ハルヒ「古泉くんの子どもだったらあんな放蕩息子に育ってないわよ」

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 20:51:24.91 ID:qwwVVpwco

柊さんは、異世界の人と知り合い、そちらで結婚し家族と居住している。
長門さんのあのカギを使って、柊さんも泉さんも、
あちらとこちらの世界を行き来できるのだ。

きっと、閉鎖空間の中で何かがあって、連絡を受けた柊さんは、
向こうの世界から緊急に駆け付けたんだ。

サキ「七重、さっきって、どれくらい前?」

七重「あの部屋に入ってすぐだから、4時半ごろ」

今5時10分回ったくらいだ。
ドアを開けたら念じた目的地のすぐ近くに出られるはずだから、
柊さんが恐らく応援のために閉鎖空間に入っていってから三十分はたっていることになる。


それにもかかわらず、まだ戦いは終わってないということだ。


サキ「わたし、行ってくる」

走り出そうとすると、七重に腕をつかまれた。

七重「サキ、待って。柊さんがサキを呼ばなかったってことは、
   それぐらい危険なんだってことじゃない?
   『機関』の他の人だって助けにいってるよ、きっと」

七重の言いたいことは分かる。
客観的に見て、わたしのように力の使えない者は足手まといになるだけかもしれない。
でも、ケガをした人を脱出させる手助けくらいはできるかもしれない。

……って、あれ、何か忘れてないか。

サキ「ナナ!!」

七重「はい!?」

サキ「今すぐあんたの兄貴に電話して!」

七重「え……あっ。そうか!」

七重が慌ててポケットから携帯を取り出す。
そうだ、武神って呼ばれるくらいの涼宮一ならすぐ助けられるはずだ。
ていうか、なんで最初から助けに来てないんだ?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 20:54:25.24 ID:qwwVVpwco

七重「あ、お兄ちゃん? ……うん、柊さんがね、……え?」

意外そうな顔をしている七重。あいづちも忘れている。わたしはもどかしくなって、

サキ「ごめん」

と七重から携帯を奪い取った。

サキ「もしもし、一さん?」

一『サキか。どうした?』

サキ「どうもこうもない。今、閉鎖空間の中で『機関』の人が戦ってるの知ってるでしょ、   苦戦してるんでしょ?」

一『ああ。知ってる』

イライラするぐらい落ち着いた声が返ってくる。

サキ「なら話が早いわ。今すぐ敵を倒して、『機関』の人を助けて!」

一『わかった。サキが頼むのならそうするよ。……でもいいのか』

サキ「え?」

一『『機関』の人は、人々をあの敵から守るために命がけで戦ってる。
  そこへ俺みたいなチート野郎が頼まれもしないのにほいさっと現れて、
  敵を倒しちまっていいのか? 彼らの今までは、培ってきたものは何になるんだ』

サキ「……」

わたしの答えを待っていた一さんが静かに言葉を継いだ。

一『森さんや柊さんからは連絡が来てない。でもサキが助けろって言うなら俺は行く』

サキ「た……」


わたしは電話を切った。言えなかった。助けを頼むのが恥ずかしいからじゃない。


……ふざけんな、ちくしょう。
命より大事なものが、何があるってんだ。


握りしめた携帯を七重に返す。

七重「サキ……」

サキ「ナナ、お願い。柊さん達に何かあったら、わたし自分が許せない」

再び図書館分館へ向けて、わたしは走り出した。
冗談じゃない。死ななくてもいいはずの人が死ぬなんて、絶対に許せない。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 20:55:32.54 ID:qwwVVpwco
今日はここまで
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 18:49:34.77 ID:LYacroRjo


サキ「長門さん、走ってすみません! カギありがとうございます!」

謝りながらカウンターの前を駆け抜ける。
突き当たりを右に曲がって、ポケットからカギを取り出しながらドアを目指す。

柊さんはこのドアを開けるとき、鍵穴にカギを差し込んでなかったと思うが、
念のためわたしはそうした。

中に駆け込むと、そこはプラネタリウムホールだった。

安堵するが、次の疑問が湧く。
このホール内に幾つかあるドアのうちどれが柊さんが行った場所へつながるのか。
わたしは見回した。あの場で七重に聞けばよかった。

いや、このカギはドアをくぐる時、念じた場所につながると森さんが言っていたから、
多分どれでもいいのだ。

すぐに止まっていた足を動かし、右斜め前のドアに向かって、再び駆け出す。
近づくと、今度は鍵穴がない。

(柊さんの行った場所へ、今開いている閉鎖空間の近くのドアへ)

右手にカギを握りしめ、左手でノブを回してドア引き、外へ飛び出す。


目の前の小便器で用を足していた、サラリーマンらしい男性がギョッと振り返った。

わたしも振り返るとトイレの個室からわたしは出てきたのだ。
閉鎖空間の気配はかなり近いが、もう少し走らないといけない。

トイレから飛び出すと、薄暗くて狭い階段の踊り場に出た。どうやら雑居ビルの中らしい。
迷わず階段を駆け下る。三階ならエレベーターよりこっちの方が早い。

ビルから明るい外へ出ると突然、騒音に包まれた。
ビジネス街の中だ。やはり、七重の家の庭で感じたとおりの地点だ。
すぐに左へ、歩道を走り出す。
ほとんど知らない所でも、地図など無くても、その場所が、境界線がどこかは分かる。

あった。
今車が行き交う、横断歩道の真ん中に、ある。

信号が変わり、駆け出して行きたかったが、横断者の足並みに合わせて歩きながら、
呼吸を整える。

その間、どんな状況があっても、すぐ反応できるように心の準備をして、入った。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 18:52:42.83 ID:LYacroRjo


騒音から切り離され、わたしは一人横断歩道に立っていた。
この広い道路の中で見回しても、情報生命体達の姿も、
機関の能力者達の姿も辺りにはない。

しかし、ビルや道路のあちこちに隕石がぶつかった跡のような穴が空き、
コンクリートの砕けた破片がそこら中に散らばっている。
足元も見ずに駆けだすのは危ない。

漆黒の空を見上げても、紅玉となった能力者は飛び交っていない。


戦闘は終わったのか。違う。


わたしは紅玉化等の能力等が使えないので、実戦に加わったことはない。
しかし、柊さんから一通りのことは教えてもらっている。

閉鎖空間内での戦闘は、敵を攻撃する者、
倒した情報生命体に寄生されていた人を避難させる者など、
幾つかの役割と段階に分かれて行っているが、
基本的に敵を全滅させれば、閉鎖空間は消滅させられるのだ。

いったいどこで戦闘は行われているのか。
とりあえず慎重に、周りを警戒し見渡しながら歩き始めると、
足下からくぐもった爆発音がした。
地下だ。歩道に、地下へ降りる階段があったはずだ。


階段を前にして、なんとなく戦闘が長引いた理由が分かってきた気がした。
この都市の地下街はまるで迷路のようになっている。
ここが戦場なら相手によっては相当厄介だ。

そろりと降りると、意外にも照明がついていた。
中には壊されたものもあるが視界を得るには十分な明るさだ。
この世界は発電所も止まっているはずなのに、なぜか電気系統は大丈夫らしい。

突然、人の怒号と物がぶつかり合うような音が聞こえた。

一刻を争う状況かもしれないとはやる胸のうちを抑える。
ただでさえ許可もなく行動中なのだ。
不要な混乱を招くことだけは少なくとも自分の認識のあたう限り避けなければならない。
曲がり角ごとに肝試しのような心持ちで通路を小走りに行きながら、
この閉鎖空間内で得られた知見を整理し今回の敵のスペックを推察する。

まず地下街に収まりきらないような巨体ではない。また、空を飛ぶことはない。

恐らく飛び道具は使わず、接近戦が得意なほうだ。
地上のあちこちの穴はみんな同じ形をしていたから、
全て機関の能力者の火球が当たった跡だろう。
それは敵が避けた数でもあり、素早い動きをするはずだ。

それでも、幹線道路のような見晴らしのよい場所では遠隔攻撃をできるほうが有利で、
敵は地下へ逃げ込み、戦場が移った。

そして、何より柊さんが応援に来なければならないほど、手ごわい相手だと言える。


たとえば――――野犬のような。

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 18:55:44.66 ID:LYacroRjo

音が聞こえたと見当をつけた辺りの角で、獣の荒い息遣いが聞こえ、
そろそろと先を警戒しながら顔だけを出すと、
目の前で男性が野犬に押し倒され、今にも食いつかれそうになっていた。

野犬といっても、動物園で見たことのあるライオンくらいの大きさだ。

サキ「――うおおっ」

落ちていたガレキのブロックを火事場の馬鹿力で持ち上げ、野犬の脳天に叩きつけた。
嫌な手ごたえと共に痛恨の悲鳴を上げて、野犬が奥の方へ跳ねて転がる。

起き上がって唸る犬から目を離さずとっさに姿勢を低く、遊びを残し小さくして向き合う。
歯茎から恐ろしげな牙をむき出して、近づいてくる野犬。
溜めをつけて飛びかかってきたところに、火球がさく裂した。

わたしの後ろから、倒れていた男性が放ったのだ。
息絶えた野犬が霧のようになって消滅していくと、
そこにはスーツ姿の女性が意識を失って倒れていた。

多丸圭一「ありがとう。おかげで助かった」

サキ「大丈夫ですか?」

上半身だけ起こしていた、白髪まじりの男性のそばに膝をつくと、

多丸圭「君のほうこそ。何が起きたか信じられないかもしれないが……」

なんとタクシーの運転をしていた人だ。被害者と間違えられたらしい。

サキ「新しく入った小坂と言います。
   長い時間、タクシーで送ってくれてありがとうございました」

男性は思い出したように、

多丸圭「そうだ、君か。しかし、まだ訓練中と聞いていたが」

サキ「ごめんなさい。役に立ちたくて、勝手に来たんです」

多丸圭「ふむ? これは驚いた」

目を見開く男性に、向こうから声が飛んできた。

多丸裕「兄さん!」

この人の弟さんらしい、壮年の男性だった。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:00:58.46 ID:LYacroRjo


わたし達は地下街の、噴水のある広場を目指して歩いている。
閉鎖空間では携帯も無線も使えないので、時間を決めて集合する段取りになっている。

多丸裕「君が来てくれなかったら、兄の命はなかった。小坂さん、本当にありがとう」

女性をおんぶしながら、多丸裕さんが温かな笑顔を向けてくれた。
わたしは足をケガした多丸圭一さんに肩を貸しながら歩いている。

わたしは会釈して、

サキ「……敵はあとどれぐらいいるんでしょうか」

あまり話したくない。情報の把握だけに努めていたかった。

多丸圭「そう多くはないはずだ。
    詳しくは他の奴に聞いてみないと分からないが、相当倒したから」

多丸裕「今回は企業の会議中にでも感染したのか、被害者の数は多くて。
    しかも一か所の閉鎖空間に敵が次から次へと現れた。
    データが削除されない限り、感染者は増える一方だからね」

サキ「そのデータは…」

多丸圭「もう削除されたんじゃないだろうか。
    TFEIの方の仕事なんだが、最近は相手の防護がキツいらしいけどね」

二人とも苦戦されたはずなのに、こんな話を明るい調子で話している。

多丸裕「それにしても能力が使えないのに閉鎖空間に飛び込んでくるなんて、
    君は無茶というか無鉄砲というか」

多丸圭「そうだ。しかも初陣にして大活躍とは……。
    君は強くなるよ。何、能力なんてある日突然使えるようになるもんだ」

通路に陽気な笑い声がこだまする。
幾ら二人能力者がいるといっても、もっと警戒したほうがいいんじゃ……。

多丸兄弟のお二人が、わたしに感謝してくれていて、規則を破ったわたしをかばうために、
陽気にふるまってくれるのは素直に嬉しかった。

でもわたしは噛み締めたままの口を開くことができなかった。
手のひらに突き刺さりそうなほど粗い断面のブロック。
それを全力で振り下ろした瞬間の、腕から肩に、そして背筋に伝わった殺生の感覚。
幼い頃、興味本位に昆虫をなぶり殺した思い出したくない感触。

むしろ逃避から、柊さんにぶたれたいくらいだった。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:04:04.47 ID:LYacroRjo


古泉「小坂! 何しに来たんだ!」

噴水のところで、柊さんと数人の能力者、そして助けられた被害者の人達が集まっていた。

怒鳴る柊さんに、

多丸圭「怒らないでやってくれ、古泉。この子は俺の命の恩人なんだ」

けげんな顔をする柊さんに、経緯を多丸兄弟が説明してくれた。

古泉「――それはそれ、これはこれです。小坂、早く帰りなさい」

サキ「はい、帰ります。ケガした人を送らせて下さい」

厳しい目で柊さんはわたしを見たが、

古泉「本来、今の君にできることは何もない。それは分かってるな。
   ケガ人の救護も、被害者を無事元の場所へ送り届けることも、
   我々が決めた手順がある。
   しかし、その女性は君が助けた。だから責任をもって君が送りなさい。
   君の処分は追って伝える。
   圭一さんは、僕が送ります。いいですか」

圭一さんは笑みをこらえるような顔で目を上に向けながら、

多丸圭「ああ、頼むよ、古泉」

裕さんから替わって女性を背負わせてもらうと、

多丸裕「気にするなよ。君のことを心配してるんだ。
    古泉にはあとで僕らがよく言っとくから」

とウィンクとともに小声で言われた。
言葉そのものより気持ちが嬉しくて、やっとこわばっていた口元がゆるむのを感じた。



しかし、女性を背負って地上への階段を上るのはきつかった。
隣で圭一さんは、柊さんに肩を貸してもらいながら、

多丸圭「ところで古泉、敵の数のほうは分かってるのか?」

古泉「いえ、僕も後から来たので伝聞でしか知らないのですが、
   皆の情報を照らし合わせても、地下へ逃げ込んだ正確な数は分からないが、
   残党は恐らく若干であろうという……」

階段を上りきると、

古泉「……ことだったんですがね」


道路は野犬の群れに埋め尽くされていた。

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:08:05.75 ID:LYacroRjo


じりじりと円をせばめるように方々から低い唸り声が近づいてくる。

多丸圭「地下へ逃げ込むか」

古泉「いえ。素早くは動けませんし、背を向けると追ってくる。
   今まで助けた人々も危険にさらすことになります」

多丸圭「そうだな。しかし、俺がおとりになる。
    そのすきに地下に駆け込んで危険を知らせろ」

そのとき、地下から駆け上がってきた人物がいた。


「サキーーーーッ!」


最上段の踏み面にかけた足のばねのおつりに一瞬、
身体を浮くように揺らめかせたその人物はわたしと目が合うなり、
片足に体重をかけたままピボットターンとクラウチングスタートを同時にやってのけた。

この状況下、わたしの後方での一連の動きは首だけ振り返り見届けるしかなかったのだが、
その突発性は間近に迫る獣の群れの攻撃のきっかけになってもおかしくなかったはずだ。
あるいは、この人物のあまりに煌々たるオーラに気圧されでもしたのだろうか。

駆け寄るなりわたしを心配しながら、今度は代わりに女性を背負おうかとあたふたしだす。
当人は真剣そのものなのに場違いに駘蕩な空気をどうしても醸し出してしまい、
柊さんも圭一さんも何とも言えない表情で見守っている。

わたしはしょうがなく小声でぶっきらぼうに応えるよりほかない。

サキ「ナナ、どうして来たの? ていうかどうやって来たの?」

七重「分かんない。気づいたら来てたの。サキ、大丈夫?」

サキ「いや。悪いけど、絶体絶命よ」

七重「えぇっ!? やっぱりお兄ちゃん呼ぼうか?」

サキ「あいつには死んでも頼らん。あとここ電波届かないわよ」

七重「えぇっ!?」


七重がこんな場所にいるのがおかしいのか、こんな場所があるのが七重に許されないのか。
状況の緊迫性は変わらないままなのに心情だけがフラットにさせられてしまう。


しかしさすが、圭一さんと柊さんは切り替えも早く平然とした様子に戻っていた。

古泉「七重ちゃん、小坂。道は僕がひらくから、二人とも早くここから脱出するんだ。
   小坂、その女性と圭一さんは任せたぞ」

サキ「え?」

柊さんに異変を感じた。

古泉「この場所からは必ず無事に帰すから」

柊さんの右手が青白い光に包まれている。

わたしはそれを見て何かとてもヤな予感がした。
言うなれば死亡フラグ。弟子達を守るために師匠が命と引き換えの大技を放ち、
しかもさらに悪い場合犬死にに終わってしまって、
結局残された弟子が悲しみと怒りで真の力に目覚め、敵を撃破するシチュエーション。

冗談じゃない。そんなドラマツルギーのために死なれてたまるか。


わたしは口走っていた。

サキ「待って下さい! わたしに考えがあります」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:12:07.45 ID:LYacroRjo

無いんだけど、女性をそろりと背から降ろし、壁にもたれかけさせる。

意外そうな表情で振り返る柊さんに、確信の表情だけ見せ、
次いで敵を見回すと一瞬で腹が決まった。
隣で身を寄せている七重に尋ねる。


サキ「ナナ、わたしを信じる?」

七重「うん」


目を交わし合うと、手を取って敵陣に向かって一緒に駆け出した。
走り出すと自分の狙いが次第に明瞭になってきた。


古泉「何をするんだ、やめろ!!」

サキ「柊さん、こいつらを引きつけて時間を稼ぎますから、
   早く圭一さんとその人を! 応援呼んでください!」


もう振り返れない。
これは、賭け。


柊さんは、ヤツらの目的は長門さんと七重のお父さんとお母さんをさらうことだと言った。


でも、七重が標的だとは言わなかった。


七重は重要じゃないからか? 違う、逆だ。

きっと、ヤツらにとって七重はまだ観測の対象だから。
大事な観察対象を傷付けることは出来ない。
だから、七重が側にいればヤツらもむやみに攻撃できない。

それを逆手にとってこちらから仕掛けて相手をかき回す、ということだ。
そしてその賭けは――


見事に裏目に出た。

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:16:08.98 ID:LYacroRjo
サキ「うわっ!」

繰り出される太い前足の爪をやっとの思いで避ける。
七重の運動神経がいいのが唯一の救いだった。
じりじりと、わたしと七重を囲む敵ににらみ返すことしかできない。

今にして思えば情報生命体は、天蓋領域にとってただの兵器、言うなれば道具に過ぎない。
配置された通りにしか動かないコマが、
こんな複雑な相関関係を踏まえているはずがない。

だけどその時のわたしはただ必死で、やらかしたという思いしかなかった。

何てことだ、よりによって七重を巻き込んで自爆するとは。
でも、後ろにいる七重はわたしが打開してくれると信じてる。
ていうかここまでしてるのに何か出ろ、力。反則だぞ。

古泉「持ちこたえろ、今行く!」

右側から柊さんの怒号と爆発音、赤い光に照らされる敵。
確認はできないけど、ヤツらの包囲をかいくぐってくるつもりだ。


――そんなの、振り出し。


また柊さんが。

窓の外を見る森さん。


サキ「いい加減に――――!!」



何か出た。



七重「サキ!?」


純白の光。


地面が揺れる。
違う、わたしが揺れてる。


全てを真っ白に包む光がわたしから周りの世界へ拡がっていくのを感じる。


音が無い。

いや、七重の呼ぶ声が……遠ざかっていく。


それが、最後の記憶だった。

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:20:11.08 ID:LYacroRjo



一「フォークいるか?」


無機質な感じの天井がある。

静かにだけど手早く、ナシかリンゴをむく音。あ、ナシは季節じゃないし、リンゴだな。

寝たまま、頭だけ声のした方へ動かすと、どうやらここは病院の個室のようだ。
ロビーチェアのように座面の硬そうなイスに腰かけ何でもないといった様子で、
一さんが小さなナイフでむいている。

その向かいに、テーブルを挟んで二人掛けのイスに七重が横になっているのが見える。
薄手の膝掛けのような毛布をかけられて、小さな寝息を立てている。

サキ「ナナは……」

一「見ての通り無事。ケガしてた『機関』の人も無事。君を含めて全員無事」

と答えて、

一「だから、俺との話が済んだら真先に親父さんに電話するんだな」


無事だと分かった後はぼんやりと聞きながら、上半身を起こし自分の手を見る。
ジョンのリードを握ったその日に、野犬の頭にガレキを叩きつけた。

情報生命体達の中には、最初に見たあの女のように、人の姿をしたものもあるのだろう。
それをわたしはきっと殺す。本物でなくとも何者かの命を奪う。


気がつくと一さんがそばに立っていた。
皿にリンゴを切り分けたのをよそい、ここまで来てくれたらしい。

一「娘が突然道端で倒れて病院に担ぎ込まれたことになってるから」

リンゴを乗せた皿をわたしに持たせて、薄い肌がけの、
わたしの脚の上あたりにぽんと何かを置くと、近くの棚の戸を開けた。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:23:30.10 ID:LYacroRjo

何だ、これ。
手に取ってみると、コードも無ければ番号を押すボタンもない、ただの受話器だった。

見つけてきたフォーク渡し、ベッドのすぐ傍にあった背もたれの無いイスに腰かけ、
無言でリンゴをすすめてくる。

サキ「ありがとう」

ひときれ口に運んでかじっていると、

一「ところで」

一さんが真顔で尋ねてきた。

一「何をした?」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:26:34.13 ID:LYacroRjo

どきりとする言葉だった。

サキ「何をしたって……」

一「俺の閉鎖空間が打ち消された。それも君によって。
  あと、君を中心にして内側から広がった通常空間と、
  閉鎖空間の間に挟まれた情報生命体はすべて消えて、
  それから機関の人のケガが全員、全て治ってた」

そうだったのか。

サキ「皆無事でよかった」

一「うん。だがどうしてこうも都合の良いことが起きる? まるで……」

と言いかけて、ひそめた眉を戻し、

一「願ったり叶ったりなんだが、君はどうしてそんなことができたんだ?」

そんなことと言われてもなあ……。
白い光が見えたことしか覚えてないんだけど。

一「柊さんはそんなの見た、とは言ってないぞ。君の周りから閉鎖空間が消えた、
  というよりは通常空間が拡がっていったようなことを言ってたし、俺もそう感じた」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:29:34.71 ID:LYacroRjo

わたしの錯覚?
いや、確かに目が眩むようなまっ白い光がわたしから放射状に広がるのが見えた。

サキ「そう。……でもわたしにもよく分からない」

一さんは小さく息をついて、

一「まあ、そんなとこだろうと思ってたけど」

わたしに目を戻し、

一「これから先、君から半径300メートル以内で発生する閉鎖空間については、
  無視してくれ」

は?

一「あれだけの規模の情報爆発の中心にいた人物なら、
  連中の興味を引くのに十分だったみたいだ。あとは今までどおりで」

サキ「あ、ああ……何か余計な面倒増やしてしまったみたいで……」

一さんは真顔になって、

一「何言ってる。君はあの場にいた人全員の命の恩人なんだぜ。
  俺の方は一人二人増えたって変わりゃしないさ」

そう言われると幾分心が軽くなるけど。

サキ「……最強も色々大変ね」

一「あのね、何聞かされたか知らないけど……まあいいけど。一つ言わせてもらえれば、
  強さなんて相対的で、価値観によってころころ変わるもんだよ」

パラパラを踊るみたいに腕を伸ばしたり曲げたりしながら話す。

サキ「そうね。わたしにとっての最強はおばさんかしら」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:32:35.84 ID:LYacroRjo
一「おふくろか……。まあそういう部分もあるかもしれないけど」

そこでちょっと焦ったように、

一「え、えーと、君のお母さんも凄い人なんだぜ」

ことさらいかにもという感じで言う。

サキ「あんた家のお母さんの回し者なの?」

一「い、いや、……」

目が泳いでるぞ。
彼は自分が落ち着けるまで待ってから、改めて話し出した。

一「俺は小さい頃だったから覚えてないけど、
  君のお母さんに抱っこされてる写真があるんだ。
  すごく可愛がってくれたみたいで。
  ――君を産む前から危険があることは分かってた……」

サキ「それで?」

一「えっとつまり、君を抱っこしたかっただろうなって」

七重の静かな寝息だけが流れる。

一「あ、そのさ」

サキ「はい、ここまで! お互いさまってことで」

一「え?」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:35:41.87 ID:LYacroRjo
サキ「わたしもおばさんに抱っこされてる写真、いっぱい持ってるんだから」

それだけじゃなく、あんな写真やこんな写真もあるけど。

サキ「だからおあいこ、お互いさまでしょう?」

一「うん……」

サキ「それにありがと。お母さんもあんたを抱っこできたから」

一「……こちらこそだね」

七重「う〜ん……」

七重に掛けられた毛布がもぞもぞと動いた。

七重の声でわたし達は二人とも七重の方を見たが、まだ眠ってるようだ。
どちらからともなく微笑みが広がるのを感じた。


七重には笑っていてほしい。だから、わたしも笑顔でいよう。


わたしは一さんに幾分小さな声で、

サキ「みんな、色々ありますな。起きたらお礼言わなきゃ」

一さんも少し声のトーンを落とし、

一「七重は昨日からつきっきりで君のそばにいたから、
  疲れてベッドにもたれたまんま寝ちまってたのさ。
  柊さんからもしょっちゅう着信入るし」

しかめっつらをこちらに向けてみせる。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:38:43.29 ID:LYacroRjo
サキ「柊さん……」

心配をかけてしまった。けど。

一「そ。目を覚ましたってことは伝えとくから」

サキ「許しませんって」

一「は?」

サキ「そう伝えて。無責任です、二度とあんなことしないでくださいって」

ぼたもちの転がってきた棚に自分のことを上げるような物言いをするわたしに、
一さんは訳の分からなそうな顔をしながらも了解してくれた。

一「……分かった。何だか分からんが、伝えとくよ。そろそろ行くかな」

静かに椅子から立ち上がり、引き戸の方へ向かおうとする一さんに、

サキ「ありがとう、色々と。……ねえ」

ふと思ったことをたずねる。

サキ「お母さん、今のわたしのことどう見てるのかしら」

一「笑ってるとも」

サキ「え?」

いやに確信に満ちた目で微笑んでいる。

一「そのナイフは皿に置いといてくれ。じゃ、お大事に」

静かにドアを引いて出ていってしまった。そして静かにドアが閉められる。


ナイフってこれのこと? ていうか受話器だけど、どう使うの?
試しに耳に当てると、呼び出し音が鳴って2コール目の途中で父が出た。


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 19:45:14.43 ID:LYacroRjo
誤字の訂正です

>>113
リンゴを乗せた皿→リンゴを載せた皿

今日はここまで。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:50:42.50 ID:dNmk+/4bo


その日の新聞には、オフィスワーカーがビジネス街のど真ん中で集団で意識を失っていた、
という小さな記事が載っていたが、『機関』のキの字も書かれてはいなかった。
報道された内容でさえ発症者の記憶が定かでないので集団ヒステリーの原因も不明、
で片づけてしまうには奇怪すぎるはずだが、やはりそこが『機関』の為せる業なのだろう。



決戦の日は確定しないが、刻一刻と近づいてきていることは確かだった。

それと言うのも、あれだけ頻発していた閉鎖空間の発生が最近極端に減ったのである。
つまり情報生命体による被害も、天蓋領域のインターフェースによる直接の侵攻も、
鳴りを潜めているということだ。

嵐の前の静けさとは言ったものだが、来たるべき日に備えるチャンスでもある。

機関の上層部では、情報統合思念体のインターフェースと緊密に連携をはかるため、
彼らとの会合を重ねているらしい。
また、一つの閉鎖空間につきかけられる時間は幾らかなど、
戦術上の計算をするためのプログラムをアップデートしたりと、
とにかくてんやわんやの状況らしかった。

らしい、というのは柊さんから電話で聞いた断片的な話に過ぎないからである。

一方わたしは言うと、いつものように閉鎖空間内での訓練を一人黙々と行っていた。


そんなある日、長門さんから新たな援軍となる者を紹介したいとの連絡を受けて、
森さんと柊さん、そしてなぜかわたしも、
長門さんが勤めている光陽園駅近くの図書館分館に集まった。

あの宇宙そのもののホールにわたし達が入ると、
中央に置かれたソファの前で長門さんと、その人が待っていた。

挨拶しに近づいて行こうとすると、柊さんの足が止まっている。

長門さんのそばで、星空を見上げていた少女の横顔に、柊さんは釘づけになっていた。

古泉「君は……!」

ふいと顔を戻したその人は、

「久し振り。一樹」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:53:59.08 ID:dNmk+/4bo


柊さんが驚愕の表情のまま、言葉を失い、立ち尽くしている。

「森さんもお世話になったこと、お礼を言えませんでした。またお会いできて嬉しいです」

ゆっくりと頭を下げ、そして起こすと、
その少女は静かな笑みを湛えて懐かしそうな表情を森さんに向けている。 
森さんは静かな瞳で少女に応えるのみだった。

わたしは森さんに尋ねることにした。

サキ「お知り合いの方なんですか?」

森さんは少女に目を向けたまま、簡潔に説明してくれた。

森「わたし達の同志よ。……かつて閉鎖空間で命を落とした」

サキ「!?」


……亡くなった人が?


古泉「長門さん、新たな援軍とは、まさか……」

柊さんはまだ混乱した様子で、長門さんに疑問をぶつけた。

長門「一が生み出す限定空間内の力場を最大限に生かせるのはあなた達」

古泉「……」

長門「ゼロからそのような属性情報を付与したインターフェースを造り出すことは、
   統合思念体には、不可能だった」

重い沈黙が流れた。やがて、

古泉「……それで彼女に本来宿っていた情報生命素子を用いて、
   新たなインターフェースとして彼女を生み出したのですか」

長門「…………そう」

柊さんは抑制しきれない怒気をふくんだ声を震わせた。

古泉「確かに無駄のない策だ。TFEIと、機関の者としての能力をあわせ持つ個体ならば、
   戦局に応じてどちら側の援護にもまわれる。でも長門さん、あなたは」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 21:57:01.75 ID:dNmk+/4bo
じっと耳を傾けている長門さんに柊さんは続ける。
柊さんは言葉を切ったところで、もう一度、冷静になろうと努力したみたいだった。

古泉「――あなたのことはいかなる状況においても役目のために、
   理性的であり続ける人だと僕は尊敬しています。
   でもそれは統合思念体からあなたが生来授かった、精神の強さによる支えが大きい。
   もともと人間として生まれた者がTFEIとして、不老の時間を永久的に過ごすことが、
   本人の精神にどのような影響を及ぼすか、考えたのですか?」

長門「該当個体が統合思念体に直接申請することで、
   体組織の永久的完全復元を停止し人間としてのエイジングに移行できる」

古泉「統合思念体がその程度の認識で実行したとは信じがたい。
   それでは本人の居場所はどうなります。
   第一、僕の疑問に対する根本的な解決にはなっていません」

長門「……まず、あなたのわたしに対する認識に、実像との齟齬が見受けられる」

柊さんが言葉を呑む。

長門「わたしは統合思念体から高い知能を付与されて造り出された。
   しかし――精神的な強さ、を備えていたわけではなく、
   常に理性的であったとは言えない」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 22:00:55.49 ID:dNmk+/4bo
長門「かつてわたしが起こした異常動作によって、恐るべき事態を招いた。
   それはわたしが常に理性的であるならば起こらなかったこと。
   わたしの内部に蓄積されたエラーデータへの対処を誤った。
   削除、圧縮等わたし単体が実行してもエラーの集積は膨大になった。
   それは、感情。
   特に人に関わる心の動き。当時はその性質が全く把握できず、翻弄された。
   精神の強さがあったとは言えない」

古泉「それは普通の人間らしくなる過程の上であったことでしょう。
   げんに今のあなたは社会人としての生活とインターフェースとしての役割を両立、
   自らを周囲と共存させ――」

そこまで言って柊さんは、何かに気づいたように目を見開いた。

長門「そう。人との関わりを絶たず、人の中で生き、心の動きを否定せず、
   人との調和に理性を生かす。
   わたしが観測する、自律進化の決して完成しない過程。
   感情があるからこそ、人間は弱くもなるが、
   時間にさえ打ち克つ力を持つことができる。
   愛、信頼、責任、勇気、やさしさ、尊敬、誇り、自負……、
   全て人に関わる葛藤を乗り越えてこそ。だから強い」

古泉「……ですから長門さんはそうでも、
   人間がTFEIに変容した場合を論じたことにはなりません」

長門「同じこと。わたしは一を知っている」

古泉「同じ道を通るのなら、武神がこの世の脅威となる事態もまた、いつか発生すると?」

長門「可能性はある。だが、一は一人ではない。
   わたしが異常動作を引き起こした時も、そうであったように」

古泉「なるほど。それはそれとして、
   一くんの例を敷衍して彼女のTFEI化を論じるのには……」

森「古泉。……わたしの方から長門さんに頼んだの」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 22:04:05.34 ID:dNmk+/4bo

柊さんは完全に虚を衝かれたようだった。

それまで黙って長門さんと柊さんのやりとりを聞いていた少女が、
確固とした口調で語りはじめた。

「それに、本人の意志に関係なく一方的に、
 長門さんがあたし達を甦らせたとでも思ってるの?」

長門さんは最初からずっと同じ表情のままで、黙っている。

「あなたがあたし達を心配してくれたようなことは、承知の上よ」

堂々と胸を張り、そこへ開いた手を当てながら、
 
「あたしが今ここにいることが世界のタブーだってのなら、
 用が済んだらあちらに戻ってやるわ」


その手で自分の真下をぴんと指さす。
このプラネタリウムホールの場合、上も下もないのだが、
自らの天上でなく地底の方を迷いなく指す姿勢にわたしは引きつけられた。


古泉「そういう意味じゃない! 『機関』を挙げて君を守るとも!」

あくまで真面目に論じる柊さんとは対照的に、

「そりゃどうも。とにかくね。みんな、この世界を守るためなら構わないと思ってる。
 あたし達はそう望んで『機関』に集ったんじゃないの?」 

古泉「みんな、ということは……」


「全員、イエスを選択したというわけ」


柊さんはうつむいてしまった。

やがて、

古泉「長門さん、申し訳ない。……ありがとう……」

その声はかすれて声に色がなく、溢れる思いを絞り出すように震えていた。
長門さんは、わずかに頷いて微笑んだように見えた。

長門「そう」

顔を上げた柊さんは一変して、いつもの状況を分析するような口調に戻っていた。

古泉「君が帰ってきたからには、また僕はバックアップに回らなければならないな。
   どうせ、性懲りもなく最前線に向かうんだろう?」

「あら、あたしは長門さんを守る方の役に回ったわよ。
 一樹がエースなんだからその必要はないでしょう。あたし見てたわよ、死んだあとも。
 そうだ、危うくまた言い忘れる所だったわ。森さん、一樹。毎年来ていてくれたわね。
 そのこともありがとう。一樹、あなた、いい人つかまえたじゃない」

悪戯っぽく微笑む少女に森さんと柊さんは呆気にとられているばかりだった。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 22:07:07.56 ID:dNmk+/4bo
そんなお二人に構うことなく、
突然少女は満面の笑みに大きく息を吸い込むと、
私に駆け寄ってきて握手して一気に顔を寄せた。

「はじめまして! サキさんね、なんだか知らないことばっかり話してごめんね。
 それにしてもあなたとあたしって似てるわぁ。
 性格は違うけど、向こう見ずな戦い方なんか特にね。気が合いそうだし、よろしくね!」

なぜ初対面なのにわたしのことを知ってるのか分からないけど、

サキ「は、はい。よろしくお願いします……」


少女の自信に満ちこれからワクワクすることに向かっていくんだ、
と言わんばかりの表情を見て、わたしは思い出していた。


そうだ、この子は七重のお母さんに似ている。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 22:08:13.69 ID:dNmk+/4bo

そのカンは当たりで、先輩は面倒見が良く、わたしの訓練にその日からつきあってくれた。
球体化した先輩の動きを真似するだけでずいぶんと勉強になる。
何よりも、あの柊さんとパートナーを組み、
しかも前衛を務めた人に教えてもらえるのはまたとない幸運だった。


というのも、わたしも実戦では一番槍の役に当たることになっていたから。


しかし、それは実力によるものではなく、
ビジネス街での一件以来やっと使えるようになった能力の特殊性を買われてのことだった。

と言うわけで、特殊性その一。

わたしも球体化できるようになったのだが、紅玉ではなく白玉である。
はっきり言って、紅玉が群れて飛びまわる中の白一点は目立つ。
わたしばかりが情報生命体達の攻撃の的にされる。
逆に言えば、うまく動けば相手の注意を引きつけかく乱する役割を果たすことができる。

特殊性その二。

機関の能力者の主な攻撃方法は、紅玉して体当たりすることで、
敵に物理的にダメージを与える。
しかし、白玉化したわたしに攻撃してきた情報生命体達は触れるそばから消滅してしまう。
おかげで無謀に突っ込んでいってもケガをせずに済むし、
確実に敵の出鼻をくじくことができる。
それでも、大丈夫とは分かっていても敵陣の中を単独で飛び回るのは怖い。
そう先輩に伝えたら、笑って、

「あんた本当に面白い能力が使えるのね!
 まるでアクションゲームの無敵アイテム取ったときみたいじゃない!」

と言い、わたしが止める間もなく白玉化したわたしに、興味津々な目で触ってきた。

……特殊性その三。

機関の能力者が触れても、消えることはない、ということが分かった。
それどころか、

「……これはケガした人の、傷を治す力があるわね。あたしは今は自分で修復できるけど。 ほんっとに面白いわね、これ」

とのことらしい。なんというご都合主義な力だろうか。

ともかく最前衛という、実力に見合わないポジションをいただいたわたしだが、
奇しくもそのお手本と言うべき人に、いかに動くべきか、
みっちり叩き込まれる機会を得ることができたのだった。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 22:25:19.95 ID:dNmk+/4bo
今回の投下での「『機関』の少女」という登場人物についてお伝えしたいことがあります。

古泉「魅力的な人だとは思いますが」
http://punpunpun.blog107.fc2.com/blog-entry-1192.html

上記のSSからのパクリです。

古泉の過去について描かれていたこちらのSSを拝読し想像が膨らみ、
勝手に「その後」として今作を書かせていただいたので、
パクリというより二次創作かもしれません。

いずれにせよ>>17の時点でお伝えすべきことでした。ごめんなさい。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:34:42.16 ID:cQX9e7Qho


六月某日、日本では未明に、それは全世界、同時多発的に発生し、進行した。


起きるべくしてそれは起き、また起こさせてから止める以外に術がない。
数多のウェブサイト上に、統合思念体のインターフェースの防衛網をかいくぐって、
天蓋領域のTFEIが起動データをアップした。

このデータの存在するサイトの特定と、データの破棄が実行されない限り、
事態に歯止めがかかることはない。
しかし、当然容易に検索の網に引っ掛かるような痕跡は残されておらず、
作業に当たった統合思念体のインターフェースですら、それは容易ではなかったようだ。

閲覧した人間の脳へ、あらかじめネット上に仕込まれ一斉に起動した情報生命体が感染し、
犠牲者を異空間へ飛ばしてしまう。
一さんがそれを捕捉し、その空間を閉鎖空間に変換し、わたし達に明瞭に感知させる。

そうなれば、閉鎖空間内の敵を機関の能力者が撃破し、
意識を失った人々がそれぞれパソコンの前で、
「あれ、寝てたのか」と目覚めるように無事に帰してあげてその件はとりあえず解決だ。

もちろん、感染源となったウェブページ上のデータは破棄し、
多少周囲の人間を含めた記憶の方も操作済みの上でのことである。



この地球上の爆発的感染を前に、当初はどうしても後手に回らなければならず、
抜本的な解決策は即時には編み出されなかった。
長門さんなら、もしかしたらそれが出来たのかもしれない。

『機関』としても、彼女にはできればその任に当たってほしかったが、
長門さんは七重の両親の護衛に集中する、の一点張りだった。
情報統合思念体も、そして当のおじさんとおばさんですらも、
その意志は覆せなかったというから頑固な方である。


ともあれ、それはTFEI側の役目であり、お任せするより他ない。
そして、わたし達の戦場は閉鎖空間の中だった。


森「何と言うかこれは……。さながら地獄絵図ね」


数多くの人間の、それぞれの畏怖の対象が具現化したもの。
それらが閉鎖空間内を所狭しとと湧いて出ているものだから、
そう表現するのが妥当かもしれない。

しかし、確かに単体では恐いイメージを抱かせるが、
こうして勢揃いとなるとかえって滑稽な感じすらする。


森「眺めてる場合じゃないわね。さあ、行きましょう」

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:38:41.22 ID:cQX9e7Qho


今回の戦いは、今までと比べても特殊なものらしかった。

世界中に散りばめられた、とでも言うべきか、
数えきれないほどの閉鎖空間の中で機関の能力者が、
情報生命体と戦うのまでは同じなのだが、
敵をすべて倒し閉鎖空間が消えるとき、
被害者はそれぞれ情報生命体によって最初に拘束された異空間へ、
わざわざまたワープさせられる。

すると、空間の主が倒された異空間は崩壊して、
被害者は自動的に、無事元の場所に戻されるらしい。

らしい、としか言えないのは閉鎖空間が消えてわたしも通常空間に出てくると、
被害者の姿が無くなっているので、人々がどこへ行ってしまったのか、
わたしには分からないからだ。一さんのやることだから、間違いはないだろうけど。


それでは、今まではどうしていたのか。


敵を倒したあと意識を失っている人々を、
閉鎖空間内で感染した場所と同じ位置まで、機関の能力者達が運んでいたのだ。

そして、閉鎖空間が消えるときに、被害者だけ、感染した時刻にまで戻されていたらしい。
わざわざ元の場所まで運ぶ手間がはぶけるし、
いつも異空間にワープさせて戻してあげればいいと思うのだが、
それをすると、例のビジネス街の一件のように、翌日の新聞の記事になってしまうらしい。


今回は全てが片づいたら地球規模で世の中の人々の記憶改変を行う、
という条件つきの非常手段なのだそうだ。
自分が聞かされた説明を受け売り的にしているわたしだが、正直ちんぷんかんぷんである。

要は、今回は時間との戦いでもあり敵を倒しすぐ次の閉鎖空間へと向かう、
というショートカットのための手段らしい。


非常時につき閉鎖空間内は、通常空間の時間の流れから切り離されているが、
次の閉鎖空間へ向かうわずかなロスの間に、感染者の数が膨れあがってしまう。
今回は全力で相手を倒しにいく、と言った一さんに限らず、
皆が最初から死力を尽くしていた。


やがて感染元となった起動データや情報生命体が、
TFEI作業班によって全て特定、削除されると、
ようやく凄まじいまでの感染者増加の勢いが止まった。
(思えば一さんもよく戦いながら、こんなに速くしかも正確に相手を捕捉していたものだ)

閉鎖空間が減少していくのを感じるにつれ、皆の希望が確信に変わっていった。
さらにあの先輩がこちらに加勢しに来てくれた。
いち早く、七重の両親と長門さん、喜緑さんの無事の知らせを持って。


そして、受け持つべき近辺の最後の閉鎖空間で、わたし達は敵を全滅させた。

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:41:53.97 ID:cQX9e7Qho

「よし、やったわ!」

あとは他地域の応援に回ればと思った。

でも、わたし達はすぐに異変に気づいた。


古泉「これは……まるで涼宮さんの――」

森「閉鎖空間が拡大し続けている……?」


新たな発生こそ無いが残っていた閉鎖空間が、
消えるどころかぐんぐんその面積を広げていく感覚がある。

サキ「どうして……敵は全て倒したから一さんが解くはずじゃ……?」

不意にぞくりとする。最近備わった能力でなく、本能的に感じ取る畏怖だ。
それは明確な敵意と共に背中から圧するように感じ取ることができた。

「サキ、うしろ!!」

先輩が叫ぶより早くわたしは背後も確認せずに反射的に白い光球になって、
前方の宙に飛び逃れていた。
地響きとほぼ同時に反転すると、わたしのいた場所に巨大な拳が振り下ろされている。


神人。


この空間の中の被造物を破壊し続け、閉鎖空間を拡大させる巨大な怪物。
それもおびただしい数が見渡す限りタケノコのように、
ぬうっと立ち上がってくるのが見える。

一さんに会ったときに見たのとは別物かというほど暴れまわっている。
だがこれが本来の姿なのだという、奇妙な既視感を覚えながら目を離せないでいると、

森「被害者の確保、ただちに上昇! 捕まらないで!」

森さんの鋭い声に、皆は我に返り、役目に戻ったようだった。
各々、被害者の人達を抱え飛び立つも、
既に一体の長い腕の射程に巻き込まれそうな仲間がいた。

間に合わない――


そう思った時、その神人は全体が赤く発光し、消滅した。

無事にこちらへ上がってくる仲間の後方からもう一つ紅玉がついてくる。
上空で円陣を組むと、後ろから来たのは一さんだった。

一「すまん」

眉をひそめながら続ける。


一「閉鎖空間と神人がコントロールできなくなっちまった」

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:45:41.30 ID:cQX9e7Qho

柊さんとわたしの反応がほぼ同時だった。

サキ「なっ……!?」

古泉「ああ、なるほど」

足下で無人の街をぶっ壊し続ける轟音の中、一さんのトンデモ告白にも驚いたが、
わたし達は柊さんの合点がいった様子にもっと驚いた。

森「古泉、どういうことなの」

古泉「いえ、今思い当たったことで仮説に過ぎませんが」

森「話してみて」

森さんが短く早い言葉ながらも、落ち着いた口調で促す。

古泉「はい。考えてみれば、一くんが閉鎖空間で敵を倒す、
   それも全力を使って、という状況は、ここ最近はなかったのではないでしょうか。
   そもそもこの空間は一くんの負の感情で構成されているものです。
   そこに、長年抑制してきた闘争心をこの空間内で解放したことで、
   何らかの共鳴を引き起こし、
   一くん自身にすら歯止めがきかない状態になっているのではないかと」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:49:41.34 ID:cQX9e7Qho

わたしは凍りつくようだった。

一「言われてみれば確かにそんな気もするな」

実に納得した様子で腕を組みながら頷いている。

「……この空間内だけで数百体はいる。あんた、どんだけ溜めてたの。
 他の閉鎖空間内もこれじゃ、応援は望めないな」

この人はこの人で足元を見回しながら、冷静に敵の数を見定めている。

一「まことに面目ない」

わたしは黙っているとおかしくなりそうで叫び出していた。

サキ「面目ない、じゃないわよ!
   こんなのどうしろっての、倒せるんなら自分で片付けなさいよ!」

最低だ。

自身の余りの無力さへの苛立ちを一さんにぶつけている。

そのいつもの穏やかな表情の底に確かに苦悩を抱えていて、それでも、
普通なら情緒も意欲も何もかも意味を失ってしまいそうなほどの永い時間を、
母親譲りの双眸にあかるい輝きを宿して歩んできた人に。

いや、もっと醜い。
わたしはひどく怯えていたのだ。

閉鎖空間と神人が在る以上、世界が終わる可能性は厳然として存在する。
たとえ、それを今まで制御できた一さんだって人間だから失敗はありうるのだ。
『機関』の人間なら常にその覚悟をもってここに立っていなければならなかった。

けれど、わたしは。
それだけは出来なかった。
正直、自分に万一のことはあるかもと、その分は腹を括っていたけれど。
七重が、あの笑顔が、消えてしまう、無くなってしまう。
わたしの帰る場所。それだけは。
そんな甘えた考えで「そんなことなどありえない」と現実を見据えることを放棄していた。

ああ。
こんなことなら、やり直せるならせめて七重とちゃんと――――


柊さんの、自分の手持ちの酸素が尽きそうな状況でも、
ただ冷静に目の前の人達の生存の可能性だけを追求する宇宙飛行士のような声が聞こえる。

古泉「いや、一くんがこれ以上戦闘を続行するのはまずい。
   この推論でいくと、彼が戦えば戦うほど閉鎖空間の拡大に拍車がかかることになる」

チラッとわたしに目をやって、あくまで客観的に分析するように、

古泉「それに、一くんを責めちゃいけない。
   一くんの力を過信して、この事態を予想できなかった我々のミスだ」

返す言葉もない。

「どこかに被害者を降ろす安全地帯は……なさそうね。残念、リベンジのチャンスなのに」

先輩、元気はつらつは頼もしいんですけど、そういう問題じゃ……。

今まで黙っていた森さんが、絞り出すように、

森「仮に被害者を避難させられたとしても、
  神人がこの数では……悔しいけど策が無いわ。万事休すね……」

周りの人達に重い空気が立ち込めようとした時、あっけらかんとした声が響いた。


「策ならありますよ」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:53:41.87 ID:cQX9e7Qho

森「え?」

「ほら、全てのことに意味があるって言ったの、森さんじゃないですか」

言いながらわたしに流し目をくれる。
森さんが、そして柊さんが何かに気づいたようにわたしを見た。

一「そうか!」

突然、一さんが正面からわたしの両肩をつかんだ。

一「サキ! 今すぐ七重をここに呼んでくれ!」

サキ「今すぐ……ここへ……?」

一「そうだ、早くしないと間に合わなくなる」

自分の未熟さなどに考えが及ぶ前に、


わたしは、決壊した。


サキ「や…」

小さな自分の声が聞こえていた。
そして一さんの頬を平手打ちしていた。

サキ「いい加減にして!!」

と叫んでいたと思う。

サキ「あんた、七重の兄貴でしょう!?
   どこのバカが、実の妹をこんな戦場に呼び出すって言うのよ……ッ!」

言い終わる前に目の前が霞み出す。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:57:43.53 ID:cQX9e7Qho
サキ「七重は……あんたをずっと心配して……ずっと待って……、
   おじさんだって、おばさんだって」

後は、自分の嗚咽が聞こえるばかりだった。人前で泣くのは子供の時以来だ。
涙の粒が、すうっと下に、神人達の暴れる中にこぼれ落ちていく。


静かに、今殴った相手とは思えないほど心のこもった声が返ってくる。

一「……すまん。サキの言う通りだ。俺は親不孝で、情けねえ兄貴だ」

違う。

サキ「……」

わたしは嘘つきだ。

一「サキにも。こんなに七重を心配してくれて」

サキ「……たしだって」

一「……?」



サキ「わたしだって七重に会いたいよ!! 今すぐ会いたいッ!!」



一「サキ……」

サキ「会って、ナナに、ちゃんと……」

一「……ありがとう。そんなに七重を思ってくれて。
  ……どうか頼む。君と七重の力が必要なんだ」

顔を上げると、目の前で不自然なくらい思いっきり頭を下げている。

サキ「……約束して」

わたしの言葉に一さんは顔を上げて、

一「何を」

わたしを見上げながら尋ねる。

サキ「この戦いが終わったら、ずっと七重の側にいるって。七重がお嫁にいくまでよ。
   今まで寂しい思いをさせた分ずっとおじさんとおばさんと七重のそばにいてあげて」

一「……わかった」

ハッキリそう聞きとれた。

サキ「……どうすんの」

一「……?」

サキ「どうやってナナをここに呼ぶのよ」

一「……これを。俺の携帯を使ってくれ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 15:59:26.12 ID:cQX9e7Qho
ポケットを探って渡された、携帯のリダイヤルを回すとすぐに見つけられた。

七重『――お兄ちゃん?』

サキ「わたし」

七重『えっ? サキ、無事なの? お兄ちゃんは?』

サキ「一さんもわたしも無事よ。……ごめん。……ナナ、お願い。あんたの助けがいるの」

七重『うん、わかった。どうやってそ』

七重「こへ行けば――」


パッとわたしの目の前に現れ、自由落下を始めそうな七重を、
すかさず一さんが後ろから抱きとめ、支えた。

一「今のは俺じゃない」

携帯を返すと、聞いてないのに説明する一さんには答えずに、七重を見る。

下がとんでもないことになってるのに、一切目もくれず、
ただわたしを心配そうな目で見てる。


七重「サキ。わたし、何ができる?」

サキ「……この世界を。
   終わろうとしてる世界をあなたとわたしで止めなきゃいけないみたい」


話しながら、わたしは何を言ってるのだろうと思う。
なんてことだ。いきなり幼馴染の親友に世界を押し付けて背負わせるのか。

それなのに、七重は戸惑いも見せずにわたしに尋ねた。

七重「……どうやるの?」

サキ「たぶん、この前みたいに、……でしょ?」

七重に答えながら、七重を抱えている一さんに目を移して尋ねる。
一さんが頷くのを確認していると突然七重に、また両肩を前からつかまれた。

七重「ダメだよ! それじゃサキがまた倒れちゃうでしょう!? ヘタしたら……」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:03:31.52 ID:cQX9e7Qho
心配に顔を歪ませる七重を見て、ああ、わたしも人のこと言えないな、と思った。
どうしたってやるしかないけど、それには七重が同意しないことには……。

サキ「ねえ、そこんとこはどうなの」

一「さあ、俺にも全く予想がつかん。死ぬかもな」

おいおい、そこは嘘でも大丈夫と言おうよ。

七重は身をよじって、中学生が明日の天気でも考えるような兄の表情を見て、

七重「……そう。わかった」

え、納得したの?

七重「お兄ちゃんがああ言うなら大丈夫」

強い自信のある目をもって、今度は逆にわたしを励まそうとしている。
言葉だけ捉えればわたしの命の保障を示す内容でないのは明らかなのだが、
七重がそう言うなら兄妹の絆に賭けてみる他ない。

確かあの時は七重とは背中合わせだったけど、向かい合っての体勢でもいいはずよね……。
根拠もなくそんなことを考える間もなく、

一「放すぞ」

七重をしっかり抱き止めると、こんな時なのに変に意識して胸が高鳴った。
七重も多分、恥ずかしがってる場合じゃないとか自分に言い聞かせてるようだった。
平静を保とうとゆっくり繰り返す呼気がほのかに首筋にかかる。

一「早くしろよ、10分切ったぜ」

あんたが言うな! しかしツッコミを入れてる場合ではない。
もの凄い勢いでこの黒い空間が地球上を覆おうとしているのを感じる。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:07:34.96 ID:cQX9e7Qho


世界が終わってしまったら。


まずやっぱりこれだけは七重に言っておきたかった。


サキ「七重、あのね……、ありがとう。
   わたし、お母さんがいなくて、兄弟もいなかったし、あんたがいなかったら、
   きっと凄く寂しく過ごしてたと思う。あのね……」


10分以内で話せることじゃない。

いつ会ったのか覚えてないくらいずっと昔から知っていて、
二人ですこしずつ行ける場所を広げていって、
一緒に笑って、一緒に怒られて、(つまらないことでケンカもして、でもすぐ仲直りして)
一緒に泣いた。

思い出すのはとても感動的なことじゃなくて、
何気ない、ありふれたカッコ悪いことばかりで――


サキ「大好きよ、七重……」


思い切り抱き締める。こんなに温かい。


七重「サキ、わたしも。サキが大好き」


耳元の、ずっとずっと何度も聞いた声。

絶対嫌だ。失うのは。終わるなんて、無くなるなんて絶対に嫌だ。
たとえ世界が新しく生まれ変わってそこに七重がいて、
会えたとしても、今までのわたし達で無くなるなんて絶対に、否だ。

そう、今までのわたし達はお父さん、おばさんとおじさんがいて。
七重にとっては一がいた。



……ああ、そうか、こいつ言わなかったな。

わたしにとってこいつはいなかっただけで、こいつにとってはずっと、わたしはいたんだ。



謝らなきゃ……ありがとうって言わなきゃ……

そう思いかけたとき、そのこいつが最高にあほなことを言った。

一「今だっ。キスしろ!」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:11:37.11 ID:cQX9e7Qho


ふ‥

サキ「ふざけるなああっ!!」

叫ぶと同時に白い光の奔流がわたしからあふれ出し、それどころではなくなった。

世界を揺るがす無音の震動。止まらない。

でも今回は気づいた。
これはわたしの力じゃない。


わたしの胸の中が一番の中心で、そこから発せられてるけど感じる。
これは七重の願いなのだと。

七重の思い。ここで大切な人々を脅かすものを無に帰し、ここで傷ついた人を治癒する。
切なる願いがわたしに伝わってくる。


ああ、七重は小さい時からこんな祈りを背負っていたのか、
わたしにも、きっと誰にも見せず胸の奥で。
兄の無事、戦う人達の無事、滅ぼす相手への、そして何もできない自分への罪悪感。


それが折り重なって。心の奥底に押し込めて。


この眩いほどの白い光が、わたし以外の誰にも、七重自身にも見えないのは、
七重も気づかない、隠された純粋さだから。

七重の光に満たされながら、わたしは理解した。わたしだから見える。
全てのことに意味があるのなら、その中の一つのわたしの意味。


わたしだからできる。七重の思いを世界に広げよう。
七重がすべての悩みや迷いを越えて、一人胸の中でだけ貫いてきた思いだから。


だが、広げようとする白い光を圧迫し、押さえ込もうとする黒い闇を感じる。
今回は前のようにすんなりとはいかないらしい。

サキ「七重」

抱き合ったまま、顔を見ず言葉に込めて伝える。

サキ「全て渡して。わたしは大丈夫」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:15:38.96 ID:cQX9e7Qho

一瞬、間があって、わたしの背中に回した腕に力が入った。

突然、段違いに大きい揺れが来る。追い越すほどのうねる波動が―――
まずい、わたし自身が翻弄されそうだ。

一「負けるな、押し返せ!」

……あんたにだけは――――

サキ「ううおおおおおおおおおおおおっ!!」


視界が360度真っ白になりながら、わたしは自分に誓っていた。

この戦いが終わったら、このバカ兄貴をもう二、三発ぶん殴ると。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:19:40.73 ID:cQX9e7Qho



結局、七重が心配したような大事に至る事もなく、
わたしはただ三日ほど眠り込んでしまったらしい。

しかし、二度も突発性居眠り病に、しかも立て続けにかかってしまっては、
父の心配も深刻さを増すだろうという、
一の勝手な配慮によって、わたしは体内時計を一時的に早巻きにされ、
目が覚めた時は自宅の布団の上だった。

机の上の、七重の字の書き置きによって、わたしはそのことを知った。
三日分余計に歳をとったことになるが、
寝ていればどうせ同じことだからやはり感謝すべきなのだろう。

携帯で確認すると、あの戦いから数時間も経っていなかった。
いつも通り起床する時間も近くなっていたし、
わたしは家事と、学校に行く準備を始めたのだった。



それから、何事もない日々が続いた。

わたしは気づけば能力者としての力を全て失ってしまっていて、
もう閉鎖空間を感知することができなくなっていた。

そして、『機関』の方から知らされることもなく、わたしと七重はただ平穏の中にいた。


学校生活での変化はと言えば、他クラスではあるが、
あの先輩が同級生として転入してきたことである。

情報統合思念体のインターフェースとしての一面を持つ彼女は、
七重の観測役の任務だけ長門さんから引き継いだのだそうだ。


だけどわたしが思うに観測する役目というのは、
もっと引き気味なスタンスの人がやるものだと思う。


転入早々、自己紹介からしてクラスを湧かせたらしい彼女は、
今や次の学期は委員長、はたまた生徒会長と目されると風の噂に聞く。

そうそう、新しい部活を作ったから入らないかと誘ってくれて、
そう言えば何の部にも所属していなかったわたしと七重は、
彼女の人柄に引かれて、何の部活か確かめもせずに用紙に名前を書いてしまった。

部はいきなり作れないから正しくは同好会というのだろうか。
彼女自身、やりたい案が膨大にあるようで、
幾つかにまとめるからその時また意見を聞かせてほしい、とのこと。


今までとは違う方向に、つまり学校生活の方が賑やかになってきた。

でも、もう閉鎖空間に出入りすることはないが、
わたし達を脅かすあの存在が全て消えてしまったわけではなく、
『機関』の戦いは続いている。

なのにあれ以来、一度連絡をとった柊さんや森さんに会うこともなくなってしまった。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:23:42.71 ID:cQX9e7Qho


ある日、坂道を下りてきたところで柊さんが、笑顔を浮かべて待っていた。
片手を軽く挙げて、

古泉「やあ」

七重「あ、わたし先に帰ってようか」

すると柊さんが、

古泉「今日は主に二人の友達として、話したくて来たんだ。
   天気も良くなったし、歩きながら話さない?」

なんだか今日の柊さんはとてもリラックスしていた。
にこやかにストレッチしながら歩き、周りの景色を見て、

古泉「う〜〜ん、ここは緑が多くて、いつ来てもいいなあ」

わざわざ話にきたはずなのに何やってるんだろう、
とわたしと七重も拍子抜けした感じでついていく。

柊さんは足に任せて、線路わきの県道から土手を登り、川沿いの遊歩道へ入る。
ずっと南のほうまで、桜並木が川の両側の道に続いている。
昨夜に止んだ雨ですこし地面が湿り気が残っているが、
よほど大きな水たまり以外は残っていない。

雲のかたまりから抜けた日が射すと、まるで子どもの何の屈託もない笑顔のように、
あたり一面がまぶしい。

木陰の乾いたベンチの上を軽く手で払うと、柊さんはわたし達に座るよううながした。
七重をまんなかに腰かけると、柊さんが顔を向けて、

古泉「小坂さん。あれから何か、困ってることはないか?」

サキ「大丈夫です。普通の日常に戻ったというか」

古泉「よかった。それが何よりだ。
   これからも『機関』の一員として、七重ちゃんのことを頼むよ」

サキ「はい……。あの、わたしと会っててもいいんですか。その……忙しいのに」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:27:44.50 ID:cQX9e7Qho
柊さんは笑いながら、

古泉「何言ってる。森さんや僕、それに多丸さんたちは、
   『機関』での関係を外れたところじゃ、
   これからも君とは年の離れた友人としていたいんだが、駄目かい?」

サキ「いえ、こちらこそ皆さんのことが好きですから是非お願いしたいんです、ただ……」 
口を濁したわたしに、

古泉「そうそう、君にはまだ紹介してなかったけど、
   新川さんという、『機関』を引退した男性がいてね。
   今回のことを報告がてら君のことを話したら、とても会いたがってたよ」

サキ「そうですか……」

あれ? 新川さんって、確か。

古泉「そう。鶴屋家の執事の」

ああ、やっぱり。当主の鶴屋さんはおじさんおばさんと高校時代からの友達らしい。
涼宮家の家族旅行にわたしもご一緒する時があるけど、行き先はあちこちなれど、
宿はたいてい鶴屋さんが気前よく招いてくれた別荘だ。
そしてそんな時、決まって温厚そうな年配の男性のお世話になっていた、まさにその方だ。

もっと一番深く覚えてることがある。
この辺りには鶴屋家私有の山があるけど、子どものころ七重と勝手に遊びに入って、
道に迷っていたわたし達を、何故か探して見つけてくれたのも新川さんだ。

もうとっくに日も暮れてるのに、家まで送って帰ってくれて、
それぞれの親に叱られてるのをかばってくれた。
七重もきっとよく覚えてると思う。

森さんも柊さんも、新川さんも多丸さん兄弟も、みんな温かい目をしている。
あんな戦場をくぐり抜けてきた人ばかりだというのに、
それだけに染まらない優しく強い目をしている。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:31:45.93 ID:cQX9e7Qho
わたしも新川さんに改めてご挨拶したい。でも……

思い切ってわたしは口を開いた。

サキ「柊さんや森さんはこれからも戦いつづけるんですよね。
   ……なんだか、わたしだけ抜け出したみたいで」

柊さんはわたしが話し終わるまで、静かに聞いていたが、
あのいつもの説明するときの、整然とした口調で話してくれた。

古泉「いや、僕らは今は天職だと思ってるし、
   もともと、これからも体が動くかぎりは続けていくつもりなんだよ。
   そして、皆君に感謝してる。
   それに君が力を失ったということは、その役目を果たしたんだと誇っていいことだ。
   我々にしてみれば、君がずっと力を持ち続けていることの方が心配なんだ。
   それは君がずっと危険の中へ飛び込んでいかなきゃならないってことだけじゃない。
   あの力を持った者が現れるということは、
   また涼宮一が神人を抑えきれない事態が起きる恐れがあることを、
   意味するのかもしれないから」

サキ「そんなものなんでしょうか」

古泉「森さんの言うとおり、
   全てのことには意味があるんだと思わされるところがあったからね。
   もっとも、今回は幸運に恵まれただけかもしれないけど、
   いずれにせよ、君が自分を責めることはないよ」

柊さんたちのほうが大変なのに。

サキ「そう言っていただけると……。ところで、一は今も戦ってるんですか」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:35:48.53 ID:cQX9e7Qho
七重は兄の悪口は決して言わないし、
わたしには今閉鎖空間が発生しているか感じ取ることはできない。

古泉「戦いを続けてる。でも、以前に比べたら、我々に任せるようになったほうだよ」

やっぱり、あいつは時々、いや多分かなり家を留守にしてたのか。
わたしが行った時は取り繕ったように戻ってたんだな。

七重「でも、お兄ちゃん、前よりよく笑ったり話したりしてくれるようになったんだよ。
   おじいちゃんやおばあちゃんは、よく遊びにくる男の子だと思ってるけど、
   おじいちゃんの畑仕事を手伝ったり、
   おばあちゃんに世界中の旅したところの話をしたり。
   お父さんやお母さんとも、次はなるべくこの日にちに帰ってくるから、
   家族で何かしようとか……」

サキ「わたしは七重がいいなら。本来わたしが口出ししていいことでもないし。
   あいつなりに使命を帯びてやってるんだって、分かってる。
   ……あんたの兄貴は大した男よ」

七重が胸一杯、嬉しそうな顔を輝かせる。
七重がこうしている限り、わたしが誓いを果たすことはないだろう。
もう少し、この健気な妹に寂しい思いをさせないでくれればね。

古泉「しかし、今回のてん末を涼宮さんに報告したら怒られてしまってね」

頭をかきながら話す柊さん。

サキ「え、怒られた? 七重のお母さんに? 七重まで巻き込んだから?」

七重「ううん、そうじゃないの」

柊さんは川の方を見ながら答えた。

古泉「一くんのことでね。実は、涼宮さんからは前々から言われてたことなんだがね、
   一くんの力を、もっと人間同士のことに使うべきだと。
   何といっても一くんのお母さんだから」

確かに、宇宙から襲来する敵と戦うこと以外に、一が何かしてると聞いた覚えがない。
考えてみれば、スーパーマンのような、人助けにだって生かせそうな力を一は持っている。

サキ「でも、いつ現れるか分からない敵と戦いながらそうするのって、
   大変なんじゃないですか」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:39:49.92 ID:cQX9e7Qho

柊さんは意外そうな目でわたしを見て言った。

古泉「……確かに。それだけじゃなく、色々な理由で、統合思念体や『機関』からは、
   今までは一くんに天蓋領域からの地球の防衛に専念するように求めてきて、
   そして一くんはそれに応えてきてたんだ。
   涼宮さんもしぶしぶながら了承する形でね」

サキ「じゃあ、今回のことでおばさん、それ見たことかだったんじゃないですか」

柊さんは痛いところを突かれたような笑顔を見せながら、

古泉「正にそのとおり。涼宮さんだけじゃなく、長門さんからもついに意見が出てきてね。
   我々もとうとう、一くんの意志に委ねることになってしまった。
   どうなることやら、とにかく森さん達の長年の苦労も水の泡だよ」

その割にどこか嬉しそうに見えるけど。
役割についての話で思い出したが前から気になってたことがある。

サキ「あの……突然ですけど柊さんって普段何してるんですか」

古泉「そう言えば今まで、話したことなかったな」

七重「ええ、二人とも……」

皆でおかしくて笑ってしまった。
確かに。何度もお会いしてるのにそれどころじゃなかったから。

古泉「大学で文化人類学を教えてる。
   それから、妻の家が神社なんだが、そこで神主の仕事も少々ね。
   まあ、ほとんど研究のための出張ってことで家を空けて、
   家族からは半ば呆れられてるけど。
   ……妻も娘達も理解してくれてるのは本当に有難いことだ」

柊さんに教わる学生は幸運だ。
それにしても、そんないい奥さんや娘さんたちを悲しませないでくださいね。

柊さんは苦笑して、

古泉「一くんから聞いたよ。ありがとう、めったなことでは無理はしないさ。
   でも、奥さんって呼び方は正確じゃないかもしれないな。
   小さいけれど町に弁護士事務所を開いて、
   彼女も家事と仕事で毎日忙しくしてるからね。
   娘達が曲がらずに育ってくれたのは、彼女のお陰だよ」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 16:41:42.50 ID:cQX9e7Qho
森さんによると柊さんは子煩悩の愛妻家らしいから、『機関』の仕事の合間にも、
あのカギを使ってこっそりあちらの世界に戻ったりしているのかもしれない。

そうだ、カギで思い出した。

サキ「これ」

わたしはポケットからカギを取り出した。

サキ「長門さんにお返ししようとしたんですが、
  『いい』とか『わたしからのお礼』とかおっしゃって首を振るばかりで」

古泉「持ってればいいじゃないか。
   君の判断で使えばいいし、別にあの場所は利用してくれて構わないよ」

サキ「でも、落としたりしたら困るし」

古泉「君はそんなにおっちょこちょいには見えないけどね。
   そうそう、今度家に遊びに来てくれ。娘達は君達と同い年だし、
   きっと気が合うと思うよ」

七重「わたしもそう思う。時々しか会わないけど、
   双子ちゃんなのに全然性格が違ってて、でも二人ともすごくいい子だよ」

それは会ってみたいな。今度、うかがう時にわたしからお電話します。
じゃあ、そろそろ失礼します……



挨拶して見送り、わたし達も歩き出すと、七重が言った。

七重「ねえ、このまま北口まで歩いていかない?」

サキ「うーん、夕飯の買い物あるしなあ……」

七重「たまに北口で買ってもいいじゃない、帰りはバスで」

サキ「でもやっぱり歩くにはちょっと遠いよ……」

七重「じゃあ走ろうっ」

と駆け出す七重。

サキ「ええっ。なんでそうなるの!?」

わたしも走ってついていく。

まあでも、こんなことで騒げる日が戻ってきたことが素直に嬉しい。
北口駅辺りを二人でぶらっとするなんて随分久しぶりだ。

そう言えば、もうすぐ七夕。七重の誕生日だ。
あの「転入生」の子を誘って七重に内緒でプレゼントを探す、その下見にしようかな。

七重「サキ、何ニヤニヤしてるの?」

サキ「ううん、何でもないよ」


昨日降った雨の水たまりには、雲間から顔を出した太陽がキラキラ光っていた。


148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 16:49:31.90 ID:cQX9e7Qho
ここまで読んでくださってありがとうございました。レス感謝です。
このSSは「幸せな瞬間を詰め込みたい」と思いながら書いていました。
もしそんなひとときをお届けできたなら幸いです。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/04(日) 17:07:23.42 ID:TDyQftRd0

何かわからない所もあったから美那雄けど、とりあえず完結おめでとう
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 17:23:24.85 ID:cQX9e7Qho
>>149
ありがとうございます。分かりづらくてすみません。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 17:38:04.71 ID:TDyQftRd0
サキ→七重であってる?それともただの友情?
最近その手の作品が多いから判断に困っている。俺の基準が変になってて……
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 18:32:52.58 ID:cQX9e7Qho
>>151
はっきりと恋愛感情という意味ではサキ→七重ではないです。
ただの友情かというとまた違っている気がします。サキはかなり七重に依存している、深い親愛の情を抱いています。
答えになっているでしょうか。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 18:39:59.56 ID:TDyQftRd0
>>152
答えてくださってありがとうございました。人によっては背景に百合の花を描くぐらいだなと理解しました(理解しているのか?)
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