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【ミリマス】 『新しい舞台と変わらない想い』
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21 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:35:43.25 ID:GTk52CSjo
「翼、もう袖のところまで行くわよ?」
黒髪の少女はステージ脇の階段に足をかけながら、そう声をかけた。
ステージセットは後方ほど高くなるように段差がつけられているので、このように舞台に上がるための階段が組まれているのだ。
とはいえ今回使うのはせいぜい3,4段の、小さなものである。
「え?もう?」
髪のハネた少女が意外そうに答えた。
少し慌てた様子で黒髪の少女の方へ向かおうとして、自分が手に持っていたものの存在を思い出した。
「あ、そうだ。これ持っててくれますか?」
「わ、私?」
驚きつつも彼女は、少女の持っていたキャンディを受け取った。
ふとそれに目を向けたが、よくあるなんの変哲も無いようなものに見えた。
「それじゃあ2人とも、私たちのことちゃ〜んと、見ててくださいね!」
それじゃあ行って来ますね〜、と言って、少女は袖のところで待つ2人の少女のもとへと駆けていった。
舞台の方向へ向かう少女の後ろ姿は、彼女にとってとても眩しく見えた。
22 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:36:43.67 ID:GTk52CSjo
少女たちは光溢れるステージへと飛び出して行く。
イントロ部分がない楽曲で、3人の登場と同時に歌唱が始まるという演出に客席からの歓声も一気に高まった。
この曲は彼女も知っているアイドルのカバー曲。
彼女はそれを舞台袖のところから見ていた。
カバー曲というのはどうしてもオリジナルと比較をされる。
そういう意味ではとても難しいものでもあるはずだ。
アップテンポな曲調に乗せて披露されるパフォーマンスは、細かく見れば荒いところも数多くあった。
歌やダンスが完璧であったとは決して言えないだろう。
23 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:37:37.42 ID:GTk52CSjo
しかし、ステージのアイドルたちはその楽曲を確かに歌いこなしていたのだ。
彼女がそう感じたのはあることに気がついてからだった。
それはステージ上のアイドルたちの見つめる先。
観客たちひとりひとりであった。
モニタ越しの映像だったならそれは気がつかなかっただろう。
すごく素敵な笑顔だ、と。
その観客たちが見つめるアイドルたちもまたそれは同じことであった。
汗を飛ばしながら、それでいて観客たちをさらに煽っていく。
観客たちはそれに応えるようにますます盛り上がっていく。
それはまるで観客たちとひとつになるように。
24 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:38:09.30 ID:GTk52CSjo
様々な色のコンサートライトと、アイドルたちの歌声とが、会場を鮮やかな色に染め上げていく。
その光景は、彼女のモノクロだった世界をも塗り替えていくようであった。
気がつけば彼女は受け取ったキャンディを両手で持っていた。
体の正面で、優しくぎゅっと握るように。
25 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:38:49.91 ID:GTk52CSjo
その楽曲の名前は『GO MY WAY!!』。
背中を押されたような不思議な感覚だった。
26 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:39:52.50 ID:GTk52CSjo
====3. "チケット"====
公演が終わり、劇場の客席は先ほどまでとの熱気が嘘のように静まり返っている。
客席側の照明はほとんど落とされ、舞台の上も簡素なオレンジ色の照明だけがつけられていた。
彼女はそんな誰1人としていない客席を見つめて舞台の上に立っていた。
目を閉じれば先ほどまでの熱狂が見え、歓声が聞こえてくるように感じられた。
しかし彼女は──だからこそなのかもしれないが──今のこの誰もいない客席の、端から端まで見回して。
静けさにただ耳をすまして。
しばらくの間ずっとそうしていた。
27 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:41:04.93 ID:GTk52CSjo
ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
階段状になっている舞台の段の部分に腰掛けていた彼女は、それを待っていたかのように、ゆっくりとその方向を向いた。
「プロデューサー。」
「ここに居たんですね。」
「もしかして、探させちゃったかしら?」
「・・・いえ、きっとここにいるだろうと思っていました。」
彼女にとってその返事はある意味予感していた言葉だった。
やっぱり見透かされていたのね、なんて言葉は口にはしなかった。
彼はそのまま袖の階段を上がり、彼女の座っている段のすぐ隣の段差に腰を下ろした。
28 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:42:52.58 ID:GTk52CSjo
「プロデューサー。」
「はい。」
「・・・私ね、子供の頃夢があったの。」
「ううん、今の今まで忘れてただけなのかもしれない。」
自身が夢を追うことだなんて、考えたこともなかった。
その理由は彼女が一番知っていた。
今思い返すとそれにどんな意味があっただろうか?
「・・・私、まだ間に合うのかしら?」
消え入りそうな声で、彼女はそう呟いた。
その言葉は決して単純なものではなくて、複数の感情が複雑に絡み合ったようなものであった。
29 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:44:00.22 ID:GTk52CSjo
「大丈夫です。」
彼は迷いのない声で、すぐに答えた。
30 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:55:00.58 ID:GTk52CSjo
「気にすることはなにもありません。大事なのは自分の『心』だと思います。」
「確かに今あなたがしようとしている決断は、決して簡単なものではないでしょう。」
「ですが、」
そう彼は言葉を区切る。
続く言葉を慎重に選ぶようにして。
「その道を選んだあなたは、決してひとりではありません。」
「私にあなたが輝く手助けをさせてください。」
31 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:55:27.54 ID:GTk52CSjo
「そこに夢があるのなら。アイドルでなければ見えない、そんな景色を見てみたいと思うのなら。」
「一歩、前へ踏み出してみませんか?」
そう言って彼は、彼女に右手を差し出した。
32 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:56:28.59 ID:GTk52CSjo
彼女はゆっくりと目を閉じた。
そこでは、彼女はとあるステージに立っていた。
ここよりももっと大きなところだ。
彼女が立つステージを取り囲むように、そして見上げるほど高い位置まで客席が埋め尽くされている。
彼女からはその観客たちの顔がひとりひとりはっきり見えるようであった。
赤と青、そして金を基調とした衣装に身を包んだ彼女は、波のように揺れるコンサートライトの光に包まれて歌うのだ。
それは鮮明に見えるようであった。
大きなステージに立つ、自分自身の姿が。
33 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:58:31.78 ID:GTk52CSjo
彼女はゆっくりと瞼をあげた。
彼女が今立っている場所はまだ観客のいない舞台の上。
その足元には舞台の立ち位置を表す印がつけられていた。
「ありがとう。プロデューサー。」
「おかげで私の気持ちは決まったわ。」
34 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 22:59:09.89 ID:GTk52CSjo
「プロデューサー、私を・・・」
彼女自身が囚われていた籠はもう何処にもない。
彼女の手が動き出す。
それはずっと言えなかった言葉。
だけどそれは同時に、何より言いたかった言葉でもあった。
「私を、アイドルにして!」
差し出した右手をお互いに握り合った。
その目線はまっすぐ前を見据えていた。
「ええ、任せてください。このみさんを必ず、トップまで導いてみせます!」
35 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:00:35.41 ID:GTk52CSjo
====4. 見えなかったもの====
劇場の屋上には2人の影があった。
それはアイドルとプロデューサーであり、お互いがお互いのパートナーである。
彼女のプロデューサーが、プロデューサーとしての能力を十二分にも持っていることを。
彼の心配は杞憂だということを、彼女は誰よりも知っていた。
だから───。
36 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:01:29.63 ID:GTk52CSjo
「あの日聞いた音色を、もう一度聞きたくて。」
それはかつての彼女の願いだった。
「いつか声の届く場所へ行きたくて。」
それはかつての彼女の憧れだった。
「このみさん、それって・・・」
「劇場のみんなと、何よりあなたが背中を押してくれたの。」
「私がアイドルをすることを決めて、プロデューサーについて行って。」
「いろんなことがあったけど、それを後悔なんてしたことは一度だってないわよ?」
37 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:02:14.13 ID:GTk52CSjo
「一歩を踏み出す勇気がどれほど大切か、それはあなたに教えてもらったこと。」
「だからプロデューサー。もっと自分に自信を持ちなさい。」
38 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:03:51.84 ID:GTk52CSjo
彼女は彼のすぐ脇に、ゆっくりと腰かけた。
「ねぇ。プロデューサーは、アイドルをやってる私を頼りないと思ってる?」
突然の問いかけに驚きつつも、彼はすぐにその問いに答えた。
「そんな訳ないじゃないですか!」
「このみさんはたまに突っ走っちゃう時もありますけど・・・。
責任感があって、みんなのことすごく見てくれてます。
すごく信頼してますし、そういうところ、いつも尊敬してるんですから。」
「なら大丈夫。お姉さんが保証してあげる!」
「このみさん・・・。」
39 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:05:05.83 ID:GTk52CSjo
それからしばらくの間お互いに会話は交わさなかった。
風が木々の枝を揺らす音。微かに聞こえる波の音。
お互いがすぐ隣にいることを感じながら、ゆるやかに流れる時間を感じていた。
40 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:06:09.75 ID:GTk52CSjo
====5. 輝きに導かれて====
時間でいえば1分も経ってなかったかもしれない。
ある時、ちょっとした拍子で手が触れ合い、妙に恥ずかしくなった2人はゆっくりと立ち上がった。
「星、きれいですね。」
季節柄この時期は雨や曇りが多いのだが、今ではきれいな星空が見える。
予報によるとしばらくはずっと晴れが続くらしい。
「ちょっと前まで雨が続いてましたから。こうして見上げるのも久しぶりって感じですね。」
「普段こうやってゆっくり星を見ることって、なかなかできないものだものね。」
彼女はそのままずっと夜空を見上げていた。
41 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:06:45.79 ID:GTk52CSjo
「今まで、本当にいろんなことがあったわね。」
そう言って彼女は屋上の柵にもたれかかった。
瞬く星の一つ一つを数えるように、彼女は振り返る。
「プラチナスターライブでユニットを組んだり、キャラバンで色々なところへ行ったり。」
「武道館でいっぱいのファンの前で私が歌うなんて、ここに来る前の自分に言っても信じなかったでしょうね♪」
彼女は夜空を見上げながらそう言った。
彼女のその横顔はまさしく大人の女性のそれであった。
42 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:08:41.76 ID:GTk52CSjo
「あの場所で見た景色、プロデューサーが見せてくれたあの景色は、今でもずっと目に焼き付いてるわ。」
「初めての単独ライブも、みんなで出演した武道館も。アイドルになってプロデューサーやみんなと作ってきたこの時間全部が、ずっと私の宝物なの。」
「このみさん・・・!」
彼女にとってそれがどんなに大きい存在だっただろうか。
彼にとってその言葉がどんなに大きなものだっただろうか。
それはもう、最高の軌跡だろう。
43 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:09:43.86 ID:GTk52CSjo
「わたしをステージに立たせてくれてありがとう、プロデューサー。」
「わたしをアイドルにしてくれて、本当にありがとう。」
「そっ、そんなこと・・・。俺は、ただ、背中を押しただけですからっ・・・!」
彼は胸にこみ上げるその想いに耐えかねて、思わず目線を外してしまった。
「あれ?プロデューサー。ちょっと泣いてるんじゃないの?」
彼女はあえてわざとらしく、彼をからかうようにそう言った。
44 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:10:28.19 ID:GTk52CSjo
「な、泣いてなんかないですって・・・。」
「ほらほら。お姉さんの方、まっすぐ見てごらんなさい?」
「こ、このみさんが小さいから、どこにいるのか分からないんです!」
「こーら、プロデューサー。そうやってごまかさないの。」
45 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:11:01.07 ID:GTk52CSjo
彼は親指で目元をぬぐって、一呼吸してから、彼女に向かい合った。
「俺だって、アイドルのみんなと、このみさんと出会えて本当によかった。このみさんがいたから今の自分があるんです。」
彼は溢れ出そうなものを止めるように、何秒かだけ目を閉じた。
出会ってから色々な想いが重なって、夜空を彩る星々のように広がっていった。
46 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:12:30.92 ID:GTk52CSjo
彼女の目をまっすぐ見据えて。
この想いを今の自分で伝えるために。
「このみさんを、もっとずっと輝かせられるように頑張ります!だから・・・」
「だからこれからも、隣で歩いてくれますか?」
彼女の答えはあの日からずっと変わらない。
きっと、この先もずっと。
「ええ、もちろんよ、プロデューサー。アイドルの道はまだまだこれからだものね。」
「これからもよろしくね、プロデューサー♪」
それから2人はあの日のように、手を握り合った。
もう一度この場所から、新しい始まりを。
47 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:13:30.60 ID:GTk52CSjo
====6. Brand New Melody.====
ある人魚は、あの日見たきらめきを求めて。
あの場所は今まで住んでいた場所とは全く違う世界。
踏み出さなければ今までとなんら変わりない生活を送れたはずだろう。
しかし、彼女は魅せられてしまったのだ。
海の外の世界に。
あの光り輝く舞台に。
泡になり消えてしまうことだって覚悟の上で、一歩を踏み出す脚を手に入れた。
もう後戻りはできない、それもわかっている。
海の色しか見えなかった彼女にとって、この世界のすべてがとても色鮮やかで。
この胸の高鳴りが彼女を突き動かすのだ。
48 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:14:06.72 ID:GTk52CSjo
彼女に脚を授けた男はいま、彼女の隣にいる。
焦って周りが見えなくなることもあるだろう。
不安に駆られて立ちすくんでしまうこともあるだろう。
でも、彼女たちならきっと平気だろう。
振り返ればそこには今まで歩いて来た道があるはずで。
しっかりと前を向けばその道はずっと先へ続いているのが見えるはずだ。
時には星空だって見上げればいい。
その景色はきっと、先へ進むたびに輝きを増していくもので。
海の底では見えなかったものがそこにはあるはずだから。
彼女たちはどこまでも進んでいくのだろう。
彼女たちの前にまだ知らぬ扉がある限り。
その先に、夢が叶う場所がある限り。
49 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:23:29.78 ID:GTk52CSjo
以上となります。
4年目を迎えて、武道館を超えて、新たなステージへとあがった先からは何が見えるのだろう。
そんな思いから書いたものとなっています。
>>1
に挟み込み損ねてしまったのですが、拙作は、
【ミリマス】 『新しい舞台と変わらない想い』
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497193758/
と関連したものとなっています。
直接的なつながりはありませんが、こちらも読んでいただければ幸いです。
今年もこうしてこのみさんをお祝いできるのが本当にうれしいです。
このみさん、誕生日おめでとうございます!!
50 :
◆q5RWMTtiKKUe
:2017/06/12(月) 23:24:08.47 ID:GTk52CSjo
>>49
【ミリマス】 踏み出す一歩と胸の高鳴り
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465663295/
(こっちでした)
51 :
◆NdBxVzEDf6
[sage]:2017/06/13(火) 03:39:25.76 ID:HKhPcgvv0
アイドルになるきっかけの話いいね、誕生日おめでとう
乙です
>>20
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/CPQLOTY.jpg
http://i.imgur.com/3ZGepze.jpg
最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/aW1JkPS.jpg
http://i.imgur.com/tRy1qP7.jpg
伊吹翼(14) Vi/An
http://i.imgur.com/Y6QEN5Q.jpg
http://i.imgur.com/B5I0o4U.jpg
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/13(火) 15:43:00.61 ID:QNa/DBUAO
このみさんの心持ちが素敵だった
水中キャンディ踏まえて本当にいい大人だよね
乙
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[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
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