【デレマス時代劇】木場真奈美「親子剣 屠龍」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:15:56.62 ID:WFdAiEj50
ただいま

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1499613356
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:16:30.55 ID:WFdAiEj50
太平の世が始まって、しばらくした頃。

戦もなく、特別な不幸もなかった。

代わりに人々は、変わらない日常に仄かな圧迫感と憂鬱を感じるようになった。

特にそれが酷かったのが、武士であった。

戦乱があった頃は、腕さえあればすぐに身を立てることができた。

至極、物理的な手段に訴えて生きていくことができた。

しかし今の彼女達は秩序によって雁字搦めにされ、

自身の刀でさえ、思うように振ることができない。

その鬱屈は、ゆるやかに蓄積されていった。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:17:39.03 ID:WFdAiEj50
こんこんと降る雪が灯篭に照らされて、

幻想的な風景を描き出していた夜。

ようやく日の勤めを終えた木場真奈美は、屋敷に戻った。

藩主の体調不良が長く、現在十月ほど。

城の警護は否応なしに長引いていた。

木場が門をくぐろうとすると、はて、家を出た時にはなかった籠がある。

拾い上げてみると、中で赤子が安らかな寝息を立てていた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:18:33.24 ID:WFdAiEj50
赤子の傍らには文が添えてあった。

 “あなたの子です”。

「さて、いつ産んだか…」

頭をひねりながら、木場は籠を抱えながら屋敷に入った。

彼女が、赤子を拾ったことにさしたる理由はなかった。

強いて言えば退屈していた。

馬廻の長といっても、平和な世では藩主の権勢を示すためのお飾りに過ぎない。

剣を頼みにして成り上がったのはいいが、実際のところ、

それが発揮された機会は皆無であった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:20:07.66 ID:WFdAiEj50
向上心は胸の中に燻っているが、これ以上は藩をひっくり返すでも

しなければ叶わぬ望みだ。

さらに、家族を養うために懸命に働くという選択は

両親が死に、かつ嫁も取らなかった木場には無縁。

仕事に甲斐はなく、家中には華がない。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:21:04.06 ID:WFdAiEj50
向上心は胸の中に燻っているが、これ以上は藩をひっくり返すでも

しなければ叶わぬ望みだ。

家族を養うために暇を忘れて懸命に働く、という選択も

天涯孤独かつ嫁も取らなかった木場には無縁。

仕事に甲斐はなく、家中には華がない。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 00:23:00.17 ID:9H1ikgz40
永らく待ってたぜ
汝のSSをよ
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:27:30.73 ID:WFdAiEj50
彼女は驚く下女に赤子を預けた後、書室に入って筆を取った。

名前は実際、抱き上げた時に思いついていた。

むっとするくらい乳と小便くさかったので、薫と名付けた。

木場の名前を与えるつもりはない。

親をやるのは一寸気後れがするからだ。


木場は、下女に薫の面倒を見させて、

自分は時々様子を見るに留めた。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:28:36.46 ID:WFdAiEj50
だが、ある時。

木場は、庭先で棒切れをつかんで立っている薫を見かけた。

剣士の真似事か。

ふっと微笑みながら、薫を観察した。

体が乱れている。構えも滅茶苦茶。

道場で同じことをしたら、失笑を通り越して張り倒されるだろう。


薫は、どこか一点をきっと見つめていた。

その視線だけは一丁前だった。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:29:35.82 ID:WFdAiEj50
だが棒を振り回した時、すっ転んでしまった。

姿勢が安定しない状態で思いっきり武器を振り回せば、当然の結果である。

ひざを擦りむいた薫は、大声で泣き出した。

下女が屋敷から飛び出してきて、薫を抱え上げた。

その風景は、ふっと木場の胸中に荒涼とした風を吹き込んだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:30:39.50 ID:WFdAiEj50
2人が屋敷に消えた後、木場は棒切れを拾い上げて、

突きを繰り出した。

新陰流の達人にかかれば、棒切れも空を裂く。

ぼっ、という音を立てて、あたりにつむじ風が巻き起こった。

なんだか大人気ないことをした、と木場が棒切れを投げようとすると、

足元にあるものを見つけた。

真っ二つになった白い蝶。

それは、木場が斬ったものではなかった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:31:44.01 ID:WFdAiEj50
その日から、木場は薫に直接剣を教え始めた。

はじめは退屈を潰すつもりだったが、途中からは本気になった。


控えめに言っても、薫は剣術の天才だった。

型の習得、気力の充実、反射神経…強いて言えば筋力がやや低かったが、

それを補ってあまりある“速さ”。

真剣勝負の場で薫の剣が走る時、おそらく相手はまだ抜いてすらいない。

仮に抜いていたとして、防ぐことも叶わぬ。

常人が一振りをする間に、彼女は三回相手を[ピーーー]ことができる。


教えることが少なくなってくると、木場は自身の傑作を

他人に披露せずにはいられなくなった。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:32:41.81 ID:WFdAiEj50
しかし薫は、身分上は武士ではない。

馬鹿正直に道場へ送っても、相手にしてもらえるかどうか。


そこで木場は一計を案じた。

まず、気取った一刀流の道場のそばの小路で、

薫が適当に棒切れを振る。格好は、できるだけみすぼらしく。

すると、門下生達は彼女を取り巻いて、真の剣術とは云々と、

嫌味ったらしく説教を垂れるだろう。

そこで、薫が相手を叩きのめすのだ。

戦が終わってからは気位ばかり高い一刀流の門人達は、

面目を潰されたとして

次々に勝負を持ちかけてくるだろう。

それらを片っ端から潰していけば、薫にとって良い腕試しになる。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:33:49.55 ID:WFdAiEj50
木場の目論見は功を奏した。

その結果、薫の剣の腕は藩主の目にとまった。

成長した彼女は、

側仕えの剣士として、召抱えられることとなった。


剣の腕が立つとは言え、身分上はただの町人のはずだが…。

木場は首をかしげたが、教え子の栄達に水を差すのも無粋だと思い、

あまり深くは考えなかった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:35:39.80 ID:WFdAiEj50
「せんせえ…」

屋敷の門の前で、薫が寂しげに振り返った。

木場と彼女の間にある感情面の蓄積は大きかったが、

実際その関係は平行線上にあった。

「頑張れ」

木場はそれ以外にかけるべき言葉が見つからなかった。

仕事の出来る女ではあるが、私的な面では不器用の部類に入る。

とはいえ剣士として授けられることは全て授けた。

それが活かされるなら、余計な感傷は無用。

「早く行け。

 遅刻の言い訳までは教えたつもりはないぞ」

薄く微笑んで、木場は手を振った。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:36:40.00 ID:WFdAiEj50
数年後、薫の腕は城下だけでなく藩外まで知れ渡った。

よそから来た浪人や武芸者が、腕試しに彼女のもとを訪れ、

皆あえなく敗退し、生きていた者はその勇名を広めてまわった。

木場も、自分のことのように誇らしい気持ちになった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:38:17.95 ID:WFdAiEj50
しかし程なくして、暗雲が立ちこめた。

執政会議において藩主と家老の対立が著しく、藩は真っ二つに分かれた。

言論での応酬が交わされることなく、

同意のなされた勝負、一方的な辻切り等、

真剣での殺傷が藩内に氾濫した。


木場は静観の姿勢を保った。

どちらに肩入れしても、またどちらかに強く恨まれる。

それよりかは多少の不興を買ってでも、何もしない方が安全のように思われた。


しかし、薫はそうすることができなかった。

彼女は藩主の命を受け、家老を斬り捨てて、

血生臭い政争を物理的に終結させた。


そしてその後、藩主は薫に、直々に切腹の刑を言い渡した。

家老派の憎悪を押し付ける腹づもりであるのは、

誰にとっても明白だった。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:39:08.10 ID:WFdAiEj50
木場は声を上げなかった。

こういった不条理を目の当たりにしたのは、初めてではない。

また武士として生きる以上、藩の汚泥を被って死ぬのは、

たとえそれが不本意であったとしても、成すべきこととのように思われた。

木場は介錯を引き受けた。

他の者にやらせれば、その人間を恨んでしまうな気がしたからだ。

刑は粛々と実行された。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:39:48.95 ID:WFdAiEj50
遺体を引き取った後、

ふと木場は、薫の本当の親のことが気にかかった。

拾い子という事実を、木場は隠していない。

薫の名声のことを思えば、

厚かましくも名乗り出てくる輩が出てきても、不思議ではなかったはず。

墓前に手を合わせるくらいはしてもらわねば、と、木場は決意した。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:40:31.10 ID:WFdAiEj50
町民への聞き込み。

薫が産まれたであろう時期に、妊婦の面倒を見た助産婦の捜索。

普段は足を踏み入れない貧民窟にも、木場は進んでいった。

それと並行して、彼女は遅ればせながら遊郭通いを覚えた。

やはり薫のことに関して、重篤な心理的苦痛があったのだろう。

しかし、親探しに決着をつけたのがその遊郭であった。


藩主が体調を崩し始めたのと同時期に、1人の男娼が殺されたという。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:41:10.85 ID:WFdAiEj50
ある夜、城の寝間の襖が、ゆるりと開かれた。

「ご就寝前に失礼致します」

藩主は起きて、暗がりの中で目を凝らした。

「何奴だ」

相手は、慇懃な口調で答えた。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:41:40.65 ID:WFdAiEj50
「馬廻の木場に御座います」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:43:03.65 ID:WFdAiEj50
「どうした」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:43:48.29 ID:WFdAiEj50
「子の仇を取りにきました」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:44:50.04 ID:WFdAiEj50
藩主はぎょっとして助けを呼んだが、誰1人としてやってこなかった。

すでに柄が重くなるほど、木場の刀は血を吸っていた。


哀れな女は、寝間を転がりまわって逃れようとした。

しかし灯りもなく、どこへも進みようがない。

木場はすうと一呼吸して、暗闇の中で、神速の突きを二回放った。

剣は藩主の両瞳を寸分も違わず貫き、絶命させた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 00:47:38.04 ID:WFdAiEj50
これが、かの龍崎藩で起こった藩主暗殺の顛末である。
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