【ミリマス】可奈「私の夢が始まった場所」

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1 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:00:17.71 ID:OXNr9JoL0

「志保ちゃんと〜、お出かけ〜♪ 一日いっしょ〜、嬉しいな〜♪」

 今日は久しぶりに学校もお仕事もお休みの日。
 だから志保ちゃんとお出かけ!

「相変わらずご機嫌ね、可奈」

「可奈は〜、ご機嫌〜♪ 志保ちゃんも〜、ご機嫌〜?」

「……ま、悪い気分ではないけど」

 えへへ、私、知ってるよ。
 こういう時の志保ちゃんの「悪くない」は「すごくいい」だってこと!

「志保ちゃん、楽しいねー!」

「まったく、まだお店にもついてないわよ?」

「志保ちゃんといっしょ〜♪ それだけで楽しい〜♪」

 ねー、と志保ちゃんの方を見てみると、ふいっと顔を逸らされてしまいました。
 照れてるんだー、かわいいー!
 何だかもっと楽しくなって、自然と鼻歌が出てきちゃいます。
 ふっふふ〜ん♪

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2 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:05:19.18 ID:OXNr9JoL0

「……可奈は本当に歌が好きなのね」

「うん! いつか、千早さんみたいな歌姫になるんだ〜♪」

「ふ〜ん、千早さん、か」

 あ、志保ちゃんが何か悪い顔してる!

「可奈にはまだまだ遠い道のりね」

 ぶー。
 分かってるも〜ん。

「ふふ、私の方が歌うの上手だし、可奈じゃなくて私が歌姫になったりしてね」

「志保ちゃんが?」

「なんて、冗だ……」

「すごいすごーい! そしたら二人で歌姫コンビだねっ! ら〜ら〜♪ 私と志保ちゃんで〜♪ 歌姫コンビ〜♪」

 いいないいな、それってすっごくいい感じ!

「……自分が歌姫になるのは決まってるのね。どこからその自信が出てくるんだか」

「えへへ〜」

 呆れたように言う志保ちゃん。
 でも志保ちゃんソムリエ矢吹可奈からすると、ちょっと楽しそうなのがバレバレです。

「あっ、そうだ! ねーねー、志保ちゃん、ちょっと寄り道してもいーい?」

「別にいいけど、どうかしたの?」

「一緒に行きたいところがあるの!」

「行きたいところ?」

「うん」

 志保ちゃんとお話してて、行きたくなっちゃった。

「私の夢が、始まった場所!」


3 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:10:08.08 ID:OXNr9JoL0


  ――――――――
  ――――――――


4 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:10:34.26 ID:OXNr9JoL0


 私は、昔、歌うことがあまり好きではありませんでした。

 って言うと、みんなびっくりしちゃうかな?
 もっともっと前、小学校に上がる前くらいの時は好きだったんだけど、それから時間が経つにつれてどんどん好きじゃなくなっていったんです。

 歌自体は、小さい頃からずっと好き。
 特にみんなを元気にするアイドルの歌。

 でも、自分の歌が上手じゃないってことに気づいて、周りからも指摘されるようになって。
 私は、歌うことが怖くなりました。
 音痴、と言われるのが嫌で。
 下手くそ、と馬鹿にされるのが辛くて。


 音楽の授業が嫌いでした。
 歌ったら男の子たちに何か言われるし、歌わなくても何か言われるし。
 ピアニカやリコーダーは上手に弾けたけど、それでまた「音痴のくせに」ってからかわれるんです。
 先生がその度に叱ってくれても、しばらく経てば元通り。

 今思えば、多分、男の子たちもそんなに悪気があったわけじゃなくて、普段から仲良くしてた私に対するちょっとしたイタズラのつもりだったんじゃないかな。
 ほら、私だって、かけっこや鬼ごっこの時、その子たちに「おそいよおそいよー」とか言ってたしね。


 だけど、その時の私にはそんなこと分からなくて、からかわれる度に私は自分の歌が嫌いになっていきました。
 テレビで見るアイドルの人たちは、あんなに楽しそうに、あんなに上手に歌ってるのに、どうして私はできないんだろう。
 練習すれば上手くなるのかな。
 でも、下手な歌をこれ以上歌いたくない。
 なんて、思ってました。
 上手になるためには、諦めずに何度も歌うしかないって本当は分かってたのに。

5 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:15:08.03 ID:OXNr9JoL0


 ♪


6 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:15:46.74 ID:OXNr9JoL0


 この公園に立ち寄った日のことは、今でもよく覚えています。
 中学生になってすぐ、まだ着慣れない制服で、真新しい鞄を膝の上に抱え、私は一人でベンチに座っていました。
 一緒に部活を見に行こう、って言ってくれる新しくできた友達がいたんだけど、その日はちょっとそんな気分になれなくて。
 学校からの帰り道、そのまま家に帰るのも何だかイヤで、ふと、公園に入ってみたのでした。
 ベンチに座る私の手の中には、
『みんなで楽しく歌おう♪』
 そんな、手作りの温かみを感じる、
『合唱部へようこそ♪』
 一枚のチラシがあって。


 歌が好き。
 特にみんなを元気にするアイドルの歌。
 でも私は歌が下手だから、歌っちゃいけないんだ。
 合唱部、楽しそう。
 チラシをくれた先輩、優しそうだったな。
 でも私なんか、歌っても迷惑になっちゃう。
 歌いたい。
 歌いたくない。
 でも、歌いたい。
 でも、歌いたくない。

 頭がごちゃごちゃとしていて、考えがまとまらなくて。
 でも、でも、と「でも」ばかりがたくさん重なって。

 そんな時でした。

7 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:22:36.82 ID:OXNr9JoL0


 ――泣くことはたやすいけれど――

 ――悲しみには流されない――



 それは

 今まで聴いたことのない

 とても、美しい歌声でした。

 そして、どこか、寂しさを感じる歌声でした。



 ――恋したこと この別れさえ――

 ――選んだのは 自分だから――



 ぐるぐるしてた私の頭の中を、すっと一本の矢が通ったような感覚。
 自然と、私は座っていたベンチから立ち上がり、声の持ち主を探していました。
 さっきまで自分が何を考えていたのかも、忘れて。



 ――群れを離れた鳥のように――



 少し離れた所でしょうか。
 ベンチから見渡せる範囲には、歌っている人は見当たりません。
 ふらりふらり、声のする方へ。


8 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 20:24:08.76 ID:OXNr9JoL0


 ――明日の行き先など知らない――



 公園の奥、小さな噴水のあるスペース。
 だんだんと近づいているのが分かります。



 ――だけど傷ついて 血を流したって――



 多分、ううん、間違いない。
 あの噴水の、向こう側。



 ――いつも心のまま――



 タイミングよく、噴水の勢いが弱くなっていきます。
 その先にいる誰かの姿が、少しずつ。




 ――ただ羽ばたくよ――



 きっと、私は、その時の光景を一生忘れないでしょう。

 水しぶきの向こう、
 夕焼けに照らされた、



 ――蒼い鳥――



 今も追いかけ続ける、歌姫の姿を。


9 : ◆0NR3cF8wDM [sage saga]:2017/06/28(水) 20:27:47.28 ID:OXNr9JoL0
すいません、続きは一時間後ぐらいに
10 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2017/06/28(水) 21:11:57.24 ID:EIbcSHz80
心の歌姫だったね、そういえば
http://i.imgur.com/Vgg2oaU.png
ミリオンBCでも昔の可奈書かれてたけどこんな感じで影響あったりするのかな
http://i.imgur.com/A5C34W2.jpg
一旦乙です

>>1
矢吹可奈(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/IQSuwTU.jpg
http://i.imgur.com/R0w6Puf.jpg

北沢志保(14) Vi/Fa
http://i.imgur.com/U4JIWmU.jpg
http://i.imgur.com/TlZ28eO.jpg
11 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:33:34.10 ID:OXNr9JoL0


 ♪


12 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:34:09.31 ID:OXNr9JoL0


 みんなには内緒の楽しみができました。
 水曜は公園の歌の日!
 奥の噴水近くのベンチに座って、届いてくる歌にゆっくり聴き入ります。
 こんなに素敵な歌声、友達のみんなに教えてあげたいって気持ちもあったんだけど。
 でも、大人数でおしかけて、歌っている人の邪魔をしちゃいけないなって思ったんです。
 私自身、静かに聴いていたいって思ってたしね。


 歌われる歌はその日によって違ったけど、女性歌手のバラード系がほとんどだったかな。
 そんな中、私の一番のお気に入りは、初めての時に聴こえてきたあの歌でした。
 他のものと違ってそれだけは聴いたことの無い曲だったから、もしかしてあの人の自作なのかな、ってどうしてか聴いてる私がドキドキしたりして。(自作ではないって、後で分かったんだけど)


 週に一度開かれる秘密のコンサート。
 とても美しく、力強く、でもちょっと寂しい歌声。
 それは、普通の毎日の中で、私にとってのちょっとした「特別」でした。
 私の座るベンチはいつも同じ。噴水のこっち側、初めての時からずっと一緒。
 向こう側に回ればその人の歌をもっと近くで聴けるし、その人のことももっとちゃんと見れるんだけど、こういうの何ていうんだっけ、おそれおおい? そんな感じで、あまり近づくことはできませんでした。

 だからなのかな、噴水が弱まる時、少しだけその人の姿が見える瞬間が大好きでした。
 歌声をバックに、まるで映画のワンシーンを観てるみたい!
 でも、そうやって私が見ていることがその人に分かっちゃったら恥ずかしいから、碌に読みもしない大きめの本で顔を隠して、横目でちらちらっとそちらを見るのが精一杯だったな。

13 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:38:22.33 ID:OXNr9JoL0


 最初は私だけだった秘密のコンサートも、少しずつ、本当に少しずつ聴きにくる人が増えていきます。
 私と同じ年くらいの子はもちろん、スーツ姿のサラリーマンっぽい人、スーパーの買い物袋を持ったお母さんっぽい女の人、仲の良さそうなおじいちゃんおばあちゃんのご夫婦、色々な人が私と同じように週に一度の歌声を楽しみにしていたみたいです。

 幸いというべきだったのかな、うるさくする人や、歌っている人に無理に話しかけようとするような人はいなくて、みんな穏やかにそれぞれの時間を過ごしていました。
 元々、同じ歌声に惹かれた者同士です。
 いつからか顔を見れば小さく挨拶を交わすようになって、会話はあまり無かったけれど、仲間意識みたいなものを私は感じていました。

 年齢も立場もバラバラな人たちが、一人の歌でこうやって繋がっている。
 それは、とても不思議な感覚で。
 でも、とても素敵なことだったに違いありません。


14 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:39:51.65 ID:OXNr9JoL0


 ♪


15 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:42:43.96 ID:OXNr9JoL0


 変化に気づいたのは、いつだったっけ。
 明るい歌が増えたのが分かって、前と同じ歌を聴いても寂しさみたいなものをあまり感じなくなって。
 それまでは、どちらかといえば、俯いたり目を瞑ったりして静かに歌に身を任せる人が多かったんだけど、だんだん、顔を上げて身体でリズムを取りながら歌を楽しむ人も増えてきました。
 私もそう。
 左足と左手が自然とリズムを刻むようになって、意識せず口から歌が漏れそうになっていました。
 その度に慌てて口元を押さえていたから、周りからはどう見えていたのか、あまり考えたくないな。

16 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:46:41.00 ID:OXNr9JoL0

 私にとって大きな事件が起こったのは、そんな頃のことでした。
 合唱コンクール。
 どこの学校でもあるのかな? クラスで歌を歌って、一番を決めるっていう行事。
 誰かにとっては何でもないイベントで、誰かにとってはすごく楽しみなイベントで、誰かにとっては面倒なイベントで。
 私、矢吹可奈にとっては、逃げ出したくなるくらいイヤなイベントでした。
 私の学校は合唱コンクールに割と力を入れているみたいで、特にうちのクラスは合唱部や吹奏楽部などの所属の子が多かったこともあって、クラス全体でかなり真面目に練習計画を立てていました。

 がんばろうね、という友達の言葉が、あの時は、本当に苦しかったんだ。


 練習が始まりました。
 音楽の時間だけじゃなく、朝や昼休み、放課後にも予定は組まれていました。ある程度は自由参加っていう形だったけどね。
 最初は何とか誤魔化せていました。小さな声で歌ったり、もっと酷い時は口パクだったり。
 だけど、練習を重ねると少しずつみんなに要求されるものが増えていって、個々人の指導にまで手が入ってしまうと。
 もう、逃げられません。

 ある日の昼休みの練習でした。

「ちゃんと歌って」
「真面目にやって」
「もう一回」
「音取れないの?」
「よく聞いて」
「……」
「……家で練習してきてね」

 教えてくれる子はもちろん悪気なんて無かっただろうし、小学校の時のように笑ったりする子もいませんでした。
 だけど、どんどん静かになって行く周りの様子が、私には、どうしようもなく辛かった。
 ごめんなさい、って言うのが精一杯で、ずっと俯いて時間が過ぎるのを待っていました。

17 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:50:49.12 ID:OXNr9JoL0


 放課後。
 誰かに声をかけられる前に教室を飛び出した私は、気がつけば、いつもの公園、いつものベンチに向かっていました。
 その日はいつもの歌の日ではなかったけど、ここ数ヶ月間、私にとって一人になる時間というのは、ほとんどがその場所でのことだったから。
 ベンチに座って、俯いて、もしかしたら私は泣いていたのかもしれません。

 どうして、どうして。
 みんなは上手に歌えるのに。
 私は歌えないの?
 こんなに歌が好きなのに。

 好きでいちゃいけないの?


 誰か教えて。
 誰か助けて。
 誰か、誰か――

18 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:55:21.85 ID:OXNr9JoL0




「……あの、」





 その声を、今でもよく覚えています。





「……大丈夫ですか?」


 だってそれは、いつもこの場所で聴いていた声で。


「……どこか、痛いですか?」


 私を心配してくれる声で。


「……なにか、力になれますか?」


 私の夢を救ってくれた声だったから。


19 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:56:24.84 ID:OXNr9JoL0


 ♪


20 : ◆0NR3cF8wDM [saga]:2017/06/28(水) 21:59:11.95 ID:OXNr9JoL0


「いつも、このベンチで私の歌を聴いてくれていますよね?」

 如月千早さん、っていうんだって。

「年下の女の子が私の歌を聴きに来てくれている、それがすごく嬉しかったんです」

 憧れていた歌姫に声をかけてもらって、ごちゃごちゃだった頭の中は真っ白になっていました。
 緊張で自分の名前を言うのも上手くいかないぐらい。
 でも、悲しい気持ちは、小さくなったかも。

「……今日は何かあったんですか?」

 恥ずかしい気持ちや、情けない気持ちもありました。
 憧れの人に自分の惨めな所を見せたくない、聞かれたくない、って。

「言いたくないことなら、いいんです。でも、誰かに話すことで楽になることもあるから」

 でも、それ以上に、目の前で私のことを心配して、話を聞こうとしてくれている千早さんの優しさに、我慢ができなくなって。
 私は、これまで誰にも話したことのない、色々なことを話すのでした。

 歌が好き。
 特にみんなを元気にするアイドルの歌。
 でも歌うのは嫌い。
 上手に歌えないから。
 でも本当は歌いたい。
 私だって、みんなみたいに胸を張って大きな声で歌いたい。
 歌うことは楽しいことだって。
 でも現実は私に優しくないから、私は歌っちゃダメだから。
 歌が好き。
 ……本当に?
 歌えないのに。
 どうして、どうして。
 私は、みんなみたいに、千早さんみたいに、歌えないんだろう。
 歌っちゃいけないんだろう。

 私は、
 歌が好きでいちゃいけないの?


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