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【モバマス】渋谷凛「私の想い、人形の呪い」
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1 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:38:49.87 ID:deNVFBuR0
ホラーです。
そこまで怖くないですが、苦手な方は序盤だけ読めると思います。
最後まで読んでくれればうれしいですが、ホラー無理な方はこちらをどうぞ。
まったりしていて読みやすいと思います。
【モバマス】茜「藍子ちゃんの1日を」未央「体験しよう!」藍子「……え?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498217863/
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1498369129
2 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:39:15.99 ID:deNVFBuR0
『プロデューサー。私、プロデューサーのことが好き』
『……そう、だよね。うん、わかってた』
『プロデューサーが謝ることないよ。悪いのは私の方なんだから』
『……アイドルとプロデューサーなんだもん。恋をしちゃいけない関係だから』
『……恋をしたら、いけなかったんだよ』
3 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:39:41.97 ID:deNVFBuR0
−−−−−−−−−−−
自宅
どうしてこんなに気が重いのだろう。
そんな原因はわかっている。彼に振られたことが楔となって心に突き刺さったままなのだから。
「はぁ……」
振られることはわかっていた。覚悟していたことなのに、それでもショックは大きかった。
「私、何してるんだろ……」
彼女―渋谷凛―は、ベッドの上でクッションを抱いてうつ伏せになっている。
昨日凛はプロデューサーに告白をし、振られたショックが抜けきっていない。
「なんか、楽になりたいなー」
早く割りきって普段通りになりたいと凛は思う。
幸い、今日がオフだったのは助かった。
こんな不安定な精神状態で仕事なんて出来なかったと思うから。
4 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:40:20.39 ID:deNVFBuR0
「……ーん?……りーん?」
突然、階下から母の声が聞こえる。
正直に言えば、返事をすることも面倒なのだが、気力を出して返事をすることにした。
「……なーにー?」
自室のドアが開き、母が顔を出す。
「凛。お母さんね、これから叔母さんのお家に行ってくるから店番お願いしてもいい?」
「……叔母さんの家?……確かこの前叔母さん亡くなったよね?」
「ええ。あの子、一人暮らしだったから、その遺品整理とかがあるのよ」
「ふーん」
今の凛にとっては、母が出かけるのは良いことだが、店番をするのは億劫だった。
「……うん、わかった。行ってらっしゃい」
それでも仕方なく、了承した。
出来るだけ客が来ないことを祈って、最悪二組くらいなら嫌な顔をせず対応できるだろう。
「夜までには戻るから、その間お願いね」
「……うん」
5 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:40:52.15 ID:deNVFBuR0
それから母が一階へ戻っていき、凛もだるい身体を起こして動き出した。
「……ま、ハナコと店番すればいいか。少しは身体動かした方が気も紛れるだろうし」
そのまま一階へ降りて店に顔を出すと、ちょうど母が出ていく所だった。
「それじゃ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」
母の背中を見送って、レジの椅子に腰かける。
店内には誰も客はいないし、人通りもいつもより少なく見える。
少しだけ胸を撫で下ろし、ただ無意味な時間を過ごす。
「……ハナコー。おいでー」
家の中でじっとしているハナコを呼び寄せる。
しばらくしてトテトテとハナコが走ってくる足音が聞こえ、足元に来てから抱き上げた。
「……ハナコは元気だなー。私にもその元気ちょうだいよ」
クゥーン?
珍しく主人の弱気な姿を見たからか、それとも単に鳴いただけなのか、ハナコの様子は少しだけ凛を気遣っているようだった。
「……少しの間だけこんな私だけど、そのうち元気になるだろうから心配しないで」
ワンッ
「ありがと、ハナコ」
6 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:41:44.57 ID:deNVFBuR0
少しだけ、ハナコに元気づけられたのか気力が戻った。
そこでちょうど店のドアが開いて、誰かがやってくる。
「……いらっしゃいませ」
ハナコを足元に下ろして、平静を装って接客をした。
「しぶりーん、元気ー?」
店を訪ねてきたのは客ではなく、アイドル仲間の本田未央だった。
「……なんだ、未央か。どうしたの?」
珍しい来客に驚くのと同時に、面倒な気持ちがあった。
見ず知らずの人なら平静を保てるのに、知り合いなら話は別だろう。
「いやー、なんとなく近くを通ったからねー。確かしぶりんはオフだったなって思い出して」
眩しい笑顔を見せて、未央は無邪気に話しかける。
「そういうこと。冷やかしだったら帰ってください」
ついつい冷たい態度を取ってしまい、すぐに後悔した。
未央は何も悪くないのに当たるなんて最低だ。
「ちょっ。しぶりん冷たいぞー。せっかく未央ちゃんが顔を出したってのにー」
未央は言葉では文句を言いながらも、本気で落ち込む様子はない。
ただの冗談だと思われたのだろう。
7 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:42:20.66 ID:deNVFBuR0
「はいはい。それで今日は何の用?」
冗談だと思われたなら好都合で、依然気持ちは重いままだったが、何とか平静を保つことを努力する。
「……いやー、しぶりんの顔色を窺った方がいいかなーって」
「……どういうこと?」
ドキッとした。
なぜ未央はそんなことを言うのだろうか。
普通なら遊びにきたと言う場面ではないのか。
まだ誰にも話していないのに、未央が知っているはずはないのに。
「………………」
未央から返事は何もない。
それなのに、未央の目がしっかりと凛のことを見ていて、事情を知っていると訴えかけていた。
「……どうして?」
もはや凛は平静を保ってなんかいられない。
声が震えるのを隠すこともできず、ただ未央を見つめることしかできない。
「……今のしぶりんは良く思えないかもしれないけどさ、様子を見てきてくれって頼まれたんだよね」
8 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:42:50.15 ID:deNVFBuR0
誰に?
そんな言葉を投げかけようとしてやめた。
そんなことを頼むのは一人しか該当者がいない。
「…………そっか」
隠すだけ無駄なことなんだろう。
彼の気遣いは憎くて、それでも甘えてしまう。
一人で抱え続けたところでどうしようもないのだから。
「……あのさ、未央。少しだけ私の話を聞いてくれる?」
意を決して未央に話しかけた。
きっと断られることはないとわかっていても、少しだけ勇気のいることだった。
「うん」
彼女を手招きして、レジの裏側に呼び寄せる。
椅子をもうひとつ出して未央に座ってもらう。
「……私、昨日失恋したんだ」
「……そっか」
何から話そうか迷い、言葉を考えてみるが、何も考えずとも自然と言葉は口から漏れていた。
9 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:43:32.25 ID:deNVFBuR0
「頼まれたなら知ってるだろうけどさ、相手はプロデューサーで、キッパリ断られたんだ」
それを聞いて未央はどう思ったのか。彼に頼まれたとき、何を思ったのだろう。
「もちろん私も、アイドルとプロデューサーなんだから付き合うことは出来ないってわかってたんだよ」
告白する以前から何度も思い、その度に立ち止まってきた。
けれど日に日に想いは高まり、それを止めることなんてできなかった。
「わかってたのに、どうしてこんなに辛いんだろうね……」
視界が歪む。
未央の顔すらまともに見ることができず、凛は俯いてしまう。
肩が震え、鼻をすすり、涙が頬を伝う。
凛の足元で、ハナコがそっと寄り添った。
「……つらいよね、しぶりん」
凛の肩に手をおいて、未央が語りかける。
表情は見えなくても本気で心配しているのが伝わってくる。
「アイドルとプロデューサーってだけで、許されないのは私もおかしく思うよ。だってしぶりんはアイドル以前に一人の女の子なんだから」
慰める未央の声を、凛はしっかりと聞いていた。
それと同時に理不尽な気持ちが募り、改めて凛を苛む。
どうすることが最善だったのだろうか。
10 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:44:06.09 ID:deNVFBuR0
「しぶりんもわかってると思うけどさ、プロデューサーは、決してしぶりんのことが嫌いじゃないよ。……それだから尚更辛いってのもあるんだろうけど」
そんなことは凛もわかっている。
だからこそ辛いし、相手のことを100パーセント憎めるのなら、こんなに凛は思い悩まないはずだ。
「でも言うよ?しぶりんはプロデューサーに恋しちゃいけなかったんだよ」
未央の言葉が胸に深く突き刺さる。
「……どう、して?」
「しぶりんがアイドルだから」
知っていた。
そんなことはわかりきっていた。
だからこそ深く胸に突き刺さる。
「ファンを裏切ることになるし、信用も失っちゃう」
「……じゃあ……」
ーアイドルやめたら……
そんな希望にも思える言葉が喉元まで競り上がってきて、けれど必死に飲み込んだ。
「アイドルやめたらオッケーもらえるなんて思っちゃ駄目だよ?」
そんな機微すらお見通しなのか、未央は淡々と告げた。
11 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:44:42.79 ID:deNVFBuR0
「そんなの、誰もが憧れる渋谷凛じゃないからね」
だったら、何が本当の渋谷凛なのか。
今ここで俯いている渋谷凛は何者なのか。
「キッパリと諦めて、普段のしぶりんに戻りなさい!」
残酷な宣告。
けれど事情を知っている人から見れば、当然の言葉でもあった。
「……って、本来は言うべき何だろうけどさ」
張りつめた空気が急に弛緩して、凛は顔をあげた。
あげさせられたと言うべきだろうか。
「別に失恋してもいいじゃん。すぐに立ち直れなくたっていいじゃん」
「……みお?」
未央が何を言いたいのかわからず、ただ名前を呼び掛けた。
「今のしぶりんはアイドルじゃないからさ。15歳の女の子にそんな酷なことは誰も言わないよ」
「……未央、私はアイドルなんだよ?」
思わず、そんな訂正を入れてしまう。
ファンが想像する渋谷凛からかけ離れた姿を見せているからといって、凛は正真正銘アイドルなのだから。
12 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:45:23.88 ID:deNVFBuR0
「うん、しぶりんはアイドルだよ?でも今のしぶりんは違うじゃん」
「……は?」
怒りとも悲しみとも違う感情が凛を襲う。
人を惑わすことが好きな、困惑という感情。
「だってしぶりん、今日オフじゃん」
「………………」
馬鹿らしくて、つい凛は黙ってしまった。
そんなことは気にせず、未央は続ける。
「休みの日までアイドルやることなんてないんだよ。アイドルの渋谷凛が失恋しても、花屋の娘の渋谷凛が悩むことなんてないでしょ?」
何て馬鹿らしい考えなのだろうか。
何て前向きな考えなのだろうか。
そんなこと、凛には考え付くことすらできなかっただろう。
「……ふふっ」
あまりの思考に、凛は笑ってしまう。
もう何年も笑っていなかったように思えるのに、自然と笑みがこぼれた。
13 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:45:54.81 ID:deNVFBuR0
「お?ようやく笑ったね!」
釣られて未央も笑顔になる。
凛にとって眩しい笑顔。
けれど、とても安心させてくれる。
「未央の考えがバカすぎて笑っちゃったよ」
「バカとは何だー!せっかく未央ちゃんが慰めてあげたっていうのに!」
「……はいはい、ありがとね。でも、バカっぽいのは未央の良いところだから」
軽口を叩けるほど気持ちが軽くなったことに凛は気付く。
これも未央のお陰で、しっかりと勇気付けられていた。
「はぁ。これなら慰めなければ良かったよ。珍しく落ち込んでるしぶりんが見れたっていうのに」
「花屋の渋谷凛は落ち込まなくていいって誰かが言ってたからね。落ち込むだけ疲れるだろうし」
いじける未央と、元気な凛。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のような光景だった。
割りきれたわけではない。けれど少しだけ前を向く勇気をもらった。
「しぶりんもパッションしてけば良いんだよ」
「ふふっ、なにそれ。クールに決めるのが私だから」
もう軽口だって言える。
それだけ未央に支えてもらえたと思っている。
14 :
◆Rj0X.392Pk
:2017/06/25(日) 14:46:32.17 ID:deNVFBuR0
「……しぶりんもしぶりんでバカっぽいよね」
「なっ!?私のどこがバカだって言うの!?」
「蒼。足跡。ふーん、あんたがわt……」
今になって思えばどうしてあんなことを言ったのかわからない。
ただ心で感じたことを口にしただけだ。
「…………あのときは若かったんだよ」
「へー……」
ジトッとした目が凛を見つめる。
凛はなんとなく悔しくて、イタズラをしようと思った。
「それに最後のは……。プロデューサー、が……」
「あ、これ地雷だった?」
これは冗談でも酷だろうか。
そんな思いと同時に、それをネタにしてもいいくらいには回復していた。
「プロデューサーに振られたんだ……」
「しぶりーん?」
「……死のうかな」
「しぶりん!?」
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