('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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197 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/18(木) 18:29:51.35 ID:qcFlP+vx0
明らかに車両移送の対象者なのに、兵士の誘導に気づかず虚空を見つめ虚ろな顔つきでふらふらと歩いて行く老人がいる。

警官に抱え上げられてトラックに乗せられながら、姿がない父と母を呼び泣き叫ぶ少女がいる。

かける言葉が見当たらず途方に暮れる海兵隊の隊員に縋り付き、どうしてもっと早く来てくれなかったのかと、怒りも悲しみもない淡々とした口調で問いかけ続ける中年の男がいる。

黒焦げの、かつて赤ん坊“だった”物体を胸に抱き、俯く夫の横で延々と子守唄を歌い続ける母親がいる。

それらの光景は、俺たちが「救った」人々よりも、「救えなかった」人々がどれほど多いかを突きつける。

('A`)「………」

作戦の成功によって胸の内に芽生えていた微かな高揚は、消えていた。

無論、出来うる限りの最善を尽くしたという自負はある。作戦成功に伴う南側の主力艦隊打撃がなければ、今ここに逃げてきている人々すら命を落としていたかも知れないのだと解ってはいる。

それでも、無い物ねだりだと解っていても。

例えば自分が艦娘のように単騎で深海棲艦と戦える力を持っていたとしたら、より多くの命を救えたのは事実だ。

(//‰ ゚)「奴らは、あの腐った深海魚共は俺の二つ目の故郷を灰にした。二つ目の祖国の友人達を殺した。その報いは必ず受けさせる」

俺の横で、サイ大尉のそんな呟きが聞こえてくる。巨大な掌は満身の力で握りしめられ、食い込む爪のせいで僅かに血がにじんでいた。

(//‰ ゚)「そろそろ行こうぜドク。奴らをぶちのめすための作戦会議だ」
198 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/18(木) 18:35:15.72 ID:qcFlP+vx0
(=゚ω゚)ノ「…………何度も言っているように、首相。その申し出は到底受け入れられませんよぅ」

サイ大尉と共に司令テントまで戻ると、既にツンや彼女が合流したミルナ中尉、大尉以外の米軍指揮官も集合していた。彼らに取り囲まれる形で、テントの中央には机を挟んでイヨウ中佐と───我が国の首相様、ダイオード=リーンウッドが向かい合っている。

彼女は、東欧で不穏な動きを見せることが多かったロシア連邦の対応を話し合うためにフランスへ向かう予定があった。深海棲艦による襲撃開始の折は丁度空港に向かう車の中にあり、難を免れたのだという。

中佐の口調は首相を前にしてもいつも通りだが、言葉の端々に幾らかの困惑と「険」が籠もっていた。

(=゚ω゚)ノ「ベルリン市の状況は確かに“今この瞬間は”沈静化していますが、深海棲艦の在ベルリン戦力は未だ強大です。我が方にも南方からの援軍やBismarckとGraf Zeppelin、アメリカ海兵隊が合流して幾らかその差は縮まりましたが、数的にも質的にも依然劣勢であることは変わりないのですよぅ。

はっきり申し上げまして、一分後、一秒後に敵の大規模攻勢が再開されても何の不思議もありませんよぅ」

/ ゚、。 /「しかしだね中佐、現在は戦時であり、戦時においては軍法上ドイツ軍の最高司令官は首相である私だ。最高司令官なら前線から離れるのはいかがなものか」

(=゚ω゚)ノ「最高司令官だからこそ後方に下がるんだよバカかお前鼻フックかますぞゴルァ」

/ ゚、。 /「あれ……私……首相……」

………仮にも国家首脳に吐いていい言動かどうかはノーコメントとして、イヨウ中佐の言葉は全面的な正論だ。

文民統制とやらの原則のために確かに多くの国が最高司令官に首相や大統領を添えているらしいが、結局のところ「民主主義」を守るための形式的な存在に過ぎない。

彼らは政治家であって軍人ではない、作戦指揮や用兵は当然専門外。はっきり言って、前線・現場に出しゃばられても邪魔になる。
199 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/18(木) 18:37:59.36 ID:qcFlP+vx0
(=゚ω゚)ノ「我々ドイツ国民にとって、首相だけでも生き延びて下さっていたのは奇跡に近い幸運なのですよぅ。

貴女に課せられた義務は現場で兵士達と命運を共にすることじゃない、崩壊した国を立て直し、惨事から生き延びた国民を導くことですよぅ。

この場は我々に任せて、一刻も早く避難して下さいよぅ」

/ ゚、。 /「………幸運、か」

イヨウ中佐の言葉に、首相は苦笑いを浮かべて俯く。

虚ろな、何も見ていない、外の避難者達と同じ瞳をしていた。

/ ゚、。 /「確かに、私は幸運だな。他の多くの者達の不幸と引き替えに、私は生き延びた」

ダイオード首相は、虚ろな眼を司令テントの出入り口に向ける。外から聞こえてくる、何千という避難民たちの足音に被せるように、彼女は言葉を吐き出す。

/ ゚、。 /「共に国政に携わっていた議員達も、私の周りを固めていたSP達も、皆死んだ。国民の命も、数え切れぬほど失われた。大統領閣下も安否不明だ。

海の底の化け物共に私達は国土を蹂躙され、今なおドイツ国民はその多くが危機にさらされている」

声の語尾が震え、彼女の視線がイヨウ中佐へと戻る。虚ろだった眼には、やりきれぬ怒りが込められていた。

/#゚、。 /「この上更にベルリン市民を、国民を見捨て、私に逃げろと!?無能で無力な私の代わりに奴らと戦う君たちを置いて、私に逃げろと言うのか!?」

(=゚ω゚)ノ「それが、首相の義務ですよぅ」

首相の視線を真っ向から受け止めながら、イヨウ中佐は言い放つ。

机の向こう側に身を乗り出し、負けず劣らずの怒りと決意を込めた視線を、首相にぶつける。

(=゚ω゚)ノ「そして我々軍人の義務は、“貴女たち”国民を、ドイツを、人類を害する敵に立ち向かうことです。

貴女の気持ちは解るが、ここは我々の仕事場だ」

/ ゚、。 /「………」

(=゚ω゚)ノ「首相」

イヨウ中佐は、椅子から立ち上がると首相に向けて陸軍式の敬礼を贈る。

(=゚ω゚)ゝ「ドイツを、ドイツ国民を、お願いします」
200 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/18(木) 18:44:32.63 ID:qcFlP+vx0







( ゚д゚ )「現在、ラインフェルト大佐指揮下の南部ドイツ軍はマンハイム・ニュルンベルクを絶対防衛ラインとした戦力展開を行っている。以北には俺たちの他、ドレスデンに混成一個旅団、さらにチェコ共和国軍からの増援部隊が展開しているはずだ」

ダイオード首相を車両移送のために送り出した後、俺たちはすぐに作戦会議に移る。

まずドイツ全域の状況を整理するため、南部から駆けつけたミルナ中尉、アメリカ軍として新たな情報を保持しているサイ大尉らがドイツ全土を記した地図を机の上に広げた。

( ゚д゚ )「それと、マンハイムを起点にフランクフルト方面にはイッシ=ストーシュル少佐指揮下の機甲部隊が攻勢に出ている。

とはいえ、あくまで陽動であって深海棲艦の撃滅は目的としていない。

……それと、フランス、ルクセンブルク、ベルギーは情報が入ってくる限りでは酷い有様だ。奴らにいいようにやられている」

(//‰ ゚)「一つ捕捉すると、西ヨーロッパへの深海棲艦の攻撃拠点はルール地方だ。奴らはこの地点を橋頭堡に、フランス方面を中心に大規模な攻勢を展開している」

サイ大尉は胸ポケットからボールペンを取り出し、地図上でルール地方の辺りをぐりぐりと塗りつぶした。

更に、オランダへと伸びる矢印を一本付け足す。

(//‰ ゚)「オランダの複数都市にも爆撃が行われたらしい。イタリア、ドイツと切り離されたことでコマンダン・テスト以外にまともな対深海棲艦戦力を持たない西ヨーロッパは防衛線すらまともに引けていない。デンマークも深海棲艦の攻撃により沈黙している。

暴動の拡大もとどまるところを知らない。このままいけばヨーロッパ全土が無政府状態に陥る時も近い。

あぁ、あと」

続けられたサイ大尉の言葉に、テントの中は静まり返った。

(//‰ ゚)「ミルナ中尉はもう聞いているかも知れんが、ロシア連邦は36時間以内にヨーロッパの混乱が治まらない場合戦略核の投射を非公式に示唆している。

それもこれは、あくまで“俺が聞いた時点で”の発表内容だ。もし正式発表を行っていたとすれば、あの気が短い大国は時間を繰り上げて発射するかも知れないな」
201 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/18(木) 18:48:54.18 ID:qcFlP+vx0
現状報告3

ドイツ、フランス等西ヨーロッパ諸国における人類側の展開状況



赤線:人類側の防衛線
赤矢印:人類側の戦力展開
黒丸:ルール地方
黒矢印:深海棲艦側の攻勢展開
202 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/18(木) 18:50:26.86 ID:qcFlP+vx0
深夜続き投下予定。

この話に関してはここから最終章という感じです。今少し、お付き合いいただければ幸いです
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/18(木) 19:09:35.90 ID:q25gopxyo
                                トキ
深海棲艦は普通に核とか「待っていたぜェ!!この瞬間をよぉ!!」
って言いながら自分のエネルギーに変えられそうだな
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/18(木) 19:45:42.43 ID:vQ2BFUfA0
おつおつ
イヨウ本当によく言ったよ…部下の命も守るべき国民の命も背負って立つとはいえ、最終的に託せる相手・政府が無いことにはどうしようも無いから…

それにしても欧州半壊(組織的抵抗や対応の有無)と、緊急事態において「人類側の共闘」も重要な要素なのに、初手で手酷く切り捨てる存在はなあ…
深海側の計略と物量に抗えないのと、人類側の要因含めて、決着がついても欧州全体での大改革必至だよなあ…
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2017/05/18(木) 21:31:12.16 ID:MUnYjnIA0

乙。

>>196
知らん。運があれば生きてるだろ?連邦大統領様?(嘲笑
206 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage]:2017/05/19(金) 01:05:23.63 ID:nRlmcOTF0
体調的な問題から深夜更新を延期致します。お待たせして申し訳ありません
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 01:12:50.05 ID:zqojlzEPO
構わんからまずは体調良くしてな
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 01:32:46.80 ID:ZoSVj3QBo
構わん、ゆっくり休め
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 02:03:08.06 ID:kjQXiE9A0
十分すぎる更新ペースなのだから無理せずにw
210 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/20(土) 11:07:44.78 ID:otGQSIH90
ξ;゚听)ξ「核………」

「そんな………」

サイ大尉の言葉に、ツンを初め何人かの士官が信じられないといった面持ちで呻き声を上げる。
  _
(#゚∀゚)「……っざけやがって」

(;-д- )「………」

そしてそれは、ミルナ中尉やジョルジュにも共通した表情だった。

('A`)「………中尉、一応聞きますがこの知らせは」

(;゚д- )「今初めて知った。知っていればラインフェルト大佐が黙っているはずがない。

おそらく俺たちがベルリン市に突入した後に入った情報だな」
  _
(#゚∀゚)「あのクソッタレのアル中国家め!したり顔の国家元首様共々脳みその代わりにウォッカでも詰め込んでるんじゃねえだろうな!?

他所の国だからって好き勝手やりやがる!!」

ジョルジュはやり場のない怒りを拳に込め、机に叩きつける。置かれていたボールペンや定規が撥ね、カタリと音を立てた。
  _
(#゚∀゚)「深海棲艦との戦争中に人間同士で争ってる場合かよ!!本気で何考えてやがんだあいつら!!」

(=゚ω゚)ノ「欧州の失陥は艦娘戦力に乏しいロシアにとって死活問題に直結するよぅ、先日アメリカや日本と防共協定を結んだ矢先にこれほど思い切った動きを見せているのは、それだけ彼らにとってこの“危機”が深刻である証拠だよぅ。

僕は、彼らの立場も理解するよぅ。国際協調も必要だけれど、“ロシア”という広大な土地に住まう国民を守るためには時に独善的とも取れる判断に走りざるを得ないこともあるよぅ」
  _
(;゚∀゚)「……っ」

イヨウ中佐は、淡々とそう述べながら一心に地図を見つめ続ける。咎めるでも同情するでもない、平坦な声にかえってジョルジュは気圧されているようだった。

(=゚ω゚)ノ「“国家間に真の友人はいない”───シャルル=ド=ゴールの言葉だよぅ。

ロシアとドイツは別に友人じゃない、ただの“共通の敵を持つ国家同士”だよぅ。正式には同盟すら結んでいないんだよぅ。

その共通の敵が、自分たちの国のすぐ傍で圧倒的な内地浸透能力を手に入れつつあるという現状で、“ただの他国”に配慮しろってのが無理な話だよぅ」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 11:21:56.22 ID:cFWM0aJR0
イヨウ中佐、政治家としても優秀そうだな
212 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga sage]:2017/05/20(土) 11:22:59.91 ID:otGQSIH90
  _
(;゚∀゚)「───、ですが」

(=゚ω゚)ノ「ジョルジュ=オッペル陸軍少尉、お前はいつから国際政治の評論家になった?」

イヨウ中佐は突然顔を上げ、尋ねる。

独特の語尾もなく、少しドスの利いた、はっきりとした口調での「詰問」。さっき首相を説得していたときよりも更に険しい目つきで、加えて言えば頬も僅かに紅潮させて中佐はジョルジュを睨み付けていた。

俺はこの数時間で初めて、明確に「怒り」を露わにした中佐を目にした。

(=#゚ω゚)ノ「少尉、貴様の政治思想なんてどうだっていい。貴様がどこまでわめき散らしても、祖国に訪れる危機もロシア政府の決定も覆らない。

変わらない現実を嘆くのではなく、祖国と国民を守るために全ての力を注げ!それが貴様に、今課せられた仕事だ!!」
  _
( ゚∀゚)「…………」

一瞬の沈黙の後、ジョルジュはさっと背筋を伸ばして中佐に向かって敬礼した。
  _
( ゚∀゚)「Jawohl!!」

ジョルジュに限らず、中佐の檄に誰もが目の色を変えて地図に向き合い、各自が必死に頭を回転させる。

(;'A`)「………!」

本当はこの会議をしている時間さえ惜しいが、状況を見極めず闇雲に動いても事態は間違いなく悪化に繋がるだろう。逸る気持ちを抑えて、俺もまた身を乗り出してどこかに活路はないかと隅から隅まで地図を凝視する。

決定されたのは、あくまでも“36時間後の”核兵器の投射だ。サイ大尉が言うとおり繰り上げの可能性も否めない以上安心するわけにもいかないが、逆に言えば流石にロシアも国際的な批判を“完全無視”と決め込めるほど戦力に余裕はない。

特に、アメリカと日本がロシアの核兵器使用に沈黙しているとは思えない。

アイオワが実装されるまでは艦娘抜きで深海棲艦の攻撃をほぼ完全に退けてきた超大国と、二万隻越えとも言われる艦娘戦力を保有する【東洋の盾】との関係が決裂すれば、現段階では駆逐艦ヴェールヌイしか所持していないロシアは国防計画に致命的な傷を負うことになる。

加えて言えば肝心のヴェールヌイさえ、日本の駆逐艦響が改造されたものを一部転用して貰っている身の上だ。日本との関係が断絶すれば、今後ロシアは艦娘の補充も整備も遙かに劣る自国の技術で行わなければならない。

つまり、ロシアは核兵器を“即座に”使うことはあり得ない。アメリカへの非公式通知が大尉達が突入する前に布告されたものとなれば、まだ2時間も経過していない。国際社会に“我慢”としてアピールするには、流石に間がなさ過ぎる。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 11:27:43.22 ID:siFc81yY0
誤爆にワロタ
214 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga sage]:2017/05/20(土) 11:27:55.04 ID:otGQSIH90
(;'A`)(……とはいえ、日本とアメリカだってヨーロッパが橋頭堡として完全に掌握されるのを防ぎたいのも同じなはずだ)

アメリカ軍が実際にドイツでの作戦を実行していることを考えても、ヨーロッパ全体の状況は良くない。現在の戦況によっては、アメリカは寧ろ積極的に核を投射したいとすら思っているかも知れない。

ロシアがわざわざ“汚れ役”を買って出てくれるのだ。「ロシア連邦の独断」という名目でいよいよとなれば核発射が黙認される可能性は低くない。

ロシア側の「言い訳」と、アメリカ側の「メンツ」が折り合う丁度良い時間は────

( ゚д゚ )「……20時間、ってところだな」

俺と同じ結論に至ったらしいミルナ中尉が、ぽつりと呟く。

ξ;゚听)ξ「核兵器の発射時刻ですか?それならさっきサイ大尉が36時間後って……」

( ゚д゚ )「ヨーロッパの状況は地図上に記されている時点からおそらく更に悪化している、少なくとも好転はあり得ない。

通信が繋がらずベルリン市外の状況は未だに確認できないが、逆に言えばそんな状態が今なお続いていることが形勢不利の証左だ。ロシアが国際社会に“最大限の我慢”をアピールしつつ核発射の時間を切り上げるとして、おそらく20時間が妥当なラインだ」

「そう言えば、僕たち以降南からの増援が全く来てないね」

ミルナ中尉の分隊に加わってベルリンに派遣されてきたレーベレヒト=マースも口を開いた。幼いのは外観だけで、ツンと交戦していたル級にトドメを刺したという武勲艦はかなり肝が据わっているらしい。

彼……ゲフン、彼女は指揮所の張り詰めた空気の中でも臆することなく声を張った。

「僕は陸軍のことをよく知らないけれど、あのラインフェルトっていう大佐がとても優秀な人であることはなんとなく解りました。

あの大佐なら、僕らの増援によって好転したであろうベルリンの状況を見逃すとは思えないです」

「更なる援軍でたたみ掛けるべきタイミングに、ドレスデンからさえ兵を動かさない……いや、動かせないということか」

グラーフの人差し指が、苛立たしげに机を叩く。

「おそらく、我々が聞いた時点よりもフランス方面の情勢が悪化していると見た方がいいな。ルール地方の敵勢力が相当増強されたか?」

(=゚ω゚)ノ「───“増強”というより、“生産”の方が近いよぅ」
215 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga sage]:2017/05/20(土) 11:36:12.33 ID:otGQSIH90
「………生産?深海棲艦が何を造っているっていうの?」

(=゚ω゚)ノ「言うまでもない、“深海棲艦”に決まっているよぅ」

首をかしげて尋ねるビスマルクに答えながら、イヨウ中佐は黒く塗りつぶされたルール地方を指し示した。

(=゚ω゚)ノ「そもそも、深海棲艦が“ただの前線拠点”として使うにはルール地方は遠すぎるよぅ。この襲撃が始まった直後から電撃的に内地に兵力を送り込んでいたと仮定しても、サイ大尉達アメリカ軍が到達するまでに集結できる兵力はたかが知れてるよぅ。

ましてや、北も完全に抵抗が止んでいたわけじゃない。統率が取れていないとはいえ艦娘やドイツ軍の抵抗を受けてそれほどの戦力を南下させる余裕があったとは思えないよぅ」

中佐の指が、ノルデンの辺りとルール地方を行き来する。紙の地図上ではほんの2cmに過ぎないその“間”に、現実は200kmの距離が横たわる。

確かに、深海棲艦が他の地域へ大規模攻勢もかけられるような兵力を逐次投入できる距離ではない。

(=゚ω゚)ノ「深海棲艦の今回の目的は、おそらく最初からこのルール地方───更に言うならここにあった国営艤装工場。他の場所への攻撃は、ここから人類側の注意を背けるための陽動攻撃だよぅ」

(//‰ ゚;)「相当強固な拠点になっているとは思うが、流石に生産拠点というのは突拍子もなさ過ぎませんか?それに、生産拠点だったとしても奴らの自己増殖速度が常軌を逸している。前段階の拠点化速度も尋常じゃない」

(=゚ω゚)ノ「深海なんていう過酷な環境下にあって、物量面では常に人類を圧倒し続けている化け物共だよぅ?

“生ける軍艦”の製造技術は、間違いなく奴らに分がある」

サイ大尉の反論を、中佐は一蹴する。

(=゚ω゚)ノ「ルール地方は今や深海棲艦の一大製造拠点として機能していると見て間違いないよぅ。断言するけど今後、フランス方面並びにドイツ南部の戦況が好転することはない。

北沿岸のアメリカ軍に関しても、既に損害を受けて退却している可能性が高いよぅ」

ξ;゚听)ξ「……じゃあ、もう36時間以内の事態解決はおろか私達完全な孤立無援じゃないの。挽回のしようなんて」

(=゚ω゚)ノ「あるよぅ」

バサリと、二枚目の地図が───ベルリン市街地の地図が机の上に広げられる。
216 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/20(土) 11:46:56.34 ID:otGQSIH90
undefined
217 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga sage]:2017/05/20(土) 11:50:12.28 ID:otGQSIH90
(=゚ω゚)ノ「物量面で我々が圧倒されているにしろ、向こうが損害を全く恐れないというわけではないよぅ。深海棲艦側にとっても、流石にelite以上の戦艦・空母や【姫・鬼】といった等級の損失は絶対に避けたいはずだよぅ。

現に、敵は未だに戦力再編と他地域からの戦力補充のために活動を停止している。

このベルリン市に来ている姫級────西側で確認された、“軽巡棲姫”の安全を確保するために奴らの増援が到着するまでは、今の防衛的な展開は続くよぅ」

中佐の掌がミッテ区に置かれ、そのまま左側へと滑る。

(=゚ω゚)ノ「同時に姫を割くということは、ベルリン攻撃は陽動ではあっても本気度は低くない。“重要攻勢地点で姫級が沈んだ”、この事実を深海棲艦に突きつけることが出来れば、ルール地方を含めたドイツ全域の深海棲艦の動きを確実に鈍化させられる。

同時にベルリンを解放することが出来れば、市外と通信を取ることで残存戦力と連携して北部全体での反撃にも繋がるよぅ」

拳を握りしめ、中佐は勢いよくそれを再びミッテ区の位置に叩きつけた。

その細身のどこにそんな力があったのか、机がミシリと少しいやな音を立てる。

(=#゚ω゚)ノ「戦力的劣勢は否めないどころの話じゃない。奴らはあくまで大事を取ったに過ぎず、未だ僕らは吹けば飛ぶような圧倒的劣勢だ!

だけどだからこそ、僕らはこれより総攻撃に出る!!どれほど微かでも、この好機にすがる!!

ヨーロッパ全土の劣勢を覆すには姫級を短時間で撃沈するという大戦果を上げるほかない!!」

喉の奥から、身体の底から、絞り出すような叫び声。

それはこの策が、中佐の全力をかけて練られたものであるという証。

(=#゚ω゚)ノ「作戦の最終目標はただ一つ、軽巡棲姫の撃滅とベルリンの奪還だ!各位、持てる力の全てを駆使し課せられた使命を遂行せよ!!」

「「「……Jawohl!!」」」

(=゚ω゚)ノ「……ヴォーグルソン大尉、申し訳ないけれど君の部隊にもデレ中尉同様有無を言わさず作戦に参加して貰うよぅ。今の僕らにとって、“最強の国”の兵士200人は必要不可欠な戦力だよぅ」

(//‰ ゚)「言われるまでもないことです、中佐」

中佐の言葉に、サイ大尉は少し芝居がかった笑みを浮かべ胸板を叩いてみせた。

(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊に、退却はありません」
218 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/20(土) 12:27:26.09 ID:otGQSIH90






「────Attention!!」

雨の中に佇む、「世界最強の部隊」の名に相応しい鍛え抜かれた体躯を持つ200人。彼らは副官の号令に従い、一斉に彼らの指揮官────サイ=ヨーク=ヴォーグルソンの方を向く。

(//‰ ゚)「────俺たちはこれより、在ベルリンドイツ軍の指揮下に入りこの街の奪還作戦に参加する!!」

何の前置きもない、いきなりの宣言。だが、誰も動揺は見せない。それは彼らの隊長の「いつもの姿」だからだ。

(//‰ ゚)「先に言っておく、俺たちの勝算は薄い!なぜなら敵は手強く、多く、そして賢い!!

俺たちの側には10人の艦娘が着いているが、奴らはその何倍か見当もつかん!!戦艦はただの一隻だ!!

俺たちは彼女らの盾となり、囮となり、そして死ぬために作戦に赴く!!

それも祖国の地じゃない!遠く離れたヨーロッパの、俺たちには縁もゆかりもない場所で、言葉を交わしたことすらない人々のために俺たちは死ぬ!!」

飾りもごまかしもない、厳しい任務の宣告。だが、誰も恐怖は見せない。それは彼らの部隊の「いつもの任務」だからだ。

(//‰ ゚)「だが、俺たちはアメリカ海兵隊だ!!

俺たちの任務は、“敵”を殺すことだ!!そして今、この街にいる深海棲艦の奴らは、間違いなく俺たちの敵だ!!」

サイは、真っ直ぐにベルリンの西側を指さす。

黒煙が濛々と上がる街並みを指し示しながら、彼の眼は怒りに燃えていた。

(//‰ ゚)「奴らに殺されたのは、顔も、名前も知らない人々だ!だが、同時に、生きていたとしたらどこかで俺たちのかけがえのない友になったかも知れない人々だ!」

(//‰ ゚)「任務に疲れた俺たちと、どこかの街角で美味いビールを酌み交わしていたかも知れない人々だ!!」

(//‰ ゚)「軍を退役した俺たちと、ポップコーンをかじりながらTBLの試合を見ていたかも知れない人々だ!!」

(//‰ ゚)「今日この日がなければ、明日も明後日も、1年後も10年後も、どこかで誰かと笑い合っていた人々だ!!」

(//‰ ゚)「あの化け物達が奪ったのは!顔も名前も知らぬ人々の、だが間違いなく存在した命だ!!」

理性も理論も無い、感情的な叫び。だが、誰も怒りの表情を隠さない。

全員が、サイと同じ気持ちだからだ。
219 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/20(土) 12:41:11.69 ID:otGQSIH90
(//‰ ゚)「俺はお前らに、合衆国への忠誠なんてくだらんものは求めん!!人類への貢献なんて吐き気を催すものは求めん!!

だが思い出せ!!俺たちはなんだ!!」

「「「We are United States Marine Corps!!」」」

(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊は!?」

「「「Retreat “No”!!」」」

(//‰ ゚)「海兵隊の心得は!?」

「「「Once a Marine, Always a Marine!!」」」

(//‰ ゚)「俺たちの任務は!!?」

「「「Kill the enemy!!」」」








(#//‰ ゚)「Ok, Let's Go guys!!」

「「「Sir yes Sir!!」」」
220 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/20(土) 12:42:57.22 ID:otGQSIH90
復活更新ここまで。ご心配おかけしました、体調無事回復しました。

あと誤爆本当に申し訳ありませんでした……
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 13:07:21.70 ID:siFc81yY0

復活おめ
誰でも何回かやるからキニスンナ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 13:57:33.96 ID:cFWM0aJR0
やだ、海兵隊かっこいいww
穴掘られてもいいわ
この話にはこんイベ新艦のガン子は出ない感じなのかね
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 14:16:03.73 ID:Yl56C72xo

イヨウはいい指揮官だな
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 21:32:42.31 ID:Uz+74rcMo
乙!
やだ……かっこいい
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 02:07:38.33 ID:dDGal2BA0
おつです!
元々国家や軍隊によって保たれ、多くの国民が享受してきた平穏があるのだから、国に尽くし誰かのために命を賭ける存在は立派であり尊敬されて然るべきだし
平時においては好き勝手に貶めようとする連中が居ても、最後の最後に国民のために立ち向かうだけの研鑽を積んできたのだから覚悟のそれが違うしね…
それこそ自衛隊だって実戦こそないけど、国民のために流してきた汗と救ってきた全ての物を考えてみたら、不当に貶め続けるマスゴミや左翼連中がどんだけ異常か
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 09:02:38.75 ID:xm+bhM/S0
乙です

>225 いいこと言うね
自衛隊のいい所はその銃剣で殺した人間は零ですくった人間は数多くって所だと思う
世界の何処をさがしてもそのような軍隊はない(公式には軍隊と言えないのはスルーしてね)
227 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/21(日) 14:16:54.99 ID:Ffb9jAHh0








「ねえ、貴女は何のために戦っているの?」

「…………へ?」

避難民の警護役として駆逐艦の子たちと一緒に配置についていた私に、その問いは唐突に投げかけられた。

私の目の前には女の子が二人、東へ流れていく人混みから一歩外れた位置で立っている。

一人は見覚えがある。確かビスマルクお姉様と一緒に戦車に乗っていた子だ。お姉様はエミと呼んでいたかな?

エミは赤みがかった二の腕辺りまで伸びる髪をツインテールにまとめ、勝ち気そうなブラウン色の眼を僅かに細めて私を見つめてくる。顔立ちは少し幼い感じがして、なんとなく以前出会った日本の駆逐艦娘たちと似通った雰囲気がある。もしかしたら東洋人の血が混じっているのかも知れない。

从;゚∀从

隣に立っているもう一人の子は、髪型が真っ先に眼を引いた。美しい金色の髪を左側だけ極端に伸ばして、顔の半分を覆い隠している。肌は健康的に日に焼けていて、少しボーイッシュな印象だ。

そして……何というか、うん。首から下の“凹凸”がとてつもない。

多分、エミの発育だって彼女たちの世代にしてはいい方だと思う。ただ、彼女が隣に並んでしまうとまるで大人と子供のよう。

二人とも、世事に疎い私でも名前を知っている戦車道の強豪学園艦の制服に身を包んでいる。おそらく学友なのだろう。
228 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/21(日) 14:19:39.35 ID:Ffb9jAHh0
「……貴女、艦娘のPrinz Eugenでしょう?」

「……ふぇっ!?あ、う、うん!!」

質問の意味を理解しかねてワケも無く二人を観察していた私に、エミはもう一度問いかけてきた。ビスマルクお姉様やデレ中尉にも向けられていた、少し険のある声音。じぃっと此方を見つめてくる一対の瞳に気圧されて、艦娘ともあろうものがたじろいでしまう。

「ええっと、さっき戦車に乗っていた子だよね?あー、もう間もなく私達の方で反撃作戦が始まるし、できれば早く避難して欲しいんだけれど……」

从;゚∀从「あーーっ!そうっすよね!!いや、本当に連れが任務中にご迷惑をおかけします!」

おそるおそる切り出した私の言葉に、被せるようにして金髪の子が応じる。彼女は申し訳なさそうに私の方に目配せしながら、エミの袖を引っ張った。

从;゚∀从「ほらエミ、とっとと逃げるぞ。それに仕事の邪魔しちゃまずいって」

「だったらハインだけ逃げて。私はこの質問が終わったら後から行くわ。ここは私を残して先に行きなさい」

从;゚∀从「ものすげぇテンプレな死亡フラグ屹立やめろよ……お前たまにとてつもなくベタだな……」

「うっ、うるっさい!!」

金髪───ハインと呼ばれた子の手をエミはふりほどく。そう力のこもった動きではなかったけれど、ハインは諦めたようにため息をついて一歩下がる。

「質問の答えを聞いたらすぐに避難するわ、それにどうしても答えたくないならそれで構わない。でも、もし答えられるのなら教えて。

貴女は何のために戦っているの?」

「………その前に一つ言わせてね。私ね、ベタにはベタの良さがあr痛ぁっ!?」

「今そのフォローはいらんわ別に!」

頭をひっぱたかれた。うー……指摘された辺りから顔が真っ赤だったから少し気を遣ったのに……

::从* ∀从::「ゴッ、グフッ、ヒーッヒーッヒーッ」

因みに横ではハインが腹抱えてメッチャ笑ってた。あ、エミが肘入れた。

痛そう。
229 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/21(日) 14:21:22.97 ID:Ffb9jAHh0

「そっれっでっ、どうなのよ!?答えてくれるの?!くれないの!?」

「…………うん」

別に、答えても支障は無い。それで納得して素直に退くのなら、私は今すぐにでも彼女に求める答えを与えるべきだろう。

だけど私は、Prinz Eugen-09は、“答えられない”。

艦娘としてそう定められているから、私は今深海棲艦に立ち向かっている。目の前でドイツに住む人たちを死なせたくないという思いも抱いてはいる。

でもそれらは、私が“自分がどんな存在なのか”を考えないようにするための気休めだ。私は“艦娘”だから戦うんだと言い聞かせていれば、余計なことを考えずにすむからという逃避だ。

だとしたら、艦娘としての使命の下に戦っているわけでも人間としての矜持の下に戦っているわけでもない私は、結局のところ「何」になるのだろうか?

「………ちょっと、プリンツ?貴女大丈夫?」

「ふぇあっ!?」

ぐるぐるとまとまらない思考の波に呑まれた私の肩を、誰かが叩く。

ふり向くと、ビスマルクお姉様が立っていた。

「お、お姉様!?何でここに!?」

「貴女を呼びに来たのよ。ゲリッケから作戦配置につくよう指示があったわ。具合が悪いように見えたけど、そんな大声が出るなら大丈夫ね……あら、エミにハインじゃない」

お姉様はエミ達の姿を見て、少し目を丸くする。いつもニコニコしているこのお姉様にしては珍しく、少し眉間に皺を寄せる。

「貴女たち、こんなところにいないで早く避難しなさい。せっかく私とグラーフが守った命なんだもの、大切にして貰わなきゃ困るわ」

从;゚∀从「悪りい、オレはさんざん逃げるように言ってんだけどフロイラインが頑固でさ。エミ、いい加減にしようぜ」

「あんた人にテンプレだの何だの言っといて自分は思いっきり死語使ったわね……解ってるけど、本当にあと少しだけ待って。

───あのさ、ビス」

「ん、何かしら?」

おいちょっと待てビスって何だ愛称呼びってなんだ私のお姉様といつの間にこんな親しくなりやがったこの小娘おい待てゴルァ!!

「ビスは、何のために戦っているの?」
230 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/21(日) 14:36:57.16 ID:Ffb9jAHh0
エミの問いかけに、ビスマルクお姉様は心底不思議そうに眼をパチクリさせた。可愛い。

「私が戦う理由って………そんなもの、貴女たちドイツ国民を、そして世界中の人間を深海棲艦から守るために決まっているわ。それ以上の理由なんて」

「でも、それを望んでいない人間も大勢いる」

お姉様の言葉を遮り、エミは少し強くなった口調で問い詰める。

「私とハインは、勿論ビスにもグラーフさんにも感謝してる。二人が、艦娘の皆がいてくれて良かったって思ってる。私の家族や周りの人たちも、皆貴女たち艦娘に感謝していた。

でも、貴女が守りたいと言ったドイツ人の中には、貴女たちのことを亡霊とか悪魔とか、兵器とか呼んで蔑んでいる奴も大勢いるわ」

視界の端、エミの後ろで、流れていく人混みの何割かがびくりと気まずげに身を震わせたように見える。

从;゚∀从「おい、エミ!!」

「………すっごく酷い質問をしてるって解ってる、ごめんなさい。だけど、知りたいのよ。認められず、蔑まれて、疎まれて、終わりは見えなくて、それでもなんで貴女は戦うの?なんで戦えるの?」

从;-∀从「………」

「お願い、時間が無いだろうけど───少しでいいの、教えて頂戴」

………エミは「酷いこと」と言ったけれど、彼女の指摘は完全な事実だ。

私やビスマルクお姉様や、世界中の艦娘達が「戦う船」として経験した、人類同士による大きな戦争。80年近く前に起きたその戦争から、私達は人の姿を得て蘇った。

深海棲艦という、強大な力を持つ敵から人々を守るために戦う日々。だけど、私たちに守られることを、私たちが「艦娘」として蘇ったことをよく思わない人々がいる。

平和と人道を叫び、「あの人」の名の下にハーケンクロイツを掲げていた時期のドイツを忌むべき時代だと論じるその人達。彼らは私やビスマルクお姉様、或いは日本の艦娘達を「第三帝国の亡者」と呼んで、出て行け、もう一度鉄屑に戻れと罵る。

その声は数が多いわけじゃない。けれど、決して少なくも小さくもない。

そして、日頃はその叫びに眉を顰めているような人々でも、実際に私達と出会うとその視線は淀んでそっぽを向く。
231 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/21(日) 14:52:39.24 ID:Ffb9jAHh0
守ってくれるのは解っている。だけど、貴女は「恐ろしい兵器」だから。

深海棲艦と戦ってくれて感謝している。だけど、貴女は「忌まわしい記憶」だから。

いろいろな人たちが私達に向ける「感謝」は、多くの不純物が混じって粘ついて。

当然の反応と解っていても、私は胸に纏わり付いてくるような“不純な感謝”にますます迷いを深くする。

自分に向けられたモノでは無い問いに、それでも自然と私は俯いてしまった。

(……………でも、なんでそれを、今このタイミングで聞きたいんだろう?)

私にはなんだか、エミはその問いかけをエミ自身にも向けているような気がした。

「ええ、そうね。確かに私たちの事を嫌ったり、疎んだり、一刻も早く消えて欲しいって思っている人はいるわ。

それも何人、何十人なんてレベルじゃない、きっと何百万人。世界中に目を向けたら何億人かもね」

下を向いた私と違って、ビスマルクお姉様はエミの問いから、視線から逃げなかった。お姉様は微笑みながら、エミを真っ直ぐに見返す。

「自分が世界中から無条件に感謝されるヒーローだとは思ってないわよ最初から。でもね、それは私が戦いをやめる理由にはならないわ」

「……それは、なんで?」

「彼らもドイツ人で、人間で、艦娘である私が守らなきゃ行けない存在だからよ」
232 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/21(日) 15:18:40.11 ID:Ffb9jAHh0
お姉様は、エミの後ろ────東へと逃れていく人々の姿に目を向ける。

「かつて私達が海の上に掲げて戦ったハーケンクロイツは、今のドイツにとっては思い出したくない記憶だと知ったときは、流石に私もショックだったわ。快く思わない人に罵詈雑言を受けて、傷ついたことだってある。……でもね、エミ。それは当然のことなのよ」

お姉様は優しい笑顔で、エミの肩を叩く。いつもと少し違う、諭すような口調で語りかける。

「人間は全員が違う考えを持っている。私達が船だった80年前だって、正義の旗印だった鍵十字を嫌い罵倒していた人たちはいたんだもの。たとえ私が完璧超人のヒーローだったとしても、きっと世界のどこかで私をよく思わない人はいるはずよ。

私がzweiへの改修を受けた日本では、あの国の軍人達は私なんかより遙かに酷い罵倒を受けていたわ。勿論浴びせてた人間はごく一部だけどね。

でもそれは、その人たちが生きているからこそ抱く感情なの。

私達艦娘は、そしてドイツ軍は、世界中のカメラードは、彼らが生きて、私達を罵倒する権利も守るために戦うのよ」

お姉様はエミの眼を真っ直ぐに見つめ、決意に満ちた声で告げる。

「それに、たとえ戴く旗が変わっても、ここはドイツ人が住まう地よ。

たとえ時代や意見が違っても、貴女たちは“あの人達”が80年前に守ろうとした国の国民よ。

だから私は、誰に認められるとか認められないとか関係ないわ。

私がBismarck zweiである限り、絶対にこの国を、この世界を、貴女たちを守ってみせる。

“あの時”できなかったことを、今度こそやり遂げたいの」
233 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/21(日) 15:38:05.24 ID:Ffb9jAHh0
「………」

从 ゚∀从「………エミ、流石に本当にもう時間が無い。行くぞ」

「う、うん………ビス、その、仕事の邪魔してゴメン」

「あら、1人前のレディたる私は気にしないわよ。寧ろ、作戦開始前にリラックスできたわ」

あっけらんかんとした口調でそういって、お姉様はひらひらと手を振る。エミはハインに手を引かれ、私達に一度頭を下げると避難民の列に戻っていった。

私は日本の駆逐艦娘がやっていた、“お辞儀”という挨拶を思い出す。やはり、エミには日本人の血筋も流れているのかも知れない。

もしかしたら、そのせいで彼女も学園艦や生活の中で何かの形で差別を受けたのかも知れない。それが、あの唐突な私やお姉様への問いに繋がったのだろうか。

「………さ、ホントに時間も圧してきたわ。いきましょうプリンツ」

エミ達が人ごみに呑まれて見えなくなると、お姉様はそう言って私の背を叩く。

─────帽子を目深く被り、艤装を展開して西の空を睨むお姉様の眼光は、先程までと一転して凜々しく、鋭い。



「さぁ、80年前のリベンジよ」
234 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/21(日) 16:05:05.14 ID:Ffb9jAHh0





《遅れてごめんなさい、Bismarck zwei、配置についたわ》

《Prinz Eugen-09、同じく!》

《なあにギリギリだが予定時刻には間に合ってるさ。俺たちニューヨーク・ヤンキースはいつでもプレイボールに対応可能だ》

《お生憎だなサイ大尉、ドイツ人はクリケットは嗜むが野球はあまりやらないんだ。迫撃砲隊、全砲稼働準備完了!》

《Graf ZeppelinよりCP並びに前線各隊に通達、全機の整備・発艦準備を完了した》

《コンツィ中尉、各分隊整列完了しました!》

《よし、CP、此方ノイケルン区。敵制圧区域への突入態勢を取りました》

《西街区から逃げ延びてきたレオパルトとプーマはどうした?》

《プーマは三両中二両を前線に新たに配置、一両は後衛に予備戦力として配置したわ。レオパルト1は私の指揮下に組み込んである》

《OK. 前線指揮車よりCP、全区画戦闘態勢ヨシ。繰り返す、全区画戦闘態勢ヨシ》

《CPより指揮車、了承したよぅ。────作戦を開始せよ》

「了解。

指揮車より、全部隊に通達」







(#'A`)「───────Angriff!!」

《《《《Jawohl!!》》》》
235 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/21(日) 16:06:40.16 ID:Ffb9jAHh0
今更新ここまで。続きは夜辺りで。

ようやくKriegのお時間です
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 16:28:30.10 ID:dDGal2BA0
おつおつ
これだけ役者も揃って、陣頭に立つドクの姿を想像して笑ってしまったw
自衛隊の逸話(と言うかコピペ)でもあるけど、やっぱ誇りある軍人達ってかっこいいよなあ…
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 19:52:43.13 ID:xm+bhM/S0
乙でございます

自衛隊の話は色々とあるよねぇ
和む話も多いけど
和む話はあぁ、うん、自衛隊だものってなるわ
238 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/22(月) 00:24:55.75 ID:i/R4/LC00
《アメリカ国防省は先程、ドイツ・フランス北部にて行われた深海棲艦への攻撃作戦が失敗したことを正式に発表しました。未だ正確な損害は判明していませんが、第六艦隊は少なくとも30%以上の戦力を損失したとみられ、艦娘に轟沈者が出ているとの情報もあります》

《フランス政府は政府機能をパリからル・マンに移転、領内に侵攻する深海棲艦に対し総力を挙げた徹底抗戦を宣言しています。しかしながら東部における戦況は絶望的で、国民の混乱と恐慌による暴徒化・治安悪化は歯止めがかかりません》

《NRKよりベルゲンから最悪の映像をお送りします!深海棲艦の攻撃が、遂にノルウェーに到達しました!激しい爆撃です!見たことも無い黒い戦闘機が街の上を飛び回っています!》

《ノルウェー政府は国内に残存する全ての陸海軍に厳戒態勢を命じると同時に、空軍機をスクランブルさせました。また、スウェーデン、フィンランドにも共同迎撃を要請しているとのことです》

《フィンランド政府は要請を受諾、待機中の全空軍にベルゲンへの出撃を通達しました》

《スウェーデン空軍はリドショーピング=ソーテネス飛行場の第7航空師団投入を決定。サーブ39が次々と基地から飛び立っていきます》

《イタリア各地に広がる艦娘排斥を目的としたデモと暴動の波は、遂にナポリで市民の大規模な武装蜂起に伴う市街戦に発展しました。

イタリア政府は、このナポリにおける騒乱は反艦娘を標榜する国際テロリストと、彼らを支援するマフィアが暴徒を煽り決起に繋げたものであるとして陸軍並びに警官に武力による鎮圧を許可しています。

また、一連の事件によってイタリア国内の指揮系統が混乱。ドイツ南部への増援部隊派兵が大きく遅れる見込みです》
239 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/22(月) 00:27:06.04 ID:i/R4/LC00






シュプレー川を越えた瞬間に、降り注いでくる砲弾。完璧な統制で横一列に放たれたそれらは、雨の中に美しい放物線を描いて俺たちに迫る。

(*;゚∀゚)《掴まってなお客さん!!》

(;'A`)「おおっう!!?」

甲高いスリップ音を響かせて、エノクが道脇の家屋に車体を叩きつけるようにしてカーブ。本来俺たちが走り抜けるはずだった進路上で爆炎が立ち上り、車体が一瞬浮遊する。

(*゚∀゚)《よいしょっしょぉ!!》

そのまま、眼前に連続して突き刺さった砲撃の隙間を縫うように蛇行しつつ、ツーは一気に路上を駆け抜ける。

(#'A`)「後続車、損害報告!!」

《全車両健在!お宅のスーパードライバーが引きつけてくれたおかげです!》

(#'A`)「一つ注意だ、こいつはスーパードライバーの前に“美人”って形容詞を付けないと機嫌が悪くなる、気をつけろ!!

突入10秒前!総員展開用意!!」

《Jawohl!!》

《Yes sir!!》

整地時速96km/hの軍用車にとって、2kmを越えるかどうかの距離は1分少々で0にできる間合い。

俺達の車両を先頭に、三台のエノクが弾丸の如くフランス広場に飛び込んだ。
240 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/22(月) 00:28:27.22 ID:i/R4/LC00
俺とツンがリ級に襲撃をうけた当初から、広場の様子はほとんど変わっていない。

庭石のようにそこかしこに突き刺さる瓦礫、積み重なった屍、潰れ拉げた戦車道展用のテント、吹き飛ばされ崩落したブランデンブルク門、そして動かす者がなく、雨と屍臭の中に虚しく放置された戦車達。

ほとんど全てがそのままだ。

かろうじて光景の変化を見いだすとすれば、雨に洗われて地面に広がっていた血の赤がなくなったことと───

『───ガアッ!!』

『『ォオアアアアッ!!!』』

門の前に佇む、3体の番犬が増えたことぐらいだ。

《イ級elite、それから随伴のハ級通常種。何れも後期型です!!》

(#'A`)「速やかに半包囲、射撃開始!!」

『ォオオアアッ!!!』

指示を出しつつ、中央に仁王立ちするイ級eliteに照準を合わせてラインメタルMG3の引き金を引く。弾丸が奴の装甲上で弾け、此方に注意を向けたイ級eliteが威嚇の咆哮をした。

「Los Los Los!!」

(#//‰ ゚)「Fire, fire!!」

その間に、車内から飛び出したサイ大尉たち歩兵の一団が一斉に広場に散開。瓦礫をバリケードにしながら、アサルトライフルで射撃しつつ奴らとの距離を詰めていく。

『グォオオッ!!』

『アァアアッ!!』

「Enemy shot!!」

(#//‰ ゚)「瓦礫で防げ!姿勢を低くしろ!!」

イ級達も下腹部や側頭部から艤装を展開。突き出された機銃が火を噴き、瓦礫やアスファルトを砕き削る。水ぶくれした死体が弾けて散らばり、はやくも腐乱しだしているぶよぶよした白い肉を鼻がねじ曲がるような匂いと共にまき散らした。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 01:01:35.03 ID:XR6y538t0
フリードリヒ大王「案ずるな我が子らよ! ブランデンブルグの奇跡をもう一度信じなさい!」
242 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/22(月) 01:10:08.58 ID:i/R4/LC00
(#'A`)「迫撃砲隊、砲撃開始!目標、フランス広場!!」

《砲兵陣地了解、衝撃に備えよ!》

背後から響いてきたズンッ!という地鳴りのような砲声。程なくして、今度は味方の砲弾が曲線を描いて飛来する。

『ォオオオッ!?』

『ウォオオオ………』

立て続けに炸裂する、10発を越える120mm砲弾。通常種の装甲と耐久では為す術も無く、背面から黒煙と肉片を吹き出しながら二体のハ級は広場に横倒しとなって息絶えた。

『ヴヴァアっ……』

そしてeliteといえども所詮は駆逐艦。俺たちや海兵隊に気を取られていて回避や防御が出来ず全弾が直撃したことも有り、明らかに大きな損害を受けた様子でゆっくりと後退る。

当然、逃がさない。

('A`#)「────Graf!!」

《抜かりはない!!》

軽快なレシプロエンジン音を響かせて、頭上十数メートルの位置を駆ける4つの小さな影。

Fw 190───メッサーシュミット、スツーカと共に連合国を震え上がらせたナチス・ドイツの傑作機“フォッケウルフ”が、逃げるイ級の懐に飛び込む。

『グゥアアアアアアッ!!!???』

背中ギリギリ、ほんの30cmほどの距離を飛びつつ爆弾を投下。爆撃は全て、迫撃砲弾の命中跡に寸分の狂い無く叩き込まれる。

イ級eliteは激しくもだえ、断末魔の悲鳴を上げた後前のめりに崩れ落ちた。

(#'A`)「敵艦沈黙確認!後続部隊随時突入して前線を押し上げろ!!損害出るまでは先鋒がとにかく突貫する!!」

《Graf Zeppelinより前線指揮車、予定通りFW190を補給に下げる!!》

(#'A`)「あぁ、手はず通り頼む!!他の艦娘、並びに機甲師団も合図があるまでは
後衛待機だ!!」

《《《Jawohl!!》》》

とにかく、時間との勝負だ。向こうが完全に“お姫様”の周りを固めきるまでに、可能な限り此方の不利を消していく。

(#'A`)「いいか、非ヒト型による前段防御にはGraf Zeppelinの航空支援以外一切艦娘の手を借りない!!人間の兵器のみで全ての防衛線を突破する!!

足を止めるな、走り抜け!!」
243 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/22(月) 01:11:41.82 ID:i/R4/LC00
深夜更新ここまで。原稿消滅で泣いた

明日というか今日というかの更新は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応します
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 06:55:03.22 ID:bkOAhkoA0
おつおつ…と言うかドンマイです(^_^;)
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 08:57:30.34 ID:28X+VyDCO
つまり行き当たりばったりと言う事だな。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 17:44:40.79 ID:X0wubvR6O
フォーク准しょるとはまた高度な技を
乙です
247 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/24(水) 00:16:11.91 ID:FI3x2H040
ビスマルク、グラーフという艦隊決戦の要を手に入れたが、戦力はイヨウ中佐も言っていたとおり質量両面で此方が未だ圧倒的に劣る。

加えて俺たちは孤立しているため、艦娘艤装の燃料・弾薬を補給できないという深刻な事情がある。もし西側へバカ正直にビスマルク達を中核とした攻勢をかければ、枯渇は一瞬だ。

そのためこの作戦の厄介な点として、俺たちは前段防御をなるべく艦娘の火力を使わず、かつ迅速に打通しなければならない。……吝い話だが、正直最初のグラーフによる爆撃すら本当はケチりたかった程こちらには余裕がない。

《Graf Zeppelinより前線指揮車、電探に感あり!!》

そして、相手はヒト型の中でも秀でた存在である“姫”だ。

人間達がそうであるように、彼女もまた俺たちの策を予測し、動きを読み、手を打ってくる。

《ベルリン市西部より機影多数接近!!数は80前後!!》

《Prinz Eugenより前線指揮車、敵機種視認!Helm爆装型がほとんどですがBallらしき機影も10機ほど見えます!

Ar-196改、捕捉される前に一時離脱!》

(;'A`)「っ、随分仕事が早えーじゃねえか……!」

艦娘の航空戦力に対して凶悪な制空能力を持つBallだが、対空格闘能力と対地攻撃力を両立したフォッケウルフの存在を考慮に入れると10機はいくら何でも少ない。おそらく、“万一”此方がメッサーシュミットやフォッケウルフを出したときの保険だろう。

当然覚悟はしていたが、やはり此方の状況はお見通しらしい。

《Bismarckより前線指揮車、私達が出た方がいいかしら?》

('A`)「……いや、この程度なら艦載機を使わなくても簡単に対処できる。艦娘各位はミルナ中尉の指揮下で対空迎撃の用意を!

ただし、艤装は使うな!配布されているアサルトライフルで対処しろ!」

《はぁ!?》

《ず、Z3-26より前線指揮車、こんな小火器で戦闘機撃墜しろというの!?冗談でしょ!?》

('A`)「安心しろ、今の天候ならそれで十分撃ち落とせる!七面鳥より簡単にな!」

ここから先は、お互いの手の読み合いだ。ただしこっちの手札は恐ろしく悪い、奇策とはったりと我慢の連続になる。

………ああクソッ、面倒くせぇ!!
248 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/24(水) 00:18:20.65 ID:FI3x2H040
('A`)「先遣機動部隊2〜5班の被害状況は!?」

(*゚∀゚)《各班からの損害報告無し、まだまだ行けそうだぁ!》

('A`)「よし、指揮車より機動部隊各班、後続待つな!突貫、突貫!!」

《《《Jawohl!!》》》

(*゚∀゚)《その言葉を待ってたぜお客さぁん!!アッヒャァーーー!!!》

ツーが歓喜の叫びを、6気筒ディーゼルエンジンが獰猛なうなり声をそれぞれ上げる。

雨水を蹴立てて急加速した三台のエノクが、引き絞り放たれた矢の如く広場から飛び出した。

('A`;)「……お早い到着だな」

突撃再開から30秒と経たないうちに、空から降ってくるレシプロエンジンの低い音。何十機分もが重なって響いてくるそれらの一部が、此方に近づいてくるにつれて様子を変えていく。

獲物を見つけた歓喜を現すように一瞬ひときわ大きな音をまき散らした後、甲高い風切り音を唸らせつつ“奴ら”は一斉に高度を下げ始める。

高度を下げるにつれて、音は更に悪魔の襲来を知らせるサイレンに、そして、俺たちに死への旅立ちを促すラッパの音に。

《敵機直上、数は5!!急降下きます!!》

(#'A`)「機銃仰角最大!全車対空射撃開始!!」

火を噴く三挺のラインメタル。“ジェリコのラッパ”を高らかに吹き鳴らしながら駆け下りてきた【Helm】の編隊に火線が突き刺さり、先頭を飛ぶ一機が火を噴いた。

だが、撃墜機を追い越す形で加速突出した別の一機が弾幕をかいくぐる。

('A`;)「散開回避!!」

懐に飛び込んできたHelmが両脇に抱える、二つの爆弾の片割れが切り離された。かつんという軽い音を立てて、爆弾はそのまま地面に突き刺さった。

(;'A`)「───っぐ!!」

(;*゚∀゚)《ひょおあっ!?》

轟音と閃光。視界が一瞬白く染まる。
249 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/24(水) 00:21:03.84 ID:FI3x2H040
手のひらサイズの物体が放つものとしては反則が過ぎる巨大な爆発。熱風が顔に吹き付け呼吸を阻害し、衝撃波に煽られた車両がコントロールを失いかけて激しく蛇行する。

(#*゚∀゚)《っ、落ち着きなさいなじゃじゃ馬タヌキちゃん!!》

危うく横転しかけたエノクを、巧みなハンドル捌きでツーがギリギリ立て直す。そのまま流れるような軌道で道脇に寄せると、ほんの1メートル横を後続機の機銃掃射が弾痕を残しながら通過した。

……助けて貰った立場でアレだが、馬と狸どっちだよ。

('A`;)「指揮車より2号車、3号車、被害状況知らせ!」

(;//‰ ゚)《此方2号車、損傷無し!》

《3号車、被弾免れました……っ、後方より敵機来ます!!》

(;'A`)「射撃、射撃、射撃!!弾幕まき散らせ!振り切れ、振り切れ!!」

追いすがってきた敵機に再度車列を組みながら一斉射撃。当てるための攻撃ではないが、爆撃・対地掃射の突入コースを塞がれた敵機は忌々しげに陣形を解いて上空に戻っていく。

(#//‰ ゚)《敵機後退、敵機後退!》

('A`)「前線指揮車より機動部隊各班、被害状況と敵機数知らせ!」

《此方2班、損害無し!襲撃敵機は8、内2を撃墜!》

《3班より指揮車、8号車の機銃手が負傷も軽傷につき影響なし!敵機5襲来、撃墜1、損傷1!》

《4班、損害無し!襲来敵機11、損傷3も撃墜に至らず!》

《5班より指揮車、襲来4機にBallが1含まれるも迎撃成功。敵機に損害無しも編隊は後退》

しめて33機。グラーフの報告から逆算すると、最低4割の戦力ならなかなかの「釣果」か。

そして、釣られた敵機は損害をほとんど受けていないにもかかわらず空域を離脱していく。

《………空母Graf Zeppelinより前線指揮車、あー、敵空襲部隊の迎撃を完了した》

つまり、別方面で「本命」の部隊が致命的な損害を受けたということだ。

《襲来敵機52、内撃墜39、損害10。撃墜にはBall4機を含む。

また、当方損害並びに艤装の弾薬消費、0………どういう手品だこれは》
250 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/24(水) 00:26:13.86 ID:FI3x2H040
《深海棲艦の艦載機を、通常兵器でこんなに一方的に撃墜できるなんて……》

《Bismarckより前線指揮車………えーと、ドックン=メンドイフェルだっけ!?貴方海軍に来ない?きっとエーリヒ=レーダーも真っ青の提督になれるわよ!!》

('A`)「過剰極まりない評価をいただき痛み入るが面倒臭いので断る、それと人を勧誘する前にまず名前を正確に覚えて貰えると嬉しいね」

ひとまず、此方の突貫に“何らかの意図”を感じとり戦力を分散させてくれたのは大いに助かった。ミルナ中尉達を救援する際に、エノク部隊による攪乱が大きな戦果を挙げていたことがここで生きた。

たとえ全ての艦載機が殺到していたとしても撃退は容易かっただろうが、50機と80機とではやはり難度が大きく変わる。艤装温存の目的も平行しなければいけない以上、後方に温存している主力部隊の負担は爪一枚分でも減らせるなら減らす。

《Prinz Eugen、水上偵察機再度上げます!》

('A`)「了解した、頼む。

高層観測班、敵の動きを報告しろ!」

前段防御第一陣の早すぎる壊滅、全く損害を与えられぬまま失敗した空襲。

加えて、LAPV軽装甲車隊による電撃的な後方浸透の可能性の示唆。

軽巡棲姫が警戒するに足る材料はばらまいた。後は向こうが更なる安全策として、ここで防衛線を下げてくれると最高の展開になるが───

《高層観測班より前線指揮車に通達!敵前段防御艦隊、第二陣が一斉に東進を開始!此方に向かってきます!

更に第三陣、第四陣で発砲煙を複数視認!砲撃きます!!》

('A`;)「そりゃそう楽な相手じゃねえよなクソ!!全車曲がれ!!」

(*゚∀゚)《っひゅうう!!》

女の悲鳴のようなスリップ音と共にドリフトカーブを決めたツーが脇道に飛び込み、後続二台もこれに続く。俺たちが本来直進する予定だった経路に瞬く間に砲弾が殺到し、泥とアスファルトが十数メートルにわたって舞い上がった。

更に、砲弾の一部は俺たちの傍に着弾せず、頭上を飛び越えてより東へと飛翔する。

地鳴りのような爆発音が連なり、空気が震えた。
251 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/24(水) 00:27:50.81 ID:FI3x2H040
(;'A`)「前線指揮車より後方全戦隊・全拠点、被害状況知らせ!!」

《高層観測班より前線指揮車、命中弾無し!損害ありません!》

ξ;゚听)ξ《レオパルト並びにプーマ、全車損害無し!予備戦力てして待機中のLAPVも全て健在!》

《迫撃砲隊、全部隊移動完了していたため無事です!》

《Graf Zeppelinより前線指揮車、展開中の全艦娘点呼完了!損傷艦無し、損傷艦無し!》
  _
(#゚∀゚)《此方ジョルジュ=オッペル、部隊損害無しもベルリン大聖堂に直撃弾!ベルリン大聖堂は崩落した!》

凸 ('A`) 凸「や っ た ぜ」
  _
(;゚∀゚)《何故!?》

ξ;゚听)ξ《今そんな場合じゃねえだろ!!》

損害報告がないどころか、最高のGoodニュース付きだ。これが喜ばずにいられるか。

………という冗談はさておいて。

('A`;)(大きな損害が出なかったのは幸いだがいきなり至近弾多数か……!)

おそらく、先程の特攻に近い空襲で此方の位置情報を艦載機の犠牲と引き替えに掴んだのだろう。本来なら向こうも弾着観測射撃の為に常時偵察機でも上げておきたいのだろうが、深海棲艦側で水偵や艦載機を用いた観測情報を円滑に全艦船に伝えられる“知能”の持ち主は限られている。

下手に軽巡棲姫や他のヒト型が観測機を飛ばせば、離陸箇所や滞空域から正確な位置を割り出されてそれこそ“事故”に繋がる可能性が高まる。

そのため軽巡棲姫は、位置特定を防ぐためにわざわざ市外から艦載機を呼び出して“威力偵察”によって此方の戦力展開を確認した。

('A`;)(………となると、向こうの航空戦力もまだ余裕あるなこれは。もしくは奴らの空母機動艦隊が到着しつつあるか)

少なくないもののなんとも中途半端な空襲部隊の規模や此方の動きに伴ってあっさりと分散した点は確かに不可思議だったが、これで合点がいった。最初から壊滅ありきの偵察編隊だったのならある程度情報を取得できる“数”さえ確保できればどう動かそうが問題ない。

………そもそも、恐ろしく脆いとはいえ80機の戦闘機が“中途半端な数”に見えてしまう辺り、どうも俺の感性も順当に奴らの物量に狂わされている。
252 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/24(水) 00:44:29.42 ID:FI3x2H040


とにかく、先程の航空戦力の特攻によって得た情報から“お姫様”は少しだけ踏み込んだ戦略方針を立てたようだ。

《前進中の敵艦、駆逐14、軽巡4、内elite・flagshipは各2ずつ!このままいけば先鋒部隊は五分以内に全班が接敵します!》

即ち、東部街区への浸透強襲による艦娘戦力の強制的な消耗。

('A`)「前線指揮車より高層観測班、敵防衛線第二陣は“全て”攻勢に出ているか?」

《はっ、展開していた全艦隊戦力が進撃中です!!》

('A`)「そうか」

全戦力投入。つまり、棲姫は第三陣以西に俺たち先鋒が突出する可能性は考慮していないか、していたとして容易く潰せる存在という評価を俺たちに下している。

(//‰ ゚)《ま、要は俺たちの突撃が“半ばハッタリ”だとバレたわけだな》

ざっくりと言ってしまえば、サイ大尉の台詞が全て。実際俺たちが後方浸透したところで、艦娘戦力を車内に隠しているわけでも超強力な秘密の火砲を装備しているわけでもない。生身の戦艦からすれば、そこらの蟻を踏みつぶすより簡単に処理できる存在。

そう。所詮俺たちの突撃はハッタリだ。

(#'A`)「先遣機動部隊各班、速やかに敵第二陣の予想進撃経路に展開!遅滞戦術を敢行し奴らの動きを鈍らせろ!!

第二陣、状況を報告せよ!」

《フランス広場より前線指揮車、シュプレー川の渡河と橋頭堡の建設、戦力集結を全てのポイントで完了。いつでも行けます》

ただし、あくまでも“半ば”だ。

(#'A`)「前線指揮車より第二陣────強襲打撃部隊各位に伝達、前進開始!!」





( <●><●>)《そろそろ、その指示が出ることは解っていました》
253 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/24(水) 00:47:14.22 ID:FI3x2H040
本日ここまで。大スランプに陥り欠けましたが書きため丸消しで何とかなりました。ただ、一日一更新が途絶えまして申し訳ありません。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 01:33:12.95 ID:2oduQlzA0
おつです…そしてやったぜw
それにしても混合軍強すぎワロタ
255 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/25(木) 11:43:57.86 ID:Rz3NgEnD0
第三陣以降による前衛艦隊への支援射撃はなおも続いている。俺たちの周囲に飛来する砲撃は散発的で、大半の砲弾は遙か頭上を飛び越えてベルリン東部に集中した。

味方の迫撃砲隊も果敢に撃ち返しているが、数十隻の「艦隊」と本格的な砲撃戦となれば手数も威力も圧倒的に足りない。

《トレプトゥ=ケーペニック区、敵の砲撃が激しさを増しています。120mm砲一門を直撃弾により損失しました》

《パンコゥ区、高層観測第6班待機所に敵艦砲射撃直撃!通信途絶!》

《プーマ六号車、至近弾多数!陣地転換急げ!!》

《フリードリヒスハイン区、敵艦砲射撃直撃により死傷者多数!衛生班を至急寄越してくれ!》

(;'A`)「……っ」

無線から次々と飛び込んでくる本格的な被害報告。だが、これはこっちにとって予想外でも異常なことでもない。

此方の優勢は、「艦娘戦力を早期に南から引きずり出したい」という向こうの思惑やそれを逆手に取った作戦、そして何よりもそれらが奇跡的にかみ合った運によって支えられてきたものだ。言うなれば、今までの極僅かな損害と優位な戦況こそ“異常”。

《第五高層観測班も敵艦砲射撃により沈黙!おそらく全滅!》

《視点が減ると戦況に支障が出るぞ!新手をビルに上がらせろ!!》

《機動警察の小隊待機地点に直撃弾!8名死亡、2名重体!!》

《こっちも二人やられた!一方的に撃たれている!》

今の状況は、深海棲艦と人間の本来の力関係に基づいた“正常”な光景だ。

《第2班より指揮車、敵前衛艦隊の一部を捕捉!これより攻撃を開始する!》

《第3班、交戦開始!!気をつけろ、ト級のflagship付きだ!!》

……そして、本当に、本当に吐き気がするような事実として。

《……Z1 Leberechtより前線指揮車、たくさん陸軍の人たちや警官隊が周りで、目の前でやられてる!僕らに援護射撃の許可を!!》

('A`;)「前線指揮車より艦隊各位に伝達、砲撃は許可できない」

俺の立場からすれば、シュプレー川の向こう岸で深海棲艦の砲撃で吹き飛び死んだ味方の存在を。

('A`#;)「現在、作戦は“順調に推移”している!Bismarck以下全艦引き続き弾薬の温存と敵砲撃の回避・防御に努めろ!繰り返す、全艦引き続き艤装の弾薬を温存せよ!」

《……そんn……っ、Jawohl!!》

敵が「計算通りの場所に食いついた証」として、喜ばなければならない。
256 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/25(木) 11:47:45.87 ID:Rz3NgEnD0
本当なら、今し方自分が放った言葉の意味について激しい罵詈雑言を吐きつつ腕にナイフの一つも突き立ててやりたい。

だが、今は作戦中だ。俺に我を失い嘆き狂う“権利”はない。

《2ブロック西に艦影を捕捉!!》

(#//‰ ゚)《こっちでも確認した!!気を引くぞ、撃て撃て撃て!!》

('A`#)「奴らの進路を塞ぐ!ツー、艦隊の真横から追い抜けるか!?」

(#*゚∀゚)《お安い御用ってね!!》

少なくともelite以上の個体であることを示す10M強の巨体に機銃掃射を浴びせながら、三台のエノクは猛然と角を曲がり敵と同じ道路に入り込む。そのまま挑発するように三隻の非ヒト型の真横を駆け抜けると、水飛沫をぶち上げながら横並びに奴らの正面に展開する。

『ォオオオオオ………』

('A`#)「……さっきも言ったよな、てめえの顔は見飽きたって」

ホ級elite、脇にはイ級通常種二体。この、ホ級+イ級の組み合わせは海上・陸上を問わず深海棲艦の最も数多く見られる戦闘形態だ。実際リスボンの時にも、全部が通常種だったが顔ぶれの艦隊と交戦した。

誰かが言った。RPGやアクションなら、奴らは間違いなく最初のステージから現れ続ける典型的な雑魚キャラパーティーのような立ち位置だと。

当初はジョークとして笑い話の種になったそれは、何百隻葬ろうが常に戦場に顔を出し続けその圧倒的な数で人類の屍を積み重ねるその姿への憎しみと共に語られるようになる。

いつしか、奴らは八つ当たりに近い侮蔑と畏怖、そして必ず狩り尽くしてやるという決意と憎悪を込めて各国の兵士達の間でこう呼ばれるようになった。

('A`#)「とっととくたばれ!!

Feuer, Feuer!!」

“1-1艦隊”と。
257 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/25(木) 11:50:41.38 ID:Rz3NgEnD0
『ギィヤァアアアアアッ!!!』

(#//‰ ゚)「Go go go go!!」

(#*゚∀゚)「イ級は眼をねらいな!視界を奪えば動きを制限できる!!」

機銃3挺と、15挺のアサルトライフルによる一斉射。今度はエノク各車の運転手も降りて、文字通り此方の全火力をつぎ込んでいる。

『ウォオオオオオオオッ!!!!』

「Target have No damage!!」

……まぁ、たとえ陸戦兵器でもある程度容易くなぎ倒せる耐久力とはいえ、流石に自動小銃と軽機関銃で軍艦の装甲にダメージを与えられるはずはない。

艦娘達にとってのクリボーは、今の俺たちからすれば立派なクッパ大王だ。

『オォアッ!!』

《Ups!?》

('A`;)「退避!!」

ホ級が艤装の一部を此方に向け、機銃掃射。他の二台に叫びつつ銃座から飛び出す。

主兵装である「5inch単装砲」による砲撃ではなかったことは幸いだが、7.62mm弾を食い止めるのがやっとのエノクの装甲で対空機銃の射撃は耐えられるはずもない。

車体が火花を散らしながら穴だらけになり、内一台がエンジン部分の辺りから小さな炎を吹き出した。

(;'A`)「───逃げろ!!」

(*;゚∀゚)「わわっ………あうっ!?」

弾かれたように立ち上がり、そこらの瓦礫や車の影へと転げ込む俺たち。背後で2号車が爆散し、一瞬反応が遅れたツーが爆風によって吹っ飛んでくる。

………俺の背中に向かって。

(*;x∀x)「あでっ!?」

(゚A゚)「ウボアッ!?」

衝撃が背中に走り、ツーのヘディングで俺は進路先の横転したトラックの影に無理やり押し込まれる。人体を幸運にもクッションとすることが出来たツーは、幸いにも大きな怪我を負わずに悶絶する俺の横に着地した。

(;*゚∀゚)「うっひぃ、死んだと思った………あんがとな少尉!」

::( A ;)::「ゴホッ…カヘッ……」
 _,
(*゚∀゚)「……おいおい、ドイツ陸軍屈指の美女に礼言われたんだからもうちょい嬉しくしろよ」

お前ちょっと黙ってろ。
258 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/25(木) 11:52:15.00 ID:Rz3NgEnD0

('A`;)「……ッホ、ゴホッ!!被害報告!!」

「ベーデカー軍曹以下3号車、全員無事です!負傷者も無し!!」

(;//‰ ゚)「2号車1名負傷だがかすり傷だ!まだやれる!」

なおも機銃掃射がそこかしこのアスファルトを削る中、声を張り上げて互いの状況を確認。よし、欠員無しならまだ行ける。

(#'A`)「よし、ベーデカー!俺と共にエノクの残骸までもう一度前進だ!サイ大尉、グレネードをホ級の頭部と砲塔に撃ち込んで援護を!!」

「Jawohl!!」

(#//‰ ゚)「Received order!!」

('A`#)「ツー、バルテン、フラッシュバン投擲だ!!イ級二体の眼をくらませろ!!」

(*#゚∀゚)「Ja!! 」

「Jawohl!!」

二人が腰から閃光弾を外し、ピンを取って遮蔽物越しに道路に投げ込む。

『『ァアアッ!!?』』

『───!? ア゛ア゛ッ!?』

(#//‰ ゚)「Grenade fire!! Grenade fire!!」

何束かの爆竹にまとめて火を付けたような連続的な爆音と瞬く光。イ級二体が驚きと混乱でふらつき、事態を飲み込めずにいたホ級にはすかさず海兵隊のM203グレネードランチャーが火を噴く。

『オ゛ォ゛ッ、ア゛ア゛ァ゛ッ!!』

(#'A`)「Los Los Los!!」

「Feuer!! Feuer!!」

正規の迫撃砲弾ならともかく、アサルトライフルの下部に備え付けられている40mm擲弾の威力など深海棲艦の装甲からすればたかが知れている。だが、効果が無くとも奴らの弱点部位への爆発攻撃はほどよい挑発にはなったようだ。

『アアアァァッッ!!!!』

(;//‰ ゚)「っと、伏せろ!!」

(#'A`)「前進止めるな!姿勢低くして突っ込め!!」

更に俺たちからも放たれていた顔面に向けての火線を振り払うように右手を震った後、再び機銃掃射を俺たちと海兵隊に向けて放つ。

ホ級eliteの注意は、こっちに全て向けられていた。

「────Panzer faust, Feuer!!」

『ウ゛ア゛ア゛ッ!!?』

当然、側面から突如飛来した新たな攻撃に対応できるはずがない。
259 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/25(木) 11:56:47.16 ID:Rz3NgEnD0
「パンツァーファウスト、ホ級eliteに全弾直撃!!」

( <●><●>)「ダメージがあるのは解ってます。総員、少尉達と合流しつつホ級砲塔部に集中砲火を。

また、イ級に関しては迅速に沈める必要があります。海兵隊も射撃を開始して下さい」

「「Jawohl!!」」

「「Yes sir!!」」

『アァアアッ!!!』

『ア゛ア゛ァっ、オァア゛ッ!!?』

ホ級の横っ面に叩き込まれた三発の対戦車ロケット弾。これを合図として、戦闘区画に飛び込んできた装甲車の一団から新たな部隊が路上に飛び出し次々と追撃を開始する。

即応警官隊───即ち“機動隊”が保有している装甲車だが、中に満載されていたのは増援のドイツ陸軍とアメリカ海兵隊の混成部隊。

それぞれ派遣に際し対深海棲艦の市街戦ということでパンツァーファウスト3、ジャベリン、ミラノ対戦車ミサイル、M72 LAW、果てには用途が変わりほとんど退役済に近かったはずのカールグスタフと、文字通りかき集められた重火力兵器が可能な限り配備されている素敵仕様部隊だ。

「Enemy Lock!! Fire!!」

『ォオオッ!!?』

「Go flank, Go flank!!」

ダイレクトアタックモード(直進軌道)で放たれたジャベリンミサイルがホ級の頭部に直撃する。怯んで機銃射撃が止んだ隙に、今度はLAWを構えた一団が俺たちの後ろを通って道の反対側へと駆け抜ける。

「Fire!!」

『ヴァッ────グァッ……!?』

四発の66mm HEAT弾が、向かって左側のイ級に突き刺さる。イ級の側面表皮が砕け散り、絶命こそしなかったが爆圧と激痛から苦悶の声を上げて路上に倒れ込んだ。

『オ゛オ゛ッ!!』

( <●><●>)「Los!!」

怒りの声を上げてホ級が艤装をアメリカ海兵隊の方に向けた隙に、ティーマスが数人のドイツ兵を率い俺達がいるエノクの残骸の影に滑り込む。奴さんが涼しい顔をして担ぐのは、カールグスタフM3。

('A`)「よぅ、そんな骨董品担いでどうしたよ。博物館にでも行く気かい?」

( <●><●>)「私なら少尉殿自体を持ち込みますね。そのお顔でしたら蘇った原人と伝えれば信じて貰えるはずです」

たまにはこっちから軽口をと思い突いてみたが、20倍で返される。

断言するが、俺がこいつに口で勝てることは永遠にない。
260 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/25(木) 12:21:16.52 ID:Rz3NgEnD0
( <●><●>)「カールグスタフ撃ちます。音量注意です」

('A`)「あいよ、因みに後方の安全は確保されてるぞ」

( <●><●>)「ありがとうございます。

Feuer」

『ッアアオァァッッ!!!!?』

バックブラストの熱が頬を撫でる。砲撃はホ級の左肩に直撃し、奴は肩口を押さえながらふらふらと後退った。

『アァ………アァァ……』

『────……』

随伴のイ級達の内、向かって左手の個体はあのまま事切れたらしい。海兵隊のLAWになぎ倒された状態のままぴくりとも動かなくなっている。

右手のイ級も、猛烈な砲撃を三方から受けて虫の息だ。

「Feuer!!」

『オ゛ォ゛ア゛っ!?』

( <●><●>)「ターゲットにダメージ有り。

各位、砲撃に“間”が出来ないよう撃ち続けて下さい。特にホ級の艤装部分には集中攻撃を、我々に照準できないよう常に射線をぶれさせなさい」

軽巡ホ級に関しては、流石にeliteということもあってまだ抵抗の余力はありそうだ。ただ、ティーマスが周到に張り巡らした火線を間断なく全身に浴び続けており、その余力はみるみる削られていく。

「頭部と砲塔を狙い続けろ!奴に反撃の間を与えるな!!」

「イ級は通常種の上もう大破している、脅威じゃない!牽制射撃で十分だ、ホ級に重点的に火力を振れ!!」

もう一つのプラス要素として、南部から送られてきた増援部隊の全体的な質の高さがある。特にミルナ中尉を初めとする中核部隊は、リスボンで深海棲艦と実際に交戦した経験を持つ精鋭だ。

ティーマスの的確な指揮に加えて、自主的に弱点部位に狙いを集中させたり攻撃動作を妨害するタイミングで砲撃を行うためホ級は反撃を完全に封じ込められ一方的な攻撃に晒される。

( <●><●>)「Feuer」

『オッ……アァアアアアアッ!!!!?』

十何発目かのカールグスタフの着弾。ティーマスが狙ったのは、ホ級の両脇から突き出る連装砲の内右側の一門。

轟音とホ級の断末魔が不愉快に混ざり合う中で、黒煙と炎を吹きだして直撃を受けた連装砲がはじけ飛んだ。
261 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/25(木) 12:48:55.13 ID:Rz3NgEnD0


( <●><●>)「追撃を………砲撃飛来!伏せなさい!!」

(*;゚∀゚)「ひゃあっ!?」

俺達が“1-1艦隊”と交戦する街角のT字路に、連続的に幾つかの砲弾が落下し炸裂する。2階建ての大手チェーン店レストランが崩落し、付近に止まっていた増援部隊の装甲車が一台押しつぶされた。

方角は西、深海棲艦のものだ。

('A`;)「損害報告!」

「装甲車一台が破壊されましたが死傷者は無しです!

───八時方向、またきます!!」

('A`;)「散開……あ?」

新手の砲撃は俺達の頭上を飛び越す。しかしながらイヨウ中佐達のいる方面に行くわけでもなく、俺達の交戦している地点から2ブロックほど先の、無人の十字路というなんとも感想に困る地点に着弾した。

違和感を覚えて耳を澄ませると、どうにも砲撃の統一性に乱れが感じられた。改めて冷静に周囲を見回すと、東側へと飛翔する砲弾の量が目に見えて減り、西部街区のあちこちに撃ち込まれる砲撃の割合が目に見えて増えている。

だが、その射線は統率の取れたものとは言い難い。放たれるタイミングがバラバラなら、着弾点も散らばっていていかにも狙いが定まっていない。

まるで、“急に現れた攻撃能力を持つ敵”に、慌てて無理やり照準を合わせ直そうとしているかのように。

('A`#)「─────迫撃砲隊、照準修整は終わっているか!?」
 、、、、 、、、、、
《手筈通り、ぬかりなく!!》

('A`#)「よし、残余全砲門敵前衛艦隊に集中!撃ち方ぁ始め!!」

《Jawohl!! Feuer, Feuer!!》

一瞬の間を置いて、東から美しい弧を描きながら幾十発にも及ぶ120mm砲弾が飛来する。

『オァア゛ッ、オォッ……アァアッ!!?』

頭部、砲塔、右腕、左腕、胴体………全身にくまなく叩き込まれる砲撃が、ホ級の装甲を砕き、艤装を貫き、肉を裂く。

左手が砲弾にもぎ取られ、腹の辺りに穴が空く。

『ア゛……ア゛ぁ゛………』

やがてホ級は、自身の艤装に押し潰されるような姿勢で前のめりに地面に倒れ込んだ。
262 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/25(木) 12:50:36.80 ID:Rz3NgEnD0
お昼の部ここまでです。ご静聴ありがとうございます
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2017/05/25(木) 13:39:17.58 ID:risR5xWA0


ドク、骨董品の75ミリでも役に立つかい?
多分5号(パンサー)も展示されてると思うが。

つうか重機関銃で弾幕の集中豪雨浴びせるのも手かもしれない。

唯一おめでとうとドクに言えるのが大聖堂崩壊だけと言うのが……

264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/25(木) 14:03:48.75 ID:3gp73OWI0
怪物か
265 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/26(金) 21:09:51.62 ID:vdGFfLwC0
本日リアルの仕事の都合で更新できません。

ここ数日亀更新が続き申し訳ありません
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/26(金) 23:55:42.31 ID:Ds5rY1oA0
リアル大事に。

待ってる。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/27(土) 00:32:26.35 ID:Km1jVylA0
らじゃー、気長に待ってますw
268 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 00:23:45.49 ID:oJKoS9010
『オォアア───グァッ!?』

「Enemy down!! Enemy down!!」

「Los, Los!!」

最後の一隻となったイ級が戦場から逃れようとするが、既に大破しているその身体で逃げられるはずもない。踵を返そうとしたところに横っ面から数発のミサイルとロケット弾が叩き込まれ、断末魔と共に倒れる。すぐさまイ級達“1-1艦隊”の周囲に、ドイツ兵と海兵隊が小銃を構えて群がる。

生死を確かめるために、頭部や砲塔、眼など奴らが敏感に反応する箇所に弾丸が撃ち込まれた。

「轟沈を確認! Street Clear!!」

(#//‰ ゚) 「負傷者の確認急げ!!重傷者は速やかに後方に下げろ!!」

('A`)「ベーデカー軍曹、他の部隊の状況は!?」

「ニ班〜四班も後続部隊との合流、戦力の再編を完了しています!」

('A`)「よし、各班に戦闘態勢を維持、指示があるまで待機するよう伝えろ!」

「Jawohl!!」

フランス広場を中心としたシュプレー川以西への橋頭堡の建設と戦力の集結は、深海棲艦側の主力艦隊もある程度は動きとして掴んでいたはずだ。しかしながら艦娘や戦車、プーマ戦闘車、迫撃砲などに動きがなく渡河したのはほぼ歩兵とまともな重火器を装備していない軽車両群とあって、奴らは案の定「即時の対処必要無し」とみなし此方の後衛に火力を集中させた。

結果、非ヒト型なら十分なダメージを与えうる対装甲火器が集中配備された打撃部隊をほぼ大きな損害無しで最前線まで引き込むことに成功している。

ここまでは、順調。作戦の第一段階はほぼ完全に成功した。

('A`)「………ツン、レオパルトとプーマ全車両の発進を準備させておいてくれ。

Prinz Eugen、水偵による上空警戒厳と為せ!ベルリン西部のあらゆる動きを見落とすな!」

ξ゚听)ξ《了解!》

《Jawohl!!》

問題は、ここからだ。
269 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 00:25:29.98 ID:oJKoS9010
無線で後衛に指示を出しつつ、俺はちらりと西の空を見上げた。

('A`)(……やっぱりな)

脳裏を過ぎった違和感は気のせいではない。

軽巡棲姫は、状況打開のために次の手を打ってくる。

(//‰ ゚)「ドク、各隊は戦力の再編を終えてるぞ!」

サイ大尉が俺の元へ駆け寄ってきて声を荒げた。部隊の損害が軽微であるにも関わらず攻勢が止まったことに、疑問と軽い焦燥を感じているらしい。

(//‰ ゚)「とっとと強襲打撃部隊と連携して敵主力艦隊の元まで浸透を開始すべきだ!時間は奴らの利益にしかならない、それに艦砲射撃を一方的に食らうことになるぞ!!」

( <●><●>)「その艦砲射撃が、止んでいます」

(//‰ ゚)「………あ?」

ティーマスの指摘に、サイ大尉は一瞬呆けた表情を浮かべた後ハッとして空を見上げた。

完全に止んだわけではないが、ティーマスの言うとおり深海棲艦の砲撃は先程までに比べて極めて散発的なものに変わっている。着弾地点も分散しており、明らかに此方を撃破する意図が見られない。

( <●><●>)「シュプレー川以東の、本隊への砲火が再度増えた様子もありません。先程の強襲打撃部隊の突入時から混乱が尾を引いているという説も時間が経ちすぎていて考えづらい。

深海棲艦側の動きが不自然なのは解ってます」

優秀な相棒のおかげで、説明の手間が省けた。………ティーマスに少尉の地位譲って俺二等兵になっちゃダメかな、一先ずこの修羅場を生き延びたら上層部に提案してみよう。

( <●><●>)「………少尉、貴方がとても下らないことを考えているのは解ってます」

('A`)「ソ、ソンナコトナイヨー」

ホントに出来た部下兼昔馴染みで涙を禁じ得ない。

ともあれ、ティーマスが今説明したとおり、深海棲艦側が「何か」を考えているのは間違いないだろう。

《────Prinz Eugenよりマントイフェル少尉に通達!!》

当然奴らが、性悪の軽巡棲姫が考える「何か」が俺たちにとって愉快な内容であるはずがない。

《前線部隊展開ライン正面、5kmの地点で“道路の隆起”を複数確認!!時速30km程度で其方に向かっています!》
270 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 00:27:09.81 ID:oJKoS9010
地面の隆起。

その言葉を聞いた瞬間思い出すのは、解囲作戦の折ツンたち機甲部隊を“地下から”襲撃した数隻の非ヒト型の存在。

どうやって地下に、何故水上と変わらない速度で移動できるのか、どこから現れたのか……沸いた疑問の数々は、頭がいい研究者の奴らに究明を任せることにする。

どんな理屈であれ、深海棲艦が「地下の移動」を可能とするなら対処するのが俺達の仕事だ。

(#'A`)「前線部隊各位、敵襲があと10分もせずに来るぞ!速やかに迎撃態勢に移れ!!」

( <●><●>)「パンツァーファウスト装備者は健在な建物の二階に上がって道路を撃ち下ろせるよう準備を。それから前方2ブロック先にC-4の設置もお願いします」

「「Jawohl!!」」

(//‰ ゚)「海兵隊総員射撃用意!!砲撃とC-4で焙り出された深海棲艦の身体を穴だらけにしてやれ!!」

「「Yes sir!!」」

指示が飛び交い、戦闘準備に移る各位。

だが、敵が打った手は一つではなかった。

《Graf Zeppelinより前線指揮車、新たな敵航空隊が北よりベルリン市空域に侵入!数は80〜100、全機が前衛に向かっている!!》

(;'A`)「……っ」

食いしばった歯の隙間から、思わず呻き声が漏れた。航空攻撃との連携となれば迎撃の難易度が大きく上がる。

それにしても、度重なる空襲の撃退で優に200は越える敵機を撃墜しているはずだ。確かに「まだ余裕を持っている」とは思っていたが、さっきの今でこの数を出してこれる深海棲艦の物量には舌を巻きざるを得ない。
271 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 00:29:04.71 ID:oJKoS9010
(;'A`)「三時方向、各位対空警戒!!前衛各部隊、残ったエノクは全て艦載機の迎撃に回すんだ!!

Prinz Eugen、敵航空隊の侵入軌道知らせ!!」

《Prinz Eugenより前線指揮車、敵編隊低空軌道でベルリン市に突入!其方への到達まで180秒!!》

深海棲艦側の到着が、距離と時速から計算して10分程度。同時攻撃にならないのは不幸中の幸いだが、本当に気休め程度の「幸い」だ。

('A`;)「屋上の奴らは下手に攻撃をかけず身を隠せ!それと、エノク機銃座に二人つけ!路上の部隊は車両の残骸、深海棲艦の死骸、瓦礫に側溝、どこでもいいから隠れろ!!」

俺自身も、アサルトライフルを小脇に抱えホ級の死体の傍に滑り込む。

(*゚∀゚)「よっと!」

('A`)「ブッフハ」

ツー、ティーマス、ベーデカー軍曹と他何人かのドイツ兵も俺の傍に身を隠す。ツーはスライディングの際に泥と雨水を盛大に俺の顔面にぶちまけてきた。

何か怨みでもあるのかてめぇは。

(*゚∀゚)「あひゃっ、悪いな少尉!」

('A`)「絶対悪いって思ってないよねその感じ。

………各班、来るぞ!!」

“ジェリコのラッパ”とはまた違った恐怖を掻き立てる、低く規則的なレシプロエンジンの回転音。凶暴な獣が群れ迫ってくるような威圧感に、小銃を構えつつ俺は僅かに息を呑む。

《───敵機射程内に捕捉!!》

《撃ち方、始め!!》

やがて、戦闘が始まった。
272 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 00:30:59.75 ID:oJKoS9010
遠くから微かに、無線からははっきりと聞こえてくるアサルトライフルの射撃音。そしてそれらを掻き消すような、敵機の飛翔音と機銃掃射の弾着音。

《2名負傷、2名負傷!!》

《エノクが一台破壊されたぞ!!》

《第三班交戦開始……ぐぁっ!?》

《1名やられた!!》

《負傷者を物陰に運べ!!》

深海棲艦機の撃墜を示す爆発の音は疎らで、代わりに無線を通して伝わるのは呻き声、悲鳴、鉄の弾丸が肉を引き裂く音。

容易く想像できる“向こう側”の惨状。だが、それらが頭に浮かぶ間すらなく。

(#//‰ ゚)「Enemy incoming!!」

('A`#)「Allemann flakfeuer!」

敵機が、襲いかかってきた。

「Keep fire───ups……」

「伍長が撃たれました!!」

「手を止めるな!止めるな!!」

「足が!俺の足がぁ!!」

初回の襲撃時と先程の被害ありきの威力偵察のように、“七面鳥”として正面から射線に飛び込んできてくれた敵機とはワケが違う。

街並みを掠めるように600km/hで飛び去りながら行われる超低空からの対地掃射は、さながら鉄の暴風だった。

次々と撃ち倒されていく味方に対し、此方の弾幕は空を切っていく。頼みの綱だったエノクは、接敵から5秒で二台とも射手を撃たれて沈黙する。

('A`;)「……クソッ!!」

撃墜できる敵機はほとんどない。せいぜい片手で足りる程度。速度を重視してか爆装機が見られない以上、正直隠れてやり過ごした方がよほど此方の損害は少ない。

それでも、無傷で通過させるわけには行かない。同様の軌道で本隊にも突入されれば、今度は艦娘にも被害が出るかも知れない。

時間にして、20秒に満たない襲撃。

(;'A`)「被害報告!!」

「負傷者搬送手配急げ!」

その20秒で、辺りには血の臭いが充満した。
273 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 00:33:24.27 ID:oJKoS9010
《此方ニ班、エノクは全車両完全に破壊されました!死亡6、負傷5、内重篤2!!》

《五班、エノク3両中2両を損失。死亡4、負傷10》

《墜落した機体の巻き添えを受けて屋上班が丸ごとやられた!代わりの隊いけ!早く!!》

ベルリン市の南北の幅は直線距離で30km程度、Helmの最高速度なら3分もあれば飛び過ぎることが出来る。この内俺達前線部隊の襲撃に裂いた時間は、おそらく1分もない。

(;'A`)(……で、その一分でこのざまかよ)

低空域での空襲。家々やビルが建ち並び入り組む街中を高速で飛び回ることになるため、当然深海棲艦側にとってもリスキーな戦術ではある。

だが、俺達人類側は頭上を高速で飛び去っていく1m行くか行かないかの機影を正確に狙い撃たなければならなくなり、その命中率は大きく落ちる。

現実に、前衛部隊が受けた損害は今までとは比べものにならない。投入していたエノクのほぼ全てを失逸し、死傷者も相当数が出た。
こっちの撃墜機数は、おそらく20機程度だろう。

唯一の好材料は、それでも敵機がそのまま市街地を迂回するような動きで西へと飛び去っていったこと。

ただ、それ以上に最悪なことに敵襲はまだ終わっていない。

《Prinz Eugenより前線部隊各位、“隆起”はなおも前進中!!後150秒で各部隊展開地点に到達します!!》

(;'A`)「負傷者収容の速度を上げろ!!それと射線の再構築だ、急げ!!」

徐々に聞こえてきた地響きと、ボコリと突然持ち上がり傾いた十数ブロック先のビルを見て、俺の背筋に冷たいものが走る。

当たり前の話だが、雨で冷えたせいじゃない。

('A`;)「敵艦影視認!!各部隊、戦闘準備急げ、次が来るぞ!!」
274 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 00:36:38.26 ID:oJKoS9010
バキバキとアスファルトを割り、揺れと破壊を周囲にもたらしながら此方に突っ込んでくる“隆起”。道路上に乗り捨てられていた何台かの車やバイクがけたたましい音を立てて盛り上がった街路や道脇のショウウインドウに転がり込む。

('A`#)「────Feuer!!」

その隆起の先端がC-4爆弾が並べられている地点まで差し掛かった瞬間、俺は声高に叫ぶ。海兵隊の一人が起爆スイッチを押し、幾つかの建物の屋上でパンツァーファウスト3が火を噴いた。

『グォオオオオオオオオオッ!!!?』

火柱と、轟音。地面を突き破り、ハ級の縦長な頭部が姿を現す。

「Feuer Feuer Feuer!!」

「Kill the enemy!!」

ジャベリンが、パンツァーファウストが、LAWが、カールグスタフが、唸りを上げてハ級の巨体を滅多打ちにする。

『オァッ、ア゛ア゛ア゛ッ?!』

苦悶の声と共にのたうち、なんとか地面から這い出て此方に攻撃しようとするハ級。かなり数を減らしたとはいえ、未だ多数が健在の火砲の前ではそれは叶わぬ夢だ。

全方位から待ち伏せの末猛射撃を食らい、たちまち全身から黒煙と青色の体液をまき散らしだした。

圧倒的優勢。だがそれは、俺達の区画が比較的空襲による損害が軽かったために得られた局所的なもの。

《此方五班、敵艦に前衛火線の突破を許した!隊列が内部から食い破られている、損害大!!》

《三班よりCP、イ級の襲撃を止められません!火力が絶対的に不足しています!!》

('A`;)「………ウツダシノウ」

全体的な面で言えば、戦況は最悪の状態に移行しつつある。

('A`;)「………こうなりゃやむを得ねえか。前線指揮車よりGraf Zeppelin、第二次支援空爆を」

《ぷ、ぷ、Prinz Eugenより在ベルリン全部隊!!緊急連絡!!》

本当に、最悪の状態に。

《前方、ベルリン西60km程の地点に、深海棲艦艦載機の大編隊を“視認”!!おそらく目標は、ベルリン全域の空襲です!!》
275 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 00:43:40.44 ID:oJKoS9010
  _
( ゚∀゚)《………ジョルジュ=オッペルよりPrinz Eugen-09、そんな遠距離の深海棲艦機を“視認”だと?冗談言うな、幾ら妖精の眼がいいからってんなことあり得ねえぞ》

《一機一機を視認したわけではありません、AR-196妖精の視界が捉えたのは深海棲艦機の“編隊”です!!》
  _
( ゚∀゚)《》

( ゚д゚ )《………何てことだ》

報告の意味に気づき、ジョルジュが絶句する。ミルナ中尉の、打ちのめされたような呆然とした呟きが無線から漏れる。

受け入れたくない悪夢のような現実を、プリンツは震える語尾を抑えながら俺達の鼻先に突きつけた。

《敵の編隊規模が多すぎて、西の空で巨大な黒雲のようになっています!数は解りません、どれほど少なく見積もっても2000機を優に超えるとしか答えようが………。

空が三分に敵が七分、空が三分に敵が七分!!》

('A`)「………」

( <●><●>)「………少尉、何か策を」

('A`)「…………今、考えてる、けど」

こちらの予想規模を圧倒的に上回る、まさに雲霞の如くとしか形容が出来ない艦載機の接近。深海棲艦が意図していることはすぐに解った。

爆撃や機銃の狙いが低空突入しなければ定められないのなら、狙う必要が無いほどの膨大な火力を投入して全てを焼き払えばいいというある意味で単純明快な理論。

即ち、絨毯爆撃。

('A`)(どうやって、北部はまだ完全に制圧されたわけじゃ、フランスやイギリスへの対処も、ベルリンの艦娘潰しが奴らにとってそれだけ、いや、理由はいい、策を、あぁ、でも)

見えない。

打開する策が、見えない。
276 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 01:00:11.09 ID:oJKoS9010
狙いを定める必要が無い圧倒的な物量が押し寄せてきている以上、定点爆撃どころか低空域への突入自体おそらく敵機はしない。つまり、こちらのアサルトライフルによる対空射撃は届かない。レオパルトの主砲撃なら或いは高度に届くかも知れないが、僅か九両では焼け石に水だ。

艦娘による対空砲火とGraf Zeppelinの全艦載機を形振り構わず投入しても、流石にここまで規格外の物量相手には弾薬も燃料も持つはずがない。

無理やりこちらに都合良く考えて「この大編隊が敵艦隊の限界ギリギリの戦力であり、多大な損失は避けたい存在である」と仮定する。その場合なら、“幾らかの損害”を与えれば退かせることは出来るかも知れない。
だが、殲滅の必要が無いにしてもこの編隊が後退を決意するほどの損害となれば、どのみちビスマルクもグラーフもプリンツも、駆逐艦達も余力が残るとは思えない。機甲部隊にも大きな損害が出るはずだ。

そうなれば、今度は健在している第三陣以降の敵防衛線も、主力艦隊も突破は出来ない。残る道はベルリンの放棄か、玉砕上等の突撃かの二択。

('A`)(待て、決め付けるな。何か、何か策が)

ゲームなら、スタートボタンを押せばポーズ画面が現れて時が止まり、幾らでも考える時間が生まれる。しかし、今俺がいる場所は現実の戦況。

《敵機、間もなく市街地に到達!!後150秒ほどと思われます!!》

《Graf Zeppelinより前線ならびにCP、レーダーでも機影を捉えた!!ダミーじゃない、正真正銘敵の編隊だ!!……クソッ、いったい何機投入してきたんだ奴らは!?》

時間は、思考する間にも無情に過ぎ去っている。

('A`;)(何か、何か、何か………あぁ、クソッタレ!!)

空回り、混乱する思考の中で、妙に冷静な自分がぽつりと呟いた。






こりゃ、詰みだ。
277 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 01:02:26.66 ID:oJKoS9010





頭上を、風切り音が駆け抜けていった。




.
278 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/30(火) 01:20:56.36 ID:oJKoS9010

('A`;)「───────!!?」

顔を、上げる。

《Prinz EugenよりCP、高速飛翔体が東部よりベルリン上空を通過、敵編隊に着弾!!》

一瞬の静寂を切り裂き、西から響いてきた爆発音と雷鳴のように瞬く閃光。プリンツの口調は明らかに混乱しており、上擦り震えてかなり聞き取りづらい。

無理もない、それをよく知る俺ですら、驚愕で思考がまとまらない。

それは、深海棲艦の砲撃や艦載機のものでも、艦娘の放ったそれらでもない。軍人として聞き慣れていたが、しかしこの場では聞こえるはずがないと思っていたもの。

我らがドイツの“忌むべき過去”がその先駆を生み出した、人類の知恵と技術の結晶である近代兵器。

《高速飛翔体、更に2発が着弾!!深海棲艦編隊、爆炎に包まれ被害甚大!!隊列大きく乱します!!》

空対空ミサイルの、飛翔音。

《敵編隊、ベルリン上空への侵入を中断し散開───きゃあっ!?》

息継ぐ間もなく、甲高いジェット音と共に今度は銀色の機影が音速で空を飛び去っていく。4つの銀影の内一つが、新たに1発のミサイルを西に向かって撃ち放った。

('A`)「………F-16」

《高層観測班より全在ベルリン軍に伝達!!》

呆然と空を見上げていた俺の耳朶に、絶叫が突き刺さった。驚愕と歓喜に溢れた声で、観測班の一人が狂ったように叫んでいる。







《友軍機がベルリン上空に飛来!!

増援は、ポーランド空軍機です!!!》
279 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/30(火) 01:21:45.53 ID:oJKoS9010
お待たせしました。更新再開です。今回分はここまで。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 01:32:12.73 ID:IvwAC9CA0
おつです!
流石にすり潰せるだけの物量はエグい…
玉砕寸前とはいえ盤外からの一手が刺さって何より…やっぱあの人かなw
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 02:03:32.25 ID:SGPwjDovO
おつ
エスコンのBGMが似合いそうだな
282 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/31(水) 01:19:12.28 ID:qbOhevfD0





《敵群体にミサイル全弾命中!!効果絶大、撃墜多数!!》

(‘ L’)《続けて撃つぞ!!全機照準!!》

炸裂したミサイルの爆炎に焼かれ、巨大な黒い“群れ”が揺れ蠢く。

まるで、一つの巨大な生物が苦しみ悶えているような光景。フィレンクト=クフィアトコフスカ空軍中佐は、目の前の“巨獣”になおも照準を合わせつつ編隊の先陣を切る形で肉薄する。

(‘ L’)《Czarny-01, FOX-2!!》

《Czarny-02, FOX-2!!》

《Czarny-03, FOX-2 FOX-2》

《Czarny-04 FOX-2》

ほんの100M、空対空戦においては目と鼻の先に等しい至近距離からのミサイル攻撃。加えて数千体規模の密集とあれば、当然ロックオンなど必要ない。

4発のミサイルが炸裂し、火の玉が幾つも咲き乱れた。“巨獣”はますます激しく身もだえし、みるみるうちに身体の形が崩れていく。

《Engage!!

Niebieski-01, FOX-2!!》

《Niebieski-02, FOX-2!!》

反転・迂回するフィレンクト達とすれ違う形で、新たに空域に突入してくるF-16の編隊。

息を継がせぬ波状攻撃、背後で新たな爆光が煌めいた。

(‘ L’)《Czarny-01よりHQ、【アオガシマ式戦術】の効果は絶大!敵編隊に大きな打撃!!》

《HQよりCzarny-01、了解した。残弾が尽きるまでは他の編隊と連携し引き続き敵爆撃隊へ反復攻撃を続けろ。情報によれば後続編隊の存在も示唆されている、奴らを絶対にベルリン市空域に侵入させるな》

(‘ L’)《了解!!》
283 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/31(水) 01:24:02.16 ID:qbOhevfD0
ぐいっと操縦桿を傾け、左旋回。全身にかかるGに歪む視界と軋む骨。

丹田に力を込めてこれらに耐え、再び深海棲艦機の大群体を視界におさめる。

立て続けに16発ものミサイルを叩き込まれれば相当な撃墜機が出たはずだが、群体は未だに発達した雷雲のように巨大だ。

元々攻撃を依頼した例のドイツ陸軍の大佐によれば、予測される編隊規模は日本で観測された過去最大のもの───2000機規模に匹敵するだろうとの話だった。だが、この様子を見るにおそらく記録は無事更新された。

(‘ L’)《3000……いや、それ以上いるか》

しかも、司令部曰く後続もまだまだ控えているのだという。尋常じゃない物量に、思わずフィレンクトはコックピットで舌を巻く。

(;‘ L’)《本当に……とんでもない奴らとの戦争になったものだ!!》

発射ボタンを押す。AIM-120空対空ミサイルが雨空を駆け抜け、眼前に広がる“漆黒”に直撃。オレンジ色の炎が、獣の身体から流れ出る血のように群体から突き出し空を焦がした。

(‘ L’)《HQ、地上部隊の現状を教えてくれ!!》

《HQよりCzarny-01、“騎兵隊”はベルリン市に随時突入中。まぁ電波妨害のせいで通信も続々途絶えてはいるが、レヒフェルトからの報告が正しければ問題なく在ベルリンドイツ軍並びにアメリカ海兵隊と合流しているはずだ》

(‘ L’)《それを聞いて安心したよ!!》

市内に展開しているドイツ陸軍の戦力の内、組織的な抵抗力を保持しているとされるのは凡そ2000程度。軍と連動して動いているベルリン市警や機動隊を数に入れても一個旅団を少し越えた程度の兵力にしかならない。加えて寄せられた情報によれば、機甲戦力は骨董品の第ニ世代戦車に雀の涙の装甲車だ。

艦娘が合流しているそうだが、戦艦、空母、重巡が各一隻ずつで残りは駆逐艦だという。

数も質も大きく上回り、しかもなお増え続けている深海棲艦を相手取れるような戦力ではない。というか、これでポーランド軍到着まで持ちこたえた時点でおそらくベルリンの防衛指揮官はとびきりの変態だとフィレンクト達は結論づけた。
284 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/31(水) 01:30:34.42 ID:qbOhevfD0

(‘ L’)《Gun gun gun》

《Good kill Good kill》

腹に抱えていた最後の1発を撃ち込み、更に群体の鼻先まで飛び込んでM61A1バルカン砲をお見舞いする。砕かれ貫かれた敵機がぼとぼとと落下していく中、友軍機がすれ違いざまに賞賛の声を送ってくる。

(‘ L’)(……それにしても、妬けてくるな)

群体に突っ込む直前で反転しベルリン上空を駆け戻りながら、市街地を眼下におさめたフィレンクトはふとそんなことを思った。

欧州全域の現状を的確に分析するどころかイタリアの出撃が遅れることまで見越し、早い段階でポーランドへの増援要請を開始していたレヒフェルト基地の陸軍大佐。

国防体制を理由に渋る政府に対して、南部を経由して交渉の場に乱入し艦娘の存在を外交カードにほとんど身一つで増援の確約を取った連邦共和国首相。

そして、その首相を救助して市外に逃し、質も数も劣る戦力で深海棲艦を迎撃し続けた在ベルリンドイツ軍の面々。

優秀なだけでなく、その優秀な人材が全てを賭して祖国を守ろうとする姿に、フィレンクトは少なからぬ羨望と感銘を覚えている。

そして、同時に。

(‘ L’)《────我々も、負けていられないな!!》

そんな彼らと肩を並べて戦える自分が、軍人として誇らしくもあった。
285 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/31(水) 01:40:33.37 ID:qbOhevfD0









便宜上【軽巡棲姫】と呼ばれている“彼女”は、初めて感じる得体の知れないものに戸惑っていた。

【全の意志】によって与えられる機械的な憎悪とは違う、「自分の身体の中」からせり上がってくるような奇妙な衝動。命令に忠実に、思い描いたとおりに人類に襲いかかる同胞達が、しかし彼女の思い描いた光景を造ることは出来ず跳ね返され、沈められていく様を目の当たりにしてわき上がってくる不快な感覚。

“彼女”は、脆弱なくせに頑強に抵抗する眼前の人間達の姿に、明らかに苛立っていた。

『………』

忌々シイ。

実際に言葉にこそしないが、眇められた彼女の眼がその“感情”を雄弁に語る。

言ってしまうなら非効率的な、しかし看過してしまうことが出来ない【個の意志】に基づく苛立ち。彼女は歯噛みし、地団駄を踏み、長く垂れた髪の奥から東の空を見上げる。

腹立タシイ。

無駄ナ足掻キヲ。

鬱陶シイ。

聞こえてくる同族のものでは無い砲声が、人間共が上げる歓喜と鼓舞の雄叫びが、空を飛び回る鉄の塊が。

全てが、“彼女”の精神を逆なでする。
286 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/31(水) 01:52:04.95 ID:qbOhevfD0
彼女の張り巡らした策は、今のところ上手くいっていた。艦娘達の目をかいくぐり、人間共が住まう陸の奥深くに同胞達と共に入り込み、奴らが「クニ」と呼んでいる活動領域を内部から食い破った。

目的の場所に「核」も据え、“彼女”の同胞達は猛烈な勢いで数を増やしつつある。西に居た人間と艦娘達は一方的に蹂躙され、海からやってきた新手も叩きつぶした。ほくそ笑んでしまうほど美しく、“彼女”の策は上手くいっていたのだ。

だが、今はどうか。南に逃げた人間共は戦力をまとめ上げると同胞達の南下を完全に食い止め、より東へと進むはずだった“彼女”たちは半ば廃墟と化した街で立ち往生している。

ようやく抵抗の芽を摘めるかと思えば、人間側にも新手が現れて彼女が呼び寄せた艦載機を根こそぎ焼き払った。

『…………』

“彼女”は、戦闘能力こそ高いが種族の中で極端にプライドが高いというわけではない。とはいえ全くないわけでもないし、「脆弱で愚かで取るに足らない存在」である陸の猿に、良いようにあしらわれても傷つかないほど低くもない。

今の“彼女”の中には、人類をどのようにいたぶり叩きつぶしてやろうかというどす黒い悪意が、“彼女自身”が抱いた悪意が渦巻いている。

『……………』

『─────』

“彼女”は、背後の同胞に目で準備ハイイカ?と問いかける。

赤い眼をした同胞は、任セテヨとでもいいたげに妙に自然な笑みを浮かべ────








ドルンッ、と。

跨がるそれのエンジンを、鳴らして見せた。
287 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/31(水) 01:53:24.17 ID:qbOhevfD0
今更新ここまで。ようやく終わりが見えてきた…
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 18:02:25.32 ID:ma7/7qHx0
しえん
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 20:46:26.20 ID:hcxKebAbo
とびきりの変態とはひどいほめ言葉だなww
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 18:47:44.91 ID:1faHENNK0
陸上で敵の戦闘艦がバイクに乗って現れる悪夢。
なにこれぇ(誉め言葉)
291 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/02(金) 00:17:05.12 ID:qucG80lV0







頭上で鳴り響く俺達への福音は、ミサイルと戦闘機だけでは終わらなかった。

《────前線各位、衝撃に備えろ!!

弾着、今!!》

観測班からのそんな声と共に、十何発もの砲弾が───迫撃砲などとは比べものにならない威力を誇る、152mm 36.6口径榴弾が豪快に唸りながら飛来する。

空気が、地面が、巨大な炸裂音と共に震えた。砲火を諸に受けた深海棲艦達の悲鳴や呻き声が一瞬響いたが、連続する爆発音に奴らの声すら飲み込まれていく。

《ケーペニック区よりCP並びに前線指揮車、ポーランド陸軍の自走砲隊が展開を完了!前線への支援砲撃を開始!!》

《こちらリヒテンバーグ区、レオパルト2PL並びにPT-91【トファルデ】が戦線に合流しました!このまま既存の装甲戦力との合流に移らせます!!》

《CPより前線各隊、攻撃ヘリ部隊が我々の上空を通過して其方に向かった。後数秒もせず攻撃が行われるはずだ、巻き込まれないよう注意しろ》

(;'A`)そ「おわっ!?」

(;//‰ ゚)「伏せろ、それと下がれ!! Go back!!」

オペレーターの台詞の途中から聞こえてきた、雷鳴を思わせるヘリコプター独特のローター回転音。低空を飛んできたポーランド軍保有のMi-24………所謂“ハインド”が滑るような動きで俺達の頭上に現れた。

『ォオオオオオオオオッ!!!?オォッ……オォォ………』

ホバリング飛行から放たれるチェーンガンと対戦車ミサイルによる猛攻。既に満身創痍になっている通常種の駆逐艦が耐えきれるはずもなく、ものの数秒の攻撃でハ級は息絶えぐたりと倒れて動きを止める。

「く、Clear!!」

海兵隊の一人が我に返って叫び、その声が俺達に「大規模な援軍の到着」という現実をようやく明確に認識させた。
292 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/02(金) 00:20:10.85 ID:qucG80lV0
「援軍………援軍だ!それも空軍や戦車まで!!」

「やった、やったぞ────!?」

歓声が上がりかけた瞬間を見計らったように、西側で上がる反撃の砲煙。戦闘ヘリの装甲が艦砲射撃に耐えられる道理はなく、直撃を受けたハインドが木っ端微塵になり、炎が発する熱が地上の俺達に吹き付けた。

('A`;)「逃げろぉ!!」

( <●><●>)「っ」

(*;゚∀゚)「ひゃあっ!?」

「Deckung!!」

ハインドの残骸が火の玉と化し、こちらへと墜落してきた。逃げ出した俺達の背後で残骸はホ級の屍に突き刺さり、一際巨大な爆発を起こす。

(;メ A )「コハッ────」

浮遊した身体が、近くの横倒しになった車に叩きつけられた。止まる呼吸と軋む骨、チカチカと視界に星が飛ぶ。

ξ;゚听)ξ《ドク!!貴方がいる区画でヘリが撃墜されたけど大丈夫!?応答してドク!!》

(メ;'A`)「ゴホッ……あー、何とか無事だ」

足下に転がった無線機ががなり立て、ツンの叫び声が朦朧とした意識を何とか繋ぎ止めてくれた。また気絶しようものならティーマスやジョルジュに何を言われていたか解ったものじゃない。

密かに感謝しながら腕に力を入れて身体を起こす。咳き込んだところ、何滴かの血が足下に飛散した。

ξ;゚听)ξ《無事なの!?本当に無事なのね!?》

(メ'A`)「繰り返すが無事だよ中尉殿。勿論最高の気分からはほど遠いがな」

ξ; )ξ《そ、そう……Je suis soulage》

最後の方は何を言っているのか解らない。ドイツ語でぉK。

(メ'A`)(しかしなんでここまで心配されて……あぁ)

生じかけた疑問は、幸い根付く前に氷解した。

前線指揮官が戦死となれば指揮系統が混乱しかねない、そりゃあ最優先の安否確認は当たり前だな。
293 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/02(金) 00:31:25.97 ID:qucG80lV0
(メメ<●><●>)「おや少尉、悪運強く生き残っていたようで何よりです」

(メ'A`)「あぁ全くな。死んでた方が永久休暇で楽だったかも解らん」

駆け寄ってきたティーマスの手を取り立ち上がりながら、自身の身体の状態を確認する。……幸い致命傷はや動けなくなるような怪我は負っていないが、呼吸が苦しく腕に断続的な鈍い痛みがある。さっきツンにはああ言ったものの、実際に「無事」なのは命だけといったところか。

('A`メ)「ベーデカーとツーは無事か?」

(メメ<●><●>)「軍曹は気絶していましたが軽傷です。建物の残骸に運び入れて安全を確保しました。

アハッツ伍長は……」

(*メ゚∀゚)「無事だ!!」

Σ('A`メ;)「うおっ!?」

予期せぬ場所から出た声にびくりと震える。見れば、ティーマスの右手に小柄な軍服姿の人影が抱えられていた。

(メ;'A`)「まぁ無事なのは何よりだ……サイ大尉、他の奴らは!?」

(メ//‰ ゚)「少なくとも今の爆発では欠員がない!軽傷者数名といったところだ!!」

('A`)「なら何とかなるな。各位速やかに隊列組み直して戦線の維持を!!このまま次の敵襲が来たら一溜まりもないぞ!!」

「「Jawohl!!」」

「「Yes sir!!」」

(メ#'A`)「前衛各班、状況速やかに報告せよ!!」

《ニ班より指揮車、Mi-24の支援射撃によりイ級の撃沈を完了!戦力再編完了しました!》

《こちら三班、深海棲艦の撃沈に成功も支援に入ったMi-24は敵の対空砲火により撃墜されました。乗組員は全滅です》

《四班、何とか立て直しました。Mi-24も健在!》

《五班同じく!》

崩壊寸前だった戦線は何とか立ち直ったらしいが、投入された戦闘ヘリは早くも二機撃墜されている。

敵の反撃が予想以上に迅速で、かつ激しい。流石に国外からの、それも艦娘戦力を保有していない国家からの陸空の援軍は向こうにとっても巨大な計算外の筈だ。が、こうもすぐ態勢を建て直されると少し辟易する。
294 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/02(金) 01:01:24.91 ID:qucG80lV0
中途半端かつ短くて申し訳ないのですが、書きためが消えてしまったので一度切ります。
重ね重ね申し訳ありません
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 01:09:20.78 ID:2hvaXsyA0
おつおつ、ドンマイです…
ツンの健気な様子は周囲にどんな風に見えてるのやらw
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/05(月) 00:39:32.49 ID:lkXpO44P0
追いついた、こりゃすげーや応援してるぜ
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