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男「余命1年?」女「……」
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125 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 22:36:54.80 ID:hFj05+0SO
女「本当に大丈夫ですよ、だって……」
男「ちょ……女さん! それ以上は……」
女「キャッ……男さん、服……濡れちゃいますよ?」
男「もう……濡れちゃったよ」
男(靴の中に、海水が入り込んで……膝下までビッチョビチョだ)
女「だって男さん、水着じゃないのに……」
126 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 22:37:24.12 ID:hFj05+0SO
男「流石に、泳ぐのはマズいって。俺だって、ちゃんと調べたんだから」
女「……どうやって?」
男「それは……インターネットとか」
女「……フフ。男さんらしいですね」
女「でも、大丈夫です。自分の身体の事は、自分がよくわかってますから」
男「いや……だって」
127 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 22:37:55.13 ID:hFj05+0SO
女「泳げますよ」
男「……女……さん?」
女「……泳げますよ? ちゃんと……健康な人と、同じように」
男(女さん、腕が……微かに、震えてる)
男「……女さん」
女「……はい」
男「……帰ろう、ホテルに」
128 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:19:21.95 ID:hFj05+0SO
女「フンフーン♪」
男(シャワーの……水の音が……)
男(別に、やましい事してるわけでもないのに……)
女『男さんが先に入ってください! 服が濡れて、ビショビショなんですから。風邪引いちゃいますよ?』
男(そう言われて、先にシャワー浴びたけど)
男(なんか……待機してるみたいで)
男「……アホかっ、何もねえよ」
129 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:19:58.23 ID:hFj05+0SO
男(だって、この旅行は……ただの取材なんだから、さ)
女「ふー、気持ちよかったー」
男「そう? ただのシャワーじゃん」
女「シャワーのお湯も、何だか高級感に溢れてますよね!」
男「そ、そう?」
男(意味が分からん。お湯が高級ってどーいう事なんだよ)
130 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:20:29.30 ID:hFj05+0SO
女「……なんか、男さん。浴衣カッコいいですね」
男「えっ……そ、そうかな」
男(そんなこと言ったら、女さんの方がよっぽど……)
男(風呂上がりのシャンプーの匂いとか、濡れた黒髪とか)
男(浴衣のせいで……強調された、身体のラインとか)
女「……なんですか、そんなにジロジロ見て」
男「え!? いや……その……ごめん、そんなつもりじゃ」
131 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:21:02.22 ID:hFj05+0SO
女「……もう。やっぱり、男さんは男さんですね」
男「……何言ってんの?」
男(女さん、背中向けて……ドライヤーかな?)
男(……冷蔵庫?)
女「これ、さっき買ってきたんですよ」
男「それ……ワインじゃん」
女「男さんがシャワー浴びてる間に、下のコンビニで買ってきちゃいました」
132 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:21:30.17 ID:hFj05+0SO
男(そんな……舌なんか出して)
男「もう20歳なんでしょ? 悪いことじゃないよ」
女「そうはいっても、中々慣れなくて。一人じゃ買ったことも無かったんですよ」
男「お酒は強いの?」
女「んー、そうでもないのかな。大学の友達と飲みに行ったときは、そんなに酔わなかったです」
男「へー、あんまり飲まないんだ?」
女「あ、いえ。ジョッキ三杯と、ワイン二杯くらい、友達と。あ、あと温かいのも、おちょこで飲んだかも」
男(メッチャ飲んでるやん……)
133 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:22:09.73 ID:hFj05+0SO
男「ふ、ふーん……とりあえず、開けようか」
男(あれ……)
男「女さん……これ、いくら?」
男(これ……コンビニに置いてるなんて。やっぱり高級ホテルは違うな)
女「……秘密です」
男「お金渡すよ。流石に悪いから」
女「いえいえ、いいんですよ。飛行機代も、ホテル代も、食事だって、お世話になりっぱなしですから」
男「それはそれでしょ。学生と社会人なんだからさ」
女「元、ですけどね。もう、律儀だなあー」
134 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:22:47.82 ID:hFj05+0SO
男(あれ、女さん……既に酔ってらっしゃる?)
男(そういえば、さっき若干それっぽい匂いがしたような)
女「もー、男さんは細かい事を気にし過ぎなんですよー」
男(なんか、身振りもいつもより大げさだし……)
男「女さん……いつの間に……」
女「男さんもジャンジャン飲んでください! 折角私が買ってきたんですから!」
男「ちょ……!」
男(近い近いデカい近い近い何かいい匂い!)
男「……もう、仕方ないな」
135 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:23:27.74 ID:hFj05+0SO
男(あー、なんか、いい気分になってきた)
女「男さん」
男「……ん? なに?」
女「男さんはー……ホントはゲイなんですか?」
男「は!?」
男(いきなり何言い出すんだこの子は!)
男「そんなわけないだろ!」
136 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:24:02.32 ID:hFj05+0SO
女「だってー、私を見ても、全然そんな風に見てくれないし」
男「そんな風にって……君ね」
女「男さん、私より、編集長? と話してる時の方が楽しそうですよ」
男「そ、そんなわけっ……」
女「じゃあー……」
男(な……胸、当たってるって)
男「女さん……腕にっ……」
女「じゃあ、男さんはー」
男(ええい耳元で囁くなあっ!)
137 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:24:41.54 ID:hFj05+0SO
男「女……さん!」
女「男さんは……私と話してて、楽しいですか?」
男「そりゃ……あ、楽しい……よ」
女「どんな風に?」
男「どんなって……君みたいな可愛い子と話せたら、嬉しいよ、男としても」
女「だって……この間、男さん……年上がタイプって言ってたじゃないですか。あれはどーいうことなんですか?」
男「いや……だから、そんなの関係なく、君は可愛くて……魅力的だってことだよ」
138 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:25:17.08 ID:hFj05+0SO
男(何言ってんだ俺……こんな歯の浮くようなセリフ、素面じゃ絶対言わないだろうに……)
女「……本当、ですか?」
男「俺が嘘つくような男に見える?」
女「……半分くらい?」
男「凄い微妙だね、それ」
女「……フフッ、そっかあ」
男「ちょっ……女さん!?」
男(抱き着いてきたああああああ!)
139 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:26:05.87 ID:hFj05+0SO
男(腕が……背中に……!)
男(胸に……顔を押し付けんなって!)
男「女さん! 流石に、これは……」
男「……?」
女「……スー……スー……」
男「……えぇ」
男(……マジかよ)
140 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:45:31.89 ID:hFj05+0SO
男(女さん……軽かったな)
男(こんな小さな身体のどこに、あの量の食べ物が入るんだろう)
男(……あ、女さんのバッグ)
男(ホント、どうしてこんなに大きなバッグが必要なんだか)
男(ちょっと中身、見てみるか?)
男(……いやいやいや、いくら何でもそれはマズいだろ)
141 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:46:05.36 ID:hFj05+0SO
男(……)チラッ
女「……スー……スー」
男(……少しだけなら、いいよな)
男(……えーっと、着替えと……化粧品か? あとは……ん?)
男(なんだ、この紙袋……やたら大きいな)
男(中身は……え、これ)
男(……見間違いじゃない。これは……)
142 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/21(日) 23:47:03.55 ID:hFj05+0SO
女「……スー……スー」
女『お父さんは、私の事なんてどうだっていいんですよ。もうすぐ……いなくなるんですから』
男(……酔いなんて、吹き飛んだ)
男(どこかで……夢なんじゃないかって、思ってたんだ)
男(それか、女さんの悪い冗談なんだって)
男(だって、そう思ってしまうくらい、女さんは元気に見えたから)
男(もしくは、病院の診療ミスとか……ちょっと大げさに言ってるだけで、実はたいしたことありませんでした、とか)
男(心のどこかで期待してたんだ、俺)
男(何を今更……こんなに、動揺してんだよ)
143 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:31:44.83 ID:Aj5iH/DBO
男(あの後……結局一睡もできなかった)
男(……果てしなく眠い)
女「……どうしたんですか、男さん。眠れなかったんですか?」
男「ああ、ちょっとね。そういう女さんは、すごく元気だね。昨日はよく眠れたかい?」
女「はい! なんだか、すっごく安心して眠れたような感じです!」
女「正直、昨日はどうやってベッドに入ったのか、記憶に無いんですけど」
女「男さん、何か覚えてます?」
144 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:32:20.52 ID:Aj5iH/DBO
男「いや……全く」
男(嘘だけど。ホントはメッチャ覚えてるけど)
男(お姫さまだっこで女さんをベッドに寝かせたってことは……言わないでおこう)
女「そっかー、仕方ないですね。仕方ない!今日はとことん遊びましょう!」
男「いや、後はもう帰るだけだよ」
女「ええ! どうしてですか!?」
男「だって、あんまり遅くなると、ほら……お父さんが心配するでしょ?」
145 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:32:48.90 ID:Aj5iH/DBO
女「……」
男(やっべ、失言だったか?)
男「……お土産、どっかで買って帰ろうか」
女「え、お土産ですか? ……いいですね! 何買っていこうかな!」
男(なんとか……誤魔化せたかな)
146 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:33:19.29 ID:Aj5iH/DBO
女「やっぱり、沖縄っていったらちんすこうですよねー!」
女「あっ、サーターアンダギーも捨てがたい!」
女「うーん、迷っちゃうなあ!」
男「あはは……好きなだけ買いなよ。お金は心配しないで」
女「えっ、いいんですか!? じゃあ……お言葉に甘えて!」
男「抱えすぎて落とすなよー」
男(もう……はしゃいでるなあ)
147 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:33:53.48 ID:Aj5iH/DBO
男(考えてみると、彼女にとっては今更薬なんて、大したことじゃないのだろう)
男(薬を一目見ただけで、こんなに動揺してしまうなんて……なんて情けないんだろう)
男(自分自身、こんなに弱いとは思わなかった)
男(それに比べて……女さんは、強いな)
男(不条理な運命を背負って、それでもなお、あんなに輝かしい笑顔を浮かべられるんだから)
148 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:34:22.61 ID:Aj5iH/DBO
女「否定しないんですね? 言いましたね?」
女「じゃあ……もし私が作ったら、食べてくれますか?」
男「そりゃあ……まあ……作ってくれるなら、食べるけど」
女「やった! 嘘は駄目ですからね? 男に二言は?」
男「……無いよ。なんだその確認の取り方」
女「フッフッフ……期待してくれてもいいんですよ? 私、これでも料理は好きなんです!」
男(ここで得意って言わないあたり、妙に謙虚なんだよなあ。……酒さえ入ってなければ、ね)
149 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:35:05.11 ID:Aj5iH/DBO
女「……男さーん」
男「……うん……起きてるよ、まだ……」
男(ヤバい……滅茶苦茶眠い)
男(行きの飛行機ではあんなに眠れなかったのに……寝不足だからかな。帰りの飛行機は、全部寝て過ごしそうな勢いだ)
男(せっかく女さんが起きてるのに……俺だけ寝ちゃったら申し訳ないし)
女「男さん……目が半開きですけど。ホントに起きてます?」
男「ああ……起きて……る」
女「フフッ……可愛いなあ」
150 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:35:47.78 ID:Aj5iH/DBO
男「男は……可愛いって言われても……嬉しくないよ……」
女「……男さん……もし」
男「うん……なに?」
女「……もし、昨日のホテルでの出来事を……私が全部覚えてるって言ったら……どうします?」
男(……覚えて? ホテル……何か、あったっけ?)
男(ああ……眠い。ごめん、女さん。もう、起きてられなさそうだよ)
女「……あらら、寝ちゃった」
女「…………ばか」
151 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:36:31.47 ID:Aj5iH/DBO
男「ふあーあ……よく寝た」
女「ホント、ぐっすりでしたね。私が起こさなかったら、危ない所でしたよ」
男「いやいや、流石にスタッフさんが起こしてくれるでしょ」
女「もう、そこは素直にありがとうって言ったらどうなんです?」
男「そうだね……うん、ありがとう」
女「いーえ、どーいたしまして!」
男(ホント……眩しいくらいの笑顔だ)
女「……じゃあ、ここでお別れですね」
男「え、いいの? まだ公園だよ?」
女「いいんですよ。まだこんなに明るいですし」
男「……そっか。それじゃあ、また」
152 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:37:19.31 ID:Aj5iH/DBO
女「男さん」
男「……ん? なんだい?」
女「あの……ありがとうございました。本当に、楽しかったです」
男「えっ……何だよ、改まって」
女「今回は……いいえ、今回だけじゃない」
女「私、男さんと出会ってから……楽しくて仕方が無いんです」
男「……俺と出会ってからって……担当についてからってこと?」
女「はい。……私、それまで、何をしても楽しくなかったんです」
153 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:37:56.35 ID:Aj5iH/DBO
女「お父さんといても、友達といても、テレビを見ていても、何をしても」
女「心の底から、楽しいって思える瞬間なんて……多分、一度だってなかった」
女「それなのに……あなたと出会ってから、私の人生は変わったんです」
女「あなたと話していると……あなたと一緒に歩いていると……色んなものが、輝いて見えた。美しく見えた」
女「初めてなんです……こんな気持ち」
男「……女……さん」
女「私……知ってるんです。この感情が、どういうものなのか」
154 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:38:38.78 ID:Aj5iH/DBO
女「こんな……みんなと違って、生まれつきのハンデを背負っている私は、きっと人生を楽しむ資格なんか無いんだって、そう思ってました」
女「でも、そんな私が変われたのは、全部……あなたのおかげなんです」
男「……そっか、良かったよ」
女「男さん……」
男(その時の、女さんの顔は……多分、俺は一生忘れられないんだと思う)
女「男さん……大好きです。あなたの事が、この世で、一番……好きです」
155 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/22(月) 00:39:52.52 ID:Aj5iH/DBO
ここで一旦区切りますが、まだ続きます。気長にお待ちくださると幸いです。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/22(月) 00:42:08.17 ID:TG3CSDSk0
告白きたあああああああああああああああ
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/22(月) 00:42:53.37 ID:TG3CSDSk0
気長に待ちますよ!
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/22(月) 00:44:36.25 ID:MZ/d7M6G0
乙
間黒男でも比良坂竜二でも大門未知子でも相良浩介でも誰でもいいから女さん治してやってくれや。
159 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/22(月) 00:50:01.66 ID:Aj5iH/DBO
申し訳ないです、
>>147
と
>>148
の間に入れ忘れました。↓に上げておきます。
160 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 00:50:36.95 ID:Aj5iH/DBO
女「男さん男さん! これ、タコライスの素ですって!」
男「……ごめん、流石にそれはもう要らない」
女「えー、つれないなあ」
男「逆に聞くけど、昨日の今日で、どうして、また食べようと思えるの?」
男「君の辞書には、飽きるっていう単語はないわけ?」
女「えー! 飽きちゃったんですか!? あんなにおいしかったのに!」
男「いや……それは否定しないけど」
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/22(月) 02:05:15.29 ID:jnqGNfj+o
キンタコ懐かしいぜ
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/22(月) 02:14:52.45 ID:1xfG4leS0
ラストまで頼むぞ
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/22(月) 04:22:59.37 ID:nz33EWkdO
女さんの恋愛遍歴きになる
164 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:43:26.40 ID:3mGHJagbO
男「す……好きって……」
女「男さん」
男「はっ……はい」
女「返事は……まだ要らないです。きっと、男さんにも色々と考えるところがあるでしょうから……」
男「えっと……その……」
女「ですから……単純に、今の気持ちを伝えたかった。ただそれだけなんです……迷惑でしたか?」
男「めっ……迷惑だなんて……とんでもないよ」
165 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:44:16.13 ID:3mGHJagbO
女「本当ですか……よかったあ」
男(女さん……今まで、見た事の無い表情だ)
男(顔は少し赤らんでるけど……落ち着いてるっていうか、今の気持ちを味わっている途中というか)
女「……それでは、今日はこれで失礼します」
男「うん……気を付けてね」
女「もう、気を付けるも何も、家はすぐそこですよう」
男「……!」ドキッ
男(だめだ……彼女の一言一行に、心が……揺れる)
男「ま……またね、女さん」
女「はい……また、明日」
166 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:44:59.15 ID:3mGHJagbO
男「はあー……」
男(結局、何も言わないまま帰ってきてしまった)
男「俺……告白されたのか?」
男(まさか……モテ期なんて、生涯一度も来なかった俺だけど)
男(女さんは、本当に俺を好きになってくれたんだろうか)
男(俺みたいな……冴えない男を?)
男(何かの夢じゃないのか……)
男(嬉しい半分……困惑もあって、素直に喜べないや)
167 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:46:09.49 ID:3mGHJagbO
男(……会いたい、な)
男(って、さっき別れたばかりなのに、気持ち悪すぎだろ)
男(そういえば、また明日って言ってたか?)
男(もしかして、また編集部に来てくれるんだろうか)
男(……早く、明日にならないかな)
168 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:46:44.94 ID:3mGHJagbO
女「男さん、よろしくお願いしますね!」
男「君……いくら何でも、早すぎない?」
男(結局、今日も編集部まで来てくれたけど)
男「まさか……一日足らずで、一冊分書いちゃったわけ?」
女「いえ、構想は大体練ってありました」
女「昨日全て書いたのは……その、できるだけ早く……あの時の気持ちを文字に書きおこしたかったので」
男(つまり……一日で書いたんじゃねーかよ)
169 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:47:27.09 ID:3mGHJagbO
男(ありえねえ……ホント、とんでもない逸材だ)
男「えっと……それじゃあ、読んでもいいかな?」
女「はい! 喜んで!」
男(あれ? 今日は恥ずかしがらないな)
男(前みたいに、俺たちをモデルにした物語じゃないってこと?)
男(……! これ……)
男(引き込まれる……!)
170 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:48:15.29 ID:3mGHJagbO
男(一文一文に、思いが込められてて)
男(読み進める度に、主人公に気持ちが入り込む!)
男「すごい……な」
男(全身の毛が逆立つような感覚)
男(二番煎じで溢れているなかで……ここまでの作品を書いてくるなんて)
171 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:49:06.48 ID:3mGHJagbO
男「……女さん」
女「はい……何でしょう」
男「これ、主人公が男だけど」
女「……はい」
男「……女性が書いたとはまるで思えない。ミステリーとしては、かなりの出来だよ」
女「ほっ……本当ですか!?」
男(読み進めた感じ、前回のようなバッドエンドのフラグはどこにも立っていない。きっと最高の結末を迎えるんだろう)
172 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:50:03.69 ID:3mGHJagbO
女「良かった……本当に良かったです。実は、ミステリーを書いたのは初めてで……ちょっと不安でした」
男(ジャンルに限った処女作か……それでも、十分だよ)
男「ああ、きっと、今回も通るさ。それで……」
女「……ええ、勿論です」
女「今回は……出版するために書きました!」
男「ああ……ああ! 絶対通して見せるさ!」
女「私達、二人の夢ですからね! お願いしますよ、男さん!」
173 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:50:40.09 ID:3mGHJagbO
男(二人の……そうだった)
男(ホント……今更ながら、改めて考えると恥ずかしいな)
女「フフッ……えへへ。私達の……夢、かあ……」
男「おいおい……まだ決まったわけじゃないんだからさ」
女「はっ、はい……そうでした。浮かれるのはまだ早かったです!」
男「うん、よろしい。それじゃあ、今日もくつろいで……」
女「いえ、今日はここで帰らせていただきます」
174 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:51:15.57 ID:3mGHJagbO
男「え……何か、用事でもあるの?」
女「あ、いえいえ、そういうわけじゃないんですけど……まだ、書き足りないんです」
男「もしかして、まだ書きたいネタがあるってこと?」
女「はい! そういう事です!」
男(そっか……女さん、すっかり作家病にかかっちゃったんだな)
男「別に、空いてるパソコンとかあるから、それ使ってくれてもいいんだけど」
女「え……でも……えっと、ここだと……ちょっと」
175 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:51:54.53 ID:3mGHJagbO
男「ああ、そりゃあそうだよね。慣れない場所より、親しんだ場所の方が落ち着くよね」
女「いえ、違うんです。その……」
男「ん?」
女「ここは……男さんがいるから、ちょっと……集中できないっていうか。ここにいると、男さんにばかり気がいってしまいます」
男「え……そ、そっか。それじゃ……駄目だよね」
男(なんだよこの羞恥プレイ……!)
女「そっ、それでは……失礼します!」
男「あ、うん……気を付けてね」
男(行ってしまった……)
176 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:52:38.12 ID:3mGHJagbO
編集長「お前、何編集部でイチャイチャしてるんだ?」
男「もっ……申し訳ありません!」
編集長「ったく……見せつけやがって。うちなんか、最近カミさんとうまくいってねえってのに……」
男「あ……そうなんですか。あの、本当に申し訳ありません」
編集長「……いいよ、駄目とは言ってないさ。それよりも、原稿受け取ったんだろう?」
177 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:53:04.05 ID:3mGHJagbO
男「あっ、はい! 素晴らしいです、文句のつけようのない作品でした!」
編集長「そうか……なら、出版は確実だな」
男「はいっ……ありがとうございます」
編集長「こっちの方で確認をとる。決まり次第、男に連絡するよ」
男「はい! どうか、よろしくお願いします!」
178 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:54:20.12 ID:3mGHJagbO
男「……は? 今……何と、おっしゃいました?」
男(昨日の時点では、事がうまく運びそうだったのに)
男(何で……何で! こうなっちまうんだよ!)
編集長「だから、おめでとうって言ったんだ。来年の4月に出版が決まったぞ。良かったな」
179 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:55:14.57 ID:3mGHJagbO
男「来年って……どうしてそんなに遅いんですか!?」
編集長「男……何を驚いてる? 今に始まった事ではないだろう?」
男「そう……ですけど。どうして! よりにもよって、女さんなんですか!」
編集長「……男。それは、仕方のない事だ。出版枠が、そこまで全て埋まってしまっているからな」
編集長「それに、まさか女さんの作品を、受賞作品と同じ枠で出版するわけにもいかない。こればっかりは契約の問題で……どうしようもないことなんだ」
180 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/22(月) 23:56:06.15 ID:3mGHJagbO
男「そんな……」
男(そんなことって……あんのかよ)
男(だって、来年の4月って……)
男(その時には……女さんは、もう……)
181 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/22(月) 23:58:34.95 ID:3mGHJagbO
中途半端で申し訳ないですが、今日はここまでです。
ほとんど即興で、その場のノリで書いてますので、所々チグハグだったり伏線を拾ってなかったりするかもしれません。ご了承ください。
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/23(火) 01:20:52.75 ID:eFPMnlLl0
気になるところで終わらせやがって!ちくしょう!最後まで待ってるぞ!
183 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:13:35.39 ID:QbAaV9enO
男(女さんに、伝えるべきなんだろうか)
男(出版が、来年の4月になってしまったと)
男(俺達の夢が……叶わないかもしれない、と)
男(……伝えて、どうするんだ?)
男(伝えたところで、ただ悪戯に彼女を悲しませるだけじゃないのか?)
男(だが、隠したところで……いずれ知られてしまうに違いない)
男(いつまでも自分の本が出版されないことを、疑問に感じる日が来るだろうから)
男(わからない……どうするのが正解なのか)
男(俺には……わからない)
184 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:14:41.66 ID:QbAaV9enO
男(さて……毎度の事ながら、女さんと公園で待ち合わせしたんだけど)
女「……あっ、男さん!」
男「女さん……ごめん、遅くなった」
男(こっちに、ブンブン手を振ってる)
男(……可愛いな)
男(あの後、散々迷った挙句……女さんに話す事にした)
男(……真実を話すべきか、嘘を吐くべきか)
男(まだ……決めあぐねているのだけれど)
女「もうっ、男さんったら」
女「私、結構待ってたんですよ?」
男「うん、その……ごめんね、色々と立て込んじゃって」
男(ただ、俺が迷っていただけなんだけどね)
185 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:15:15.05 ID:QbAaV9enO
女「……ともあれ」
女「初めてですね!」
男「え? 初めてって……何が?」
女「私が、待つ側になった事です!」
男「待つ……ああ、そういうこと」
女「……はい。いつも私が、男さんを待たせてしまっていたので」
女「でも今回は、私が待ってましたよ!」
男(何だよ……その期待の眼差しは)
男(まるで、褒めて褒めてー……って、子犬が尻尾振ってるみたいだ)
186 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:15:53.81 ID:QbAaV9enO
男「……ああ、偉い偉い」ナデナデ
女「ふええっ!」
女「なっ……何してるんですか!?」
男「え、何って……ご褒美に頭撫でただけだろ?」
女「だけってなんですか! どうしていきなり……そんなこと……」
男「ごっ、ごめん! 嫌だった?」
男(しまった……流石に軽率すぎた……か?)
女「……男さん、女の子に対して、いつもそんな感じなんですか?」
男「まさか。女性の頭を撫でたのなんて、これが初めてだよ」
男(まあ、前に抱き着かれてるしな……酒入ってたけど)
男(頭なでなでくらい、今更……ねえ?)
187 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:16:34.81 ID:QbAaV9enO
女「へ……へえー、そうなんですか……」
女「ふーん……そっか……えへへ」
男「な……なんだよ、気味悪いな」
女「いーえ、何でもないです」
女「……別に、もっと撫でてくれてもいいんですよ?」
男「なっ……」
男(このタイミングで……上目遣いだと!)
男(く……断れるわけねえ)
男「……し、仕方ないなあ」
男「……これでいいかい?」ナデナデ
女「……!」
女「えへへ……ウフフ……////」
男(何だよ……だらしなく破顔させちゃって)
男(ホント……あざといんだっつーの)
188 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:17:22.69 ID:QbAaV9enO
女「……もう、いいですよ」
女「これ以上されると……ちょっと、ダメです」
男「え……ああ、分かったよ」
男「えーっと……それで……」
女「ふぅ……では、本題をよろしくお願いします!」
男「あ、ああ……そうだね」
男(本当のことを……話すべきなんだろうか?)
男(それとも……誤魔化すべきなんだろうか?)
男(何も、誤魔化しきれないわけではない)
男(出版が延期になりましたと言えば……その時は、多少は落ち込むだろうけど)
男(今この瞬間だけは……彼女を喜びに浸らせることができるんだ)
男(ただ、考えようによっては、それは残酷な事なのかもしれない)
男(要は、女さんを騙すってことだから)
男(……でも……でもさ)
男(出版されるのは、自分の死後になるかもしれないなんて)
男(そんな事実を突きつけられる方が……よっぽど残酷じゃないか!)
189 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:17:53.97 ID:QbAaV9enO
男「女さん……あの……ね」
女「男さん? どうしたんです?」
女「どうして……泣いているんですか?」
男「……え? 泣いてる……俺が?」
男(ああ……どうして)
男(頬を伝った、この一筋の雫の理由は……)
女「男さん……もしかして」
女「私の本の事で……何か、あったんですか?」
男「女さん……俺……俺……」
男「ごめん……ごめんね」
男「君が生きている間に……出版は、難しいかもしれない」
190 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:18:24.13 ID:QbAaV9enO
女「……!」
女「そう……でしたか」
男「ごめん……俺、何もできなかった……!」
女「……どうして、男さんが謝るんです?」
男「どうしてって……」
女「男さんは、何も悪いことなんてありません」
女「だって……仕方のない事、なんですよね?」
男「……女さん」
女「……それに」
女「出版は、決まったんですよね?」
男「……うん、決まったよ」
男「来年の、四月に」
女「来年……四月……そうですか」
女「……うん。大丈夫」
女「思ったほど、悲しくありません」
男(女さん……どうして、そんな笑顔を浮かべられるんだよ?)
191 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:19:28.67 ID:QbAaV9enO
男(……この笑顔)
男(いつかの、取ってつけたような、仮面の笑顔じゃない)
男(気持ちを押し殺して……それでも、必死に笑おうとしている)
男(俺に……責任を感じさせないために)
男(おい……俺)
男(まだ、あるんじゃないのか?)
男(女さんのために、やれることが……まだ、残ってるんじゃないのか?)
男「……女さん」
女「はい……?」
男「俺……できるだけの事、してみるから」
女「男さん……」
男「だからね……まだ、諦めないで」
女「……はい」
女「ありがとうございます!」
男(ああ……そうだよ)
男(俺は、彼女のこんな笑顔が見たいんだ)
男(まるで、太陽のように俺を照らしてくれる)
男(眩しい……笑顔をさ)
192 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 15:20:04.61 ID:QbAaV9enO
ここまで。夜にまた更新します
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/25(木) 20:04:57.37 ID:QZ20wJQRO
切ない
194 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:18:41.49 ID:XS5+GGooO
編集長「おい、男……何してるんだ?」
男「見ての通りです……」
男「お願いしますっ! どうか……どうか……」
男「女さんの本の出版次期を速めては頂けないでしょうか!?」
編集長「……あのなあ」
編集長「頭上げろ……」
編集長「男が、そう簡単に頭を下げるもんじゃない」
男「だからこそです!」
男「この件だけは……どうか、了承しては頂けないでしょうか!?」
編集長「前にも言っただろう」
編集長「出版は来年の4月。契約の関係で、動かすことはできない」
男「……っ!」
男「編集長っ!」
編集長「……なんだ」
男「彼女は……女さんは……あと1年、持つかどうか分からないんです」
男「そんな彼女に……華を持たせてやりたい」
男「だから……この通りです」
男「お願いします……全責任は俺が負います! だから……」
男「女さんの出版枠を……確保しては頂けないでしょうか」
195 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:19:46.66 ID:XS5+GGooO
編集長「……なあ、男」
編集長「お前の言いたいことはよくわかる」
編集長「だがな……お前も、3年も勤めたんだ。知らないわけではないだろう」
編集長「この業界は……売り上げが命なんだ」
編集長「既に枠が決まっている作品は、ほぼ確実に売れると予想される作品だ」
編集長「だが、女さんはどうだ」
編集長「これが……初めての作品だろう」
編集長「面白いのは認める……が」
編集長「何か賞を取ったわけでもない、前作も無い」
編集長「まさか、彼女の身上を表に出すわけにもいかない」
編集長「こればっかりは……どうしようもないんだ」
編集長「一個人の事情で、そう易々と変えていいものじゃない」
男「そんな……」
男(突きつけられた現実は……余りにも残酷だった)
196 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:20:30.69 ID:XS5+GGooO
男(……もう外は大分暗くなってるのに……あんまり肌寒くない)
男(ちょっと前は、夜になると、上着を着ないと耐えられなかったのにな)
男(女さんと初めて出会った春の季節が過ぎて……夏が、来ようとしている)
男(この世界は無常で……そして、無情だ)
女「……あっ、いた」
女「探しましたよー、男さん」
男「ああ、女さん。こんばんは」
女「こんばんは。……どうしたんですか? こんな夜更けに呼び出して」
男「うん、ごめんね。身体に悪いかなって思ったんだけど」
男「どうしても、相談したいことがあったんだ」
女「どうしても……相談したいこと……ですか?」
女「それって……その、もしかして……////」
男「そう……君と俺の未来に関わる、重要な話」
女「は……はい」
男「あのさ……」
197 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:21:07.83 ID:XS5+GGooO
男「出版社を、変えないか?」
女「はっ、はい! 私は全然…………え?」
女「出版社を……変える?」
男「ああ、そうだ」
男「正直に言って……ウチの会社で出版次期を早めるのは、とても難しいことなんだ」
男「だったら、他の出版社に持って行った方が、早く出版するには一番可能性が高いんだよ」
女「あの……その……」
男「なに、心配することは無いよ。女さんのあの小説は、完成度はかなりのものだ」
女「男……さん?」
男「なんなら、俺もついて行くよ。君だって、本屋さんに並ぶ様子を自分の目で見たいだろう?」
男「だからさ……明日にでも……」
198 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:21:41.18 ID:XS5+GGooO
女「待ってください!」
女「え……出版社を変えるって……どういうことですか?」
男「そのままの意味だよ」
男「今のままだと、女さんの本を出版するのは、随分と遠い日になってしまう」
男「だから、もっと早く出版するために出版社を変えてしまうのさ」
男「どう? いい案だと思わない?」
女「そんな……だって、そんなことしたら、男さんが……」
男「え……俺? ……そんなのどうだっていいんだよ」
男「とにかく、今一番大切なのは、女さんの小説をできるだけ早く出版する事だろ?」
男「……あ、もしかして、出版社に持ち込みに行くのは怖いかな?」
男「まあ、一見さんお断りの所も無いわけじゃないけど……大丈夫、俺が直接話をつけて……」
女「男さんっ!」
男「……っ!」
男(なんだ……今の)
男(女さんの声……だったのか?)
男(女さんが、こんな大きな声で叫ぶなんて……初めてじゃないか?)
男「女……さん? どうしたんだよ、そんなに大きな声なんか出して」
男「ここ、公園だし……近所に響いちゃったんじゃ……」
199 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:23:00.51 ID:XS5+GGooO
女「男さん……」
女「私……男さんにそんなことがしてほしくて、あんなことを言ったんじゃありません」
男「あんなこと……?」
女「夢……ですよ」
女「初めて出会った時に、約束したじゃないですか」
男「あ……」
男『必ず出版しましょう! 私も、全力でサポートさせていただきます!』
女『……それなら、これは私とあなたの夢ですね』
男『え、俺……じゃない、私もですか?』
女『フフッ、俺でいいですよ、変に気を遣わないでください。……だって、仮に本を出版できた時、あなたが一番喜びそうだから』
男『……分かりました。では、これは俺とあなたの夢です。必ず……必ず、2人で叶えましょう!』
女「二人で、協力し合って、必ず出版しようって……そう言ったじゃないですか」
男「でも……さ」
男「現に……夢が叶わないかもしれないじゃないか!」
女「夢なら、叶いますよ」
男「……え?」
女「私、一言も言ってませんよ?」
女「生きている間に出版したいなんて……一言も言ってません」
200 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:23:41.51 ID:XS5+GGooO
男「そんな……そんな!」
男「女さん……見たくないの!?」
男「自分の本が出版される瞬間に……立ち合いたくないって、それ、本気で言ってる……?」
女「……はい。本気ですよ」
男「そんな……なんで……」
女「……今の私には、もっと大切な夢があるんです」
男(もっと……大切な夢?)
女「ええ……とっても、素敵な夢です」
女「それはね、男さん」
女「私は、自分の命が尽きる、最後の瞬間まで……」
女「大切な人と……一緒に過ごしたいんです」
201 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:24:42.78 ID:XS5+GGooO
男(待てよ……ちょっと待てよ)
男(自分の書いた本が、本屋に並ぶんだぞ?)
男(人気が出れば、テレビで特集されるかもしれないんだぞ?)
男(死ぬ間際に、それ以上に叶えたい夢なんて……あるわけねえだろ!?)
編集長『男は、小説の応募経験があるんだったな』
編集長『それなら……彼女の感情が、お前に理解できないのも仕方のないことだ』
男(ああ……分かんねえよ)
男(アンタの言ってることも……彼女の言ってることも)
女『この本は、あなたに……男さんに読んでもらうために書いたんです』
男『つまり……あの原稿は、売りに出したくないって……そういうこと?』
女『……はい』
男(何もかも……全部が全部!)
女「私の……死ぬ間際まで一緒にいたい……大切な人というのは……」
男「……わっかんねえよっ!」
202 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:25:25.94 ID:XS5+GGooO
女「っ……!」
男(怒号のような……公園中に響くような)
男(頭の中を……胸の中を、グルグル渦巻いている、この感情)
男(嫉妬……憎しみ……諦め……絶望……)
男(色んな感情が、混ざりに混ざり合って)
男(無意識に……口から出てしまう)
男「君の言っていることは、俺にはさっぱり分からない!」
男「俺は……俺はなっ!」
男「夢を諦めて、この仕事やってんだよ!」
女「男……さん?」
男(女さん……肩が震えてる)
男(寒くなんてない……俺が、怖がらせてしまっているんだ)
男(でも……駄目なんだ)
男(奥底から溢れてくる、ドス黒い感情が……止まってくれないんだ)
203 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:26:30.33 ID:XS5+GGooO
男「俺はっ……俺はな!」
男「昔から、ガキの頃から、ずっと作家目指してがむしゃらに書きまくってたんだ」
男「部活動も、勉強も、友達付き合いも、何もかも犠牲にして」
男「ただひたすら……大好きな小説をよんで、こんな本が書きたいって、ずっと願って!」
男「ずっとずっと、夢見てたんだよ! いつか、自分の本が出版される夢を! ずっと追いかけてきたんだよ!」
男(こんなことが、言いたかったわけじゃない)
男「家族全員に反対されて! 友達全員に白い目で見られて!」
男「挙句、教師には鼻で笑われて! 現実を見ろだなんて罵られた!」
男「それでも、ただひたすら俺は夢を追っていた! 諦めなければ絶対に叶うって!」
男(こんなの、俺の身勝手でしかない。女さんは関係ない)
男「でも、いつまでたっても俺の夢は叶わない! 最終選考にすら届かない!」
男「一つ残らず……全部、全部! 俺の生きてきた理由を、全て否定されたんだ!」
男「その気持ちが……君にわかるか?」
204 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:27:31.44 ID:XS5+GGooO
男「いいよな、君は……才能があって」
男「俺には……これっぽっちも才能なんて無かったんだ!」
男「分かってる……ただがむしゃらに書いていたって、何もいい作品は生まれやしないんだ」
男「でも……悔しいじゃないか!」
男「君みたいな新人が……軽々と俺の作品を超えてしまうんだから!」
男「そんな才能を持った君が……自分の作品に、まるで興味が無いようなそぶりを見せるんだからっ!」
女「…………なさい……」
女「……ごめん……なさい……」
男「はぁ……はぁ……」
女「ごめんなさい……男さん」
男(女さんの瞳が……あっという間に潤んで)
男(涙が……溢れ出すように……)
女「ごめんなさい……」
男「あ……女さん……」
男(走って……行ってしまった)
男(両手で口を抑えて、嗚咽を堪えるかのように)
男(彼女にあんな顔をさせたのは……間違いなく俺だ)
205 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/25(木) 22:28:36.10 ID:XS5+GGooO
男「……ふっ」
男「……どこまで最低なんだよ、俺は」
男「正真正銘の……ゴミ野郎だな……」
男(……なんだ? 頬に……違和感が……)
男(……水?)
男(いや、違う。瞳から流れる液体を、水とは言わない)
男「なんで……なんでだよ」
男「どうして……俺が泣いてんだよ」
男「俺なんかが、泣いて言いわけ……ねーだろうが……!」
男「……うっ……うぅ……」
男「ちく……しょう……」
206 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/25(木) 22:29:18.96 ID:XS5+GGooO
今日はここまで
なんだか鬱っぽくなってしまって申し訳ない
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/25(木) 22:36:28.82 ID:A2sX5I7go
男の優先順位1位の小説は今後女に変わるのだろうか
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/27(土) 05:02:16.68 ID:qJJTEuZs0
女さん心開くのはやい
209 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 20:50:46.06 ID:Y/3U6XvCO
男(結局俺は、自分の夢を、女さんに重ねていただけだったんだ)
男(女さんの気持ちを……都合のいいように利用して)
男(期待させて……悲しませた)
男(もう、俺なんか……女さんに会う資格なんて、ない)
俺は、女さんと別れてから、公園のベンチから一歩も動けず、俯いたまま、ただ座っていた。
女さんを一方的に傷つけてしまった、自分への報いだろうか。彼女への償いのつもりだろうか。
自虐的になったところで、女さんを傷つけてしまった事実は何一つ変わらない。
そんなことは分かってる。でも、動く気にはなれなかった。
210 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 20:51:51.08 ID:Y/3U6XvCO
どれくらいの時間、そうしていただろうか。
ふと、右腕を見る。
時計の秒針は0時を通り過ぎ、無機質に時を刻んでいた。
男「……帰ろう」
誰に言うでもなく、ただそう呟いた。
立ち上がった時初めて、目の前に誰かが経っていることに気が付いた。
男「……女さん?」
言ってから、それはあり得ないと気が付いた。
女さんが、こんな時間に、あんな別れ方をした俺に会いに来るわけがないというのも勿論だが。
何より……その影は、明らかに女さんではなかった。
少し広い肩幅や、俺よりも高い背丈。
女さんの華奢な身体とは、似ても似つかない。
ならばなぜ、俺は彼の事を女さんだと思ったのだろう。
多分……雰囲気が、女さんのそれに似ていたからだ。
211 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 20:52:52.20 ID:Y/3U6XvCO
「女……というのは、私の娘のことでしょうか?」
男「……は?」
男(こいつは、何を言っている?)
男(娘……と言ったか?)
男(こいつ……誰だ?)
「……やはり、そうでしたか」
「私は、女の……父親です」
男「……ちち……おや?」
父「ええ、初めまして」
父「以前……病院でお会いしましたよね」
男「病院……」
男(わからない……話した記憶もない。見覚えすらない)
父「……ああ、それもそうですよね」
父「娘の病室の前で、すれ違っただけですから」
男「はあ……」
男(この男は、女さんの父親……それは理解した)
男(なら、どうして俺なんかの顔を覚えている?)
男(記憶力がいいだけで、こんな暗い公園でベンチに座っている男を、その人だと判断できるだろうか?)
212 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 20:53:55.88 ID:Y/3U6XvCO
父「貴方が、娘の小説を担当している編集の方……で、間違いありませんよね」
男「ええ……そうですが」
父「一度、お話してみたいと思っていたのです」
父「こんな時間に立ち話もなんですから……今日は、ウチに泊まっていきませんか?」
男「……いえ、結構です」
男「明日も仕事ですから」
男(嘘ではないけれど……それだけじゃない)
男(今更、女さんと顔を合わせるなんて……できるわけがない)
父「……そうですか」
父「では、少しだけお話させてください」
男「あの……どうして、俺が女さんの編集をしていることを知っているんですか?」
父「娘から聞いています」
父「担当の編集さんに、とてもよくしてもらっていると」
父「この公園で、いつも打ち合わせをしているとも聞きました」
男「ああ……なるほど」
父「……娘は、元気そうですか?」
男「ええ、元気ですよ」
男(昨日までの話だけれど)
213 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 20:54:53.38 ID:Y/3U6XvCO
父「以前、娘と旅行に行ったそうですね」
男(そんなことまで知ってんのか……!)
男「え……ええ、でも……何も無いですよ? ただの取材でしたから」
父「……どうやら、色々とお世話になっているようですね」
父「娘も、貴方には随分心を開いているらしい」
男「心を……ですか?」
父「ええ。娘は、貴方の事を話す時……いつも楽しそうにしているのです」
父「それに娘は、家族以外と旅行に行くのは、貴方が初めてですから」
男(……マジか)
男「でも、修学旅行とかは? 流石に、一度くらいは……」
父「無いですよ、本当に」
父「娘の人生は、病院での日々が半分を占めています」
男「そんな……」
父「いいのです。今の娘は、本当に楽しそうですから」
男(俺はさっき、女さんに酷い事を……)
父「昔がどうであろうと、今幸せでいるのなら、それで……」
男「申し訳……ありません」
男「俺は彼女に……とんでもない事をしてしまった……!」
214 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/31(水) 20:55:19.78 ID:Y/3U6XvCO
今日はここまで
215 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 21:23:09.24 ID:Y/3U6XvCO
男(俺が話している間、ひょっとしたら殴られるかとも思ったけど)
男(お父さん、何も言わずに聞いてくれた)
父「そう……でしたか」
男「本当に……申し訳ありません」
父「いえ、謝らないでください」
父「編集者としては、確かに貴方は認められない事をしたのかもしれない」
父「ですが……男女としては、よくある事でしょう」
父「私も、同じでしたから」
男「同じ……とは?」
父「私の、妻の話です」
父「妻は、もうこの世にいないのですが」
男「ええ……女さんから聞いています」
父「私も、妻とは喧嘩が絶えなかった」
父「妻の身体が弱いのは、出会ってすぐに知りました」
父「知っていながら、私は彼女と何度も喧嘩をしました」
父「今考えれば、本当に他愛無いものです」
男(喧嘩……俺が女さんにしたことは、喧嘩と言っていいのだろうか)
父「ですから、私は貴方を責めません」
216 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 21:24:04.55 ID:Y/3U6XvCO
父「……ですが」
男「……?」
父「……今でも私は、後悔しているのです」
父「妻と会えなくなる前に、もっと優しくすることはできなかったのかと」
父「今でも……自分を責め続けている」
男「……そうですか」
男「自分を責める気持ちは、俺もよくわかります」
父「ですから……貴方には、後悔してほしくない」
父「そう……思っています」
男「……なら、女さんと……もっと話してあげてください」
父「娘と……ですか?」
男「女さん、以前言っていました」
男「貴方が、自分の事をどうでもいいと思っているのだと」
父「娘が……そんなことを」
男「それって……余計なお世話かもしれませんけど」
男「貴方が、女さんに対して、不誠実だからではありませんか?」
父「……かも、しれません」
父「いや、実際そうでしょう」
父「私は、妻がいなくなってから、ずっと仕事に明け暮れていた」
父「仕事が忙しかったのは、妻が生きていた時もそうでしたが」
父「今思えば、喧嘩が絶えなかったのも……それが原因かもしれない」
217 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/05/31(水) 21:25:00.27 ID:Y/3U6XvCO
男「女さんは……そんな貴方を見て?」
父「……娘は、妻の生まれ変わりです」
父「妻は、娘を生んですぐに力尽きました」
男「そんな……ことって……」
父「元々、身体が弱かった。出産も、医師に反対されました」
父「それでも妻は……娘を、生みたいと言った」
父「私は、娘に……妻の生まれ変わりに、どう接してやればいいのか……今でも分かりません」
男(普通に、話してあげればいいんですよ……と言いたいけど)
男(俺はこの人に、何を言う資格もない)
父「……私が娘にしてあげられることなど、金に不自由しないよう、ひたすら働くことしかない」
男「だから……こんな時間まで?」
父「ええ……そういう事です」
男「……もっと、彼女の事を見てあげてください」
男「俺は……人のことを言えないかもしれませんが」
男「少なくとも、女さんは……お金なんかよりも、もっと欲しいものがあるはずです」
父「……そうでしょうか」
男「そうですよ、絶対」
父「……今日は、もう帰ります」
父「娘は、とっくに寝ているとは思いますが」
父「眠っている娘の姿を、一目見てやりたい」
男「……ええ、そうしてあげてください」
彼は立ち上がると、俺に軽く頭を下げて公園を去っていった。
218 :
◆PChhdNeYjM
[sage saga]:2017/05/31(水) 21:25:28.25 ID:Y/3U6XvCO
書いたから上げた
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/01(木) 00:00:32.27 ID:xKHOeInMo
乙
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/01(木) 01:07:28.58 ID:ky9g2r+r0
続きが気になる
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/01(木) 02:35:04.81 ID:3PaNF5+t0
おつ
222 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/06/01(木) 22:10:18.35 ID:D3MNcCZaO
男「……はぁ」
男(あれから、一週間が過ぎた)
男(女さんから……一度も連絡は来ていない)
男「どうしたもんかな……」
編集長「おい、男」
男「あっ、はい!」
編集長「お前当てに、外部からだ。繋げるぞ」
男「はい、承ります」
男「……はい、SS文庫編集部です」
『……冴内、男さんですか?』
男「はい、冴内ですが」
男(俺の名前をフルネームで? この人、一体誰なんだ?)
『……女の、父です』
男「……お父さん、ですか」
父『貴方に、どうしても伝えなければならないことが……ありまして』
男「ええ、どうぞ。ただその……勤務中ですので」
父「勿論、手短にします」
父『……娘が、再び入院しました』
男「……は?」
223 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/06/01(木) 22:15:21.64 ID:D3MNcCZaO
男「はっ……はっ……はっ」
男(5階……507……507……)
仕事を早々に切り上げ、急いで病院へ向かい、ようやく女さんの病室に到着した頃には、面会終了まで30分を切っていた。
男「……女さんっ!」
一人用の病室で、女さんは横になっていた。
どうやら今は眠っているらしく、ベッドの上で、静かに横になっている。
傍の丸椅子に腰を掛けているのは、先日公園で顔を合わせた瘦せ型の男。
女さんのお父さんだった。
父「……きて、くださったんですね」
男「はぁ……はぁ……」
男「……一体、何があったんです?」
父「……それよりも、仕事の方は問題ありませんでしたか?」
男「仕事……ですか? ええ、特に問題はありませんが……」
父「突然電話をかけてしまって、ご迷惑でしたでしょうか?」
男(……ああ、そっくりだ)
男(やっぱり……親子なんだなあ)
男「……ええ、特に支障はありませんでしたよ」
父「そうでしたか……本当に、申し訳ございませんでした」
父「貴方には……伝えるべきだと……思いましたので」
男「伝える……というのは、一体……」
父「それは……」
224 :
◆PChhdNeYjM
[saga]:2017/06/01(木) 22:22:32.17 ID:D3MNcCZaO
男「……えっと、その……」
男(なんて声をかければいいんだ……)
女「……男さん」
男「うっ……うん」
女「どうぞ……近くの丸椅子に」
男「ああ……失礼するよ」
女「今日は、来てくださって……ありがとうございます」
男「ううん。いいんだ、このくらい何でもないよ」
女「……男さん」
男「うん、なに?」
女「今日は……男さんに、ご報告があります」
男「ほう……こく?」
女「あの……私……私……」
その時、女さんは……笑顔を作った。
幾粒もの涙を流しながら。
女「私……寿命が、半分になりました」
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