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佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」
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47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 08:24:12.53 ID:g2z3JoEWO
面白い
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:29:32.97 ID:WOJJWRsc0
コメントありがとうございます。それでは今日の分を投下したいと思います。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:30:11.87 ID:WOJJWRsc0
第四話 その男、刑事
次の日の昼、朝のバイトを終えた満は昨晩電話した須藤の指定した
都内にある寂れた中華料理店に足を運んでいた。
「お待ちしていましたよ。佐野さん」
キョロキョロと周囲を見回す満を見つけた須藤は満面の笑みを浮かべ、
席を立ち、自分の席へと誘った。
「須藤さん。これからよろしくお願いします」
「いえいえ、私の都合で協力を仰いだのですからこちらこそお願いします」
丁寧に挨拶を返した須藤は、満にメニュー表を渡した。
「佐野さん。昨日はお疲れ様でした。これは本当に細やかな気持ちです」
「えっ?好きなもの頼んで良いんですか?」
「勿論です。ですが、ほどほどにお願いしますよ?」
「は〜い」
場末の中華料理店とは言え、メニューは意外とあった。
一品500円程度のリーズナブルさがきっとこの店の売りなんだろう。
「すいません。ラーメンと餃子と炒飯と青椒肉絲お願いします」
「私はカニ雑炊と酢豚と水餃子でお願いします」
「あいよ〜」
注文を承ったアルバイトのオバサンの気軽な声に緊張がほぐれる。
そんな佐野を見た須藤は本題へと切り込んだ。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:30:52.00 ID:WOJJWRsc0
「では、佐野さん。私達の同盟の話に移りましょうか」
「同盟...ああ、そうですよね。俺達これから協力するんですよね」
「ええ。今ここにカードデッキはありますか?」
「ありますけど...」
いい年した男が二人顔突き合わせてなにやら意味深な話をしているように
他の客からは見られがちだったが、生憎当の本人達はそんな目を気にする
ことはなく、互いのカードデッキからそれぞれのカードを取り出していた。
「こうしてみると、あれですよね...」
「ええ。私達の契約モンスターは本当に弱い」
「私のカードは四枚、佐野さんのカードは三枚。ですが」
「武器の威力が低すぎて心配になっちゃいますね」
「ですが、早いうちに佐野さんと出会えて良かったですよ」
「最近、私もモンスターを中々倒せずにいて困っていたんです」
「そうだったんですか。いつごろ須藤さんはライダーに?」
「実は一ヶ月前からです。仕事があるのに...はぁ」
「へい。おまち!熱いから気をつけてね〜」
一旦、話を中断した二人はそれぞれが注文した料理をそれぞれ
受け取る。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:31:26.60 ID:WOJJWRsc0
(うわぁ〜。久しぶりに湯気の立ってるラーメンとか見るよ〜)
「須藤さん!ありがたく頂かせて貰います。いただきます」
「ははは。そんなに嬉しそうな顔をされるとは思いませんでしたよ」
「では、私も頂くとしましょうか」
久々の外食に心を振るわせた満は、飢えた獣のように目の前の食事に
かぶりついたのだった。
「んまい!旨いっすよ!く〜!ここの飯マジ最高っす!」
「特にこの餃子!ニンニクが凄い利いてて美味しい!」
久々にありついたまともな食事と、自分の話をちゃんと聞いてくれる
他人の存在が満の心をかつてないほどに昂揚させていた。
「佐野さん、声大きいですよ」
「あっ...すいません」
「なんだい兄ちゃん。そんなに俺の餃子が旨いのかい?」
大声を須藤に窘められた満は赤面したが、そのやりとりを聞いた店主が
はげた頭を照れくさそうに掻いて厨房から出てくる。
「あっ、いやその...毎日コンビニ弁当ばかりだったんで...つい」
「あんだぁ?おめえ歳は今いくつだ?」
「21歳です。えーっと現在進行形でフリーターやってます」
「かーっ、なっさけねぇなぁ!人生どぶに捨ててるじゃねぇか!」
「いやぁ〜。言い返せなくてすいません」
「おし、じゃあちょっと待ってろ!」
そう言うなり店主は再び厨房に戻り、中華鍋を動かし始めた。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:31:58.02 ID:WOJJWRsc0
五分後...
「ほら!サービスだ。熱いうちに食べな」
厨房から再び戻ってきた店主が持ってきたのは八宝菜だった。
「えっ、いいんですか?」
「おうよ。これは俺からのサービスだ」
お皿に盛った八宝菜を炒飯にかけた店主は満足げな微笑みを浮かべ、
そのまま厨房へと引っ込んでいった。
「須藤さん。なんだかここのお店、俺好きになりそうっす」
「ええ。あの店長さんは素敵な人ですからね」
とろりとした餡掛とエビやウズラの卵、キクラゲなどの歯触りの良い
食感が炒めた飯に絶妙にマッチングしていた。
一口頬張れば頬が落ち、二口食べれば涙が溢れる。
「人の親切の味っていうのはこういう味のこと言うんですかね」
「ええ。きっとそうでしょうね」
涙を流しながら、満は黙々と箸とスプーンを動かす。
30分後...
「ごちそうさまでした。いや〜美味しかったです」
「いえいえ」
会計を済ませ、店を後にした満と須藤は裏道からそのまま大きな
通りへと出る。
人混みに紛れながら、周囲を注意して情報交換を再開する。
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:32:36.43 ID:WOJJWRsc0
「なるほど、佐野さんはまだ一回しか変身していない。と?」
「ええ。だけど、なんとか独力でモンスターを倒したんですよ」
「わらわらーって契約モンスターが出てきて、トドメを刺したんです!」
「ほう。では、まだ他のライダーとは顔を合わせていないと?」
「?そうですけど」
信号機の前ではたと立ち止まった須藤は、思い直したように左の角を
曲がって、その先にある公園へと進んでいった。
「良いですか佐野さん。今からする話は真剣な話です」
「このライダーバトルにはあの浅倉威が参加しています」
「いやだな〜。浅倉ってあれでしょ?あの連続殺人鬼の」
須藤は未だに半信半疑の満に対して、更に真顔でとんでもないことを
さらりと言い放った
「もう、既に一人ライダーが脱落しています」
「え?なに、脱落って...どういうことだよ」
「言葉の通り、命を落としたそうです」
深刻な表情を浮かべる須藤に、満の顔も自然と厳しいものに切り替わる。
「佐野さん。私達はライダーの中でも最弱の部類に入ります」
「なので、今の所は他のライダーとの争いを避け、地力を上げましょう」
「...そうっすね。モンスター狩りに専念した方が賢明ですね」
「私は他のライダーの事を調べます。佐野さんは私の手が届かないところ」
「モンスター狩りの手助けや退路の確保をして欲しいのです」
「オーケー。お互いの手の届かない所を補う寸法ですね」
「分かりました。戦闘には不向きっすけど逃げ足なら自信ありますから」
須藤の要求はとてもシンプルなもので、決め手に欠ける乏しい戦力の
ライダー同士が手を取り合って、互いの短所を補い合おうという提案だった。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:33:04.50 ID:WOJJWRsc0
満としても、既に死者の出たバトルロイヤルで無駄な戦いを避け、
できる限り身の安全の保障を得られるこの提案を拒む理由がない。
「頑張りましょう!須藤さん」
「頼もしい限りです。よろしくお願いしますよ?佐野さん」
須藤と固い握手を交し満は、三日後の再会を約束して公園を後にした。
「ふっ、バカな男だ」
満の背中が見えなくなるまで見送っていた須藤の笑顔が醜悪に歪む。
「ま、せいぜい私の役に立って下さいよ。佐野さん」
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:33:51.34 ID:WOJJWRsc0
〜〜〜
コンビニ
「いらっしゃいませー」
「50番のタバコ下さい」
「かしこまりました」
須藤と別れた後、満は掛け持ちのバイトの一つであるコンビニにいた。
入荷された品物を下ろして棚に陳列し、それが終わったらバックに
引っ込んで在庫の確認と発注作業の繰り返しである。
「合計1700円になります」
「2000円で」
「かしこまりました。こちら300円のおつりになりまーす」
朗らかな笑顔が自然とにじみ出てくる。
やはり、なにかやりがいが見つかるのは気持ちが良いなと思いながら
満は退屈なアルバイトを満喫していたのだった。
しかし...
「?!」
レジで会計をこなしている最中、あの音が突然聞こえて来た。
(嘘だろ...まさかここにミラーモンスターが?!)
幸い、店内の客は目の前にいるのと、あとはコミックを読んでいる
小さな女子中学生の二人だけだった。
「またのおこしをお待ちしておりまーす」
背を向けて自動ドアに歩いて行く客の背中に声をかけた満は、レジを
飛び出し、慌てて店内を掃除するふりをして注意深く窓硝子に目をこらす。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:34:31.59 ID:WOJJWRsc0
「....」
いた。
漫画に夢中になっている女子中学生の死角から丸いミラーモンスターが
じっと窓硝子の向こう側から目を凝らしている。
(まずい、これは...連絡すべきか?)
コンビニのバックヤードには年配のおばさん店員以外は誰もいない。
須藤の顔が自分の頭をよぎった瞬間...
プルルル...
ポケットの中の携帯電話が震えた。着信元は須藤からだ。
「須藤さんですか!どうしましたか?」
「いえ、明日また聴取があるということをお伝えしようと...」
まさに天の助けだ。
この際須藤に助力を乞い、モンスターを倒すのが上策だ。
そのことを須藤に伝えようとした、まさにその時...
「きゃっ!」
短い悲鳴と共に、目の前にいた女の子が忽然と姿を消した。
「くそっ!すいません須藤さん。また夜にかけ直して下さい」
「モンスターが現れて人を攫ったんです。放って置けない!」
「まっ!」
携帯電話の通話ボタンを切り、慌ててトイレに駆け込む。
万が一、カメラに自分が変身する姿を写されたりしたら大変だ。
「変身!」
トイレの個室にくっついている鏡に向かい、ポーズを取って満は
インペラーに変身する。
「頼む...無事でいてくれ!」
少女の無事を祈りながら、佐野満は再びミラーワールドへと赴いた。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:34:59.63 ID:WOJJWRsc0
〜ミラーワールド〜
全てが反転した世界に足を踏み入れた満は、トイレの扉を押し開け、
コンビニの外へと駆けだしていった。
「くそっ!なんで、なんでこうなるんだよ!」
コンビニの外、そのすぐ近くにある駐車場に奴はいた。
クラゲのような身体を膨らませながら、身体にくっついている嘴で
先程の女子中学生の頭を貪り喰らっているミラーモンスターがそこには
存在していた。
ブロバジェル。それが今回満が相手をするモンスターの名だった。
2.38mの身長と138kgの体重は到底か弱い女の子が太刀打ちできない
程の重量と高さを誇っていた。
生きていてくれさえいれば、そう思う後悔の念を押し込めながら満は
猛然と目の前にいるクラゲの化け物へと襲いかかっていった。
「spin vent!」
ベントインしたカードをバイザーが読み込み、音声と同時に自分の手元に
得物が現れる。
「その子を、離せー!」
叫びながら己に斬りかかる満を、しかし億劫なほど緩慢に振り返った
ブロバジェルは両腕の音叉状の爪から物凄い音がするなにかを目の前の
敵へと放った。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:35:39.45 ID:WOJJWRsc0
「?!」
突き刺すように差し出されたミラーモンスターの爪を全力で回避した
インペラーは、数秒遅れで自分の立っていた場所に小さなクレーター
らしき穴が空いているのを見逃さなかった。
「なんだよ...あれ。音からして電気を操ってんのか?」
スタンガンのようなバチバチという音を鳴らしながら、クラゲの怪物は
足音を立てながら自分の元へと歩み寄ってきた。
(まずい。あの電撃喰らったら一たまりもねぇよ!)
既に自分の手には得物が握られている。
だが、自分のカードは残り二枚しかない。
もし、アドベントが効かなかったら?
もしファイナルベントすら無効にするほど相手が強かったら?
そんな最悪の予想が脳裏をよぎり、脳はそのおびえを身体に伝える。
「くそっ!こんな所で終わるわけにはいかないのに!」
こんな時、つくづく神崎士郎に優遇された人間達が恨めしくなる。
遠近距離戦のどちらもこなせる万能型のデッキさえ持てていれば...
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:36:15.02 ID:WOJJWRsc0
「Advent!」
貴重なアドベントのカードを切る。
数秒もしないうちに、自分の背後からガゼルのミラーモンスターの大群が
大挙して目の前のブロバジェルに殺到する。
バチバチバチィ!
落雷のような凄まじい音を立てながら、ギガゼール達に応戦するクラゲの
ミラーモンスター。
だが、満の予想に反して鹿型ミラーモンスター達の群れは思った以上に
目の前の敵に善戦していた。
運悪く電撃を浴び、即死した仲間達の亡骸を見て学んだのだろうか、
十数体にも渡る武器を持つ個体達が、得物の利を最大限に生かして
ブロバジェルの射程外から切る、突く、刺す攻撃を加え始めた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
苦悶と激痛に身体を悶えさせながら、ブロバジェルは徐々に弱り始める。
「Final vent!」
「でりゃあああああああああ!!!!」
叫び声と同時に、意を決したインペラーがブロバジェルに躍りかかった。
四方をかこまれ逃げ場を失った哀れな獲物は、そのままなすすべなく
身体中を槍や角で突かれて全身に穴が空いた所を仕留められた。
爆散するミラーモンスターの身体から出たエネルギー源の塊を喰らう
ギガゼール。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:37:07.82 ID:WOJJWRsc0
「これで、二体目か」
思ったより、簡単にモンスターを狩れることを確信した満は意気揚々と
ミラーワールドから引き上げたのだった。
「...新しいライダーかぁ」
だが、インペラーの視界の届かない場所に奴はいた。
「カードの数は三枚...うん。アドベントを崩せば楽に勝てる相手だ」
車の影から今までのインペラーの戦いぶりをじっくりと観察していた
ライダーがその姿を現した。
サイのような装甲を身に纏うそのライダーの名は...仮面ライダーガイ。
「ま、せいぜい俺を楽しませてくれよな」
ライダーバトルに選ばれた13人の一人であると同時に...
「さぁこのゲームも面白くなってきたぞ〜」
この戦いをゲームとして捉えるエキセントリックな破綻者でもあった。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:37:33.35 ID:WOJJWRsc0
第五話 危険な賭け
警察署内
「えっ?昨日別れた後にモンスターと闘った?」
「そうなんですよ...バイト先のコンビニで運悪く出会っちゃって」
ミラーモンスターを倒した次の日、満は事情聴取という名目で昨日
自分に起きた出来事を須藤に伝えていた。
須藤も聴取をそこそこにして、満の話に耳を傾けていた。
「そちらに中学生くらいの女の子の捜索願、出されてますか?」
「...一件ありました。でも、もう...」
「...すいません。俺がミラーワールドに行ったときには、ダメでした」
重苦しい空気が取調室に満ちる。
一体、あの女の子が何をしたというのだろう。
人を殺したわけでもない、誰かを苦しめたわけでもない。
どこにでもいる平凡で普通の楽しい生活を享受していただけじゃないか。
「分かりました。今日はもう帰って貰って結構です」
「はい」
警察は、あの事件を未解決事件として処理することに決定したそうです。
去り際に須藤の呟いた言葉は、何の慰めにもならなかったが、少なくとも
自分の稼ぎ先である工事現場のバイトにはもう顔は出せないだろう。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:38:20.78 ID:WOJJWRsc0
「はぁ...また面接行かないといけないかぁ...」
ぶつくさ言いながら満は重い足を引きずりながら、近くのコンビニへ
週刊の無料求人誌を見るために入った。
このご時世に高卒正社員を求める企業はごく僅かだ。
漁船の乗組員や木こりならまだ1発採用の目はあるが、元々がお坊ちゃん
気質の満にとって、3K揃った劣悪な肉体労働をする気など毛頭ない。
かといって給料の良い外回りの営業職をする気も起きない。
コンビニから歩いて1kmの小さな公園。その一つしかないベンチを
まるで会社の重役が偉そうにテーブルに腰掛けるように独占しながら、
求人誌のページをパラパラとめくる。
(やっぱデスクに座ってふんぞり返れる人事とか総務がいいよなぁ...)
しかし、現実はそう甘くない。
人事も総務もどちらかと言えば女性向けの部署である。
となると消去法で日給のいい派遣社員のページに目が行くのは当然で...
(おっ、このリゾートバイトは良い感じじゃん)
(北海道はこの前行ったし、久しぶりに沖縄行きたいなぁ...)
短期間で最大50万と大きく掲載されているリゾートバイトの派遣社員の
募集広告に胸をときめかせた満は早速電話をかけようとした。
(あれ?ちょっと待てよ。そんなに上手くいくもんなのか?)
ライダーバトルは1年。そして、今目にしている広告のバイトの期間は
最長でも約半年である。上手いこと神崎士郎を騙せれば半年は確実に命を
長らえることは出来る計算になる。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:38:54.57 ID:WOJJWRsc0
だが、
「小賢しいことを考えているなら、やめた方が良い」
「げぇっ!か、神崎?!」
まるで幽霊のようにいつの間にか自分の横に立っている神崎士郎が
不機嫌丸出しの顔で自分を睨み付けていた。
「ライダーバトルに非協力的なら、お前を真っ先に潰す」
「12人のライダーに狙われ、果たしてお前はいつまで逃げられるかな?」
ぐうの音も出ないほどの死刑宣告に満はガックリと膝を突いた。
「勘弁してくれよぉ...お前のせいでこっちは職探ししてんだよ!」
「オタクの可愛いペット達のせいで俺は警察にマークされてるの!」
「そんなことは私の知ったことではない」
無愛想で無慈悲な神崎の対応にますます嫌悪感が募っていく。
だが、こんな奴がライダー同士の戦いを作り上げた黒幕なのだ。
なんでもいい。一つでも神崎から有用な情報を毟ってやろう。
そう考えを改めた満は、以前から気になっていたことを聞くことにした。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:39:51.11 ID:WOJJWRsc0
「なぁ神崎さん。アンタから貰った契約のカードなんだけどさ」
「別々のモンスターと二体契約したとして、片方が相手にやられた時」
「もう一体のカードが残っていれば、ブランク体にならないで済むのか?」
「そうだな。繰り上がりでそのモンスターが再契約の対象となる」
「だが、ブランク体には一度戻ってしまう」
「頭の中で契約すると念じたあとに、モンスターとの再契約は完了する」
「それまではブランク体だ。カードも同様にブランク体のもののままだ」
「へぇ...じゃあブランクに戻る前に契約したモンスターはどうなるの?」
「以前のライダーの紋章はなくなるが、契約はなくならない」
「原則は一枚につき一体のモンスターとの契約だ」
契約が解ければライダーは初期状態に戻るが、二体のモンスターと契約を
していれば、残ったモンスターの情報が自分のデッキに上塗りされると
直々に神崎士郎から言質が取れた。
これで、あの群れしか取り柄のないガゼル軍団をわざと囮にして本体を
別のモンスターに喰わせれば、こっちの方からモンスターとの契約解除が
できるということが実証された。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:40:34.89 ID:WOJJWRsc0
(よし、次は強いモンスターを探さなきゃな)
「じゃあさ、あの世界にはどんな強いモンスターがいるんだ?」
「ドラゴンとかフェニックスとかいるんだろ?」
「ああ。確かにその個体は存在する。だが、もう契約済みだ」
「って事は何?万能型のデッキの持ち主は二人以上いるって訳?」
「そうなるな。そう言った種は希少性が高く遭遇することは稀だ」
「仮に遭遇したとしても、その気性の荒さ故すぐに捕食に入る」
危ないところだった。
もし前情報もなしに貴重な契約のカードを雑魚モンスターとの契約に
使い果たしてしまえば、また今の自分の二の舞になるところだった。
だが、ドラゴンやフェニックスはダメでもまだ強いモンスターは
必ず残っているはずだ。食い下がるわけにはいかない!
「なぁなぁ教えてくれよ〜。伝説の生き物じゃなくて良いからさぁ〜」
「野良のモンスターでそれなりに強い奴を教えてくれよぉ〜」
「...これ以上教えるわけにはいかない」
「そんなこと言うなよ〜。もう文句は言わないからさ〜」
「...モンスターはそれぞれ自らの元となった生物の生息域に潜む」
「ハチや蜘蛛は街の中に居るが、クラゲや魚は海の中に居ると言う事だ」
「つまり、お目当てのモンスターの生息場所に足を伸ばせってこと?」
「ああ。手がかりは与えた。これ以上、私の口からは伝えられない」
「上々だよ。サンキュー」
これでようやくこれからの方針に目処が立った。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:41:11.38 ID:WOJJWRsc0
ライダー同士の戦いを避けつつミラーワールドに潜入し、今の契約している
モンスターよりも強そうなミラーモンスターを捜索する。
インペラーのまま新しいモンスターと契約すれば、少なく見積もっても
武装、アドベント、ファイナルベントの三枚もの強力な新しいカードが
手に入るはずである。それに相手を騙して戦闘を優位に運べる利点もある。
「よし、じゃあ久々に遠くまで足を伸ばすとしますか...」
満足げに頷いた満は、足取りも軽やかに走り出した。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:42:01.63 ID:WOJJWRsc0
〜〜〜
東京湾近辺
「ん〜!久々にお台場まで来た〜」
三時間後、士郎のアドバイスに従って都内で海に面する場所へ電車を
乗り継いでやってきた満は、観光したい気持ちを抑えながら早速近辺の
フィールドワークを開始した。
「海の近くなら、虫とかシマウマとかガゼルは住んでないよな?」
満の狙いはそこにあった。
都会に潜むミラーモンスターは大半が陸棲型のモンスターである事を
須藤とのやりとりで情報を得ている。
ということは、これから闘うであろうライダー達の契約モンスターは
ドラゴンや蛇や鳥や猛獣の類が大半を占めているはず。
つまり、海にはまだ誰も知らない強力なモンスターが街中よりも
潜んでいる確率が高い。
ドラゴンやフェニックスよりかは小さくて弱いだろうが、それでも
大きな期待は持てる。
「ライダーを倒せば、いくら相手のモンスターが強くても問題ないよな」
そこに目をつけた満は一旦家に帰宅し、押し入れの中から25000分の1の
大きな地図帳を引っ張りだし、海辺の近くにある人が密集しそうな
場所に片っ端から○をつけ始めていった。
何故なら、ミラーモンスターは人が密集する場所に沢山集まる。
それを身を以て理解していた満はPCの画面を睨みながら、じっくりと
慎重に目当てのミラーモンスターの出現場所を絞っていった。
そして、人が密集し、更に海に面しているある臨海公園を見つけ出し、
今に至るというわけである。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:42:39.80 ID:WOJJWRsc0
時刻は午後五時十七分。夕暮れ時である。
「サメは夜行性だからな...頼むぜ〜サメちゃんよ〜」
そう、満が新たな契約モンスターとして選んだのはサメだった。
海のギャングと呼ばれ忌み嫌われるあの肉食魚である。
何度でも生え替わる鋭い歯とその巨大な身体。まさに強者と言える。
そして、ミラーワールドにはサメ型のミラーモンスターが存在している。
その個体はアビスラッシャーとアビスハンマーと呼ばれていた。
大きな手鏡を持ち、必死になって人がまばらになった臨海公園の
海の近くをうろうろとうろつく満。
「ねーねーママ〜。あの人何やってるの〜?」
「しっ!見ちゃいけません!家に帰るわよ」
すっかり日が暮れた午後七時。汗だくになりながら持参したタオルで
汗を拭い、砂浜で身体を休める満の横を三人家族が通り過ぎていった。
幸せそうに子供の手をつなぐ父親と母親と両親の愛を一身に受けている
その小学生くらいの子供に自然と満の視線は釘付けになった。
(母さん...)
まだ満が小さかった頃、自分を置いて家を出て行った母親。
今となっては顔も思い出せないけど、それでも幼稚園の時には必ず
自分の運動会や授業参観、遠足に参加してくれた優しい母親だった。
思い出したくない過去に無理矢理蓋をした満は、充分に休息を取った
身体を起こし、最後の捜索へと向かった。
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:43:06.99 ID:WOJJWRsc0
これでダメなら、また日を置いて出直すしかないなと思った矢先...
「きゃあああああああ!!!」
自分から見て500m先、海辺を歩いていた先程の親子達のいる方角から
耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
「あなた!あなたぁああああ!!!」
「パパッ!パパァッ!!どこ、どこにいるの〜〜〜〜!!」
悲壮な母子の元へ慌てて駆け寄ろうとする満だったが...
「しゅぉおおおおわああああ!!!!」
押し寄せる波の音に混じったモンスターの泣き声と同時に、泣き叫ぶ
母子の声もパッタリと消えてしまったのだった。
「嘘だろ...おい」
呆然とする満だが、慌ててポケットの中からカードデッキを取り出す。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:43:41.53 ID:WOJJWRsc0
(...なんだよ、こうなることはお前だって分かってたじゃんか!)
ミラーモンスターであってもサメが人間が大好物だって事は分かっていた。
その習性を利用して、ミラーモンスターをおびき寄せようという案を
自分で立案して、実際望んだとおりの展開がやってきた。
ミラーモンスターに捕まった人間の末路なんてもう決まり切っている。
だけど...それでも満は、変身せざるを得ない。
誰かを助けるためではなく、ただ己の利己心のためだけに...
それが無性に腹立たしかった。
無力が罪なら、力は正義か?
その覚悟<こたえ>を持たないまま力を振るう自分は果たして正しいか?
「変身...」
インペラーに変身した満は、躊躇うことなく戦いの場へと身を投じる。
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:44:09.04 ID:WOJJWRsc0
〜〜〜〜
「あ、ああ....」
インペラーに変身した満は、自分から100mも離れたていない砂浜で
二体のサメ型のミラーモンスターが三人の人間を頭から貪っているのを
その目で直視していた。
「やめろーーーーー!」
仲睦まじく過ごしていた幸せな家族の幸せをぶち壊した化け物に
今の憤怒に駆られた状態の満が冷静な判断を下せるわけがなかった。
「Advent!」
「spin vent!」
ギガゼール達と武器を呼び出した満は、猛然と目の前にいる二体の
サメのミラーモンスター達へと立ち向かっていった。
「しゃあああああああああ!!!」
食事を邪魔された怒りか、それとも自らに向けられた殺意に対してか、
二体のモンスター達はうなり声を上げながら迎撃行動に入った。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:45:09.01 ID:WOJJWRsc0
インペラーは二本の剣を持つアビスラッシャーを。
ギガゼール達は胸から突出している二門砲を構えるアビスハンマーに。
それぞれが生き残るために戦いを仕掛けていった。
「うおおおおおおおお!」
まず戦端を開いたのはインペラーだった。
二股に別れたガゼルの角を模した手甲を構え、猛然と斬りかかる。
「ふんっ!」
しかし、アンバランスで扱い辛いインペラーのスピンベントと比べて、
アビスラッシャーの得物はサメ歯状の二振りの大刀だった。
加えて尋常ならざる怪力によって軽々と振り回される二本の大刀は
あっという間にインペラーの体力を削っていく。
「くっ、あああ...」
仮面の下の顔を苦悶に歪めながらジリジリと圧され始める満。
荒削りで力任せの技巧も何もない純粋な暴力。
原始的ではあるが、それが怪物の強さと言える。
(奴の剣をどうにかして一本に減らさなきゃ...)
微かに読めてきた相手の行動パターンの裏を掻き、なんとか致命傷を
避けるインペラーの脳裏には今目の前に立つミラーモンスターの得物を
減らす算段を目まぐるしく考えていた。
なにしろ後ろにはもう一体が控えている。加えて胴体には銃門つき。
ドキュン!バキュン!と大口径の銃口が火を噴き、ガゼル達の
悲鳴が今も絶え間なく聞こえ続けている。
アドベントで呼び出したゼール達がいつまで格上のモンスターを
食い止めてくれるかは分からない。だが、もう限界も近いだろう。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 12:45:48.72 ID:qXNaFJzqo
僕の知ってる佐野満とは違うようだ(T_T)
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:46:03.45 ID:WOJJWRsc0
アビスラッシャーの背中をとり、ちらりと見遣ったその先には司令塔の
ギガゼールを含めた味方のミラーモンスターは後五体しか存在しなかった。
(頼む!耐えてくれ!)
必死に頑張る相棒に念じながら、満はなんとか大刀の猛攻をかいくぐり
勝機を見いだそうと奮戦していた。
だが、アビスラッシャーはそんなインペラーの見苦しい悪足掻きを
嘲笑うかのように手数を増やし、唯一の武装であるガゼルスタッブを
たたき割ろうと一気呵成に勝負を決めに掛かった。
あえて力を緩め、インペラーがギリギリまで踏ん張れる程度の力で
ガゼルスタッブとつばぜり合いをする。
僅かに緩んだインペラーの緊張を感じ取ったアビスラッシャーは
初見殺しの高水圧水鉄砲を超至近距離からインペラーに直撃させた。
「ぐああああああああ!!!」
強化されたライダースーツがなければひとたまりもない必殺技を
モロに受け止めてしまったインペラーは一瞬で砂浜から海の中へと
吹き飛ばされてしまう。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 12:46:37.03 ID:WOJJWRsc0
「がっ...はッ...」
骨に罅が入っていないのが奇跡的な状況の中、満は今にも消えて
しまいそうな自分の意識を辛うじてつなぎ止めていた。
(ははっ...なに、見苦しい悪足掻きしてんだ...俺?)
「もう、いいだろ?」
頑張ったんだ。
今までの自分からは想像もつかないくらい頑張ったんだもん。
化け物を何体も倒した。
見ず知らずの誰かを助けるために、剣を取って戦った。
それでいいじゃないか。うん、立派な最期だ。
「グルルルルルルルル」
満足そうなうなり声を上げながら、満を吹き飛ばした場所へと悠然と
二体のサメの化け物達は歩み寄る。
「違う...」
何が立派な最期だ。
敵の作戦にまんまと引っかかって、無様に吹き飛ばされて逃げ道を
ふさがれて、そんでもってサメの餌らしく食い殺される?
(バカに、されたまま...[
ピーーー
]ない...よなぁ)
最後になるかも知れない。でも、そうはならないかも知れない
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:47:23.16 ID:WOJJWRsc0
(まだだ...まだ、終わって、たまるか...)
唇を噛みちぎり、無理矢理意識を引き戻した満は腰から契約のカードを
引き抜いて、ベルトの横に、そうとはバレないようにそっと隠した。
生きることを諦めて死ぬなんて無様な死に方だけは絶対嫌だ。
無力なままで終わってしまえば、佐野満は一生愚か者のままだ。
「まだだ...もっとだ、もっと近づいてこい...」
既に武器はどこかへ吹き飛び、頼れる仲間達は既に姿を消していた。
孤立無援の絶体絶命の状況の中、満はまだ生きることを諦めていない。
「....来いよ!」
知性のないミラーモンスターにもどうやら自分が侮辱された程度の
事を感じる知能はあるらしい。
先程まで仲良く歩調を合わせていた二体の内、胴体に銃砲が付いた
アビスハンマーが一瞬で自分の前に距離を詰めてきた。
「ぎぃしゃああああああああああ!!!」
絶対的な怪力を発揮し、目の前の獲物をホールドする。
目の前の餌の腕と足を同時に封じたアビスハンマーは、己の勝利は
絶対に揺らがない確信を持って、最後にその巨大な口を開いて...
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:48:31.80 ID:WOJJWRsc0
「喰われてやる...訳ねぇだろおおおおおお!!!」
その声に呼応するように、腰に挟んだたった一枚の切り札が強力な
効果を発揮しだした
「?!?!?!?!?!?!」
何が起きているのかを理解できないアビスハンマーは、一瞬のうちに
カードの中に吸い込まれてしまった。
一秒でも遅れてしまえば、立場はまるで逆のものになっていたが...
「ハハハ!どーだサメ野郎!人間様を舐めるんじゃねぇ!」
サメと人間の知恵比べは、人間に軍配が上がった。
相手が自分の身体を掴む事は予想できていた。
ならば、自分の頭より早く密着する胴体の死角に、カードデッキを挿入する
ベルトの隙間に契約のカードを半分程度隠しておけば、後先考えずに契約のカードに
身体の触れたモンスターが吸い込まれるのではないかと満は仮説を立てた。
そして、その仮説は見事的中した。
「ぐがあああああああああ!!!」
しかし、結局それは一度きりの勝利でしかなく...
「参ったね...。もう、俺にはお前を倒せないよ」
仲間を奪われ、激昂したアビスラッシャーが二本の太刀を構える。
ミラーモンスター達に一矢報いることは出来たが、結局完全な
勝利を収めることは出来なかった。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:49:55.30 ID:WOJJWRsc0
でも、ああ...チクショウ。
あともう少しだったんだけどなぁ...。
走馬燈のように今までの戦いが瞼の裏に蘇る。
(ごめん...)
瞳を閉じた満は、自らの運命を従容と受け入れる覚悟を決めた。
振り下ろされる断頭の刃が首に吸い込まれる。
はね飛ばされたその首からは夥しい程の血が海に流れ出し、その周囲を
真っ赤に、深紅に染める。
頭を失った肉体は、そのままどう、と音を立てて海へと倒れ...
「へっ?」
なかった。
恐る恐る目を開けると、そこには...
「.....」
首に刃を食い込ませながらも、懸命に自分を庇うギガゼールがいた。
アビスラッシャーは鋸を引くように大刀を引き抜こうとするも、それを
させまいと懸命にギガゼールは自分の身体に刃を押しつけ続けていた。
アドベントで呼び出した個体は、既に己の不利を悟りその全ての個体達が
姿を消していたことから、恐らくこの個体が自分と契約を交していたインペラーの
契約獣に違いない。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 12:49:55.62 ID:qXNaFJzqo
調べたら「仮面ライダー龍騎」の
主人公か……道理で次藤洋が
全然出てこないわけだ(^^;
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:50:38.72 ID:WOJJWRsc0
「お前...なに、考えてんだよ...」
呆然と、まるで信じられない光景を直視した満は、徐々に自分の体が
白く白くなっていくことを感じていた。
「ごめん!」
主を庇うギガゼールに背を向けたインペラーは、徐々に自分の身体が
インペラーから何もない空白のブランク体へと戻っていくのを感じた。
「Sword vent!」
手甲型のバイザーにソードベントのカードをベントインする。
「うおおおおおおおおおお!!」
大刀を一本失ったアビスラッシャーめがけて満は刀を投げる。
その刀は、あまりにも脆く目眩ましにもならない攻撃だった。
だが、それだけで充分だった。
五月蠅そうに残りの大刀で棒切れを払いのけたアビスラッシャーは
その瞬間、自分のがら空きになった右側に組み付いてきた満の持つ
カードへと一瞬で吸い込まれてしまった。
後悔する間も無く、ただ一瞬の隙を突かれて...
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:51:07.94 ID:WOJJWRsc0
〜〜〜
「ぶはぁっ!ぜぇ...ぜぇ...」
タイムリミット寸前に海の中に沈み込むことによって、現世への
期間を辛うじて果した満は、重い身体を引きずりながら、砂浜まで
自分の足で歩いていた。
「....」
ポケットの中にはなにも紋章の入っていないカードデッキがあった。
「...あった」
海水に濡れた身体を横たえ、デッキの中から目当てのカードを引き抜く。
封印された二体のミラーモンスターのカードがそこにはあった。
アビスハンマーとアビスラッシャー。
「契約、しなきゃ...」
神崎とのやりとりで得た情報を元に、カードデッキを握りながら、
新しいモンスターと再契約すると念じると、まばゆい光があふれ出した。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:51:38.02 ID:WOJJWRsc0
「これが、俺の...新しい、力...」
デッキに浮かび上がるどう猛なサメを象った紋章。
良かったのだ...これで、良かったのだ。
インペラーのままでは、この先の戦いは絶対に戦い抜けなかった。
だけど...
「なんで、なんでお前...俺のこと庇ったんだよ...」
最後の最後まで、結局心を通わすことなく死んでしまったあの契約
モンスターは、一体どんな気持ちで自分を庇ったのだろうか?
ミラーモンスターは人を食べるだけの獣じゃなかったのか?
だったら、なぜ...
「うっ...ううっ...うわああああああああ!!」
説明の出来ないものが心の中からあふれ出す。
悲しみや情けなさ、自分の無力さが入り交じったそれらの感情が
涙として地に落ちて、吸い込まれていく。
佐野満は、この日かけがえのない相棒を失った。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:52:15.48 ID:WOJJWRsc0
第六話 加速する戦い
「....ううう」
期せずして新しいモンスターと再契約した満は、あの日以来、無気力に
侵されていた。
なにをやるにもやる気が出ない。
戦わなければ生き残れないライダー同士の戦いにさえ、飽きてしまった。
「グルルルルル...」
「シャアアアアアア...」
鏡越しから餌を与えられずに飢えている二体の契約モンスターが
うなり声を上げて、自らの契約者に戦いを促す。
「うるせぇよ...黙ってろ、サメ野郎...」
しかし、満がテーブルの上のシールのカードをかざすと渋々では
あるが、二体の契約モンスター達は鏡の奥へと引っ込んでいった。
あの日以来、須藤からの連絡はパッタリと途絶えてしまった。
刑事の仕事が忙しいのか、他のライダーに倒されてしまったのか。
今となってはそれを確かめようという気すらおこらない。
「ああ...早く、終わってくれないかな...ライダーバトル」
もう、何もかもどうでも良い。
そう思いながら、佐野満は再び布団の中に潜り込んだのだった。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:52:45.91 ID:WOJJWRsc0
〜明林大学〜
佐野満が無気力に心身を苛まれている頃、彼と同盟を結んだ刑事、
須藤雅史は窮地に追い込まれていた。
「くっ、私は生き残るんだ!」
「どんな卑劣な手を使っても私は生き残ってみせるッ!」
10分前、別件の事件の調査の一環としてとある大学に立ち寄った須藤は
自分の背後からあの金属音が聞こえてくるのを確かに聞き届けた。
「へぇ...アンタもライダーなの?」
周囲を見回すと、そこには今時の大学生がくちゃくちゃと口の中に
含んでいた風船ガムを膨らませていた。
「はて、一体何のことやら?」
「とぼけんなよ、これが証拠だ」
好戦的な笑みを浮かべた大学生は鞄の中からデッキを取り出す。
「デッキ、あるんだろ?」
「ふっ...話が早い。場所を変えましょうか」
にらみ合う二人のライダーは、暗黙の了解として人目に付かない場所、
大学内のグラウンドの裏手にある使われていない部室へと場所を移した。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:53:19.01 ID:WOJJWRsc0
「「変身!!」」
窓硝子にカードデッキをかざし、戦いの言葉を告げる。
二人の仮面ライダーは、そのまま鏡の中の世界へと突入する。
「strike vent!」
「へぇ、蟹だけあって武器はハサミって訳ね。だっせぇ...」
「口だけが達者ではないことを祈りますよ!」
まだ見た事のないライダーと直面する須藤改め、仮面ライダーシザース。
シザースの対面には、まるでサイを思わせるような重厚な甲冑に身を
包んだもう一人の仮面ライダーが悠然と佇んでいた。
仮面ライダーガイ。変身者は大学生の芝浦淳。
一目でガイを白兵戦に特化したライダーということを看破したシザースは
距離を取りながらも、ギリギリで相手のタックルをいなせるように一瞬も
警戒を怠ることなく一定の間合いを取っていた。
「なんだよ〜。そんなに警戒しなくてもいいじゃんか」
相手がすぐに肉弾戦を仕掛けてこない理由の見当をつけたガイは
そのあまりの哀れさに冷笑を浮かべながら、一枚のカードを左肩の
バイザーにベントインする。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:01.32 ID:WOJJWRsc0
「advent!」
瞬間、部室の屋根から大きな灰色の塊が地面へと轟音を立てて着地する。
「メタルゲラス。お前の格好良いところ見せてくれよ?」
呼び出したモンスターの頭を親しげに撫でたガイは、目の前に立つ
シザースを指さした。
「アイツを倒せ。出来るよな?」
その一言にメタルゲラスは任せろとばかりに雄叫びを上げ、シザース
めがけて突進を始めた。
「なるほど、どうやら貴方はご自分のペットに自信がおありのようだ」
「advent!」
「ですが、私の相棒も負けてはいませんよ」
強気を崩さぬシザースも己の契約獣であるボルキャンサーを召喚。
APではメタルゲラスに劣るものの、人間をふんだんに与えて強化された
ボルキャンサーの地力も出会った時とは比較できないほど上昇している。
「来いよ。蟹野郎。泡吹かせてノックアウトしてやるから」
「なんだt」
シザースに二の句を継がせぬまま、ガイはその高い防御力を存分に
前面に押し出した白兵戦を仕掛けていった。
13ライダーの中で最弱のスペックのシザースのストライクベントのAPは
たったの1000AP。ガードベントに至っては2000GPしかない。
対照的にガイはガードベントは保有していないが、ストライクベントは
シザースの倍の2000AP。加えてガードベントと同威力と来ている。
普通に考えれば、どう考えてもシザーズの敗北は必至である。
そして、その事実を裏切らない光景が目の前で起きている。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:34.43 ID:WOJJWRsc0
「ぐはっ!」
「ハハハハ。なんだよ手応えなさ過ぎて笑いが止まんないよ」
「なに?なんなのその弱さ?」
初撃の不意打ちのタックルでシザースを吹き飛ばしたガイは、その
ガタイの良さを生かし、シザースのマウントポジションを取った。
「ま、これでアンタも一貫の終わりって訳よ!」
「俺の勝利は揺らがねぇ!」
怒濤の拳のラッシュがシザーズの頭部に襲いかかる。
1発のパンチ力が10tを越える威力を持つライダーの強化された拳の雨は
並大抵のガードでは防ぐことが出来ない暴風雨のように、無防備な
シザーズの頭へと降り注ぐ。
気をつけの体制のまま、両ももに手をつける形で押し倒され、更に
その腕にのし掛かられては顔面をガードすることは不可能だった。
「ひゃ...ひゃめれ...やめれ...ふらふぁい...」
「やだね。ってかお前死ねよ。ライダーバトルってこういう戦いだろ?」
「いや〜俺も一回やってみたかったんだよね。人殺し」
狂気すら感じられるその言葉に、ようやく須藤雅史はこの状況が到底
覆せないことを悟ってしまった。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:11.96 ID:WOJJWRsc0
「おー。お帰り〜。よく頑張ったな、メタルゲラス」
グルルルと満足げに喉を鳴らしながら、ガイの隣にあのサイのような
契約獣が戻ってきた。
「おっ、なんだ蟹野郎の爪をもぎ取ってきたのか。え?俺にくれるの」
ぽいっ。
無造作に投げ捨てられた、見覚えのあるその黄金のハサミは自分の
契約獣であるボルキャンサーの左腕部だった。
主のご機嫌を伺うように、膝を折り曲げちょこんと隣に座った
メタルゲラスを愛おしそうに撫でたガイは...
「悪いけどいらないな。でも...」
ボロボロになったシザースから離れたガイは、見せつけるように
カードデッキからカードを引き抜いた。
「strike vent!」
外からは見えないが、既に頭蓋骨が陥没しているシザースのマスクの
中には溢れた脳がピンク色の鮮やかな中身をはみ出させていた。
「はい。これでおしまい」
メタルゲラスの頭部を模した手甲を呼び出し、ピクリとも動かない
シザースの腹部のカードデッキに突き刺す。
パリィィン!
風鈴が砕けるような儚い音を立てたシザースのカードデッキは、粉々に
砕け散り、それに伴うようにその装甲も音を立てて消えていった。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:37.35 ID:WOJJWRsc0
「うっわ。グッロ...やっべ、気分悪くなってきたわ」
原形を留めないほど変形した須藤の頭は腐ったスイカのような様相を
呈していた。なんとも言えない血なまぐささが更にグロテスクさに
拍車をかける。
「えーっと、これ俺の勝ちで良いんだよね?」
いつの間にか現れた神崎士郎に、ガイはそう尋ねた。
「ああ。そうだ」
無表情に頭を砕かれた死体を見下ろした士郎は短く答える。
「ねぇ、あと何人ライダーは残ってるの?」
「11人だ。引き続きバトルを楽しむと良い」
「りょーかい。んじゃ、後片付けよろしく!」
そう言い残した勝者は敗者を置き去りにして現世へと帰還した。
「....」
神崎士郎も消えかかっている死体を一瞥した後、その姿を消した。
「..................」
こうして、また一人のライダーがその命を落としたのだった。
バトルファイトは終わらない。最後の一人になるまで終わらない...。
仮面ライダーシザース/須藤雅史、死亡 残り11人。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:17.43 ID:WOJJWRsc0
第七話 仲間
満がライダーバトルから遠ざかってから二週間が経過した。
その間にも粛々とライダー同士の戦いは加速し、尊い命が戦いによって
奪われてしまった。
だが、人間は外に一歩も出ないで暮らすことは不可能である。
「そろそろ...確かめないとな。新しい力を」
相棒の死の悲しみが癒えた満は、ようやく自分の手に入れた新たな力に
向き合う決心をつけた。
「行くか...」
二週間もの無断欠勤によって、満はバイト先を全て首になった。
だが、今となってはそんなことは些細なことでしかない。
命がある。身体が動く。そして戦わなければ生き残れない。
いつの間にか腐りきっていた性根が前を見据えていたことに、満は
唐突に気が付いた。
幸い無駄遣いをしなかったお陰で、貯金額はちょっとしたものに
なっていた。
これなら半年は働かなくても、飢え死にすることはないだろう。
そう思うと急に腹が空いてきた。
(よし、まずは腹ごしらえからだ...)
玄関の扉を開け、久しぶりに浴びる日の光に目を細めながら
満の足は自然とある場所へと向かっていったのだった。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:55.68 ID:WOJJWRsc0
〜中華料理店〜
「こんにちは〜」
電車を乗り継ぎ、以前須藤に連れてこられた中華料理店ののれんを
くぐると、そこには机に腰掛け、テレビを見ている店長がいた。
「おう、この前の坊主じゃねぇか。メシ食いに来たのか?」
「はい。給料出たんで食べに来ました」
「そうか!じゃあ早く注文しろよ。沢山作ってやるからな!」
「ありがとうございます!!」
満の笑顔に気をよくした店長は気の良い笑顔を浮かべて、調理の
準備に取りかかった。
「店長〜。注文なんですけど」
「エビチリと野菜炒飯とガツと野菜炒めでお願いします」
「あいよ〜」
ジャッ、ジャッと中華鍋に油を引き、火を通しながら具を炒める
音が厨房から聞こえて来た。
(3品合わせて2000円ぽっきり。しかもボリューム一杯なんだよな)
(早く来ないかなぁ?)
香辛料の香ばしい匂いが店の中に充満する。
客足もまばらな平日の朝10時53分の一人飯というのも、中々乙だよな。
と優越感に浸りながらテレビのニュースを眺めていた。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:27.25 ID:WOJJWRsc0
「へい!お待ち!」
どんっ!と勢いよくテーブルの上に置かれていく料理を見た満は
たまらず口の端から涎を垂らした。
「味わって食えよ。じゃ、食い終わったら呼んでくれ」
「はい!」
厨房に引っ込んだ店長の背中を見送った満は、そのまま脇目も振らずに
レンゲ一杯にエビチリを掬い取り、口の中に放り込んだ。
「ほわぁぁぁぁあ...」
口の中が香ばしい唐辛子と甘辛く味付けされた匂いで満ちた。
舌がビリビリするほど痺れているのにも拘らず、エビの甘さが辛さで
打ち消されないように味付けされたエビチリは病みつきになる旨さだった。
コップの水を一口含み、今度は豚の内臓と野菜炒めに箸をつける。
噛みきれないほどの弾力を持つ豚の胃袋を噛みきれるように包丁で
刻まれたその切れ目から、人参、ターサイ、青梗菜、ほうれん草の甘みが
肉の隅々にまで行き渡っている。
「で、エビチリをまた一口含んで、と...」
辛さと甘さのハーモニーを楽しむように、満は夢中で食事を楽しんだ。
鏡の向こうから恨めしそうに自分を睨み付ける二体の契約モンスターの
抗議の視線もなんのその、あっというまに三食全てを完食したのだった。
「店長〜。お会計お願いしま〜す」
「はいはいはい。えっと三品で2000円ね」
「じゃあ2000円丁度でお願いします」
「はい。確かにお預かりしました。また来て下さいね〜」
「ごちそうさまでした〜」
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:54.13 ID:WOJJWRsc0
美味しい食事に舌鼓をうった満は、そのままあてどなくブラブラと
東京の街中を歩き回っていた。
これからのこと、父親との確執、そして須藤との同盟のこと。
「あれぇ?なんで電話に出ないのかなぁ?」
この前手渡された紙に書いてあった須藤の携帯電話に電話をかける。
だが、既に須藤はライダーバトルに敗れて死んでいるため、いくら
電話をかけても、鏡の向こうの世界に置き去りにされている携帯に
つながることは永遠にない。
「...考えたくないけど...やられちゃったのかな?」
最後に会った日に須藤が漏らした一人の男の存在。
浅倉威、世間を震え上がらせる凶悪連続殺人犯にして、このライダー
バトルの大本命と言える実力者であれば、赤子の手を捻るよりも容易く、
スペック差のあるライダーを葬るのは朝飯前だろう。
「...一人じゃ危ないよな」
ポケットの中に仕舞っているデッキの中には5枚の強力なカードが
眠っている。
ソードベント、アドベント二枚、ストライクベント、ファイナルベント。
危険を冒しただけあり、手に入れた新たな力はかなり凶悪な
攻撃力を誇っていた。
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:28.91 ID:WOJJWRsc0
(須藤さんが当てにならない以上、友好的なライダーを探すしかない)
まだ戦いは序盤だが、そのうち何人かがきっと脱落するだろう。
持てる枚数の制限が各自に割り振られている以上、相手の持つカードを
全て使い切らせれば自然と勝ちは転がり込む。
まだ須藤以外のライダーがどう出方を決めているのかは分からないが、
少なくとも早い内に手を組めるに足りる相手を早急に見つける必要が
あるのは確かだ。
キィィィィィン...キィィィィィン
「行くか...ミラーワールドに」
運が良ければ、モンスターや自分を狙うライダーには遭遇せずに済むし、
逆に運が悪ければ、それらに見つかって戦わざるを得ない。
覚悟を決めた満は、人混みから離れた駐車場で変身した。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:54.62 ID:WOJJWRsc0
〜街中〜
変身を終えた満が、耳障りな金属音を頼りに道路を走っていると
なにやら金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
(誰か戦ってるのか?)
音のする方向に足を向けると、そこには先客がいた。
灰色の分厚い装甲に身を包んだサイのようなライダーと、虎のように
全身がバネのような筋肉に包まれた白い甲冑を着込んだようなライダーが
互いの獲物を振りかざして死闘を繰り広げていた。
(へぇ...結構強いなぁ...)
一進一退の攻防というよりかは、虎のようなライダーが劣勢のサイの
ライダーを弄んでいるような感じがする戦いではあるものの、この際
盗み見も辞さないという態度で満は息を潜めて二人の戦いを覗こうとした
だが、そうそう事が上手く運ぶ訳はなく...
「?!」
空を切る弦の音がどこからか聞こえてきた。
満がそれを矢が放たれた音だと認識したとき、自分のすぐ傍の
道路のアスファルトに三本の矢が突き刺さっていた。
(どこだ?!どこにいる?)
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 12:59:21.10 ID:WOJJWRsc0
もし、運が悪かったら..確実に今の攻撃で自分は仕留められていた。
弾かれたように立ち上がった満は、咄嗟の判断で近くに立っていた
ビルの中へと身体をぶち当てて転がり込んだのだった。
このまま外にいれば好きな時に相手に隙を晒し続けるという地の利を
取られるというハンデを背負わなくてはならない。
ここは一旦ビルの中で体勢を立て直し、なんとか相手をやりすごす。
そう決めた満は階段を駆け上がっていった。
「....」
だが、これはライダー同士のバトルロイヤルでもある。
自分の見た光景が絶対的な正しさを持っているとは誰も断言は出来ない。
最善と思って取った行動が間違っていたと言うこともままある。
満の後を追うように、また一人、ビルの中へと黒いマントを翻した
ライダーは音もなく潜入に成功したのだった。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:06.08 ID:WOJJWRsc0
〜ビルの中〜
「はぁ〜〜〜〜ッ....助かった〜」
10階建のビルの三階の空きテナントに素早く身を隠した満は、遮る
ものの何もない部屋に唯一残された机の下に潜り込んだ。
貫通力のある矢にどれだけこの机が耐えられるか疑問だが、少なくとも
相手がビルの屋上に陣取っていれば、狙いを修正するのに何分かの時間は
稼げるだろう。
だが、
カツーン、コツーン...
微かだが、誰かが階段を登る音が聞こえてきた。
間違いない、新手のライダーかモンスターだ。
「......」
デッキから一枚のカードを引き抜く。
雑居ビルのような小回りの利かない場所、それも階段を背中にして
二本の大剣を振り回すような危険な真似は出来ない。
故に満は小回りの利かない場所で小回りの利く立ち回りが出来る
ストライクベントをアビスバイザーにセットした。
「strike vent!」
「来い...部屋に入ってきたら打ち抜いてやる」
頭の中にアビスバイザーを通じて、今自分がベントインしたカードの
情報が流れ込んでくる。
「よし...」
アビスバイザーもアビスクローも両方とも先端から高水圧の水弾を
連射可能な遠距離対応武装である。
照準をたったひとつの部屋の入り口に合わせる。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:42.87 ID:WOJJWRsc0
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1
足音が消えた。ドアノブが回転するッ!
(今だ!喰らえッ!)
右足を前に出し、拳を扉めがけて一直線に突き込む!
その瞬間、アビスラッシャーの頭部を模した手甲はその射出口から
大量の高圧水流を放った。
ダムの決壊を思わせるような暴流は、扉を開いて入ってこようとした
黒ずくめの仮面ライダーを今し方上がってきた階段の下へと叩き付けた。
「やったか!?」
あそこまで凄まじい水流をモロに受けたのだから、無傷という訳には
いかないだろう。なにせすぐ後ろは階段である。運が悪ければ受け身
すら取れずに壁に頭を叩き付けて死んでいるかも知れない。
人を殺したかもしれないという恐怖感が満の中にある慎重さを
忘れさせてしまったかのように、あれほど部屋をも出ようとしなかった
満は、相手の状態を確かめるために階段を降りようと...
その瞬間、遅ればせながら満は今の自分が押し流した黒いライダーは
幻だったと気が付いた。
「Nasty vent!」
そう聞こえた相手ライダーのバイザーの電子音声と共に、至近距離から
立っているのも困難なほどの超音波をアビスは浴びせられた。
「ううっ、なんだよ!これ...くそ、立てねぇ...」
「はぁッ!」
してやられた...
階上の部屋の利点を逆手に取られてしまった。
アビスの誤算は姿の見えないライダーが一人だけだと信じたことだ。
確かにそれは半分正解だった。
階下から、階上から物凄い勢いで降りてくる二人分の足音...
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:22.32 ID:WOJJWRsc0
「残念だったな。ここで終わりだ」
「ぶ、分身って...あんまりだろ...」
漆黒の槍を携えた同じ姿の二人のライダーは、首筋とカードデッキに
それぞれその切っ先を向けていたのだった。
仮面ライダーナイト。蝙蝠型モンスターと契約したライダーの一人だ。
「ま、待ってくれ!俺はアンタと戦うつもりはないんだ」
「仮にそうだとして、俺がお前を助けるとでも?」
超音波のせいでまともに立てないまま、仰向けに転がっている眼前の
ライダーを冷ややかに見下したナイトは、そのまま無感情に槍を振り上げ
トドメを刺すべく大きく振りかぶった。
「いやだぁあああああああああ!」
誰でも良い。誰か俺を助けてくれ!俺はこんな所で殺されたくない!
「うわああああああああああ!お願いだぁあああああああ!!」
みっともなくジタバタと床でのたうち回りながら叫んでいると、また
新しいライダーが階段を登ってくる音が聞こえた。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:58.82 ID:WOJJWRsc0
「出してくれぇ!出してくれぇえええええ!」
「俺は帰らなくちゃ行けないんだ!俺の世界に!」
「嫌だぁああああああああ!出して!出してえええええええええ」
「五月蠅い!黙れ」
「おい、何をやっている!!」
「邪魔をするな手塚!俺はコイツにトドメを刺す!」
「やめろ!恋人が悲しむぞ!彼女はそんなお前を認めないッ!」
「...ッ!」
みっともなく悪足掻きをするアビスにトドメを刺そうとしたナイト
だったが、階段の方から聞こえて来た声...どうやらナイトの仲間の
忠告に、苛立ちながらも渋々その大きな槍を下ろしたのだった。
「甘いな手塚。あのバカに影響されてお前もバカになったのか?」
「ああ。俺は、人の心を失いたくない」
「最後まで、俺は人として自分の運命に抗ってやる」
「...興がそがれた。俺は帰る」
見ず知らずの、それも明日にはその命を奪い合う相手になるかも知れない
ライダーを助けようとする友の甘さを唾棄すべきものだと吐き捨てた
ナイトは階段を降り、その姿をくらましたのだった。
「おい、立てるか?」
「ありがとう...ありがとう....ございます。ッうっぅっ....」
「立て。もうタイムリミットが迫っている」
「はい...はい...」
初めてライダーに命を狙われた恐怖心によって腰を抜かしてしまった
満は手塚と呼ばれたライダーに担がれながらミラーワールドを這々の体で
抜け出すことに辛うじて成功したのだった...
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:25.87 ID:WOJJWRsc0
〜花鶏〜
「いらっしゃ〜い!おや、アンタ見ない顔だねぇ」
「はい...すいませんすいません」
「ちょっと真司君。アンタこの子になにしたのさ」
「してませんって!人聞きの悪いこと言わないで下さいよぉ!」
ミラーワールドから現実世界に戻った満は、隣にいたライダー...
変身を解いた彼は自らを手塚海之と名乗り、近くにあったタクシーに
満とともに乗り込んだ。
「あ、あの...どこに行くんですか?」
「知り合いの働いている喫茶店だ。紅茶とコーヒーが特に美味い」
10分後、花鶏という名前の古ぼけた喫茶店の前にタクシーが止まり、
今に至るというわけである。
「手塚ぁ!お前からも何か言ってくれよ〜」
「城戸、俺からも特に言うことはない」
席に着いた自分の横で二人の男が騒がしく揉めている。
花鶏のマスターに席を案内されてから一分も立たないうちに、今度は
新しい...様子からして常連客のように見えた...一人の青年が慣れた
様子で店のカウンターに腰掛けた。
虚ろな瞳で誰彼構わず謝り続ける満をダシに、顔馴染みの常連客を
からかう女店主に噛みつく青年は、自分より少し年上のようだった。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:57.50 ID:WOJJWRsc0
「で?何か注文するのかい?」
「えーと、じゃあミルクティー二つとカフェオレ一つで」
「はいはい。じゃあちょっと待っとくれよ」
城戸、と呼ばれた青年の注文に応えた女店主はコーヒーメーカーの
スイッチを押し、鼻歌交じりに紅茶の茶葉を探し始めたのだった。
「初めまして?で、いいんだよな?」
「えーっと、何さんでしたっけ?」
「俺、佐野満です。21歳のフリーターです!」
「お、おう...佐野さんね」
「俺は城戸真司。23歳のジャーナリスト見習いだ」
「今はOREジャーナルってところでネット記事を書いてたりするんだ」
何を考えて良いのか分からない今、相手の気持ちを考えて先読み
してくれる真司の馴れ馴れしさが今は無性にありがたかった。
タクシーの中で聞かされたとおりの人なんだな。と満は目の前の真司の
ひたむきで裏表のない、その真っ直ぐさに感動を覚えていた。
真司も自分と同様にライダーである事には変わりないが、他のライダーと
変わっているのは、モンスターを倒す為だけにライダーの力を振るう
唯一の非戦的なライダーだと言う点に尽きていた。
自分と同じ位の年齢で、しかも神崎士郎によって凄惨な殺し合いに
巻き込まれたにもかかわらず、なぜ彼は今の自分のように憔悴せずに、
持ち前の明るさを失っていないのだろう?
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:23.54 ID:WOJJWRsc0
(この人だったら...信じられる、かもしれない)
「はい。おまちどおさま」
女店主が見計らったかのように、ミルクティーとカフェオレを盆に載せて
三人の目の前におき始める。
「おっ、来た来た。ここのミルクティーは甘くて良い味なんだ」
「そうよ〜。隠し味に山羊のミルクを入れてるからね」
「熱が冷めないうちにグイッと飲むのがおすすめよ〜?」
手を擦りながら、甘い香りのするミルクティーに口をつける真司。
「あっち!あっちぃ!ふー!ふー!」
舌を火傷しながらも、どこか楽しそうに、美味しそうにミルクティーを
飲むその姿に、いつの間にか満は笑みを零していた。
「凄いっすね。城戸さんは」
「え?なにが?」
「ライダー同士で殺しあってるっていうのに、明日死ぬかもしれないのに」
「今の城戸さん見てると、まるでそんなのを感じてない風に見えますよ」
「あー...まぁ、確かにそうかも知れないなぁ」
湯気を立てるミルクティーをフーフーしながら冷ましている満を
手塚は満足そうな微笑みを浮かべながら見ていた。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:55.10 ID:WOJJWRsc0
「俺だってそりゃ怖いさ。だって他のライダー話聞いてくれないんだもん」
「イヤミな悪徳弁護士、刑事のくせに悪い奴、極めつけは連続殺人犯」
「考えてもみてよ?折角人を助けるための力がこの手にあるんだぜ?」
「ミラーモンスターなんて化け物に襲われる人も増えていくし...」
「だったらさ、俺はこの力を人助けのために使おうと思ったんだ」
真司の愚痴は留まることを知らなかった。
願いを叶えるために、誰かの命を奪い合うライダー同士の戦いなんて
間違っている。だけど、一部の願いを除き、ライダーがそれぞれ抱いている
願いの価値を一方的に決めて良いものなのだろうかと悩んでいる。
神崎士郎の都合によって引き起こされた人殺しの戦いにおいて、
そこまで出会った人達のことを深く考えて戦えるなんて...。
(勝てねぇよ...本当にこの人ならって、思っちまったじゃんか...)
ただ流されるままの人生を過ごしてきた満にとって、真司の信念は
到底直視できないほどのまばゆい光を放っていた。
「蓮はさ、あっ、蓮っていうのは俺の...なんていうかダチでさ」
「偉そうな奴なんだけど、本当はすっげぇ優しい奴なんだ」
「アイツの願いは、事故で昏睡状態の恋人を元に戻すことなんだよ」
「あ、あとは美穂っていうじゃじゃ馬娘がいてさ...」
「アイツ、死んじゃった家族を蘇らせるために戦ってんだ」
「佐野君知らないかな?白鳥みたいなライダーなんだけど...」
「いえ、知らないです...」
「そっかぁ...アイツ神出鬼没だからなぁ。また男騙してんのかなぁ」
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:04:29.71 ID:WOJJWRsc0
かつて、監督が自分に教えてくれたことが蘇る。
『だけどな、優しさだけは忘れちゃいけないんだよ』
『打算なく誰かを信じたり、誰かを助けたりするのが一番難しいんだ』
『もし、お前の前にそんな人が現れたら躊躇わずに力を貸してやれ』
『ま、そんなお人好しのことをバカって言うんだけどな。がはは』
打算抜きにこの人なら信じられるという直感は間違っていないと、
今なら確実に断言できる。今がまさにその時ではないのだろうか?
「あ、あの...城戸さん。俺を城戸さんの仲間に入れて下さい!」
そう思った瞬間、満の口は自然とその言葉を出していた。
「えっ?お、おい!聞いたか手塚?」
「ああ。お前の仲間になりたいって彼は口にしたようだ」
信じられないように自分を見つめる真司に、満は今まで自分の心の中に
抱えていた暗い何かを吐き出し始めた。
「俺、...良い暮らししたいからって理由でこの戦いに参加したんです」
「バトルに勝ったら、お前の願いが必ず叶うからって...」
「で、でも...現実はそんな甘くなくて...」
「何度も死にかけて、城戸さんみたいに誰かを助けられなくて...」
「誰かを殺さなきゃ生き残れないのに、殺したくない自分がいるんです」
「でも...怖くて、やっぱり...怖くて...」
先程の恐怖が蘇る。槍を突きつけられ、あと一歩でカードデッキを
破壊されて殺される自分の姿が一向に消え去らない。
それは、あくまでも一人で戦い続けたときの末路かも知れない。
だが二人なら?三人なら?
きっとこの戦いを止められるかも知れない。それどころか神崎士郎を
とっちめてライダーバトルを終わらせられるかも知れない。
その可能性を城戸真司は信じさせてくれた。
今の佐野満にとって真司の言葉はまさに天啓に等しかった。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:05:07.29 ID:WOJJWRsc0
「よっし!アンタの気持ち、分かったよ」
「これからよろしくな。佐野さん!」
満の手を取った真司はその手を両手で包み込むように握った。
「はい、これからよろしくお願いしま...」
満が真司の信頼に応えようと、その手を固く握ろうとしたその瞬間...
「おい、これは何の茶番だ、城戸?」
先程の恐怖が一気に蘇った。
ガタンッ!と音を立て椅子からずり落ちた満の視線の先には...
「蓮、お前なぁ、空気読めよ。佐野さんがびっくりしちゃったじゃんか」
「おーい、大丈夫?って...どうした?」
くぐもった声だが、聞き間違えるはずがない。
何故ならそこにいたのは、先程自分を平然と殺そうとした『敵』だった。
「ぁ...アンタは...」
怪訝な表情を浮かべながらも、自分を見て腰を抜かした男を見て、
仮面ライダーナイトの変身者、秋山連は佐野満を先程自分が殺し損ねた
相手だと一瞬で看破した。
「お前、どうしてここにいる?」
「ちょ、ちょっと待てよ蓮!今この人が俺達の仲間になってくれるって」
「そうだ。俺が城戸とお前に引き合わせるために連れてきた」
「お前ら...」
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:05:36.38 ID:WOJJWRsc0
二人の仲間達のあまりのお人好しに頭を抱えながらも、蓮は再び
自分の目の前に立った殺し損ねたライダーにどう接すれば良いのかを
考えることはなかった。
「おい、貴様。デッキを出せ。さっきは殺し損ねたがそうはいかない」
「丁度良い機会だ。中々強力なモンスターも従えているようだしな」
「は、話が...違う」
偉そうな奴なんだけど、本当はすっげぇ優しい奴?
それが本当なら、今目の前の男は一体何なんだ?
(い、いや...城戸さんが俺に嘘つくメリットはないはずだ)
(でも...コイツには背中を預けられない。背中を見せたら殺される...)
ズリズリと床を這うように逃げるしか出来なかった自分が恨めしい。
今は虚勢を張ってでも、目の前のライダーに真っ向勝負を挑まなければ
ならない時だというのに、自分は怯えてしまった。
命惜しさに、目の前の信用できる人に頼ろうとしてしまった。
それが自分にとって致命的な甘さと気が付いてしまった。
「おい!蓮!お前なんて事言うんだよ!」
「すいません...本当にすいません...」
「大丈夫?って...」
蓮を押しのけ、床にへたり込んだ真司の手を満は取ることはなかった。
本当は払いのけたかったが、こんな自分のことを敵とは言え、真剣に
案じてくれた優しい人をこれ以上満は拒絶したくなかった。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:06:04.50 ID:WOJJWRsc0
「待ってくれよ!まだ蓮とは一回しか会ってないんだろ!?」
「俺だって蓮と最初に出会った感じは君と同じ感じだって」
「な?そうだよな?蓮?」
真司の懸命な説得に、しかし秋山蓮はこれ以上ないほどの冷淡な笑みを
満と真司に向け、あろうことかこう言い放ったのだった。
「ふん。俺はお前と違って人が悪いからな」
「それに、お前は殺そうにも殺せないほどしぶとかったからな」
この時、満の心の中にあった蓮を信用しようという気持ちは粉々に
粉砕されたのだった。
「城戸さん、そこにいる男は...貴方達とは違う存在だ」
「ためらいなく、冷酷に人を殺せる本物のライダーだ」
絞り出すように、正鵠を突いた言葉を絞り出した満はそのまま扉を
押し開けて、花鶏から出て行った。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:06:48.96 ID:WOJJWRsc0
「泣くな...泣いちゃダメだ...」
重い足を引きずりながら、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら必死に
満は泣き出しそうになる自分を押さえ込んでいた。
「戦わなきゃ...一人でも戦い抜かなきゃ...」
心の中が黒く濁り始める。
何かが変わりそうな今日が、結局昨日と変わらない一日に過ぎない事に
落胆を隠せない、否、失望と無気力が身体を全て覆い隠した。
家を放り出されたときに吐き捨てた言葉が口をつく。
「もういいや。誰かを信じた俺がバカだったよ」
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:08:23.96 ID:WOJJWRsc0
第八話 見えざる敵
「でぃやああああああああ!!」
「ぎぇえええええええ!!!」
城戸真司との後味の悪い別れから三日後、佐野満の姿はミラーワールドの
中にあった。
今日の相手は蜘蛛型のモンスター、ソロスパイダーと蜂型のモンスター
バズスティンガー・ビーの二体だった。
耳障りな金属音を頼りにモンスターの潜伏場所に近づくと、目の前の
図書館の入り口の硝子から人型の蜘蛛モンスターが子供達に狙いを
つけていた。
「変身!」
不自然に見えないようにガラスにデッキをかざし、ミラーワールドに
飛び込んでいく。
ライドシューターが図書館前に停車したとき、二体のミラーモンスターは
図書館の内部へと逃げ去っていくのが見えた。
「Sword vent!」
二対の鮫の鋭い歯を模した大刀を呼び出して、臨戦態勢を取る。
バイザーの左腕に持つ刀を逆手に、右手の刀は順手に持つ。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:08:52.62 ID:WOJJWRsc0
(この図書館は二階建だから...隠れる場所は本当に少ない)
(俺がモンスターなら...)
ちらりと見えたバズスティンガーの得物は弓だった。
天井近くまで届きそうな本棚の上に陣取ってまともな狙撃が出来るとは
思えない。
(決めた。二階から攻めていこう)
アビスは意を決して、近くにあった階段に足をかけた。
入り口の案内板には二階は休憩室と喫煙室しかないと記されている。
「....」
いた!
階段の手すりの死角、下から見上げて見えない場所にソロスパイダーが
その姿を隠していた。
口から吐き出す粘着質な糸を右手の刀で盾代わりに防御する。
腕か足にひっついてしまえば、蜘蛛の巣に引っかかった哀れな虫の
ように糸をたぐり寄せられて頭から啜られてしまうだろう。
「しゃあああああああ!!!」
「喰らうかよ!」
ブッ!ブッ!ブッ!と散弾銃のように口内で丸めた蜘蛛の糸の塊を
銃のように鋭く狙いをつけて連射するミラーモンスター。
足場の不安定な階段に陣取るアビスだが、その段差を美味く利用し、
糸の弾丸の軌道を読み切り、攻撃の手が緩んだその隙にアビスは一気に
階段を強化された脚力で階段を登り切る!
「ぎゅえええええええ?!」
アビスはソロスパイダーをガラスの自動開閉ドアに押しつけ、全力で
その身体へと突進を仕掛けた。
ドアのガラスをブチ割ったライダーとモンスターは、出口が一つしかない
休憩室へとなだれ込んだ。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:09:31.27 ID:WOJJWRsc0
「うおおおおおおお!!」
蜘蛛の糸が絡まった右手の刀を体勢が整っていないソロスパイダーに
叩き付け、その結果としてソロスパイダーの左足は半分ちぎれかけた。
「ぎしゃああああああああ!!!」
身動きが取れず、足から血を撒き散らしたソロスパイダーは必死に
目の前のアビスから逃げようと必死になった。
「Advent!」
床に倒れ、悶え苦しむソロスパイダーのもう一本の足を今度は失敗
することなくたたき切ったアビスは容赦なくアビスハンマーを召喚した。
「しゃあああああああ!!」
約10日ぶりのご馳走にアビスハンマーは歓声を上げながら貪り始めた。
「ぎぃっ?!ぎぎぎっぎぎぎぎぎ〜〜〜〜〜〜!」
物凄い悲鳴を上げながら頭を貪られるソロスパイダー。
「そこで満足するまで喰ってろ」
吐き捨てるように契約獣に声をかけた満は、階段を注意深く降りた。
そして制限時間が迫る中、図書館の中に未だに残っている蜂型の
ミラーモンスターを探し始めた。
(カードは残り3枚。だけど負ける気はしない)
自動ドアの前に立つ。自動ドアはアビスを迎え入れた。
「Advent!」
もう一枚のアドベントをバイザーに挿入する。
「....」
背後からもう一体の契約獣アビスラッシャーが姿を現す。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:10:08.18 ID:WOJJWRsc0
「いいか。俺の前を歩け。お前は盾だ。俺の盾代わりになれ」
言葉が通じたかどうかは理解できないが、うなり声を上げたもう一体の
契約獣は特にその命令に逆らうことなくゆっくりと前を歩き出した。
「狙えるもんなら狙ってみろよ...」
アビスラッシャーの先導を注意深く見守り、歩を進めていた満は、
ここで唐突に自分の背後ががら空きであることに気が付いた。
確かに50mも離れていないところにはモンスターが身を隠すのに絶好の
本棚がいくつも並んでいる。だが、目の前の契約獣は館内にいるであろう
モンスターの気配を察知することはなく、ズンズンと前に歩を進める
ばかりだった。
「?!」
自分が無防備な背中を敵に見せている事に気が付いたアビスは、まるで
弾かれたように近くにあった大きなコンクリートの柱に身を隠した。
「アビスラッシャー!後ろだ!」
その声にくるりと身体の向きを変えたアビスラッシャーの胴体に
4本の矢が狙い誤ることなく次々に突き刺さっていった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
口、右腕、左腿、鼻。
もし自分がアビスラッシャーの後ろにいたままだったら、今頃ああ
なっていたのは間違いない。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:10:50.38 ID:WOJJWRsc0
「出やがったな!」
床で悶えるアビスラッシャーの右腕から刀をもぎ取ったアビスは
自動ドアの前に陣取る弓を構えたバズスティンガーの元へと猛然と
かけ始めた。
縦横無尽に狙いをつけられないように、軽快なフットワークで
どんどん間合いを詰めていく。
開け放たれたドアの真ん前に陣取る弓を構えたバズスティンガーは
その場から一歩も動けない。なぜなら一歩でも下がれば自動ドアが閉まり、
そのドアのガラスに向かって弓を射ようというのなら、ガラスの厚さに
弓の軌道がずれるのは明白だったからだ。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!
計六発の高水圧の不可視のかまいたちがアビスバイザーの口から
発射される。
「ぎっ?ぎっぎぃいいいい!」
そのうちの四発がバズスティンガーを捉える。
唯一の武装である弓の弦を切られたバズスティンガーはたまらず
逃走を選んだ。
素手で戦うには目の前の敵はあまりに手強いと判断した上での懸命な
撤退だった。ただ、その判断を下すのが些か遅れた事が、運命の分かれ目と
なってしまった。
「逃がすかよ!」
「ぐがあああああああああ!!」
アビスの叫びに応じるように、身体から矢を引き抜き、怒りに燃える
雄叫びを上げながらアビスラッシャーがバズスティンガーに食らいつく。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:11:22.86 ID:WOJJWRsc0
「Strike vent!」
右手にアビスクローが装着される。
「発射ァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
膨大な水が高水圧により一条の光線のように束ねられ放たれる。
それはレーザーガンのように真っ直ぐに、狙いを外すことなく
バズスティンガーの心臓を貫き、その勢いで胴体を真っ二つにした。
爆散するミラーモンスターの身体から魂のような塊が立ち上る。
「〜〜〜〜〜〜♪」
アビスラッシャーは機嫌良くそれを空中でキャッチし、口の中に
突っ込んでムシャムシャと食べ始めた。
もし、あの光がミラーモンスターが今まで食べた人達の命の輝き
だとしたら?
そんな可能性が、ふと満の中に湧き上がってきた。
「お前らなんか...ずっと鏡の中に閉じこもってりゃ良いのに」
嫌悪感をあらわにしたアビスは、自分の身体から立ち上る粒子を認め、
自分に残された時間がないことを悟り、ミラーワールドから立ち去った。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:11:50.62 ID:WOJJWRsc0
〜〜
二体のミラーモンスターとの激闘を制した満は、図書館の近くの
ラーメン店に足を運んでいた。
10人も入れば満員になるこじんまりとした店内は、昼前という
こともあってか、誰もいなかった。
「醤油ラーメンセットでお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってな」
ジュウジュウと音を立てる厨房をボケッと見ながら、満はこれからの
自分の身の振り方を真剣に考えていた。
(城戸さんと手塚さんは信用できるから、置いとくとして)
(他の連中がどういう動きをするかが分からないんだよな...)
(秋山蓮と須藤さんと後はサイと虎と白鳥を入れてこれで8人)
(ライダーは13人いるから、俺が知らないのはあと5人か...)
ライダー同士の戦いに身を投じてから、一ヶ月が経過した。
怒濤のような日々だったが、それでもまだ戦いは終わらない。
今日まで一体何人のライダーが死んでしまったのだろう?
ライダーバトルの終焉の日まで果たして自分は生き残れるのだろうか?
(くっそ、あの時ライダーの情報を交換しとけば良かった)
(あ、でも...あの時城戸さんは悪徳弁護士って言ってたよな?)
そして連続殺人犯、おそらく浅倉威と会わせるとこれで11人。
(絶対に、残り二人と浅倉には会わないように注意しなきゃな)
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:12:18.26 ID:WOJJWRsc0
「お客さん!お客さん!ラーメン出来てるよ!」
「あっ、はい!すいません」
店主の怒鳴り声に我に返った満は、湯気を立てるラーメンと餃子を
だらしなく顎を動かしながら口に運ぶ。
あの中華料理店の餃子と比べて、ここの餃子はまずいな。と率直な
感情を抱いた満は、ラーメンのスープでごまかしながら、生臭さのする
餃子を食べ終えた。
「ラーメンは美味しいのになぁ」
「なんか言ったか?」
「い、いえ。何にも」
じろりと自分を睨めつける店主にラーメンセットの代金を支払った
満はそそくさと店を出て行った。
「美味しいとは、言えなかったなぁ...」
胸焼けのする胸をさすりながら、満はラーメン店を後にした。
「あー。居た居た。みーっけ」
自分が今まで何をしているのかを全て見張られているということに
気が付かないまま...
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:12:56.25 ID:WOJJWRsc0
〜北岡弁護士事務所〜
「はい。こちら北岡弁護士事務所です」
「ああ〜。お待ちしておりましたよ。さ、こちらへどうぞ」
昼下がりの高級住宅街に事務所を構える若手のやり手弁護士、北岡秀一は
今日も忙しく働いていた。
「いや〜。北岡先生の弁護とあれば私も安心出来ますな」
「いえいえ、私なんて皆さんから見ればまだひよっこですよ」
「またまたご謙遜を〜。では、打ち合わせを始めましょうか」
「ええ」
(はぁ...子供をひき殺して良心の呵責ってのはないのかね?)
(こーゆー大人のことを人でなしっていうんだよね)
にこやかな笑みを浮かべながら、秀一は内心で目の前の男をそう評し、
テーブルの上に事前にまとめておいた今回の裁判の資料を並べる。
今回の裁判で弁護するのはそれなりに名前がある企業の幹部だった。
大事な会議に遅れそうになり、制限速度を大幅にオーバーして愛車を
運転している中、運悪く曲がり角から飛び出してきた子供を跳ね飛ばして
しまったのだった。
この事故で命を落とした子供はまだ10歳だった。
時速60kmを超える速さの鋼鉄の塊に直撃された子供の身体は宙を舞い、
そのまま頭からアスファルトに突っ込んでしまい、即死。
当然100%目の前の男が悪いのだが、問題はこの男の性根だった。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:13:39.96 ID:WOJJWRsc0
「私は全く悪くないんですよ。注意せずに飛び出したあのガキが悪い」
「信号は点滅していたとは言え、青だった。証拠だってある」
「ええ。ばっちりドライブレコーダーに写ってましたね」
「流石次期社長。クラクションも鳴らして注意を促してる」
自分の罪を認めるどころか、殺した人間の命を無価値と断じる傲慢さは
悪徳弁護士を自認する秀一の気分を害するには充分だった。
この男の年齢は43歳。まだまだ働き盛りの出世頭だ。
だが、信じられないことにこの男は一児の父親だった。
我が子が殺されたとき、相手の親が自分みたいな白を黒にするような
悪徳弁護士に弁護を依頼し、あの手この手で無罪を勝ち取られる気持ちを
想像できないのだろうか?
(ま、俺も人でなしには違いないけど、お得意様だからねぇ...)
(2000万前払いされたわけだし。本気で取りかからせて貰いましょうか)
子供を失った親には悪いとは思うが、これが自分の仕事なのだ。
弁護士としてこういう事件は既に6件ほど担当しているから、相手の
出方や反論パターンも全てにおいて完璧に対応できる。
シニカルな笑みを浮かべた秀一は今回の裁判も楽勝だなと高を
くくった。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:14:11.13 ID:WOJJWRsc0
その後、二時間の綿密な打ち合わせにより、自分の勝利を確信した
依頼人は意気揚々と秀一のオフィスを後にしたのだった。
「ふーっ。あー胸くそ悪くなるなぁ」
「ゴロちゃん。ダージリン入れてよ」
玄関の扉を乱暴に閉めた秀一は、近くに居た秘書である由良吾郎に
お気に入りの銘柄の紅茶を淹れるように頼んだ。
「先生、先程芝浦商事の息子さんからお電話が入っていました」
「なに?あのクソガキから電話?用件何よ?」
手際良く紅茶とクッキーをテーブルの上に並べる吾郎は、数分前に
掛かって来た電話の内容を一言でまとめた。
「明日ライダーを倒すから、手を貸してほしい。だそうです」
吾郎が言うにはこちらの方で倒す相手の情報は全て掌握しているので、
万全を期すために自分の力を借りたいと言っていたらしい。
秀一としては、いけ好かないクソガキの命令なんか聞いてたまるかという
腹づもりだったが、護衛料として100万円もの前金を貰ってしまっている
以上、無碍に護衛対象の依頼を突っぱねるわけにはいかない。
何故なら一回の護衛ごとに300万の報酬が手に入るからだ。
「えーっと、明日はなにか仕事入ってたっけ?」
ともあれ、相手がわざわざライダーの一人を追い込むところまで全て
お膳立てしてくれているのなら断る理由は特にない。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:14:43.21 ID:WOJJWRsc0
「先生、明日は取材が入っているほかには何もありませんよ」
「取材?どこよ?」
「OREジャーナルです」
「うーん。どーしたもんかなぁ」
自分に靡かない気の強い女を選ぶか、それとも300万円の仕事を選ぶか?
秀一はしばし目を瞑り、熟考したが...
「よし、決めた」
「朝にライダーを倒して昼に令子さんに会いに行く。どうよ?」
「完璧なプランですね。先生」
心から信頼する友人の笑顔に、秀一は心からの笑顔を見せたのだった。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:15:09.22 ID:WOJJWRsc0
第九話 最後のライダー
深夜 ミラーワールド
神崎士郎は、誰も居ないミラーワールドの中で一人佇んでいた。
「...」
瞳を閉じ、磔にされた一人の男の足下に跪き懸命に何かを祈っていた。
その祈りの内容を知るものは誰も居ない。何故ならここは向こう側の
世界、ミラーワールドだからだ。
ぎぃいいいいいい...
だが、その静寂を破るものが現れた。
神崎士郎とその妹以外に人間は存在し得ないミラーワールドに、唯一
その存在を認められた、もう一人の契約者<ライダー>は、薄汚れた
ステンドグラスから差し込む月光の下に佇む士郎の横へと歩を進める。
「来たか」
「ああ」
顔を合わせることなく二人の男は、そのまま沈黙を貫いた。
「時が来た。お前のデッキだ」
「そうか。真司はまだ生き残っていたか...」
コートのポケットから神崎士郎は一つのカードデッキを取り出した。
龍騎と呼ばれるライダーのカードに酷似したそのデッキは、全てが
黒く塗り潰されていた。
そして、そのデッキを持つ存在も龍騎のデッキの持ち主と驚くほどに、
全てが似通っていた。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:15:50.56 ID:WOJJWRsc0
「全てを無に帰す暗黒の龍、ドラグブラッカー...最高だ」
「忘れていないだろうな?お前の役割を」
「無論だ。確実にライダーを一人一人消していけば良いんだろう?」
「そうだ。全てのライダーを葬り去ったその先に優衣の救いがある」
「そうか。ならばお前との契約は成立だ」
城戸真司は...否、そこに立つ真司とは似て非なる存在には名前がない。
名前がない故に、その存在は未だに朧気な霞でしかない。
形容しがたきもの、ミラーワールドの意思、鏡の中の残留思念。
名も無き者が自らを定義する名を与えられた時、真の悪魔が降臨する。
「では、その力を用いて最強のライダーとして君臨しろ」
「城戸、真一」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:16:32.51 ID:WOJJWRsc0
神崎士郎に名を呼ばれたもう一人の城戸真司、かつて真司の記憶の中に
存在していた彼の血を分けた唯一の肉親、城戸真一は、真司によく似た
その顔に、鏡の向こうにいる弟への憎悪を滾らせたおぞましい笑みを浮かべ
教会から立ち去っていった。
「そうだ、戦え...戦え...」
真一の姿が消えるまで教会の外を眺めていた神崎士郎は、誰も居ない
教会の中心に鎮座したオルガンに指を置く。
誰も聞く者のいない教会の中に、新たな戦いの始まりを告げる
荘厳なレクイエムが今、奏でられ始めたのだった...
第一部 完
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 13:20:25.87 ID:WOJJWRsc0
第一部という名のチュートリアルが終わった所で今日の投稿はここまでになります。
十話から第二部という形で更にライダーバトルが激化していく予定です。
次の投稿は明日か明後日になります。運が良ければ今日の夜くらいに投稿するかも?
ということで、今日の投稿はおしまいです。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 15:10:32.47 ID:lt5bQRgNo
乙ふむ悪くない
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 15:32:22.18 ID:wIMoJDQ0o
おつおつ
アビスは確かに弱くは無いが……強くてニューゲームか?本当に大丈夫かこれ?
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/25(火) 00:26:09.75 ID:RPyutF6zO
期待せざるを得ない
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:49:39.94 ID:L6BVEgLS0
>>127
さん。申し訳ないです。じつはこのssを投稿する際に良い感じのタイトルを思いつけなかったんです。
それで、それっぽいタイトルにしようということでこのタイトルにしました。
正直、強くてニューゲームの意味を理解せずにつけちゃいました。どうか笑って許して下さい。
それでは、今日の分の投稿を始めたいと思います。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:51:15.01 ID:L6BVEgLS0
第二部 十話目 ゾルダとガイ
神崎士郎により開催されたライダー同士の戦いから既に一月半が
経過していた。
残るライダーは11人。
龍騎、王蛇、ガイ、ナイト、ゾルダ、ライア、タイガ、ベルデ、
オーディン、リュウガ、そしてアビス。
ある者は手を組み、またある者は己の心の赴くままに戦いに臨む。
全ては己の叶えたい願いのため、生き残るために彼等は戦う。
だが、戦いは更に激化の一途を辿っていた...
〜〜〜〜〜
「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」
「confine vent!」
夢ではない現実世界で今も戦いが繰り広げられていた。
逃げ場もない、隠れる場所もない河川敷で一人のライダーが三人の
ライダーに追い込まれていた。
「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」
「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」
「北岡さんもそう思わない?」
「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」
三人のライダーに追い詰められ、満身創痍の仮面ライダーアビスは
目の前に立つ二人のライダー、仮面ライダーゾルダとガイの罵倒を
浴びながら懸命にこの窮地を打開する策を考えていた。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:52:24.55 ID:L6BVEgLS0
事の始まりは、いつもと同じあの金属音からだった。
スーパーの朝のセールの帰りに、家に帰る近道として河川敷を自転車で
走っていた満は、突然背後から迫ってきた何者かに自転車ごと河原まで
吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた痛みに悶えながら、何事かと周囲を見回すと
「....」
自分の200m後ろに緑色のミラーモンスターが立っていた。
「クソッ...敵襲かよッ...」
不幸中の幸いだが、手も足も折れていない。
しかし広大な河川敷には隠れる場所はおろか、逃げ道すら見当たらない。
「やられた...」
変身して相手を叩かなければやられるのは自分だ。
覚悟を決め、ポケットからデッキを取り出し川の水面にかざす。
「変身!」
瞬時にアビスに姿を変えた満は躊躇うことなく川の中に飛び込み
ミラーワールドへと戦場を移した。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:13.31 ID:L6BVEgLS0
「はぁっ!」
全てが反転した景色の中、自分の立っていた場所に先日見かけた
灰色の防御力の高そうなサイのようなライダーの姿があった。
「strike vent!」
「strike vent!」
それぞれの得物を、アビスクローとメタルホーンを呼び出した二人のライダーは
にらみ合いながら自らの攻撃が届く間合いの距離を冷静に分析し続けていた。
防御特化の白兵戦スタイルのガイにとって、1対1や遠い間合いからの
高水圧の水鉄砲の攻撃はさして脅威ではない。
問題なのは相手の契約獣の地の利に押し負けすることだった。
ガイこと、芝浦淳が佐野満の事を知り得たのは須藤雅史からだった。
ハマったら本当に殺し合いをしてしまうゲームを製作してしまう程の
クレイジーな本性の淳は、このライダー同士の命懸けの戦いを、その裏に
ある黒幕の真の狙いを知る事なく、あくまでも合法的に人を殺せる
新時代のニューゲームという感覚で気軽にプレイしていた。
最初は半信半疑で神崎士郎に言われたとおりに変身し、実際に鏡の中に
生息するそこそこ強いミラーモンスターをファイナルベントで一発で
葬り去ったとき、淳の身体を稲妻にも似た快感が走った。
「モンスターを殺したときでさえ、こんなに気持ちが良いのに...」
「ライダーを殺せばもっと気持ちよくなれるんじゃないのか?」
完全に思考は狂人のそれだが、悪質な事に淳は前述のゲームをいじくり
プレイした人間が、今度はミラーワールドに出入りする人間の後を徹底的に
追尾するように改良してしまったのだった。
そして、強キャラやボスキャラの前の前菜として目をつけたのが、
刑事、須藤雅史だったのだ。
駒から通達される須藤雅史の一挙手一投足により、芋蔓式に二人目の
雑魚キャラ、佐野満が姿を現した事により、淳のゲームは第二段階に
移行した。
即ち、雑魚キャラ討伐による経験値稼ぎである。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:58.98 ID:L6BVEgLS0
鏡の中でシザースのカードをのぞき見して、その全てを把握した淳は、
手駒の学生達に学内で刃傷沙汰を起こさせ、運悪くその事件を担当した
雅史をライダーバトルで合法的に葬り去ったのだった。
しかし、満を調査していく内に思ったよりも底力を発揮した満が死線を
潜り抜ける内に、段々と目障りになってきた淳は、父親の知人にして仮面
ライダーである北岡秀一に助勢を頼み、今日ここに至ると言うわけである。
〜〜〜
「ふっ!」
膠着する戦況に先にしびれを切らしたのはアビスの方だった。
ガイの分厚い甲冑にではなく、頭部のみに狙いを定めた近距離狙撃。
「うぐぁっ!」
視界を封じられ、たまらず右往左往するガイ。
意表を突かれた不意打ちに狼狽しながらも、予め決めていた合図を
指定したポイントに身を潜めている護衛へと送る。
アビスにとって敵の姿が見えない中、カードの枚数を減らされた状態で
長期戦に持ち込まれるのは一番避けたい事態であり、まして自分を襲った
連中の中でも一番防御力が高そうなガイが先鋒を務めているという事は...
(草むらに隠れて今も俺を狙おうとしているかも知れない...)
助かるためには手段など選んでられない。
アビスは悶えるガイの首に手を回し、強化された腕力でその首根っこを
締め付け始めた。
「うぐっ!がっ、がはっ...ぐ、ぐるじ...い」
喉を潰されれば一貫の終わりだと言う事を理解しているガイは、それでも
必死に北岡の助けを信じて、その時がくるのを待ち続けていた。
奥の手である特殊カード、コンファインベントは相手が直前に発動した
アドベントカードの効果を一度だけ無効化するカードだが、武器はでなく
自らの素手で首を絞めているライダーには全く効果がない。
屈辱的だが、ここは助けが来るまで堪え忍ぶしかない。
そして、その忍耐が報われるときが遂にやってきた。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:54:32.60 ID:L6BVEgLS0
「ん?!」
ガイの首を絞めるのに夢中になっていたアビスの後ろから何か細い
紐のようなものが幾重にも巻き付いている。
「くけぇええええええええ!」
その赤い色をしたものからベットリとまとわりつくような粘液が
出てきたことに気が付いたアビスだったが、時は既に遅く...
「がはっ!ぜぇ...ぜぇーっ、はぁーっ!」
今度はガイではなく自分が逆に首を絞めつけられている状況へと
陥ってしまったのだった。
「げほっ...アハハハハハ!どーだ、これがライダーの戦いなんだよ!」
咳き込みながらも、余裕を取り戻したガイは声高らかに目の前で
手も足も出ずにもがき苦しむアビスに嘲笑を向けた。
アビスの首を絞めている存在がその姿を現す。
「けっけっけぇええええええええええ!!!」
周囲に溶け込む保護色を脱ぎ捨てた化け物の名はバイオグリーザ。
仮面ライダーベルデの契約獣にして忠実な僕である。
「執事さん。危なかったよ、ナイスアシスト」
「いえ、これが仕事っすから」
後ろを振り返ったガイは、三人目のライダー、ベルデに率直に感謝した。
その変身者、由良吾郎は手短にその感謝に答えた。
バイオグリーザの手が首に巻き付く舌を引きはがそうとするアビスの
両手に掛かる。更に運の悪い事に、アビスの両手はモンスターの手によって
引きはがされ、その大きな左手でひとまとめにされてしまったのだった。
いかにライダーとは言え、自分の倍以上の体躯を誇るミラーモンスターの
腕力には叶う筈もなく、そのままカメレオン型のモンスターは当然のように
得物の首を巻き付けた舌のまき付けを強め、窒息死させようとした。
このまま死んでしまうかも知れない。
酸欠になった頭が徐々に意識を手放しに掛かる。
何かないのか?何か助かる方法は?
その瞬間、アビスの頭に電撃のような閃きが走った。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:01.88 ID:L6BVEgLS0
バシュッ!バシュッ!
「げええええええええええ!」
アビスバイザーから飛び出した水の刃が、バイオグリーザの足の指を
一瞬で切り落とす。咄嗟の出来事にモンスターはたまらず左手の拘束を
緩めてしまった。
舌と手の拘束が緩んだアビスは今度は一か八かの追撃に移った。
バカみたいに大口開けているバイオグリーザの口内に向けて、バイザーが
出せる限りの最高出力の高水圧弾をぶち込んだのだ!
「うげええうごおおおええええええ〜〜〜〜〜!」
頭の骨格が変わってしまうかのような物凄いショックを受けた
バイオグリーザは、あまりの激痛に地べたを転がり回った後、持ち前の
保護色を最大限に活用し、三人の目の前から姿を消したのだった。
「くそっ!もう時間がない!」
身体から立ち上る淡い粒子が活動限界時間を告げる。
「Final vent」
アビスになってからまだ一度も使っていない切り札を今ここで切る!
「この時を待ってたんだよッ!」
「confine vent!」
「なにっ!」
コンファインベントを左肩にガイがベントインした瞬間、アビスの
ファイナルベントは一瞬でその効力を失ってしまったのだった。
「そんな!嘘だろ!?」
ファイナルベントがその絶大な力を発揮する前に無効化されてしまった。
そのショックに、アビスはしばし我を忘れ、呆けてしまった。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:40.39 ID:L6BVEgLS0
「Advent!」
ガイのバイザーに契約中のカードがベントインされる。
忠実なガイの下僕、メタルゲラスは猛る闘志を咆哮に滲ませ、大声を
上げながらアビスを一瞬で吹き飛ばしたのだった。
「ぐああああああああああああッ!!」
ダンプカーにはね飛ばされたような、全身がバラバラになりそうな衝撃が
アビスの身体を襲う。右手のアビスクローはぶつかった衝撃でどこかへと
飛んでいってしまった。
「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」
全身を襲う痛みにアビスは悶えるしかない。カードを取り出して
バイザーに入れようとしても、指一本動かせない。
「ゴロちゃん。お疲れ様、あとは俺がやっとくからいいよ」
「もうゴロちゃんの変身時間、限界が近いだろ?」
「はい。では、お先に失礼します」
ベルデの背後から、新たなライダーが姿を現す。ゾルダだ。
自分やガイと異なり、まだミラーワールドでの活動限界時間を迎えて
いないゾルダは、何の躊躇いもなく自分のカードを銃型のバイザーに
ベントインした。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:11.30 ID:L6BVEgLS0
「shoot vent」
巨大なバズーカ砲、そのトリガーにゾルダの指がかかった。
もう、勝ち目がないのは明白だ。
あんな巨大なバズーカをこんな近くでぶっ放されたら、人間の肉体など、
木っ端みじん、欠片すら残らないだろう。
「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」
「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」
「北岡さんもそう思わない?」
「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」
悪足掻きすら出来ず、負け惜しみしか言えない目の前の雑魚ライダーに
ガイとゾルダは冷笑と同意をもって返答とした。
「悪いね。これもライダーバトルの一つの結末だからさ」
「死んでくれ。なぁに、一発で仕留めるからさ」
まるで気軽に友人をゴルフに誘うような口ぶりでゾルダは躊躇う事なく
ギガランチャーのトリガーを引こうとした。が...
「strike vent!」
「なにっ!」
背後から聞こえた電子音声により、ゾルダの集中力が途切れた。
引き金に掛かった指が離れ、ガイと共に周囲を警戒する。
「くそっ!なんだ誰だよ、俺のゲームを邪魔する奴は?」
姿の見えない敵にゾルダもガイも咄嗟の反応が遅れてしまった。
「Advent!」
一瞬の油断が二人の命運を分けたと言っても過言ではなかった。
アビスを囲むように立っていた二人の立ち位置があだとなってしまった。
背後に迫る殺気にガイよりも早く反応したゾルダは、遅ればせながらも
同様に反応したガイの足下にギガランチャーを叩き付け、そのまま横へと
飛び退き、呼び出したライドシューターに乗り込んで、あれよあれよと
いう間にミラーワールドから間一髪で脱出したのだった。
ゆうに100kgを超えるバズーカ砲を爪先に落とされてしまったガイは、
自分の足の甲が折れた事を感じた瞬間に、頭の右横からスイングされた
巨大な虎の掌に意識を刈り取られたのだった。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:40.08 ID:L6BVEgLS0
「ほら、これ使って脱出しなよ?」
悠々と身動きの取れなくなったガイの背後から、また新たなライダーが
姿を現した。
仮面ライダータイガ。以前満がミラーワールドで戦いをのぞき見ていた
もう一人のライダーだった。
タイガは大きな鏡をアビスの横に置き、それを使ってミラーワールドから
脱出するようにアビスを促した。
アビスは消えかかった身体を引きずるようにして、その手鏡の中に
吸い込まれていった。
「お前...あの時の...」
そう、あの時の殺し損ねたライダーが自分を見下すように立っている。
僕は英雄になるんだ。という意味の分からないふざけた事を言いながら
いきなり自分の命を狙ってきたライダーとの決着は、ミラーモンスターの
乱入によってつく事はなかった。
今度会ったら真っ先に殺してやると誓った矢先なのに...
「ねぇ知ってる?虎って執念深いんだよ?」
「一度狙った獲物は、必ず仕留めて殺すんだ」
「一時はどうなる事かと思ったんだけど、見つける事が出来て良かったよ」
「Final vent!」
待て!と声をあげる間もなく仮面ライダーガイは頭を串刺しにされた。
ドクドクとマスクに空いた穴から大量の血液が流れ出す。
タイガのファイナルベントは、契約獣デストワイルダーがその鋭い爪を
相手の身体に突き刺し、そのまま虎が獲物を狩るように、地面を引きずり
回し、最後にタイガの大きな爪でトドメを刺すえげつない技だった。
しかし、頭を貫いて即死してしまったそのあっけなさに、当の本人達は
困惑を隠せなかった。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:11.89 ID:L6BVEgLS0
「ダメじゃないか。デスト。頭を貫いたら遊べなくなっちゃうだろ?」
不満げに喉を鳴らすデストワイルダーを頭を撫でて慰めたタイガは
ピクリとも動かなくなったガイのデッキから残りのカードを全て
引き抜いた。
「あっ、あったあった」
満足げな笑みを浮かべたタイガの手には、もう一枚のカードの効果を
無効化する特殊カード、コンファインベントが握られていた。
「これ欲しかったんだ〜」
デッキからカードを引き抜いた瞬間、ガイの変身が解ける。
頭をスライスされ、物言わぬ死体となった芝浦淳は虚ろな目のまま、
白い虎に頭を丸かじりされはじめた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
どこからか悲痛な声が聞こえてきた。
声の元にデストワイルダーが目を向けると、川岸から猛然と突進
してくる新しいミラーモンスターがいた。
そう、主を失ったメタルゲラスだ。
主の危機に駆けつけられなかった不忠者は、せめて主を殺した犯人を
八つ裂きにして復讐を果そうと、何も後先を考えずに猪突猛進ならぬ
犀突猛進しながら、その自慢の一本角でタイガを貫こうとした。
「デストワイルダー。アイツの動きを封じろ」
信頼する主の命令にデストワイルダーは頷いた。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:40.69 ID:L6BVEgLS0
「がおおおおおおおおおお!!!」
猛虎の咆哮と犀の突進がぶつかり合う。
かつて相対した蟹の契約獣なんかとは比較にならないほどの剛力で
メタルゲラスは押さえ込まれてしまった。
首筋を噛まれ、腹部を貫かれた忠臣は恨めしげな視線でタイガを
睨み付け、断末魔の叫びを上げ続けていた。
「よかったね。デストワイルダー。お前に友達が出来るよ」
未だに寝取られた女のような女々しい悲鳴を上げ続けるメタルゲラスを
にこやかに見つめたタイガは、自分の相棒と遊んでくれそうな目の前の
元気の良いミラーモンスターを仲間に加える事を決めた。
カードデッキから取り出した一枚のカードがメタルゲラスを吸い込む。
プライドや主への想い、そして自慢の一本角を粉々に打ち砕かれた
メタルゲラスは一瞬のうちに、契約のカードの中に吸収されてしまった。
「先生、喜んでくれるかなぁ?」
英雄の卵である自分を導いてくれる恩師の笑顔を思い浮かべながら、
仮面ライダータイガは意気揚々と充分な戦果をひっさげて、鏡の中の
世界から引き上げていったのだった。
仮面ライダーガイ/芝浦淳、死亡 残り10人。
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:06.68 ID:L6BVEgLS0
第十一話 the alternative
清明院大学大学院 401研究室
「う、うーん...」
意識を取り戻した満がいたのは、全く来た事のない大学の一室だった。
「ここは...どこだ?」
身体を起こして周囲を見渡す。
窓という窓は黒いカーテンで閉められている。それどころか何かを
反射する者には全て何かしらの黒い覆いが掛けられているのだ。
(ああ...こうすりゃミラーモンスターは出てこれないよな)
ソファーをくっつけた簡素なベッドから降りた満は、そこかしこに
物が散乱した研究室を歩き始めた。
「おや、お目覚めですか?」
「ひぃっ!」
自分の背後、大きな黒板の隣にある扉から一人の男が姿を現した。
「あ、アンタ一体誰だ?!」
「これは失礼。驚かせてしまったようですね」
「私は香川英行。この研究室の主です」
一分の隙も無駄すらもないその洗練された動きは、まるで全てが自らの
想定内だと言わんばかりの自信に溢れていた。
研究室の一番端っこの黒いカーテンを男は引いた。
シャッ!シャッ!シャーッ!
研究室の全てのカーテンが開かれた時、満は自分に語りかけた人物の
顔をようやく直視する事が出来た。
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:46.46 ID:L6BVEgLS0
その男は、一言で言うならば理知的だった。
全身から立ち上るカリスマが、目に見える自信という形で見える人間。
それが目の前の男、香川英行に対して満が抱いた第一印象だった。
「香川さん、ですか。えっと...ありがとうございます」
「なにがでしょうか?」
理知的だが、同時に温厚さすら感じさせる香川は、事情が掴めずに
きょとんとしている満の近くに歩み寄り、手に持っていた500mlのペット
ボトルのジュースを手渡した。
キャップを開けて、口をつけて一気に飲み干す。
「一息つけましたか?」
「ええ。ジュース美味しかったです。ありがとうございます」
混乱する心を静めた満は、一体どのように自分がここに来たのかを
香川に対して質問した。
「さっき...河川敷で倒れていた僕を助けてくれたんですよね?」
「いえ、私はただ貴方をここで休ませただけです」
自分も手に持っていたペットボトルのオレンジジュースを飲みながら、
香川は満が理解できるように、簡単に事情を説明し始めた。
「私の教え子がね、貴方を抱えてきたんですよ」
「河川敷を車で走っていたら、なにやら自転車が転がっている」
「怪しい。誰かが犯罪に巻き込まれたのではないのだろうか?」
「そう思って河川敷を探すと、貴方が倒れていたそうです」
「意識を失った貴方を起こそうとしても、中々目覚めない」
「かといって警察を呼んであらぬ疑いをかけられたくもない」
「それで僕をここに連れてきたと?」
「ええ。私は教授なんですよ。当然この大学の医学部にも顔が利きます」
「そうだったんですか...」
色々と腑に落ちないことはあるものの、香川の言っている事は大体が
真実なのだろう。以前ミラーワールドがらみで警察に厄介になった
満としては、また警察に厄介になるのは避けたかったというのもあるし、
何よりも目の前の男が社会における一種の立場を確立した大人である
ことも香川を信用できる大きな安心としてあった。
(ふう...我ながら悪運が強いなぁ...運が良いんだか悪いんだか...)
果たして目の前の人にライダーバトルの事を打ち明けても良いの
だろうかと思案に暮れた満は、ここでようやく自分の今着ている服が
先程まで着ていた服とは違う事に気が付いた。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:14.02 ID:L6BVEgLS0
(ま、まずい。デッキがない!)
デッキがなければミラーモンスターやライダーとも戦えないし、財布の
中には、自分にとって決して無視できない財産を引き出せるカードだって
ある。
「すいません。あのっ、僕の私物はどこにありますか?」
「ああ、すっかり忘れていましたよ。どうぞ、こちらへ」
色々と事情のありそうな初対面の男に動じる事なく、香川は落ち着いて
自分の使っている個室のデスクから、袋に保管していた諸々の満の私物を
そっくりそのまま返還したのだった。
「助かったぁ...本当にどうお礼を申し上げたらいいのか..」
「何から何までこんな見ず知らずのフリーターに....」
「そうかしこまらないでください。困ったときはお互い様ですよ」
財布も、家の鍵も、そしてカードデッキも全部揃っている。
何も欠けていないし、何も壊れていない。
唯一の後悔は、買い込んだ食料が全部おじゃんになってしまった事だが
今は自分の命があるだけ丸儲けだと満は自分を納得させた。
「佐野さん。これからなにか用事はおありですか?」
「あー、ないです。今はその...職無しのプー太郎でして...」
「そうですか、では...これから食事などいかがでしょう?」
「えっ、いや...悪いですよ。だって俺、お礼できないっすよ?」
144 :
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[sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:42.08 ID:L6BVEgLS0
思ってもみなかった香川からの素敵な提案に、しかし満は首を縦に
振る事が出来なかった。
見ず知らずの自分に、そうする義理がないにも拘わらず、まるで
そうするのが当然のように至れり尽くせりの対応をしてくれた香川に
対して何もお礼が出来ない自分が恥ずかしいと思ったからだ。
しかし...
ぐぅ。と空腹を告げる腹の音が、ごまかせない音を立てた。
それは確かに満の耳にも、香川の耳にも飛び込んできた。
「丸二日寝込んでいるのに、ですか?」
「二日?!」
「ええ。貴方が眠ってから既に二日が経過しています」
「一日だけならば、ここで笑って送り出せるのですが...」
「二日も寝込んだ人間を空腹のまま送り出すのは偲びありませんので」
「ここは一つ、何かの縁と思っていただければ嬉しいのですが?」
「...はい。じゃあ、その...ご馳走になります」
この立派な人にいつか恩が返せるときになったら、ちゃんと返そう。
そう考えた満は、香川の申し出をありがたく受ける事にしたのだった。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:13.61 ID:L6BVEgLS0
〜清明院大学 食堂〜
「あっ、香川先生だ!せんせーい!こっち向いて〜」
「やぁ。今日も元気だね。吉田さん」
「センセーかっこいー!デートして〜」
「木田さん。私を口説かないでください。妻子ある身ですからね」
午後一時、少し遅めの昼食を取ろうとする香川の横には沢山の女子
生徒達が並んでいた。
最終学歴が大学中退の満だったが、満の通っていた大学ではこんな風に
なれなれしく教授達に生徒達は近寄ってこなかった。
(うわぁ...人望あるんだなぁ...この人)
女の子達が囲む香川の席に座る事に気後れした満は、遠目に生徒と
香川のやりとりを見守る事にしたのだった。
「海原君。就職活動はどうかね?良いところは見つかったかな?」
「それがさ〜。上場企業は全部ダメで中小しか受かんなかったんだよ〜」
「そうですか。でも、企業の名に甘んじてはいけませんよ」
「受かった企業を上場させるくらいのガッツを持たなくては」
「ちぇ〜。先生みたいに特別な才能があればなぁ〜」
「個性と才能は違いますよ。才能というのは努力の極致です」
「先天的に自らに備わっているのが、個性だと私は思います」
「はーい。よくわかんないけど頑張りまーす」
「ファイトですよ」
生徒達がいなくなったのを見計らった満は、そろりそろりと香川の
座る席の隣に自分のトレイを置いた。
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:52.18 ID:L6BVEgLS0
「いや〜。香川先生って凄いんですね〜」
「生徒さん達、みんな先生のことすっごく慕ってるじゃないですか」
「いえいえ、私はそんなに大したことをしていませんよ」
「教師として、自分の見識の範囲内で彼等に助言をしただけです」
満の絶賛を謙虚に受け止めた香川は、満の持ってきたトレイをじっと
見つめながら、話題を逸らし始めた。
満のトレイには、A定食とカツカレーの二つが乗っかっていた。
「おや、佐野君はカレーが好きなんですか」
「大好きですよ。あ、横浜カレーって知ってますか?」
大盛りのカレーを口に運びながら、香川は満の振った話題に真摯に
答え始めた。
「よく知っていますよ。私の家では年に三度ほどそのルーを使いますから」
「あー!そうなんですか〜?やっぱり分かる人には分かるんだ〜」
「俺のバイト仲間は皆バーモント、バーモントって口を揃えるんすよ」
「ほう、それは損をしていますね。コクの深さが分からないとは...」
「さっすが先生、お目が高い!」
「そもそもカレーというのは、辛くなくては始まりません」
カレーうどんを綺麗に啜る香川は、満とカレー談義に花を咲かせていた。
やれスープカレーは邪道だとか、カレーの隠し味に牛乳や果物は
不必要だとか、今まで食べたカレーの中で何が一番辛かったか、等等の
他愛もない話に熱中していたのだった。
そのうち、カレー談義は香川の家族の話へと変わっていったのだった。
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