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杏「杏は天才だぜい」
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◆ikbHUwR.fw
[saga]:2017/07/04(火) 11:58:34.67 ID:F6tUihmD0
翌日、ちひろさんからメールで「専務室へ行ってください」とお達しを受け、そのドアを叩いた。
「入りたまえ」と中から声がする。
部屋に入ると、当然ながら美城専務がいた。それからちひろさんがいた。ふたりはそれぞれなにかの書類を手にして、眉間に皺をよせていた。
「……どうなってんの? これ」
ウチのプロダクションはなかなかの大所帯だ。入口の傍らには昼夜問わず警備員が立っていて、エントランスに入ればカウンターの向こうに受け付けの女の人が3人いて、そこを抜けると、たちまち社員や所属アイドルたちの喧噪で埋め尽くされる、そのはずだった。
なのに、建物に入ってからこの部屋にやってくるまで、たったのひとりの人間ともすれ違わなかった。まるで間違えて廃墟にでも迷い込んでしまったかのように。
「この事務所で働いている、全社員とアイドルの検査が完了した……その結果だ」
専務が言う。
「つまり?」
「双葉杏、君は罹患していない」
「だろうね、くしゃみのひとつも出やしないよ」
専務はそれ以上なにも言わなかった。わざわざ言わなくてもわかっているだろう、とでもいうように。
いや、そりゃあわかるよ。わかるけどさ――
「……嘘でしょ?」
「私も、そう思いたい」
ちひろさんが注目を集めるようにコホンと咳ばらいをする。
「検査を受けた、ほぼ全員に陽性反応が出ました。この事務所で陰性――罹患していないことが確認できたのは、私と、美城専務、それから杏ちゃん。……この3人だけです」
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