魔王「リインカーネーション」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:56:50.38 ID:yQJdRAdIO

盗賊「ッ、詰め所に…戻らねえとな……」フラッ

盗賊「(くそっ、意識を保つのがやっとだ。気を抜いて倒れたらそのまま逝っちまう)」

ガシャッ…

白騎士「…ゴボッ…ガフッ…」

盗賊「(おいおい冗談だろ。首吹っ飛んでんのにまだ生きてんのかよ。頭が胸元まで垂れ下がって……)」

白騎士「……右肩を狙わせたのは武器を封じる為か。利き手を失ったのは私の方だったと言うわけだ」ザッ

盗賊「(有り得ねえ。今に分かったことじゃねえが、あいつは本物のバケモノだ)」

白騎士「ゴフッ…鞭を使ったのは先を取る為ではなく、初めからこれを狙ってのこと……」

白騎士「全ては確実に仕留める為の布石。堪え忍び、息を殺し、この時を待っていた。そうであろう?」

盗賊「(もう、声も出ねえな。ここまで来ると笑えてくるぜ)」

白騎士「見事、実に見事。褒めて遣わす。それでこそ私の輪転器に相応しい」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 22:44:29.67 ID:yQJdRAdIO

盗賊「(何? 今、何て言った?)」

白騎士「私は終わらん。私に死は訪れない。新たな血と肉を得て、私は再び歩き出す」ダッ

盗賊「(……ざけやがって、あんなのどうしろってんだよ。もう策は尽きた。避けようにも体が耳を貸さねえ)」

白騎士「ハハハッ! 体が歓喜に震える。久しい、久しいぞ。そうだ、そうであった」グオッ

盗賊「イカレ野郎が……」

ガシッッ!

盗賊「ぐッ…ゲホッ…」

白騎士「求めるものは苦難の果てにある。それこそが勝利。私の求めるもの」

ダッダッダッ…ドサッ!

盗賊「(ぐっ…この場所は遺体があったとこか? 何だ、さっきより光が……)」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 23:59:23.58 ID:yQJdRAdIO

白騎士「これで準備は整った」

盗賊「(まさか男に覆い被さられる時が来るなんてな。これが美女なら諦めも付いたのに……)」

ゴシャッ! ズルリ…

盗賊「(今の音は何だ? 垂れ下がった頭が邪魔で何も見えねえ)」

白騎士「今こそ、転生の時……」

ゾブッ…

盗賊「(ッ、何だ。腹ん中に何かが入ってくる。くそっ、すっげえ痛え…力が抜けてく……)」

盗賊「(寒くて冷たくて眠い。今目を閉じたら、さぞや気持ち良く眠れるんだろうな)」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 00:25:52.20 ID:U0wfq6ijO

白騎士「貴様の死が、私の新たな始まりだ」

盗賊「(……ああそうか、これが死ってやつか。何か、妙に落ち着くな。悪くねえ気分だ)」

盗賊「(死ぬのはいい。どうせいつかは死ぬんだ。でも、こんな奴に殺されんのは御免だ)」

白騎士「さあ眠れ。私の器として生まれたことを光栄に思うがいい」

盗賊「……そんなに死ぬのが怖いのか。あんた、案外臆病な奴なんだな」

白騎士「まだ減らず口を叩けるとはな。だが、もうじき終わる」

盗賊「……口さえ動けば上等さ。口さえ動けば、喉元に齧り付けるからな」

ガブッッ! ブチブチッ!

白騎士「がッ!?」

盗賊「(これで死ぬかどうか分かんねえ。ただ、やれることはやる。死ぬまで諦めねえ)」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 01:28:35.59 ID:U0wfq6ijO

白騎士「…ゴブッ…よ…ぜ…やめろ」

盗賊「………」ギチッ

白騎士「やめろォォォッッ!!」

盗賊「………」グイッ

ブチブチッッ! ゴロンッ…

白騎士「」ドサッ

盗賊「……どんな奴でも死ぬときゃ死ぬんだよ。憶えとけ」

ガシャンッ…

盗賊「?」チラッ

盗賊「(兜が外れたのか。つーか、あの顔……まあいいや。何かもう、色々疲れた……)」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 01:33:10.41 ID:U0wfq6ijO
また明日
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 05:31:57.08 ID:ZRDtCuwJo
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:28:28.78 ID:/HbUbsMAO

【これまでのあらすじ】

王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』

輪転機を狙って王宮に忍び入った盗賊だったが、宝物庫で目にしたのは寝間着の女性であった。

状況を飲み込めずにいる盗賊に対し、彼女は自分が王女であること、探し求める輪転機が自分であることを告げる。

輪転機とは輪転器。王の力は器を変えて代々受け継がれているのだという。

「わたしを盗みますか?」

盗賊は面倒事になるからとその場を立ち去ろうとするが、駆け付けた騎士に取り抑えられてしまう。

暗殺未遂で処刑を言い渡された盗賊は独房へと入れられたが、さして気にすることもなく看守と談笑していた。

そこへ老人(魔王)が現れる。老人は看守に下がるように言い、盗賊に語り始めた。

「儂の体は長くは保たない」

王位継承の時は刻々と迫っており、この時期になると輪転器暗殺を企む輩が現れる。

何故にそんな話をするのかと問う盗賊に、今や王宮内部の者達は信用出来ないのだと言う。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:30:23.78 ID:/HbUbsMAO

「儂の娘を、輪転器を盗んでくれ」

王の力が輪転器へと渡るまで彼女を守って欲しい。それが、魔王の依頼であった。

盗賊はその依頼を引き受けると夜に脱獄。再度王宮へと忍び込み、宝物庫にて王女と再会する。

まさかの再会に驚く王女。

彼女は輪転器であることを受け入れながらも、外界への憧れを捨てきれずにいた。

「今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」

盗賊の言葉に大きく心を動かされる王女だったが、自分の我が儘で混乱を招くことを恐れ、決断を下すことが出来ない。

いっそ何も言わず連れ去ってくれたなら。そんなことを考えている間に騎士達の足音が迫っていた。

それでも王女の答えを待つ盗賊。曰く、無理矢理に攫うような真似は好きではないらしい。

「きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

この言葉により、王女は王宮を出ることを決意する。

「……今からでも、間に合いますか?」

盗賊は王女の願いを叶える為、傷を負いながらも王宮から脱出するのであった。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:33:44.81 ID:/HbUbsMAO

逃亡中、失血により盗賊が落馬してしまう。

王女の手当てによって傷は塞がったものの盗賊に意識はなく、失血と寒さに身を震わせていた。

「迷う必要なんてない。この人を死なせはしない」

文字通り命を賭して王宮から連れ出してくれた盗賊を救う為、王女は服を脱ぎ、冷え切った体に寄り添った。

一夜が明け、添い寝の甲斐あってか盗賊は意識を取り戻す。

「行くって、何処へ……」

「姫様の自分探しに決まってるだろ?」

こうして、二人は街を目指した。

盗賊は追っ手が来ないことを不審に思いながらも馬を走らせ、街に到着。

王女は門番によるニンゲンへの差別を目の当たりにし、これが世の常識なのだと実感する。

一触即発と思われたが、賄賂によって門を潜り抜け、二人は街に足を踏み入れた。

「な、何だか目が回りそうです」

王宮とは全く違う景色に驚く王女。街の人々はそれぞれがそれぞれの生活をしていた。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:38:06.17 ID:/HbUbsMAO

変装用の服を買い。遅めの朝食。

朝食を終え、預けていた白馬を迎えに行こうとするも、何やら騒ぎが起きていた。

見れば厩の辺りに煙が上がっており、急いで駆け付けると野次馬の会話が耳に入る。

『ついさっき兵士の会話を聞いちまったんだが、厩舎の主が焼け死んでたって話だ……』

厩へ近付くと警備兵に呼び止められ、二人は厩の中へと案内される。

警備兵によると盗賊の馬のみが逃げ、他の馬は全て斬殺されたと言う。

そして、壁には盗賊に向けた殴り書きがあった。

「我が王冠は貴様の手に在り。貴様の王冠は我が手に在る。さあ、戴冠の戦を始めよう」

盗賊はその意味が分からぬまま、気を失った王女を背負い宿屋へと向かったのであった。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/24(土) 00:52:53.17 ID:/HbUbsMAO

目覚めた王女は、外へ出たことを悔いていた。

「泥棒さんに傷を負わせたのも、厩舎の主さんを死なせてしまったのも、わたしの我が儘が原因です」

これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。王宮に戻る。そう言い出した王女に、盗賊は全てを打ち明けた。

王の依頼内容。輪転器暗殺を企てている存在。何処へ行こうとも君は命を狙われるのだと。

それを聞いた王女は、これまでの行いは全て依頼の為だったのかと涙ながらに問い質す。

「あの時、きみに一目惚れしたんだ。今まで見た何よりも綺麗で、誰よりも輝いて見えた」

更に泣き出す王女であったが、徐々に落ち着きを取り戻し、事件のあらましについて盗賊に訊ねた。

話を聞く内に、王女はある人物を思い出す。それは千年も前に没した白い騎士。

犯人と戦うことを決意した盗賊。その助けになればと思い、王女は語り出した。

王女が白い騎士について話し終えると、盗賊は部屋の前にいた警備兵を招き入れた。

警備兵は王女の言葉を信じ、宿屋よりは安全だと言い、二人を詰め所へと案内する。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:02:22.81 ID:/HbUbsMAO

詰め所へ到着した後、盗賊は犯人について警備兵に訊ねたが進展はなかったという。

特に怪しいのは盗賊が馬を預けた直後にやって来た男。盗賊の言うように右手に火傷はあったが何も所持していなかったとのこと。

盗賊がその男に会いに行こうとした時、突如王宮騎士団長が現れる。何故此処が分かったのかと問う王女に、馬の導きだと答える騎士団長。

騎士団長の背後から現れたのは白馬。白馬は逃げ出したのではなく、盗賊の危機を報せる為に走ったのだった。

盗賊は二人に王女を任せ、詰め所を後にする。宿屋に到着し足を踏み入れると、中は血の海であった。

宿泊客全員が殺害されたかと思ったが、犯人と思しき男のみが生きていた。

男は何かに怯えるように小刻みに震えている。盗賊が近付こうすると、男の絶叫と共に何かが現れた。

男の体を突き破って現れたのは白い騎士。白銀の甲冑を着た男が犯人かと思われたが、甲冑が人を着ていたのだ。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:11:01.38 ID:/HbUbsMAO

長い戦いが始まった。

一度距離を取ろうとするが追い付かれ、接近戦を余儀なくされる。

石畳ごと地面を穿つ圧倒的な力に戦慄しながらも間一髪で避け、鞭による奇襲を仕掛ける。

攻撃を掻い潜り鎧通しで刺し貫き、更には心臓を貫くが白い騎士の動きは止まらない。

白い騎士は動揺する盗賊の首を掴み、盗賊を盾に家屋を次々と突き破り、屋根を蹴り跳んだ。

盗賊は内肘を突き刺し空中で拘束を解き、牧場に落下。藁の山に救われる。

焼け跡が淡く光っていることに疑問を持つ盗賊だったが、直後に白い騎士が牧場に降り立ち再び戦いが始まる。

先程とは打って変わり舞うように斬り付けてくる攻撃に付いて行けず、袈裟に斬られてしまう。

身を捩って体勢を立て直したものの白い騎士の猛攻は収まらず、遂には右肩をも貫かれる。

膝を突き敗北したかに見えたが鞭に仕掛けていた爆弾を誘爆させ、首を吹き飛ばすことに成功。

しかしそれでも白い騎士を倒すことは叶わず、遺体現場に組み伏せられてしまう。

盗賊は死を覚悟したが、垂れ下がった首の繊維に齧り付き、白い騎士の頭部を引き千切ろうと試みる。

やめろと叫ぶ白い騎士の声が届くことはなく、頭部を引き千切られ完全に沈黙。

死闘の末に勝利したものの、盗賊は深い微睡みに落ちたのだった。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:21:06.13 ID:/HbUbsMAO
普通に続き書けば良かった。また明日。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 17:06:25.49 ID:paZgWt6xO
あらすじとか必要ないから本編書いてくれよ
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:19:14.57 ID:sMx/A2h3o
投下おつ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 00:04:27.76 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 生存確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:09:42.97 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 死亡確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:42:24.95 ID:vxyR53DYO

警備兵「……今から行く。医者を手配しておけ」

『その必要はないかと思いますが』

警備兵「念の為だ。死亡していた場合は医者の診断書が必要になる」

警備兵「後になって報告書に時間を取られると面倒だ。早い内に済ませたい」

『それもそうですね。了解しました』ザッ

タッタッタッ…

警備兵「申し訳ない。お聞きの通り急用が出来たので少しばかり外します」

騎士団長「ああ、了解した」

王女「…………」

警備兵「では、失礼」ザッ

ガチャ…パタンッ…

王女「……これも、外では当たり前のことなのですか?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 01:26:38.04 ID:vxyR53DYO

騎士団長「姫様、聞いて下さい」

王女「彼等は警備隊なのでしょう!? 警備隊とは守る立場にある方々ではないのですか!?」

王女「先ほど報告に来た方は現場にいたと言っていました!彼等なら助けられたかもしれない!!」

騎士団長「(姫様……)」

王女「……助けることは出来なくともお医者様は呼べたはずです。なのに放って置くなんて、わたしには理解出来ません」

王女「それも、あんなにも平然としていられるなんて……何故ですか? 彼がニンゲンだからですか?」

騎士団長「……そうです。ニンゲンとは我々にとって『その程度』の存在なのです」
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 10:16:53.48 ID:OvgkZgD8O

王女「っ、何故そこまで…」

騎士団長「守る立場だからこそです。我々のような者にとって、ニンゲンとは犯罪者でしかない」

王女「全てがそうと言うわけではないでしょう?中には善良なニンゲンもいるはずです」

騎士団長「確かにそうでしょうな。全てのニンゲンが悪であるとは思いません。民間人の中には親しくしている者もいるかもしれません」

騎士団長「しかしながら、私のような立場にある者は犯罪を犯すニンゲンしか知らない」

王女「知らない?」

騎士団長「知らないと言うより、仕事上悪党を相手にすることが圧倒的に多いのです」

騎士団長「その為、私や警備隊の彼等にとってニンゲンとは悪であるという考えが根付いた」

王女「……余りにも偏った考えです。そこに救うべき者がいるのなら種族など関係ないはずです」

騎士団長「そうでしょうな。私もそうあるべきだと思います。しかし、世に平等などない」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 10:41:01.77 ID:OvgkZgD8O

騎士団長「この際、はっきりと言っておきます。姫様が仰っていることは綺麗事です」

王女「!!」

騎士団長「差別もあれば偏見もある。それはニンゲンに限ったことではありません。此方側でも起きていることなのです」

騎士団長「耳や尻尾を持つ者を獣だと迫害する者もいれば、私のように角がある者を野蛮だと罵る者もいる」

王女「………」

騎士団長「……ニンゲンによる殺人事件が起きた場合、そのご家族は誰を憎むと思いますか?」

王女「いきなり何をーー」

騎士団長「彼等は犯人ではなく、ニンゲンという種族そのものを憎みます」

王女「…………」

騎士団長「同族による殺人事件ならば犯人を憎むでしょう。しかし、種族が違えば種族を憎む」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 11:09:19.00 ID:OvgkZgD8O

王女「……わたしには、分かりません」

騎士団長「そうでしょうな。姫様には書物で得た知識しかない。彼等が与えられた痛みを見たことがないのですから」

王女「……っ」キュッ

騎士団長「彼等警備隊はその痛みを知っている。何度も何度も見てきたことでしょう」

騎士団長「そして、一度根付いたものは消えることはない。種族の違いとはそれ程までに大きい。姫様、これが現実なのです」

王女「だからニンゲンである彼を見殺しに? ニンゲンならば見殺しにしても構わないと?」

騎士団長「………」

王女「……被害者の家族は犯人ではなくニンゲンそのものを憎む。そう言いましたね」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 14:30:44.28 ID:OvgkZgD8O

王女「そのお言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持った…わたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」ポロポロ
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 23:17:08.89 ID:BGtx0UxZO

王女「お言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持っています。彼は…彼はわたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 00:47:45.00 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「姫様、落ち着いて下さい。まだ奴が死んだと決まったわけではありません」

騎士団長「此処を出る前に警備兵が医者を手配させたのを憶えていますか?」

王女「……ええ、死亡診断書とやらを書いて貰う為でしょう?」

騎士団長「いえ、私はそうではないと思います。彼は奴に助力するつもりでしたからな」

王女「えっ…」

騎士団長「おそらく、報告書や診断書云々は医者を呼ばせる為の方便」

騎士団長「どうにかしてあのニンゲンを助けたい……」

騎士団長「などと言った所で聞く耳を持たなかったでしょう。あのように言うしかなかったのです」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:00:42.58 ID:b2rVHaqQO

王女「では、兵士さんは泥棒さんを……」

騎士団長「ええ、助けるつもりです。死亡確認していないのであれば、まだ分かりません」

騎士団長「ですが、先程の報告者は確認するまでもない言っていました。となれば相当の深傷を負っていると見て間違いないでしょう」

王女「……助かる可能性はあるのですね?」

騎士団長「可能性はありますが助かるか否かは分かりません。そればかりは運としか……」

王女「……なら、待ちます。あのっ、先程は取り乱してしまって申し訳ありません」ペコッ

騎士団長「そ、そんなっ、姫様が謝ることなどありません!! 謝らなければならないのは私です。姫様に対してあのような過ぎた口をーー」

王女「お気になさらないで下さい」

王女「あれは警備隊の方々や此方側が抱えている様々な問題。それらを教える為に言って下さったのでしょう?」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:30:13.97 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「………」

王女「現実。そう言われた時は頭をがつんと殴られたような気がしました」

王女「差別について納得は出来ませんが、現実に起きていることとして受け入れようと思います」

王女「ですから、謝ることなどありません。いつまでも無知なままでは駄目ですから」

騎士団長「姫様……」

王女「外は美しい世界だとばかり思っていました。これからは気を付けなければなりませんね」

騎士団長「これから? それは一体どういう……」

王女「泥棒さんが帰って来たら、また旅に出ることになると思いますから」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:45:03.02 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「ですが、生きているかーー」

王女「ええ、生きているかどうかなど分かりません。だからこそ、信じて待ちます」

王女「泥棒さんはすぐに帰ってくると言っていました。だから、きっと大丈夫。きっと……」

騎士団長「(姫様のこんなお姿は見たことがない。たった一日で随分とお変わりになられた)」

騎士団長「(……いや、姫様が変わったのではない。私が姫様のことを何一つ知らなかったのだ)」

騎士団長「(私にとって、姫様があの部屋にいるのは当たり前だった。姫様が苦しんでいることなど知る由もなかった)」

騎士団長「(……違うな。もっと言うなら、私は知ろうとすらしていなかった)」
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:54:56.19 ID:b2rVHaqQO

王女「……どうか、彼をお救い下さい」

騎士団長「(内向的で読書が好きな少女。勝手にそう思い込んでいたが、どうやら違っていたようだな)」

騎士団長「(おそらく、これこそが本来の姫様なのだろう)」

騎士団長「(泣きもすれば笑いもする。感情を露わにするのは変化ではない。当たり前のことだ)」

騎士団長「(しかし、また旅に出たいなどと言い出すとは。出来ることなら一刻も早く王宮へ戻って欲しいが……)」チラッ

王女「……お願いします。彼をお救い下さい」

騎士団長「(奴が生きて帰ったらどうするべきか……今の内にどちらを選ぶか決めておいた方が良さそうだな)」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:55:43.99 ID:b2rVHaqQO
また明日
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 18:48:26.80 ID:kq6tQuAQO
姫がいくら盗賊庇おうが犯罪者だしな城に侵入する建物破壊する兵士を傷つける……
うん、ゴミ野郎だな盗賊
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:11:22.65 ID:4ZwKmF14O
ついでに言えば姫様誘拐してるし白馬盗んでるし門番に賄賂渡してるし白騎士のことなんて殺しちゃってるしな
とんでもない極悪人だよ
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 06:56:58.50 ID:Hhk4OGsIO
極悪人だな盗賊に稼ぎ頭の夫(兵士)が傷つけられて路頭に迷う家庭もあったりするんやろな
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:45:00.80 ID:6mn+ZYD/O
そんな描写ないけど>>336には何が見えてるの?
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:50:15.27 ID:NTKWR3S9o
誰一人傷付けてない上に城を破壊して雇用を生み出す有能盗賊。
なお白馬は、厩舎が爆破された際に見捨てられたところを、盗賊が回収しただけの模様。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 19:46:34.50 ID:ojhQIDIBO

【厩舎】

『おい、これ見ろよ』ジャラッ

『こ、こいつは凄え。それ全部金貨かよ。このニンゲンは一体何者だ?大した身なりじゃないが……』

『そんなことはどうだっていい。それよりどうだい? 二人で山分けにしないか?』

『おいおい。死人から剥ぎ取る気か?』

『人聞きの悪いこと言うなよ。どうせ使い道がないんだ。このままじゃ金が泣いちまうだろ?』

『……まあ、それもそうだな。今なら誰にもバレやしない。今のうちに頂いちまおう』

『へへっ、現場の見張りなんて退屈で仕方なかったが、まかさこんなご馳走にありつけるとはな』

『ああ、これで当分は遊んで暮らせる。いっそ警備隊なんぞ辞めてーー』

ザッ…

『『!!?』』

警備兵「厩の前に姿がないから何をしているかと思えば二人揃って死体漁りか」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:38:40.39 ID:ojhQIDIBO

『何だよ。文句あんのか?』

警備兵「いや? 別に文句はない。ただ、考えていた筋書きと異なる展開なので少々困っている」

『筋書き?』

『まさか独り占めにする気じゃねえだろうな?』

警備兵「……勇敢な警備隊員が殺人鬼に襲われていたニンゲンを助け、殺人鬼を打ち倒した」

警備兵「忌むべきニンゲンをも救おうと奮闘した警備隊員は街の英雄となり、更には莫大な報奨金を手に入れる」

警備兵「事件は解決。警備隊全体の評価も上がる。とまあ、こう考えていた」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:41:16.51 ID:ojhQIDIBO

『ちなみに、その勇敢な警備隊員ってのは?』

警備兵「お前達以外に誰がいる?」

『……いまいち信用ならないな。あんたは何をしに来た』

警備兵「そこの白い騎士に警備隊が使っている剣を刺しておこうと思ってな」

『何でだよ?』

警備兵「そこのニンゲンに手柄を横取りされては警備隊の面子が潰れるだろう?」

『誰もニンゲンがやったなんて思わねえだろ』

警備兵「甲冑を見てみろ。見る奴が見れば誰がやったか分かる。そのニンゲンが使ったのは特殊な武器のようだしな」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:44:42.18 ID:ojhQIDIBO

『た、確かにそうかもしれねえな』

警備兵「そこで、警備隊が殺したという確固たる証拠が必要になるわけだ」

警備兵「だが、『今のところ』そんな証拠は何処にもない。さて、どうする」

『なる程、読めたぜ。なければ作れば良いってわけだな?』

『そういうことなら俺達の剣を使ってくれ』ザクッ

警備兵「そうか、それは助かる。二本ともしっかり刺しておこう。報告書にもそう書いておく」

『裏切ったらただじゃおかねえぞ』

警備兵「そんな馬鹿な真似はしない。そんなことをすれば俺も終わるからな」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:00:25.78 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ああ、そうだ。ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名誉の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:04:10.97 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名声の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:13:11.39 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…チッ…まあいい。おい、人払いは済んだ。もう出て来ていいぞ」

ガサガサッ…

医師「………」

警備兵「何をしてる。さっさと始めろ」

医師「あんたも警備隊だろ? 何でそこまでしてニンゲンをーー」

警備兵「いいからさっさとしろ。それから、来る途中にも言ったはずだ。お前に拒否権はない」

医師「……例の件、本当に見逃してくれるんだろうな」

警備兵「ああ、助けることが出来たらな」

医師「っ、畜生。何でニンゲンなんか治療しなけりゃならないんだ……」ブツブツ

カチャカチャ…ヂョキヂョキ…

医師「……酷いな。脈はあるが助かるかどうか分からんぞ。適切な処置をしても見込み薄だ」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:28:15.00 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…………」

医師「も、勿論全力は尽くす。けどな、助からなくても文句は言うなよ」

警備兵「文句は言わないが口が滑るかもしれないな。怪しげな薬を売り捌いて違法に利益をーー」

医師「分かった!分かったよ!! やれば良いんだろ!!」

キュポンッ…バシャバシャ…

警備兵「今の液体は?」

医師「消毒と止血剤だ。微量の麻痺毒も混ぜてある。体が跳ねるかもしれないから抑えててくれ」

警備兵「分かった」ガシッ

医師「しっかし、この傷で生きてるのが不思議なくらいだ。普通ならとっくに……ん?」

警備兵「どうした?」

医師「臍の辺りに何かが刺さってる。何かの破片のようだが……まずはこっちだな」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:00:51.59 ID:ojhQIDIBO

ジクジク…

医師「……なあ、やっぱり聞かせてくれないか」

医師「何でニンゲンを助ける? あんたは今まで何人ものニンゲンを取っ捕まえてきた」

医師「殺したことだってあるはずだ。それなのに何故だ? どうにも理解出来ない」

警備兵「お喋りな医者だな。まずは自分の口を縫ったらどうだ」

医師「真面目に聞いてるんだ。答えくれ」

警備兵「……偽りの名声を得る為に斬られる奴。誰かの為に命を張る奴。お前ならどっちを取る」

医師「それは後者だろうよ。ニンゲンじゃなければな」

警備兵「そうだな、ニンゲンじゃなければ隠れて助ける必要もなかった。あんな奴等に手柄をくれてやることも……」

医師「……あんたがそこまでして助けるなんて今でも信じられない。そんなに良い奴なのか?」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:06:09.07 ID:ojhQIDIBO

警備兵「いいや、悪党だ。王宮に侵入して王の秘宝を盗もうとして捕まった」

医師「そんな馬鹿な……冗談だろ? そんなことしたってんなら既に処刑されてるはずだ」

警備兵「…………」

医師「……マジなのか?」

警備兵「ああ、これ以上詳しくは言えないがな」

医師「だったら尚更だ。何で助ける?」

警備兵「馬鹿だからだ」

医師「は?」

警備兵「このニンゲンは此方側の女の為に命を張って戦った。たった一人で、助けを求める素振りも見せずにな」

警備兵「まるで種族なんぞ関係ないように振る舞って、当然のように一人で戦いに行ったんだ」

医師「それでこのザマってわけか。正しく馬鹿で愚か者だな。満足げな顔しやがって……」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:37:58.77 ID:ojhQIDIBO

警備兵「気に入らないだろ?」

医師「気に入らないな。この顔を見てると腹が立ってくる。いけ好かない奴だ」

ビクンッ!

医師「っ、始まったか。しっかり抑えててくれよ」

警備兵「ああ、分かっている」ガシッ

医師「……その女ってのはさぞかしイイ女なんだろうな。男を馬鹿にさせるくらいに」

警備兵「そんな魔性ではない。確かに美しいが世を知らぬ箱入り娘だ。純粋で疑うことを知らない」

医師「そういう女の方がそそるのかね。まあ、分からんでもないな。守りたくなるってやつか?」

警備兵「かもしれないな。俺は御免被るが」

医師「何でだい?」

警備兵「彼女と共にいれば命が幾つあっても足りないからだ。傍にいれば『こうなる』」

医師「何でまた、そんな厄介な女に……」

警備兵「言っただろう。馬鹿なんだよ、こいつは……だから何としても助けたい。そして、俺が捕まえる」

医師「……そうか、なら協力しないとな。こんな凶悪犯をあの世に逃がすわけにはいかない」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:13:48.96 ID:uSRogMXUO

ジクジク…ヌリヌリ…

医師「……よし。後は破片だけだな」

警備兵「これは?」

医師「白銀のように見えるな。しかし妙だ。出血が全くない。刺さっていると言うより、めり込んでいるような……」

医師「とにかく引き抜いてみるしかない。金属片というのは厄介だからな。これで挟んで……」カチッ

ズズ…ズルリ…

警備兵「……長いな。こんなものが腹に入っていたのか」

医師「まるで結晶柱のようだ。綺麗に磨き上げられてる。それより見てくれ、引き抜いた箇所には傷一つない」

警備兵「こんなことが有り得るのか? 傷を負わせずに杭を打ち込むようなものだぞ?」

医師「……何かは分からないが、下手に触らなくて正解だった。小瓶に入れておこう」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:16:58.82 ID:uSRogMXUO

医師「(しかし気味が悪いな)」

医師「(微かに脈があるような気がする。まるで生きているようだ……)」

カチャカチャ…カランッ…キュッ…

医師「ふ〜っ、これで終わりだ。最善は尽くした」

警備兵「いや、まだ終わっていない。運ぶのを手伝え」

医師「…ハァ…ああ、分かったよ。しかし当てはあるのか?」

警備兵「ある。そこの荷車に乗せて運ぶぞ。急げ」

医師「まったく、本当に人使いの荒いお人だな。俺は医師だぞ? 走るのは馬の仕事だ」

警備兵「さっさとしろ。準備は良いな?行くぞ」

医師「準備もなにも拒否権は無いんだろ? 分かってるよ」ハァ

ガラガラガラ…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:58:13.61 ID:uSRogMXUO

ーーー
ーー


『気でも狂ったか白騎士よ』

『私は正気だ。ただ、仕える人物を間違えた。私が仕えるべきは貴様ではない』

『呑まれたか。哀れな男だ……』

『哀れ? 哀れだと? 貴様に私を哀れむ資格など微塵もない。貴様も所詮は王の傀儡だ』

『……我が国の英雄の最期がこれか。やはり渡すべきではなかったな』

『何とでも言うがいい。私が仕えると決めたのは生涯ただ一人。彼女だけだ』

『聞け、白騎士。彼女はもういないのだ。正気を取り戻せ、それに呑まれるな』

『ならば待つまでだ。百年だろうと千年だろうと待ち続けよう。彼女は必ずや蘇る』
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:40:31.20 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。これは蓋か? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ました。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………えっ〜と、お帰りなさい。いや、ただいま?」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:42:03.36 ID:uSRogMXUO
また明日
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:48:09.76 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。蓋でもされてんのかな? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(おっ、開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ましたよ。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………え〜っと、お帰りなさい? いや、ただいま?」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:49:13.69 ID:uSRogMXUO
また明日
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:06:07.16 ID:GTF8G2J50
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 20:09:32.91 ID:C1mbaYfEo
凄い引き込まれるな
一気に読んで追いついた
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 00:28:09.35 ID:Qgswn/tEO

王女「泥棒さん…グスッ…よかった……」ペタン

盗賊「お、おいっ…」

王女「お医者様に意識が戻らないかもしれないって言われて、傷も酷いし体はとっても冷たくって……」ポロポロ

盗賊「……そうだったのか」

王女「わたしを連れ出してくれたあの日から泥棒さんは傷を負ってばかりです。本当に、本当にごめんないっ」

盗賊「この傷は姫様に負わされたものじゃない。姫様が謝ることはないよ」

王女「でもっ、わたしは何もしてあげられない。あなたに与えられてばかりで何も……」

盗賊「姫様、自分のことをそんな風に思ってたのか。そんなことないのに」

王女「へっ?」

盗賊「俺は姫様に色んなものを貰ってる。だからさ、そんな悲しい顔しないでくれ」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:18:49.55 ID:Qgswn/tEO

王女「…グスッ…何をです?」

盗賊「えっ? 何って何が?」

王女「わたしに貰っていると言いました。わたしは泥棒さんに何かを与えているのですか?」

盗賊「何って言われると上手く言えないけど、傍にいてくれりゃあそれでいいよ」

王女「……あ、ありがとうございますっ」カァァァ

盗賊「よっと」スタッ

王女「あっ、急に動いては体に障ります。まだ横になっていないと……」

盗賊「んなこと言われてもな。さっきから腰を抜かして立てないんだろ? ほら」スッ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:54:11.40 ID:DEEXV1bcO

王女「(左手。やっぱり右手はまだ……)」

盗賊「どうした?」

王女「い、いえっ。何でもありません……」スッ

ギュッ…グイッ…

盗賊「そういや、さっき何か落としたみたいだけど。あぁ、これか?」ヒョイ

王女「あ、それは軟膏です。右肩の刺し傷と胸の切り傷、それから背中にも塗るようにとお医者に渡されました」

盗賊「へ〜、そりゃありがたいな」

王女「後はこれを頂きました。葡萄や林檎をすり潰して作った飲み物です」

盗賊「美味そうだな、早速飲んでもいいか?」

王女「ええ、どうぞ。ゆっくりと飲んで下さいね?」スッ

盗賊「ん、分かった。んっ…ゲホッゲホッ…」

王女「だ、大丈夫ですか!?」

盗賊「ゲホッ…悪い。気を付けて飲んだつもりだったんだけどな……」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 00:38:09.00 ID:J4JnjP9PO

王女「っ、泥棒さん」

盗賊「けほっ…けほっ…ん?」

王女「ちょっとずつ。口に含んでからゆっくりと飲んでみて下さい」

盗賊「そうするよ……んっ…お〜、めちゃくちゃ美味いなこれ。じわってくる」

王女「……よかった。さっきは口に含んだ量が多かったので体が驚いたんだと思います」

盗賊「胃とか弱ってんのかな。腹は減ってんだけど、この調子じゃ食うのは無理そう…ッ」クラッ

王女「!!」

ギュッ…

盗賊「っと……悪い、ちょっとふらついた。もう大丈夫だ。一人で立てる」

王女「……無理はしないで下さい。立っているだけでも負担は掛かります。横になりましょう?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 01:14:47.02 ID:J4JnjP9PO

盗賊「えっ、せっかく棺桶から這い出たのに永眠しろとーー」

王女「泥棒さん、掴まって下さい。それから永眠とか言わないで下さい。そういう冗談は嫌いです」

盗賊「ハイ、ゴメンナサイ」

王女「んっしょ…」ギュッ

トコ…トコ…トサッ…

王女「ふぅ…大丈夫ですか?」

盗賊「あ、うん。つーか姫様に運ばれるのはこれで二回目だな。ありがとう」

王女「………」キュッ

盗賊「?」

王女「……こんな聞き方は狡いですけれど、泥棒さんは後悔していませんか?」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 02:20:47.37 ID:J4JnjP9PO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ない。これっぽっちもない。そもそも俺が攫ったんだ。後悔なんてするわけない」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって巻き込まれ命を奪われた人がいます」

王女「あの時、泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。その時、わたしは自由に触れたいと思ったのです。自分の思うように生きてみたいと……」

王女「でも、自由とは無関係の方々まで巻き込んで手にするものなのでしょうか……」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:14:17.61 ID:RlZ2n5szO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ないよ。これっぽっちもね」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「……外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって命を奪われた方がいます」

王女「泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。そう言われた時、わたしは自由に触れてみたいと思いました。自分の思うように生きてみたいと」

王女「でも、それは無関係の方々の命を奪ってまで欲するべきものなのでしょうか……」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:16:46.04 ID:RlZ2n5szO

盗賊「かなり思い悩んでるみたいだけど、姫様が自分を責める必要は全くないぜ?」

盗賊「殺しの動機は分かんねえけど、命を奪ったのは紛れもなく白い騎士の仕業なんだ」

王女「でも、犯人はわたしを狙ってこの街にーー」

盗賊「その前提から間違ってる。奴は姫様を狙ってこの街に来たんじゃない。俺を狙って来たんだ」

王女「……えっ」

盗賊「俺も最初は姫様を狙って来たもんだと思ってたよ。でも違ったんだ」

王女「あの、何故そう言い切れるのですか?」

盗賊「奴は俺のことを輪転器だと言った」

王女「!?」

盗賊「びっくりだろ? 奴は初めから俺を狙ってたんだ。実際、姫様のとこに向かう素振りは一切見せなかったしな」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 21:10:32.16 ID:RlZ2n5szO

王女「い、意味が分かりません。何で泥棒さんを輪転器だなんて言ったのでしょう?」

盗賊「さあね、俺にもさっぱりだ。でも、奴は確かに輪転器と言った」

盗賊「私の器として生まれたことを光栄に思え。今こそ転生する。そう言ってたよ」

王女「ですが、輪転器とは王のみが所持するものなのですよ?」

盗賊「ああ知ってる。だからこそ秘宝って呼ばれてるわけだしな。でも、それだけじゃない」

王女「?」

盗賊「奴にとどめを刺した時、あるものを見たんだ」

盗賊「血を流し過ぎて頭がおかしくなったのか幻覚を見たのかもしれない。それを踏まえた上で聞いてくれ」

王女「えっ…は、はい。分かりました」

盗賊「意識を失う直前、奴の顔を見た」

盗賊「……俺と同じ顔。まるで水面に映したみたいにそっくりだった」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 22:49:24.35 ID:RlZ2n5szO

王女「冗談…ではないのですね」

盗賊「ああ、朦朧としてたけどはっきりと憶えてる。兜が外れたと思ったら俺の顔が出てきたんだ」

盗賊「……まあ、だから何だって話なんだけどさ。でも同じ顔なんて気味が悪いだろ? 輪転器だとか言われるしさ」

王女「……今のお話を疑うつもりはないですが、顔や白騎士について確かめる術はありません」

盗賊「確かめる術がない? 遺体が消えてたとか?」

王女「い、いえ、そうではありません」

王女「王宮関係者である騎士団長さんも立ち会って身元を確認したらしいのですが、判別不能だったと言っていました」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 23:12:43.97 ID:RlZ2n5szO

盗賊「えっ、何で?」

王女「……遺体が枯れ果てていたらしいのです。まるで血の一滴まで吸い取られたように」

盗賊「んな馬鹿な!! あんなに元気に飛び跳ねてたってのに中身は干涸らびてたってのかよ」

王女「兵士さんや騎士団長さん。警備隊の皆さんも同じ反応をしていました。あり得ない…と」

盗賊「ってことは白騎士については何も掴めなかったのか。益々わけが分からなくなったな」

王女「……そうですね。様々な思惑が蠢いているような気がします」

盗賊「(あの爺さんが嘘吐いてんのか? それとも将軍が裏で何かやってんのか?)」

王女「………」キュッ

盗賊「(……家族に命を狙われてるかもしれないんだ。血の繋がりがなくても、そう考えるだけで辛いだろうな)」

盗賊「(姫様は巻き込んだって言ってたけど、巻き込まれたのは俺達の方なんじゃねえか? 何かもっと、大きなものに……)」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 01:56:05.18 ID:If7cuYzZO
飽きた?
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 23:32:06.85 ID:uwchgiKz0
まってる
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:07:10.88 ID:/nEX0JHPO

盗賊「………」ウーン

王女「泥棒さん? どうしました?」

盗賊「あ〜。いや、何でもない。さっきのやつまだ残ってるかな。喋り過ぎて喉が渇いてきた」

王女「あっ、はい。まだありますよ」スッ

盗賊「ありがとう。んっ…あ〜、美味い。ところで姫様、俺はどのくらい寝てた?」

王女「丸二日です。あの夜、兵士さんとお医者様がこの教会跡地に運んでくれたのですよ?」

盗賊「……そっか。じゃあ後で礼を言わねえと。姫様にも面倒掛けちゃったな」

王女「いえ、そんなことはありません。わたしにはこれくらいしか出来ませんから……」

盗賊「そんな風に言うなよ。俺はその『これくらい』ってやつに助けられたんだからさ」ニコッ

王女「……泥棒さん…」

盗賊「それに、長いこと此処に居て様子を見ててくれたんだろ? そこの机に日記あるし」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:15:41.22 ID:/nEX0JHPO

王女「それはその、色々ありまして……」

盗賊「色々って?」

王女「……街のお医者様がニンゲンに付きっきりで看病することは出来ないと仰ったのです。今にも息絶えようとしているのにですよ?」

盗賊「そ、そうなの?」

王女「はい。それでわたし、恥ずかしながら怒鳴ってしまいまして……泥棒さんの命を救って下さった恩人に対して何て失礼な真似を……」

盗賊「ま、まあそれは仕方ねえさ」

王女「……仕方がない?仕方がないとは何が仕方ないのですか? 死んでいたかもしれないのですよ?」

盗賊「(怖っ!!) い、いや、俺みたいなニンゲンを看病したら気が触れてると思われちまうだろ?」

盗賊「死にかけのニンゲンを助けようとしてくれただけでもありがたいもんだよ。軟膏とかもくれたしさ」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 19:09:41.02 ID:/nEX0JHPO

王女「……泥棒さんは傷付いたりはしないのですか?」

盗賊「ニンゲンの扱いに?」

王女「ニンゲンの扱いではありません。ニンゲンに対する接し方に。です」

盗賊「接し方…ね。こっち側じゃあ随分と変わった言い方だな。初めて聞いたかもしんねえ」

王女「っ、やはり酷いのですか?」

盗賊「別に酷いとは思わない。こっちにはこっちの常識ってもんがある。だろ?」

王女「……わたしには…あなたを殺してしまう常識など必要ありません」

盗賊「姫様?」

王女「ニンゲンだから助けない。ニンゲンだから一人で戦わせる。ニンゲンだから死んでも構わない。ニンゲンだからっ……」キュッ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 19:38:02.65 ID:bUPlqLnM0
きた!
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 20:46:11.91 ID:/nEX0JHPO

盗賊「そう言ってたの?」

王女「……はい。差別や偏見はニンゲンに限ったことではない。それはこちら側でも起きていることなのだと言われました」

王女「泥棒さんにはこちら側に思うところはないのですか? そういったものに対して……」

盗賊「ん〜、何だか難しい話だなぁ。あのさ、これって俺個人の考えでいいんだろ? ニンゲンとして。とかじゃなくてさ」

王女「はい。泥棒さんの考えを聞かせて下さい」

盗賊「俺はこっちも向こうも変わりないと思うよ? 良い奴はいるけど悪い奴はもっといる」

盗賊「確かに風当たりは強いけど、初めて会った奴といきなり仲良くなんて出来ない」

盗賊「姫様だって初対面の奴に『同族なのでお友達になりましょう』なんて言われたら戸惑うだろ?」

王女「そう…かもしれませんね」

盗賊「なっ? だから種族なんて関係ないのさ。そんなのは性格の不一致ってやつだよ」
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:06:45.13 ID:/nEX0JHPO

王女「……性格だけではないと思います」

盗賊「そりゃあ根付いた差別なんかが邪魔するかもしれないけど、良い奴は良い奴さ」

盗賊「ツノがあっても尻尾があっても牙や爪があっても、そこは絶対に変わらない」

王女「そうなのでしょうか……」

盗賊「そうさ。だって実際に助けてくれたのはニンゲンじゃないだろ?」

王女「それは…そうですけれど……」

盗賊「姫様は難しく考え過ぎだよ。種族は違っても男は男。女は女」

盗賊「どのくらいの種族がいるのか知らねえけど性別は二つしかない。必要なのは愛だよ、愛」ウン
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:44:21.42 ID:/nEX0JHPO

王女「あ、愛!?」

盗賊「だってそうだろ? 種族が違っても綺麗な女性は綺麗な女性なんだ」

盗賊「ツノが生えていようが尻尾が生えていようが綺麗な女性だという事実に変わりはない」

盗賊「男は女性を守るべきだし女性は男を優しく包み込む存在であるべきだ。と私は思うわけだよ」

盗賊「そう考えれば種族間の問題なんて些細なもんさ。そう思うだろ?」

王女「……何だか、やけに饒舌ですね。言い慣れているように思えます」

盗賊「……これは種族の垣根を越えて仲良くなる為の必要技能なんだ」

王女「綺麗な女性と。ですか?」ニコッ

盗賊「いやいやいや? 俺は別にーー」

王女「泥棒さんが眠っている間、あのお店の看板娘さんから色々な話を伺いました。先日お見舞いに来てくれたんですよ?」ニコッ
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 22:16:07.03 ID:/nEX0JHPO

盗賊「へ〜、そうなんだ。それは嬉しい限りですね」

王女「ええ、わたしも嬉しかったです。ニンゲンとしてではなく本質を見ている方でした。あのような方がもっといれば良いのにと心から思います」

王女「ところで、とってもお上手なようですね。女性を口説くのが」

盗賊「姫様、それは違う。あれは行き違いというか擦れ違いというかアレがアレなんだよ」

王女「フフッ、何がですか?」

盗賊「……え〜っと。ほら、アレだよ。気になる女性に微笑みかけられると俺に惚れてるんじゃないかと思ったりするやつだ」

盗賊「あのキツネ娘は俺が助けた時に掛けた何気ない言葉をそのように捉えたのだと思います」ハイ

王女「勘違いさせるような言葉を言ったのではないのですか? 例えば……」

王女「俺はきみの尻尾は綺麗だと思うぜ? 他の奴等が何を言ってるか知らないけどさ。とか」

王女「尻尾にその模様がなかったら俺ときみがこうして出会うこともなかった。とか」

王女「きみが特別だから尻尾も特別なんだよ。きっと天が二物を与えたのさ。とか」

盗賊「(……あのキツネ、都合のいいとこだけ切り取って姫様に話しやがったな)」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:25:00.85 ID:/nEX0JHPO

王女「……本当に色々なことを聞きました」

盗賊「?」

王女「思い立ったらすぐに動く。何かあれば所構わず飛び込む。無茶ばかりしていると」

王女「根付いた差別や偏見などどこ吹く風、種族も境界線も飛び越えて何処までも自由に……」

盗賊「そんなに考えてねえよ。やりたいことをやってるだけさ」

王女「……大凡の者はそのようには出来ません。何故です? 何故そのように生きられるのですか?」

盗賊「単純な話さ。こういう奴なんだよ、俺はね」

王女「……それでは答えになってませんよ。ずるいです」

盗賊「でもさ、そんなもんだよ。行きたい場所へ行って、見たいものを見る」

盗賊「俺がやってるのはそれだけさ。余計な荷物は肩に載せないようにしてるんだ」
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:33:23.52 ID:/nEX0JHPO

王女「余計な荷物?」

盗賊「差別だとかそういうもんだよ。そんなもんベタベタくっつけてたら身動き取れなくなる」

王女「………」

盗賊「くぁ…ごめん。急に眠たくなってきたから寝るよ」ゴソゴソ

王女「あっ、はい。申し訳ありません。傷が痛むのに長話に付き合わせてしまって……」

盗賊「そんなことないよ。多分さっきの飲み物に何か入ってたんだと思う。姫様も疲れてるだろ? 早めに休んだ方がいいぜ」

王女「……はい、そうします。ゆっくり休んで下さい」

盗賊「ん、お休み……」

王女「あ、ちょっと待って下さい。包帯の取り替えと軟膏を塗らないと」

盗賊「あ〜、そっか。じゃあ、お願いします」ムクッ

スルッ…パサッ…

王女「(酷い傷。何度も見たけれど、見るたびにそう思う。治るまでにどれだけの時間が……あれ?)」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:12:19.83 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…スー…スー…」カクンッ

王女「あっ…」

ポフッ…

王女「ふぅ、危なかった。無理をさせてしまいましたね。後は任せてゆっくりと休んで下さい」

スルスル…ヌリヌリ…

王女「(右肩と胸の傷は勿論、背中の傷にもまだ熱がある。触れていると火傷しそう)」

王女「(聞きたいことは沢山あったけれど、こうして生きているのならそれだけで……)」

盗賊「…ん…」ビクッ

王女「(やはり痛むのでしょうか。泥棒さん、ごめんなさい。もう少しで終わりますから)」

盗賊「…くす…ぐったい…」

王女「(ふふっ、くすぐったかったんですね。何だか赤ん坊みたい……)」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:28:35.82 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…ん〜……」

王女「(そう言えば看板娘さんが言っていましたね。こんな無防備な姿はそうそう見られるものじゃないって)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「………」スッ

プニプニ…

王女「(体は引き締まっているけれど頬は柔らかい。黒髪、おでこ、瞼、鼻筋、唇……)」

王女「(顎から首をなぞって鎖骨から胸板に……)」

盗賊「……寒…い……」

王女「(っ、わたしは何を……早く終わらせて服を着せないと……でも、何だかおかしい)」

王女「(早く傷が癒えて元気になって欲しいのに、ずっとこのままでいられたらなどと考えてしまう……そんなこと駄目なのに)」

ズキッ!

王女「っ、違う。わたしは何も間違っていない。ずっと二人きり。そう、この人はわたしのーー」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/09(日) 17:44:47.80 ID:zCyzYusgO
面白いですね、乙ー
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:14:12.29 ID:axYEm/xEO

【玉座の間】

老人「首尾はどうだ。順調か」

将軍「それは父上が一番良く分かっているでしょう。私が改めて報告せずとも感じているはずです」

老人「ああ分かっている。分かっているからこそ、お前の口から聞きたいのだ」

将軍「……全ては父上の目論み通りですよ。奴は白騎士に勝利しました。辛勝ではありますが」

老人「納得出来ないと言った顔だな。まだ信じられぬか?」

将軍「いえ。白騎士に期限が迫っていたとは言え、奴は最後まで一人で戦い抜き勝利した。その戦術と技量は認めざるを得ません」

将軍「加えて意志の強さ。抗い難い死の誘惑をも撥ね除ける力を持っている。相応しい器だとは思います」
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:17:08.65 ID:axYEm/xEO

老人「ふむ。ならばその顔の陰りは何だ?」

将軍「認めざるを得ない男ではあります。しかし、奴はニンゲン。器として保つのか否か。そこが気掛かりでなりません」

老人「白騎士に勝利したのが何よりの証明だと思うがな。現に呑まれてはいまい?」

将軍「それは三騎士の全てに通じることです。その結果、彼等は呑まれている」

老人「呑まれたのは彼女を求めたからに他ならない。だが此度は違う」

老人「長い長い時を経て、遂に二つの輪転器は揃ったのだ。求めるものが傍らにあるのなら呑まれはせんだろう」

将軍「輪転器が輪転器の狂いを抑えると? 不確定なものに縋るのは如何かと思いますが」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:19:34.38 ID:axYEm/xEO

老人「フッ、抑える。か」

将軍「……何か可笑しいことでも?」

老人「お前は誰かを愛したことがあるか?」

将軍「質問の意味が分かりません。それとこれと何の関係がーー」

老人「良く聞け。もう二度と会うことは叶わぬと悲観に暮れていた。その最中に思い人と再会出来たらどうする?」

将軍「……戸惑うでしょうね。もう二度と会えぬはずだったのですから」

老人「悲観に暮れていた時が千年ならばどうだ? いや、もっと長い時ならばどうする?」

将軍「……想像も出来ません。父上、この問いの意図は何です?」

老人「結論から言えば抑えることなど出来はしないと言うことだ。何せ千年以上も煮詰めた愛だ。止める術などありはせんよ」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:43:04.47 ID:axYEm/xEO

将軍「あの二人を引き合わせたのは、その狂いを抑える為だったのでは?」

老人「それもある。が、儂の目的は王の力からの解放。あの二人を引き合わせたのもその為だ」

将軍「……今のは父上自身の言葉ですか?」

老人「ああ、これは紛うことなく儂の言葉。彼女の愛を垣間見た、王の声だ」

将軍「千年以上も愛し続けるなど常軌を逸している。そんなものを見続けるなど苦痛でしかないと思いますが」

老人「……王の力を継承をした者の宿命だ。だが、直に解放される。このまま何の邪魔も入らなければな」

将軍「………」

老人「その様子だと上手く行っていないようだな。早めに手を打つものと思っていたが」

将軍「時を計っているだけです。輪転器の破壊はより一層慎重にすべきだということが今の会話で分かりました」

老人「計っている間にも時は回る。頭の中で策を巡らすだけでは何も得られぬぞ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:44:43.86 ID:axYEm/xEO

将軍「急かしているようにしか聞こえませんね」

老人「助言しているだけだ。父としてな」

将軍「父の言葉といえども助けにならぬものを助言として受け取るわけには行きません」

老人「フッ、そうか。ならば好きにするがよい」

将軍「元よりそのつもりです。では……」ザッ

ギギィ…パタンッ…

将軍「(奴は負傷している。父上が次の騎士を動かす前に一度仕掛けてみるのも手だ。騎士団長のお陰で口実は出来ている)」

将軍「(こういった場合は挑発に乗った方が面白い。如何なる状況だろうと楽しむ。苦境など苦境と思わなければいい)」

将軍「(明らかに不利な戦であろうと常に有利であるような心持ちで動く。心に余裕があれば戦術の幅も広がる)」

将軍「………そうですよね、父上…」ポツリ
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/16(日) 00:15:00.68 ID:M5pIqeUiO

【詰め所】

警備兵「……ハァ」コトッ

警備兵「(報告書を書こうにも何と書けば良いのか分からない。この二日で何枚無駄にしただろうか)」

警備兵「(事実は事実。起きた事をそのまま書けば良いのだろうが、問題はその事実というやつだ)」

警備兵「(干涸らびた遺体が殺人を犯したなど誰が信じる? これではまるで作り話。創作だ)」

警備兵「…チッ…もう面倒だ。やはりそれらしく現実的に書いた方がーー」

ガチャッ…バタンッ…

騎士団長「……はぁ」

警備兵「お疲れのようですね。団長殿」

騎士団長「それは君もだ。隈が酷いぞ」

警備兵「創作のような事件をさも現実の事件のように創作するのに四苦八苦していましてね」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/16(日) 14:44:16.94 ID:luxEjUDrO
乙ー
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 00:55:23.55 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「報告書か。こんな街の警備兵にしておくには勿体ない程に勤勉だな」

警備兵「お褒め頂き光栄です。団長殿は彼女の付き添いを?」

騎士団長「うむ。あのような輩と二人きりにするわけにはいかんからな。今ならば問題ないだろうが」

警備兵「ということは、奴はまだ?」

騎士団長「ああ、未だ目覚めてはいない。姫様もいつになく思い悩んだ顔をしておられた」

警備兵「……そうですか。ところで彼女は何処に?」

騎士団長「医師の所へ送り届けた。今頃は奴の経過などを話していることだろう」

警備兵「一人で置いてきたのですか。この二日間、片時も離れずに護衛していたというのに」

騎士団長「今日もそのつもりではいたのだが、私が傍らにいると姫様の気が休まらないと思ってな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:12:13.63 ID:1R/q2gQOO

警備兵「まあ、そうでしょう」

騎士団長「?」

警備兵「いや、湯浴みにさえ付いて来られればそうなるでしょう? 流石にあれは度が過ぎていますよ」

騎士団長「ぐっ…し、しかしだな……」

警備兵「ご心配なさるお気持ちは分かりますが彼女の素性は知られていません。もう少し楽にしたらどうです?」

騎士団長「それは自分でも思う。しかし敢えて手を抜くだとか肩の力を抜くだとか、そういう類のことは昔から苦手なのだ」

騎士団長「戦闘や訓練ならば出来ないこともないのだが、こういった任務だと中々な……」

警備兵「(厳密には任務ではない。それを任務と捉えて行動するあたりが正に堅物だ。良く言えば勤勉。悪く言えば融通が利かない)」

警備兵「(ただ、部下に好かれる男だということは分かる。思いやりがすぎる嫌いはあるが……)」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:39:52.03 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「同じく隊を率いる君に聞きたい」

警備兵「は、はぁ。何でしょう?(こんな街の警備隊と王宮騎士団を一緒にしていいのか……)」

騎士団長「君はいつもどうしている? 癖のある連中をまとめるのは疲れるだろう」

警備兵「まとめてなどいませんよ。事件が起きた時は私が勝手に推理して勝手に解決しているだけです」

騎士団長「何? では、これまで起きた事件の全てを一人で?」

警備兵「ええ、大体は。私ような奴に付いてくる者はいません。ここでは変わり者ですから」

騎士団長「うぅむ、街の平和の為に尽力する者を変わり者扱いか。まるでなっとらんな」

警備兵「……警備隊とは言っても自警団に毛が生えた程度ですからね。仕方がないですよ」

警備兵「隊長はかなり高齢の方で腰痛を理由に長らく休んでいますしね」

騎士団長「高齢ならば若い者が代わればいいではないか。彼は次期隊長を指名しなかったのか?」

警備兵「……実のところ何度も頼まれてはいるんですがね。独断専行の自分には隊長など務まらないと固辞しています」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 02:10:30.43 ID:5HwslOvro
乙ー
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:17:42.74 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「いかんな」

警備兵「?」

騎士団長「如何なる集団だろうと長は必要だ。頼るとも頼らざるとも部下の自由だが、長がいれば個々が締まる」

騎士団長「警備隊の面々を見たが、俺がやらずとも誰かがやるだろうという雰囲気に満ちている。その『誰か』というのが君だ」

警備兵「………」

騎士団長「有能が故に同僚と馴染めないのなら、才を活かして上に立つべきだ」

警備兵「親身になって頂いて恐縮ですが、私は人を束ねるような器ではないので……」

騎士団長「束ねずともいい」

警備兵「どういうことです?」

騎士団長「上に立つ者が成果をあげれば勝手に付いてくる。君の場合、同じ立場だからいかんのだ」
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:24:38.98 ID:1R/q2gQOO

警備兵「はぁ、そうなんですかね」

騎士団長「ああ、断言出来る。君と似た奴が王宮で隊長をやっているからな」

警備兵「(意外と懐が深いんだな。輪を乱す者は許さない徹底した規律を持つ集団かと思っていたんだが……)」

騎士団長「そいつは腕は良いが口数が少なくてな……」

騎士団長「誰よりも献身的なのだが人目に付かないようにしていたものだから誰もそれに気付かなかった」

警備兵「では、どうやって隊長に?」

騎士団長「周りが放っておかなかった」

警備兵「?」

騎士団長「倒れたのだ。何もかも自分で出来るものだから無理が祟ったのだろう。それをきっかけに皆が気付いた」

騎士団長「訓練用の武器の手入れや管理。それらを知らぬ間に片付けていた存在にな」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:28:11.86 ID:1R/q2gQOO

警備兵「………」

騎士団長「何でも出来るが頼ることを知らん。口数も少ない。ならば皆で支えよう……という運びになったようだ」

警備兵「そうなるとは限りませんよ。私と彼では環境が違う」

騎士団長「うむ、そうだな。しかし、このままでは機能しなくなるぞ」

警備兵「まあ、考えてはみますよ。それより、そろそろ迎えに行った方が良いのではないですか?」

騎士団長「そ、そうであった!! 早く行かなくては……では、失礼!!」ザッ

ガチャッ…バタンッ!

警備兵「慌ただしい人だ。しかし、あんな風に話したのは初めてだな。あれも彼の人柄の為せる業か……」

警備兵「……俺にああいったことは出来ない。そもそも上に立つなど柄じゃない。やはり一人の方が性に合ってーー」

ガサッ…バサバサッ…

警備兵「……いや、やはり事務員くらいは欲しいな。あまりお茶を飲まなくて綺麗好きでうんと真面目な奴がいい」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 02:36:23.61 ID:1R/q2gQOO
今日はここまで
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 13:53:28.51 ID:5HwslOvro
乙ー
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:28:13.70 ID:LEa1hsVBO
ーーー
ーー


医師「……何でまたそんなことを」

王女「深い理由などありません。ただ、あの人にはもう少しだけ休んでいて欲しいのです」

王女「あの日からというもの傷を負ってばかり。ゆっくりと眠る間も、傷を癒やす間もありませんでしたから……」

医師「だから嘘を? まだ二日しか経っていないから今はそれで凌げるかもしれないが長くは続かないぞ?」

王女「ええ、分かっています。でも、せめて人の手を借りてでも動けるようになるまでは休んで欲しいのです。だから協力をーー」

医師「悪いが無理だ。俺の立場も危ういんだ。警備兵の旦那には何かあったらすぐに報告しろと言われてる」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:51:45.06 ID:LEa1hsVBO

王女「っ…どうか、お願いしますっ」

医師「………ハァ…分かったよ。あんたのような美女にそこまで頼まれちゃあ断れん」

王女「!! あ、ありがとうございますっ……」

医師「一つ聞いても良いか?」

王女「え、ええ。わたしが答えられる範囲であれば……」

医師「なに、そう難しい話じゃない。俺個人の興味から来る極々単純な質問だ」

王女「?」

医師「お嬢さん。あんたはあいつに惚れてるのか? あのニンゲンに」

王女「はい。わたしはあの人を愛しています。もう、随分と前から……」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:54:20.07 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いは決して叶わぬこととは分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:56:21.84 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いが決して叶わぬことと分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 19:33:01.48 ID:LEa1hsVBO

王女「あの日のことは、今でも忘れられません」

医師「(なんて深い悲しみに満ちた顔だ。というか、これは若い女が出来る表情じゃない。何というか、まるで未亡人のような……)」

王女「……ごめんなさい、あの人とのことは上手く言葉に出来ません。本当に沢山の…色々なことがありましたから」

医師「そ、そうか。色々と大変だったんだな。済まないな、立ち入ったことを聞いしまって……」

王女「いえ、そんなことはありません。今のわたしはあの人に寄り添って生きていける。それだけで幸せですから」

医師「…ハァ…まったく、そこまで言ってくれる女がいるなんて心底羨ましいぜ」

医師「奴が起きたら今の言葉を直接言ってやれ。痛みを忘れて飛び跳ねて喜ぶだろうよ」

王女「そ、そうでしょうか?」

医師「何を言ってんだ? そこまで言われて喜ばない野郎がいるわけがないだろう?」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:11:54.91 ID:LEa1hsVBO

王女「……難しい人ですから」

医師「そうなのか? 話を聞いた限り馬鹿で向こう見ずで楽天的な奴だと思っていたんだが」

王女「そう見えるだけで内面はしっかりしていますよ? 白い騎士との戦いに臨んだのも熟考した上でのことです」

王女「そうでなければ白い騎士を相手に五体満足で勝つことなど出来なかったでしょう」

医師「……まあ、確かに」

王女「考え無しに思えて実はそうではないのです。あの人はあの人なりにしっかりと物事を見ているのですよ?」

医師「分かった分かった。負けたよ。だからそんなに熱く愛を語らないでくれ。このままじゃ胸焼けしそうだ」

王女「そ、そんなつもりで話していたわけではありません!」カァァ

医師「ハハハッ! 済まないな。あまりに熱心に語るもんだからからかいたくなった」

王女「真面目に話していただけなのに……」

医師「(……やけに大人びてると思えば恥じらう少女のように顔を赤らめる。こういうとこにやれらたのかね)」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:44:53.50 ID:LEa1hsVBO

カランッ…カタカタ…

医師「っ、またかよ。本当に気味が悪いな。何なんだよこいつは……」ガシッ

王女「………」

医師「驚いたろ?」

王女「えっ……あっ、はい。とても驚きました。申し訳ありません。突然のことで声も出なくて……」

医師「こんなものを見れば誰でもそうなる。俺も初めて見た時はそうだったからな」

医師「一見普通の結晶に見えるが生き物みたいに動きやがる。興味深いがそれ以上に不気味でな……」

王女「……あの、それをどこで?」

医師「これは奴の腹から取り出したものだ。半ばまで突き刺さっていたんだが傷一つなかった。まったく奇妙なもんだよ、こいつは」カランッ

王女「っ、もし宜しければその結晶を頂けませんか?」

医師「はぁ? 何だってこんなもんを?」

王女「既にご存知だと思いますがあの人は泥棒です。そのような珍妙な品には目がないのですよ」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 21:48:39.27 ID:LEa1hsVBO

医師「泥棒?」

王女「え、ええ。そうです。ご存知だと思っていましたが……」

医師「(……そう言えば、警備兵の旦那が王宮に忍び込んだとか言ってたな。詳しくは教えちゃくれなかったが)」

王女「……あの、駄目でしょうか?」

医師「いや、別にやるのは構わんよ。置いていても不気味なだけだ」スッ

王女「あ、ありがとうございますっ。急に譲ってくれなどと言って申し訳ありませんでした」

医師「礼も謝罪もいらんよ。元々は奴の腹に刺さってたものだからな」

王女「………」ギュッ

医師「大層嬉しそうだが泥棒ってのはそんなものでも喜ぶのか? 変わってるんだな」

王女「……こういった曰く付きの品を蒐集するのが好きな人なので……」

医師「世の中にはそういう奴がいるみたいだが俺にはさっぱり理解出来んな。何がいいのやら……」

医師「しかし、あんたのようなお嬢さんが泥棒に恋をするなんて信じられんよ」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:00:45.40 ID:LEa1hsVBO

医師「しかも奴はニンゲンだ。尚更疑問だよ」

王女「種族の違いなど些細なことです。同族であっても見るに堪えない争いを起こします」

王女「種族の繋がりなど脆い。今この瞬間にも同族の手によって苦しんでいる方もいるでしょう」

医師「………」

王女「そんな世界で誰を信頼し、誰を愛するのか。それはとても難しいことです」

王女「けれど、わたしは幸運にも彼のような存在に出会えました。この人だけは失いたくない。そう思える存在に……」

王女「彼が何者であろうと、わたしは最期まで共にいるつもりです。それがわたしの望みですから」

医師「(夢見る年頃。良いとこのお嬢さんかとばかり思っていたが、どうやら間違っていたようだ)」

医師「(まさかこんな覚悟を持っていたとは思いもしなかった)」

王女「?」

医師「(まったく、立派な女性だよ。歳で判断するもんじゃないな……)」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:09:59.66 ID:LEa1hsVBO

ガチャッ!

医師「!?」

騎士団長「ひ…お嬢様!!!」

王女「!!」ビクッ

騎士団長「良かった。入れ違いになってしまったのかとーー」

医師「…ハァ…心配して来たのは分かるが驚かさないでくれ。お嬢さんの心臓が止まったらどうする?」

騎士団長「も、申し訳ない……」

王女「あの、何かあったのですか?」

騎士団長「いえ、異常はありません。お迎えに上がりました」

王女「そ、そうですか……」

騎士団長「お嬢様、もうじき日が暮れます。宿に戻りましょう」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:38:52.15 ID:LEa1hsVBO

王女「え、ええ。分かりました」

騎士団長「さあ、行きましょう。何があるとも分かりませんからな」

医師「なあ、警護の人」

騎士団長「……警護? あ、ああ。私に何か?」

医師「いや、随分と過保護だと思ったもんでな。彼女はそんなに良いとこのお嬢さんなのか?」

騎士団長「良いとこのお嬢さんだと……貴様、この方を誰だと思っている」

医師「いや、だから良いとこのお嬢さーー」

騎士団長「喧しい!! いいか、1度しか言わぬから良く聞け!! この方は畏れ多くもーー」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:41:27.87 ID:LEa1hsVBO

王女「あ、あのっ!」

騎士団長「如何しまし………」ハッ

王女「落ち着きましたか? では、そろそろ行きましょう」

騎士団長「は、はい。そうですな」

王女「お騒がせして申し訳ありません」

医師「え? あ、ああ……」ポカーン

王女「それから、お話を聞いて下さってありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

バタンッ…

医師「何がなにやら。まるで嵐のようだったな……」ポツン
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/20(木) 01:28:19.25 ID:GasoOL9so
乙ー
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 07:10:00.25 ID:RQkqjq3cO
エタ
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:17:19.57 ID:Y3JrDDfTO

トコトコ…

王女「………」

騎士団長「(う、うぅむ。何か気を悪くさせるようなことをしてしまったのだろうか)」

騎士団長「(先程から何も言わず俯いたままだ。やはり湯浴みに付いていこうとしたのが悪かったのか……)」

王女「……騎士団長さん」

騎士団長「な、何でしょうか?」

王女「好きな人はいますか?」

騎士団長「は…えっ!? 姫様、今なんと?」

王女「何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:19:25.36 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「い、いえ、おりません」

王女「それは何故です?」

騎士団長「何故と言われましても。職務上、愛や恋に現を抜かす暇などありませんので……」

王女「今はそうでしょうけれど恋をしたことはあるでしょう?」

騎士団長「……それは、まあ…騎士になってから交際したことはありませんが」

王女「苦しくはないのですか?」

騎士団長「そんなことはありません。職務の方が大事ですので」

王女「……そうですか。わたしは苦しかったです」ポツリ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:30:20.95 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「姫様?」

王女「自分の気持ちを押し殺し、あの場所に閉じ籠もっているのはとても苦しかった」

王女「皆の為に諦めた自分の想いや願い。それらを見続ける毎日でした。あの日から、ずっと……」

騎士団長「………」

王女「こうして再び外に出られるだなんて想像もしていませんでした。もう二度と…そう思っていましたから」

騎士団長「……王宮に戻りたくはないと?」

王女「ええ、そうですね。出来ることならこのままでいたいと思っています」

騎士団長「(っ、姫様のお気持ちも今ならば分かる。しかし、騎士としてやるべきはーー)」

王女「けれど」

騎士団長「?」

王女「けれど、そうもいかないことは分かっています。いずれは戻らなければならないでしょう」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:33:05.55 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いずれは? それは一体どういう?」

王女「騎士団長さん、一度だけ我が儘を聞いてくれませんか? 一度だけの頼み事です」

騎士団長「……それは、内容によります」

王女「そんなに険しい顔をしなくても大丈夫ですよ。そう難しい話ではありません」

王女「彼が目を覚ますまで待って欲しいのです。彼が目覚めれば王宮に戻ります」

騎士団長「何故そこまでして……」

王女「愛しているからです」ニコッ

騎士団長「なっ…」

王女「わたしがこんなことを言うなんて意外ですか?」

騎士団長「い、いやいやっ! そういうことではありません。奴は悪党、無法者ですぞ!?」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 01:52:13.57 ID:Y3JrDDfTO

王女「ええ、言われずとも分かっています。ですが、それとこれとは話が別です」

王女「彼がわたしを救ってくれたことに変わりはないのです。受けた恩を返すくらいはさせて下さい」

騎士団長「し、しかし…」

王女「とても意地の悪い言い方になりますが、如何にニンゲンとはいえ恩人を見捨てるような真似が出来ますか?」

騎士団長「うぐっ…それは……」

王女「騎士団長としても個人としても、そういった人道に背くようなことを出来るような人とはとても思えませんが……」

騎士団長「わ、分かりました。少しばかり時間を下さい。今すぐには答えられません」

王女「……考えて下さるだけでもありがたいです。先程は意地の悪いことを言って申し訳ありませんでした……」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:15:30.09 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いえ、姫様の仰る通りです」

騎士団長「恩人に対して何も返さぬというのは私も如何なものかと思います」

王女「……ありがとうございます。騎士団長さんが来てくれて良かったです。他の方ならどうなっていたか…」

騎士団長「姫様、まだそうすると決めたわけでは……」

王女「そ、そうでしたね……」

騎士団長「(もう一度あの医師に奴を診断して貰わなければ。その結果次第で決めることにしよう)」

騎士団長「(あまりに長く掛かりそうな場合は姫様には申し訳ないが諦めて頂く他ない)」

トコトコ…

騎士団長「そろそろ宿に着きますな。私は部屋の前にいますので何かあれば仰って下さい」

王女「あのぅ…それなのですが、あれから宿も変更して部屋も広いですし中にーー」

騎士団長「何度も言いましたがそれは出来ません。ましてや姫様と同じ部屋に入るなど決してーー」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:21:14.20 ID:Y3JrDDfTO

王女「湯浴みには付いてこようとしたのに。ですか?」

騎士団長「そ、それははそれ。これはこれです。出掛ける際は必ず同行します。湯浴み以外は……」

王女「フフッ…ええ、そうしてくれると助かります。他の女性客の方達も驚いていましたから」

騎士団長「申し訳ありませんでした。姫様が刺客に狙われているかと思うと周りが見えなくなってしまって」

王女「いえ、わたしだけならばよいのです。ただ、他のお客様にまでご迷惑を掛けるのはちょっと……」

騎士団長「………」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、何でもありません。さ、宿に着きましたぞ。入りましょう」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:27:10.11 ID:Y3JrDDfTO

王女「は、はい。そうですね」トコトコ

騎士団長「(世辞にも姫様が泊まるに相応しい宿とは言えん。にもかかわらず文句一つ言わず、それどころか他の宿泊客のことまで配慮して……)」

騎士団長「(以前に王族関係者の警護をした時とは天と地の差。あのような輩には姫様の爪の垢でも煎じてーー)」

王女「どうしたのですか? 冷えてきましたし入りましょう? 風邪を引いたら大変ですよ?」

騎士団長「………」ジーン

王女「?」

騎士団長「姫様のことは命に代えてもお守りいたします。御安心下さい」ドンッ

王女「へっ?」

騎士団長「さ、入りましょう。冷えてきましたからな。風邪を引いたら大変ですぞ?」

王女「は、はぁ……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 15:10:11.92 ID:CLbC6O0Eo
乙ー
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:31:53.54 ID:q/U8JrihO

【宿屋】

騎士団長「(愛している。か)」

騎士団長「(あのような快活な笑顔を見るのは初めてだ。恋する乙女とは正にあのことだろう)」

騎士団長「(……だが、あの表情の奥にはそれだけではない何かがあるような気がする)」

騎士団長「(会話の最中には気にならなかったが、今になって妙な違和感を覚える)」

騎士団長「(どう表現すればいいのか分からんが。何というか、姫様らしくなかった)」

騎士団長「(何も知らぬのにらしくないと言うのもおかしな話だが、何かが引っ掛かる)」

『今はそうでも恋をしたことはあるでしょう?』

『何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?』

騎士団長「(………あたかも年上の女性と話しているような……そうだ。違和感はそこにある)」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:46:48.53 ID:q/U8JrihO

騎士団長「(からかうのとはまた違う)」

騎士団長「(母親から恋人が出来たのかと訊ねられた時のような。そんな感覚……)」

騎士団長「(あの時の姫様は少女と言うにはあまりにも大人びていた。表情や口調。それらが目上の者に対するものではなかった)」

騎士団長「(道に迷う若者に物腰柔らかく語り掛けるような。あれは、人生を『知っている者』特有のーー)」

コツコツ…

警備兵「随分と難しい顔をしていますが、どうかしましたか?」

騎士団長「いや、少し気になることがあってな。それより、君は何故此処に?」

警備兵「これを届けに来ました。団長殿宛てです」スッ

騎士団長「書簡? こ、この印は……」カサッ

警備兵「……では、私はこれで失礼します」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:32:35.65 ID:q/U8JrihO

警備兵「(王宮からの書簡……)」ツカツカ

警備兵「(大方、彼女を連れ帰れという指示か何かだろう。だが何故だ。何故、騎士団長がこの街にいることを知っている?)」

警備兵「(彼は独断でこの街に来たと言っていたはずだ)」

警備兵「(当初は何かしらの密命を帯びているのかとも思ったが彼は人を騙すような……いや、そんな器用な人物だとは思えない)」

警備兵「(彼が王宮に報せた様子も無い。情報交換をしているとしたら先程の反応はあまりに不自然だ)」

警備兵「(ならば、王宮に情報を流している何者かが街に潜伏していると考えるのが自然だろう)」

警備兵「(……書簡の内容には非常に興味を引かれるが、これ以上の詮索はすべきではないな)」

警備兵「(俺には俺の、彼には彼のやるべきことがある。早く詰め所に戻って報告書の続きでも書くか)」ガチャリ
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:35:35.51 ID:q/U8JrihO

ドタドタドタッ!

警備兵「ん?」クルッ

ガシッ!

警備兵「!!?」

騎士団長「…はぁっ…はぁっ…ま、待ってくれ」

警備兵「ど、どうしたんです? 血相を変えて……」

騎士団長「頼みがある」

警備兵「は、はい?」

騎士団長「事情は説明する。しかし此処ではまずい。姫…お嬢様には申し訳ないが部屋で話そう」

警備兵「いや、急にそんなことを言われましても。それに、まだ協力するとは一言もーー」

騎士団長「頼むっ!この通りだ!!」ザッ

警備兵「……一大事。ですか」

騎士団長「……ああ。一大事だ」

警備兵「……分かりました。では、急ぎましょう。表情から察するに時間もなさそうだ」
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/28(金) 03:27:34.28 ID:5n2/RwoyO
乙ー
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/28(金) 23:59:43.96 ID:wa2XofG2O

ーーー
ーー


盗賊「………殺す?」

看板娘「そ。不要になった輪転機の破棄。それから輪転機が輪転器であることを知る者の抹消」

盗賊「つまりは姫様と俺を殺せってことか。依頼に裏があるとは思ってたけど随分と急だな。それは爺さんが?」

看板娘「違う違う。王サマの息子、将軍だよ」

盗賊「あ、そう。まあ、それはどっちでもいい。それより足洗ったんじゃなかった?」

看板娘「あれ、足洗ってるとこなんて見せたっけ? 一緒にお風呂入ったことないよね?」

盗賊「……見られてなくても風呂に入ったら足は洗えよ。清潔感のない奴は嫌われますよ?」

看板娘「失礼な。ちゃんと隅々まで洗ってるよ。なんなら嗅いでみる?」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:14:47.72 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「魅力的な提案だけど遠慮しとくよ。で?」

看板娘「ん? 何が?」

盗賊「何がじゃねえよ。質問の意味分かってんだろ。お前はどっちの味方なんだ?」

看板娘「あたしが敵に見えるわけ? 敵はこんなにペラペラ喋らないよ」

盗賊「……王宮の奴等に情報売ってた癖に良く言うぜ」

看板娘「あたしが売らなくても奴等なら直に嗅ぎ付けてた。それに、そのまま売ったわけじゃないから安心して? 現にこの場所まではバレてないし」

盗賊「はぁ…お前、王宮の奴等相手に偽情報掴ませてたのか。相変わらずだな」

看板娘「全部が嘘ってわけじゃないよ。真実7の嘘2。創作1って感じ」

盗賊「……比率なんかどうでもいいんだよ。いいのか? また前みたいなことになっちまうぞ」

看板娘「大丈夫。そうはならないしヘマもしない。何せ、これが最後の仕事だからね」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:26:10.92 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「……何でだよ」

看板娘「?」

盗賊「せっかく表に慣れてたのに何で戻っちまったんだ。真っ当な人生に飽きちまったのか? あんなに憧れてたってのによ」

看板娘「……あんたのこと嗅ぎ回ってる奴がいたんだ。あんなの見ちゃったら仕方ないでしょ?」

盗賊「だったら俺に直接言えば良かっただろうが。危険を犯して情報流した意味が分かんねえ」

看板娘「ちょっとでも向こうの足を遅らせようと思ってさ。駄目だった?」

盗賊「駄目っつーか、せっかく手にしたもんを簡単に手放すなよ。店の制服似合ってたのに勿体ねえな……」

看板娘「……今の暮らしを手に出来たのはあんたがいたからなんだ。だからさ、少しくらい恩返しさせてよ」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:11:48.45 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「返される恩がデカ過ぎんだよ」

看板娘「そう? あの時と同等のものを返そうとしてるつもりなんだけどね」

盗賊「そもそも恩を売ったつもりはねえ。だから返す必要なんかないんだ」

看板娘「あんたがそう思ってても、あたしにとってはそうじゃない。返すなら今しかないの」

盗賊「……今を捨ててまで返すもんじゃないだろ。もう少し後先考えろよ。嫁に行くとか色々あるだろ」

看板娘「結構前から嫁ぎ先は決めてるんだけど相手が乗り気じゃないからね〜」ニコッ

盗賊「……職業柄、収入が不安定なんだ。結婚するなら安定した収入のある男にしときなさい」

看板娘「はぁ、いつもそうやってはぐらかすんだから……罪な男だよね、あんたってさ」

盗賊「そりゃあ常日頃から罪深いことばっかやってるからな。何たって泥棒さんだし」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:59:22.06 ID:3Ro3ad/0O

看板娘「……あの、さ」

盗賊「ん?」

看板娘「姫様のこと、本気なの?」

盗賊「どの辺から本気なのか分かんねえけど、今までにないくらい欲しいと思ってる」

看板娘「これでもかってくらいに本気だね。泥棒のクセに姫様に心奪われたわけだ」ニヤニヤ

盗賊「ん〜、そうかもしれねえな。上手く言えねえけど姫様は何か違うんだよ」

看板娘「………そっか。やっぱりそうだよね。うん、分かった」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:04:41.32 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「分かった?」

看板娘「気にしないで、こっちの話だから。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。色々あったけど何とか協力する方向に持っていけたよ」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどさ……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「そんなとこあるっけ?」

看板娘「一つだけね。こっち側で王の力が一切及ばない安息の地ってやつがね」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/29(土) 02:18:19.93 ID:e21hpOA8O
乙ー
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:56:36.16 ID:rEyUOzjxO

盗賊「分かった?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。こっち側で王の力が一切及ばない唯一の安息の地っやつがね」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 23:54:00.30 ID:RQFCICMUO
盗賊「分かったって何が?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。王の力が一切及ばない唯一の安息の地ってやつがね」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:59:02.66 ID:+6DblcTJ0
はよ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:06:27.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「安息の地、ね……」

看板娘「そんな顔しなくたって大丈夫。此処にいるよりは何十倍も安全だから。多分」

盗賊「多分ってお前…行ったことねえのかよ……」

看板娘「まあまあ、そこは着いてからのお楽しみってことにしといてよ」ニコッ

盗賊「……はぁ、分かったよ。どの道、今はお前を信じるしかなさそうだしな」

看板娘「理解が早くて助かるよ」

盗賊「で、俺は何をすればいい? この体でどこまでやれるか分かんねえけど出来ることはするぜ?」

看板娘「………」

盗賊「どうした?」

看板娘「あんたがそういうニンゲン……」

看板娘「ううん、そういう男だってことは分かってるつもり。けどさ、少しは考えなよ」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:07:53.13 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「はぁ? 何だよ急に」

看板娘「惚れてる女がいるなら悲しませるような真似はすんなって言ってんの」

盗賊「……ちゃんと考えてるさ」

看板娘「考えてない。意地張って格好付けて、無理して無茶して死ぬ際まで行って……」

盗賊「そうしなきゃならなかった。戦う以外に道はなかったんだ。仕方ねえだろ?」

看板娘「あんたは止まることを知らない。普通の…まともな奴なら逃げてる。化け物と戦おうなんて考えない」

盗賊「かもな。でも、知っての通り俺は普通じゃない」ニコッ
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:10:36.22 ID:3NGyzUZ5O

看板娘「ッ、ヘラヘラすんなっ!!」

バチンッ!

盗賊「………」

看板娘「今まではそれで良かったかもしれない。けど、今は違うでしょ!?」

看板娘「あんたが姫様のことを思ってるように、姫様もあんたのことを思ってる」

看板娘「姫様を本当に大切だと思うんなら、姫様が大切にしてるあんたを大切にしなよ……」ポロポロ

盗賊「……お前…」

看板娘「あんたに自覚はないだろうけど、何かを決めて走り出した時のあんたは、まるで死を迎えに行ってるように見える」

盗賊「………」

看板娘「あんなことをいつまでも続けてたら、いつかは絶対に死ぬ。惚れた女を残して逝くなんて最低だよ?」
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:13:40.82 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「確かにそいつは最低だな。でも、置いて逝っちまうつもりはねえよ」

看板娘「だったら!!」

盗賊「大丈夫さ。俺を見ろよ。棺桶には入っちまったけど生きてるだろ?」ニコッ

看板娘「…………はぁ、もういいよ。あんたはホントに変わらないね」

盗賊「お前は変わったな。狐の嫁入りが見られるとは思わなかったよ」

看板娘「何なら狐の婿入りを見せてくれても構わないよ?」クスッ

盗賊「俺の目はそう簡単に雨は降らせねえよ。さ、長話はこの辺にして安息の地とやらに行こうぜ」

看板娘「ああ、そうだね。早いとこ…? ちょっと待って、誰か来る……」サッ
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:15:46.02 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「ッ、王宮の奴等に嗅ぎ付けられたか。何人だ?」

看板娘「一人。ちょっと見てくるよ。あんたは此処で待ってて、一人なら何とか出来る」ザッ

盗賊「ちょっと待った」ガシッ

看板娘「どうしたの?」

盗賊「俺も行く。まだ満足には動けねえけど陽動くらいなら出来る」

ギュッ!

看板娘「ありがとね……」

盗賊「おっ、おい。こんなことしてる場合じゃーー」

看板娘「盗賊。あんたなら、そうしてくれるって信じてた」ポツリ
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:17:49.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「は? 何を言ってーー」

看板娘「ごめんね……」

チクッ…

盗賊「何を…ッ…」クラッ

看板娘「あんたはホントに変わらないね。でも、狐につままれるのはこれで最後。お休み、盗賊」

盗賊「っ、お前、何するつも…りだ……」フラッ

ギュッ…

看板娘「……終わったよ。油断させるのにちょっと手間取ったけど、予定通りでしょ?」

ザッ…

警備兵「ああ、予定通りだ。彼女と団長殿は先に行った。次は我々の番だ。さあ、行くぞ」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/23(水) 01:36:58.04 ID:16NeqMAaO
乙ー
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 18:22:23.70 ID:3jLT8S4U0
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:01:05.86 ID:/FszNacrO

ーーー
ーー


ガララララッッ…

警備兵「良かったのか?」

看板娘「そっちこそ良かったの? 死体を捨てに行くとかって身内に嘘まで吐いてさ」

警備兵「警備隊を身内だと思ったことはない。俺が棺桶を運び出す時の奴等の顔を見ただろう」

警備隊「無関心で無責任。警備隊という立場にありながら問題を見過ごす。それが今の警備隊だ」

看板娘「へ〜、そりゃ大変そうだね。そんな奴等より、あたしの方が役に立つんじゃないの?」

警備兵「かもしれないな」

看板娘「あれ、予想外の反応だね。冗談のつもりだったんだけど」

警備兵「それ程までに人員が不足している。悪狐の手も借りたいくらいだ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:04:32.69 ID:/FszNacrO

看板娘「………」

警備兵「どうした? 皮肉の一つでも返してくると思ったのだがな」

看板娘「あんたがそんなこと言うなんて、ちょっと意外でさ」

警備兵「意外? 何が?」

看板娘「堅物で嫌味ったらしくて、あたしみたいな奴のことは許容出来ない器の小さい男だと思ってた」

警備兵「俺も最近まで自分はそういう質だと思っていた。後ろの奴と出会うまではな」

看板娘「盗賊と関わって何か変わった?」

警備兵「忌々しいことにな。劇的に何かが変わったというわけではないが、ただ……」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:07:52.39 ID:/FszNacrO

看板娘「ただ?」

警備兵「……奴の行動を見て目が覚めた。上手く言えないが、そんな感覚だ」

警備兵「角がなかろうと尻尾が生えていようと、俺が認めると思えた奴は認めてやろうと思えた」

看板娘「うわぁ、一介の警備兵が偉そうに。そんなだから嫌われてるんじゃないの?」ニヤニヤ

警備兵「誰に嫌われようが構うものか。あんな連中と連むよりは一人でいる方がよっぽど楽だ」

看板娘「あらそう。ところで孤独な警備兵サン。あなたに一つお訊ねしたいことがあるのだけど宜しいかしら?」

警備兵「何だその口調は……で、何だ?」

看板娘「大嫌いなニンゲン。知性の欠片もないケモノ。そんな奴等と一緒に馬車に乗ってる気分は如何?」

警備兵「……そうだな。机から落ちた山のような書類を拾い上げて整理している時よりは幾らかマシだ」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:11:00.47 ID:/FszNacrO

看板娘「っ、あははっ!! そっかそっか。ま、繕ったこと言われるよりはずっと良いかな」

警備兵「お前はどうなんだ」

看板娘「あたし? あたしは気分良いよ?」

警備兵「何故?」

看板娘「普段からご自慢の角を見せびらかして肩で風切ってる奴に運転させてるからね」

警備兵「そんな風に見えるのか。そんなことをした覚えはないのだがな」

看板娘「あたし等にはあんたら種族は皆そう見えるのさ。あたし等を見下して嗤ってる」

警備兵「否定はしない。奴等はケモノ、品性も知性もない。そう言われて育ったからな」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:15:08.86 ID:/FszNacrO

看板娘「それはあたし等も同じだよ」

看板娘「角にしか養分が行ってない能無し。野蛮で粗暴、おまけに傲慢。そう言われて育ったからね」

警備兵「…チッ…全く、これこそ品の無い諍いだ。一体、何処の誰が言い出しのだろうな」

看板娘「さあね。とっくの昔に土に還ってるだろうから、幾らあんたでも見つけ出すのは不可能だろうね」

警備兵「……火種を撒くだけ撒いて土の中に雲隠れか。先人は面倒な問題ばかり遺してくれるな」

看板娘「しかし彼等がいなければ今の我々はいない。今ある文化や生活基盤は先人なくして有り得ないのだからね」

警備兵「………」

看板娘「ね、今のどう? 知識人っぽかった?」

警備兵「ああ、悪狐の化けの皮は何枚あるのか興味が湧いた。お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:10:46.84 ID:/FszNacrO

看板娘「お〜、怖い怖い。今夜中に消えないと本当に剥がされちゃいそうだね」

警備兵「行く当てはあるのか? 元密偵には要らぬ世話かもしれないが」

看板娘「新しい皮を被れば何処でも生きてける」

警備兵「……そうか」

看板娘「同情してくれてんの?」

警備兵「同情? 何を馬鹿な。そんな生き方はしたくないから真っ当に生きようと思っただけだ」

看板娘「真っ当に、か。その方がいいよ。お日様の下で堂々と生きていけるしね」

警備兵「そうありたいものだが、それも今日までかもしれない。これが発覚すれば晴れてお前と同じ日陰者だ」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:13:01.84 ID:/FszNacrO

看板娘「?」

警備兵「大罪人の逃走幇助。将軍の命に背いた反逆罪。片一方でも処刑は確実だ。人生を棒に振ったようなものだ」

看板娘「なら何で協力したのさ。あたしにはそれが一番意外だよ。そういうタイプには見えないし」

警備兵「自覚はしている。しかし、あんな話を聞かされれば仕方がない」

看板娘「姫様の話を信じるの?」

警備兵「信じる信じないの話じゃない。あの時の彼女には有無を言わさぬ何かがあった」

警備兵「威厳、風格。発する言葉の一つ一つに強い意志を感じた。あの時の彼女は王女というより女王のようだった」

看板娘「確かに。あれだけ言葉に力がある人は見たことない。初めて会った時とはまるで別人みたいだった」

警備兵「……本当に別人なのかもしれないな。もしそうであったとしても最早驚きはしない」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:15:20.57 ID:/FszNacrO

看板娘「まあ、あんな話聞いた後だしね」

看板娘「王の力の封印が解けるとか、再びニンゲンとの戦争が起きるとか、四人目の騎士とかさ」

警備兵「お前はどうなんだ?」

看板娘「あたしは盗賊を逃がす為に協力しただけ。他にはなんにもない。あんたもそうだと思ったけど、違うの?」

警備兵「分からない。ただ、やらなければならないと感じた。これは必要なことなのだと」

看板娘「……運命、みたいな?」

警備兵「……ああ。運命だとか占いだとか、そういう類は一切信じない質なんだがな」

看板娘「その選択が間違ってたらどうすんのさ。それがただの思い込みだったら本当に人生を棒に振っちゃうんだよ?」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:41:15.31 ID:/FszNacrO

警備兵「そうでないことを祈る」

看板娘「祈るって誰に? 偉大で永遠なる神の如き魔王サマ?」

警備兵「こんな時に神になど祈らない。まして魔王に祈るなど今となっては笑えない冗談だ」

看板娘「じゃあ誰に祈るのさ?」

警備兵「父と母だ。そろそろ河に着くぞ」

看板娘「此処まで来といてなんだけどさ、棺ごと河を渡らせるとか本当に大丈夫なの?」

警備兵「俺に聞くな。そもそも船があるかどうかも分からない。なければ終わりだ」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:44:02.23 ID:/FszNacrO

看板娘「船に棺を載せて流して下さい。お二人にお願いしたいのはそれだけです。だもんね……」

警備兵「彼は必ず辿り着くとも言っていた。船があったとしても沈めば終わりだというのに」

看板娘「でも、目的地に行くには河を渡るしかなない。姫様の言ってた通り河に続く道だけは兵が張ってなかったし」

警備兵「彼女が先に街を出たのが大きい。城に戻ると言い出した時は驚いたがな」

看板娘「………」

警備兵「どうした?」

看板娘「凄いよね。殺せって命令が出されてるのに何の迷いもなく城に戻るとかさ……」

警備兵「無謀とも言えるがな」

看板娘「そうだね。それに、今まで守ってた奴が命狙って来るわけでしょ?」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:45:29.62 ID:/FszNacrO

警備兵「そうなるだろうな」

看板娘「……はぁ、こりゃ勝てないわけだ」

警備兵「?」

看板娘「どんな策があるのか分かんないけどさ、あの娘は……姫様は諦めてない」

看板娘「こんな状況でも盗賊を生かすことを諦めてないんだよ」

看板娘「何て言うか、覚悟が違う。あの娘は愛に殉ずるってことをホントに出来るんだと思う」

警備兵「………着いたぞ、早く下りろ。よし、船はあるな。さあ、さっさと棺を運ぶぞ」

看板娘「……分かってる」

ザッ…ザッ…ザッ…ガコンッ…

警備兵「よし、固定したな。押すぞ」グッ

看板娘「んっ(はぁ、あたしに出来るのはこれくらいか。何だか、ちょっと悔しいな)」グッ

ズリズリ…バシャバシャ…ユラユラ…

看板娘「(盗賊、生きてね。どうか、無事に辿り着けますように……)」ギュッ
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:48:51.83 ID:/FszNacrO

警備兵「おい」

看板娘「?」

警備兵「まだ終わったわけじゃない。俺達には帰りもある。気を抜くな」

看板娘「はいはい分かってるよ」

警備兵「………恋だろうが何だろうが生きている限り可能性はある。行くぞ」ザッ

看板娘「ありがと……」ポツリ

ーーー
ーー


戦士「もう夜明けか。巫女様の予言によればそろそろ来るはずだが、果たして本当に来るのか?」

戦士「予言が外れればご自身の立場すら危ういというのに……」

戦士「船頭には鴉が立つ。それは死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「……鴉の騎士、死の騎士か。我が部族は過去に囚われたままーー」

カァー カァー カァー

戦士「鴉? 何処から…………!!?」ダッ

バシャバシャ!
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/26(土) 04:17:17.96 ID:rL+vpatWO
乙ー
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 08:19:55.83 ID:GSFBB0Vu0
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 10:46:42.91 ID:vAQPADYlo
上手く言えないけど語る雰囲気が良いよね
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:04:32.25 ID:CbbMx9INO

ザブンッ!

戦士「ぷはっ!!」

戦士「(見えた。確かに見えた。あれは確かに船だった。霧の晴れ間に船影があった)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ!はぁっ!ぷはっ!!」

カァー カァー カァー

戦士「(まるで私を呼んでいるようだ……鴉の声がなければ間違いなく見逃していたな)」

戦士「(如何に巫女様と言えど今回の予言ばかりはと思ったが、まさか本当に現れるとは……)」

戦士「(巫女様は私が見つけることを知っていたのか? それともただの偶然なのか?)」

戦士「(……いや、違う。こうなった以上は必然だ。恐らく、この先に訪れるであろうことも)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ、はぁっ…まずいな」

戦士「(ここから先は流れが速い。渡し船程度では耐えられない。急いで乗り込まなければ)」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:32:43.83 ID:CbbMx9INO

バシャバシャ!ガシッ!

戦士「ぷはっ…ッ!!」

ザバッ!ゴロンッ…

戦士「はぁっ、はぁっ、けほっけほっ……船頭に鴉。死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「今は棺の中身を確認している場合じゃないな。流される前に岸に戻らないと……」

ギィ…ギィ…ギィ…

戦士「しかし、こんな小舟でここまで辿り着くとはな。沈まずに流れて来たのが奇跡だ」

カァー カァー

戦士「ああそうだったな、お前もいた。ずっとそこにいたのか? 難儀な船旅だっただろう?」

戦士「お前が呼んでくれたお陰で見付けることが出来たんだ。ありがとう」

カァー

戦士「霧の中で棺を載せた船を漕ぐ。こんな経験は初めてだな。冥府の船頭にでもなった気分だ」

戦士「そろそろ岸に着く。この棺の中身まで川を渡っていなければ良いが……」

ギィ…ギィ…ギィ…
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:39:51.95 ID:CbbMx9INO

ギィ…ギィ…ザザァ…

戦士「ふ〜っ、何とかなったな」

カァー カァー バサバサッ!

戦士「……役目は終えた、か? 遺体に集るのでなく棺を導くとは不思議な鴉もいたものだ」

戦士「さて、中を改めなければ。棺を暴くなど気乗りしないが仕方が無い」

ガコンッ!

盗賊「…スー…スー…」

戦士「……寝ている。何だコイツは? 若いし体も細い。こんな奴が本当に鴉の騎士なのか?」

戦士「もっと壮年で逞しい男を想像していたんだが拍子抜けだな。ウチの男達の方がまだマシだ」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:53:41.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「…スー…スー…」

戦士「おい、いつまで寝ている。いい加減に目を覚ませ」

ペチペチッ

盗賊「……んっ、寒っ…」

戦士「おい」

盗賊「……姫様? 無事だったのか…って言うか此処は? 狐娘は? 騎士団長と警備兵は?」

戦士「何を言ってる? 寝惚けているのか?」

盗賊「………あ〜、悪い。人違いだったみたいだ。早速で悪いけど此処は? きみは一体ーー」

戦士「説明なら幾らでもしてやる。取り敢えず起きろ。話はそれからだ」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 23:10:04.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「ああ、分かった。よっ…痛っ…」クラッ

ガシッ!

戦士「その様子だと本当に傷を負っているようだな。ほら、私に掴まれ」

盗賊「……いや、いい。大丈夫さ、一人で歩けるよ」

戦士「ん、そうか。なら付いてこい」

盗賊「(日に焼けた肌。額に短い一本角。目元、鼻筋、唇。目つきと肌の色以外はそっくりだ)」

戦士「どうした。早く来い」

盗賊「悪りぃ悪りぃ、今行くよ(ったく、どうも調子が狂うな。民族衣装を着た姫様にしか見えねえ)」

盗賊「(いや、んなことはどうでもいい。それより姫様だ。姫様は無事に逃げ切れたのか?)」

盗賊「(姫様には騎士団長と警備兵が付いてるって言ってたけど大丈夫なのか?)」

盗賊「(つーか何で俺だけがこんなとこにいる。俺達二人を逃がすって言ってたけど失敗したのか?)」

盗賊「(くそっ、何がどうなったのかさっぱり分かんねえ。取り敢えず現在地を確認しねえと始まらねえな)」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:02:41.64 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

戦士「何で火を焚いた?仲間にでも知らせる気か? 此処は渓谷だから無駄だと思うぞ」

盗賊「違う。きみの服を乾かす為にやったんだ。俺も寒かったからな」

戦士「そうか。しかし、まさか自分の棺を壊して火を付けるとは思わなかったぞ」

盗賊「乾いている木はあれしかなかったからな。使えるもんは何でも使うさ」ジャキッ

戦士「!!」バッ

盗賊「っと、悪い。驚かせちまったな。ちゃんと動くかどうか確認したくてさ」

戦士「………」ジー

盗賊「そんなに警戒すんなって、何もしやしない。なんなら、ほら」スッ

戦士「……そこに置いて三歩下がれ。ゆっくりだ。妙なことはするなよ」
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:06:02.75 ID:EUNAEcDAO

盗賊「はいはい、分かったよ」トサッ

ザッ…ザッ…ザッ…

戦士「…………」ツンツン

盗賊「なあ、あんまり弄くんなよ。下手したら怪我すんーー」

ジャキッ!

戦士「わっ!!」

盗賊「はぁ、だから言ったろ。もう良いかい?」

戦士「……なるほど、此処から刃が出る仕組みか。見たことない武器だ。これは何という武器だ?」ツンツン

盗賊「さあ? 自分で作ったから名前なんかねえよ」

戦士「これを自分で作ったのか!? お前、手先が器用なんだな。女みたいだ。体も細いし」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:31:11.54 ID:EUNAEcDAO

盗賊「編み物とかしないのか?」

戦士「しない。私は戦士だから」

盗賊「戦士、ね……」

盗賊「(つーか本当に似てんな。姫様は遊牧民の子だったとか言ってたし、後で聞いてみるか)」

戦士「何だ? 女が戦士を名乗るのが可笑しいか?」

盗賊「いや? ただ、きみには戦って欲しくないと思ってさ。戦うとこなんて見たくもねえ」

戦士「敵がいれば戦わなければならない。私には敵と戦う覚悟がある。だから戦士になった」

盗賊「……(敵?)そっか。ところで、そろそろそこに戻ってもいい? 座りたいんだけど」

戦士「ん、もういいぞ。ただ、これは預っておく。なんか危ないからな」

盗賊「どーぞ。で? きみは何で俺を助けてくれたんだ?」

戦士「お前を待つように言われた。巫女様の予言だ。こうして話すのも私でなくてはならないらしい」

盗賊「……予言」

戦士「疑うか?」

盗賊「いや、信じるよ。話を続けてくれないか。知りたいことは山ほどあるんだ」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:36:50.63 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

盗賊「第四の騎士。王を打ち倒す者」

盗賊「俺が死の騎士の生まれ変わりね……白い騎士が輪転器って言ってたのはそういうことか」

戦士「輪廻転生。お前は全ての始まりで、全てを終わらせる者。巫女様にはそう聞いた」

盗賊「……全てってのは何を差してる?」

戦士「そこまでは分からない。未来だという者もいれば世界だという者もいる。解釈は多々ある」

盗賊「どっちにしろ碌な結果は生まなさそうだな。そんな危険な奴を何で助けた?」

戦士「初代の王と鴉の騎士は選択を間違えた。それを正すのがお前らしい」

盗賊「選択?」

戦士「そう、選択だ。どんな考えがあったのか知らないが、二人は存在してはならない力を世界に遺してしまった」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:41:13.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「存在してはならない力…王の力か?」

戦士「あれがある限り自由はない。あれは鎖だ。世界は千年以上もあれに縛られ続けてる」

盗賊「ん〜、何だかよく分かんねえな……」

盗賊「要は俺が魔王を倒すことになるってことなのか? 第二第三の騎士を倒して?」

戦士「そうだ。そうすることで何かが終わり、何かが変わる。お前にその意思があれば」

盗賊「……あのさ、俺はただのニンゲンだぜ?」

戦士「知ってる。それも巫女様から聞いてた。鴉はいずれ境界線を飛び越えてやって来ると」

盗賊「……輪転器のことも知ってるのか?」

戦士「それなら私より巫女様の方が詳しい。私は今の話を伝えるように言われただけだからな」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:19:22.17 ID:EUNAEcDAO

盗賊「巫女様は何できみに?」

戦士「理由は分からない。ただ、私の話なら大人しく聞くだろうと言っていたな……」ウーン

盗賊「(そりゃそうだ。彼女じゃなけりゃ姫様を捜しに行ってた。こんな話には付き合わなかった)」

盗賊「(冷静でいられんのも彼女がいるからだ。似てるからか? どこか安心してる自分がいる)」

戦士「何だ?」

盗賊「いや、何でもない。それより、きみはさっき敵と言ってた。その為に戦士になったってさ」

戦士「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」

盗賊「きみの敵ってのは何だ? きみさえ良ければ教えてくれないかな?」

戦士「……魔王だ。私がまだ幼い頃、奴に全てを奪われた。両親を殺され妹は行方知れず。もしかしたら攫われたのかもしれない」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:40:43.83 ID:EUNAEcDAO

盗賊「…………」

戦士「あれは本当に突然のことだった」

戦士「奴は大軍を率いてやって来た。部族の皆は必死に抵抗したけど大半は殺された」

盗賊「……何で魔王はきみ達の部族を襲った? 巫女様には予知出来なかったのか?」

戦士「それが私にも疑問なんだ」

戦士「あの時、巫女様は何処に逃げれば助かるか知っていた。なのに襲撃されることは言わなかった」

戦士「巫女様は何も言わなかった。誰に何を言われても酷く罵られても、その件についてだけは今でも絶対に喋らない」

盗賊「………」

戦士「私も何度か聞いたけど駄目だった。だからあれ以来、巫女様は肩身の狭い思いをしてる」

盗賊「こう言っちゃ何だけど、何でそんな奴を信じる?」

戦士「親を亡くした私を育ててくれたのが巫女様だ。今でも色々言われてるけど、本当に優しい人なんだ……」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:43:18.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「(……育て親、か)」

戦士「服は乾いた。輪転器について知りたければ集落に案内するから付いてこい。これは返す」スッ

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「……お前は変な奴だな」ポツリ

盗賊「?」

戦士「話すつもりじゃなかったことまで話してしまった。お前は変な奴だ……」

盗賊「そうかな。俺からしたらきみの方が変わってるぜ? ニンゲン相手にこんなに優しくしてくれるんだからさ」ニコッ

戦士「………行くぞ。付いてこい」ザッ

盗賊「(巫女様とやらに会えば輪転器の疑問が解けるかもしれねえ。そうなれば、あの爺さんや将軍が何を企んでんのか見えてくるはずだ)」

盗賊「(もしかしたら姫様の居場所だって分かるかもしれねえ。今は、何にでも縋る。何にでも……)」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 02:46:17.27 ID:EUNAEcDAO
ここまで
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/29(火) 03:06:06.74 ID:nXhIHsaeO
乙ー
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 08:52:53.24 ID:84Bn0qKN0
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:47:24.80 ID:h2abarDbO

ザッ…ザッ…

盗賊「……凄え。渓谷っていうより峡谷だな」

戦士「凄い? 何がだ?」

盗賊「この景色。目に映るもの全てさ」

盗賊「ここにあるものは、生まれてからこれまでの時間をそのまま生きてるって感じだ」

盗賊「色んなとこを見てきたつもりだけど、こんなに手付かずの自然は見たことない」

戦士「ここはまだ幼いからな」

盗賊「幼い?」

戦士「巫女様がそう言っていたんだ。河の浸食による地形変化。地形輪廻と言うらしい」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:48:30.43 ID:h2abarDbO

盗賊「地形輪廻……」

戦士「この渓谷はそれが始まったばかりで、これから長い年月を掛けて更に姿を変えていく」

戦士「この形になるまで気の遠くなるような時が流れたようだが、それでもまだ幼いらしい」

盗賊「へ〜、物知りなんだな」

戦士「……そんなことない。今話したことは全て巫女様に教えられたことだからな……」

盗賊「いやいや、未来も見通すような物知りから教えられたんだ。きみだって立派な物知りさ」

戦士「お前は良く口の回る奴だな」

盗賊「だろ? 出会った奴には大体言われる」

戦士「………旅、してたのか?」

盗賊「ん? ああ、諸国を廻って泥棒してた」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:55:20.98 ID:h2abarDbO

戦士「お前、盗人だったのか」

盗賊「盗人じゃなくて泥棒ね。ドロボウ」

戦士「どっちにしろ同じだ。というか、何でそんなことを話す? 黙っていればいいものを……」

盗賊「きみは色々話してくれただろ? だから隠し事は無しにしようと思ってさ」

戦士「……何で盗む?」

盗賊「それを美しいと感じるから」

戦士「それ、とは何だ? 美しいというのは金や銀のことか?」

盗賊「勿論そういった物だって盗むけどそれだけじゃないぜ? 俺が盗むのは形あるものだけじゃない」

戦士「?」

盗賊「ん〜。例えば、そうだな……女の子の泣いてる顔とか、塞ぎ込んでる女の子の悩みとか」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 01:08:53.76 ID:h2abarDbO

戦士「……それのどこが美しいんだ」

盗賊「盗んだものが美しいんじゃない。盗んだ後に見せてくれるものが美しいんだよ」

戦士「お前が何を言いたいのかさっぱり分からない。はっきり言え」

盗賊「答えは笑顔さ。女性が最も輝いて見える瞬間ってのは笑ってる時だからな」ウン

戦士「言っていて恥ずかしくならないのか」

盗賊「いや、別に。だって本当のことだろ?」

戦士「……知らん。私には縁の無い話だ」

盗賊「そんな顔してると疲れちまうぜ? くすぐってやろうか?」

戦士「私がどんな顔をしてるのか分からないが、お前と話している方が疲れる」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:35:11.04 ID:h2abarDbO

盗賊「………」

戦士「どうした?」

盗賊「喋ると疲れるって言うから黙ってみたんだけど駄目だな。俺が耐えられそうにねえや」

戦士「なら、何か話してみろ。集落に着くまでの暇潰しになる」

盗賊「…………外の世界を知らない女の子がいた。その子はずっと外の世界を夢見ていた」

盗賊「鍵の掛けられた部屋が彼女の世界だった。彼女は一人きりで、ずっとそこにいたんだ」

盗賊「ある日、そこに一人の男が現れた。男は彼女に外の世界を見せたくなった」

戦士「その女を不憫だと思ったのか?」ガサッ

盗賊「それもあるけど彼女は美しかった。その男は彼女に一目惚れしちまったのさ」ガサッ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:40:23.22 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないのに、男の中で彼女は存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑った。これまでは一度もそんなことにはなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:45:40.16 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないけど、男の中で彼女の存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑ったみたいだ。これまでは一度足りともそんな気持ちにならなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:52:49.41 ID:h2abarDbO

戦士「惚れた女を離したくなかったのか?」

盗賊「それもあるかもしれない。でも、それだけじゃない」

盗賊「男は彼女の世界が変わり果てていることを知っていたんだ」

盗賊「何故か。実はその男、その世界の主に彼女を連れ出すようにと頼まれていたのさ」

盗賊「男がそれを告げると彼女は涙した。これまでの全てが嘘だったのか……ってね」

戦士「その男はどうした?」

盗賊「そりゃあ否定したさ」

盗賊「あれは本心だ。貴女と共にいたいという気持ちに嘘偽りはない。ってな」

盗賊「彼女は再び涙を流した。けど、それは先程とは全く違う色の涙だ」

盗賊「男は彼女の涙を見た時に決心した。彼女の為に戦うことを」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 03:05:31.72 ID:h2abarDbO

戦士「戦う? 誰と?」

盗賊「非情な現実ってやつが形を成した怪物さ」

盗賊「どんなに刺し貫いても倒れない『それ』を見た時、男にはそいつが不死にすら思えたよ」

戦士「勝てたのか? 不死の怪物に」

盗賊「何とか勝利することが出来たみたいだ。で、男は戦いの末に気を失って目覚めると棺桶の中だった」

戦士「………」

盗賊「彼女とは目覚めた直後に再会出来た。しかし、更なる現実が彼女を襲おうとしていた」

盗賊「それを知った男は何とかしようとしたが、再び深い眠りに落ちてしまう」

盗賊「目覚めるとそこは見知らぬ土地。男は彼女の居場所を知るべく、藁にも縋る思いで預言者の元へ向かった」

盗賊「自らを戦士と名乗る美しい女性の助けを得ながら、ね」ニコッ

戦士「……その男は彼女と再会を果たせると思うか?」

盗賊「どうだろうな。ただ、少なくともその男だけは彼女との再会を信じてるだろうさ」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 03:10:36.39 ID:h2abarDbO
ここまで
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 08:41:35.39 ID:P658J+nDo
おつ
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/31(木) 08:53:30.28 ID:nCikHAUaO
乙ー
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:15:37.55 ID:VBuzN7aw0
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 03:05:41.25 ID:s6gV6xVIo
おつです
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:49:04.75 ID:bd1LdiYlO

ガサッ…ガサッ…

戦士「……ん。この辺りならいいだろう」

盗賊「どうしたんだ?」

戦士「集落はまだまだ先だ。少し休むぞ。お前もそこら辺に座れ」

盗賊「疲れたのか?」

戦士「馬鹿を言うな。私がこの程度で疲れるわけがないだろう」

盗賊「なら何で? 早く行かねえとーー」

戦士「お前の事情は把握した。巫女様に会いたいという気持ちは分かる。だが焦るな」

戦士「私はお前を無事に集落に連れて行かなければならない。お前、今の自分がどんな顔をしているか分かるか?」

盗賊「さあな、鏡がないから分かんねえよ。それに、今は自分を見つめ直すほど暇じゃないんだ」

戦士「まだ減らず口を叩けるのか、お前は中々に根性のある男だな。見掛けは当てにならないとは良く言ったものだ」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:54:56.94 ID:bd1LdiYlO

盗賊「そりゃどうも。でも休む必要はないぜ?」

戦士「………頑固な奴だ」ザッ

盗賊「お、おいおい何だよ。何か怒らせるようなこと言ったっけ?」

戦士「脱げ」

盗賊「……え〜っと、そういうのはお互いを深く理解して少しずつ段階を踏んでからにしないか?」

戦士「いいから服を脱げ。早くしろ」

盗賊「分かった、分かったよ。軽い冗談じゃねえか。そんなに凄まなくたっていいだろ……」スルッ

戦士「!!」

盗賊「………だから見せたくなかったんだ」

戦士「(包帯だらけだ。この傷を背負いながら私の後を付いてきていたというのか?)」

戦士「(右肩、胸から腹に掛けての傷。それから背中。打撲している箇所も多々ある。顔色も酷い。普通なら倒れているか気を失ってる)」

戦士「(意識を保つにもやっとのはずだ。私に気取られないよう痛みに耐えていたのか、今までずっと……)」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:22:32.76 ID:VSCf0YOJO

盗賊「もういいか?」

戦士「良いわけがないだろう。棺に入っていた所持品の中には薬があったな。それを寄越せ、というか座れ」

盗賊「………はぁ、分かった。負けたよ。薬は腰にある革鞄のどれかに入ってるから取ってくれ」トスッ

戦士「ん、これだな。この先、集落に着くまでお前の荷は私が持とう。軽装備とは言え、その状態では辛いだろう」

盗賊「悪いな……」

戦士「………まずは包帯を外すぞ」

クルクル…

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「礼は要らない。それより何故傷のことを言わなかった? このまま歩き続けていれば無茶では済まなかったぞ」

盗賊「……立ち止まりたくなかったんだ。止まっちまうと余計なことばかり考えちまう」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:44:34.13 ID:VSCf0YOJO

戦士「………そうか。薬を塗るぞ」

盗賊「ああ、頼むよ」

戦士「(酷い傷だ。胸の斬り傷は深く、肩の傷は貫通している。背中のこれは矢傷か?)」

ヌリヌリ…

盗賊「ッ!!」ビクッ

戦士「す、済まない。染みるだろうが暫く堪えてくれ」

盗賊「気にすんな、これくらいなら大丈夫さ。眠気覚ましにはピッタリだ」

戦士「……ずっと戦っていたんだな」

盗賊「ああ、ガラにもなく頑張っちまった。まさか化け物と戦う羽目になるとは思わなかったけどな」

戦士「何故だ? 何故そこまで戦える? その女はそこまで大切な存在なのか?」

盗賊「(あ〜、そういや前に姫様にも同じようなこと聞かれたっけな)」チラッ
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 01:11:28.29 ID:VSCf0YOJO

戦士「ん? 何だ?」

盗賊「……いや、何でもない」

戦士「?」

盗賊「男ってのはさ、女の前で格好付けたくなるもんなんだよ。きみの部族の男だってそうだろ?」

戦士「ああ、惚れた女に渡す為の獲物の大きさ競い合ったりしている。女が受け入れるかは別だが」

盗賊「へ〜、男の勝負ってわけだ」

戦士「そのようだな。私には理解し難いが男達は熱心にやっている。だが、こんな傷は負わない」

戦士「どんな強者でも退く時は退くものだ。お前の場合は度が過ぎているんじゃないか?」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 03:09:53.29 ID:CP9Mduoto
乙ー
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:31:40.82 ID:NEUEpsasO

盗賊「そんなことはねえさ」

戦士「……意味が分からん」

戦士「お前は女の前で格好を付ける為だけに無茶な戦いをするのか? こんな傷を負ってまで?」

盗賊「まあ、うん。そうみたいだな」

戦士「何故だ? お前は死を怖れていないのか?」

盗賊「……死ぬことよりも怖ろしいものがあるんだ」

戦士「?」

盗賊「大事な何かを失うことさ」

戦士「信念や誇りか?」

盗賊「ま、それは人それぞれさ。とにかく、それを失ったら二度と立ち上がれない。生きていけないんだ……」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:36:31.52 ID:NEUEpsasO

戦士「……死んだら、終わりなんだぞ」ポツリ

盗賊「?」

戦士「命を晒すのは愚か者のすることだ。勇敢と無謀は違う。自らの命を差し出すような真似はするな」

戦士「大事なものを守れても生きていなければ意味がない。だから、生きる為に戦え」

盗賊「……そんな顔しないでくれよ。薬なんかよりそっちの方が沁みる」

戦士「何を言ってる?」

盗賊「……え〜っと、そうだな。今のきみがどんな顔してるか分かるかい?」

戦士「知りたくもない」

盗賊「じゃあ教えてやらないとな。何て言うか、迷子の子供みたいに泣きそうな顔してた」

戦士「うるさいぞ。傷口と一緒に口も塞がれたいのか」

盗賊「いつ死んだっていいような目をしてる。俺には生きる為に戦えとか言ったくせに」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:42:42.08 ID:NEUEpsasO

戦士「黙れ」

盗賊「戦わない道だってある」

戦士「黙れっ!!」ドンッ

ドサッ…

盗賊「…………」

戦士「……お前に何が分かる」

盗賊「少しは分かるさ。大方、魔王と戦って死ぬ気つもりなんだろ?」

戦士「ああそうだ。その為に生きてきた。それが私の生きる理由、目的だ」

盗賊「復讐か」

戦士「それ以外に何がある。帰るべき家も両親も妹も失った。よく遊んだ幼友達も……」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:54:55.72 ID:NEUEpsasO

盗賊「………」

戦士「瞬きの間に辺り一面が火に包まれた。叫び声を上げながら焼けていく様を見た」

戦士「家族と過ごした記憶、皆で作った花の王冠、木登り競争、あの頃は皆が笑っていたんだ」キュッ

戦士「……決して色褪せることのない思い出さえ、あの日以降は辛いものでしかなくなった」

戦士「失ったものは家族だけじゃない。記憶や思い出さえも失った。あの炎に塗り潰された」

戦士「真っ赤な炎が全てを焼き尽くした。いいか、何もかもだ!! 何もかもを奪われた!!」

盗賊「……けど、きみは生きてる」

戦士「っ、うるさいっ!!」

バキッ!

盗賊「……ゲホッ…復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、まだ言うか!!」

バキッ! バキッ! バキッ! バキッ!
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:03:17.34 ID:NEUEpsasO

盗賊「…ゲホッ…ゲホッ…」

戦士「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

盗賊「………手、大丈夫か? 痛めてねえか?」スッ

ギュッ…

戦士「は、離せっ!!」

盗賊「……聞いてくれ」ギュッ

戦士「う、うるさいっ、お前の言葉なんか聞きたくないっ!! 手を離せ!!」

盗賊「きみには戦って欲しくない。だから、復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、何なんだ。何なんだお前は……言うに事欠いて復讐を止めろだと? ふざけーー」

盗賊「俺がやる」

戦士「…………えっ?」

盗賊「俺が魔王を殺る。だから復讐は止めろ。さっきも言ったろ? きみが戦うとこなんて見たくないんだ」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:53:57.28 ID:NEUEpsasO

戦士「……お前、自分が何を言っているか分かっているのか?」

盗賊「勿論分かってるさ」

戦士「ふざけるな……」

戦士「お前には魔王と戦う理由などないはずだ。巫女様に会いに行くのも、さっきの話に出ていた女の為なんだろう」

盗賊「ああ、そうだ」

戦士「なら何故だ。何故戦う。それに何の意味がある。私を憐れんでいるのか」

盗賊「………そっくりなんだよ」ポツリ

戦士「何?」

盗賊「あのさ、妹がいるって言ってたよな。双子か?」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 16:08:45.72 ID:NEUEpsasO

戦士「その問いに何の意味がある」

盗賊「いいから答えてくれ。頼む」

戦士「………ああ、双子だ」

盗賊「やっぱりそうか。じゃあ、もう一つ。きみの部族は元々は遊牧民だったろ?」

戦士「……何故それを知っている。それもニンゲンであるお前が……」

盗賊「決まりだな。戦う理由なら今出来た」

戦士「何だそれは……お前が何を納得したのか私にはさっぱり分からない。説明しろ」

盗賊「きみとさっき話した女の子がそっくりなんだよ。似てるなんてもんじゃない、瓜二つなんだ」

戦士「私とその女が姉妹だと言いたいのか? 断言出来るだけの根拠は?」

盗賊「他の種族とは違う額の一本角が何よりの証拠だ。きみと彼女以外にそんな種族は一度も見たことがない」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:10:42.16 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘は吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「……ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:13:19.34 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「…………ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:15:10.01 ID:NEUEpsasO

戦士「それでも構わない。話してくれ」

盗賊「……彼女は、輪転器なんだ」

戦士「!!?」

盗賊「もう察しが付いただろ。魔王がきみの部族を襲撃したのは彼女を手に入れる為だ」

盗賊「双子の姉、きみがいるのに何で彼女を攫ったのか。そこまでは流石に分からないけどな」

戦士「そんな……だとしたら、巫女様は全てを知っていて黙っていたのか? 私を育てたのは何故だ? 魔王に輪転器を与える為に部族の皆を裏切ったのか?」

盗賊「お、おい。しっかりしろ」

戦士「何故そんなことをするんだ? 王の力を断ち切るのが目的ではなかったのか? その為に私はお前とーー」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:19:30.73 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「お互い、今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても、俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりしたよ」

戦士「やること?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:25:48.94 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「落ち着くんだ。今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だよ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりした」

戦士「?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 22:11:14.66 ID:PfjP5Z8Yo
乙ー
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:21:54.96 ID:sIEmPr6tO

戦士「女を泣かせた。それが戦う理由?」

戦士「お前はそんなことの為に命を張るのか? 本気で言っているのか? お前は馬鹿か?」

盗賊「馬鹿でも阿呆でも構わない。俺にはそれだけで充分なんだ。それに、もう一つ見たいものが出来た」

戦士「見たいもの? 何だそれは」

盗賊「きみの笑った顔だよ。背負わされた痛みや悲しみは俺が全部拭い去ってやる」

戦士「傷だらけの奴が言っても説得力がないな」

盗賊「……せっかく格好付けたんだ。せめて頬を染めるなり恥ずかしがったりしてくれよ」

戦士「私がそんな女に見えるのか?」

盗賊「そう見えないから見たいんだよ。見せないから見たくなる。分っかんねえかなぁ……」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:25:02.13 ID:sIEmPr6tO

戦士「分からんな。まったく理解出来ない」

盗賊「そっか、そりゃ残念だ」

盗賊「それより、そろそろどいてくれないかな? 跨がられて抱き付かれたまま話すのは……」

戦士「苦しいか?」

盗賊「まさか、そんなわけないだろ? でもほら、この状況を見られたらあらぬ誤解を生みそうだしさ」

戦士「此処には私達しかいない。だから誤解は生まれないし何も起きはしない。違うか?」

盗賊「……あのさ、それは男として見てないってこと? それとも信用してくれてーー」

戦士「お喋りな鴉だな」ギュッ

盗賊「怖いのか?」

戦士「………もう少し。もう少しだけ、このままでいさせてくれないか。まだ、震えが止まらないんだ」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:14:50.31 ID:z0piNFb+O

盗賊「……そっか」

戦士「………」ギュゥ

盗賊「(何か、姫様に抱き付かれた時のこと思い出すな。状況は全然違うけど……)」

戦士「……痛むだろう。殴って悪かった」

盗賊「気にすんな。何も知らない奴に知ったような口を利かれたら殴りたくもなるさ」

戦士「………妹は…その、どうなってた?」

盗賊「ん〜、最初は引っ込み思案で自分の気持ちに素直になれないって感じだったな」

盗賊「でも王宮を出てからは明るくなった。気弱に見えるけど、実は気が強くて芯がある。そんな子だよ」

戦士「……そうか。出来ることなら会ってみたいな。記憶がなくとも構わない、色々話したい」

盗賊「きっと会えるさ。というか、ニンゲンにこんなことしていいのか?」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:33:01.13 ID:z0piNFb+O

戦士「こんなこと、とは?」

盗賊「今の状況のことだよ。触れたり抱き着いたり、抵抗とかないのか?」

戦士「ニンゲンの方がまだマシだ。火を放った奴等はこっち側の奴等だからな」

盗賊「……そうか。あのさ、襲撃以降は隠れ住んでるのか?」

戦士「ああ、何せ王が直接襲撃したんだ。王に敵視された種族が外で生きるなど危険過ぎる」

戦士「私達が『こうなった』のは他の種族も知っている。私達には此処で生きる他に道はなかったんだ」

盗賊「(姿を消した種族の隠れ里。狐娘が言ってた安住の地ってのは此処なのか?)」

戦士「お前こそ抵抗はないのか?」

盗賊「ん?」

戦士「ニンゲンはこちら側の奴等を蛮族と忌み嫌っているのだろう?」

盗賊「みたいだな。俺は角があろうと尻尾があろうと美女とあれば大歓迎だけどさ」

戦士「……お前の瞳には嘘がないな。妹が信用したのも分かる気がする」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:50:29.92 ID:z0piNFb+O

盗賊「そうかな……」

戦士「ああ、お前の瞳は今までに見たことのない色をしているよ。何というか、綺麗だな」

盗賊「口説いてんのか?」

戦士「馬鹿を言うな。だが、これ以上は妹に悪いな。そろそろ退こう」スッ

盗賊「大丈夫か?」

戦士「ああ、もう随分と楽になった。休ませるつもりが余計に無理をさせてしまったな……」

盗賊「いいさ。薬塗って包帯を取り換えてくれただけでも充分だよ。んっ…いってえ」

戦士「無理するな。ほら、服を貸せ」

盗賊「……悪い」

戦士「前屈するようにして両手を下げろ。袖に通したら一気に着せられる。行くぞ?」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:52:42.56 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなるとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言ったが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:55:44.33 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言っていたが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 01:56:23.34 ID:z0piNFb+O
ここまで
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 02:35:49.88 ID:LF7Z3mDl0


エラー出ても大抵書き込まれてるので1度リロードして見るがよろし
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 10:17:48.06 ID:fdHttSoBo
おつ
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 20:26:48.06 ID:jRXBudPsO
おつ
やっと追いついた……姫様がどうなってるか気になるな
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/05(火) 22:25:36.50 ID:OIUUiY7+o
乙ー
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:46:17.25 ID:60/2RLhIO

ザッ…ザッ…ガサガサッ…

戦士「ん。よし、此処で止まれ」

盗賊「あのさ、こんな調子で大丈夫か? 気遣ってくれんのは嬉しいけど、これで五度目だぜ?」

戦士「いいから腰を下ろせ。話がある」

盗賊「……何だよ、改まって」トスッ

戦士「もうじき集落に到着するんだが、その前に伝えておかなければならないことがある」

盗賊「あ〜、しきたりとか掟とか?」

戦士「まあ、そんなものだ。私達には私達の常識というものがあってな。それを知って欲しい」

盗賊「……何だか難しそうだな」

戦士「そう難しい話ではないから安心しろ。誤りのないようにしておきたいだけだ」

盗賊「誤りって?」

戦士「まず、我が部族に長はいない。長と呼ばれる者はいるが権力者というわけではないんだ」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:48:58.25 ID:60/2RLhIO

盗賊「仕切ってる奴がいないってことか?」

戦士「そうだ。長とは人望のある者、話の出来る者を指す。分かり易く言うなら世話役だな」

盗賊「何それ、お悩み相談でもしてんのか?」

戦士「正にそうだ。諍いを止めたり仲を取り持ったりする仲介役でもある」

盗賊「へ〜、世話焼き婆さんみたいだな」

戦士「認識としてはそれでいい。親しみやすい人物だからな。しかし、先程も言ったように権力者ではない」

戦士「命令を下したりなどは一切しないし強い発言権も決定権もない。それが我が部族の長だ」

盗賊「なら誰が指揮を執るんだ? 例えばこう、狩りに行くぞ。とかさ」

戦士「お前が想像しているような明確な首長はいない。私達は個々の意志で行動する。ただ……」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:52:28.73 ID:60/2RLhIO

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「集落には皆に尊敬されている戦士がいる。狩人という男だが、大戦士と呼ぶ者もいる」

戦士「奴は孤独を好み、他者を寄せ付けない。しばしば姿を消すこともある」

盗賊「うわぁ、すっげー気難しそうな奴だな」

戦士「ああ。だが、何も言わずとも人を動かす力を持っている。ひとたび武器を手に取れば皆が立ち上がるだろう」

盗賊「長よりもそいつを敵に回した方が厄介ってわけだ。そいつに嫌われでもしたら集落全体が敵になるんだろ?」

戦士「そうなるだろうな」

戦士「いいか、狩人に悪態は付くなよ。本人がどうするかは別として周りが黙ってはいない」

盗賊「そりゃ怖いな。忘れないように傷口にしっかり塗り込んでおくよ」

戦士「是非そうしてくれ。巫女様と話す前に荒事を起こすのは避けたいだろう?」
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:57:54.54 ID:60/2RLhIO

盗賊「そうだな。集落に入ったらきみの後ろで極力は大人しくしておくよ」

戦士「…………」ジー

盗賊「しらを切る泥棒を見るような目で見ないでくれ。大丈夫だって」

戦士「馬鹿にされたり嗤われたりしても黙っていられるか? 多少の痛みも伴うかもしれないぞ?」

盗賊「大丈夫さ。きみに迷惑を掛けるような真似はしないよ。鴉にだって鳴かない日はあるんだ」

戦士「………本当だろうな?」

盗賊「本当さ。それより一つ聞きたい、狩人と預言者の関係は? 対立してたりすんのか?」

戦士「いや、そこは問題ない。狩人は巫女様に対してある程度の敬意を示している」

盗賊「……なるほど、そいつのお陰で預言者は肩身の狭い思いをするだけで済んでるのか」

盗賊「部族の危機を見過ごした預言者が何で生きてんのか不思議だったけど、これで合点がいった」
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:01:50.51 ID:60/2RLhIO

戦士「………」

盗賊「っ、ごめん。別に貶すようなつもりはなかったんだ。ただ、さっきから気になっててさ。悪かった……」

戦士「……いや、いい。お前の言う通りだ。狩人がいなければ巫女様は殺されていただろう」

盗賊「狩人は何で預言者を…その……」

戦士「生かしておいたのか、か?」

盗賊「………ああ。だって他の奴等は嫌ってんだろ? 何で狩人だけが?」

戦士「分からん。殺すつもりならとっくに殺していただろう。奴は語らない、皆を煽動するようなこともしない」

戦士「やるとしたら一人だ。その意志を誰に告げることもない。標的に忍び寄り無慈悲に粛々と実行する」
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:05:29.94 ID:60/2RLhIO

盗賊「……怖ろしい御方ですね」

戦士「実際にそうだからな。寡黙で逞しく、恵まれた体格と優れた力を持ち。それをひけらかす真似もしない」

盗賊「へ〜、そりゃあ老若男女問わず好かれるわけだ。本物の格好良い男ってやつだな」ウン

戦士「ああ、だからこそ信頼も厚い。付け加えておくと、狩人はお前のような奴が大嫌いだ」

盗賊「うん、そうだろうね。そんな気はしてた。俺もそういう奴が苦手だから気持ちは分かるよ」

戦士「しつこく言うが本当に気を付けろよ。もし会っても要らぬことは絶対に言うな」

盗賊「分かってるさ。でも、良かったよ」

戦士「良かった? 何が?」

盗賊「いやほら、色々と訳ありって感じだけど狩人と預言者は対立してないんだろ?」

盗賊「その二人が敵対関係になくて本当に良かったと思ってさ。俺は預言者に会えればいいわけだし」

戦士「胸をなで下ろすにはまだ早い。巫女様に会うまで……いや、集落に入ってから出るまで気は抜くな」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:49:49.91 ID:60/2RLhIO

盗賊「分かっております」

戦士「……はぁ、幾ら身を案じてもこれだ。見知らぬ土地に足を踏み入れるんだぞ? 少しは緊張感を持ったらどうだ」

盗賊「ぶっ倒れそうなくらい緊張してるよ。表に出してないだけさ」ニコッ

戦士「(これだけ言ってもまだ笑うか。雲の如く掴み所のない男だな。その胆力も凄まじい)」

戦士「(いち戦士として、この男がどんな道を歩んできたのか興味がある。しかし……)」チラッ

盗賊「はぁ〜、どれもこれもすっげえ樹だ。こんだけ大きいと登ってみたくなるな」ウズウズ

戦士「やめろ馬鹿。今の自分がどんな有り様なのか忘れたのか、このニワトリ頭」

盗賊「冗談です」

戦士「……はぁ、まあいい。これで話は終わりだ。そろそろ行くぞ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 22:10:16.20 ID:60/2RLhIO

盗賊「そうだな。さぁて、行くかぁ」ノビー

戦士「(こんな奴だ。どんな道を歩んできたのか聞いた所で真面目に答えはしないだろうな)」

盗賊「急がなきゃならないとは分かってるけど、どんな所なのか楽しみだな」

戦士「(まったく、子供のような奴だな。怖れも迷いもなく、ただただ明るく温かい表情をする)」

ザッ…ザッ…

戦士「(思えば、以前は皆もこうだったな。明るく陽気で大らかで、温かい心を持っていた)」

戦士「(日の光を浴び、涼やかな風を受け、空を見つめ、何処までも続く草原を駆ける)」

戦士「(……皆がそうだった。あの日が訪れるまでは……)」

戦士「(今では家族を失った癒えぬ痛みと深い悲しみ。それらを抱えながら鬱々と過ごす日々)」

戦士「(あれから十数年が経ったが皆の時は止まったままだ………)」チラッ

盗賊「?」

戦士「(この男にとってはいい迷惑だろうが、期待している自分がいる。出会ったばかりだというのに……)」

戦士「(……こいつが私に与えてくれたもの。言葉には出来ない『それ』を皆が感じてくれたなら。もしそうなれば、きっと何かが変わる)」
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:25:28.32 ID:dkXHxwjUO

【玉座の間】

老人「よくぞ無事に帰ってきた。礼を言うぞ」

騎士団長「……いえ。しかし、未だに現状が理解出来ません。御子息、将軍はなにゆえに姫様を?」

老人「あれが何を考えて兵を差し向けたのかは分からん。ただ、事が事だ。あれは地下牢に入れてある」

老人「娘の命を狙ったのは許せぬが、盗賊を捕らえられなかったとは不甲斐ない奴よ」

騎士団長「(攫えと依頼しておきながら何を……一体何を考えておられるのだ)」

老人「もう下がってよいぞ。疑問はあるだろうが今は傷を癒せ」

騎士団長「陛下、私に処罰は無いのですか?」

老人「何を言うかと思えば……」

騎士団長「如何なる理由があれど、職務を放棄して出奔したのは罪であります」

老人「お主は娘を捜し出しただけでなく、その身を挺して暗殺者から守り抜いたのだ。どう処罰しろというのだ?」
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:27:52.13 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「部下に示しが付きません」

老人「フッ、如何にもお主らしい。まあよい、お主には謹慎を申し付ける」

騎士団長「そ、それでは余りにーー」

老人「軽い、か?」

騎士団長「…………」

老人「分かってくれ、儂が与えられる罰はこれが精一杯だ。娘の恩人を罰する親など何処にいようか」

騎士団長「(これが本心でないことは私にも分かる。が、今の私が何を問おうと得られるものは何もない)」

騎士団長「(だが、ただ一つだけ確かなことがある。以前の陛下とは何かが違う。何かが……)」

老人「ふむ、色々と思い悩んでいるようだな。迷い、憂い、戸惑い。そして、疑念」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:30:25.51 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「!!?」

老人「フッ…今は何も分からぬだろう。しかし、いずれ分かる時が来る。そして、その時は近い」

騎士団長「……その時、とは?」

老人「珍しく質問が多いな。お主から怖れを感じるぞ。何を怖れる? 何かを『知った』か?」

騎士団長「(な、何もかも見抜かれている。いや、見透かされているのか?)」

老人「誰に何を聞いたのかは知らぬが、妄言に惑わされるな。己の目で真実を見極めろ」

騎士団長「……っ、はい。では、失礼します」

老人「あぁ、言い忘れるところであった」

騎士団長「何でしょうか?」

老人「娘に此処へ来るようにと伝えて欲しいのだ。今すぐにでも顔が見たい。今すぐにな……」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:57:51.10 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「………」ゾクッ

騎士団長「(今になって、今になって初めて、私の目の前にいるのが何者であるのか理解した)」

老人「先程より顔色が悪い。どうやら血を失い過ぎたようだな。早く戻って治療を受けるがよい」

騎士団長「……そうします」

老人「娘への言伝、頼んだぞ」

騎士団長「了解致しました。では……」

ザッ…ザッ…

騎士団長「(瞳の奥底に何かが潜んでいた。あれが姫様の言っていたものなのか?)」

騎士団長「(澱んだ水底に沈められたような息苦しさを感じた。それに酷い寒気がする。これは血を失ったからではない。怖れているからだ……)」

騎士団長「(ッ、冷や汗が止まらん。姫様の言っていた通り『あれ』は我々とは違う)」

騎士団長「(間違いない、あれこそが姫様の危惧している存在。封じられし、王の力……)」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 01:00:03.33 ID:dkXHxwjUO
ここまで
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/07(木) 09:02:38.04 ID:gQE9qSFlO
乙ー
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:28:00.34 ID:rdIqrNsDO

ギギィ…パタンッ…

騎士団長「……何だ、これは…」

ザワザワ…

『では、将軍指揮下の特殊部隊が姫様を襲ったと?』

『どうやらそうらしい。姫様のことは騎士団長殿がお守りしたようだ』

『陛下の命で騎士団も駆けつけたらしいぞ。幾ら騎士団長殿といえど、お一人では守り抜けなかっただろう』

『御子息に対しても警戒していたのか。流石と言うべきか、用心深いと言うべきか……』

『貴様、口が過ぎるぞ。しかし、将軍は何故に姫様を亡き者にしようとしたのだろうな』

『輪転機が関係していると聞いた。不死の力を求めたのかもしれない』
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:29:32.73 ID:rdIqrNsDO

『俺は世継の問題だと聞いた。陛下は姫様を次期の王にするつもりだとか何とか……』

『何を思って将軍に付いたのか分からないが余りに浅薄だ。処刑は間違いないだろう』

『ああ。それもそうだが、陛下は徹底的に叩くだろうな。一切の埃が出なくなるまで……』

『敵と見做せば我が子にも容赦無しか。何とも怖ろしい御方だ』

『何を馬鹿なことを、それは王として当然のことだ。時には冷徹にならねば国を統治出来ん』

『ところで姫様は? またあの部屋に?』

『いや、亡きお妃様の部屋に移ったようだ。盗賊の件もあったからな』
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:32:54.66 ID:rdIqrNsDO

『その盗賊は何処に?』

『姿を消したらしい。目下捜索中のようだが、果たして見付かるかどうか……』

『確かに。何せ、二度も王宮に忍び入った奴だ。そう簡単に見つかるとは思えない』

『しかし謎だな。結局、奴は姫様を攫って何をしたかったのだろうか?』

『さあな、狂人の考えることなど分からんよ。いや、理解したくもない』

『お前達、此処で何を言おうと勝手だが姫様が攫われたことは口外するな。あらぬ噂が立つ』

『言われずとも分かっている』

『姫様は王宮から出たことなどない。異性に触れたことなど一度もない』

『そうだ、それでいい。我々も民も何が起きたかなど知らない。いや、そもそも何も起きていないのだ』

騎士団長「(何と騒々しいことか。嘗て、これ程までに王宮が揺れたことがあっただろうか)」

騎士団長「(……いや、事の重大さを鑑みれば仕方のないことなのかもしれん)」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:39:02.93 ID:rdIqrNsDO

ザッ…

騎士団長「……皆、道を開けてくれないか」

『騎士団長殿!!?』

『も、申し訳ありせんっ!!』サッ

騎士団長「………」ザッ

『……見ろ、甲冑が傷だらけだ』

『凄まじいな、正に命を賭して守り抜いたのだろう。あの甲冑に刻まれた傷こそがその証だ』

『突然王宮から姿を消したかと思えば姫様を保護しての帰還。何とも凄まじい行動力だ』

『出奔したと聞いた時は耳を疑ったが全ては姫様の為、延いては陛下を思ってのことだったのだろう』

騎士団長「(……過大評価だ。私は後先考えずに突っ走っただけの愚か者に過ぎない)」

騎士団長「(ッ、私のことなどどうでもいい。一刻も早く姫様にお伝えせねば。私がこの眼で見たものを……)」ザッ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 00:57:32.75 ID:M825V50JO

騎士団長「やれやれ、やっと着いたな」

騎士団長「廊下にあれだけの人数がいると此処まで来るにも一苦労……?」

射手「……姫様に何か用か?」

騎士団長「そうか、貴様が警護を担当していたのか。姫様の具合はどうだ? お怪我は?」

射手「……安心しろ、何ともない。お前はどうだ? 手当ては受けたのか?」

騎士団長「俺なら大丈夫だ。手当てなら到着した際に受けたからな」

射手「……顔色が悪いな。もう一度しっかり治療を受けろ。それから沢山飯を食え」

騎士団長「ああ、姫様への報告が済めばそうするとしよう。む、そう言えば、まだだったな」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/09(土) 00:58:59.60 ID:M825V50JO

射手「?」

騎士団長「礼がまだだった。姫様の下に駆け付けてくれたこと、心より感謝する」ザッ

射手「……礼はいい。ただ、もう無茶はするな。部下の皆が心配していたぞ」

騎士団長「そうか。皆には後で詫びなければならないな」

射手「……私も、心配した」

騎士団長「そ、そうか。それは済まなかったな。それより、姫様にお話せねばならないことがある」

射手「……分かった」

コンコンッ…

王女『はい』

射手「……騎士団長です。姫様にお話ししたいことがあると申しております」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:04:09.28 ID:M825V50JO

王女『分かりました。通して下さい』

射手「……さ、入れ」スッ

騎士団長「姫様、失礼します」

ガチャッ…パタンッ…

王女「騎士団長さん、王はどうでしたか?」

騎士団長「……以前とは明らかに様子が違っております。瞳の奥底に但ならぬ何かを感じました」

王女「そうですか……」

騎士団長「それと、陛下がお呼びです」

王女「分かりました。王が呼んでいるのであれば行かなければなりませんね。あまり気は進まないですけれど……」スッ

騎士団長「ッ、待って下さい」

王女「?」クルッ

騎士団長「一つ、お訊ねしたいことがあります。どうか正直にお答えて下さい」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:07:11.12 ID:M825V50JO

王女「何でしょう?」

騎士団長「………あなたは誰です?」

王女「………」

騎士団長「今の姫様は、人が変わったなどという表現では済まない程に……その、違っています」

王女「違う? 何が違うというのですか?」

騎士団長「迂遠な会話は不要です。お答え下さい。私は知りたいのです、真実を……」

王女「……いつ、お気付きになったのですか?」

騎士団長「奴を逃がす案を練っている時です。貴方は我々に対して指示を出しました」

騎士団長「自らが先に街を出ることで囮となり奴を別の道から逃がす。貴方は我々にそう『命じた』」

王女「ええ、確かにそう言いましたね。それのどこが不自然だったのでしょう?」

騎士団長「不自然ではないこと、それを不自然に感じたのです。まるで『慣れている』かのようでした」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:13:46.57 ID:M825V50JO

王女「なる程、そうでしたか……」

騎士団長「…………」

王女「………騎士団長さん。あなたは真実を知りたいと、そう言いましたね?」

騎士団長「はい」

王女「お話しするのは構いませんが、わたしが語る真実を信じることが出来ますか?」

王女「自分で言うのも妙ですが、とても信じ難いものだと思いますよ?」

騎士団長「王の力や死の騎士のことですか?」

王女「それは表面的なものに過ぎません」

騎士団長「?」

王女「あなたが知ろうとしているのは原因と結果。言わば、今に繋がるまでの全てです」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:47:50.33 ID:M825V50JO

騎士団長「今に繋がる全て……」

王女「ええ、そうです」

王女「本当に真実を知りたいのであれば付いて来て下さい。わたしはこれから、その原因と話さなければなりません」

騎士団長「原因?」

王女「ええ、あの者に宿るもの。王……いえ、輪転器から溢れ出ようとしている存在です」

王女「わたし個人としては、あなたにはこれ以上のことを知って欲しくはありません。知らずともよいこともあるのですよ?」

騎士団長「……いえ、行きます。中途半端には出来ません」

王女「後悔することになりますよ? 今ならまだ間に合いますが、本当に宜しいのですか?」

騎士団長「構いません。貴方が何者かは分かりまんが、私は姫様を守ると誓いました」

王女「……早速で申し訳ありませんが、それはもう叶いません」

騎士団長「何をーー」

王女「正直に話せと仰ったので正直に話します。あなたが姫様と呼ぶ存在はもういません」

王女「これは嘘でも冗談でもありません。これもまた、あなたが求めた真実の一つです」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:54:48.97 ID:M825V50JO

騎士団長「……何を、言っている」

王女「彼女は存在しないと言ったのです。彼女はわたしの器となってしまいましたからね」

王女「輪転器のことは既にご存知でしょう? 彼女はわたしの輪転器なのですよ」

王女「器となった者は消える。わたしという存在が流れ込んだ時、彼女は彼女でなくなった」

騎士団長「そんな馬鹿な話がーー」

王女「いいえ、あなたは既に分かっている。だからこそ、こう訊ねたのです」

王女「『貴方は誰か?』と」

騎士団長「それはっ…」

王女「真実は否定しようがない。目の前に在るものならば余計にそうでしょう」

王女「例え己の理解を超えていようとも、今のあなたは感じているはずです」

王女「わたしが王女なる存在ではないこと。そして、わたしの言葉に嘘偽りの無いことを」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 01:57:48.93 ID:M825V50JO
ここまで
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/09(土) 08:27:24.16 ID:GwP66kVUO
乙ー
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 23:44:08.45 ID:p0HpI8qKO
広げた風呂敷を畳めるのか見物だな
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 21:20:37.32 ID:/z9V4oG80

伏線はもちろんタイトル回収とかも楽しみだ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:37:12.14 ID:b36DU9ymO

騎士団長「………有り得ない」

王女「有り得ない、ですか。それは信じ難いものを目にした時などに口にする言葉ですね」

王女「あなたの場合はそれを口にすることで心を保とうとしている。求めた真実を否定してまで……」

騎士団長「違う。体を残して命が消えるなど有り得るはずがない。そう言っているのだ」

王女「では、目の前にいる存在をどうやって証明するのですか? 気が触れたとでも?」

騎士団長「ッ、貴方こそ、どうやったらそんなことが出来る。それこそ証明しようがないはずだ」

騎士団長「肉体はそのままに姫様が亡くなったなど到底信じられるものではない」

王女「では、憑依しただとか乗り移ったとでも言えば納得するのですか? それはそれで疑わしいと思いますが?」

騎士団長「これは納得出来る出来ないの話ではない。これは余りにーー」

王女「あまりに荒唐無稽、まるで絵空事のようだ。ですか?」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:39:58.13 ID:b36DU9ymO

騎士団長「………」

王女「随分と思い悩んだ顔をしていますね。真実を感じていながら理解は出来ていない」

王女「……いえ、直感が真実だと告げているけれど心が理解したくない。でしょうか?」

騎士団長「(ッ、そうだ。感じてはいる。目の前の存在が姫様ではないであろうことも分かっている……)」

騎士団長「(紡ぐ言葉に内包された強い意志。気圧される程の存在感と威圧感。これらは姫様のような少女が身に付けられるものではない)」

騎士団長「(それ故にこれが嘘ではないと分かる。理解したくなくとも理解させられる。しかし……)」

王女「もう一度言いますが、これは現実です」

王女「わたしはこの子を器として転生してしまいました。千と余年の時を経て」
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:43:32.72 ID:b36DU9ymO

騎士団長「……千と、余年?」

王女「ええ、あの人と別れてからそれだけの年月が経ちました。本当の本当に気の遠くなるような時間が……」

騎士団長「………改めて問います。貴方は誰です」

王女「あら、最初の質問に戻ってしまいましたね」

騎士団長「答えて下さい」

王女「……先程とは顔付きが変わりましたね。とても強い決意を感じます。迷いは消えましたか?」

騎士団長「決意などではありません。腹を括っただけのことです。さあ、お答え下さい」

王女「……そうですか。では、あまり時間もないので簡潔に申しましょう」

王女「わたしは魔王と呼ばれた存在。王の力をその身に宿した最初の王です」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:45:23.77 ID:b36DU9ymO

騎士団長「(力を宿した、始まりの王……)」

王女「あら、あまり驚かれないのですね」

騎士団長「驚くだけの余裕がないだけです。お気になさらず、そのまま続けて下さい」

王女「分かりました。では続けましょう」

王女「長くなるので力を宿した経緯は省きますが、王の力は途轍もなく強大でした」

王女「そこでわたしは、力を封印することにしたのです。暴走を防ぐために」

騎士団長「しかし、力は代々の王にーー」

王女「ええ、そうですね。封印された力は代々受け継がれてきました。わたしと共に」

騎士団長「……い、意味が分かりません。どういうことです?」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:48:37.32 ID:b36DU9ymO

王女「わたしと共に封印したのです。あの時、わたしと王の力は一つでしたからね」

王女「抑え付けたと言うべきか縛ったと言うべきか。何と言えば良いのでしょうね」

王女「え〜っと、分かり易く言うなら力を閉じ込めました。わたしが容れ物なったのです」

騎士団長「容れ物、ですか」

王女「そうです。それこそが輪転器の始まり」

王女「わたしが力を封じ込めた容器だとすれば、輪転器となった者は容器の容器ということになります」

騎士団長「あの、いまいち意味が……」

王女「あっ、申し訳ありせん。少々分かり辛かったですね。わたしと王の力、双方を受け継いできという意味です」

騎士団長「……王の力は貴方が封じた。王は代々、貴方と王の力の双方を受け継い……双方?」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:52:57.52 ID:b36DU9ymO

王女「わたしと共に封印したのですよ。あの時、わたしと王の力は一つでしたからね」

王女「抑え付けたと言うべきか縛ったと言うべきか。何と言えば良いのでしょう……」

王女「え〜っと……分かり易く言うなら力を閉じ込めました。わたしが容れ物となったのです」

騎士団長「……容れ物、ですか」

王女「そうです。それこそが輪転器の始まり」

王女「わたしが王の力を封じ込めた容器だとすれば、輪転器となった者は容器の容器ということになります」

騎士団長「あの、いまいち意味が……」

王女「あっ、申し訳ありせん。少々分かり辛かったですね。わたしと王の力、双方を受け継いできたという意味です」

騎士団長「……王の力は貴方が封じた。王は代々、貴方と力の双方を受け継い……双方?」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:55:19.32 ID:b36DU9ymO

王女「ええ、そうです。双方です」

騎士団長「では、貴方が此処にいるということは……」

王女「お考えの通りです。わたしがこの輪転器に入ったことにより封印は解けつつあります」

騎士団長「(……街を出る間際に言っていた王の力の封印とはこのことだったのか)」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、それより封印はどうなるのですか? 私が見たものは、今の陛下の中にいるのは何なのです?」

王女「あなたが見たものは、輪転器から溢れ出つつある王の力そのものです」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:57:15.97 ID:b36DU9ymO

騎士団長「力そのもの?」

王女「ええ。厄介なことに、あれには意志があります」

王女「我々とは決して相容れぬ意志。とても危険なものです。わたしはそれ故に封印を施しました」

騎士団長「それ程までに危険なものであるなら何故に……転生、でしたか? それを実行したのですか?」

王女「……誘惑に負けたのです。わたしの輪転器と成り得る者。つまり、この子の現れによって」

騎士団長「誘惑?」

王女「……あの人に会いたかった。あの人に触れたかった。あの時のように抱き締めて欲しかった。あの時のように、もう一度……」

騎士団長「………」

王女「もし次があるのなら、次こそは自分の望みを叶えたい。そう思い続け、そう願い続けていました……」
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 21:02:22.65 ID:b36DU9ymO

騎士団長「(自分の、望み………!!)」

王女『自分の気持ちを押し殺し、あの場所に閉じ籠もっているのはとても苦しかった』

王女『皆の為に諦めた自分の想いや願い。それらを見続ける毎日でした。あの日から、ずっと』

騎士団長「(そうか、そうだったのか。あの時の言葉はこういうことだったのか)」

王女「……千年という月日は、余りに長すぎました……」

王女「王の力を封じることは出来たというのに、時が経つにつれて強くなる自分の想いを封じることは出来なかった……」

騎士団長「…………行きましょう」

王女「えっ?」

騎士団長「知りたければ付いて来て下さい。そう言ったのは貴方です」

王女「いいのですか? わたしは王女ではないのですよ? あなたが守ると誓った者ではないのですよ?」
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 21:08:23.91 ID:b36DU9ymO

騎士団長「もし……」

王女「?」

騎士団長「もし姫様が『戻られる』ことがあるのなら、私は貴方を守らなければならない」

王女「残念ですが、そんなことは有り得ーー」

騎士団長「証明出来ますか? そんなことは有り得ないと断言出来ますか?」

騎士団長「私にとっては貴方の存在ですら信じ難く有り得ないものなのです。ですから、私は信じられる」

王女「信じる?」

騎士団長「はい。有り得ないと思えるようなことも時には起こり得る。貴方の存在が正にそうです」

騎士団長「姫様は戻らないと言われようと、そんなことは有り得ないと言われようと、私は信じます。姫様は必ずや戻って来ると信じています」

王女「……そうですか。では、わたしからはもう何も言うことはありませんね……」

騎士団長「……さあ、行きましょう。真実を知る覚悟は出来ております」

王女「分かりました。では、参りましょうか。王が……あの者が、わたしを待っています」
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/14(木) 00:27:26.40 ID:7+WnNsEPO
乙ー
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 02:38:15.32 ID:R/GJ4WubO
投稿頻度が低いと飽きられるから大変
あんまり作り込んだストーリーにしない方がいい
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/22(金) 23:28:14.07 ID:edTmlWm3O

ガチャッ…パタンッ

射手「……長かったな」

騎士団長「諸々の状況整理をしていたのだ。陛下には街での出来事を改めてお伝えしなければならない」

射手「……ということは、お前も一緒に?」

騎士団長「ああ、俺は姫様と共に陛下の元へ行く。先程は詳しく話すことが出来なかったからな」

射手「……そうか。ところで姫様は?」

騎士団長「何やら探し物があるらしい。少しばかり待っていて欲しいとのことだ」

射手「……そうか」

騎士団長「………ああ……」

射手「……っ、私も一緒に行ーー」

騎士団長「駄目だ。扉の前で何を聞いていたのか知らんが妙な気は起こすな」
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/22(金) 23:31:03.28 ID:edTmlWm3O

射手「……私では守れないと?」

騎士団長「そういうことではない。そもそも貴様には俺と共に来る理由がない」

射手「……理由なら、ある。私はーー」

騎士団長「如何なる理由があろうと来る必要は無い。貴様は絶対に来るな」

射手「……何故だ。何故私では駄目なんだ」

騎士団長「……貴様はこの先を知らなくていい。知る必要もない。だから、これ以上は立ち入るな」

射手「……っ、何だそれは、警告のつもりか」

騎士団長「警告ではない。貴様の身を案じて言っているのだ。どうか、分かってくれ……」

射手「……私だって…私だってお前をーー」

ガチャッ…パタンッ

王女「申し訳ありせん。お待たせしました」

騎士団長「お探しの物は見付かりましたか?」

王女「……いえ、見付かりませんでした。おそらく襲撃の際にでも落としてしまったのでしょう」

王女「非常に残念ですけれど無いものは仕方がありません……さあ、参りましょう」
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/22(金) 23:54:47.07 ID:edTmlWm3O

騎士団長「分かりました。後は頼むぞ」

射手「……っ、分かった」

騎士団長「俺に…いや、王宮に何かあれば峡谷を目指せ。突然こんなことを言われても意味が分からんと思うが心に留めて置いてくれ」ポツリ

射手「待っーー」

騎士団長「行ってくる。備えは怠るなよ」

ザッザッザッ……

射手「……っ、いつもこれだ。お前はいつの時もそうだ。私が傍に立とうとする度に背を向ける。何も言わせずに遠ざける……」ギュッ

ーーーー
ーーー
ーー


ギギィ…バタンッ

王女「………」

騎士団長「………」

老人「……来たか。遂に、遂にこの時が来たのだな。我が子よ、愛しき娘よ……」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 01:01:53.04 ID:+OJS5t9rO

王女「あなたの娘になった覚えはありません」

老人「お主も儂から生まれ出た一つだ。娘と呼ぶことに差し支えはあるまい」

王女「……その者の意識はあるようですね。残り僅かのようですが」

老人「うむ、器に選ばれただけのことはある。今の儂では破ることは出来ぬだろう」

老人「しかし老いた器の意識など直に霧散する。現に儂は儂自身の言葉で話している」

王女「………」

老人「これが消えた時、儂は再臨する。この者の比ではない、若く強靱な器を得て……」

王女「……なる程、そういうことですか」

騎士団長「(まるで意味が分からん。王の輪転器とは姫様のことではなかったのか?)」

老人「否、王の輪転器はその娘…王女ではない」

騎士団長「!!?(やはり読まれている? しかし、心を読むなどーー)」

老人「不可能ではない。自らが不可能であるとするから不可能なのだ。本来ならば全ては…まあ、よい………」
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 01:34:37.44 ID:+OJS5t9rO

老人「まあよい、今はお主の疑問に答えをくれてやろう」

老人「王女とは我が子の輪転器。王の輪転器は別にある。誰の手も届かぬ場所にな」

騎士団長「…………」

老人「今すぐにでも転生したいところだが、あれは儂が動かずともやって来る。自らの意志で、あの忌々しい鴉と共にな」

騎士団長「……貴方は、一体……」

老人「儂については既に聞き及んでいるはずだ」

騎士団長「……王の力。今の陛下に宿っているのは、王の力そのものだと……」

老人「宿っている? そう言ったのか?」

王女「…………」

老人「フフッ…そうか。己が犯した罪を告げることなく、それを真実としたか。何とも醜い娘よ」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:27:44.77 ID:LELbxQRDO

王女「………」キュッ

騎士団長「罪?」

老人「その娘は儂から力を奪った。大義や世の為などではなく、たった一人の男の為にな」

騎士団長「……馬鹿な。王の力とは相容れぬ意志を持つ存在、それ故に封じられたはずだ」

老人「封じた?封じただと? それは間違いだ。その女は愛に狂った。狂った末に輪廻さえも狂わせた」

騎士団長「何を……」

老人「儂が真実を与えてやる。お主は真実を得るために此処に来た。これまでのように」

騎士団長「これまで? 何を言ってーー」

老人「三百年毎に起きたニンゲンとの戦を疑問に思ったことはないか? ニンゲンとお主等種族が別たれたことを疑問に思ったことはないか? ニンゲンと別たれた原因が何であるか知っているか?」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:30:52.06 ID:LELbxQRDO

騎士団長「だから何をーー」

老人「全ての原因はその娘にある。神の一柱として生まれながら、愚かにもニンゲンを愛した憐れな女」

老人「鴉は人の子。世に在る全ての者の為に我と戦い、戦いの果てに散って逝ったニンゲンだ」

老人「しかし、その女は鴉の死を受け入れなかった。あろうことか儂から力を奪うことを選択した」

老人「元々は我を亡き者にすべくニンゲンとお主等種族は手を取り合っていた。だが、その女が『それ』を選択したことでニンゲンとお主等は別たれた」

老人「分かるか? 全ての原因、今に至る全てはその女の『選択』によって生じたのだ」

老人「最後の最後に倒すべき者の力を欲し、全てを裏切った。逆らう者は奪った力でねじ伏せた。それこそが魔王と呼ばれる所以」

老人「その身に我が力を宿し、器が老いては転生を繰り返す化け物。愛する男との再会を千年以上も待ち続けた狂神よ」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:33:41.09 ID:LELbxQRDO

王女「………」

騎士団長「な、何故黙っているのです。こんな馬鹿げた話はーー」

老人「その沈黙こそ肯定の証。これは揺るがぬ真実である」

騎士団長「ッ、そんな突飛な話を信じられるものか。空想や妄想の類にしか聞こえん」

老人「まあよい、いずれは信じる。いや、望む望まざると信じざるを得ない時がやって来る」

老人「今は信じずとも、お主は知らねばならない。これまでと同じように、真実の語り部として」

騎士団長「……真実の、語り部?」

老人「これもまた狂わされた輪廻。三百年毎に現れる歴史の語り部、真実の求道者。それがお前だ」

老人「始まりの時から数えて四人目になる。おそらく、お主が最後の語り部となるだろう」

騎士団長「……馬鹿げている」

老人「そう言うだろうと思っていた。しかし、お前には否定は出来ない。否定しようがない」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:39:25.43 ID:LELbxQRDO

騎士団長「ッ、何が言いたい」

老人「お前という存在に対して言うことなど何もない。重要なのは知るということだ」

老人「これはお前自身の為ではない。聞け、そして知れ。それがお前に出来る唯一だ」

騎士団長「(声がのし掛かってくるようだ。この呑み込まれるような感覚は何だ……最早、声を出すことすら……)」

老人「話を続けよう。その娘は儂から生まれ出た一つ。神の一柱にして維持を司る者」

騎士団長「(神? 神だと?)」

老人「お主等の言葉を借りればな。ただ、そもそも儂は神などという存在ではなかった。無論、王の力でもない」

老人「神という存在に堕とされたのだ」

老人「森羅万象、触れ得ぬ全て、それが儂だった。貴様等が神などと名付け提議定説し崇めるまでは……」
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:49:52.83 ID:LELbxQRDO

騎士団長「…………」

老人「神と名付けられたそれは意志を持ち、触れ得ぬはずの存在は実体を得て世に降り立った。それが儂だ」

老人「そこから生まれ出たのがその娘よ。神の一柱、世を維持する者としての役目を持ってな」

老人「同じ神であるからこそ儂の力を御することが出来た。人の身では器となることすら不可能」

騎士団長「(不可能? では、人の身である輪転器は何故ーー)」

老人「実に模範的な疑問だ。人の身で不可能あるのなら何故に輪転器は我の力に耐えられたのか」

老人「その女が『封じた』と言うのはその点だ。輪転器から溢れ出さぬよう、自らを力の器としたのは事実だ」

老人「しかし、これらはあの男の為に行った処置に過ぎない。醜く歪んだ愛によって生じた因と果」

老人「百年が経った頃から狂い始め、遂には儂の力を使って鴉の輪転器を生み出した。此度は己の輪転器さえも生み出した」

老人「全てはあの時に叶えられられなかった夢を叶えるため……」

老人「愛する男と添い遂げる為だけに我を解き放ったのだ。あの時をなぞるように」

騎士団長「(……たった一人の意志。それが世界を創造したというのか? これが事実だとしたら……)」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 20:54:24.60 ID:LELbxQRDO

老人「そうだ。狂っている」

老人「下らぬ愛などに執着した結果がこれだ。その女が世界と輪廻を歪めたのだ。己の意志でな」

王女「……終わりにする為です。間違いを正すにはこうするしかなかった」

老人「正す?正すだと? お前がか? 狂った神が何を正す? 笑わせるな、正せるわけがない」

老人「結果など目に見えている。お前が何をしようと更に狂わせるだけだ」

王女「あなたには分からないでしょうね。全てを始まりに戻そうとする、あなたには……」

騎士団長「(……どういう意味だ)」

王女「この者は元に……全てに還ろうとしているのですよ。世に在る全てを呑み込んで……」

老人「聞き間違えでなければ罵っているように聞こえるな。己がしでかした事は棚上げか、どこまでも自分本位な醜女よ」

王女「先程から聞いていれば随分とそれらしい口を利くようになりましたね。全てであった者、全ての力であった者よ」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 21:39:49.83 ID:LELbxQRDO

老人「……何が言いたい」

王女「あなたは強烈な自我を得た。そうなった今でも元に戻ることが出来ると思いますか?」

老人「我に出来ぬことなど無い。どうあろうと結果は変わらぬ。あの時と同じように鴉は死ぬ」

老人「ただ一つ違うとすれば、此度は貴様も死ぬということだ。望みを叶えられぬまま消え去るがいい」

王女「あの時とは何もかもが違いますよ。あなたもわたしも、辿る結末も……そして、彼も……」

老人「……欠片を渡したな」

王女「ええ」

老人「奴を鴉に仕立ててどうする? 再び我と戦わせる気か? それで何が変わる?」

王女「何もかも。わたしの選択すらも」

老人「愛する男に尻拭いをさせる気か? 醜悪な神もいたものだな。貴様のような女に愛された鴉が不憫でならん」

王女「……否定はしません。ですが、あなたには消えてもらいます。次こそは、世の為に……」

老人「戯言を抜かすな。鴉は彼の地に在り、輪転器と共に此処へ来るが定め。何も変えられはしない」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/24(日) 00:57:07.58 ID:XdNm6z2wO

王女「果たしてそうでしょうか」

老人「……何?」

王女「人の心は時に予想外の行動を生む。愛というものは男女間だけのものではありません」

老人「愛に狂った貴様が真っ当な愛を語るか。いや、狂っているからこそか? 何にせよ滑稽なことだ」

王女「全ての出来事は想いから始まると言っているのです。それが愛であれ憎しみであれ、変化はそこから訪れる」

老人「………」

王女「そう言えば、あなたには息子がいましたね。彼はあなたをどう思っていましたか?」

老人「何とも下らん問いだ。貴様もこの器の中にいたのだから知っているだろう」

王女「ええ、知っています。あなたが父であるのかどうかを何度か疑っていましたね」

老人「そんなことか、最早どうでもよいことだ。あれならば既に破棄してある」

老人「貴様がその輪転器に移った時でも良かったのだが、何やら策が見えたものでな」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/24(日) 00:58:59.44 ID:XdNm6z2wO

騎士団長「(破棄……)」

騎士団長「(やはり、この者は我々とは違う。いや、この者だけではない。姫様の中に在る者も……)」

王女「策とは?」

老人「あれは貴様が此処へ来るきっかけ、鴉が彼の地へと旅立つきっかけを作った。そうなれば用は無い」

老人「父上などと慕ってくる様は鬱陶しくて仕方が無かったが、存外使える男だった。もう使い物にはならんだろうが」

王女「……そうですか」

老人「何だ、まさか身を案じているのか? 魔王として数え切れぬ命を奪った貴様が」

王女「いえ、案じてなどいませんよ。ただ、想像通りの答えに落胆しただけです」

老人「貴様が何を期待していたのか知らんが事は順調に運んでいる。後は輪転器を待つのみだ」

王女「器が此処まで無事に辿り着けると? 随分と信頼しているのですね」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/24(日) 01:03:12.96 ID:XdNm6z2wO

老人「……信頼、それは鴉のことを言っているのか?」

王女「ええ、もちろん。彼以外の誰が器を守ると言うのですか?」

老人「……奴はしぶとい。能力的には有角族や獣人族より劣っているが、種族を超えた何かを持っている」

老人「思い出すだけでも忌々しいが、我は奴のそこに敗れたのだ。貴様が言うところの想いとやらにな」

王女「怖れているようですね。彼を」

老人「怖れ? そんなものはない。確かに奴には敗れた。しかし、我を殺す術など存在しない」

王女「……己の変化にすら気付いていないとは、あなたも憐れですね」

老人「挑発のつもりだろうが、あまり図に乗るな。新たな器に入らずとも貴様を消すことなど容易い」

王女「そうですか。では、出来るのにそうしないのは何故です?」

老人「貴様のことは鴉の目の前で消すと決めているからだ。そうなれば我が手を下さずとも鴉は壊れる。死は、貴様の存在なくして保てない」

王女「随分と悪趣味になりましたね。全てであった者の言葉とは到底思えませんよ?」

老人「貴様にだけは言われたくはない。己の欲望の為だけに数多の命を奪った気狂い女が」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 15:24:52.13 ID:0dgDXaPvO
乙ー
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/25(月) 02:48:27.37 ID:fIdUKdx/O

王女「………」

老人「そうだ。本来なら語ることなど出来はしない。いや、口を開くことすら許されない」

老人「事の発端であり歪みの根源である貴様に、自戒や弁解など許されるはずがない」

老人「何せ、己の望みを果たす為に数え切れぬ者共の運命を狂わせた大罪人なのだからな」

老人「その元凶たる貴様が、開き直った挙げ句に間違いを正すなどど言い出すとは恐れ入る」

王女「…………」

老人「……まあよい。鴉が来れば全てが終わるのだ。結末は変わらん」

騎士団長「(……全てはこの者達によって引き起こされたことなのか。これまでの、全てが?)」

騎士団長「(これが真実であるなら悪夢としか言い様がない。この者達の意志によって、世界は無に帰すというのか……)」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/25(月) 02:52:32.04 ID:fIdUKdx/O

老人「そうであった。まだ、お主がいたな」カツン

騎士団長「(……何だ…)」

老人「先程語ったことは貴様を通して世に伝わった。此処には居らぬ者、誰も彼も何もかもが真実を知ったであろう」

老人「つまり、貴様は語らずして語り部の役目を果たしたと言うわけだ」

老人「何故そんなことが出来るかなどと聞いてくれるなよ。理屈など必要ない、儂にはそれを可能にする力がある」

騎士団長「(……あり得ない。そんなことが出来る者がいるとしたら、それはーー)」

老人「神だ」

騎士団長「(ッ、重い。言葉を発しているだけだというのに何という圧力だ……)」

騎士団長「(先程の比では無い、見えない何かに体を抑え付けられているようだ。指先はおろか視線さえも動かせん)」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/25(月) 02:55:11.26 ID:fIdUKdx/O

老人「………」スッ

ゾブッ…

騎士団長「!!?」

老人「信じたか? いや、信じざるを得まい」

騎士団長「(ば、馬鹿な。腕が胴を突き抜けた?いや、すり抜けたのか? 何故だ、何故何の感覚もない。出血どころか一切の痛みも……)」

老人「理屈など要らぬ、儂には出来る。このまま手を引き抜けば、お主は死ぬ」

騎士団長「(……傲慢で冷酷無慈悲、己以外のことなど一切省みず、己以外は物か何かとしか見ていない)」

騎士団長「(これが神であるなら何とも救われない話だ。教会で祈る人々が不憫でならない」

老人「我を神としたのは貴様等だ。こうなった原因の一端は貴様等にあるとも言える」

老人「貴様等は無自覚に罪なる存在だ……まあ、よい。ともかく、お主は役を果たした」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/25(月) 02:59:56.21 ID:fIdUKdx/O

老人「故にーー」ズッ

騎士団長「がッ…」

ブシュッ…ボタボタッ…

老人「故に、存在する必要は無い」

騎士団長「(……意識が薄れていく……それはそうだ。腹に穴が空いたのだから当然だ……)」

騎士団長「(これまでにも死を覚悟したことはあったが、いざこうなると実感が湧かんな)」

騎士団長「(……しかし呆気ないものだ。詰まるところ、私は神に弄ばれただけというわけか)」

騎士団長「(姫様は……)」

王女「………」

騎士団長「(姫様は、あの者の中で生きておられるのだろうか? そうであって欲しい。そうでなければ、あまりに救いがなさ過ぎる)」

騎士団長「(……姫様、申し訳ありません。騎士として誓いを守れずに逝ってしまうこと、どうかお許し下さい………)」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/25(月) 07:43:42.29 ID:8vN9wdCIo
乙ー
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 09:34:40.32 ID:Q6pOnf+Co
団長さん死んじゃうの?
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 14:20:22.63 ID:dzwBbH6TO
これで生きてたら冷めるだろ
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 13:33:59.67 ID:NpHs2oA3o
ご都合主義で助かるっていうくそつまんない展開になりそう
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 21:46:26.85 ID:tSlelXHYO
ドラクエみたいに教会もないし魔法もないみたいだから助かるとは思えないな
キャラの好き嫌いは関係無しに、死ぬ時は死んだ方が良い
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 08:27:42.69 ID:OvrNoxW8O
失踪した
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 16:56:03.13 ID:ewOtf+N6O
>>1的には生きます設定でいこうと思ってたんやろな生きてた方がきっと読者喜んでくれる!って誰も望んで無かったんやけどな
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/06(金) 18:00:16.88 ID:lxVOuFm4O
>>590 お前みたいな奴がいるから書く気が失せるんだよ
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/06(金) 21:12:17.59 ID:CN51SG9YO
>>590 まるで作者の頭の中を見透かしたようなこと言ってるけどさ
お前程度の奴が思い付くような安易な展開にするわけねえだろ
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/06(金) 23:14:29.37 ID:c/JScqa4O
下げ
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/07(土) 07:10:00.01 ID:FFFR1IZPO
さげ
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 13:29:45.52 ID:nzYaHbhHo
>>592
いや>>590>>1の自作だぞ?
別ssの時に使ってるのと同じだよ
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 16:05:03.10 ID:3dlENJgwO
>>595 自演って言いたいのか?
別SSと同じって言ってるが何が同じなんだ?
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 19:14:00.34 ID:nzYaHbhHo
>>596
毎回この方のssは誰かが亡くなったなと思わせて無事でしたパターンが必ずある
そして毎回同じ内容の投稿を別IDで投稿する儀式
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 20:55:36.11 ID:lVtmYGBwO
どのSSの作者と混同してるのか知らんが
「そして毎回同じ内容の投稿を別IDで投稿する儀式」って何だよ
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 23:51:30.67 ID:8cAR3YUMO

騎士団長「……姫……さ……」

老人「……逝ったか。最期に恨み言の一つでも吐くかと思ったのだが、当てが外れたな」

老人「しかし大したものだ。守ると誓った者を想って逝くとは……この輪転器が騎士の長を任せただけのことはある」

王女「…………」

老人「満足か」

王女「問いの意味が分かりません」

老人「ふざけるな、此処に来なければ死ぬことはなかった。死に追いやったの貴様だ」

王女「何を言い出すかと思えば……実際に手を下したのはあなたでしょう」

老人「ああそうだ、確かにその通りだ。否定はしない。だが、貴様には分かっていたはずだ」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 23:53:15.46 ID:8cAR3YUMO

王女「分かっていた? 何をです?」

老人「惚けるな。この男が真実を求めることを貴様は分かっていた。分かっていながら共に来た」

王女「分かっていたらどうだと言うのです? これは騎士団長自身の選択。その結果でしょう?」

王女「わたしが踏み止まるように言っても頑として同行すると言った。真実を知りたいと、自らの意志で……」

老人「物は言い様だな」

王女「あなたこそ、自分の手で殺めておきながらわたしの所為にするのはどうかと思いますが」

老人「何がどうあれ、貴様の選択が発端だ。全てはそこから生じた。この男の死さえもな」

王女「そうかもしれませんね。ですが、彼なら変えられるでしょう。今に至る全てを……」

老人「何が変わろうとも貴様の罪が消えることはない。許されもしない。決してな」

王女「言われずとも分かっていますよ。だから待っているのです、彼を……」
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 23:55:28.25 ID:8cAR3YUMO

老人「何を言うにも彼、彼、彼」

老人「常軌を逸した執着心と独占欲。吐き気を催す程のそれを貴様は愛と曰う」

老人「貴様は与えられた役割を放棄し、世を歪め輪廻すらも歪めた。それすらも愛の為か」

王女「そうです」

老人「くっ、はははっ!! これまでの千年、その間に払った犠牲を愛だと言い切るか。大したものだ」

老人「その異常さが貴様にとって正常なのだろうな。現に、目の前で起きた死に眉一つ動かしはしなかった」

王女「それはあなたも同じでしょう。その手で殺めておきながら何も感じていないのですから」

老人「幾らかも心を痛めていないのは認めよう。だが、これだけは言える。貴様とは違う」

王女「そうですか、あなたがそう仰るならそうなのでしょう。しかし、妙ですね……」
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 23:58:24.66 ID:8cAR3YUMO

王女「しかし妙ですね。いつまで経っても王宮内に変化がない」

王女「世の全てに真実を伝えたのであれば、今頃は大混乱に陥っているはずです」

王女「真実を告げたのはニンゲンに対してのみですね? 向こうから戦を仕掛けさせるつもりですか?」

老人「どうなるかはニンゲン次第だ。あれを真実として額面通りに受け入れる者はまずいまい」

老人「だが、動揺はする」

老人「動揺は混乱へ変わり、混乱は戦を呼ぶ。内乱か大戦か、それは然したる問題ではない」

老人「戦は戦を呼ぶ。例えニンゲンが手を出して来ずとも、此方側でも戦は起きる」

王女「……起きるのではなく起こすのでしょう? 二番目を使って」

老人「ああそうだ。そうしなければ鴉を殺すことは叶わぬ」
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 00:00:28.79 ID:F5x8ReqfO

王女「クスクス…そうですか」

老人「……何を嗤う」

王女「わたしとは違うと仰いましたが、結局はわたしと同じ。理由はどうあれ、あなたも彼を求めているのですよ」

王女「憎んでいながら彼の為に騎士を利用し、彼を鴉として殺す為に戦を起そうとしている」

老人「…………」

王女「かつて自分を追い詰めた者をその手で殺す為に如何なるものも犠牲にする。その執着心と独占欲を狂っていると言わず何と言いましょう?」

王女「わたしにはそれが可笑しくて可笑しくて……ですから、あなたを嗤いました」

老人「……精神も肉体も二度と立ち上がれぬ程の、想像し得る限り最悪の恥辱や凌辱をくれてやろうか」

老人「それとも二度と会えぬ面にしてやろうか。奴に顔向け出来ぬ姿に変わり果てるまで……」

王女「そのようにしたければ、お好きにして下さい。何をされても、わたしは『変わりません』ので」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 00:45:07.26 ID:F5x8ReqfO

老人「………」ズッ

ゾブッ…ボタボタッ

王女「……満足ですか?」

老人「いいや、満足などしていない。気を静める為にしただけのことだ。だが、認めよう」ズッ

王女「…けほっ…何をです?」

老人「貴様が言ったことだ……まあ、よい。そろそろ鴉も彼の地へと足を踏み入れた頃だろう」

ーーーー
ーーー
ーー


ドガッ!

盗賊「けほっ…熱烈な歓迎だな。これもしきたりかい? にしても男だけってのはーー」

バキッ!

盗賊「ぐッ…」ドサッ

『黙れ、何が鴉だ。薄汚いニンゲンが』

『こんな奴が我等を救う存在であるわけがない。こんな、ニンゲンが……』

『下手に希望など持たせるからこうなるんだ。これで巫女も終わりだな』
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/08(日) 01:40:09.32 ID:RzM+t76yo
乙ー
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 20:25:17.47 ID:doeFq7vfO
支援
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/12/10(日) 03:17:23.37 ID:22BjhRFtO
まだ?
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/01/09(火) 04:28:33.37 ID:fRppWXu2O
はよ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/10(土) 01:21:49.75 ID:3wFhA0N2o
まだ?
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/03/08(木) 07:40:10.80 ID:uY/qn8IjO
はよ
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/02(月) 22:26:57.78 ID:aMQpWNiAO
まだ?
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/05/03(木) 00:40:37.61 ID:xtmJJD7Ro
はよ
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/04(月) 23:43:34.41 ID:B/8Zb7gfo
まだー?
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/04(水) 22:50:11.48 ID:9qDScssgO
はよ
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/06(月) 23:34:58.49 ID:cCOPTcmFo
まだー?
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 22:12:12.73 ID:+gCp9tdr0
一年更新なくても落ちないのか
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/08(土) 17:43:35.48 ID:NDSQ8Tsl0
ほしゅ
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