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【艦これ】エラーねこのなく頃に 艦こまし編 其の二
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1 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:22:43.37 ID:HjknuHcR0
*初投稿です。マナーやルール等が間違っていたらご指摘ください。
*地の分あり。むしろ半分くらいそれです。苦手な方はスルーを。
*タイトルの通り、某ホラー作品のパロディです。これも苦手な方はスルーを。
ホラー要素は微塵もありませんが。
前スレを落としてしまったので二スレ目です
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475634532/42-
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1497540163
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/16(金) 00:24:50.43 ID:BcboTpd70
待ってた
3 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:25:32.39 ID:HjknuHcR0
なんてこったい
ルールをちゃんと把握してなかったみたいで落としてしまいました
許してくださいなんでもします明石が
お詫びといってはなんですが、魚雷姉妹編その一です
4 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:27:12.18 ID:HjknuHcR0
「提督ー北上だよー。入っていいー?」
扉の向こうから聞こえてきた軽いノックと緩い声音に提督は「ああ。入れ」と声を返した。
その返事をもらって、ニヤニヤを顔に張り付けた雷巡・北上がヒョイっと入室してきた。
「お邪魔しまーす……にししし〜」
「ん。で、一体何の用だ?」
「ん〜別に用はないんだけどね〜」
「本当に邪魔しに来ただけか。まったくお前は……」
普段ならそこで露骨に嫌そうな顔で「早よ帰れ」とでも言いそうなものなのに、呆れたように嘆息しつつも柔らかく微笑みかけてくる提督を前にして、北上の胸はドキリと高鳴った。
5 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:28:49.75 ID:HjknuHcR0
(おぉーぅ…………これは確かにマズいかねぇ〜)
ベクトルは多少違えど、あの加賀と同程度の平静表現力を誇る北上。その動揺する内心をまるで表にせず、彼女は緩いポーカーフェイスを保つことができた。
しかしそれでも、この提督に対して受けに回ればその城壁も長くはもたないだろうと、実際に対面して彼女はそう判断した。
(フッフッフー。でもそれでこそ攻めがいがあるってものよねー)
そう、何を隠そうこの北上、朝の食堂の騒ぎをリアルタイムで目撃していた艦娘の一人であった。
そして意外にも負けず嫌いな彼女はこの提督を逆に弄り倒してやろうと思い立ち、今こうして執務室に赴いたのであった。
6 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:30:11.00 ID:HjknuHcR0
何を馬鹿な事をと思うなかれ。
数多の海域で戦果を挙げてきた北上にとって、立ちはだかる壁は壊すか越えるかしないと気が済まないのだ。
そんなチャレンジ精神と好奇心の化身である彼女が、今日の提督を放っておくわけがないのである。
まあ、少しばかりの乙女心が絡んでいるというのもあるのだが。
「まあいいか。執務の邪魔だけはしてくれるなよ」
「はいはーい」
気の抜けたような受け答えをしつつ、北上は提督の座る椅子の左後ろに回り込んだ。いわゆる秘書ポジションと言われる位置取りだ。
提督に近づいたせいか、心拍数が若干増加したような気もする。しかしそれを押し止めつつ、そこから北上は静かに提督の仕事っぷりを眺めることにした。
7 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:31:30.91 ID:HjknuHcR0
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………ねぇ提督さー。ちょっと聞いてもいい?」
「なんだ突然」
「提督ってさー……最近欲求不満なの?」
「は? 何を言っているんだお前」
「やーだってさー。今朝もすごいやんちゃしてたしさー。もしかして色々溜まってるのかなーって。もしくは発情期とか?」
「なんだ発情期って。猫や猿じゃあるまいし。それと、別に欲求不満でもないぞ」
机に向かったままこっちも見ずにそう話す提督。北上の予想通りの、いつもの提督の反応であった。
8 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:32:44.89 ID:HjknuHcR0
「ふーん、そっかー……」
(まー面と向かって「実は欲求不満です」なんて言うわけないよねー)
ならば――と、そこで北上はニヒっと笑みをこぼした。
「よいしょっとー」
「むっ……何をする北上」
「んふふー別にー。何となく?」
斜め後ろから上半身だけ提督に抱きつき、提督の肩に自分の顎をのせて北上は楽しげに笑った。
提督に対する軽いスキンシップを度々行ってきた北上(その度に大井の眉間にしわが寄る)だが、ここまで体を密着させる程の大胆なそれは彼女も仕掛けたことがなかった。
というより、ラッキーハプニングでもない限りこんなことしないしできない。
飄々としている彼女だが、他の艦娘の例に漏れず、恥じらいのあるちゃんとした乙女なのである。
9 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:34:02.47 ID:HjknuHcR0
そして今、そんな恥じらいをかなぐり捨てて、北上は攻勢に出ることにしたのだ。
(フッフフー。早く慌てふためく姿を見せてごらんよ〜…………は、早くして〜)
しかしながら、その行為は行使した本人も羞恥に苛まれる諸刃の剣であった。
提督が顔を赤くして慌てだすのが先か、北上が耐えきれずに暴発するのが先か。
傍目にはイチャついているようにしか見えない、女と男のプライドを賭けた闘いが始まった――かのように思われた。
「…………北上、仕事がしづらい。離れてくれ」
「んーもう少しだけー」
「邪魔はするなと言ったはずだぞ。離れろ」
「まあまあ、そう言わずさぁ――」
「クドいぞ。迷惑だ、離れろ。何度も言わせるな」
「う…………」
10 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:35:40.16 ID:HjknuHcR0
有無を言わさぬ固い口調に、北上もおずおずと体を離した。
対して提督は彼女には目もくれず、書類仕事を続けている。
彼女の攻撃はまるで効果がなかったどころか、最初から闘いにすらなっていなかったようだった。むしろ明確な拒絶の表れすら見える。
「………………」
「……あ、あの……」
「………………」
「ご、ごめんね? そう、だよね。迷惑だったよね…………嫌、だったよね」
「…………あのな北上」
溜め息を一つついて、提督は席を立った。
それを前に北上はビクッと身を竦ませた。間違いなく怒られる――彼女はそう思っていた。
ところが、どうしたことだろうか。
身を竦ませる北上を、提督はあろうことか正面から抱きしめたのだった。
11 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/06/16(金) 00:39:25.98 ID:HjknuHcR0
とりあえず今回はここまで
すんません。これからはもっと小出しにしていくか生存報告をちょいちょいしていくことにします
もう一方も近いうちに投下しますんで、懲りずに待っていただければ幸いです
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/16(金) 01:20:07.35 ID:VQC10J1Vo
待ってたぞおおおおおおお
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/16(金) 10:46:20.71 ID:g/Z8U/0Qo
おつ
二ヶ月ルールの方だね落ちたの
今回は一ヶ月ルールの方も落ちてるから注意
14 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:21:42.63 ID:UgVzJqeA0
ゴキより面倒だった来訪者に辟易とする今日この頃
魚雷姉妹編その二です
15 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:22:51.94 ID:UgVzJqeA0
(へ? へっ……ええぇぇぇぇ!?)
「な、何!? 何なの提督!?」
突然の提督の暴挙に、北上は顔を赤くして硬直する。
怒られると思ったら抱きしめられていた。何を言っているのか分からないと思うが――という状態である。
混乱し過ぎて事態に頭が追い付かない様子の北上であったが、それに対して提督は抱きしめる力を少しばかり強めた。
「一つ、言っておこうか北上。仕事中に限らず、ああいう行為をしかけられるのは俺にとっては非常に迷惑だ。何故か分かるか?」
「そ、それは……あの……嫌、だから?」
「違うな。むしろその逆だ」
「え……それ、どゆこと――」
16 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:23:43.10 ID:UgVzJqeA0
今一つ要領を得ない提督の答えに困惑する北上の耳元に、提督はそっと口を寄せる。
「あんな事されたら、興奮のあまりうっかりお前をその場で押し倒してしまうかもしれないからだ」
「へ…………〜〜〜〜ッ!?」
その言葉が脳を直撃した時、北上は無事に(精神的に)中破した。
彼女ってば装甲は薄いのである。たとえそれが提督にとっては副砲による牽制程度の攻撃であっても、その至近弾は致命傷になりかねない。
実際、あと何かがほんの少し掠るだけで大破になりかねない程の混乱具合であった。
そして、そこで終わってくれるほど今日の提督は優しくはないのである。
17 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:25:22.95 ID:UgVzJqeA0
(ヤ、ヤバいよこれは……! 早く逃げなきゃ――)
今になってようやく自分の相手がフラル改ではなく中枢棲姫だったことに気づいたかのように、北上は即座に戦線から離脱しようと試みようとした。
しかし、彼女の脳内において"今すぐ逃げなくては!"が半数以上を占める中、提督の温もりに"……もう少しこのままで"という願望がわずかに混じったせいで、身体の反応が遅れてしまった。
そのため、彼女は追撃から逃れることができなくなった。
「まったく日頃俺が我慢してるのにお前ときたら……ああ、それともあれか。そうやって誘ってるのか? お前は」
「ひぅっ!?」
18 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:26:22.01 ID:UgVzJqeA0
北上を抱きしめたまま、提督の手が彼女のむき出しの腰をそっと撫ぜた。
腰からせり上がってくる甘い痺れに北上が硬直する。
その一撫でで、ただでさえ薄い装甲が更にメキメキと剥がされてしまった。最早バイタルパートもむき出しである。
「随分とふしだらな女になったものだなぁ北上。でも、そういうことならさっき見栄を張って嘘をつく必要もなかったかな」
そこで提督は北上の体を離し、お互いの額がぶつかるような距離で彼女の目をじっと見つめて、一言。
「俺、実は今欲求不満なんだ――お相手、お願いできるか?」
「――――――」
そうして、北上は無言で爆散した。
19 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:27:19.36 ID:UgVzJqeA0
「北上さんっ! 無事ですかっ!?」
バンッと執務室の扉をブチ開けて、艦隊随一の北上LOVE勢・大井が飛び込んで来た。
彼女もまた、北上と共に朝の提督無双を目撃していたのである。
そんな彼女が、愛してやまない相方が提督に挑んでいったと聞けばどういう行動に出るか、容易に想像がつくというものだろう。
「っ!? そんなっ、北上さんっ!?」
だが時既に遅し。
執務室にたどり着いて大井が目の当たりにしたのは、壁際でへたり込む北上とその傍らに佇む提督の姿。
どう見ても何かしらの事後、といった様子である。大井の恐れていた事態そのままの状況であった。
20 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:28:07.11 ID:UgVzJqeA0
「北上さんっ、しっかり! しっかりしてください!!」
慌ただしく北上のもとまで駆け寄り、大井はその肩を揺すった。
しかし返事はない。まるで屍のよう。灰になるまで燃え尽きたかのような有様だ。まだ熱いので今しがた爆死したのだろうと予想できる。
ただ、何故だか妙にキラキラしているように見えた。
「入るときはちゃんとノックをしてほしいものだが、ちょうどいい。そいつを部屋に連れていってくれないか。俺はまだ執務中だからな。頼んだぞ」
「……っ!」
動じた様子がまるでないその声音に、大井は険しい目つきで提督を見上げた。
21 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:29:23.19 ID:UgVzJqeA0
「提督っ、北上さんに一体何を何をしたんですか!?」
「仕事の邪魔をしてきたから、少しばかり灸をすえてやったんだ。これに懲りて、こいつも自重するようになるといいんだが」
「灸って……」
一体どんな灸をすえれば雷巡が灰になるというのか。
大井はすぐに食堂での一件を思い出し、北上も提督の毒牙にかかったのだろうと判断した。
その瞬間、彼女の堪忍袋の緒は派手に千切れ飛んだ。
「ふざけないでくださいっ! 何が"灸をすえてやった"ですか! どうせ朝のときみたいに北上さんにもいやらしいことをしたんでしょう!? こんなになるまで……!」
「まあ確かに、若干やりすぎだったのかもしれん。北上にはあとで俺から謝っておくとするよ。だからほれ、早く連れて行ってやってくれ。お前だってこいつをこんなところに寝かせておきたくはないだろ?」
「…………それだけ、ですか?」
「? それだけ、とは?」
「私の北上さんにこんなことして、言うことはそれだけなのかって言ってるんですっ!!」
22 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:31:35.33 ID:UgVzJqeA0
勢いよく立ち上がり、肩を怒らせて大井は提督にくってかかった。
彼女のこの反応も当然と言えよう。なにせあの龍田や山城に並ぶシスコン艦である。
もし提督が愛しの北上に手を出したとなれば、彼女ならその手を酸素魚雷で吹っ飛ばすか、股間を蹴り上げるくらいはしそうなものである。
ただ、今怒っている理由は実はそれだけではなかったりするのだが。
「見損ないました! あなたは自分からこんなことをする人じゃないって思ってたのに……! さぁ、何か弁明があるなら聞かせてもらいましょうか!」
「ほぅ……なるほど。何だかよく分からないが、どうやら俺はお前の期待を裏切ってしまったようだな」
「っ……き、期待なんて別にしてませんっ」
「だがまあそれでも、弁明なんて特にないよ。あったとしても、それは"北上に"であって、"お前に"じゃあないからな」
「なっ……!?」
「分かったのなら早く北上を連れていってくれ。俺は執務に戻るから」
そう言って、提督は大井に背を向ける。
おそらくそのまま何事もなく仕事を続けるつもりなのだろう。
23 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/01(土) 16:34:06.99 ID:UgVzJqeA0
今日はここまで
もうすぐ夏だ。頭も沸くぜ
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 06:24:27.42 ID:EEKiNIGDO
おっつ
めっちやオモロイです
続きが楽しみ
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 13:25:15.71 ID:36Hb87WXo
おつかーレ
26 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/07/22(土) 04:05:20.60 ID:xceA+nHe0
生存ほうこくー
もうちょっと待ってほしいのじゃ
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/22(土) 10:17:10.99 ID:ZxTodqDso
ういー
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/22(土) 12:35:30.67 ID:xk4BvuADO
大丈夫、あたし待ってる
29 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 12:54:16.58 ID:zbzIspRL0
お待たせしやした
いきますでさ
30 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 12:55:36.07 ID:zbzIspRL0
「何よそれ……私には関係ないって言うの? 北上さんに関することで私に関係ないことなんてあるわけないじゃない」
「………………」
「ちょっと! まだ話は――」
「――――――」
――終わってないわよ! と続くはずだった大井の言葉は、提督の突発的な行動で遮られた。
目にも止まらぬ速さで振り返り、大井の両肩を押さえ、そのまま彼女を壁に押さえつけたのである。
「ッ!? ……な、何よ。頭にきたから力づくで黙らせようってわけですか?」
「……そうだな。当たらずも遠からず、だ。正直、俺も限界なんだ」
「フン…………本当に、見損ないました」
「なんとでも言え。ちょうどいい機会だからお前にも一つ、言っておこうか」
31 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 12:57:16.01 ID:zbzIspRL0
そう言うと提督は大井の肩から手を放し、すかさず右手を彼女の顔の側に
軽く叩きつけるように突き出した。
そう、いわゆる壁ドンである。そしてそうなると当然、お互いの顔の距離も近くなる。
「っ……〜〜〜〜!」
これにはたまらず大井の顔も自然と赤くなってしまう。怒りも半ばどこかに吹っ飛ぶ衝撃であった。
「実を言うとな大井…………最近俺は、お前と話すのが苦しくてたまらなかったんだ」
「え…………」
そして続いたその一言は、彼女の予想の斜め上を急角度でぶっ飛んでいくものだった。
32 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 12:58:10.48 ID:zbzIspRL0
「正確に言うと、北上の話をしている時のお前と一緒にいると――なんだが。いやホント、我ながらよく今まで我慢できていたと思うよ」
「え、え……だ、だって、そんな素振り少しも……」
「そりゃそうさ。あんなに楽しそうに話をしているお前に、嫌そうな顔を見せるわけにはいかないだろ」
「…………!」
「お前ときたら俺と顔を合わせる度に、北上さんが・北上さんと・北上さんに・北上さんを――と、それはそれはもう生き生きと話して聞かせてくれたよな。最初のうちは聞き流すことができたものだが…………まあ、それももう限界なわけだ。できればそろそろ勘弁してほしい、ってくらいにはな」
「そ、そんな……」
突然の告白に大井は青ざめて言葉を失った。
そうなるのも彼女の事情を鑑みれば無理もない話であった。
33 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 12:59:45.38 ID:zbzIspRL0
年がら年中"北上さん北上さん"と口やかましいイメージを持たれがちな彼女だが、実のところそれほどでもなく、普段他の艦娘達とはちゃんと女子らしい会話をしている。
だが、ただ一つ例外として、提督が相手のときは話題が北上一色になってしまうのである。これも仕方のないことで、彼女が提督と話せる共通の話題がそもそもこれしかないのだ。
他の娘達にするようなプライベートな話はどうにも気恥ずかしくなってしまう。かといって、顔を合わせる度に仕事や戦闘についての話を切り出すような無粋な女とも思われたくない――それでも、何か話しかけたい。
その結果、溺愛する北上についての話題をふっかけるようになってしまった。
それが不器用な彼女の、気になる異性への遠回りな接し方なのであった。
それだけに、提督の告白は尋常ではないショックを彼女に与えた。自分が楽しげに話していた内容が相手を――しかもよりによって提督を不快な気分にさせていたのだから。
34 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:01:01.96 ID:zbzIspRL0
これがもし、「もうさーいい加減にしてくんない?」といつもの呆れ顔で提督が面倒くさげに言ったのなら、大井も「私がいつどこで誰に北上さんの話をしようが勝手でしょ?」ぐらい言い返せたのだろう。
しかし、壁ドンされ、互いの息がかかりそうな至近距離で――まるで痛みをこらえるかのような切なげな表情を浮かべる提督を前に、そんな強気に出られるほど今の彼女は強くはなかった。
「で、でもっ、どうして……?」
「どうして? ……おいおい、野暮なことを聞くなよ」
そこで提督は改めてジッと大井の目を見つめた。そして、その視線に身を縮こまらせる大井にそっと告げる。
「気になる相手が、自分のことをそっちのけで別の誰かのことを嬉々として話しているのを聞かされるのがどんな気分か――お前なら分かるだろう?」
35 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:03:07.94 ID:zbzIspRL0
「え……あの、それ……って…………ッ〜〜〜〜!?」
大井の頭がそれを咀嚼し、何とか飲み込んだ時、彼女の顔は音が聞こえてきそうなほど紅潮した。
彼女にとって、それはまさに打ち上げられたロケットのように予想の成層圏の遥か上を行く答えだったのだ。
「俺はこんなにお前のことを想っているのに、お前ときたら北上北上北上……ああ、まったく。今もそうだが、嫉妬でどうにかなってしまいそうだった」
「え、え、えっ……そ、そんなっ……えええっ!?」
先程とはベクトルが真逆で衝撃度も段違いなその告白に、真っ赤に上気していく顔を両手で覆い、平静さを手放してしまう大井。当然提督のことを真正面でまともに見られるわけもなく、顔も俯かせてしまう。
その混乱具合は、さながら打ち上げられたロケットの計器が全てメーターを振り切ってピーピー警告音を発しているかのよう。しかもそのロケットはまっすぐ太陽に向かって飛んでいくのである。最早爆散待ったなし。
36 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:04:29.61 ID:zbzIspRL0
しかし、そう素直に事切れさせてくれるほど、今日の提督は厳(やさ)しくはなかった。
「そういうわけで、だ。今一度言うが、早くそこの北上を連れて帰ってくれ。俺の理性が限界を超える前にな。さもないと――」
そこで提督は顔を覆っている大井の手を優しく丁寧に剥がし、彼女の目を覗き込むように見つめて――
「北上の前で、お前にありったけの情欲をぶつけることになるからな」
――そう言って、妖しく微笑むのであった。
「――――――」
それを前に大井は頭が真っ白になり――
37 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:05:45.05 ID:zbzIspRL0
「――で、あの二人はどうしてああなってんだ?」
ベッドの上で灰になって転がっている北上と、同じくベッドの上で布団を被って塞ぎ込んでいる大井の姿を目にして、木曽はそう尋ねずにはいられなかった。
「北上は提督に挑んで返り討ちにあったにゃ」
「提督に? ……ああ、そういや何か話題になってたな」
「で、大井は北上を連れ戻しにいって巻き込まれたクマ」
「まさに飛んで火にいる夏の虫にゃ」
「それ使い方間違ってないクマ?」
「じゃあミイラ取りがミイラにゃ?」
「そんなところクマ」
「姉さん……」
38 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:08:16.57 ID:zbzIspRL0
相も変わらずマイペースなやり取りを繰り広げる姉二人に溜め息をこぼしつつも、どうやら緊急性はないことを木曽は察した。それでもただならぬ事になっているのは見て取れたのだが。
「まったく、提督にも困ったもんだクマ。何があったか知らないけど、これじゃこの二人は今日一日使い物にならないクマ」
「まー多摩達今日は非番だからあまり困らないけどにゃー。二人とも何だか満更でもない感じだし、ほっといてもいいんじゃにゃい?」
「しっかしあの提督がなぁ……ふぅーん…………よし」
そこで静かに頷いて、唐突に木曽は踵を反した。
「ん? 木曽、どこ行くクマ?」
「提督のとこだ。どんなものか、ちょっと挑んでやろうと思ってな」
「ちょ、もうっ、木曽までそんな馬鹿なこと言うクマ!?」
「んー、もしかして二人の敵討ちに行くつもりなのかにゃ?」
「それも少しはあるけどよ。ほら、天龍の奴も提督にやられたって言うじゃないか。だから俺がいっちょ提督を負かしてやろうと思って」
39 :
◆KFFL7SRdLI
[saga]:2017/08/04(金) 13:09:17.80 ID:zbzIspRL0
「クマ? じゃあ天龍の敵討ちクマ?」
「違う違う。なんで俺があいつの敵を討たなきゃならないのさ」
「じゃあ何なんだにゃ」
「決まってる。あいつを負かした提督に俺が勝てば、それはつまり俺があいつより優れている証明になる。なら、挑まないわけにはいかないだろ?」
「にゃー……そういうこと……」
「まったく、この娘はいつもこうクマ……」
ようするに、いつもの意地の張り合いである。
そんな末っ子のやる気の発露のしょうもない理由に片や納得、片や嘆息といった反応を見せた。
しかしそんな姉達の反応もどこ吹く風といったように木曽は肩をすくめ、再び踵を反してドアに手をかける。
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