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安部菜々「星の海を越えて」
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98 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:12:15.71 ID:mjZ8j0KR0
>>97
同じレスが重なりました。無視してください。
99 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:12:52.84 ID:mjZ8j0KR0
「……お休みして、少しだけアイドルから離れていた間、ずっと考えていたんです」
「どうしてナナはアイドルを目指したのかなって」
にへ、と彼女が笑う。
「やっぱり、好きだからなんですよね。アイドルが。ふふ」
100 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:13:30.05 ID:mjZ8j0KR0
「みなさんは、アイドル、好きですかー? 好きな人は手を挙げてくださーいっ!」
彼女のその声に、一斉に手が上がる。
ファンだけでなく、同じステージに控えていたアイドル達も、そして彼女自身でさえ。
一人ひとりが星を掴むように。
こんなに美しい景色があるだろうか。
101 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:14:05.24 ID:mjZ8j0KR0
それから彼女は再び、愛らしく頭を下げた。
「ごめんなさい。まだもう少しだけ、ナナはお休みをいただきます」
「だけど、絶対にすぐに帰ってきます、またステージに立ちます」
「だって私は、アイドルだから」
「ありがとう、ございました」
その時ファンの内の誰かが、あのコールを叫んだ。
102 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:14:32.45 ID:mjZ8j0KR0
最初は、たった一人の声だった。
それがワンコールごとに、コールを叫ぶ人数が増えていく。
声が重なっていく。想いが重なっていく。
ミミミン、ミミミン、ウーサミン。
103 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:15:08.38 ID:mjZ8j0KR0
どうにも発露しようのない感情から、わたしは泣いてしまっている。
熱い雫が、てんてんと床に落ちる。
正真正銘のアイドルが、そこにはいた。その事実が嬉しくてたまらない。
きらきらに輝くその姿が、まぶしい。
拭ってもそのあとから涙が、とめどなく溢れてくる。
104 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:15:48.64 ID:mjZ8j0KR0
公演が始まって暫くして、衣装姿の彼女が事務所に帰ってきた。
「……」
わたしの存在に気付いた彼女は、扉のそばに立ったままこちらを見ている。
「遅かったじゃない」
「テレビ、観てたよ」
そう言ってわたしは、彼女に手招きをする。
いつかのように、向かい合ってソファに座る。
沈黙に耐えられなくなったのか、彼女が頭を下げた。
「……ごめんなさい」
105 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:16:32.75 ID:mjZ8j0KR0
「勝手なことして、ごめんなさい」
「記憶が戻るまでファンのみなさんの前に出ちゃいけないのに、出てしまってごめんなさい」
頭を下げたまま、彼女が謝り続ける。
差し出されたその頭を、丁寧にセットされた彼女の髪を、少しだけぐちゃぐちゃにする。
「ほんと、反省してね」
「……はい」
「菜々ちゃんってば、ライブの前にあんなに盛り上げちゃ駄目じゃない」
106 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:17:09.42 ID:mjZ8j0KR0
「え?」
「それに最後の方は良かったけど、最初は緊張してたよね」
「もう少し、後半みたいな感じを最初から出せてれば、ああいや、でもそしたらもっと盛り上がっちゃってたかな」
まだ呆気に取られている彼女に笑いかける。
今わたしは彼女に、一番言いたかったことを、伝えたい。
どんな陳腐な言葉にしかならなくたって。
107 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:17:45.24 ID:mjZ8j0KR0
「お疲れさま。よく頑張ったね」
「最高のステージを、ありがとう」
108 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:18:17.32 ID:mjZ8j0KR0
「で、でも私、Pさんに内緒で勝手にステージに出ちゃって、」
「そんなこと気にしなくたっていいよ」
「出てみたかったんでしょ? ステージに」
「……はい」
わたしの目をまっすぐ見て、彼女は頷いた。
109 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:19:57.48 ID:mjZ8j0KR0
「どうだった? ステージは」
そう尋ねると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
随分とアイドルらしい顔付きになっている。
「すっごく、すーっごく、楽しかったです」
110 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:20:45.59 ID:mjZ8j0KR0
「目に映るものがすべてきらきら光っていて、」
「なんというか、世界が鮮やかに見えたような気がして、」
胸がいっぱいになりながら、彼女が思いの丈を語ってくれる。
昔、同じようなことを彼女から聞いたことがあるような気がする。
わたしは、心からアイドルを楽しんでいる彼女を見るのが好きだった。
「Pさん」
「うん?」
111 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:21:15.76 ID:mjZ8j0KR0
「ありがとうございます」
112 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:22:17.23 ID:mjZ8j0KR0
「記憶を失って、不安で仕方なかった私に、手を差し伸べてくれて」
「なにも思い出せないままでいる私を、受け入れてくれて」
「Pさんがいてくれなかったら、きっとあたしは心が挫けていました」
「わたしは、あなたが思うほどの人間じゃないよ?」
首を振って、笑う。
感謝されるようなことは、なにもしていない。
わたしはただ、自分にできることをしただけだから。
「ううん、そんなことありません」
「Pさんがもう一度、私をアイドルとして蘇らせてくれたんです」
113 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:23:19.19 ID:mjZ8j0KR0
担当冥利に尽きる言葉だった。
「……わたしは、当然のことをしただけだよ」
少しでも彼女を支えになれたのなら、誰に称えられなくたって、なにも得られなかったとして、それで十分だった。
それでも本当のところは、彼女に支えられるばかりだった。
夢にまで見たステージも、届けてもらったし。
「Pさん」
「Pさんにとって、私はどんな存在ですか?」
114 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:24:02.24 ID:mjZ8j0KR0
そうだね、と言って考え込む。
言葉は素直に出てきた。
「ただ一人の、かけがえのないアイドルだよ」
わたしの中にあるこの気持ちを、そっくりそのまま彼女に伝えたい。
「努力家で、他人想いで、とびっきり素敵なアイドル」
「この世界で、いや、この宇宙で一番、」
115 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:24:33.89 ID:mjZ8j0KR0
「あなたが、誰よりも輝いているもの」
116 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:25:25.32 ID:mjZ8j0KR0
輝く。
わたしのその言葉を耳にした途端、彼女は目を見開いた。
117 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:26:19.46 ID:mjZ8j0KR0
「あ……ああ、」
驚いたような表情。
そんな彼女の目元に、涙の粒が込み上げている。
それが、柔らかそうな彼女の頬を伝っては、落ちていく。
118 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:27:08.18 ID:mjZ8j0KR0
「……P、さん」
「……ナナ、ナナは、」
彼女の声がわなないている。
まさか、と思う。
信じられない心持ちだった。
119 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:27:39.05 ID:mjZ8j0KR0
「……ただいま、帰って、きました!」
星の海を越えて、彼女が帰ってきた。
120 :
◆K5gei8GTyk
[saga]:2017/07/09(日) 15:30:01.23 ID:mjZ8j0KR0
以上になります。
彼女の果てしない輝きが、みなさんにも届きますように。
読んでくださって、ありがとうございました。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/09(日) 15:57:42.98 ID:xaCgFoHi0
乙
よかったで
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/09(日) 15:59:56.16 ID:5+wnvOA6o
おつ
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/09(日) 18:51:36.06 ID:ko9slrEso
乙
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/09(日) 21:30:21.65 ID:w0jJ3XJp0
乙!
ナナさんは自分がこうあるべきってアイドル像を他の誰よりしっかり持ってる気がする
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/10(月) 11:40:22.37 ID:8nkaOhEbo
なんとなく開いたら涙ボロボロですよ、神。
良いものを読ませてもらいました。乙。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/10(月) 22:53:32.50 ID:FCPKl4J4o
最高かよ
おつおつ
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 01:26:14.35 ID:FqU7CEy+o
乙乙
>>1
の作品で一番好きだ
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 11:45:21.65 ID:s88NHhZvO
おつおつ 素晴らしかったです。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/27(木) 11:34:29.25 ID:O7DDP8KTO
ありがとう。読んでたら涙が出てきた。
これ、好きです。
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[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
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