('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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319 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/07(水) 23:56:58.24 ID:QJ8KbxUB0
五つの防衛線を構築する敵前段艦隊は、最後の線である第5陣のほぼ全てをeliteで固めるというかなり慎重で防衛的な展開をしていた。そのため俺達が第1陣、第2陣を一方的に殲滅しつつも、敵艦隊は非ヒト型の上位種戦力を自然な形で温存している。

攻勢にあたっても敵艦隊は極力通常種を前衛に集め、自走砲による砲撃や打撃部隊への盾となるように陣形を組んだ。此方もなるべく優先して上級個体を狙いはしたが、ニ班と四班で撃沈、三班で大破艦が確認できた程度で未だ20隻を超えるeliteが戦闘能力を有して前線部隊と対峙する状態。

火力の差は歴然であり、軽巡棲姫からすればベストとまでは言えずともベターな戦力比に持ち込めている筈だ。

……尤も、それは此方にも言える話であって。

ξ#゚听)ξ「─────Panzer vor!!」

敵戦力を減らしつつの“時間稼ぎ”は、もう十分過ぎるほど終わっている。

ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

『ォオオオオオオアッ!!?』

ツンの叫びと共に、戦車隊の先陣を切っていたレオパルト1が105mm砲を撃ち鳴らす。ヒュンッ、という巨人の口笛のような飛翔音を残してAPFSDSが空間を駆け、最後の通常種であるト級の左頭部に突き刺さり装甲皮を貫く。

::(* A )::「ブフムッフフッ」

金髪巻き毛のフランス女がドイツ陸軍の戦車に乗って後方にポーランド軍の装甲部隊を率い、ドイツ語を叫びながら突入してくるというグローバル化の集大成のような光景に思わず変な笑いが口をついて飛び出した。

( <●><●>)「キモッ」

(*゚∀゚)「キモッ」

('A`)

ドイツ連邦陸軍少尉ですが部下が辛辣です。
320 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/08(木) 00:22:46.05 ID:k+hQ6MSy0

眼から流れてきた汗(比喩表現)を袖口で拭き取り、改めて区画に突入してきた友軍戦力を確認する。

ツンのレオパルト1を先頭に、真後ろにプーマ戦闘車と、もう一両のレオパルト1。最後尾には自走対空砲ZSU-23-4【シルカ】が後続。左側に並ぶのは、ポーランド陸軍の戦車であるレオパルト2A4とPT-91【トファルデ】が二両ずつ。

更に軍用トラック一台分ほどのスペースを空けて、トファルデとレオパルト2A4各2両にハンヴィー4両からなる第2陣が続いた。

敵艦砲射撃による混乱や損害もあって若干歪な編成ではあるものの、合計16両という強力な装甲戦力の到着は頼もしい。

一方で、強襲打撃班の搭乗していた車両やカルリナ達の到着によってかなり兵力が密集した形だ。敵艦砲射撃が直撃すれば、命中位置次第では駆逐艦の砲弾でも甚大な損害に繋がる。

まずは、こちらから再度攻勢に動く。

(#'A`)「ツン、装甲車隊を一部右手1ブロック先から迂回させろ!敵艦隊の側面を突く!」

ξ#゚听)ξ「了解! ※※※!!!」

指示を受けたツンが無線に向かってカルリナと同じ響きの言語で何ごとか叫ぶ。ポーランド語まで習得済みとは本当に頼れる才女様だ。

('A`)<カルリナ、一部歩兵を戦車隊に随伴させてくれ!敵の空襲があった場合はアサルトライフルの射撃で援護を!>

( ’ t ’ )<了解!>

('A`#)「サイ大尉、ベーデカー、ティーマス、前進するぞ!奴らの攻撃目標を分散させる!」

「Jawohl!!」

(//‰ ゚)「Roger that!!」

( <●><●>)「Ich verstehe」

('A`#)「ツー、お前も後続しろ!!

Los Los Los!!」

指示を終えた俺は、物陰から路上に飛び出すとアサルトライフルを構えて前段艦隊に向けて駆けだした。
321 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/08(木) 01:04:28.17 ID:k+hQ6MSy0
『ガァアッ!!!』

(*;゚∀゚)「………ひょおうっ!?」

道路に飛び出した瞬間、ト級が反撃の砲火を放つ。突風と熱を残して跳んできた砲弾に、ツーが奇声を上げながら身を竦めた。

爆発音。振り返れば、PGS-9が装備されていたトラックが燃えている。拉げた荷台の上では人の形をした何かが炎を纏い、やや離れた位置では今の攻撃に巻き込まれたらしいドイツ兵が上半身だけで転がっていた。

('A`;)「怯むな!いけ、いけ!!」

ξ#゚听)ξ「ドク達の援護を!!

Feuer!!」

『ウグアッ!?』

『ギイッ!!?……アアアッ!!!』

レオパルト1と、トファルデの主砲が立て続けに吠える。前者の弾丸は寸分違わぬ狙いで先程の着弾点をもう一度射抜き、後者の砲弾はその隣に進み出てきたロ級eliteに直撃する。

だがロ級の方は衝撃に踏みとどまり、艤装をゆっくりと此方に向けてきた。

「Fire!!」

『ガッ……!?』

その横っ面に、サイ大尉に後続していた海兵隊がLAWをぶち込む。踏ん張りきった直後で態勢が安定していないロ級の巨躯が揺れ、砲塔ががくりと下を向いた。

ξ#゚听)ξ「Go Missile!!」

《Jawohl!!》

『アゲァッ!?ア゛ア゛ッ……オォオ………』

ツンが叫び、プーマ戦闘車の砲塔からスパイクLR対戦車が二発連続で撃ち出される。

一発目が頭部を上から撃ち抜き、二発目は持ち上がり露わになったロ級の下あごを吹き飛ばし艤装に突き刺さる。

ロ級はぐらりぐらりと身体を揺らし、イ級の屍の上に折り重なるようにして倒れ込み息絶えた。

『ォオオオオッ!!!』

完全に左頭部を失ったト級の方は、しかしながらまだ生きていた。仲間の死に対する怒りからか一際高く咆哮すると、200mほど距離を詰めていた俺達に向かって機銃を放つ。

('A`#)「飛び込め!!」

(*゚∀゚)「うひぃっ!!」

咄嗟にツーの首根っこを掴みながら、陥没した道路の穴の中に飛び込む。アスファルトを弾丸が削り、すぐ傍を火線が走り抜けた。

道路はハ級による地下からの攻撃で、そこかしこがめくれ上がったり陥没している。幸い、隠れる場所には事欠かない。

敵を引きつけつつのゲリラ戦にはうってつけだ。
322 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/08(木) 01:05:48.35 ID:k+hQ6MSy0
細々とした亀更新になってしまっていますがここで一度。
ご清聴ありがとうございました。明日はお休みなので一気に進めたいと思います
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/08(木) 06:17:01.15 ID:j9LkdJL+o
324 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/08(木) 23:43:32.71 ID:k+hQ6MSy0
('A`)「ツー、行くぞ!」

(*゚∀゚)「あいよぉ!!」

『ォオオオッ!!!』

ツーと共に穴を駆け上がり、ト級に向けて銃撃。狙うはレオパルト1が穿った左頭部の貫通痕。

傷跡への攻撃はアサルトライフルの射撃でも幾らか効くのか、ト級は低い声で嫌がる素振りを見せるが身体の構造が祟って銃火を遮ることは出来ない。無理やり身体を捻って射線を躱そうとする。

「Fire!!」

『ォオアッ!?』

そこに撃ち込まれたのは海兵隊が構えるジャベリンミサイル。ただし、狙った先は頭部ではなく、ト級の腕。

ト級は胴体と足を持たず、陸上移動の際には中央頭部から直接生えた二本の大きな腕で「歩行」する。未発達で小ぶりな足しか持たない上に胴体の大きさに対して脚部の形状がアンバランスな駆逐艦よりマシだが、それでも地上での機動力は高くない。

ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

『ウ゛ア゛ア゛ッ……』

回避運動のためにもつれていた腕に直撃するミサイル。ぐらりと傾き戦車砲の射線に晒されるト級の頭部艤装。

4両の戦車による一斉射撃は、吸い込まれるようにして頭頂から生えた砲塔に直撃。

グワリと音が鳴り、艤装が爆散。弾薬の誘爆によってト級の中央頭部が火の玉と化し、数秒間の制止を経てそのままト級は腕を折り斃れる。
325 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/08(木) 23:51:30.74 ID:k+hQ6MSy0
『キィアアアアッ!!!』

(;'A`)「止まるな!!」

そのまま足を止めず走り抜け、今度は路上に転がった黒焦げの市営バスの下へ。入れ替わりで前に出てきたヘ級eliteの機銃掃射が後ろから猛然と追いすがってくる。

命がけの鬼ごっこはかろうじて此方に軍配が上がり、ツーと俺が残骸の影に飛び込んだ直後弾丸が炭化した車体にめり込んだ。

『グェアッ!?』

『キィ………キィアアアアッ!!?』

同時に砲声。ヘ級の後ろで今度は単縦陣への移行運動をしていたイ級の横っ面で爆発が起きる。思わぬ方向からの一撃にふり向いたヘ級の腹にも、連続して二発の砲弾が突き刺さった。

『ウォオオッ!?』

『ゴォアッ!?』

ヘ級とイ級への砲火を皮切りに、奴らの右手から横殴りに叩き込まれる砲弾と銃弾の嵐。ホ級が砲塔を向けようとしたが即座に砲火が集中し、照準を絞る前に放たれた艦砲射撃はあらぬ方向へと飛翔する。

ξ#゚听)ξ「ドク、別働隊が敵艦隊側面に到達!攻撃を開始したわ!」

('A`#)「正面戦車隊並びに随伴歩兵隊、最大火力にて敵艦隊を打撃せよ!!とにかく撃って撃って撃ちまくれ!!」

ξ#゚听)ξ「Jawohl!!

※※※、※※※!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

弾幕射撃が更に勢いを増して俺達を追い越し、ヘ級達に猛烈な勢いで襲いかかる。無数のマズルフラッシュと爆発光が、雨の中で途切れることなく煌めく。

『ォオオオオォオオッ!!!』

(;'A`)「………っ!」

次々と深海棲艦達の巨躯に吸い込まれていく火線。だが、全身に銃火を纏いつつもヘ級が右手の艤装を強引に持ち上げツン達の方へ───はっきりと、ツンが乗るレオパルト1へ向ける。

ξ;゚听)ξ「……ヤバ」

(;'A`)「ツン────!」

砲声。
326 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/08(木) 23:54:17.37 ID:k+hQ6MSy0
ξ;><)ξ「きゃあっ!?」

不幸中の幸いというべきかヘ級が放った砲弾は、苛烈な砲火の衝撃で軌道がぶれレオパルト1への直撃を免れる。

それでも、周囲を固めていた随伴歩兵の直中に飛び込んだ砲撃による損害は小さくない。海兵隊とドイツ兵それぞれ数人が武器を構えていた着弾箇所からは人影が消え、代わりに一掴みほど人体の残骸のみが残された。

(;'A`)「ツン、無事か!?」

ξ; 听)ξ「…っ、大丈夫!かすり傷すら負ってないわよ!

Feuer!!」

『イ゛ァ゛ッ?!』

こみ上げてきた何かを飲み下したような間が空いたあと、気丈な返事と共にすぐさま指揮を再開。

4両の戦車隊による一斉射撃。ヘ級の右手艤装が爆散し、艤装の破片が俺達の周りまで散らばってくる。

( <●><●>)「Feuer」

(//‰ ゚)「Fire!!」

『ギィッ───ヴガァアアアアッ!!!?』

傷口を抑えて蹲ったヘ級の胴体に、下から殴り上げるようにしてカールグスタフとパンツァーファウスト、そして最後の一門となったLAWが直撃。

無理やり起き上がらされた上半身を横合いから戦車隊と随伴歩兵隊の一斉砲火が殴りつける。下半身を覆う顎のような艤装が破砕され、肩口から引き裂かれた右腕がくるくると空に舞い上がり路上に落下した。

ξ#゚听)ξ「Feuer!!」

( ’ t ’ #)「Strzelac!!」

『ガッ、ギッ………』

カルリナとツンの号令は、同時。膨大な量の砲弾に加え、計ったようなタイミングで飛来した迫撃砲隊の支援射撃が加わりヘ級を滅多打ちにする。

爆圧によって脇のビルに押しつけられるような形になったヘ級はそのまま数秒にわたり無抵抗で撃たれ続け、やがて糸が切れた操り人形のように身体から力が抜け動かなくなった。
327 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 00:41:04.41 ID:89CTCDsC0
undefined
328 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 00:57:02.22 ID:89CTCDsC0
側面と正面の2方向から攻撃に晒される敵艦隊は、一方への反撃を計れば他方からの集中砲火でそれを妨害され今や反撃さえままならない状態となっている。

ただでさえ至近距離のところを更に肉薄し、背後から飛ぶ味方の射線にすら身を晒す形で実行した“釣り”。目の前をうろちょろと鬱陶しく動き回る俺達を潰すことに夢中になり、敵艦隊は側面への警戒を完全に怠った上ツン達正面戦車隊への攻撃すらろくに行えていない。

命懸けの餌役は無事狙い通りの釣果に繋がってくれた。もう一度やれと言われても死んでもゴメンだが。

(=#゚ω゚)ノ《前線衝撃に備えるよぅ!!

弾着、今!!》

遠くの方で榴弾の炸裂音がズンッと響き渡り、直後に何か重いものが地面に斃れる音が続く。俺達以外の前衛部隊も戦況は順調に推移しているらしく、無線からはなおも断続的に敵艦の撃沈や損害報告が流れてきている。

《CPより前線各位、敵前段艦隊の損耗率60%を突破。

また、敵爆撃編隊は未だ増強を継続もポーランド空軍の迎撃により打撃を受け続け前進には至っていない。市外から艦隊の増援が到着した様子も確認できず。

我々が優勢だ、オーバー》

勤めて平静を装いながらも、言葉の節々に驚愕と喜悦が浮かび上がったオペレーターの経過報告が耳に入った。まぁあの絶望的な状況から市街地中央まで戦線を押し返し、おまけに艦娘戦力はなおもほぼ完全な状態で健在と来ている。

確かに、俯瞰してみるとなかなか信じがたい巻き返しぶりだ。ポーランドからの増援といういい意味での計算外が発生したことも含めて、オペレーターの興奮は無理のないことかも知れない。

('A`)「………ツー」

だが、俺はまだオペレーターの歓喜に同調するつもりはない。

(*゚∀゚)「あん?」

('A`)「後退の用意しとけ。ティーマス達にもハンドサインで伝えろ」

作戦が終わっていないからと言うこともあるが、何よりも絶対に忘れるべきではないことが一つ。

“此方にとっての優勢は、敵にとっての苦境”だ。

(*;゚∀゚)「え、なんで?」

('A`)「いいからすぐに準備だ。合図があったら走れ」

《Graf Zeppelinより前線、レーダーに感あり!!》

向こうが、このまま無策で前段艦隊の壊滅を待つはずが無い。

《機影100余、ポーランド空軍と交戦中の主力部隊とは別に低空域で突入!

マントイフェル少尉、全機が貴方のところに向かっている!注意しろ!!》
329 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 01:15:24.73 ID:89CTCDsC0
グラーフからその報告が無線越しに伝えられた瞬間、俺はホ級elite等残った深海棲艦達に背を向けて走り出す。ツーが直ぐに続き、ティーマスやサイ大尉、ベーデカーも次々に物陰から立ち上がり踵を返す。

(;'A`)「ツン、援護を!!」

ξ#゚听)ξ「任せなさい!!

Feuer!! Feuer!! Feuer!!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

『ギアガッ!?』

『ァアアァア……』

味方陣地へ疾走する俺達とすれ違い、砲弾が風を蒔いて敵艦隊を襲う。攻撃態勢に入ろうとしたロ級が側面と正面から同時に十数発の砲弾を受けて蜂の巣になった。

(=#゚ω゚)ノ《マントイフェル少尉、そっちに砲撃が行ったよう!!衝撃に備えて!!》

間髪を入れずCPからの報告。榴弾が雨空から降り注ぎ、炸裂。爆発音と着弾音、ホ級共が上げる断末魔が次々重なり、筆舌に尽くしがたい不協和音のオーケストラが開催される。

(;'A`)「っととと!?」

『アァ………ァァァァァ……』

十何発目かの弾着で引き起こされた揺れに足を取られ、俺は前のめりにすっ転びつつ味方部隊の展開地点まで何とかたどり着く。

背後では、弱々しい鳴き声と湿った地面に重い何かを横倒しにしたような音が響いた。

《イ級elite、沈黙!》

ξ#゚听)ξ「そのまま撃ち続けて!ドク、怪我は!?」

('A`)「おかげさまで五体満足だ!

ティーマス、欠員は!?」

( <●><●>)「ご安心を、全員無事なのは既に解っています」

('A`)「よし!間もなく敵機が来るぞ、総員対空警戒に移れ!!」

俺の叫びにまるで合わせたようなタイミングで、真正面……つまり西側から砲声に混じって微かに聞こえてくるレシプロエンジンの音。音源はぐんぐん近づいてきており、会敵が間もなくであることをご親切に俺達に教えてくれる。
330 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 01:37:29.02 ID:89CTCDsC0
ξ;゚听)ξ「ドク、別働隊はどうする?!退避させるなら直ぐに動かすけど……」

('A`)「いや、退避は必要ない。それと正面戦車隊も深海棲艦への攻撃は続行!ただ機銃の仰角は調整しておいてくれ!」

ξ゚听)ξ「解った!各機銃手、対空戦闘用意!!」

絨毯爆撃によるベルリン全域の焦土化を狙ったことからも解るとおり、深海棲艦側は既に悪天候化の急降下攻撃は最早効果がないことを“学習”した。

そして、大物量による無差別攻撃が“国外からの増援”という彼我どちらも想定していなかった事態で頓挫した以上、空襲方法は自然と先程俺達に対して大きな成果を上げたもう一つの方法────低空域での平面飛行から対地掃射に限られる。

加えて言うなら、敵機は前線の中央に布陣する俺達に戦力の全てを注ぎ込んできた。おそらく戦況の推移や増援戦力の流入の仕方を観察した結果、軽巡棲姫はここが人類側前衛の中枢だと見抜いたのだろう。

《接敵30秒前!!》

急速に近づいてくる艦載機の飛翔音を聞きながら、俺はつくづく思う。

《敵機、来襲!!》


('A`)「C-4、爆破!!」

敵が予想通りの動きをしてくれたのは、本当に幸運だった。
331 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 02:08:13.70 ID:89CTCDsC0
道路両脇に立ち並ぶ、幾つかのビルや家、或いはその残骸。

特に三階建て以上のものに重点的に仕掛けられていたありったけのC-4爆弾が、海兵隊の起爆スイッチによって一斉に炸裂する。

同時に、ダイレクトアタックモードで待機していた虎の子のジャベリン数門も火を噴き、次々と建物に着弾した。

『『『!!?!??』』』

道路に面する側の壁が吹き飛び、窓ガラスが粉砕され、屋根の一部が飛び散る。

敵艦隊と俺達の間に横たわる、700Mの空間。艦載機隊の突入コースでもあったその空間は、C-4爆弾の起爆によって飛散した礫の散弾に覆い尽くされた。

『────!!?』

『!!!?』

『───………』

時速六百キロで低空通過する戦闘機など、人間の動体視力で捉えるには限界がある。だが、艦娘達が使う“三式弾”の要領で「敵機の軌道そのもの」を攻撃すれば話は別だ。

同高度で飛散した礫は突入してきた【Helm】達を真横から撃ち抜き、軌道を遮って激突させ、上から降り注いで押し潰す。少し大きめの“瓦礫”が落下した時など、一気に七、八機が上から押し潰される形で粉砕される。

艦載機達に届かない、更に下側の“散弾”も敵機の入射角を妨害する。何より厄介なことにこれらは意図的に狙って放たれる弾丸ではない。軌道も速度も大きさもすべてがランダムであり、密集して突入してきた敵編隊は回避も攻撃もままならず撃ち抜かれ羽虫のように堕とされてく。

('A`#)「Flak Feuer!!」

(#<●>∀<●>)「フゥハハハハハーーーーー!!!!人類の敵は消毒だぁあ!ーーーーー!!!」

(*;゚∀゚)「ヒェッ」

ξ#゚听)ξ「全車両一斉射!!撃てぇえええ!!!」

散弾の飛散空域から逃れるべく上昇する敵機は、統率も取れていなければ速度も大きく落ちている。200前後のアサルトライフルによる一斉射や戦車隊の機銃掃射、何よりも、【シルカ】の対空弾幕を切り抜けられるはずがない。

( <●><●>)「───【Helm】、最後の一機を撃墜」

ξ#゚听)ξ「視認できる後続の敵影無し!頭上安全確保!!」

敵航空隊は、全滅した。
332 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 02:50:14.48 ID:89CTCDsC0
『ォオォォォォ………───』

「Enemy down!!」

散弾攻撃の間も、側面部隊による攻撃と迫撃砲隊の支援は当然継続している。

数を減らし、航空支援も不発に終わったホ級達に最早抵抗の術が残されていなかった。

航空隊の殲滅劇が終わる頃、正面でもう1体のイ級eliteが火達磨になりながら息絶える。

残るは、ホ級とロ級の2隻のみ。

《敵前段艦隊、戦力稼働率20%切りました!》

(=#゚ω゚)ノ《Graf Zeppelin以外の全ての艦娘部隊に通達!!速やかに戦闘態勢!!

ドク=マントイフェル少尉からの合図があり次第突入せよ!!》

《Jawohl!!

ようやく真打ち登場なのね、本当に待ちくたびれたわよ!!》

《此方Graf Zeppelin、共に前衛で戦えないのは残念だが艦載機の用意は出来ている!指示があればいつでも飛ばせるぞ!!》

《Prinz Eugenより全戦隊、敵艦隊の増援未だ無し!戦況我々に極めて優勢です!!》

《CPより前線各位、Mi-24の第4波が突入開始!!

どうやら我々の奮戦が伝わっているらしい、過去に類を見ない大編隊だ!巻き込まれるなよ!!》

飛び交う通信は、今や活気に満ちあふれ誰もが力強い声でやりとりをしている。まだ中核艦隊が残っていることは皆理解しているだろうが、此方にもBismarck zweiを筆頭に艦娘はいるのだ。

極めて軽微な損害で前段艦隊を殲滅しつつあり、続々到着する援軍のおかげもあって質量共に充実した装甲戦力も合わせれば戦力比でも完全に敵艦隊を逆転している。油断は出来ないが、俺達は「勝機」と十分にいえるものを手にした。

────だと、言うのに。

(;'A`)「…………」

( <●><●>)「………少尉?」

俺の脳裏を過ぎったのは、何故か“奴”の満面の笑みで。

《Mi-24第4波、後五秒で─────!?》

その予感を裏付けるように。

数機の【ハインド】が、弾丸に貫かれて火の玉に変わる。
333 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 03:14:33.93 ID:89CTCDsC0
新たに空を照らす、四つの炎の華。交わされていた無線が一瞬完全に沈黙し、何人かの息を呑む音が伝わってきた。

《………!? ゆ、友軍機、次々と被弾撃墜!!》

《墜落してくる、散開しろ!》

まるで呆けたように空中で一斉に動きを止めてホバリング状態になっていたMi-24の編隊は、五機目の犠牲が出たところで我に返り慌てて散開運動を開始。

だが、乱れた隊列に容赦なくその正確無比な砲撃は叩き込まれる。六つ、七つと落下する火の玉が増えていき、街のあちこちに突き刺さる。

幾つかの悲鳴が、爆発音と共にぷっつりと途切れた。

(=;゚ω゚)ノ《CPよりマントイフェル少尉、今のは敵前段艦隊の砲火か!?》

('A`;)「いや、違う!!それより遙かに遠くだ!!ベルリンの西………シュパンダウ区からの砲撃と思われる!!」

(=;゚ω゚)ノ《シュパンダウ区………》

ξ;゚听)ξ「冗談でしょ?それってつまり───」

《前線各位、此方Prinz Eugen!!西部街区から“艦影”が急速に接近!!

敵艦数は6、全て“ヒト型”です!!》

プリンツの絶叫に近い報告が、俺達の鼻先に改めて“絶望”を突きつける。

《おそらく中核艦隊の構成艦と思われます、後数十秒で接敵───何よこれ、あいつらどこでこんなものを………》

混乱の極みに達したプリンツの無線越しの声は、途中で遮られて聞こえなくなった。

その方角から聞こえるはずのない、複数の“エンジン”が奏でる駆動音と。

艦砲射撃による、轟音で。
334 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/09(金) 03:42:46.13 ID:89CTCDsC0
( A ;)「…………っっっ!!」

まるで、思い切り頭を殴りつけられたような衝撃。

僅か数メートル背後で巻き起こった大爆発が発する熱と音量、そして閃光が五感を麻痺させ一瞬俺の意識を現実から切り離す。

飛びかけた意識を繋ぎ止めたのは、皮肉にも火達磨で落下してきたPT-91【トファルデ】が地面に叩きつけられる二度目の轟音だった。

('A`;)「……クソッ、被害報こk」

俺の隣で、「ぐしゃっ」というトマトが潰れたような生々しい音が鳴る。

首から上がぐちゃぐちゃのグロテスクな肉塊に変わったベーデカー軍曹の胴体をそのまま踏みつぶして、騒々しいガスの排気音をまき散らしながら一台のドデカイバイクが飛び込んできた様が、まるでスローモーションのように俺の視界に映し出された。

どう考えても正規品ではない、例えばアーノルド=シュワルツェネッガーやジェイソン=ステイサムが乗っている方が様になる化け物じみたデカさのソレが、そのまま100Mほど前進した後ドリフトしながら俺達が展開するT字路の丁度真ん中辺りで停車する。

『〜〜〜♪』

バイクに跨がっていた黒髪の女は、鼻歌交じりに右腕を近くのビルに向けた。

( ゚ t ゚ ;)「──────!!!?」

「艤装」が、腕周りに展開される。

「────重巡リ

主砲を向けられたドイツ兵の最後の叫びは、砲撃に飲み込まれ掻き消えた。
335 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/09(金) 03:44:02.84 ID:89CTCDsC0
どうにかこうにか目標の場面まで……ようやく本当に「あと少し」のところまでたどり着きました。

今更新ここまで、今しばらくお付き合いいただければ幸いです
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/09(金) 08:01:22.11 ID:nW807Z8s0
とうとう名有りに死者が…
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/09(金) 10:05:50.38 ID:tRvaf8uA0
乙です!
希望を鼻先にちらつかせつつ粉砕しにくる鬼畜と、それを予見しきれる主人公なんだから本当に凄い(なお実力差
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/09(金) 12:44:23.72 ID:eRVENTReo
もうだめだあ…おしまいだあ…
339 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/09(金) 23:29:07.46 ID:89CTCDsC0
体調不良に付き更新お休みと致します。申し訳ございません。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 17:05:31.73 ID:uN7VJoLPO
ヴィルヘルム2世「大儀である。ゆっくり休んでくれたまへ」
341 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/10(土) 23:33:20.01 ID:Ha2dbAED0
素人目にも違法な改造がたっぷり施されていると解る、派手な塗装に規格外の図体を持った世紀末仕様のバイク。

その上からひらりと舞い降りて傍に立ったソイツの────リ級eliteの紅い二つの瞳が俺を真正面から見据えた。

(;'A`)

『────』

視線が交わったのは、刹那。瞬き一度分の間にすらならない。

当然言葉など発せられていないし、発していたとしてそれが意思疎通を可能とする「音」にするには時間が足りない。そもそも、奴らが人語を俺達に解る形で実際に喋ることが出来るのかも甚だ疑問だ。

だが、俺はその時、奴の感情を確かに「聞いた」。

奴の言葉を確かに「感じた」。












サァ、私ト遊ボウ。
.
342 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/10(土) 23:42:17.62 ID:Ha2dbAED0
(;'A`)「全歩兵隊、目標を重巡リ級eliteに変更しろ!!」

ざわりと肌が粟立ち、背中に先程の何十倍も強い寒気が走る。ほとんど反射的に叫びつつ、G36Cを俺自身もリ級eliteに向ける。

(;'A`)「戦車隊への攻撃を絶対に許すな!倒せなくてもいい、とにかく攻撃を集中して足だけでも止めろ!!」

「「「Jawohl!!」」」

当然歩兵の携行火器などどれだけ寄せ集めても効果が無いとは解っているが、撃たずにはいられない。指示を出さずにはいられない。

一応言葉にしたとおり、ツン達装甲車隊を破壊させないという理由もあるにはある。残りたった2隻とはいえ前段艦隊は全滅には至っていない。ここで戦車を潰されてホ級達の雪崩れ込みまで受ければ、俺達の区画は全滅も十分視野に入る。最低限正面の敵艦隊を完全に沈黙させるまでは、別働隊との連携を維持して戦車隊に働いて貰う必要がある。

それでなくても向こうが撃ってくるのは重巡の主砲撃だ。密集した状態で直撃を受ければ、それだけでも損害は甚大になる。

だが、そう言った理屈や理論は全て建前に過ぎない。

割合として最も大きく、かつ単純な理由は、恐怖。

奴の感情を知ることで唐突にわき出た恐怖と嫌悪が、俺を攻撃に突き動かした。

(;'A`)「────Feuer!!」

全身に靄のように纏わり付く恐怖を振り払おうとするように、俺は声を限りに叫ぶ。

幾十の砲撃が、幾百の銃撃が、全方位から“化け物”に殺到する。
343 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/10(土) 23:52:14.01 ID:Ha2dbAED0
『……………』

仮に非ヒト型であればflagshipですら一息に沈められそうな、まさに“弾幕はパワー”を地で行く猛射撃。

息を継ぐ間すらなく注ぎ込まれる弾丸の群れが自身を守る障壁の上で弾けて火花を散らす様を、リ級eliteは腰に手を当てて立ち尽くしながら見つめている。

………ツンがル級と遭遇した際には、ミルナ中尉等歩兵隊の攻撃もダメージを与えた様子は無いもののル級の動きを封じる役には立っていたという。eliteとはいえあくまで重巡、耐久力や装甲値、馬力などは戦艦に劣るはずだ。

それらを考慮すれば、「重巡リ級eliteは俺達の猛攻に動きを縫い止められている」というのが本来導き出される自然な結論。

だが、銃火と爆光の合間から見える奴の視線がそれを真っ向から否定した。

『…………?』

(;'A`)(………あの時と同じだ、おちょくってやがる!)

タホ川で俺達の攻撃をわざわざスレスレで回避しながら見せた、戯ける子供のような表情。小首を傾げ、もう片方の手をこめかみに当て、此方の動きを観察しているような視線の動き。

弾幕の中で相変わらず立ち続ける姿は街角でくつろぐティーンエイジャーのようで、少なくともアレを「凄まじい攻撃の圧力のせいで動けない」状態に見えたとしたら俺は精神異常者だ。

薄ら笑いと共に細められた眼が、口より遙かに雄弁に奴の「言葉」を物語る。

マサカ、コレデ終ワリジャナイダロウネ?

モウ少シ、オモシロイモノ見セテヨ。

('A`)「………なら、お望み通りにあっと驚かしてやるよ」
344 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 00:30:59.49 ID:JslRmT7e0
小銃の銃口を心持ち奴の眼の辺りに持っていきながら、一瞬近くにいた海兵隊の一人にハンドサインを送る。彼は即座に頷くと、さりげなく別の射撃を行っている兵士の影に隠れて腰に手をやり何かを取り外した。

ツンがル級と交戦した際に、“それ”は非常に大きな効果を発揮したという。考えてみれば当たり前のことだが、ヒト型の障壁は閃光や音といったものまで完全にシャットアウトしてくれるわけではないらしい。

別に、必ずしも攻撃だけが方法ではない。強烈な光と予期せぬ大音響は、時として銃口を突きつけるよりもよほど確実に敵の動きを止めてくれる。

「Flash Ban!!」

叫び声と共に投げられる閃光弾。正確なコントロールで飛ばされたそれは、ノーバウンドでリ級の足下まで到達する。

『────♪』

(;゚A゚)「………はっ!?」

かつん、かつんと、二回乾いた音がした。

地面を閃光弾が撥ねた音ではない。それは、リ級eliteがまるでブンデスリーガのような鮮やかな足捌きで閃光弾をトスし、そのまま背後に蹴り上げた音。

( ゜ t ゜ ;)「────!!?」

低いライナー性の弾道で更に飛距離を伸ばした閃光弾は、リ級eliteを背後から攻撃していた部隊────カルリナ達ポーランド兵とドイツ軍の混成部隊が敷く隊列の真っ只中で炸裂した。

(   t   ;)「……………ッッッ!!!」

「※※※※!?」

「※※※……※※……」

「な、何が………」

「クソッ、おいしっかりしろ!敵はまだ健在だぞ!!」

フラッシュと、殺傷力はほとんど無い爆発音が連なり鳴り響く。200メートル以上離れた此方にはほとんど影響がないが、問題は信じがたい奇襲でこれを至近距離から諸に受けたカルリナ達だ。

凡そ70名ほどの部隊は、前衛の約半数は完全に機能が停止していた。耳を抑えながら蹲るなどして咄嗟に回避したり閃光弾の効果が十分に行き届かない位置取りだった残りの半数も、味方の介抱や戦列の組み直しに追われて完全に攻撃の手が止まった。

途端、リ級が動く。
345 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 01:11:23.76 ID:JslRmT7e0
undefined
346 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 01:17:50.92 ID:JslRmT7e0
『─────!!!』

(;゚A゚)「伏せろ!!」

(;//‰ ゚)「Shit!!」

ξ;><)ξそ「きゃああ!?」

「※※※ッ!!?」

両手の艤装が同時に唸り、俺達と奴の右側面から攻撃をかけていた部隊に機銃掃射が襲いかかる。直ぐ後ろでホ級達への攻撃を継続していた戦車三両の装甲にも弾丸が降り注ぎ、レオパルト2A4の車上でポーランド兵が一人後頭部を撃ち抜かれてハッチの中に崩れ落ちた。

『─────!』

(;<●><●>)「リ級、後衛部隊に突貫!!」

珍しく動揺が露わになったティーマスの声を尻目に、少し芝居がかった動きでバイクを飛び越えながら疾走。砲撃する素振りは一切見せず、カルリナ達めがけて疾走していく。

「………なっ!?り、リ級接きn」

「総員白兵用i」

最初に気づいたドイツ兵二人が、進路を塞ごうと飛び出す。

振りかぶられる拳。生々しい破砕音と共に一人の頭がはじけ飛び、もう一人は動きの延長で繰り出された回し蹴りに四肢を飛散させながら胴体だけがビルの壁に叩きつけられた。

『───!!』

「く、来るな!!来るなぁ!!!?」

「※※※※※※※※!!!!」

何人かの後衛兵が半狂乱で小銃弾をばらまくが、当然そんなもの微塵の効果もない。

「ひっ」

『ッ!!』

上から抑え付けるようにして右手を振り下ろし、最前列にいた小太りの兵士が短い悲鳴を残して上からぐしゃりと潰される。

元は人間だった赤い肉塊を踏み越えて、リ級eliteは文字通り後衛部隊に“殴り込ん”だ。

(;*゚∀゚)「おいドク撃とうぜ!このままだと後衛が全滅だ、効かなくても気ぐらい引かねえと!!」

(;'A`)「バカか、あの乱戦状態にぶっ放したらいくら何でも味方撃ちは避けられねえぞ!!」

とはいえ、待っていたところで状況はどのみち悪化の一途だ。あの弾幕が動きの抑制効果すら得られていなかった以上どのみち限りなく絶望的であるにしろ、座して全滅を待ってやれるほど此方は潔い人間性ではない。

それに、同僚だけではなく核をぶっ放されるかもしれない国に外から増援に来てくれた奴らも“遊ばれて”いるのを見殺しにできるほど、【有能な軍人】でもない。

(#'A`)「ツン!戦車の稼働状況とホ級共の状態を!」

ξ;゚听)ξ「別働隊は全車両健在、私達も損失はさっき破壊されたトファルデのみ!機銃手が一人やられたけど継戦には問題ないわ!」

(#'A`)「引き続き前段艦隊への攻撃を続行、それと後続の“バイク”に気をつけろ!!

────総員、目標重巡リ級elite!

Los Los Los!!」
347 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/11(日) 01:19:09.37 ID:JslRmT7e0
今更新ここまで。今月中頃には終わるかなといったところです。
ご静聴ありがとうございます
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 01:46:24.19 ID:AeQid7eA0
おつです
流石に蹂躙されるが、ここまで破天荒な敵相手じゃ最大戦力でなんとか凌ぎつつ、更に何らかの有効打を…まじで無理ゲーだなw
349 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:32:45.29 ID:JslRmT7e0
幾らかの随伴歩兵を戦車隊の周りに残して、響く砲声を背に後衛に向かって走る。

( ’ t ’ ;)「※※※、※※!!」

『………』

リ級は、更に前へ。何とかフラッシュバンの衝撃から立ち直ったカルリナ達が至近距離から弾幕を浴びせるが、それをものともせずに踏み込むと、低い姿勢から拳を固めて振り上げた。

「プヘッ」

ブチュリ。筋繊維と血管がまとめて引きちぎられる音がここまで聞こえてきて、拳を受けたポーランド兵の首が千切れて天に舞い上がる。

「お゛ぁっ!?」

やけくそに近い形で別方向から飛びかかった兵士の腹には、肘打ちが(まさしく)突き刺さった。血と内蔵が破れた肉の隙間からぼたぼたとこぼれ落ち、奴の腕を伝って足下に生臭い水溜まりができる。

(#'A`)「狙え、撃て!!」

( <●><●>)「Allemann sperrfeuer!!」

リ級が乗ってきたバイクを踏み越え蹴倒しつつ、暴れくるうリ級に背後から肉薄。残り50メートル程まで詰めたところで、俺とティーマスを含めた20人ばかりがリ級への射撃を再開した。

『─────』

「Oh !?」

リ級の反応は早かった。首無しポーランド兵の肩の辺りを鷲掴みにし、振り向き様に俺達の方へ投げつける。

全盛期ボリス=ベッカーの全力サーブを彷彿とさせる勢いでそれは飛来した。俺達に後続してきた海兵隊の一人に屍体の砲弾が直撃し、彼は低い呻き声と共に吹き飛ばされた。

『♪』

(*;゚∀゚)「来たぞおい!!」

(;'A`)「畜生が!!」

(;<●><●>)「っ」

そのまま、タックルをかますレスリング選手のような姿勢で突進してくるリ級elite。当然銃弾で止められる筈はなかったので、隣のティーマスを咄嗟に蹴り飛ばしつつ自身も真横に転がる。

俺とティーマスが直前まで立っていた場所に叩き込まれる拳。殴られた箇所を中心に、およそ1メートル四方の地面がひび割れ陥没した。
350 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:43:12.49 ID:JslRmT7e0
undefined
351 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:51:15.43 ID:JslRmT7e0
(;'A`)「【Astro Boy】かっての!!」

直ぐに地面から飛び起きてもう一度リ級に射撃を加えつつ頭を過ぎったのは、ガキの頃にちらりと目にした日本の古いアニメーション。そのアニメの主人公である少年型の高性能ロボットは、テレビ画面の中で10万馬力のパワーを振るい悪役達を次々とぺしゃんこにしていたのを覚えている。

ただし、世界的に有名なコミック・アーティストが生み出したそのロボットは正義の味方であり、決して人間に拳を振りかぶることはない。

『────♪♪♪』

…………それに俺の記憶が正しければ、悪役をぶちのめすときにしてもこれほど獰猛で凶悪な笑みを浮かべて武力を行使してはいなかったはずだ。

『────!!!』

(;'A`)「っ………ぐぁっ!?」

ほとんど零距離射撃だったはずだがやはり微塵も影響はない。拳を地面から引き抜くや否や飛びかかってきたリ級は、今度はぐるりと体を捻り回し蹴りをかましてくる。

身をかがめて躱すが、風圧だけでも首がもぎ取られるのでは無いかというほど凄まじい衝撃が走る。堪えきれず、そのままごろごろと数メートルにわたって水浸しの路上を転がる。

「※※※※!!」

『────』

俺が離れた隙を突いて、ポーランド軍のハンヴィーが機銃掃射をかける。が、リ級は其方を見向きすらせずに艤装だけ構え、砲撃。火柱が上がり、銃声が止まった。

「少尉、離脱を……がっ!?」

「Ah………」

今度は海兵隊とドイツ兵が数人ずつ、両側から挟み込むように展開して牽制射撃。リ級は両腕の機銃を同時に放って彼らをなぎ倒しながら、なおも俺を追撃する。

( A ;)「うぁっ────!?」

『〜〜♪』

ようやく起き上がりかけていた俺に、奴の拳が迫る。咄嗟に横に転がって直撃こそ免れたが、先程より遙かに近くで感じた拳圧は爆風のそれと大差が無い。

゚∴・( A ;)「ゴアハッ……!」

衝撃で再び身体が浮遊し、叩きつけられた場所はさっき俺が蹴倒した奴のバイク。呼吸が止まり、背中と脇腹の辺りでビキリといやな音がした。

ξ;゚听)ξ「ドク!!!」

(;<●><●>)「少尉!!」

ティーマスとツンの叫び声に続いて、四方でアサルトライフルや機関銃の乾いた発射音が重なる。幾十の銃火が障壁上で爆ぜるが、それらを意に介す素振りすら見せずリ級は満面の笑みを浮かべながらゆっくりと俺に向かって歩いてくる。
352 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:55:22.94 ID:JslRmT7e0

『〜〜〜〜♪』

(; A )「………」

バイクの上で仰向けになったまま、銃声に混じって朦朧となっている意識に微かに聞こえるリズム。

それは、確かにリ級の歩みに従って近づいてきている。

(;'A )「……鼻歌なんぞ歌いやがって」

明確に奴の「声」だと決まったわけではないし、仮にリ級が音の主だとしてもそれがどこから出されたものかも解らない。更にいえば、例えばその音が他の深海棲艦への通信波のようなものである可能性も捨てきれない。

だが、なんとなく俺は確信していた。その独特のリズムで奏でられるなんとも形容しがたい不可思議な音は、間違いなくリ級eliteの発する“鼻歌”だ。

(;'A )「……っ」

たいそう上機嫌で近づいてくるリ級eliteから逃れようと、僅かに自由が利く手で下のバイクを押して身体を動かそうとする。酷く緩慢な動作で数ミリずつずれていく俺の様子を見て、奴の笑みが一段深くなった気がした。

(#<●><●>)「───────ぁああああああああああああっ!!!!!」

(;'A`)そ「はっ!?」

『!?』

悠然と歩み寄るリ級に、雄叫びと共に“人影”が衝突した。姿勢を低くして突っ込んできたティーマスが、弾丸のような勢いでリ級eliteの腰辺りに組み付いた。

華奢とはいえ軍人として鍛えた成人一人分の全力の体当たり。流石に転倒したりはなかったものの、リ級eliteの身体が一瞬衝撃で揺れて歩行が止まる。

(#<●><●>)「ツーさん!!」

(*#゚∀゚)「あらほらさっさー!!」

(;'A`)「おおお!?」

ぐいっと肩口が引っ張られ、“自称美人女性兵”が俺の身体をバイクから引きずり下ろしそのまま物陰へ一直線に引っ張っていく。

ちょ待て待て待て待て背中摩ってるいでででででで!!!!
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2017/06/12(月) 00:04:11.01 ID:UBy2Bc3A0
辛抱汁!
背中と命のどっちが大事?

つか生き残ったら絶対ツンが看病に来る。
いやモテ期が来る。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:08:02.84 ID:1ns2sOJzo
ドクはもててるだろ、リ級ちゃんに
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:09:47.18 ID:QEHwxYjyo
レっきゅんがまだ来ていないという幸運
356 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:11:39.08 ID:UzMXyL4n0
『────!!!』

(;< >< >)「カハッ……!」

(;'A`)「ティーマス!!」

リ級は忌々しげに纏わり付いてくるティーマスを睨んだ後、その手をふりほどいた後軍服を掴んで放り投げる。一瞬脳裏を過ぎった強烈な違和感は、正体を追求する前にその光景によって消し飛んだ。

派手な音を立ててティーマスの身体が瓦礫に叩きつけられた。リ級の姿勢が十分に立て直されていなかったこともあり勢いは今までに比べて弱いが、それでも負った傷が小さいとは思えない。

(;'A`)「ツー放せ!ティーマスを……!」

(*#゚∀゚)「その身体で相棒を心配できる心意気は買うけどじっとしてなお馬鹿さん!あんたその身体で何する気だよ!!」

『───……!!?』

俺を怒鳴りつけつつ、なおも一人で引きずっていくツー。追おうとしたリ級の足下に、フラッシュバンが一発投げ込まれる。

『ッッッッ!!!!』

(#//‰ ゚)「Shoot, Shoot!!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

今度はしっかりと至近距離で炸裂した閃光と爆音。仰け反るリ級に向けてサイ大尉指揮下の海兵隊が弾幕を張り、完全に態勢を立て直したカルリナ達も射撃に加わった。

リ級の足が止まる間に、俺はツーによって再び戦車隊の近くまで来て崩れ落ちた建物の影に引き込まれる。

(*;゚∀゚)「ぷぇー…あっぶね!」

ξ;゚听)ξ「ドク、ドク!!ねぇ、ドクは無事なの!?」

(*゚∀゚)「安心しねぇフロイライン!我らが少尉殿は生きてるよ!」

ξ; )ξ「………っ!別に心配してないけど、心配かけないでよバカ!!」

('A`;)「どっちだよ……」

ツッコミつつも、視界の端でティーマスも海兵隊に回収されていたことに僅かに安堵の息が漏れた。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:20:12.83 ID:QEHwxYjyo
ドクオとティーマスをミンチにしないんだな
358 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:32:11.73 ID:UzMXyL4n0
『ォオオオオオオ………』

俺が救出されてからほとんど間を置かず、戦車隊の向こう側で上がった呻き声。地面に重い何かが倒れ込み、レオパルト2A4の戦車兵が拙い発音の英語で「エネミーだうん!!」と叫んだ。

('A`)「ツン!!前段艦隊の状況は!?」

ξ;゚听)ξ「今し方ホ級eliteが完全に沈黙したわ!ロ級は既に倒してあるから、これで私達の正面は完全に殲滅よ!

……ってかあんたね」
??_,
(*゚∀゚)「今し方大ダメージ食らって運び込まれたのにもう戦況の確認とは恐れ入ったね。佐官になったらあたしの昇進もついでに頼むよ」

('A`;)「冗談抜かせ、これ以上階級上がったら面倒くさくて仕方ねえだろうが」

……ツンやツー以外に、随伴していたポーランド軍や海兵隊、連邦共和国の同胞諸君からまでじとっとした視線が突き刺さった。その目つきやめてイタイイタイ、ついでにいうと肋も痛い。

('A`;)「あー……ツー、リ級の様子は?」

(;*゚∀゚)「とりあえずサイ大尉達とカルリナ准尉達が止めてくれてるけど、あんなんだから直ぐに立ち直るだろうし………うぉおおおっ!!?」

『…………ッ!!!』

数十人分のアサルトライフルを束にしてもかなわない、凄まじい銃撃音が区画に鳴り響く。更に間髪を入れず、上空から飛来した対戦車ミサイルが数発連続してリ級の障壁に着弾し爆炎をまき散らす。

「Air sport incoming!!」

先程敵艦隊に追い散らされた編隊の生き残りなのか、或いは新手なのかは判別が着かない。とにかく上空に三度現れたMi-24ヘリが、リ級に向けて猛然と攻撃を開始した。
359 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:56:18.04 ID:UzMXyL4n0
「友軍機対地掃射、リ級eliteに全弾集中!!」

「リ級elite動きません!攻撃を受け続けています!!」

「やれやれやっちまえ!そのままぶっ殺せ!!」

戦車隊に随伴していた面々はやんやの歓声を上げ、その声援に応えるようにMi-24による空襲は一段と激しさを増した。ロケット弾とミサイルの雨にチェーンガンの猛射も加わり、リ級の障壁上から爆光が途切れる様子はない。

先程は奇襲砲火によって一方的に撃墜されたが、本来戦闘ヘリの火力は“ヒト型”にとってもある程度高い脅威度を誇る。少なくともこうも一方的に受け続けていいものではないはずで、俺達陸の人間をわざわざ格闘戦でいたぶるのとはワケが違う。

そのため、艤装による反撃の素振りも見せず攻撃を受け身動きをしないリ級の姿は、確かに周りから見れば“攻撃すらできない”ように見えるのだろう。

────だが俺は、遠目にもかかわらず奴の「眼」に気づいてしまった。

苦痛というよりは不機嫌…………例えるなら最高に楽しい遊びを邪魔された子供のような、幼くも獰猛で残忍な光を宿した「眼」が。

(;'A`)「………逃げろ!!逃げろ!!」

『───────!!!』

聞こえないと解っていても、声を限りに叫ぶ。同時にリ級は、おもむろに足下から何かを持ち上げそれをMi-24めがけて無造作に投げ上げた。

グシャリ─────その音は、Mi-24のコックピットが叩きつけられた大型バイクによって潰されたことによって発せられたもの。

(*;゚∀゚)「…冗談じゃねえぞ!!!」

('A`;)「逃げろ!!退避、退避!!」

ξ;゚听)ξ「戦車隊全速前進!!」

コントロールを失ったMi-24【ハインド】が、激しく回転しながら此方に向かって墜落してきた。ほとんど反射的に痛む身体を堪えて立ち上がり、物陰から飛び出して疾走する。

「※※※※!!?」

先程ホ級の撃破を報告した兵士の乗るレオパルト2A4のスタートが、計器のトラブルか動き出しが遅れる。

「〜〜〜〜〜〜っ」

無情にもその車両に向かって、Mi-24は堕ちていき────




  _
(#゚∀゚)「Leberecht!!」

「Jawohl!! Feuer!!」

12.7cm連装砲の砲撃によって、衝突の直前に空中で爆散した。
360 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/12(月) 00:59:43.14 ID:UzMXyL4n0
さわりまで行きたい(行けるとはいってない)

本日ここまでです、いつもとほとんど変わらない長さになってしまい申し訳ありません。いい加減れっきゅんや軽巡棲姫出さないと……
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:03:21.16 ID:QEHwxYjyo
おつー
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:05:27.60 ID:GQxHb/Alo
おつです
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:08:48.93 ID:fwG2UFekO
364 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:01:24.29 ID:qoUzhAK/0
「続けて撃ちます!! Feuer!!」

『………!』

更に二回、右手に構えられたレーベレヒトの連装砲が火を噴いた。今度の砲弾は立て続けにリ級に着弾し、障壁がチカチカと明滅する。

駆逐艦とはいえ艦娘の攻撃。流石に勝手が違うようで、僅かだが明確な“焦り”の色を浮かべて奴はレーベレヒト達から距離を取った。

『────!!』

「わっ!?」

リ級の艤装が起動し、反撃の砲火。横っ飛びで躱したレーベレヒトの背後で、既に半壊状態だったビルが直撃弾によって消滅する。

戦車や護衛艦でもほぼ一撃で粉砕される通常兵器より遙かにマシとはいえ、艦種がもたらす火力差はあまりにも大きい。まともに食らえば一発で中大破の大打撃を被る可能性も十分だ。

('A`#)「ツン、戦車隊全車両の火力をリ級に集中!効かなくてもいいから機銃もぶち込め、とにかく奴への攻撃を絶やすな!」

ξ#゚听)ξ「解った────Feuer!!」

『……ッ』

反転を終えたツン達を含め、7両の戦車隊による砲撃。レーベレヒトの存在にリ級が気を取られていたことも有り、この内五発が甲高い金属音を立ててリ級に命中した。

『────』

《うわっ!?》

反撃の砲火は狙いを急に変えたせいか照準が定まっておらず、頭上を飛び越えて数キロ先で炸裂する。乗り捨てられた自動車でも巻き込まれたのか、何か大きな鉄の塊が地面に叩きつけられたような音がここまで届く。

「Feuer!!」

『ッッッ!!?』

すかさず、態勢を立て直したレーベレヒトが全ての艤装を稼働させ一斉射をリ級に浴びせかける。

真正面から斉射を受けたリ級の身体が衝撃で僅かに浮き上がり、艤装と障壁からバチバチと火花が飛んだ。
365 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:06:04.64 ID:qoUzhAK/0
undefined
366 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:10:30.10 ID:qoUzhAK/0
  _
(#゚∀゚)「クソッタレ、【ハインド】が堕とされたのが痛ぇ!

レーベは戦車隊と連携してリ級に攻撃続行、俺も援護に回る!ビロード、負傷者の救援と残存兵力の回収を急げ!!」

「解った!」

(;><)「了解なんです!!」
  _
(#゚∀゚)「Allemann vorwarts!」

「「「Jawohl!!」」」

ポーランド軍と合流する形で進み出てきたジョルジュの部隊が、半円形の隊列でリ級を包囲して弾幕射撃に移行する。携行砲や手榴弾も総動員しての猛攻だが、今度はここにレーベレヒトの“軍艦の火力”と戦車砲の砲撃が加わっている。

『グゥッ…………!』

膨大な至近弾が巻き上げる泥に視界を遮られ、全方位から襲い来る火線の爆圧に動きを封じられるリ級。轟音渦巻く中で微かに漏らされた奴の苦悶の声を、俺は確かに耳にした。

(*゚∀゚)「おっほー、艦娘の到着かよ!」

戦車隊の砲撃音にさえ負けない歓声を張り上げながら、横でツーが嬉しそうに手を叩く。

(*゚∀゚)「温存してたZ1達を出してきたってことは、いよいよこっちの反攻ってことか!?こっからがーーーっと向こうの大将首を取りに行くんだろ!?な、そうだろドク!?」

('A`;)「お前のいうとおりだったらさぞや素敵なんだがな……!」

さっきの今でその考えにたどり着けるお気楽思考は羨ましい限りだが、プリンツの報告によれば突入してきた敵艦隊は全てヒト型───つまり基本的には重巡洋艦以上の艦種になる。

軽巡と駆逐しか居なかった前段艦隊との攻防でもあれだけ青息吐息だったのに、通常兵器のみで食い止めきれるわけがない。このリ級eliteのように敵艦隊が全て“遊び”に走ったとしても、もって10分あるかないかといったところだろう。

即ち前線へレーベレヒトが突入したのは、温存する“必要”がなくなったからではなく“余裕”がなくなったからと考える方が遙かに自然だ。

それでも僅かにツーの予想通りにならないかと叶わぬ思いを抱きつつ、イヨウ中佐に無線を繋げる。

(;'A`)「前線よりCP、Z1 レーベレヒト=マース並びに増援部隊と合流を完了した!以後の指示を請う!」

(=;゚ω゚)ノ《CPより前線、無事で何よりだよぅ!早速、合流した部隊と交戦中のヒト型を牽制しつつ速やかに後退を開始してくれよぅ!》

果たして帰ってきた返事は、予想を最悪の形で裏付けた。

(=;゚ω゚)ノ《君達以外の前線部隊は壊滅、敵中核艦隊はシュプレー川を渡河したよう!

トレプトゥ=ケーペニックとパンコウで遅滞戦を展開してるけど、戦況は圧倒的に不利だよぅ!》
367 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:23:21.68 ID:qoUzhAK/0
(;'A`)「……前線よりCP、侵入した敵艦隊の概要を教えてくれ」

(=;゚ω゚)ノ《右翼、パンコウ区防衛線正面にリ級通常型2、ル級flagship1、タ級flagship1!

また左翼トレプトゥ=ケーペニック防衛線正面に、敵艦影1!》

(;'A`)「1……?」

中央の俺達と交戦するこのリ級もそうだが、あまりに戦力が偏りすぎている。無論ヒト型である以上一隻でも通常兵器相手には十分だろうが、それなりの損耗は強いられるはずだ。

(=;゚ω゚)ノ《………左翼の一隻は、過去に世界中のどの戦線でも確認されていない新型艦だよぅ》

俺の疑問を敏感に感じ取って、中佐は直ぐに補足を入れる。

(=;゚ω゚)ノ《詳細は一切不明だよぅ。身長は此方のZ1やZ3と同じ程度という点と、艤装が巨大な尾のような形をしているという点以外交戦している部隊の混乱が酷くて入ってこない。

コンツィ中尉が戦線の指揮を執っているけれど、左翼の損害拡大は右翼の何倍も早い。ポーランドから派遣されてくる陸軍部隊もピストン投入しているけれど、まるで止められる気配がないよぅ》

(ノA`)「………」

あまりにも絶望的な情報ばかりを突きつけられて、急速に痛み始めた頭を抑える。

例え新型艦であったとしても、ミルナ中尉の経験と指揮能力なら本来十分に対応ができるはずだ。少なくとも、損害を最小限に抑えつつの漸減戦闘程度はわけなくこなせる力があの人にはある。

それが適わぬほどの戦況ということは、“新型”とやらが尋常ではない、まさに規格外の戦闘能力を持っていることの証左。

('A`)「………………」

(*;゚∀゚)「………ドク?どうしたきめー顔して」

('A`)「元からだよ。というかせめて恐い顔にしてくんない?」

同時に、もう一つ気づきざるを得ない事実がある。敵艦隊にそこまで押し込まれているのなら、レーベレヒトだけではなく最早ビスマルクやグラーフも温存する余裕はないはずだ。にもかかわらず、両翼に展開するのはポーランドとドイツの陸軍部隊のみ。

つまりこれは、“艦娘が受ける損害”を最小限に抑えるためのいわば時間稼ぎ。

対深海棲艦兵器として最も有用な存在を確実に逃がすための、“必要な出血”。

('A`)「………ビスマルクとグラーフは、よく納得しましたね」

(=゚ω゚)ノ《……………君ほどの力を持つ尉官と戦えたことを、僕は誇りに思うよぅ》

ベルリン放棄の、下準備。
368 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 01:04:13.55 ID:qoUzhAK/0
戦車砲と艦砲射撃の音、銃声が壮絶に混ざりあい辺りを満たす。だが、俺の耳にはそれらの騒音より遙かに重く、大きく、イヨウ中佐の淡々とした語りが響く。

(=゚ω゚)ノ《言いたくないけれど、最早大勢は決したよぅ。ベルリン放棄と聞いてGraf ZeppelinはともかくBismarckは烈火の如く怒っていたけれど、彼女にも戦況の詳細を話してなんとか納得して貰ったよぅ……まさか戦艦がバイクで乗り込んでくるなんて、ヴァルハラへの土産話には丁度いいよぅ》

中佐はそう言って、自嘲気味に乾いた笑い声を上げた。

(=゚ω゚)ノ《艦娘の回収手配は完了している。ポーランド陸軍にオーデル川での防衛線へ一時的に参加させることを条件として艦娘の移送を手伝わせるようにした。君達の後退が完了次第、遅滞部隊も順次退却を開始する。

とはいえさっきも言ったとおり遅滞部隊は到底長くは持たない、そっちもリ級eliteの存在がある以上難しいとは思うけれど、何とか退却して欲しいよぅ》

('A`)「………その口ぶりですと、どうも中佐は脱出するつもりがないようですが」

(=゚ω゚)ノ《無謀な作戦でたくさんの兵士を死なせた責任は僕自身が取らなきゃ行けないよぅ。

それにこう見えて僕は日本通でね。カツナガ=モウリというサムライが大好きなんだよぅ》

学のない俺にはまるで馴染みのない名前だが、口ぶりから“どんなことをした人間か”は概ね想像がつく。

黙り込んだ俺に、中佐は更に言葉を重ねた。

(=゚ω゚)ノ《これは命令だよぅ少尉。

────そして、これが現段階で可能な次善の手だ》

('A`)「っ」

そうだ。そんなことは言われなくても解っている。

中核艦隊に奥深くまで食い破られたことによって、“軽巡棲姫のみに艦娘の全火力を集中する”という【最善の手】は最早打てない。

軽巡棲姫の撃沈が限りなく不可能に近い状態になった今、俺達がベルリンでこれ以上交戦することはほとんど無意味。次に為すべきことは、Bismarck zweiを初めとする貴重な戦力を可能な限り温存して逃げ延びること。

そして、退却の態勢が整うまでの遅滞部隊の犠牲も、艦娘という“貴重な戦力”を確実に逃がすために囮となるイヨウ中佐の犠牲も、この戦争に少しでも希望を残すための必要経費だと。

そんなことは、俺にだって解っている。
369 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 01:14:41.54 ID:qoUzhAK/0
('A`)「────ツン」

ξ;゚听)ξ「何よ!リ級の奴ならすこしずつダメージは蓄積してるけど」

('A`)「退却の指揮は任せた」

ξ;゚听)ξ「あーもう!解っt………」

でも、解っていることだからこそ。

ξ゚听)ξ「………は?」

(*;゚∀゚)「………あー、ドク?お前何するつもりなんだ?」

('A`)「あぁ、別に何って程のことじゃない」








('A`)「ちょっとした悪あがきだ」

それが心底、気にくわないんだよ。
370 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/15(木) 01:20:45.98 ID:qoUzhAK/0
今更新ここまでです
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 02:06:18.74 ID:mVbCGBT3o
おつ
状況は最悪、だけど
いいねいいね、ここにきて無理で道理を押し通そうとするドクオは格好いいね
372 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 22:32:35.86 ID:3i1wtBQb0
脇腹の鈍い痛みを堪え、レオパルト1の影から飛び出す。包囲下でリ級への攻撃を続ける兵士達の後ろを駈け抜けて、一直線に向かった先はロ級の砲撃で吹き飛ばされた輸送トラックの傍。

(;//‰ ゚)「ドク!?」

(=;゚ω゚)ノ《少尉!一刻も早く退却を開始しろ、聞いているのかよぅ!?》

ξ;゚听)ξ「あんたいったい何する気なの!?ドク、ちょっ……止まりなさいよぉ!!」

無線や後ろから聞こえる声を完全に無視して、俺はトラックの脇に倒れている目的の物────カルリナ達が乗ってきていた、軍用バイクを引き起こす。

(;'A`)「………」

他の三台は砲撃に巻き込まれたのか滅茶苦茶に壊れており、まともに原形を保っているのはこの一台だけだ。そしてこの一台だって、外観に傷がないだけで内部回路や機関も無事とは限らない。

祈るような気持ちでエンジンを捻る。

(;'A`)

(;'∀`)

ドルンッと音が鳴り、排気口が煙を吹き出す。

揺れる車体に薄らと刻まれた、「KAWASAKI」の文字。俺は苦笑いを浮かべて8文字のアルファベットを眺めた。

(;'∀`)「っはは……流石だなものつくり大国は……!」

これで、逃げられなくなった。

逃げる必要が、無くなった。
373 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 22:48:05.21 ID:3i1wtBQb0
('A`)「……中佐」

(=#゚ω゚)ノ《マントイフェル少尉、繰り返すが命令だ!!速やかに部隊を纏めて帰還を───》

('A`)「30分だけ時間を下さい。

30分過ぎて敵艦隊に変化がなければ、“中佐の指揮で”オーデル川まで退却を」

(=;゚ω゚)ノ《………っ!》

バイクに跨がり、エンジンの回転数を上げながら空を見上げる。もう数え切れないほどの反復攻撃を続けているF-16の編隊が、バルカンを放ちながら通り過ぎた。

('A`)「………マンドクセ」

思わず、本音が漏れる。

俺は別に英雄願望も出世欲もないし、愛国心だって皆無じゃないが潤沢に持ち合わせているとは言い難い。

本当なら、今すぐ踵を返して逃げ出したいぐらいだ。幸いにしてイヨウ中佐から撤退の“命令”は既に下されている、仮にベルリンを捨てたとしても、軍法会議にかけられるようなことにはならないはずだ。………そもそも、軍法会議を開く上層部が生き残っているのかどうかも疑わしいしな。

俺達は十分に戦った。逃げる権利はあるし、艦娘や機甲戦力が損失する前に退却することは戦略的にも間違っていない。何よりも、中佐の言うとおりにした方が楽だ。死ぬ確率も、当然俺が今からやろうとしていることよりは遙かに低いだろう。

────だけど。

('A`#)「ジョルジュ、ティーマスとツン達を頼んだ!!」
  _
(#゚∀゚)「飲み代一ヶ月おごりな!!」

('A`#)「死ねクソ眉毛!!」

こんな結末は、きっと誰も望んじゃいない。

リ級に立ち向かったフランス広場の警備隊も。

規格外の化け物と戦わされたベルリン市警も。

退役済の戦車で逃げずに深海棲艦に立ち向かった戦車隊の奴らも。

遠く離れたドイツの土地で死ぬことになった海兵隊も。

核が降り注ぐかも知れない国に飛び込んできたポーランド軍も。

今まさに侍のまねごとをしようとしているドイツ陸軍の中佐殿も。

もう一度ベルリンが灰になる様を見せつけられている艦娘達も。

死んでいった奴も、生きている奴も、こんな結末のために戦っていたわけじゃない。

ξ; )ξ「────ドk」

('A`)「ドイツ陸軍少尉、ドク=マントイフェルよりベルリン市内の全戦力並びにCPに通達!!」

これは俺の自己犠牲精神でも、愛国心でも、偽善ですらない。ただの自己中心的な責任放棄だ。

国を守るために死んでいった戦友だの、政治の壁を乗り越えて救いに来てくれた友軍だの、首筋が痒くなるような肩書きの奴らの「無念」を背負って生きる方が。

('A`#)「これより俺は、敵旗艦【軽巡棲姫】の撃沈に向かう!!総員、何としても現戦線を維持しイヨウ=ゲリッケ中佐の指揮下で反攻に備えよ!!」

“これ”よりも遙かに、マンドクセェ。

(#'A`)「───Los!!」

叫び、地を蹴り、絞っていたエンジンを解放する。

Kawasaki KLX250が、一声吠えた後西へと疾走を開始した。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 22:52:07.61 ID:SnO+Pgh0o
カワサキか……
375 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:05:23.73 ID:3i1wtBQb0




─────ヤッパリ、君ハ面白イ人間ダ。
376 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:14:49.96 ID:3i1wtBQb0
【彼女】は、砲火の中で一人笑う。紅の瞳を細め、真っ白な肌に僅かに血の気を差し、口元を自然に綻ばせ、笑う。

凄まじい砲弾と銃撃の中でも聞こえてきた、“あの人間”の叫び声。後に続いた、乗り物のエンジン音。

それらを耳にした瞬間、彼が“何をしようとしているのか”を正確に理解した【彼女】の身体は、心は、歓喜に震えた。

────ソウダ。コレダカラ私ハ君ヲ見テイタインダ。

頭がキレて、圧倒的に不利な中でも考えることをやめず。

脆弱な存在のくせに戦い続け、いつの間にか戦況を互角以上に引き上げて。

何度絶望を突きつけても、直ぐに新たな策で立ち向かってくる。

あの痩せぎすな“人間”との戦いは、スリリングで、変化に満ち、この上なく楽しい。

艦娘なんかとの戦いよりも、ずっとずっと。

  _
(#゚∀゚)「あのクソバカもやし野郎の背中を守れ!!何としてもコイツをここで沈めろ!!」

ξ# )ξ「Feuer, Feuer, Feuer!!

アイツの指示を聞いたでしょ!?アイツがあそこまで言うってことは、絶対に何かが起きる!!その“何か”が起きるまで、死に物狂いでここを守りなさい!!」

「「「Jawohl!!」」」

他の人間達と駆逐艦と思わしき艦娘は、更に激しい攻撃を【彼女】に加える。障壁の出力が弱まり、四肢に装備される艤装から次々と火花や黒煙が吹き出し始めた。

「リ級elite、状態中破に移行!!」

(#><)「トドメを刺すんです!!絶対に火線を絶やすな!!!」

(#//‰ ゚)「ディープワン共を深海に叩き返せ!!」

自身の身体に浮かぶ損傷、周りの人間達の怒号、そして入り交じる火線。その直中で、恍惚とした表情すら浮かべて【彼女】は呟く。







ダカラ私ハ、君ガ愛オシイ。
377 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:41:02.63 ID:3i1wtBQb0
両腕の艤装が起動する。逆巻く砲火の中で、【彼女】の両腕がさながら通せんぼをするような形で左右に開かれた。

( ゜ t ゜ ;)「※※※※!!!」

ξ;゚听)ξ「こ、後退────きゃああっ!?」

2門の主砲が火を噴く。左手で直撃を食らった戦車が吹き飛び、金髪巻き毛の女が乗る車両も爆風に煽られて横転。右手ではバズーカやアサルトライフルで攻撃をかけていた一団が、凡そ半分ほど肉塊になる。

「この────え!?」

正面にいた艦娘が改めて艤装を構えたときには、【彼女】の足は既にその眼前まで踏み込んでいた。

驚きに見開かれた鮮やかな青色の眼に向かって微笑んでやりながら、右拳を振るう。

「────ゥゲホッ!?」

衝撃で歪む皮膚と、ぐちゅりと伸縮する内蔵の感触が伝わってきた。その小柄な艦娘が吐き出した体液がまき散らされる様に僅かに眉を顰めつつ、拳を振り抜く。

「っあ………」
  _
(;゚∀゚)「レーベ!?」

(;><)「救護班、彼女を回収するんです!!携行砲所有者、残弾全て奴に叩き込み足止めを!!」

(;//‰ ゚)「おら紳士共、夢にまで見たか弱い女を守るシチュエーションの到来だ!!

Go go go!!」

気を失ったらしい艦娘は、吹き飛ばされた先に転がっていた戦車の残骸に叩きつけられズルズルと地面に崩れ落ちた。それを守るためか、人間の兵士達が進み出て【彼女】と艦娘の間に立ち塞がる。

健気に効きもしない小銃で弾幕を張ってきた彼らの勇気に応えるべく、彼女は舌なめずりと共にその懐に飛び込み内一人の顔に手を伸ばす。

「ォウァ」

悲鳴ともなんとも判別がつかない奇声を残して、彼の頭が握りつぶされた。
378 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/20(火) 00:21:15.08 ID:FxmbLDhi0
「………No, no, n」

無造作に腕を振り、直ぐ隣にいたもう一人の頭を粉砕しながら【彼女】は軽くため息をつく。

やはり、“アノ人間”がいなくなると退屈だ。他の個体は勇敢だし数も多いが、とてつもなく脆い上に“アノ人間”に比べて機転が利かない。ただ立ち向かってくるだけの獲物を潰す“作業”は、特に【全の意志】の憎しみに興味が無い【彼女】からすれば趣向に合わないのだ。

────マァ、仕方ナイカ。

「わぁっ!?」
  _
(;゚∀゚)「クソッ……!怯むな!撃て!!」

【彼女】は軽くため息をつくような素振りを見せ、無造作に右手の主砲を放つ。また一つ戦車が燃え上がり、周囲にいた兵士達の射線が乱れた。

遊ぶことに夢中になって艦娘の突入を察知できなかった点や、その結果あらゆる火力を投入した集中砲火によって身動きが取れず中破まで押し込まれた点は彼女のミスだ。結果、策を思いついた“アノ人間”は動きを縫い止められている彼女を尻目に西へと向かった。

更に言うと、乗ってきたバイクを含めて他に“足”となり得る存在を破壊してしまったのは他ならぬ彼女自身でもある。

「り、リ級、此方に向かってきます!!」
  _
(;゚∀゚)「退避、退避しろ!!」

姿勢を低くし、眉毛が濃い人間が率いる部隊に向かって突っ込んでいく。一人をひっつかんで遙か上空に投げ飛ばしつつ、彼女は再び深いため息をついた。

今から【姫】の元に向かったとて、“アノ人間”の策が成るにしろ成らないにしろほぼ確実に間に合わない。それに万一策が成った場合、いくら何でも川を渡った“同胞”達を孤立させるのもまずい。

セイゼイ、スグ全部潰サナイヨウ気ヲツケテ遊ボウ。

そう心に決めて、【彼女】は更にもう一人を蹴り砕く。

ふと、遙か東にも“凄い人間”がいるという話を思い出した。
379 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/20(火) 00:55:09.08 ID:FxmbLDhi0


《BBCより緊急報道です。先程ノルウェー政府より公式発表が有り、ベルゲン上空の制空権失陥を公式に発表しました。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧3ヶ国連合空軍は壊滅的な打撃を受けた模様です》

《トルコ政府はTRTの取材に対し、中東諸国と共同で日本に艦娘の派遣・国外鎮守府の設置要請も視野に入れた要請を出す用意があると回答しました》

《ドイツ・ベルリンへの正式な軍事介入を発表したポーランド政府ですが、これにルール地方への核攻撃を準備しているロシア政府は強い不快感を示しています》

《現在スペイン空軍はヨーロッパアメリカ軍、フランス軍と共同で深海棲艦への攻撃を敢行していますが、敵の大規模な侵攻を食い止めきれていません。また、フランスの許可を得て越境した一部陸軍はフランス西部の主要都市に戦力の配備を開始しているとのことです》

《キューバ政府は、欧州・大西洋の危機的な状況に過去のしがらみを捨ててアメリカ、EUに全面協力をすると表明。大西洋に艦隊を派遣しました》

《ロシア政府による核発射宣言から3時間が経過しましたが、未だ西ヨーロッパにおける混迷は治まる気配を見せません》

《CCTVより、スポーツニュースの時間です。我が中華人民共和国の卓球界にニューヒーローが誕生しました。広東出身の劉?厳がスーパーリーグで大金星です》

《ルール地方には未だ1万人を越える生存者が逃げ遅れているという情報も有り、ロシアが核を発射した場合国際的な批判・孤立は免れないと見られています。茂名官房長官も、先日3ヶ国協定を結んだばかりのロシアの動きには非常に強い批判を浴びせています。

NBSではCM後も引き続き、ヨーロッパ戦線の情報をお伝えしていきます》

《あの名作アクションゲームが、オープンワールドになって帰ってきた!!

今度の舞台はまさに、中国全土!!雪原を、平原を、山あいを駆け抜け敵を薙ぎ倒せ!!

今度の無双は、1000人じゃあおさまらない!!

一万人をぶっ飛ばす爽快感!!真・三○無双8、今冬発売予定!!

先行予約で、程普ドイツ軍コスチュームがあたる!!》
380 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/20(火) 00:56:07.54 ID:FxmbLDhi0
今回ここまでと致します。

本日を1日目とカウントし、三日以内に最終章を投稿させていただきます。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 01:27:05.56 ID:FFlR4nyA0
おつおつ…それにしてもkawasakiは卑怯だw
まあ火達磨にしたり、海に沈めたり、叩き潰しても蘇る不死身な日本車の伝説も欧州発祥だし色々と有名なのか

それにしてもこれだけ相性の良さげな相手が、人類の敵ってとこが最大の不幸だよなあw
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 01:43:45.08 ID:5AJAyGpYo
おつ
中国と日本ワロタ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 10:02:04.61 ID:36eyi5ALo
現行陸自偵察車両になる程度には信頼性あるか
でもまぁkawasakiかぁ
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:17:16.74 ID:DPyB2a1OO
乙。決着や如何に

関係ないけどこの世界でゆーちゃんがろーちゃんになって帰ってきたらどんな騒ぎになるんだろうかw
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 14:04:51.15 ID:mOzesBLH0
中国が情報統制で日本が厭戦による艦娘による戦闘が他人事になっていると見ると放送内容があれだの
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/22(木) 07:56:10.91 ID:FQZJTdqe0
乙でした
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 11:09:35.81 ID:eXqSBnfSO
テレ東感
388 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/22(木) 22:25:16.27 ID:oz1JkISL0
体調の方が安定せず、最終更新開始を明日に延期します。
本当にお待たせしまして申し訳ありません。原稿自体はほぼ完成しているので、明日回復次第投稿を開始させていただきます。
お待たせして申し訳ありません
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 22:28:59.68 ID:EKcttg8Po
了解
お大事にね
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 00:58:16.04 ID:VdKeRUXA0
ラジャー、あまり無理せずに(^_^;)
391 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:34:45.90 ID:rsc+wgkx0





かつて、カルタゴの名将・ハンニバルはこういった。

視点を変えれば、不可能が可能になる、と。

実際、彼は自身の言葉通り常に斬新な視点から様々な戦略を練り上げ、アルプス越えやカンナエでの勝利など数々の【不可能】を【可能】に変えてきた。その変幻自在にして大胆不敵な戦術は彼の死後2000年以上経った今なお研究の対象であり、ドイツ学園艦の戦車道教育や艦娘達の座学にも用いられる。

尤も、当然の話になるがハンニバルの相手は同じ“人間”───つまり、人知の枠の中に収まった存在だった。

例えば大津波。
例えば大地震。
例えば大嵐。
例えば大噴火。

そういった“人知を超越した厄災”に対するとき、人間は驚くほど無力になる。
どれだけ視点を変えようとも、どれだけ策を練ろうとも、被害を軽くすることはできても厄災そのものに打ち勝つことはできない。



────そして。

「ヘリが一機やられた!!」

「負傷者下げろ、負傷者下げろ!」

《此方19号車、現地に到ちゃ

「増援の市警装甲車が破壊されました!!」

《レオパルト五号車よりCP、T-72が3両撃破された!プーマ戦闘車も沈黙、更なる機甲戦力の増強を求む!!》

(;゚д゚ )「Allemann zuruck!

次のブロックまで退却しろ、機甲師団と擲弾装備兵でしんがりだ!」

『────www』

ミルナ=コンツィの前に現れたソレは、まさしく立ち向かうことが不可能な“厄災”そのものだった。
392 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:45:01.15 ID:rsc+wgkx0
頭上を、ポーランド軍の戦闘装甲車であるKTO-ロマソクが飛び越えていく。16トンの重量を感じさせぬ軽やかさで飛翔してきたそれは、ベルリン市警のパトカーを一台真上から叩きつぶした。

因みに砲撃で吹き飛ばされきたものではない、此方めがけて“投げ飛ばされた”ものだ。

(;゚д゚ )「道路両脇の家屋を爆破しろ、瓦礫の山で奴の進路を封鎖するんだ!」

《Jawohl!! Feuer!!》

数両の戦車が一斉に砲弾を放つ横を、ミルナは負傷した味方兵を引きずりながら駆け抜ける。背後でコンクリートの塊が崩れ落ちる音が聞こえ、足下から震動が伝わってきた。

《目標破壊、進路を封s

(; д⊂ )「うおっ!?」

爆風が吹き付け、握り拳大の礫が頬を掠める。

バランスを崩してつんのめるミルナの横を、火達磨のレオパルト1が地面をバウンドしながら通り過ぎる。立ちこめる爆炎と土煙の向こう側へ機銃を放つエノクが、2発目の砲撃で吹き飛ぶ。

(メ゚д゚;)「っ、誰か援護してくれ!負傷者の回収を………」

引きずろうとした兵士の身体があまりにも軽い。違和感を覚えてふり向くと、腰から下がなくなっていた。

一瞬悔しげに表情を歪めた後、ミルナは屍体を打ち捨てる。“敵”は、彼に部下の死をまともに弔う暇さえ与えようとしない。

「エノク、破壊されました!PT-91【トファルデ】、レオパルト1もロスト!!

尚、瓦礫によるバリケードは崩壊、妨害効果無し!!」

「砲兵隊より連絡、正面新型艦の艦砲射撃が展開地点に直撃!迫撃砲多数と操作人員を失逸、支援攻撃困難とのことです!」

(メ;゚д゚)「砲兵隊は市街地からの離脱を許可!CPも間違いなく同じ判断だ、万一咎められたら全責任は俺が取る!」

「バルシュミーデ少尉の携行砲部隊、敵艦への側面奇襲失敗!通信途絶!」

(゚д゚メ;)「第二波、第三波奇襲部隊に攻撃中止を通達!後方部隊と合流して防衛線の構築に参加するよう伝えろ!」

入ってくる報告も、眼前に広がる状況も、どちらも地獄の様相。それは最早“戦闘行動”といえるような有様ではなかった。

それでも、ミルナは指揮をやめない。彼自身混乱と恐怖から思考が停止しかけているのを強靱な精神力で辛うじて耐えている。

もし彼以外の誰かがこの場を指揮していれば、おそらく疾うの昔に正気ではなくなっていただろう。

「中尉、いったいアレは………奴は何なんですか!?」

「幾ら新種のヒト型とはいえ戦闘能力が今までの個体と違いすぎる、戦車も携行砲もまるで効果がない!!」

(メ゚д゚;)「考察は後だ!とにかく今は退却と次のブロックでの防衛線を────」

頭の上で妙な“気配”を感じて、ミルナたちは視線を其方に向ける。

「ヒッ…………」

まるで、獲物を狩る直前に鎌首をもたげた蛇のように。

路地の一角で漂う土煙を突き抜けて、巨大な“尻尾”が屹立していた。

先端に着いたウツボの頭部を象ったような艤装────そこから突き出した四つの砲は、全てミルナ達をにらみ据えている。

(;゚д゚#)「…………走れ!!」

砲弾が、降り注ぐ。
393 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:46:23.97 ID:rsc+wgkx0

( д メ)「ぅぐあっ……………!!?」

背中に感じる、強烈な圧力と熱。衝撃が身体を突き上げ、足が地面から離れて空を掻く。

砲弾の破片や飛び散った瓦礫が背面のあちこちに突き刺さり、皮膚を破り肉を裂く。迸る血液が、吹き飛ばされるミルナの軌道に併せて中空に紅い線を描いた。

(メ д ;)「ガフッ……」

そのまま、砲撃で拉げたレオパルト1の残骸に全身を叩きつけられる。想像を絶する激痛はかえって意識を手放すことを許さず、悲鳴の代わりに口から漏れたのは血の臭いが混じった弱々しい呼気。

それでも、手や足の感触は確かに存在した。痛みがもたらす痙攣のせいで今は自由が利かないが、神経が繋がっている感覚もある。機能を取り戻し始めた耳には、周りで部下達が上げるうめき声も薄らと聞こえてきた。

“艦砲射撃”に巻き込まれたにもかかわらず、大きなダメージは受けたが致命傷を免れ四肢の欠損もない。
それは本来奇跡に近い幸運。

::(メ д #)::「……………ッッ!!!」

だが、ミルナ=コンツィが感じたのは幸運に対する安堵ではなく、脳の奥を焼き焦がすような激しい怒り。

唇が、苦痛を耐えるためではなく悪態が飛び出すのを防ぐために噛みしめられる。

砲弾や爆風より速く走れる人間は存在しない。攻撃が行われたのは頭上5メートルにも満たない至近距離からである点を考えれば、狙いが定まらなかったということも考えづらい。

要は、あの状況からはどれほど自分たちが幸運だったとしても助かる可能性などあり得ない。

向こうが、“故意に爆心地をずらす”ような真似でもしない限り。

(メ д゚#)「く、そっ、がぁっ!」

ミルナ=コンツィは、明確に理解した。

自分たちは、遊ばれている。

人間の子供が面白半分に蟻の巣を踏み散らしているように。

猫がネズミや虫を前足で執拗にいたぶるように。
394 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:52:39.42 ID:rsc+wgkx0
脳漿や血液が沸騰しているのではないかと錯覚してしまう激烈な怒り。体内でアドレナリンの濃度が一気に跳ね上がり、痛覚が遮断され身体の自由を一時的に取り戻したミルナは脇に転がるG36Cを掴んで立ち上がった。

(#゚д゚メ)「携行砲保有部隊と装甲戦隊は全火力をあの艤装に集中、牽制攻撃をかけろ!付近残存部隊は目標のブロックまで負傷者を回収しつつ後退急げ!!」

《レオパルト六号車よりコンツィ中尉、お言葉だけど先ず貴方が後退するべきです!あんな砲撃を受けて中尉の身体が大丈夫なはずが……》

(#゚д゚メ)「俺に構うな!行け!!」

《………Jawohl!!》

無線に向けて叫びつつ、“尻尾”に手榴弾をピンを引き抜き投げつける。手榴弾は防壁に当たってカンッと小さく乾いた音を立てて跳ね上がり、丁度真上の辺りで爆発する。

《総員、全車両、攻撃開始!》

《中尉を援護しろ、Feuer!!》

その爆発が合図だったかのように、何十もの砲声が重なり徹甲弾や対戦車ミサイルが尻尾にあらゆる方向から殺到した。5メートルを超えようかという巨体が爆光に全身を包まれて見えなくなる………が、直ぐに応戦の砲火がその中から放たれ街の一角で炸裂した。

《此方カンナビヒ少尉、部隊待機地点に艦砲射撃着弾!死傷者数名!》

《デーベライナー隊より各部隊に通達、敵艦艤装に損傷見られず。繰り返す、敵新型艦未だダメージ無し。

……Verdammt!!》

《Fuck!!》

《Kurwa!!》

損害無しの報告が流れた瞬間、デーベライナー軍曹と同時にポーランド兵とアメリカ兵も異口同音に毒づく。

ミルナも思い切り罵倒の言葉を並べ立ててやりたいという気持ちは同じだが、その光景は彼が半ば───どころか九割方予想していたものでもある。だから落胆はしないし、思考を止める理由にもならない。

(;゚д゚メ)「前衛の負傷者回収がまだ終わっていない、後衛部隊は引き続き火線を展開しろ!陣地転換をこまめに行い反撃による損害はなるべく抑え────うおっ!?」

横っ飛びでその位置から動いた直後、機銃弾がレオパルト1の残骸にぶち当たり火花を散らす。射角にそって視線を動かすと、口元から細い煙を吐き出す“尻尾”の姿がそこにあった。

笑っているように半開きになった口内から顔を覗かせるのは、連装式の対空機銃。

無線通信での指示をわざわざ大声で放していたのが聞こえたのだろう。指揮官は優先して潰した方が良いという判断か、イキのいい玩具と遊びたいという嗜好か、或いはその両方か。

どちらにせよ、周囲で負傷者の回収を続ける救護班にも散発的に砲撃を加えてくる後衛部隊にも射線は向けられていない。ミルナにとってはその事実さえあれば、理由などどうでもよかった。

(#メ゚д゚)「捕まえてみろ化け物!!」

叫び、G36Cを構え、引き金を引く。弾丸が障壁の表面で小さく火花を散らす様を見届けると、そのまま踵を返し全速力で前衛部隊とは別方向に走る。

『………♪♪』

その後ろを、機銃掃射の火線と艦砲射撃の爆発が追いかけていく。
395 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:56:24.18 ID:rsc+wgkx0
────ミルナ=コンツィドイツ陸軍中尉は、怒りを覚えていたが怒り“狂って”はいなかった。彼の脳内に残る冷静な部分は、彼我の戦力差を的確に把握している。

《此方救護班、前衛の負傷者・生存者の回収を完了!》

《ポーランド軍のMi-24、敵艦“本体”の対空射撃によって撃墜されました!》

(メ゚д゚;)「CPにヘリ部隊の突入は今後控えるよう通達しろ!………っくぉ!?」

バイカーギャング仕様のバイクを乗り回して突然こちらに飛び込んできたあの“新型”は、おそらく過去に確認されてきた深海棲艦の中でも格段に高い戦闘能力を誇る。現に単艦である上にこれだけあからさまに“遊んで”いるにもかかわらず、ミルナ達の方面は右翼のパンコウ区よりも遙かに深く押し込まれた。

右翼でも此方の損失は甚大ながら、通常種のリ級2隻に小破の損害まで与えていることを考えればあまりにも状況差がありすぎる。

《中尉!?いったい何があったんですか!?》

( ゚д゚メ)「機銃が掠めただけだ、心配ない!この歳で鬼ごっこなんてやる羽目になるとはな!」

さっきの喩えを繰り返すが、要はあの“新型”は【人間の軍隊】にとってほとんど天災と変わらないとミルナは結論づける。大津波や大嵐に人間が立ち向かったところで、少なくとも“今の科学”では打ち勝つことはできない。できることと言えばせいぜい被害をなるべく受けないよう被災範囲から遠くに逃げることと、後は収まってくれと神に祈ることぐらいだ。

(=#゚ω゚)ノ《CPよりトレプトゥ=ケーペニック区防衛ライン、新型の状況を教えるよぅ!!》

( ゚д゚メ)「防衛ライン前衛よりCP、敵のお嬢さんは俺の抹殺に大層御執心……!」

自身の無力さへの口惜しさこそあれ、ミルナは役目を見失わない。

敵が天災に等しい存在である以上、立ち向かうことは自分たちの領分から外れる。

今の彼に課せられているのは、部隊の被る損害を可能な限り減らし、厄災から逃れ────

(#゚д゚メ)「攻撃を開始するなら、今だ!!」

(=#゚ω゚)ノ《此方CP、状況を確認した!!

全駆逐艦隊に通達、目標敵新型艦!攻撃を開始せよ!!》

────残る全てを、味方の“女神”に託すことだ。
396 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:00:13.24 ID:W1r6lzRK0








《《Z1, Feuer!!》》

《《《Z3, Feuer!!》》》

ミルナ=コンツィ中尉をしつこく追い回していたであろう“尻尾”が、12.7cm連装砲の弾丸で動きを止める。

障壁の上で弾けた爆炎は、決して大きな物ではない。だけど“尻尾”の主にも、今の砲撃が私達艦娘によるものだと十分に理解できたのだろう。混乱というほどのものでもないけれど、訝しむようにぐるりと────“5箇所から飛来した”砲撃の出所を確かめようとしたのか艤装をもたげて辺りを見回す。

『…………!』

そこに、肉薄するのは、二台のパトカー。

ただし屋根の上に、私とビスマルクお姉様を乗せてだ。

「Prinz、続けて撃ちなさい!!

Feuer!!」

「了解ですお姉様!

Feuer!!」

猛スピードで“尻尾”に接近していくパトカー。その屋根の上で跪くような姿勢を取り、私はお姉様に続いてSKC20.3cmを撃つ。砲撃の反動で浮き上がりひっくり返りかけた車体を、つま先をめり込ませ両手に全身の力を込めることで抑え付けた。

『ィアアアアアアッ!?』

戦艦と重巡洋艦の主砲、4基8門の一斉射撃。

流石にその威力は絶大で、向こうも効果無しとはいかなかったらしい。先端の艤装から火花をまき散らしながら、“尻尾”が苦悶とも怒りとも着かない声で鳴きながら身を捩らせる。

『ウァア………!』

そのまま“尻尾”は一瞬此方に先端を向けて低いうなり声を上げると、笛で操られる蛇みたいな動きでシュルシュルと立ちこめる煙の中に戻っていった。
397 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:05:06.82 ID:W1r6lzRK0
《よし、現地に到着!

お嬢さん方、武運長久をお祈りするよ!》

《ニ号車、十号車、移送任務完了につき後退します!頼むよ艦娘さん、あいつら化け物をやっつけてくれ!!》

「ええ、任せてちょうだい!きっとこの国を、貴方たちの街を守ってみせるわ!

─────さて、と」

私達を“尻尾”が引っ込んでいった区画から直線距離200M程度の位置まで運んだ二台のパトカーは、屋根から降りた私達に激励の言葉を残してUターンする。

お姉様はサムズアップと満面の笑みでその声援に応えた後、一転して厳しい表情で正面───さっき、“尻尾”が引っ込んでいった辺りを睨んだ。

「Bismarck zwei、敵新型の正面───と、思われる場所に到着したわ。黒煙の噴出が未だに激しくて艦影を視認できない」

( ゚д゚メ)《ミルナ=コンツィよりBismarck zwei、負傷者や生存者は近くに残っているか?》

「……。

いいえ、見当たらないわ」

( ゚д゚メ)《確認感謝だ。

…………すまんが、“奴”に対して俺達陸軍ができることはない。お前達に全て任せる》

「あら、誰に物を言ってるのよ。このBismarck zweiに何もかも任せなさい!」

( ゚д゚メ)《俺達はこのまま右翼のパンコウ区に戦闘可能な部隊で転進、防衛線に参加する。

………艦娘部隊の、武運を祈る!》

………無線越しでも解るほどとても悔しそうなミルナ中尉の声だったけれど、判断はとても冷静で的確だ。

中央の増援に向かったレーベみたいに砲火力がそこまで高くない駆逐艦ならともかく、私やビスマルクお姉様のように重巡以上の等級になると主砲火力が高い故に友軍を巻き込む危険性が跳ね上がる。広く間隔が取れる海上ならいざ知らず、市街戦で陸軍と共闘する場合、敵の配置や攻勢によっては通常兵器の支援部隊の存在は寧ろありがた迷惑になることも多い。

だから、中尉が後退した部隊をそのままパンコウ区に転用してくれることはとてもありがたい。

ましてや、今回は相手が相手だ。
398 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:15:55.26 ID:W1r6lzRK0
「Prinz EugenよりCP、全艦隊戦力の敵新型艦包囲完了。ミルナ中尉以下陸戦隊も後退、離脱済みです。

………本当に、グラーフさん以外の全戦力を此方に回して良かったんですか?」

(=゚ω゚)ノ《問題ないよぅ。その代わり、Graf Zeppelinの艦載機による航空支援とポーランド軍の後続戦力は以後全てパンコウ区、フリードリヒ=スハイン区に回して右翼艦隊、中央のリ級eliteを打撃するよぅ。

寧ろ君達は正真正銘左翼に投入できる最大にして最後の防衛戦力だ。油断はしないで欲しいよぅ》

「できるわけないじゃないでしゅかぁ……」

………内心に渦巻く不安から台詞が口の中でひっかかり、なんとも奇妙な口調になってしまった。

私達艦娘を運用するにあたって、国際社会は公式・非公式を問わず様々な規則や条約を設けた。アイザック=アシモフの提唱したロボット三原則より発想を得た「艦娘三原則」や国家間での艦娘の奪い合いを避けるために設けられた「艦娘保有制限条約」のように正式に国際連合で会議を持って締結された物から、“資源確保や偵察任務に潜水艦娘を酷使するのはやめるべき……でち”という提唱者不明の怪文書(因みに誰も実行していない)まで数千を軽く超える。

その中の一つである、「同一種の艦娘を同艦隊内で運用してはならない」という規則は、法・条約的拘束力こそないもののある理由から全世界の海軍教本にも記載される基本中の基本だ。

“新型”を包囲する形で区内の離れた位置にレーベ達とマックス達は配置されているけれど、通信は連携を迅速に取るため各個が直接行っている。作戦後何の影響もないかどうかはかなりギリギリなように思う。

イヨウ中佐ほど優秀な人が、この教範を知らないということはあり得ない。にもかかわらず、多少の対策こそとられているとはいえ事実上その禁を犯してまで投入し得る戦力を全てトレプトゥ区に注ぎ込んだ。

「………………ッ」

つまり、さっきまでミルナ中尉たちが戦っていた敵の新型艦が「そこまでしなければいけない」とイヨウ中佐に判断させるほどの敵と言うこと。しかも私達は勝つ必要が無く、ドク少尉が無線で宣言した30分という時間が稼げれば十分であるにも関わらず。

……お姉様の前でみっともない姿を見せたくはないけれど、私は生唾を飲み下す音を止められなかった。

心底、恐い。だけど、私達は艦娘だ。

やるしか、ない。
399 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:26:41.54 ID:W1r6lzRK0
「………Bismarck zweiより包囲網各艦並びに護衛部隊、其方は異常ないかしら?」

《Z1-23、状況クリア!敵影ありません!》

《Z3-04、周辺に異常なし》

《Z3-08同じく》

《Z1-02、何もないよ》

《こちらZ3-11、穏やかなものだわ。

………不謹慎だったかしら》

お姉様が、レーベ達に連絡を取る。時間にして中佐達とのやりとりも含めてせいぜい2、3分しか経過していないはずだけど、しかし私にはその時間が何十倍も長く感じられた。

右翼と中央から聞こえてくる砲声や銃声、頭上を飛び交う戦闘機のエンジン音が市街地に木霊する中で、この辺りだけ奇妙な沈黙に包まれる。

「────!」

…………それまで何かに纏わり付いているかのような不自然な動きで一定の位置に渦巻いていた黒煙が、ブワリと揺れる。

「お姉s」

全て言い切る前に、私の視界は大きく開かれた口とその中に並ぶぎらぎらした鋭い歯に埋め尽くされた。

「─────Prinz, 下がりなさい!」

「きゃあっ!?」

『─────ア゛ア゛ッ!!』

ぐいっと首筋を猫のように引っ張られ、(また)情けない悲鳴を上げながら仰向けに地面に倒れて尻餅をつく。さっきまで私の顔があった位置で、巨大な顎がガチリと空を噛んだ。

「ふっ!!」

『ゴォアッ!?』

顎………いや、煙の中から伸ばされた尻尾の先を、お姉様は力一杯フックの要領で殴りつける。艤装の一部が鈍い音を立てて砕け、尻尾は呻き声を上げた後凄いスピードで再び煙の中に引っ込む。

─────だけど、今度はこれで終わらなかった。
400 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 01:00:20.88 ID:W1r6lzRK0
「お姉様!?」

「っ、大丈夫よ!じっとしてなさい!!」

鳴り響く轟音。煙を切り裂いて次々と飛来した砲弾から庇うようにして、ビスマルクお姉様が私の上に覆い被さった。

一発が至近で炸裂して泥を巻き上げ、もう一発が背後からお姉様を射抜く。

「うっ………」

幸い、かつて大英帝国を震え上がらせた戦艦の装甲は伊達ではない。障壁はお姉様の身体を爆風から完全に守り切った。

でも、全くの無傷というわけにもいかない。艤装から火花が飛び、お姉様を覆う障壁が一瞬黄色く明滅する。

(一撃で、小破まで……)

《Z1-23よりビスマルクさん!何が起きたの!》

《Z3-11より旗艦、攻撃準備はできてるわ!いつでも言って!》

「Prinz Eugenより各艦、座標同一で速やかに支援砲撃の再開を!私とBismarckが攻撃を受けて………!?」

指示を出す暇なんてなかった。お姉様が咄嗟に私を更に後ろまで投げ飛ばし、そこに新しく四発の砲弾が飛来する。

内一発が、直撃。当たり所が良かったのか障壁の色は黄色から変わらないものの、背負う艤装の端で機銃が小さく爆発して根本から吹き飛んだ。

「Feuer!!」

衝撃を何とか踏みとどまって耐えたお姉様が、主砲を放ち反撃する。

───けれど、38cm砲が炸裂するよりも僅かに早く、煙の中から飛び出してくる“人影”があった。

背後で爆炎をまき散らすお姉様の38cm砲弾など気にとめる様子すら無く、その影は小柄な体躯を更に小さく丸めて弾丸のようにお姉様めがけて突進する。

『────♪♪♪』

「あ゛うっ!?」

速い。反撃も、回避も、防御もままならずに跳躍と共に振り切られた尻尾がお姉様の腹部を殴打する。凄まじい打撃で浮き上がった身体は、着地と共に二、三歩後退って横倒しになった戦車の残骸にぶつかりようやく止まった。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 01:38:32.91 ID:VKo8g0HA0
ミルナ中尉がマジで勇敢すぎる…
ドクは機転や幸運に恵まれて局面を切り抜けてるけど、それより前から部隊を率いて最前線で折れない精神的支柱としてあり続けるとか凄過ぎる
402 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:10:08.70 ID:W1r6lzRK0
「…………この!!」

なおもお姉様に肉薄しようとした“影”に向かって、膝立ちの状態から20.3cm連装砲を連射。迫る四発の砲弾を、“影”はバレリーナみたいに軽やかな動きで後ろに飛んで回避する。

そして、元々そうするつもりだったような迷いのない動きで今度は私に向かって突進してきた。

「なっ────きゃあっ!?」

慌てて機銃と副砲を放ち動きを止めようとしたけれど、驚くほど低い姿勢から弾丸のように飛び込んでくる動きに対応できない。“影”ほんの数歩で私との距離を零にして、そのまま大きな動作で尻尾を振りかぶる。

「うぁっ………!?」

顔スレスレを薙いだ尻尾の一撃を避けて崩れた体勢。予想だにしなかった白兵戦に混乱する頭はめまぐるしい動作に追いつけず、続けて放たれた回し蹴りが私の胸板を殴打した。

「けほっ────がっ、ゴホッ!?」

激痛と圧迫感に口から息が漏れる。後ろに流れた身体に、今度は背中から尻尾の一撃。無理やり引き起こされたところで、肘打ちが顔に、更に尾の追撃が脇腹に突き刺さる。

「………ブフッ」

口の中に広がる鉄の味と、生ぬるい液体の感触。こみ上げてくる吐き気と激痛が合わさって視界が激しく揺らぎ、脳が揺すられて立っていられない。

(何……なの……この、戦い方………)

ぐらりと前のめりに倒れかけながら、ぐちゃぐゃになった思考が脳内でぐるぐると回る。

陸であれ海であれ、砲雷撃戦で深海棲艦と戦うための教育と訓練を受けてきた私達。反艦娘団体の暴動に備えた対人戦の手ほどきも多少は受けているが、“同等の戦闘能力を持つ相手”との格闘戦など想定していない。

予想が全くつかない動きの数々に、対応がまるでできない。一方的に、嬲られる。

「痛っ…………」

膝を突いた私の頬に、拳がめり込む。血の味が更に濃くなるのを感じて、私の身体は裏拳によって地面に横倒しにされた。

『…………wwww』

降りしきる雨の中で、敵の尻尾がなんとも禍々しいシルエットを浮かび上がらせながら振り上げられるのが眼に映った。

動けない私の頭を噛み砕こうと、大口を開けた牙だらけの顎が迫ってくる。
403 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:37:21.89 ID:W1r6lzRK0

……………響いたのは、私の頭が噛み潰される咀嚼音、ではなかった。

『─────!?』

何か巨大なものが空を切る音。常軌を逸した大きさの打撃音と、堅い何かが砕ける鈍い音が間を置かず続く。逃れる術がなかったはずの痛みも死も訪れないことに訝しみ、恐る恐る眼を開けた。

「…………プリンツ、大丈夫かしら?」

荒い息で、それでも私に向かって背中越しに微笑みながら、ビスマルクお姉様が立っていた。手に何か棒状の、太く大きな物を持って構えている。

それが、へし折られた戦車の残骸の主砲だと気づくのに幾らかの時間を要した。

『────!!』

「…………っふ!!」

『ギァッ………』

距離を取っていた“影”が、再び自らの尾を伸ばしてくる。が、お姉様が手に構えた筒で跳ね上げるようにして下顎を殴打すると、形容しがたい不快な鳴き声を残して尾は自らの主の元に舞い戻る。

「Feuer!!」

『………』

流れるような動きで艤装を展開し、射撃。これは躱されたが、若干の警戒心を抱いたのか向こうは反撃せずに私達から僅かに距離を取った。

「それで?まだ戦える?プリンツ」

「………あ!はい!まだ何とか!

あの、お姉様………そんな戦い方、いったいどこで」

「zweiへの改装を受けるために日本に行ったときに、ちょっとね」

立ち上がろうとする私への射線を塞ぐ位置取りで筒を構え直しながら、お姉様はそういって肩を竦めた。

「なんとかっていう映画スターみたいなすっごい筋肉身につけたAdmiralから、色々教わったのよ。

……ま、まさか役に立つとは思わなかったけどね」
404 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:38:16.58 ID:W1r6lzRK0
ぎゃー予定位置までまにあわなかった……でも流石に寝ないと行けないので今回ここまでの更新です
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 02:50:22.16 ID:VKo8g0HA0
おつです!
相変わらず面白いし、どんだけヤバいんだよと…
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 06:58:26.28 ID:PGdKYvqDo
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 10:51:39.22 ID:7eZPfZhho

マッチョは偉大だった
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 15:40:34.97 ID:O9j3Ot4DO
なるほど、マッスル鎮守府でzwaiに改装されたのか…
なら直撃弾食らっても髪がアフロになるだけで済みそうだな。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:36:01.42 ID:qyQLMCX70

マッスル鎮守府と聞いたらシリアス度が…
410 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:32:06.96 ID:W1r6lzRK0
「日本ですか………」

私がまだただの軍艦だった頃に、当時ハーケンクロイツを掲げていた祖国が同盟を結んだ海の向こうの国というのはなんとなく知っている。ただ、私は所謂【実装艦】とは違いドイツの国営工場で建造されたので実際に行った経験はない。

そのため、持っている知識は例えば“なぜか潜水艦娘達に倒錯した性的嗜好が覗える指定制服を着せるHENTAIの国”という断片的かつ真偽も微妙なものばかりだ。

………まぁお姉様のこの急激な変化(というより悪化)の具合を見る限り、ろくでもない一面がある国なのは間違いないと確信した。勿論歴史も民族性も完全無欠な国家なんてこの世に存在しないことは理解しているけれど、それにしてもこのかつての血盟者は瑕疵の方向性が一般的な国家と随分違う気がする。

などと、私が東洋の端っこに浮かぶ島国についてなんともいえない思いを抱えていると。

「来るわよ!!」

「えっ?」

“影”が、再び動いた。

「Artillerie!!」

「うんにゃあーーーっ!!?」

尻尾の先端で艤装が稼働し、此方に向けられた砲口。雷鳴みたいな音を響かせて向かってきた熱と鉄と火薬の塊を、私とお姉様は左右に飛んで避ける。

「ぶぎゅっ!?」

こういうとなんとも鮮やかに回避したようだけど、実情はだいぶ違う。最小限かつ的確な身のこなしで素早く射線から外れたお姉様と対照的に、私は低俗なコメディ・コミックの登場人物みたいな慌ただしさでバタバタと地面を這いつくばって爆心地から逃れた。

結果大いにバランスが不安定になっていた私は、爆風で押されたことによって再度水溜まりに頭から突んだ。
411 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:41:05.28 ID:W1r6lzRK0
次の攻撃が来る前にと慌てて泥を吐き出しながら立ち上がろうとした私は、後ろの───さっきまで私達が立っていた辺りの光景を目にして思わず悲鳴を上げた。

(なにこれ………一発の砲弾でこんな………)

巨人がスプーンでその一角をくり抜いたみたいに、ぽっかりと口を開ける穴。直系7〜8メートルはあるそれが先程敵艦が放った砲撃によるものだと理解した瞬間、全身に雨粒よりずっと冷たい汗が噴き出た。

こんな威力……私やお姉様でもまともに食らったら一溜まりもない。一撃大破だって十二分にあり得る。

「突入するわ。プリンツ、援護して!」

「ふぇっ!?や、Ja!」

新型の攻撃の威力はお姉様も十分に理解しているはずなのに、彼女は何の躊躇もなく戦車砲を(打撃武器として)構えて前傾姿勢で突貫する。私の顔からは更に血の気が飛んでいったが、同時にその気高く勇敢な姿に恐怖も私の身体から抜けた。

ドイツ海軍重巡洋艦Prinz Eugenともあろうものが、お姉様一人だけを戦わせるなどあってなるものか。

「Beginnen Feuerschutz!!」

『!!』

幸い、さっきの回避行動でお姉様の身体は射線から外れている。攻撃には直ぐに移れた。

僅かに角度を調整し、主砲2基4門を同時に射撃。

距離にして300Mに満たない、至近距離からの射撃だ。こっちが外す道理も、向こうが回避する暇もない。

───筈なのに。

『────!!!』

「くぅっ……!」

「嘘でしょ!?」

あり得ない反応速度で振られた尻尾に、砲撃が下から跳ね上げられる。打撃された場所が先端ではないため信管が作動せず、起爆しないまま私の砲弾はあらぬ方向へと舞い上がる。

そのまま咄嗟にガードの姿勢を取ったお姉様に蹴りが突き出され、これを筒で受けたお姉様の突進が衝撃で止まる。ほぼ同時に、ふっ飛ばされた砲弾がどこか遠くで立て続けに炸裂した。
412 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:52:12.13 ID:W1r6lzRK0
《Z3-11よりBismarck並びにPrinz Eugen、当艦付近に至近弾4!そっちの敵艦の砲撃なの!?》

「………うん!そんなところ!!」

胸にちくちくと突き刺さる罪悪感を勤めて無視しながら、水偵射出のカタパルトを構えAr-196改を空に撃ち上げる。

「Prinz Eugenより包囲網構成艦各員に通達!水偵を上空に上げた、感覚をリンクし弾着観測射撃にて敵艦に全火力を集中して!!」

《《《Jawohl!!》》》

基本的に艦種を問わず、艦載機はそれを出撃させた母艦以外で指示や収容、補給などを行うことはできない。ただし水偵や水戦、或いは日本の【サイウン】等の偵察機は、母艦以外───更に言えば駆逐艦や未改装の潜水艦のように本来艦載機を搭載できない艦種の子たちでも【視界共有】ができる。

勿論映像が安定しないなど母艦に比べると制限はかかるし、多数の艦娘と視界をリンクさせることは妖精さんにも大きな負担を強いる。

けれど、弾着観測射撃ができるとできないとでは攻撃効率に大きな違いが生じる。ここはもう一頑張りして貰うしかない。

「お姉様、水偵を発艦させてレーベ達とリンクさせました!駆逐艦隊による支援射撃可能です!」

「Ja! ありがとうプリンツ、貴女みたいなKameradin持てて幸せね!!」

『ッ!!』

私の報告に、あのまま白兵戦に突入していたお姉様は“影”と激しく打ち合いながらにやりと大きく口元を歪める。

……私に向けてのお褒めの言葉を伴った、大好きなお姉様の笑顔。

「……」

なのに、目にした瞬間、なぜか私の肩には小さな震えが走る。
413 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:05:48.56 ID:SQt7g1jh0
そのまま、“尻尾”の艤装に覆われた部分とお姉様が構える戦車砲が空中で何度か凄まじい速度で衝突する。

艦娘と深海棲艦の“白兵戦”、しかも片方は戦車の残骸を引き抜いたものが得物───見方によってはシュールとも、タチの悪いジョークとも取れる光景。

だけど相手もお姉様も、その動きは見とれてしまうほど洗練されて無駄がなく、そして激しかった。

「はぁっ!!!」

『ッッッッ!!!』

攻防の中で生じた一瞬の隙。お姉様が大きく腰を落とし、図太い戦車砲を勢いよく槍のように突き出す。

“影”はこれを尾の艤装部分で受け止めたが、衝撃までは殺しきれなかったのか身体が浮き上がり2,3メートル後ろにはね飛ばされた。

「「Feuer!!」」

『………!!』

機を逃さず、私とお姉様の艤装───15.5cm連装副砲が同時に火を噴く。流石に主砲を撃てるような距離ではないけれど、副兵装での射撃ならば威力的にこちらが巻き込まれる心配はない。

勿論威あの敵艦に大きなダメージは与えられない。でも、副砲とはいえはね飛ばされた矢先に砲撃を受ければ踏ん張りは利かないだろう。

転んで隙を作ることを嫌ったか、“影”は着弾の衝撃に身を任せて更に10メートル近く後方へと跳んだ。

「─────全艦、一斉射撃!!」

『!!!?』

その着地点に、連なり炸裂する五発の砲弾。やはりダメージは小さいけれど、予想外のタイミングに加えて上からの攻撃。おまけにAr-196改を用いた弾着観測射撃。

動きが完全に縫い止められる。

────そして、今度は彼我の距離も十分だ。

「「Feuer!!」」

38cm連装砲。

SKC34-20.3cm連装砲。

全門が一斉に火を噴き、砲弾が放たれる。

火柱が、天を焦がす。
414 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:53:14.24 ID:SQt7g1jh0
絶望的な状況下に置かれていた友軍を救援した後の包囲戦。完璧な誘導で敵艦の動きを制限したところへ戦艦と重巡による主砲射撃。

ど派手な爆発と、敵の姿を覆い隠す爆炎。

ハリウッド映画辺りなら、派手な演出や勿体ぶったBGMを施されて“実は健在だった敵艦”が観客の悲鳴やスクリーンに投げつけられるポップコーンと共に颯爽と再登場するのだろう。

《…………冗談でしょ》

現実にはそんな演出は存在しない。渦巻く焔と煙を尾で切り裂き悠然と“影”は再び現れた。水偵から妖精さんの眼を通してその様子を見た駆逐艦の一人が呆然とした口調で呻く。

影の………【彼女】の周囲を守る障壁が、火柱から出てくる直前オレンジ色に一瞬明滅する。流石に重巡洋艦と戦艦の一斉砲撃をまともに受けて損害を抑えることは難しかったようで、少なくとも中破レベルの大きなダメージは受けているらしい。

『─────♪』

なのに、【彼女】は笑っていた。

目深に被っていたフードを脱ぎ捨て。

先端の艤装部分から小さく火花を上げ続ける尾をゆらゆらと小刻みに震わせ。

人間や艦娘だったら“美少女”に分類されるだろう、幼さが残るけれど整った顔立ちに狂気を、狂喜を滲ませて。

【彼女】は、心底嬉しそうに満面の笑みで私達を見つめる。

少しだけ長く伸ばされた白い頭髪の隙間から覗く、玩具を見つけた子供みたいにきらきらと輝く眼が、真っ直ぐに私とお姉様を見つめる。何かを呟くようにして、青白い唇が動く。

………きっと、偶然だ。深海棲艦が人語を発したという話は、一度も聞いたことがない。

だけど私には、【彼女】の唇がこう言ったように見えた。


───アイツノイッタトオリダヨ。
415 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 01:44:42.98 ID:SQt7g1jh0
深海棲艦が作る表情としては、あまりにも“血が通っている”微笑み。

本当に人間や私達のものと遜色がない自然さなのに、溢れ出る狂気。

「────あぁ、やっぱり貴女も“此方側”なのね」

そして………私の隣に肩を並べるビスマルクお姉様も、【彼女】と同質の笑みを浮かべていた。

「あのAdmiralから、彼のKameradinのアオバから、貴女たちの存在は聞いている。戦い方を見て、薄々そうだと気づいていたわ」

「お姉様………?」

興奮気味に、お姉様は【彼女】を見つめながら捲し立てる。その口調は徐々に速度を増し、今や熱にうなされた重病患者のように夢見心地なものになっていた。

「ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない。私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!」

台詞の最後は、ほとんど叫ぶようにして放たれる。お姉様は………Bismarck zweiは、どこか箍の外れた笑みと共に【彼女】に向かって手招きをする。






「Bismarckの戦い、見せてあげるわ!

さぁ、かかってきなさい!!」
416 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:31:32.19 ID:SQt7g1jh0




(`・ω・´)「…………以上が国防省の見解です、大統領」

(゚、゚トソン「………そう、ですか」

(`・ω・´)「南部ドイツ全域やライプツィヒ、ドレスデンなど主にドイツ国内で極局所的にはある程度優勢の地域も見られます。

しかしながら、現状よほど劇的な“何か”が起きない限り最早オーベル川以西のヨーロッパ失陥は確定したも同然です」

爪'ー`)「既にフランス・ドイツ・北欧の戦況は、“敵の攻勢をどの辺りで食い止められるのか”に重点を置く段階まで悪化しています。

特にフランスはコマンダン=テストのみとはいえ艦娘保有国。彼女らの損失は第二の防波堤である英国、はては合衆国の国防それ自体にも影響します」

(゚、゚トソン「………」

ハハ ロ -ロ)ハ「大統領閣下。本来なら我々も、“最後の手段”に打って出ることを本格的に検討しなければいけない立場です。

────ロシアが汚れ役を買って出てくれるというのなら、渡りに船だと私は考えます」

(-、-トソン「……………」

(`・ω・´)「大統領閣下、ご決断を」

(゚、゚トソン「…………在ロシア大使館に連絡を。それから、日本のミナミにもアポイントを取って下さい。

不測の事態に対する保険として、【海軍】出撃の手配をしておきましょう」

(`・ω・´)「かしこまりました、では」

(゚、゚トソン

( 、 トソン「…………この悪の帝国のどこが、世界の警察なのかしらね」
417 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:45:04.51 ID:SQt7g1jh0




《先程アメリカホワイトハウスでフォックス=カーペンター国務長官が記者会見を開き、ロシアの核兵器使用の意志を覆すことはできなかったと談話を発表しました。

この発表は事実上ロシア連邦のドイツに対する核兵器投射を黙認するという前倒しの宣言とみられ、先に同様の意思表明を行っていたイギリス、フランス、元々肯定的な立場だった中国も含めてこれで常任理事国は全てロシアの核兵器使用を認めた形になります。

これに対し日本、インド、台湾などアジア諸国からは非難声明が続出し────》
418 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:46:22.88 ID:SQt7g1jh0
今更新ここまで。……本当は前回更新時にここまで行きたかった(叶わぬ願い)
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