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恵美「あの人と、結婚した。」
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1 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 21:32:18.31 ID:T5tfdE0X0
「俺と、結婚を前提に付き合って下さい」
今から数ヶ月前、アタシがアイドルを引退してしばらく経ったある日。突然プロデューサーに呼び出されてそう言われた。
その時のアタシはすっごくびっくりして、それと同時にすっごく嬉しかった。それこそ、思わず二つ返事でOKしちゃいそうになるくらいね。
けど、アタシはその告白を断った。だって、アタシなんかじゃプロデューサーと釣り合わない。幸せに出来ない。相応しくない。そう思ったから。だから、ありったけの力を振り絞って断った。
遠くで見てるだけで…たまに会って話せるだけで、アタシは十分幸せだったからね。贅沢言えないよ。
だけどプロデューサーはしつこくて、諦めなかった。…いや、諦めないでくれた。恋愛耐性のないアタシが大好きな人の猛アタックに耐えられる筈もなく…琴葉とエレナの協力もあって、アタシはオトされちゃった。
そして、それから。
アタシとプロデューサー…Pは一緒になった。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1496752338
2 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 21:34:51.14 ID:T5tfdE0X0
それからの毎日はまるで、それまでの人生が白黒の世界だったかの様にキラキラ輝き始めた。どんな時も、何をするにも彼と一緒。それだけなのに、世界が違って見えたの。
アタシが悲しい時は彼が慰めてくれて、彼が辛い時はアタシが慰めてあげる。アタシに良い事があれば彼に伝えて二人で喜んで、彼に良い事があれば教えて貰ってアタシも喜ぶ。
好きな人とアタシの気持ちが、通じ合ってる。
その一つ一つが、言葉では言い表せないくらい幸せな事で。こんな毎日がずっと続くと思うと、幸せ過ぎて泣きそうになっちゃう。
実際、ちょいちょい泣いちゃってたしね。だって仕方ないじゃん?それくらい幸せな事だったんだもん。にゃはは。
3 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 21:36:03.05 ID:T5tfdE0X0
…でも、今は違う。全っ然幸せなんかじゃない。多分、今が人生で一番辛いよ。誰か助けて…
4 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 21:37:43.39 ID:T5tfdE0X0
泣いて泣いて泣きはらして、何回も強く擦り過ぎて目が痛い。あんまり眠れてないせいか、体が重い。なんにもやる気にならない。胃に重い物を無理やり詰め込まれたような気分。これ、考えうる限り最悪な状態ってやつ?
アタシ、もうこんな毎日耐えられない。もうやだよ…
5 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:23:18.27 ID:T5tfdE0X0
数日前の話。
ガチャン、と玄関の扉を開ける音が聞こえた。
アタシはそれを聞くやいなや、エプロンを着けたままパタパタと玄関へと飛んでいく。なんたって、待ちに待った愛する旦那様のお帰りだもん♪そうしちゃっても仕方ないじゃん?
「お帰り〜!今日もお仕事お疲れ様ぁ〜♪」
「…あぁ、ただいま」
ん…?なんだかPの様子がおかしい。元気が無いみたい。お仕事で何か嫌な事とか、辛い事があったのかな…?Pが帰って来てからずっとブンブンだったアタシの心のしっぽがしゅんと下がる。けど、しょげちゃった夫を慰めるのも妻の役目だよね!妻の!
「ねぇP、どしたの?なんかあった?アタシでよかったら話聞くよ?」
「実は…」
6 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:24:02.58 ID:T5tfdE0X0
「しゅ、出張…?」
受け入れがたい事実を聞かされたアタシは、Pからカバンを受け取ろうとした手を伸ばしかけた姿勢のままフリーズしてしまった。
「それって、どれくらいの期間なの…?」
正直聞くのは怖かったけど、それでも聞かずにはいられなかった。
「…短期だ。二週間」
「にしゅっ…!?」
二週間…!?全然短期じゃないよ、ありえない!だってアタシ達新婚さんだよ!?昔と違って事務所で会えない分どれだけイチャイチャしてもし足りないくらいなのに、二週間もお預けって事!?そんなのって…
「恵美…済まないが俺が帰ってくるまで、待っててくれるか?」
「…っ」
今にも漏れそうな本音を必死に抑える。
「…うん、待ってる!一人は寂しいけど、二週間なんてあっという間だし!それにお仕事だもん、しょうがないよね!だいじょぶだいじょぶ、行っといで!」
うそ。大丈夫な訳ない。行かないで、どうしても行くならアタシも連れてってって言いたい。縋り付きたい。
でも、出来る訳ない。そんな事したって、ただ意味もなく彼を困らせちゃうだけだから。今にも涙が零れそうになる。Pの顔を見ちゃったら、多分もう無理。
申し訳なさそうな態度のPに背を向けて気合で気持ちを抑え込み、振り向くと努めて明るく言葉を返した。気持ちを隠す演技をするのがこんなにも難しいと感じたのは、この時が初めてだった。
「…恵美、その」
「もぉ、ゴハン冷めちゃうよ?ほらほら、早く食べちゃってー。片付かないからさっ」
「…っ。…あぁ」
何か言いたそうにしてたのは明らかだった。多分アタシの行かないでって気持ち、バレちゃってるんだね。けど結局、Pは何も言わずにアタシの横を通り過ぎた。
それは、アタシの強がりを指摘した所で何も解決しないから。これはアタシとPにはどうしようもない事。そう思うと、アタシの気持ちは一層落ち込んだ。
7 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:24:37.63 ID:T5tfdE0X0
それから数日後の早朝。
「忘れ物はない?大丈夫?」
「あぁ、何回も確認した。大丈夫だ」
「…そっか」
「うん…行ってきます。それじゃ」
Pが玄関の扉に手をかけた時、アタシは慌ててPの袖をきゅっと掴んで引き止めた。
「ま、待って待って、そこまで見送るよ!奥さんだもん、当たり前でしょ?いつもやってる事じゃん、忘れちゃったの?」
少し怒ったような口調でアタシが詰ると、Pは複雑そうな表情でしばらく黙り込み、やがて口を開いた。
「…そうだな。じゃ、行こうか」
「…うん、行こっ♪」
両手でPの腕に抱き着く。
アタシ、ちゃんと笑顔できてるよね?
8 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:27:07.16 ID:T5tfdE0X0
どちらからともなく、見送りの時に通るいつもの道をいつもより遠くまで、いつもよりゆっくり歩く。すぐそこまで迫ってきてるその瞬間を、少しでも遠ざけるかのように。
けど、やっぱり現実を見なくちゃいけなくて。
「もうこの辺でいいよ。ありがとう」
落ち着いた調子で言い、Pはアタシの手を離した。
「えっ?…あ、うん。そだね!じゃっ、行ってらっしゃい!」
あー…ついにこの時がきちゃったか。
「恵美」
「うん?…んっ」
突然ぐいっと腕を引かれて、壊れ物を扱うかのようにふわりと抱かれる。戸惑うアタシの顎をくいっと上に向かせ、唇に軽くキスを落とした。それでも十分、想いは伝わってくる。アタシはとっさにそれに応え、必死に想いを返す。早朝とはいえ、そこが普段は人通りの多い道だという事もすっかり忘れて。
予期せぬ不意打ちにクラクラしつつ、離れてくPの唇を追いかけそうになるのを必死に我慢する。これを耐えるのは中々大変だった。だって、キスが終わればPは遠くに行っちゃうから。
9 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:27:46.78 ID:T5tfdE0X0
「すぐ帰ってくるから、良い子にお留守番してるんだぞ?」
Pが今起こった事を誤魔化すかのようにニヤニヤしながら、アタシの頭を撫でてからかうような口調で言った。…あ。湿っぽくならないように、元気づけようとしてくれてるのかな?よぉし、それなら。
「もー、子供扱いしないでよねっ!アタシもうオトナなんだから!お酒だって飲めるもんね!ばーかばーか!」
アタシも怒ったフリをして、それに応じる。
「ははっ、まぁまぁ」
「ふんだ、いじわるなPなんか知らない。さっさと行っちゃえば」
う、なんか引っ込みつかなくなってきちゃった…と内心焦るアタシの心を見透かしたのか、ぷいっと顔を逸らしたアタシを両腕で後ろから捕まえたPは、
「うん、行ってくるな。…恵美、愛してるよ」
「…ふぇっ?」
そう愛おしげに耳元で囁いた。耳まで真っ赤になるのを感じる。頭が甘く痺れ、喉の奥がきゅんきゅんする。
「ま、毎日電話するから!ちゃんと出てくれよ?」
「…えっ?あ、うん!出る!絶対出る!」
「ん。じゃ」
と短く言い残したPは自分で言ったくせに今頃照れたのか、アタシを残して足早に駅の方へと歩いて行った。
「あっ…」
まさかの二重不意打ち。アタシは頭がぽーっとなって、Pが見えなくなるまでその場に立ち尽くしてしまっていた。朝はまだ肌寒い季節なのに、頭も体もアツくて仕方ない。
何それ、ズルい!Pが突然あんな事言うからびっくりしてきゅんきゅんして、まともに返事できなかったじゃん!Pのばかぁ!この気持ちをどこにぶつければいいのー!?
…でも、やっぱアタシってチョロいな。
「えっへへぇ…♪」
パジャマの上に羽織ったコートで口元を覆いにやけ顔を隠しながら、軽く悶える。愛してるって言って貰っちゃった…♪これでしばらくはP成分は尽きないかな!そーだ、あの二人に自慢しちゃお!
…なーんて思っちゃってたあの時のアタシは、完っ全にのーてんきでお気楽な大バカとしか言いようがない。アタシは自分がどれだけ寂しがり屋で甘えんぼで泣き虫で、Pがアタシにとってどれだけ大きな存在だったのかを分かってなかったんだ。
10 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:28:50.29 ID:T5tfdE0X0
愛の言葉を貰った時の幸せなお熱が冷めたのは、意外とすぐの事だった。帰宅してからの誰も居ない空間の静けさが逆に、うるさいくらいに現実を思い出させてくれたから。
どこを見るともなく食器を洗いながら、ぼんやりと明日からの事を考える。かといって考えが纏まる訳もなく。テレビはただ適当につけっぱなしにしてるだけだから、内容は全く入ってこない。いつもならそんな事しないけど、今はちょっと…ね。…注意してくれる人もしばらく居ないし。
…あ、そっか。アタシ、これから二週間もPに会えないんだ。
「…っ!」
…い、いけないいけない!まだ1日目が始まったばっかなのにこんなんでどーするの!?待ってるって言ったのに、これじゃPに笑われちゃうよ!ネガっちゃうの禁止!
皿を洗い終えたアタシはささっと手を拭き、ほっぺたをぱしぱしと叩いて気合を入れた。よく考えたら毎日夜には電話出来るんだし、大丈夫だよ!よし、残りの家事もちゃっちゃと終わらせちゃお!
11 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/06(火) 22:29:45.26 ID:T5tfdE0X0
今日はここまで。
それでは、おやすみなさい。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/06(火) 23:29:29.53 ID:QuMo7+/aO
最近のミリマスSSは鬱系が多いなと思っていたが
これなら安心だな(慢心)
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/06(火) 23:47:11.58 ID:c1h7+sMZo
交通事故とかいらんぞ…
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/07(水) 00:17:18.62 ID:pVDmES0BO
こういうのでいいんだよこういうので
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/07(水) 00:58:13.26 ID:w/guoPyGO
まーたシリアスかと思ったらイチャラブだった
最高かよ
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/07(水) 15:31:06.29 ID:ZlqIEEAso
出張先=琴葉の家
17 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/07(水) 21:51:59.30 ID:MX9h6kd3O
その日の夜。
ぐでーっとだらしない格好でぼんやりとテレビを見ていると、ふいにアタシのスマホに着信音が鳴った。この着信音は…!それを聞いた途端、水底に沈みかけていたアタシの心が浮き上がる。急いで通話マークをタップする。
「あ、もしもし。恵美か?」
「うん!もうお仕事は終わったの?」
「あぁ、今はホテルにいるよ」
「そうなんだ、お疲れ様!ねぇねぇ、ホテルってどんなとこ?部屋が狭かったりベッド硬かったりしない?」
「あはは、ないない。ウチは765プロだし、あの社長だぞ?凄く良い所だよ。部屋は広々!ベッドはふかふか!ご飯も美味しい!雰囲気も良い感じでさ。これで文句言ってたらバチが当たるよ」
むー…良いホテルって聞いて安心したけど、Pがあんまり褒めるもんだから内心ちょっと拗ねる。そんなにそのホテルがいいですか、そーですか。
「…ふーん。良かったじゃん」
表に出すつもりは無かったのに、思わず少しトゲのある言い方をしてしまう。けどPは電話越しなせいかそれに気付かず、
「ほんと良かったよ。ま、ウチの方がずっと良いけどな!恵美居るし」
瞬時にアタシのトゲを抜いた。お陰でアタシの心はまんまるのつるっつる。…おまけにふにゃふにゃ。
「………ふーん」
…危ない危ない、電話越しで良かったぁ。もう、油断も隙も無いんだからっ。
「そういえば恵美、もうご飯は食べたか?」
「あ…まだ」
「えー、遅くないか?太っちゃうぞ」
「ゴメンゴメン。なんか作る気になれなくてさ」
これは嘘でも何でもない。お昼も昨日の残りで済ませちゃったし。
「…?まぁいいや。それでさ───」
さっきまでの時間はのろのろ過ぎていったのに、電話し始めてからの一時間はあっという間だった。あーあ、逆だったらいいのにな。
18 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/07(水) 22:23:16.63 ID:PvVga9Ij0
「じゃ、また明日な。おやすみ」
「ん。おやすみなさい」
「……………」
「……………」
Pは一向に電話を切らない。
「…切れよっ」
「…そっちこそ。早く切ってよ」
「俺は嫌だ。お前が切れ」
「や!アタシから切るなんてあり得ないし」
「…」
「…」
「…ふふっ」
「にゃはっ♪」
傍から見るとバカップルみたいに見えるだろうけど。こういうの、なんかいいな。
「じゃ、せーので切ろ?」
「あいよ。…裏切るなよ?」
「裏切らないって。せーのっ…」
19 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/07(水) 22:24:26.11 ID:PvVga9Ij0
ガチャ。ツーツーツー。
「…はぁ」
電話が切られると同時に、アタシは二人の世界から自宅へと引き戻された。
「…よし」
…晩ご飯作るか。
20 :
◆NdBxVzEDf6
[sage]:2017/06/08(木) 00:19:38.24 ID:DqUMAeov0
恵美……
所恵美
http://i.imgur.com/jU8fQ4I.jpg
http://i.imgur.com/a2Ghj4r.jpg
21 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/08(木) 00:47:58.19 ID:79yQv8dM0
「…うーん」
手首を使いフライパンをしゃかしゃか動かすが、何かおかしい。全然気分が乗らない。料理ってこんなに楽しくなかったっけ?確かアタシ、料理するのが楽しくて仕方なかった筈だけど…
「…あ」
アタシがその理由に気付くのは、そんなに難しい事じゃなかった。
「…Pが食べてくれないから、だよね」
普段なら、たまにPにじゃれつかれ、アタシが鬱陶しそうに(本当は嬉しいけど)しながら料理を作る。
普段なら、Pと一緒にテーブルに着いて、他愛のないお喋りをする。
普段なら、アタシの料理を食べたPが「これめっちゃ美味しい!また今度作ってくれよ!」なんて事を笑顔で言ってくれて、アタシが照れながら「んもぉ、仕方ないなぁ」と言葉を返す。
普段なら、Pがぺろりと完食してくれて、アタシは鼻歌を歌いながら満足気にお皿を洗う。
けど今は普段じゃないから、そんな嬉しい事は何一つない。自分で作って、一人で食べて、一人でお皿を洗う。
たったそれだけ。
「っう、うっく…」
さっき満タンになったばっかりなのに、もうエネルギー切れ。Pと電話して補充したエネルギーが目から漏れ出たのか、視界が滲む。けど、一度零れてしまったらもう止まらない。がまんがまん…
22 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/08(木) 00:50:14.15 ID:79yQv8dM0
「…あ」
そんな事を考えていると、いつもの癖でつい二人分作っちゃった。二人分と言ってもPはアタシの倍食べるから、アタシにとっては三人分。アタシだけじゃとても食べられない。
「…はぁ」
アタシ、Pが居ないとダメダメだなぁ…
その日の晩ご飯は、びっくりするほど美味しくなかった。
何か大事な物、入れ忘れたのかなぁ。
23 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/08(木) 01:24:15.25 ID:79yQv8dM0
良い子はとっくに寝てる時間。アタシの目はバッチリ冴えてる。いつもとは違うダブルベッドの広さと部屋の静けさが、アタシを悪い子にした。
「…寒い」
こんなお布団じゃ、今のアタシを温めるには何の効果もない。体温を逃さない為の物としては十分だけど、温もりが足りない。
あの人とくっつかずに一人で寝るなんて、いつぶりだろ。
無理やり寝ようとするのを諦めて、アタシは真っ暗な天井を見上げた。そして何かに縋るように、助けを求めるように、アタシは虚空に手を伸ばす。その手を掴む者は、ここには居ない。
手の届かない所に行っちゃったから。
ねぇP、アタシ泣かなかったよ。何度も泣きそうになったけど、涙は零さなかった。偉いでしょ?
だから、褒めてよ。恵美、偉いぞーって。Pと一緒にアイドルやってた時みたいにさ。あなたの大きな温かい手で、優しく撫でてよ。
あなたの体温を感じたいよ。あなたに触れたい。触ってほしい。
24 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/08(木) 01:29:22.81 ID:79yQv8dM0
「うっ…うっ…ふぅ…っ」
アタシは自分の体を抱くようにして、声を押し殺して泣いた。
あぁ、だめ。こんなんじゃ褒めて貰えないよ。せっかく今日一日頑張ったのに。
やっぱりアタシは弱い。体は大人になったけど、心はあの時のままなんだ。
思えば昔から、アタシが辛い時はいつもあなたが助けに来てくれたもんね。いつの間にかそれに甘えて、頼りきりになっちゃったのかな。アタシってば今も昔も、あなたが居ないとダメみたい。
ねぇ、寂しいよ。早く帰って来て。
25 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/08(木) 01:34:31.09 ID:79yQv8dM0
今日はここまで。
それでは、おやすみなさい。
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/08(木) 01:52:16.82 ID:xxUNXDuOO
おやすみ
一旦乙
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/08(木) 09:26:36.79 ID:0+c4BCdSo
乙
頼むから無事に帰ってきてくれP…
28 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:05:52.60 ID:j6ZMm3cE0
「…んぁ」
いつもの時間に目を覚ましたが、あまり眠れていないせいか瞼が重い。それでも無意識に彼を揺り起こそうと、もぞもぞと右手が布団を探る。
「Pおはよ、起き………あっ」
そうだった。P、居ないんだ。
アタシのバカ。
「………うっ…う…うぇぇん…」
早く慣れないと…ダメだよね…
29 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:38:54.33 ID:j6ZMm3cE0
「はむ…」
ゆっくりとした動作で箸を口に運ぶ。朝ご飯は、ご飯にかけてお湯を注ぐタイプのお茶漬けだけ。食欲ないし、そもそも料理なんてする意味ないし。
洗い物はお茶碗とお箸とコップだけ。あっという間に洗い終えると、お次は洗濯物干し。
これもアタシの分だけだからすぐに終わっちゃった。アタシとPの洗濯物が並んでて一緒にはためいてるのを見るの、そういえば結構好きだったな。
「…よしっと」
お洗濯も終わったし…アルバムでも見よっかな。時間も潰せるし、前見た時はPと二人だったから流し読みだったしね。
…まさかこの選択を後悔する事になるなんて、この時のアタシは知るハズもなかった。
30 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:44:29.77 ID:j6ZMm3cE0
一番古いのは…これかな?アイドル卒業祝いに、アタシのアイドル時代の写真を小鳥が何冊かに分けてまとめてくれてプレゼントしてくれた、アタシの大事な宝物。アタシはその中の一つ、背表紙に金文字のローマ数字で「T」と書かれたものを手に取り、軽く埃を払ってからページをめくり始めた。
アタシとPが歩いた軌跡を辿っていくうちに、アタシはある事に気付いた。や、やだ…アタシ無意識にPの事、目で追っちゃってるじゃん…!
それにPと話してる時の顔、めっちゃデレデレだし…!皆から好意バレバレだよって言われてたけど、そういう事だったんだ…。うわぁ、超ハズい…。
つ、つぎつぎっ!アタシはなるべく自分のだらしない顔の写真は見ずに、急いでページをめくった。
31 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:45:02.88 ID:j6ZMm3cE0
数時間後。アルバムの金文字が「X」になった頃。
「ふぁ…はふ」
…眠いなぁ。
その日「X」のアルバムは、棚に戻される事はなかった。
32 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:48:32.20 ID:j6ZMm3cE0
「ん…」
朝…?じゃない。外が暗い…夜か。
夜…ん、夜?
「…夜っ!?」
まさか、お昼寝しちゃってた…!?アタシは背中が痛むのも構わず跳ね起きて、急いでスマホを手に取る。
着信歴には初めて見たくないと思った、「P」の文字がいくつも。何度も電話をかけてきた形跡があった。
「あっ…あ…ああっ…!」
やってしまった。
コールしてる間、彼はどんな気持ちだっただろうか。
もし…もし愛想尽かされちゃってたらどうしよう…?
「ごめん…ごめんね…」
視界が滲む。思わずかけ直しそうになるのをぐっとこらえる。こんな時間だし、迷惑だよね。明日かけてきてくれるまで待たなきゃ。
だけど次の日も、その次の日も、Pから電話がかかってくることはなかった。
33 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:54:54.37 ID:j6ZMm3cE0
そして、今に至る。
あれからもう、どれだけ泣いただろうか。
泣いて泣いて泣きはらして、何回も強く擦り過ぎて目が痛い。あんまり眠れてないせいか、体が重い。なんにもやる気にならない。胃に重い物を無理やり詰め込まれたような気分。こら、考えうる限り最悪な状態ってやつ?
アタシ、もうこんな毎日耐えられない。もうやだよ…
P…何でかけてきてくれないの…?
愛想尽かされちゃったのかなぁ…?
それとも…
出張先でPの身に何かあったのかなぁ…?
「いや…怖いよ…!」
そんなのやだ…!だめ…そんな事考えちゃだめ…
「あうぅっ…えぐっ…P…こわいよぉ…はやくかえってきてよぉっ…うっ…う…」
アタシの心に色んな負の感情が絡みついてきてほどけない。
情けなくて、悔しくて、寂しくて、切なくて、悲しくて、怖くて、涙が止まらない。
ねぇ、P。一つだけお願いがあるの。
お土産なんて要らない。他に何も要らない。また好きになってくれるように努力するから、愛想尽かされちゃってても構わない。贅沢言わないから、お願いだから…
どうか無事に帰って来て。それだけでいいの。
34 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/10(土) 19:55:31.79 ID:j6ZMm3cE0
少し早いですが、今日はここまで。
それでは、おやすみなさい
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 00:51:25.98 ID:MMUuRCNZO
いやーここからどうやってハッピーエンドになるか楽しみだなー(棒)
36 :
◆T4kibqjt.s
[sage]:2017/06/11(日) 02:00:46.59 ID:L7eWwCjj0
訂正
>>33
× こら、考えうる限り最悪な状態ってやつ?
○ これ、考えうる限り最悪な状態ってやつ?
失礼致しました。
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 11:20:37.98 ID:4xTK8WmG0
Pなら無事に帰ってくるよ!そう信じてる(震え声)
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/16(金) 19:14:12.88 ID:jVKe7Suqo
Pなら琴葉の横で寝てるよ
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/18(日) 00:04:08.12 ID:SQs9dOeVO
帰ってこないのはPじゃなくて作者ってオチだったか……
40 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/22(木) 20:39:24.72 ID:5fJjkWjP0
夕方。
ピンポーン!
パジャマのままテーブルに顔を伏せ塞ぎ込んでいると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。それを聞いたアタシは反射的に体を起こした。
「……うぅ」
けどアタシは、とても出る気にはなれなかった。…居留守しちゃおうかな、と思いかけていたその時、
「メグミー!居ないノー!?」
「もうエレナ、近所迷惑でしょう」
…エレナ?もう一人は…琴葉?
アタシは急いで身なりを整え、玄関へと走った。
ゆっくりと鍵を回し扉を開けると、そこには方や眩しいほどの笑顔、方や心配と呆れが入り混じった顔をした二人の親友がいた。
「メグミー!会えて嬉しいヨ!一人で寂しくなかった?」
「恵美、久し振り。元気…は無いみたいね。この様子だと、私達からのメッセージも読んでないみたい」
「んー、まぁ仕方ないヨー。だってメグわぷっ!?…もぉ、メグミー」
「………エレナぁ…琴葉ぁっ…!うわぁあぁぁん…!」
「もう…よしよし」
その時のアタシには、二人がヒーローに見えた。
41 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/22(木) 21:10:24.51 ID:5fJjkWjP0
二人はまだ765プロでアイドルを続けているので、もちろんPが出張に行ってる事は知ってる。大方アタシの事を心配して、二人で予定を調整して会いに来てくれたんだろうな。アタシは申し訳ないと思うと共に、情けない自分に恥じ入った。
取り敢えずお茶を二人に出して、三人でテーブルに着く。アタシはしばらく黙り込んでたけど、琴葉に促されてぽつりぽつりと今日までの事を話し始めた。
「そっか、そんな事があったんだネ…」
「…」
アタシが話している間、エレナは相槌を打ったりして反応を返してくれていたが、琴葉は何かを考えているような表情で黙ったままだった。
「恵美」
「…!な、なに?」
アタシが全て話し終えると、やがて琴葉は幼い子を叱る母親のような口調で、優しく、しかし力強くアタシに話しかけた。エレナはさっきまでとはうって変わって、今は黙って琴葉を見つめて、琴葉の言葉を待っていた。
「それじゃだめだよ」
「えっ…?」
「恵美、プロデューサーの奥さんなんだよね?」
琴葉が何を言いたいのか、何を言うべきなのか解らず、アタシはただ頷く。
42 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/22(木) 21:12:47.22 ID:5fJjkWjP0
「だったら、信じて待ってあげないとだめ」
「…!」
琴葉はそう言うと、アタシの手を握った。琴葉の言葉にハッとしたアタシは俯いていた顔を上げ、琴葉の顔を見つめた。そこには、アタシを包みこ込むような琴葉の温かい笑顔があった。
「大丈夫よ。プロデューサーに何かあったならすぐに妻の恵美に連絡が行ってる筈だし、あの超が付くほどの愛妻家が一回電話に出なかったくらいで愛想を尽かす訳ないじゃない」
…確かに、少し考えれば分かる事だった。アタシ、全然周りが見えてなかったみたい。それを聞いていくらか心に立ち込める暗雲が晴れたけど、青空が見えるにはまだまだだった。
「…でも、電話掛かって来ないんだぁ…」
「きっと、何か事情があるだけだよ」
「でも…」
震える声で何とか言葉を返すと、静観していたエレナが尋ねた。
「恵美からは電話したノ?」
「…うぅん。もし出なかったらって思ったら怖くてさ…」
もしアタシがかけて出なかったら完全に望みが絶たれると思って、かけられずにいた。弱音を吐くアタシに、琴葉の表情はまた真剣なものへと変わった。
「…恵美、私は結婚してないから今の恵美の気持ちは分からないけど、あなたの親友として言わせて」
アタシは何を言われるのかと少し緊張しながら、無言で頷く。
「新婚さんだし、恵美はプロデューサーの事が大好きなのはよく知ってるから、寂しいとは思う」
「けどあなたには、その気になれば会える距離に私やエレナ、そして765プロの皆がいる。他のお友達やご近所の方もね。でもプロデューサーは知り合いすら誰も居ない土地で、たった一人でお仕事してるんだよ」
「あ…っ」
琴葉の真っ直ぐな瞳に射竦められて目が逸らせないでいたアタシは、その言葉に追い打ちをかけられた。
「支えられるだけだったあの頃とは違う。恵美は今はもう、あの人を支えてあげなくちゃいけないの。その為には、恵美がもっと強くならなくちゃだめ」
「だって恵美は、あの人の帰る場所なんだから」
43 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/22(木) 21:16:25.99 ID:5fJjkWjP0
アタシが、Pの帰る場所。
「結婚したらその瞬間から、帰る場所は『家』から『家族』になるの。私はそう思う」
その言葉を聞いて、なぜか胸がいっぱいになった。今にもあふれちゃいそうなくらいに。
そんなアタシを見て微笑みつつ、琴葉が続けた。
「それにいつかお母さんになるかも知れないんだし、尚更しっかりしないと。ね♪」
「うぇっ!?…う、うん」
小悪魔っぽくウインクする琴葉に対し、アタシは顔を赤くしながら下を向いて小さく頷いた。エレナは雰囲気が緩んだ事に少し安心した様子で、楽しそうにクスクス笑っている。
「よし!それじゃ、電話してみよっか」
「えぇっ!?」
琴葉の突然の提案に、アタシは軽く飛び上がった。
「向こうからかけてこないんなら、こっちからかけるしかないでしょう?」
「で、でもさ…」
もしもPに何かあったら。数字にすれば、ほんの0.1%の不安。アタシにとってのそれは、あまりにも大きい数字だった。けど、
「メグミ、ワタシ達がそばにいるヨ」
エレナの柔らかな笑顔に、背中を押された。
「…うん」
44 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/22(木) 21:18:26.22 ID:5fJjkWjP0
一旦ここまで、続きは深夜に投下します。
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/22(木) 22:17:09.58 ID:DRvYc9ys0
乙 待ってた
46 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:09:52.60 ID:nE0G2m1V0
「…っく…ふうぅっ…」
コールはもう十五回目。スピーカーにしてるスマホのコール音がアタシ達三人を煽り、二人も不安の色が隠せなくなってくる。アタシなんて、どんどん涙がせり上がってくる。
二人はそれを振り払うべく、それぞれアタシの片手を握ってくれた。多分、Pは大丈夫だっていう自己暗示も兼ねてるんだと思う。
そして、十八回目のコールが終わろうとした時。
『あ、恵美か!?ごめん、トイレ行ってた!それでえっと…電話してもい──』
「Pっ…」
よかった。
いつものPだ。
『えっ…!?恵美、泣いてるのか…?』
「ふぐぅ…うぁ…あぁあぁぁん…!」
困ったような焦ったようなPの声が、床に落ちたアタシのスマホからしばらく聞こえていた。
47 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:11:33.47 ID:nE0G2m1V0
「ぇぐ…P…あの、ねっ…」
琴葉とエレナに背中を擦られながら、少しずつ言葉を絞り出していく。
『ちょっ、落ち着けって!大丈夫か!?ゆっくりでいいから話してくれ。ほら、深呼吸して』
「ひっぐ…えぅっ…うん…すうぅ…はぁっ………ねぇ、今時間大丈夫…?」
『あぁ、大丈夫だけど…』
「よかった…あのね、Pが出張に行っちゃってから二日目の夜、アタシ電話出なかったでしょ…?」
『あぁ、まぁ……そうだったな』
悲しそうなPの声を聞いて申し訳なさに胸が痛みつつ、アタシが続けた。
「…っ。でさ、あの後Pから電話かけてこなくなったじゃん…?だから、最初はPに嫌われちゃったのかなぁって、思ってね、けどだんだんPに何かあったんじゃないかって…怖くて…ぐすっ…思ったのぉ…ひっ…」
口に出す事で昨日までを思い出してまた段々悲しくなってきて、熱いものがこみ上げてくる。
48 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:14:30.76 ID:nE0G2m1V0
『えっ!?いやいや、俺は恵美に『アタシに甘えるな!』って言われてるものとばかり…』
「はぁ…?」
今のアタシにはPの言ってる言葉の意味がわからなくて、頭が一瞬活動停止した。ただそれだけなのに、電話越しなせいかPはアタシが怒ってると思ったらしく、言い訳をまくし立てるように早口で話し始めた。
『あっえっと…だってほら、いつも俺ばっかり恵美に甘えてばかりだろ?恵美からはあんまり甘えて来てくれないし、好きとか愛してるとかもあんまり言わないし!』
…そういえば、言ってない。Pに「好き」って言われても、アタシは「にゃはは、ありがと♪」って返してただけ。アタシがPの事が大好きなんてそんな当たり前の事、言わなくても伝わってるって思ってたから。だって、こんなにPの事が好きなんだよ?
それに、思い返してみたら…あんまりアタシから甘えたりしてる記憶はない。けど、それは…
『今回だって俺から毎日電話してくれるように頼んだけど、二日目恵美が電話に出ない理由を冷静になってから考えてみて…恵美からすれば迷惑だったのかなぁって…』
「な…何で!?何でそう思ったの!?」
迷惑!?そんな訳ない!「頼まれた」覚えなんてないし、毎日電話しようって言ってくれて嬉しかったよ!?一日目からPが電話かけてきてくれるのが凄く楽しみだったし、それをPが居ない間の心の支えにしようと思ってたのに…なんでそんな事も分かんないの…!?
『…俺が出張に行くって恵美に言った時、恵美は全然余裕そうで、気にしてなかったから。正直、ちょっとだけショックだった』
…えっ?
あれ…あの態度って、そういう事だったの…?
あの表情…Pは、引き止めて欲しかったの…?
P、アタシの事全然分かってないじゃん。
………アタシもPの事、全然分かってないじゃん。
これ以上気分が落ち込む筈がない。この時アタシはそう思っていた。
49 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:17:05.17 ID:nE0G2m1V0
『………で、あの後不安になって『夫 出張中』とかで検索してみたら、その…居ない方が楽だ、とか…俺にとってネガティブな事ばっかり色々書いてあったし、恵美ももしかしたらそうなのかなって。恵美は優しいから我慢してくれるんだろうけど、負担になるくらいだったら寂しさくらい我慢しなきゃと思ってな。俺が甘えてばっかりじゃ、やっぱ夫婦としてダメだから』
……………………っ!!
アタシは色んな気持ちがはち切れそうで、声すら出せなかった。Pの声が聞けた事への安堵、超絶大バカなPへの怒り、そして分かってくれない悲しみ、そして相手を分かってないのはアタシも同じなのに、自分勝手に怒るわがままな自分への激しい嫌悪感。どの感情で涙を流してるのか、自分でも分からなかった。それほどその一つ一つが大きい物だったから。
ただ一つ言えるのは、Pの言う事は何もかも間違ってるって事。
50 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:18:00.90 ID:nE0G2m1V0
そんなアタシの沈黙をPはどう受け取ったのか最初の勢いはなくなり、声も弱々しくなっていった。
『…自分でも女々しいって事は分かってるよ。恵美がもしかして俺の事を友達、良くて親友くらいにしか思ってないのかな、っていうのは薄々思ってたし…」
…は?
「俺ばっかり恵美の事を好きなのはちょっと寂しいけど、一緒に居てくれるんなら俺は恵美の優しさに漬け込んでも構わないとすら思ってた』
待って、ちょっと待ってよ。何言ってんの?
『あの時は恵美の事がどうしても諦められなくて何回も押して付き合って貰ったけど…まぁ友達として好いてくれてるってのは当然知ってたから、いつか本当に好きになって貰えればいいなって──』
付き合って「貰った」?
当然…知ってた?
知ってたって?
アタシの何を知ってたっていうの?
ブチッ───。
51 :
◆T4kibqjt.s
[saga]:2017/06/23(金) 01:21:29.55 ID:nE0G2m1V0
この言葉にアタシは一瞬自分の方の非も綺麗サッパリ忘れて、完全にキレた。確かにアタシはPの鈍感な所も含めて好きになったし、結婚もした。けど今の言葉だけは、Pを心から愛する妻として許す事ができなかった。そしてドスの効いた声でゆっくりと、
「はぁ?なにそれ。知ったかぶりも大概にしてよ。バカじゃないの」
『えっ…』
生まれて初めてPに酷い悪態をついた。けど、爆発しちゃったマグマの様な感情はもう抑えられない。怒りでこんなに暑いのに、体の芯から震えが止まらない。
「ふざけないでよっっ!!!アタシがどんだけ…どんだけ…あぁもぉっ!!Pのバカ!バカぁっ!!!」
勢いよく立ち上がり、椅子が大きな音を立てて倒れた。我慢が苦手な子供みたいに喚いてばかりで、うまく言葉が出てこない。誰かに対してこんなに激しく怒ったのは初めてだったから、上手な怒り方が分からなかった。
『えっ!?あの、めぐ』
「うるっっさい!!!今はアタシの番だから黙ってて!!Pは十分長々とくだらない事ばっかり話してたでしょ!!」
『…はい』
琴葉とエレナは驚き怯えた様子だったけど、アタシは気にせずPにお説教を続けた。
「いーい!?アタシはPの事が大好きなの!友達としてなんかじゃないし!恋人として、夫婦として、一生のパートナーとして…お、男として大好き!世界で一番好き!愛してるの!!分かる!?ってゆーか逆になんで分かんないの!?それにアタシの親友は琴葉とエレナだけだし!調子のんなっ!」
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