('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/11(木) 13:04:29.68 ID:w/SjFl/mo
乙です 作者様軍事系詳しい人なん?
>>78顔文字っていうよりブーン系という一ジャンルやで
良かったら検索してみて
80 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 01:37:48.02 ID:cHXotTvn0





雨と共に降り注いでくる敵の砲弾が、そこかしこに突き刺さって炸裂する。

火柱が吹き出し、建物が崩れ落ち、地面が揺れる。

街に立ちこめる、硝煙と土煙の匂い。

それらはとりもなおさず、今私が「戦場にいる」ということを実感させた。

(;><)「敵艦砲射撃、来たんです!!」

(#゚д゚ )「足を止めるな!!行け行け行け!!」

頭上をまた1発、砲弾が飛び去っていく。背後で上がった大きな爆発音に竦みかけた足を、歯を食いしばって無理やり動かす。

『オオアアアアアアアアアアッ!!!』

唐突に、150メートル程向こうで古びたアパートが一つ崩れ落ちた。瓦礫を踏みしめながら現れたのは、オタマジャクシの足に無理やり深海魚の身体をひっつけたような、黒光りする歪な化け物。

『アァアアアアアアアッ!!!』

駆逐イ級は、此方を見てサイズだけなら列車砲ほどもある大きな図体を震わし、威嚇するように咆哮した。

「っ」

その耳障りな声に、私の足は再び棒になる。

( <●><●>)「正面、駆逐イ級後期型1体。砲塔はまだ格納中」

(#゚д゚ )「出すまで待ってやる必要はない!パンツァーファウスト!!」

  _
(#゚∀゚)「Jawohl!!」

先頭を行く妙に目力が強い分隊長───ミルナ=コンツィ陸軍中尉の叫び声に応じて、対戦車携行砲を構えた二人が隊列から躍り出た。
  _
(#゚∀゚)「Feuer!!」

『ウォオオオオオオオンッ!!!?』

イ級の鼻っ面に、2発のロケット弾がほとんど同時に直撃。イ級はガラスを引っ掻いたような音の叫び声を上げて仰け反る。
  _
(#゚∀゚)「レーベ、行け!!」

「Jawohl!!」
81 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 01:40:09.34 ID:cHXotTvn0
怯んだイ級に向かって飛び出したのは、私と同じ警備府に所属するZ1───駆逐艦娘のレーベレヒト=マースだった。

彼女は12.7cm連装砲を胸の高さに構えつつ、姿勢を低くしてイ級に向けて弾丸のように突っ込んでいく。

「Feuer!!」

『ア゛ア゛!!?』

150メートルの距離を更に半分まで詰めての砲撃。私たち艦娘からすれば目をつぶってでも当てなきゃいけない超至近距離だ。砲弾は先ほどジョルジュ少尉達が攻撃した箇所に寸分違わず命中。

火花が散り、イ級の強固な外殻が砕けて白くぶよぶよした肉繊維が黒煙と共に露出した。

( <●><●>)「Los Los Los」

(#><)「Weiter Feuer!! Weiter Feuer!!」

『アアアァアア………』

大きな損傷を負ったイ級に、間髪を入れず今度はアサルトライフルによる弾幕射撃が浴びせられる。

勿論幾ら中破状態とはいえ、深海棲艦の装甲や耐久に対して歩兵の小銃でトドメを刺すなんて不可能だ。

ただし、火線は悉く眼の付近に集中し、イ級の視界を奪いにかかる。

『オォ、アァアアァァァ………』

ミルナ中尉達の巧みな連携に反撃すらままならないイ級は、どうやら“戦略的撤退”を試みたらしい。

遭遇当初の威勢の良さはどこに行ったのか、弱々しい鳴き声を上げて黒煙が吹き出す身体を引きずりながらきびすを返す。

当然、その動きは遅すぎる。

「───Feuer!!」

レーベは既に、ティーマス軍曹とビロード軍曹の牽制射撃の合間に、距離を残り10メートル足らずまで詰めている。彼女は右手の連装砲と、背負っている艤装の両端に備え付けられた10cm高角砲を同時に起動した。

『オァ゛ア゛ア゛ッ!!?』

間近から放たれた“艦砲射撃”。巨体が爆圧で浮き上がり、まるでクリケットのボールのように飛翔する。

ぐしゃりと音を立てて、道脇の家屋に叩きつけられる。

崩れ落ちた瓦礫の下敷きになったイ級は、そのまま二度と起き上がらなかった。
82 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 01:42:20.02 ID:cHXotTvn0
「っ!!」

敵の撃破に、歓声を上げる暇なんてない。レーベはすぐに表情を険しくすると、その場から後ろに飛び下がる。

先ほどまで彼女が立っていた位置に、巨大な拳が叩きつけられた。
  _
(;゚∀゚)「レーベ!!」

「大丈夫、避けました!!損傷ありません────っと!!」

今度は砲撃。再び彼女は跳び、爆風による衝撃を着地ざまに地面に転がって逃がす。

私たちの足下まで転がってきたレーベを、ティーマス軍曹が手早く助け起こした。

( <●><●>)「損傷状況を」

「深刻な損傷はない!まだ戦えます!」
  _
(#゚∀゚)「そいつぁ上等だ────お客さんのお出ましだぞ!!」

ジョルジュ少尉の注意喚起の声に応じるように、新たな敵は右手───さっきイ級が現れたのと反対方向の家屋を突き崩して私たちの前に立ち塞がる。

まず眼を引くのは、大きさも形もてんでんばらばらな三つの頭。首から下には胴体や足がなく、太くて白い、ぬらぬらと気持ちの悪い光沢を放つ図太い腕が二本伸びて頭部を地面から持ち上げている。
どの頭部にも眼はついておらず、代わりにおおよそ8メートルほどの高さから私たちをにらみ据えるのは頭頂に備え付けられた連装砲とあごの横に盛り上がった魚雷発射管だ。

『ウゥオオオオオ………』

出来損ないのケルベロスのような形をした深海棲艦、軽巡ト級は本当に犬が威嚇するように私たちに向かって低く唸る。

なんとなく、仲間のイ級が轟沈したことに対する、怒りと悲しみを露わにしているようにも見えた。
83 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 01:47:21.81 ID:cHXotTvn0
  _
(#゚∀゚)「Feuer!!」

『ォオオオォオオオ』

私たちを吹き飛ばすべく発射態勢に入った砲塔に、ジョルジュ少尉たちが放ったロケット弾が3発相次いで命中する。大きなダメージこそ与えられなかったようだけど、暴発や照準のぶれを嫌ったのかト級は砲撃を取りやめて爆発から逃れようとするように身をよじる。当然のことながら、その動きは大きな隙を生む。
  _
(#゚∀゚)「プリンツ!!」

「ふ、Feuer!!」

合図に合わせて艤装の上側、SKC 20.3cm連装砲2門を起動。ト級の中央頭部めがけて放つ。

『グォウッ!?』

「くっ……」

右舷の砲撃は外れ、すぐ傍の民家の屋根を吹き飛ばす。左舷の砲撃は命中し、奴は衝撃でよろめき蹈鞴を踏んだ。

だけど、明らかに浅い。損傷具合で言えば、小破に行くか行かないか。

( <●><●>)「ト級、損害有りもなお健在、未だ戦闘能力を有しているの解ってます」

(#゚д゚ )「ジョルジュ、もう1発お見舞いしてやれ!!」
  _
(#゚∀゚)「言われずとも!! Feuer!!」

(#><)「小銃一斉射、奴の腕に火線を集中!動きをせめて封じるんです!!」

『オオォオオオッ!!!』

三回目のロケット弾は向かって左手の頭部に命中。間を置かずアサルトライフルの弾丸もト級の腕で弾ける。ト級は鬱陶しげに頭を振りうなり声を上げるけれど、効いているようには見えない。

(;><)「ターゲット、効果的なダメージは見られず!行動抑制効果も薄いんです!!」
  _
(;゚∀゚)「やっぱ戦車がないとキツいかクソ………おぉっ!?」

『ガァアアアアアアッ!!?』

“真下”から撃ち上げられた砲撃が、突然ト級の頭部を跳ね上げる。完全に予想していなかった箇所から攻撃を受けたト級は、後ろに大きくよろめいた。バランスを崩し手をもつれさせて、家屋を巻き込みながら地響きと共に転倒する。
84 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 01:48:44.91 ID:cHXotTvn0

「よし、どうだ!!」
  _
(*゚∀゚)「ッヒュゥー!やるねぇレーベちゃあん!!」

前のめりに倒れ込んできたト級の巨体を避けながら、いつの間にか再び隊列から飛び出していたレーベは小さくガッツポーズをしている。手に持っている連装砲が小さく煙を上げているところを見ると、今の一撃はト級の懐に飛び込んだ彼女によるものなのだろう。

「プリンツ、今だ!!」

「う、うん!!」

レーベの合図に併せて全ての砲塔をト級に向ける。

至近距離、転倒して身動きがとっさに取れない相手、地上のため足場も安定。

これで外したら、私は恥ずかしさと情けなさのあまりBismarck姉様の胸に顔を押しつけて窒息死する事を選ぶ。

「Feuer!!」

『ガッ………』

4門、一斉射。砲撃は起き上がりかけていたト級の中央の頭を跡形もなく吹き飛ばし、両側ニ頭の凡そ半分ほどの面積を抉り取る。

ズンッ、と重い音を立てて再び崩れ落ちたト級は、そのまま完全に機能を停止した。

(;><)「敵艦の機能停止を確認───敵艦砲射撃、再び来るんです!!」

(;゚д゚ )「伏せろぉお!!」

……立て続けに2隻の敵艦を撃沈したっていうのに、深海棲艦の奴等は私たちに余韻に浸る僅かな暇すら与えてくれない。

ぬかるむ地面に身を伏せた私たちの前後、それぞれ20メートルも離れていない位置に飛翔音と共に砲弾が突き刺さる。

巨大な爆発。
降り注ぐ泥。
地面から身体に這い上ってくる震動。

………私の歯がやたらかちかち鳴っているのは、きっと地面が砲撃で揺れたせいだ、そうに違いない。
85 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 01:51:54.50 ID:cHXotTvn0
(#゚д゚ )「損害、損傷報告!!」

( <●><●>)「全員無事です。分隊に欠員なし」

「レーベレヒト=マース、損傷無し!」

「プリュ、プリ、プリンツ=オイゲン、損傷ありません!!」

(#゚д゚ )「HQに現状を報告したい!ジョルジュ、通信を繋げろ!」
  _
(#゚∀゚)「もう無理ですよ中尉!!既に五分ほど前からベルリン市外への通信は全部隊が通じていない模様です!深海棲艦の妨害区域に入ってます!!」

眉g、ジョルジュ少尉はそれだけいうと罵倒を吐き出しながら地面を蹴った。近くにいたレーベが、びくりと一瞬肩を震わせる。
  _
(#゚∀゚)「あのクソッタレの鷲鼻野郎!!何が“この区画に突入すれば事態が好転する”だよ!!このままだと全滅を待つだけだぞ!!」

(#゚д゚ )「落ち着けジョルジュ!!ラインフェルト大佐の命令はお考えがアッテのことだ!!」
  _
(#゚∀゚)「あぁそうだな!!21世紀のマンシュタイン様にはさぞや大層な深謀遠慮があるんだろうよ!!

ところでその深謀遠慮の結果俺たちは現在進行形で死にかけてるわけですがね中尉!!」

(;゚д゚ )「っ……」

……あまり学があるとは言えない私でも、ジョルジュ少尉が私とレーベをミルナ中尉の部隊に配属したあの鷲鼻の陸軍大佐の作戦に怒っているのは理解できた。

そして、はっきり言うと私も同じ気持ちだった。
  _
(#゚∀゚)「機甲師団なし、空軍の支援は効果希薄、東部に展開しているであろう友軍は正確な規模不明!!この上本部とは通信が繋がらねえ状況下で待ち伏せていた敵の十字砲火に晒されてると来た!どんな深謀遠慮だか、楽しみすぎて涙が出てくるよ!!」
86 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 01:54:35.23 ID:cHXotTvn0
深海棲艦の神出鬼没ぶりに対抗するためアメリカから大量に輸入されたという、最新鋭の高速輸送機に乗せられて私たちはベルリン南部に空から突入した。

戦力は、私とレーベを含め戦闘能力を残した状態で南に逃れることができた艦娘8人。そして、ミルナ中尉ら陸軍歩兵1200余名。

深海棲艦は、私たちが南部に完全に展開しきるのを待ち構えてから区画を包囲封鎖。前衛攻撃・足止めとして非ヒト型のホ級やイ級、ト級を投入しつつ周辺から壮絶な艦砲射撃を開始した。

“艦娘が八人”とは言っても、その中にはBismarckお姉様もグラーフさんも1隻もいない。重巡プリンツ=オイゲンですら、私一人だけ。

他の艦娘は、レーベレヒト=マースが3隻とマックス=シュルツが4隻。

ル級やタ級といった“戦艦”に包囲されている現状を打破するには、火力も数も足りない。

この状態が続けば、多分私たちはまともな反撃ができないまま1隻残らず全滅する。肉薄して至近での砲撃戦に持ち込もうにも、非ヒト型が間断なく投入されてくる現状だと仮にたどり着いたとして弾薬も燃料も残らない。

少なくとも私には、あの大佐さんが立てた“作戦”はただの手の込んだ自沈命令にしか見えなかった。

( <●><●>)「今は、言い争っている場合ではないことは解ってます」

今にもつかみ合いをはじめそうなミルナ中尉とジョルジュ少尉の間に、ティーマス軍曹がそっと割って入る。軍曹は二人を引きはがしながら、私の方をちらりと見た。

( <●><●>)「中尉、少尉。正直な話、貴方方が言い争いをしている間に敵の砲撃が私たちを吹き飛ばさなかったのは奇跡です。すぐに移動しましょう」

( ゚д゚ )「……そうだな。総員、一先ず西に移動しろ!敵に位置を把握されている可能性が高い、砲弾の飛翔音に気をつけろ!」

( <●><●>)「プリンツ=オイゲン、貴女が水偵を装備しているのは解ってます。退却であれ進撃であれ、敵の現状を確認しなければなりません。

可能ならば飛ばしていただけませんか?」
87 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 02:05:52.98 ID:cHXotTvn0
「あっ、はっ、はい!!」

ティーマス軍曹に声をかけられ、私は我に返る。ミルナ中尉達に小走りでついて行きながら、懐からAr-196改を取り出して左手の艤装に装着。【Helm】や【Ball】の機影がないことを確認して、空へと向ける。

「お仕事だよ、お願いね!」

機内の妖精さんに軽く声をかけ、機体を空へ放った。

「………あの、軍曹、お手数なんですけれどしばらく手を握って私を先導していただければと」

( <●><●>)「えぇ、かしこまりました」

「Danke、では────」

ティーマス軍曹に手を引かれながら目をつぶり、私の「意識」をAr-196に乗る妖精さんの「意識」に重ねる。

途端、瞼の裏しか見えない状態の筈の私の眼は、空へと駆け上がっていくAr-196のコックピットからの景色を映しだした。

(………やっぱり、酷い有様だ。街が、こんなに滅茶苦茶に)

空から見たベルリンは、“無事なところ”を探す方が遙かに難しかった。瓦礫の山と化した区画、無数の炎が飲み込んでいる区画、黒煙に包まれて何も見えない区画…………そして、たくさんの死体が積み重なっている区画。どこもかしこも、見られるのは深海棲艦による“破壊”の跡だけだ。

(………っんぷ)

一瞬こみ上げてきた吐き気を、無理やり喉から押し返す。

今は吐いている暇はない。まず敵の状態を偵察、逃げ道か打開策か、とにかく何か見つけないと────





.
88 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 02:23:28.73 ID:cHXotTvn0
「……………ミルナ中尉!!!!」

(;゚д゚ )そ「うおっ!?」
  _
(;゚∀゚)そ「わぁこっち見んな!?」

自分でもびっくりするほどの大声が、喉から迸った。私はティーマス軍曹から手を放すと、一目散にミルナ中尉の下に駆け寄……ろうとして、足がもつれて転び頭から水たまりに突っ込んだ。

………おかしいな、私巷じゃ船だった時代のせいもあって幸運艦なんて呼ばれてるんだけど。

「ちょっ、プリンツ大丈夫?」

思い切り鼻の頭をぶつけた痛みで立ち上がれない私に、ミルナ中尉とレーベが呆れた様子で駆け寄ってくる音が聞こえる。

( ゚д゚ )「……」

その足音は。

「………」

遠くから聞こえてきた“砲声”によって、止まった。
  _
( ゚∀゚)「………」

深海棲艦の、ル級やタ級が放つ“艦砲射撃”とは明らかに異質な、少し“軽い”と感じる響き。

(;><)「………」

キャタピラーが瓦礫を踏みしめながら道を進んでいく音を同時にこだまさせつつ、確実に此方へ近づいてくる幾つもの轟音。

「────中尉!!!」

ようやく鼻の痛みから復活できた私は、地面から身を起こして中尉の袖を掴み、叫ぶ。







「市街地東部にて大量の戦車隊を有する友軍部隊が突貫!!深海棲艦の包囲網に対して攻撃を開始しています!!」
89 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 02:24:08.95 ID:cHXotTvn0
第七波ここまで。
ご静聴ありがとうございました。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 10:04:56.53 ID:2w4OLa5mO
なんでドックンまだ少尉なんや……

乙です。めっちゃおもろい
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 12:20:26.58 ID:t9rKSQ9A0
おつおつ
ちょいちょいはっちゃけてるプリンツがw
絶望的な状況でも、折れない精神で部隊を引っ張れるミルナ中尉も凄いなあ…

>90
異例の二階級特進を蹴ったから、エルファシルの英雄として祭り上げられたヤン・ウェンディみたく政治利用されない自由もあると言うか
92 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 15:54:51.54 ID:cHXotTvn0




(`∠´)「士官学校時代の私は、とんだクソガキでね。

“連邦軍始まって以来の神童”なんて周りから煽てられた結果、鼻持ちならない自信家になって全ての人間を見下していた」

ベル=ラインフェルトは椅子に深く腰掛けながら、唐突にそんなことを語り出した。

彼の眼前には、北部の混乱からなんとか逃げ延びレヒフェルト基地に集った三軍の将校達が集まっている。

ベルの立案した「無謀な作戦」に物申すために司令室に詰めかけた彼らは、誰もが唖然として椅子に座り懐かしげに微笑む彼を見つめている。あまりに絶望的な状況にとうとう気が狂ったのではないかと、本気で訝しんでいる者も少なくない。

(`∠´)「そういえば、以前の同期達とは今すっかり会わなくなってしまったな。この騒動が終わった暁には、是非彼らと酒でも酌み交わして」

「大佐ァ!!」

あまりに場違いな物言いに、遂に一人が声を荒げて机を殴りつけた。ペン立てが震動でひっくり返り、中身をぶちまける。ベルはその光景に、小さく眉をひそめた。

(`∠´)「落ち着きたまえ君、物が壊れたらどうしてくれるんだ。

君もドイツ連邦陸軍の少佐として、もう少し思慮を深く持ちなさい」

「何を落ち着けと言うんですか!!」

食い気味に反駁した海軍少佐は、北方沿岸部の警備府で提督をやっていた。深海棲艦と前線で渡り合った経験もある若く有能な人材だったが、利権争いに明け暮れる上層部と衝突した結果辺境に左遷されたというなかなか激しい経歴の持ち主だ。

彼から見れば、今この瞬間目の前に悠然と座っている鷲鼻の陸軍大佐は何者よりも許しがたい悪徳に他ならない。
93 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 15:56:38.82 ID:cHXotTvn0
「市内に突入した友軍から、電波妨害圏内に入る直前深海棲艦による待ち伏せ攻撃を受けたとの報告がありました!!

現在強襲部隊は包囲下で全滅の危機にあると思われます!!一刻も早ぐ……う゛っ……」

提督の言葉は、後半涙に呑まれてまともな声にならずかき消える。

ドイツ領の端の端に勤務していた彼に部下として配備されていた艦娘は、Z3 マックス=シュルツただ1隻。苦楽を共にした彼女は今、ベルの命令により首都強襲部隊の一角に編入され深海棲艦による十字砲火の直中にいる。

ベルへの怒りと安否不明となった部下に対する思いは、最早彼の許容量を超えていた。

「大佐、何度も申し上げました通りやはりこの作戦は無謀だったのです」

机にすがりつくようにして泣く提督の後を、空軍中佐が引き継ぐ。彼はベルから聞かされた作戦概要を見たときに、最後まで強硬な反対を続けている。

「レヒフェルトからベルリンまでの凡そ500km、敵からの強襲がないわけがない。

仮に強襲・対空迎撃がなかったとすれば、それは間違いなく向こうの罠だ………正直、大佐ほどの方が解らないはずがないと信じていました」

彼の口調は静かだが、語尾に走る震えが内に秘めた怒りの大きさを表している。

「大佐……私は貴方の名声と実績を信じて最終的に作戦を託した2時間前の自分を射殺したい気持ちです」

(`∠´)「………」

「1200人の優秀な陸軍士官と8人の艦娘を、希望的観測ありきの死地に追いやる………これが、今の我々にとって、否、世界にとってどれほど背信的な行為かおわかりですか?」
94 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 16:00:56.07 ID:cHXotTvn0
50機近いV-22を動員した大規模空挺強襲……言葉だけを聞けば威勢が良いが、内実は1200人の歩兵を化け物に制圧された市街地に降下させたに過ぎない。

深海棲艦に対抗し得る戦力である“艦娘”にしても、僅か八人、しかも戦艦も空母もいない。

もし海の上ならば、駆逐艦と重巡にも魚雷攻撃という一撃必殺の切り札があった。だが、今回は内陸に敵の侵攻を許した上での陸上戦闘だ。主砲の火力差は、そのまま彼我の戦力差に直結する。

はっきり言って、道中で襲撃を受けて追い返されたり激烈な対空砲火によって市街地への着陸がならず帰投したという話になれば寧ろドイツ軍にとってマシだった。
少なくとも通信もままならない市内に引き込まれての包囲殲滅という考え得る限り最悪の、それも比較的容易に想像がつく事態よりはよほど収拾も立て直しも効く。

そして、ベルがそれらの不利を覆し作戦を強攻する理由として挙げたのは、根拠不明の「ベルリン市街地の残存友軍戦力の存在」だった。

「旅団規模の友軍が市街地東部を占拠し防衛線を展開している可能性が高く、おそらく機甲戦力も有しているこの友軍と連携すれば十二分にベルリンを奪還できる………こんな、こんな荒唐無稽な推測を“ベル=ラインフェルトが言うことだから”と最終的に真に受けた私がバカだった!!!」

最早空軍中佐も、感情の昂ぶりを抑えきれずに激昂する。

確かに、ベルリン以南への南下速度が極端に遅い理由を「中枢たるベルリンが未だ制圧できていないから」と考えること自体は論理的だ。戦車道博覧会の警備を行うために機甲戦力が駐屯しているのは事実なので、もしかしたら戦車や戦闘車両も生き残っているかも知れない。

だが、仮に警備隊や機甲戦力が生き残っていたとしてそれが“ベルが言うとおりの規模”だという確実な証拠はどこにもない。また万歩譲って旅団規模の味方とやらが奇跡的に生き残っていたとして、彼らが突入部隊と連携できるとも限らない。

何せ、ベルリンは敵の電子戦によって通信途絶中だ。援軍の存在すら事前に知らせていない中で、瞬時に状況を把握して即応できる人材がベルリンにいるとは到底思えなかった。
95 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 16:10:56.34 ID:cHXotTvn0
「大佐、今からでも遅くはありません。ユーロファイターを総動員して爆撃を敢行すれば、包囲網を崩すとまでは行かなくても強襲部隊への十字砲火を鈍化させることは十分に可能です!その間にV-22で再び彼らを回収すれば、最低限貴重な艦娘戦力の損失は避けられます!!」

空軍中佐は身を乗り出し、眼を見開いてベルに詰め寄る。

彼の視線には、軍の垣根を越えて一刻も早く死地にいる友軍を救いたいという強い思いしか宿っていなかった。

「大佐、首都を救いたいというお気持ちは解ります!!しかしこればかりはどうか、どうか今すぐに中止を!!」

(`∠´)「………」

形振り構わず、額が机に着きそうな勢いで中佐は頭を下げる。

ベルは、眼を細めて彼をしばらく見つめ………

「………っ!!」

机を開けると、爪切りを取り出して手の爪を削り始めた。

「大佐、大佐!!貴官……正気かお前はぁ!!!」

「落ち着け!!………大佐、今はふざけているときではないのです!いい加減友軍の救援を!!」

腰の拳銃に手をかけた提督を抑えながら、陸軍少佐がもう一度声を上げる。

提督を止めてはいたが、彼も最早我慢の限界が近いことは明白だ。彼の右手も今にも腰のホルスターに手を伸ばしかねない姿勢で痙攣しており、あと一つ何かきっかけがあればベル=ラインフェルト陸軍大佐は味方の「誤射」によって命を落とすことになるだろう。

(`∠´)「さっきの話に戻るが、私は士官学校時代完全な天狗だった。

図上演習では特に本当に敵無しでね。視察に来た将軍方をお相手したときは、わざわざ自軍に不利な場面設定をした上で叩きのめし面と向かって皮肉を浴びせてしまったほどだ」

だが、彼はそんな空気を意に介さずに昔話を再開した。
いよいよ激怒した将校達を眼で制しながら、訥々と語り続ける。
96 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/12(金) 16:27:25.42 ID:cHXotTvn0

(`∠´)「そんな私を、一人だけ負かした奴がいてね。

いやぁ、アレは本当に苦い薬だったよ。何せ今私が将軍方に対して行った設定と同じ内容で、しかも私が優勢側で戦って負けたんだ。

手も足も出ない完封だった」

当時の悔しさを思い出したのか、ベルの視線がすっと細まる。

口元が不満げに尖っているのを見ると、未だに「苦味」は残っているようだ。

(`∠´)「その後何度も新しい作戦を考案し、何度もあらゆるシチュエーションで演習を挑んだ。だがその都度、私は手もなく捻られてね。

ふん、アイツのすました顔は今でもたまに悪夢に見るよ。今この瞬間も、奴さんは神経質な早口で部下に捲し立ててるんだろうさ」

「……ラインフェルト大佐、その話が今の我々の現状と何の関係が」

(`∠´)「その、唯一私の鼻っ柱をへし折った男は今、ベルリンにいる」

「………は?」

唐突に放たれた一言に、更に詰め寄ろうとした陸軍少佐の動きが止まる。

ベルは、机の上に一冊の冊子を置き、あるページを開いて指さした。

ベルリン戦車道博覧会のパンフレットの最後のページ。そこには、当日の会場警備を担当する陸軍将校の名が書かれている。

(`∠´)「君らの言っていることは、本来正論だ。

ベルリンに旅団規模の残存戦力がある、希望的観測だ。

東側は友軍が確保している、そんな保証はない。

我々の意図をくみ取り残存友軍は動いてくれる、作戦というのも烏滸がましい下らない言い草だ。

だが、彼がいるなら話は別だ」





(`∠´)「───イヨウ=ゲリッケが指揮を執っているなら、全ての事情が変わる。

間違いなく在ベルリンドイツ軍は私の予想通りの形で戦力を残し、間違いなく彼はこの罠の最中に飛び込んだ増援の意図を読み取って動く。

これは希望的観測でも楽天的妄想でもない、【イヨウ=ゲリッケ】という存在に基づいた明確な“事実”だ」
97 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/12(金) 16:28:17.72 ID:cHXotTvn0
第八波ここまで。
第九波は深夜投稿予定
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 16:30:38.82 ID:OHo8f9ikO
なんだこの戦場英雄しかいねぇ。

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 19:28:37.15 ID:kbN0yqeHO
フリードリヒ1世「祖国の危機と聞いた。ワシも加勢するぞい」
100 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 00:49:26.54 ID:pE2iAJdj0





《パンコウ区、全部隊の再編成完了。

車両、全て問題なく稼働。いつでも戦闘に移れます》

《トレプトゥ=ケーペニック区、ポイントK-1より指揮車。戦闘編成を完了。迫撃砲も設置しました》

《リッテンベルグ、後方支援班。現在把握している避難市民の地下施設への収容を完了。ただし、依然ベルリン市外・ドイツ国外との通信は不能。市外への避難誘導は不可能です》

《高層観測班より前線指揮車、強襲部隊は引き続き深海棲艦の包囲下で十字砲火に晒されている。長くは持ちそうもない。

また、他の区画における非ヒト型に大きな動きなし。位置情報の更新はない、オーバー》

('A`)「前線指揮車より高所観測班。情報提供を感謝する。引き続き敵の動向を注視せよ、オーバー」

《了解、監視に戻る。アウト》

一連のやりとりを終えた俺は、エノク上部の機銃座でもう一度ベルリン市街の地図を広げる。

イヨウ中佐のように軍事キチガi明晰な頭脳を持っていない俺は、考えた作戦を丸ごと頭に入れるなんて人外行為はできない。たった20分の作戦会議の中で、地図はメモ書きと矢印で隙間無く埋め尽くされている。

('A`)「………本当に、無理ゲー三昧だな今日は」

味方増援部隊に向かって放たれる艦砲射撃の轟音を聞きながら、俺は今日何度目か解らない深いため息をついた。

………どうでもいいけど、ベルリン大聖堂はちゃんと破壊しろよあの深海魚共。
101 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 00:53:02.47 ID:pE2iAJdj0
(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、現状を知らせるよぅ》

('A`)「指揮車よりCP、全区画攻勢部隊の編成を完了。また、当区画においても戦闘態勢は万端、後は作戦開始を待つのみです。戦車隊、状況は?」

ξ゚听)ξ《いつでもいけるわ。全車両、状況オールグリーン》

《プーマ戦闘車、1号車から6号車まで異常なし。システムオールグリーン、戦闘に支障ありません!》

入ってきた報告に、少しだけ、本当に小指の先ほどだが気持ちが軽くなった。

プーマとレオパルト1はどちらもこの作戦の肝であり、そうでなくとも俺たちが深海棲艦に損害を与えられる数少ない保有兵器の一つだ。機器の不調で一両が機能を落とすだけでも、とてつもない痛手になる。

こんな換算がクソの極みであることを理解した上であえて言うなら、歩兵と警官隊が1000人吹き飛ばされるよりもプーマが一両破壊される方が俺たちにとっては遙かに大きな痛手になる。

('A`)(………ウツダシノウ)

ξ゚听)ξ《…………あの、ドク?》

(;'A`)そ「ひやぅっ!?」

机の上でコマと数字を動かして戦争をした気になっている、上層部のクソ野郎共みたいな思考が過ぎった自分への自己嫌悪に思わず気分が沈み込む。
どの自決方法が一番苦しまずにすむかと真剣に考えてしまった結果、無線から飛び込んできたツンの問いかけに年端もいかない小娘のような悲鳴が喉から飛び出した。

「…………クップププ」

(*;'A`)「………あー、ツン、どうした?」

「あ痛っ!?」

赤面と共に無線を手に取りながら、運転席を蹴飛ばす。エノクの運転手が恨めしげに此方を睨んできたが、無視。上官侮辱罪じゃ上官侮辱罪。射殺されなかっただけありがたく思え。

('A`)「………まさかと思うけど故障が発覚したとかやめてくれよ。もしそうならすぐにも作戦の変更を」

ξ;゚听)ξ《そこは安心して頂戴、例え急ピッチのチェックでもフランス戦車道の名にかけてどんな異常も見逃さないから。

そうじゃなくて、戦車隊の指揮は本当に私でいいの?私フランス人なのよ?》
102 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 00:57:14.62 ID:pE2iAJdj0
('A`)「は?……あぁ、なるほど」

一瞬質問の意味を理解しかねたが、ついさっきの作戦会議(といえるような内容は時間の問題でできていないが)の様子を思い出して納得する。

俺とイヨウ中佐はおろか、他の部隊指揮官やレオパルト1の乗組員達まで満場一致で戦車隊の指揮官代理を任されたことに戸惑っているようだ。まぁ、本来の指揮官まで手放しで喜びハグまでやってたのは俺も少し驚いたが。
それにしても、派閥争いの誘いを突っぱねて国外に飛ばされる程度には図太い神経のくせに変なところで気が小さいな。

思わず漏れた笑いが無線に入らないように、慌てて咳払いで誤魔化した。

(=゚ω゚)ノ《もっと自信を持って欲しいよぅ。これは君の実力を正当に評価した上での配置だから、誰も君のことを悪く思うことはあり得ないよぅ》

イヨウ中佐が、彼にしては静かな口調でツンを諭す。語尾が僅かに震えているのを聞くに、彼もツンの自己過小評価におかしみを覚えたのかも知れない。

(=゚ω゚)ノ《リスボンでの君の戦車乗りとしての手際は、マントイフェル少尉の作戦指揮同様僕たちの間でも高く評価されてるよぅ。

ましてや、ベルリンに配備されていたレオパルト隊はほとんどが新兵。寧ろ、君の深海棲艦との戦闘経験は戦車隊の運用に無くてはならないものだよぅ》

ξ゚听)ξ《……》

《そうですよ中尉!!もう少し自信を持って下さい!!》

ξ;゚听)ξ《わっ》

中佐の台詞の後に続いて、戦車隊の乗り手の一人が声を上げた。
そしてそれを皮切りに、彼女たちは次々にツンに向かって思いの丈をぶちまける。

《私たちはドイツ軍人ですけれど、同時に中尉と同じ戦車乗りでもあるんです!中尉が優れた戦車乗りであることを、私たちはよく知っています!》

《祖国を、戦友を、国民を護るためには下らないプライドなんか必要ないです!中尉、私たちを勝利に導いて下さい!》

《ドイツ戦車道の団結力をお見せ致しましょう!私たちは、皆中尉のいかなる命令にも従います!!》

ξ*゚听)ξ《……皆》

《例え抱かれろと命令されても、私たちは喜んd……謹んでお受け致します!!》

ξ゚听)ξ

………ん?
103 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 00:59:24.17 ID:pE2iAJdj0
《おい1号車ふざけんな!お姉様と同じ車両だからって抜け駆けすんなや!!》

《はっはっはっざまぁwwww!ゲリッケ中佐に“一番練度が高い”って評価受けた結果だぜwwww!?文句は自分の腕前に言うんだなぁ!!》

《3号車より指揮車!1号車に砲撃許可を、砲撃許可をぉおおおおお!!!》

《ざっけんな3号車お姉様にも傷つくだろうが!!》

えっ、何思いの丈ってそういう方向?待て、この戦車隊って全員ソッチの趣味?

《ツンお姉様hshs!!ツンお姉様hshs!!》

《ツンLove!!ツンLove!!》

《私、この作戦で生き延びたらお姉様に抱いて貰うんだ………》

('A`)「これは酷い」

(=゚ω゚)ノ《これは酷い》

やだ………ドイツの戦車道終わってる………

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ《前線指揮車並びにCP、至急ツン=デレ中尉の配置転換を具申します》

('A`)「……クソッ、深海棲艦のジャミングか!?ツンの声がまるで聞こえないぞ!!」

(=゚ω゚)ノ《なんてことだ、レオパルト1の1号車だけ通信が途絶えたよぅ!!奴等なんて高度な電子戦を行うんだよぅ!!》

ξ;゚听)ξ《いやぁああああ!!!!》

………ツン、強く生きろ。

あと、安心しろ。だいたいの男はそういうの嫌いじゃないから。
104 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 01:16:00.60 ID:pE2iAJdj0
《────高層観測班より指揮車並びにCP、深海棲艦主力部隊が南方の友軍増援部隊を完全に包囲!!敵主力艦隊の集中展開完了を確認!!》

('A`)「………!」

ξ;゚听)ξ《っ》

(=゚ω゚)ノ《………いよいよかよぅ》

和気藹々とした(約一名除く)、戦場に似つかわしくないやりとりがその報告を聞いて終わりを告げる。

敵主力部隊の展開。それは、俺たちの作戦が遂行されるための最後の材料が揃ったということだ。

空気が、張り詰める。眼前の味方を一刻も早く助けたいという信念と、死にたくないという生への執着。恐怖と勇気とがない交ぜになって、誰もが表情を硬くする。

(=゚ω゚)ノ《───Achtung!!》

張り詰めた空気の中で、イヨウ中佐の声が無線越しに響く。

(=゚ω゚)ノ《東街区に展開する、全ての部隊に伝達!これより我々は、友軍増援部隊の救援とベルリン市の奪還を目指して反転攻勢へと移る!

敵は強大であり、この作戦はきっと困難を極める、多くの犠牲者も出る!!そしてはっきり言って、成功するという確実な保証もない!》

中佐の声からは、再び震えもどもりも消えていた。決して大きな声ではないけれど、朗々と、はっきりとした口調で俺たちに語りかける。

(=゚ω゚)ノ《僕は、君たちに「死んでこい」と今から命じるクソ野郎だ!だが優秀な兵士であり、警官であり、人間である君たちは、クソ野郎な僕の命令に従う必要は微塵も無い!

名誉なんて必要ない、誇りなんてかなぐり捨てろ!そして何としても生き残り、僕に向かって中指を突き立てて眉間に風穴でも開けてやれ!!》

張り詰めた空気が熱される。語られる言葉に誰もが高揚し、武器を握る手に自然と力がこもる。

(=#゚ω゚)ノ《名誉の死も、英雄的な働きも、奇跡的な生存も、僕は君たちに求めない!!ただ君たちが、最後まで“人間”としての責務と生を全うすることだけを望む!!》

(=#゚ω゚)ノ《君たちの任務はただ一つ!!

化け物共に、目に物見せてやれ!!》

《《《Jawohl!!》》》
105 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 01:20:14.76 ID:pE2iAJdj0
(=#゚ω゚)ノ《────Angriff!!》

イヨウ中佐の号令が、無線を通じて全ての部隊に伝わる。

それを、合図として。

ξ#゚听)ξ《Panzer vor!!》

(#'A`)「Los Los Los!!」

4000人の“人間”が、“化け物”に向かって攻撃を開始した。
106 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 01:51:05.82 ID:pE2iAJdj0

《アルジャジーラの取材に対して中東主要国の外交部は、深海棲艦がヨーロッパから流入してくる可能性について国の枠組みを超えた対策が必要だと共通の認識を表明しています》

《イタリア政府は先ほど、ドイツ領南方のレヒフェルト空軍基地と連絡がついたと発表。現在艦娘戦力を含めた増援部隊の派遣に向けて軍の編成を開始しているとのことです》

《ロシア連邦政府は、ヨーロッパ全域の失陥を防ぐためには熱核攻撃も辞すべきではないと談話を発表。常任理事国のアメリカ、イギリスは反対の意と併せて強い不快感を示していますが、中国政府はロシアの地政学的な事情を考慮すべきだと二国を牽制しました》

《フランス政府首脳は深海棲艦のパリ到達を防げなかった場合に備えて、政府機能の移転先を模索中です。また、国土全域が陥落した場合の亡命先も選定を開始したとの噂がTwitterに流れ、フランス国内は各地で暴動と混乱が相次いでいます》

《現在デンマークはほぼ全土が深海棲艦の襲撃を受け、通信が完全に途絶した状態になっています》

《イギリス国防省は、ドイツ・フランスの失陥による深海棲艦の総攻撃に備えて近隣海域を封鎖したと発表しました。イギリス海峡には現在クイーン・エリザベスを旗艦とした空母機動艦隊と艦娘のウォースパイトが展開し、厳戒態勢を敷いています》

《茂名官房長官は先ほど緊急記者会見を開き、ヨーロッパにおける在留邦人の保護とポルトガル政府からの要請を理由とした欧州特派部隊の編成に入ったと発表しました。

この部隊は赤城、大和ら艦娘を中核とした戦力になる予定ですが、韓国、中国、北朝鮮は帝国主義の復活であると日本のこの動きに反発を見せています》

《ホワイトハウスより第六艦隊とヨーロッパ各空軍基地、更に艦娘サラトガによるドイツ本土への共同攻撃作戦を発動したと公式発表がありました。既にイギリス・レイクンヒース空軍基地よりF-15E並びにF-15C/Dが発進、間もなく北部ノルデンを中心に第一次攻撃が行われる模様です》
107 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 01:52:25.04 ID:pE2iAJdj0
第九波投下完了。
第十波はお昼頃。

ようやく折り返しになります。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 02:03:45.82 ID:fswy4AZRO
乙。

今気づいたけどミルナ中尉が当たり前のように中尉でワロタ
ミルナも昇進蹴ったんやな。上司の鑑
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 02:12:51.18 ID:SWGa9P4vo

こんな状況でも政治ゲームやってる人類ってやっぱ糞だわ
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 02:15:35.75 ID:JRRBCFFA0
おつおつ
あんまりにも酷いけどちょっと和んだw

やっぱ死地の中で活路を見いだしたり、名声に劣らない活躍を見せつけられれば、現場に立つ身として心強いよなあ…
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 02:34:53.96 ID:JRRBCFFA0
>>109
生きるか死ぬかの存亡をかけた局面だからこそ、政治を中心に国が一丸とならないと悲惨な目に合うから、国と国民が最優先な立場では間違いでは無いかと
ただでさえ手に負えない敵戦力に加え、祖国をズタズタにされて散り散りに逃げる避難民まで…なんて状況次第だし

ただし私怨に近い露と、頓珍漢な特亜は論外w
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 03:26:12.29 ID:d86RLKd/0
オットー大帝「乙じゃ」

フリードリヒ大王「大儀である」

ビスマルク首相「おつおつ」

テオドール・ホイス大統領「その調子」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2017/05/13(土) 07:10:25.69 ID:ewjSMP4A0
乙ですよぅ(イヨウ風)
ブーン系おもしれー
ただドクの休暇、消えてね?


これ片付いたら、休暇倍になったりしてwww

114 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 16:38:22.59 ID:pE2iAJdj0








《空中管制機【Angel-Ring】より全機、状況を報告せよ》

《Dragon-01よりAngel-Ring、当編隊は全機オールグリーン。戦闘に問題なし》

《此方Boxer-01、全機問題なく飛行中。腹に子供を抱えてるんでね、しっかりエスコートを頼むぜ》

《Witch-01よりBoxer-01、あんたのそれは妊婦じゃなくて悪性腫瘍だろ?》

《おい、口を慎めマーニー》

《慎むのは二人共だ、私語をやめろ。

Falcon-01よりAngel-Ring、全機異常なし》

《よし、Angel-Ringより全機に伝達。我々はこれより、ドイツ北部沿岸奪還作戦の一環としてルール地方への爆撃を敢行する。

我々の目標は、ドイツ連邦軍の管理下にあった艦娘艤装製造工場の破壊だ》

《BoxerよりAngel-Ring、そんな真似をしたらドイツだけじゃなくフランスやイギリスも黙ってないんじゃないか?ドイツの艤装製造技術は図抜けてる、コマンダン=テストやウォースパイトにも必須の筈だが》

《南方のドイツ残存軍司令から、イタリアを経由して既に正式に依頼が為されている。

通信途絶から10時間が経過し、最早製造工場は間違いなく占拠されている状態のようだ。敵になんらかの形で利用される可能性も否定できない以上、破壊するのが得策という判断らしい》

《ついでに言うと合衆国政府の判断とも一致している、と?》

《あぁ、既にトソン大統領は攻撃命令に署名済みだ。ジェントルマン諸君、人間様を嘗め腐った化け物共に存分に爆弾の雨をプレゼントしてやれ》

《《《Yes sir!!》》》

.
115 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 16:40:02.43 ID:pE2iAJdj0
《大佐、第六艦隊より通信!サラトガ-05、サラトガ-07が艦載機隊を発艦、レイクンヒースの航空隊と連携してノルデン地方への攻撃を開始したとのことです!》

《サラトガ-06よりルール地方制空部隊が発艦、問題なく該当空域に侵入したとのことです。

深海棲艦艦載機と接敵、交戦中の模様》

《よし、これで深海棲艦の艦載機・護衛機はある程度抑え込める。全機、あと5分で作戦空域だ。心してかかれ》

《Dragon-01, Roger.

しかし深海棲艦の奴等、何が楽しくて陸なんかに上がってくるんだ?》

《Witch-01 Roger.

聞いた話だと、深海棲艦共は艦娘同様ヒト型は女を模した奴しか確認されていないらしい。セックスでもしに来たんじゃないのか?》

《Boxer-01, Roger.

はっ、海の中だが男日照りってか?なんなら俺のレミントンでヒーヒー言わせてやりたいぜ》

《Falcon-01, Roger.

………マーニー、ジェイムス、お前らがよく女に振られる理由が今よくわかったよ》

《おいFalcon-01、先にお前を撃ち落としてやろうか?》

《対地攻撃機で制空機にドッグファイト挑む気かバカ。あと四分だ、そろそろ見える頃か?》

《此方Dragon-01、目標地点を視認した────おい、Angel-Ring、本当に地点座標はここであってるのか?》

《………。そのはずだ》

《一体何だありゃ?黒い………あぁ、クソ、何て言えばいい?とりあえずろくでもない代物なのは確かだが》



《───要塞、か?》
116 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 16:41:43.63 ID:pE2iAJdj0

《地表、物体周辺に膨大な数の非ヒト型深海棲艦を確認。また、ヒト型も多数展開している模様です。

少なくとも深海棲艦の拠点であることは間違いありません》

《通信途絶から10時間しか経ってないはずだよな!?一体何が起きたんだ!?》

《とにかく今は我々の仕事をこなすだけだ。全機、攻撃態勢を────》

《………おい、何か上がってきてるぞ?》

《黒い……鳥………?》

《────レーダーに反応!所属不明の機影が接近!迎げk

《!? Angel-Ring、応答しろ!Angel-Ring!!》

《Negative!! Angel-Ring down!! I repeat, Angel-Ring down!!》

《Enemy attack coming!! All unit, Break!! Break!!》
117 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 16:47:58.99 ID:pE2iAJdj0
《クソッタレ、なんだこいつら!?》 《Ahhhhhhh!!?》
   《Doragon-3, one hit!!》
《Falcon-04、回り込め!援護しろ!》    《後ろに着かれた、振り切れない!》
  《Fox-2! FOX-2!》      《撃ってきやがった!!》
《Falcon-03 Lost!!》
  《Mayday Mayday Mayday》《何なんだよこいつら、速いぞ!!》
《八時方向から新手だ!!》《爆撃隊、退避しろ!!》
《Shit, Boxer-01 down!!》    《Falcon-01, Bogy behind you!! Break!! Break!!》
  《Help me…!!》
118 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 16:48:42.52 ID:pE2iAJdj0




《Jesus………!!》



.
119 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 16:57:53.04 ID:pE2iAJdj0







.
120 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/13(土) 17:04:31.55 ID:pE2iAJdj0







.
121 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 17:05:18.72 ID:pE2iAJdj0






「生き残る種とは、

最も強いものではない。

最も知的なものでもない。

それは、変化に最もよく

適応したものである」

「チャールズ・ダーウィンの有名な言葉だ」

「これは、我々人類の歴史そのものを表した言葉と言っても過言ではない。

我々は常に進化と進歩を続け、他の種族に対して圧倒的優勢を作り出すことによって栄華を極めてきた」

「だが、進化とは人類の特権的な存在ではない。

全ての生物は、常に進化を続けている。人間は単に、その速度が少しだけ速かったに過ぎない」

「そう、“我々だけの特権”ではないのだ。

いつから錯覚していた?敵は進化をすることがないと。

いつから勘違いしていた?この戦争は代理戦争であり、標的は狩られるだけの存在でしかないと」





( ФωФ)「深海棲艦は進化している、我々人間との“生存戦争”に勝利するために。

このことにいち早く気づき、同じように“進化”を始めることができた国家だけが、この戦争に勝利するのである」
122 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/13(土) 17:06:06.99 ID:pE2iAJdj0
第十波投下完了。
次の投下は深夜に
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 19:51:51.74 ID:Sl8DliJA0
おつ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 23:46:29.73 ID:WxxJCFMio
一見快進撃に見えて何一つ好転してない戦いは見てて面白いね
125 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 02:09:16.09 ID:uN3uvxTa0











OM642?270?6気筒ディーゼルエンジンが咆哮し、車体は身震いするように揺れ続ける。降りしきる雨が、猛スピードで疾走する車体を濡らし続ける。

狸(Enok)なんて可憐な相性とは裏腹な、獰猛極まりない排気音をまき散らしながら四台のLAPV軽装甲車は瓦礫だらけのベルリンの街を駆けていく。

(;'A`)「……っ」

優雅なドライブ……なんて言うにはほど遠い乗り心地だ。
上層部に半ば押しつけられたものとはいえ、バカンス中に味わいたいものではない。

いや、そもそもバカンス中とかは関係なく。

『────ォオオオオオオオオ!!!!』

(;'A`)「右手に非ヒト型確認!回避行動!!」

「Jawohl!!」

おぞましい化け物を相手取った命がけのカーチェイスなんて、いつどんなときだって御免被る。
126 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:10:26.40 ID:uN3uvxTa0
ほんの100メートルほど先にこんもりと小山のように盛り上がった、黒い巨大な塊。立ち並ぶ家の隙間から赤い眼がぎょろりと此方を睨み、塊はおもむろに周りの建物を突き崩しながら身体を起こした。

角張った頭部にくっついている丸みを帯びた白い胴からは、用途不明のケーブルのようなものが伸びて尾まで繋がっている。見るからに怪物然とした巨躯とは不釣り合いな、ちょこんと張り付いた飾りのような脚がかえって奴の姿をより醜悪に仕立て上げる。

イ級と違って剥き出しの、僅かに端が上がった口はまるで俺たち人間を嘲笑っているかのようだ。

《駆逐ロ級後期型、eliteを視認!》

(#'A`)「そのまま走行を続けろ!射撃を開始する!!」

運転席に向かってそう叫びながら、銃座を回転させ照準を奴の鼻っ柱に向ける。

(#'A`)「Feuer!!」

引き金を引く。ラインメタルMG3が火を噴き、7.62mm?NATO弾が凄まじい勢いで銃口から吐き出された。

『オオオオオオンッ!!!』

毎秒19発という頻度で放たれる機銃弾の雨は、しかしながら生ける戦艦の皮膚を貫くには役者不足にも程がある。

表皮で弾ける火花は奴さんに痒みすら与えていないらしく、ロ級は無機質な眼で此方を見据えながら口を開いた。

主砲が、顔を覗かせる。

('A`#)「右に曲がれ!!」

《了解!!》

『ウオオオオンッ!!!』

俺の叫び声、エノクのタイヤが雨に濡れた路上を滑る音、ロ級の吠え声、そして主砲の発射音が順に響く。間一髪で右手の路地に飛び込んだ俺たちのほんの5メートル後ろで、砲弾が炸裂してコンクリート片が舞い上がった。
127 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:14:43.11 ID:uN3uvxTa0
《うっひぃ、スリル満点!!》

そのまま路地を疾走する俺たちに向かって、2発、3発とロ級の追撃の砲火が降り注ぐ。そこかしこで炸裂して破片をまき散らす砲弾に、運転席からは恐怖と(理解しがたいことに)歓喜が入り交じった声が聞こえてきた。

《いいねぇいいねぇ滾ってくるねぇ!!人類を滅ぼそうとしてくる化け物達と、祖国の存亡を巡ったカーチェイス!最ッ高だね、まるでハリウッドの超大作映画だ!!あっひゃひゃひゃ!!!》

('A`;)「おい運転手!その神経の図太さは頼もしい限りだが興奮のあまりハンドル操作ミスなんて勘弁してくれよ!!よりによって指揮車両が作戦開始早々にアボンなんて洒落にならんぞ!!」

《おぅおぅ、だーれに物言ってんだい少尉殿!!このあたしがそんなヘマするわけないだろっての!!》

あからさまに箍が外れた口調での返答と共に、運転席から此方に向かって中指を立てた右手が突き出された。

ふざっけんなこの状況下で片手運転なんて冗談じゃねえぞ!!

(*゚∀゚)《ドイツ陸軍一の美少女走り屋、ツー=アハッツ様のハンドル捌きィ!!深海棲艦ごときに捉えられるかっての!!あひゃひゃひゃひゃぁ!!!》

(;'A`)「美少女まるで関係ない───うぉおおおっ!!?」

ツーがひときわ激しくハンドルを切り、雨に濡れた路上でエノクがコマのように一回転して進路を真逆に転換する。

予想進路に放たれていた何十発目かの砲弾がアスファルトに突き刺さり、爆発で車体が少し浮き上がった。
128 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:16:22.30 ID:uN3uvxTa0
(*゚∀゚)《あっひゃひゃーーい!!》

《オオオオオォッ!!!》

そのままツーは再びアクセルを踏み込み、エノクは先ほどまでと逆方向に疾走する。此方の動きを予想していなかったらしいロ級は苛立たしげに叫んだ後、もう一度此方の予想進路へと照準を合わせ始めた。

完全に、隙だらけの動きだ。

('A`#)「停車!!総員展開!!」

(*゚∀゚)《あいあいさー!!!》

「「「Jawohl!!」」」

軽いドリフト共に急停車したエノクの車内から、同乗していた四人が転げ落ちるようにして路上に飛び出す。

彼らは素早く起き上がると、ロ級eliteに背負っていた筒を向けた。

('A`#)「Feuer!!」

『オア゛ッ!?』

4発のロケット弾がロ級めがけて飛翔し、間抜けに開らかれた大口にその内3発が飛び込む。

『ア゛

上がりかけた断末魔を掻き消し、閃光と轟音が迸る。

ロ級の巨躯が、内側から爆炎に貫かれて砕け散った。

「ロ級elite、轟沈を確認!!」

「よっしゃぁ!!ざまぁみろ深海魚野郎!!」

('A`)「喜んでる暇ないぞ、死にたくなかったら乗り込め!!」

今にもハイタッチでも始めそうな兵士達を、水を差す形にはなるがとっととエレクの中に引き戻す。

無論、俺も高揚を覚えていないわけではない。注意を引きつけられれば万々歳の攻撃だっただけに、内蔵弾薬への誘爆に伴う轟沈は“最高の計算外”だ。

だが、当然のことながらこの大戦果は、

《高層観測班より前線指揮車、其方に向かってホ級通常種三体と駆逐イ級通常種一体、elite二体、それからへ級一体が進撃中!!》

('A`;)「情報提供感謝、移動を急ぐ!」

良くも悪くも、奴等の目を引くことになる。
129 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:20:30.54 ID:uN3uvxTa0
《総員搭乗完了!》

(;'A`)「よしツー、発進を………おっふ!?」

(*゚∀゚)《あっひょ!!》

左手20メートルほどのところに、砲弾が落下した。つーか運転席うるせぇ。何なの今の気が抜ける奇声。

『ウォオオオオオオンッ!!!』

('A`;)「お早いデリバリーだなクソがっ!!」

姿こそ立ち並ぶまだ無事な建物や瓦礫の山に隠れて見えないが、割と近くから例の胸くそ悪い咆哮が聞こえてくる。
単に俺たち人間に対する威嚇なのか或いは仲間がやられた怒りと悲しみなのか、まぁとりあえず俺たちにとってあまり喜ばしくないものが含まれていそうな響きだ。

爆発の小ささから考えて今の砲撃はイ級通常種だろうか。とにかく一秒でも早く移動した方がいい。

(#'A`)「予定通り作戦を続行する!このまま西進しろ!」

(*;゚∀゚)《あいよ、おおおおっとおおお!!?》

('A`;)「ウボァッ」

発進した直後に頭上から迫る車大の瓦礫塊。崩れてきた4階建ての小ビルから逃れるためにハンドルが左に切られ、俺の身体は不快なGに圧迫され潰れた蛙のような声を出す羽目になった。

『アアアアアアアアッ!!!』

(#;'A`)「っ、いい加減見飽きたぜてめえのツラはよぉ!!」

ビルの残骸を押しつぶしながら此方に迫る、軽巡ホ級。こみ上げてきた吐き気を無理やり嚥下し、頭部と砲塔に向かって機銃を掃射する。

『ヲォオオオオオオッ!!!』

ダメージはどうせ全くないだろうが、それでも砲塔への攻撃はあまり心地の良いものじゃなかったようだ。

ホ級は鬱陶しげに機銃掃射を左手で防ぎつつ、右手を握り込み俺たちに向かって振り下ろす。

(#'A`)「行け!!」

(*゚∀゚)《はいなぁ!!》

エンジンが唸り、車体が加速する。

迫る拳を潜り抜け、狸は再び駆けだした。
130 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:23:32.73 ID:uN3uvxTa0
『オオォ────アアアァッ!!?』

走り出した此方に向かって、背中の砲を向けるホ級。だがその真上から、弧を描いて飛んできた砲弾が突き刺さる。

『ア゛ア゛ッ!?ア゛ア゛ア゛ッ!?』

砲撃は1発では終わらない。2発、3発、4発と途切れることなくホ級を襲う。砲塔、頭部、腕、また砲塔といった具合に、身体のあちこちが爆炎に焼かれる。

『オア゛ッ』

砲撃の飛来箇所を確かめようとでもしたのか、不用意に振り向いたホ級の左肩に120mm迫撃砲弾が突き刺さり、半ばまで埋まった後に炸裂する。

『グア゛ッ……』

腕が千切れ飛び、ぶよぶよとした肉片がそこら中に散乱した。ホ級は道路に投げ出されるようにして倒れ伏し、そのままぐったりと動かなくなった。

《迫撃砲陣地より前線指揮車、支援砲火を敢行した。効果の程を求む》

('A`)「前線指揮車より砲兵隊、敵艦は機能を停止したと思われる。支援を感謝する、引き続き前衛を援護されたし。オーバー」

《了解した、アウト》

('A`)「……さて」

最早二度と此方に砲を向けてくることはなくなったホ級の屍から眼を離し、南側の様子を伺う。

腹の底に響くような砲撃の嵐は、激しさを増し続けている。おそらく、増援部隊の展開区画は地獄の様相だろう。

一方イヨウ中佐達が展開する東側に対しては、全くといっていいほど攻撃は向けられていない。曲がりなりにも機甲戦力と火砲を保有している部隊なワケだが、深海棲艦はどうやら艦娘つぶしに全身全霊を傾ける腹づもりらしい。

それだけ、深海棲艦にとって艦娘とは脅威であり逆に人間はとるに足らない存在というわけだ。

('A`)(まだまだこっちを振り向いてくれないか、つれないね。

だがまぁ、それなら振り向いてくれるまでアプローチをするだけだ)

俺は、イヨウ中佐に通信を繋ぐ。
131 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 02:33:57.68 ID:uN3uvxTa0



.
('A`)「前線指揮車よりCP、他の軽装甲車隊による陽動の進捗を伝えられたし」

(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、現在全車両が未だ健在。各区画にて非ヒト型深海棲艦の挑発誘導に成功しているよぅ》

イヨウ中佐の淡々とした戦況報告。それは俺たちの作戦が現状順調であるという何よりの証になる。

(=゚ω゚)ノ《我々東部軍への抑えとして展開していた非ヒト型は、続々と我々の対峙地点から引きはがされている状態だよぅ。

それと、君たちが撃破したものも含めて現時点で5隻の深海棲艦を撃沈、或いは戦闘能力喪失に追いやったよぅ》

('A`)「なるほど、現時点では中佐の読み通りに状況は推移していると」

(=゚ω゚)ノ《即ち、君の予想通りでもあるってことだよぅ》

………ミルナ中尉といいイヨウ中佐といい、過大評価はマンドクセェのでやめてほしいものだ。

('A`)「前線指揮車よりCP、此方は引き続き陽動にかかる。戦車隊の」

(*;゚∀゚)《────っ!!!》

('A`;)「機動攻勢準備を……うぅおおっ!?」

唐突に、ツーがハンドルを切る。車体が激しく右に流れ、振り落とされそうになった俺は慌てて銃座にしがみついた。

疾走する車体の真横を、機銃掃射が駆け抜けていく。

(;'A`)「っ!」

ハッとして空を見上げると、まさに俺たちの直上を風切り音を残して飛び去っていく影が三つ。

(;'A`)「避けろ!!」

(*;゚∀゚)《仰せのままにぃ!!》

三機の【Helm】は、猛り狂ったスズメバチのように下部の機銃を此方に向けながら猛然と降下してきた。

(*#゚∀゚)《せいっ!!》

火線が走った瞬間、ツーは急ブレーキを踏みながらエレクの車体を横に向ける。そのまま走っていれば運転席を貫くはずだった機銃掃射は、僅かに車体に届かない。

(#'A`)「逃がすかよ!!」

そのまま飛び去ろうとした編隊の背後に照準を重ね、MG3 ラインメタルの引き金を引く。

編隊最後尾の機体が火だるまになり、そのまま空中で四散した。
132 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 02:43:45.98 ID:uN3uvxTa0
(=;゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、どうしたよぅ!?》

(#'A`)「前線指揮車よりCP、深海棲艦艦載機部隊の襲撃を受けている!!」

ツーが再びエレクを発進させる中、俺はなおも空に向かって弾幕を放つ。攻撃態勢に入っていた残りの2機は一度散開して射線を交わしつつも、方向を変えて再度此方に向かってくる。

いや、奴等だけじゃない。他に右手と正面からもレシプロエンジンの音が近づいてくる。少なく見積もっても20機ほどが、俺たちに狙いを定めているようだ。

(;'A`)「前線指揮車よりCP!」

奴等が迫ってくる音を聞きながら、俺は……

(;'∀`)「陽動作戦、着実に成功中!!」

俺は、口元が綻ぶのを抑えきれなかった。

(*゚∀゚)《笑顔キモっ》

(=゚ω゚)ノ《笑顔キモっ》

('A`)「ここでその反応はおかしいだろ」

あと中佐はなんで見えてんだよ。
133 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 02:59:28.01 ID:uN3uvxTa0
(;'A`)「っと、ふさげてる場合じゃねえ!!九時方向から敵機、回避運動!!」

(*#゚∀゚)《Jawohl!!》

不快な摩擦音を残してタイヤが濡れた路上をスリップし、殺到してきたHelmの銃火を躱す。横っ面に反撃の対空射撃を食らわせると、蜂の巣にされた一機が錐揉みしながら墜落し道脇の一軒家に突っ込んだ。

(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、陽動作戦中のエレク各車両から同様の報告多数!深海棲艦による航空攻撃が陽動部隊に行われているよぅ!!》

(#'A`)「前線指揮車よりCP、了解!」

イヨウ中佐からの報告を聞いて、群がるHelmを弾幕で振り払いつつ俺の胸は更に高鳴った。

未だに、主力艦隊は増援のみに火力を割いており此方への本格的な攻撃はない。

しかしながら、序盤の空襲失敗で大損害を受けているはずの航空部隊を出さなければ無視が続けられない程度には、奴等は俺たちを意識し始めている。

(#'A`)「前線指揮車よりレオパルト1並びにプーマ全車2通達!!」

ならばそろそろ、強引に此方を振り向かせるときだ。






(#'A`)「作戦をフェイズ2に移行、全車両深海棲艦主力艦隊への総攻撃を開始しろ!!」
134 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 03:00:41.68 ID:uN3uvxTa0
今回分ここまで。
次回投下は15:00〜16:00ぐらいに

ご静聴ありがとうございました。
また、数多の乙いつもありがとうございます。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 03:54:41.54 ID:RnDpdW75o

しかしなんだ前の話でも艦娘じゃなくて人類に手痛い攻撃をくらったのに深海棲艦はいまだ人類を舐めてるんだな
まあ舐められてるほうがドクオには都合が良いんだろうが
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 12:44:25.43 ID:lupL9AmA0
おつおつ
トリガーハッピーに続いて極限状態に適した人材がw
それにしても指揮官先頭で戦果も稼いでる英雄なのに、ツン以上に自己評価が低いよな…野郎にもてはやされるのはごめんだろうけどw
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 14:20:29.42 ID:lupL9AmA0
>>135
結局いつ・どこから・何を目的として、侵略者がどうやって仕掛けてくるか…ってのを人類側には未然に防げないからねえ
人類側も「いつも万全の状況で応戦できる」状態でなら互角以上に戦えても、無防備な所を完全な不意打ち・態勢の整わない状況で被害拡大…なんて事を繰り返せば深海側も成果があるわけだし

それに前回でも対応できなかった司令部に、前線を見捨てられて壊滅・戦力の消失により人類側の敗勢なんて局面すらあった訳だし(ドクの機転でギリギリ
結局「精強な軍隊」を持っていても「指揮する側」が無能だと持て余すどころか被害を増やすし、「有能な指揮官」が辣腕を振るっても「現場で動く側」が答えきれないと最良の結果にはならないし
そういう意味でも今の状況が奇跡的な上で、それでも後手に回ってる人類が絶望的でもある無理ゲーというw
138 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 17:36:02.52 ID:uN3uvxTa0







“彼女”は、人間達に戦艦ル級という呼び名が付けられている種族の一人であった。

無論、そのことを彼女は知らない。そもそも彼女たちは個体はおろか種族を識別するような名前を持たず、また特に持つ必要も無かった。
彼女たちに“個人”が存在しないわけではない。だが彼女たちは、『全の意志』に全てを委ねることによってこの海の世に存在する全ての同胞達と解り合うことができた。そのため、“個”と“全”を区別する為のあらゆる事象を必要としなかったのである。

一応、『個の意志』を通して語ることで、特定の個体同士“のみ”での精神共有も可能ではあったが、そのような行為は彼女からすれば極めて非効率だった。

彼女が人間を殺すにあたっても、彼女自身には何の動機もない。
ただ、『全なる意志』が陸に上がる人間の廃滅を望んでいるためその意志に従事しているに過ぎない。そして、彼女自身はそうでなくても『全なる意志』は人間への強い憎悪を抱いていたため、自然彼女も人間を憎悪し、その抹殺を徹底する。

『全なる意志』がそれを望むのなら、彼女もまたそれを望み実行することが自然かつ効率的だからだ。
139 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 17:38:13.50 ID:uN3uvxTa0

一方で、『全の意志』から離れた“彼女個人”の見解を述べるなら、彼女は人間に対して何の感情も抱いてはいない。

“彼女”にとって、そして彼女以外の全ての同胞にとって、『全の意志』が人間と呼び抹殺対象に選んだ種族は脆弱に過ぎた。下級個体以外にとって人間の武器は彼女たちの脅威とはなり得ず、今は同様に抹殺対象にカウントされている【艦娘】が出現するまで彼女たちは人類に対して圧倒的に優勢だった。

彼女たちが艦娘ではなく人類の兵器と戦うときの心境は、言うなれば虫けらを見たときの人間とよく似ている。

害にはならないが、見ていても不快だ。だから、叩きつぶす。それだけの話。







『…………』

────だから、人間が操る鉄の砲車が瓦礫を蹴散らして眼前に現れたときも。

ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

、、、、、、
その時点では。

彼女は単に、“全の意志”に基づく不快感と憎悪を露わにしただけだった。
140 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 17:39:12.99 ID:uN3uvxTa0
現状報告2

ベルリンにおける彼我の戦力展開状況




オレンジ太線:深海棲艦による増援部隊包囲陣

青線:在ベルリンドイツ残存戦力による防衛線

青矢印:ドクオ、ツンらの大まかな進撃路。北側がドクオ、南側がツン

赤矢印:深海棲艦側の攻撃方向
141 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 17:43:17.40 ID:uN3uvxTa0




放たれた砲弾は、寸分違わぬ狙いでその“人影”に直撃する。105mm滑空砲によるAPFSDS(対装甲貫通弾)なんて普通の生身の人間が食らえば生々しい断裂音と共に飛散してしまう代物だが、響いてきたのは分厚い金属の板にぶち当たったような、生々しさとはほど遠い高い音。

そいつの周囲に張り巡らされた、戦艦丸ごと1隻とほぼ同級の耐久力を持つと言われる不可視の障壁に砲弾がはじき飛ばされる。

ξ゚听)ξ「………流石に固いわね、カルシウム取り過ぎじゃない?」

ゆっくりと此方を振り向く戦艦ル級に向けて、私は苦笑いと共にそう呟いて見せた。

長く滑らかだが、化学繊維のような不自然な光沢を放つ黒髪。顔立ちも人間基準で見て普通に“美人”といって差し支えないけれど、ピクリとも動きやしない口元やヒト型のこいつらに共通した蝋のように白い肌のせいで作り物のマネキンにしか見えない。
此方をじっと見つめる青い眼も、まるでガラス玉のように無機質で不気味だ。

ただしそのあまり人間性が感じられない雰囲気故に、身体にぴったりとフィットして線を浮き立たせた黒い服はかえって妙な艶めかしさを感じさせる。
 _,
ξ゚听)ξ

………おい待て何だあの胸の膨らみ。あれ私より明らかにあるんだけど。どれだけ低く見積もってもDはかたいぞ。
おい化け物がしていいパイオツじゃないぞふざけるなその肉塊私に寄越せ。

ξ;;)ξ「フゥグッ!!!」

《隊長!?》

『!?』

25歳にしてAカップブラな自身の境遇に、思わず涙が吹き出る。

なんとなくだけど、ル級が少しだけ戸惑った気がした。
142 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 17:45:13.32 ID:uN3uvxTa0
ξ#;;)ξ「うぉおおお世界中の巨乳死ねぇえええええ!!!第二射ァあああ!!!」

『ッ!!』

八つ当たりの絶叫。レオパルト1の主砲が火を噴く。弾種は引き続きAPFSDS。

弾丸は再び障壁に弾かれ、まるで上から踏みつぶしたアルミ缶のようにぺしゃんこに潰れて地面に落下する。

大きなダメージを負った様子はないけれど、その攻撃で我に返ったように此方をにらみつけながら両腕の艤装を向けてくる。

ξ;゚听)ξ「全速後退!!」

《Jawohl!!》

水平射撃された砲弾が、斜め後ろに下がって射線を空けた私たちの眼前をすさまじい勢いで飛び過ぎる。

2、3キロほど彼方で、巨大な火柱が立ち上った。
143 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 17:56:08.81 ID:uN3uvxTa0
ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

まさに「戦艦」の名にふさわしい圧倒的な攻撃力だが、ビビれば死ぬのは私たちだ。即座に砲塔を旋回させ、三発目を叩き込む。

ル級はこれを直立不動で平然と受けながら、再び艤装の狙いを定めてきた。

ξ;゚听)ξ「っ!!」

咄嗟に、機銃の引き金を引いて奴の顔面付近に弾幕を集中。戦車砲で貫けないものに7.62mm弾なんて撃ち込んだところで、当然ダメージなんて蚊に刺されたほども与えられないだろう。

『……!?』

だけど、障壁にぶち当たった弾幕は無数の火花を散らす。顔の周りに集中した射撃と激しくまき散らされる弾着の火花に視界を奪われたル級が、機銃掃射を避けるために艤装で射線を塞ぎにかかった。

ξ#゚听)ξ「前進!併せて砲撃!!」

《了解っと!

Feuer!!》

操縦手がアクセルを踏み込み、エンジンを唸らせながら私たちはル級に肉薄。20メートルもない至近距離から砲弾を叩き込む。

『────ッ!!』

ξ゚听)ξ凸「はっ、ようやくちょっといい顔したわね!」

ダメージ自体は大したことなくても、流石に超近距離から叩き込まれた戦車砲弾による衝撃は完全に殺しきれなかったらしい。

後ろに少しだけ仰け反ったル級は、態勢を立て直すと機銃座の私を睨んでくる。私は中指を突き立ててそれに応じた。

とはいえ、今姿勢を崩したのはあくまで着弾の衝撃によるもの。断じて効果的な損害を与えたわけではないだろうし、実際奴の動きには微塵もダメージは感じられない。

だけど、砲撃によるダメージは“極めて小さい”ものではあっても“皆無”じゃない。

APFSDSの貫通可能な装甲厚は、700mm。単純なスペック上の貫通能力だけで言えば、かの名高きバトルシップ・ヤマトの砲盾すら撃ち抜ける。

そう、実際にやろうとすればどれだけ気の遠くなるような時間がかかるとしても、私たちが“アンタ達を沈める力は持っている”。何発か攻撃受けて、あんたもその辺りは理解したでしょ?

流石に、カスダメとはいえ損害与えてくる相手がすぐ傍にいるのに悠長に援軍なんて相手にしてる場合じゃないわよね?
144 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 17:58:41.68 ID:uN3uvxTa0


.

────さぁ。

『……………!!!』

《ル級、再び此方に照準!!》

ξ#゚听)ξ「発砲しつつ回避運動!

Feuer!!」

“艦娘”ばっかり気にかけてないで、たまには“人間”の方も見なさいな!!
145 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/14(日) 18:16:59.83 ID:uN3uvxTa0






(`∠´)「…………この報告は、間違いのないものか?」

「……………。あくまで、脅しの可能性はあります、100%とは言えません。

しかしながら、実際に政府談話も発表されている以上“可能性が極めて高い”と見るべき事象なのは確かです」

(`∠´)「…………」

「あの国が過激とはいえ、いくら何でもこんな馬鹿げた真似をするなんてあり得るか……!?

流石に信じられん、デマに決まっている!国際社会からも袋だたきに遭うぞ!絶対に、あり得ない!!」

(`∠´)「………あり得ないと言うことは、あり得ない」

「大佐……?」

(`∠´)「戦時において、“常識”、“秩序”、“良心”などという言葉は全て無意味だ。

そもそも考えて見たまえ、君たちは六年前のあの日まで、“海の底から現れた正体不明の化け物”と戦うことを一度でも想定したか?それこそ、六年前の君たちはそんなことを言われれば鼻で笑って肩を竦めたはずだ。

“常識的に考えてあり得ない”と」

「………」

(`∠´)「現在通信が繋がっている、国内外の全ての軍組織・政府組織に連絡を取れ。アメリカへのリーク許可は事後承諾で構わん、事は一刻を争う」

「はっ!内容は如何します!?」

(`∠´)「当然、一言一句違えずアメリカからの情報をそのまま、だ」






「『ロシア政府が、非公式にアメリカ合衆国へ以下の内容を通達した。

36時間以内に欧州における深海棲艦の制圧が為されない場合、ロシア軍は国家安全保障的観点からルール地方への戦略核兵器の使用を独断で実行する』とな」
146 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/14(日) 18:17:38.65 ID:uN3uvxTa0
投下完了。次はまた本日深夜〜明日未明予定です
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 19:15:47.97 ID:RnDpdW75o

ただでさえ無理ゲーなのにタイムリミットまで増えるとは……
148 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/15(月) 02:37:40.22 ID:LXRvfH1A0





2011年10月、ソロモンアイランズ領ガダルカナル島近海で、オーストラリア海軍によって深海棲艦の【ヒト型】が初めて確認される。太平洋上で奴等と人類の本格的な「戦争」が始まってから、おおよそ二ヶ月が経過していた。

記録に残っている限りでは、彼らが遭遇したのは今日重巡リ級と呼ばれる存在2隻。何故文頭のような注釈が着くのかというと、報告到達から17分後に遭遇部隊は全艦船が通信途絶となり、交戦した敵艦隊の全容が判明しなかったためだ。

この重巡リ級の出現を皮切りに世界中の海洋で【ヒト型】が確認されるようになり、私たち人類は日本、アメリカ、イギリス、ロシアの4ヶ国を除いて一時的に世界規模で制海権を喪失した。全保有艦艇の95%が撃沈されたオーストラリア、空母遼寧を失った中国を筆頭に、文字通り海軍が「全滅」した国も決して少なくない。

《回避成功!車体運動に未だ支障なし!!》

ξ;゚听)ξ「とにかく砲撃は当て続けて! Feuer!!」

《Jawohl!! Feuer!!》

何故、これほどヒト型が人類を一方的に駆逐できたのか?

理由は当然幾つもある。単なる“潜水”だけなら戦艦や空母でも可能で、海とあればどこにでも出現することができる神出鬼没性。

イージス艦の薄い装甲など容易く粉砕する火力。

時として私たちの裏をかくこともある高い知力。

人間程度しかない大きさ故と、未だに正体が解析できていない特殊な電磁波の影響が相まってミサイルによるロックオンが不可能という技術的な事情。

主立ったものを数え上げていくだけでもこれだけのものが上げられる。

『ッ、ッッ!!』

《よし、直撃弾!!射線がぶれてます、ル級砲撃動作解除!!》

ξ#゚听)ξ「続けて撃て!! Feuer!!」

だけど、これらを備えた上でヒト型の最も厄介な点を述べるとすれば。

『…………』

《………ル級未だ健在》

ξ;゚听)ξ「……ほんっと、いやになるくらいタフねあんたたちって」

間違いなくそれは、戦艦と同等の【耐久力】だ。
149 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/15(月) 02:40:36.30 ID:LXRvfH1A0
非ヒト型が脅威じゃないとは言わないけれど、あいつらの場合【軽巡洋艦並み】、【駆逐艦並み】なのはあくまで火力と表皮硬度の話だ。第二次大戦当時の軽巡洋艦の装甲なんて、はっきりいって近現代からすれば陸上兵器にとっても紙のように薄く脆い。加えて、頭部或いはそれに準ずる機関を破壊すると絶命するという点は人間と全く変わらない。

そのため、状況によっては戦闘車両どころか歩兵の携行火器でも容易く撃破できてしまう。eliteやflagshipになれば流石に歩兵で太刀打ちするのは厳しくなってくるが、それでも第3世代戦車が2、3両もいれば用兵次第では完封できる。

ξ;゚听)ξ「装填手、残弾は!?」

《まだ全然余裕ですけど、流石にこのまま破壊できるほどの弾数かは判断つかないです!》

ξ;゚听)ξ「大丈夫、私たちの目的は果たせてるわ!キツいけどもうちょい頑張って!!」

《了解っす!これが終わったらご褒美に抱いtξ゚听)ξ「お前を砲弾として撃ち出してやろうか?」

ただし、【ヒト型】の場合大きく事情が変わる。彼女たちは、周囲に張り巡らされた防護障壁それ自体が“戦艦の船体”の役割を果たしている。

『……!!!』

《くぅっ、涼しい顔で跳ね返しやがって!!》

ξ;゚听)ξ「とはいえ気は引けてる!

次は奴の左から回り込んで!とにかく照準を合わせさせないよう小刻みに動け!!」

《Jawohl!!》

要は、今私たちがやっていることは「ミズーリ級の船体に、何の計画性もなくただひたすら戦車砲を撃ち込んでいる」のと変わらない。

《……今ので丁度10発目です》

ξ;゚听)ξ「今のところ全弾命中ね。流石世界に誇るドイツ戦車道だわ」

『………』

こっちを睨み付けるル級の様子からは、私たちへのいらだちは垣間見えてもダメージなんてこれっぽっちも感じられない。流石に少しうんざりする。

《あちらさんからすりゃようやくちょっと腕の辺りに痒みが走ったくらいですかね》

ξ゚听)ξ「デコピンくらいは効いてると思いたいわね」

理論上は、装甲を貫通している以上撃沈が可能だ。少なくともレオパルト1の搭載可能弾数60発では必要量の何千分の一にも満たないだろうけれど。

私はル級の動きを注視しつつ、無線機を手に取る。
150 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/15(月) 02:42:45.61 ID:LXRvfH1A0
ξ゚听)ξ「レオパルト一号車より各車、応答せよ。損害、それから誘因状況を報告しなさい」

《此方二号車、タ級eliteと交戦中!敵火砲苛烈なれど、未だ誘引は継続できています!》

《六号車より一号車、ル級と交戦中。奴さんだいぶ怒ってますが、もうしばらく便所のハエの如く顔周りを飛び回ってやる所存です》

《七号車、ル級flagshipの足止めに成功中!お姉様、この戦果のご褒美に私たちwξ゚听)ξ「あ?」いえなんでもないです》

喜ばしくも驚くべきことに、全車両健在。ばかばかしい軽口を挟んで来る奴もいたけれど、それだけ彼女たちがこの一撃食らえば跡形もなく吹き飛ばされる“命がけのちょっかい”をリラックスして遂行している証左だ。

……この娘らがイベントに引っ張り出された練度不足の新兵っておかしくない?ドイツ軍の戦車道って変態と化け物育成するためにやられてんの?

今や、南街区への砲撃はほとんど止まっている。白兵戦力として投入されているであろう非ヒト型との戦闘音はそこかしこで続いているが、私はそれらの音が少しずつ近づいていることに気づいた。

ξ゚听)ξ「────全速後退!!」

ぴくりとル級の腕が反応したのを見て取り、指示を出す。力強くアスファルトを踏みしめながらレオパルト1が下がり、目の前を鉄の塊が突風を残して通過。

右手の古びたビルに砲弾が突き刺さり、一瞬で瓦礫の山になる。

よし、敵の動きもよく見えてる。

まだ、やれる。

ξ#゚听)ξ「Panzer vor!!」

奴等に一泡吹かせてやるまで、あと少しだ。
151 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/15(月) 02:46:08.01 ID:LXRvfH1A0

レオパルト1のエンジンが唸り、車体が雨を切り裂いてル級へと突っ込んでいく。

『─────!!!?』

それまである程度の距離をとって回避運動を繰り返しながら攻撃していた私たちの、予想外の動きにル級の眼が見開かれた。

慌てて艤装を構えるけど、その動作は酷く緩慢で私たちからすればスローモーションと変わらない。

ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

『!! ………ッ!?』

外す方が難しい肉薄射撃。砲弾は今まで通りル級の全身を覆う“不可視の戦艦”に激突して拉げたが。その後奴からの応射はない。

、、、 、、、、
距離が、近すぎる。

『〜〜〜!!』

私たちと奴との距離は、今や3メートルもない。幾ら戦艦並みの耐久力があっても、“戦艦の砲撃並みの爆発”が至近距離で起きればただではすまなくなる。

こいつの圧倒的な火力は、この場にあっては寧ろ足枷だ。

ξ゚听)ξ「どうも、ごめんあそばせ」

『…………!』

勿論、ここまで近づいたところで私たちにできることもない。私たちでも接射は流石にダメージを避け得ないし、向こうの自爆と違ってダメージの比率が明らかに割に合わない。体当たりにしても、あの障壁強度を考えれば此方が壊れる確率の方が高い。

だけど、挨拶とプレゼントぐらいはくれてやれる。
152 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/15(月) 02:50:35.48 ID:LXRvfH1A0
ξ゚听)ξ「これ、“お近づきの印”に持って行きなさい!」

飛び下がって距離をとろうとしたル級の足下に、フラッシュバンを投げつけながら私自身は機銃座の中に伏せた。

『!!!!?!?!!!?』

炸裂する閃光、耳をつんざく破裂音。さっきの機銃掃射による目つぶしと同じで、砲弾は防げても強い光は防げない。ル級が声にならない悲鳴を上げて、眼を押さえてのたうち回る。

ξ#゚听)ξ「Feuer Feuer Feuer!!」

即座に機銃の引き金を引きつつ、叫ぶ。レオパルト1が全速力で下がり距離をとりつつ、叫んだ数だけル級に向けて砲弾を放った。

一発目。ル級の身体が防壁越しに伝わる着弾の衝撃で仰け反る。

二発目。踏ん張りきれず、ル級は姿勢を崩して濡れた路面に足を滑らせる。

三発目。とうとう堪えきれず、ル級はばしゃりと水飛沫を立てて仰向けに地面に転がった。

ξ゚听)ξ「私たち、教科書に載るんじゃない?“世界で初めてル級を転ばせた戦車乗りたち”って」

《そいつぁ光栄ですね》

少なくとも、将来自分の子供に聞かせる寝物語としてはなかなかのネタだ。

そこまで、世界が滅びずにあってくれればの話だけど。
153 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/15(月) 03:11:21.24 ID:LXRvfH1A0

『─────────っっっっっ!!!!!』

《おぉ、激おこ》

ξ゚听)ξ「やべーわねあれ。完全に私らのこと縊り殺したい気持ちでいっぱいの目つきだわ」

転倒させたとは言っても、踏ん張りが利かない状態のところを突っ転ばせただけで何のダメージにもなりはしない。フラッシュバンの衝撃から立ち上がったル級は、すぐに起き上がって此方を見据える。

きっと彼女は、最早主力部隊への砲撃なんて眼中にない。海のように蒼い眼は怒りに燃えていて、両手の艤装はワナワナと小刻みに震えている。唇は心底悔しそうに噛みしめられ、もしや怒りのあまり泣き出す寸前の子供みたいな表情だ。

あのリ級以外にも、これだけ感情を露わにする深海棲艦がいるのかと少し意外に思う。

ξ゚听)ξ(ま、気持ちは解るるけどね)

私たちが眼前に立ち塞がった当初の、そして戦闘中のル級の表情を思い出す。

こいつ単体の思想なのか深海棲艦全てがそうなのかは知らないけれど、こいつら私たち人間をとるに足らない存在として見下していた。だけど、その“取るに足らない存在”に作戦を邪魔され、やかましく騒ぎ立てられ、挙げ句恥をかかされた。

きっと、腸が煮えくりかえってこめかみの辺りが熱くなって、とにかく私たちに無惨な死を与えたくて仕方ないはずだ。

ξ゚听)ξ(でもね、一つ教えて上げるわ。

こう手口ってね、あたしら人間の常套手段なのよ)

今のあんたの脳は、私たちをむごたらしく殺すことしか考えてない。

今のあんたの眼は、私たちしか見据えていない。

今のあんたの殺意は、私たちにしか向けられていない。

だから、あんたは。







「───プリンツ、僕が突っ込むから援護して!!」

「うん、任せて!………Feuer!!」

『………!!?』

一番の天敵が、すぐ傍まで来ている事に気づけない。
154 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/15(月) 03:12:21.11 ID:LXRvfH1A0
投下完了。

明日は更新一回の可能性が高いです。
完成していれば19:00頃に
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/15(月) 10:48:14.29 ID:wIu5Q5/A0
おつおつ
ツン姉様の名声がやばいなw
実際に「ル級を翻弄する動画」なんてのが、世界に対して発信されれば文字通り伝説になるだろうし
…あと戦車組の士気の高さと対応力は、自分達にとって絶望的な状況下に「憧れの存在」が突如として馳せ参じ、窮地を見事に覆して尚も先頭に立って先導してくれるからじゃw
156 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 00:16:10.47 ID:9hQehj8k0
私たちとル級が交戦する区画に飛び込んできた、二つの人影。後続している金髪の少女が、背負っていた艤装を駆動させ4門の砲を一時にル級めがけて放つ。姿勢が安定しきらないうちに放ったこともあってか、命中は一発にとどまる。

だが、一発でも戦車の滑空砲とは威力が段違いだ。“軍艦”による一撃を背後から浴び、ル級の姿勢が再び崩れた。

「食らえっ!!」

『ウッ……』

再び地面に転びかけながら、右手の艤装を杖代わりにしてなんとか堪えるル級。その横を全速力で駆け抜けながら、先行した銀髪の少n……少女が右手の連装砲を構えて追撃を加える。

『グゥッ……』

先ほどの金髪の子による一撃よりも、爆発は遙かに小さい。それでもダメージはあったらしく、ル級の表情が怒り以外の感情────苦痛によって歪んだ。

『ア゛ア゛ッ!!!』

「っと!」

崩れた体勢で主砲を放つことはかなわず、やむなく機銃掃射での反撃。銀髪の少女は横っ飛びで射線を躱し、そのまま路上で一回転。素早く身体を起こして、ル級の前方へと回り込む。

『…! ……ッ!!』

一瞬で、それも艦娘に挟撃の形を作られたル級が、初めて本気で動揺していた。

「そっちの戦車、在ベルリンドイツ軍の!?」

ξ゚听)ξ「ええ、私はフランス人だけどね!」

「そうですか、間に合って良かった!!」

ボーイッシュな服装の銀髪の少女は、そう言って微笑みつつベレー帽を被り直す。

ちらりと、帽子に書かれた「Z1」の文字が見えた。

「ドイツ連邦海軍所属の艦娘、駆逐艦【Z1?Leberecht?Maa?】です!!

レヒフェルト空軍基地より、第1波増援軍として派遣されました!!以後、貴軍との連携戦闘に移ります!!」

ξ゚听)ξ「………っ!援軍感謝するわ、支援は任せて!!」

思わずこみ上げてきた熱い何かをなんとか堪えて、私はレーベレヒトからの言葉にそう答える。

作戦の直前、ドクが言っていた意味が少しだけ解った。

微笑みと共にかけられた言葉は、神の啓示よりもよっぽど優しくて。

『Feuer?!!』

圧倒的な力を持つ化け物に立ち向かう姿は、神様よりよっぽど頼もしい。
157 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 00:18:54.50 ID:9hQehj8k0
  _
(#゚∀゚)「Los, Los !!」

(#゚д゚ )「Allemann Feuerschutz !!」

レーベレヒトともう一人──私の記憶が正しければPrinz Eugen──に続いて小銃や対戦車砲を構えた。ドイツ兵の一団が区画に雪崩れ込んできた。さっきのレーベの言葉通りなら、彼らはさっきまで包囲下にあった増援部隊の一部だろう。

何人かは見覚えがある。異常に眼力の強い指揮官の人に、眉毛が突然変異した(頭が)軽そうな男性、それと実際に言葉を交わしたティーマス=ワーカー軍曹。

ポルトガルの地で、ドクの同僚や上官だった人たちだ。

( <●><●>)「私たちの武器はヒト型に対してまるで役に立たないことは解っています。

弾幕を防壁の艤装部分と顔面部分に集中、奴の動き、視界を制限せよ」

(#><)「グレネードは足下に!!震動と爆光は少なからず奴の牽制に繋がるはずなんです!!」

「「「Jawohl !!」」」

艦娘の影に隠れがちだけど、ドイツ陸軍の前線部隊は私達フランス軍と並んで深海棲艦との交戦経験が最も豊富だ。そのため彼らは、戦車や艦娘と連携して深海棲艦と戦うことに慣れている。

『ア゛ア゛、ゥア゛!?』

所詮は歩兵の携行火器、ほとんどはル級からすればレオパルト1よりも更に無力な存在だ。
だけど、迅速な部隊展開とその後に敷かれる猛烈な妨害射撃はル級一隻を縫い止めるには十分すぎる。

(#゚д゚ )「レーベ、プリンツ!!」

「了解、任せて中尉!!」

「確実に仕留めます!!

Feuer !!」

ξ#゚听)ξ「私達も撃って!!たとえ微かでもダメージに成るのなら撃たない理由はないわ!!」

《Ja!! Feuer!!》

『ウア゛ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?』

そこに更に、レーベレヒト、プリンツ、そして私達の砲撃が加わる。とはいえ、幾ら艦娘といっても駆逐艦と重巡洋艦。魚雷という必殺兵器が使える水上ならともかく、陸戦となれば流石にル級を轟沈させることはできない。

だけど、包囲され、身動きが取れず、反撃もままならず、ただ攻撃を受け続けるだけという現状では。

『ウ、ア゛、ア゛……ッ!!』

一気に死ねないというのは寧ろ、拷問と変わらない。
158 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/16(火) 00:21:25.30 ID:9hQehj8k0
『ギぃッ!?』

鈍い金属音。

全方位から降り注ぐ砲火の中で、ル級が突然今までとは毛並みの違う呻き声を上げた。

《………砲撃が奴の艤装に当たった!!》

ル級が構える右腕の艤装、その中ほどから小さな黒煙が上がっている。それは今まさに、レーベレヒトの砲弾が防壁を貫いて“直撃”した箇所だった。

防壁の出力が弱まって、攻撃を防ぎきれなくなっている。

つまりは。

「───ル級、中破状態に移行!!」

(#゚д゚ )「ここで仕留めろ、絶対にだ!!」

プリンツの報告を受けて、ミルナ中尉が叫ぶ。レーベや他の兵士達も応えたようだけれど、全ての声は更に激しくなった砲声・銃声・爆音に飲み込まれて聞こえなくなる。

ベルリン市全てに響き渡るような、轟音の嵐。

《よし、追い詰めてるぞ!!》

《弾はまだある!いっそトドメはあたしらでいただいちまえ!!》

ξ゚听)ξ「………?」

誰もが、ル級を「陸で」追い詰めていることに興奮している。一号車の搭乗員達も勝利を疑う素振りはなく、誰もがル級撃沈の瞬間を一秒でも早く迎えるために動き続ける。

ξ;゚听)ξ「─────全速後退!!」

《ひゃっ!?》

だから、私が“それ”に気づけたのは偶然以外の何物でもない。

『『────ォオオオオオオオオッ!!!』』

私の叫び声に驚いた操縦手が、車両を慌ててバックさせる。

直後、目の前の道路が盛り上がりアスファルトを突き破って私の目の前に巨大な何かが屹立した。
159 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 00:36:32.69 ID:9hQehj8k0

「……っ!? なっ!?」
  _
(;゚∀゚)「冗談だろ……!?“下から”だと!?」

『アアアアアアアッ!!!』

『オォオオオォォッ!!!』

映画【トレマーズ】の看板モンスター、グラボイズを思わせる演出で姿を現したのは、駆逐イ級、そしてハ級の二隻。

全く予想していなかった、「下から」の攻撃に私達全員の対処が遅れる。

『ゴォアッ!!』

「わっ!?」

(;<●><●>)「通常種なら十分対応は可能です!!パンツァーファウスト!!」

ξ;゚听)ξ「砲塔旋回、目標正面イ級!!」

《り、了解!! Feuer?!!》

イ級の方が地面から這い出し、その足でレーベを踏みつぶしにかかる。私とティーマスが迎撃に移ったけれど、目標を急激に変えたため射線が定まらず攻撃は全て見当違いの方向に飛翔する。

そしてレーベも回避運動をとってしまったことで、包囲網の一角に巨大な隙が生まれてしまった。

『───ッ!!!』

「きゃあっ!?」

(;゚д゚?)「Hinlegen!」

全方位射撃の圧力による拘束から解放されたル級は、プリンツとミルナ中尉達に向けて機銃を掃射。彼女たちが怯んだ瞬間、よろめく身体を無理やり踏ん張って包囲網から離脱を計る。

「に、逃がさなi『ウォオオオオオオオッ!!!』あぁもう!!」

ξ;゚听)ξ「砲手、ル級を狙える!?」

《無理です!あいつイ級達に射線を塞がせて……!》

ξ;゚听)ξ「Merde!!」

反撃に使われたのが機銃で、しかも足取りはまさに重傷者のそれだ。

おそらく奴の艤装はほとんど機能を停止していて、耐久面でも最早“大破”に突入している可能性が高い。下手をすれば、駆逐艦のレーベレヒトはおろかレオパルト1でトドメをさせる可能性すら0じゃない。

だけど、艦娘二人はイ級達に進路を封じられ、私達の射線も通らない。迅速な排除を行おうにも、流石に地下からの強襲に対してミルナ中尉達の混乱が収拾しきっていない。

ξ;゚听)ξ(っ、せめて、せめてル級の方の動きだけでも封じないと!このままじゃ、あいつに逃げられ────)





「────攻撃隊、出撃! Vorw?rts!」
160 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 01:06:05.08 ID:9hQehj8k0

低く、思わず背筋を伸ばしてしまうような、厳格な女の人の号令が聞こえた。

ξ;゚听)ξ「!?」

私達の頭上を、ミニチュアサイズの“航空機”が駆け抜けていく。
時代遅れのプロペラ式で、更に言えばBf109改───ナチス・ドイツ軍の【メッサー・シュミット】に酷似しているそれらが、手前のイ級に向けて一斉に機銃掃射を叩き込む。

「───ハイン、撃って!!」

『ヴァアッ、オアアッ!?』

『ガァッ!?』

苦悶の声を上げて仰け反るイ級の横っ面に、今度は砲弾が直撃する。

正確に、完璧に眼を射抜かれたイ級は更に声高に断末魔を上げて、ハ級を巻き込み転倒した。

『─────!?』

ξ;゚听)ξ「………!

レーベレヒト!!」

「解ってる、逃がすもんか!! Feuer!!」

一気に開ける視界、射線。イ級の妨害から解放されたレーベレヒトは、乱れた衣服を直すことすらせず街路に躍り出る。

遠ざかりつつ驚愕に眼を見開いているル級に向けて、彼女は艤装の引き金を引いた。

『ウァッ───!』

ル級は、最後の一瞬まで生を諦めてはいなかった。

彼女は此方に向かって身を翻すと、左手の艤装を盾のように構えつつ反撃を試みる。

『──────ア』

障壁を。
艤装を。
胸を。

レーベレヒトの放った弾丸が、貫く。

ル級は、ぎこちない動きで下を向く。

彼女は、一瞬自分の身体に空いた穴を見つめると、

『………ア、ァ────』

そのまま、糸が切れた操り人形のように。

雨に濡れながら、アスファルトの上に膝から崩れ落ちた。

その様子を見届けて、レーベレヒトはなおも艤装を構えつつ鋭い息を口から吐く。

「…………ル級、轟沈を確認しました!」
161 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/16(火) 01:28:36.04 ID:9hQehj8k0
《ル級、撃沈………っ!!!》

《っしゃああああ!!!あたしらも!!艦娘もいたとはいえあたしら陸軍も深海棲艦のヒト型と互角に戦えたんだ!!》

ξ;゚听)ξ「喜んでる場合じゃないでしょ!!次は……イ級と……」

『ォオオオオオオオオ………』

ズシャッというしめった音で、私の言葉は遮られそのままかき消えた。目の前には全身をくまなく蜂の巣にされて息絶えたロ級とイ級の屍が転がっている。

上空を、20機あまりの小さなメッサー・シュミットが自らの勝利を顕示するように飛び回っていた。

「それにしてもエミ、お見事な指揮だったわね!どう、貴女このまま陸軍に入隊して私達のカメラードにならない?!」

「冗っ談じゃないわよ、一般人を戦争に巻き込むつもり?

それに、私は本当に口を出しただけよ。褒めるなら撃ったハインを褒めて頂戴」

「……お前、作戦行動中に勧誘行為って、何を考えてるんだ?」

「堅いこと言わないでよグラーフ!貴女だってエミの実力は道中で見たでしょ!?」

後ろから、女性同士がやり取りをする声を乗せてキャタピラーの走行音が近づいてくる。唖然としていた私は我に返って振り返り………また、ぽかんと大口を開けて思考を止める羽目になった。

ξ;゚听)ξ「ケーニッヒ・ティーガー………?」

第二次世界大戦時に最強を謳われた、伝説の戦車が止まっている。
162 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 01:53:29.79 ID:9hQehj8k0
「…………そこの車長、大丈夫か?どうも意識が混濁しているようだが」

ξ;゚听)ξそ「───へ!?あ、いえ!!」

次々と発生した事態に脳の処理が追いつかなくなっていた私の肩を、ティーガーに搭乗していた(正確には上に乗っていた)女性がポンッと叩く。

半分私に分けてくれてもバチは当たらねえんじゃねえかって思えるぐらいデカい胸と、白く透き通った、陶磁器のような肌が眼に飛び込んできて少しどぎまぎした。

それほど整ったスタイルなのに、彼女の服装は露出がほぼない。白いコートを肩からかけ、その下には黒のラインが入った軍服をビシッと着込んでいる。

………ただ、その服のサイズはなぜだか異様にぴっちりしており、艶めかしいボディラインははっきりと浮き出ている。背中や腕に艤装を付けているから、彼女もおそらく艦娘だろう。

因みにもう一人───ティーガーの上で何故か腰に手を当てて仁王立ちになっている女性は、灰色を基調とした軍服を着ているものの此方は肩がばっちり露出している。ついでに服の方はこれまたしっかりボディラインを協調するサイズに調整されていて、丈は短く素材は光沢を放つタイプと…………まぁ、言ってしまうなら艤装がないと「保護された痴女かな?」と首をかしげたくなる過激な服装だ。

今更ながら、何故艦娘達の多くはこうも扇情的な服装が多いのだろうか。

アレか、やっぱり極東のHENTAI大国日本発祥の技術だからこうなるのか。

ξ゚听)ξ「…………」

「………あら!」

思わず見つめてしまっていると、眼が合った。何故か、満面の笑みでふんぞり返っている。

「ふっ、ニホンで魅力に磨きをかけた結果、同じ“れでぃ”をも虜にしてしまうようになったのね。流石よね、私」

ξ゚听)ξ「何いってだお前」
163 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 02:40:44.96 ID:9hQehj8k0
「…………」

なんか残念な感じの艦娘()の足下で、ティーガーのキューポラから顔を出している車長と思わしき少女はどうやら生身の人間のようだ。

赤みがかったツインテールの髪に、ブラウンのぱっちりとした瞳。頬はうっすらとピンク色が入り、顔立ちは東洋の血が入っているのか少し幼く感じる。少し聞こえてきたやりとりを推察するに、エミというのが彼女の名前なのだろう。

女の子───エミは、仏頂面で戦車の上に頬杖を突き、黒煙が上がり続けるベルリン市街地を眺めていた。

この間に、しっかりとした方の艦娘────ドイツ連邦海軍空母、グラーフ・ツェッペリンは戦車を降りてミルナ中尉と握手を交わしている。

「よくこれだけの部隊が生き残ってくれていた。

マース、オイゲン、お前達も頑張ったな」

「あ、いえ。違うんですグラーフさん」

「私とレーベは、南に展開している残存部隊から派遣された増援なの。他に、レーベは後二隻、マックスも四隻来てるわ」

(?゚д゚?)「ドイツ全域で言えば、北部全土は事実上失陥したと言っても過言ではない。今、ドイツで組織的な抵抗が展開し得ている軍は南方と、それからベルリン市のシュプレー河以東だ」

ミルナ中尉はそう言って、グラーフさんとティーガーの上の艦娘()───相変わらずふんぞり返ったままのBismarck?zweiを交互に見た。

(?゚д゚?)「寧ろ、お前達こそよくここに来られたな。

ヴィルヘルム=スハーフェンですら通信途絶している状況下だ、奴等も戦艦と空母は徹底的に潰すと踏んでいたが」

「私とあのビスマルクは、大西洋警備の任に着いていたからな。かえってこの襲撃をうけることを回避できた。

我々はアメリカ第六艦隊と合流。極秘裏に海兵隊に同行する形でベルリン近郊に空挺降下し、作戦行動中に彼女たちを保護した」

グラーフさんはそう言って、ティーガーを親指で差す。

「戦車道展のイベントの関係で此方に来ていたところ、深海棲艦の襲撃をうけてホテルの地下に避難していたそうだ。全容は把握できていないが、ベルリンの西部や北部には彼女たち同様取り残された市民がまだ相当数いるぞ」
164 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/16(火) 02:43:08.58 ID:9hQehj8k0
非常に中途半端な位置で申し訳ありませんがここで一度切ります。
次回投稿は本日夜頃予定
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 03:12:12.92 ID:tB3yUN4zo

艦娘と合流できたし多少は無理ゲー度が下がったかな?
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 09:26:41.78 ID:ZbMh5klaO
うおぉ、リトルアーミーか!!
あっちぃなおい
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 12:55:09.53 ID:PYLnwiVA0
おつおつ
慮外の援軍に撃破とかなりでかいな
…それと目の前にいる残念な方が、先の戦線の英雄で命の恩人だって知ったらどうなるやらw
168 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/16(火) 16:17:57.36 ID:9hQehj8k0
ξ゚听)ξ「───了解。えぇ、こっちも貴女たちと同じ状況よ。心配しないでいいわ。

あと抱かねえよぶち殺すぞ」

ミルナ中尉とグラーフさんが情報を共有している合間に、私は私で他の区画のレオパルト1と通信を繋げて戦況を確認する。

概ねのやりとりを終えて無線を一度切り、地図を広げ彼我の確認し得る現状を書き入れていく。

ξ;゚听)ξ「……ドン引きするぐらい完璧に作戦がハマってるわね」

深海棲艦側の致命的なミスは、ベルリン市東側───即ち私達が展開していた区域からの増援を防ぐために配置した深海棲艦をことごとく【非ヒト型】にしてしまった点にある。

勿論、私達の残戦力からすればたとえ駆逐や軽巡でも脅威だったことに変わりは無い。高所観測班の報告で判明していた隻数は20隻を越えていて、私達の保有する機甲戦力よりも数が多かった。レオパルト1は主砲の貫通能力こそ高いけれどレオパルト2に比べて砲口径が小さく、短時間で撃沈するには火力が足りない。

一応プーマ戦闘車のLRミサイルならば、弱点を正確に狙えればflagshipすら2、3発で沈められる。だが、こちらは残弾8発という数量的な制約がつきまとい、やはり封鎖艦隊を無傷で突破することは難しくなる。

向こうがそこまで此方の戦力事情を把握しての展開だったかは定かではないけれど、私達にとっては非ヒト型でも十分すぎる「壁」になっていた。
169 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/16(火) 16:18:52.47 ID:9hQehj8k0

(=゚ω゚)ノ『じゃ、この壁を動かせばいいよぅ』

('A`)『ですね』

私は、作戦会議の時のドクとイヨウ中佐の様子を思い出す。

本当に、淡々と、何でも無いことのように。

彼らは敵の配置を見るなりこう言ってのけた。

('A`)『非ヒト型は、たとえflagshipであっても奴等の“知識階級”に比べて動きも思考も動物的です。単に釣るだけなら簡単極まりない』

(=゚ω゚)ノ『“壁”がこっちに釣られて動き出したら、その後ろから一気に機甲部隊を突入させればいいよぅ。レオパルトの走行速度は65km、奴等の陸上徒歩速度とは比べものにならないスピードだよう。

そして、主砲の貫通能力を考えれば、主力艦隊の増援部隊への手出しを止めるには十分な役者だよぅ』

('A`)『逆に非ヒト型は、eliteまでならパンツァーファウスト3と迫撃砲でも理論上はダメージを与えられます。

エノクで肉薄し攻撃をかけて何隻かに損傷を与えれば、“攻撃能力有り”と見なしてヒト型も陽動部隊の撃破を優先する可能性が高まるはずです』

(=゚ω゚)ノ『“壁”が移動を開始したら、プーマと警官隊並びに歩兵隊を市街地要所に迅速に展開。増援部隊と機甲部隊の合流まで深海棲艦の出戻りを防がせるよぅ。

ヒト型と交戦開始後のレオパルト1については………こんな言い方無責任かも知れないけれど、“各位の奮闘に期待する”としか言えないよぅ』

('A`)『そうですね、後は』

('∀`)『増援部隊が手練れ揃いであることを祈りましょう』

(=゚ω゚)ノ『笑顔キモっ』

('A`)

ξ;゚听)ξ(……ひっでぇ)

最後のやりとりは、ドクの名誉のために忘れてあげることにする。
170 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/16(火) 16:20:05.13 ID:9hQehj8k0
未明の投下時にここまで上げる予定だったものを取り急ぎ。

続きは深夜になります。
171 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/17(水) 00:39:58.68 ID:uhwHcgm70
地図に一通りの情報をまとめ終えると、今度は作戦経過を報告するためイヨウ中佐に無線を繋げる。

………自分で書き出しておいてなんだけど、これが「実際に上がった戦果」というのはちょっと信じられない。

ξ゚听)ξ「レオパルト一号車よりCP、経過報告です。

ミルナ中尉指揮下の増援部隊との合流並びに敵主力艦隊の撃退を完了。また、アメリカ軍の支援を受けて市内に突入していたBismarck zwei, Graf Zeppelin、それから彼女たちが保護していた民間人とも接触しました」

(=゚ω゚)ノ《ご苦労様だよぅ。〜〜〜〜》

応答したイヨウ中佐は、会話に入る前に一瞬だけ無線の向こう側で誰かとやりとりをする。

英語だったところを見ると、グラーフさんとビスマルクが同行していたアメリカ海兵隊が指揮所に到着したようだ。

(=゚ω゚)ノ《グラーフとビスマルクのことは此方でも聞いているよぅ。………欧州全体の状況はともかく、戦艦と空母の参加は僕たちにとっては僥倖だよぅ。

それと、マントイフェル少尉達の陽動機動部隊も無事全車帰還したよぅ》

ξ゚听)ξ「……そう、ですか」

………いや、いや。ホッとなんかしてないわよ?全然これっぽっちもしてないわよ?
仮にホッとしていたにしろ、それは戦友が無事だった事への安堵だから!!

ξ;*゚听)ξ「って!誰への言い訳だオラァああああああっ!!!!」

「!?」

(=;゚ω゚)ノ《えっ、何が?》

戦車の屋根をがつんとぶん殴りながら一人叫ぶ。隣で赤髪の子が驚いて此方を向き、無線越しにイヨウ中佐の困惑した声が聞こえてきた。

ξ;*゚听)ξ「何でもありません中佐!!何でもありません!!続けて戦果報告に移ります!!」

(=;゚ω゚)ノ《アッハイ》

(;゚д゚ )「……」

「……」

ξ;*゚听)ξ「こっち見んなぁああああ!!!」

(;゚д゚ )ゝ「Ja!!」

「や、Jawohl!!」

「全く、大声出しちゃダメじゃない。いつでもどこでも落ち着いてなきゃれでぃ失格よ?」

うるせーソードフィッシュぶつけるぞ!!
172 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/17(水) 00:41:13.41 ID:uhwHcgm70
ξ;*゚听)ξ「せ、戦果報告!!交戦した敵主力艦隊は11隻、ヒト型8に非ヒト型3!非ヒト型3体は、2カ所でそれぞれ地下から出現!それで───」

ξ゚听)ξ「────敵に与えた損害としては、非ヒト型3体とル級通常型1体の撃沈。タ級通常型、ル級通常型とeliteが各1大破、タ級elite2隻、中破。ル級flagship、タ級flagship改、損害極めて軽微も形勢不利と見たか離脱」

「……Ich erschrecke」

顔に差していた血の気が少しずつ引き、うわずり早口だった口調が読み上げるにつれて自然と落ち着いていく。グラーフさんが私の報告を聞きながら、眼を丸くしてぽつりと呟いた。

そりゃ、確かに私はついさっきまでこの作戦に参加していた内の一人だ。
現に深海棲艦達は空からも陸からも兵を退き、こうして私達がほとんど無防備に休息をとっている状況下でも一向に再攻撃をかけてこない。立て直しが必要な大損害を与えたことも間違いないだろう。

それでも、読み上げている私自身が、こんな戦果信じられない。

ξ;゚听)ξ「彼我損害まとめ。深海棲艦側、撃沈4隻、戦闘力喪失3隻、戦闘力大きく低下2隻、健在2隻。

……当方損害、先見増援部隊の一部に死傷者。艦娘は全隻健在。また、レオパルト8両、プーマ6両、エノク軽装甲車22両、投入人員3048名に損害無し。

以上です」

非現実的な数字の羅列だった。もし私が全く無関係の第三者としてこの数字を聞いたなら、きっとそいつを鼻で笑って嘘か虚構と断じたに違いない。

それほどに一方的で、英雄的な数字だ。

だけど、この結果をもたらす采配を振るったはずの当人が返してきた反応は

(=゚ω゚)ノ《報告、ご苦労だよぅ》

その一言だけだった。
173 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/17(水) 00:46:49.69 ID:uhwHcgm70
(=゚ω゚)ノ《喜ばしい結果なのは確かだけれど、深海棲艦の思考や狙い、特性、何よりマントイフェル少尉やデレ中尉をはじめ皆の力量を考えれば全て当然の帰結なんだよぅ。

君たちや増援軍への感謝こそあれ、いちいち感情を出すほどのことじゃないよぅ》

此方の驚きを察したのか、イヨウ中佐は淡々とした口調で付け加える。

……え、なんでこの人新兵と旧式戦車率いてのイベント警備担当なんて閑職に飛ばされてるの?軍の上の人たちってバカしか成れないようになってるの?

(=゚ω゚)ノ《深海棲艦は一時的に退却しただけで、彼我の物量差やドイツ北部全体の戦況を考えればベルリンの制圧を諦めるなんてあり得ないよぅ。……ま、制圧したがってる理由までは解らないけれど。

デレ中尉、避難民の人数、並びに構成を報告してくれよぅ》

ξ;゚听)ξ「了解!……あー、ねぇ、貴女?」

「………私?」

赤髪の女の子は、何が面白いのか厚い雲に覆われて水滴を降らせるばかりの空をぼうっと見上げていたが、私に声をかけられて此方を険のある目つきで睨んできた。

一瞬鼻白みかけるが、すぐに彼女が一般人であることを思い出す。それも、制服を着ている点や戦車道展のイベントに参加していたことから考えておそらく学生。深海棲艦の襲撃なんて事態が起きて……多分、彼女の周りでも、目の前でもたくさんの人が死んだ。ショックを受けて人に対する態度がつっけんどんになったとしても不思議じゃない。寧ろ、その程度で済んでいるなら彼女の精神はとても強い。

そういえば、と私は彼女が着ている服が初見ではないことを思い出す。TBLへのプロ選手も多数輩出しているドイツ屈指の名門学園艦の制服だ。国際交流でフランスの戦車道チームと何度か対戦していた学園艦なので、制服も番組を通じて何度か目にしていた。

「ねぇ、なんなの?」

ξ;゚听)ξ「あ、ごめんなさい。えーと、エミ?でいいのかしら?」

「……えぇ。エミ=ナカスガ、教育グレードは11。戦車道履修者として学園艦【ジークフリート】への乗艦が許可されているわ。年齢は今年で17歳。

…………“一応”、ドイツ国民よ」
174 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/17(水) 00:48:32.19 ID:uhwHcgm70
《おいおい、“一応”を強調しすぎだろ……オレはエミと同じドイツ人で、しかも同じ戦車に乗れて嬉しいぜ?》

「………ハインは黙ってて!!」

車内から聞こえた呆れたような声に対して、戦車の座席を蹴飛ばす音が響き声の主が小さな悲鳴を上げた。

エミの頬は、さっきよりももうちょっと紅くなっている。……何かしら、この胸にわき上がる親近感は。

「っ、それで!ここにいる民間人は私含めて今ケーニッヒ・ティーガーに搭乗している六人だけ。他のジークフリート生や同じホテルにいた人たちは………その、解らないわ」

ξ゚听)ξ「ああいや、無理もないから気にしないで。寧ろ、幾ら戦車があるとはいえあんな化け物達が跋扈して破壊されまくってる市街地を学生六人で────六人?」

おかしい。ケーニッヒ・ティーガーの搭乗員数は五人の筈だ。いや、勿論ジークフリート生で決まった戦車搭乗のメンバーが固まって逃げられるとは限らない。一人余分だったり足りなかったりしても何一つ不思議ではないけれど……

「あぁ、最初は私達五人だけだったけれど、ホテルの地下駐車場からこの戦車で瓦礫を吹っ飛ばして脱出した時に道路で気絶している人がいたから拾ったのよ。

それで────ちょっとっ!?」

突然、エミの隣でケーニッヒティーガーのもう一つの車上ハッチが開く。

中から、長く黒い髪を持った長身の女性が顔を出した。

「あんた何出てきてるのよ!」

「そうは言うが外の様子が見えないし、車内だとくぐもって君の声もろくに聞こえないんだ。少しは気を遣ってくれてもいいだろう。いい加減不安も限界だし………」



/ ゚、。 /「むっ。なんだこの状況は」
175 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/17(水) 00:50:04.71 ID:uhwHcgm70

「あら、貴女がエミが助けた人?綺麗な髪ね!私もれでぃとして貴女みたいな髪質がほしいわ!」

/ ゚、。 /「髪についてはよく言われるな。

しかし君は……ビスマルクで間違いないのか?どうにも私が過去に会ったビスマルク達と君は似ても似つかないんだが」

ξ゚听)ξ
  _
( ゚∀゚)

「……あの人、確か」

「ふっ、当たり前じゃないの!!ヤーパンで新たな力を受け、数あるビスマルクの中でも最強の力を手に入れたBismarck zweiよ!!

流石よね、私!!」

( ><)

( <●><●>)

「お、お姉様!Bismarckお姉様!!お願いです、お願いですから少しお静かに!!」

/ ゚、。 /「なるほど、じゃあ君が今のドイツで一番強いBismarckなのか」

「その通り!!私こそが1人前のれでぃ!もっと褒めても構わないわよ!!頭が高い、控えおろう!!このハーケンクロイツが眼に入らぬかぁ!!」

「はぁ……どうでもいいけど、人の頭の上で騒がないで貰える?」

( ゚д゚ )「……」

「………ビス」

「えっ、なぁにグラーフ?

というか、皆静かね。どうしたの?」

「……頭が高いのは、お前だ」

ξ゚听)ξ「…………あー、CP?」

(=゚ω゚)ノ《どうしたよぅ?いやに確認に時間がかかって────》

ξ゚听)ξ「おたくの首相拾ったわよ」

(=゚ω゚)ノ《…………》







 _,
(=゚ω゚)ノ《は?》
176 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/17(水) 01:17:04.00 ID:uhwHcgm70
報告抜けてました、本日分ここまでです。
次回更新は少し幅がありますが17:00-22:00の間で行うと思います
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/17(水) 02:13:35.25 ID:Nz66MSJA0
乙です ビス子は堂々たる れでぃ() だわー
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/17(水) 06:59:43.33 ID:/M1S6T2J0

ドイツ首相逃げ遅れw
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