曜「梨子ちゃん、怒るわけないよ」

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131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 23:09:00.17 ID:cFEzUClWO
もっと、言葉をお願い。
そんなのじゃ物足りない。
確信できない。

「だって、梨子ちゃんは……東京の人で、いつまでも沼津にずっといるって訳じゃない。そばにいる、なんて……簡単に約束しちゃダメだよ」

「どうして? 私は沼津にずっといるんじゃなくて、曜ちゃんとずっと一緒にいたいのよ。それに、簡単に言ったつもりもない」

イライラしてきた。
この分からず屋。
私だって、どうやったら一緒にいれるのか考えてるのに。
考えても考えても、いつも自信はない。
先のこと?
不安しかないよ。
それでも、一緒にいたいの。

「だから、それが……ダメって」

「何がダメなの」

私じゃダメなら、はっきり言って欲しい。
千歌ちゃんじゃないとダメだったなら、そう言って。

「梨子ちゃんが気に入った人じゃないと」

ぐだぐだと曜ちゃんは言う。
たぶん、曜ちゃんの頭の中は迷路になってるんだ。
今は何を話しても、迷うだけかも。
私はため息をついて、小さく笑った。

「……曜ちゃんも見つかるといいわね」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 23:12:50.65 ID:cFEzUClWO
次から曜ちゃん視点です
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/18(日) 23:13:32.70 ID:lDXYFq7q0
期待
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 23:24:14.46 ID:cFEzUClWO
目が覚めたら、自分の部屋にいた。
不思議な事じゃないんだけど、寝返りを打つと何かにぶつかったから、ぎょっとした。
梨子ちゃん?
深夜2時。
私は一体、いつベッドに入ったんだろう。
梨子ちゃんは、どうして一緒に寝てるんだろう。

しばらく、梨子ちゃんの寝顔を見て、思い返す。
徐々に、記憶が戻って来る。
戻らなくてもいい記憶と一緒に。

「ひ……」

叫びそうになって、口を抑えた。
やらかした。
思いっきり、やらかしたぞ、渡辺曜。
梨子ちゃんの膝枕を受けていた自分が、嘘のようだ。
静かに深く、枕を頭に打ち付けた。

「あ……」

甘酒のせいかな。
香りが漂っている。
美味しくて、ついつい飲み過ぎて。

よし、お風呂、入ろう。
明日、学校あるから、梨子ちゃんもお風呂入りたかっただろうに。
もぞもぞと動くと、お腹に何かが――梨子ちゃんの腕が巻き付いてきた。

「わっ」

「どこ、行くの」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 23:29:34.40 ID:cFEzUClWO
背中のすぐ後ろで声が聞こえた。

「ご、ごめんね……私、梨子ちゃんにとんだ事故を」

「どこ行くのって聞いてるのよ」

恐い。

「お、お風呂に」

「一人で?」

「は、はい」

「私も入りたい」

「でも、狭いよ?」

「いいの。このまま寝るのは、イヤ」

ごもっとも。

「んー、じゃあ私後で入るから」

「さっきまで酔ってたのに、ダメよ。一緒に入ろう?」

「一緒にって」

ウエストがきゅっと締まる。

「お願い……」

お願いって。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 23:43:30.66 ID:cFEzUClWO
ママはまだ帰ってきていなかった。
私と梨子ちゃんは脱衣所で、背中合わせに服を脱いだ。
前側はタオルで隠していたけど、それ以外の露出した肌が色っぽくて、本当に同い年かと疑ってしまう。

「曜ちゃん、そんなに見られると恥ずかしい……」

「え、ごめん」

見過ぎてた。
急ぎ足でお風呂場の扉を開けて、一歩踏み出す。
と、足元が滑った。

「曜ちゃんっ」

梨子ちゃんに抱き止められる。

「バカ、心臓止まるかと思ったでしょ」

「う……すみません」

後頭部に生の乳が当たっていた。
女の子同士でも、それは、かなり心拍数が上がる訳で。
触れ合っている肌と肌の感触が、柔らかくて。

ふと落とした視線の先に、彼女の脇腹の痛々しい傷跡があった。

「そこ、お湯つけても大丈夫なの?」

「ええ、もう塞がってるから」

シャワーを捻って、互いに掛け合った。
そう言えば、小さい頃、千歌ちゃん家の温泉で、よくやったな。
今はしなくなったけど。みと姉とかとも入ったりして。

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 00:18:50.39 ID:TqcAjD03O
無邪気だったな。

「頭洗ってあげるよ、梨子ちゃん」

「じゃあ、お願い」

「お湯熱くない?」

「ちょうどいいよ」

背中側からゆっくりと、髪の毛にシャワーを当てていく。
千歌ちゃんの事、意識し始めて急に恥ずかしくなったっけ。

「シャンプーつけるね」

「はーい」

泡立てて、髪を痛めないように洗ってやる。
背中に落ちていく泡。

『曜ちゃん! くすぐったいよー!』

『千歌ちゃん、我慢しなー』

『まだー?』

『もう少しだよ』

幼い頃に見た、あの子の背中。
いつも、そばにいてくれた。
言葉さえいらなかった。

「梨子ちゃん、かゆい所ない?」

「うん」

「洗い流しますぞ」

「お願いします」


138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 00:33:59.08 ID:TqcAjD03O
でも、本当は違った。
言葉が必要だった。
千歌ちゃんにではなく、私に。

『曜ちゃん、すごーい! 千歌にはできないよ』

『千歌ちゃん、見ててね!』


『やりたいこと、まだ見つからなくて……』

『そっか。見つかったら最初に教えてね。応援するよ』


『スクールアイドル、やりたい!』

『水泳部と掛け持ちだけど、私も入るよ!』


『立派な高海千歌になるから、曜ちゃんも――』

『うん――』

腕に、梨子ちゃんの手が触れていた。

「曜ちゃん」

「あ、コンディショナーつけるね」

「うん」

私が笑うと、梨子ちゃんもつられたのか微笑み返す。
なんてことない仕草なのに、どうして――。

『そばに――』

千歌ちゃんが飛び出す時、私も一緒にいたいと思ったんだ。
そのままずっと一緒に。
一人じゃ、心細いだろうって、危ないだろうって、決めつけてさ。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 00:51:28.58 ID:TqcAjD03O
悪い奴だったんだ。
千歌ちゃんが輝くのを誰よりも後押ししてるフリをしていただけだ。
親友のフリをしていただけだ。
その方が、近づけたから。
手に入らないと分かったら途端に臆病になってしまう。

「曜ちゃん、交替しよっか」

「じゃあ、頼みます」

「大丈夫? まだ、ぼーっとしてるみたい」

「うん、そうみたい」

「私に、もたれてていいよ?」

背中に、梨子ちゃんのお腹が当たった。
どきりとした。
でも、甘えたかった。

「そうするね」

こんな悪い奴でも、優しい人は現れるんだね。

「曜ちゃん、目、閉じないと……」

「わっと」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:08:12.26 ID:TqcAjD03O
「お客さん、力加減どうです?」

「良い感じですな」

「そうでしょう」

「なんじゃそりゃ」

目を閉じて、いっそう感じる。
その声音の優しさ、心地良さ。

「曜ちゃん、髪短いから洗うのラクでいいな」

「乾くのも早いよ。2分くらい」

「早すぎる……」

シャワーがかけられる。
その後、体は各々で洗って、湯船に浸かった。
不思議と、入る時より気持ちが落ち着いていた。
正面に体育座りする梨子ちゃん。
眠そうな顔。
洗い流されたものがあったのかも。

『顔色を窺ってばかりいると――』

『大切なものが増えたんだ――』
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:25:03.85 ID:TqcAjD03O
一緒にいてくれると嬉しい。
手を握られると、恥ずかしくなる。
でも、繋いでると安心する。

「曜ちゃん、手出して」

「はい?」

水音が跳ねた。
梨子ちゃんの腕が伸びて、私の指の隙間に彼女の指が収まっていく。

「して欲しそうだったから」

梨子ちゃんが、目を細めた。
そうだ。
増えたんだ。
私の大切な人が。
信じても、離れていくかもしれない。
そう思うと、怖くなる。
だから、それ以上が分からない。
想像すらできない。
この気持ちは――。

みんなで楽しくするフリを止めよう。
私の中に、一人占めしたい醜い自分がいることを認めてあげないと。
この気持ちは――。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:46:39.41 ID:TqcAjD03O
この気持ちを表わすとしたら――。

「梨子ちゃん」

湯船が揺れる。
彼女の瞳から、目が離せない。
つい先ほど、眠りについたと思っていた心臓が蘇えり脈打ち出す。

「曜ちゃん……?」

水気を帯び、色艶の増した、唇。
近づきたくなる。
片手を、浴槽の縁に面したタイルに当て、膝を少し立てる。
梨子ちゃんは、でも逃げようとしない。
頭の中は、触れたい、それだけだ。
触れて、
もっと繋がりたい。

互いの吐息がかかった。


ガチャン。
玄関の鍵が開く音。
ガサガサとナイロンの袋がこすれ合う。
音が近づいてきて、

「あれ、曜ちゃん、こんな時間にお風呂?」

お風呂場のガラス戸越しに、ママの影が映った。

「あ……う、うん」

「早く寝るのよ」

「は、はーい」

無理矢理明るく返事をした。
その後は、梨子ちゃんの顔を見ることができなかった。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:49:10.95 ID:TqcAjD03O
今日はここまで
また明日以降で
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 04:58:25.55 ID:zuub45n1o
あぁ…
もどかしい…
だがそれがいい…
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 20:34:38.71 ID:U8JUtDwSO
キマさない
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 00:40:03.63 ID:hVoKMaCTO
お風呂から出て、心ここにあらずな状態で、ろくに体も拭かないまま寝巻に着替えた。
梨子ちゃんをベッドに案内して、床で寝ようとしたら、無理やりベッドに引っ張られてしまった。
しょうがないから、その時は梨子ちゃんの隣に潜った。
電気を消して、目をつむる。
喋らなければ、ただ静かで。
梨子ちゃんの呼吸が気になってしまって。
しばらくして、梨子ちゃんが寝付いた頃に、私はタオルケットを一枚お腹にかけて床で眠ったのだった。

そんな状態も相まって、私は翌日、見事に風邪を引いていた。

「……ッ」

目覚めた時に、喉が痛くて声が出なかった。
とにかく体が寒くて、節々が痛みを訴えていた。
心配する梨子ちゃんをなんとか学校に送り出し、今、一人、ベッドに横たわっている。

SNSに、千歌ちゃんからスタンプとお見舞いの言葉が来ていた。
返す気力も無く、スマホを床にそっと置く。

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 01:23:17.14 ID:hVoKMaCTO
風邪なんか引くの、久しぶり。
体調管理には気をつけてたつもりだったのに。
一瞬の油断とやらが、命取りってやつだ。

喉の奥は焼けるように熱い。
夏なのに全身は寒くて寒くて、暖房の温度を上げても治まらない。
寝ようにも寝れるわけもなく。
昨日まですぐ隣にいた梨子ちゃんの残像が目の前にちらついていた。

梨子ちゃん。
想像の中で、彼女は笑っている。
こちらに手を伸ばして、頬を撫でてくれるのだ。
指を絡めるように手を握ってくれて。

現実は、違う。また、困らせた。気を遣わせた。
横を向く。
少しだけしわになったシーツ。
くぼんだ部分が、そこにいた証拠。

「こほッ……」

昨日、私は――何をしようとした。
甘酒のせい。
そう言ってしまうのは簡単だけど。
それで片づけてしまって、本当にいいのかな。
なんて、不誠実。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 01:49:04.55 ID:hVoKMaCTO
そうだ。
私は、千歌ちゃんをとられたくなかっただけだったのに。
いつの間に、梨子ちゃんにすり替わってしまったんだろう。
まるで、代わりを求めたみたい。
恐ろしい。
自分が。

目の前にあった、
光る太陽も、
その輝きへ羽ばたいた鳥も、
手に入れることなんてできない。
ずっと下の方で、見上げているだけ。
変わらない事を望んでいた。
変わらなくてもいい。
そうだよ。
変わらなくてもいい。
飛び立つ鳥を捕まえることなんてできない。
私は地上で精一杯の事をすればいい。
私の舞台はそこなんだから。

光る太陽も、
その輝きへ羽ばたいた鳥も、
繋ぎ止めちゃいけない。
自由なんだから。
地上にある、重たい鎖の事を知られちゃダメなんだ。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 01:59:48.54 ID:hVoKMaCTO
寝苦しいながらも、私は少しだけ眠った。
何度か起きて、水を飲んだ。
昼時になり、お腹も空かず、飲むタイプのゼリーをすすり、また横になった。
締め切ったカーテンから、茜色の西日が射しこんだ頃、もう一度目が覚めた。

「曜ちゃん、起きた?」

「梨子ちゃん……」

喉はだいぶマシになっていた。

「寝ぼけてる。千歌だよ」

「ち、か、ちゃん」

だるい体を起こす。

「いいよ、寝てなよ。声、ちょっとハスキーだね」

押し戻される。

「来てくれたの……」

「元気そうだったら、一緒にみかん食べようと思って」

千歌ちゃんがみかんを二個取り出して、自分の頬っぺたにくっつける。
可愛らしい。

「ありがとう……でも、まだお腹空かなくて」

「だよね〜、早く元気になるように、これ持ってきた」

CDプレーヤー。
どこかで見たことある。
そうだ、梨子ちゃんの。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 02:00:35.77 ID:IH/1hHKSO
ようそろ…
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 02:18:32.27 ID:hVoKMaCTO
「もう、使わないからあげるよって」

中には白いCDが入っていた。
題名が書いてある。

『光る海』

梨子ちゃんの字。

「曜ちゃんと顔合わせずらいって、今日はこれ代わりに渡してって言われたんだけど、何かやらかした?」

「あ……う、うん」

なんて説明すれば。

「?」

千歌ちゃんが首を傾げる。
でも、あまり追及はしてこなかった。

「曜ちゃんに言ってなかったことがあってね……」

と言葉尻を濁しながら、イヤホンを私の両耳にはめ込んだ。
再生ボタンを押す。

「あれ、これって……昨日のイベントの」

すぐに思い当たって、耳を傾ける。

「うん」

コンサートホールで踊った曲とはかなり違う。
包まれるような、優しい曲調に変わっていて。
バスで聞いた時とも違う。
歌詞もついてない。

「それ、原曲なの。イベントで使ったのはそれを編曲したんだって」

「へえ……?」

片方を外して、千歌ちゃんを仰ぎ見た。

「お見舞いが曲だなんて、梨子ちゃんらしいや」

「うん……」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 02:43:23.49 ID:bNB8Zs1kO
千歌ちゃんが、頬っぺたを自分の手で引っ張った。

「ち、千歌ちゃん?」

私はびっくりした。
伸びた皮膚が、びたんと戻る。
どうしたの。
千歌ちゃんが私の両手を握る。

「この曲さ、梨子ちゃんが曜ちゃんを想って、曜ちゃんのために作った曲なの」

吸い込んだ息に、むせそうになった。

「え」

「私にだけ教えてくれたの。『光る海』は、曜ちゃんのことだって」

千歌ちゃんが優しく微笑む。

「ど、うして」

かすれた声が、千歌ちゃんに問いかけた。

「最初から、梨子ちゃんは曜ちゃんを見てたんだよ?」

「まさか……」

「梨子ちゃんは、曜ちゃんを待ってるよ」

千歌ちゃんの手が離れていく。
私の体は相変わらずだるくて、
千歌ちゃんが突き出した拳の意味もすぐには分からなくて、

「行かなくていいの?」

そうやって、

「曜ちゃん、ちゃんと言わないと伝わらないんだから」

残酷な台詞を吐いた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 02:56:03.78 ID:bNB8Zs1kO
「言うって、別に、私は……」

千歌ちゃん、そんなこと言わないで。
ずっと友達でいるから。
3人で。

「逃げるの?」

そういうことじゃ――。
カラカラとかすかにCDが回っていて。
もうすぐ、曲が終わりに近づいていた。
片方だけ挿していたイヤホンから、声が聞こえた。

『曜ちゃん、怒らないで聞いてね……』

なに。

『私、曜ちゃんが好きだよ』

夏の雲のように、
私の中に立ち上がっていく感情。
CDは数秒後に、止まった。

「逃げるの? 逃げないの? どっち」

千歌ちゃんが、言った。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:10:15.54 ID:bNB8Zs1kO
―――それから。


靴はサンダルで、
乗り物は自転車で、
私は全速前進で、
学校に向かった。

彼女は、学校にいた。
夕焼けの中、音楽室で、一人ピアノを弾いていた。
息を整える。

「梨子ちゃん」

「よ、曜ちゃん……ッ?!……って、風邪は大丈夫?!」

「うん」

「ど、どうしてここに」

「CD、聞いたからっ」

梨子ちゃんは、頷いた。
信じられないという顔で。

「へ、変なもの贈りつけて……ごめんねっ、あの」

「そんなことないよ」

慌てる梨子ちゃんが、私の心を揺さぶる。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:28:32.32 ID:bNB8Zs1kO
「梨子ちゃん、怒るわけないよ」

走って駆け寄って、椅子から立ち上がった梨子ちゃんに抱き着いた。

「よ、曜ちゃん」

「捕まえた……」

「え、ええっ」

認めないとか、諦めようとか、
そんなこと関係なくて。
そんなことは全く意味はなくて。
この気持ちは――止まらないんだ。
私の幼さや我がままさえも通り越していく。

「私も、君が好き」





おわり
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:30:14.56 ID:bNB8Zs1kO
こんなめんどくさいのに付き合ってくれてありがとうございました。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 03:37:35.60 ID:spRU0uPeo
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 05:02:46.19 ID:YgAKDtxgo
乙です
千歌ちゃんが格好良くてでも可哀想すぎて辛い…
梨子ちゃんも曜ちゃんも千歌ちゃんもみんな幸せになってほしいって思うのは贅沢かもしれないけど…
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 05:34:09.87 ID:vNmdbrAZo

面白かった
ようちかりこの三角関係が好き
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 10:36:59.79 ID:k2vvrss3o
おつ良かった
2年組のドロドロ好き
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 16:30:50.60 ID:WqE0at4E0
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/21(水) 21:23:04.21 ID:5ihoOLCXo

もう1度前作からゆっくり読み直したくなったわ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 23:33:31.25 ID:re72M74WO
1です。終わったスレなので読んでる方いるかわかりませんが、読んで下さってありがとうございます

どうでもいい補足:千歌ちゃんは、ラブライブへの情熱が強くて(むしろ恋人はラブライブ)、恋愛感情を育む余裕はあまりなく、ちょっとミーハーな所がありました。梨子ちゃんは、曜ちゃんのハンカチをまだ返していません。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 00:00:23.28 ID:mUjHNlbAo
乙でした。前作今作ともすごく良かったです。個人的に曜ちゃんは2年組の中で恋愛面で一番未成熟
(部活に熱中してきた子にありがち)なイメージなので、自分の気持ちに困惑してうじうじしたりだとか、
鞠莉ちゃんの助言の内容に共感して読めた
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 01:47:50.04 ID:UdHWj9oGO
>>164
ありがとうございます
大きな挫折を味わったことがなさそうな曜ちゃんは、失敗や恥を知らない純粋さがありそうです。また、それにどう対処していいか分からないし、
考え込んだら考え込んだで、アニメを見る限り、明後日の方向に想像を膨らませる所があって、直感を好み思慮することがめんどくさそうなイメージがあります。

自分を選ばなかった千歌ちゃんに対して自信を砕かれた所もあり、砕かれたかっこいい自分とそれを保とうとする気持ちの折り合いをつけれず、
めんどくさくなって、とりあえずみんな幸せならいいじゃん、と短絡的な発想になって、でも、それが許されない状況に追い込まれ、
今回のssのようにうじうじ曜ちゃんになってしまいましたが、うじうじする曜ちゃんを励ます鞠莉と千歌と梨子が好きです

曜ちゃんは恋愛に関して、「好き」という言葉を使うか分からなかったですが、
梨子ちゃんによって恋愛を学び、子どもながらに「好き」を使い分けることができました。

以上、チラ裏でした。
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