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【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:29:01.14 ID:ArXuL0GF0
【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」の続き
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495368262/
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1495801740
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:30:29.11 ID:ArXuL0GF0
さてどうしたものか。
遊郭の個室にひとり、三味線を弾きながら木村夏樹は思った。
東郷派に喧嘩を売る口実を作ったのはよいが、率直に言って分が悪い。
ざっくり千川派と東郷派の違いを分けると、文官と武官。
馬廻だった凛や徒士頭の木村などを除けば、そのような形になる。
千川派は頭脳労働集団であって剣には長けていない。
しかも、責任や面倒な命の張り合いは他人に押し付けたがる傾向がある。
つまるところ先陣を切って戦える人間はごく少数である。
一方東郷派は頭は軽いが、それゆえに曖昧模糊な“大義”に命をかける。
修行にのめりこんで出世を逃すような剣術馬鹿も大勢いる。
しかも、このような馬鹿者どもは買収にも応じない。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:31:35.75 ID:ArXuL0GF0
未央をもっと可愛がっておけばよかったか。木村の脳裏に、行方知れずになった後輩が思い浮かんだ。
凛を斬ったとはいえ。いや、凛のような剣士を斬れる女が千川派に必要だ。
つまるところ、理性感情を抜きにした物理的な破壊力。
千川派は首から下は能無し。
三味線を休めて、木村は酒を煽った。
自分たちの手が汚せないのなら、余所者に力を借りるしかあるまい。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:32:57.91 ID:ArXuL0GF0
徒士の大石泉は、その夜2人の友と酒を飲んでいた。
東郷家にほど近い小料理屋。
下級武士しかよりつかないしみったれた店で、東郷派の本拠地のような場所になっていた。
「未央がよくやってくた!」
機嫌よく徳利を叩くのは土屋亜子。
日頃はせせっこましい金の勘定ばかりしている女だが、今回は千川派との全面対決に勇んでいる。
理由は、自分よりも富めるものが大嫌いだからである。
「えっへへー♪ 私たちも頑張らないといけませんね♪」
猪口からお酒をしょぼしょぼ飲んでいるのが、村松さくら。
本当は人を斬る度胸も腕前もないが、東郷派の空気に流されて意気込んでいる。
「2人とも、少しうるさい…」
泉は不機嫌な声で言った。
未央に破られた鼓膜がまだ治っていない。
そして、自分をこんな目に合わせた未央が賞賛されているのが気に食わぬ。
泉は、二重の意味で耳が痛かった。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:35:33.26 ID:ArXuL0GF0
店から出た3人は、堂々と夜道を歩いた。
酒が入っているが、ここは東郷派のお膝元。襲撃の危険はないかと思われた。
ましてこちらは3人だ。四方八方から囲まれでもしない限り、負けはせぬ。
「それでいつにする?」
泉は2人に尋ねた。
「いつって?」
さくらが割にしっかりした声で応えた。実は彼女、襲撃を警戒して酒は軽く済ませている。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:36:28.78 ID:ArXuL0GF0
「千川派の人間を斬る日だよ」
「明日でもいいんじゃない? いや、今からでも」
土屋亜子が嘯いた。勘定以外に頭を使う気はないらしい。
泉はため息をついた。
東郷派はたしかに勢いづいているが、勢いでそのまま倒れかねない危うさがある。
武力で上回るといって、これでは烏合の衆ではないか。
無駄に意気込む2人と、それを冷めた視線で見る1人。
その3人の前方に、見知らぬ女が現れた。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/26(金) 21:37:23.58 ID:ArXuL0GF0
見たところ浪人だが、見ない顔。薄く緑がかった髪をゆらゆら揺らしながら、こちらへ向かってくる。
ひどく酔っ払っているようである。
「久しぶりのおしごと、わーくわーくします。ふふっ…」
なんだか奇妙な言葉を使う女だった。よく見れば、左右の瞳の色もちがう。
しかし、月夜に揺れる姿にはえもいわれぬ美しさがあった。
まるで風に吹かれる黄金の芒のような…。泉はしばし彼女に見とれた。
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