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姫川友紀「サニー・ブルース 7inch.」
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60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 19:46:36.29 ID:cDcA551s0
P「届いたアレもまだ開けてないだろ、お前」
友紀「?」
あれってなんだ。何かあたし宛てに来ていたのか。
…覚えていない。
友紀「なんだっけ」
P「やっぱり」
友紀「ごめん…」
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 19:47:39.63 ID:cDcA551s0
P「何て言うか…視野を狭めたままにしてるのは、あんまり良くないと思ったっていうか」
友紀「うっ」
P「レッスンに集中するのも、もちろん良いことなんだけどさ。そればっかりってのはちょっとな」
友紀「…うん」
P「ま、良いタイミングかも。今日は帰る前に、事務所に寄ってくこと」
友紀「はーい…」
P「よろしい」
何が届いているんだろう。
やっぱり今日はもう切り上げて、早く確認した方が良いかもしれない。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 19:48:36.11 ID:cDcA551s0
友紀「…ねね、アレってなに?」
P「自分で確かめてくれ」
友紀「良いじゃん、ちょっとくらいさー」
P「俺も中身までは知らないの。お前が後で見るって言うから、しまってんだよ」
友紀「…あたし、そんなこと言ったっけ」
P「言いましたー。ったく、お前はほんっと普段から…」
友紀「えー、普段のことは関係なくない?…」
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 19:50:40.89 ID:cDcA551s0
並んで歩く帰り道。
イライラ、せかせか歩いていたさっきまでと比べたら、とっても穏やかで。
ゆっくり歩くこの感覚を忘れていた自分が、ちょっとだけ情けなかった。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:43:22.26 ID:cDcA551s0
――――
――
友紀「…失礼しまーす」
軽くシャワーを浴びて、着替えてやって来た。
事務所のいつもの部屋だけど、しばらくまともに顔を出してなかった気がして。
P「…なんでそんな丁寧なの」
友紀「い、いや〜、あはは…」
いつもは平気で入れるのに、つい畏まってしまった。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:44:10.28 ID:cDcA551s0
P「今日はもう、自主練しなくて良いのか」
友紀「うん。やっぱり、オフも大事だよねってことで」
P「…やっぱ、迷惑だった?」
友紀「良いの良いの。それよりさ!」
P「…おっけ」
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:44:50.94 ID:cDcA551s0
ごそごそとロッカーから取り出して、手渡してくれたものは。
P「ほら、これ」
『姫川友紀様へ』と書かれた小包。
友紀「なになに?『○○高校野球部 OB会一同』…へ?野球部?」
どうやら、高校の野球部からみたいだ。そんなに重くはないけれど、平ぺったく何かが入っているのを感じる。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 20:45:45.69 ID:cDcA551s0
友紀「…開けて良いのかな」
P「もちろん」
かさかさっと音を立てて、包みが開く。
中から出てきたのは、色ペンでカラフルに彩られた白い色紙。これって…
友紀「わぁ!寄せ書きだ!」
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:46:28.53 ID:cDcA551s0
覚えのある名前と一緒に、激励の言葉がずらりと並んだ野球部特製の寄せ書き色紙。
ちょっと大きめの用紙に、先輩、後輩、同級生からのメッセージが所狭しと書き連ねてある。
友紀「すごいすごい!あたしたちの代の野球部、勢揃いじゃーん!」
P「代って…全員?」
友紀「そうみたい。ほらプロデューサーも、見て見て!」
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:48:00.87 ID:cDcA551s0
友紀「この子ね、うちの学年のエースだったんだ!コントロールがすっごく良くってさ!」
――ドームとかすげえじゃん!絶対観に行くから!
友紀「こっちはレフト!1年下だったけど、3番も打ってたの!」
――アイドルになってたとは知りませんでした。ライブ、頑張ってください!
友紀「ショート兼、2番手ピッチャーだったのがこの子ね!バントとか小技が得意でさぁ…!」
――今度はおれ達が応援する番。気合い入れて!
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 20:48:48.14 ID:cDcA551s0
P「…ゆっくりで良いよ、ユッキ」
友紀「それでね、それでね…!」
1人ずつ、名前を指差しては思いを馳せる。
懐かしいな。いつの間に集まったんだろう。
友紀「はー…嬉しいなぁ、こういうの」
P「良いサプライズだな」
友紀「ね。ビックリした!」
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:49:58.18 ID:cDcA551s0
P「…まだ何か、中に入ってなかった?」
友紀「へ?うーんと…」
言われて包みを確認してみた。確かに、もう1つ小さな何かが入っている。
危うく見逃すところだったそれは。
友紀「あ!」
あたしにも見覚えのあって。でも何年も前に見納めしたと思っていた、夏の小さな宝物。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:51:04.01 ID:cDcA551s0
友紀「…お守り」
P「?」
友紀「懐かしいなぁ…。これ、みんなに渡してたのと同じやつだ…」
P「へぇ…」
友紀「全員分作ってさ、試合の前に配るんだ」
P「マネージャーで?」
友紀「そうそう!毎年、大会が近くなると、分担して作るの。うちの伝統なんだよね」
P「なるほど」
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:52:11.73 ID:cDcA551s0
ちょっと不器用な縫い目に触れていると、当時の記憶が蘇ってくる。
友紀「…あ、ちょっと糸ほつれてる。ふふっ」
P「手作りなんだな、ちゃんと」
友紀「だね。あたしもそんなに、上手には作れてなかったなぁ…」
P「…」
友紀「ちょっと、何か言ってよー」
P「いや、容易に想像できるから…」
友紀「えー!ひどーい」
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:54:12.43 ID:cDcA551s0
P「でも、良い子たちじゃないか」
友紀「まさかもらえるなんて、正直思ってなかったな…あはは」
P「あげる側からもらう側に、ってか」
友紀「そう、だね…」
縫い目をなぞって、指をのぼらせる。同時に記憶も、さかのぼる。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:54:53.11 ID:cDcA551s0
P「良かったな。良いものもらえて」
友紀「うん…」
P「?どした」
友紀「…。なんか、変なの」
友紀「もらってばっかりだな、あたし」
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:56:14.86 ID:cDcA551s0
友紀「…あたしさ、野球が好きで。野球がしたくって」
それは、部活に入る少し前の自分。
友紀「…でも、できなくて」
友紀「無理だって知っちゃって」
お守りを見ていたら、しまいこんでた思い出まで一緒に付いてきた。
友紀「それでも、諦めきれなくって」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:57:12.94 ID:cDcA551s0
友紀「マネージャーって形なら…なんて思って、野球部に入ってさ」
P「…うん」
友紀「自分では野球、できなかったけど。みんなが代わりにやってくれた」
友紀「…たまにね、ちょこっとだけ練習に参加させてもらったりとかもしてたけど」
友紀「でもやっぱり、自分で野球してるって感覚からはほど遠くて」
友紀「マウンドに立ちたい。打席に入りたい。ボールに触りたい、打ちたい、勝ちたい」
友紀「…野球をやりたいって気持ち、丸ごと全部。やってもらってばっかりだったよ、あたし」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:58:26.00 ID:cDcA551s0
P「…実はそれが嫌だった、とか?」
友紀「ううん、そんなことない」
友紀「ある程度、諦めは付いてたのもあったし…みんなをサポートするのも、悪くないなって思えた」
友紀「マネージャーもさ、楽しかったんだよ?」
友紀「みんなに声かけて、ドリンク作ったり、片付けとか準備とか手伝ったり…」
友紀「あ、たまにヤジ飛ばしたりとかも!」
P「ヤジ」
友紀「うん!『もっと腰入れろーっ!』とか、よく叫んでた」
P「…やばいマネージャーだな」
友紀「へへ」
P「褒めてないぞ」
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:59:14.84 ID:cDcA551s0
友紀「…でもね。心の何処かでは、ちょっぴり悔しくって。羨ましかった」
友紀「おかしいよね、『あたしを甲子園に連れてけー!』なんて、冗談みたいなこと」
友紀「漫画みたいな話ありっこない…って、頭では分かってるのに。そんな風に思っちゃう自分もいてさ」
友紀「あたしがいくらあがいても届かなかった夢を。みんなは、代わりに叶えてくれてたんだ」
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 20:59:47.62 ID:cDcA551s0
P「…それで、あの時」
友紀「プロデューサーもだよ?」
ここまでは、昔の話。
P「俺?」
友紀「うん!」
ここからは、今の話。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:00:47.97 ID:cDcA551s0
友紀「前に、始球式のお仕事あったよね?」
P「うん」
友紀「あの時、すっごく楽しかった!」
友紀「大好きな野球に関われて、憧れのマウンドに立てて」
友紀「何ていうか…夢、1つ叶えてもらっちゃったなって。そう思ったもん!」
P「…大袈裟だよ」
友紀「そんなことない!」
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:01:42.97 ID:cDcA551s0
友紀「今回のLIVEだってそう」
友紀「あたし、ドームに立つのも夢だったんだ。だから、とっても嬉しくって!」
P「それは…選手として、だったり」
友紀「もちろん、それもあるけど…」
思わず拳に力が入る。お守りが潰れちゃうところだった。危ない、危ない。
友紀「今は、アイドルとしてもだねっ!」
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:02:20.40 ID:cDcA551s0
友紀「いつかあのマウンドに立ちたい」
グラウンドのド真ん中。360度どこからでも見えていた、あの星に。
いっぱいになったドーム。憧れの、あの舞台で。
友紀「全力全開のあたしを、みんなに見てもらいたい!」
友紀「この想いは、昔からずーっと変わってないんだ!」
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:03:06.48 ID:cDcA551s0
友紀「だからさ。そんな場所に連れてきてくれたプロデューサーには…本当に、本当に感謝してるんだよっ」
P「…そうか」
友紀「学生時代には、野球部のみんなからでしょ?」
友紀「アイドルになってからは、プロデューサーから」
友紀「出番も思い出も、いっぱい」
友紀「ほんとにたくさん、もらってばっかりで…」
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:03:55.97 ID:cDcA551s0
ぽとり。
友紀「あれ」
P「…ユッキ?」
友紀「あ、あは…目にゴミ入っちゃったかな…」
慌ててぐしぐしと目をこする。
目から何かがこぼれたような気がしたけど、ごまかせただろうか。
友紀「えーっと…そ、そう。たくさんもらった分をさ!お返ししなきゃって!」
P「…」
友紀「…返さなきゃって。思ってた、筈なんだけどな…」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:05:28.08 ID:cDcA551s0
…おかしいな。
友紀「ドームでLIVEできるって決まって…すっごく嬉しくって」
友紀「みんなから、こんな贈り物、まで…もらってた、のに、」
声が震えてる。
友紀「気付かないで…もらって、ばっかりで…」
何かが、込み上げてくる。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:07:24.91 ID:cDcA551s0
友紀「…全然、何も、返せて、ない…のに…!」
P「友紀…」
友紀「なのに…レッスン上手く、いかなくって…心配、かけて」
視界が潤む。呼吸が浅くなっていく。
のどから、鼻から、目の奥から。抑えられないこの気持ちは。
友紀「できなきゃ…やら、なきゃ、迷惑かけちゃうって、…どっかで、焦ってばっ、かり、で…」
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:08:50.82 ID:cDcA551s0
友紀「今さら気付いて…ほんと、ばかだ、あたし…周りなんて全、然、見えてない…」
嬉しさとか、歯がゆさとか。ごめんなさいとか、ありがとうとか。
ごちゃ混ぜになったマーブル色が、胸から溢れて流れてしまったようで。
P「…ほら、ハンカチ」
友紀「っく、ぅぅ…」
気付いた時にはもう、止まらない。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:10:13.19 ID:cDcA551s0
――
―
友紀「…ぐすっ」
友紀「……」
P「…落ち着いた?」
友紀「うん…」
P「よかった」
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:11:25.83 ID:cDcA551s0
いつの間にか隣に座って、背中をぽんぽんしてくれてた。
誰かの前で泣いたのなんて、久しぶりかもしれない。
友紀「…ごめん」
P「こんな日もあるさ」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:12:24.80 ID:cDcA551s0
友紀「…ハンカチ、ありがと」
P「あぁ」
友紀「洗って返すね?」
P「良いよ別に、そのまま返してくれても」
友紀「あたしはよくないのっ」
P「…はいよ」
渡されるがままに使ってしまったハンカチ。
これは…そう、袖が足りなかったんだ。足りないものは、しょうがない。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:13:31.59 ID:cDcA551s0
P「…それが姫川汁か」
友紀「……」
一気に顔が熱くなる。
この状況で、なぜこんな気持ち悪いことが言えるんだこの男は。
友紀「ちょ、ちょっと!変なこと言わないでよぅ…」
P「だって本当でしょ。涙と、鼻水と…」
友紀「うわわ、ストップストップ」
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:14:25.25 ID:cDcA551s0
P「なに、洗えば問題ないから。だいじょぶだいじょぶ」
友紀「もー…」
P「何なら、それもうやるよ。明日からハンカチ姫って呼んでやるから」
友紀「うえぇ、嫌だよそんなの」
P「いらない?」
友紀「いらな…くは、ないけど。でも、そんな呼ばれ方嫌だなぁ」
P「じゃあ俺がハンカチ王子か…悪くないな…」
友紀「なにそれ…ふふっ」
P「…やれやれ」
目の端を指で拭いながら、小さく笑みがこぼれる。
もしかしたら、わざとふざけてたのかもしれない。そういうことにしておいてあげようかな。
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:15:13.52 ID:cDcA551s0
友紀「…はぁ、ちょっとスッキリした」
友紀「言われた通りだね。確かにあたし、余裕なかった」
P「…」
友紀「闇雲にやらなきゃって思うばっかりで、周りも見えてなかった。反省しなきゃ」
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:16:00.02 ID:cDcA551s0
気持ちだけ逸って、肝心のパフォーマンスが落ちてしまっては元も子もないのに。
そんなことにも気付けないでこれまでやってきていたなんて、プロ失格だ。
友紀「おかげで目が覚めたよ、プロデューサー!」
友紀「明日から、今まで以上に頑張るから…」
そこまで言いかけた、その時だった。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:16:39.49 ID:cDcA551s0
P「友紀」
不意に、名前を呼ばれる。
友紀「?な…」
呼ばれたらそちらを向いてしまうのが、人間の習性というもので。
目が合ったのも束の間。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:17:46.01 ID:cDcA551s0
P「せいっ」
友紀「に゛っ」
びすっと音がして、視界が一瞬暗くなる。
額に鈍い衝撃が走った。
友紀「…へ?」
何をされたか理解するまで、数秒かかった。
…巷で言うところの、デコピンというやつだ。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:18:52.29 ID:cDcA551s0
友紀「…いたい」
P「全然分かってないよ、お前」
友紀「な、なに?」
P「頑張る、頑張るって…そうやってまた自分を追いつめてるだけで、何も変わってないじゃないか」
驚きとおでこの痛みで、頭の中はてんやわんやである。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:19:37.65 ID:cDcA551s0
友紀「でも…」
P「自分だけで結論出そうとするんじゃない」
P「あれだけ喋ったんだから、今度はこっちの言い分も少しは聞いて、な?」
友紀「う、うん…」
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:20:21.70 ID:cDcA551s0
P「お前さ、ホントに分かってない」
友紀「それ今聞いたよ…」
おでこをさすりながら、先程も聞いた言葉を反芻する。
P「自分がもらってばっかりだなんて、本気で思ってるのかって言ってんの」
友紀「?どういう…」
P「どうもこうもない」
P「何もくれなかった部活のマネージャーに、こんな気持ちのこもった贈り物するもんか」
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:21:14.31 ID:cDcA551s0
友紀「だって、あたし…、」
P「お前…普段から応援がどうこう言ってるのに、こういうとこはニブチンなんだな」
友紀「にぶ…っ」
なぜ突然罵倒されなければならないんだろう。
ていうかニブチンって。仮にも担当してるアイドルにかける言葉がそれか。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:22:05.13 ID:cDcA551s0
P「…友紀はさ、アイドルになって…自分が応援されて。どう感じたんだっけ?」
友紀「どうって…」
…突然言われても。何から話せば良いんだろう。
どう思ったかなんて、たくさんありすぎて絞り切れないよ。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:23:40.55 ID:cDcA551s0
友紀「えっと…。最初は慣れなくて、ちょっとムズ痒かったけど」
…そう。あたし、それまではずっと応援する側で。
友紀「声かけてくれるのが、嬉しくって。だんだん、気持ちよくなってきて」
友紀「頑張れって応援してもらえると、なんだか勇気が湧いてくるみたいでさ」
今まで自分が送ってきた声援は、もらうとこんなに嬉しいものなんだってことに気付けて。
友紀「なんかこう、ぐわーッて熱くなって。今なら誰にも負けないって思えた」
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:24:23.88 ID:cDcA551s0
友紀「すっごく力をもらえたんだ」
友紀「ファンのみんな、アイドルの仲間から。プロデューサーにも」
友紀「応援してたつもりが、いつの間にか応援されてたりして」
みんなから応援をもらえれば。
友紀「エールを送って、歓声をもらえて、また応援して」
友紀「お互いに励まし合えるような関係が、なんだかすっごく楽しい!」
ここでだったら、あたしも頑張れる。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:25:15.74 ID:cDcA551s0
友紀「そう、思ったよ?」
P「…うん」
友紀「…どう?」
P「そこまで分かってるんなら、なおさらだ」
友紀「??」
まだよく分からない。プロデューサーが、言いたいこと。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:27:11.62 ID:cDcA551s0
P「応援されて嬉しかったって言ったのは、どこの誰だよ」
友紀「…あたし?」
P「頑張れ、負けるなって、お前に励ましてもらった奴が、この世にどれだけいると思ってるんだ」
友紀「そんなの、分かんないよ…」
P「…そいつらの気持ちを、応援からもらえる感動ってやつを。お前は知ってるんじゃなかったのか」
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:28:26.46 ID:cDcA551s0
友紀「…ぁ、」
目から鱗とは、このことを言うのかもしれない。
P「お前がみんなから勇気をもらったって言うんなら、逆だって同じ」
P「みんな、お前からエネルギーもらってるんだよ。今も昔も、ずっと」
分かっていたようで、掴み損ねていた最後の欠片。
…そう。やっぱりあたしは、自分のことで精一杯で。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:29:51.35 ID:cDcA551s0
P「この色紙を見れて、俺も嬉しかった」
友紀「…どうして?」
P「どうしてって…当然でしょ」
P「担当してるアイドルが、同級生からもこんなに慕われてて、応援されてるんだって。直に知れたんだ」
P「姫川友紀って奴はさ。昔っからずっと、周りに元気と勇気を振りまいてた、素敵な女の子だったんだなって」
P「ああ、俺の目は間違ってなかったんだって。そう、確信できたから」
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:30:47.92 ID:cDcA551s0
P「さっきのマネージャーの頃の話も、聞けて楽しかったよ」
P「…出会う前の、俺が知らないお前を。また1つ知れた気がして」
P「その頃の仲間とも。一緒に夢、追っかけてたんだろ」
友紀「…」
P「気持ちは一緒だったんじゃなかったのか?」
友紀「…うん」
P「だったら、向こうだって同じ」
P「お前はもらってばっかりなんかじゃなかったはずさ」
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:31:27.81 ID:cDcA551s0
…そうか。
声は、気持ちは、ちゃんと届くんだ。
一度気付けば、途端に光が差し込むような。
こんなに眩しい事実と隣り合わせで、今まで過ごしていたんだね。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:32:22.96 ID:cDcA551s0
P「お前がくれたもの、俺はたくさん持ってるよ」
友紀「…ん」
P「ありったけの元気とパワー、普段からもらってる」
P「…そりゃ、仕事中にやかましいなとか思ったのも1回2回じゃないけどさ」
P「それ以上に、毎回背中押してくれて、引っ張ってくれて。何度も救われてる」
友紀「うん…」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:33:40.03 ID:cDcA551s0
P「野球部のみんなも、ファンの人たちも。事務所のみんなだって、きっと同じこと思ってる」
友紀「うん、」
また、視界がぼやけてきた。
P「お前から大事な宝物、みんなたくさんもらってる」
友紀「うん…っ」
…みっともないところ、これ以上見せたくなかったのにな。
P「だからさ。何も返せてない、なんて言わないでくれよ」
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:34:36.26 ID:cDcA551s0
友紀「ぅ、うぅぅ……っ」
全部流しきったと思っていたのに、どこからともなく押し寄せる。
P「あーあ、また…」
友紀「ぷろ、でゅ…、ぐすっ、、…あり、が……、」
ポロポロとこぼれるそれは。乾いたはずの頬を、再び濡らしていく。
P「…お礼を言いたいのは、こっちだって同じ」
P「最高のエール、いつもありがとう。友紀」
友紀「ひぐっ…うぁぁぁ……、、」
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:36:11.37 ID:cDcA551s0
――――
――
友紀「……」
P「落ち着いた?」
友紀「…もう、ちょっと」
P「そっか」
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:37:35.68 ID:cDcA551s0
そう言うと、今度は頭に手が伸びてくる。
子供じゃないのに、もう。
でも…もう少し落ち着くまでは、黙って撫でてもらおうかな。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:39:01.33 ID:cDcA551s0
友紀「…上手だね」
P「何が?」
友紀「撫でるの」
P「あぁ…鍛えられたんだ。どっかのKBとかDはんは口うるさいからね」
友紀「…なるほど」
P「今日のYさんは、ヤジが飛んでこないから気楽だよ」
友紀「ぅ、ほっといてよぉ」
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:41:08.92 ID:cDcA551s0
P「…」
友紀「……♪」
P「…ごめんな、今日は」
友紀「え?」
P「連れ出したり、泣いたり。散々だったろ」
友紀「…」
P「ここ最近、ずっと険しい顔してたから。放っておけなくて」
P「でも…ちょっと強引だった。もっと良いやり方あったかもしれないのにな」
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:42:25.62 ID:cDcA551s0
…きっと、居ても立ってもいられなかったんだろうな。
あたしにもそういう時あるから、分かるよ?
P「そのくせ、偉そうに説教なんかしちゃってさ…担当失格だよ」
友紀「…そんなことない」
P「それと、」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:43:23.37 ID:cDcA551s0
友紀「?」
P「おでこ、とか。痛くない?」
友紀「……」
友紀「…ぷっ…おでこって、ふふ…」
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:44:15.09 ID:cDcA551s0
このタイミングでおでこの心配って。どんな基準で喋ってるんだろうか。
P「いや、ほら…ちょっと勢い付けすぎたかな、なんて…」
友紀「そんなことないのに…くふふ…」
P「…そ、なら良いけど」
友紀「…相変わらず心配性だね。プロデューサーは」
P「ほっとけ」
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:45:17.46 ID:cDcA551s0
友紀「…大丈夫だよ。今日のことも、全部良い思い出」
P「お、思い出って…」
友紀「大事なこと、気付かせてくれたからね」
P「…」
友紀「あたしだけだったら、見えないままだった。多分、色々ダメにしちゃってたよ」
…美味しいお店にも入れたし。結果的にだけど。
友紀「だからさ、失格だなんて言わないで」
友紀「あたしこそ、ごめんなさい。…ありがと」
P「…お互い様ってところかな、今回は」
友紀「うん」
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/17(土) 21:46:15.66 ID:cDcA551s0
P「俺から言いたいことは、これで全部。そっちは?」
友紀「…肩」
P「へ?」
友紀「濡らしちゃって、ごめんね」
ハンカチだけじゃ飽き足らず、Yシャツまで借りちゃった。
そのせいで、そこだけ大きな水玉模様みたいになってしまっている。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:47:10.28 ID:cDcA551s0
P「…。ま、まぁ良いよ別に。後で着替えるから」
友紀「へへ」
P「他には」
友紀「んー…ない!」
P「…もう一回、やれそう?」
友紀「うん!」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:48:09.11 ID:cDcA551s0
P「本番まではあと」
友紀「2週間」
課題は、山積みだ。
P「調子は?」
友紀「…これからどんどん上げていくから」
後悔する時間は、もう残されていない。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:49:15.35 ID:cDcA551s0
P「忙しくなるぞ」
友紀「…落ち着いて、もう一回考えてみる」
友紀「あと2週間で、あたしができること。やらなきゃならないこと」
P「…そうだな」
苦しい時こそ、逆転しなくちゃ。
友紀「今まで上手くいかなかった分、取り返すからさ」
友紀「だから、見てて。プロデューサー」
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:50:46.95 ID:cDcA551s0
P「もちろん」
P「お前ならできるよ、友紀」
P「…頑張れ」
友紀「…うんっ」
――――
――
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:56:18.10 ID:cDcA551s0
――――
――――――
『……2アウト1・2塁、バッターは9番のこの局面…です、が…そのまま打席に入るようです。次の回も続投ということでしょうか』
友紀「はぁ〜?ここは代打じゃないの…?もう負けてるんだからこれ以上投げさせる意味ないでしょ…」
『7回裏、キャッツの攻撃。1−3で追いかけているこの場面ですが、先発投手に代打は送りませんでした…』
友紀「なんで代えないかなぁ…勝負かけなきゃいけない場面でしょ…昨日だって中継ぎ出し渋って結局打たれてるし…」
『外角が続きます。ポンポーンと追い込んで、あっという間に2ストライク』
友紀「ほんっと最近ベンチの動きが鈍いっていうか、判断が冴えないっていうか…」
『あーっと打った!レフト線!』
友紀「え!うっそ、マジ!?」
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:58:12.11 ID:cDcA551s0
『…切れました、ファールです』
友紀「っふぅ〜、ビックリしたぁ」
『あわや長打コースという打球でしたが惜しくもファールです。自らのバットで反撃とはなりませんでした。カウントは変わらずノーボール2ストライク…』
友紀「だよねー…ラッキー7の攻撃とはいえ、投げて打ってお立ち台とか今時そんな…」
『三振〜!最後は空振り三振です!キャッツ、結局2者残塁のままこの回は終了。8回の守備へ…』
友紀「あぁ〜…やっぱり代打出すべきだったんだよぉ」
友紀「…もう、何やってんだ!勝つ気あるの!?マジメにやってんのかぁ!!」
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 21:59:23.41 ID:cDcA551s0
P「こっちの台詞だ!」
友紀「うひゃあ!」
不意に後ろから、すぽぽんとイヤホンが外される。
ラジオを通じて遠くの球場に飛んでいた意識が、途端に現実に引き戻された。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:00:20.31 ID:cDcA551s0
友紀「…って、なんだプロデューサーかぁ」
P「なんだじゃないよアホ。さっきからずっと呼んでんのに、ブツブツぶつぶつ何やってるかと思えば…」
友紀「いやー、本番前に精神統一をと思って!」
P「これで?」
友紀「うん!この楽屋、テレビに中継映らないし気が散っちゃってさぁ…。ポケラジ、持ってきて大正解だね!」
集中するためにやってること、みんなにもあるよね。
あたしは好きな音楽を…もとい、好きな音を聞くことかな。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:01:35.68 ID:cDcA551s0
P「…実況の声がやたら聞こえてくるんだけど」
友紀「だってラジオ実況だもん!今どうなってるかな…キャッツの守備だよね、リズム良く守って攻撃に繋げないと!」
P「いやどうでも良いよ今は」
友紀「良くない!良い感じに逆転してもらわないと、本番のあたしのコンディションに影響するんだから!」
P「できればキャッツに関係なくテンション維持してほしいところだな…」
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:02:57.75 ID:cDcA551s0
…そう、今日は待ちに待ったドームLIVE本番の日。
本当だったら景気良く、キャッツの勝利と一緒に開幕といきたかったところなんだけど。
戦況は芳しくないようである。こんな調子で今シーズンは大丈夫だろうか。
P「…ま、お前がそれで集中できるってんなら何も言わないけど」
友紀「できるって〜。だから…」
P「だから?」
友紀「もうちょっとだけ聞かせて!ね?」
P「…駄目。没収」
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:04:06.29 ID:cDcA551s0
友紀「良いじゃん!ねぇお願ーい!」
P「だめったら駄目」
友紀「むぅ〜!ケチ!」
P「ケチじゃないから」
友紀「分からず屋!」
P「もう時間なの」
友紀「え」
P「お前が最後だぞ?」
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:05:27.18 ID:cDcA551s0
言われて時計に目を向ける。確かに、集合時間ギリギリだ。
友紀「わっ、もうこんな時間かぁ。気付かなかった〜…」
P「こっちに集中しすぎてオープニングに遅刻とかマジで勘弁だからな」
友紀「ごめんごめん!」
P「だいたいお前、本番中だって出番じゃない時はいっつも速報見てるんだから。今くらいはだな…」
友紀「うわわ、分かった分かりましたよぉー!ほら、行こっか!」
P「…ったく」
そうして2人、楽屋を後にする。
いよいよ本番なんだね。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:07:39.49 ID:cDcA551s0
――
―
ステージ裏へと続く通路。客席のざわめきや熱気が伝わり、じとりとした温風が緊張感を伴って廊下を支配する。
この感覚が、あたしは堪らなく好きだ。
身が引き締まるというか、気分が高まるというか。
歩いているだけで、さあやるぞ!って気分にさせてくれるから。
P「…さて」
友紀「…」
時間が経つのは早い。
気付けば、あれから2週間。光のような速さで今日はやって来た。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:08:50.43 ID:cDcA551s0
P「来たな、ドーム」
友紀「うん!」
P「調子は?」
友紀「良い感じ!」
P「レッスン、あれからどうだった?」
友紀「んー…トレーナーさんからは、『ギリギリ間に合ったな』って言われたかなぁ」
P「ん、そっか」
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:10:31.93 ID:cDcA551s0
友紀「…正直に言うとね。ダンスは、まだちょっぴり不安」
P「やっぱり、緊張するか」
友紀「うん、なにせ急ピッチだったし。…そりゃまぁ、それまで上手くいってなかったあたしのせいだけどさ」
P「…でも」
友紀「でもね」
最後までは、言わせない。
これはあたしの想いでもあるから。自分の言葉で伝えるんだ。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:12:12.12 ID:cDcA551s0
友紀「あたし、怖くないよ」
友紀「みんながいるから。応援して、見守ってくれてるから!」
ファンのみんなと、ステージに立つ仲間。…それと、横にもう1人。
力強い味方が、こんなにいる。
友紀「あたしも誰かの力になれるって分かった以上、1人だけもたついてなんかいられない」
友紀「ブンブン振ってガンガン攻めて、みんなで盛り上げようって今日は決めてるんだ!」
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:13:27.19 ID:cDcA551s0
P「…すっかりいつもの調子だな」
友紀「ふっふーん!失敗にビビるなんて、あたしらしくないからね!」
P「良かった。もう心配なさそうで」
友紀「大丈夫!バッチリ決めてみせるから!」
肩をくるくる回してみせる。余裕がないだなんて、もう言わせない。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:14:28.83 ID:cDcA551s0
友紀「…それとね、」
P「?」
友紀「今日は、もう1つ目標!」
P「ほう」
友紀「野球部のみんなに、ちゃんと届けられたら良いなっ!」
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:15:23.67 ID:cDcA551s0
何度も何度も読み返した、色紙のメッセージ。
ちょっぴり懐かしくなって、いっぱい勇気をくれて。色んなことを考えるきっかけになったよ。
友紀「この中で、ドームに立ったことのある人なんているのかな?」
友紀「そう考えた時にね、思ったんだ。もしかして…あたしが一番乗りなのかなぁ、って」
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:16:43.96 ID:cDcA551s0
友紀「ただのマネージャーだった、連れてってもらう側だったあたしがさ」
友紀「みんなより先に、こんな大きな球場に立つのかなって思ったら、不思議だな…って。ちょっとあべこべな感じ」
P「まぁ…そう言われると、確かに」
友紀「でしょ?」
友紀「…みんな、まだ野球やってるかな」
友紀「どこかのチームに入って続けてる人とか…公園で軽く遊ぶぐらいならって人とか?」
P「誰かさんみたいに?」
友紀「そうそう、あたしみたいに」
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:18:04.24 ID:cDcA551s0
友紀「働いてたり学生やってたりで、もうやめちゃった人もいるかも」
友紀「…野球やりたいのに、できない人も。中にはいるよね」
P「…そうかもな」
友紀「だけどさ」
野球から離れちゃったとしても、きっとまだ心に刻まれているはず。
友紀「そんな野球部のみんなを代表して、ドームに上がるんだって思ったら。すっごくやる気が湧いてきた!」
あの日々がくれた情熱と興奮を。みんなが思い出せるような、そんなLIVEにしたいんだ。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:19:24.66 ID:cDcA551s0
友紀「この気持ち、マウンドから伝えたい」
あたしが昔、みんなに託した憧れを。
友紀「あたしはここに居るよ、みんなの分まで頑張ってるよ、って」
日差しの下に置いてきた、みんながやり残した夢を。
友紀「1人じゃない。みんながいたからここまで来れたんだよ、って!」
まとめて背負って、今日はあの舞台に立つんだ!
友紀「今度はあたしが、みんなの夢を叶える番だから!!」
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:20:55.03 ID:cDcA551s0
友紀「以上、姫川選手の宣誓でした!」
P「…」
友紀「なーんちゃって…」
P「良いね、そういうの」
友紀「!」
P「今のお前、最高にカッコいいな」
友紀「…そうかな?」
P「ああ」
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:22:21.69 ID:cDcA551s0
友紀「カッコイイ、かぁ…!」
P「やっぱりさ、うちのエースはお前だよ。友紀」
友紀「…へへっ!」
P「大丈夫。お前の声なら、絶対届く。保証する」
…こんなに頼もしいお墨付きも、そうそう無いよね。
ハートの温度は、急上昇だ。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:24:17.69 ID:cDcA551s0
友紀「プロデューサーも、ちゃんと見ててね」
友紀「元気・強気・無敵なゆっきーのステージ、目を逸らしちゃダメだよ?」
P「当然。お前の全力、見せてくれ」
友紀「うんっ!」
「…あー!友紀お姉さんが、来たでやがります!」
「ゆっきーおそーい!もう始まっちゃうよぉ!」
友紀「あぁっ、ホントにみんないる!めんごめんごー!」
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:25:56.93 ID:cDcA551s0
集合場所の舞台裏。
夢が集い、奇跡が始まるダグアウト。
あたしたちの試合は、ここから始まる。
友紀「…じゃあ、行ってくるね!」
P「おう、行ってこい!」
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:27:52.73 ID:cDcA551s0
友紀「へいへいみんなお待たせ!肩はあったまってる?」
「肩はビミョーだけどー、準備ならもうバッチリだよっ☆」
友紀「オッケー!今日はかっ飛ばしていくぞー!」
「おー♪でごぜーます!」
「おー…って、かっ飛ばすのは友紀ちゃんだけでしょうが」
友紀「ちっちっち。こういうのは、みんなでやる事に意義があるんだよ!」
「ふふっ、そうかも。気持ちを合わせてってことだよねっ」
友紀「そうそう。だからほら、声出して!もう1回行くぞー?」
「んもー、しょうがないなぁゆっきーは…」
――
―
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:30:08.61 ID:cDcA551s0
…静まる音響、ざわめく会場。
舞台裏からはまだ見えないボルテージが、どんどん上昇しているのを肌で感じる。
観客席には、どれくらい入っているのかな。満員だったら、嬉しいな。
野球部のみんな、観てくれてるかな。ステージ上から見つけられると良いな。
ドームの中心から見上げる景色は、どんなにキラキラしているのかな。
考えているだけで、ドキドキワクワクが止まらない。
この胸のときめきは、この瞬間は、この光景は。
きっとあたしだけのもので。でもそこには、あたしだけじゃ届かなかった。
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:31:24.10 ID:cDcA551s0
衣装のポケットに手を伸ばす。
入れてたお守りにそっと触れると、なんだかじんわり温かい。
…返しそびれてたハンカチも、今日はポッケの仲間入り。返す約束は、また今度だね。
あたしの応援は、きっとみんなに届いてる。そう言って励ましてくれた。
声がみんなの力になって、頑張る姿を見たあたしも勇気をもらって、それがまたみんなに伝わって。
広がる応援の輪、大好きなこのキャッチボール。ずっと大事にしていきたいな。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:33:44.39 ID:cDcA551s0
幕が開く。夢の舞台への扉が、今。
耳が割れるような歓声。差し込むライトで目が眩みそう。
思わず目を瞑れば、瞼の裏に見えてくる。
いつか見た青い空と、追いかけ続けた白球が。
目を開けば広がる、オレンジ色の海。
きっかけは、幼い頃のちっちゃな憧れ。
当時の想像とはちょっと違った形だけど。いつの間にか、すぐ目の前まで来ているよ。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:35:18.85 ID:cDcA551s0
光の中へ、1歩。
歓声の渦に足を踏み出す。
夢に向かって、もう1歩。
どこからでも見える、あの星を目指して。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:36:21.59 ID:cDcA551s0
歩みは止まらない。最後まで、止めてなんていられない。
憧れて、描いて、見続けて。
何度も繰り返していたあの夢を。
あの夢を、探しに行く。
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:37:05.73 ID:cDcA551s0
おわりです。姫川友紀さんでした
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/17(土) 22:46:26.11 ID:cDcA551s0
二宮飛鳥「キミとボク」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486120993/
直接の続編ではないけど 前書いたヤツ。
↑と同じく、ある楽曲を元にしたりしてます。同じバンドです
勝手ではありますが今回もタイトルお借りしました。もし興味が湧いた方がいたら是非手に取ってみてくださいな
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/18(日) 08:34:33.44 ID:eAJEgSqRo
おつ
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/18(日) 10:32:12.46 ID:/YsMqJ5jo
乙
やっぱユッキは一番センターですわ
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/08/13(火) 20:53:57.23 ID:q2Wr85eE0
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