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曜「梨子ちゃん、怒るわけないよ」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/06(火) 23:13:23.63 ID:ILpcLu2CO
過去ss:甘くてとろける百合バス、魔王♀「食べちゃうぞー」
梨子「曜ちゃん、怒らないで聞いてね」の続き
ようりこがただただめんどくさいだけの続編です
思いつきのまま進みます
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1496758403
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/06(火) 23:18:15.54 ID:P0p17EBio
期待支援
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/06(火) 23:34:05.17 ID:ILpcLu2CO
「よ、う、ちゃ、ん、が――」
私は、海水で重くなった砂に描いた文字を読み上げる。
と、やや大きな波が近づいてきたことに気付かず、
「あ、梨子ちゃん!」
「え?」
足元から膝くらいまで、思いっきり潮水を浴びた。
「きゃあ?!」
「大丈夫!?」
「……」
靴の中が、びしょびしょだ。
しかも、先ほど砂に書いた告白用のカンペも綺麗に洗い流されてしまった。
「た、大変、ちょっと待ってタオル貸すから!」
ついてない。
曜ちゃんが自分のタオルを私に差し出した。
汗の匂い。曜ちゃんの匂いに自然と呼吸が浅くなった。
「えっと、それで梨子ちゃん何て?」
「いいの……日が悪かったみたい」
海のばかやろう。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/06(火) 23:39:17.12 ID:tDLA4Kjvo
きたか
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/06(火) 23:57:35.23 ID:ILpcLu2CO
タオルで軽く足を拭いて、曜ちゃんに返す。
「また、今度言うから」
「分かった」
曜ちゃんが申し訳なさそうに受け取った。
勢いがないと、やっぱり告白は難しい。
「梨子ちゃん、気遣ってくれようとしたんでしょ」
曜ちゃんが言った。
全く、そんなつもりはなかった。
むしろ、曜ちゃんの傷に塩を塗るくらいのことをしようとしていたんだけど。
私が返答できない内に、曜ちゃんは自己解決してしまう。
「ありがと」
「や、その」
プルルル――。
着信が鳴った。
「あ」
曜ちゃんのカバンの中からだった。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/07(水) 00:29:11.20 ID:+OmtyB7eO
「……うそ」
曜ちゃんがスマホを取り出して固まっている。
「どうしたの?」
「パパからだ。で、出ていい?」
「いいに決まってる」
確か、夏休みとか年に数回しか帰れないって言ってたんだっけ。
電話に出た曜ちゃんの声は、1トーン上がっていた。
家族との会話は、人を少し幼く見せる。
千歌ちゃんもそうだった。曜ちゃんも例外ではなかった。
というより、一層甘えん坊に見える。
そんな一面を見れたことは心なしか嬉しい。
数分後、しかし、表情は一変した。
電話を終え、
「……同級生のお葬式だって」
と呟いた。
「そう……」
曜ちゃんは、まるで自分の事のように辛い表情でスマホをしまう。
明日、曜ちゃんの家で弔いの同窓会を開くのだと、軽く説明してくれた。
同級生、友だちの死。
まだ、私には馴染みのないワード。
『曜さーん、梨子さーん!』
一年生の声が聞こえた。
『そろそろ、帰りましょー!』
私達は振り向いた。
手を振っている。
「梨子ちゃん、そのまま帰るのはマズいし、いったん家来なよ」
私は自分の姿を見下ろした。
断る理由がなかったので、お願いします、と頭を下げた。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/07(水) 00:29:40.18 ID:+OmtyB7eO
ここまで。また明日。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/07(水) 01:21:10.68 ID:RNtqpa5J0
期待
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/07(水) 23:47:52.92 ID:jTaqbxkrO
眠すぎるのでまた明日
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/07(水) 23:51:35.26 ID:PQK/inbQo
休むだけだよほんのちょっとね
眠すぎるならしかたない
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/08(木) 00:15:04.27 ID:uAfoYn6ho
物置から出てきた曜ちゃんの姿を見れば、何があったのかおおよそ察してしまってそうだけど、
デリケートなことだし、本人が言わないことを聞けないしね。本人もだけど、周囲も大変そう
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 12:00:46.16 ID:l5/QKUUT0
善子ちゃんらと別れ、妖怪のような音を立てて私は曜ちゃんの隣を歩いていた。
「なんかさ、おもらししたみたい」
と、曜ちゃん。
「サイッテー……」
小学生か。
濡れた足を曜ちゃんのふくらはぎにすり寄せる。
「つめたっ、ちょ、やめてよっ」
逃げる曜ちゃんの後を追いかける。
「道連れよ」
「よ、妖怪おもらし梨子ちゃん……が追いかけて来るッ」
さらに聞き捨てならないことを言いながら、曜ちゃんは歩道を蛇行して私から逃げていく。
「ふふふふふ……」
「ひえ」
怯える曜ちゃんに加虐心がそそられてしまうのだけど、彼女は全く気付いていない。
結局、曜ちゃんの家まで10分くらい走って帰ってしまった。
「つ、疲れたわ」
「大丈夫?」
ほとんど平常運転な呼吸の曜ちゃんが憎らしい。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 12:38:23.10 ID:l5/QKUUT0
玄関でちょっと待たされて、足元にタオルを敷かれた。
「はい、ここに上がって。靴下脱いで」
「ごめんね、ありがとう」
と、片足で立とうとしたらふらついた。とっさに曜ちゃんの肩を掴む。
重心は定まらず、
「あ」
そのまま、視界が斜めに傾いて、曜ちゃんを押すようにして、
「わああ!?」
「きゃあ?!」
二人で床に倒れた。
「もお、何やってるのさ、あははは!! さっきから、梨子ちゃん、大丈夫っ……あはは!! 病み上がりで走ったりするからっ……ぷはは!!」
下敷きになった曜ちゃんが大笑いする。
私は曜ちゃんから体を離しながら、口を尖らせた。
「そんなに笑うことないじゃない!」
「だって、今日、梨子ちゃん、ついてなさすぎじゃん! あははは!!!」
それは、思った。
「もー、やだー! 曜ちゃんのせいだからね!」
「なんでさっ!」
「曜ちゃんが、めんどくさいから悪いのよっ!」
「ええっ、どういう意味っ?!」
思いっきり笑われたせいか、私はどこか吹っ切れたように言い放つ。
「うじうじうじうじして、その癖何にも言ってくれないから、私、最近睡眠不足なのよ!」
「そ、それと、梨子ちゃんの睡眠とどう関係が……ッ」
「察して」
「無理だよ!」
「……もう!」
私が睨むと、曜ちゃんの眉毛が下がった。
「あなたたち、玄関先で何遊んでるの?」
「「あ」」
曜ちゃんのお母さんが、洗濯物を運びながら私達を見下ろしていた。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 13:10:19.43 ID:l5/QKUUT0
曜ちゃんのお母さんにお風呂に入るよう勧められ、曜ちゃんのTシャツとジーンズを貸してもらった。
洗面所の前で髪を一つにまとめていると、なぜかそっとこちらを覗いていたおばさんが、
「いいわね。髪の長い子って。女の子って感じで」
「あ、あの」
「うちの子、お父さんのせいで男っぽい格好ばかりするのよ。髪も伸ばさないし」
「すごく似合ってますよ」
鏡越しに微笑む。
「そうなのよねえ」
ため息。
「あ、でも、曜ちゃんはすごく女の子ですよ」
「え、何々何かエピソードあるの?」
「ちょっと二人とも!」
曜ちゃんが慌てて会話を止めに来た。
「私のいない所で何してるのさ!」
「まあ、怖い」
おばさんがパタパタとキッチンの方へ避難していく。
「全く、もう。梨子ちゃん、何も言ってないよね?」
「言ってない、言ってない」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 13:26:36.66 ID:l5/QKUUT0
「お、梨子ちゃんってそういう格好もいいね」
「そうでもあるかな」
曜ちゃんに褒められると、余計に嬉しい。
つい、鼻が高くなる。
「服ね、今、洗ってるから」
と、親指で洗濯機を指す。
自分の服を洗ってもらうのは、ちょっと気恥ずかしい。
「それまで、くつろいでって」
「うん」
リビングのソファーに二人で腰掛ける。
おばさんが紅茶を淹れてくれて、頂きものらしいクッキーを並べてくれた。
夕方のニュースを時代劇に切り替えて、紅茶をすすった。
「梨子ちゃんから、家のシャンプーの匂いがする」
曜ちゃんが私の髪に鼻を近づける。
「それは、そうでしょうね」
近い、近い。
「いい匂い」
「それは、つまり、曜ちゃんもいい匂いってことね?」
「ん? ああ、確かに」
「でも、曜ちゃんの匂い私好きよ」
「私の匂いって、汗臭いと思うんだけど」
「全然、曜ちゃん汗の匂いしないし……というか、お花みたいな匂いだし……うん」
曜ちゃんが訝しげにこちらを見やる。
「梨子ちゃん、変態?」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 14:17:43.33 ID:l5/QKUUT0
身を守るように、自分の体を抱きしめる。
「ち、違います」
「変態でもさ、梨子ちゃんみたいな美人はね、許されちゃうんだよ。ずるいよねえ。私もし男の子だったら、変態でも梨子ちゃんに告白してたね」
「一言余計よ」
おもらしとか変態とか言いたい放題言ってくれちゃって。ちょっと傷つくんだから。
曜ちゃんの口にクッキーを押し込んだ。
「んぐっ」
テレビの方では、主人公のお侍さんが敵の忍者をバッタバッタと切り倒していた。
私も、今、曜ちゃんを切り倒してしまいたい気分だった。
なにより、余計な一言を反芻する。
男の子だったらって、なんなのよ。
「私は、美人だけど、好きになるのに性別は関係ないと思う」
「あ、そこは否定しない」
「せっかく褒められてるんだもん」
「梨子ちゃんって、カッコいいよね」
「もっと言ってくれていいよ」
曜ちゃんが言ってくれると、ちょっとした優越感で心地よい。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 14:38:07.53 ID:l5/QKUUT0
お醤油の煮だった匂いがした。
「ねえ、梨子ちゃんは、お夕飯食べて行くの?」
キッチンからおばさんが言った。
曜ちゃんと顔を見合わせる。
「梨子ちゃんがいいなら」
曜ちゃんがにこっと笑う。
「そうね……」
私こそ、曜ちゃんがいいなら。
「でも、明日お父さん帰ってくるんでしょ? 色々準備とかあるんじゃ」
「大丈夫、大丈夫! お帰りー! って言って、ギューっと抱きしめておしまいだから」
曜ちゃんのことだから、もっと甘えてそうな気もする。
それより、曜ちゃんのお父さん、羨ましい。
帰って来る度、曜ちゃんの愛らしい笑顔で抱き着かれるんだろうから。
私、次生まれてくるなら、曜ちゃんのお父さんでもいいかも。いや、よくないかな。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「わーい」
キッチンからもわーいと聞こえた。
二人が可愛くて、口元が緩んだ。
「ところで、梨子ちゃん、お刺身食べれる? お隣の奥さんに頂いちゃったんだけど」
「私は、大丈夫です。好きですよ」
「え、じゃあ、私今晩何食べるの?」
曜ちゃんが首を傾げる。
「ふふっ」
おばさんが鼻で笑っていた。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 14:56:55.97 ID:l5/QKUUT0
私も家に連絡した。
夕飯ができるまで、曜ちゃんの部屋でアルバムを見させてもらうことになった。
「これが、小学生の時だねえ」
曜ちゃんと千歌ちゃんが水着で写っていた。
「二人とも可愛い。あ、この千歌ちゃん歯が抜けてる……」
「間抜けな顔してるよね。でも、全力で笑顔なのが、また……」
アルバムを一枚めくると、全裸姿の幼稚園児くらいの時の曜ちゃんがたくさん出て来た。
家の庭に置いた簡易プールでアヒルのおもちゃを持って突っ立っている写真や、お尻を向けている写真などなど。
「わ、わ、わっ」
手ですぐに隠された。
「見・せ・て」
曜ちゃんの腕を無理やり引っ張る。
「だ・め」
拮抗していたけど、私の体力が限界だった。
しょうがないので、曜ちゃんの脇腹に手をいれる。
「見せてくれてもいいじゃない」
曜ちゃんの体が捻じれて、手が写真から離れた。
「やっ……やめっ……あははっ」
私の手から逃れるために、転がって移動していく。
やり返そうと、かまえるのだけど、何かに気が付いて手を降ろした。
「反撃しないの?」
「だって、梨子ちゃん怪我してるじゃん」
「見ちゃうよ?」
「好きにしてください」
一緒に見るのは恥ずかしいのか、背を向けていた。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 15:20:07.34 ID:l5/QKUUT0
一通り見終わった頃に、夕飯も出来上がって、準備を手伝った。
曜ちゃんに用意されていたのはハンバーグで、明らかに嬉しそうな顔は写真に納めてもいいくらいだった。
お刺身も美味しくて、頬が落ちそうになるくらい。
そこには、普通の食卓が広がっていた。
それは、恐らく意図的なことだったと思う。
私がいるから、明るく振舞っていたというのは多少あったはずで。
夕飯後に、曜ちゃんがお手洗いで席を外した時、
「今日は、あの子自然に笑ってた。ありがとう」
と、言ってくれた。
前まで、私の中で、曜ちゃんは追いかける存在だった。
掴みどころのない、海原のような人だった。
その笑顔が欲しくて、たまらなかった。
私に触れて欲しくて、私の事を考えて欲しくて。
私の事を好きになって欲しかったし、千歌ちゃんの事ばかりになるのも嫌だった。
止めどなく溢れる欲望があった。
今は、どうだろう。
事件のせいもある。
関わったことで、曜ちゃんに寄せていた気持ちが、以前とは異なってきていて、それをはっきりと感じ取れるようになっていた。
壊してしまわないように、悲しませないように、笑わせてあげたくなる。
私は、曜ちゃんの支えになりたい。
強がってばかりのあの子の本音を聞いてしまったあの時から、それはきっと芽生えていたように思う。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 15:58:05.25 ID:l5/QKUUT0
「泊まっていきなよ」
と、曜ちゃんが提案した頃には、最後のバスがぎりぎり間に合うくらいの時刻だった。
時計を見て、私は首を振った。
「ううん、泊まりたいけど、今日は止めておく」
「そう?」
曜ちゃんは引き止めはしなかった。
「明日の宿題、家に置きっぱなしだしね」
「だよね、残念」
「服、ありがとう。夕飯も、毎日でも食べたいくらいですって、言っておいてくれる?」
「喜ぶよ」
曜ちゃんは、じゃあ、送って行くね、と言ってバス停まで着いてきてくれた。
バスに乗り込んで、姿が見えなくなるまで、曜ちゃんはずっと手を振っていた。
どんな気持ちだったんだろう。
好きな人を振った女と一緒にいるって。
自分のせいで怪我をした人間と一緒にいるって。
それが、大切な友人だとして。
曜ちゃん。
ねえ。
どんな気持ちで、泊まっていきなよ、なんて言ったの?
私にはできない。
それだけ、私に執着がないってこと?
それとも自分の心にたくさん傷を刻んでいた?
音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを耳に挿した。
先ほどまでの賑やかな食卓を思い出すと、一人で聞くには、少し寂しい。
誰か、側にいて一緒に聞いて欲しくなる。
曜ちゃんも、そんな気持ちだったのかな。
それが、私だとしても――?
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/08(木) 15:58:36.40 ID:l5/QKUUT0
ここまで。
続きは夜か、また明日。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/08(木) 23:28:02.21 ID:6IYJsrMR0
いいですわ〜
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/09(金) 22:46:47.51 ID:CFiZYCnp0
あくあく
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 00:14:19.81 ID:Cywbi/sD0
ごめん
今日も無理なので明日また
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 11:13:45.94 ID:Cywbi/sD0
家の近くのバス停へ降りた頃には、夜空に星がはっきりと輝いていた。
肌寒い夜風に二の腕をさする。
「あれ……」
桟橋の所に、人影。
「千歌ちゃん?」
月明かりにうっすらと寝間着姿の少女の姿が照らし出されている。
あんな所で何をしているんだろう。
不思議に思い、声をかけようとした所で、千歌ちゃんは走り出した。
海の方に向かって。
「え……え、うそ」
私は、まさかと思いつつも、急いで千歌ちゃんを追いかけた。
前にもこんな事があったような。
混乱する頭で、もう一度千歌ちゃんの名前を呼んだ。
「千歌ちゃん!!!!」
一瞬だけ振り返ったような気がした。
それも、本当に一瞬で、彼女はすぐに真っ暗な海の中に飛び込んでいった。
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 11:27:24.65 ID:Cywbi/sD0
桟橋のギリギリまで来て、海の中に沈んだ千歌ちゃんを探す。
「千歌ちゃん!?」
千歌ちゃんの飛び込んだ所に波紋が広がっていた。
彼女は、落ち込んだりすると、海の中に潜る癖がある。
前に、ラブライブの得票数が0だった時もそうだった。
だから、今回もそうなんだ。
何がそうさせた?
誰がそうさせた?
私だ。
「ごめ……」
謝罪の言葉は途切れてしまう。
「千歌ちゃん……」
右手を揺らぐ海面に伸ばした。
海中から、見えているんだろうか。
このまま、落ちて、服のまま泳げる自信はあまりない。
それでも、このまま待っても、窓越しに二人で指先を触れ合わせた時のようにはいかない。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 12:05:28.93 ID:Cywbi/sD0
千歌ちゃんは謝って欲しいのかな。
違うよね。
辛い気持ちに、整理がついてないんだよね。
分かるよ。
私には同情する資格なんてないけど。
千歌ちゃんのために、何かしてあげることはできないけど。
一人、辛さを抑え込むあなたは、本当にすごい。
「千歌ちゃんは、すごい……」
海に語る。
「好きだって認めることもすごいし、それをちゃんと言葉にして伝えることができるのもすごいし……羨ましいよ。でも、そうやって、抱え込んでね、私に何も言ってくれなくなるのは……いやだな。私の事、曜ちゃんの事、周りの事、傷つけないようにって思って、何も言わなくなっちゃうところは……嫌いよ。千歌ちゃん、私に嫌われたいの?」
そう言えば、千歌ちゃんが潜ってからもう1分以上は経っているのでは。
「ちゃんと、言って。自分のこと押し込めないで……千歌ちゃん」
さすがに焦ってきて、こうなったらと、足先から海に入ろうとした瞬間、
水面に水泡が浮かんで来た。
「ぷはっ!」
「千歌ちゃん!」
潮吹きするクジラみたいに飛び上がって来た千歌ちゃんが盛大に息を吸い込んだ。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 12:24:08.72 ID:Cywbi/sD0
「あれ、やっぱり梨子ちゃんだ」
千歌ちゃんが目を細める。
額に張り付いた髪をかき上げた。
「また、服のまま飛び込んで……怒られても知らないからね」
「今日も海が綺麗! と思ったらつい」
「つい、でそんな事するの千歌ちゃんくらいよ」
「そうなの?」
照れくさそうに、下を向く。
「ほら、上がって。家に帰ろう?」
腕を伸ばす。
「もお、梨子ちゃんには面目ないというか、変な所ばっかり見られちゃうなあ〜」
「そうね」
「まいっちゃうよぉ」
「それはお互い様だと思う。私も、一回飛び込もうとして、道連れにしちゃったし」
「そう言えば、そんなこともあったっけ」
数回頷く。
千歌ちゃんは、なかなか手を掴んでくれない。
「それから、転校して、家が隣同士になってかなり驚いちゃった」
「うんうん! 音ノ木坂から来たってだけでも、なんだってー!? ってなったのにね!」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/11(日) 14:49:29.66 ID:3EGa2FplO
両手を広げ、大げさに驚く。
千歌ちゃんの両手から、雫が落ちていく。
「梨子ちゃんはさ大人っぽいと思ってたら、意外とあわてん坊で時々奇想天外でビックリする事、しちゃうんだよね」
「……千歌ちゃんはね、純粋で真っ直ぐ。見たまんま。先の事なんて考えずに閃いたらぐいぐい飛び込んじゃう」
海の中で、私の言葉は届いていたのかな。
「千歌ね、似てるなって思った。梨子ちゃんが前に病院で言ってくれた気持ち、すっごくよく分かったんだ! 私も、一緒に頑張れる人だって思ったし、探していた誰かに出会えたって思えたんだよ!」
やや興奮気味に、千歌ちゃんは言った。
「ありがとう……」
私は小さく微笑んだ。
「それから、曜ちゃんは、背中を押すのが上手。色々器用にこなせて周りとすぐに馴染んじゃう……でも、八方美人な所もあるの。何でもできて誰にでも優しいなんて、ずるいよね。でも、私、ずっと曜ちゃんみたいになりたいって思ってて。曜ちゃんみたいに、何かに打ち込んで夢中に目標を追いかけたい。でも、私には難しかった。好奇心も人並みだし、勉強もそんなにだし、自慢できること何にもないし……」
「そんなことない」
彼女は首を振った。
「そんなことあるの。それでね、ずっと曜ちゃんに申し訳ないなって思ってた。曜ちゃんが部活やイベントに誘ってくれても、私、自分の気持ちが分からなくて断ってばかりで。そのうち、千歌ね、曜ちゃんに嫌われるだろうなって思ってたし、実際、曜ちゃんはきっと呆れてたと思う。普通は嫌だって文句ばーっかり言ってるくせに、何にも自分からしようとしなかったから」
千歌ちゃんからこんな風に曜ちゃんのことを語るのを聞いたのは、これが初めてだった。
私は一言も聞き漏らさない様に、千歌ちゃんを見た。
「曜ちゃんの側にいると、自分が惨めになった時もあった。お母さんもお姉ちゃんも友達も、気が付けば曜ちゃんと私を比較してて、みんな悪気はないんだろうけど、それがずっとずっと小さい頃から続いてた……そうなると、今度はね、私自身が曜ちゃんといるのが辛くなった」
千歌ちゃんは右手で自分の胸の真ん中辺りを掴んだ。
濡れた服を力いっぱい握りこんでいた。
しわの寄った服が、彼女の切なさを表しているようだった。
「曜ちゃんと友だちで誇らしい自分と、情けない自分がいて……今もね、よく分かんない」
「そう……」
強い感情が、身動きを取りづらくさせる。
「私が梨子ちゃんに付き合おうって言った時、梨子ちゃんが言ってたよね。私の事を見てくれてる人がいるって。曜ちゃんの事だって、すぐに分かってたんだけどね、ごめんね、私は梨子ちゃんが思ってるような純粋な子じゃないよ。曜ちゃんを引き合いに出されて、正直、あの時、辛かった」
そんな風に、思っていたなんて。
私は、けれど、かける言葉が浮かばない。
「それもあって、無理やり梨子ちゃんに一ヶ月だけでって頼んで……最低だね」
「ううん、私だって……答えられない気持ちに、ただ自分が傷づきたくなくて、いいよって言ってしまったもの」
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