宮尾美也「はっぴー・もーめんと!」

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20 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:21:35.33 ID:Ekk8e1lEO


「あの夜、お前の話を聞いてな…どうしても、何とかしてやりたくなって…」

道行く人から間違われるくらい、私は宮尾美也に似ています。
有名人に、とても似ている。
それは決して、いい事ではありませんでした。
私の心が、限界まで擦り減るくらいには。

宮尾美也に似ていると言う印象しか抱いてもらえず。
宮尾美也に似てるね、なんて事しか言われず。
本当の自分を見てもらえる事なんて、滅多に無くて。
街で話しかけられた人に違うと伝えると、とてもガッカリした顔をされて。

宮尾美也と間違われてストーキングされた時、とても悲しかったんです。
怖いと言う感情ももちろんありましたけど。
やっぱり私は、宮尾美也として見られているのに。
それなのに、その恩恵は一切ありません。

見た目がそっくりで、趣味まで同じ宮尾美也をテレビで見るたびに。
なんで私じゃないんだろう、って悔しさと怒りすら覚えて。
ライブの映像がテレビで流れて、そのステージの中心に宮尾美也が立っているのを見るたびに。
彼女のせいで、私はこんな目に、なんて…

いい事なんて一つもない。
彼女はあんなに輝いているのに、私はこんなに辛い思いをして。
宮尾美也の偽者としての人生しかなくて。
けれどそんな理由で髪を切ったり整形するのは、悔し過ぎて出来なくて。

結局、恐怖と寂しさと悔しさと。
憧れと哀しさと羨ましさと辛さと。
その全てがごちゃごちゃになって、全部を放棄したんです。
もう私に、自分だけ幸せな道なんてないんだろう、と。

そうして全てを諦めて、全てを叫んで。
意識と記憶を失うとほぼ同時に。
プロデューサーさんに、出会ったんです。
21 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:22:32.24 ID:Ekk8e1lEO



「宮尾美也と似ていて自分のものにしたかったから、って気持ちが全くないと言ったら嘘になる…でも、どうしても…目の前の女の子を、少しでも…」

宮尾美也で、いさせてあげたかったから。

それを聞いて、安心しました。
その言葉はきっと、本物で。
ならきっと、この狭い世界だけなら、私は本物の宮尾美也で。
それで、充分でした。

「…貴方を恨んでなんていませんよ。私は、幸せでしたから」

あれほど、憎んでいたのに。
あれほど、辛い思いをしたからこそ。
私は、きっと。
宮尾美也に、なりたかったんです。

それに、彼の優しさは本物で。
そんな事に関係なく、私は彼と居る時間が大好きで。
彼と一緒に幸せを積み重ねたい、と言う想いは。
紛れもなく、本物ですから。

だから…

「明日からも、私を…宮尾美也でいさせてくれませんか?」

「…あぁ。お前が、それでいいのなら」


22 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:23:09.06 ID:Ekk8e1lEO



それからの日々は、とても楽しいものでした。
きちんと変装すると言う条件で、彼とデートしたり。
もういいだろうという事で、一緒に家でテレビを見たり。
二人でふらふらと、私が散歩していた道を歩いたり。

気付かないふりをやめたからこそ、気付ける幸せがあって。
二人でいる時だけですけど、私は本物の宮尾美也で。
彼女に憧れていたからこそ、私は完璧な宮尾美也として振るまえて。
そして、その上で。

きっと彼は、宮尾美也が大好きなんだ、って。
そう、感じました。
もちろん彼は口にはしませんでしたけれど。
見ていれば、分かりやすいものでしたから。

アイドルとプロデューサーの恋愛なんて、許されない。
だから彼は、宮尾美也に想いを打ち明ける事は出来ない。
で、あるなら。
アイドルでない宮尾美也である私なら…

でも、分かっていました。
この幸せは、今だけのものだと。
私が本当に本物の、彼だけのではない宮尾美也だとしても。
きっと、彼の事を…


23 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:24:00.52 ID:Ekk8e1lEO


予期していた通り、その日は訪れました。
帰宅した彼は、どこかよそよそしく。
きちんと目を合わせてくれる事が、少なくて。
話しかけても、どこか上の空。

おそらく、いえ、間違いなく。
宮尾美也が、プロデューサーさんに告白したんだと、そう感じました。
もちろんプロデューサーさんは嬉しかったでしょう。
きっとずっと大好きだった宮尾美也と、結ばれる可能性が出たのですから。

けれど、すぐには頷けなかったんだと思います。
だって今は、私と暮らしているんですから。
家にはまた別の、宮尾美也がいるんですから。
だから…

「プロデューサーさん〜、少しだけいいですか〜?」

私は、最後の最後まで宮尾美也で。
当然本物の宮尾美也には及ばないでしょうけど。
それでも、一つだけ勝てるとしたら。
今、この瞬間に。

「どうし…?!」

ちゅっ、と。
頬っぺたに、触れるだけのキスをしました。
それだけでもう、我慢しようとした涙は堪えきれなくて。
それでも、想いだけは伝えました。

「今まで幸せでした…これからは、彼女の隣で笑っていてあげて下さい」

私の小さな願いを告げて。
私は家を飛び出しました。


24 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:25:39.99 ID:Ekk8e1lEO




電車を乗り継いで、私は海へとたどり着きました。
その間思い返していたのは、彼との幸せな日々。
彼にとっては偽者だったかもしれませんけど。
私にとっては本物の幸せでした。

でも、もう。
本人に、宮尾美也としての位置と名前をお返ししないといけませんでしたから。
これかれ彼の隣に立つのは彼女であるべきで。
これかれ彼の隣で幸せになるのは、彼女であるべきで。

涙は、もうありません。
彼女に対する恨みは、もうありません。
むしろ、感謝しているくらいです。
そのおかげで、私はこの辛い人生で幸せな一瞬を積み重ねられたのですから。

それに、きっと本物の宮尾美也よりも先に。
彼とキスする事が出来ましたから。
唇と唇では、彼に名前を呼んで貰えませんから。
私は、それで充分です。

崖の下で打ち上がる水飛沫が視界を黒から白に染めます。
きっと、私も。
公園でみた蝶の様に、自由に。
遠くまで、飛んでいける筈です。

「…さようなら…結局、呼んで貰えませんでしたね…」

でも、願わくば、せめて。

一度でいいから、彼に。
私の名前を、呼んで欲しかったですーー

25 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/06/19(月) 21:26:39.78 ID:Ekk8e1lEO

>>19はミスです
これで、めめんと系のお話は終わりです
お付き合い、ありがとうございました
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 23:53:37.82 ID:KVFnH+Of0
美也かと思ってた・・・・・>が、悲しいねえ
乙です
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 08:03:01.46 ID:zzyTsLnyO
また別パターンで来るとは
色んな記憶喪失ネタがあるのねぇ
3つで一番えげつない話だったかもしれんがこれが一番好きだわ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/31(月) 23:48:39.50 ID:5XCfjZIP0
三部作皆悲しすぎる……
元ネタがすでに狂気を孕んでいるとはいえ……
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