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('A`)はベルリンの雨に打たれるようです
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1 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 12:08:12.94 ID:N84Ou5maO
《ベルリン放送、朝のニュースの時間がやって参りました。
深海棲艦の脅威が再び高まる中、大手旅行会社の株価が軒並み大幅に下落する事態が発生しており───》
《ZDFより新鮮な朝のニュースを放送します。
欧州大陸近海における深海棲艦側の小規模な襲撃はここ2週間で8件に上り、EU連合艦隊司令部では大規模攻勢に備えて大西洋上における戦力の増強を────》
《【Guten Morgen Deutschland】のお時間がやって参りました。司会のアンニー=スロムカがお届けします。
先日アメリカ、ロシア、日本の3カ国防共協定締結が正式に発表された件について、ヨコスカで第七艦隊提督の────》
《ドイチェ・ヴェレよりお知らせです。来月から開かれる欧州戦車道博覧会に先駆けて、毎朝5分【私の戦車道】のコーナーを───》
《アメリカのトソン=カーヴィル大統領は、東海岸防衛のためにも深海棲艦への対応をヨーロッパ諸国と連携し緊密に行っていくと声明を───》
《ダイオード=リーンウッド首相は、本日フランス大統領とロシアの東欧問題に関する対策を協議する予定で───》
《北ドイツ放送よりお知らせです。
ドイツ連邦刑事局は、ここ一年ほど北部地域にて活動を活発化させているバイカーギャング【デビル・ブレーメン】が、昨晩ノルデン方面へ大規模な移動をしていたという目撃証言があったと発表しました。
刑事局では【デビル・ブレーメン】と敵対組織による抗争が勃発する可能性を示唆し、住民になるべく外出を控えるよう勧告がでています》
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1494212892
2 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 12:09:27.40 ID:N84Ou5maO
〜('A`)はベルリンの雨に打たれるようです〜
3 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:10:19.94 ID:N84Ou5maO
「当店は禁煙です」
('A`)「……あー、すまない」
何の気なしに取り出した煙草を、横から伸びてきた手がかすめ取る。
絶対零度の視線で口元にだけ笑みを貼り付けたウェイトレスに頭を下げると、彼女はツンッと顔を背けて足早にその場を去って行く。
('A`)「……Verdammt」
ウェイトレスが十分に離れた辺りで、聞こえないように小さく悪態をつく。仮にも軍人が情けない話だが、そもそも非が此方にある以上強く言えないのが現実だ。彼女はあくまで職務を全うしたに過ぎない。
('A`)「くたばれ禁煙法」
やり場のない怒りを、とりあえず10年前に施行された今世紀最悪の悪法にぶつけることにする。
まぁ10年前の段階では俺はまだ煙草のうまさを知らなかったわけだが、Marlboroがティーマスの次に掛け替えのない相棒となってしまった今は「喫煙者に対する人種差別」の深刻さを身を以て感じる日々だ。
('A`)「……朝飯食うか」
喫煙者の社会的地位を取り戻すにはどうすればよいか真剣に頭を悩ませつつ、厚焼きのベーコンをフォークに突き刺しスクランブルエッグに絡めつつ口に運ぶ。
ベルリン屈指の高級ホテル備え付けカフェだけあって、味は最高だった。
4 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:11:56.52 ID:N84Ou5maO
('A`)「………休暇、ですか?」
「ああ、明日から1週間だ」
それは、二日前の出来事。呼び出しを受けておっかなびっくり陸軍局へと出頭した俺に、眼鏡を掛けたいかにも頭が固そうな局員はそういって紙の入った封筒を突きつけてきた。
「アルカンタラマールでの大手柄への“報償”だよ。帰国から日が経ってしまい申し訳ないがね」
('A`)「また急な話ですね」
「君が大尉への昇進を素直に受けてりゃこの“急な話”を持ち出す必要も無かったさ」
嫌味を苦笑いでスルーし、封筒を開封。中に入っていた書類には休暇期間中も給与対象となること、加えて、休暇期間中の諸費用も陸軍から支給されることが書かれている。
('A`)「……こりゃ至れり尽くせりだ」
「2階級特進に見合う代替案だからね。ま、陸軍全体の話で言えばこっちの方が安上がりだから助かると言えば助かるさ」
局員はそう言って、受付の台に100ユーロ紙幣の束を三つ叩きつける。
「こっちはしめて二万ユーロの“休暇手当”だ。足りなくなった分は領収書を切っておけばそれも陸軍局から補填する。また使い切れなかった場合でも、手元に残った金の返済義務はない。こっちの一万ユーロは純粋なボーナスの方だな。これは休暇手当とは別だから、ここからの消費分は補填の範囲内だ。
何か質問は?」
('A`)「いや、特にない」
「ならその金持ってとっとと失せな。
よい休暇を、“英雄気取り”君」
5 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:13:54.28 ID:N84Ou5maO
さて、かくして俺は昇進を蹴り上層部に睨まれた見返りとして、1週間の素敵なバケーションを獲得した。
とは、いえ。
('A`)「……休暇は休暇で持て余すな」
彼女ナシ。
趣味ナシ。
友達ナシ……というほどではないが、休暇中に遊びに誘うような仲の奴はごく少数。
そのごく少数も、リスボンでの一件以降激増した深海棲艦襲撃の対応に逐われ激務の日々だ。貴重な休日を俺の退屈しのぎに付き合わせるような真似はしたくない。
結果、俺の手元には“特にすることがない10080分”という膨大な空白の時間だけが残った。
因みにこの内1440分は、割り当てられた部屋でルームサービスをつまみながらベットで寝転んでいたらいつの間にか消化されていた。
('A`)「……金はあるしな、うん。今日から適当にベルリンを回ってみるか」
('A`)
('A`)「ベルリンってどこ見りゃ良いんだ?」
休暇、マンドクセ。
6 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:20:08.30 ID:N84Ou5maO
「ベルリンの見所、でございますか」
('A`)「あぁ。多忙なところ申し訳ないんだが、頼む」
いちいち調べるのも億劫なので、年配のウェイターを一人呼び止めて尋ねることにする。相場より少し多めのチップを盆に置くと、目尻の皺をだらしなく緩めながら饒舌に答えてくれた。
「いつもならヨーロッパ・パークがやはり一番手に上がるのですが……ここ数日はあいにくの天気ですからな」
そう言ってテラスの外にちらりと視線をやる。今日も厚い雲が空を覆い、朝から盛んに雨水をアスファルトに叩きつけている。
「ブランデンブルク門など如何でしょう。今年で建設から326年になる歴史ある門ですが、雨の中のたたずまいもまた格別な趣がございます。
距離的にもここからそう遠くありません。タクシーなら2〜3分、徒歩でも15分といったところですな」
('A`)「……なるほど、ね」
グランドスクールの頃に歴史学で最悪な成績を叩き出し続けていた俺にとって、そのブランデンブルク門とやらが積み重ねた326年の月日は“この天気に近づいたらさぞ土臭いだろうな”という感想を抱かせるだけだ。
此方の心情が伝わったらしく、ウェイターは「お気に召さないようですな」と言って苦笑いを浮かべた。
「確かに、今の若い人たちにはあまり愉快な場所とは言えないでしょうな。
しかし、同じドイツ人に紹介できるようなベルリンの見所というとなかなか思いつきませんなぁ」
('A`)「いや、そこは気にしないでくれ。元は田舎の出身だし、アビトゥーア(ドイツにおける高等教育受講の権利)を取得できず学園艦への乗船ができなかった落ちこぼれだ。
俺にとってはベルリンもニューヨークも変わらないよ、脳みそがラードでコテコテのアメリカ人に紹介する感じで大丈夫だ」
「なるほど。ではケンタッキーフライドチキンかステーキハウスが付近にあることは必須条件ですな。
……とまぁ冗談はさておきまして、今ならばパリ広場に行かれては?」
('A`)「パリ広場?」
7 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:20:56.84 ID:N84Ou5maO
どちらにせよブランデンブルク門も目にすることになりますがねと前置きした上で、ウェイターはどこからともなく一冊の手帳サイズの冊子を取り出し、机の上に置く。
表紙には“ドイツ戦車展覧会”と書かれ、やや装飾過多なその文字の下に突撃戦車A7V、ティーガーU、レオパルト2の写真が並んでいる。
「来月の欧州道博覧会に先駆けて、ムンスター戦車博物館から借り出された保管車両がパリ広場に展示されているんですよ。
このドイツは戦車、そして戦車道と共に歩んできた国ですからね。ベルリン市の方でもかなり気合いを入れているみたいです。
なかなか壮観な光景でしたよ、ドイツ国内だけでなく欧州各国の戦車道ファンが朝から広場に詰めかけるぐらいの眺めですから」
そう言われ、今更ながらこのカフェが朝から大盛況な理由に合点がいった。
こいつらの大半はパリ広場に雁首揃えるドイツ戦車群が目的というわけか。
8 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:22:11.69 ID:N84Ou5maO
ぱらりと何の気なしに冊子を開けば、最初のページにはやたらと古くさくてでかい門──おそらくブラなんとか門──を背景に、その門に向かってずらっと2列縦隊で並ぶ戦車隊の写真が見開きで載っている。
なるほど、砲や機銃を斜め上に向けて整列する様は、王に仕える歴戦の騎士達が剣を掲げ忠誠の誓いを立てている姿を思い起こさせる。
例え戦車道に微塵も興味が無い人間でも、少なからず高揚を覚えそうな光景だ。
他にも、近くのホテルやショッピングモールでTBL───タンク・ブンデス・リーガの歴代優勝チームパネル展や強豪学園艦による戦車の実演操作イベント、近年国際試合でめざましい結果を上げつつある日本の戦車道特集、果てには陸軍で公式に利用される戦車シミュレーターの体験など催しはかなり充実している。
……シミュレーターまで借り出されてるって事は陸軍も一枚噛んでるのか。
世界に冠たるドイツ戦車道のアピールの場とあって、どうも戦車道連盟も鼻息が荒い。ここ数年海の女神にばかり賞賛が集まった結果、陸の女神の崇拝者達が欲求不満気味らしい。
('A`)(しかし、“パリ広場”ねぇ……)
ふと、アルカンタラマールで出会った巻き毛の戦車兵を思い出す。
アイツとはその後顔を合わせぬまま帰国となったが、今はどこで何をしているのだろうか。
ξ゚听)ξ「お話中にごめんなさい。私にもそのパリ広場?への行き方を教えてほしいのだけれど」
('A`)
9 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:23:15.68 ID:N84Ou5maO
「おや、マドモアゼル。戦車道に興味が?」
ξ゚听)ξ「興味というか関係者というか……ベルリンって大して見るところも無さそうだし、暇つぶしになるなら寄ってみようかなって」
('A`)
「はっはっはっ、これは手厳しい。ですが、戦車道と何らかの関わりがある方なら退屈しないことは保証させていただきます。
これを機に、ベルリンへの印象も変えていただければ幸いですが」
ξ゚听)ξ「善処はするけどそれは私次第ね、えぇ」
('A`)
ξ゚听)ξ「あら」
('A`)
ξ゚听)ξノ「よっす久しぶり、元気してた?」
('A`)「軽くね?」
10 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:24:44.80 ID:N84Ou5maO
《ヴェルヘルム=スハーフェン鎮守府にて行われた定例記者会見の中で、マモン元帥は海上防衛網の盤石性を強調。深海棲艦側はリスボン攻撃の失敗後勢いを欠いている状態だと説明し───》
《ポルトガル政府は本日、日本のミナミ首相に正式に艦娘の派遣を要請することを決定したと発表───》
《えー、駅構内の皆様にお知らせ致します。マリーエンハフェ〜ノルデン間の列車は現在貨物車の脱線が原因で運休となっており───》
《此方レーベレヒト=マース、該当エリアの捜索を完了。未だに捕捉できない、引き続き───》
《台頭著しい日本の戦車道界で、一人の少女の活躍が脚光を浴びています。
国から廃艦を突きつけられた学園艦を救ったその少女は、まさしく現代のジャンヌ=ダルクと言っても過言ではなく───》
《あぁ、そうさ。あのどら息子は集会があるとかいって昨日の夜から家を空けてるさね!はっ、あいつは年がら年中遊び回ることしか考えてないからね!
どうせまたバイク仲間とそこらを走り回ってるだろうよ、電話にも一向に───》
《此方51号車、高速道路沿いで【デビル・ブレーメン】のメンバーと思われる男を一人確保した。
酷く錯乱している、応援と救急車を急ぎで寄越してくれ。
……女?女がいったいどうしたってんだ。それよりお前さん、バイクはどうした?他のメンバーはどこにいるんだ?》
11 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 12:29:23.89 ID:N84Ou5maO
ξ゚听)ξ「改めて、フランス陸軍のツン=デレよ。
階級は先日昇格して中尉になったわ。四日前からミュルハイムに配属されているの、よろしく」
('A`)「ドイツ連邦陸軍第11歩兵連隊所属のドク=マントイフェルだ、階級は少尉。
リスボンの時はアンタ達のおかげで助かった」
ξ゚听)ξ「それはこっちの台詞よ。貴方が声を掛けてくれなければ私は今頃2階級特進だったわね。
後、当然のことながらそちらのBismarck zewiにも感謝してる」
('A`)「もしも会う機会ができれば伝えるよ………しかし、ミュルハイムね」
多少フランス訛りがあるものの、非常に流暢なドイツ語に合点がいった。
ミュルハイムには欧州合同軍の一角であるドイツ・フランス合同旅団が駐屯している。
ドイツ語の取得も趣味や酔狂ではなく必要に駆られてのことだろう。
('A`)「それにしてもたった四日でそのレベルか、凄いな」
ξ゚听)ξ「あぁ、配属が四日前ってだけで辞令自体はもっと前から貰ってたのよ。ドイツ語の勉強も別件もあって二ヶ月前ぐらいから既に始めてたし」
ツンはコーヒーを飲み干しながらそう言って肩を竦める。
……いや、二ヶ月でもここまで完璧にできるか?ドイツ語って他の国の奴等からしたら難しいって聞いたことあるんだが。
ξ--)ξ「一応リスボンの時点で日常会話ぐらいならこなせはしたけど、あの急場だと表現のすれ違い一つでお陀仏の可能性もあったしね。
だからやりとりはより使い慣れている英語でやらせて貰ったの」
つまり英語も本来ならもうちょっと高いレベルで扱えると。なるほど、合同軍に派遣されるだけあってかなり優秀なようだ。
('A`)「………あー、ところで中尉殿」
ξ゚听)ξ「……急に他人行儀ね。何?」
('A`)「何故自然な形で相席を?」
12 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:32:33.74 ID:N84Ou5maO
ξ゚听)ξ「………」
依然として俺の目の前の席に座りながら、ツンは何故か空になったコーヒーカップを口元に持っていき傾けた。
フランス式のテーブルマナーだろうか。
ξ゚听)ξ「……ほら、あれよ。お店混んでるから、ね?見ず知らずの他人と相席になってもアレだし」
('A`)「……」
言われて店内を見回す。確かに朝の八時半にしては異例の人入りなのは確かだが、空席は皆無じゃない。窓際のカウンター席は寧ろ若干の余裕すらある。
ξ゚听)ξ「それに貴方と私の仲で挨拶無しって言うのも変だしほら助けて貰った御礼もしっかり言えてなかったし何より見知らぬ土地で見知った顔に会えたから少し安心したというかまぁそういうね深い意味はないのよ別に」
一時間弱同じ戦車に乗っていたことが“深い仲”と言えるかどうかは議論の余地があるだろ間違いなく。
しかしやけに早口だな、やはり取得期間が短かった分ドイツ語は慣れない面もあるのか。
ξ゚听)ξ、「その……相席が迷惑って事なら移動するけど」
('A`)「疑問に思っただけで別に迷惑じゃない。そっちが構わないなら俺はこのままでいい」
ξ*゚听)ξ「!」
ξ;*゚听)ξ「そ、そう!な、ならこのまま相席でいいわね!
別に私はどっちでもいいけど!どっちでもいいけど!!」
('A`;)「……そうか」
15分にも満たない時間の中で、俺は一つ学ぶ。
目の前のフランス人女性は、割と変な奴らしい。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:40:51.64 ID:N84Ou5maO
秋口の空模様のように表情を安定させないツンを面食らって眺めつつコーヒーカップを持ち上げるが、いやに軽い。覗いてみるとカップにはなにも入っていなかった。
ドイツには空のコーヒーカップに口吻をする習慣はないので、通りすがったウエイトレスにお代わりを注文する。
ξ゚听)ξ「貴方、この後予定はないのね?」
そう尋ねつつもう一度カップを口元に持って行こうとしたツンは、一瞬眼を見開いてカップの中を覗き込んだ後「私にもお代わりを」とウェイトレスに手元のそれを差し出す。
……はて、ではさっきの動きはいったい何だったのだろうか。
('A`)「というか待て、何を根拠に決めつけてるんだ?」
ξ゚听)ξ「予定のある人間がウェイター呼び止めてわざわざベルリンの見所なんて聞くかしらね?」
('A`)「……」
ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、口にコーヒーと苦虫を含んで黙り込む。単に変な奴というわけではなく、存外鋭い。
('A`)「軍人やめて探偵でも始めたらどうだ?女エルキュール=ポワロになれるぜ」
ξ--)ξ「よく勘違いされるけど、ポワロはフランス語圏に住んでるだけでベルギー人よ。それに私、子供の頃あこがれたのはアルセーヌ=ルパンの方だし」
ああ言えばこう言う奴だ。
('A`)「仰るとおり、何も特に決めてないよ。というかドイツ人でありながらベルリンに来たこと自体数えるほどしかないな」
ξ゚听)ξ「そう……」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「あー………んっん。その、私はフランス広場の戦車道展に行こうと思ってるんだけど、良かったら貴方も一緒に来る?」
('A`)「え?」
ξ゚听)ξ「ほ、ほら。それなりに扱えるようになったとはいえやっぱり私のドイツ語なんて付け焼き刃だし?ベルリンも私は完全に初めてだし?その、もし行くところがないなら一緒に回ってくれないかしら……なんて……」
('A`)「別に構わんが、エスコートといえるような上質な案内はできなi」
ξ*゚听)ξ「そ、そう!!なら仕方ないから貴方にエスコートされてあげるわ!
別にどっちでも良かったけど!!どっちでも良かったけど!!」
('A`;)「……」
どっちでも良かったのなら、一人でさっさとフランス広場に行けばよかったんじゃないだろうか。
14 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:42:45.62 ID:N84Ou5maO
《何度も言うがこんなこと陸軍の連中にも上にも知られるわけにはいかんのだ!!類を見ない大失態だぞ!?何としても内々に処理を───》
《軍のヘリがやたらと飛んでるな……また深海棲艦か?
あぁいや、こっちの話だ。そろそろ家を出るから駅で待ち合わせを───》
《ドイツ中央は今日も厚い雲に覆われ、ベルリンを中心に強い雨が────》
《先年から続くウクライナ問題についてEU加盟各国は引き続きロシアに対応を要請していますが、ロシア政府は深海棲艦との戦闘激化を理由に返事を引き延ばし───》
《BFM-TVよりニュースです。フランス海軍は我が国唯一の艦娘であるコマンダン・テストの配備数が昨日丁度40隻目になったと発表。新たなコマンダン・テストは深海棲艦の本土上陸への備えとして内地に配備される予定で────》
《France 24から臨時ニュースをお伝えします。つい先ほど、フランス・ドイツ国境付近のA-320番道路にて大規模な陥没・崩落事故が発生した模様です。
死傷者についての情報はまだ入っておらず、フランス陸軍・消防・警察が急行中とのこと。
付近の住人の皆様は、決して現場に近づかないようにしてください》
15 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:44:41.56 ID:N84Ou5maO
あまり早く出過ぎてしまってもそれだけ雨に多く当たることになると考え、1時間ほどカフェテリアで潰してからホテルを後にする。
ぱらりと傘を開いて一歩外に踏み出す。大量の雨粒がナイロン生地の上で弾け、たくさんの子供が裸足で走り回っているようなバタバタという音が耳朶を打った。
フランス広場までの道中を、並んで歩きながら他愛のない会話で潰す。会話と言っても、ほとんどはツンが一方的に喋り俺は軽く相づちを打つ程度だが。
ξ゚听)ξ「にしても、このご時世によく軍属で一週間も休暇なんて取れたわね」
('A`)「そりゃドイツ陸軍上層部のありがたーーいご厚意………と言いたいところだが、世間体半分、もう半分はある種の嫌がらせだろうな」
深海棲艦の襲撃が続き、陸海空軍全てが厳戒態勢を維持している欧州にあって一人だけ優雅に一週間バカンス。特に最前線で命がけの日々を送る海軍並びに艦娘からしたら、深海棲艦より先に俺をぶち殺したくなるような案件だろう。
陸軍にしたって、決して良い気持ちがするものとは思えない。ジョルジュやビロードやミルナ中尉、ティーマスのように理解してくれている(と思いたい)面々はともかく、話だけを聞いた奴等からすれば俺は敵前逃亡した臆病者にしか見えない。
_,
ξ゚听)ξ「……特に何もしてないのに罰を与えるの?ドイツって割と変な国ね」
ツンはそう言って首をひねったが、上層部の当たりが異様に悪い理由は察しがついている。
('A`)「広告塔がほしかった陸軍の期待に添わなかった結果だな」
艦娘の実装で深海棲艦が大西洋に叩き出されて以来、陸軍の存在感は海軍に比べてあからさまに薄くなった。ポルトガルでの一件は久しぶりのアピールの場だったが、それもBismarck zwei という“救世主”の登場にかっさらわれた。
人類の平和よりも自分たちの権力の方が大事らしい上層部は、「陸軍の功績」を大々的に発表するために俺に白羽の矢を立てたというわけだ。そんなものに参加させられたくなかったので断ったが。
小耳に挟んだ話だが、将軍の一人は「いっそ名誉の戦死を遂げていてくれていた方が好き勝手に脚色できたのに」とこぼしたらしい。
16 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:48:52.78 ID:N84Ou5maO
ξ゚听)ξ「……陸海軍の啀み合いはどこも同じってわけね」
('A`)「やっぱりフランスも酷いのか?」
ξ゚听)ξ「貴方たちよりもね。
ウチの海軍が実装している艦娘はコマンダン・テストだけ、数もようやく40隻に過ぎない。それで艦娘の数を増やしたい海軍と、増やされたら困る陸軍が泥沼の主導権争いしてるわ」
ツンはそう言いながら、心底不快げに息を吐く。
ξ--)ξ「しかもその陸軍の中でも、海軍との協調も必要だとする穏健派とこれを機に陸軍の指導力を徹底的に強化しようとする強硬派が権力争いの真っ最中よ」
('A`)「……」
ξ゚听)ξ「………私ね、所属する部隊の隊長に聞かれたのよ。君は“どっちの派閥に入る気だ”って。
今は国のために戦っているので、どっちにも入りませんって答えたら………」
('A`)「ジャガイモとソーセージの国に飛ばされた、と」
::ξ* )ξ::「ゴフッ………そ、その通りだけど、人が真面目な話してるときに笑わせに来るのやめなさいよ」
……優秀さを買われての抜擢ではなく、中央から遠ざけるための左遷だったと。
われわれの真の国籍は人類である────確か、H.G.ウェールズの言葉だったか。
“深海棲艦”という共通の脅威を前にしても、【人類共和国】の設立は残念ながら難しいようだ。
17 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:51:19.41 ID:N84Ou5maO
ヤパーヌ製の高性能防水傘さえあまり役に立たない大雨の中で、しかしながらフランス広場は傘を広げた多くの人でごった返す。
('A`)「………おぉ」
そして、その人混みが納得できる程度には確かに“その眺め”は荘厳だった。
ブランデンブルク門へ向かって伸びる石畳の道路、その両脇にパンフレットと全く同じ構図で並ぶ歴代のドイツ軍戦車。
最も手前にはドイツ軍が世界に誇る、“最強の戦車”ケーニッヒ・ティーガーと第一次大戦時にの最初の戦車であるA7V。この二台を先頭に、優に30は越えるであろう戦車・軽戦車・自走砲が門へ向かって鎮座する。
最奥、門のすぐ手前では超重量戦車マウスとカール自走臼砲が巨躯を晒し、あえての演出なのか砲を広場へ入ってくる人々に向けていた。
門の上に鎮座する、おそらく大昔の王様と思われる馬車に乗った銅像の存在も併せれば、雨靄の中に悠然と佇む戦車群はまさに“精強な騎士団の整列”だった。
会場周囲は万一の車両の誤作動やテロを警戒してか、ドイツ陸軍の顔も知らぬ同僚達が一個小隊ほど警戒の任にあたっている。
とはいえ景観への配慮からか身につけているのは全員Reichswehr時代の軍服だ。邪魔になるどころか彼らの存在もまたこの眺めの重厚さを増すのに一役買っていた。
ξ*゚听)ξ「────Tr?s bien」
隣で、恍惚とした表情を浮かべてツンが呟く。
TBLの試合をニュースで追う程度の関心でしかない俺でもこの光景には圧倒されているのだから、実際に戦車と関わり愛着を持っている人間からすれば例え他国のものであっても相当な感動を受けるに違いない。
ξ*゚听)ξ「アーーー……アーーーっ!!
ドク、もうちょい近くで見るわよ!行くわよ!!」
('A`)「ぉK、落ち着け。この雨の中ですっ転んだら悲惨だぞ」
興奮状態のツンにほとんど引きずられるようにして、俺は門の方へと向かう。正直一緒に居るのが少し小っ恥ずかしくなるぐらいのはしゃぎようだが、幸いどいつもこいつも居並ぶ戦車達に釘付けだ。
まぁ、せっかく来たんだし少し見て回ろう。そう考え直し、顔を上げ────
18 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:52:26.82 ID:N84Ou5maO
─────眼が、合った。
19 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:54:29.72 ID:N84Ou5maO
('A`)「…………」
広場を埋め尽くす人混みの中で、
“それ”は。
“そいつ”は。
ただ一人、俺たちを見据えていた。
『…………』
土砂降りの中で傘も差さず、佇む影。
ブランデンブルク門の、丁度真下辺り。そこから向けられた赤い瞳は、間違いなく俺たちを───俺を見据えている。
(;'A`)「………」
一時期軍内でも話題になったバイカーギャングのエンブレムがついた革のジャケットを着ているせいで、一目見ただけではただの人間にしか見えない。実際周囲は大雨の中で傘を差さずにいるそいつを奇異の目線でちらりと見た後避けこそすれ、誰も騒ぎ立てはしない。
それでも、俺には解った。
漆喰で塗り固めたような白い肌。
対照的に、血のように紅い双眸。
“奴等”にしては滑らかで自然な笑みを浮かべた、口元。
ヤァ、マタ会ッタネ。
まるでそう言いたげな笑みを浮かべて、奴は────重巡リ級eliteは、挨拶するように左手をひょいと上げる。
腕周りに、艤装が展開された。
(;'A`)「────伏せろ!!」
ξ;゚听)ξそ「きゃあっ!?」
傘を投げ捨て、ツンに飛びつき、地面に転がる。
─────砲声。
轟音と共に、ブランデンブルク門が崩落した。
20 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 12:55:50.32 ID:N84Ou5maO
お昼休み中に書きため第1波。第二波は夜辺りに。
今回かつてない(私にしては)長丁場になる予定ですが、お付き合いいただければ幸いです
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 12:57:14.29 ID:jgwlT8fXO
いいね
ブーン復権支援支援
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 12:59:32.98 ID:R1TydmEK0
これって前作とかあるの?
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 13:05:38.28 ID:cFSa5Hteo
乙
ツンドクいいぞ^〜
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 14:57:08.71 ID:odpUzXbBO
乙、こないだのやつの続きか
25 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 22:32:25.49 ID:Z9goZ7tp0
《あー……此方51号車。現場に到着したが酷い有様だ、死体がそこら中に───》
《此方43号車、デビル・ブレーメンのユニフォームを着てバイクで走行中の一団を捕捉。これより追せk
《42号車より43号車、状況を報告せよ!それと今の爆発音はなんだ!?おい、43号車───》
《プリンツ・オイゲンよりHQ、観測機が奴等を捕捉しました、24号道路です……タ、タ級elite2隻!?HQ、単艦での対処は困難、至急増援を────》
《ば、ば、ば、バイクに乗った女が突然ぶっ放してきたと思ったらパトカーが吹き飛んじまったんだよ!!ありゃイスラムのテロリストにちげえねぇ、早く来て────》
《元帥、陸軍局から問い合わせです!民間から深海棲艦が現れたという通報が入ったと────》
《誤情報だと言っておけ!何度も言うがこのことは奴等にバレては───》
《げ、元帥!!ベルリンに、ベルリンに深海棲艦が!!》
《……………何だと?》
《ラベ川よりハンブルクにル級4体の上陸が確認されました!民間から通報があった模様!》
《ハノーファー北部、七番道路にて陥没事故発生!無人偵察機が急行していますがおそらく深海棲艦による攻撃です!!》
《ヴンストルフ空軍基地に【Helm】による大規模な空襲を確認!!同基地よりグラーフ・ツェッペリンの出撃要請が出ています!!》
《ネルフェニッヒ航空基地からも要請が到着!ル級による砲撃も行われているとのこと!!》
《イェーファー空軍基地からも同様の要請あり!》
《何が、何が起きている……?》
26 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 22:35:03.98 ID:vhkD1UQdO
《France 24より緊急放送です。A-320番道路にて、艦隊規模の深海棲艦の出現が確認されました。現在陸軍が迎撃を敢行すると同時に、警察と連携して避難誘導を各地で行っています。フランス東部の皆様は、誘導に従い速やかに避難してください》
《北ドイツ放送より北部住民に緊急放送をお送りします。複数地域に深海棲艦が出現したという通報が陸軍・海軍局に入りました。最低限の身の回りの物のみ持って迅速な行動を心がけて下さい》
《ZDFより特別報道を行います。
この映像が見えますでしょうか、ドイツ各地に深海棲艦の艦載機が襲来しております。街に容赦なく爆弾の雨が降り注いでいます。人が、建物が、次々となぎ倒されていきます》
《ドイツ海軍から、深海棲艦の本土上陸に関する公式のコメントは未だにありません。複数箇所で艦娘と海軍陸戦隊、陸軍が展開、深海棲艦への反撃と遅滞を行っている模様です》
《既に幾つかの地方支局と連絡が取れない状態になっており、ドイツ国内は混乱の極みに達しています》
《BBCから衝撃の映像をお届けします。ドイツ・フランス両国で深海棲艦の大規模な内陸侵攻が確認されました、ご覧下さい、ル級が砲撃を放ちながら道路を闊歩しています》
《オランダ政府は陸軍を国境線へ出撃させたと発表、同時に国民に、政府公式発表を絶対に聞き逃さないようにと注意喚起のコメントを添えています》
《CNNドイツ支局との連絡は途絶しており、フランス支局も混乱状態で正確な情報が入ってこない状況です。
ホワイトハウスは在独アメリカ人の保護と、友好国であるフランス・ドイツの救援に最大限力を尽くすと談話を発表。
大西洋上で深海棲艦の警戒に当たらせていた第六艦隊をイギリス海峡に派遣、ドイツ・フランス救援作戦を発動する模様です》
27 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 22:41:04.57 ID:vhkD1UQdO
.
真下から門に向かって放たれた、重巡洋艦の主砲撃と同程度の威力を持つ一撃。積み重ねた300年の歴史とやらは、その前にはあまりにも無力だ。
門は上部中央を破砕され、両断状態となった支柱は音を立てて崩れていく。
そして────“真下からの砲撃”によって上空に撃ち上げられるかたちとなった門の残骸が、迫撃砲弾のような軌道で周辺へと降り注いだ。
「────えっ」
「……は?何?うs」
ツンを庇って地面に伏せる俺の周りで、事態を飲み込めぬまま石の弾丸に人間が叩きつぶされるしめった音がいくつも雨音をかき消して聞こえてくる。噎せ返るような血の臭いが、一瞬で広場に充満した。
ξ;゚听)ξ「……ドク、いったい何が」
(#'A`)「逃げるぞ!!立て!!」
ξ;゚听)ξそ「あ、えっ?」
瓦礫の飛翔が納まったのを確認し、まだ理解が追いついていないツンの腕を引いて立ち上がらせる。
走り出しながら背後を見やると、リ級eliteはニヤニヤとからかうように笑いながら此方に腕を向けていた。
(;'A`)「────皆、散れーーーーーーーーっ!!!!」
ξ;゚听)ξ「きゃあっ!?」
未だにボケッと突っ立っている広場の奴等に向かって絶叫しつつ、ツンを抱きかかえて先ほど落下してきていた瓦礫の影へと転がり込む。下敷きになっている紅い染みと白い脂肪、それから左手が眼に入ったが気にしている暇はない。
『♪』
熱と鉄の塊が、リ級eliteの右腕艤装から吐き出される。第4世代戦闘機の装甲をも引きちぎる威力と速度を誇る弾丸が、雨粒を切り裂いて先ほどまで俺たちが居た場所を駆け抜けていった。
「ふぁっ」
「ああああああああああえあっ!!!!?」
叫び声に反応した幾らかは、俺の後に続いて物陰に飛び込み避けられたようだ。だが、そうできなかった奴の方が遙かに多い。
ξ;゚听)ξ「っ」
射線上の人体が引き裂かれ、砕かれ、意思がある人間から物言わぬ肉塊へと姿を変えて路上に横たわる。響き渡る断末魔に腕の中でツンの身体がびくりと震えた。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/08(月) 22:44:40.64 ID:vhkD1UQdO
「撃て、撃て!!」
「早く広場の外に逃げろ!!巻き込まれるぞ、急げ!!」
「此方フランス広場、敵襲を受けている!至急増援を派遣してくれ!!」
機銃掃射が納まると同時に、広場のあちこちで銃声が幾つも上がる。
先ほどの瓦礫の雨と掃射から生き残った警備担当のドイツ兵達が、H&K G36Cを構えリ級eliteに向けて引き金を引いていた。同時に、広場の外からも民間人に逃げるよう促しつつ20名あまりがなだれ込んでくる。
誰もが、死を覚悟した顔つきで。
('A`)「行くぞ」
ξ゚听)ξ「……私たちも戦」
('A`)「俺たちがあっちに入っても意味はない」
ξ;゚听)ξ「……」
あえて、感情を殺して平坦な声で答える。
事実、俺たちが彼らに加わったところでできることはない。俺もツンも武器を持っていないし、もし持っていたとして「歩く重巡洋艦の装甲」を歩兵の携行火器ごときで抜けるはずもない。
そして彼らが生を捨ててまで稼げる時間も、あのリ級が最大限に「遊ぶ」であろう事を考慮に入れても15分あれば十分な“健闘”だ。
ならばせめて、彼らの意思を少しでも無駄にしないように選択する。
('A`)「急いでここから離れろ!!東だ、東へ向かえ!!」
ξ゚听)ξ「もし怪我人が居たら手の空いてる人で運んで!押さないで、押し合うとかえって逃げ足が遅れるわよ!!」
ようやく現状を認識して会場出口に恐慌状態で殺到しようとする人の波を誘導し、パニックや怪我で動けない奴等を立たせ、促し、リ級から遠ざけていく。
('A`)「こっちだ、早く!!」
座り込んで泣き喚く子供を抱え上げ、その母親と思わしき女の背を押し進ませる。
一瞬、背後に視線を向けた。
「………」
警備隊の指揮官と目が合う。彼は微笑み、ありがとうとでも言いたげに此方に向かってサムズアップした。
「────Los, Los, Los!!」
突撃の号令、アサルトライフルを構えた兵士達が弾丸を放ちながらリ級との距離を詰めていく。俺は彼らに背を向け、母親の背中を先ほどより強く押す。
指揮官の右手薬指に輝いていた指輪の存在を、無理やり脳内から追い出す。
やがて、H&K G36Cのそれよりも遙かに重苦しい銃声が後ろで鳴り響いた。
29 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 22:46:07.00 ID:vhkD1UQdO
「おい見ろ!陸軍の援軍だ!!」
「頼むぞ、あいつをやっつけてくれ!!」
広場を後にしてほんの数分。ベルリン大聖堂──“敬虔なる信徒”だった両親のおかげで、俺が唯一明確に認識しているベルリンの建造物──の前に差し掛かった辺りで、プーマ装甲戦闘車三両とすれ違う。
周囲の人々は安堵の息と共に彼らに歓声を送り、程なくして広場から機関砲の軽快な発射音が聞こえてくるとそれは更に大きくなった。
俺とツンを除いての話だが。
ξ゚听)ξ「さ、後は陸軍がきっとなんとかしてくれるわ!私たちは今のうちに逃げましょう!」
('A`)「ここなんてまだまだ奴の射程圏だ、流れ弾が飛んできたら元も子もないぞ!!」
彼らのおかげで恐慌が治まってくれたのは幸いなので、わざわざ事実は告げない。だが、相手は「歩く戦艦」だ。機関砲で障壁を抜ける相手ではない。
副兵装のスパイクLR対戦車ミサイルなら或いはダメージを与えられるかも知れないが、それも「当たれば」。
要は、時間稼ぎが「何分延ばせるか」の問題だ。
ξ゚听)ξ「……それで、どこに誘導する気?」
('A`)「………まずは東だ。あくまでも“見る限り”だが、他に安全な方角はない」
小声で問いかけてきたツンにそう返しながら、俺は改めて辺りを見回した。
30 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 22:51:08.00 ID:vhkD1UQdO
('A`)「………クソッ」
───やはり、見直したところで黒煙が上がっている箇所がフランス広場だけではないという事実は変わらなかった。
西でも、北でも、南でも、まるで空の黒雲が地面から立ち上っているのではと錯覚するほどに。
太く黒い煙の柱が天へ昇っていく。
幾筋も、幾筋も、根本にオレンジ色の炎をちらつかせながら。
警察車両や救急車のサイレンが、或いは市民に避難を促す役所の放送が、風に乗って聞こえてくる。それらの幾つかが、爆発音の後に不自然に途切れた。
今、この街で何が起きているのか───グランド・スクールに入りたての子供でも解る簡単なクイズだ。
('A`)「黒煙が上がってないってのもそうだが、実際こっちはプーマが走ってきた方角でもある。少なくとも、陸軍がそれなりの規模で防衛線を展開しているはずだ」
ξ゚听)ξ「展開している“はず”、ね……」
そう、100%ではない。プーマが東からやってきた理由がたまたまである可能性も、俺たちが深海棲艦共によって罠に誘い込まれている可能性も十分にあり得る。
それでも、他に選択肢がないのも確かなことだ。
ξ--)ξ-3「ま、あんたの予想が当たることを神にでも祈りましょうか」
('A`)「あぁ、祈るのは勝手だがそいつに捧げるのはやめといた方が良いぞ」
ツンも、逃げ道が限定されていることは理解している。肩を竦めながら賛同してくれた彼女への感謝から、俺は一つだけ忠告しておくことにした。
('A`)「どんなに必死に祈っても、あいつらが応えてくれることなんて滅多にないさ。
お宅のところのジャンヌ=ダルクだって、最後には見捨てられただろ?」
ξ゚听)ξ「………あんた、友達少なかったでしょ」
('A`)「何で過去形なんだ?現在進行形で少ないぞ」
ξ;゚听)ξ「何で自慢気に胸張ってるのよ………」
.
31 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 22:55:35.24 ID:vhkD1UQdO
レヒフェルト航空基地の滑走路に、次々とUH-1/D?イロコイが着陸していく。
機内から降り立つ兵士達も、それを迎える側も一様に表情は暗く険しい。彼らの多くはベルリンや、或いは自身の故郷が────即ち祖国ドイツが現在どのような状況下を正確に認識していた。更に言えば、この事態が半ば“人災である”という点にも、一部の兵士達は気づいていた。
(?゚д゚?)「…………やはり、そうか」
〈::゚−゚〉「あぁ、完全なヒューマン・エラーだよ」
早々に滑走路を後にし、ブリーフィングルームへ直行していたミルナ=コンツィもまた、“勘づいていた”内の一人だ。彼の予測は、廊下で一緒になった同僚からの申告によって“事実”にたった今変わった。
〈::゚−゚〉「警戒網をかいくぐったヒト型の深海棲艦複数体が沿岸部から国内に侵入していた可能性は、海軍は昨日の内に既に把握していたそうだ。
ただ、問題が発覚すれば自分のキャリアに傷がつくとマモン元帥が現場の艦娘と提督達に箝口令を敷いてね。極秘に見つけ出して始末するつもりだったようだが、結果はご覧の有様さ」
(?゚д゚?)「そこまで正確な情報が入ってるとなると、エラーはこっち側にも責がありそうだな」
〈::゚−゚〉「当然。私たちの上層部は、海軍が陸戦隊や艦娘を内陸に動かしていることに早い段階で気づいていた。ただ、彼らの愉快な思考回路はその光景を見て“国家と国民の危機”ではなく“海軍を追いおとすチャンス”だと考えた。
彼らは、海軍の失敗がより致命的なものになるまで泳がせておくことにした」
(?゚д゚?)「…………そして、陸海が予想してたよりも遙かに多くの深海棲艦が入り込んでいた結果、通報も民間への警報も戦力の編成も何もかも後手に回ってこのザマか」
ミルナは意図的に、深く深くため息をつく。そうして落ち着いておかないと、彼はまず部下達にコブレンツの陸軍指揮司令部への攻撃を命じかねなかったからだ。
32 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 22:57:46.58 ID:Z9goZ7tp0
( ゚д゚ )「それで、核爆弾の方は?」
〈::゚−゚〉「在独米軍が回収済みだ。ビューヒェルのB-61は全弾深海棲艦の襲撃前に移送を完了した」
ミルナの問いかけに、イッシ=ストーシュル陸軍少佐は即座に答えつつ皮肉な響きを声に含ませた。
〈::゚−゚〉「かの国の軍が我々ほどお花畑な脳みそは持ってなかったのは幸いだな。海軍の動きがおかしいことに気づいた時点で、米軍の上層部は緊急時に備え核の運搬用意をさせていたらしい。
ホントに、迅速な対応には感謝してもしきれない」
( ゚д゚ )「全くだ」
アメリカ軍の管理下、ドイツ国内で唯一核兵器が配備されているビューヒェル航空基地。
目と鼻の先であるネルフェニッヒが襲撃されたと聞いたとき、ドイツ軍の誰もが“最悪の事態”が頭を過ぎり顔色を無くした。
一国の軍事組織としては赤っ恥以外の何者でも無いが、恥か核爆発かを選択するならどんな内容であろうと前者一択だ。
( ゚д゚ )「戦力の再編状況は?」
〈::゚−゚〉「当たり前だが艦娘の集結はほとんどできていない。主要戦力は北部沿岸に居たわけだが、最早南北を繋ぐ交通網は壊滅状態だ。ヴェルヘルム=スハーフェンの司令府とは連絡こそついているが、機能はほぼ停止している。
艦娘どころの話じゃない、陸軍戦力さえ集結が完了したのはようやく30%だぞ。
本当に、上のアホ共が権力争いごっこに夢中になった挙げ句がこれだ」
ほとんど蹴破るようにして、イッシはブリーフィングルームの扉を開ける。途端廊下にはコンソールを叩く音や通信を試みるオペレーターの声が溢れかえるが、彼女はミルナを連れて脇目も振らずに奥の机へ直進した。
〈::゚−゚〉「大佐、戻りました」
(`∠´)「あぁ、待っていた」
33 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 23:03:19.09 ID:Z9goZ7tp0
その男の容姿を一言で言い表すなら、“南部戦線帰りのシャーロック=ホームズ”だろうか。
オールバックでまとまった黒髪に、細く鋭い眼光。肌はたたき上げの軍人らしく日に焼け、幾つもの小さな傷が刻まれている。
6フィートと少しの長身は一見すると細く頼りないが、軍服の下に鋼のような鍛え抜かれた筋肉が眠っていることが覗えた。
特に目につくのは鼻で、お伽話に出てくる魔女の顔にうってつけなほど見事な鉤鼻である。
足を組んで机に座るその男の姿を見て、ミルナは思わず襟を正す。
出世という物に興味が無く軍上層部の人物相関に疎いミルナでも、その男のことは知っていた。否、ドイツに住まう人間ならば、“知っていなければいけない”人物だ。
(`∠´)「初めましてミルナ=コンツィ中尉。ベル=ラインフェルトだ」
(?゚д゚?)「存じ上げています、ラインフェルト大佐。お目にかかれて光栄です」
差し出された手を握り返すとき、震えが走らないようにするのに苦労した。
34 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 23:04:59.48 ID:Z9goZ7tp0
ルール攻防戦、ラベ川封鎖作戦、アムステルダム救援戦など、艦娘のヨーロッパ配備前にドイツ軍が携わった主要な深海棲艦との“陸戦”。
そのほとんどに参戦し、内陸浸透の危機を幾度となく跳ね返した「21世紀のマンシュタイン」、それがベル=ラインフェルトだ。
同時に、艦娘の配備後に泥沼の権力闘争を繰り広げる陸海両上層部を痛烈に批判して形だけの昇格で閑職に追いやられた「問題児」でもあるが。
(?゚д゚?)「大佐が何故ここに?確か交流武官としてイタリアに派遣されていたはずでは」
(`∠´)「戦車道展での舞台挨拶を押しつけられてしまってな、たまたま帰国したところにこの騒動が起きたというわけだ。事態収拾のために、今から私が指揮を執る」
(?゚д゚?)「それは心強い。……しかし、状況が状況というのもありますがそれを差し引いてもよく上があっさりと許可しましたね」
〈::゚−゚〉「あぁ、上層部はこのことを知らない」
(?゚д゚?)「は?」
〈::゚−゚〉「いや、ほら。クソバカが現場に介入するとめちゃくtゲフンゲフン……んっん。何せ我々ドイツ軍の頭脳に当たる方々だからな、万一があったら多大な損失だ。
全員安眠の上、輸送ヘリに詰め込んでポーランドの方に飛ばしておいたよ」
(;゚д゚?)「………そうか」
ミルナは深く突っ込まないことにした。
35 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 23:07:41.64 ID:Z9goZ7tp0
(`∠´)「さて、挨拶はこのぐらいにして、仕事の話に移ろう。
コンツィ中尉、君のポルトガルでの活躍は聞いているよ。ストーシュル少佐の戦車隊も心強い限りだ。二人とも宜しく頼む」
( ゚д゚ )「はっ、恐縮です」
〈::゚−゚〉「ご期待に応えます」
(`∠´)「現状だが、単刀直入に言おう。絶望的だ。
北部は陸海空全ての主要な軍事拠点が深海棲艦の襲撃を受けて通信途絶或いは混乱状態、民間人の犠牲者も既にまともな把握が不可能な数までふくれあがっている。
リーンウッド首相を始めドイツ首脳も安否不明、深海棲艦の内陸侵攻という事態に伴い欧州の全空港は全便を緊急欠航。ドイツ・フランス全学園艦の退避受け入れによりイギリス、スウェーデン、ポーランドは海路の物流も滞った。経済損失もこの僅かな時間で既に数百億ユーロに上るだろうな。
だがそういう状況下にあってなお、我々は敵の正確な規模さえ把握できていない」
(;゚д゚ )「……」
〈::゚−゚〉「……」
(`∠´)「そしてつい10分前、もう一つ悪いニュースが飛び込んできた」
ベルはそう言って、二枚の紙を机の上に置く。ミルナとイッシは同時に手に取り、同時に眼を通し、
(B゚д゚)
〈B゚−゚〉
同時に、顔色を失った。
(`∠´)「海軍も我々同様、下の方は決して毒されていない。この情報は警備府の提督がリークしてきたものだ。
………ただ、この混乱の中で情報の到着が遅れた」
言いながら、ベルは二人の顔色を見て口元に笑みを浮かべる。
尤も、眼は微塵も笑っていなかったが。
「7時間前より、ルール地方の艦娘艤装製造工場からの定時連絡が途絶している。調査に向かった海軍陸戦隊も消息を絶った。
………おそらく、深海棲艦の手に落ちたとみていい」
36 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/08(月) 23:14:08.02 ID:Z9goZ7tp0
《Россия?1より深海棲艦の欧州襲撃に関する続報です。
連邦政府は先ほどクレムリンより、モスクワ周辺に首都防衛機甲師団を展開したと正式に発表。同時に、防共協定に基づきアメリカ、日本にも相互連携の確認を電話で行い、政府は欧州の“失陥”も視野に入れた防衛計画を練っている模様です》
《ポーランド政府は先ほど、西部全住民に避難警報を正式に布告しました。陸軍が出動し、国境の防備を固めています》
《スヒップホル空港には海外への避難を望む人々が殺到し、港内は大変な混雑状況です。
また、南オランダでは恐慌状態となった民間人の一部が暴徒化し、陸軍と警察が鎮圧に動いています》
《ベルギー政府より国民の皆様にお知らせ致します。ドイツ・フランスへの深海棲艦襲撃に伴い、多くの流言が飛び交っている状態です。決して慌てないで下さい。基本的に、政府からの公式発表にのみ耳を傾けて下さい》
《ルクセンブルク市は無法地帯となっています!そこかしこのスーパーが襲われ民家に人々が押し入り………いや、やめて、放して───きゃあああああ!!?》
《イタリア海軍は陸軍との共同展開に備えて北部に一部艦娘戦力を転用、ドイツ・フランス両国への増援派兵も視野に連絡を試みていますが、どちらも混乱が続き連絡がつかない状態のようです。
また、ターラント海軍基地より艦娘のRome、Paula、Aquila、Libeccio、そして強襲揚陸艦ジュゼッペ・カリバルティを旗艦とした洋上打撃艦隊6隻を編成し地中海に展開。イタリア政府は深海棲艦の別方面からの襲撃に対応するための物だとして、近隣諸国に理解を求める声明を発表しました》
《スペイン政府はイタリアのこの迅速な対応を評価する一方、我々のジブラルタル海峡における警戒はリスボン沖の惨事以来徹底していると主張。イタリア海軍の地中海への展開を、“過剰な反応である”と批難しています。
また、スペイン国民の皆様にお知らせします。現在ドイツ・フランスにおける深海棲艦の襲撃によって、欧州全体に大きな動揺が広がっています。
決して不確かな情報に惑わされず、落ち着いた行動を心がけて下さい》
37 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/08(月) 23:15:38.68 ID:Z9goZ7tp0
第2波ここまで。基本昼&夜の二回更新になると思われます。
ご静聴ありがとうございました
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 01:04:49.98 ID:pDjhVfSA0
乙です、これはツンを応援しなければw
それにしても平時以上に荒れやすいにしろ、化け物相手にしてる中でよく足の引っ張り合いができること…国民と配下の部隊が辛過ぎる
39 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/09(火) 13:14:15.01 ID:B042YGid0
ベルリン大聖堂を通り過ぎてからの20分ほどの逃避行の中で、更に四台の装甲車と相次いですれ違う。
最初こそ上がっていた激励の歓声は回を追うごとに少なくなっていき、最後の一台の時には誰も顔すら上げなかった。
まぁ、当然だろう。一向に治まらないどころか、激しさを増していく戦闘音。黒煙が立ち上る数は増え、逆にパトカーや救急車、消防車のサイレンは次々と途切れていく。何より、これほどの騒ぎにも関わらずヘリや戦闘機は一機たりとも市の上空を飛んでいない。
どれだけ鈍くて楽観的な人間でも、ベルリンが置かれている状況がいかに悲惨かは見えてくる。
「押さないで、誘導に従うんだ!」
「深海棲艦は陸軍と警察が食い止めている!まだ来ない、安心して下さい!」
なので、予想(というより願望)通りに築かれていた陸軍とベルリン市警の共同防護陣地にたどり着いたときに、誰よりも安堵したのは俺とツンだ。
ξ;゚听)ξ「正直、危なかったわね」
(;'A`)「全くだ」
深海棲艦に対する恐怖から暴動一歩手前だった避難民達の悪意は、明らかに東への逃走を先導した俺とツンに向けられていた。もし実際に彼らが暴徒化して俺たちの私刑(リンチ)を始めた場合、幾ら軍隊格闘の経験があってもこの人数を丸腰で抑えることは不可能だったに違いない。
40 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/09(火) 13:16:04.20 ID:B042YGid0
ξ゚听)ξ「先ずはこの拠点の指揮官のところに行きましょう。武器も何もないわけだし」
('A`)「そうだな………あー、そこのあんた!あんたらの指揮官のところまで連れてってくれないか?」
「……は?」
たまたま傍に居た年若い歩哨に声をかけたところ、胡乱げな表情で生返事を返される。思わぬ反応に一瞬面食らうが、自分とツンの服装を思い出して合点がいった。
俺は灰色のトレンチコートに黒のスラックス、コートの中も白のポロシャツという服装。ツンが身につけているのは藍色を基調にしたジャケットにチェック柄のタイトスカート、ゆったりしたブラウス。
逆立ちしたって見た目で軍人と判別することはできない。しかもフランス広場での一件とその後の逃避行によって頭から足の先までずぶ濡れだからなおさらだ。
('A`)「いいとこベルリン旅行中に戦闘に巻き込まれたアベックってところか」
ξ;*゚听)ξ「あ、アベック!?私と、あんたが!?」
後ろで慌てふためくツンをひとまず無視し、身分証を鼻先に突きつける。歩哨は一瞬眼を見開いた後直立不動になり、すぐにどこかへと駆けていった。
ξ;*゚听)ξ「だだだだだ!誰が!!あんたなんかと!!!アベックに!!!!」
('A`;)「…………冗談だから落ち着けよ」
いくらなんでも嫌がりすぎじゃないかと、流石に少しヘコんだ。
41 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/09(火) 13:32:33.26 ID:B042YGid0
この部隊の指揮官は案内された即席指揮所であるテントの中で、折りたたみ式の椅子にその瘦せぎすの身体を乗せて手元の地図を睨んでいた。
ほうぼうに好き勝手に撥ねるブロンズ色の短髪に子狐を思わせる少しとがり気味の横顔、鼻の頭にはそばかす。長身ではあるが力強さは微塵も感じられず、アサルトライフルよりはコミック雑誌でも持たせた方がおそらくよほど様になる。
俺とツンを先導した歩哨が、指揮官のすぐ傍まで行き耳打ちする。すると奴さんは此方を一瞥し、軽い調子で片手を上げた。
(=゚ω゚)ノ「イヨウ=ゲリッケだよぅ」
そう言って、奴は挨拶を終えた。……やや高い声といい若干幼い顔立ちといい、胸元に光る中佐の階級章と身長がなければ来年アビトゥーアを受ける予定の学生だと言われても信じてしまいそうだ。
(=゚ω゚)「ドク=マントイフェル少尉、並びにツン=デレフランス陸軍中尉。細かい話は抜きだ、とにかく人手が足りない。
君たちには早速前線で働いて貰うよぅ」
ξ;゚听)ξそ「ちょっ……いきなり!?というか、私のこと知って」
(=゚ω゚)「無駄話をしている暇はないよぅ。ベルリン東部一帯の掌握に成功したとはいえいつ全面崩壊が起きてもおかしくないよぅ。諸々の話は事態が収拾してから聞くよぅ」
ξ゚听)ξ「」
早口で語尾がやけにうわずった、いかにも神経質そうなしゃべり方でイヨウ中佐は捲し立てる。ツンは面食らった様子で黙り込んだ。
……まぁ、聞き心地のよい喋りとは世辞でも言えないが内容はド正論なので此方も合わせることにする。
('A`)「市内ドイツ軍・ベルリン市警の現在の稼働状況は?」
(=゚ω゚)「兵力だけで言えば凡そ一個師団相当、陸軍としての兵力は戦車道展の警備のために投入されていた2000名ほどだよぅ。ただし、この内組織的な戦闘を展開できている戦力はシュプレー川以東に展開している4000人ほどでしかないよぅ。
敵勢力に関しては現在把握される限りではフランス広場に重巡リ級elite、アムボス通りに戦艦ル級、タ級各一隻。それと、未確定ながら軽巡棲姫と思わしき存在と護衛のヒト型数隻がシュパンダウ方面で確認されているよぅ」
イヨウ中佐は地図の各所を矢継ぎ早に指さし、若干どもりながらも戦況を正確に述べていく。だが、地図には何も書かれておらず、報告書のようなものも辺りに見当たらない。
まさか、ベルリン市内の戦況全部記憶してるってのかこの人?
42 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 13:38:19.12 ID:B042YGid0
(=゚ω゚)「ベルヴュー宮殿、連邦首相府、国会議事堂は襲撃開始段階で通信途絶。ダイオード首相以下内閣議員も野党議員も安否不明。
ベルリン市外のドイツ三軍拠点とも……更に言えば欧州周辺国ともまともに通信ができない状況だよぅ。妨害されているのか、或いは単純に全滅したか。
どちらにせよ現段階では外部からの増援が期待できないよぅ。そもそも、さっき言った首相府一帯を始め市内ですら通信の乱れが見られるよぅ」
ξ゚听)ξ「一応聞きますけど、艦娘戦力は?」
(=゚ω゚)「あったらもっとまともな対処してるよぅ。
装甲戦力としては、プーマ歩兵戦闘車が残6両にレオパルト1戦車が8両、それからエノク(軽装甲車)が20両と少し」
('A`)「………レオパルト1って確か退役済のはずじゃ」
(=゚ω゚)「戦車道展における展示車両とほとんど兼任みたいな扱いで引っ張り出された代物だよぅ。深海棲艦の襲撃激化に伴い、たかがイベント警備のために前線からレオパルト2を引き抜くわけにはいかなかったようだよぅ」
つまり、今までの話を要約するとこうか。
ベルリンは現在孤立無援で連絡すらまともに取れず、深海棲艦の正確な規模は不明、かつ姫級を始め知能も戦闘力も高いヒト型が主力。
対抗する此方の戦力は、型落ちの戦車と旅団になるかならないか程度の数の歩兵、しかも主力は警官隊。加えて行方不明の国家首脳部の捜索と、逃げ惑う民間人の保護もおそらく併行することになる。
そして、艦娘はいない。航空支援もない。
('A`)「無理ゲーじゃね?」
(=゚ω゚)「だが、それが我々の役割だ」
('A`)「………」
その一言だけは、イヨウ中佐はどもりもしなければ語尾も上げず、力強い口調で言い切った。
43 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 13:41:17.86 ID:B042YGid0
(=゚ω゚)「とにかく、まずシュプレー川以東の防衛線は死守するよぅ。二人は避難してくる民間人の保護と合わせて、最激戦区になる可能性が高いフリードリッヒスハイン区の防衛指揮を─────」
元の口調に戻りながら、なおも指示を出していたイヨウ中佐。
('A`)「……………」
だが、それを遮るようにして何の前ぶれもなく。
ξ゚听)ξ「………」
外で、甲高いサイレンが鳴り響く。
('A`)「………中佐、一応聞きますが今のは」
(=゚ω゚)「空襲警報だよぅ」
正直違っていて欲しかったが、残念ながら予想は大当たりだった。
(=゚ω゚)「交通整理用の拡声器と音声テープを組み合わせた簡易な奴だったけど役に立って良かったよぅ。ま、そろそろ来ると思ってたよぅ」
「中佐!!」
テントを跳ね上げて歩哨が一人駆け込んでくる。
一瞬、不安げな人々のざわめきとこれを制止する兵士達の叫び声が入り交じったものがテントの中を満たす。
「高層警戒班より緊急連絡!!北西よりベルリンに向かって飛来する何かの“群体”を捕捉したとのこと!!
おそらく深海棲艦の戦闘機、到着予想時刻は6分後です!!」
(=゚ω゚)「展開中の全部隊に対空戦闘の準備を指示……それと君、余っている軍服とアサルトライフルを二人に。
あぁ、マントイフェル少尉、デレ中尉、1分で用意して外へ」
イヨウ中佐はそれだけ言うと、軍帽を被りテントから出て行く。
(=゚ω゚)「さぁ、“僕らの仕事”の時間だよぅ」
44 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/09(火) 13:43:51.52 ID:B042YGid0
.
中佐の指示より10秒早く着替えを終えて、テントから飛び出す。隣の更衣スペースからツンが転がり出てきたのもほとんど同時だった。
('A`)「女の身支度は長くかかると聞いてたがな!」
ξ゚听)ξ「知らなかった?フランスのレディは余裕の笑みで男を待ってやるもんなのよ!」
相変わらずざざ降りの雨の中で軽口を交わしながらG36Cの安全装置を外す。自身の装備を簡単に確認した後、今一度周囲の地形を頭に叩き込むために辺りを見回した。
深海棲艦機が来るまであとたったの300秒。できることは限られているが、それでもやれるだけのことはやっておきたい。
相変わらずサイレンは鳴り続け、あえて人の不安を煽るよう作られた警戒音に急かされ避難民達が我先にと道路を駆けていく。兵士と警官が、ともすれば大氾濫を起こしかねない人間の濁流をぎりぎりのところで制御し、更に東へと送り出していく。
('A`)(……あと五分でこの人数が避難しきるのは間違いなく無理だな)
この密集状態に深海棲艦の空爆が直撃すれば大惨事もいいところだ。かといって、避難民の「自主性」に任せて分散避難をさせても間違いなくパニックが起きる。それに、部隊運用にも大きな制約がかかりかねない。
つまり間もなく行われる深海棲艦の爆撃から避難民達を護るには、攻撃を此方に可能な限り引きつけ、かつそもそも爆撃自体を抑制する必要があると言うことだ。
(;'A`)「やっぱ無理ゲーじゃねえか………!」
一週間も素敵な休暇を下さった、上層部のおかげでこのざまだ。
いつか、感謝と殺意と火薬が籠もった御礼を贈ると胸の内で誓う。
45 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 13:45:28.91 ID:B042YGid0
('A`#)「各区画、レオパルト1とプーマは避難民の列からなるべく離れろ!!随伴歩兵は戦車隊になるべく密着、対空警戒を厳となせ!!」
(=#゚ω゚)ノ《東部区画に展開する全ての陸軍並びに警察戦力は今の指示に従うんだよぅ!!
これより防衛線は全指揮権を今発言したドク=マントイフェル少尉に一任!僕から別途指示がなければ少尉に従うよぅ!!》
近くに止まっていたパトカーに駆け上がり、声を張り上げる。ざわめいた場は直後に飛んだイヨウ中佐の命令で静まり、すぐに全軍が指示に従って動き出した。
全権委任ってマンドクセッ!!でも仕事が早いのはありがたい!!
深海棲艦機が到着するまで後4分程。煙草でも吸って不安を紛らわせたいところだが、懐に入れていた煙草はびしょ濡れになり全滅済みだ。
クソッタレ。
(#'A`)「歩兵並びに警官隊は10名程度で一塊となり射線形成!分散射撃だとかえって隙間を奴等に潜り抜けられる、戦力を塊にすることで奴等を射線上に引きつけろ!!」
「し、しかし少尉!サブマシンガンやアサルトライフルが届く距離に敵が来るとは」
('A`#)「断言するが間違いなく来る!!
寧ろ自動小銃はHelm共に対抗する主兵装だ、射線には穴を開けるな!最低限半数以上は常に撃ち続ける状態を作れ!!」
兵力不足、火力不足、時間不足と無い無い尽くしの状態だが、打つ手は皆無じゃない。不幸中の幸いと言うべきか、天が俺たちに全力で味方をしてくれていた。
天と言っても断じて神のことではない。神はいない、いたとしても死ね!!
46 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 13:49:14.84 ID:B042YGid0
(=#゚ω゚)ノ《ベーデカー隊、マントイフェル少尉の直属指揮に!ディーツェル軍曹の隊はデレ中尉の指揮下に入るんだよぅ!!》
「「Jawohl!!」」
(#'A`)「ツン、レオパルト1の随伴に付け!!常に機銃の死角をカバーする形で射線を集中させろ!」
ξ#゚听)ξ「了解!!」
残り3分。俺たちは、慌ただしく戦いの準備を終えていく。
ξ#゚听)ξ「機銃の射撃仰角もう少し上げて!それと一機一機狙う必要は無いわ、空にばらまく感じで撃ちなさい!!」
「や、Jawohl!!」
(=#゚ω゚)ノ《避難誘導班は持ち場を絶対に離れるな!!最後まで市民の導き手としての責務を全うするんだよぅ!!》
(#'A`)「エノクは各車機動防御態勢!なるべく敵艦載機の目につくように動き回ってくれ!歩兵並びにレオパルト1は釣られた敵機は特に重点的に撃墜しろ!!」
残り2分。サイレンに、録音された早鐘の音が加わった。意味など聞かなくても察しがつく。
真っ直ぐに向かってきているんだ。奴等が。
「押すんじゃねぇ!!」
「早く進めよ、深海棲艦が来てるんだぞ!!」
「子供が、子供がぁ!!」
「列を乱すとかえって動けなくなるぞ!!死にたくないならそれこそ誘導に従ってくれ!!」
恐怖から箍が外れかけている避難民達の怒鳴り声が響く。
俺たちは降りしきる雨の中でただ銃口を空に向け、敵を待つ。
────残り、1分。
「敵機、来襲!!!!」
(;'A`)「っ」
音が、聞こえてきた。
47 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 14:02:28.76 ID:B042YGid0
腹を空かせた獣が呻いているような、低い音。
ジェット戦闘機の全盛期にあって最早空から駆逐されたはずの、レシプロエンジンが奏でる重低音が、雨に混じり雲の中から聞こえてくる。
奴等は最大のものでも4フィートを越えない程度の大きさでしかない。そのため、まだまだその姿は見えない。
見えないが、音は確実に近づいてきている。
('A`;)「────!!」
エンジン音は、丁度俺たちの頭上に差し掛かったところで調子を変えた。
低いうなり声から、高い叫び声へ。
【Helm】が急降下爆撃の態勢に入ったときに鳴る、独特の風切り音。
ジェリコのラッパ───かつて、ドイツを護るためにソヴィエト赤軍の頭上で空の魔王によって吹き鳴らされていた音が、今はベルリンを破壊しドイツ人を殺すために迫ってくる。
なんとも、皮肉な巡り合わせだ。
('A`;)「合図があるまで撃つな!それから絶対にフォーメーションを崩すなよ!!」
音は次第に大きくなり、数を増やして降りてくる。周りに指示を出しながら、ともすれば震えそうになる照準を必死に抑える。
ベルリンの雨は、未だに止まない。
48 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/09(火) 14:09:05.11 ID:B042YGid0
───やがて、“奴等”は来た。
「………ひっ」
厚い雲の隙間から、ぽつりとインクの染みのように小さな点が最初に一つ。刹那の間を置いて二つ、四つ、八つ………一瞬で、数えるのも馬鹿らしくなるほどの黒点が空を埋め尽くした。あまりの数に、誰かが小さく悲鳴を上げる。
西洋甲冑か、さもなきゃ競輪選手が被るヘルメットか。とにかく通称が本当によく似合う、細長く先鋭的な黒い機体。
少なく見積もっても1000は下らないHelmの群れが、“ジェリコのラッパ”を吹き鳴らしながら雨と共に降ってくる。
Helm達は街区に展開する戦車や装甲車、そして歩兵隊に向かって、降下速度を上げながら獰猛な猛禽類の如く突っ込んできた。
、、、 、、、、
完璧に、読み通りだ。
('A`#)「─────Feuer!!」
声を限りに叫び、H&K G36Cの引き金を引く。
無数の弾丸が、雨を切り裂いて空へと駆け上がった。
49 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/09(火) 14:09:55.44 ID:B042YGid0
更新第3波完了。第4波深夜になります
ご静聴ありがとうございました
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 15:48:37.70 ID:pDjhVfSA0
おつおつ
イヨウ有能だし、主人公が着々と英雄として覚醒してるw
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 16:43:08.79 ID:zpgHAe3mO
乙、ドックンかっこいい
52 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 00:28:47.50 ID:/QEg56gn0
『────!!!?』
『!?』
『!?!!?』
市街地から撃ち上げられた何百条という火線。先陣を切っていた十何機かが真正面から貫かれて空中で爆散し、それを皮切りに群れをなして押し寄せてきたHelmが次々と対空射撃を受けて火を噴き、落ちていく。
爆弾の投擲音は、未だに一発も聞こえない。
「敵機撃墜、敵機撃墜!!」
「よし、一機落としたぞ!」
「口を動かす暇は一秒残らず手を動かす時間に費やせ馬鹿野郎!!撃て、撃て、撃て!!!」
400マイルで空を飛び回り、現代戦闘機の装甲でも十分貫ける威力の機銃を放ち、その小ささ故に空対空ミサイルによるロックオンはほぼ不可能。
“ワンショットライター”と揶揄される脆さを加味しても、本来なら人類が艦娘抜きで太刀打ちするのは難しい。
アルカンタラマールで迎撃ができたのも、向こうが“損耗を極端に嫌った”という戦略的要因があってこそだ。他に日本で近代戦闘機がHelmの大群体を完封した事例があるが、アレは練度の高い艦娘ありきの作戦になる。
故に、本来なら俺たちは高高度から一方的に爆弾と機銃掃射の雨に晒されるだけの「狩られる獲物」でしかなかった。
天候さえ、まともなら。
53 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 00:30:51.74 ID:/QEg56gn0
「リロードします!」
「弾幕絶やすな!常に撃ち続けろ!!」
《レオパルト、配置転換します!》
ξ゚听)ξ「解った、後続する!!」
深海棲艦機の“小ささ”は、決して利点ばかりを持っているわけではない。鹵獲された奴等の機体は非常に軽く、非武装の状態なら大人が片手で軽々と担げる。搭載される爆弾に至っては3〜7インチとポケットに入れて持ち運べるお手軽サイズだ。
(=#゚ω゚)ノ《補充班、とにかく弾薬補給の手は止めるなよぅ!!要請があるまで動かないんじゃなく、自分たちで不足する場所を予測して運搬するんだよぅ!!》
軽く、小さく、そのくせ威力は従来の爆弾と遜色なし。オーバーテクノロジーの極みだが、故に奴等の航空攻撃は天候の影響を強烈に受ける。例えば今日のように強い風雨がある時は、まともに狙いを定めようとすれば必然的に高度をギリギリまで下げなければ狙った箇所に効果的な損害を与えることは難しくなる。
「弾が切れた!リロードする、カバーを!!」
「一機撃墜した!!」
「敵機の投弾、未だ見られず!!」
ではここで、奴等の爆撃経路がなるべく収束されるように───決まったコースにHelmが殺到するように戦力を展開すれば、どうなるか。
「撃墜四機目!!」
「当方損害、未だ無し!!」
(#'A`)「上空10時方向より新手来るぞ!射線合わせ!!」
その答えが、この光景。
(#'A`)「Feuer!!」
ターキー・シュート
───七面鳥撃ちだ。
54 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 00:37:23.52 ID:/QEg56gn0
(#'A`)「状況知らせ!!」
「防衛線全域において未だ敵機の投弾・損害発生報告無し!」
「墜落機の直撃を受けて家屋が一部倒壊も影響ありません!敵航空隊、大損害を受けて攻勢が鈍化しています!」
雲霞のごとき大編隊に襲われているとは到底思えない、あまりにも順調な戦況推移。だが、そこで手放しで喜ぶような間抜けな真似はしない。
此方にとっての優勢は、敵にとっての苦境。俺たち人間がそうであるように、深海棲艦も「現状を覆すにはどうするべきか」を考えるはずだ。
('A`)「……っ」
深海棲艦の立場になって考える。上方からの攻撃は悪天候の影響もあってまんまと誘い込まれた形になり、対空射撃によって攻撃の体さえほとんど為していない。この状況をどう打破するか。
数を更に増やすか?いや、無意味とまではいかないが効果的じゃない。
そう、俺なら。
『────ォオオオオオオオオォオオオッ!!!!!』
「高層観測班より報告!!トレプトゥ=ケーペニック区で非ヒト型深海棲艦の出現を確認!!
艦種は軽巡ホ級が三体、内1体はflagshipです!!」
俺なら、攻撃面を一つ増やす。
55 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 00:41:26.00 ID:/QEg56gn0
深海棲艦の非ヒト型に共通する、あの耳障りな叫び声が聞こえてきた方向を振り向く。
立ち並ぶ建物の間に、巨体が屹立している。
砲台の中から這い出そうとしているような、或いは巨大な口に今にも食いちぎられそうになっているような、そんな何度見てもおぞましさを拭えない紛れもない“化け物”。
そんなただでさえ気色の悪い存在が、途方もない大きさで此方に迫ってきていた。BGMにアキラ=イフクベの音楽でも流せば、そのままモンスター映画の一幕として使える素材になるだろう。
非ヒト型のflagshipクラスは、平均して30Mという巨体を誇る。当然耐久力も通常種から跳ね上がっており、陸上戦力なら相応の火力が無ければ対抗することは難しい。
('A`)「プーマ戦闘車隊、ホ級flagshipを射程圏内におさめている車両は?」
《此方2号車、射程に捉えてます!!》
《5号車、射撃可能!いつでも撃てます!》
ただし。
('A`)「Go, Missile!!」
《《Jawohl!!》》
相応の火力が備わっている場合、ただのデカい的だが。
56 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 00:43:53.18 ID:/QEg56gn0
『───ア゛ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?』
プーマ二台の砲塔から放たれたスパイクLR対戦車ミサイルが、相次いでホ級flagshipの巨体に直撃する。
片方は頭、片方は砲塔。
轟音が響き、破片が飛び散り、ホ級は苦悶の声と共に着弾箇所をのたうちまわる。
指の隙間からは、血の代わりに凄まじい量の黒煙が吹き出した。
《だーんちゃーーーく!!どーだいこの威力!》
《落ち着け5号車!少尉、続けて撃ちます、いいですか?!》
('A`)「許可する!第ニ射は頭部集中、間髪入れずにトドメを刺せ!!」
《《Jawohl!!》》
深海棲艦は、艦娘同様“歩く戦艦”だ。例え第4世代戦車や最新鋭の歩兵戦闘車が雁首を揃えても、闇雲に攻撃をするだけなら駆逐イ級すら一隻仕留めるのに膨大な犠牲が必要となる。
ただ、同時に奴等は“生ける戦艦”でもある。生き物は、戦艦や戦車よりも“効率的に殺す手段”が圧倒的に多い。
《────弾着、今!!!》
『ア゛ッ………ア゛ァ゛ッ…………』
700mmという高い貫通能力を持つミサイルは、傷口を覆っていたホ級の手の甲を引きちぎり、その下の頭を抉り取る。
その傷口に2発目が飛び込み、炸裂し、吹き飛ばす。
頭を失ったホ級flagshipは、びくびくとニ、三度痙攣した後家屋を巻き込みながら地面に倒れ込んで“絶命”した。
57 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 00:45:56.74 ID:/QEg56gn0
「観測班より報告!ホ級通常種、此方への進行を停止!反転し後退していくとのことです!」
「おい見ろ!Helmの奴等が逃げていくぞ!!」
非ヒト型とはいえ、【flagship】の瞬殺は奴等にとって流石に少し想定外だったらしい。
それまで膨大な撃墜機を出してもどこぞの島国宜しくkamikazeを繰り返していた深海棲艦機が、潮が引くように空へと舞い戻っていく。
ホ級の進撃が止まったという報告が流れたこともあって、一瞬弛緩と安堵が入り交じった空気が流れた。だが、それはあくまで一瞬に過ぎない。
(=#゚ω゚)ノ《今のうちに各区画は物資を補給、それから戦力の再編を急ぐよぅ!!それと市民の避難を更に急がせるんだよぅ!!》
無線越しのイヨウ中佐の声に、弾かれたように全員が活動を再開する。避難誘導の声が今まで以上に大きく響き、負傷者の確認や弾薬の点検のための点呼が飛び交う。此方の影響下にあるベルリン東部以外で、通信が繋がらないかどうかを試みる声も聞こえてくる。
('A`)「………」
イヨウ中佐を初め、誰もが理解している。今の攻撃は跳ね返したが、それはとりもなおさず奴等に俺たちの力を見せつけたということだ。
奴等は俺たちが、艦娘がいなくても十分に抵抗し得る戦闘能力を持っていると理解した。理解した以上、もう“ターキー・シュート”は起こらない。
次の攻撃は、より本格的に此方を叩きつぶすために動いてくる。
58 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 00:47:21.43 ID:/QEg56gn0
ξ゚听)ξ「…………“無理ゲー”、まだまだ続きそうね」
('A`)「……あぁ」
いつの間にかそばに来ていたツンの呟きに、頷く。そもそもさっきの防衛にしても、圧倒的だったのは“たまたま俺の読みが全て当たったから”だ。もし深海棲艦戦闘機の動きが予測から外れていたら、もしホ級の出現に動揺して指示が遅れていたら、今頃俺は2階級特進の権利を手にしていた。
('A`)「…………マンドクセ」
一瞬、このまま敵の攻勢が止まってくれることを期待したが、下らない願望だとすぐに頭を振って追い出す。
あり得るはずがない。ここまで大規模な攻撃をかけてきた深海棲艦の攻めが、この程度で終わるなど。
(;'A`)「………」
何より、あのリ級eliteが。
この程度で“お楽しみ”をやめるはずが、ない。
59 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 00:49:16.61 ID:/QEg56gn0
かつてブランデンブルク門と呼ばれていた瓦礫の山の上に、二つの人影。血の臭い、焼けた人体の臭い、蒸発した油の臭いが充満して噎せ返るほどだが、二人はまるで気にする素振りを見せない。
片方は、腰に手を添え、朱い眼を細め、額に右手を当ててわざとらしく遠くを眺める素振りをする。先ほどまで着ていた黒の革ジャケットは脱ぎ捨てられ、今は水着のような露出の高い服装と蝋や漆喰のように白い肌、腕や足の艤装が剥き出しになっている。
もう片方は、瓦礫の上にあぐらをかき、ぱたぱたと足を上下させ、少し前のめりになってある方角に興味深げな視線を向けている。目深に被ったフードの奥から、めいっぱいに見開かれた金の双眸が垣間見えた。
彼女たちは、深海棲艦とは思えぬほどに自然で柔らかい、満面の笑みを浮かべていた。
60 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 00:57:47.34 ID:/QEg56gn0
“全の意思”を通じて、この戦いを指揮している“棲姫”の怒りの声が同胞達に届けられている。順調極まりなかった今回の入念な作戦にあって、小さいとはいえ敗北の傷がついたことは彼女の高いプライドに泥を塗ったらしい。
棲姫は艦載機を飛ばした空母達と、一撃でなぎ倒された軽巡を口汚く罵倒している。
だが、そんなことは瓦礫の上で佇むリ級ともう一人にとってはどうでもいいことであった。
リ級は、確信していた。今し方眼にした、東部での同胞達の敗北は、“あの男”によるものだと。さっきこの門を破壊したときに、多くの人間と共に見逃しておいた『あいつ』がやったのだと。
('A`)
彼女は満面の笑みを浮かべ、街の東を眺める。見えるはずがないと解っていても、あの陰気な顔つきの優男に向かって愛おしげに両手を広げる。
ヤッパリダ。
アノ時、君ヲ見テ思ッタ事ハ正シカッタ。
君ト遊ブノハ、心底楽シイ。
彼女の眼は、まるで恋人に出会った乙女のように輝いていた。
61 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 01:07:03.03 ID:/QEg56gn0
.
本当ニ、楽シソウダナ。
隣であぐらをかいている少女が、クツクツと肩を震わせる。
デモ、楽シイ奴ダロウ?
リ級eliteは、口元を緩ませながら紅い双眸を隣に向ける。
マァ、人間デモ強クテ賢イ奴ト戦ウノハ楽シイナ。
少女はその視線を受けて、頷く。
私ハソロソロイクケド、君ハドウスル?
─────ソウダナ。
少女は、リ級に続いて立ち上がる。
その笑みが、無邪気な殺意で歪む。
ソロソロ、私モ遊ボウカナ。
尻尾が、瓦礫を撥ねのけながら獲物を見定める蛇のように彼女の後ろで屹立する。
その先端から、魚雷と砲塔が飛び出した。
62 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 01:08:29.86 ID:/QEg56gn0
第4波投下完了。
ご静聴ありがとうございました。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 01:34:02.07 ID:Wh3v3YbA0
おつです
会心の一撃のはずなのに、建ったプラグが最悪すぎるw
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 01:34:48.92 ID:n7zeNQ1A0
乙 続き期待
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 10:11:34.51 ID:oNDrLjg/o
乙
リ級の歪んだ愛を感じる
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 17:29:32.80 ID:7wKMczr0o
乙
すごいなー。ドクオ、モテモテだー
67 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 17:38:08.35 ID:PFrSjBIhO
《France?24よりお送りします。先ほどフランス政府より、東部における深海棲艦の封じ込めに失敗したと正式に発表がありました。
既に本土での深海棲艦の展開数は50を越えており、フランス軍は防衛線の後退と再構築を行っています。ナンシー市以東にお住まいの全国民は、速やかに避難を開始してください》
《ドイツ西部トリール近郊に出現した深海棲艦の大群が、一部ルクセンブルクに侵入しました。ルクセンブルク陸軍は全戦力でこれを迎撃していますが、戦況は絶望的です》
《国境線を突破した深海棲艦の大群はマルメディに向けて侵攻中です!ベルギー陸空軍による迎撃は全く効果がありません!!あぁ、神様!!》
《ヘルダーラント州の複数の都市において深海棲艦艦載機による空爆が行われ、民間人に多数の死傷者が出た模様です。
一部の暴徒はドイツは人類を裏切り深海棲艦を引き入れた主張して民衆を扇動。オランダ国内のドイツ関連企業や在オランダドイツ人が襲撃を受けています》
《深海棲艦のフランスにおける動向でSNSを中心に様々な情報が錯綜し、スペイン国内が動揺しています。。マドリードでは生活用品や食料品の買いだめをしようとスーパーや小売店に人々が殺到し、空港には海外避難を求め全便欠航にもかかわらず在留外国人や富俗層が詰めかけています》
《コペンハーゲンからのライブ中継です!皆様見えますでしょうか!?深海棲艦の戦闘機が、まるで黒雲のように───嗚呼、街が……街が……!!》
《オーストリア、スロバキア、チェコ、スロベニアなどドイツ付近の幾つかの国は深海棲艦の侵入が行われた場合のトルコへの国民亡命を打診していますが、トルコ政府は経済的・安全保障的観点から難色を示しています》
《BBCより、政府方針を国民の皆様にお伝えします。
先ほどイギリス政府により、英国全土に特別戒厳令が布告されました。解除されるまで、外出は緊急時を除き絶対に控えて下さい。
また、今時騒乱におけるSNS等を用いた不確かな情報の流布も法律により禁じられています。以後、無責任な情報のやりとりを全て停止し、政府発表のみを受け取るよう徹底して下さい》
68 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/10(水) 17:39:34.15 ID:PFrSjBIhO
現状報告1
ドイツ北部、並びに近郊での深海棲艦による襲撃状況
図1:襲撃前
赤マーク:ドイツ空軍基地
黄☆:軍民共用或いは民間空港
図2:襲撃後
×印:機能停止、壊滅
矢印:深海棲艦による近隣国への侵攻ルート
○:ミルナ、ベルら待機地点
69 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 17:41:30.66 ID:PFrSjBIhO
何度か、「自分はいったい何者なのか」と考えたことがある。
私と同じ名を冠する存在は、現在ドイツ国内に29人いる。彼女たちは名前だけでなく、容姿も、髪型も、服装も、声も、身長も私と同じだ。まるで工場で作られたおもちゃの兵隊のように、“私”は規格に則って“生産”された。
私に個別の名前はなく、配備No.09が他の個体と区別するために付与された。私は母の胎内ではなく、艦娘の“核”を展開できる特殊な液体プールの中で目覚めた。
もし私が死んだとしても、多少貴重と言うだけで代わりがいないわけではない。
一方で、29人の「私」は全員が別々に喜怒哀楽を有し、別々のタイミングで感情を発露する。
好きなものも、嫌いなものも、嬉しいと感じることも、悲しいと感じることも、29人全員がそれぞれ違った形で持っている。
私たちは全ての個体が別々に、嬉しいと、ムカつくと、哀しいと、楽しいと感じる。
整備士と愛を育む“私”もいれば、提督と恋に落ちる“私”もきっといる。かく言う私は同じ鎮守府に勤めるビスマルクお姉様一すzゴホンッ、ゴホンッ!!
結局私たちは、
兵器なのか。
人間なのか。
夜寝ようとする時に、平穏な海をただ眺めるだけの退屈な哨戒任務の時に、無心でお昼ご飯を口に運んでいる時に、この哲学的な思考はしばしば私の思考の隙間に沸いて出た。当て所ない考察が脳内を埋め尽くし、最終的に結論の出ない堂々巡りへと落ち込んでいく。
70 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 17:45:06.93 ID:PFrSjBIhO
この哲学的な迷宮に迷い込んだとき、私は大抵自分が“艦娘”だと定義して無理やり結論づける。
兵器でも人間でもない、その合間の存在。
ハーケンクロイツの下では果たせなかった「ドイツに住まう人々を護る」という使命を、もう一度与えられた存在。
人間でも兵器でもいい、私は“艦娘”としての使命を果たすだけだ。そう言い聞かせて、答えのない問いに蓋をする。
何より、それは私の本心でもあった。自身が「モノ」と「ヒト」の狭間に揺れる曖昧な存在であっても、課せられた使命が崇高であることは変わらない。
この使命のためなら、“兵器”として命を捨てることも厭わない。
────そう、本気で思っていたはずなのに。
_
(#゚∀゚)「ユーロファイター部隊より通達!爆撃実行、なれど敵損害極めて軽微!敵は未だ強固な抵抗力を有するとのこと!!」
(#゚д゚?)「ハナから期待はしてないさ!!
プリンツ、レーベレヒト!市街地に突入するぞ、後続しろ!」
「Jawohl!!」
「っ、や、Jawohl!!」
今の私───Prinz Eugen-09の胸の内にあるのはそんな高尚な使命感ではなく。
「死にたくない」という、無様な願望だけだった。
71 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/10(水) 17:46:18.78 ID:PFrSjBIhO
第五波投下完了。時間遅れた上大変短くなりまして申し訳ありません。
本日深夜第六波投下予定です
72 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/11(木) 00:50:58.90 ID:Tww0axjQ0
その知らせは、確かに待ち望んだ内容だ。だから、故に俺たちはすぐには信じられなかった。
(=;゚ω゚)ノ「………増援?」
「はいっ、高層観測班よりの報告です!」
目を丸くして問いただすイヨウ中佐に、テントに駆け込んできた下士官は興奮気味に頷く。飛び込んできた当初は「ドイツ語でぉK」状態だったので、これでもまだ落ち着いている。
(;'A`)「誤報や見間違いじゃないのか?」
「いえ、間違いありません!V-22 オスプレイの編隊が、ベルリン南西の複数区画に降下中です!それから、ユーロf
台詞の末尾は、近づいてくる超高音にかき消される。
ジェリコのラッパなんて目じゃない、音速を悠々と超えていく最新鋭戦闘機のエンジンだけが奏でる甲高い雄叫び。
('A`)「っ」
テントから飛び出すのとほとんど同時に、南の方で連続的に幾つかの火柱が立ち上る。
頭上を、突風を地上に残しながらカナード・デルタの特徴的な機影が駆け抜けていった。
ユーロファイター・タイフーン。EUが世界に誇る、マルチロール戦闘機。
ドイツ空軍のものであれ他のEU加盟国のものであれ、確かに味方機であることは間違いない。
73 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/11(木) 00:52:02.87 ID:Tww0axjQ0
「味方だ!味方の戦闘機だ!!」
「援軍だ、助けが来たんだ!!やった、やったぁああああ!!!!」
周りでは、予期せぬ“白馬の王子様”の登場で誰もが歓声を上げている。感極まって泣き出している奴も少なくない。
空の方でも、俺たちの存在に気づいたらしい。わざとらしく旋回して俺たちの真上で宙返りをしてみせると、ユーロファイターは再び悠々と南へ戻っていった。
周りの奴等はその姿を見ながら、なおも歓声や指笛を贈っている。
『オオアアアアアアアアアアッ!!!』
そして、ユーロファイターが帰還した後も南での戦闘音は止まらない。砲声、爆発音、非ヒト型の咆哮や断末魔が途切れることなく上がり続け、大規模な攻防戦が発生していることを示唆した。
('A`)「………」
観測班の見間違いではない、どれほど少なく見積もっても連隊規模の味方増援軍がベルリン南に展開を開始している。
俺はそこまで確認すると、再びテントへと駆け戻った。
74 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/11(木) 00:54:06.96 ID:Tww0axjQ0
ξ゚听)ξ「どうだった?」
指揮所に戻るや否や問いかけてきたツンに、地図を取り出しながら頷いてみせる。
('A`)「そいつと観測班の報告内容は正しい。確かに味方の援軍だ、それも最低で連隊規模。南の方で大激戦の真っ最中らしい」
「………うわぁああ!!!」
俺の言葉を受けて、報告者の下士官はディズニー映画のキャラクターのように跳び上がって叫ぶ。同じくテントの中にいた通信兵や将校達も互いに抱き合ったり脱力して座り込んだり、思い思いのやり方で喜びと安堵を露わにした。
まぁ、孤立無援と思われたところに友軍、それも空軍まで生き残っていたことが判明したんだ。この喜びようは無理もない。
本当なら、俺だって手放しで歓喜の輪に加わりたいところだ。
俺はペンを握りながら下士官の肩を叩く。
('A`)「V-22の降下した区画はどこか解るか?」
「……は?こ、高層観測班からはテンペルホーフ=シェーネベルク区、それからノイケルン区と聞いていますが」
('A`)「降下していたV-22に対して攻撃は?」
「ほ、ほぼありませんでした。事前にユーロファイターによる爆撃が相当規模で行われていたので、おそらくそのせいかと」
('A`)「おっ、そうだな」
下士官の言葉に適当に相づちを打ち、報告内容にあった区画に印を付ける。次いで、そのままドイツ全体の地図をその上から広げた。
('A`)「イヨウ中佐、オスプレイの配備基地は?」
(=゚ω゚)「僕らドイツ軍が正式に配備している機体はないよぅ。ただ、深海棲艦との戦争に合わせて“借用”の名目で利用権利がある機体はビューヒェルとレヒフェルトにそれぞれ数十機ずつあるよぅ」
('A`)「………ビューヒェル、B-61弾頭の事も考えれば騒動初期段階で間違いなく南に全力で逃げてるな」
(=゚ω゚)「大隊規模の増援が出せる戦力の収容、かつユーロファイターが未だ投入可能となれば間違いなく増援は南から来てるよぅ」
('A`)「でしょうねっと」
地図上にペンを走らせ、ビューヒェルとレヒフェルト、そしてレヒフェルトとベルリンを線で結ぶ。
………あぁ、やっぱりか。
書き込みを終えた地図を見て、疑念は確信に変わる。
('A`)「罠だ」
ξ゚听)ξ「罠ね」
(=゚ω゚)「罠だよぅ」
75 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/11(木) 00:58:48.21 ID:Tww0axjQ0
「なっ……」
下士官が絶句し、他の面々も静まりかえる。
だが、俺とツン、そしてイヨウ中佐の見解は見事に一致してしまった。
(=゚ω゚)ノ「どう考えてもこの2区画に無抵抗に友軍の降下を許すのはあり得ないよぅ。特にノイケルン(Neuk?lln)区は」
ξ゚听)ξ「深海棲艦がこっち側へ攻め込む主要経路が横っ面を張られる形になるわね、下手したら奴等の前線が縦に分断されるわ」
加えて肝になるのは、降下した味方の数が“たかが大隊規模でしかない”という点だ。
('A`)「一応聞くがV-22に装甲戦力を空輸していた機体は?」
「………確認する限りでは、見られませんでした」
('A`)「となると、増援に間違いなく艦娘が含まれてるな」
南から増援を寄越した指揮官が脳みその代わりに牛糞が頭につまってでもいない限り、“たった1000人強の歩兵”を深海棲艦はびこる市街地に投入などただの集団自殺と変わらない事は理解できるだろう。
ただし、ベルリンがこの有様にも関わらず今までどこからも艦娘が来ていないことを考えると、ヴェルヘルム=スハーフェンの司令府を初め北部の主要な艦娘駐屯地は動きを封じられたか壊滅している。自然、南に逃げ延びて友軍と合流し、かつそのまま奪還作戦に参加できる艦娘となれば自然と数は大きく制約される。
('A`)「投入された艦娘は10隻あるかないか、しかも現段階ではこれが最大戦力と見て間違いないな」
76 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/11(木) 01:09:26.51 ID:Tww0axjQ0
ここまで考えれば、自ずと深海棲艦の狙いも見えてくる。
奴等は既に、ベルリンの“陥落後”を見据えている。
ξ゚听)ξ「首都防衛餌にして唯一の脅威である艦娘の残存部隊つり出して殲滅、しかる後各個撃破ってところかしら?
えげつない戦法とるわねあいつら」
('A`)「この作戦を考えた奴が相当性格悪いのは間違いないな、少なくとも」
だが、お生憎様だ。
(=゚ω゚)「────さて、それじゃ。敵の狙いも解ったことだし」
性格の悪さと狡賢さに関しては、年期が違う。
(=゚ω゚)ノ「そろそろ、ペイバックタイムとしゃれ込むよぅ」
ξ゚听)ξ「「了解!」」('A`)
さぁ、反撃開始だ。
77 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/11(木) 01:10:40.79 ID:Tww0axjQ0
第6波投下完了。
二波合わせて今までの1波くらいの長さになってしまいました。
明日から4連休なので、また長さも戻る予定です
ご静聴ありがとうございました。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/11(木) 01:50:16.80 ID:Dd+nAVKu0
乙です。
顔文字がここまで効果的なSSって初めてだ。
すげぇ。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 13:04:29.68 ID:w/SjFl/mo
乙です 作者様軍事系詳しい人なん?
>>78
顔文字っていうよりブーン系という一ジャンルやで
良かったら検索してみて
80 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 01:37:48.02 ID:cHXotTvn0
雨と共に降り注いでくる敵の砲弾が、そこかしこに突き刺さって炸裂する。
火柱が吹き出し、建物が崩れ落ち、地面が揺れる。
街に立ちこめる、硝煙と土煙の匂い。
それらはとりもなおさず、今私が「戦場にいる」ということを実感させた。
(;><)「敵艦砲射撃、来たんです!!」
(#゚д゚ )「足を止めるな!!行け行け行け!!」
頭上をまた1発、砲弾が飛び去っていく。背後で上がった大きな爆発音に竦みかけた足を、歯を食いしばって無理やり動かす。
『オオアアアアアアアアアアッ!!!』
唐突に、150メートル程向こうで古びたアパートが一つ崩れ落ちた。瓦礫を踏みしめながら現れたのは、オタマジャクシの足に無理やり深海魚の身体をひっつけたような、黒光りする歪な化け物。
『アァアアアアアアアッ!!!』
駆逐イ級は、此方を見てサイズだけなら列車砲ほどもある大きな図体を震わし、威嚇するように咆哮した。
「っ」
その耳障りな声に、私の足は再び棒になる。
( <●><●>)「正面、駆逐イ級後期型1体。砲塔はまだ格納中」
(#゚д゚ )「出すまで待ってやる必要はない!パンツァーファウスト!!」
_
(#゚∀゚)「Jawohl!!」
先頭を行く妙に目力が強い分隊長───ミルナ=コンツィ陸軍中尉の叫び声に応じて、対戦車携行砲を構えた二人が隊列から躍り出た。
_
(#゚∀゚)「Feuer!!」
『ウォオオオオオオオンッ!!!?』
イ級の鼻っ面に、2発のロケット弾がほとんど同時に直撃。イ級はガラスを引っ掻いたような音の叫び声を上げて仰け反る。
_
(#゚∀゚)「レーベ、行け!!」
「Jawohl!!」
81 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 01:40:09.34 ID:cHXotTvn0
怯んだイ級に向かって飛び出したのは、私と同じ警備府に所属するZ1───駆逐艦娘のレーベレヒト=マースだった。
彼女は12.7cm連装砲を胸の高さに構えつつ、姿勢を低くしてイ級に向けて弾丸のように突っ込んでいく。
「Feuer!!」
『ア゛ア゛!!?』
150メートルの距離を更に半分まで詰めての砲撃。私たち艦娘からすれば目をつぶってでも当てなきゃいけない超至近距離だ。砲弾は先ほどジョルジュ少尉達が攻撃した箇所に寸分違わず命中。
火花が散り、イ級の強固な外殻が砕けて白くぶよぶよした肉繊維が黒煙と共に露出した。
( <●><●>)「Los Los Los」
(#><)「Weiter Feuer!! Weiter Feuer!!」
『アアアァアア………』
大きな損傷を負ったイ級に、間髪を入れず今度はアサルトライフルによる弾幕射撃が浴びせられる。
勿論幾ら中破状態とはいえ、深海棲艦の装甲や耐久に対して歩兵の小銃でトドメを刺すなんて不可能だ。
ただし、火線は悉く眼の付近に集中し、イ級の視界を奪いにかかる。
『オォ、アァアアァァァ………』
ミルナ中尉達の巧みな連携に反撃すらままならないイ級は、どうやら“戦略的撤退”を試みたらしい。
遭遇当初の威勢の良さはどこに行ったのか、弱々しい鳴き声を上げて黒煙が吹き出す身体を引きずりながらきびすを返す。
当然、その動きは遅すぎる。
「───Feuer!!」
レーベは既に、ティーマス軍曹とビロード軍曹の牽制射撃の合間に、距離を残り10メートル足らずまで詰めている。彼女は右手の連装砲と、背負っている艤装の両端に備え付けられた10cm高角砲を同時に起動した。
『オァ゛ア゛ア゛ッ!!?』
間近から放たれた“艦砲射撃”。巨体が爆圧で浮き上がり、まるでクリケットのボールのように飛翔する。
ぐしゃりと音を立てて、道脇の家屋に叩きつけられる。
崩れ落ちた瓦礫の下敷きになったイ級は、そのまま二度と起き上がらなかった。
82 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 01:42:20.02 ID:cHXotTvn0
「っ!!」
敵の撃破に、歓声を上げる暇なんてない。レーベはすぐに表情を険しくすると、その場から後ろに飛び下がる。
先ほどまで彼女が立っていた位置に、巨大な拳が叩きつけられた。
_
(;゚∀゚)「レーベ!!」
「大丈夫、避けました!!損傷ありません────っと!!」
今度は砲撃。再び彼女は跳び、爆風による衝撃を着地ざまに地面に転がって逃がす。
私たちの足下まで転がってきたレーベを、ティーマス軍曹が手早く助け起こした。
( <●><●>)「損傷状況を」
「深刻な損傷はない!まだ戦えます!」
_
(#゚∀゚)「そいつぁ上等だ────お客さんのお出ましだぞ!!」
ジョルジュ少尉の注意喚起の声に応じるように、新たな敵は右手───さっきイ級が現れたのと反対方向の家屋を突き崩して私たちの前に立ち塞がる。
まず眼を引くのは、大きさも形もてんでんばらばらな三つの頭。首から下には胴体や足がなく、太くて白い、ぬらぬらと気持ちの悪い光沢を放つ図太い腕が二本伸びて頭部を地面から持ち上げている。
どの頭部にも眼はついておらず、代わりにおおよそ8メートルほどの高さから私たちをにらみ据えるのは頭頂に備え付けられた連装砲とあごの横に盛り上がった魚雷発射管だ。
『ウゥオオオオオ………』
出来損ないのケルベロスのような形をした深海棲艦、軽巡ト級は本当に犬が威嚇するように私たちに向かって低く唸る。
なんとなく、仲間のイ級が轟沈したことに対する、怒りと悲しみを露わにしているようにも見えた。
83 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 01:47:21.81 ID:cHXotTvn0
_
(#゚∀゚)「Feuer!!」
『ォオオオォオオオ』
私たちを吹き飛ばすべく発射態勢に入った砲塔に、ジョルジュ少尉たちが放ったロケット弾が3発相次いで命中する。大きなダメージこそ与えられなかったようだけど、暴発や照準のぶれを嫌ったのかト級は砲撃を取りやめて爆発から逃れようとするように身をよじる。当然のことながら、その動きは大きな隙を生む。
_
(#゚∀゚)「プリンツ!!」
「ふ、Feuer!!」
合図に合わせて艤装の上側、SKC 20.3cm連装砲2門を起動。ト級の中央頭部めがけて放つ。
『グォウッ!?』
「くっ……」
右舷の砲撃は外れ、すぐ傍の民家の屋根を吹き飛ばす。左舷の砲撃は命中し、奴は衝撃でよろめき蹈鞴を踏んだ。
だけど、明らかに浅い。損傷具合で言えば、小破に行くか行かないか。
( <●><●>)「ト級、損害有りもなお健在、未だ戦闘能力を有しているの解ってます」
(#゚д゚ )「ジョルジュ、もう1発お見舞いしてやれ!!」
_
(#゚∀゚)「言われずとも!! Feuer!!」
(#><)「小銃一斉射、奴の腕に火線を集中!動きをせめて封じるんです!!」
『オオォオオオッ!!!』
三回目のロケット弾は向かって左手の頭部に命中。間を置かずアサルトライフルの弾丸もト級の腕で弾ける。ト級は鬱陶しげに頭を振りうなり声を上げるけれど、効いているようには見えない。
(;><)「ターゲット、効果的なダメージは見られず!行動抑制効果も薄いんです!!」
_
(;゚∀゚)「やっぱ戦車がないとキツいかクソ………おぉっ!?」
『ガァアアアアアアッ!!?』
“真下”から撃ち上げられた砲撃が、突然ト級の頭部を跳ね上げる。完全に予想していなかった箇所から攻撃を受けたト級は、後ろに大きくよろめいた。バランスを崩し手をもつれさせて、家屋を巻き込みながら地響きと共に転倒する。
84 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 01:48:44.91 ID:cHXotTvn0
「よし、どうだ!!」
_
(*゚∀゚)「ッヒュゥー!やるねぇレーベちゃあん!!」
前のめりに倒れ込んできたト級の巨体を避けながら、いつの間にか再び隊列から飛び出していたレーベは小さくガッツポーズをしている。手に持っている連装砲が小さく煙を上げているところを見ると、今の一撃はト級の懐に飛び込んだ彼女によるものなのだろう。
「プリンツ、今だ!!」
「う、うん!!」
レーベの合図に併せて全ての砲塔をト級に向ける。
至近距離、転倒して身動きがとっさに取れない相手、地上のため足場も安定。
これで外したら、私は恥ずかしさと情けなさのあまりBismarck姉様の胸に顔を押しつけて窒息死する事を選ぶ。
「Feuer!!」
『ガッ………』
4門、一斉射。砲撃は起き上がりかけていたト級の中央の頭を跡形もなく吹き飛ばし、両側ニ頭の凡そ半分ほどの面積を抉り取る。
ズンッ、と重い音を立てて再び崩れ落ちたト級は、そのまま完全に機能を停止した。
(;><)「敵艦の機能停止を確認───敵艦砲射撃、再び来るんです!!」
(;゚д゚ )「伏せろぉお!!」
……立て続けに2隻の敵艦を撃沈したっていうのに、深海棲艦の奴等は私たちに余韻に浸る僅かな暇すら与えてくれない。
ぬかるむ地面に身を伏せた私たちの前後、それぞれ20メートルも離れていない位置に飛翔音と共に砲弾が突き刺さる。
巨大な爆発。
降り注ぐ泥。
地面から身体に這い上ってくる震動。
………私の歯がやたらかちかち鳴っているのは、きっと地面が砲撃で揺れたせいだ、そうに違いない。
85 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 01:51:54.50 ID:cHXotTvn0
(#゚д゚ )「損害、損傷報告!!」
( <●><●>)「全員無事です。分隊に欠員なし」
「レーベレヒト=マース、損傷無し!」
「プリュ、プリ、プリンツ=オイゲン、損傷ありません!!」
(#゚д゚ )「HQに現状を報告したい!ジョルジュ、通信を繋げろ!」
_
(#゚∀゚)「もう無理ですよ中尉!!既に五分ほど前からベルリン市外への通信は全部隊が通じていない模様です!深海棲艦の妨害区域に入ってます!!」
眉g、ジョルジュ少尉はそれだけいうと罵倒を吐き出しながら地面を蹴った。近くにいたレーベが、びくりと一瞬肩を震わせる。
_
(#゚∀゚)「あのクソッタレの鷲鼻野郎!!何が“この区画に突入すれば事態が好転する”だよ!!このままだと全滅を待つだけだぞ!!」
(#゚д゚ )「落ち着けジョルジュ!!ラインフェルト大佐の命令はお考えがアッテのことだ!!」
_
(#゚∀゚)「あぁそうだな!!21世紀のマンシュタイン様にはさぞや大層な深謀遠慮があるんだろうよ!!
ところでその深謀遠慮の結果俺たちは現在進行形で死にかけてるわけですがね中尉!!」
(;゚д゚ )「っ……」
……あまり学があるとは言えない私でも、ジョルジュ少尉が私とレーベをミルナ中尉の部隊に配属したあの鷲鼻の陸軍大佐の作戦に怒っているのは理解できた。
そして、はっきり言うと私も同じ気持ちだった。
_
(#゚∀゚)「機甲師団なし、空軍の支援は効果希薄、東部に展開しているであろう友軍は正確な規模不明!!この上本部とは通信が繋がらねえ状況下で待ち伏せていた敵の十字砲火に晒されてると来た!どんな深謀遠慮だか、楽しみすぎて涙が出てくるよ!!」
86 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 01:54:35.23 ID:cHXotTvn0
深海棲艦の神出鬼没ぶりに対抗するためアメリカから大量に輸入されたという、最新鋭の高速輸送機に乗せられて私たちはベルリン南部に空から突入した。
戦力は、私とレーベを含め戦闘能力を残した状態で南に逃れることができた艦娘8人。そして、ミルナ中尉ら陸軍歩兵1200余名。
深海棲艦は、私たちが南部に完全に展開しきるのを待ち構えてから区画を包囲封鎖。前衛攻撃・足止めとして非ヒト型のホ級やイ級、ト級を投入しつつ周辺から壮絶な艦砲射撃を開始した。
“艦娘が八人”とは言っても、その中にはBismarckお姉様もグラーフさんも1隻もいない。重巡プリンツ=オイゲンですら、私一人だけ。
他の艦娘は、レーベレヒト=マースが3隻とマックス=シュルツが4隻。
ル級やタ級といった“戦艦”に包囲されている現状を打破するには、火力も数も足りない。
この状態が続けば、多分私たちはまともな反撃ができないまま1隻残らず全滅する。肉薄して至近での砲撃戦に持ち込もうにも、非ヒト型が間断なく投入されてくる現状だと仮にたどり着いたとして弾薬も燃料も残らない。
少なくとも私には、あの大佐さんが立てた“作戦”はただの手の込んだ自沈命令にしか見えなかった。
( <●><●>)「今は、言い争っている場合ではないことは解ってます」
今にもつかみ合いをはじめそうなミルナ中尉とジョルジュ少尉の間に、ティーマス軍曹がそっと割って入る。軍曹は二人を引きはがしながら、私の方をちらりと見た。
( <●><●>)「中尉、少尉。正直な話、貴方方が言い争いをしている間に敵の砲撃が私たちを吹き飛ばさなかったのは奇跡です。すぐに移動しましょう」
( ゚д゚ )「……そうだな。総員、一先ず西に移動しろ!敵に位置を把握されている可能性が高い、砲弾の飛翔音に気をつけろ!」
( <●><●>)「プリンツ=オイゲン、貴女が水偵を装備しているのは解ってます。退却であれ進撃であれ、敵の現状を確認しなければなりません。
可能ならば飛ばしていただけませんか?」
87 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 02:05:52.98 ID:cHXotTvn0
「あっ、はっ、はい!!」
ティーマス軍曹に声をかけられ、私は我に返る。ミルナ中尉達に小走りでついて行きながら、懐からAr-196改を取り出して左手の艤装に装着。【Helm】や【Ball】の機影がないことを確認して、空へと向ける。
「お仕事だよ、お願いね!」
機内の妖精さんに軽く声をかけ、機体を空へ放った。
「………あの、軍曹、お手数なんですけれどしばらく手を握って私を先導していただければと」
( <●><●>)「えぇ、かしこまりました」
「Danke、では────」
ティーマス軍曹に手を引かれながら目をつぶり、私の「意識」をAr-196に乗る妖精さんの「意識」に重ねる。
途端、瞼の裏しか見えない状態の筈の私の眼は、空へと駆け上がっていくAr-196のコックピットからの景色を映しだした。
(………やっぱり、酷い有様だ。街が、こんなに滅茶苦茶に)
空から見たベルリンは、“無事なところ”を探す方が遙かに難しかった。瓦礫の山と化した区画、無数の炎が飲み込んでいる区画、黒煙に包まれて何も見えない区画…………そして、たくさんの死体が積み重なっている区画。どこもかしこも、見られるのは深海棲艦による“破壊”の跡だけだ。
(………っんぷ)
一瞬こみ上げてきた吐き気を、無理やり喉から押し返す。
今は吐いている暇はない。まず敵の状態を偵察、逃げ道か打開策か、とにかく何か見つけないと────
.
88 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 02:23:28.73 ID:cHXotTvn0
「……………ミルナ中尉!!!!」
(;゚д゚ )そ「うおっ!?」
_
(;゚∀゚)そ「わぁこっち見んな!?」
自分でもびっくりするほどの大声が、喉から迸った。私はティーマス軍曹から手を放すと、一目散にミルナ中尉の下に駆け寄……ろうとして、足がもつれて転び頭から水たまりに突っ込んだ。
………おかしいな、私巷じゃ船だった時代のせいもあって幸運艦なんて呼ばれてるんだけど。
「ちょっ、プリンツ大丈夫?」
思い切り鼻の頭をぶつけた痛みで立ち上がれない私に、ミルナ中尉とレーベが呆れた様子で駆け寄ってくる音が聞こえる。
( ゚д゚ )「……」
その足音は。
「………」
遠くから聞こえてきた“砲声”によって、止まった。
_
( ゚∀゚)「………」
深海棲艦の、ル級やタ級が放つ“艦砲射撃”とは明らかに異質な、少し“軽い”と感じる響き。
(;><)「………」
キャタピラーが瓦礫を踏みしめながら道を進んでいく音を同時にこだまさせつつ、確実に此方へ近づいてくる幾つもの轟音。
「────中尉!!!」
ようやく鼻の痛みから復活できた私は、地面から身を起こして中尉の袖を掴み、叫ぶ。
「市街地東部にて大量の戦車隊を有する友軍部隊が突貫!!深海棲艦の包囲網に対して攻撃を開始しています!!」
89 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 02:24:08.95 ID:cHXotTvn0
第七波ここまで。
ご静聴ありがとうございました。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 10:04:56.53 ID:2w4OLa5mO
なんでドックンまだ少尉なんや……
乙です。めっちゃおもろい
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 12:20:26.58 ID:t9rKSQ9A0
おつおつ
ちょいちょいはっちゃけてるプリンツがw
絶望的な状況でも、折れない精神で部隊を引っ張れるミルナ中尉も凄いなあ…
>90
異例の二階級特進を蹴ったから、エルファシルの英雄として祭り上げられたヤン・ウェンディみたく政治利用されない自由もあると言うか
92 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 15:54:51.54 ID:cHXotTvn0
(`∠´)「士官学校時代の私は、とんだクソガキでね。
“連邦軍始まって以来の神童”なんて周りから煽てられた結果、鼻持ちならない自信家になって全ての人間を見下していた」
ベル=ラインフェルトは椅子に深く腰掛けながら、唐突にそんなことを語り出した。
彼の眼前には、北部の混乱からなんとか逃げ延びレヒフェルト基地に集った三軍の将校達が集まっている。
ベルの立案した「無謀な作戦」に物申すために司令室に詰めかけた彼らは、誰もが唖然として椅子に座り懐かしげに微笑む彼を見つめている。あまりに絶望的な状況にとうとう気が狂ったのではないかと、本気で訝しんでいる者も少なくない。
(`∠´)「そういえば、以前の同期達とは今すっかり会わなくなってしまったな。この騒動が終わった暁には、是非彼らと酒でも酌み交わして」
「大佐ァ!!」
あまりに場違いな物言いに、遂に一人が声を荒げて机を殴りつけた。ペン立てが震動でひっくり返り、中身をぶちまける。ベルはその光景に、小さく眉をひそめた。
(`∠´)「落ち着きたまえ君、物が壊れたらどうしてくれるんだ。
君もドイツ連邦陸軍の少佐として、もう少し思慮を深く持ちなさい」
「何を落ち着けと言うんですか!!」
食い気味に反駁した海軍少佐は、北方沿岸部の警備府で提督をやっていた。深海棲艦と前線で渡り合った経験もある若く有能な人材だったが、利権争いに明け暮れる上層部と衝突した結果辺境に左遷されたというなかなか激しい経歴の持ち主だ。
彼から見れば、今この瞬間目の前に悠然と座っている鷲鼻の陸軍大佐は何者よりも許しがたい悪徳に他ならない。
93 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 15:56:38.82 ID:cHXotTvn0
「市内に突入した友軍から、電波妨害圏内に入る直前深海棲艦による待ち伏せ攻撃を受けたとの報告がありました!!
現在強襲部隊は包囲下で全滅の危機にあると思われます!!一刻も早ぐ……う゛っ……」
提督の言葉は、後半涙に呑まれてまともな声にならずかき消える。
ドイツ領の端の端に勤務していた彼に部下として配備されていた艦娘は、Z3 マックス=シュルツただ1隻。苦楽を共にした彼女は今、ベルの命令により首都強襲部隊の一角に編入され深海棲艦による十字砲火の直中にいる。
ベルへの怒りと安否不明となった部下に対する思いは、最早彼の許容量を超えていた。
「大佐、何度も申し上げました通りやはりこの作戦は無謀だったのです」
机にすがりつくようにして泣く提督の後を、空軍中佐が引き継ぐ。彼はベルから聞かされた作戦概要を見たときに、最後まで強硬な反対を続けている。
「レヒフェルトからベルリンまでの凡そ500km、敵からの強襲がないわけがない。
仮に強襲・対空迎撃がなかったとすれば、それは間違いなく向こうの罠だ………正直、大佐ほどの方が解らないはずがないと信じていました」
彼の口調は静かだが、語尾に走る震えが内に秘めた怒りの大きさを表している。
「大佐……私は貴方の名声と実績を信じて最終的に作戦を託した2時間前の自分を射殺したい気持ちです」
(`∠´)「………」
「1200人の優秀な陸軍士官と8人の艦娘を、希望的観測ありきの死地に追いやる………これが、今の我々にとって、否、世界にとってどれほど背信的な行為かおわかりですか?」
94 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/05/12(金) 16:00:56.07 ID:cHXotTvn0
50機近いV-22を動員した大規模空挺強襲……言葉だけを聞けば威勢が良いが、内実は1200人の歩兵を化け物に制圧された市街地に降下させたに過ぎない。
深海棲艦に対抗し得る戦力である“艦娘”にしても、僅か八人、しかも戦艦も空母もいない。
もし海の上ならば、駆逐艦と重巡にも魚雷攻撃という一撃必殺の切り札があった。だが、今回は内陸に敵の侵攻を許した上での陸上戦闘だ。主砲の火力差は、そのまま彼我の戦力差に直結する。
はっきり言って、道中で襲撃を受けて追い返されたり激烈な対空砲火によって市街地への着陸がならず帰投したという話になれば寧ろドイツ軍にとってマシだった。
少なくとも通信もままならない市内に引き込まれての包囲殲滅という考え得る限り最悪の、それも比較的容易に想像がつく事態よりはよほど収拾も立て直しも効く。
そして、ベルがそれらの不利を覆し作戦を強攻する理由として挙げたのは、根拠不明の「ベルリン市街地の残存友軍戦力の存在」だった。
「旅団規模の友軍が市街地東部を占拠し防衛線を展開している可能性が高く、おそらく機甲戦力も有しているこの友軍と連携すれば十二分にベルリンを奪還できる………こんな、こんな荒唐無稽な推測を“ベル=ラインフェルトが言うことだから”と最終的に真に受けた私がバカだった!!!」
最早空軍中佐も、感情の昂ぶりを抑えきれずに激昂する。
確かに、ベルリン以南への南下速度が極端に遅い理由を「中枢たるベルリンが未だ制圧できていないから」と考えること自体は論理的だ。戦車道博覧会の警備を行うために機甲戦力が駐屯しているのは事実なので、もしかしたら戦車や戦闘車両も生き残っているかも知れない。
だが、仮に警備隊や機甲戦力が生き残っていたとしてそれが“ベルが言うとおりの規模”だという確実な証拠はどこにもない。また万歩譲って旅団規模の味方とやらが奇跡的に生き残っていたとして、彼らが突入部隊と連携できるとも限らない。
何せ、ベルリンは敵の電子戦によって通信途絶中だ。援軍の存在すら事前に知らせていない中で、瞬時に状況を把握して即応できる人材がベルリンにいるとは到底思えなかった。
95 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/05/12(金) 16:10:56.34 ID:cHXotTvn0
「大佐、今からでも遅くはありません。ユーロファイターを総動員して爆撃を敢行すれば、包囲網を崩すとまでは行かなくても強襲部隊への十字砲火を鈍化させることは十分に可能です!その間にV-22で再び彼らを回収すれば、最低限貴重な艦娘戦力の損失は避けられます!!」
空軍中佐は身を乗り出し、眼を見開いてベルに詰め寄る。
彼の視線には、軍の垣根を越えて一刻も早く死地にいる友軍を救いたいという強い思いしか宿っていなかった。
「大佐、首都を救いたいというお気持ちは解ります!!しかしこればかりはどうか、どうか今すぐに中止を!!」
(`∠´)「………」
形振り構わず、額が机に着きそうな勢いで中佐は頭を下げる。
ベルは、眼を細めて彼をしばらく見つめ………
「………っ!!」
机を開けると、爪切りを取り出して手の爪を削り始めた。
「大佐、大佐!!貴官……正気かお前はぁ!!!」
「落ち着け!!………大佐、今はふざけているときではないのです!いい加減友軍の救援を!!」
腰の拳銃に手をかけた提督を抑えながら、陸軍少佐がもう一度声を上げる。
提督を止めてはいたが、彼も最早我慢の限界が近いことは明白だ。彼の右手も今にも腰のホルスターに手を伸ばしかねない姿勢で痙攣しており、あと一つ何かきっかけがあればベル=ラインフェルト陸軍大佐は味方の「誤射」によって命を落とすことになるだろう。
(`∠´)「さっきの話に戻るが、私は士官学校時代完全な天狗だった。
図上演習では特に本当に敵無しでね。視察に来た将軍方をお相手したときは、わざわざ自軍に不利な場面設定をした上で叩きのめし面と向かって皮肉を浴びせてしまったほどだ」
だが、彼はそんな空気を意に介さずに昔話を再開した。
いよいよ激怒した将校達を眼で制しながら、訥々と語り続ける。
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