魔王「リインカーネーション」

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418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:33:05.55 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いずれは? それは一体どういう?」

王女「騎士団長さん、一度だけ我が儘を聞いてくれませんか? 一度だけの頼み事です」

騎士団長「……それは、内容によります」

王女「そんなに険しい顔をしなくても大丈夫ですよ。そう難しい話ではありません」

王女「彼が目を覚ますまで待って欲しいのです。彼が目覚めれば王宮に戻ります」

騎士団長「何故そこまでして……」

王女「愛しているからです」ニコッ

騎士団長「なっ…」

王女「わたしがこんなことを言うなんて意外ですか?」

騎士団長「い、いやいやっ! そういうことではありません。奴は悪党、無法者ですぞ!?」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 01:52:13.57 ID:Y3JrDDfTO

王女「ええ、言われずとも分かっています。ですが、それとこれとは話が別です」

王女「彼がわたしを救ってくれたことに変わりはないのです。受けた恩を返すくらいはさせて下さい」

騎士団長「し、しかし…」

王女「とても意地の悪い言い方になりますが、如何にニンゲンとはいえ恩人を見捨てるような真似が出来ますか?」

騎士団長「うぐっ…それは……」

王女「騎士団長としても個人としても、そういった人道に背くようなことを出来るような人とはとても思えませんが……」

騎士団長「わ、分かりました。少しばかり時間を下さい。今すぐには答えられません」

王女「……考えて下さるだけでもありがたいです。先程は意地の悪いことを言って申し訳ありませんでした……」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:15:30.09 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いえ、姫様の仰る通りです」

騎士団長「恩人に対して何も返さぬというのは私も如何なものかと思います」

王女「……ありがとうございます。騎士団長さんが来てくれて良かったです。他の方ならどうなっていたか…」

騎士団長「姫様、まだそうすると決めたわけでは……」

王女「そ、そうでしたね……」

騎士団長「(もう一度あの医師に奴を診断して貰わなければ。その結果次第で決めることにしよう)」

騎士団長「(あまりに長く掛かりそうな場合は姫様には申し訳ないが諦めて頂く他ない)」

トコトコ…

騎士団長「そろそろ宿に着きますな。私は部屋の前にいますので何かあれば仰って下さい」

王女「あのぅ…それなのですが、あれから宿も変更して部屋も広いですし中にーー」

騎士団長「何度も言いましたがそれは出来ません。ましてや姫様と同じ部屋に入るなど決してーー」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:21:14.20 ID:Y3JrDDfTO

王女「湯浴みには付いてこようとしたのに。ですか?」

騎士団長「そ、それははそれ。これはこれです。出掛ける際は必ず同行します。湯浴み以外は……」

王女「フフッ…ええ、そうしてくれると助かります。他の女性客の方達も驚いていましたから」

騎士団長「申し訳ありませんでした。姫様が刺客に狙われているかと思うと周りが見えなくなってしまって」

王女「いえ、わたしだけならばよいのです。ただ、他のお客様にまでご迷惑を掛けるのはちょっと……」

騎士団長「………」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、何でもありません。さ、宿に着きましたぞ。入りましょう」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:27:10.11 ID:Y3JrDDfTO

王女「は、はい。そうですね」トコトコ

騎士団長「(世辞にも姫様が泊まるに相応しい宿とは言えん。にもかかわらず文句一つ言わず、それどころか他の宿泊客のことまで配慮して……)」

騎士団長「(以前に王族関係者の警護をした時とは天と地の差。あのような輩には姫様の爪の垢でも煎じてーー)」

王女「どうしたのですか? 冷えてきましたし入りましょう? 風邪を引いたら大変ですよ?」

騎士団長「………」ジーン

王女「?」

騎士団長「姫様のことは命に代えてもお守りいたします。御安心下さい」ドンッ

王女「へっ?」

騎士団長「さ、入りましょう。冷えてきましたからな。風邪を引いたら大変ですぞ?」

王女「は、はぁ……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 15:10:11.92 ID:CLbC6O0Eo
乙ー
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:31:53.54 ID:q/U8JrihO

【宿屋】

騎士団長「(愛している。か)」

騎士団長「(あのような快活な笑顔を見るのは初めてだ。恋する乙女とは正にあのことだろう)」

騎士団長「(……だが、あの表情の奥にはそれだけではない何かがあるような気がする)」

騎士団長「(会話の最中には気にならなかったが、今になって妙な違和感を覚える)」

騎士団長「(どう表現すればいいのか分からんが。何というか、姫様らしくなかった)」

騎士団長「(何も知らぬのにらしくないと言うのもおかしな話だが、何かが引っ掛かる)」

『今はそうでも恋をしたことはあるでしょう?』

『何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?』

騎士団長「(………あたかも年上の女性と話しているような……そうだ。違和感はそこにある)」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:46:48.53 ID:q/U8JrihO

騎士団長「(からかうのとはまた違う)」

騎士団長「(母親から恋人が出来たのかと訊ねられた時のような。そんな感覚……)」

騎士団長「(あの時の姫様は少女と言うにはあまりにも大人びていた。表情や口調。それらが目上の者に対するものではなかった)」

騎士団長「(道に迷う若者に物腰柔らかく語り掛けるような。あれは、人生を『知っている者』特有のーー)」

コツコツ…

警備兵「随分と難しい顔をしていますが、どうかしましたか?」

騎士団長「いや、少し気になることがあってな。それより、君は何故此処に?」

警備兵「これを届けに来ました。団長殿宛てです」スッ

騎士団長「書簡? こ、この印は……」カサッ

警備兵「……では、私はこれで失礼します」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:32:35.65 ID:q/U8JrihO

警備兵「(王宮からの書簡……)」ツカツカ

警備兵「(大方、彼女を連れ帰れという指示か何かだろう。だが何故だ。何故、騎士団長がこの街にいることを知っている?)」

警備兵「(彼は独断でこの街に来たと言っていたはずだ)」

警備兵「(当初は何かしらの密命を帯びているのかとも思ったが彼は人を騙すような……いや、そんな器用な人物だとは思えない)」

警備兵「(彼が王宮に報せた様子も無い。情報交換をしているとしたら先程の反応はあまりに不自然だ)」

警備兵「(ならば、王宮に情報を流している何者かが街に潜伏していると考えるのが自然だろう)」

警備兵「(……書簡の内容には非常に興味を引かれるが、これ以上の詮索はすべきではないな)」

警備兵「(俺には俺の、彼には彼のやるべきことがある。早く詰め所に戻って報告書の続きでも書くか)」ガチャリ
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:35:35.51 ID:q/U8JrihO

ドタドタドタッ!

警備兵「ん?」クルッ

ガシッ!

警備兵「!!?」

騎士団長「…はぁっ…はぁっ…ま、待ってくれ」

警備兵「ど、どうしたんです? 血相を変えて……」

騎士団長「頼みがある」

警備兵「は、はい?」

騎士団長「事情は説明する。しかし此処ではまずい。姫…お嬢様には申し訳ないが部屋で話そう」

警備兵「いや、急にそんなことを言われましても。それに、まだ協力するとは一言もーー」

騎士団長「頼むっ!この通りだ!!」ザッ

警備兵「……一大事。ですか」

騎士団長「……ああ。一大事だ」

警備兵「……分かりました。では、急ぎましょう。表情から察するに時間もなさそうだ」
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/28(金) 03:27:34.28 ID:5n2/RwoyO
乙ー
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/28(金) 23:59:43.96 ID:wa2XofG2O

ーーー
ーー


盗賊「………殺す?」

看板娘「そ。不要になった輪転機の破棄。それから輪転機が輪転器であることを知る者の抹消」

盗賊「つまりは姫様と俺を殺せってことか。依頼に裏があるとは思ってたけど随分と急だな。それは爺さんが?」

看板娘「違う違う。王サマの息子、将軍だよ」

盗賊「あ、そう。まあ、それはどっちでもいい。それより足洗ったんじゃなかった?」

看板娘「あれ、足洗ってるとこなんて見せたっけ? 一緒にお風呂入ったことないよね?」

盗賊「……見られてなくても風呂に入ったら足は洗えよ。清潔感のない奴は嫌われますよ?」

看板娘「失礼な。ちゃんと隅々まで洗ってるよ。なんなら嗅いでみる?」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:14:47.72 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「魅力的な提案だけど遠慮しとくよ。で?」

看板娘「ん? 何が?」

盗賊「何がじゃねえよ。質問の意味分かってんだろ。お前はどっちの味方なんだ?」

看板娘「あたしが敵に見えるわけ? 敵はこんなにペラペラ喋らないよ」

盗賊「……王宮の奴等に情報売ってた癖に良く言うぜ」

看板娘「あたしが売らなくても奴等なら直に嗅ぎ付けてた。それに、そのまま売ったわけじゃないから安心して? 現にこの場所まではバレてないし」

盗賊「はぁ…お前、王宮の奴等相手に偽情報掴ませてたのか。相変わらずだな」

看板娘「全部が嘘ってわけじゃないよ。真実7の嘘2。創作1って感じ」

盗賊「……比率なんかどうでもいいんだよ。いいのか? また前みたいなことになっちまうぞ」

看板娘「大丈夫。そうはならないしヘマもしない。何せ、これが最後の仕事だからね」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:26:10.92 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「……何でだよ」

看板娘「?」

盗賊「せっかく表に慣れてたのに何で戻っちまったんだ。真っ当な人生に飽きちまったのか? あんなに憧れてたってのによ」

看板娘「……あんたのこと嗅ぎ回ってる奴がいたんだ。あんなの見ちゃったら仕方ないでしょ?」

盗賊「だったら俺に直接言えば良かっただろうが。危険を犯して情報流した意味が分かんねえ」

看板娘「ちょっとでも向こうの足を遅らせようと思ってさ。駄目だった?」

盗賊「駄目っつーか、せっかく手にしたもんを簡単に手放すなよ。店の制服似合ってたのに勿体ねえな……」

看板娘「……今の暮らしを手に出来たのはあんたがいたからなんだ。だからさ、少しくらい恩返しさせてよ」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:11:48.45 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「返される恩がデカ過ぎんだよ」

看板娘「そう? あの時と同等のものを返そうとしてるつもりなんだけどね」

盗賊「そもそも恩を売ったつもりはねえ。だから返す必要なんかないんだ」

看板娘「あんたがそう思ってても、あたしにとってはそうじゃない。返すなら今しかないの」

盗賊「……今を捨ててまで返すもんじゃないだろ。もう少し後先考えろよ。嫁に行くとか色々あるだろ」

看板娘「結構前から嫁ぎ先は決めてるんだけど相手が乗り気じゃないからね〜」ニコッ

盗賊「……職業柄、収入が不安定なんだ。結婚するなら安定した収入のある男にしときなさい」

看板娘「はぁ、いつもそうやってはぐらかすんだから……罪な男だよね、あんたってさ」

盗賊「そりゃあ常日頃から罪深いことばっかやってるからな。何たって泥棒さんだし」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:59:22.06 ID:3Ro3ad/0O

看板娘「……あの、さ」

盗賊「ん?」

看板娘「姫様のこと、本気なの?」

盗賊「どの辺から本気なのか分かんねえけど、今までにないくらい欲しいと思ってる」

看板娘「これでもかってくらいに本気だね。泥棒のクセに姫様に心奪われたわけだ」ニヤニヤ

盗賊「ん〜、そうかもしれねえな。上手く言えねえけど姫様は何か違うんだよ」

看板娘「………そっか。やっぱりそうだよね。うん、分かった」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:04:41.32 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「分かった?」

看板娘「気にしないで、こっちの話だから。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。色々あったけど何とか協力する方向に持っていけたよ」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどさ……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「そんなとこあるっけ?」

看板娘「一つだけね。こっち側で王の力が一切及ばない安息の地ってやつがね」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/29(土) 02:18:19.93 ID:e21hpOA8O
乙ー
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:56:36.16 ID:rEyUOzjxO

盗賊「分かった?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。こっち側で王の力が一切及ばない唯一の安息の地っやつがね」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 23:54:00.30 ID:RQFCICMUO
盗賊「分かったって何が?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。王の力が一切及ばない唯一の安息の地ってやつがね」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:59:02.66 ID:+6DblcTJ0
はよ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:06:27.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「安息の地、ね……」

看板娘「そんな顔しなくたって大丈夫。此処にいるよりは何十倍も安全だから。多分」

盗賊「多分ってお前…行ったことねえのかよ……」

看板娘「まあまあ、そこは着いてからのお楽しみってことにしといてよ」ニコッ

盗賊「……はぁ、分かったよ。どの道、今はお前を信じるしかなさそうだしな」

看板娘「理解が早くて助かるよ」

盗賊「で、俺は何をすればいい? この体でどこまでやれるか分かんねえけど出来ることはするぜ?」

看板娘「………」

盗賊「どうした?」

看板娘「あんたがそういうニンゲン……」

看板娘「ううん、そういう男だってことは分かってるつもり。けどさ、少しは考えなよ」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:07:53.13 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「はぁ? 何だよ急に」

看板娘「惚れてる女がいるなら悲しませるような真似はすんなって言ってんの」

盗賊「……ちゃんと考えてるさ」

看板娘「考えてない。意地張って格好付けて、無理して無茶して死ぬ際まで行って……」

盗賊「そうしなきゃならなかった。戦う以外に道はなかったんだ。仕方ねえだろ?」

看板娘「あんたは止まることを知らない。普通の…まともな奴なら逃げてる。化け物と戦おうなんて考えない」

盗賊「かもな。でも、知っての通り俺は普通じゃない」ニコッ
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:10:36.22 ID:3NGyzUZ5O

看板娘「ッ、ヘラヘラすんなっ!!」

バチンッ!

盗賊「………」

看板娘「今まではそれで良かったかもしれない。けど、今は違うでしょ!?」

看板娘「あんたが姫様のことを思ってるように、姫様もあんたのことを思ってる」

看板娘「姫様を本当に大切だと思うんなら、姫様が大切にしてるあんたを大切にしなよ……」ポロポロ

盗賊「……お前…」

看板娘「あんたに自覚はないだろうけど、何かを決めて走り出した時のあんたは、まるで死を迎えに行ってるように見える」

盗賊「………」

看板娘「あんなことをいつまでも続けてたら、いつかは絶対に死ぬ。惚れた女を残して逝くなんて最低だよ?」
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:13:40.82 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「確かにそいつは最低だな。でも、置いて逝っちまうつもりはねえよ」

看板娘「だったら!!」

盗賊「大丈夫さ。俺を見ろよ。棺桶には入っちまったけど生きてるだろ?」ニコッ

看板娘「…………はぁ、もういいよ。あんたはホントに変わらないね」

盗賊「お前は変わったな。狐の嫁入りが見られるとは思わなかったよ」

看板娘「何なら狐の婿入りを見せてくれても構わないよ?」クスッ

盗賊「俺の目はそう簡単に雨は降らせねえよ。さ、長話はこの辺にして安息の地とやらに行こうぜ」

看板娘「ああ、そうだね。早いとこ…? ちょっと待って、誰か来る……」サッ
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:15:46.02 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「ッ、王宮の奴等に嗅ぎ付けられたか。何人だ?」

看板娘「一人。ちょっと見てくるよ。あんたは此処で待ってて、一人なら何とか出来る」ザッ

盗賊「ちょっと待った」ガシッ

看板娘「どうしたの?」

盗賊「俺も行く。まだ満足には動けねえけど陽動くらいなら出来る」

ギュッ!

看板娘「ありがとね……」

盗賊「おっ、おい。こんなことしてる場合じゃーー」

看板娘「盗賊。あんたなら、そうしてくれるって信じてた」ポツリ
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:17:49.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「は? 何を言ってーー」

看板娘「ごめんね……」

チクッ…

盗賊「何を…ッ…」クラッ

看板娘「あんたはホントに変わらないね。でも、狐につままれるのはこれで最後。お休み、盗賊」

盗賊「っ、お前、何するつも…りだ……」フラッ

ギュッ…

看板娘「……終わったよ。油断させるのにちょっと手間取ったけど、予定通りでしょ?」

ザッ…

警備兵「ああ、予定通りだ。彼女と団長殿は先に行った。次は我々の番だ。さあ、行くぞ」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/23(水) 01:36:58.04 ID:16NeqMAaO
乙ー
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 18:22:23.70 ID:3jLT8S4U0
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:01:05.86 ID:/FszNacrO

ーーー
ーー


ガララララッッ…

警備兵「良かったのか?」

看板娘「そっちこそ良かったの? 死体を捨てに行くとかって身内に嘘まで吐いてさ」

警備兵「警備隊を身内だと思ったことはない。俺が棺桶を運び出す時の奴等の顔を見ただろう」

警備隊「無関心で無責任。警備隊という立場にありながら問題を見過ごす。それが今の警備隊だ」

看板娘「へ〜、そりゃ大変そうだね。そんな奴等より、あたしの方が役に立つんじゃないの?」

警備兵「かもしれないな」

看板娘「あれ、予想外の反応だね。冗談のつもりだったんだけど」

警備兵「それ程までに人員が不足している。悪狐の手も借りたいくらいだ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:04:32.69 ID:/FszNacrO

看板娘「………」

警備兵「どうした? 皮肉の一つでも返してくると思ったのだがな」

看板娘「あんたがそんなこと言うなんて、ちょっと意外でさ」

警備兵「意外? 何が?」

看板娘「堅物で嫌味ったらしくて、あたしみたいな奴のことは許容出来ない器の小さい男だと思ってた」

警備兵「俺も最近まで自分はそういう質だと思っていた。後ろの奴と出会うまではな」

看板娘「盗賊と関わって何か変わった?」

警備兵「忌々しいことにな。劇的に何かが変わったというわけではないが、ただ……」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:07:52.39 ID:/FszNacrO

看板娘「ただ?」

警備兵「……奴の行動を見て目が覚めた。上手く言えないが、そんな感覚だ」

警備兵「角がなかろうと尻尾が生えていようと、俺が認めると思えた奴は認めてやろうと思えた」

看板娘「うわぁ、一介の警備兵が偉そうに。そんなだから嫌われてるんじゃないの?」ニヤニヤ

警備兵「誰に嫌われようが構うものか。あんな連中と連むよりは一人でいる方がよっぽど楽だ」

看板娘「あらそう。ところで孤独な警備兵サン。あなたに一つお訊ねしたいことがあるのだけど宜しいかしら?」

警備兵「何だその口調は……で、何だ?」

看板娘「大嫌いなニンゲン。知性の欠片もないケモノ。そんな奴等と一緒に馬車に乗ってる気分は如何?」

警備兵「……そうだな。机から落ちた山のような書類を拾い上げて整理している時よりは幾らかマシだ」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:11:00.47 ID:/FszNacrO

看板娘「っ、あははっ!! そっかそっか。ま、繕ったこと言われるよりはずっと良いかな」

警備兵「お前はどうなんだ」

看板娘「あたし? あたしは気分良いよ?」

警備兵「何故?」

看板娘「普段からご自慢の角を見せびらかして肩で風切ってる奴に運転させてるからね」

警備兵「そんな風に見えるのか。そんなことをした覚えはないのだがな」

看板娘「あたし等にはあんたら種族は皆そう見えるのさ。あたし等を見下して嗤ってる」

警備兵「否定はしない。奴等はケモノ、品性も知性もない。そう言われて育ったからな」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:15:08.86 ID:/FszNacrO

看板娘「それはあたし等も同じだよ」

看板娘「角にしか養分が行ってない能無し。野蛮で粗暴、おまけに傲慢。そう言われて育ったからね」

警備兵「…チッ…全く、これこそ品の無い諍いだ。一体、何処の誰が言い出しのだろうな」

看板娘「さあね。とっくの昔に土に還ってるだろうから、幾らあんたでも見つけ出すのは不可能だろうね」

警備兵「……火種を撒くだけ撒いて土の中に雲隠れか。先人は面倒な問題ばかり遺してくれるな」

看板娘「しかし彼等がいなければ今の我々はいない。今ある文化や生活基盤は先人なくして有り得ないのだからね」

警備兵「………」

看板娘「ね、今のどう? 知識人っぽかった?」

警備兵「ああ、悪狐の化けの皮は何枚あるのか興味が湧いた。お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:10:46.84 ID:/FszNacrO

看板娘「お〜、怖い怖い。今夜中に消えないと本当に剥がされちゃいそうだね」

警備兵「行く当てはあるのか? 元密偵には要らぬ世話かもしれないが」

看板娘「新しい皮を被れば何処でも生きてける」

警備兵「……そうか」

看板娘「同情してくれてんの?」

警備兵「同情? 何を馬鹿な。そんな生き方はしたくないから真っ当に生きようと思っただけだ」

看板娘「真っ当に、か。その方がいいよ。お日様の下で堂々と生きていけるしね」

警備兵「そうありたいものだが、それも今日までかもしれない。これが発覚すれば晴れてお前と同じ日陰者だ」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:13:01.84 ID:/FszNacrO

看板娘「?」

警備兵「大罪人の逃走幇助。将軍の命に背いた反逆罪。片一方でも処刑は確実だ。人生を棒に振ったようなものだ」

看板娘「なら何で協力したのさ。あたしにはそれが一番意外だよ。そういうタイプには見えないし」

警備兵「自覚はしている。しかし、あんな話を聞かされれば仕方がない」

看板娘「姫様の話を信じるの?」

警備兵「信じる信じないの話じゃない。あの時の彼女には有無を言わさぬ何かがあった」

警備兵「威厳、風格。発する言葉の一つ一つに強い意志を感じた。あの時の彼女は王女というより女王のようだった」

看板娘「確かに。あれだけ言葉に力がある人は見たことない。初めて会った時とはまるで別人みたいだった」

警備兵「……本当に別人なのかもしれないな。もしそうであったとしても最早驚きはしない」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:15:20.57 ID:/FszNacrO

看板娘「まあ、あんな話聞いた後だしね」

看板娘「王の力の封印が解けるとか、再びニンゲンとの戦争が起きるとか、四人目の騎士とかさ」

警備兵「お前はどうなんだ?」

看板娘「あたしは盗賊を逃がす為に協力しただけ。他にはなんにもない。あんたもそうだと思ったけど、違うの?」

警備兵「分からない。ただ、やらなければならないと感じた。これは必要なことなのだと」

看板娘「……運命、みたいな?」

警備兵「……ああ。運命だとか占いだとか、そういう類は一切信じない質なんだがな」

看板娘「その選択が間違ってたらどうすんのさ。それがただの思い込みだったら本当に人生を棒に振っちゃうんだよ?」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:41:15.31 ID:/FszNacrO

警備兵「そうでないことを祈る」

看板娘「祈るって誰に? 偉大で永遠なる神の如き魔王サマ?」

警備兵「こんな時に神になど祈らない。まして魔王に祈るなど今となっては笑えない冗談だ」

看板娘「じゃあ誰に祈るのさ?」

警備兵「父と母だ。そろそろ河に着くぞ」

看板娘「此処まで来といてなんだけどさ、棺ごと河を渡らせるとか本当に大丈夫なの?」

警備兵「俺に聞くな。そもそも船があるかどうかも分からない。なければ終わりだ」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:44:02.23 ID:/FszNacrO

看板娘「船に棺を載せて流して下さい。お二人にお願いしたいのはそれだけです。だもんね……」

警備兵「彼は必ず辿り着くとも言っていた。船があったとしても沈めば終わりだというのに」

看板娘「でも、目的地に行くには河を渡るしかなない。姫様の言ってた通り河に続く道だけは兵が張ってなかったし」

警備兵「彼女が先に街を出たのが大きい。城に戻ると言い出した時は驚いたがな」

看板娘「………」

警備兵「どうした?」

看板娘「凄いよね。殺せって命令が出されてるのに何の迷いもなく城に戻るとかさ……」

警備兵「無謀とも言えるがな」

看板娘「そうだね。それに、今まで守ってた奴が命狙って来るわけでしょ?」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:45:29.62 ID:/FszNacrO

警備兵「そうなるだろうな」

看板娘「……はぁ、こりゃ勝てないわけだ」

警備兵「?」

看板娘「どんな策があるのか分かんないけどさ、あの娘は……姫様は諦めてない」

看板娘「こんな状況でも盗賊を生かすことを諦めてないんだよ」

看板娘「何て言うか、覚悟が違う。あの娘は愛に殉ずるってことをホントに出来るんだと思う」

警備兵「………着いたぞ、早く下りろ。よし、船はあるな。さあ、さっさと棺を運ぶぞ」

看板娘「……分かってる」

ザッ…ザッ…ザッ…ガコンッ…

警備兵「よし、固定したな。押すぞ」グッ

看板娘「んっ(はぁ、あたしに出来るのはこれくらいか。何だか、ちょっと悔しいな)」グッ

ズリズリ…バシャバシャ…ユラユラ…

看板娘「(盗賊、生きてね。どうか、無事に辿り着けますように……)」ギュッ
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:48:51.83 ID:/FszNacrO

警備兵「おい」

看板娘「?」

警備兵「まだ終わったわけじゃない。俺達には帰りもある。気を抜くな」

看板娘「はいはい分かってるよ」

警備兵「………恋だろうが何だろうが生きている限り可能性はある。行くぞ」ザッ

看板娘「ありがと……」ポツリ

ーーー
ーー


戦士「もう夜明けか。巫女様の予言によればそろそろ来るはずだが、果たして本当に来るのか?」

戦士「予言が外れればご自身の立場すら危ういというのに……」

戦士「船頭には鴉が立つ。それは死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「……鴉の騎士、死の騎士か。我が部族は過去に囚われたままーー」

カァー カァー カァー

戦士「鴉? 何処から…………!!?」ダッ

バシャバシャ!
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/26(土) 04:17:17.96 ID:rL+vpatWO
乙ー
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 08:19:55.83 ID:GSFBB0Vu0
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 10:46:42.91 ID:vAQPADYlo
上手く言えないけど語る雰囲気が良いよね
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:04:32.25 ID:CbbMx9INO

ザブンッ!

戦士「ぷはっ!!」

戦士「(見えた。確かに見えた。あれは確かに船だった。霧の晴れ間に船影があった)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ!はぁっ!ぷはっ!!」

カァー カァー カァー

戦士「(まるで私を呼んでいるようだ……鴉の声がなければ間違いなく見逃していたな)」

戦士「(如何に巫女様と言えど今回の予言ばかりはと思ったが、まさか本当に現れるとは……)」

戦士「(巫女様は私が見つけることを知っていたのか? それともただの偶然なのか?)」

戦士「(……いや、違う。こうなった以上は必然だ。恐らく、この先に訪れるであろうことも)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ、はぁっ…まずいな」

戦士「(ここから先は流れが速い。渡し船程度では耐えられない。急いで乗り込まなければ)」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:32:43.83 ID:CbbMx9INO

バシャバシャ!ガシッ!

戦士「ぷはっ…ッ!!」

ザバッ!ゴロンッ…

戦士「はぁっ、はぁっ、けほっけほっ……船頭に鴉。死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「今は棺の中身を確認している場合じゃないな。流される前に岸に戻らないと……」

ギィ…ギィ…ギィ…

戦士「しかし、こんな小舟でここまで辿り着くとはな。沈まずに流れて来たのが奇跡だ」

カァー カァー

戦士「ああそうだったな、お前もいた。ずっとそこにいたのか? 難儀な船旅だっただろう?」

戦士「お前が呼んでくれたお陰で見付けることが出来たんだ。ありがとう」

カァー

戦士「霧の中で棺を載せた船を漕ぐ。こんな経験は初めてだな。冥府の船頭にでもなった気分だ」

戦士「そろそろ岸に着く。この棺の中身まで川を渡っていなければ良いが……」

ギィ…ギィ…ギィ…
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:39:51.95 ID:CbbMx9INO

ギィ…ギィ…ザザァ…

戦士「ふ〜っ、何とかなったな」

カァー カァー バサバサッ!

戦士「……役目は終えた、か? 遺体に集るのでなく棺を導くとは不思議な鴉もいたものだ」

戦士「さて、中を改めなければ。棺を暴くなど気乗りしないが仕方が無い」

ガコンッ!

盗賊「…スー…スー…」

戦士「……寝ている。何だコイツは? 若いし体も細い。こんな奴が本当に鴉の騎士なのか?」

戦士「もっと壮年で逞しい男を想像していたんだが拍子抜けだな。ウチの男達の方がまだマシだ」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:53:41.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「…スー…スー…」

戦士「おい、いつまで寝ている。いい加減に目を覚ませ」

ペチペチッ

盗賊「……んっ、寒っ…」

戦士「おい」

盗賊「……姫様? 無事だったのか…って言うか此処は? 狐娘は? 騎士団長と警備兵は?」

戦士「何を言ってる? 寝惚けているのか?」

盗賊「………あ〜、悪い。人違いだったみたいだ。早速で悪いけど此処は? きみは一体ーー」

戦士「説明なら幾らでもしてやる。取り敢えず起きろ。話はそれからだ」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 23:10:04.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「ああ、分かった。よっ…痛っ…」クラッ

ガシッ!

戦士「その様子だと本当に傷を負っているようだな。ほら、私に掴まれ」

盗賊「……いや、いい。大丈夫さ、一人で歩けるよ」

戦士「ん、そうか。なら付いてこい」

盗賊「(日に焼けた肌。額に短い一本角。目元、鼻筋、唇。目つきと肌の色以外はそっくりだ)」

戦士「どうした。早く来い」

盗賊「悪りぃ悪りぃ、今行くよ(ったく、どうも調子が狂うな。民族衣装を着た姫様にしか見えねえ)」

盗賊「(いや、んなことはどうでもいい。それより姫様だ。姫様は無事に逃げ切れたのか?)」

盗賊「(姫様には騎士団長と警備兵が付いてるって言ってたけど大丈夫なのか?)」

盗賊「(つーか何で俺だけがこんなとこにいる。俺達二人を逃がすって言ってたけど失敗したのか?)」

盗賊「(くそっ、何がどうなったのかさっぱり分かんねえ。取り敢えず現在地を確認しねえと始まらねえな)」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:02:41.64 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

戦士「何で火を焚いた?仲間にでも知らせる気か? 此処は渓谷だから無駄だと思うぞ」

盗賊「違う。きみの服を乾かす為にやったんだ。俺も寒かったからな」

戦士「そうか。しかし、まさか自分の棺を壊して火を付けるとは思わなかったぞ」

盗賊「乾いている木はあれしかなかったからな。使えるもんは何でも使うさ」ジャキッ

戦士「!!」バッ

盗賊「っと、悪い。驚かせちまったな。ちゃんと動くかどうか確認したくてさ」

戦士「………」ジー

盗賊「そんなに警戒すんなって、何もしやしない。なんなら、ほら」スッ

戦士「……そこに置いて三歩下がれ。ゆっくりだ。妙なことはするなよ」
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:06:02.75 ID:EUNAEcDAO

盗賊「はいはい、分かったよ」トサッ

ザッ…ザッ…ザッ…

戦士「…………」ツンツン

盗賊「なあ、あんまり弄くんなよ。下手したら怪我すんーー」

ジャキッ!

戦士「わっ!!」

盗賊「はぁ、だから言ったろ。もう良いかい?」

戦士「……なるほど、此処から刃が出る仕組みか。見たことない武器だ。これは何という武器だ?」ツンツン

盗賊「さあ? 自分で作ったから名前なんかねえよ」

戦士「これを自分で作ったのか!? お前、手先が器用なんだな。女みたいだ。体も細いし」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:31:11.54 ID:EUNAEcDAO

盗賊「編み物とかしないのか?」

戦士「しない。私は戦士だから」

盗賊「戦士、ね……」

盗賊「(つーか本当に似てんな。姫様は遊牧民の子だったとか言ってたし、後で聞いてみるか)」

戦士「何だ? 女が戦士を名乗るのが可笑しいか?」

盗賊「いや? ただ、きみには戦って欲しくないと思ってさ。戦うとこなんて見たくもねえ」

戦士「敵がいれば戦わなければならない。私には敵と戦う覚悟がある。だから戦士になった」

盗賊「……(敵?)そっか。ところで、そろそろそこに戻ってもいい? 座りたいんだけど」

戦士「ん、もういいぞ。ただ、これは預っておく。なんか危ないからな」

盗賊「どーぞ。で? きみは何で俺を助けてくれたんだ?」

戦士「お前を待つように言われた。巫女様の予言だ。こうして話すのも私でなくてはならないらしい」

盗賊「……予言」

戦士「疑うか?」

盗賊「いや、信じるよ。話を続けてくれないか。知りたいことは山ほどあるんだ」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:36:50.63 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

盗賊「第四の騎士。王を打ち倒す者」

盗賊「俺が死の騎士の生まれ変わりね……白い騎士が輪転器って言ってたのはそういうことか」

戦士「輪廻転生。お前は全ての始まりで、全てを終わらせる者。巫女様にはそう聞いた」

盗賊「……全てってのは何を差してる?」

戦士「そこまでは分からない。未来だという者もいれば世界だという者もいる。解釈は多々ある」

盗賊「どっちにしろ碌な結果は生まなさそうだな。そんな危険な奴を何で助けた?」

戦士「初代の王と鴉の騎士は選択を間違えた。それを正すのがお前らしい」

盗賊「選択?」

戦士「そう、選択だ。どんな考えがあったのか知らないが、二人は存在してはならない力を世界に遺してしまった」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:41:13.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「存在してはならない力…王の力か?」

戦士「あれがある限り自由はない。あれは鎖だ。世界は千年以上もあれに縛られ続けてる」

盗賊「ん〜、何だかよく分かんねえな……」

盗賊「要は俺が魔王を倒すことになるってことなのか? 第二第三の騎士を倒して?」

戦士「そうだ。そうすることで何かが終わり、何かが変わる。お前にその意思があれば」

盗賊「……あのさ、俺はただのニンゲンだぜ?」

戦士「知ってる。それも巫女様から聞いてた。鴉はいずれ境界線を飛び越えてやって来ると」

盗賊「……輪転器のことも知ってるのか?」

戦士「それなら私より巫女様の方が詳しい。私は今の話を伝えるように言われただけだからな」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:19:22.17 ID:EUNAEcDAO

盗賊「巫女様は何できみに?」

戦士「理由は分からない。ただ、私の話なら大人しく聞くだろうと言っていたな……」ウーン

盗賊「(そりゃそうだ。彼女じゃなけりゃ姫様を捜しに行ってた。こんな話には付き合わなかった)」

盗賊「(冷静でいられんのも彼女がいるからだ。似てるからか? どこか安心してる自分がいる)」

戦士「何だ?」

盗賊「いや、何でもない。それより、きみはさっき敵と言ってた。その為に戦士になったってさ」

戦士「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」

盗賊「きみの敵ってのは何だ? きみさえ良ければ教えてくれないかな?」

戦士「……魔王だ。私がまだ幼い頃、奴に全てを奪われた。両親を殺され妹は行方知れず。もしかしたら攫われたのかもしれない」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:40:43.83 ID:EUNAEcDAO

盗賊「…………」

戦士「あれは本当に突然のことだった」

戦士「奴は大軍を率いてやって来た。部族の皆は必死に抵抗したけど大半は殺された」

盗賊「……何で魔王はきみ達の部族を襲った? 巫女様には予知出来なかったのか?」

戦士「それが私にも疑問なんだ」

戦士「あの時、巫女様は何処に逃げれば助かるか知っていた。なのに襲撃されることは言わなかった」

戦士「巫女様は何も言わなかった。誰に何を言われても酷く罵られても、その件についてだけは今でも絶対に喋らない」

盗賊「………」

戦士「私も何度か聞いたけど駄目だった。だからあれ以来、巫女様は肩身の狭い思いをしてる」

盗賊「こう言っちゃ何だけど、何でそんな奴を信じる?」

戦士「親を亡くした私を育ててくれたのが巫女様だ。今でも色々言われてるけど、本当に優しい人なんだ……」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:43:18.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「(……育て親、か)」

戦士「服は乾いた。輪転器について知りたければ集落に案内するから付いてこい。これは返す」スッ

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「……お前は変な奴だな」ポツリ

盗賊「?」

戦士「話すつもりじゃなかったことまで話してしまった。お前は変な奴だ……」

盗賊「そうかな。俺からしたらきみの方が変わってるぜ? ニンゲン相手にこんなに優しくしてくれるんだからさ」ニコッ

戦士「………行くぞ。付いてこい」ザッ

盗賊「(巫女様とやらに会えば輪転器の疑問が解けるかもしれねえ。そうなれば、あの爺さんや将軍が何を企んでんのか見えてくるはずだ)」

盗賊「(もしかしたら姫様の居場所だって分かるかもしれねえ。今は、何にでも縋る。何にでも……)」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 02:46:17.27 ID:EUNAEcDAO
ここまで
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/29(火) 03:06:06.74 ID:nXhIHsaeO
乙ー
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 08:52:53.24 ID:84Bn0qKN0
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:47:24.80 ID:h2abarDbO

ザッ…ザッ…

盗賊「……凄え。渓谷っていうより峡谷だな」

戦士「凄い? 何がだ?」

盗賊「この景色。目に映るもの全てさ」

盗賊「ここにあるものは、生まれてからこれまでの時間をそのまま生きてるって感じだ」

盗賊「色んなとこを見てきたつもりだけど、こんなに手付かずの自然は見たことない」

戦士「ここはまだ幼いからな」

盗賊「幼い?」

戦士「巫女様がそう言っていたんだ。河の浸食による地形変化。地形輪廻と言うらしい」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:48:30.43 ID:h2abarDbO

盗賊「地形輪廻……」

戦士「この渓谷はそれが始まったばかりで、これから長い年月を掛けて更に姿を変えていく」

戦士「この形になるまで気の遠くなるような時が流れたようだが、それでもまだ幼いらしい」

盗賊「へ〜、物知りなんだな」

戦士「……そんなことない。今話したことは全て巫女様に教えられたことだからな……」

盗賊「いやいや、未来も見通すような物知りから教えられたんだ。きみだって立派な物知りさ」

戦士「お前は良く口の回る奴だな」

盗賊「だろ? 出会った奴には大体言われる」

戦士「………旅、してたのか?」

盗賊「ん? ああ、諸国を廻って泥棒してた」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:55:20.98 ID:h2abarDbO

戦士「お前、盗人だったのか」

盗賊「盗人じゃなくて泥棒ね。ドロボウ」

戦士「どっちにしろ同じだ。というか、何でそんなことを話す? 黙っていればいいものを……」

盗賊「きみは色々話してくれただろ? だから隠し事は無しにしようと思ってさ」

戦士「……何で盗む?」

盗賊「それを美しいと感じるから」

戦士「それ、とは何だ? 美しいというのは金や銀のことか?」

盗賊「勿論そういった物だって盗むけどそれだけじゃないぜ? 俺が盗むのは形あるものだけじゃない」

戦士「?」

盗賊「ん〜。例えば、そうだな……女の子の泣いてる顔とか、塞ぎ込んでる女の子の悩みとか」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 01:08:53.76 ID:h2abarDbO

戦士「……それのどこが美しいんだ」

盗賊「盗んだものが美しいんじゃない。盗んだ後に見せてくれるものが美しいんだよ」

戦士「お前が何を言いたいのかさっぱり分からない。はっきり言え」

盗賊「答えは笑顔さ。女性が最も輝いて見える瞬間ってのは笑ってる時だからな」ウン

戦士「言っていて恥ずかしくならないのか」

盗賊「いや、別に。だって本当のことだろ?」

戦士「……知らん。私には縁の無い話だ」

盗賊「そんな顔してると疲れちまうぜ? くすぐってやろうか?」

戦士「私がどんな顔をしてるのか分からないが、お前と話している方が疲れる」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:35:11.04 ID:h2abarDbO

盗賊「………」

戦士「どうした?」

盗賊「喋ると疲れるって言うから黙ってみたんだけど駄目だな。俺が耐えられそうにねえや」

戦士「なら、何か話してみろ。集落に着くまでの暇潰しになる」

盗賊「…………外の世界を知らない女の子がいた。その子はずっと外の世界を夢見ていた」

盗賊「鍵の掛けられた部屋が彼女の世界だった。彼女は一人きりで、ずっとそこにいたんだ」

盗賊「ある日、そこに一人の男が現れた。男は彼女に外の世界を見せたくなった」

戦士「その女を不憫だと思ったのか?」ガサッ

盗賊「それもあるけど彼女は美しかった。その男は彼女に一目惚れしちまったのさ」ガサッ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:40:23.22 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないのに、男の中で彼女は存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑った。これまでは一度もそんなことにはなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:45:40.16 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないけど、男の中で彼女の存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑ったみたいだ。これまでは一度足りともそんな気持ちにならなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:52:49.41 ID:h2abarDbO

戦士「惚れた女を離したくなかったのか?」

盗賊「それもあるかもしれない。でも、それだけじゃない」

盗賊「男は彼女の世界が変わり果てていることを知っていたんだ」

盗賊「何故か。実はその男、その世界の主に彼女を連れ出すようにと頼まれていたのさ」

盗賊「男がそれを告げると彼女は涙した。これまでの全てが嘘だったのか……ってね」

戦士「その男はどうした?」

盗賊「そりゃあ否定したさ」

盗賊「あれは本心だ。貴女と共にいたいという気持ちに嘘偽りはない。ってな」

盗賊「彼女は再び涙を流した。けど、それは先程とは全く違う色の涙だ」

盗賊「男は彼女の涙を見た時に決心した。彼女の為に戦うことを」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 03:05:31.72 ID:h2abarDbO

戦士「戦う? 誰と?」

盗賊「非情な現実ってやつが形を成した怪物さ」

盗賊「どんなに刺し貫いても倒れない『それ』を見た時、男にはそいつが不死にすら思えたよ」

戦士「勝てたのか? 不死の怪物に」

盗賊「何とか勝利することが出来たみたいだ。で、男は戦いの末に気を失って目覚めると棺桶の中だった」

戦士「………」

盗賊「彼女とは目覚めた直後に再会出来た。しかし、更なる現実が彼女を襲おうとしていた」

盗賊「それを知った男は何とかしようとしたが、再び深い眠りに落ちてしまう」

盗賊「目覚めるとそこは見知らぬ土地。男は彼女の居場所を知るべく、藁にも縋る思いで預言者の元へ向かった」

盗賊「自らを戦士と名乗る美しい女性の助けを得ながら、ね」ニコッ

戦士「……その男は彼女と再会を果たせると思うか?」

盗賊「どうだろうな。ただ、少なくともその男だけは彼女との再会を信じてるだろうさ」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 03:10:36.39 ID:h2abarDbO
ここまで
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 08:41:35.39 ID:P658J+nDo
おつ
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/31(木) 08:53:30.28 ID:nCikHAUaO
乙ー
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:15:37.55 ID:VBuzN7aw0
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 03:05:41.25 ID:s6gV6xVIo
おつです
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:49:04.75 ID:bd1LdiYlO

ガサッ…ガサッ…

戦士「……ん。この辺りならいいだろう」

盗賊「どうしたんだ?」

戦士「集落はまだまだ先だ。少し休むぞ。お前もそこら辺に座れ」

盗賊「疲れたのか?」

戦士「馬鹿を言うな。私がこの程度で疲れるわけがないだろう」

盗賊「なら何で? 早く行かねえとーー」

戦士「お前の事情は把握した。巫女様に会いたいという気持ちは分かる。だが焦るな」

戦士「私はお前を無事に集落に連れて行かなければならない。お前、今の自分がどんな顔をしているか分かるか?」

盗賊「さあな、鏡がないから分かんねえよ。それに、今は自分を見つめ直すほど暇じゃないんだ」

戦士「まだ減らず口を叩けるのか、お前は中々に根性のある男だな。見掛けは当てにならないとは良く言ったものだ」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:54:56.94 ID:bd1LdiYlO

盗賊「そりゃどうも。でも休む必要はないぜ?」

戦士「………頑固な奴だ」ザッ

盗賊「お、おいおい何だよ。何か怒らせるようなこと言ったっけ?」

戦士「脱げ」

盗賊「……え〜っと、そういうのはお互いを深く理解して少しずつ段階を踏んでからにしないか?」

戦士「いいから服を脱げ。早くしろ」

盗賊「分かった、分かったよ。軽い冗談じゃねえか。そんなに凄まなくたっていいだろ……」スルッ

戦士「!!」

盗賊「………だから見せたくなかったんだ」

戦士「(包帯だらけだ。この傷を背負いながら私の後を付いてきていたというのか?)」

戦士「(右肩、胸から腹に掛けての傷。それから背中。打撲している箇所も多々ある。顔色も酷い。普通なら倒れているか気を失ってる)」

戦士「(意識を保つにもやっとのはずだ。私に気取られないよう痛みに耐えていたのか、今までずっと……)」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:22:32.76 ID:VSCf0YOJO

盗賊「もういいか?」

戦士「良いわけがないだろう。棺に入っていた所持品の中には薬があったな。それを寄越せ、というか座れ」

盗賊「………はぁ、分かった。負けたよ。薬は腰にある革鞄のどれかに入ってるから取ってくれ」トスッ

戦士「ん、これだな。この先、集落に着くまでお前の荷は私が持とう。軽装備とは言え、その状態では辛いだろう」

盗賊「悪いな……」

戦士「………まずは包帯を外すぞ」

クルクル…

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「礼は要らない。それより何故傷のことを言わなかった? このまま歩き続けていれば無茶では済まなかったぞ」

盗賊「……立ち止まりたくなかったんだ。止まっちまうと余計なことばかり考えちまう」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:44:34.13 ID:VSCf0YOJO

戦士「………そうか。薬を塗るぞ」

盗賊「ああ、頼むよ」

戦士「(酷い傷だ。胸の斬り傷は深く、肩の傷は貫通している。背中のこれは矢傷か?)」

ヌリヌリ…

盗賊「ッ!!」ビクッ

戦士「す、済まない。染みるだろうが暫く堪えてくれ」

盗賊「気にすんな、これくらいなら大丈夫さ。眠気覚ましにはピッタリだ」

戦士「……ずっと戦っていたんだな」

盗賊「ああ、ガラにもなく頑張っちまった。まさか化け物と戦う羽目になるとは思わなかったけどな」

戦士「何故だ? 何故そこまで戦える? その女はそこまで大切な存在なのか?」

盗賊「(あ〜、そういや前に姫様にも同じようなこと聞かれたっけな)」チラッ
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 01:11:28.29 ID:VSCf0YOJO

戦士「ん? 何だ?」

盗賊「……いや、何でもない」

戦士「?」

盗賊「男ってのはさ、女の前で格好付けたくなるもんなんだよ。きみの部族の男だってそうだろ?」

戦士「ああ、惚れた女に渡す為の獲物の大きさ競い合ったりしている。女が受け入れるかは別だが」

盗賊「へ〜、男の勝負ってわけだ」

戦士「そのようだな。私には理解し難いが男達は熱心にやっている。だが、こんな傷は負わない」

戦士「どんな強者でも退く時は退くものだ。お前の場合は度が過ぎているんじゃないか?」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 03:09:53.29 ID:CP9Mduoto
乙ー
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:31:40.82 ID:NEUEpsasO

盗賊「そんなことはねえさ」

戦士「……意味が分からん」

戦士「お前は女の前で格好を付ける為だけに無茶な戦いをするのか? こんな傷を負ってまで?」

盗賊「まあ、うん。そうみたいだな」

戦士「何故だ? お前は死を怖れていないのか?」

盗賊「……死ぬことよりも怖ろしいものがあるんだ」

戦士「?」

盗賊「大事な何かを失うことさ」

戦士「信念や誇りか?」

盗賊「ま、それは人それぞれさ。とにかく、それを失ったら二度と立ち上がれない。生きていけないんだ……」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:36:31.52 ID:NEUEpsasO

戦士「……死んだら、終わりなんだぞ」ポツリ

盗賊「?」

戦士「命を晒すのは愚か者のすることだ。勇敢と無謀は違う。自らの命を差し出すような真似はするな」

戦士「大事なものを守れても生きていなければ意味がない。だから、生きる為に戦え」

盗賊「……そんな顔しないでくれよ。薬なんかよりそっちの方が沁みる」

戦士「何を言ってる?」

盗賊「……え〜っと、そうだな。今のきみがどんな顔してるか分かるかい?」

戦士「知りたくもない」

盗賊「じゃあ教えてやらないとな。何て言うか、迷子の子供みたいに泣きそうな顔してた」

戦士「うるさいぞ。傷口と一緒に口も塞がれたいのか」

盗賊「いつ死んだっていいような目をしてる。俺には生きる為に戦えとか言ったくせに」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:42:42.08 ID:NEUEpsasO

戦士「黙れ」

盗賊「戦わない道だってある」

戦士「黙れっ!!」ドンッ

ドサッ…

盗賊「…………」

戦士「……お前に何が分かる」

盗賊「少しは分かるさ。大方、魔王と戦って死ぬ気つもりなんだろ?」

戦士「ああそうだ。その為に生きてきた。それが私の生きる理由、目的だ」

盗賊「復讐か」

戦士「それ以外に何がある。帰るべき家も両親も妹も失った。よく遊んだ幼友達も……」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:54:55.72 ID:NEUEpsasO

盗賊「………」

戦士「瞬きの間に辺り一面が火に包まれた。叫び声を上げながら焼けていく様を見た」

戦士「家族と過ごした記憶、皆で作った花の王冠、木登り競争、あの頃は皆が笑っていたんだ」キュッ

戦士「……決して色褪せることのない思い出さえ、あの日以降は辛いものでしかなくなった」

戦士「失ったものは家族だけじゃない。記憶や思い出さえも失った。あの炎に塗り潰された」

戦士「真っ赤な炎が全てを焼き尽くした。いいか、何もかもだ!! 何もかもを奪われた!!」

盗賊「……けど、きみは生きてる」

戦士「っ、うるさいっ!!」

バキッ!

盗賊「……ゲホッ…復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、まだ言うか!!」

バキッ! バキッ! バキッ! バキッ!
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:03:17.34 ID:NEUEpsasO

盗賊「…ゲホッ…ゲホッ…」

戦士「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

盗賊「………手、大丈夫か? 痛めてねえか?」スッ

ギュッ…

戦士「は、離せっ!!」

盗賊「……聞いてくれ」ギュッ

戦士「う、うるさいっ、お前の言葉なんか聞きたくないっ!! 手を離せ!!」

盗賊「きみには戦って欲しくない。だから、復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、何なんだ。何なんだお前は……言うに事欠いて復讐を止めろだと? ふざけーー」

盗賊「俺がやる」

戦士「…………えっ?」

盗賊「俺が魔王を殺る。だから復讐は止めろ。さっきも言ったろ? きみが戦うとこなんて見たくないんだ」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:53:57.28 ID:NEUEpsasO

戦士「……お前、自分が何を言っているか分かっているのか?」

盗賊「勿論分かってるさ」

戦士「ふざけるな……」

戦士「お前には魔王と戦う理由などないはずだ。巫女様に会いに行くのも、さっきの話に出ていた女の為なんだろう」

盗賊「ああ、そうだ」

戦士「なら何故だ。何故戦う。それに何の意味がある。私を憐れんでいるのか」

盗賊「………そっくりなんだよ」ポツリ

戦士「何?」

盗賊「あのさ、妹がいるって言ってたよな。双子か?」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 16:08:45.72 ID:NEUEpsasO

戦士「その問いに何の意味がある」

盗賊「いいから答えてくれ。頼む」

戦士「………ああ、双子だ」

盗賊「やっぱりそうか。じゃあ、もう一つ。きみの部族は元々は遊牧民だったろ?」

戦士「……何故それを知っている。それもニンゲンであるお前が……」

盗賊「決まりだな。戦う理由なら今出来た」

戦士「何だそれは……お前が何を納得したのか私にはさっぱり分からない。説明しろ」

盗賊「きみとさっき話した女の子がそっくりなんだよ。似てるなんてもんじゃない、瓜二つなんだ」

戦士「私とその女が姉妹だと言いたいのか? 断言出来るだけの根拠は?」

盗賊「他の種族とは違う額の一本角が何よりの証拠だ。きみと彼女以外にそんな種族は一度も見たことがない」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:10:42.16 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘は吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「……ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:13:19.34 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「…………ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:15:10.01 ID:NEUEpsasO

戦士「それでも構わない。話してくれ」

盗賊「……彼女は、輪転器なんだ」

戦士「!!?」

盗賊「もう察しが付いただろ。魔王がきみの部族を襲撃したのは彼女を手に入れる為だ」

盗賊「双子の姉、きみがいるのに何で彼女を攫ったのか。そこまでは流石に分からないけどな」

戦士「そんな……だとしたら、巫女様は全てを知っていて黙っていたのか? 私を育てたのは何故だ? 魔王に輪転器を与える為に部族の皆を裏切ったのか?」

盗賊「お、おい。しっかりしろ」

戦士「何故そんなことをするんだ? 王の力を断ち切るのが目的ではなかったのか? その為に私はお前とーー」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:19:30.73 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「お互い、今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても、俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりしたよ」

戦士「やること?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:25:48.94 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「落ち着くんだ。今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だよ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりした」

戦士「?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 22:11:14.66 ID:PfjP5Z8Yo
乙ー
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:21:54.96 ID:sIEmPr6tO

戦士「女を泣かせた。それが戦う理由?」

戦士「お前はそんなことの為に命を張るのか? 本気で言っているのか? お前は馬鹿か?」

盗賊「馬鹿でも阿呆でも構わない。俺にはそれだけで充分なんだ。それに、もう一つ見たいものが出来た」

戦士「見たいもの? 何だそれは」

盗賊「きみの笑った顔だよ。背負わされた痛みや悲しみは俺が全部拭い去ってやる」

戦士「傷だらけの奴が言っても説得力がないな」

盗賊「……せっかく格好付けたんだ。せめて頬を染めるなり恥ずかしがったりしてくれよ」

戦士「私がそんな女に見えるのか?」

盗賊「そう見えないから見たいんだよ。見せないから見たくなる。分っかんねえかなぁ……」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:25:02.13 ID:sIEmPr6tO

戦士「分からんな。まったく理解出来ない」

盗賊「そっか、そりゃ残念だ」

盗賊「それより、そろそろどいてくれないかな? 跨がられて抱き付かれたまま話すのは……」

戦士「苦しいか?」

盗賊「まさか、そんなわけないだろ? でもほら、この状況を見られたらあらぬ誤解を生みそうだしさ」

戦士「此処には私達しかいない。だから誤解は生まれないし何も起きはしない。違うか?」

盗賊「……あのさ、それは男として見てないってこと? それとも信用してくれてーー」

戦士「お喋りな鴉だな」ギュッ

盗賊「怖いのか?」

戦士「………もう少し。もう少しだけ、このままでいさせてくれないか。まだ、震えが止まらないんだ」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:14:50.31 ID:z0piNFb+O

盗賊「……そっか」

戦士「………」ギュゥ

盗賊「(何か、姫様に抱き付かれた時のこと思い出すな。状況は全然違うけど……)」

戦士「……痛むだろう。殴って悪かった」

盗賊「気にすんな。何も知らない奴に知ったような口を利かれたら殴りたくもなるさ」

戦士「………妹は…その、どうなってた?」

盗賊「ん〜、最初は引っ込み思案で自分の気持ちに素直になれないって感じだったな」

盗賊「でも王宮を出てからは明るくなった。気弱に見えるけど、実は気が強くて芯がある。そんな子だよ」

戦士「……そうか。出来ることなら会ってみたいな。記憶がなくとも構わない、色々話したい」

盗賊「きっと会えるさ。というか、ニンゲンにこんなことしていいのか?」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:33:01.13 ID:z0piNFb+O

戦士「こんなこと、とは?」

盗賊「今の状況のことだよ。触れたり抱き着いたり、抵抗とかないのか?」

戦士「ニンゲンの方がまだマシだ。火を放った奴等はこっち側の奴等だからな」

盗賊「……そうか。あのさ、襲撃以降は隠れ住んでるのか?」

戦士「ああ、何せ王が直接襲撃したんだ。王に敵視された種族が外で生きるなど危険過ぎる」

戦士「私達が『こうなった』のは他の種族も知っている。私達には此処で生きる他に道はなかったんだ」

盗賊「(姿を消した種族の隠れ里。狐娘が言ってた安住の地ってのは此処なのか?)」

戦士「お前こそ抵抗はないのか?」

盗賊「ん?」

戦士「ニンゲンはこちら側の奴等を蛮族と忌み嫌っているのだろう?」

盗賊「みたいだな。俺は角があろうと尻尾があろうと美女とあれば大歓迎だけどさ」

戦士「……お前の瞳には嘘がないな。妹が信用したのも分かる気がする」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:50:29.92 ID:z0piNFb+O

盗賊「そうかな……」

戦士「ああ、お前の瞳は今までに見たことのない色をしているよ。何というか、綺麗だな」

盗賊「口説いてんのか?」

戦士「馬鹿を言うな。だが、これ以上は妹に悪いな。そろそろ退こう」スッ

盗賊「大丈夫か?」

戦士「ああ、もう随分と楽になった。休ませるつもりが余計に無理をさせてしまったな……」

盗賊「いいさ。薬塗って包帯を取り換えてくれただけでも充分だよ。んっ…いってえ」

戦士「無理するな。ほら、服を貸せ」

盗賊「……悪い」

戦士「前屈するようにして両手を下げろ。袖に通したら一気に着せられる。行くぞ?」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:52:42.56 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなるとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言ったが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:55:44.33 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言っていたが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
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