梨子「曜ちゃん、怒らないで聞いてね」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:43:40.47 ID:tRZUKNjf0
甘くてとろける百合バス、魔王♀「食べちゃうぞー!」書いた人

ようりこですが、恐らく勢いよく胸くそなので怒らないで読んでね




曜ちゃん、怒らないで聞いてね。

梨子ちゃんが言った。
プールに清掃業者が入る日で、今日は部活が無かった。
3人でこれから帰宅する所だった。

なあに?

梨子ちゃんがそんなこと言うのが珍しくて、私は笑いながら聞き返した。
梨子ちゃんの後ろに立っていた千歌ちゃんが、遠慮がちに口を開く。

あのね、私、梨子ちゃんとお付き合いすることにしたの。

え?

私は、意味が理解できなかった。

あのね、曜ちゃん、私と千歌ちゃん付き合うことになったの。女の子同士で気持ち悪いって思うかもしれないけど、曜ちゃんにだけは知っておいて欲しくて。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1495370619
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:00:14.53 ID:tRZUKNjf0
※鍵カッコないとこの話し読み難いのでつけます



「え、あ、あの」

「びっくりするよね。普通はそうよ。ねえ、千歌ちゃん、まだ早かったんじゃ」

梨子ちゃんは、そう言って、いつもと違う距離感で千歌ちゃんの腕を握っていた。
私は、そんな触り方を今まで見た事がなかった。

「そ、そうだよ! お、驚いたよーそろ……」

私は続けた。

「全然、気づかなかった! もお、言ってくれれば、お昼とか、練習の時とか、もっと遠慮したのに!」

「ごめんなさい。曜ちゃん、知ったら傷つけるんじゃないかって」

私は、梨子ちゃんの手を握る。

「そんなことないよ! この曜ちゃん、愛のキューピッドになりますぞ!」

と、私はハートマークを指作って、それを打ち抜く仕草をした。

「も、もお〜曜ちゃんってば、からかわないでよ!」

千歌ちゃんが照れながら、私をぽかぽかと叩く。

「あいたた、でも、そっか……二人とも、一緒にいること多かったもんね。それに、千歌ちゃんのこと好きになっちゃう気持ちわかるよ。だって、優しいもん」

「ち、違うの曜ちゃん。私が、梨子ちゃんに惚れてもうてですね……」

千歌ちゃんが顔をさらに赤らめる。
そんな表情も、私は初めて見た。

「あ、あれ、そ、そっか。やるな、梨子ちゃん!」

「やだ、もう。別に自然と言うかなりゆきというか」

梨子ちゃんがそう言うと、千歌ちゃんが頬を膨らました。

「え〜、それだと、仕方ないように聞こえるんですけども……」

「あら、そんな風に聞こえたならごめんなさい」

梨子ちゃんが笑って、千歌ちゃんの頭を撫でていた。
なんだか、二人が遠い存在のように感じられた。

「でも、私付き合ったこととか無くて、千歌ちゃん、これから色々教えてね」

「え、千歌もないし……よ、曜ちゃん〜」

「待って待って、私だってないよ。だいたい、そういうのは、二人でなんとかするものでしょ」

梨子ちゃんと千歌ちゃんが顔を見合わせて、それもそっか、と呟いた。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:10:41.31 ID:tRZUKNjf0
二人の馴れ初めも私は知っていて、その後惚気話もいくつか聞かせてもらった。
その日はおめでとうヨーソローと言うことで、3人でケーキを買って千歌ちゃんの家でお祝いした。
ちょっとだけ気になったのは、二人が私に気を遣って仲間外れにしないような空気を出していたこと。
それと、私自身が、心からお祝いできなかったこと。

パーティーを終え、千歌ちゃんが間違ってお酒を飲んで酔いつぶれしまったのでそのまま寝かせておいた。
家を出て、バス停まで梨子ちゃんと二人で歩いた。

「やっぱり、曜ちゃんに言って良かった」

梨子ちゃんが言った。

「ええー、もう、それはさっきも聞いたよ」

「だって、怖かったもの。千歌ちゃんの気持ち、私ちゃんと受け止めきれてなかったから。それで、付き合うっていざなったけど、この危うい関係を誰がいいよって認めてくれるだろうって思ってた。そしたら、一番信頼できる曜ちゃんがそれを言ってくれたの。だから、本当に良かった」

梨子ちゃんは、暗がりでも笑顔なのが分かった。
私は、海の音を気にしている風を装って、海岸の方を向いた。

「そう、なんだ」

「ねえ、曜ちゃん。千歌ちゃん、取られたって思ってない?」

梨子ちゃんが言った。

「なんで……そんなこと聞くの?」

「私が、曜ちゃんだったら、そう思うよ」

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:18:15.89 ID:tRZUKNjf0
「思っても、ないよ」

私は、灯台を見つめた。
暗い夜の海辺を横ぎっていく光を眺めた。

「思ってないなら、いいんだけど、ごめんね」

そんなこと思ってない。

「そりゃ、寂しい気持ちはあるにはあるけどさ、嬉しそうな二人の顔見てたら……そんなの吹き飛んじゃったよ!」

私は梨子ちゃんの正面に回った。

「ごめんね、私、ちょっと混乱してたのかも。嫌な心配させてごめんね、梨子ちゃん」

梨子ちゃんを抱きしめる。

「よ、曜ちゃん、苦しい」

「あ、千歌ちゃんに怒られちゃうね、へへえ」

「そんなことないよ。千歌ちゃんは、こんなことで怒ったりしない」

「そーかな、案外、嫉妬深いかもよ」

私は、そう言い返す。
言いながら、自分の事だと心の中で笑ってしまった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:36:31.41 ID:tRZUKNjf0
「それにしても、教室でも怒らないでねって言ってたし、梨子ちゃんは普段私の事、どんな風に見えてるの〜?」

冗談っぽく言ってみたつもりだったのに、体を離した梨子ちゃんは真面目な顔をしていた。

「友だちのこと、凄く大切に思ってくれる子ね、曜ちゃんは。私の事も、千歌ちゃんのことも、いつも楽しませてくれる。もっと前に出てもいいのに、少し後ろに立って、背中を押してくれたりするの」

「えー、すごい高評価いただいてしまいましたな。梨子ちゃん、私あげれるものないよ」

そう言われたのは素直に嬉しかった。

「だから、嫌なら嫌って言えない時もあると思う」

梨子ちゃんが私の右手を握りしめた。
恐くて、私は後ずさった。

「そういう時もあるかもね。でも、それってきっとみんな同じだよ。あ、梨子ちゃん、バス来ちゃうから行こう」

私は、そのまま梨子ちゃんの手を引いた。

「よ、曜ちゃん」

「梨子ちゃんは気にしーだな〜、千歌ちゃんを見習わないと」

「私、これでも真面目に」

「うん、知ってる。梨子ちゃんて、いつも真面目。でも、なんでもかんでも真面目に考えてたら自分のやりたいことできなくなっちゃうよー」

「それは……そうだけど」

「それとも、何か迷ってることがあるの?」

梨子ちゃんが、どうしてこんなに気にするのか分からない。
それで、自分が傷ついてもいいんだろうか。

「あ、ううん……えっと」

「どっち」

「その、千歌ちゃんはちょっと、ミーハーな所があるから」

梨子ちゃんは小さくそう言って、

「曜ちゃん、良かったら、これから、アドバイス……お願いね」

「うん、任せて」

私は頷いた。


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:44:41.65 ID:tRZUKNjf0
次の日は、千歌ちゃんが頭が痛いと言って机に突っ伏していた。

「千歌ちゃん、保健室行かなくても大丈夫?」

私は完全に二日酔いの千歌ちゃんに声をかける。

「ウー……で、でもなんて説明すればいいのお」

「そうねえ」

梨子ちゃんが、

「普通に風邪でいいと思うけど」

「そうだね、千歌ちゃん、連れて行くから……あ、ナース梨子ちゃんが連れて行ってくれるって」

「え、曜ちゃん?」

「ほら、千歌ちゃんがしんどそうだと私もしんどくなるから、行った行った」

私は千歌ちゃんを立ち上がらせて、梨子ちゃんの背中に貼り付けた。

「任せた。梨子ちゃん」

「え、ええ」

梨子ちゃんは、ちょっと気圧され気味に答え、教室を出て行った。
今のは、強引? それとも、わざとらしい? どっちもかな。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:01:33.63 ID:tRZUKNjf0
二人のいなくなった教室で、他の子らの話題に入っていく。
このクラスは居心地が良くて、あまりグループの壁みたいなものがない。
私も、そんなに気にする方じゃなかった。

「曜ちゃん、千歌ちゃん大丈夫?」

「うん、寝ておけば大丈夫」

「千歌ちゃん、いつも元気なのに珍しいね」

「あー、ベッドから落ちて寝てたんだよ」

「千歌ちゃんらしいね」

笑いが起こる。
ごめんね、千歌ちゃん。さすがに、二日酔いですとは言えないや。

「でも、どうしたの? 喧嘩?」

「え? なんで」

「なんでって、3人いつも一緒でしょ」

そっか。気を遣うとそういう風に取られてしまうんだ。

「そんなことないよ。あれは、梨子ちゃんが保健室に用事があるから、二人で行ってもらったの」

すらすらとそんな嘘が出た。

「なんだ。でも、3人てやっぱり仲いいよね。喧嘩とかになったりしない?」

「うーん、ちょっと前に、私が梨子ちゃんに焼きもち妬いちゃったことはあったけど」

「あ、やっぱりあったんだ!」

その子の食いつきが凄く良くて、他の子達も興味をそそられてしまったのか、

「どんなの? どんなの?」

「や、そんな大したことじゃないよ」

「えー、聞きたい!」

女の子って、こういう話好きなんだよね。

「聞いても、面白くないって」

「そんなことないって、あ、でも曜ちゃん嫌なら、今のなしで……」

迫ってから引き下がられてしまうと、本当に何かあったみたいに思われてしまう気がした。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:11:15.31 ID:tRZUKNjf0
「二人にはみんなに言ったってナイショだよ」

「うんうん!」

「了解しました!」

一人が私の真似をして、敬礼した。

「私、曜ちゃん推しだから、そういうの知りたかったの」

「実は、私も」

私はうっかり口を滑らせたことを後悔した。

「おだてても、みんなの好きな昼ドラみたいなのはありませぬぞ」

私は極力軽く、いや、もう本当にあっさりと話した。
私の心が狭くて、みんなに迷惑をかけてしまった話を。

「そっか、そうなんだ」

「曜ちゃん、そこの椅子、座って」

「え、あの」

私は無理やり座らされてしまった。

「よしよし」

頭を撫でられた。

「よく耐えたねえ」

ただでさえ癖の強い髪を、わしわしと揉まれる。

「な、なに、もお、くすぐったいよ」

頬とか首とか肩とか、良くわからない内に揉みくちゃにされた。

「わ……? ちょ……? ひえ……? まッ……」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:19:19.63 ID:tRZUKNjf0
その一連の謎の儀式から解放された頃に、梨子ちゃんが教室に戻って来た。

「曜ちゃん……何してるの?」

「ふえ……た、助けて」

「人聞きが悪いぞ、渡辺氏」

「そうだそうだ」

口々に、そう言われた。
私は梨子ちゃんの方へよろよろと近寄る。
梨子ちゃんは、ぐしゃぐしゃの頭を梳いてくれた。

「千歌ちゃん、ちょっと吐き気もあるみたい」

「え、そうなの? 大丈夫かな……」

そっか、間違って飲んだとは言え、大量に飲んでたからな。
どうしよう、私、やっぱり行った方がいいかな。
千歌ちゃん、寂しい想いしてないかな。
どうして、曜ちゃん付き添ってくれないのとか、思ってないかな。
ちょっと笑わせてあげるくらいが良かったかな。

「曜ちゃん?」

「え」

「千歌ちゃん、心配?」

「あ、いや、千歌ちゃんってほんとおっちょこちょいだよねって思って」

「そうね……曜ちゃんの方が付き合い長いから、こういう時、どうしたらいいのか分かる、よね? それで、今もやもやしたんじゃない?」

梨子ちゃんに言われて、私ははっとした。

「どうして、分かったの」

と、口に出てしまうくらいには、素直に梨子ちゃんに感心してしまった。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:29:13.68 ID:tRZUKNjf0
そして、それを聞いた梨子ちゃんは、意外にも笑っていた。

「や、やだ……曜ちゃん、顔にもすぐ出るのに……言葉にもすぐ出ちゃったら……隠し事できないよ?」

「え、わ、わ、わ」

私は手で口を塞いだ。

「もお、遅いです」

急に自分が裸になったみたいに恥ずかしくなった。
上目遣いで、梨子ちゃんを見る。

「……曜ちゃん、可愛い」

「からかわないで……」

梨子ちゃんがちょっと意地悪だ。
よく気が付くから、困る。

「ね、私、曜ちゃんのことよく見てるでしょ」

よく分からない自慢をされた。

「そうだね」

ふと、私は梨子ちゃんのことをちゃんと見ていただろうかと思った。
千歌ちゃんのことは、気にしようと思って気にしたことはない。
だって、昔から一緒だったから、どちらも分かっていることばかりで、今さら話すこともない。
まあ、それがややこしく考えてしまう原因なんだけど。

でも、梨子ちゃんは違う。梨子ちゃんのことは何も知らないわけじゃないけど、私は千歌ちゃん程、ちゃんと興味を持って梨子ちゃんを見ていただろうか。
大好きな千歌ちゃんが好きになった梨子ちゃんのこと。二人が付き合うってなって、私は初めて、梨子ちゃんをちゃんと見た。

「どうしたの? 曜ちゃん」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:40:50.73 ID:tRZUKNjf0
「梨子ちゃん、私、ちゃんと梨子ちゃんのこと見てなかった」

「そうなんだ……これからは?」

これからか。

「ちゃんと見る」

「何を?」

「何をって……あー、うーん? あ、梨子ちゃんて、けっこう睫長いよね」

「そこ?」

梨子ちゃんが小さく噴き出した。

「そういう所から。外見から」

「ありがとう」

お礼を述べる梨子ちゃんは、嬉しそうだった。
私は、もしかしたら寂しさを埋めるために、新しい切り口で自分を慰めようとしているだけなのかもしれない。
梨子ちゃんの良い所をたくさん見つければ、気が済む話なのだろうか。
それとも、その逆? どっちかな。

「私が、梨子ちゃんのこともっとちゃんと知らないと、千歌ちゃんとのアドバイスもできないしね」

「曜ちゃんが、そんなに張り切らなくても」

「そ、そうだね。二人が頑張らなきゃですな。姑化するとこでした」

「……でも、私、曜ちゃん程千歌ちゃんと一緒にいたわけじゃないから、曜ちゃんの話聞きたい」

「ヨーソロ!」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 23:52:11.96 ID:vjp5+OFXo
意味わからん
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:54:58.13 ID:tRZUKNjf0
二人の役に立てればいいか。
この寂しさも、いつか薄らぐと思う。

「それで、日曜は千歌ちゃんに誘われてちょっと遠出するの」

持ち上がった気持ちが、すぐに叩きつけられた。
実質デートってこと。何がそんなにショックなのか、自分でも分からない。

「それで、その前に、曜ちゃんちょっと一緒に下見に言って欲しいの」

「下見、うん、いいけど……する必要ある?」

「だって、何か面白い物見つけておきたいし。それに、千歌ちゃんの話し聞くのに、地元はね、ちょっと」

「確かに、誰かに聞かれて、というか、むしろ千歌ちゃんの耳に入ったら、ややこしい」

「でしょ」

「よーし、じゃあ、先に私とデートだね」

「ええ、やった」

「やったって、喜んじゃダメだよー」

梨子ちゃん、小悪魔だ。
これは、千歌ちゃん、先が思いやられるよ。

「曜ちゃんと二人で出かけることってないじゃない。いつも、練習か部活だったし」

「そう言えば」

「私も、千歌ちゃんから聞かされた曜ちゃんの話し、たくさんあるから。それ、楽しみにしててね」

「い、いいよ、恥ずかしいし」

「でも、それ聞いて、私は曜ちゃんのことちゃんと見るようになったから」

「どういうこと?」

「……最初は……ううん、秘密。下見の時のお楽しみ」

「ほほう、やりますな」

「じゃあ、よろしくね。ちゃんと、犬がいないか調べないといけないの」

「それか……」

私は下見の意味を理解した。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:56:41.62 ID:tRZUKNjf0
今日はここまで

>>12
分かりにくい文章が得意なんですが(下手ともいう)、どのあたりですか?
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 00:08:00.14 ID:RMIMZPp/0
百合は鬱なくらいがいいよね。楽しみ
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 00:31:48.18 ID:KlekRhWSO

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  |ヽ\__// |
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  //      ヘ\
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フィノ  /  \ ヽヘ「

わけがわからないよ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 12:26:23.02 ID:92/oijCwO
SS速報でやる理由わかる気がする
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:15:41.26 ID:Qfiz5jzd0
下見、当日。私は何を着ていこうか悩んでいた。
別にいつも適当に選んでいる訳じゃないけど。今日の気分とか、トレンドとか、身軽さとかそういうので服装を決める。
あとは千歌ちゃんと出かけることが多かったから、隣に立って変じゃないかって考えたりもする。
今日は、今日は――梨子ちゃんと。

「あー……」

これはちょっと子どもっぽいかな。
でも、スカートで来そうだしな。頭がかゆくなってきて、服を掴んだままベッドに仰向けに倒れた。

「なにやってんだろ」

こういうのって恋人がいるから楽しいのに。
灰色の蛍光灯を真下から覗く。少し目をつむった。ほんのちょっとだけだと思ったのに、次に目を開けると遅刻は免れない時間だった。

「ああああ!!」

私は、いつも通りのボーイッシュな服にリュックとスニーカーで飛び出した。
走りながら、SNSで梨子ちゃんに遅れることを伝えると、梨子ちゃんから『許しません』と返ってきた。
もう一度スタンプで謝ると『ウソです。早く来てね』と送られてきたので、こういう返しが心をくすぐるのかなとなんとなく思った。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:33:36.32 ID:Qfiz5jzd0
駅の前まで来ると、前に東京に行った時と同じワンピースにジャケットで、ちょこんと壁に背中をつけて待っている梨子ちゃんがいた。

「ご、ごめん! 待ったよね?」

「ううん、今来た所」

にこりと笑う。

「そっか、良かった!」

「って、そんなわけないでしょ」

「ですよね……ぐへッ」

裏拳で胸を突かれた。

「早く、電車乗り遅れるんだから!」

手を引かれて、一緒に走り出す。

「そ、そう言えばどこに」

「恋人岬」

「……そ、そんな地元の人も滅多に行かないような所に」

「地元の人はいかないけど、観光客は沢山来る有名所じゃない」

切符を買って、改札を抜ける。
電車がぎりぎり発車する直前だった。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 00:01:45.94 ID:Hj6lTY4Po
>>14
ガイジにはフレンデエエ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:11:53.46 ID:uF7jTqVS0
駆け込まないでください、と駅員さんが列を整理している。
連休効果か、いつもは人気の無い駅構内に家族連れやカップル連れが多かった。

「はあッ……曜ちゃん、行ったこと……あるッ?」

なんとか間に合った電車も満員で、手すりにすがりつきながら梨子ちゃんが言った。

「ふうッ……あるわけないじゃんか」

梨子ちゃんを押しつぶしてしまわないように、腕で何とか体を支えながら、空しい気持ちで溜息を吐く。

「そっか、良かった」

どう言う意味だろう。

「千歌ちゃんも乙女だよね」

私は言った。

「そうね」

「まあ、でも愛されてるゆえじゃない?」

梨子ちゃんに笑いかける。

「梨子ちゃんがちょっとふわっとしてるから、繋ぎ止めたいのかな。頑張ってね、あの子、諦め悪いから」

「知ってるわよ」

二人で笑い合った。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:19:41.72 ID:uF7jTqVS0
4駅ほど立ったまま、電車に揺られた。
弱冷房がかかっていたけど、人が密集しているせいで熱かった。
少し汗をかいていた梨子ちゃんの首筋に髪が張り付いていたのでセクシーだなと思った。

「どこ見てるの」

「梨子ちゃんのセクシーゾーン」

梨子ちゃんがとっさに両手で首筋を隠した。

「よ、曜ちゃんッ」

「よく首筋だって分かったね? 知ってたの?」

「あのねえ!」

「ご、ごめん、車内ではお静かにッお客様」

梨子ちゃんが口元を抑えて、また静かに手すりを掴み続ける仕事に戻った。
恥ずかしそうにしていて、面白かった。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:22:02.42 ID:uF7jTqVS0
ここまで寝ます
また明日
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 04:54:48.26 ID:Iu2riyC4o
おつおつ
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 23:06:49.41 ID:9pglORMk0
そろそろ?
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/25(木) 00:26:52.82 ID:wCw46FMP0
すみません
今日は寝ます
また明日
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/25(木) 22:32:14.90 ID:tmRaDgX60
人がまばらになって、終点の修善寺駅まではあと一駅。
漸く椅子に座った頃には、手すりを掴んでいた手はだるくなっていた。

「もう少しで着くみたい」

私はスマホのマップを開いて、梨子ちゃんに知らせる。
外を見ていた梨子ちゃんが、私のスマホの画面を覗き見た。

「もっとかかると思ってたけど……案外近いのね」

「終点の駅までは近いけど、そこからさらにバスで1時間以上はかかるよ」

「駅で、何か食べて行く?」

梨子ちゃんが人差し指を立てる。
私はその指を掴んだ。

「賛成」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/25(木) 23:16:04.70 ID:tmRaDgX60
それから数分して、終点を知らせるアナウンスに押されて、駅のホームに降り立った。
二人でキョロキョロと改札を探し、いったん外に向かった。

「なんだか、沼津とそう変わりはないのね」

梨子ちゃんが走っていくバスを目で追いかける。

「そうだね」

駅前なんてこの辺の田舎なら、どこも似たようなものかもしれない。
松崎行きのバスの時刻表を確認。スマホで調べたのと変わらない。

「さーて、何食べよっか梨子ちゃん……お、生そば、丼、カレー、うどんだって。ザ、駅前って感じがする」

目の前の建物にぶら下がっている看板を読み上げる。

「曜ちゃんの食べたいもので。付き合ってもらってるし」

「じゃあ……」

と、目移りさせる。嗅ぎ慣れぬ匂い。知らない土地。
目の前を二人連れの男女が横切っていく。なんだか、私達、デートしているみたい。

「……いいのかな」

「いいに決まってるじゃない」

しまった。声に出てたみたい。
梨子ちゃんは特に気にしてはいなかった。
これは、予行演習なんだから、私が後ろめたい気もちになる必要はなし。なしだ。そうだよね。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/25(木) 23:16:38.57 ID:tmRaDgX60
ごめん力尽きた。また明日
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/25(木) 23:24:18.16 ID:XS5+GGooO
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/26(金) 04:44:29.36 ID:EmCOYwWuo
おつおつ
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/26(金) 22:21:24.26 ID:av2K3aJf0
「あ……もしかして、曜ちゃん、デートしたいの?」

私の視線の先に気付いてしまった梨子ちゃんがにやにやしながら言った。

「え、違うよー。まだ、私には早い早い! さ、うどんが食べたい気分になってまいりましたので、うどん屋にゴー!」

青空に向かって拳を上げて、私はさっさと歩き出す。

「ちょ、曜ちゃん待って」

「ほら、捕まえてごらん梨子ちゃん」

「それは、恋人岬についてからにして」

「え、やるの?」

「やる」

「うっそ……」

そんな予行練習いらないと思うんですが。
梨子ちゃんは大真面目な顔で、

「他にも、壁クイとかもにょもにょ……」

「え、なんだって?」

だんだん俯いていく梨子ちゃん。

「なんだっていいでしょ」

「練習相手、私なんだけど……」

「いーの」


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/26(金) 22:57:56.50 ID:av2K3aJf0
いつの間にか、梨子ちゃんに背中を押されながらお店の暖簾をくぐった。
古めのお店だったので、若い人は入っていなかった。
年配のご夫婦や新聞を広げてくつろぐおじさん、お喋りするおばさん達。
ちょっと場違い感があったけど、こそこそと二人で隅の方に座った。
若干タバコ臭い。

「梨子ちゃん、ランチ4種類あるって」

うどん屋にしてはしゃれている。

「うどんに、おいなりさんに小鉢にデザート……ってこんなにお腹に入らないわよ、曜ちゃん」

「えー、せっかく来たから二人で分けようよ」

「いいけど、残ったら曜ちゃん食べてくれる?」

「はいはーい」

「見かけによらず、食べるのね。飛び込みやってるからかしら……羨ましい」

「何が?」

「なんでもないわ」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/26(金) 22:58:33.64 ID:av2K3aJf0
寝ます
また明日
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 14:13:27.29 ID:BmFgl9fao
おつおつ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 17:15:25.59 ID:InKgyXIS0
「あー、でもさ梨子ちゃん、デートの下見ならもっと食事処も探した方が良かったんじゃ。可愛いカフェとか」

「いいのよ。今日は、だって、曜ちゃんと来てるし。安全に岬までたどり着ければいいの」

「ならいいんだけど。でもさ、そんなに危険な場所じゃないと……」

『ワン!』

犬の鳴き声が梨子ちゃんの背後から聞こえた。

『ワン! ワン!』

「ひいい!」

梨子ちゃんが、椅子から飛び上がって私の体にしがみつく。

「ど、どうどう。テレビだよ、テレビ」

「はあッ……はあッ……焦った」

額の汗を拭いながら席に戻り水をすする。

「ね、どこに潜んでいるか分からないでしょ」

と、真面目な顔で言うのだった。

37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 17:26:15.27 ID:InKgyXIS0
ランチは予想よりもけっこうな量だった。
案の定、梨子ちゃんが食べきれなかった分は私が食べることになった。

「ふー……食べた食べた」

「曜ちゃん、すごい。全部食べた」

「もお、何も食べれない。見て、胸よりもお腹の方が出てる。妊娠6ヶ月くらい?」

「とか言って、アイスクリームとか売ってたら?」

「買うよねー」

私はお腹をさすりながら言った。

「岬の売店とかにあったら食べよーよ、梨子ちゃん」

甘えた声で、梨子ちゃんに言った。

「なんだか、私よりも曜ちゃんの方が楽しんでる」

「え、そう?」

「うん」

頬をぽりぽりと掻く。
そういう梨子ちゃんの表情も楽しそうだったので、私は照れ臭くなった。

「さあ、行こうか。そろそろバスの時間だよ」

「曜ちゃん、気づいてないかもしれないけど、さっきからちょくちょくエスコートしてくれてるから好き」

「え、うそ」

「ホント」

なんだか、梨子ちゃん相手だとつい引っ張っちゃうな。
気をつけよう。あ、でも好きって言ってくれてるしいいのか。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 17:45:40.38 ID:InKgyXIS0
バスには、先ほど見たカップルも乗っていた。

「ねえ、梨子ちゃん」

私は小声で耳打ちする。
それに気づいて、梨子ちゃんも小声で聞き返す。

「どうしたの」

「あの二人恋人岬行くんじゃない」

美男美女のお似合いな二人。

「うん、私もそんな気がする」

しばらく後ろからカップルを眺めていると、急に彼女の方が彼氏の首筋に息を吹きかけていたずらし始めた。
彼氏さんが可愛らしい悲鳴をあげていて、それを楽しんで笑っていた。

「目のやり場に困るね」

梨子ちゃんも頷いていたけど、食い入るように見ていたのでばれないかとヒヤヒヤした。

「私も……」

と、ふいに俯いて梨子ちゃん。

「ああいう風にできるかな……」

千歌ちゃんのことを言ってるのかと思ったけど、実際、梨子ちゃんの気持ちが千歌ちゃんにまだ追いついていないような気がした。
千歌ちゃんは思い立ったら一直線な所があるから。

「私もさ、そういうときめきレベルの高いイベントとは縁がなかったからよく分からないんだけどさ、千歌ちゃんとならきっとどこに行っても楽しいよ」

慰めになってるのかな。

「梨子ちゃん、焦らないでいいんだよ」

下見に行かないと、なんて思う位だからきっと梨子ちゃんもいっぱいいっぱいなのかも。
私は中立的な立場で役に立っていかないとだ。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 18:01:43.47 ID:InKgyXIS0
「万が一、千歌ちゃんが迷惑かけたら、すぐに私に言って」

梨子ちゃんの手を握る。

「曜ちゃん……曜ちゃんは」

どきりとした。
梨子ちゃんが、すがるような目で私を見ていたから。
言えないことが、あるのかもしれない。上手く言えないことが。

「二人とも大切だから、幸せになって欲しいんであります」

寂しくて挫けそうな自分もいる。
でも、今は邪魔なんだよね。
気遣ってくれる梨子ちゃんの気持ちも分かってる。
でも、私は一度この子を傷つけて後悔した。自分の気持ちを押し付けて、梨子ちゃんを遠ざけようとした。

「ごめんね……曜ちゃん。私、一つだけ言ってないことがあって……」

「なに?」

だから、今度は私が受け止めてあげたいんだ。
梨子ちゃんと千歌ちゃんの気持ちを。

窓から見える風景が変わった。
山間の道に入っていく。

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 18:09:44.35 ID:InKgyXIS0
「あの……ッ」

がたんと車体が揺れた。

「きゃ!」

道があまり舗装されてないのかな。
態勢の崩れた梨子ちゃんを支える。

「ごめん、曜ちゃん」

「ううん、舌噛まなかった?」

「大丈夫」

「で、何言いかけてたの?」

「あ」

梨子ちゃんははぐらかすように笑った。
そして、向こうに着いてから言うね、と別の話題に変えられてしまった。
なんだったんだろうか。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 19:44:06.86 ID:InKgyXIS0
ここまでまた明日
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 00:03:30.76 ID:hMuE1s630
バスに揺られる。梨子ちゃんがスマホに録音してきてくれた新曲を聞きながら。
まだ骨組みだって。粗削りな曲なんだろうけど、私からすれば、綺麗な旋律。

「いいね」

片耳につけているイヤホンを外す。
梨子ちゃんはまだ目をつむって聞いている。

「朝日がゆっくり昇ってるイメージなんだけど、合ってる?」

問いかける。

「……合ってるわ」

梨子ちゃんが驚いた様子で目を開いた。

「へっへー、なんだろ音を少しずつ重ねていってるのと小鳥のさえずりみたいな高音がそれっぽいなって」

「さすが、曜ちゃんね。千歌ちゃんに感想聞いたら、いいね! 好きだよ! くらいしか返ってこなかったのに」

「はっきりわかっていいんじゃない。千歌ちゃんらしい」

「らしいと言えばそうだけど」

一番に千歌ちゃんに聞かせたのかな。

43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 00:17:16.27 ID:hMuE1s630
「曜ちゃんにも、早く聞いて欲しくて」

「ありがと、いいね! 好きだよ」

「もおー、からかわないで」

「へへ、それで歌うの楽しみだなあ。梨子ちゃん、いつもありがとう。素敵な曲を考えてくれて」

「曜ちゃんも、一緒に考えてみる?」

「ええ、私は無理だよ」

「曜ちゃんならすぐできちゃいそうだけど」

「だいたい、梨子ちゃん以外あり得ないし……え、まさか引退宣言」

「そ、そうじゃないけど……一緒に作曲できたら楽しそうだなって思って」

確かに、一人ですることが多いだろうから、プレッシャーもあるだろう。

「そうだねえ、あ、それこそ千歌ちゃんとすればいいのに」

「そこは3人でって言って欲しいな」

梨子ちゃんはイヤホンをかばんにしまう。
ちょっと嫌味っぽくなってしまったかな。
敏感になり過ぎるのも良くないよね。

「じゃあ、3人で」

私は小指を出す。梨子ちゃんが笑う。

「3人で」

小指がきゅっと結ばれた。

「3人か……」

梨子ちゃんがもう一度言った。
言っただけで、その後に続く言葉はなかった。

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 01:10:38.36 ID:BOB5Gdsuo
胸糞大好き
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:15:35.97 ID:hMuE1s630
途中温泉旅館の看板とかもあって、千歌ちゃんとどう? なんて言いそうになったけど、野暮かなと思って胸にしまっておいた。
二人のために何かしよう、というのはそれなりに気を遣う。梨子ちゃんはそんな私をきっと見抜いている。
でも、落ち着かないのだ。そんなことでもしていないと、余計な事を考えてしまう。

バス1台がやっと通れそうな狭い道を越え、木々が開けた。
視界いっぱいに青空が広がり、遠くには陽の光を受けて白く霞んだ水平線が見えた。

「うわあ、見て! 梨子ちゃん!」

通路側に座っていた梨子ちゃんの服の裾を掴んだ。

「絶景……ね」

すぐに、バスが駐車場に停まる。私は待ちきれずに駆けだした。

「待って、曜ちゃんってば」

「早く早くッ」

バスにずっと乗っていたせいかよろめく梨子ちゃんの手を取ってやる。

「ほら、梨子ちゃん」

「ええ」

何組かの恋人たちが大きな手のモニュメントの前に立って、寄り添い合いながら展望していた。遠くまで見渡せる良いスポットだ。
手のモニュメントの隣に、『こいびとみさき といおんせん けっこん』と書かれた看板。

「結婚式とか、こういう所でしたら理想だよね」

「曜ちゃん、意外と乙女なんだ」

「そういう梨子ちゃんは?」

「私も」

「結婚式には呼んでよね」

肘で梨子ちゃんを小突く。

「そんなのまだまだ考えてないわよ」

「私も」

恋愛の終わりは、結婚なのかな。
千歌ちゃんの気持ちは、どこまで本気なんだろう。

「色々大変だと思うけど、千歌ちゃんと梨子ちゃんなら大丈夫」

私は根拠のないまま梨子ちゃんに笑いかける。

「ここってね」

と、梨子ちゃんが私の手を握って、青銅の小さな鐘のある方へ引っ張っていく。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:33:34.00 ID:hMuE1s630
「恋人同士が愛を確かめ合うために鐘を鳴らすの」

すでに一組の、というか先ほどいちゃついていた美男美女カップルが、鐘を鳴らしていた。

「らしいね、あ、梨子ちゃん私と先にやっちゃう?」

私は口元をにやつかせる。

「曜ちゃんがいいなら、いいわよ」

「冗談だよ、怒られちゃう。千歌ちゃんと昼ドラしたくないし」

梨子ちゃんも本気ではないと思っていたからこそ、私はそう言ったしそう言えた。
美男美女カップルが幸せそうに見つめ合いながら、キスをしていた。
彼女の方が恥ずかしそうにしていて、彼氏の影に隠れるようにして去っていく。

「いいなあ」

私は呟く。

「……そうね」

「私にも、私の事好きになってくれる人が現れないかな」

ちょっと興奮して、鼻息が荒くなった。

「でも、自分が好きじゃなかったらどうするの」

「一人くらいいてもいいんじゃないかな」

「曜ちゃんのこと好きって友達ならたくさんいるでしょ」

「友達は、うん、まあ……じゃなくて、恋人枠の方でって意味で」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:40:59.24 ID:hMuE1s630
「恋人として……か。なら、私」

急に潮風に鼻がむずむずして、

「私……曜ちゃんが好き」

「っくしゅ」

盛大にくしゃみをした。

「ご、ごめん、今なんて言ったの」

「曜ちゃん……もお」

「ごめんごめん、それで?」

「言わない」

梨子ちゃんが拗ねたように、顔を背けた。

「ええッ」

そんな大事な事を言ったのだろうか。

「ごめん、梨子ちゃん〜」

一人で、梨子ちゃんは鐘を鳴らし始める。

「ここね、愛を確かめるだけじゃなくて、愛の成就も願う場所なの」

それにしては、乱暴に鐘を鳴らしているような。
ガンガンガン、と鳴らし終えて、梨子ちゃんが空を仰ぐ。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:48:48.18 ID:hMuE1s630
「成就して、戻れなくなるのがいいのか、それとも今のままがいいのか……どっちだろ」

梨子ちゃんが言った。

「結婚のこと?」

「……うん、そんな所」

「それは簡単だよ」

私は同じように空を見上げた。

「自分の気持ちに正直に。寂しい事、辛い事そういうのも含めて、それでもいいと思える方を選べばいいよ」

「そっか……そうね」

「千歌ちゃんと付き合った事、後悔してるの?」

私はさすがに梨子ちゃんの様子がおかしいと思って、聞いてしまった。
梨子ちゃんはすぐには何も言わなかった。

「知らなかったの……」

彼女は右手の拳を口元において、

「人を好きになること、人に好きになってもらうこと。それがどういうことか、私、本当の意味で分かってなかった」

語尾が震えていた。

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:57:34.86 ID:hMuE1s630
「ね、教えて。私、責めたりなんてしないから、梨子ちゃんは何を迷ってるの……?」

私は梨子ちゃんの横顔を覗く。ぎょっとした。泣いていた。

「り、梨子ちゃん、どうしたの」

「ばか、ばか曜ちゃん……」

「ええッ」

ポケットからハンカチを取り出す前に、梨子ちゃんが私の胸に抱きついて嗚咽を漏らし始めた。
人目もあって、私は抱きかかえるようにして、端っこのベンチに座らせる。

「よしよし」

「子ども扱いしないで」

「子どもじゃん。人目も気にせず泣き出しちゃうようなさ」

「だって、止まら、なくて」

ハンカチで目元を拭ってやる。

「なんで、泣くの、もお」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:04:19.91 ID:hMuE1s630
しばらく、背中をさすってあげた。その内に落ち着いたようで、涙も止まった。

「はー……」

頭を抱える梨子ちゃん。

「泣いたね」

「ええ、泣いたわ」

「もお、泣くことない?」

「ない」

赤い鼻を隠すように、両手で顔を覆っていた。
梨子ちゃんを元気づけようと面白い顔をしてみたら、睨まれた。どうしろと。

「梨子ちゃんが、こんな感情屋とは知らなかった」

「もっと冷たいって?」

「普段は大人っぽいし」

「二人が元気良すぎるからじゃない」

「ごもっとも」


51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:13:38.54 ID:hMuE1s630
いつもの調子を取り戻しつつある梨子ちゃんにほっとする。
鼻をすすりながら、梨子ちゃんが、

「今日は、ありがと。付き合ってくれて」

「どういたしまして」

「泣いたこと、誰にも言わないで」

「うん」

「私とここに来たことも」

「……うん」

「あと、ハンカチ、ありがと……洗って返すわね」

「あ、ちょっとそれ貸して」

瞼の赤い梨子ちゃんに気付き、私は立ち上がって、ハンカチを目の前にあった水道で軽く濡らした。

「これ、しばらく目に当てておいて。泣き腫れて面白い顔になってるから」

「面白いって言わないでよ」

「ふふッ……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:20:50.28 ID:hMuE1s630
そう言えば、入り口にソフトクリーム売ってたっけ。

「梨子ちゃん、ちょっとお手洗い行ってくるから、一人でお留守番できる?」

「できる……」

「よし、良い子だ」

「でも、早く帰ってきて」

「ヨーソロ」

梨子ちゃんが、可愛い。
こういう我がままも千歌ちゃんにだけ見せているような気さえしていて。
そうじゃなかった。視界が狭くなっていただけで、嫌なように自分で捉えていただけなのかもしれない。
私は、千歌ちゃんの事が大切だけど、同じようにたくさんの思い出を作ってきた梨子ちゃんの事も大切なんだ。

大切で、大好きなんだ。

「バカ曜だ……」

それなのに、梨子ちゃんが何に悩んでいるのかさえ分からない。
どれだけ見ていなかったんだ、って話だ。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:29:10.80 ID:hMuE1s630
一歩引いてしまって、関係を進めようとしなかった。
なら、今の結果は当然だと思う。仕方がないと思う。

「おじさん、ソフトクリーム二つください」

「はいよ」

「チョコとバニラで」

「ちょっと待ちな。お嬢ちゃん可愛いから、同じ値段で二つミックスしてあげるよ」

「やった! ありがと、おじさん! 紳士!」

「友だち大丈夫かい?」

見られてたみたい。

「あ、は、はい」

「失恋でもしたのかい? ここは、片想いの子が泣きに来ることもあるからねえ」

片想いか。私も、似たようなものなのかも。
梨子ちゃんは、もしかして、まさかね。
なら、相手は誰だってなるし。
そもそも、なんで千歌ちゃんと付き合ったのってなるもんね。

「はい、ミックス二つ」

「ありがとうございます」

お辞儀を一つして、私は梨子ちゃんの元へ走った。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:39:04.82 ID:hMuE1s630
梨子ちゃんはまだハンカチを目元に当てていて、私が砂利を踏んだ音にびくりとした。

「はい、どうぞ」

「え、あ、曜ちゃん……ありがと」

「溶けちゃうから、早く食べて食べて」

お財布を取り出そうとした梨子ちゃんに先手を打つ。
私自身も、先からぱくりと食べた。うんまい。

「これで、元気出して。それでね、後悔せずに進んじゃいな!」

梨子ちゃんが目を瞬かせる。

「うーん、バニラとチョコのミックスはやっぱり美味い! やっぱり別腹だ!」

「甘いね」

「舌がとろけますなあ……景色もいいし。隣には半べそで可愛い梨子ちゃんがいるし」

「やだ、もお……止めてよっ」

「えへへっ」

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:57:53.33 ID:hMuE1s630
「ありがと、もう、平気だから」

小さな舌でクリームを舐める。
それは強がりだ。分かってしまうくらいには、今日は梨子ちゃんはどこかおかしかった。
素直になって欲しいし、千歌ちゃんみたいに何でも話して欲しい。

「私じゃ、千歌ちゃんみたいになれないけど、私、梨子ちゃんが思ってるより、梨子ちゃんのこと大切だからね」

「曜ちゃん……ずるい、ずるいわよ。そんなこと言わないで」

「どうして、本当の事だよ。だから、話して欲しい」

「後悔しても知らないから」

「うん」

「……怒らないで、聞いてね」

梨子ちゃんは、最後の一口を頬張った。

「私、曜ちゃんが好きなの」

そして、予想しない一言を、とてもはっきりと言ったのだった。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:58:24.37 ID:hMuE1s630
今日はここまで
また
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 03:10:17.14 ID:MwrA5p+ho
ここからどうなっていくか楽しみ
勢いよく胸くそというのが、どのくらいのことなのか
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 16:38:33.75 ID:5UmJj5jy0
>>57
殺し合いとかはおきないです
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 17:17:33.64 ID:5UmJj5jy0
「って言ったらびっくりする?」

私は何も言えないまま固まっていた。

「おーい、曜ちゃん」

「はっ……ごほっ!? げほっ!?」

「だ、大丈夫!?」

「息、してなかった……ごほっ」

梨子ちゃんが私の背中をさする。

「梨子ちゃん、この流れでそういう冗談言わないでよ!」

「冗談か……うん、ごめん」

「全く、怒るよ」

私がそう言ったので、反省したのか、俯きながらもう一度、梨子ちゃんはごめんねと言った。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 17:53:13.83 ID:5UmJj5jy0
「……あのね、私、千歌ちゃんに天使みたいって言われたの、私と出会えたのは奇跡なんだって」

確かに、不思議な出会いだったと聞いている。
海に一緒に落ちたんだっけ。

「くすぐったい言葉よね。運命だなんて……おおげさ」

「千歌ちゃんと梨子ちゃんが出会わなければ、Aqoursは存在しなかったかもしれないから、あながち間違いじゃないのかも」

「曜ちゃんまで……やめてよ。千歌ちゃん、私と一緒ならもっと輝けるんだって。そんなことないのに、千歌ちゃんがいたから私達はこうやって考えもしなかった事に挑戦できてる。でも、一番そばで千歌ちゃんを支えてきたのは、曜ちゃんだった。そうじゃない?」

「ど、どうかな」

「千歌ちゃんが曜ちゃんを頼りにしてるのも知ってたから、だから、千歌ちゃんが私に告白してきた時に断ったの。私よりも良い人が他にいるでしょって」

「え、断ったの?」

「そうよ」

「でも、付き合ってるって」

「千歌ちゃんが1ヶ月だけでいいからって言ったの。それで、何も変わらなかったら無かったことにしようって」

「そういうことだったんだ……」

契約社員みたいな付き合い方。

「私、その時にはっきり断れば良かった。でも、断れなくて、他にもその、色々あって」

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 18:04:48.67 ID:5UmJj5jy0
「で、好きでもないのに付き合って、悩んでるってこと?」

「まとめると、そう、です」

梨子ちゃんは深いため息を吐いた。
ため息を吐きたいのは私もだった。

「なんでそんな状態のまま、二人とも私にカミングアウトしてきたのさ」

混乱するじゃんか。
だいたい、別れたりしたらどうするのさ。

「死なばもろとも……」

梨子ちゃんがぼそりと呟いた。
なんて理不尽な。

「いくら私でも、そんな博打乗れないよ。どうするの、これから一ヶ月耐えるの?」

「千歌ちゃんが、私の事好きじゃなくなったら……解決するのよ」

「怖い事言わないでよ、梨子ちゃん」

「だって、契約期間が終わっても、千歌ちゃんの気持ちが消えなかったら? 針のむしろなのよ? それは、曜ちゃんも同じよ?」

まさか、それを利用するために、私に伝えたのか。
梨子ちゃん、恐ろしい子。



62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 18:19:07.55 ID:5UmJj5jy0
ああ、でも一番恐ろしいのは自分だ。
梨子ちゃんが、千歌ちゃんに全く好意を寄せてないことが、嬉しくてたまらないんだから。
千歌ちゃんが、一ヶ月経って、梨子ちゃんと別れてしまえば、彼女の事を慰めることができる。
私はそれを自然に行える立場にある。

嫌になる。口ではどうとでも言えるから。

「千歌ちゃんの気持ちはどうなるのさ。私、千歌ちゃんを哀しませるようなことしたくない」

「私だって、そうよ……だから、さりげない行動で千歌ちゃんの気持ちを自然に遠ざけたいの」

「梨子ちゃん、自分で何言ってるか分かってる? 最低な事言ってるよ」

「知ってるわ」

「そう。悪いけど、協力はできない。一ヶ月、梨子ちゃんが頑張ってもらうしかないね」

私は立ち上がって、ゴミ箱にソフトクリームの包みを投げ入れた。

「帰ろうか」

背後で、梨子ちゃんも立ち上がる。

「待って、それで、もし私たちが付き合うことになっても、曜ちゃんはいいの?」

「何の事? 私の許可なんていらないじゃんか」

歩みを止めずに、バスの停留所へ向かう。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 21:58:17.02 ID:gLUqfg7f0
「曜ちゃん!」

梨子ちゃんが私の腕を掴んだ。

「帰るよ」

掴んだ腕を気にせずに、そのまま進む。

「いくじなし……」

「聞き捨てならないね」

私は立ち止まる。
まさか、梨子ちゃんと睨みあうことになるなんて。
でも、それもすぐに中断された。バスが到着したのだ。

「行くよ、梨子ちゃん」

帰りは二人とも1時間ずっと無言だった。
あのカップルは乗ってなかった。
乗ってなくて良かったと思った。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:43:43.86 ID:gLUqfg7f0
次の日、私と梨子ちゃんは何も無かったように教室で会話していた。
千歌ちゃんは私たちの間で起こった出来事に勘付くことはなかった。
放課後、飛び込みの後輩にアドバイスを求められたので、後で合流すると伝えて1年の教室へ向かった。

たぶん、今日は梨子ちゃんの新曲お披露目会。
後半に歌詞とか振付とか話し合うと思うから、それに間に合うように行ければ大丈夫。


「先輩、曜先輩! いた、いたたた!?」

「大丈夫、キミ柔軟性高いんだから、これ生かさないともったいないよ。さ、じゃ、さっき私が確認した所やってみようか。あと、踏切りで台に体が当たるかもって恐怖心は、慣れるしかないから何度も練習あるのみだね!」

「そんな簡単に言わないでください……」

後輩ちゃんは、柔軟性はあるのだけど度胸がない。
でも、私に憧れて高飛び込みの世界に飛び込んだって言っていたので、素直にすごいなと思った。
憧れても、高飛び込みを始める人って言うのは少ない。特に女の子は。

「慣れたら、えび型の練習もしていこうね」

「ふあ、ふあい……」

ストレッチでフラフラの後輩ちゃんの頭をポンポンと撫でる。

「なんだか始めた時より、良い顔になってきたよ!」

「そ、そうですか……?」

「うん。最初はモヤシみたいな子だなって思ったもん」

「もやし……。そうですね、私、弱肉強食で言うと草食動物にすら食べられる側だと思います」

「そ、そこまでは言ってないけど、自信は後からついてくるものだから、今から少しづつだよ! ね!」

「……ありがとうございます」

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:57:54.42 ID:gLUqfg7f0
「よーし、じゃあ、せっかくだし最後に軽く校庭10周くらいして」

「え、え、あ、あの、は、はい!」

後輩ちゃんの顔が引きつっている。

「そんなに怯えなくても、いーじゃん! でも、軽くランニングしてから帰ると気合い入るよっ」

「よ、よーそろ」

「お、いいね、よーしじゃあ校庭までダッシュだー!」

私はぱっと敬礼して、すぐさま教室を飛び出した。

「ま、まって先輩」

後輩ちゃんは意外と忍耐がある。
私の無茶ぶりにもけっこう答えてくれるし。考えるより体が動くタイプらしい。
そういう所は、なんだか自分にちょっと似てて面白い。

下駄箱まで来た所で、後輩ちゃんが立ち止まった。

「どーしたの?」

「あ、いえ……」

不思議に思い、近寄ると、

「ご、ごめんなさい。靴……使えないです」

「どういう意味……あ」

彼女の靴は、ハサミか何かで無残にも切り刻まれていた。
私は後輩ちゃんの肩を掴む。後輩ちゃんの目尻に涙が溜まっていた。

「っ……ひっ」

どうして、と尋ねることもできずに、彼女の体を抱きしめる。
誰が、こんなことを。

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:08:48.89 ID:gLUqfg7f0
その日は、後輩ちゃんの靴を買ってきて、彼女を家まで送っていったのでAqoursの方には行けなかった。
彼女が帰宅途中にぽつりと漏らした言葉を家まで持って帰って、頭を悩ませていた。

後輩が言うには、前にもこんな事があって、詳細は聞けなかったけど、犯人像はなんとなく浮かんでいるらしい。

「私のファンの嫉妬って……どゆことー」

後輩ちゃんが私と仲良くし始めたので、コアなファンが過激な行動をしているとのこと。

「なんざんしょ……モテモテで辛い?」

でも、これはさすがにやり過ぎ。
嫉妬、怖い。

「はあ」

ベッドの上で大の字になって、天井を見上げた。

「なんで、平和にできないかなあ……」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:27:29.19 ID:gLUqfg7f0
自分の気持ちを信じて、真っ直ぐ進めばいいのに。
どうして他人に危害を加えようとするのかな。
わっかんない。
誰かを巻き込むのは、楽しい事だけにして欲しいね。

ふいに梨子ちゃんと千歌ちゃんの顔が浮かんで来た。
枕に顔を埋めて消そうとするけど、消えてくれない。

「うー……」

センチメンタルジャーニー。
どうした、曜ちゃん。いつもの曜ちゃんらしくないぞ。
あの二人が付き合うって聞いた時から、もやもやしっぱなしじゃないか。

「あー……」

『ちょっと嫉妬ファイヤー』

鞠莉ちゃんの言葉が脳裏に蘇る。
そういうの、いいから。
付き合うなら、付き合って楽しんじゃえばいいじゃない。
嫌な感情。それを向けたくない。梨子ちゃんにも千歌ちゃんにも。
昨日の私もどうかしている。ホント、自己嫌悪。

「えー……」

筋トレ、しよ。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:51:15.65 ID:gLUqfg7f0
数日が経ち、後輩の様子が気になった私は、朝に一年の教室を覗きに行った。
後輩の姿は無く、近くにいた生徒に聞くと、ちょっと前からずっと欠席していると教えてくれた。
大丈夫かな。先生とかに言った方がいいのか。でも、かえってかき乱してしまうかもしれない。

「あれ、曜ちゃん?」

「あ、花丸ちゃん」

「一年の教室にいるなんて珍しいずら」

「高飛び込みの後輩に会いに来たんだけど」

「誰ずら?」

「えっと、あそこの席の」

「あー……あの子、善子ちゃんと同じくらい学校に来たり来なかったりしてる」

後ろから、

「ちょっと、ずら丸聞き捨てならないんですけど!?」

「善子ちゃん、黒い羽根落としたよ」

と、善子ちゃんとルビィちゃん。

「お、落としてないわよ!」

相変わらず、元気がいい。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:05:51.57 ID:Iipaznu40
訂正:ずら丸「曜ちゃん」→「曜さん」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:31:17.92 ID:Iipaznu40
善子ちゃんがルビィちゃんに、謎の技名を叫びながらプロレス技をかけ始める。
それを横目に見ながら、花丸ちゃんが、

「最近、元気なかったのそのせいずら?」

「え?」

「無理、してそうだったから」

ゆったりと続ける。

「ううん、無理して合わせてるみたい。いつかの善子ちゃんみたいに」

「そんなこと、ないよ」

優しい顔だった。
そう言えば、花丸ちゃんと善子ちゃんは幼稚園の時からの友だちだったっけ。
花丸ちゃんの言葉を否定したけれど、彼女は気にせず柔らかく笑っていた。

「曜さんは、ちょっと脳筋な所があるくらいでちょうどいい、とまるは思うずら」

「脳筋て……」

「ごめんなさい、余計なこと言って」

「ううん」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:48:49.67 ID:Iipaznu40
「こら、善子ちゃん、止めるずら」

花丸ちゃんが後ろで騒いでいた二人の仲裁に入る。

「花丸ちゃん、もし、後輩ちゃん来たら教えてね」

「はい」

意外と、人は見てないようで見ているものだ。
もしかしたら、他にも気付いているのかな。
言わないのは優しさなのかもしれない。

教室に戻ると、千歌ちゃんが新曲の歌詞を梨子ちゃんと考えていた。
私が行かなかった日に、二人で歌詞を考えるという流れになったらしい。
詳しい経緯は知らないけれど。

そんな二人の空間に、やはり、何か見えない壁のようなものがあって。
何も考えなければ簡単に崩せるのに、どうしたって余計なことばかり考えてしまうのだ。

「あ、曜ちゃんお帰りー。後輩ちゃんいた?」

「ううん、ずっと休んでるみたい」

「え〜、心配だねっ? お家とか行く?」

千歌ちゃんがペンを置く。

「そこまでは、もう少し様子見てからね」

「でも、曜ちゃんファンてたくさんいるからね……曜ちゃん、言動には気をつけないとね」

「有名アイドルじゃあるまいし」

「でも、何か起こってからじゃ遅いわよ。気をつけてね、曜ちゃん」

歌詞カードから目を離し、梨子ちゃん真面目な顔つきで言った。
二人とも心配してくれているみたい。

「うん」

いつも通り。それが一番で。
私がそれを望んで、行動すればいいだけだと、そう思っていた。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:49:30.33 ID:Iipaznu40
今日はここまで
ヨーソロー
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/30(火) 00:56:53.99 ID:nPjqLheJ0
めっちゃいいのにエタるのはもったいない
続き書きたいくらい
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 00:58:16.21 ID:f8XOYYiho
こわいこわい
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:01:00.87 ID:Iipaznu40
>>73
エタりそうな時はよろしくお願いします

>>74
みんな良い子なんですけどね
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 01:13:01.23 ID:lvPOMWETo
2年生3人だけじゃなくて、後輩ちゃんも心配になる。いじめダメ絶対
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:20:33.25 ID:Iipaznu40
>>76
後輩ちゃんにもスポットライト当てれたらと思います
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 08:34:01.02 ID:3ugvUN/SO
>>73
早漏かよ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:37:27.47 ID:yv3CM1f/0
日曜日になった。梨子ちゃんと千歌ちゃんのデートの日だ。
ベッドから起きて、朝ごはんを食べるまで、そればかり考えていた。
なぜか、来るはずのない着信を気にしていた。
やっぱり、二人だけだと緊張するから曜ちゃんも来て欲しい。
そんな言葉をどこかで期待していた。

千歌ちゃんに頼りにされたいからか。
梨子ちゃんに頼って欲しいからか。
まだ、みっともなく私のポジションを探している。

「そうだ、衣装……作らないと」

昼からは高飛び込みのレッスンがある。
花丸ちゃんが振りつけで分かりにくい所があると言っていたから、レッスンが終わったらそっちに向かって。
ほら、他人のデートの事を気にしてる暇なんてない。

パソコンの電源を入れ、体育座りで眼鏡をかける。
USBを差し込んで、図書館で借りて来た次の衣装に使えそうなページを探した。
あと、30分もすれば二人が電車に乗るだろう。
1時間もすれば、恋人岬だ。

「あれ」

なぜか、画面に恋人岬のホームページが表示されている。
おかしい。誰が操作したんだろう。私? 私か。そりゃそうだ。

「……やだなあ」

膝に顔を埋める。
椅子が軋んで音を立てた。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:52:39.04 ID:yv3CM1f/0
一人でいると、ダメだ。無限に湧き出てくる感情に振り回される。
梨子ちゃんは私の千歌ちゃんに対する弱音を聞いたことがあるから、きっと、心配してくれるんだろう。
千歌ちゃんは幼馴染みの私なら大丈夫だと心から信頼してくれてるから、何も言わないんだろう。
そう思わないとやってられない。
だって、もし、違ってたら?

梨子ちゃんは私がまた梨子ちゃんを傷つけるかもしれないから、牽制してるだけでは?
千歌ちゃんは私が梨子ちゃんといると、梨子ちゃんが私に気を遣ってしまうから、あえて何も言わないのでは?
あの二人、本当は私を遠ざけようとしていない?
私はやっぱり邪魔になってない?
重たい私のこと、実は愛想尽かしてるんじゃない?

眼鏡が膝に当たり過ぎてみしっと鳴った。
顔を上げる。画面が黒くなっている。
自分の顔が映っていて、今、一番見たくないもののように、私はパソコンを閉じた。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:06:00.35 ID:yv3CM1f/0
次から、梨子ちゃん視点です
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:14:26.79 ID:yv3CM1f/0
今日は少し日差しがきつかった。
駅の構内のベンチで涼んでいたら、千歌ちゃんが太陽より眩しいと言っても過言ではない笑顔で、手を振っていた。

「千歌ちゃん、今、何時何分でしょう」

「はい! 待ち合わせから30分程経っております!」

「分かってるなら何か言うべきことがあるわよね?」

「ごめんなさい!」

悪気が無さそうなのに、精一杯頭を下げる千歌ちゃん。
こういうのが一番性質が悪い。怒るに怒れない。

「もお、いいわよ。言い訳は、電車の中でじっくり聞かせてもらうから。それより、早く! 電車遅れるわよ」

あれ。
デジャブだわ。
そっか、曜ちゃんも遅れて来たんだっけ。
さすが幼馴染。そんな所、似ちゃうのかしら。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:43:19.67 ID:yv3CM1f/0
以前曜ちゃんと一緒に行った時よりも、電車は空いていた。
千歌ちゃんと微妙に近いかな、という距離で隣同士に座る。

「うわあ〜! ワクワクするねえ!」

手足をジタバタさせて、小学生のようにはしゃぐ千歌ちゃん。

「落ち着いて、まだ見慣れた風景しか映ってないからね」

「そ、そうだね。でも、昨日の夜から興奮して眠れなくてっ」

「千歌ちゃん、目にクマが」

「うええっ」

「ウソだけど」

「もお、梨子ちゃん! あ、ねえ、あそこ歩いてるの果南ちゃんと鞠莉ちゃんじゃない? おーい!」

聞こえるはずもないのだけど、奇跡的に気づいた二人がこちらに手を振っていた。
さすが千歌ちゃん。探査機みたいだわ。
電車が加速していく。

「ひゃっ!?」

私の太ももにダイブするように、千歌ちゃんが態勢を崩した。

「えへへ……」

可愛らしい笑顔で、ぺろりと舌を出す。
男の子だったら、たぶん悩殺されていたかも。

「ちゃんと座ってね」

「はーい」

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:05:12.80 ID:CWTImbsX0
元気な子犬のような千歌ちゃん。
私をスクールアイドルに誘ってくれた千歌ちゃん。
私の今は、きっとこの子によって輝いていて。
千歌ちゃんを好きにならない理由なんて、きっとないのに。

先日、曜ちゃんが私を電車の人並みから守ってくれた事を思い出す。
ドキドキした。曜ちゃんは全く気付いていないようだったけど。
あのまま、ずっと目の前にいてくれたらいいのになんて。
首筋を見られた事さえ、何度も思い出してはにやけてしまった。

千歌ちゃんの首筋を盗み見る。
もし、これが曜ちゃんだったら。
たぶん抱き着きたくなってた。
千歌ちゃんは、どうしても友達という面が強すぎて、恋愛対象に見れない。
ましてや私より女の子らしい彼女に、恋人としてどう接したらいいのか全然分からない。

「梨子ちゃんどうしたの?」

「うん、今日の服、可愛いなって」

「あ、これね、前に曜ちゃんに選んでもらって買ったんだけど、デートに着ていく服って想定で……まさか、使うとは思わなかったけど……あはは」

「そうなんだ」

曜ちゃんとね。
相変わらず鈍感な千歌ちゃん。
私は何食わぬ顔で洋服についていたリボンを手に取る。

「り、梨子ちゃん?! ち、近い近い」

「いいなあ」

「ええ?」

曜ちゃんに服を選んでもらって。
さすが、曜ちゃん。千歌ちゃんにぴったり。
羨ましいな。

「曜ちゃんに頼んでおこうか?」

何も考えて無さそうな千歌ちゃんが、言った。

「ううん、ありがと」

だから、私、千歌ちゃんとはダメなのね。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:07:51.93 ID:CWTImbsX0
ここまで。また明日。
千歌ちゃんはただ良い子なだけなんです……。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 02:31:12.16 ID:Zv64EGAdo
千歌ちゃんの優しさが無自覚に誰かを傷つけるって辛いよね…
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/31(水) 03:42:33.62 ID:9xeSvB6V0
この先がわからない感が良いと同時にもどかしい
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 23:22:40.71 ID:yRerjQQ80
千歌ちゃんは、曜ちゃんがいることをすごく当たり前に感じてて。
それはきっと家族みたいなもので。離れても、同じ場所にいるって分かってるんだ。
そんな、目に見えない繋がりが、私に引け目を感じさせる。
私がいることで、千歌ちゃんがいることで、私も曜ちゃんも同じような悩みを抱えていると思う。
でも、千歌ちゃんは違う。本当の天使は千歌ちゃんだ。
綺麗でまっすぐで、眩し過ぎて。ずっと見ていては、灰になってしまうかもと――。

「それより、次、曜ちゃんどんな服を考えてくるかしら。楽しみね」

少しだけ、話題を逸らす。

「だね! ルビィちゃんも勉強してるって言ってたから、きっと二人で素敵な衣装をデザインしてくれるはずだよ! めちゃくちゃ楽しみだぁ」

「あとは、歌詞だけど」

「うーん、歌詞だよねぇ。最終的に、花丸ちゃんに赤ペン先生してもらうんだけど……梨子ちゃん、曲も作ってくれた上に、歌詞もお願いしちゃってごめんね」

「それはいいけど、どうして曜ちゃんも誘わなかったの?」

そこだけが引っかかっていた。
曜ちゃんもあえて触れてこなかったけど、気にしているに違いない。
千歌ちゃんはさらりと無自覚にやってしまうから。

「え、だって曜ちゃん衣装作ってくれてるし……それに、次の歌はね、曜ちゃんには内緒にしておきたいの」

どういうことだろうか。

「梨子ちゃんの曲聞いてね、なんでか分からないけど、曜ちゃんを思い出したの」

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 23:42:26.04 ID:yRerjQQ80
千歌ちゃんが小さく笑う。

「いつも応援してくれる曜ちゃんを思い出して……曜ちゃんにありがとうって気持ちを込めて歌詞を作りたいなって! ごめんね、言ってなくて。曜ちゃんがいる所では言えなくて」

「ううん……そんなこと」

「なんだか、この曲、曜ちゃんっぽくて、曜ちゃんのために作ったんじゃないのかな、なんて思ったり。違ったかな?」

「えっと、朝焼けの海をイメージしたからかも」

ウソだ。
千歌ちゃんの言う通りだ。
私は、曜ちゃんへの想いを込めて作った。

「朝焼けの海かあ〜。じゃあ、やっぱり曜ちゃんだ!」

「そう、かもしれないね……」

千歌ちゃんは、さらりと、無自覚に、ふいに核心をついてくる。
彼女に触発されて、私は少しだけ曲に込めた想いを吐露した。

「勝手な解釈なんだけど、内浦の朝焼けがね綺麗に輝くのは、陽の光を浴びる海があるからだと思うの。きらきら反射して、でも決して太陽とともに空に上がることはないでしょ。太陽を海はただじっと見ていて、また昇る時を待つの。必ず、昇ることを確信してる。波も立つし、嵐も来るけど、それでも陽の光を浴びて、海はきらきらと輝く。それがいいなって思って……そんなイメージでつくったのよ」

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:02:38.10 ID:aZm27pw50
「うわぁ、いい! すっごくいい! もお、早く教えてよ!」

「ちょっと恥ずかしくて」

勘の鋭い3年生組に、変な誤解を受けたくなかったのもある。

「じゃあ、梨子ちゃんは、そんな素敵な風景があったことを覚えててくれる鳥さんだね」

「と、鳥さん?」

「別にカニとか、ウドンコでもいいけど」

「ごめん、鳥でいいみたい」

「よーし、俄然やる気が出て来たぞ〜!」

拳を握って高く掲げる、千歌ちゃん。
その目は、もう目の前のことしか頭にないって感じで。
きっと、曜ちゃんは、こんな千歌ちゃんを小さい頃に見ていたんだ。
私だって、友達として、スクールアイドルの仲間として、こんなにも素敵だと思える人間に出会った事なんてない。

「千歌ちゃん、し〜」

「あ」

周囲の人が何事かとこちらを見やる。
私たちは、苦笑いでぺこぺこと頭を下げた。

「うへえ……あ、梨子ちゃん、あと1駅だって」

私の手を握って、千歌ちゃんが体を揺らす。

「ええ」

そのスキンシップは、でも、私の心臓を昂ぶらせない。
友達だから。とても大好きな友達だから。
キスをしたいとさえ思わない。
私と千歌ちゃんの関係は、最高の状態で終わっているんだから。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:03:23.79 ID:aZm27pw50
ここまで。
寝ます。
友情ヨーソロ―……。
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