【ミリマス】ザ・ミリオンオールスターズ! 〜銀河の果てまで届けちゃいM@S〜

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103 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:20:39.42 ID:vWXpS0ty0

「……おかしいわねぇ」

 そしてまた、この鉄則を守る者がここにいる。

 百瀬莉緒、現アイドルヒーローズのナンバー2。ヒーローネームは『ザ・セカンド』
 ……さらにはそんな莉緒と同席している面々も、一癖も二癖もある彼女と同じ"アイドル"だ。

「なーんか妙な雰囲気だけど、アタシらここでお茶してていーの?」

「ミキはお昼寝できるから、まだまだここに居たいなー」

 所恵美と星井美希、二人の少女はそれぞれが好きなことを言って、無人の店内を見回した。

 既にこのレストラン周辺から一般人は避難済み、昼間だと言うのに信じられない程の静けさが包む店内に、
 唯一スピーカーから陽気な音楽が流れるこの雰囲気は一種のホラーとも言えそうだ。

「もう、二人とも呑気ねぇ。あずさちゃんとも連絡が取れなくなってるのに」

 言って、莉緒は自分の携帯から目を上げた。

 あずさちゃんとは、『ザ・ファースト』の名で知られるヒーロー、三浦あずさのことである。
 戦友であり親友である彼女は今、頼れる部下を連れて『豆の木』に出向中だった。

 しかし、そんなあずさに連絡がつかない。
 長年の活動によって培われたヒーローとしての勘が、
 これは由々しき事態であると莉緒に告げていた。

 空になったドリンクバーのグラスを満たしながら、恵美が「でもさー」と肩をすくめる。

「アタシは特別みんなみたいに、何かができるワケじゃないし」

「ミキは、呼ばれるまでは動きたくないし」

「まっ! 薄情さんたちなんだから!」
104 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:22:25.03 ID:vWXpS0ty0

 とはいえ、莉緒も二人を責めているワケでは決してない。

 彼女たちが優秀な駒であるのは事実だが、動かす自分が何も知らない現状で、
 無闇に指示を出すのは返って余計な混乱を招きかねなかった。

 同行していたカメラマンの早坂そらに至っては、「ちょっと辺りを見てきます」と出て行ったきり戻ってこない。

 彼女がまだ戻らぬうちに、無闇にここを動くわけにも行かず……。
 堂々巡りの思考の後に、莉緒は再び各所に連絡を取ろうと試みた。

 先ほどから、もう何度も繰り返した手順である。

「……はぁ〜、やっぱりダメね」

 もはや何らかのトラブルが起きているのは火を見るよりも明らかだ
 ……問題は、その原因が何なのかという一点。


「おっとぉ!?」

 そんな時、店が強い揺れに襲われた。

 恵美の操作していたドリンクバーの機械が暴れ、
 グラスからジュースがこぼれ落ちる。

「あー、もったいな」恵美の口から悲痛な叫び。

 しかし揺れは収まらず、今度はテーブルの上のメニュー立てがカタカタと揺れて床に落ちた。
 さらには爆発音のような、くぐもった残響まで聞こえ出す。

「……なに、かな?」

 美希がテーブルに頬をつけたまま、ひび割れた窓の外へと視線をやった。
 ほんの数時間前にモグランゾーが通り過ぎ、落ちて来た高架道路が突き刺さる外へとだ。

 ……その時、道路の影で何かが動いた。
105 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:23:33.87 ID:vWXpS0ty0

「あれ、もしかして……っ!」

 莉緒がガタリと立ち上がる。

 次の瞬間、壁のように転がっていた道路が派手に吹き飛び、衝撃と破片は店内の三人をも襲い

 ……遅れて耳をつんざくような音と熱。

 もうもうと舞う砂塵が収まると、莉緒の張ったキネティック・シールド越し、
 すっかり風通しの良くなった窓から外の景色を眺めた美希が「まったく、麗花はいつも乱暴なの」と呆れたように呟いた。

「よーやく見つけた、三人とも!」

 戦車のハッチから顔を出し、麗花が笑顔で指をさす。
 ……そう! 三人の前に突如現れたのは、彼女の乗った戦車だったのだ。

「もう! 麗花ちゃんってば過激すぎ!」

 そしてまた、莉緒に叱られ「ふふっ、ごめんなさーい♪」と謝る麗花の下では、
 操縦を任されていた隊長が――あの、雪歩のファンの隊長だ――「この人はもう二度と乗せるまい」なんて誓いを胸に立てていた。
106 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:25:31.23 ID:vWXpS0ty0
===

 何事にも限界という物はある。体力然り、集中然り。

 もしもその二つが同時に途切れてしまうとどうなるか? 
 それは我らが天使がその身をもって示してくれた。

「っ!? エレナちゃん!」

 可憐の叫びが虚しく空に響き渡る。その危険を知らせる声は確かにエレナの耳に届いたが、
 それでも彼女は「どうにもできないナ」と一人苦笑した。

 そもそもの敗因は消耗だ。一人、戦いの矢面に立ち続けていたエレナの消費は普段の倍以上に激しく、
 とうとうモグランゾーの巨大な平手が、一瞬の隙をついて彼女の体を捉えたのだ。

 咄嗟に腕で受け止めるが、空中から地面へと、勢いよく叩き落とされるエレナ。

 モグラ獣の口から発せられるあの不快極まる鳴き声が、
 まるで「やったぞ!」と言わんばかりに打ち震える。

「えっ? あっ……!?」

 さらには、可憐も失態を犯していた。

 眼前で仲間がやられたことによる動揺で乱された精神では、
 自慢のサイキックパワーも安定しない。

 一瞬の気の緩みがそのまま髪の緩みにも繋がって、
 つかの間の自由を手に入れたモグランゾーは彼女の髪を掴むとそのまま勢いよく引っ張った。

 悲鳴と共に、可憐の体が宙に舞う。まるで紐の先に結んだ石ころのように振り回されて、
 あわや地面に叩きつけられようかというその刹那!

「『キネティック』ッ!」

 ザンと空気を震わす音がして、可憐の体が軽くなる。
 次いでふわりとした浮翌遊感と、耳元で囁かれる優しい声。

「間一髪、危なかったわね」

 腕に抱き留めた可憐を見下ろして、莉緒がパチリとウィンクを決めた。

「り、莉緒さん!」「話は後、とりあえずは退却しましょ!」

 そのまま地面に着地すると、莉緒は可憐を抱いたまま千早たちのいる方へと走り出す。
107 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:26:12.94 ID:vWXpS0ty0

「待って、待って下さい! まだあそこにはエレナちゃんが!」

 そう、そうだ。まだモグランゾーの足元には、エレナが居るハズなのである。
 仲間を心配して青ざめる可憐に、しかし莉緒は「大丈夫よ」と応えると。

「既に助けに行ってるわ。ウチで一番の世話焼きさんが」

 視線を向ける莉緒の横顔は、抱き留められた可憐が思わず言葉を失うほどに凛々しく、頼りがいのある物だった。
108 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:27:43.21 ID:vWXpS0ty0
===

 ご存知、キネティック・パワーを操る百瀬莉緒。

 そして一日の大半を寝て過ごし、寝れば寝るだけ寝だめして、
 有事には何日も徹夜を続けることができるサバイバル&ゲリラ戦の申し子である星井美希。

 二人が戦闘特化の"アイドル"ならば、さしずめ恵美はサポート担当。

「って、ヤバいじゃん!?」

 麗花の乗って来た戦車に同乗、戦いの現場にやって来た恵美は、
 親友のピンチを目の当たりにして思わず叫ぶ。

「きゃあああっ!!」

 聞き間違えるハズもないエレナの悲鳴に、恵美は自身の持つ能力を使うことを躊躇うことなどしなかった。

 頭の中にイメージを浮かべ、『会いたい』とただそう願うだけ。
 次の瞬間、彼女は落ちて来るエレナの真下に居た。……テレポーテーション。可憐と同じ、サイキック。

「あ、痛った〜!」

 とはいえ、恵美自身の身体能力は並みの"アイドル"レベルである。
 エレナを受け止めた衝撃で、思わず地面に片膝をつく。

「う、ん……メグミ……?」

「怪我は無いかい、お姫様……にゃーんて♪」

 驚き、次には安心したようにグッタリと。腕の中で気を失ったエレナの頭を「お疲れさま」とそっと撫で、
 恵美は周囲に目を向けた。悲鳴と共に投げ出される可憐、それをギリギリで助ける莉緒。

「さすがはヒーロー、かっくい〜」

「そっちも上手く行ったようね」

 長きに渡った膠着も解け、事態は否応なしに進展する。

 莉緒と恵美、合流した二人が目指すその先では、戦車から降りた美希が千早たちに決断を迫っていた。
109 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:29:08.80 ID:vWXpS0ty0

「千早さんたちはヒテーするけど、今更だってミキは思うな」

 現場について開口一番。美希が口にしたのは「倒しちゃおうよ」という一言。

「ほっとけば街はドンドン壊れちゃうし、だったらココで終わりにするの」

 麗花がくれた鮭おむすびをパクつきながら、彼女はサラリと言ってのけた。

「足を狙って、蹴倒して。そのまま地面の下まで戻しちゃえば?」

「蹴倒すって美希……。アナタね、無理やりそんなことをすれば、地上にどれだけ被害が出るか」

「それに地底に帰す方法は? まさかとは思いますが、この場に穴を掘るんですか?」

 事態を余りに楽観視しているような美希の発言に、千早と瑞希が難色を示す。

「この下には無傷の地下鉄や……。それからシェルターもあったハズですよ〜」

 二人に同意するように、朋花も気乗りしない様子で言った。
 けれども美希は、そんな三人の態度に「もぉ〜!」とあからさまな不満を顔に出して叫ぶ。

「だから、今更だって言ってるのに!」

 美希は物事を単純化して考える。モグランゾーと話ができないのなら話さない。火器が効かないのなら使わない。

 このままイタズラに被害範囲を広げてしまうぐらいなら、
 今この一帯を塵に帰そうとも、他の地域だけは守る……。そういう考え方をする。

 ゆえに彼女は提案したのだ。『この場所にデッカイ穴を掘り、地底深くに落としちゃえ』と。
110 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:30:50.50 ID:vWXpS0ty0

 だが、そうは問屋が卸さない。

 美希の提案は確かに効率的ではあるものの、その後の処理……。
 要は沈静化した後の復旧だとか、世論の非難であるだとか、そう言ったことまでは配慮していない。

 その点が千早たち三人に二の足を踏ませるのだ。

 ……しかし我々は知っている。物事の解決に向けて考えたその結果として、
 ともすれば楽観的とも取られかねない発言をする美希とも違う本来の意味での楽天家。

「それいいね! 美希ちゃんってばナイスアイディアだよ!」

 そう! 北上麗花がこの場に居ることを!

「な、なにを言ってるんですか麗花さん!」

「話、聞いていましたよね〜?」

「……流石はライバル、手ごわいぞ」

 今すぐにでも行動を起こそうと、うずうずしだした麗花を慌てて千早たちが止める。

 ……が、それでも彼女は聞く耳など持っていない。

「それで、どうやって転ばすの? 紐か何かで、バターンって引っ掛けるのかな?」

「あ、そっか。転ばす道具がいるんだよね」

 嬉々として作戦内容を詰め始めた二人を見て、千早が「くっ!」と天を仰いだ。

 ……ああ、律子やプロデューサー、そして事務員二人の負担がまた増える! 

 思うところは同じなようで、瑞希と朋花も半ば諦めてしまったようにそれぞれがため息をつきながら、
 早々に「仕方ないですねぇ」と言ったオーラを放っている。
111 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:32:00.50 ID:vWXpS0ty0

「紐ならあるわよ。……用意するのに、少し時間がかかるけど」

 そしてまた、賛同する者がもう一人……莉緒だ。彼女は話に加わると、
 助けたばかりの可憐をニヤリと見ながらこう続ける。

「彼女の髪を使いましょう。恐らくは、地球上でもっとも強靭な紐が出来上がるわ」

 ――冗談ではない! 可憐の顔が引きつり青くなった。

 自分は既にモグランゾーから助け出される際に、大量の髪の毛を失っているのだ。

 ざっくばらんと不揃いな長さになってしまった頭髪を押さえ、
 彼女は千早たちに助けを求める視線を向ける。

「髪の毛の再生にかかる時間は、どのくらいでしたっけ?」

「確か……二、三分だったかと〜」

「三十分ほど稼げれば、十分な量が揃いますかね。……編み込む手間を考えて、一時間は欲しいな」

「み、み、皆さん揃って……薄情です〜っ!」

 しかし、アイドルの活動にこの程度のリスクは付き物だとこの場にいる全員が知っている。
 眠るエレナを背中におんぶした恵美が、励ますように無言で可憐の肩に手を置いた……。
112 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:33:52.48 ID:vWXpS0ty0
===

 サイキッカー・可憐の持つ超能力は、自身の髪を自由自在に
 ――それこそ長さから強度に至るまで――華麗に操ることである。

 彼女がこの才能に目覚めたきっかけが、その恥ずかしがり屋で臆病な性格にあると説明すると、
 幾人かの方には「ああ、どうりで」と納得してもらえるかもしれない。

 つまり、可憐にとって髪は自身を包む『繭』であり『衝立』と言って差し支えなく。

 日頃他人から向けられる好奇の視線(これは彼女が非常に魅力的なことが原因なのだが)
 その他身近に迫る恐怖から、自分を守るために発現したこのサイキック。

「あ、う……はぅ、ん……っ!」

 そのパワーの源はと言えば、何を隠そう『羞恥心』なのである。

 要は恥ずかしければ恥ずかしいほど、
 彼女の力は増幅し、より強力な物になるワケだ。

 戦闘用のボディ・スーツが、体のラインを浮き上がらせるぴっちりしたモノなのもそれが理由だ。
 決してスーツ開発者の趣味ではない。
113 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:35:43.11 ID:vWXpS0ty0

「っ! ……は、あ……んっ!」

 なので今、彼女は辱めを受けていた。

『こちょばし係』に任命された瑞希の巧みな指使いによって、弄ばれる豊満な体。
 脇腹、首筋、そして背中。つつぅっと指を滑らせられる度に、可憐の嬌声が辺りに響く。

「なんかなー……。緊迫感、ゼロって感じ?」

 息も絶え絶え、呪いの人形よろしく髪の毛を、凄い速さでゾゾゾゾゾッと伸ばす可憐を見ながら恵美が呟く。

 いや、本人たちは至って真剣なのである。
 ただ少し、傍目にはそう見え辛いだけであって。

 その証拠に瑞希の表情は真剣そのもの。
 とても遊んでいるようには……見えない。

「次は、おへそから脇腹にかけてのラインを責めます」

「ひゃん! そ、そこ違う!」

「おっと……失礼しました。こちらでしたか?」

「そ、そんな場所……うっ! だ、だめぇ……っ!」

 とはいえ嬉しい誤算もあった。可憐の感度はとても良く、
 この調子ならば本来の予定より早く髪の毛が集まるだろうということと。

「雪歩さん、今です〜!」

「うん、天空橋さん!」

「二人とも、ナイスコンビネーション! お姉さん楽で助かるわ〜」

 体力を回復した雪歩の戦線復帰。
 今は彼女と朋花、そして莉緒の三人が協力してモグランゾーの進行を喰い止めていた。
114 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:37:27.27 ID:vWXpS0ty0

「千早さん。編み込みってこれでいーの?」

「私のも確認お願い。千早ちゃん!」

「ふ、二人とも、私にばかり頼られても……!」

 また、伸び続ける髪を編んで紐状にするのは美希、恵美、千早、麗花の四人である。
 本来ならばこの作業も、可憐にかかればお茶のこさいさいであったのだが……。

「お客さん、この辺りも凝ってますね。……もみもみ」

「はぁっ、はぁっ! んっ! あぁっ!!」

 残念ながら、当の本人がそれどころではない。

 結局それから数十分、ようやく準備が整う頃には、
 可憐はとても戦いに参加できる状態では無くなっていた。

「あう……はぅん……」

 野戦用のシートの上、エレナと共に悩まし気に横たわる可憐を見下ろしながら瑞希が言う。

「篠宮さん……アナタの犠牲、無駄にはしません」

 さらには「勝ってくるぞと勇ましく〜」なんてワンコーラス。

 その隣では出来たばかりの紐の強度を確かめて、美希が「これならいけそうだね」と頷いた。
115 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:38:22.13 ID:vWXpS0ty0

「それじゃあ、手順の再確認を」

 千早がモグランゾーと戦う莉緒たちをチラリと一瞥し、美希たち実行隊に説明を開始する。

「狙うは二本の後ろ足。あの巨体です……とにかくバランスさえ崩せれば、
 そのまま倒れてくれるでしょう。それから手足を拘束して――」

「雪歩の掘った穴の中に、引っ張り込めばいいんだよね? リョーカイしたの、千早さん!」

「では、早速参りましょう。あまり待たせるのも悪いですから」

 頼りがいのあるサムズアップを残して出発した美希と瑞希の背中を見送りながら、
「二人とも格好いいなぁ〜」と麗花が楽しそうに呟いた。

「ハリウッド映画のワンシーンみたいだね。『そして彼女たちは、この国の英雄になったのだ』……なんてなんて♪」

「そ、それは……麗花さん?」

 麗花の何気ない一言を聞き、千早の頬が引きつった。思わず口から出そうになった、
『まさかとは思いますけどそのシーン、今生の別れになったりは?』なんて言葉を飲み込んで……。
116 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:40:09.35 ID:vWXpS0ty0
===

 準備は整い、遂に決着をつける時が来た。

 ビルの合間を我が物顔で進む地底怪獣モグランゾー。彼は今、地上の覇者であった。

 目の前にはちょこまかと動く三匹のうるさいハエがいたものの、
 その固い鎧のような体毛と、その下の鱗のような皮膚によって、何をされても「んで〜?」と首を傾げるほどに効果ない。

 ただ時折、右に行こうとしては左に向きを変えさせられ、
 左に行こうとすれば今度は右に向きを変えざるを得なくなるような……鬱陶しい攻撃が行われる程度だ。

 そしてその度にモグラ獣は鳴き声を上げた。

 次第にそれは大きくなり、この巨大生物が苛立ち始めたことを周囲のアイドルたちに教えてくれる。

「……そろそろですね〜」

 ヒーローネーム『バインドウィップ』、華麗なる鞭使いでもある朋花が辺りを見回して呟いた。

 ……ここまでの展開は順調である。

 モグランゾーの攻撃を避け、誘導しつつ例のプラン――『転んで滑ってすってんてん大作戦』に適した地形まで誘い込む。

 そこは地下施設の少ない地域。少なくともシェルターなどは存在しない、人的被害が出る恐れはない場所だ。

(ちなみに代わりに破壊されることになるであろう建設中の地下路線についてだが、
 こちらは作戦前の話し合いによって「知らなかった」とシラを切りとおすことでメンバーの意見が一致した)

 後は地上で待機する美希たち二人と連携して相手を地面に転がせば、
 雪歩のスコップで作る大穴に獲物を落とし込むだけである。
117 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:41:45.07 ID:vWXpS0ty0

 目標地点まで、ざっと残り数百メートル。怪獣の歩幅にしても数歩分。
 チャンスは一回、二度目のチャレンジは失敗率も跳ね上がり、なおかつ一層の危険が伴うだろう。

「今よっ!」

 莉緒の合図で美希たちが動いた。ビルの影から飛び出す二人の間には、四つの編み紐を束ねた物が。

 上体を動かさない独特の走法で近づくと、そのままモグランゾーの両足に紐を引っ掛けた!

「ふっ、ぬぅっ!!」

「はああぁぁっ!!」

 そして満身の力を込めて紐を引く! 

 さらには莉緒と雪歩がモグランゾーの背後から攻撃を仕掛け、怪獣の重心バランスを崩そうと試みる。

 足元は後ろへ、上半身は前へと動かされ、たまらずグラつくモグランゾー。

「そのまま! 行けますぅ!」雪歩の叫びに朋花が動く。

 ダメ押しとばかりに相手の腕に鞭を絡め、そのまま自分のいる方へ――
 モグランゾーから見て前方へとその巨大な体を引っ張った!

「……よし!」

 その瞬間を、千早は確かに見届けた。
 地底怪獣が一際大きな声を上げて前のめりにゆっくりと、地面の上に倒れ込む……。

 次いで激しい揺れが辺りを襲い、遅れてとてもくぐもった、重たい音が鳴り響く。
 大量の土煙を舞いあげて、遂に彼女たちはやり遂げたのだ!

「後はこのまま、手足を拘束さえすれば――」

 しかし、千早たちが喜べたのはここまでだ。
 メンバーの中で真っ先に違和感を覚えた麗花が「あ、あれれ?」と驚きの声を上げる。

「モグランゾー……元気だよ?」
118 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:42:54.23 ID:vWXpS0ty0
===

「これは……まさか!」

 モグランゾーの足元で、紐を手にしたままの瑞希が言う。

 とはいえ、考えてみれば当然だ。

 そもそも相手は何だった? 巨大な地底怪獣である前に、元は大きなモグラなのだ。

「そ、そんなのってアリ!?」

 目の前に広がる光景に、信じられないのは莉緒も同じ。二足歩行から四足へ。
 退化の過程を辿ると言うよりは、生き物本来の姿に戻ったと言うべきか。

 二足で歩いていた時よりも俊敏に、自分たちの前から逃げ出すように走り出したモグランゾーの後姿を、
 彼女は呆気に取られたように眺めている。その間にも敵は急旋回で向きを変え、地上にいる美希たち目がけて走り出す!

「わわっ!?」

「危ない!」

 間一髪! すんでのところで身をひるがえし、
 弾丸のような突進を交わす美希と瑞希。

 さらに雪歩も攻撃の為に近づくが……。

「あっ、て、天空橋さん!」

 雪歩が困惑した声を上げる。それもそのハズ、モグランゾーの背中には、
 鞭を絡めたままの朋花の姿があったのだ。
119 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:44:40.38 ID:vWXpS0ty0

「こ、これは困ったことになりました……!」

 今や彼女は猛る猪の背に跨っているのと同じである。

「モグラではなく豚さんなら、夢の一つが叶いましたのに〜」

「そっちぃっ!?」

 とはいえ、冷静さを欠いたりはしていないらしい。
 雪歩のツッコミを聖母の微笑みで受け流すと、彼女は鞭を操る腕に力を込める。

「先ほどまでならいざ知らず……。私のお仕置きは強烈ですよ!」

 瞬間、地底怪獣の巨体が宙に舞った。朋花の取った行動を瞬時に理解した莉緒が、
「見た目に似合わず派手好きね!」なんて嬉しそうに声を上げる。

 そして飛んできたモグランゾーを受け止める為に、最大出力で生成される超巨大なキネティック・シールド! 

「くっ! うぅっ!!」シールドを支えるために突き出した、
 その両腕に伝わる衝撃を美貌と根性で受け止めて、莉緒がモグランゾーの勢いを完璧に殺し切る。


 朋花の取った行動は、まさに捨て身の攻撃だった。

 超高速で移動するモグランゾーの、鞭が絡んだ片手の動きを力の限り邪魔することで、
 この巨大モグラを手玉に取ったのである! 

 結果は走っている人間の足を払うが如く。支えを欠いてバランスも崩したその巨体は、
 勢いそのまま地面をもんどりうちながら、莉緒の張ったシールドに突っ込んだと言うワケだ。

 が、しかし。当然そんなことをすれば、背中に乗っていた朋花も無事では済まないことになる。
 いくら莉緒が受け止めてくれるだろうという信頼はあったとて、自分の身が危険なことには変わりない。

 だが、彼女は幾多の迷える子豚ちゃんを導く聖母であり、誉れ高き天空騎士団の指導者なのだ。

 朋花の辞書の最初のページにある言葉、それは無償の『自己犠牲』……
 そしてまた幸運だったのは、この場に天使がいたことである。
120 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:45:46.57 ID:vWXpS0ty0

「だ、大丈夫? 天空橋さん」

「……雪歩さん」

 モグランゾーが弾け飛んだその瞬間、雪歩は放り出された朋花を受け止めた。
 すっかり荒れ果てた道路まで舞い降りると、彼女は抱き留めていた朋花を下ろす。

「ふふっ。……ありがとうございます、私の大天使さん」

 朋花が微笑みながらお礼を言うと、雪歩が顔を真っ赤にして「だ、だ、大天使!? わ、私は小間使い天使が関の山で……!」
 なんてしどろもどろに言葉を返す。その傍では瑞希たちが、当初の予定通りモグランゾーの手足を紐で縛り上げ。

「雪歩! そんなトコで赤くなってないで、早く早く!」

 美希に呼ばれて、雪歩が「あっ! う、うん。そうだね!」朋花を受け止める際に放り投げたスコップを呼び戻し、
 地面を掘るために高々と腕を振り上げた――採掘天使の本領発揮である!

「はあっ!」

 カツン! 渇いた音が辺りに響いた次の瞬間、
 スコップの先端が当たった場所を中心に、グズグズと亀裂が周囲に広がって行く。
121 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:47:29.86 ID:vWXpS0ty0

「そ、それじゃあみんな、避難しよう!」

 雪歩の合図に、アイドルたちは伸びてしまっているモグランゾーをその場に残して安全圏まで移動する。

 次第、円形に広がっていた亀裂がミシリと不気味な音を立て、そのまま地面に飲みこまれた! 
 ……そう、まさに大地が口を開けたかのように、地底怪獣の巨体もろともだ。

 後には爆弾が落ちてもこうは綺麗に作れまいというほどに、見事なまでの丸い穴。
 その深さが一体どこまで続くのか? 地上から覗いただけではとても窺い知ることができないほどの奈落である。

「……終わった、の?」

 久々に全エネルギーを使い果たした疲労感。莉緒が誰ともなしに呟いたその時だ。

 漆黒の暗さが満ちた穴の中から、何か、"何か"がじわりじわりと染み出すように空へ向かって登って行く。
 それはまるで煙のようであり、また靄や霧のようであり。

 しかしその場にいた全員は、無言のうちに直感で、その正体に気づいていた。

「あれが、今回の騒動の原因ですか」

 瑞希が一歩、皆より前に踏み出した。一体いつ用意していたのか、
 彼女は右手に持った小さな十字架を胸の前で構えると。

「悪霊退散……エクソシスト瑞希、出番だぞ」

「ええっ!?」

「コホン! ……イッツ、ジョーク」

 驚く皆に微笑む瑞希。「それに私は、お化けの類が苦手です」言って、
 今度は十字架よりも物騒な対空用の自動追尾式ロケットランチャーを肩に構えたのである。

 ……それこそ、一体何処に用意していたのかと訊きたくなるほど突然に。

「ですが、手品は少々自信あり」

 そして、しめやかにミサイルは発射された。ひゅるるるる……と煙を引き、
 空中で集まり出していた靄に命中、爆散! 一同が唖然とする中で、彼女はグッと親指を立て皆に宣言したのである。

「目標破壊、戦闘終了。……一先ず危機は去りました」
122 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/08/15(火) 10:49:01.25 ID:vWXpS0ty0
ここまで。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 15:26:42.77 ID:QxeXLVt6o
今更ながら追いついた
続きあるなら楽しみにしてる
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/17(金) 17:37:31.18 ID:pSdgLK+80
??
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