二宮飛鳥「ボクはアスカ、二宮飛鳥。バラガン陛下の忠実なる従属官(フラシオン)だ」

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59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:37:59.38 ID:fvmPv6d00


飛鳥(クールホーン!)


飛鳥(ボクはどうすれば。そうだ、早く宮に戻って他の皆に助けを……!)


ガッ!!


飛鳥「!?」ムググ


テスラ「申し訳ありません。貴女を捕えよとのノイトラ様のご命令です」


飛鳥(テスラ・リンドクルツ…… ノイトラ・ジルガの従属官……!)


テスラ「抵抗しないでください。ノイトラ様は最上大虚である貴女をご所望しております」


テスラ「お願いします。どうかノイトラ様が参られるまでこのまま動かないでください」


60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:40:12.16 ID:fvmPv6d00


ノイトラ「ハッ、本当に捕まってやがるじゃねェか」


飛鳥「……」


ノイトラ「どういうつもりだ。最上大虚のてめえなら例え捕まろうがテスラ程度すぐに殺せる筈だ。そもそも俺から逃げる必要もねェ」


飛鳥(どうするべきか。彼の性質上ボクがここで『ボクは最上大虚ではない』と言ったとしても、それを鵜呑みにすることはないだろう)


飛鳥(それどころか、ボクが本当に最上大虚ではないことを確かめるために襲い掛かってくる可能性もある)


飛鳥(かといって、『ボクは最上大虚だ』と言ったとしても、それで彼が臆して退くとは到底思えない)


飛鳥(それこそ、彼は彼にとって邪魔でしかない最上大虚のボクを斬るために動くだろう)


飛鳥(この状況だと、どちらの返答を選ぶにしろリスクが高すぎる)


飛鳥(それにクールホーンはどうなったんだろう。ノイトラがボクを追ってここまで来たということは、つまり)


飛鳥(……)


飛鳥(何とかこの場から脱出して、早くクールホーンを助けにいかないと)

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:43:11.63 ID:fvmPv6d00


飛鳥「キミに一つ、訊きたいことがある」


ノイトラ「あァ?」


飛鳥「ボクと一緒にいた破面、クールホーンが今どんな状況にあるのか教えてほしい」


ノイトラ「てめえの知ったことかよ」


飛鳥「じゃあもう一つ。キミはどうしてボクを追ってくるんだ。ボクはキミとは初対面の筈だけど…」


ノイトラ「決まってんだろうが、俺は十刃最強だ」


ノイトラ「わかるか、俺が最強であり続けるためには俺以外の最強が存在しちゃあいけねえ」


ノイトラ「イラつくんだよ、てめえみてえなメスを見てるとよ。どいつもこいつも俺より強ェと思ってやがる」

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:44:48.67 ID:fvmPv6d00


飛鳥「それならもう一つ、どうしてボクが――」



ガシッ!!



飛鳥「うぐっ!?」


ノイトラ「くどいんだよ最上大虚。どんな意図かしらねえが時間稼ぎでもしてるつもりか?」ギリギリ


ノイトラ「はっきり言ってやる、俺は最上大虚のてめえを殺しに来た。てめえに戦う気がねェならそれでもいい、さっさと死ね」ギリギリ


飛鳥「はっ…… ぐ……!」ジタバタ


ノイトラ「ふざけんな。どうして抵抗しねえ、その腰の斬魄刀は飾りかよ。このまま首の骨へし折られてェのか」ギギッ


飛鳥「かっ…… は……!」ジタバタ


「そこまでだ、手を離せノイトラ」

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:48:03.50 ID:fvmPv6d00


ノイトラ「……」パッ


ドサッ


飛鳥「げほっ…! ごほっ…ごほっ…! ううっ……」


ノイトラ「ハリベルか、どうして俺を止めた。俺がこいつをどうしようがてめえには関係ねェことだろうが」


ハリベル「藍染様の部下として、私が破面同士による無益な争いを黙って見過ごすと思っているのか」


ノイトラ「相変わらず綺麗事をほざきやがる。ようやくあいつが消えたと思えば次の第3十刃はてめえだ」


ノイトラ「気に入らねえんだよ、てめえもあいつも。メスがオスの上に立ちやがって。いつまでも俺がてめえの下で甘んじてると思ってんじゃねえぞ」


ハリベル「……」


テスラ「ノイトラ様、ここはあまり事を荒げるべきではないかと……」


ノイトラ「ちっ、興醒めだ。命拾いしたなァ、最上大虚」




ハリベル「立てるか。手を貸そう」


飛鳥「ボクのことより、さっきクールホーンがノイトラに斬られて……」


ハリベル「分かっている。先程回廊に倒れているのを見つけ救護室へ搬送した、奴のことは心配しなくていい」


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:50:29.03 ID:fvmPv6d00


―虚夜宮・救護室―


クールホーン「アスカちゃん! だいじょうぶ!?」


飛鳥「大丈夫だよ。キミの方こそボクを庇ってケガをしたんじゃないのかい」


クールホーン「こんなものただの掠り傷よ、すぐに治るわ」


飛鳥「優しいんだねキミは。実は、と言っては何だけど恥を忍んでキミに一つ頼みたいことがあるんだ」


クールホーン「ん? なにかしら」


飛鳥「恥ずかしながら、さっきのいざこざでボクの頭と身体が少し悲鳴をあげていてね。本能的な恐怖を感じてしまった、と言うべきなのかな」


飛鳥「今回の顛末に関しては、ボクがヒトの構造をしている以上避けえなかった運命(さだめ)だったのかもしれない」


飛鳥「いざ空前絶後の絶望的な状況に陥れば、戦場を駆けた勇猛な戦士や偉大なる名君、はたまた文明を築き上げてきた賢者たちでさえも、その自制を保つことは困難なのかもしれないね」


飛鳥「だからね、つまりその、ええと……」


飛鳥「着替えを一着、用意してもらえないかな」


65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:53:01.11 ID:fvmPv6d00


―第2十刃の宮―


アビラマ「で、あの部屋の隅で布切れ被って震えてるのは何だ」


飛鳥「」プルプル


ジオ「アスカだよ。クールホーンの話だと、どうもノイトラと小競り合いを起こして殺されかけたらしい」


ニルゲ「まァ… 実際には一方的に因縁吹っ掛けられたみたいだけどな」


アビラマ「マジかよ、ノイトラのやつ調子にのりがやって。こいつが陛下の従属官だってこと知っててやったのか?」


ジオ「さあな」


アビラマ「そうだ、クールホーンはどうした。あいつもやられたのか」


ジオ「ああ、さっきまでは普通にしてたんだが、アスカの傍から離れたらいきなり白目剥いてぶっ倒れてさ。やっぱ新入りの前ってことでやせ我慢してたんだろうな」


ジオ「結果的にハリベルにも借りを作ることになったし、陛下がお戻りになられてこの惨状を見たら何と仰られるか……」

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:55:50.03 ID:fvmPv6d00


飛鳥(ヒトというのは無力なものだね。圧倒的な力の前にはどうすることもできない)


飛鳥(いや、今のボクは破面だったか。ははっ、まだ震えが止まらないよ)


飛鳥(頬の痛みも消えない。偶像(アイドル)の顔に傷がついたなんていったら、事務所からは大目玉を喰らうだろうね)


飛鳥(これが夢でよかったよ、これはあくまで夢の中の出来事なんだ)


飛鳥(……)


飛鳥(理解ってるさ)


飛鳥(理解ってるんだ。この状況下で、未(いま)だ目に映るセカイに対して反証を唱え続けるほどボクは楽観主義者(オプティミスト)じゃあない)


飛鳥(ボクにはもう、これが夢の中のセカイだと思い込むしかないんだ)


飛鳥(目が覚めれば今度こそ、元のセカイに戻ることができる)


飛鳥(そうだよね。――。)


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/06(木) 21:56:26.34 ID:fvmPv6d00
ここまで
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 22:06:50.06 ID:Fw/35qcjO
想像した以上に甘くなかった(白目)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 22:16:41.44 ID:1j7g41puO
面白い 楽しみに見てるぞ
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 23:47:24.05 ID:G6KHUkvDO
乙乙
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 01:28:45.43 ID:qp/WEhBEo
俺だって漏らすわそんなん
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 10:28:45.96 ID:Ni92HXsOO
> かつて真央霊術院で教鞭を執っていた頃の教本

東仙さんそれどうやって読んだんですか
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 10:38:05.89 ID:aPAHrUOzO
>>72
点字だぞ
霊術院は盲者にも優しいんだぞ
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 11:25:37.68 ID:ylgQ1Gy8O
東仙って全盲なのに原作とかアニメとかで普通に字とか映像見えてるっぽいのが不思議
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 11:45:05.25 ID:O6AUaRZUo
インクの凹凸がわかるんでしょ
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/04(金) 11:38:27.55 ID:jAfjxkVT0


―第2十刃の宮・修行場―


飛鳥「だああああああああああっ!!」ブンッ


アビラマ「ふん」ポイッ


飛鳥「ぶへっ」


アビラマ「やみくもに突っ込んでくるだけじゃ敵に斬ってくれって言ってるようなモンだぞ!もっと相手の動きを見極めて戦え!」


飛鳥「手厳しい指導だね。でも、これくらいじゃないとボクは到底強くはなれない。そうだよね」


アビラマ「いい心掛けじゃねえか。わかってるなら上等だ、もう一回かかってこい!」


飛鳥「言われなくともッ!」




ニルゲ「すげえやる気だなアスカのやつ… 昨日とは別人みてえだ」


ジオ「ノイトラに叩きのめされてアイツの中で何かが変わったんだろ。正直、立ち直るのはもう少し先になると思ってたけどな」


フィンドール「だが、この程度の力量ではまだまだ陛下の従属官として戦闘の場に立つには程遠い」


ジオ「今はまだまだ半人前だけど、これからアスカはもっと強くなる。何となくだけどそんな気がするよ」

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 12:36:37.98 ID:IznrBgJDO
おお…
正直もうだめと思ってた
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:13:40.18 ID:4ydfEmvH0


飛鳥(ヒトというのは立ちはだかる壁を乗り越えて成長する生き物だ。死の恐怖に打ち勝つこともその例外じゃない)


飛鳥(不老不死や死者蘇生。ヒトは死という概念を取り払い超越するために未だ果ての無い幻想を追い続けている)


飛鳥(だがそんなものはナンセンスだ。ヒトというのは限られた時を歩む流浪人にすぎない。決してセカイの理に抗うことなんてできやしないちっぽけな存在なのさ)


飛鳥(そう、戦うのは怖い。死ぬのは怖い。結局ボクは戦いに対する恐怖を、死に対する恐怖を克服することはできなかった)


飛鳥(あの時クールホーンがボクを護ってくれなかったら、それこそボクの命はなかった。思い出すだけでも身体が震えてくるよ)


飛鳥(でも、このまま臆して立ち止まっているわけにはいかないんだ)


飛鳥(ボクの本能に刻まれたこの恐怖を取り払うことができないなら、それを上回る強い心でボクを蝕む恐れを封じ込めるしかない)

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:14:53.68 ID:4ydfEmvH0


飛鳥(これはボクなりにこのセカイについて考えた結果の行動ということになる)


飛鳥(こういう御伽話(ファンタジー)モノはおおよそその世界での死が引き金(トリガー)となって物語の全容が明かされるというのも定番の一つだ)


飛鳥(ただ、その引き金を引いた結果、運命の天秤がどちらに傾くのかは誰にもわからない)


飛鳥(何の確証もないが、どうもボク自身の心が、このセカイの声が、その引き金を引いてはならないと警鐘を鳴らしている気がするんだ)


飛鳥(死をもって物語の終幕を迎えることができそうにないならば、この御伽話のセカイでやるべきことは一つ)


飛鳥(それは“このセカイがボクに望むボク自身の役割を果たすこと”だ)


飛鳥(恐らくその存在証明を完遂したその時にこそ、このセカイでの物語は幕を閉じる)


飛鳥(そのためには、ボクはこのセカイで死ぬわけにはいかない。死を回避するためには強くなる必要がある)


飛鳥(強くなって強くなって全てをやり遂げた後にようやく、この夢から覚めるんだ)


飛鳥(今のボクには、死の恐怖に怯えている時間なんてない)

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:16:57.74 ID:4ydfEmvH0


飛鳥「」チーン


アビラマ「今日はここまでだな、昨日の今日でアホみたいに修行の量を増やしたんだ。もう動けねえだろ」


飛鳥(ははっ、疲弊しすぎて意識が飛びそうだ。こんなに辛いレッスンは初めてだよ。吐きそう)


飛鳥(だけどこれが限界じゃない。まだ立ち上がる力もあるし、叫ぶこともできる)


飛鳥「フフッ、次の特訓メニューを教えてくれないか」フラッ


アビラマ「何だ、まだ続けるつもりか?」


飛鳥「もちろんだよ。まだまだこのくらいのレッスンで倒れるわけにはいかないんでね」


アビラマ「そうかよ、じゃあこっからは今までみたいに甘……」


飛鳥「うっぷ」


アビラマ「ん?」


飛鳥「先に謝っておくよアビラマ。どうやらレッスンを続けたいというボクの想いにボクの身体が追いつかないみたいだ おえっ」


飛鳥「もう限界だ、全てを吐きだすことを赦(ゆる)してほしい」


81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:18:43.73 ID:4ydfEmvH0


―虚夜宮・玉座の間―


藍染「突然招集を掛けて済まなかったね。ウルキオラ、ヤミー」


藍染「君達への指令は一つだ。早急に現世へと赴きバラガンを連れ戻してもらいたい」


ウルキオラ「はい」


ヤミー「待ってくれよ藍染さん。バラガンを連れ戻すってどういうことだ、あいつ何かやらかしやがったのか」


ウルキオラ「藍染様の前だ。言葉を慎めヤミー」


藍染「構わないよ。私が言葉足らずだったようだ」


藍染「バラガンは先日、私の待機命令に背き独断で現世へと向かった。そして未だ虚夜宮への帰還を果たしていない」


藍染「そして向こうから黒腔(ガルガンタ)を開く様子もなく、緊急連絡や経過報告も届いていないんだ」


ウルキオラ「まさか――」


藍染「いや、離反ではないよ。彼は聡明な破面だ。大虚時代の部下やかつての居城を捨て私に反旗を翻すということはないだろう」

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:20:37.68 ID:4ydfEmvH0


藍染「彼にも彼なりの思惑があるのだろうが、先日の出来事から日も浅い」


藍染「第2十刃とはいえ、彼にばかり特例を赦していればいずれは虚夜宮全体の士気にも影響が及ぶだろう」


藍染「私としても、後に控える戦いを前にして統率に乱れが出るのは避けたくてね」


藍染「理解してもらえたかな。君達への任務は『手段の如何を問わずバラガンを虚夜宮へと送還すること』だ」


ヤミー「とにかくさっさとバラガンをとっ捕まえて帰ってこればいいんだろ? 任せてくれよ藍染さん」


ウルキオラ「……」


藍染「では早速実行に移ってくれ。ウルキオラ、ヤミー」


ウルキオラ「了解しました」


藍染「ああそうだ。この任務における人員の選定権はウルキオラ、君に預けることにしよう」


藍染「もし戦力の不足を感じるのなら、他の十刃を連れていっても構わないよ」


83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:22:00.20 ID:4ydfEmvH0


―第6十刃の宮―


グリムジョー「ちっ、それで俺を数合わせに連れてくってことか」


ヤミー「あァン? 何だ文句あんのかグリムジョー」


グリムジョー「あるに決まってんだろうが。バラガン連れ戻すだけの微温ィ任務に何でわざわざ俺が行かなきゃならねえ」


ウルキオラ「“連れ戻すだけの任務”か、随分と甘い見通しだな」


グリムジョー「なに?」


ウルキオラ「相手がバラガンとはいえ、ただの送還任務に十刃が複数体も選定されるはずがないだろう」


ウルキオラ「さらに藍染様はこの任務の補充要員を十刃のみに限定していた。ならば今回の任務は少なくとも何かしらの戦闘を想定したものと見るべきだ」


グリムジョー「戦闘だァ? まさか俺とてめえらで徒党組んでバラガンと戦(や)りあえってんじゃねえだろうな」


ヤミー「さっきからごちゃごちゃうるせえな、ビビってんのか?」


グリムジョー「あァ!?」


ウルキオラ「不要な挑発はよせ、ヤミー」

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:24:46.31 ID:4ydfEmvH0


グリムジョー「ハッ、まあいい。藍染の命令なら仕方ねえ。バラガンだろうが誰だろうが俺がぶっ潰してやるよ」


ウルキオラ「逸っているところ悪いが、俺たちが奴と戦闘を行うことは無い」


グリムジョー「……オイ、さっきから戦うだの戦わねえだの何が言いてえんだ」


ウルキオラ「この任務の真に用心すべき箇所は別にあるということだ」


ウルキオラ「藍染様が本当にバラガンとの戦闘を想定しているならば、そもそもこの任務に俺と今のヤミーが選ばれることなどない」


ウルキオラ「第2十刃の強制送還を果たそうとすれば、序列がより1番に近い数字を持つ十刃の力が必要になるからだ」


ウルキオラ「奴を捜索し送還するという点から見れば、俺たちの役割はただの使者に過ぎん」


ウルキオラ「そして使者である俺たちと敵対することは即ち藍染様への叛逆とみなされる。それはバラガンにとっても本意ではないだろう」


ウルキオラ「だが、先にも言った通り例え対象が第2十刃であろうと捜索及び送還程度の任務に十刃を複数体向かわせるはずもない」


ウルキオラ「ならば今回の任務はバラガンではない“別の警戒すべき対象”がいると見るべきだ」


グリムジョー「てめえにしちゃえらく喋るじゃねえかよ」


ヤミー「おい、いつまで待たせんだ。早いトコ現世に向かおうぜ」


85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:28:41.31 ID:4ydfEmvH0


―虚夜宮・浴場(男湯)―


飛鳥(どうしてボクが男湯に……)ムスッ


アビラマ「なに膨れっ面してんだよ、仕方ねえだろ今日はクールホーンがいねえんだからよ。そもそもいきなりゲロぶちまけたお前が悪い」


飛鳥「お風呂くらいボク一人で充分だよ」


アビラマ「馬鹿野郎、お前一人にして昨日みたいなことになってみろ。これ以上無様な醜態晒したらいよいよお前も俺達も陛下に合わせる顔がなくなっちまうぞ」


飛鳥「確かにそうかもしれないね。でもそれ以前にキミたち破面には恥じらいというものが不足している気がしてならないよ」


アビラマ「何言ってんだお前も破面だろうが。なに気にすることはねえ、この時間帯なら誰もここには来やしねえよ」


エドラド「オウ? なんだ、見ねえ顔がいるじゃねえか」


飛鳥「……」


アビラマ「……」


飛鳥「この時間帯なら誰もここに来ないんじゃなかったのかい?」


アビラマ「すまねえ」

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:31:20.80 ID:4ydfEmvH0


エドラド「聞いてるぜ、お前が昨日ノイトラとやりあったっていう…… オウ、どうしてお前はさっきから目を閉じてるんだ」


飛鳥「フッ、ボクにも目に写すセカイを取捨選択する権利があるはずだろう?」


エドラド「?」


アビラマ「まあこの通り変わったヤツなんだよ、勘弁してやってくれ」


シャウロン「成程、出会いがしらにノイトラに斬りかかるほどの豪胆と聞いた。その立ち振る舞いも型破りという訳か」


飛鳥「どうも間違った情報が伝わってる気がするのはボクの勘違いかな」


アビラマ「お前がノイトラにビビって逃げた挙句に手も足も出ずにやられたなんて言えねえだろ。ちょっとばかし話を盛って広めといたぜ」


飛鳥「クールホーンもそうだけど、その見栄っ張りなところは君たち特有のものなのか破面全員に共通するものなのかが気になるよ」

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:32:23.31 ID:4ydfEmvH0


ディ・ロイ「お前アスカとか言ったっけか? せっかく優秀な従属官が入っても頭のバラガンがあんなことになっちゃ宝の持ち腐れってヤツだな」


アビラマ「なに? オイ、どういう意味だ。てめえ今なんつった」


ディ・ロイ「バラガンのやつ、藍染様を裏切ったんだろ? さっきグリムジョーと他の十刃のやつらが……」


シャウロン「よせディ・ロイ。不用意に内部情報を口にするな」


アビラマ「てめえら、陛下の動向について何か知ってやがるな」


アビラマ「どうにもおかしいとは思ってたんだ。たかが現世の任務で陛下のご帰還がここまで遅れるなんてことはありえねえ」


アビラマ「アスカ」


飛鳥「なんだい」


アビラマ「俺の斬魄刀を持ってこい。こいつら全員叩きのめして口を割らせてやる」

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:34:55.65 ID:4ydfEmvH0


エドラド「オウ、落ち着けよアビラマ。ここまで来ちまったらもう隠し通すつもりもねえ」


イールフォルト「ちっ、どこぞのカスが余計なことを口走ったおかげで面倒事が増えちまった」


シャウロン「とはいえ、私たちも詳細に事を理解しているわけではない」


シャウロン「バラガンが現世に無断侵攻を開始した、現世へ逃亡した、藍染様の下から離反した… このように情報が錯綜していて何が真実であるのか未だ解明できていない」


シャウロン「ただ、先程グリムジョー、ウルキオラ、ヤミーの十刃三体で構成された部隊が現世に滞在するバラガンの下へ向かったというのは事実だ」


シャウロン「三体もの十刃を動員した任務、やはり考えられるものとしては藍染様に対し裏切りの意思を示したバラガンの討伐。これが最も可能性が高い」


アビラマ(どうなってやがる。陛下は藍染の命令で現世での任務へとお向かいになられたハズだ。それがどうして無断侵攻だの離反だのワケ分からねえことになってんだ)


アビラマ(確かに陛下が藍染を討つ機会を狙ってるってのは事実だ。だが今はその時じゃねえ)


アビラマ(まさか藍染の野郎、俺たちの反逆の意思を見抜いて陛下を陥れやがったのか?)


アビラマ(長期滞在任務とか適当ぶっこいて現世に向かわせた後に帰還命令を出さずに反逆者として処理する。単純なやり方だがありえねえ話じゃねえ)


アビラマ(そうだ、そうに違いねえ。藍染の野郎、どこまで陛下を侮辱する気だ…!)


アビラマ「こうしちゃいられねえ、俺たちも宮に戻って現世に向かう態勢を整える! 行くぞアスカ!」グイッ


飛鳥「ぐえっ」


89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:36:46.50 ID:4ydfEmvH0


―虚夜宮・回廊―


アビラマ「くそッ、くそッ! ふざけやがってッ!」


飛鳥「待ってくれアビラマ、少し冷静に……」


アビラマ「冷静だよ俺は! ったくとんでもねえことになりやがった、まさか藍染の野郎がこんなに早く行動に移しやがるとはな」


飛鳥「アビラマ、ボクの話を聞いてくれ」


アビラマ「そんな時間はねえ。いくら陛下とはいえ十刃を三体同時に相手取るなんてことになれば万が一ってこともあり得る」


アビラマ「もしも陛下がやられたなんてことになったらもう取り返しがつかねえ、死人に口なしってヤツだ。陛下も俺たちもお前も反逆者として処刑されて終わりだ」


アビラマ「陛下さえ虚夜宮に戻れば裏切りじゃねえってことが証明できる。藍染も文句は言えねえハズだ」


アビラマ「俺たちはバラガン陛下の忠実なる従属官だ。一刻も早く現世に向かって陛下のご帰還を援護しなきゃならねえ」


飛鳥「やっぱり今のキミは冷静さを欠いているよ。その選択は悪手だ、新入りのボクにだって理解る」


アビラマ「なに?」


飛鳥「このままボクたちが現世に向かえば陛下は本当に藍染惣右介を裏切った逆賊として処刑されることになるだろうね」

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:42:58.73 ID:4ydfEmvH0


飛鳥「“バラガン陛下は藍染惣右介のでっち上げた虚構の任務によって現世に幽閉された”」


飛鳥「“現世から帰還することができない今の状況は陛下を反逆者に仕立て上げるのには好都合だ”」


飛鳥「“なぜなら現世から帰還しない行為それそのものが傍から見れば虚夜宮に対し反逆の意思を示したという既成事実となるからだ”」


飛鳥「キミはこんなふうに考えている、とボクは踏んだんだけど違うかい」


アビラマ「まあ、全部正しいってワケでもねえが間違ってはいねえ」


飛鳥「ボクもシャウロンの話を聞いた時は一瞬そう思ったよ。でも藍染惣右介が考案したにしてはこの謀略はあまりにも稚拙すぎる」


飛鳥「ボクの知る藍染惣右介ならば、ボクたち破面に見破ることができる程度の策を実行に移すはずがない。いつぞやの死神魂魄消失事件のような綿密な計画を立てるはずさ」


飛鳥「それに陛下が虚夜宮に戻らないといってもわずか数日のこと。その短期間で裏切りと決めつけて即座に討伐部隊を編成するのはいささか早計だとは思わないかい」


アビラマ「……」


飛鳥「他にも、この時期に十刃同士を衝突させて貴重な戦力を減らすようなことはしないと思うよ」


飛鳥「言い方は悪いけど、ボクが彼なら策に陥れる相手に明確な裏切りの意思を示させるために適当な破面を送り込んで衝突させる。それなら同胞を斬った裏切り者として懲罰を正当化できるからね」

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:45:32.56 ID:4ydfEmvH0


アビラマ「小難しいがお前の言いたい事は大体わかった。だがどうして俺たちが現世に向かうと藍染を裏切ったってことになるんだ」


飛鳥「その場の状況がそのまま裏切りを証明することになってしまうからさ」


飛鳥「ボクたちが現世に向かえば“現世にバラガンとその部下が集結する”ことになる」


飛鳥「虚夜宮の側から見れば“バラガンが部下を引き連れ現世に離脱、藍染惣右介に対し離反の意思を示した”。真意は違えどそう捉えられてもおかしくない」


飛鳥「藍染惣右介と少なからず因縁のある陛下なら特にそうだ」


アビラマ「……」


飛鳥「理解してくれとはいわない。ただこれも一つの意見として受け止めてほしい」


アビラマ「確かにお前の言う事にも一理ある。だが俺も大虚の時代から陛下に仕えてきた一人だ、正直今すぐにでも陛下のもとに向かいてえ」


アビラマ「改めて訊くがお前はどう思う。俺たちはこのまま虚夜宮に留まるべきか、それとも現世に向かうべきか、陛下の従属官であるお前の意見を聞かせてくれ」

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:46:45.88 ID:4ydfEmvH0


飛鳥「ボクの考えは変わらないよ。宮で陛下の帰りを待つのが得策だと思う」


アビラマ「そうか」


アビラマ「覚えてるか? 少し前にクールホーンがお前と俺たちは陛下の従属官として対等な立場だって言ったよな」


飛鳥「ああ」


アビラマ「仕えた期間は違っても、お前と俺たちは志を共にするバラガン陛下の従属官だと、俺もそう思いてえ」


アビラマ「だがな、俺はどうしてもお前の言ったことが陛下の従属官としての立場から出た言葉だとは思えねえんだ。お前はどこか、陛下から離れた場所で物を言ってるように聞こえちまう」


アビラマ「お前が新入りだからとかそういうのじゃねえ。何だ、上手く言えねえんだが、お前は……」


飛鳥「いや、キミの言いたい事はよくわかる。そしてきっとキミの言いたい事は正しい」


飛鳥「ごめんよアビラマ。やっぱり最初に本当のことを話しておくべきだった」

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:51:36.62 ID:4ydfEmvH0


飛鳥「最初に会った時、ボクはキミたちのことを知っていると言ったよね」


飛鳥「あれは名乗り口上でもなんでもないんだ。ボクは“本当にキミたちのことを知っている”」


飛鳥「アビラマ・レッダー。解号は「頂を削れ」。帰刃名は『空戦鷲(アギラ)』」


アビラマ「!!」


飛鳥「可笑しいだろう。キミにしか分からないはずのことをボクが知っているんだ」


飛鳥「これだけじゃない。バラガン陛下のこと、キミたちのこと、他の十刃や従属官のこと、死神のことも滅却師のことも、後の大戦のことも、全て知ってる」


飛鳥「それとボクは破面じゃなくて人間なんだ。何の因果か在るべき別のセカイからこのセカイに飛ばされたらしくてね」


飛鳥「でも、破面ではないとはいえボクにはこのセカイで成すべきことがある。成すべきことを成して元あるセカイに戻るんだ」


飛鳥「ボクの心は此処にある。在るべきセカイに戻るその時まで、陛下の従属官として全ての力を尽くすことをここに約束するよ。この言葉に偽りはない」

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:56:35.24 ID:4ydfEmvH0


アビラマ「……」


飛鳥「ごめんなさい、やっぱりこの事はもっと早くキミたちに伝えておくべきだった」


アビラマ「くっくっく。やっぱ面白いヤツだぜお前は」


アビラマ「俺が悪かった。こんな突拍子もないハッタリかましてまで陛下のために俺を説得しようと思ったんだろう」


アビラマ「お前がマジなツラで俺の帰刃名を言い当てて自分が人間だの何だの言い出したときはついお前の言うことを信じちまいそうになったが、お前は一度陛下にお会いになってる」


アビラマ「その時に俺たちのことを陛下に訊いたとすりゃ俺のことについて知っててもおかしくねえ」


アビラマ「よく考えりゃお前の言ってることはごもっともだ。こんな時にわざわざ十刃同士かちあわせる必要なんてねえ」


アビラマ「俺たちが現世に向かったところで陛下の立場が悪化するってのもお前の言う通りだろう」


アビラマ「ちっとは不安が残るが、今回はお前の意見に従うぜ。お前は確かに俺たちと同じ志を持つ陛下の従属官だった」


飛鳥「待ってくれ、ボクは本当に……」


アビラマ「なにボーっとしてんだ、さっさと宮に戻るぞ。俺たちに今できるのは陛下のお戻りを待つことだけだ」


飛鳥「……」


飛鳥(ボクのことは、いずれその時が来たらみんなに伝えよう)


飛鳥(彼らの行く末も、虚夜宮の未来も、今は話すべきではないのかもしれないね)


95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 21:59:24.36 ID:4ydfEmvH0


―第2十刃の宮―


クールホーン「んもおおおおおおおおおおお!!! このあたしがノイトラごときにやられたなんて納得いかないのよおおおおおおおおお!!!!」ギリギリ


アビラマ「いでででで! 俺に八つ当たりすんじゃねえ!!」


ジオ「クールホーンもすっかり快復したな」


クールホーン「フフフ、休みすぎたくらいよ。もう霊圧があり余っちゃって仕方ないわ」ギリギリ


アビラマ「だから痛えんだよ! 放せっつーの!!」


飛鳥「紅茶を淹れてみたんだけど、みんな飲むかい?」


ジオ「ん、紅茶か。貰おうかな」


クールホーン「いい香りじゃない。ちょっと前にこっちの鳥頭が淹れた紅茶とは雲泥の差ね。思い出しただけでも吐き気がしてくるわ」


アビラマ「あの時は少し失敗しちまったんだよ。つーかそんなに酷くなかっただろ」


ニルゲ「さすがに灰色の紅茶が出てきた時は何事かと思ったけどな…」


ジオ「パッと見は完全に雑巾のしぼり汁だったもんな。味の方もまあ、アレだったし」

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 22:01:53.87 ID:4ydfEmvH0


アビラマ「はっ、紅茶の上手い不味いなんてのはこの際どうでもいい」


アビラマ「そんなことより分かってんだろうなお前ら。陛下の現世任務の件に関してはアスカの意見に従ってもらうぜ」


ジオ「分かってるって。何回目だよその話」


ニルゲ「でもよ、もしも陛下に何かあったら……」


ポカッ


ニルゲ「いてっ」


ジオ「何もないさ、俺たちが付き従ってるのは誰だと思ってる。神である王に“何か”なんてのはないんだよ。万が一にもな」


アビラマ「ン゛ン゛ッ」


ジオ「ん、どうした?」


アビラマ「いや、何でもねえよ」


97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 22:03:47.76 ID:4ydfEmvH0


―現世・空座(からくら)町―


グリムジョー「よォ、見つけたぜバラガン」


バラガン「随分と使いを寄越すのが遅かったのオ。貴様一人で来たのか」


グリムジョー「だったらどうするよ」


バラガン「……」


グリムジョー「……」


バラガン「フン、差し当たっての用は終えた。これより虚夜宮へと帰還する、黒腔を開け」


グリムジョー「あァ? こっちはわざわざてめえを連れ戻しに来てやったってのにどうして俺が……」


ドガッ!!


グリムジョー「ぐっ!?」


バラガン「この儂に口が過ぎるぞグリムジョー。黒腔を開けと言ったのが聞こえんかったか」


グリムジョー「てめえ!!」

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 22:06:01.28 ID:4ydfEmvH0


ウルキオラ「やめろグリムジョー」


グリムジョー「!」


ヤミー「一人で突っ走って行きやがったと思いきやこれだ。あんまり余計なことしたら藍染さんに叱られるぜ?」


ウルキオラ「バラガン、虚夜宮へ帰還する前に一つ訊きたい」


バラガン「何じゃ」


ウルキオラ「俺たちが現世に到着するまでの数日、ここで“誰と会っていた”」


バラガン「何の話だ」


ヤミー「お前いったい何を企んでやがんだ。まさか本当に藍染さんに逆らおうってんじゃねえだろうな」


バラガン「ほざけ、儂の行動の全てはボスの為。貴様らにとやかく言われる筋合いはないわ」

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 22:12:05.19 ID:4ydfEmvH0


ウルキオラ「何にせよこれで大方の指令は終えた、これより虚夜宮へと帰還する」


ヤミー「くぁぁ… ったくつまんねえ任務だったぜ」


グリムジョー「結局“警戒すべき対象”なんてのはどこにもいなかったじゃねえか。てめえの目論見もアテにならねえな、ウルキオラ」


ウルキオラ「ああ、どうやら“到着が遅かった”らしい」


バラガン「……」


バラガン(奴の命令に背いてでも現世に来たのは正解だった)


バラガン(あの小娘の言ったこともまんざら虚言という訳ではないらしい)


バラガン(奴は使える。必ずや藍染惣右介を追い詰めるための儂の牙となるじゃろう)


バラガン(儂がこの手で貴様を殺すまで、精々偽りの王の座にて虚圏の神を気取っているがいい。藍染惣右介)


100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 22:13:04.19 ID:4ydfEmvH0
ここまで
プロローグおわり
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:49:41.31 ID:ctepj7kIO
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/10(木) 23:25:52.18 ID:KfcOwHkCO
あげちゃう
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:35:33.32 ID:o/L/j8dcO
乙乙
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 10:50:43.13 ID:FVjj/Oo6O
風呂場で行われる全裸の口論からハッテンするストーリー
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/17(木) 00:44:01.60 ID:C5H00LED0


数日後 第2十刃の宮


アビラマ「急げアスカ! 食事の準備だ!」


飛鳥「はい!」ダッ


クールホーン「アスカちゃん! そっちのグラスとボトル取ってちょうだい!」


飛鳥「はい!」ダッ


飛鳥(結局あれから、彼らの心配をよそに陛下は無事現世から帰還した)


飛鳥(あんなに慌ただしかったこの宮も、今では別の意味で賑やかだ)


フィンドール「これが新しい“正義のレシピ”か。この完成度ならばきっと陛下もお気に召されることだろう」


ジオ「フィンドール、お前も手持ち無沙汰なら手伝ってくれよ」


フィンドール「俺はこの宮での調理及び給仕関係における最高責任者だ。全体の作業が滞りなく行われているか常に監視しておく必要がある」


ニルゲ「サボりの言い訳に聞こえるぜ…」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/17(木) 00:50:03.68 ID:C5H00LED0


フィンドール「――虚圏の海で育った半虚風トルティーヤ。アロマゾン&ヘルマンティスを添えた反膜色のパエリア。以上が本日のメニューとなります」


バラガン「フム」


クールホーン「長ったらしい料理名ばかりね。それに虚圏に海なんて無いでしょうに」


フィンドール「うるさいぞクールホーン!」


飛鳥「バラガン陛下、お飲み物をお注ぎします」


アビラマ「くくく…」


ジオ「何ニヤついてるんだよ、不気味だぞ」


アビラマ「いやなに、アスカも陛下の従属官として大分サマになったんじゃねえかと思ってよ」


ジオ「そうかもな。あとは戦闘能力さえ身に付けてくれれば言う事ないんだけど」


ニルゲ「うん、美味い美味い」モグモグ


アビラマ「あっ! お前なに勝手に俺の分のメシ喰ってんだ!」

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/17(木) 00:52:24.11 ID:C5H00LED0


バラガン「ところで飛鳥。鍛錬のほうは順調か」


飛鳥「はい、まだまだ未熟者ではありますが皆の指導のもと全力で修行に励んでおります」


バラガン「そうか、じゃが無理はするなよ。お前を失うことは我が宮にとって大きな損失となる。己の身を案じて励め」


飛鳥「ありがたき御言葉」


アビラマ「なあ、アスカが来てから日に日に陛下が穏やかになっていくように感じるのは俺だけか」


ジオ「俺もそう思う。最近はめっきり怒らなくなったしな」


クールホーン「あれじゃまるで孫ができて丸くなったお爺ちゃんね」


バラガン「何か言ったかクールホーン」ギロッ


クールホーン「い、いえ、何も…」

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/17(木) 01:08:54.73 ID:C5H00LED0


フィンドール「陛下、差し支えなければ本日のお食事に関して評価を頂きたく存じます」


バラガン「何とか及第点と言ったところじゃな、レシピの考案者である東仙要にもそう伝えておけ」


フィンドール「はっ!」


バラガン「そうじゃ、貴様等に支給しておかねばならん物がある。入って来い、ポウ」


ポウ「お持ちしました」ドサドサッ


クールホーン「これは…?」


バラガン「破面用義骸(ぎがい)。死神の仮の肉体である義骸を破面用に作り替えたものだ」


バラガン「これにより霊体ではなく実体を持ってして現世での活動が可能となる」


バラガン「貴様等にも休暇が必要じゃろう。現世に赴く際はこの義骸を使うといい」


アビラマ「休暇ァ!?」


バラガン「何じゃアビラマ、不服でもあるのか」


アビラマ「あっ、いえその、申し訳ありません、驚いた拍子につい声が… 不服など微塵も御座いません」


バラガン「まあよい、この義骸は全員分用意してある。各自支給品を紛失せぬよう自室にて保管しておくがいい」


※義骸(ぎがい)…自らの姿を模した着ぐるみの様な人形。この中に入ることで人間と同じように実体での活動が可能になる


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/17(木) 01:16:46.29 ID:C5H00LED0


―第2十刃の宮・大広間―


アビラマ「オイ! 休暇ってなんだよ! 休暇ァ! 休暇だぞ! 陛下の口から休暇などという御言葉が…」


ジオ「うるさいな、落ち着けよ」


クールホーン「ぶっちゃけあたしも驚いたわよ。陛下がこんな大々的に休みを取れ、なんて言ったこと今までなかったじゃない」


フィンドール「不正解、お前たちは少し勘違いをしているな」


フィンドール「陛下はあくまでも“俺たちに休暇が必要”と仰られただけだ」


フィンドール「休暇がいつから始まるか、その日時が指示された訳ではない。陛下の寛大なる御言葉にそう浮かれていては……」


ポウ「明日より二日間自由に休暇を取れ。陛下はそう仰っていた」


アビラマ「二日もだァ!? しかも明日からだと!?」


ジオ「ああもう! 耳元で叫ぶなっての!」

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/17(木) 01:20:21.00 ID:C5H00LED0


アビラマ「だが複雑だぜ、俺たちはバラガン陛下の忠実なる従属官。陛下の為に尽くす事こそが俺たちの使命、その俺たちが陛下の側から離れて休むってのは…」


フィンドール「ポウの言葉が正しいのなら休暇を取れというその御言葉が陛下の命令ということになる。従わない訳にはいかないだろう」


ジオ「陛下にご確認を取ってきた。確かに明日から二日間休暇を取れということらしい」


クールホーン「決まりね、それじゃあたしはこの休みを有意義に使わせてもらうわ。現世で化粧品漁りでもしようかしら」


アビラマ「現世か、そういや破面化してからは一回も行ってねえな」


ニルゲ「霊体で現世に行っても魂魄を喰うくらいしかやることなかったしな…」


ジオ「アスカはどうするんだ、お前も現世に行くのか」


飛鳥「ボクはそうだね、このセカイの現世に興味が無いワケじゃないけど今はどうにも気が乗らなくてね」


飛鳥「休暇を使って何をするか、少し自分の部屋で考えてみることにするよ」


111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/18(金) 21:39:25.81 ID:ub5/iyF7O
バラガンのフラシオンって誰が一番強いん?
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/18(金) 22:52:46.32 ID:2vQz6Gm+o
強いけどネタキャラなシャルロッテじゃない?
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/19(土) 02:01:40.01 ID:Qy8I9oeeo
強いのはシャルロッテ、ポウ
弱いのはニルゲ、その次にフィンドールってイメージ
アビラマもあそこまで相性が悪くなければまぁまぁ強そう
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/19(土) 04:53:22.93 ID:BfQVEVlBO
砕蜂相手にある程度戦えたジオヴェガ
ゾンビエッタ叩きのめせるクールホーン
バラガンが直々にスカウトしたポウ
こいつらの中の誰かな気がする
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 07:55:36.22 ID:qo6aS1zpo
デレプロは現世にあるのか…?
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 13:40:29.81 ID:HR6DJYoc0


休暇1日目 虚夜宮・回廊


飛鳥「理解ったかい、このように現世というのは数多あるヒトの想いが複雑に交錯するセカイなのさ」


リリネット「うーん、全然わかんないけど、なんか面白そうなトコじゃん現世って。あたしもいつかスタークに連れてってもらおっかなー」


飛鳥(休暇の過ごし方も特に思いつかず、ただ虚夜宮の中をフラつくだけになってしまった)


飛鳥(でも、まさか成り行きで第1十刃の従属官であるリリネットとの仲を深めることになるとは思いもしなかったけどね)


飛鳥「しかし、いいのかい? ボクはバラガン陛下から休暇を貰っているから自由に動けるけど、キミはそういうワケにもいかないだろう」


リリネット「なに言ってんの、今日と明日は十刃以外みんなお休みでしょ」


飛鳥「ん、そうなのかい」


リリネット「ちょっと前にあった会議でそう決まったんだってさ。スタークが言ってた」


リリネット「たまには従属官にも休みを取らせろー、ってバラガンが藍染サマに頼んだらしいよ」

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 13:54:48.72 ID:HR6DJYoc0


飛鳥「成程、この休暇は陛下の進言によるものだったんだね。てっきり藍染惣右介の施策だと思っていたよ」


ロリ「ちょっと待ちなさい、今聞き捨てならない言葉が聞こえたわよ!」


リリネット「あ、ロリだ」


飛鳥「破面No.33ロリ・アイヴァーン、だね」


ロリ「今あんた藍染様のこと呼び捨てにしたでしょ」


ロリ「藍染様の右腕であるアタシの前でそんなコト言ってタダで済むと思ってるんじゃないでしょうね」


リリネット「どうせスタークもヒマだろうし、今から現世に連れてってもらおっと。アスカも一緒に行くよね?」


飛鳥「ボクかい? そうだね… まあ、いいか。特にやることもないしご一緒させてもらおうかな」


ロリ「シカトしてんじゃないわよ!!」

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 13:57:36.19 ID:HR6DJYoc0


リリネット「うっさいなー、あたしたち忙しいからまた今度にしてよ」


ロリ「逃げようったってそうはいかないわよ」


メノリ「待ちなよロリ。別にそっちのコも悪意があって呼び捨てにしたワケじゃないだろうし、突っかかることでもないでしょ」


飛鳥「いや、こっちも軽率だった。虚夜宮現当主である藍染惣右介に対しては尊崇の証明として敬称を遣うべきだったのかもしれないね」


飛鳥「ただ、別に彼を蔑むとか嫌忌しているとかそういった意図はないんだ。誤解させてしまったなら謝るよ」


ロリ「ぐぬぬ…」


リリネット「アスカとメノリもこう言ってるしもう行くよ」


ロリ「どうしてアンタが仕切ってんのよ! 第1十刃の従属官だからって調子に乗らないでよね」


ロリ「大体第1十刃なんて毎日寝転がってるだけで会議でも碌にハナシ聞いてないくせに……」


リリネット「ふんっ!」ゲシッ


ロリ「痛ったぁ! 何すんのよこのガキ!」


リリネット「スタークの悪口言うなっ!」


119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 14:04:20.08 ID:HR6DJYoc0


―第1十刃の宮―


リリネット「スターーーク!! 起きろーーーっ!!!」


スターク「zzz…」


リリネット「ふんっ!」ゲシッ


スターク「zzz…」


リリネット「もう! 起きてったら!」グイグイ


スターク「zzz…」


飛鳥「どうやら、ボクたちの力量では彼を眠りから覚ますのは難しいみたいだね」


リリネット「ぐぐ… こうなったら最後の手段! キ○タマ蹴とばしてやる!」ドガッ!


スターク「ぐおあっ!!?」

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 14:07:13.21 ID:HR6DJYoc0


スターク「痛っててて… 何なんだ全く…」


リリネット「おっす、スターク!」


スターク「リリネットか、起こす時はもう少し優しく頼むって言ったばかりだろ…」


リリネット「何やっても起きないスタークが悪い」


スターク「それで、俺を叩き起こしてなんか用でもあるのか」


リリネット「そうだった、スターク寝てばっかで暇だろ。やることないならあたしたちを現世に連れてってよ」


スターク「嫌だよメンドくせぇ。つーかあたし“たち”って何だよ」


飛鳥「お初にお目にかかるね。ボクはアスカ、二宮飛鳥。キミはボクの事を知らないだろうけど、ボクはキミのことを知っている」


リリネット「この子アスカって言うんだ、あたしの友達だよ」

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 14:10:44.95 ID:HR6DJYoc0


スターク「アスカ… あー、バラガンとこの従属官か」


リリネット「なあいいだろースターク、どうせ暇なんだから連れてってよー」


リリネット「スタークもこの前藍染サマから義骸?っての貰ったじゃん。一緒に遊びに行こうよ」


スターク「そりゃ無理だ、これでも一応任務中なんだよ。藍染サマにも自宮で待機してろって命じられてる」


リリネット「ええ、そんなぁ…」


リリネット「スタークが無理ならどうやって現世に行けばいいんだろ。あたしの黒腔は不安定だから使うと危ないし…」


飛鳥「ボクも色々とワケがあって黒腔は使えないんだ。どうしたものか…」


スターク「……」


スターク「分かった分かった、メンドくせぇけど俺が黒腔を開く。開くだけなら待機命令を破ったことにはならねえだろ」


リリネット「やった! ありがとスターク!」


122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 22:19:21.58 ID:HR6DJYoc0


―現世・空座町―


リリネット「とうちゃーく!」


飛鳥「ふう、黒腔の中を歩くのは初めてだから少し緊張したよ」


リリネット「あれ? アスカって現世に来たことあるんじゃないの。黒腔を歩いたことがないって…」


飛鳥「確かに来たことはあるよ。むしろ暮らしていたと言った方が正しいかもしれない」


飛鳥「“このセカイとは別の現世”にだけど、ね」


リリネット「?」


飛鳥「ま、破面としてのボクの出自は少々特殊なのさ。だけど心配はいらないよ、今日はボクと共に現世でのひと時を楽しもう」


飛鳥「既にプランは構築してある」


飛鳥「これからボクとキミが向かうのは欲望と喧騒が渦巻く無秩序なセカイ。その魔力に取り憑かれないようくれぐれも用心することだ」


123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:22:25.79 ID:HR6DJYoc0


―空座町・ゲームセンター―


リリネット「何ここ! うるさっ!」


飛鳥「ここは世間一般的にゲームセンターと呼ばれる場所さ。この場に流れる旋律は立ち入る者の強欲を呼び起こす狂想曲… 恐ろしいところだよ」


飛鳥「かつてはこのボクでさえ、俗楽の粋を集めたこの舞台で多くのモノを失った」


飛鳥「だけど、失落と同時に得るモノもある」


飛鳥「この酔狂で無秩序なセカイ、純粋無垢なキミにもきっと気に入って貰えることだろう」


リリネット「ごめん! 何言ってるか全然聞こえない!」


飛鳥「……」


飛鳥「まあいいさ。キミもここは初めてだろう、最初はボクが手取り足取り案内するよ」


飛鳥「まずはそうだね、クレーンゲームなんてのはいかがかな」

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:24:28.37 ID:HR6DJYoc0


リリネット「ぐうう… なにこれ! 全然取れないじゃん!」スカッ


リリネット「もう一回!」チャリン


飛鳥「どうやらキミも堕ちてしまったようだね。ヒトの欲望を支配する、この罪深きマキナリアに」


リリネット「よっし、掴んだ!」ウィーン


リリネット「あっ」ポロッ


リリネット「……」


リリネット「もうっ! あとちょっとだったのに!」ドンッ


飛鳥「おっと、コレを叩くのは止した方がいい。物言わぬ鉄塊となってしまえばそれこそ何も対価を吐きだしてはくれなくなる」


リリネット「でも向こうのヒトも同じことやってるよ」


飛鳥「えっ」

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:30:27.94 ID:HR6DJYoc0


アパッチ「おい! この何とかキャッチャーっての! ホントにこれ中のモン取れるようになってんだろうな!」ガンガン


スンスン「自分の思い通りにならなければ暴れ出す、みっともないったらありはしませんわ」


アパッチ「あァ!? 何か言ったかスンスン!」


ミラ・ローズ「どけ、脳筋のお前じゃコイツを手に入れるのは無理だ。私がやる」


ミラ・ローズ「よく見てろ、こういうのはアタマを使ってだな」ウィーン


ミラ・ローズ「ほらな、後は持ちあげるだけ…」


ミラ・ローズ「あっ」ポロッ


アパッチ「へー、なるほどなるほど」


アパッチ「で? 今のはどこでどうアタマを使ったってんだよ、ミラ・ローズ」


ミラ・ローズ「クソっ! つうか何なんだこのブサイクな面したタヌキ人形は! いちいちヒトの神経を逆撫でしやがる!」ドンッ!



リリネット「ほら」


飛鳥「アレは悪い例だ、見なかったことにしよう」


126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:36:15.34 ID:HR6DJYoc0


―空座町・時計台―


飛鳥「さて、どうだったかな。現世でのひと時は楽しんでもらえたかい? とは言っても殆どゲームセンターに入り浸るだけになってしまったけど」


リリネット「楽しかったよ、あの緑の変なぬいぐるみも取れたし」


リリネット「今度はスタークとも一緒に来れたらいいな」


飛鳥「二頭の白狼は綻ぶことの無い絆の糸で結ばれている。その繋がり、少し羨ましく感じるよ」


リリネット「?」


飛鳥「おっと、何でもない。独り言さ」


飛鳥「少し喉が渇いた。飲み物を買ってくるけど、キミも何か飲むかい?」


リリネット「あたしはいいや、虚夜宮に戻ってからにする」


飛鳥「わかった、それじゃ少しだけ待っててくれるかな」

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:39:01.56 ID:HR6DJYoc0


飛鳥(さて、どれにしようか。久しぶりにブラックコーヒーなんてのもいいかもね)ピッ


飛鳥(リリネットの分も一応… 紅茶にしておこう)ピッ


飛鳥(……)


飛鳥(今日は此処に来てよかった。ここは在るべきセカイの現世ではないけれど、それでもボクが居た日常を思い出せる)


飛鳥(最初は現世を訪れることに対してどうにも気乗りがしなかった。心の奥底で、何か妙な胸騒ぎがしたんだ)


飛鳥(だけど、それも杞憂に終わったらしい。案外ヒトの感覚なんてのはアテにならないのかもしれないね)


飛鳥「っ……」ゴクッ


飛鳥「フフッ、破面になってもこの苦みには慣れないか。まだ少し、黒に溶ける甘味の白砂に頼ることになりそうだ」


「……!!?」


飛鳥「ん?」


「そんな……」


「嘘、でしょ… 本当に会えた…! 本当に… 言ったとおりに……!」

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:40:03.34 ID:HR6DJYoc0








「飛鳥ちゃん……!!」







129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/20(日) 22:40:32.63 ID:HR6DJYoc0
ここまで
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 23:25:32.77 ID:lwddNIPNo
そういえば仮面と孔はどこについてるんだろう
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 23:28:07.38 ID:Y0u5cZDT0
BLEACHはキャラのだった奴が多いから優しい世界でもおもろい
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/21(月) 02:03:05.80 ID:rm2VMpd6O
飛鳥死んでるんじゃないかこれ
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/21(月) 09:19:51.07 ID:z0bzirmZ0
>>130
この飛鳥はエクステが骨っぽくなってるんじゃね
孔は知らないザエルアポロみたいに見えにくいとこにあるのかも
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/21(月) 17:16:17.66 ID:usSW81jZo
今日からデレでダークイルミネイトイベだから色々と来るな
飛鳥死んでるのか?
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:18:32.60 ID:TlA6lgY/0


「飛鳥ぢゃん!!」ダキッ


飛鳥「うわっ!」


「よかっだ、また会えてッ…! うぇぇ… ぐすっ… ひっく……!」


飛鳥「ちょっと待った、キミはいったい…」


「ごべんなざいあずがぢゃん… ごめんなざい……!」


飛鳥「……」


飛鳥「泣かないでくれ。キミが涙を流す姿を、ボクは見たくない」


「うえっ… ううっ……」


飛鳥「……」ナデナデ

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 23:21:08.61 ID:TlA6lgY/0


飛鳥「落ち着いたかい?」


「う゛ん……」ズビッ


飛鳥「最初は人違いか何かだと思ったけど、どうやらキミはボクのことを知っているらしい」


飛鳥「その証拠に、キミはさっき確かにボクの名を呼んだね。“飛鳥”と」


飛鳥「ボクはキミのことを何も知らないのに、どうしてキミがボクのことを知っているのか…」


飛鳥「興味は尽きないが、別段キミのプライヴァシーに踏み込むつもりもない」


飛鳥「ただ一つ、キミの名前を、教えてくれないか」


飛鳥「何故だか、これだけは訊いておかなければいけない気がしてね」


「わ、私は…… 私の名前は……」


蘭子「神崎っ、蘭子…!」


飛鳥「……」


飛鳥「――、――?」


――――
――


137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:24:40.45 ID:TlA6lgY/0



――――!



いつだったか、聴いた憶えがある



――――!!!



この煩わしいノイズを、ボクは知っている



気に――こ―――ない――



これは、ヒトの声か



ボク――――心―――ま―に―――



囀(さえず)り響くのは、祈りか、願いか、叫びか、それとも



泣―――くれ―――な――



…………



―――さようなら、蘭子


138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:29:02.68 ID:TlA6lgY/0


蘭子「飛鳥ちゃん…?」


飛鳥「ああ… すまない、少し眩暈がしてね」


飛鳥「神崎蘭子、と言ったかな」


飛鳥「華やかで、力強く、それでいて凛々しい。それにどこか… 懐かしい響きがするよ」


蘭子「……」


蘭子「そう、だよね… こういうこともあるかもって、言ってたッ…」


飛鳥「ん…?」ポタ…


飛鳥「おや、どうやら雨が降ってきたみたいだ。空はこんなにも綺麗な夕焼けを映しているというのに、不思議なこともあるものだね」


飛鳥「キミも、濡れないうちにこの場を離れたほうがいい」


蘭子「嫌だ…」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 23:32:29.27 ID:TlA6lgY/0


蘭子「嫌だよ、行かないで…」


蘭子「私まだ、飛鳥ちゃんと何も話せてない… 言いたいこと、言えてない…!」


飛鳥「言わなくていいんだ。キミのその想いは、ボクに向けられるべきじゃない」


蘭子「?」


飛鳥「どうしてキミがボクのことを知っているか、理解ったよ」


飛鳥「キミはきっと、“このセカイのボク”を応援してくれている一人。ボクのファンなのだろう」


飛鳥「驚いたよ、まさか御伽話のセカイの現世にも偶像… 二宮飛鳥の軌跡が存在しているなんてね」


飛鳥「だけど、ここにいるボクはキミの知っている二宮飛鳥とは違うんだ」


飛鳥「キミのその想いは“このセカイに在る偶像・二宮飛鳥”に向けられるべきだと思う」

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:35:44.32 ID:TlA6lgY/0


蘭子「違うよ、飛鳥ちゃん」


蘭子「間違えるはずがないよ。あなたは紛れもない、魂を交わした私のともだち…」


飛鳥「雨も、強くなってきた」


飛鳥「悪いけど、ヒトを待たせていてね。ボクはこの辺りで御暇(おいとま)させてもらうよ」


蘭子「っ……」


蘭子「我が盟友(とも)、飛鳥!!」


蘭子「贖罪の咎、巣食う煉獄の炎は未だ双翼を蝕み続ける! 魔王の穿つ楔は最期の私心よ!」


蘭子「禁忌を解き放ち、共に深淵に沈むも一興! 交わる魂と言霊は流るる雫を浄化せん!」


蘭子「日天子堕ちし黄昏の刻! ノルンの宿る聖告の塔にて我が片翼を待つ!」


飛鳥「……」


飛鳥「ごめんよ。キミが何を言っているのか、ボクには理解できないみたいだ」


141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:38:45.61 ID:TlA6lgY/0


―空座町・街路―


アパッチ「くそがッ! ちょっとばかし騒いだだけだってのにどうして私らが追い出されなきゃならねーんだ!」


ミラ・ローズ「テメェがいきなり暴れ出すからだろ。見たトコあのクレーンゲームとかいうのはあの店の商売道具だ、それを蹴り壊したお前が悪い」


アパッチ「はァ!? てめえも散々あの機械ぶん殴っといてなに上から物言ってんだ!」


スンスン「お止めなさいな二人とも。無駄な諍いは控えるようハリベル様からも忠告されたでしょうに」


アパッチ「くっ……」


ドンッ


アパッチ「おっと。オイ、てめえどこ見て歩いて……」


飛鳥「……」


アパッチ「ってこの前の新入りじゃねーか。お前も現世に来てたのかよ」

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:50:54.91 ID:TlA6lgY/0


アパッチ「ちょうどいいや、アタシらそこの店から追い出されちまってよ。代わりに緑のブサイク人形取ってきてほし… むぐっ」


ミラ・ローズ「ちょっと黙ってろ。コイツ、どうも様子がおかしくねえか」


飛鳥「ん……」


飛鳥「ああ、キミたちか…」


飛鳥「すまないが、今は少し気分が悪くてね… 用があるならまたの機会にしてもらえるかい…」


飛鳥「それじゃ……」




アパッチ「何なんだよアイツ、ひっでえツラしてやがったけど…」


アパッチ「あっ、もしかしてアイツもアタシらみたく暴れて店からつまみ出されてたりしてな」


アパッチ「それでもあんなに気落ちすることはねえだろうによ。そうは思わねえかお前ら」


ミラ・ローズ「アホ」


アパッチ「は?」


スンスン「アホですわね」


アパッチ「は?」


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/27(日) 23:59:33.71 ID:TlA6lgY/0


―空座町・時計台―


リリネット「アスカ、おっそいなあ… いつになったら戻ってくるんだろ」


飛鳥「……」


リリネット「あっ! 来た! ドコほっつき歩いてたんだよ!」


飛鳥「ん… 飲み物を売っている場所を中々見つけられなくてね、少し待たせてしまったかな」


リリネット「少しどころじゃないってば! あれからどんだけ時間が経ったと思って… あれ、アンタなんか元気なくない?」


飛鳥「元気がない、か」


飛鳥「フフッ、平易で簡便な言い回しだが、今のボクを表わすにはその至極飾り気のない言葉が最も適しているのかもしれないね」


飛鳥「この言い表しようのない心の疼きは、さっきの俄雨(にわかあめ)に打たれたから、かな」


飛鳥「いつもはボクの全てを洗い流してくれるハズの冷たい雨が、今日は己の身を焼き焦がすかのように、熱かった」


リリネット「雨……?」


飛鳥「キミを長らく待たせてしまったことについては、いずれこの身をもって償わせてもらうよ」


飛鳥「もう、日も暮れる」


飛鳥「帰ろうか。ボクたちの虚圏へ」


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 00:00:02.99 ID:D/PDcKZJ0
ここまで
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 00:52:54.99 ID:7cWOgmn8O
おつ
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 22:58:27.69 ID:JElUEOLPO
身体能力
ルックス
ボイス
美的感覚
そして何より自分磨きを欠かさない圧倒的向上心
シャルロッテこそがトップアイドルにふさわしいのでは?
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 02:12:29.85 ID:FNdCO7h3O
>>146
> 美的感覚
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 12:37:44.48 ID:X09gdjEOO
破面は魅力的なキャラ多いからすき
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/16(土) 12:55:35.52 ID:FwrLjnDMO
うんちまだ?
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/19(火) 12:27:39.20 ID:CSNG+FbOO
ブレソルの破面イベント見てると割と本気でラスノーチェスは優しい世界なんじゃないかと錯覚しそう
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/07(土) 22:57:29.91 ID:TxEJ9mUn0


休暇2日目 第2十刃の宮


飛鳥「神崎蘭子、か」


飛鳥「あの少女はボクのことを知っていた。それも、偶像・二宮飛鳥ではない、恐らく“ボク自身”のことを」


飛鳥「ボクは、あの少女にとって一体どんな存在だったのだろうか」


飛鳥「涙を流し抱擁を交わすほどにまで、一体なにが彼女をそこまで駆り立てたのだろうか」


飛鳥「いつも気付くのが遅いんだ。あの時もっと彼女の話に耳を傾けるべきだった」


飛鳥「去り際に叫んでいた不可思議な言語の数々も、ボクには到底理解できそうもない」


飛鳥「これで彼女への手掛かりは完全に潰えてしまったというワケだ。後悔先に立たず、ってヤツだね」


飛鳥「フフッ、この通り今のボクは少々ナーバスでセンチメンタルなのさ。不意に、こういう俗な感情に浸りたくなる時がある」


飛鳥「キミにも理解るだろう? アビラマ」


アビラマ「さっぱりわからん」

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 00:05:39.74 ID:JzQ6XQL9o
来たか
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:34:56.38 ID:AvFp24UZ0


アビラマ「で、その独り言を聞かせるためにわざわざ俺を呼び止めたのかよ」


飛鳥「そう睨まないでくれ。今の話は単なる序曲のようなものさ、これから始まる物語のね」


飛鳥「結論から言わせてもらうと、折り入ってキミに頼みたいことがある」


アビラマ「まさかそのカンザキとかいう人間を探してくれ、って言うんじゃねえだろうな」


飛鳥「む、その通りだけど… よく理解ったね」


アビラマ「お前の遠回しな物言いにもだいぶ慣れてきたからな」


飛鳥「フッ、それで、引き受けてくれるかい? ああ、もちろんキミだけじゃなくてボクも含めた二人体制で彼女を探すことになるけど」


アビラマ「そうだな、明日の宮内清掃係を俺と代わってくれるなら考えてやってもいいぜ」


飛鳥「交換条件というワケだね。承知したよ」


154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:38:14.84 ID:AvFp24UZ0


―現世・空座町―


アビラマ「現世に来たはいいが、居所も分からねえ人間をどうやって探しゃいいんだか」


飛鳥「手掛かりがない以上、町全体をしらみつぶしに当たってみるしかないだろうね」


アビラマ「デタラメに町中探し回ってちゃどれだけ時間があっても足りねえだろう。義骸に入った状態じゃ身体能力も人間にケが生えた程度だしよ」


ゾマリ「何やらお困りのようですね」ヌッ


アビラマ「うおっ!」


飛鳥「第7十刃のゾマリ・ルルー、だね。休暇を貰ったのは従属官だけだと聞いたけど、どうしてキミが現世に?」


ゾマリ「貴方たち従属官が現世で不要な騒ぎを起こさぬよう、藍染様より監視の任務を仰せつかったのです」


ゾマリ「昨日はハリベルの従属官三名が市街地で乱闘騒ぎを起こし、この町の警ら隊までもが出動する始末… 全く嘆かわしいものです」


アビラマ「あそこの三馬鹿は口も汚ねえ上にすぐ手が出やがるからな」


ゾマリ「貴方も他者のことをとやかく言える立場ではない筈ですよ。アビラマ・レッダー」


アビラマ「うっ」

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:40:34.21 ID:AvFp24UZ0


飛鳥「何かあったのかい?」


アビラマ「いや大したことじゃねえんだが、昨日この辺で木刀持ったツルッパゲと言い争いになってよ」


アビラマ「肩がぶつかっただの何だの喧しくて一歩も引きやしねえから軽く小突いてやったんだよ」


ゾマリ「おや、証言はもう少し正確に頼みたいものです。殴打の応酬を小突くとは言いませんよ」


アビラマ「ちっ、どこから見てたんだよ…」


アビラマ「まあ何だ、そいつがまた人間にしてはなかなか戦いのセンスがよくてよ。死神や破面と戦ってるみたいでついムキになっちまってな」


ゾマリ「人間相手に我を忘れるなど言語道断です。感情の自制も出来ないようでは破面としての格もその程度が知れるものです」


アビラマ「ぐうっ…」

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:42:56.54 ID:AvFp24UZ0


アビラマ「だ、大体何なんだお前のそのカッコはよ。変な帽子にダボついた装束、ジャラジャラと無駄な装飾もぶら下げやがって。とても任務中とは思えねえぜ」


飛鳥「ものすごく強引に話を逸らしたね」


アビラマ「うるせえ」


飛鳥「でも、言われてみれば破面がいつも身に付ける白装束とは大きくかけ離れているね。現世で言うヒップホップ系の衣装、と表現すればいいのかな」


ゾマリ「現世の文化に慣れない貴方たちが私の身なりに違和感を覚えるのも当然と言えば当然」


ゾマリ「何故私がこのように奇怪な格好をしているのか、その解を示す前にこちらから一つ質問をさせてもらいましょう」


アビラマ(変な格好だって自覚はあるのか…)


ゾマリ「休暇と同時に貴方たちへ支給された現世の通貨、いったい誰がどうやって調達したのか疑問に感じたことはありませんか」


ゾマリ「そう、貴方たちが現世にて使用する遊興費を調達しているのは他でもないこの私。いや、正確には“調達していた”と言うべきでしょうか」

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:45:49.15 ID:AvFp24UZ0


ゾマリ「今より少し前、私は藍染様より三つの任務を与えられました」


ゾマリ「一つ、『一斉休暇の通告時期までに現世の通貨を一定量収集すること』」


ゾマリ「二つ、『二日間の休暇中に従属官が不要な騒ぎを起こさぬよう監視を怠らないこと』」


ゾマリ「三つ、『万が一従属官が問題を起こした際には速やかにそれを制圧すること』」


ゾマリ「二つ目と三つ目の任務は現在も遂行中ですが、真に厄介だったのは一つ目の任務です」


ゾマリ「いくら私が十刃といえど、この慣れぬ指令には四苦八苦しました。最初は日夜路地裏でビートとラップを刻み日銭を稼ぐ日々」


ゾマリ「人間如きに施しを媚びるなどという辛酸を舐めるにも等しい屈辱を味わわされましたよ」


ゾマリ「しかしそれも済んだこと、今ではその界隈で私の名を知らぬ者はいません」


ゾマリ「もはや私の一声で数万数十万の民衆が一堂に会するのです。資金の調達程度ならば半刻もあれば御釣りがきます」


飛鳥「……」


アビラマ「……」


ゾマリ「ほう、その疑念とも困惑ともとれる視線。私の言葉を信用、もしくは理解していない眼ですね。全く驕りが過ぎる」

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/10(火) 19:49:30.73 ID:AvFp24UZ0


ゾマリ「唄い、躍り、それそのものを力に変え民衆へと愛を振りまく。そういった存在がこの現世には複数存在している」


ゾマリ「それは貴女もよくご存じの筈です、二宮飛鳥」


飛鳥「……!」


ゾマリ「そう、今や私は現世における“偶像(アイドル)”の一人。人間に愛と力を与える使者といったところでしょうか。破面には似つかわしくないものですがね」


飛鳥「待ってくれ。いったいキミは何を言っているんだ」


ゾマリ「それは私の境遇についての問いですか。それとも貴女自身の境遇についての問いですか」


ゾマリ「どちらにせよ、どうやら貴女は私の想像以上に自らの置かれた立場というものを理解しておられない」


ゾマリ「貴女は知っている筈ですよ。自らのことも、偶像・神崎蘭子のことも」


飛鳥「!?」


ゾマリ「因果とは、かくも奇妙なものです。悲劇に見舞われ現世を去った偶像、その魂は今、生前と姿を共にし――」


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