ」

――綺麗とかそんなこと、普通いきなり言う!?
驚きのあまり、思わず答えに詰まってしまう。
これはアレなんだろうか。ウワサに聞くナンパってやつ? いや違うんだろうけど、でもなんでよりによってウチ?
いやでも、ウチみたいにガサツなだけの女に声かけた所で、この人に何も得はないし……ああ、もう!
10 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:55:35.32 ID:GPsfCuOW0
「あの、その……ウチ、これから学校なんで! 失礼します!」

「あ、ちょっと――」

何か言いかけてた気もするけれど、それを気にしている余裕はなかった。
もう、内心はひっちゃかめっちゃか。いきなりあんな事言われるなんて……!
ばっと頭を下げて、手早く荷物を纏めてボードとセイルを担ぐ。
顔は熱いし、もうなんだかワケがわかんない。

「……やっぱ都会、怖いわぁ」

思わず、そんな呟きが漏れていた。
11 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:56:30.33 ID:GPsfCuOW0


「……ってことがあってさぁ。もうビックリしちゃったよ」

一限が始まる前、朝ご飯用に作ってあったおにぎりを、中庭のベンチでほおばりながら、今朝あったことを友達に話していた。
こっちに――鎌倉に移ってからできた友達だけれど、なんだか妙に馬が合ったんだよね、これが。
専攻してる学科は違うけど、スポーツ好きってとこも同じだしね。
12 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:57:39.84 ID:GPsfCuOW0
「へぇー。ていうか、また朝からやりにいってたの?」

「まぁね! 今は少し余裕あるし、出来るうちは行くつもり」

「講義前なのに元気だよねぇ、海」

「いや、そっちだってランニングとかしてるじゃん?」

かわいらしい外見からは想像できないけれど、この子は毎朝ランニングするのが日課になってるらしい。
ウチからすれば、たまにウィンドサーフィンするより毎日ランニングのほうが、よっぽどすごいと思うんだけど。
でも、そんなウチの言葉に、うーん、なんて首をかしげている。
13 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:58:25.74 ID:GPsfCuOW0
「してることはしてるけど、健康のためみたいなものだし……ウィンドサーフィンとは全然違うよ、やっぱり」

「うーん、ウチはそんなに違わないと思うんだけど。ま、好きだからこそ、ってねっ!」

この短大を選んだのだって、学びたいことが学べるのはもちろん、東京近郊最高のゲレンデ、逗子海岸や材木座海岸が近いからなワケだしね。
わざわざ艇庫も借りてるし、それなら思いっきりやらないとそれだけ損、ってね!
でも、朝も思ったけど……ウチ、本当にウィンドサーフィン好きなんだなぁ。
なんて、そんなことを考えていると。
14 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:59:12.07 ID:GPsfCuOW0
「まぁでも、その人が言ってることもわかる気はするかな」

「え?」

「ほら、一度ウィンドサーフィンやってるところ、見せてもらったじゃない?」

「ああー、ここに入りたての頃だっけ?」

「そうそう」

一度、ウィンドサーフィンをやってるところを見てみたい、というから連れて行ったことがあったっけ、そういえば。
まだそんなに前じゃないのに、なんだか懐かしいなぁ。
15 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 21:59:47.16 ID:GPsfCuOW0
「あの時の海、キレイだったもん。なんていうかさ、溌剌としてて、キラキラしててさ!」

「!?」

「ちょ、海、大丈夫!?」

思いがけない言葉に、ちょうど頬張ったおにぎりでむせてしまう。

「ゲホ、ゴホッ……み、みず……!」

「これ!? はい!」

「……はぁ。死ぬかと思った」
16 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 22:00:39.75 ID:GPsfCuOW0
とりあえず事なきを得はしたけれど……うーん。
彼女の言葉は、嬉しいと思う反面、納得はいかない。

「輝いてるって……ウチ、そんな柄じゃないと思うけど」

「そうかな?」

「そうだって! こんなガサツな女を掴まえて、輝いてるとかさぁ……」

ウチは、『女の子』らしさなんてものとは、無縁だったからなぁ。自分でも、綺麗とか可愛いとか、そういうタイプじゃないと思うし。
むしろウチとしては、目の前にいる彼女のほうがよほどかわいいしキレイだと思う。
すらっとしてて、引き締まってて、私服もいっつも可愛いし……。正直、ちょっと羨ましい。
けど彼女は、そんなウチの言葉に思案顔を浮かべる。
17 : ◆OVwHF4NJCE [saga]:2017/07/14(金) 22:01:23.79 ID:GPsfCuOW0
「んー、海はいっつもそう言うけど、そんなことないと思うけどなぁ」

「そうかねぇ」

「まぁ、男勝りだなー、とは思うけどさ。でも、そこがいいっていうか」

「ウチの場合、下が男どもばっかだったからねぇ。よりにもよって元気いっぱいの煩いのばっかだったし」

そういえば、アイツら、ウチがこっちに出てきてから悪さしてないかな。
一応、一番上の弟がしっかりしてるから大丈夫だとは思うけど……。
ああ、考え出したらなんだか不安になってきた。今度電話して聞かないと、いろいろ。
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