【ミリマス】 『新しい舞台と変わらない想い』

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1 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 00:09:18.69 ID:GTk52CSjo
1. CHANGIN' MY WORLD

「すみません、このみさん。遅くまで事務仕事手伝わせてしまって」

「あら、いいのよ。最近みんなの仕事が増えてきたからプロデューサーも忙しいでしょ?」

階段を上る足音がふたつ響いている。
2人は劇場の事務室での仕事にキリをつけ、休憩のため屋上へ続く階段を上っているところだ。

あのミリオンスターズが夢みた舞台、武道館ライブから3ヶ月が経った。
37人が描いた虹色の看板から始まったライブは、観客たちすべてを熱狂へと誘った。
変わっていったのは季節だけではなく、彼女たちを取り巻く環境もまた同じで。
全員で作り上げたあのステージは多くのメディアに取り上げられ、劇場の外での仕事も大きく増えていった。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497193758
2 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 00:11:13.77 ID:GTk52CSjo

階段を上がり扉を開けた先は、大きくひらけた屋上へと続いていた。
屋上全体は照明で明るく照らされており、屋上の端までしっかり見渡せるようになっていた。

「プロデューサーも大変よね。昼もあちこち行ってたんでしょう?」

「ええ、局の挨拶回りに、みんなの撮影現場もいくつか。あと今度の撮影の打ち合わせもですね。」

「最近になってようやくこの仕事量にも慣れてきましたよ。」

「あまり根を詰めすぎないようにね。最近のプロデューサー、ちょっと心配だから。」

「・・・そう、ですね。」

そう言って彼はフェンスを背にゆっくりと腰を下ろした。
3 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 00:16:58.12 ID:GTk52CSjo

「プロデューサー、もしかして何か悩み事でもあるの?」

「え?」

「だって最近、何か浮かない顔してるもの。それくらいわかるわよ?」

「そんな、悩みなんてほどのことじゃ・・・」

「ほら、心当たりがあるんじゃない。」

彼はしまった、といった表情を浮かべた。
話をするかどうか逡巡していたが、

「相談するのに私じゃ頼りないかしら?」


そんなこと言われたら話さざるを得ないじゃないか、
彼はかなわないなといった顔でこう答えた。

「・・・このみさんはずるいですね。」
4 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 00:22:38.79 ID:GTk52CSjo
彼は左手に持っていた缶コーヒーを一口だけ飲んでから、こう続けた。

「武道館の時の話です。」

「みんなにとってあの場所でライブをすることはすごく特別で。俺自身の夢でもあったんです。」

「でも、日にちが近づくにつれてだんだん不安になっていったんです。」

「ライブが終わった後の命運がこのライブで全部決まってしまうんじゃないか。そう考えてしまうことがよくあったんです。」

「もちろんみんなを信頼していなかったという訳では全然なくて、むしろそこは安心していましたんです。」

「ただ、自分がもっと何かできないか、何かが足りてないんじゃないか、って思ってしまって。」

「最近、時々思うことがあるんです。みんなの頑張りに俺が追いつけているのかな、ってことを。」
5 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 00:24:12.64 ID:GTk52CSjo
「・・・、変な話聞かせちゃいましたね。すみません、あまり気にしないで・・・」

「ねぇ、プロデューサー。こんな話知ってる?」

彼の話にかぶせるようにして彼女は話し始める。
彼女は体を預けていたフェンスから体を起こし、彼の目を見て続けた。

「ある女の子がアイドルになった話。」

「もともと事務員志望だった女の子が、ステージで輝く道を選んだ話を。」
6 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2017/06/12(月) 00:43:29.09 ID:uLebPCHX0
昔話かな?

馬場このみ(24)Da/An
http://i.imgur.com/fxNyYKh.jpg
http://i.imgur.com/vczu8xc.jpg
7 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:21:10.90 ID:GTk52CSjo
>>1訂正

×
1. CHANGIN' MY WORLD


====1. CHANGIN' MY WORLD!!====
8 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:22:17.85 ID:GTk52CSjo
====2. "キャンディ"====


とある事務所にある女の子がやってきた。
彼女ははじめ事務員としてその事務所へやってきたはずだったのだが。

「私が、アイドルに・・・?」

書類の手違いでアイドル志望として話が進んでいたのだった。
結局、事務所としてはどちらか本人の選択を受け入れる、と言うことになった。


彼女は子どもの頃、アイドルに惹かれていた。
テレビの向こう側でキラキラと輝く姿を見て、いつか自分もこんな風に・・・。
9 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:23:12.43 ID:GTk52CSjo
しかし、結局それは憧れのまま終わってしまった。

医者になるのが夢だった子どもは、大人になって医者になれたのだろうか。
将来の夢はスポーツ選手だと言った子どものうち、どれだけがその夢を叶えられたのだろうか。

自分の小柄な体格を気にして、早く大人だと認められたかったからなのか。
長女として、妹にしっかりした所を見せたかったからなのか。
彼女が日々を過ごすたびに、夢は遠ざかっていった。
子どもが話すような"くだらない"夢は心の片隅へ追いやられ、その分だけ"現実的"な将来を考えるようになっていった。

表計算ソフトの使い方も覚えた。
就職に有利になるように資格の勉強もして、普通の会社に就職した。
10 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:24:30.63 ID:GTk52CSjo
この事務所でだって、当然事務員をするつもりだった。

「私がアイドルだなんて。」

今の彼女の年齢は世間一般でいうアイドルよりも、確かに少し高いだろう。
彼女にとってアイドルという不安定な職業に就くということも不安に感じられた。
しかし何よりも、アイドルになった自分の姿を想像できなかったのだ。

「そういう経験もないし、きっと私には・・・。」

事務所に電話をかけて、「アイドルはできない」とそう伝えるだけだった。
受話器を取って、メモに書いておいた電話番号を一つずつ押していく。
しかしその度に受話器を途中で戻してしまう。

彼女は閉まったままの窓からふと外をのぞいてみた。
窓の向こうに見えた曇り空は街を灰色に染めあげてしまっている。
それはまるで彼女自身の心を映しているように感じられ、思わずため息が溢れた。

結局彼女はその日のうちに決めることができなかった。


次の日、答えが決まらない彼女の元に一本の電話が鳴る。
それは事務所からの電話だった。
「もしどちらか決めかねているようなら、劇場に今日の公演を見にきてくれませんか?」
11 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:25:14.00 ID:GTk52CSjo
彼女は開演前に会場の近くで、プロデューサーと落ち合うことになった。

会場前の広場にはすでに大勢の人々が集まっていた。
物販列に並んでいる人たち、入場待機列に集まっている人たち、彼らを誘導するスタッフたち。
イベントごととしてはよくある光景だが、この時の彼女の目には少し違ってみえた。
12 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:26:00.87 ID:GTk52CSjo
「あ、お疲れさま。プロデューサー。」
少し小走りで近づいてくる男性を見つけた彼女はそう声をかけた。
彼の腕には、スーツの上からSTAFFと書かれた腕章がつけられている。

「急に呼び出してしまってすみません。どうしても、どちらか決めてしまう前に公演を見てほしくて。」

「ごめんなさいね、プロデューサー。今日は忙しいでしょうに。」

「えっと、チケット代いくらだったかしら?」

彼女が財布を取り出しながらそういうと、男性はきょとんとした顔を見せたあと少し笑って、

「ああ、それなら大丈夫ですよ。」

「えっ?大丈夫って・・・?」

「それより、もう入った方がよさそうですね。行きましょうか。」

彼は時計を確認してそう言った。
13 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:27:17.93 ID:GTk52CSjo
彼女はいまいちよくわからないまま彼の後ろを歩いてついていく。
彼が案内する先は公演のお客さんが列を作っている入場口とは逆向きの方向。
建物の裏側にある扉の前でふたりは立ち止まった。

「え?これって通用口じゃない。もしかして・・・」

「ええ。あなたはもうシアターの仲間なんですから。」

彼はそう言ってポケットからネックストラップにつけられたカードを取り出し、扉の横に取り付けられた機械にかざした。
電子音とともに鍵が開く音がなり、彼はゆっくりとその扉を開けた。

「ようこそ、765プロライブ劇場へ。」
14 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:28:11.69 ID:GTk52CSjo
舞台裏のスペースへと案内された彼女はなんだか落ち着かなかった。
当然それは仕方のないことだろう。
舞台袖に入る機会なんて今までなかったし、考えたこともなかったのだから。

そこでは今日の公演に出演するアイドルたちが素敵な衣装を着て準備していた。
彼女にとっては事務所で少し話したことがある子もいれば、まだ会ったことのない子もいた。

進行表の最終確認を行う子や、イヤホンで曲を聴いている子、待ちきれずに体を動かしている子とさまざま。
彼女は、慣れない状況に困惑しているのとは違った心情を自身に感じていた。
自分が出演するわけではないのに、アイドルたちの緊張や期待が自分に伝わってきたかのようであった。

出演者やスタッフの待機場所にもなっているところに彼女は座っていた。
そこには10脚ほどの折りたたみ式の椅子が置かれ、設置されているいくつものモニタにはそれぞれ別のカメラからのステージ映像が映されていた。
15 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:29:09.86 ID:GTk52CSjo
開演を告げるはじまりのベルが鳴る。
客席から聞こえる大きな歓声は、舞台裏にいた彼女にその熱気を伝えるのに十分すぎるほどだった。
アイドルたちが一斉に暗転しているステージの上へと上がっていく。

彼女は舞台裏で、自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
楽曲のイントロが流れ、スポットライトが一斉にアイドルたちを照らす。
いっそうに強くなる歓声。

これが、アイドル。
彼女はそう強く感じさせられた。
16 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:29:48.76 ID:GTk52CSjo
楽曲がもともと持っている色に、アイドルたちは自分たちの色を乗せていく。
歌うパートひとつ取っても楽曲は様々な色に彩られていくのだ。
ひとつひとつの色は全て違っていて、ある一つの形になっていく。
この曲も、また次の曲も。
カラフルに彩られた時間はあっという間に過ぎて行き、公演はますます盛り上がりを見せていった。
17 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:32:15.85 ID:GTk52CSjo
「あーっ!」

それは公演の中盤ごろだっただろうか。
彼女は突然あらわれたある少女に抱きしめられた。

「この子かわいい!ねぇプロデューサーさん、この子新しく入ってきたんですか?」

近くで見ていたプロデューサーはそれを見ながら少し笑っていた。

「もう、未来。急にどうしたの〜?」

髪留めの少女に話しかけたのは、棒付きのキャンディを持った髪のハネた少女。
なんとなく猫っぽい印象を受けるような子だ。

「あ、翼!ほら見て、この子!」

「ちょっとちょっと。私はこう見えても、24歳のオトナなのよ?」

「ほら?この子カワイイでしょ?」

「ちょ、ちょっと、本当なんだからね!?プロデューサーからも説明して!」

このまま様子を見ているのも面白そうだと彼は思ったが、髪留めの少女に彼女が撫でられそうになっていたので彼も説明に加わった。
彼女がどういう理由でここにいるのかも含めて。そして・・・。
18 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:32:57.14 ID:GTk52CSjo
「えっ!?本当に本当に24歳なんですか!?」

「本当に本当に24歳!」

髪のハネた少女がその会話を見て笑う。
説明のために取り出した免許証をしまいながら彼女は、まったくもう、ともらした。
19 : ◆q5RWMTtiKKUe :2017/06/12(月) 22:33:57.15 ID:GTk52CSjo
「そっか〜。それじゃあまだ、アイドルになるかどうかって、決まってないんですね〜。」

髪のハネた少女に何気なくそう言われ、彼女は考え込んでしまう。
確かにそうだ。ライブに圧倒されてはいたが、もともと自分の中でどうするか決めるために来たんじゃないか。

私は───。
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