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佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」
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348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/02(火) 10:03:24.34 ID:cQVBnMylO
>>347
現状でも十分に面白いし書きたいもの書けばいいと思うよ
レス一つで無理してプロット変えることは無いさ
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/04(木) 09:15:55.45 ID:ND57vid/0
佐野くんが主人公してると思ったら東條くんが漢になってた。
面白い
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/05(金) 16:02:22.80 ID:k22q6G2So
面白すぎて夢中で読んでしまった
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/23(火) 12:20:38.70 ID:JcVHvI7Q0
第三部
第二十二話 休息と安息
〜香川邸〜
香川英行による浅倉威の討伐は、東條悟の尊い命と多大な犠牲を払い、
ひとまずの成功を収めたと言えた。
ゾルダとベルデは逃がしたものの、わざわざ高いリスクを冒した
甲斐もあり、神崎士郎とも結託している浅倉を倒した上、ライダーを
強化するサバイブのカードを手に入れることが出来たからだ。
東條の死は確かに悲しい出来事だが、今はそれよりも次の戦いに向けた
新しい作戦と方針を固める必要があると判断した香川英行は妻と子供が
仕事で出かけて留守にしている自分の自宅に満と仲村を招いた上で
作戦会議をすることにしたのだった。
「では...これより会議を始めたいと思います」
「...はい」
「はい...」
毅然とした態度を崩さない香川も、心ここにあらずといった状態の満も
いつもなら強気な態度を見せる仲村も、ここにいない既に死んでしまった
もう一人の仲間の最後が頭から離れない。
香川はそれを全て理解した上で、残る二人に東條の事を頭から切り離し、
前回の戦いで得た情報及び戦果についての報告を促す。
「じゃあ、僕から報告させて頂きます」
仲村に促された満が、仲村と香川に戦いの様子を語り始める。
「ミラーワールドで先輩と別れた僕はゾルダを追いかけました」
「ゾルダをアドベントを使って捕らえる事には成功しました」
「しかし、路地裏に逃げ込んだゾルダは北岡秀一ではありませんでした」
「つまり、北岡秀一の手下がゾルダになりすましていたと言う事ですか」
「はい。間違いないです」
香川は神崎士郎による盗聴盗視を防ぐため、シャッターを閉め切り、
鏡面となるものを全て取り外した二階の和室で満の報告をノートに
記入して手短にまとめる。
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/23(火) 12:21:13.96 ID:JcVHvI7Q0
「で、ゾルダのデッキを破壊しようとした時、乱入者が現れました」
「乱入したライダーの姿は見ましたか?」
「はい。赤い龍を契約獣にしたライダーでした」
「にわかには信じがたいですね。城戸真司は非戦派ではなかったのですか」
「確かに城戸さんには違いないけど...別人みたいだったんです」
「本性を隠していたって言えばそれまでなんですけど...」
「俺は本当のシンジの片割れだ。お前の知る城戸真司は偽物だ」
「俺は真司の中のもう一人の城戸シンジだ」
「そんな事を言って俺に襲いかかってきて来ました」
一通りの報告を終えた満は香川に対して伺うような視線を向け、
身を固くしながら、次の言葉を待っていた。
「報告ありがとう、佐野君」
「ところで、君はこれからどうする予定ですか?」
「君の行動に差し支えない範囲で答えて頂けますか?」
香川からのストレートな質問に満は迷う事なく答えを返した。
「そうですね。俺は最後まで先生と仲村先輩と戦うつもりです」
「本当に、佐野君は本当にそれでいいんですか?」
「まぁ...正直な話、逃げられればそれに越した事はないんですけど」
「死ぬ時はやっぱ喚いて見苦しく死ぬんだろうなと思いますね、はい」
「自分なりに腹は括ったつもりです」
「先生や先輩達に命を救われた恩を返さないまま逃げるのは嫌なんで」
「だから俺は東條先輩の分まで戦う事にしました」
満の答えに微かに笑った香川の手を握った満は、会話の主導権を
仲村に譲り、自分と同じやりとりをする二人の会話に耳を傾ける。
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/23(火) 12:22:05.12 ID:JcVHvI7Q0
(そっかぁ...東條さん死んじまったんだな)
心の中でキチガイ一歩手前とか何考えているのか分からない奴と酷評し、
ウマが合わなかった相手ではあったものの、その最後は英雄の覚悟を説く
男の後を追うものに相応しい終わりだった。
英雄と共に巨悪を討ち取り、英雄に成り上がった瞬間に命を落とす。
初めて出会った時の東條の瞳は、何も定まっていない生ける屍と同じ
虚無を宿していたが、戦いを経るごとに、言葉を交していく内に徐々に
人らしさを取り戻し、溌剌としたものへと変わっていった。
その死に方はありきたりな悲劇だが、その時の東條の心の中には、
きっと後悔はなかったのだと満は想いを馳せた。
「報告は以上です」
「はい。分かりました」
会議は滞りなく淡々と進んでいく。ライダー同士による今回の戦闘の
大まかな俯瞰を掴んだ香川は、自分のポケットからタイガのデッキと
烈火のサバイブのカードを取り出した。
「それは...」
「ええ。東條君から託された...彼の唯一の形見です」
ここで香川は初めて堪えきれずにその表情を苦悶に歪めた。
英雄になる覚悟を常に説いていた自分に心酔していた危うい所がある
教え子が自分の理想に殉じて命を落とした事に香川は耐えられなかった。
香川の当初の予定では、多数を生かすための少数の犠牲に東條や仲村は
入っていないはずだった。浅倉がサバイブで強化変身した時でさえ
香川英行は仲間の安全を慮っていた。
しかし東條は自分の命を香川に全て賭ける事に悔いはないという信頼と
信念の元に散っていった。そして東條が死を覚悟して浅倉と戦う自分の
元に駆けつけてきてくれなかったらあの戦いに勝利できなかったのも
事実だった。
問題は、その現実に香川自身が向き合えていない事だった。
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/23(火) 12:22:42.73 ID:JcVHvI7Q0
「あの時、私は東條君に命を救われました」
「おそらく私一人では浅倉威に返り討ちに会った筈です」
「悔やんでも、悔やみきれません」
「...ッ!私は...私の言葉が、東條君を...死に追いやったと思うと...」
本当なら、もっと教えたかった事が沢山あった。
不器用で人付き合いと嘘をつくのが下手な東條が自分の足で立って
歩けるようになるまで、その成長を見続けていたかった。
命を賭けたライダーバトルに東條を巻き込んだのも、最後まで困難に
負ける事なく立ち上がって、勝利を掴むことの重要さを教えて、彼の
今後の人生を輝かしいものにしてやりたかったという気持ちからだった。
怜悧で理知的な香川が流す涙に満は何も言えなかった。
ただ、自分が加わった最初の頃に香川が言っていた神崎優衣の抹殺で
全てが終わると言っていた頃にはもう戻る事は出来ないし、仮に優衣を
抹[
ピーーー
]るよりも、ライダーバトルの決着の方が早く着くのではないかと
いう懸念と危惧を抱いていた。
「先生は東條を救えなかった事を無念に思っているかも知れないけど」
「それは違うと思います」
「東條は先生と肩を並べて戦って最後まで先生を守り抜いた」
「先生。俺、東條の事は嫌いでした。でも...今はただ...」
「アイツが...英雄になれた事が、凄く尊いことのように感じます」
「あああ...。私はッ!私はぁ...うううううう......!!!」
自分よりも東條と深く関わっていた仲村の言葉に香川はただただ
涙を流し続ける事しか出来なかった。
「東條は先生の掲げた覚悟を自らの命で実現したんです」
「先生は間違っていない。だから先生は最後まで戦わなければいけない」
「香川先生。やりましょう。ライダーバトルを終わらせましょう」
「英雄の覚悟を持った一人の人間として、ミラーワールドを閉じるんです」
あえて当初の目的だった神崎優衣の抹殺を言葉にしなかっただけ、
仲村にも優衣を[
ピーーー
]事にある程度の抵抗があったのかもしれない。
ともあれ、自分に掛けられたその言葉に奮起した香川は涙を拭い、
溢れそうになったその感情に蓋をして、二人に向き直る。
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:23:11.79 ID:JcVHvI7Q0
「香川先生。僕からも良いですか?」
「これは私的な疑問だし、突拍子もない質問かも知れないけど」
「先生はこれから先、人として戦うのか、それとも英雄として戦うのか」
「それを俺達に打ち明けて貰えますか?」
東條よりも現実的で打算的な満にとって、香川のような絵に描いた
聖人がこれからの戦いにどう臨むのかは一つの重要なポイントだった。
仲村もそうだろうが、東條のように香川の掲げた英雄像に深く心酔
していない満にとって、この先、香川が求める英雄像に殉じて命を
落とすような終わりは何よりも避けたかった。
東條の献身と対照的なドライさはあるものの、むしろこの際に満も
自分が手を組む相手の真意を知らなければならない。
今日の友が明日の敵になるこの戦いにおいて、この瞬間ほど重要な
意味を持つ瞬間はない。
「そう、ですね...」
「私は確かに英雄たらんとして、今までこの戦いに介入しました」
「ですが、私自身自分が言っていた事の本当の意味を理解できなかった」
「結局、私の掲げた英雄像はただのエゴだったんです」
「そのエゴを東條君は実現して、命を散らしてしまいました」
「これが、私の罪です」
自らの罪を満と仲村に懺悔した香川が遂に答えを出す時が来た。
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:23:44.10 ID:JcVHvI7Q0
「だから、私は人間としてライダーバトルに参加します」
「東條君がそうしたように、私も命を賭けて君達を護ります」
「英雄としてではなく、一人の人間として」
「だから、これからも私に力を貸して下さい。この通りです」
深く頭を下げた香川に対し、満も仲村も同様に頭を下げる。
ようやく香川の真意を理解できた満と仲村は深々と床に頭をつけた
香川の体を床から引きはがし、その手を取って改めて忠誠を誓った。
「先生の真意、確かに理解できました」
「僕達も先生の事を信じて、引き続き共に戦わせて頂きます」
最期の血を分けた家族である父が死んだ時点で、どのみち自分が帰れる
場所なんてものは、もうこの世のどこにもありはしない。
そういう一種の虚無感を埋める代替として、満はライダーバトルに
逃げ場を求めた。
人はそれを逃避と言うが、逃げ込んだ先には満が得られなかった充足と
生きる為の戦いと、同じ目的のために共に肩を並べて戦う仲間達がいる。
それに、香川と仲村には恩がある。
その恩を返さないまま、彼等の元を去りたくない。
満は新しく出来た自分の居場所を守るため。
仲村はこれ以上大切な仲間を失わないため。
香川は失ったものの尊さを嘘にしないために剣を取る。
そして、この時を以て神崎士郎のライダーバトルは加速する。
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:24:16.86 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜
「おい恵里!しっかりしろ!恵里!」
「残念ですが...もう、小川さんは...」
「嘘だ...そんなはずないだろ!おい!恵里しっかりしろ!恵里ーッ!」
香川英行がかけがえのない仲間を失ったように、秋山蓮も同様に
かけがえのない恋人を失ってしまった。
秋山蓮を本当の意味で理解していると言える小川恵里は眠るように
その短い命を散らした。
心電図の起伏が平坦になる事の意味をここにいる誰もが理解している。
ただ、違いはそれを認めるか認めないかでしかなかった。
「行かないでくれ...恵里...お前が、お前がいないと...俺は...」
痛ましい光景から目を背けるように、恵里の傍に集まった医師と
看護師達は恋人達の最後の別れを妨げないようにそっと病室から
出て行った。
後に残されたのは秋山蓮ともう一人の女の二人だけだった。
「うわあああああああ!!」
「蓮...」
恋人の死を受け入れられずに絶叫する秋山蓮の肩に悲痛な顔をした
神崎優衣の右手が置かれる。
「離せ!誰のせいでこうなったと思っているんだ!」
「出て行け!出て行けええええ!」
「恵里ッ!恵里ッ!恵里ーッ」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
鬼の形相で獣のように吠える蓮に優衣は何も言葉を掛ける資格がない。
当然だ。何故なら自分の兄のせいで蓮の恋人は死ぬ羽目になったからだ。
優衣は蓮の事が好きだった。
知り合ったきっかけは、蓮が恋人を失うきっかけを作った兄の実験の
せいだが、それでも不器用な生き方の中に確かな熱を持ってライダーの
戦いに身を投じる蓮の姿に心惹かれる自分がいた。
その想いは抱く事さえ許されないが、それでも優衣は密かに士郎に
蓮を何とか最後まで生き残らせてくれと懇願していた。
それが蓮の覚悟を踏みにじる冒涜だとしても、例え蓮の想いが自らに
向く事はないと理解していても、愛した男が無為にその命を散らしていく
ことに優衣の心は耐えられない。
冷たくなった恋人の亡骸を抱きしめる蓮に背を向けた優衣は静かに
病室を後にした。
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:24:42.93 ID:JcVHvI7Q0
「あっ!優衣ちゃ...」
蓮のことが心配になってその後をつけてきた城戸真司と手塚海之は
涙で顔をグシャグシャにした優衣を見て、蓮の恋人が死んでしまった事を
悟ってしまった。
「真司君...ごめん。私のせいで、恵里さんが」
「そんな!優衣ちゃんは悪くないよ!悪いのは神崎の奴なんだ!」
「な!そうだよな手塚?」
「ああ。城戸の言う通りだ。だが、今は蓮をそっとしておいてくれ」
「城戸、先に二人で花鶏に帰っていてくれ」
「俺は蓮が心配だからここに残る」
「分かった。じゃあ頼んだ」
蓮のいる病室まで感情だけで突っ走りそうな真司に優衣を花鶏に送る
ように頼んだ手塚は、背後に現れた神崎士郎に語りかける。
「お前のせいで多くの人が悲しんでいるぞ、神崎」
「そんなことは関係ない。死んだ恋人を蘇らせたければ勝てば良い」
相変わらず胸くそが悪くなる台詞を吐いた神崎士郎は、背中を振るわせ
必死に涙を堪える妹を気遣うような視線を見せた後、単刀直入に用件を
告げた。
「戦え。お前が戦う相手は既に待機している」
「断る。俺を連れ出した後に蓮にお前のペットを襲わせるんだろう?」
「戦いを放棄するならそうするまでだ」
「交換条件だ。俺が戦っている間、蓮には手を出さないと誓え」
「良いだろう。ならこちらの条件にも従って貰おう」
「臨むところだ」
病院の待合席から立ち上がった手塚海之は神崎士郎の後ろを歩く。
一分も歩かないうちに神崎士郎は二階に続く階段に付いている大きな
鏡の前で足を止めた。
「変身しろ。この鏡の向こうに今回お前が戦う戦場がある」
「随分とサービスが良いんだな」
「ああ。ライダーバトルが順調に進んでいる証拠でもある」
鏡の中に姿を消した神崎士郎に続き、手塚海之もデッキを取り出し
鏡に掲げた。
「変身!」
Vバックルに装填されたデッキが装甲を展開し、装着者の全身を覆う。
ライアに変身した手塚は意を決してミラーワールドへと飛び込んだ。
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:25:11.29 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜
「ここは、小学校?」
ライドシューターから戦いの場所に降り立ったライアが目にしたのは
先程まで自分がいた病院の階段の踊り場ではなく、山奥にある荒れ果てた
広大な敷地を持つ小学校だった。
自分が到着したのと同時に、もう一台のライドシューターが遅れて
その横に停車する。降りてきたのはゾルダだった。
「おやぁ?どうやら神崎の言っていた相手って言うのはお前の事か」
「北岡、秀一」
軽口を叩くゾルダを睨み付けるライア。
それに閉口するかのような無機質な神崎士郎の声がどこからともなく
聞こえて来た。
「お前達はここでどちらかが死ぬまで戦ってもらう」
「ここはミラーワールドではない。現実世界だ」
「つまりライダーに課される制限時間は、ない」
ゾルダとライアは互いに顔を見合わせ、神崎士郎の言葉に耳を傾ける。
今までライダーが戦うのはミラーワールドと相場が決まっていた。
しかし、あえてそれを曲げて現実世界で戦いの決着をつけさせようと
するとは、何かの裏があるのではないかと二人は勘ぐっていた。
「今、お前達の頭にこの場所の情報を送った」
廃校のスピーカーから聞こえる士郎の声が聞こえたと同時に、二人の
頭の中にこの学校の敷地の詳細なデータが送られてきた。
校地面積 16,393 u。建物敷地 5,950 u。運動場 10,443 u。
四階建校舎、一部崩壊箇所あり、制限時間なし。
脳裏に流れ込んだ情報を全て頭に叩き込んだ手塚と秀一はこの戦いを
どこかで見ている神崎士郎に死闘の開始の宣言を求めた。
「どちらかの死を以てこの戦いの終わりとする」
「戦いから逃げるな。逃亡者には罰を与える」
その一声と同時に、濁った灰褐色の巨大なバリアが校舎を覆った。
そして、校舎の窓ガラスが全て砕け散る音が戦いの始まりを告げる。
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:25:43.35 ID:JcVHvI7Q0
第二十三話 エンド・オブ・ワールド
神崎士郎から送られた今回のバトルフィールドの情報を瞬時に理解した
ゾルダは迷う事なく校舎側へと猛然と駆け出していった。
ライアとは二度交戦したが、まともに戦えばまず負けないという自信が
秀一にはあった。それに今は運の良い事に自分の病気の症状が出ていない。
(神崎のお膳立てにも感謝しなきゃ。と、言いたい所なんだけど...)
(壮大なバトルを演出したい愉快犯ってガラでもないだろうに)
神崎士郎が校舎内の窓ガラスを全て割った事が腑に落ちない。
陰気くさい顔でいつも大したことない事を深刻に受け止めすぎている
モテない男がそうそう無意味な事をするわけがない。
(ってことは...手塚の奴になにか戦局をひっくり返す手があるって事か)
聡明な頭をフル回転したゾルダは躊躇う事なく、アドベントのカードを
デッキから引き抜き、バイザーにベントインする。
「Advent」
地響きを立て、巨大な巨人がゾルダの隣に召喚された。
鋼の巨人マグナギガ、AP6000の巨大な人機型の固定砲台はその赤い
瞳で今回の獲物に照準を合わせた。
自分と正反対の校舎を覆うバリアの境界にライアは立っている。
この距離ならギガランチャーで充分だろうと判断したマグナギガは
重厚な音を立てながら、その重い巨腕を持ち上げ、ライアへと照準を
合わせた。
「違う。ミサイルを発射しろ。マグナギガ」
契約主のゾルダの言葉に不満げな唸り声を上げたマグナギガだが、
どのみちミサイルの方が当たりやすいかと思い直し、自らの胸を開き、
隠し持っていた大量のミサイルをライアに向けて一斉に放った。
自動追尾ミサイルが校舎裏に逃げ込もうとするライアへと襲いかかる。
「くっ!」
「Advent」
爆炎の中から空飛ぶ赤いエイ型モンスターに乗るライアの姿を見つけた
ゾルダは相手が自らの策に嵌まった事に喜んだ。
361 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:26:12.41 ID:JcVHvI7Q0
(よし、かかった!)
ライアにはガードベントがない。
故に、多方向からの攻撃を防ぐには自らの契約獣を呼び出して上空へと
回避するしか防御方法がないのだ。
例外はコピーベントでゾルダのシールドをコピーするくらいだが、
そんな隙を与える程、秀一は甘くなかった。
マグナギガのミサイルは量こそ沢山ある物の、一発一発の威力は
1000APにも満たない。故に、ある程度強いミラーモンスターであれば、
全部破壊する事だって不可能ではない。
ライアを背中に乗せたエビルダイバーは口から吐き出す鋭い水の刃で
次々にミサイルを切り裂いていく。
「shoot vent」
この戦いの勝利条件を頭の中で整理しながら秀一はシュートベントの
カードを呼び出した。
マグナギガにライアに銃口を向けたまま、一発も撃つなと命令を下した
ゾルダは自らが呼び出したギガランチャーをひたすら発射し続けた。
しかし、空を自在に飛び回るエビルダイバーはヒラリヒラリと余裕を
持って、その大砲から発射される特大の弾丸を回避し続けた。
それでいい。
強化されたゾルダの視力でエビルダイバーに騎乗しているライアの
手元に自分のギガランチャーがコピーされているのを確認したゾルダは、
屋上にライアが降りたと同時に、自らも扉がなくなった小学校の入口から
校舎の中への侵入を果したのだった。
362 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:26:42.95 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
エビルダイバーがライアの安全を確認し、その姿を消したと同時に
ライアは膝を床につけて荒い息を吐き出した。
「はぁ...はぁ...はぁ」
ライアがいまいるのはゾルダの攻撃が届かない屋上だった。
屋上には貯水槽と屋上へ続く階段と扉以外には何もない。
「貯水槽に水は...ないか」
錆付き、赤く変色した貯水槽を叩き、水の有無を確かめたライアは
屋上に何も利用できるものがないことを悟ると、躊躇う事なく扉を開き
校舎の中へと入っていった。
屋上の階段を降りると、三階の中央部分に辿りつく。
「なるほど。中央の他に左右にも階段があるという訳か」
この廃校の三階には中央から見て左の階段の方向に五、六年生の
教室が計四つ存在し、中央階段から右側に目を向けると授業で使われる
音楽室、AV教室、空き教室の順に部屋が並んでおり、空き教室の隣に
右階段が存在していた。
「寒いな」
神崎士郎が割ったと思われる鏡の破片が存在しない事に手塚海之は
唐突に気が付いた。
ライアはまず最初に近くにあった六年生の教室に入り、とりあえず
ゾルダから身を隠しながら、まとまらない考えをまとめようと必死に
頭を回転させながら、神崎士郎の意味不明な行為の意図を掴もうと
懸命になっていた。
しかし、試しに三階にある教室をくまなく調べても鏡や鏡のように
何かを反射するものはどこを探しても見つからなかった。
「...つまり、1対1で確実に決着をつけろ。ということか」
スペックの上では、ゾルダにライアは確実に劣る。
正面切ってぶつかり合えばきっと敗北は免れない。
「全く、俺もまだまだ青いな」
自らが持つギガランチャーも狭い廊下では振り回す事は出来ない。
咄嗟の判断とは言え、小回りの利かない武装をコピーベントでコピー
するのは失敗だった。
「だが、これにしか出来ない事も確実にある」
思考を切り替えた手塚海之はギガランチャーの照準を教室の床に
合わせ、階下の教室までぶち抜く大穴を作り始めたのだった。
363 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:27:09.60 ID:JcVHvI7Q0
〜廃校舎 一階〜
ライアが着実に自分の戦いやすいフィールドを作り上げる中、ゾルダは
一階にある図工室と家庭科室と職員室を忙しく往復し続けていた。
「よし...これだけあれば鏡の代わりになるだろ」
一体ゾルダは何をしたいのか?
窓がなくなった一年生の教室の中で、ゾルダは自分の目の前に置かれた
大量のステンレスのナイフと包丁、図工室の引き出しの中で眠っていた
文化祭の飾り付けに使われる筈だった銀色の折り紙や裏面に両面テープが
付いているメタリックシルバーのカッティングシートを見下ろす。
「別に俺が負けるなんて事は万に一つも考えちゃいないんだけどさ」
「一流は万が一に備えて相手の裏を掻く準備も怠らないのよ」
「ねぇ、ゴロちゃん」
独り言を呟きながら秀一は黙々と教室の中央に置かれている半壊した
教卓の無事な板を引っぺがし、その縦1m、横40cmの一枚板にかけずり
回ってかき集めたカッティングシートと銀紙を貼り付ける。
「ふう、大体これで三分の二は埋まったか」
普通の鏡よりは劣るものの、確かに鏡面にハッキリと浮かぶ己の姿を
確認した秀一は、残ったステンレスのナイフや包丁を鏡面となる刃部分を
全てたたき折り、テープ代わりに持ってきた大量の釘と金槌で打ち付ける。
そして五分後、鏡のない世界で即座に秀一は即席の鏡を作り出した。
多少の隙間はあれど、確かにそれは鏡と言える代物だった。
364 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:27:36.08 ID:JcVHvI7Q0
「問題は隠す場所なんだけど、隣の教室で良いか」
自分の隣の教室の上から聞き慣れた轟音を耳にしたゾルダは素早く
今まで自分がいた教室から飛び出し、ライアがやってきたと思われる
左の階段へと続く道を歩き始めた。
先程自分がいた教室の真上からまたしても床をぶち抜く砲弾の音が
聞こえて来た。隣の教室を覗くと、まるで鉄球が落ちてきたかのように
ぽっかりと教室の天井の半分の面積を占める丸い穴が穿たれていた。
「なるほどねぇ。隠す場所と階段を穴だらけにして逃がさないつもりか」
ライアのカードの性質とその効果を知っている秀一は、生徒玄関へと
急いで走り出した。
中央階段に陣取った秀一が固唾を飲んで見守る中、西側の階段から
ゆっくりと階段を降りる音が聞こえてきた。
マグナバイザーを展開し、いつでもカードを呼び出せるように身構える。
「....」
そして、ライアが階段からギガランチャーを放り投げた瞬間、ゾルダは
迷わずシュートベントのカードをベントイン、ギガキャノンを呼び出す。
「ふんっ!」
反射的な迎撃だったが、それでも牽制にはなったようだ。
ギガキャノンから放たれた二発の砲弾の威力はギガランチャーと比べ、
速度は劣るものの、その分機動性と高い威力を誇る。
壁に空いた巨大な穴を見て満足げなため息をつく秀一だったが、
次の瞬間、自らの判断ミスを身を以て知る事になった。
365 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:28:07.00 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent!」
二階から飛び降りたライアがつい先程自分が開けた大穴から、自爆
覚悟の特攻を仕掛けてきたのだった。
エビルダイバーの背に乗り、ミラーモンスターを一撃で粉砕する程の
強烈な威力の体当たり攻撃が、ゾルダに防御の一手を打たせないまま
その無防備な体に吸い込まれていく。
「Guard vent」
何とか間一髪の所でギガアーマーを呼び出し、致命傷を避ける事は
出来たものの、病身の秀一にとってその一撃は致命的だった。
「ぐあああああああああああ!!!」
いつも余裕を崩す事無く颯爽と全てを解決する北岡秀一の全身に
強烈な痛みが走った。
ライダー屈指の防御力を誇る盾であっても直線距離を最速で突き進む
ライアのファイナルベントの前には歯が立たず、粉々に砕け散った。
「うぐああああああああああ!!!」
脳を素手で掴まれ、全力で握り潰されたようなえもいわれぬ気持ち悪い
感触と共に秀一の全身がビクビクと陸に打ち上げられた人魚のように震えた。
そのあまりの悲鳴に思わずライアは攻撃を躊躇ってしまった。
366 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:28:33.54 ID:JcVHvI7Q0
「何をしている?早くトドメを刺せ」
未だに苦悶の叫びを上げ続けているゾルダを冷酷に見下ろしながら
神崎士郎は呆然と立ち尽くすライアに決着をつけるよう促す。
「決着は着いた。もうコイツは戦えないだろう」
「いや、まだだ。相手のライダーの命を奪うまでが戦いの決着だ」
「そして、お前が戦わないのならこちらも好きに動かせて貰う」
神崎士郎はこれ以上の戦いを拒むライアを一瞥すると、その姿を消し、
別の場所で待機していた最後のライダーを校舎内に召還する。
「待て!何をする気だ!!」
弱り切った秀一の体を抱きかかえ、校舎のどこかにあるはずの鏡から
脱出を図ろうとする手塚だが、ここは既に現実世界だという悪夢のような
真実に気が付き、絶望した。
そして、ある意味幸運な事にその絶望はすぐに終わりを迎える事になる。
「ライダーの宿命からお前達は逃れられない」
黄金の光を纏う最強無敵のライダーが遂に降臨する。
「さぁ、戦わないのならその命を散らすがいい」
制限時間9分55秒の死闘が遂にその幕を開けた。
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:29:00.08 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
ゾルダを背負い、校舎から飛び出したライアは無我夢中で空に叫ぶ。
「くっ!神崎!どういうことだ!これはルール違反じゃないのか!」
「最初に言ったはずだ。逃亡者には罰を与えると」
「お前は戦いを拒み、その男を連れ、逃亡しようとしている」
「約束を先に破ったのはお前だ。よってオーディンの介入は認められる」
「貴様ァーッ!」
自分が北岡を助ける事を見越した上で最後の13人目のライダーをここに
呼び出したと言うのならば、遅かれ早かれ北岡と自分はここで命を落し、
ライダーバトルから脱落するのだろう。
神崎士郎の悪意ある采配はともかく、先に約束を破ったのは自分なのだ。
だからこそ、守らなければならない。
自分が見捨てる事が出来ずに助け出したこの男の命を....
「なにを、してる...早く、俺を置いていけ」
「出来るわけないだろう!」
今にも死にそうな秀一の言葉に激昂した手塚はデッキから最後の一枚を、
もう一枚の疾風の力を宿すサバイブのカードを引き抜いた。
「....」
「Survive」
荒れ狂う疾風が豪雨と雷を召喚する。
「変身!」
その姿をライアサバイブへと変貌させたライアは、校庭の中心に陣取り、
動く事が出来ないゾルダを庇う様に姿を現したオーディンと相対する。
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:29:42.42 ID:JcVHvI7Q0
「戦え、ライダーの戦いからは逃れられない」
「Guard vent」
「はっ、強化カードで常時強化されてる相手から逃げるのは当然だろ?」
「無様だな。北岡秀一。今のお前には金も力も何もない」
「果たしてその病身、いつまで保つかな?」
秀一の挑発に嘲笑で応えたオーディンは瞬時にその姿を消し、一瞬で
ゾルダの背後に回り込み、自らのゴルトバイザーの柄で鋭く突く。
オーディンの不意打ちに、ゾルダは二枚目のガードベントを呼び出し、
肩に装着されたギガテクターでその矛先をずらす。
しかし、オーディンの力はノーマル形態のゾルダの遙か上を行き、
ギガアーマーよりも防御力は劣るとは言え、一発で肩のプロテクターを
粉砕する。
ゾルダがオーディンの攻撃圏内から逃れたことを確認したライアは
すかさずサバイブで増加されたカードを切る。
「trick vent」
召喚されたライアの分身は、オーディンの魔手から本体とゾルダを
守る盾としてそれぞれが独自の意思を持ち、間断のない防御の陣を敷く。
「そこか!」
金色の羽が煌めいたと同時に姿を現すオーディン。
呼び出されたライアの分身達は9体。本体も含めれば10体だ。
数の優位性はオーディンの持つ個の力に勝っている。
(未来の見えない戦いか...だが、ここで死ぬわけには行かない!)
脳裏に浮かんだかけがえのない仲間の笑顔を勇気に変え、男はまた
自らの運命を変えるべく、もう一枚のカードをバイザーにベントインした。
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:30:11.83 ID:JcVHvI7Q0
「Advent」
四体の分身がオーディン本体を食い止める間、本体のライアサバイブは
アドベントで強化された契約獣エグゾダイバーを召喚した。
「乗れ!」
「ああ!」
飛行能力を獲得したエグゾダイバーの背に乗り込んだ二人のライダーは
空中へと戦場を移してオーディンを迎え撃つ事にした。
「北岡、後ろは任せた」
「こうなりゃヤケだ!撃ち落としてやるよ!」
「振り落とされるなよ?!」
「誰に物言ってんのよ!」
肩に背負ったギガキャノンを構えたゾルダは、油断することなく空中を
見渡し、オーディンの来襲に備える。
「来たか!」
そして、自分達が向かう進路の前方に黄金に輝く不死鳥の姿を発見する。
仮面ライダーオーディンの契約獣にして最強のミラーモンスター、それは
全てを焼き尽くす神威の炎を纏ったゴッドフェニックスだった。
無限の化身と化した不死鳥は、天上に住まう迦陵頻伽の如き美しい
殺意の雄叫びを上げながら、ライア達へと襲いかかっていった。
「エグゾダイバー!」
サバイブの力を得て尚届かない高い壁へとライアとエグゾダイバーは
果敢に挑みかかっていった。
黄金の翼が煌めくと同時に疾風と業火がエグゾダイバーに絡みつく。
エグゾダイバーも負けじと自らの機動力をフルに生かし、空中での
ドッグファイトを劣勢ながらも膠着状態へと持って行った。
だが、ゴルドフェニックスの攻撃は徐々にエグゾダイバーの身体を
蝕んでいった。
「エグゾダイバー?!」
一瞬の交錯の後、ゴルドフェニックスの攻撃がエグゾダイバーの右の
鰭を切り裂いた。
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:30:47.00 ID:JcVHvI7Q0
「キュウウウウウウウ!!!!」
それは、大切な契約主を最後まで守り切ろうとする契約獣の意地だった。
最後の力を振り絞り、地上にライアとゾルダを降ろしたエグゾダイバーは
力尽き、その姿を消した。
「北岡!これを使え!」
サバイブの強化変身が尽きる前の僅かな刹那にライアはゾルダに一枚の
カードを託した。
「Return vent」
ライアから託されたカードをバイザーにベントインしたゾルダは
自らのバイザーから現れたあるカードに目を丸くした。
「OK!やるじゃないの!」
一度使ったカードを再度使用できるリターンベントの効力により、
ゾルダの手元には疾風のサバイブのカードが現れた。
「そろそろ反撃といきますk...」
だが、北岡秀一が逆転の一手を打つことは二度となかった。
「Time vent」
地上にいた全ての分身を葬ったオーディンは動じることなく、自らの
切り札であるタイムベントのカードを使い、時を巻き戻す。
そして、時は巻き戻り、鰭を切り裂かれたエグゾダイバーが校庭に
ライアとゾルダを下ろす瞬間にオーディンはその姿を現した。
エグゾダイバーが戦闘不可能になったことにより、サバイブの変身が
解除されたライアに、戦う術はもう残されていなかった。
「くそっ...ここまでか」
「いや!まだだ!」
命運尽きた二人のライダーの最後の悪足掻きすら届かない圧倒的な力。
それほどまでに、サバイブ〜無限〜の持つ力は凄まじかった。
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:31:20.02 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent」
そして、結末は定められた運命へと天秤を傾ける。
「最強はこの私だ!」
勝ち鬨を上げたオーディンの背後には何も残されていなかった。
ゾルダとマグナギガの残骸も、ライアのバイザーの残骸すらも全てが
永遠の混沌の中へと消え去ってしまった。
「優衣...」
北岡秀一と手塚海之が姿を消した廃校の校庭に神崎士郎が現れた。
「今回は俺に任せてくれるんじゃなかったのか?」
「気が変わった。今回はどうやらオーディンで事足りたようだ」
背後から今まで静観を決め込んでいた城戸真一が音もなく士郎の
横へと姿を現し、地面に落ちているサバイブのカードを拾い上げた。
「残り7人か。もう手を出すなよ?俺が愉しめなくなる」
「好きにすると良い」
そう言い残した神崎士郎は再び音もなくその姿を消した。
「クククク....真司...お前が大切にしている全てを壊す時が来た」
「神崎優衣も、お前の仲間も全て俺が殺してやるよ...」
仮面ライダーライア/手塚海之、死亡
仮面ライダーゾルダ/北岡秀一、死亡 残り7人。
372 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:32:10.81 ID:JcVHvI7Q0
第二十四話 遺志と意地
「北岡秀一は、ライダーバトルから脱落した」
「嘘だ...そんなの...嘘だ...」
秀一がオーディンによって葬られた翌日、神崎士郎は主の帰還を待つ
由良五郎の元に現れ、残酷極まりない真実を伝えた。
秀一に全幅の信頼を置く吾郎にとって、その死は到底信じられること
ではなかった。
「なんで!なんで先生が死んだんですか?!相手は、相手は誰なんだ!」
「北岡が戦っていたのはライアだ。先に仕掛けたのは北岡だった」
「....先生は、どう戦って...死んで行ったんですか?」
「これを見ろ」
ガックリと膝を落し項垂れている吾郎を促した神崎士郎は、秀一の
事務所にある大型テレビに自らの手をかざし、ゾルダとライアの戦いの
様子を写しだしたのだった。
どこかの廃校で戦っている二人のライダーは一進一退の攻防の末、
ライアがゾルダのガードベントごとファイナルベントを直撃させた事で
一応の決着を迎えようとしていた。
しかし...
「なっ!?」
あろうことかライアがゾルダの肩を支え、戦いを止めて現実世界に帰還
しようとしたとき、二人のライダーが姿を現した。
黒い龍騎とオーディンによく似た緑色のライダーだ。
そして、その二人のライダーは身動きの取れないライアとゾルダに対して
ファイナルベントを直撃させ、あっという間に葬り去ったのだった。
「嘘、だろ....」
「これが真実だ。龍騎とミラージュ、緑色のライダーがお前の主を殺した」
373 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:32:39.52 ID:JcVHvI7Q0
ギリリと奥歯を噛み砕くような歯ぎしりを立てた吾郎は、内心では
少なくともあれほど秀一に戦いを止めるように説得していた城戸真司が
自らの仲間諸共秀一を葬り去るとは到底思えなかった。
しかし、秀一が死んだ事はもう変えようがない真実になってしまった。
ならば、相手側にどのような事情があれ、自分は秀一から任された
自分の役割を果たさなければならない。
秀一を蘇らせ、彼の身体に巣喰う病魔を全て取り除くという秀一が
かつて望んだ願いを自分が叶えなければならない。
その為には、まずこの男を利用して戦いの最後まで生き残らなくては
ならない。吾郎の脳裏に秀一から託されたある物の存在が浮かんだ。
「神崎さん...なにか、なにか先生の遺品は...ないんですか?」
「ない。だが...奴が契約したモンスターなら、まだ存在している」
「お前が望むのなら、マグナギガの元に連れて行こう」
「お願いします」
士郎の提案を疑う事なく受け入れた吾郎は、近くにあった姿見の中へと
入っていった士郎の後を追っていった。
374 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:33:17.09 ID:JcVHvI7Q0
〜線路沿いの道路〜
自宅へ帰る道を歩きながら、仲村創はポケットの中にあるタイガの
デッキを固く握りしめていた。
二日前、香川の家でこれからの方針を話し合った際、信じられない事に
自分の口から東條のデッキを譲ってくれと言う言葉が香川に向かい、飛び
出したのだった。
驚いた事に香川も東條のデッキを使うつもりだったらしい。
しかし、香川の方がサイコローグもオルタナティブも自分より遙かに
上手く使いこなせるという理由で無理矢理自分がタイガのデッキを使う事を
認めさせたのだった。
「はぁ...俺もバカだよな」
「張り合う相手の東條はもういないってのにな...」
いけ好かない奴のデッキを後生大事にしようとする自分の気持ちが
今でも理解できない。だけど、今まで東條へ抱いていたどの感情よりも
ずっとしっくりくる想いが今の自分の心の中に溢れている。
(東條。お前の力を貸してくれ)
疑似ライダーとして今までライダーとしての戦いに関わってきた自分と
違い、東條は最初からライダーとしての覚悟を決め、ライダーバトルに
身を投じていた。
アイツの英雄になるという考え方は分からない。理解すら出来ない。
だけど、
「待ってろ神崎。英雄(おれたち)がお前の野望を必ず打ち砕く!」
固く握りしめた拳と共に決意を新たにした仲村は、ミラーモンスターが
現れる前の独特の金属音を耳にしたと同時に、ポケットからデッキを出す。
「お前、仲村創だな」
「秋山、蓮....」
全身を黒いコートで覆った男がバイクから降り、剣呑な視線で自分を
睨み付ける。以前ミラーワールドで遭遇した時と比べ、遙かに纏う空気が
重々しく、より刺々しいものへと変化している。
「戦え」
「ああ」
夕日が落ち、夜が星を引き連れる時が来た。
この戦いが終わるとき、どちらか一人が命を落とす。
そんな漫然とした予感が仲村の脳裏をよぎった。
「変身!」
「変身!」
バイクのサイドミラーにデッキを翳した二人のライダーは、吸い込まれる
ようにして戦場をミラーワールドの中へと移したのだった。
375 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:33:45.22 ID:JcVHvI7Q0
〜ミラーワールド〜
落日のミラーワールドにおける今回の戦場となった場所は、広大な
面積を持つ線路だった。
不意打ちと奇襲に一日の長があるタイガにとって、見晴らしが良く、
隠れる場所が全くない線路という戦場は些か不利な条件と言える。
対する秋山蓮が変身するゴルトフェニックスの力の一端を持つ眷属の
力を与えられたミラージュにとって、相手を見失わないこの戦場は
まさに最高の戦場と言えた。
「Trick vent」
攻撃一辺倒のタイガが最も苦手としているのが、攻守共に取れた
バランスの良いデッキを持つライダーである。
かつて蓮がナイトだった時は、スペックで勝っているという利点が
存在していたものの、ダークウイングがガルドミラージュに倒され、新たに
蓮がガルドミラージュと契約した際に、その利点が潰されてしまった。
ガルドミラージュが司るのは蜃気楼、即ち幻影である。
故に、ミラージュのトリックベントの数値はAP3000という破格であり、
タイガはミラージュの分身7体を相手取り無謀な消耗戦を強いられていた。
「Advent」
なんとかデストバイザーで三体の分身を破壊したタイガはデッキから
アドベントのカードをベントインし、デストワイルダーを召喚する。
「Advent」
ミラージュもそれに対応するように、ガルドミラージュを召喚し、
分身と共にデストワイルダーを迎撃させる。
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:34:14.38 ID:JcVHvI7Q0
「....」
「....」
この時点で、互いに残されたカードは残り四枚。
互いに実力が伯仲しているのならば、勝敗を決するのはカードを切る
順番しかない。
「Sword vent」
先に仕掛けたのはミラージュだった。
緑色の鮮やかな刀身を持つ不死鳥の炎の力を宿した片手剣を振るいながら
タイガへと敢然と斬りかかっていった。
ミラージュの猛攻を受けきれないと判断したタイガは、未だに乱戦を
繰り広げているデストワイルダーの加勢に向かう為、敢えて背を向けて
逃亡を始める。
タイガ同様デストワイルダーも窮地へと追い込まれていた。
ミラージュのトリックベントによる残り4体の分身を吸収し、自らの力に
変換したガルドミラージュは、その姿を蜃気楼のように捉え所のないもの
へと変化させ、デストワイルダーが捉える事の出来ない猛スピードで
猛攻を掛けていた。
深く抉られ続けるデストワイルダーは溜まらず逃亡を選択する。が、
「Freeze vent」
契約主であるタイガのアシストにより、強制停止させられた憎い相手の
頭部に、線路のレールにめり込むくらいの全力の一発を叩き込む。
「くっ!」
一転して劣勢に立たされたミラージュは躊躇う事なく撤退を選択するが、
逃げる獲物をみすみす見逃す虎はミラーワールドの中にはいなかった。
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:35:19.13 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent」
デストワイルダーが奇襲攻撃を行い、タイガの元へと相手を引きずり
デストクローを腹部や背中に突き立てるクリスタルブレイクは技の特性上、
デストワイルダーがタイガの元まで行かなければ技が決まらない為、引き
ずられる最中にデストワイルダーを攻撃するなりして怯ませればファイナル
ベントが中断される為、比較的成功率が低いファイナルベントだった。
「グアアアアアアアア!!!」
既にミラージュの背骨にはデストワイルダーの鋭利で鈍重な爪の一本が
深々と筋肉を貫き、突き刺さっている。
凹凸の激しい線路に敷き詰められた石の上に全身を押しつけられ、
引きずられる激痛により、ミラージュはデストワイルダーを怯ませる
迎撃行動はおろか、数秒後に到来する死の未来を回避する事すら
出来ない非常事態に陥っていた。
「文句はないよな?先に仕掛けたのはお前の方なんだから...」
ぞっとするような声音と同時に、タイガのデストクローがミラージュの
心臓を貫く。
しかし、
「くっ!分身か!」
いつの間にか本体と入れ替わっていた分身がタイガの魔手の身代わりと
なり、当然ミラージュはまんまとタイガから逃げ果せる事に成功した。
(撤退だ。丸腰のままここに残るのは危険過ぎる)
そう判断した仲村創は余計な事を考える事なく、近くにあったカーブ
ミラーから現実世界への帰還を果たしたのだった。
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:36:10.96 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜
「はぁ...はぁ...はぁ...」
苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら、ミラージュは逃げ果せた駅の
ホームの中で荒い息を吐きながら、現実世界へ戻る為の鏡を探していた。
「クソッ!」
デッキから取り出したファイナルベントのカードがフリーズベントの
影響下を脱した事を示すように光り輝く。おそらくタイガは撤退を選択
したのだろうとアタリをつけたミラージュは近くにあったガラス窓に
手をかざし、いつもと同じように現実世界へと戻ろうとした。
「!!」
だが、信じられない事に目に見えない何かが自分の身体に物凄い勢いで
衝突し、車のような激しい衝突の衝撃にミラージュの身体は宙を舞う。
「ガハッ!」
誰だ、誰が俺を襲ったんだ?!
既に使えるカードは半分にまで削られている。
ガードベント、コピーベント、ファイナルベント。
もし相手が自分が予想しているのと寸分違わぬ戦略をとるのならば...
「恵里ッ!俺はッ!」
遅ればせながらデッキからファイナルベントを引き抜いたミラージュは
杖型のバイザーにそれをベントインしようとしたところを...
「Final vent!」
クリアーベントで姿を消したベルデのファイナルベントに絡め取られて
しまったのだった。
視界が逆転し、5度ほど回転したあと空高く舞上げられたミラージュの
頭はそのまま固い線路のレール上へと叩き付けられた。
「....」
物言わぬ死体となったミラージュの身体が徐々に消滅を始める。
それを何の感情も宿らない瞳で一瞥したベルデはミラージュのバイザーで
そのデッキを破壊しようと考えたものの、思い直したように消滅を始めた
秋山蓮のバックルからミラージュのデッキを引き抜き、沈痛な面持ちの
まま、現実世界へと帰還したのだった。
仮面ライダーミラージュ/秋山蓮 死亡。
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:36:48.36 ID:JcVHvI7Q0
第二十五話 最後の一人
〜401研究室〜
「では、これより我々の次の目標を発表します」
東條の死亡から一週間後、香川英行は仲村創と佐野満を招集し、次なる
指令を開口一番発令した。
「我々が次に倒すのは、仮面ライダーオーディン及びリュウガです」
「...」
満も仲村も厳かな面持ちで香川の言葉に耳を傾けている。
当然だ。現時点で未だに生存しているライダーの実力とカードの内訳は
既に殆ど知られている。
浅倉の死後、目下の脅威は北岡秀一と城戸真司だったが、北岡秀一は
神崎士郎の謀略で命を落とし、城戸真司は今の所非戦を貫き続けている為、
消去法とは言え、オーディンとリュウガを香川が選択するのは当然だった。
オーディンに対して決定的な一撃を与えられる術を香川英行は現時点では
所持していない。虎の子のコールサモンも契約していたサイコローグの
爆散と同時に消滅してしまった。
しかし、この三人であれば未だに未知数の実力を誇るリュウガを葬るのは
容易いと香川が考えるのは無理からぬ事でもあった。
「先生、オーディンとリュウガはどんなライダーなんですか?」
「そうですね。今、そのライダーの画像を印刷します」
自分のパソコンのフォルダの一つから過去のミラーワールドで交戦した
オーディンとリュウガの画像を香川は二部コピーした。
香川から渡されたコピーを受け取り、未だ対戦した事のないライダーの
画像をしげしげと見つめた満はなにやら深く考えこむような素振りをした。
「佐野君?」
「ああ、すいません」
「それで?先生はいつこのライダー達と交戦したんですか?」
「佐野君が仲間になる一ヶ月半前ですよ。丁度半年前です」
オーディンとリュウガの手の内を知らない満に香川と仲村は自分達が
知りうる範囲でオーディンとリュウガの情報を満に教え始めた。
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:37:22.89 ID:JcVHvI7Q0
「先生、まずは先に俺から話しても良いですか?」
「構いませんよ」
「よし。佐野、お前は何から聞きたい?」
「えっと、じゃあリュウガって奴の戦闘力と狙いを教えてください」
「ふーむ...。あまり気負わせたくないから言いたくはないんだが」
「リュウガは恐らく先生と互角の強さを持っていると思う」
「一ヶ月半前、コアミラーを破壊しようとしたときの話を以前したな?」
「はい。でも、邪魔が入って出直す羽目になったって聞きました」
「そう、その邪魔をしたのがリュウガという黒い龍騎だ」
「お前が高く評価している城戸真司と瓜二つの戦い方をする上に」
「契約している黒い龍の吐く炎は全てを石に変える力を宿している」
「俺が思うに、あのライダーは神崎士郎の左腕だな」
「先生の反応速度以上の速さと怪力で暴れる厄介な敵だよ」
「弱点らしい弱点はない...と?」
「今の所はな。ちなみにオーディンもだ」
仲村からリュウガについての分析を聞き終えた満は香川にオーディンの
能力について問いただそうと考えたが、結局無意味な事だと考え、開き
かけた口を閉じる事にしたのだった。
「佐野君?」
「先生。俺、頭の中に浮かんだ作戦をまとめてきます」
「...ほう。では、全力で考えてください」
「私はそれを全力でサポートしますから」
「ありがとうございます」
そう言い残した満は研究室から退室し、一人静かな場所で今し方
思いついたリュウガ攻略の為の布石に関する自らの策をまとめるべく
空き教室へと歩き出したのだった。
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:37:59.07 ID:JcVHvI7Q0
「さて、仲村君。本当にいいんですか?」
「ああ、俺が東條のデッキを使うことですか?」
「ええ。本来なら君はタイガよりもオルタナティブの方が使い慣れている」
「それに...私も東條君に対して深い思い入れがあるものですから」
あの日、香川の家で開かれたミーティングで佐野を先に帰した後、
仲村がタイガのデッキを使う事に香川は猛反対した。
疑似ライダーは神崎士郎のライダーバトルのデメリットを背負う事なく
ライダーバトルにライダーと遜色ないスペックで参戦できる優位性を
持っている。
仲村が言っている事は本末転倒に他ならない。
自らが持つ安全を捨ててまで他のライダーと同じ土俵に立った上で、
ライダーバトルに参加し、命を軽々に放り投げようとする事に一体どんな
意味があるというのだろう。
だから、香川はあえてそのことを仲村創に問いただした。
香川の問いに、仲村は要領を得ない答えではあるがこう答えた。
「確かに先生の言う事の方が正しいと思ってます」
「でも、こればかりは先生に言われても譲れないんですよ」
「東條が男を見せて、意地を張ってミラーワールドの戦いで死んだんだ」
「我ながら馬鹿げたこと言ってるなとは思ってるんです」
「だってこれは結局の所、蛮勇でしかないんだから」
「けど、アイツが死んでも尚、俺は東條に負けたくないんです」
「アイツがタイガのデッキを使い、命を落としたのなら」
「俺はタイガのデッキを使って、最後まで生き残ってみせる」
「誰の為でもない、アイツを超えたいと思う自分のプライドの為に...」
仲村の言葉に何も反論できなくなった香川は、その主張を認め、仲村の
持つタイガのデッキとオルタナティブのデッキを交換したのだった。
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:38:41.26 ID:JcVHvI7Q0
「先生。前にお話ししたとおりです。俺は自分の意見を曲げません」
感傷を振り払うように仲村は香川に意見を言わせる事なく、かねてから
考えていた自らの策を香川へと述べ始めたのだった。
「香川先生。オーディンに対抗する例の作戦なのですが」
「そうですね。一応、我々の陣営には契約のカードが二枚あります」
「試してみる価値も、時間も今しかありませんしね」
仲村が香川に献策したオーディン打倒の為の策とは、ミラーワールドに
未だ潜む不死鳥型モンスターの三体を捕らえ、融合し、ゴルトフェニックス
と同等の力を持つ合体型モンスター、ジェノサイダーを生み出す事だった。
「しかし、仲村君。私が目にした神崎君の資料には...」
「ええ。モンスターを合体させるカードは存在していない。ですよね」
「だったら...コイツで一か八かの可能性に賭けてみましょう」
「サバイブのストレンジベントですか...」
仲村が取り出した烈火のサバイブのカードを見つめた香川は、それでも
首を縦に振る事はできなかった。
確かにサバイブの力はライダーを強化するというだけあり、とてつもない
力を秘めていた。
かつて王蛇サバイブが用いたストレンジベントというカードがあった。
使用すると様々なカードに変化する効果を持つこのカードは、状況に
応じて使用者が最も望むカードに姿を変える特性を持っている。
仲村が主張しているのは、まさにその特性だった。
ガルドミラージュ、ガルドサンダー、ガルドストームの三体を契約し、
手元に揃えた状態で、ストレンジベントを使い、この三体を合体させる
カードを呼び出して合体させるという、ある意味ご都合主義にも程がある
考え方だが、現状オーディンの契約しているゴルトフェニックスの力に
対抗するにはこちら側もそれと同等の力を持っていなければ話にならない。
だが、仲村はその融合条件というものを失念していた。
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:39:11.82 ID:JcVHvI7Q0
仮に仲村の仮説を正しいと仮定した上で、その仮説を自分達が100%
実現させなければならないときに何を知り、その上で何を調整しなければ
ならないのかを仲村は頭に入れていない。
融合条件における契約獣の合体制限数や融合後の性能テスト、融合に
おける融合対象の選択優先順位、いや、それ以前に神崎士郎がこちらの
狙いを察知した上で、例の不死鳥型のモンスター達を自分達の目の届かない
所へ引っ込める可能性だって否定できない。
「っ...どうすりゃいいんだよ...」
後一手、後一手が足りない。
仲村も香川が果たして何を考えた上で自らの策に否定的なのかを
理解しているが故に、このまま突き進めば良いのかを考えあぐねている。
だが、その後一手が自分達の手の中にあろうことか自ら飛び込んで
来たのだった。
勢いよく開く扉と威勢良く飛び込んできた青年がそこに立っていた。
「あのっ!すいません!」
「蓮を!俺の仲間が今どこにいるのか知りませんか?」
天啓の如くその姿を現したのは、城戸真司だった。
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:39:40.28 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
「お前、また来たのか...」
呆れたように呟く仲村だったが、その隣では香川が驚いたように
その口をぽかんと開けていた。
「なんだ、お前の仲間ってあれか?あの黒ずくめの兄ちゃんだろ」
「そう!ソイツだよ。なぁ、どこで会ったんだ?」
「電話しても連絡が取れなくて心配で心配で...」
どこか無理をしているような真司の状態にいつもは無愛想な仲村も
今回ばかりは邪険にすることなく、真司を空いている椅子に座らせ、
冷蔵庫の中にある缶ジュースを真司に勧め、話の先を促した。
「まぁ、落ち着いて話を聞かせてくれ」
「俺達も今忙しいんだ」
500mlの缶ジュースに口をつけた真司は、意を決したようにゆっくりと
その口を開き、今まで自分達の身の回りで起きた出来事を語り始めた。
「....という訳なんだよ」
「そうか。大体分かった」
真司の話が一段落付いたところで、仲村は自分の頭の中でこれまで
真司とその仲間が遭遇してきた事態をまとめていた。
まず浅倉を倒す少し前に、真司の仲間である秋山蓮がミラーモンスターに
葬り去られた自らの新しい契約獣を探す為、仲間と共に自然公園へと赴き、
鳳凰型モンスターであるガルドミラージュの再契約に成功したこと。
そして、浅倉を倒したその直後あたりに秋山蓮の恋人が病気で死に、
同じ日に真司の仲間である手塚海之が消息不明になり、その二週間後、
仲村にとってはつい昨日の話だが、秋山蓮が行方不明になってしまい、
真司はいなくなってしまった二人の仲間の行方を捜し続けているという
内容だった。
385 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:40:15.72 ID:JcVHvI7Q0
「城戸さん。いいか...落ち着いて聞いてくれ」
「実は、俺は昨日その秋山蓮って奴に会ったんだ」
「本当か!どこで会ったんだよ?」
思わぬ情報に目を輝かせながら真司は食いついた。
しかし、仲村の浮かべた沈痛な表情に考えたくない最悪の未来を
垣間見た真司の顔は暗いものへと変わっていった。
「線路沿いの一方通行の道路だ。それで、戦えとアイツに言われた」
「あの時の君の友達は...その、無理矢理戦おうとしていた」
「まるで何かを戦うことで忘れようとしていた感じだったと思う」
「強かったよ。逃げるのが精一杯だった」
「秋山は最終的に自分の分身を作り、俺から逃げ果せた」
「それ以降のことは、俺の口からはなんとも言えない」
「いや...そうだったんですか」
一瞬、仲村が蓮を殺したのではないのかというよからぬ想像が脳裏に
浮かんだ真司だったが、もし仮にそうだったとしても、あの時の蓮は最愛の
恋人の死で冷静さを失い、まともな判断を下せるような状況ではなかった。
そもそも手塚に促されて優衣と共に花鶏に帰らず、蓮に何を言われようと
その側にいてやれなかった自分が悪いのだと無理矢理納得させ、平静さを
保つことを真司は選択した。
「すいません。じゃあまた俺他の所を探しに...」
最も可能性が高い香川研究室の聞き込みが空振りに終わった以上、ここに
留まっても何も始まらないと思考を切り替えた真司は鉄砲玉のように
研究室を後にしようとした。
386 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:40:46.15 ID:JcVHvI7Q0
「待ちなさい」
しかし、今まで沈黙を保っていた香川の一声に真司は足を止め、背後を
振り返った。
「城戸さん。佐野君が貴方に会いたがっていますよ」
「今、彼を呼び出すので差し支えがなければ少し待っていただけますか?」
「えっ...ああ、はい」
佐野満。
かつて一度しか邂逅していない相手ではあったものの、真司にとっては
数少ないライダーバトルに否定的な立場を取っている初めての第三者的な
立場をとるライダーバトルの参加者。
機会があれば、一度腰を据えてゆっくりと話をしたいと感じていたのだが
それが出来ない程、自分の近辺の状況は目まぐるしく変わってしまった。
「もしもし、佐野君ですか。ええ、貴方にお客さんが来てますよ」
「はい。401研究室に来て下さい。大至急。はい、それでは」
香川が電話を切り、真司に満が来ることを教える。
そして五分後、城戸真司は佐野満と数ヶ月ぶりの再会を果たした。
387 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:41:13.12 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
香川の電話を受け、急いで考え事を切り上げ研究室に戻った満の視界に
懐かしい相手の姿が飛び込んできた。
「城戸さん。お久しぶりです。お元気ですか」
「ああ。久しぶり。そっちも元気そうで何よりだよ」
少しやつれたものの、見る者を安心させる笑顔を浮かべる真司との
再会に満の顔も自然と本心からの笑顔を浮かべる。
「どうですか?怪我とかしてませんか?」
「まぁ俺は大丈夫だけど...蓮と手塚がいなくなっちまった」
「えっ?」
「ここに来たのは、ここの人達が二人の行方を知らないかなって思ってさ」
「佐野君知らないかな?蓮と手塚のこと」
「いえ...俺があの二人に最後にあったのは一ヶ月前くらいで....」
「それから今日まではあの二人とは会ってません」
「そっか...」
最後の希望が断ち切られた真司は、がっくりと項垂れて机の上に
突っ伏した。
満はそんな真司に追い打ちを掛けるようで気が引けたものの、かねてから
聞きたいと思っていたことを尋ねることにした。
「城戸さん。実は俺、城戸さんに聞きたいことがあるんです」
「え?聞きたい事ってなにさ?」
「先生。お願いできますか?」
「ええ。デッキを私に渡して下さい」
あっけにとられる真司を横目に、満は香川に自分のデッキを渡し、香川は
特製の機械にそのデッキを挿入し、浅倉と交戦した日の戦闘データを
パソコンにダウンロードし始めた。
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:41:45.22 ID:JcVHvI7Q0
「少し時間が掛かるので、佐野君の質問を私からさせて頂きます」
「城戸さん。先日私達は浅倉威と交戦し、彼を打ち破りました」
「ええっ!じゃあ香川さん達が浅倉を倒したんですか?!」
驚きを隠せない真司に首肯した香川は、口を挟みたくて仕方がない
真司の口を塞ぐように次から次へと言葉を継ぎ足していった。
「はい。私と東條君...東條君は浅倉と相討ちになりましたが」
「浅倉と私が戦闘している間に、佐野君と仲村君も戦っていたのです」
「ゾルダと、その忠実な手下とね」
「浅倉と違い、ゾルダと手下は取り逃がしてしまいましたが」
「その戦闘中にとある乱入者が現れ、佐野君に攻撃を仕掛けてきたのです」
「その乱入者というのが....」
香川の言葉に被さるように、パソコンの電子音が動画のダウンロードの
終了を告げるアラームを鳴らした。
「城戸真司さん、貴方の変身するライダーに瓜二つなんですよ」
アビスのデッキからあの日の戦闘データをパソコンにインストールした
香川は事情が掴めない真司にその動画を見せた。
「なんだよ...これ?」
真司の動揺も最もだった。
なにせ自分が身に覚えのない事をしているどころか、意味不明な事を
アビスに言い放って狂ったように襲いかかっている。
「いや、こんなの俺知らないですよ...えっ?だって」
「なんだよ?俺は本当のシンジの片割れだ。って...」
慌てたように真司が自分のバッグの中から龍騎のデッキを取り出す。
特に変哲のない神崎製のカードデッキがそこにはあった。
手にしたからと言って自分の性格が豹変したり、神崎士郎に洗脳される
とかそういった事は何一つ起きていない。
香川はこの様子からして、恐らく真司はシロだという見当をつけた。
だが、仮にここにいる真司が本物だとして満と交戦したあの龍騎は
一体何者なのだろうか?
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:42:28.70 ID:JcVHvI7Q0
「あっ!そうだ。俺からも聞きたかった事があるんだよ」
アビスと龍騎の交戦を見守っていた仲村が慌てたように香川の机から
一枚の写真を取り出し、真司の座っているデスクの上に置く。
「この写真なんだけどさ、写真の日付の日に神崎士郎と出会ったのか?」
それはまだ東條が生きていた頃、浅倉を討つと誓ったあの日に前後した日に
香川が放った密偵によって撮られた写真だった。
真司に何かを手渡す瞬間を捉えた決定的スクープの瞬間だったが、
果たしてこれを認めるか認めないかで、この先の展開が大きく変わる。
「いや、なんだこれ?」
「えっ?神崎が俺に何かを渡してる?」
神崎士郎が自分に何らかのカードのようなものを渡している写真に
真司は首をかしげ、その現実を否定するしかなかった。
(おかしい。ここまで証拠が揃いながら、彼は頑として事実を認めない)
(いや、事実を認めないのではなく...ひょっとしたら事実ではない?)
(つまり、城戸真司と瓜二つの存在がライダーバトルに参加している?)
その仮説に至ったとき、香川は最後の決め手となる写真を真司に渡した。
「城戸さん。この黒い龍騎は、貴方ですか?」
「いやいやいや...えぇ...違いますよ。初めて見ました」
「ふむ...」
真司の答えにより、香川研究室の面々はそれぞれが朧気ながらも龍騎の
偽物がリュウガという存在であり、神崎士郎と手を組みライダーバトルの
勝者になろうと企むいわばミラーワールド側のライダーがリュウガである
という共通の見解に辿りついた。
真司の外見に似せた理由は不明だが、まずはリュウガ攻略の一端を
垣間見れただけでよしとしよう。
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:43:13.24 ID:JcVHvI7Q0
「あの、香川さん?」
「ちょっと黙ってて下さい」
恐る恐る口を開いた真司をピシャリと撥ねのけた香川は、今のやりとりで
得られた有益な情報を元に、リュウガをあぶり出す方法をいくつか考案し、
それの簡単な見直し作業に没頭していった。
「城戸さん。こちらに」
自分達が香川が考えをまとめる邪魔になると考えた満と仲村は怪訝な
顔をしている真司を隣の空き教室へと連れ出した。
「なんだよ。事情が良く掴めないんだけど」
「俺、なんか悪い事しちゃった?」
「そんなことないですよ」
仲間を失い、自らのあずかり知らぬ所でライダーバトルに介入している
自分と瓜二つの存在に少なからずショックを受けた真司の肩に満は自分の
手を置き、何とか慰めようとした。
「城戸。これは忠告なんだが」
「恐らく残りのライダーが真っ先に狙うのは、おそらくお前だ」
「えっ?」
仲村も香川が次に取ると思われる一手を推測しながら、他のライダー達に
自分達に協力してくれる強力なライダーを奪われる前に、迅速な説得を
試み始めた。
「俺達の陣営は、既に3人のライダーを倒している」
「白鳥、サイ、蛇の契約獣と契約しているライダーだ」
「嘘だろ...じゃあ、美穂は」
「...言いたくない事だが、王蛇を倒した東條に殺されたと思う」
信じたくない現実を知ってしまった真司は、力なくへなへなとその場に
崩れ落ちてしまった。
満はかつて自分が香川研究室に初めて来た際に、ガイを殺した以前の
ライダーについて東條が言及していた事を思い出した。
そうか...
東條が一番最初に殺したライダーは真司の大切な存在だったのか。
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:43:49.58 ID:JcVHvI7Q0
「...東條のした事は殺人だ。決して許される事ではないと思う」
「ああ...だから、だから言ったのに...復讐するなって」
「俺が...俺が...必ずお前を止めてやるって言ったのに...」
「馬鹿野郎...なんで、なんで先走っちまったんだよ....美穂」
瞳から大粒の涙をこぼしながら、それでも真司は懸命に感情を抑える。
「城戸さん。その...美穂さんってどんな人だったんですか?」
「ああ....バカで嘘つきで直情的で素直じゃない女詐欺師だったよ」
「でも....浅倉に殺された家族を、蘇らせようとして一生懸命戦ってた」
「何度も助けようとしたんだ....でも、アイツは復讐に凝り固まってて」
「止めてくれって...お前を失いたくないって...言ったのに...」
堪えきれず、机に突っ伏した真司は悲しみの涙を流し続けた。
自分にさえ手を差し伸べた真司の事だ。
救おうとして、何度も共闘した間柄の相手がもう二度と自分の手の
届かない場所へと旅立ってしまったことに、本気で悲しんでいるに
違いない。
多分、あの秋山蓮が消息を絶ったときもきっと今と同じような状態に
陥ったのだろう。
「城戸。東條は確かに頭のおかしいキチガイ一歩手前の人間だったよ」
「でも、アイツは最後に自分の命と引き替えに浅倉を討ったんだ」
「東條のした事は正当化出来ない。君の涙の元凶はアイツだからだ」
「だけど...100%ある内の1%だけでもいい。アイツを許して欲しい」
「アイツも君と同じような事を考えてこの戦いに命を賭けていた」
「もし、それでも君が東條を許したくないと思うのなら...」
涙を流し、懸命に怒りの感情を封じ込んでいる真司の目の前に仲村は
タイガのデッキを置き、その左手に持った金槌を真司の右手に握らせる。
「このデッキを壊して、ここから出て行ってくれて構わない」
「良いんだな?」
ぞっとするような声音で真司が仲村に確認を取る。
「ああ。東條はもう死んだ。君の復讐に俺は手を貸す事は出来ないが」
「東條が一番大切にしていた『誇り』を君は壊す権利がある」
「さぁ、やるなら....やれ」
仲村の言葉に、決心を固めた真司は躊躇いながらも自分の頭上高く
ハンマーを振り上げ、そのままタイガのデッキへと振り落とした。
ガァアアアアアン!
目を閉じながらも、事の成り行きを見守っていた満は、目を開けた時
タイガのデッキのすぐ隣の机の面が陥没している事に気が付いた。
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:44:18.39 ID:JcVHvI7Q0
「俺は...俺はァッ....!」
「許したくなんかない!でも、でも!」
「美穂は...美穂は...もう、戻ってこない!」
「だから、だから俺はァッ....」
「この戦いを必ず終わらせてやる!終わらせてやるんだ」
「もう、ライダーがこれ以上誰一人として死なない為に!」
葛藤の末、城戸真司は自分の中にある誓いに殉じることを決意した。
ミラーワールドを閉じ、これ以上ライダー同士が戦わないで済むように
する為に自分は戦うのだと決意を改めた。
「城戸さん。力を貸して下さい」
「俺達はオーディンとリュウガを討ちます」
「残っているライダーは俺達を含め、あと6人です」
「オーディンを倒す為に、城戸さんの力が必要なんです」
「だから、この通りです。お願いします」
深々と頭を下げた満を驚いたように見つめた真司は、躊躇う事なく
笑顔を浮かべ、その答えを出した。
「ああ。俺の方こそ、よろしく」
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:44:48.12 ID:JcVHvI7Q0
第二十六話 ユナイトベント
〜ミラーワールド〜
香川英行が城戸真司を自らの陣営に引き入れたのと時を同じくして、
神崎士郎は自らに忠実なライダーを一人手に入れる事に成功した。
由良吾郎。かつて仮面ライダーゾルダだった男の秘書だ。
傷害致死で起訴されただけあり、吾郎の腕力は浅倉には一歩劣るものの
暴力を振るう事への躊躇いのなさと仕える主が死んだ後も、その不変の
忠誠心でライダーバトルを戦い抜く事を決意した男は、最後の一人として
オーディンと戦い、自らが勝利できる可能性を実現させるという契約の元、
神崎士郎の軍門に降ったのだった。
「先生...」
神崎士郎と共にミラーワールドに足を踏み入れた吾郎は、自分の視界に
呆然と空を見上げているマグナギガを捉えた。
既にベルデに変身している為、いつでも臨戦態勢には入れる。
「クリアーベントを使えば気が付かれずにマグナギガの背後を取れる」
「さぁ、行け」
命令とも取れるが、それ以上に良い策が思い付かないのも事実だ。
吾郎はクリアーベントを使い、マグナギガの背後に忍び寄る。
そして、デッキから予め抜き取った契約のカードをマグナギガの背中に
突き刺した。マグナギガは無抵抗のままカードに吸い込まれた。
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:45:38.39 ID:JcVHvI7Q0
「....」
吾郎の胸中に複雑な思いが溢れる。
しかし、秀一が死に残りのライダーがあと六人という状況下で吾郎が
自分の勝率を少しでも上昇させ、秀一を蘇らせるにはこうするしか
方法がないのだ。
マグナギガとの契約を済ませた吾郎は士郎に促され、ミラーワールドを
脱出し、誰もいない廃墟の中で士郎との打ち合わせを再開した。
「これでお前の所持するモンスターは三体に増加した」
「ベルデのデッキにおけるバイオグリーザとマグナギガ」
「そして、秋山蓮から奪ったデッキにおけるガルドミラージュ」
士郎が吾郎から取り上げたミラージュのデッキをコートの中から
取り出し、その中にあるカードを取り出す。
「私からお前に与える選択肢は二つある」
「一つはベルデのデッキとミラージュのデッキの複数使用の許可だ」
「もう一つはデッキを一つに絞り、使えるカードを増加させる許可だ」
ここで神崎士郎の勝利条件を整理してみよう。
香川のオルタナティブを除外した上で残りのカードデッキを数えると、
タイガ、アビス、龍騎、ベルデ、オーディン、リュウガ、ミラージュの
七つが現存している事になる。計算すると両陣営ともにそれぞれが半分の
カードデッキを保持している。
しかし、戦力差はこの時点で明確である。
リュウガとオーディンとタイムベントが士郎の手中に存在する限り、
香川陣営がどのような策を弄したとしても、神崎士郎を完全な形で打倒し、
ミラーワールドを閉じる事は到底不可能である。
故に、神崎士郎は持てる全ての戦力を費やし、ただ香川陣営に属する
全てのライダーを各個撃破する事に注力すれば良い。
そうすればどんなに時間が掛かったとしても、9割を超える高い勝率で
自らに歯向かう香川英行を葬り去る事は不可能ではない。
例え神崎優衣が自らに与えられる新たな命を受け入れる事を拒んだと
しても、ライダーバトルの期限まであと半年残っている。
どんなに優衣が命を拒んだとしても、それまでに例え優衣の意思を全て
無視したとしても、士郎は優衣に新しい命を与えるつもりだった。
そして、その為のライダーバトル必勝の策を練る事を士郎は怠らない。
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:46:31.36 ID:JcVHvI7Q0
「神崎さん。後者の案について詳しく聞かせて下さい」
「良いだろう」
沈黙を破った吾郎の発言に厳かに頷いた士郎は自らの提案を目の前の
ライダーへと語り出した。
「今、お前の手元にはベルデとミラージュのデッキが存在している」
「ライダーは一つ以上のデッキを保持してはいけないことになっている」
「故にお前は主催者である私にどちらか一つを返納しなければならない」
「だが特例として、返納する際にお前は契約モンスターを選択し直す事が出来る」
士郎の理屈を理解した吾郎は躊躇う事なくベルデのデッキを士郎に
返却した。
「神崎さん。俺はマグナギガを契約モンスターに選びます」
「そうか」
士郎はベルデのデッキからカードを全て抜き取り、カードの上に自分の
右手をかざし、なにやら複雑な詠唱を始めていた。
一分も経過しない内に、ベルデのデッキからカメレオンの紋章が消え、
なにも契約されていないブランクの状態へと初期化が為されたその後、
マグナギガを象った深緑のカードデッキが士郎の手の上に現れる。
「これを見ろ」
士郎から手渡された12枚のカードに吾郎は目を通した。
「そうですか...そういうことなんですね」
カード左上に刻まれたそれぞれのライダーの契約の紋章、吾郎にとっては
それがベルデのものではあったものの、今し方士郎に渡されたカードの
契約の紋章は全てゾルダのものへと書き換えられていた。
つまり吾郎はこの時点でどのライダーよりも多くのアドベントカードを
保持している計算になる。その数はおよそ18枚の計算になる。
ライダーバトルにおける数の優位性は既に証明されている。
王蛇サバイブに勝利したオルタナティブ・ゼロや、相手のカードを奪い
有用なカードを得ながら戦いを進めてきたタイガの例に漏れず、カードを
多く持つという事は、それだけ自らが戦況を有利にできるということに
他ならない。
つまり、現時点で最も最強に近いライダーに吾郎は成り上がったのだ。
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:47:06.70 ID:JcVHvI7Q0
隠密と奇襲に長けるベルデ、遠近距離戦に対応できる高火力のゾルダ、
そしてその両方の長所を兼ね備えるミラージュの力が今の吾郎にはある。
1対1で戦えば、まず特殊カードで裏を掻かれない限りは敗北の可能性は
絶無である。
更に、神崎士郎と手を組んだ事により、もし吾郎が何らかの想定外で
他のライダーに敗れたとしても、神崎士郎にとってまだ利用価値があると
判断された場合は、かつての浅倉威がタイガと対峙した時と同様にタイム
ベントで時を巻き戻され、自分が優勢に戦いを進めていた時間まで時を
逆行させられる恩恵を受けられる可能性も生じている。
烈火のサバイブのカードが香川の手に落ちた以上、またリュウガがいつ
自分を裏切るのかが分からない以上、士郎としては吾郎を贔屓する事に
全力を尽くしたとしても、ライダーバトルの早期解決にそれが繋がるので
あれば、躊躇う事なく踏み切れる。
故に、神崎士郎は由良吾郎に更なる恩恵を与える。
「ユナイトベント?」
「ああ。三体のモンスターを合体させる事が出来るカードだ」
ユナイトベントと士郎が呼んだカードを手に取った吾郎はその瞬間、
ある種の悪寒を感じた。
「これを使えば、理論上はサバイブのカードすら圧倒できる力を得る」
「理論上、とは?」
「後はお前次第と言う事だ」
そう言い残した神崎士郎はあの耳鳴りのする金属音と共に姿を消した。
「待っていて下さい...先生」
たとえ神崎士郎の走狗に成り下がったとしても、必ずライダーバトルを
勝ち抜き、秀一を蘇らせてみせる。
そう固く心に誓った吾郎は、自らが得た新たな力を...かつて己を救った
恩人が愛用していたゾルダのデッキを固く握りしめ、決意を新たにした。
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:47:40.41 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜
一方、神崎士郎が奸計を巡らせる中、香川英行は新たに仲間に加えた
城戸真司を交え、これからの方針を語りながら、神崎士郎の策をどのように
突き崩すのかを必死になって考えていた。
満が考えついたリュウガ攻略法と書かれた乱雑に書かれた十数ページに
わたる神崎士郎の牙城を突き崩す策は、確かに一考に値する策だった。
満の策はこうだった。
まず、香川と真司がオーディンを足止めし、その隙に仲村がコアミラーを
量産型オルタナティブ部隊を率いて破壊し、コアミラーの守護を担う
リュウガと満が交戦するという少し頭を捻れば、誰でも思いつく策だった。
しかし、今まで神崎士郎に対する先入観で士郎の行動パターンを推測
しながら戦いを進めてきた香川の目を惹いたのは、満が今まで自分達が
思いもよらない視点から神崎士郎の、オーディンの行動をある程度こちら
の思い通りに動かせるように仕向けるというアプローチだった。
タイムベントの動力源に使われているのがサバイブのカードだとしたら?
もし真司がリュウガに乗っ取られたら、どうすればリュウガから分離を
させられるのだろうか?
タイムベントをオーディンから奪い、ライダーのデッキごと破壊すれば
オーディンはタイムベントを二度と使えないのではないのか?等々、
今までオーディンや神崎士郎と対峙しながら、その牙城を崩せなかった
香川にとって満が捻りだした渾身の策はまさに値千金の価値を持っていた。
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:48:15.28 ID:JcVHvI7Q0
「驚いたな...まさかこんなこと考えついてたなんて」
「いやぁ...でも、まだ足りないんですよ。仲村先輩」
まさか満がこんな策を捻り出すとは思いもしなかった仲村が目を白黒
させながら、その作戦が書かれた内容に目を通している。
「凄えじゃん!これなら神崎の暴走を止められる!」
真司は満の背中をバシバシと叩きながら素直に満が考えついた策を
絶賛していた。
「城戸君。神崎優衣さんと連絡を取りたいのですが」
「え?ああ。はい。優衣ちゃんはこの時間帯は花鶏にいると思います」
はっとした顔で何か重要な事を思いついた香川は真司にこの作戦の
鍵を握るであろうキーパーソンである神崎優衣との対談を望んだ。真司も
香川のただ事ではない様子に真剣な面持ちになり、携帯電話を取りだし
優衣の電話番号に掛けたのだった。
3コール後...
「もしもし?どうしたの真司君?」
「あっ、優衣ちゃん!今さ、時間あるかな?」
「優衣ちゃんに話を聞きたいって人がいるんだ。かなり偉い人だよ」
「う、うん。あのね、真司君」
「なんだよ優衣ちゃん?歯切れ悪いよ」
真司の携帯から漏れ聞こえる神崎優衣の声は、まるで何かに怯えて
いるような、そんな声だった。
「あなた、本当に真司君なの?」
「えっ?」
その一言を聞いた瞬間、香川は何かに気が付いたように猛烈な勢いで
破ったノートの切れ端にある一言を書き殴り、それを真司に渡した。
真司は最初、ノートに書かれている事を理解できずにぽかんとしていたが
仲村が神崎士郎に何かを渡されている真司の写真を見た時に、全ての得心が
いった。
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:49:28.06 ID:JcVHvI7Q0
「優衣ちゃん。落ち着いて良く聞いて、俺の質問に答えて欲しい」
「今日の俺のTシャツはどんなTシャツだった?」
「えっと...赤と白のサッカーみたいなシャツで...」
「背中の背番号が大きく08って書かれてたよ?」
その瞬間、真司は大きく息を吸い込み携帯電話に思い切り怒鳴った。
「真一!優衣に手を出すな!」
耳をつんざく大声と共に、優衣と真司をつないでいた携帯電話の
通話ボタンが切れた。
遂に未知のベールに包まれていたリュウガの正体が完全に明らかに
なったことに、香川陣営に緊張が走った。
「....話は後っす。とりあえず、今は全員で花鶏に行きましょう」
真司を信用すべきか、排除すべきか?
その考えがありありと顔に出ている二人の仲間を窘めながら、満は
真司を促し、花鶏への道を急ぐのだった。
仮面ライダーリュウガと城戸真一。
はたして真司と真一の関係はいかに?
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:50:37.97 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
香川英行とその仲間が神崎優衣がいるであろう花鶏へと向かっている頃、
当事者である優衣は自分の部屋に戻ってきた真司...否、ミラーワールドに
存在するもう一人の真司と相対していた。
「優衣、話がある」
「やっぱり、その呼び方...。あなた真一君ね?」
「ああ。隠すまでもない事だからな。そうだ、真一だ」
ベッドに腰掛けている優衣に平然とそう言い放った城戸真一は
弟である真二が花鶏に付くまでの間の僅かな時間に優衣と語らう事にした。
「神崎の阿呆は、まだお前に新しい命を与える事に固執しているのか?」
「うん。お兄ちゃんはずっとそればかりを考えてるの」
「なまじ頭がいいだけタチが悪いな。ま、俺もアイツの事は悪く言えないが」
自嘲を込めながらも、士郎が行っているライダーバトルをどこか皮肉
めいた表情で辛辣に突き放す真一の顔は邪悪な笑みを浮かべていた。
「なにせ、お前の好意を最大限利用しているのは俺の方だからな」
「約束を守れよ、優衣。なにせお前は...」
「俺を見殺しにして、真二を助けたばかりか」
「俺という存在をミラーモンスターにまで貶めた大罪人なんだからな」
そう言い残した真一は、現実世界の滞在限界時間を告げる身体から
立ち上る粒子を確認した後、優衣の部屋にある姿見の中へと姿を消し、
高らかに笑いながら、疾風のサバイブのカードをデッキへと入れたのだった。
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/23(火) 12:52:40.25 ID:JcVHvI7Q0
ボスキラーの真司君とボスキャラになったゴロちゃんが香川、神崎陣営にそれぞれ与したところで今日の投稿は終わりです。
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/23(火) 17:31:30.81 ID:mPHPRik90
スレタイ的にゼール軍団をひきいて佐野が無双する話かと思ったらアビスだったでござる
まぁ貴重な龍騎ssだし最後まで期待してる
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/23(金) 03:38:44.50 ID:OAYoiVfX0
保守
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/06(水) 15:25:44.65 ID:uKkNqvJu0
まだかよ
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/09/10(日) 11:31:20.18 ID:a3vNOaub0
うわぁ……一気読みしたんだけどすごいところで止まってる……
てか、もうこれハーメルンとかの小説投稿サイトで連載してもいい線生きそうな気がする内容だよ……
それで、
>>1
は生きてる?仕事とかが忙しいの?
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:23:15.57 ID:Nkr8DRMT0
>>405
さん、
>>1
です。ありがたいコメントありがとうございます。今就活中です。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:24:28.41 ID:Nkr8DRMT0
第二十六話 過去と今と未来
「優衣ちゃん!」
まるで見計らったかのように自分の部屋に真司が飛び込んできたのは、
真一がミラーワールドへと姿を消してから五分後の事だった。
「な、何?真司君、この人達は一体誰なの?」
自分の部屋にずかずかと入り込んだ三人の見知らぬ男に気後れしていた
優衣だったが、真司の口から蓮と手塚が既に命を落としている事と、
これ以上のライダーバトルの長期化を防ぐ為、香川とその仲間の下で
真司がミラーワールドを閉じるべく動いている事を聞いた事により、
やはり自分は生きていてはいけない存在なのだと改めて自覚した。
「ああ。だから優衣ちゃん。ミラーワールドについて知っている事を」
「うん。いいよ。教えてあげる。だけどね」
「ミラーワールドについて教える前に真司君に聞きたい事があるの」
「聞きたい事って?」
「貴方のお兄ちゃんの事、真一君の事を覚えている?」
真一という言葉が優衣の口から飛び出した時、真司は嫌悪感も露わに
露骨にその話題を避けようとした。
しかし、香川は真司が避けようとした話題について、リュウガという
存在に迫る核心部分を語るように強要した。
「城戸君。我々には情報が必要なんです」
「神崎士郎の牙城を崩すには、まずリュウガの攻略が必須です」
「お願いです。どうか、教えて下さい」
「...わ、分かりましたよ。でも、あまりいい話じゃないですよ」
そう前置きした真司は、渋渋ながら自分と真一の過去について訥々と
しゃべり始めたのだった。
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:25:06.76 ID:Nkr8DRMT0
「俺には昔、真一って言う名前の一個上の兄貴がいたんです」
「兄貴は小さい時から...なんていうのかな、とにかく乱暴でした」
「小学生の頃から見境なく誰にでも暴力を振るう...その、粗暴というか」
「一歩間違えれば浅倉みたいになるような、危ない人間でした」
「でも、分からないんですけど、真一は俺だけを例外扱いしていました」
「お前は俺の弟だ。だから大切にする。手は上げない」
「一度だけ兄貴とケンカした時に、兄貴からそう言われました」
忘却の霞がかかった記憶をたぐりながら、真司は真一がどのような
末路を辿ったのかを語り始める。
「俺が中三の時、兄貴は刃物で心臓を一突きにされ、命を落としました」
「兄貴に恨みを持つ連中に、兄貴に間違われた俺を庇ったからです」
「俺もその時に頭をバットでぶん殴られ、意識不明の重体になりました」
「俺が兄貴について思い出せるのは、ここまでです」
「なんで兄貴がライダーになったのかまでは、検討がつきません」
真司の持つ情報だけでは、まだ不十分だ。
そう、真司を除く三人は考えた。
何故真司の兄がリュウガとなり、神崎士郎に手を貸しているのか?
そして、その全てを知っているたった一人の証人が、目の前に座る
神崎士郎の妹なのだ。
神崎士郎に介入される前に是が非でも、優衣から情報を引き出せる
だけ引き出さなければならない。
そう判断した三人は、焦りを押し殺しながら優衣に対していくつかの
質問を開始した。
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:25:42.72 ID:Nkr8DRMT0
「君と、その城戸さんのお兄さんはどんな関係だったんだい?」
まず最初に口を開いたのは満だった。
「.....」
しかし、優衣は気まずそうに満から視線を逸らし、その質問に回答
することを避けた。
「じゃあ、君は何者なんだ?どうして神崎士郎は君に固執する?」
次に質問した仲村も優衣は冷たく黙殺した。
「優衣ちゃん!答えてくれないと話が前に進まないよ!」
苛立った真司が優衣に二人の質問への返答を促すが、当の優衣は
ただひたすらに沈黙を守り続けるだけだった。
「....」
埒があかない。このまま神崎優衣が口を割らないままだったら、恐らく
そう遠くないうちに、神崎士郎は情報の漏洩を防ぐ為、どのような手を
使ったとしても、必ず自分の妹を攫い、自分の傍に置くだろう。
そうなってしまえば、もうおしまいだ。
だが、香川英行は周到な下準備を怠っていなかった。
「神崎さん。私には息子がいるんですよ」
「これを、見て頂けますか?」
香川は自分のビジネスバッグの中から、細長い筒の中に丸められた
一枚の画用紙を取り出し、それを広げて優衣の視界に入るように広げた。
「それは、香川さんの絵ですか?」
「はい。息子が保育園のお絵かきの時間で書いてくれた私の絵です」
香川の息子が書いたというその絵は、いかにも子供らしい絵であり、
香川の顔の原形すら捉えていない丸と四角の配置だった。
「下手でしょう?でも、私は一目見てこれは私だと理解できたんです」
「何故ですか?」
「この絵には私に対する息子の想いがこもっているから、ですよ」
そう言うと、香川は画用紙をひっくり返し、自分の息子が何を考えて
この絵を描いたのかが説明されている題名を読み上げた。
香川の息子が描いた絵の題名は『パパは家族の味方』という題だった。
「たとえその真意がどれだけかけ離れていようと、本質は変わりません」
「息子にとって私は、家族を守り、守らなければならない英雄であり」
「神崎君にとって君は、愛おしみ守り通さなければならない家族なのです」
「裏を返せば、それだけ神崎君は君の愛に飢えていると思われます」
「だから、神崎君と君は互いを守る為に鏡の世界の力を借りた」
「それが、ミラーモンスターの正体なのでしょう?」
まるで自分と士郎の全てを見透かすような香川の言葉に、優衣は
己の身体の震えを止める事が出来なかった。
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:26:13.75 ID:Nkr8DRMT0
「はい....」
絞り出すように神崎優衣は香川の問いに返事を返した。
「お兄ちゃんと私は、早くに両親を亡くしました」
「私達の両親は...私に虐待を加え、お兄ちゃんは私を庇ってくれました」
「そして、その虐待のせいで私は小学生の頃、死にかけました」
堤防が決壊したダムのように優衣は怒濤の如く、自らが辿ってきた
半生をこの場にいる四人へと聞かせ続けた。
「お兄ちゃんは、昔から頭が良く、よく未来の事を当て続けました」
「優衣、この日は外に出るな。あそこの交差点で車が事故を起こす」
「優衣。今日は友達の家に泊まれ。父親が職を失いお前に当たり散らす」
「まるで占い師のようにお兄ちゃんは未来に起きる事を予知し続けました」
「まさか....」
優衣の告白に大きく目を開いた真司は、ハッとした表情で優衣を
見つめた。
「うん。真司君が思っているとおりの事が起きたんだ」
「私は昔、真司君と真一君に出会っているの」
「どうして君が...まさか!?」
真司の顔がみるみるうちに青ざめていく。
震える手で真司は龍騎のデッキを慌てて取り出した。
自らが契約しているドラグレッダーのカードを引き抜く。
それはまるで過去に自分が優衣から貰った絵と今、自分が持っている
赤い龍の絵を見比べているようだった。
「さっき、私が何者かを聞いた人がいたよね?」
「私はかつて人間だった存在、今は人間の姿を取った『何か』だよ」
カラカラと音を立て、真司の手から龍騎のデッキが落ちた。
優衣の放った衝撃の一言に、真司もあの冷静な香川でさえ動揺を
隠す事が出来なかった。
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:26:47.78 ID:Nkr8DRMT0
「私は十数年前に死にかけ、一度命を落としたの」
「お兄ちゃんは本当に嘆き悲しんだんだ」
「未来を見る力、厳密に言えば少し違うけど」
「少し違う?神崎さん、その力の内容をもっと具体的に教えて下さい」
「私も良く理解は出来ていないんですけど...なんというか、その」
「隣り合わせの鏡を覗き込んで、いくつもの未来を垣間見る」
「私がお兄ちゃんから聞けたのは、そこまでです」
神崎優衣の言っている事はおそらく並行世界の概念のことだろう。
ある一つの世界で選択されなかった選択肢の可能性が実現された世界。
神崎士郎はそういった膨大なパターンの中から、自分にとって都合の
良い結末が訪れた未来を垣間見れるらしい。
「未来を垣間見る?ということは、神崎君はそれを自由に出来ると?」
待てども待てども神崎士郎の手の内を知る事が出来なかった香川にとって
優衣からもたらされた情報はまさに天恵そのものだった。
超能力は香川の専門外だが、現に科学という枠組みに落とし込まれたの
であれば、まだ幾らでも対処のしようがある。
例えば一つのある未来に、ここでは神崎優衣に士郎がライダーバトルの
勝者の命を与え、優衣が新たな生を得る事象へと全ての現象が収斂すると
仮定する。
神崎士郎単体で未来予知が出来るとは考えにくい為、ミラーワールドを
存在せしめているコアミラーのなんらかのバックアップ機能を行使しつつ
隣り合う、あるいは並行し合う幾重にも重なり合ったミラーワールドから
オーディンが勝利する未来を観測出来るとする。
この際、神崎士郎は自分が可能な範囲で可能な限りライダーバトルに
おける不安要素を完全に取り除こうとするはずである。
しかし、未来は常に不安定で定まらない。
オーディンが勝利する未来があるとすればその逆もまた然り。
問題は、神崎士郎の未来を垣間見るという最悪の能力がどれくらいの
精度と範囲に適応されるかである。
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:27:37.42 ID:Nkr8DRMT0
同じ未来を知る事が出来るという能力であっても、ある一つの未来を
垣間見れるだけなのか、それともこれから起きうるある一つの結末としての
未来を予知できる能力なのか。それだけでも香川達が直面する事態は
大きく変わってくる。
しかし、神崎士郎の試みも最初から順調というわけではないようだ。
頭の中の自分が囁いたその言葉に、思わず香川の顔に笑みがこぼれた。
「すいません。神崎さん、お話しの続きを聞かせて頂けますか」
思考の堂々巡りに突入しようとしている自分に気が付いた香川は、
おっかなびっくりな表情で自分を見つめている優衣に話の続きを促した。
「はい。じゃあ、続きを話しますね」
「お兄ちゃんは、その力を使って私が死ぬ未来を見ちゃったんです」
「お兄ちゃんが言うには、その...私は親の虐待で命を落としたそうです」
「でも、未来を見て変えられるだけ神崎士郎は頭いいんでしょ?」
「だったらなんで、ライダーバトルなんて面倒臭い事するんだよ」
満の指摘に優衣はこう切り返す。
「その力を以てしても、どんな手を使っても私の死は回避できなかった」
「でも、お兄ちゃんは私に仮初めの命を与える事に成功したの」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何が何だか、俺には分からないよ」
あまりにも突拍子もない真実に困惑を隠せない真司だったが、優衣は
そんな真司の抗議を聞き流し、どんどん話を進め始める。
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:28:49.81 ID:Nkr8DRMT0
「では、ミラーワールドに貴方達兄妹はある程度干渉できる」
「例えば、ミラーモンスターを創造し、それを使役したり」
「時間を巻き戻す等の主催者権限を持つ存在」
「そう言う前提で、私は貴女方を認識すればいいんですか?」
「はい。私達は人の輪から外れたイレギュラーな存在です」
優衣の言葉にようやく得心がいった香川は、かねてから聞こうと思って
いたいくつかの質問事項を優衣にぶつけ始めた。
「神崎さん。いくつか答えて欲しい事があります」
「まず一つ、ミラーワールドには魂と肉体の概念はありますか?」
「あります。けど、ミラーワールドは一種の虚構世界です」
「現実世界に干渉は出来るけど、いずれその影響はなくなります」
「つまり、ミラーワールドの住人は現実世界に永遠に留まれない」
「はい。現実世界の人がミラーワールドに長く留まれないのと同じです」
「次に、城戸真一はどうしてミラーワールドの住人になれたのですか?」
「私が兄に頼んで彼をミラーワールドの住人にしました」
本当に唐突に明かされた城戸真一というミラーワールドの住人の過去。
真司は驚きと困惑を未だどこにぶつければ良いのか途方に暮れていたものの、
優衣の口から明かされる真一の最後を黙って聞き届ける事にした。
「真司君、子供の時に公園である女の子に出会った事を覚えてる?」
「えっと...確か、俺が小学生だった時だよな?曇りの日だろ」
「うん。その時の私が死んじゃった神崎優衣だったの」
「だけどさ、確かに俺は過去に優衣ちゃんと出会ったかも知れない」
「けど、だったら兄貴は?兄貴はその...いつ君と出会ったんだよ?」
「俺が君から赤い龍の絵を貰った後に兄貴と出会ったのか?」
「うん。ちっちゃい頃の真司君と真一君はそっくりだったから...」
「鏡の私と本当の私が融合した後に、私は真一君に出会ったの」
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:29:37.78 ID:Nkr8DRMT0
要領を得ない優衣の話を簡単にまとめると以下の通りになる。
ミラーワールドの自分と融合する前の優衣は城戸真司と出会っていた。
そして両親からの虐待を受け続け、死んでしまった現実世界に生きる
神崎優衣とミラーワールドの神崎優衣が一つになった後、即ち真司と
出会った数ヶ月後に真司の兄である真一に今ここに存在する神崎優衣が
出会ったということになる。
優衣の話は更に続く。
「真一君が殺されたあの日、私はあそこにいた」
「真司君は頭から血を流していて、真一君はその時には、死んでいて」
「私...私は、もうどうすれば良いのか分からなくて...」
「そしたら、お兄ちゃんが...」
神崎優衣の嘆きに応えるように神崎士郎がその姿を現した。
「二人を蘇らせてって....その時の私はそれしか思いつかなくて」
「それでお兄ちゃんはダメだって言って...それから」
お前が救いたい方を選べと、神崎士郎は妹に提案したらしい。
そして神崎優衣は今ここに立っている城戸真司を生き返らせてくれと願い、
神崎士郎はその通りにしたのだそうだ。
神崎士郎は真一と真司の胸に手を当て、自分の懐から光り輝く「何か」
を二つ取り出し、自分の胸から取り出した「何か」を真一の胸に押し当て、
もう一つの「何か」を真司の胸にそれぞれ押し込んだ。
「優衣。もう大丈夫だ」
「今の俺の力では一人を生き返らせるので手一杯だ」
「だが、安心しろ。城戸真一も死なせない」
「奴は、お前と同じ存在になるんだ」
その一言と同時に、真一の姿はあっという間に光の粒と化して士郎の
手に持つ小さな鏡の中へと吸い込まれていった。
その「何か」というのが全く見当がつかない四人だったが、ただ一人
香川だけは神崎士郎が城戸真一にコアミラーにかかわる何かを挿入し、
自分の理論の不足部分を補ったのではないかとあたりをつけていた。
更に深く考察するのであれば、ミラーモンスターが鏡から自分の姿を現し、
人間を攫うのと近い仕組みを城戸真一の身体に組み込んだのではないのだろうか。
人間の身体にミラーモンスターのコアを埋め込むハイブリット化。
それが仮面ライダーリュウガの在り方として一番信憑性の高い仮定だ。
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:31:18.54 ID:Nkr8DRMT0
「神崎さん。俺はあんたの言ってることを信じることにするよ」
香川と真司と満の三人が黙りこくる中、仲村創だけが神崎優衣との
会話を続けていた。
「その上でいくつか質問したい。答えられるだけ答えてくれ」
「まず一つ、君はいつから鏡の中の城戸真一に出会ったんだ?」
「....ミラーワールドの真一君と出会ったのは、あの日の一週間後です」
「お兄ちゃんに連れられてミラーワールドに入った時」
「真一君は、あの日と変わらない姿で私の前に現れました」
「その時、城戸の兄貴は君に何を言ったんだ?」
「恨み言か?それとも感謝なのか?」
「....言いたくありません」
「そうだよな。考えてみれば意味不明な存在にされちまったんだもんな」
「俺だったらぞっとするなぁ。誰もいない鏡の世界で独りぼっち」
「人一人いない世界で動くものと言ったらミラーモンスターしかない」
「君と同じ存在の神崎士郎だっていつまでもそいつの傍にはいられない」
「そりゃ弟である城戸を恨むわけだ」
「神崎がいかにも考え付きそうな姑息で卑怯な手段だな」
「ミラーワールドで活動するライダーにこれ以上の適任者はいないよな」
「なにせ時間無制限でライダーの力を揮う事が唯一可能な被験体」
「ようやく合点がいったぜ。城戸の兄貴は君を守るシステムなんだよ」
「城戸の兄貴の生きたいって思いを利用したこれ以上ない卑劣な策だよ」
仲村の私怨まみれの糾弾は、まさに正鵠を射ていた。
優衣の話は真実である。
もしその真実が九割がた合っているのであれば、城戸真一は自らの生死が
曖昧な状態で数年間ミラーワールドで孤独に過ごしている事になりかねない。
並の人間であればいつ発狂してもおかしくない状況である。
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:32:48.18 ID:Nkr8DRMT0
「兄貴....」
真司の顔が悲痛な表情を浮かべる。
たとえどんなに乱暴な兄だったとしても、真司に対しては暴力を振るう
どころか、良き兄として自分とともに育ったかけがえのない存在である。
そんな大切な存在が自分のせいで今も苦しんでいるとなると、真一をして
特別な存在と言わしめた真司にとって、その結末はあまりにも酷すぎた。
「優衣ちゃん...。じゃあ、真一は、俺の兄貴は」
「ミラーモンスターに、なっちまった...ってことなのか?」
「違う!真一君はミラーモンスターじゃない!私と同じ存在よ!」
真司の悲しみに満ちた視線に耐えきれず、神崎優衣は真司の問いかけを
真っ向から否定した。
しかし、その否定に対して懐疑的な視線を向ける男がいた。
「神崎さん。じゃあ、ミラーワールドにはどうして人がいないんだ?」
今まで疑問に思っていなかった当然のように受け入れられていた鏡の
世界における最大の疑問点に満が突っ込んだ質問をした。
「だって、鏡の中の神崎さんとと現実世界の神崎さんが合体したんだろ」
「だったら、そこら辺を歩いている人も同じじゃないとおかしいじゃん」
リュウガの正体に迫ろうとする質問に図星を突かれた優衣はその問いかけにあえて答えず、
逆にミラーワールドとは何かという問いかけに対し、その真実を満達に返した。
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:33:30.92 ID:Nkr8DRMT0
「佐野君。鏡に映ってる景色とミラーワールドは似て非なるものなのよ」
「鏡に映ってる景色はあくまでも、この世界の有り様を反映しているだけ」
「ミラーワールドはこの世界と隣り合う世界の狭間の領域」
「つまり、今ここにある世界と並行世界との境界線がミラーワールドなの」
優衣の口から飛び出たミラーワールドの正体に、香川達四人は絶句した。
「じゃあ、コアミラーっていうのは一体何なんだ?」
「ミラーモンスターを生み出したり、ミラーワールドを作ったりする...」
「コアミラーは、ミラーワールドと隣り合う世界をつなぐ境界線よ」
優衣の口から次々と明かされる驚愕の真実に、仲村は衝撃を受けながら、
一縷の望みを賭け、優衣に最後の質問をした。
「つまり、ああ畜生...ってことはそれを使って世界を行き来出来るのか」
「はい」
「並行世界がある分だけ、コアミラーも鏡の世界も存在するって事なのか」
「そうです」
「なんてこった....」
へなへなと力なく崩れ落ちた仲村は虚ろな目で優衣の部屋の天井を
見つめ始めた。
仲村が何故ショックで放心状態になったのかを残る三人も痛いほど
理解していた。
ライダーの戦いは、神崎士郎が願いを叶えるまで永遠に続くのだと。
仮にこの世界の神崎士郎の野望を打ち砕く一歩手前の状態まで辿り
ついたとしても、タイムベントのカードとコアミラーが神崎士郎の手に
ある以上、時を巻き戻されてしまうのは明々白々。
つまり、
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:34:02.04 ID:Nkr8DRMT0
「たとえ、この並行世界にいる神崎君を倒しても意味は全くない」
「我々の最後は有り得た筈の一つの世界の結末。そういう事ですか」
「並行世界ではなく、単一世界の話であればまだ救いはあったものの...」
憤懣やるかたない表情で近くにあった壁を香川が殴った。
当然だ。
『多くを救う為に一つを犠牲にする勇気』を掲げて英雄たらんとし、この
ライダーバトルを終結させる為に奔走し続けた男にとって、優衣の口から
飛び出た残酷な真実は耐えきれない程の屈辱でしかなかった。
東條が死んだ。自分に協力してくれた六人の疑似ライダーが落命した。
そして今、残った仲間達の命が危険に晒されようとしている。
しかし、今の香川には自分が掲げたエゴを貫き通すだけの強固なまでの
傲慢ともとれる強烈な自負心が消え去ってしまっていた。
自らが掲げた理念は全て無駄だったということを悟ってしまったからだ。
東條の死は無駄死で、疑似ライダーは浅倉への復讐を果たせないまま
神崎士郎に反目し続けた自分のとばっちりを食って全員が焼き殺された。
(なにが、多くを救う為に一つを犠牲にする勇気だ...)
(なにが英雄なんだ...!!)
結局自分は、自分の口から出た自分でさえ理解できていない一見、高邁に
見える体の良い詭弁で、自分のエゴを満たす為だけに何も知らない無知な、
出会う筈のなかった人々の未来と運命を狂わせた最悪の道化でしかなかった。
いつ神崎が自分の家族を人質にとってくるのか分からないんだぞ?
いつまで悠長にしているんだ、香川英行?
「くっ...そぉ....」
己を口先だけの役立たずと卑下した香川は、人目をはばかる事無く
ボロボロと涙をこぼし、泣き崩れた。
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:34:32.89 ID:Nkr8DRMT0
神崎士郎はライダーバトルの完遂を狙うだろうし、神崎陣営に与する
ライダー達もそれぞれの思惑はあれど、神崎士郎と同様に自らの願いを
叶えるべく動き出している筈だ。
「神崎さん。ちょっといいですか?」
ただ、何をすれば良いのか分からない三人に対して、満だけが不自然な
までに冷静な対応を取っていた。
優衣を部屋から連れ出した満は、階段を降り、休憩時間中で誰も人がいない
花鶏のホールのテーブルの前に立ち、優衣との先程の話の続きを再開した。
「神崎さん。アンタは、これからどうしたいんですか?」
「アンタと、アンタの兄貴のせいで俺達は死ななきゃいけないんですよ」
「香川先生も、仲村さんも、城戸さんも、家族と未来がある身なんです」
「断じて、化け物風情に捧げる生け贄になんかなっちゃいけない人なんだ」
「香川先生にはな、アンタが死んだ時と同じ位の歳の息子がいるんだぞ?」
「アンタとクソ兄貴と違って、幸せ一杯に毎日を過ごしてるんだ!」
「アンタが生きているせいでしなくてもいい尻拭いを先生はやってんだよ」
神崎士郎がライダーとして選んだ人間達の命を無価値なものだと断じる
ように、佐野満も人間ではない神崎優衣の命を無意味なものと断じた。
何故自分はこんなことを言っているのか?
それすらも理解し切れていない満だったが、ただ一つだけ理解できている
真実があった。
それは、神崎士郎は神崎優衣の為に命を張るということだった。
そして、それしか自分達が神崎士郎の仕組んだライダーバトルに勝てない
ということも満は理解していた。
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:35:22.47 ID:Nkr8DRMT0
「アンタを責めても、今更俺達が死ぬ事には変わりは無いんだよ」
「だけどさ、もし罪悪感ってものがアンタにあるのなら...」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ満は今から自分が言わんとする事を優衣に
告げる事を躊躇した。
神崎優衣も被害者には相違ないし、神崎士郎が優衣を生き返らせる事に
腐心する理由も満には理解できていたからだ。
神崎士郎は『家族』という幸せが欲しかったのだ。
普通に生きていれば、手に入る平凡な幸せが。
朝起きたら、父と母と妹が自分にほほえみかけてくれる幸せ。
昼には学校で友と未来を語らい、友情を育む幸せ。
夜には両親と妹と友に眠り、また次に訪れる朝を共に迎える幸せ。
だけど、現実はそうはならなかった。
士郎は天才であるが故に孤独に苛まれ、優衣は親に愛される事無く
虐待によって命を落とした。
更に運の悪い事に、ミラーワールドなんて言う訳の分からない物と出会った
士郎は自分の幸せを実現してくれるたった一人の肉親を蘇らせる為に自分の魂を
売り渡してしまった。
それが全ての始まりだった。
神崎兄妹がどのような言葉を尽くしても、佐野満はそれを全て否定する。
なぜなら、満は愛する家族の死を受け入れ前へと進んだからだ。
だからこそ、今の満には過ぎ去りし過去に囚われ続け、未来なんか
何一つ見ていない神崎士郎の所業を真っ向から否定できる。
「俺達は、これからアンタの兄貴を殺してでもライダーバトルを止める」
「妹のアンタにも責任の一端はあるから、ケジメをつけて貰う」
「それでもさ、アンタに罪がないのは俺達四人とも理解しているんだ」
「だからアンタも命を賭けて、神崎士郎の暴走を止めてくれ」
「それが、自然の摂理をねじ曲げてまで生き残ったアンタの罪の贖いだ」
満の言葉に、優衣は涙に濡れた瞳で返事を返した。
「分かりました...」
「ああ」
優衣が深々と頭を下げたの見た満は、そのまま部屋を出ようとした。
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:36:20.20 ID:Nkr8DRMT0
「待ってください」
ドアノブに手を掛けた満の背後から優衣の声が聞こえた。
後ろを振り返ると、優衣は自分の鞄の中からある物を取り出していた。
それは何年も使い込まれた薄汚い小さな鞄だった。
「これは?」
「お兄ちゃんが隠していたミラーワールドの情報とカード...です」
その一言を伝え終わった瞬間、神崎優衣は糸の切れた人形のように
床に崩れ落ちた。
満は崩れ落ちた優衣に目もくれず、鞄の中を一心不乱に漁っていた。
そして神崎優衣は、満にある一枚のカードを渡した。
「神崎さん。このカードはなんですか?」
「それは、切り札...お兄ちゃんを止めるための切り札です....」
満はそのカードを自らのデッキへと加えた。
「後...鞄の中にはコアミラーの欠片とブランクのデッキがあります」
「コアミラーの欠片とコアミラーは惹かれ合う性質があります」
「だから、これを使えばコアミラー本体の場所に行けるか....ら」
満は徐々に爪先から粒子化していく優衣を黙って見つめ続けていた。
ライダーがミラーワールドでの活動限界時間を迎えるのと同様に、神崎
優衣という存在も現実世界での活動限界時間(いのち)が尽き始めている。
別にこの女が死んでも死ななくても満にとっては痛くも痒くもないが、
被害者気取りでこのまま死なれるよりも、神崎士郎が隠し続けざるを得ない
情報を差し出したことだけは、神崎優衣もまた神崎士郎のという凶人の
被害者の一人だったという事実を、確かに認めなければならない。
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:37:05.70 ID:Nkr8DRMT0
「お願い...お兄ちゃんを、止めて」
それと同時に、優衣の部屋でも部屋に残った三人が慌ただしく動く音が
聞こえ始めてきた。
「佐野!」
階段を慌ただしく降りてきた仲村が倒れ伏している優衣の傍で所在なく
立っている満へと声を掛ける。
「大変だ!香川先生の家族が攫われた!」
「なんだって!」
部屋に倒れ伏している優衣に視線を向けた仲村は、一刻も早く自宅へ
戻りたそうにしている香川と目配せをしながら、満に同行を求めた。
「仲村君。城戸君と先に車の中で待っていて下さい」
「どうやら、私にも東條君と同じ選択の時が来たようです」
自分を見つめる満の視線に、何かを感じ取った香川は部屋の外で待つ真司と
仲村に階下で待つように指示を出し、満と二人きりになるように状況を整えた。
「多くを救う為に一つを犠牲にする勇気、でしたよね?」
「でも、先生。家族を人質に取られたまま本気で戦えるんですか?」
「俺はね、先生が家族を救う為に俺達を犠牲にするんじゃないか?」
「先生の覚悟が揺らいでいるんじゃないかって疑っているんですよ」
「...」
「確か、最初に先生は言ってましたよね?」
「神崎優衣を殺せば、全ての戦いが終わるって」
「でも、大分最初の予定からずれてしまいましたね」
「どうしますか?今、ここで、神崎優衣を殺しますか?」
満の言葉に、香川の顔が複雑そうな表情を浮かべた。
公私混同をしているつもりはなかった。
いつかはこうなる事を予測していた。
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:37:35.24 ID:Nkr8DRMT0
「先生は、自分が死ぬ事を恐れてるんじゃないんですか?」
満の言う通り、香川は死ぬ事を恐れていた。
愛する家族を残し、この戦いで命を落とす事を恐れていた。
それでも、それでも...自分は家族を、仲間を失いたくない。
だが、二つを守る事の両立はもう出来なくなってしまった。
リュウガの正体を知ったとして何になる?
未だに神崎士郎とオーディンの牙城を崩す手がかりは何も得ていない。
時を逆行させるタイムベントとミラーワールドにおける全ての事象を
思いのままに操れるコアミラー、そして三枚の強化カードの秘密。
この間までの自分ならば、無策のまま神崎士郎の逆鱗である神崎優衣に
接触を図ろうとはしなかったはずだ。
タイムベントの攻略方法はともかく、サバイブとコアミラーに対する
何らかの対抗手段を整えてから満を持して動いただろう。
心のどこかで、油断があった。
家族を求め、家族を守るという一点において神崎士郎は未だ人間性を
保っているのではないかと無意識のうちに、自分に降りかかる最悪の
可能性から目を背けてしまっていた。
その結果として、もう取り返しの付かないところまで自分の妻子は
追い込まれてしまったのだ。
家族を取り、オルタナティブのデッキを捨て、仲間を見捨てる。
仲間を取り、オルタナティブとして戦い続け、家族を見捨てる。
神崎士郎が香川英行に提示した条件はこの二つだった。
タイムベントを封じる手立てがない以上、今から赴く戦場では必ず
誰かが命を落とすのは明白だった。
無策のまま闇雲に戦う事の愚かさを香川は身に染みて理解している。
理解しているが故に、今も答えの出ない堂々巡りの思索の中に囚われ
続けているのだ。
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:38:24.70 ID:Nkr8DRMT0
(典子、裕太...)
幸せにすると誓った。何故なら自分が愛して愛し抜いた家族だからだ。
どんな艱難辛苦であっても、必ず撥ねのけ、粉砕すると誓った。
だが、自らが掲げた理念の中に香川は家族を含められなかった。
いかに神崎士郎とは言え、人の道に外れた事はしないだろう。
甘かった。
自分の秘密を握る最も厄介な敵を神崎士郎が野放しにする訳がない。
電話越しに泣き叫ぶ息子の声が頭の中で反芻される。
「パパ助けて!ママが鏡の中に引きずり込まれちゃった!」
「うわぁ!やだやだやだあああああああああああああああ!!!」
「助けてえええええええええええ!!!」
「ああ。そっか...だったら、みんなはぼくをみとめてくれるよね?」
「これで、わかったでしょ?」
「きみより、ぼくのほうがせんせいにふさわしいって」
家族が今も自分の助けを待ち続けている。
愛する者を守れない恐怖と英雄として戦わなければならない義務。
その板挟みになりながら、香川英行は苦悶の果てに一つの答えを出した。
「佐野君。答えはとっくに出ているんですよ。最初からね」
神崎士郎の企みを知った時、仲村と東條を仲間に引き入れて本格的に
ライダーバトルに参戦すると決めた時、香川は自分が掲げた多くを救う為、
一つを犠牲にする勇気という、英雄の覚悟という在り方と共にこの戦いを
戦い抜くと誓った。
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:39:03.22 ID:Nkr8DRMT0
『東條君。私の背中を君に預けます』
『だから、君の命を私に預けて欲しい』
脳裏に浮かんだ東條の命懸けの挺身が、香川の家族に対する深い愛情を
上回った。たとえこの戦いの果てに、何一つ得るものが無かったとしても、
戦いの中で失われた犠牲を無かった事には出来ない。
自分の背中には、既にその命を背負うと決めた仲間がいる。
荒唐無稽な自分の理想と行動に殉じ、命を落とした仲間がいる。
自分を信じて、過去を乗り越えようと懸命に足掻く仲間がいる。
彼等の死を、偽りにすることはできない。出来る訳がない。
この選択は間違っている。家族を犠牲にする英雄は英雄ではない。
英雄以前に、人として大切な何かが破綻している化け物と同類だ。
それでも、香川英行は自分の意志を変えない。
仲間を見捨て、愛する家族と共に、全てを投げ出し逃げる。
悪魔が保障した安寧という選択肢に、今すぐにでも逃げ込みたいという
人として大切な何かを守るという当然の選択肢を切り捨てる。
英雄は切り捨てる一に、自らの人としての幸せをあてがった。
「ただ、私には覚悟が...覚悟が足りなかった」
「失う覚悟が、大切な何かを失っても尚戦い続ける覚悟が足りなかった」
妻よ、息子よ。これが英雄たらんとした愚かな男の末路だ。
狂人と罵るがいい。悪魔と憎むがいい。
お前達の死を無駄にはしない。
それでも、私は、私は誓う。
最後まで掲げた自分の信念は絶対に曲げない。
多くを救う為に一つを犠牲にする勇気を実現する為に私はお前達の
かけがえのない命を犠牲にし、英雄となり神崎士郎を討つ。
お前達の命は確かに、私にとってかけがえのない尊いものだ。
だが....だが....それでも、私は....
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:39:32.86 ID:Nkr8DRMT0
「誰かを守る英雄が、一人だけじゃいけないって誰が決めたんですか?」
「先生は犠牲になっちゃいけない人なんだ。だから僕は先生を守る」
「やりましょう。先生。あと一息です」
死んでしまった仲間がいる。
自分を信じて、命を賭けて共に戦ってくれる仲間がいる。
そう、誰よりも守らなければならない自分の命を香川英行という一人の
狂人の狂言を、理念を丸ごと信じて戦ってくれているのだ。
ここで家族を取ってしまえば、香川英行は英雄ではなくなってしまう。
しかし、家族を見捨てても香川英行は英雄ではなくなるのだ。
死ぬ覚悟はとうに出来ていた。
あの浅倉威との戦いで命を落とすことになったとしても、罪無き人々を
脅かすあの凶悪殺人犯と差し違えるだけの覚悟は持っていたはずだった。
しかし、あの時に死んだのは自分ではなかった。
自分の掲げた英雄の覚悟というエゴの犠牲になったのは東條だった。
そして今、再び香川英行は『英雄』という都合のいいエゴで自分を
信じて付き従う仲間達の命を犠牲にしようとしている。
彼等が自分に掛けてくれた言葉と、尊ばれなければならない勇気を。
そんな彼等に自分が掛けてくれた言葉と、掲げた信念を,,,
それは許されない冒涜だ。
引き返す訳にはいかない。偽りにする事なんて出来ない。
多くを救う為に一つを犠牲にする勇気。
それは英雄になる為の条件ではなく、英雄という妄執に囚われた哀れな
道化にピッタリの呪いではないのかと香川は自虐した。
「必ずだ...必ず...私は....」
満と父親の別離とは比較にならないほどの、無残で残酷な悲壮なまでの
覚悟を決めた香川は、最後の決断を下した。
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:40:01.31 ID:Nkr8DRMT0
「命を賭けて下さい。佐野君」
「私が必ずオーディンを倒し、この戦いを終わらせます」
その決意を聞き届けた満は大きく頷く。
優衣から受け取った袋の中からミラーワールドに関わる神崎士郎が
隠蔽していた全ての物を渡す。
満からミラーワールドに関わる資料と三枚のカードを受け取った香川は、
数十枚に渡る資料を自らの脳裏に二分でその全てを焼き付けた。
そして、三枚のうち二枚のカードをオルタナティヴのデッキに挿入し、
満から渡されたブランク状態のデッキを白衣のポケットの中へと収納した。
「行きましょう。先生」
「リュウガは俺が倒します。そして、俺が先生の盾になります」
「だから、俺達と最後まで戦って下さい。お願いします」
「ええ。どうせやるなら派手に行きましょう」
「さて!ミラーワールドに殴り込みを掛けにいくとしましょうか!」
ライダーバトルが終結するまで、残り五ヶ月。
遂に神崎士郎と香川英行との全面戦争の火蓋が切って落とされたのだった。
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:40:28.00 ID:Nkr8DRMT0
第二十七話 全てを失ってなお....
〜香川邸〜
花鶏を後にした満達が香川の自宅に到着した時、既に香川の妻子の姿は
そこになかった。
「遅かったな。香川」
居間に四人のライダーが集結する中、食器棚のガラスに神崎士郎が
映り込み、平坦な口調で香川の到着の遅れをなじる。
「ええ。少しばかり取り乱してしまいましてね」
「色々悩んだ末に、ようやく答えが出たんですよ」
香川の答えと共に、神崎士郎は姿を消した。
「あなた!」
姿を消した神崎士郎は、香川の妻を最初に連れてきた。
事情が掴めず、自らの身体が徐々に消えつつある恐怖に苛まれながらも
香川典子は恐怖に顔を歪めながら、自分の愛する夫が自分は見捨てても息子だけは
助けてくれるという期待の籠もった視線を夫へ向ける。
その腕には、意識を失い眠り続ける自分の愛する息子が抱かれていた。
「典子...」
泣き出しそうな表情で、しかし...それでも自分の決意は鈍らないと
言わんばかりの形相で香川英行はオルタナティブに変身した。
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:41:07.80 ID:Nkr8DRMT0
それは、今から妻子を犠牲するという現実を直視できないという香川の
心の悲痛な叫びを代弁するような行為だった。
香川がライダーに変身したことを受け、真司も龍騎のデッキを取り出し、
香川の助太刀に入ろうとするが、それを満が阻止する。
更に仲村が真司の背後に回り込み、真司が変身しないように全力で
その身体を満と共に拘束する。
「そう、それがあなたの答えなのね...」
オルタナティブに変身しながら一向に自分と息子を助ける為にミラーワールドへ
入ってこない夫の真意を悟った香川典子は寂しげに微笑み、鏡越しに立つ香川と
その仲間達に一声をかけ、彼等がこの先苛まれるであろう罪悪感を少しでも
和らげようと、迫り来る死の恐怖に抗いながら笑顔を浮かべ、言葉を紡ぎ始める。
「あなた。一足先に私と裕太は行ってますね」
「いつかまた。いつかまた...家族三人で会いましょうね」
「仲村君。最後までこの人のことを守ってあげてね」
「な、何考えてんだよ!何考えてんだよ!アンタ!」
助けられるはずの命をむざむざ見捨てようとする正気の沙汰とは思えない香川の
判断に真司は我を忘れて激昂した。
「ふざけんな!アンタの家族だろうが!見捨てて良い訳なんかない!」
「待ってくれ神崎!その人達を殺さないでくれ!」
正気を疑うような香川の判断に怯えながらも、真司は懸命に何とか香川の妻子を
助けようと試みた。
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:41:44.74 ID:Nkr8DRMT0
「離せ!離せよ!お前らも何考えてんだよ!」
「いいのよ。優しい人」
必死に満と仲村の拘束を振り解こうともがく真司に、典子は儚げに微笑みかけ、
自分の死が夫と目の前にいるその仲間達に遺恨を残さないようにする為、残された
時間の許す限り、一つでも多くの言葉を重ねた。
「私は英行さんが何をしているのか理解できないけど」
「英行さんがこうすると言うことは、きっとそれは大切なこと」
「貴方達を守る為に、英行さんが私達を捧げるというのならそれは本望」
「だから、あなた達はあなた達のまま強く生き抜いて....」
「ああっ...あああああああああああああああ!!!」
ミラーワールドの止まっていた時が一気に動き出す。
限界時間をとうに過ぎていた香川母子の身体が徐々に粒子と化していく。
「英行さん...だい、すき...」
「典子...裕太...。また、また明日に...」
「ええ。また、明日。会いましょう...」
真司は狂乱状態に陥りながら、ただ目の前で何の罪もない母子が消滅する様を
見殺しにすることだけしか出来なかった。
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:42:34.28 ID:Nkr8DRMT0
「香川ああああああああああ!!!!」
絶叫と同時に真司は拘束を振り解き、目の前に立つオルタナティブへ殴りかかる。
「なんでだよ!なんで見殺しにしたんだ!」
「ミラーワールドを閉じる為に闘ってるんじゃなかったのかよ!」
「助けられたはずだろう!アンタだったら!アンタだったら!」
消えゆく妻子に手を差し伸べず、意味不明な言葉を掛けて見殺しにした
香川の行いは、助けたくても自分の手の届かない所で仲間を二人失った
心の痛みが癒えない真司の逆鱗に触れてしまった。
「私は!自分の掲げた信念を最後まで曲げたりはしない!」
自分の目の前に飛び込んできた拳を捕まえた香川は、真司に向き直り
表情の見えないオルタナティブのマスクのまま絶叫した。
一つ一つ仮面の下にこぼれ落ちていく自分の人間性(なみだ)。
いっそこの瞬間に、自分を形成している全てを投げ捨てて何もかもを
忘れ去りたい。
タイムベントのカードがあれば、それを使ってライダーバトルに参加
しようとしたその時まで遡り、この結末をあの時の自分に教えてやりたい。
この瞬間を以て、香川英行はライダーバトルに参加した事で、かつて己が
築き上げ、その手中に収めてきた全てを自らの手でぶち壊した愚者へと成り果てて
しまった。
英雄でもない、父親でもない、人間でもない。
それでもなお、その胸中には譲れない信念が残っていた。
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:43:10.26 ID:Nkr8DRMT0
「私の背中には預けられた命がある!」
「守れなかった命もある!だが、これ以上...これ以上」
「神崎士郎!貴様に私の仲間を殺させはしない!」
遅ればせながら、香川英行は自分が甚だしい思い違いをしていたことに
気が付いたのだった。
未だ英雄に至れない英雄志望者(オルタナティヴ)は、奇しくもかつて満が
自分に語ったもう一つの英雄としての在り方を体現している存在が、今まさに
自分の目の前に立っている事に唐突に気が付いた。
自分が掲げなければいけなかった英雄の覚悟と在り方は、多くを救う為、
一つを犠牲にする勇気ではなかった。
一人でも多くの誰かを守る為に、自らの身を挺し、命を張って最後まで
戦い続ける覚悟と信念こそが真の英雄なる為に必要な勇気だったのだ。
東條の最後と、真司の激昂を通して香川英行はようやくその答えに
辿りつくことが出来た。
英雄はなろうと思ってなれるような存在ではない。
多くの困難と苦難に真正面から立ち向かう中で、それに屈しないだけの
心の熱さと強さを持つ者だけが成り得る存在なのだから。
何もかもを失った自分だからこそ、ようやくその入り口に立てたのだ。
ならば、これから自分がしなければならないことは...
最後まで自分の掲げた英雄像(エゴ)を貫き通すのみなのだから。
433 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:44:31.52 ID:Nkr8DRMT0
「愚かな選択をしたな。香川英行」
「お前が救おうとした仲間は果たしてお前の家族の命より重かったのか?」
変身を解き、ライダーという仮面を脱ぎ捨てた英行は鏡の中でまるで
香川の葛藤に無関心を貫き、静観を決め込む神崎士郎と相対する。
「ええ。確かに君の言う通りですよ」
「私は自己満足の為に妻子を見殺し、そして仲間を死に追いやりました」
涙を流しながらも、その表情は一片の曇りすら見えない笑顔だった。
それは、背後に控える三人はともかく無表情を貫かせる神崎士郎さえも
戦慄を隠し得ないほどのおぞましさを放っていた。
「ですが、もう私は英雄でも、父親でさえなくても...いや」
「私は...もう、人間でさえなくてもいい」
その言葉と共に、香川英行はオルタナティブのデッキを鏡の前に掲げる。
満も創も、そして真司も英行に倣い、デッキを翳す。
「愛する者を喪う事が、全ての終わりというのなら」
「私はそれを否定する。神崎士郎、私はお前の全てを否定してやる!」
「オーディンを出せ、神崎士郎」
「みっともなく過去に固執する貴様の止まった時を、私が破壊してやる!」
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:45:06.90 ID:Nkr8DRMT0
愛する唯一の肉親の存在を否定する香川の一言に、神崎士郎も憤怒を
露わにしながら自らの背後に控える忠実な手下達を呼び寄せる。
「いいだろう。香川英行」
「貴様の挑戦を受けて立つ」
その瞬間、香川邸のダイニングに三つの鏡が出現した。鏡の中には、
ゾルダ、リュウガ、オーディンの三人のライダーが集結していた。
「香川さん。俺は、アンタの言ってることが無茶苦茶にしか聞こえない」
リュウガが待ち受ける鏡の隣に立つゾルダの鏡の前に立った真司は
オーディンの前に立つ香川に声を掛けた。
「さっきのことだって、家族を救おうとすれば出来た筈なんだ」
「でも、アンタは英雄という幻想に囚われて、大切な家族を殺した」
「ええ。どうやら私は天才ではなくただのバカだったようですね」
「後悔もしているし、助けに行けば良かったとさえ思っています」
「しかし城戸君、私はね、今は家族の死を悼むことよりも...」
「目の前の頭のイカれた野郎をぶちのめしたい気分なんですよ」
今までとは正反対の性格に反転してしまった香川に思わず毒気を抜かれた
真司は、どうしたものかと思案にくれた末にゾルダの鏡の前から離れ、
香川の背後に立ったのだった。
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:45:43.73 ID:Nkr8DRMT0
(はぁ...蓮の悪態が懐かしいよ。俺も美穂の事、悪く言えないなぁ)
「じゃあ、俺もオーディンをぶちのめす事にします」
「考えてみれば、手塚を手にかけたのはコイツ以外に考えられないし」
真司に倣い、満も自分が立つリュウガの鏡の前から隣に立つ仲村の隣へ並ぶ。
「よし。だったら俺も」
「どうせやるなら2対1で相手をボコボコにした方が楽ですよねぇ?先輩」
満の目の前には神崎士郎の恩恵を受けたゾルダが立っている。
「ああ。その通りだ。2対1なら負けっこねぇよ」
満の発言に頷いた仲村も自信ありげな笑みを浮かべ、鏡の前に立つゾルダに
対して中指を突き立て挑発する。
「では、諸君」
「ここらで一つ、神様気取りの神崎士郎君をぶちのめすとしましょうか」
その確認に、全員が頷いた。
「死ぬなよ。皆」
この場にいる全員の気持ちを代弁した真司がデッキを翳す。
「「「「変身!!!!」」」」
そして、四人は同時に変身した。
龍騎とオルタナティブはオーディンの待ち受ける鏡の世界へ。
アビスとタイガはゾルダの待つ世界へとそれぞれ飛び込んでいった。
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 21:59:50.93 ID:Nkr8DRMT0
第二十八話 死闘、開戦
アビスとタイガが辿りついた今回の戦場は、身を隠す遮蔽物が何もない
夜を模した満点の星が瞬く月下の砂漠だった。
煌々とアビスとタイガを照らす満月の月明かりと星々の煌めきだけが
唯一の光源だった。
見渡す限り途方もなく広がる砂漠は、地の利を生かして一撃翌離脱の奇襲戦法を
得意とするタイガと、正面切って力でゴリ押しする白兵戦特化のアビスにとって
著しい不利を強いていた。
「strike vent」
タイガは盾代わりとなる巨大な虎の爪を模した籠手を呼び出し、油断なく
周囲を警戒する。
土中を自在に泳げるアビスハンマーは、既に龍騎に変装した城戸真一によって
瞬殺されてしまい、残されたアビスラッシャーは白兵戦に特化しているが故に、
迂闊にアドベントのカードを切ることは出来ない。
何故なら、相手の手の内が分からないうちに...
「佐野!」
「のわあああっ!」
油断なく周囲を警戒していたタイガが、慌ててアビスの身体を引っ掴み自分達が
現在立っている場所から全力で飛び退く。
ドガアアアアアアン!!
わずか一瞬の差だった。
先程まで自分達が立っていた場所に、巨大な砲弾が着弾した。
巻き上げられた大量の砂が目眩ましとしてタイガとアビスの頭上に降り注ぐ。
「クソッ!視界が悪すぎる!」
ピンポイントに二、三、四弾目と、タイガとアビスが回避しようとする
場所へと巨大な砲弾が次々と着弾する。
カードをバイザーにベントインしようにも、それだけの時間がない。
そして....
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:00:24.38 ID:Nkr8DRMT0
「ぐあああああ!!」
六弾目。遂に巨大な砲弾がタイガの左腕を直撃した。
デストクローの爪の部分を掠めた砲弾はそのまま爆発し、籠手を粉砕した。
「先輩!」
「佐野!あそこだ!撃て!」
半壊し、使い物にならなくなった左手の籠手を投げ捨て、着弾した左腕の骨が
折れていない事を確認したタイガは、微かに聞こえる機械音の方向を指し、
アビスにその場所にめがけて攻撃を仕掛けるように命令する。
「うおおおおおおおお!!」
アビスバイザーで限界まで圧縮された水の鎌鼬が、自分達を狙撃した何者かの
存在を遂に捉えた。
「ゴオオオオ....」
それはアドベントで呼び出されたマグナギガだった。
二つ名で鋼の巨人と称されるマグナギガは、その巨体故に機動性に著しく欠け、
攻撃の的にされるというデメリットを抱えていた。
しかし、その巨体を覆い隠せるだけの地の利があれば、充分にその重火力を
活かせる強みがある。更にAP6000という高い攻撃翌力と防御力を兼ね備えている
マグナギガにとってアビスバイザーの不可視の鎌鼬など豆鉄砲と何ら変わらない。
目的を果たしたマグナギガは、あっという間に姿を消した。
マグナギガが消え、次の攻撃に備える為の小さな余裕が両陣営に訪れる。
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:01:19.46 ID:Nkr8DRMT0
「くそっ。地の利は敵さんにあるって訳か」
「先輩。今手持ちのカードは何枚あるんですか?」
「サバイブを入れて3枚だ」
「3枚?なんでです?」
「嫌な予感がして、城戸にフリーズベントを渡した」
「あー...ナイス判断ですね...」
「佐野、このカードをお前に預ける。持っててくれ」
突然、意味不明なことをし始めたタイガに面食らったアビスだったが、
「敵を欺くには味方からっていうだろ?」
「なるほど!じゃ、俺も先輩にこのカードを預けます!」
互いの契約モンスターのアドベントのカードを交換した二人のライダーは
未だに姿を見せないゾルダに対する警戒を強め続けた。
今頃、香川と真司はオーディンと交戦しているのだろう。
二人ともオーディンを倒すと息巻きながらも、オーディンのスペックは
全ライダー中最高を誇っている。
前準備無しに無策で戦えば、いかに瞬間記憶能力を持つ香川や残存する
ライダーの中でも特に高い実力を誇る真司であっても敗北は必至である。
故に仲村創は、香川邸に突入する前の待機時間に真司へと自分の持つ
モンスターの動きを止めるフリーズベントを渡しておいたのだった。
タイガもアビスもあずかり知らぬとは言え、今のゾルダは神崎士郎に
よって全ライダー中で最多のカードを持つライダーである。
仮に満がリュウガと1対1で相対する事を選んでいれば、確実に真司か
仲村のどちらかはゾルダの圧倒的なカードの前に葬られていた。
また、放置されたリュウガの存在も無視できない。
更に最悪な事に、アビスもタイガもゾルダが18枚のアドベントカードと
ユナイトベントによる合体モンスターにより20枚以上のカードが使えると
ことを知らない。
故に二人が勝利を収める為には、一度しか切れない切り札の切り所が
重要になる。
だが、それを許すほど限界まで強化されたゾルダは甘くない。
何の為にゾルダがアドベントカードでマグナギガを召喚し、初手から
地の利を生かした戦法を採用したのか?
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:01:51.20 ID:Nkr8DRMT0
「まずい!先輩、さっきのあれは陽動作戦だ!」
咄嗟にその事実に気が付いたアビスはデッキからカードを引き抜き
隣に立つタイガのバイザーにそれをベントインしようと試みた。
「くけえええええええええ!!!」
甲高い鳴き声と共に、満の身体が柔らかい砂丘に引きずり倒される。
「ベルデ?!」
かつて一度だけ相対した姿を消すカメレオンのミラーモンスターと契約していた
ライダーの名前を満は最後に叫んだ。
「待て!」
「Advent」
バイザーのスロット部分にはカードが既に差し込まていた。
辛うじてバイザーにカードを読み込ませたタイガだったが、次の瞬間、
何か硬い石の様な物が自分の顔面に叩き付けられ、思わずバランスを欠き
よろめいてしまう。
怯んだ隙に、今度はデストバイザーに紐のようなものが絡みつく。
かつん!という音と共にタイガは自分に投擲されたものがヨーヨーだと悟った。
だが、それを理解したと同時に自分の手からデストバイザーがすっぽ抜け、
あらぬ方向へと吹き飛んでいく。
「しまった!」
デストバイザーと片方のデストクローを失ったタイガの無防備な左のこめかみに
金色に輝く水牛の角が直撃する。
意識を刈り取る重い一撃を右手のデストクローで防御するが、代償として
タイガはゾルダに無防備な腹部を晒すという最悪の事態を作り出してしまった。
「これで、終わりっす!」
ギガホーンを振り抜いた回転を殺さないまま一回転したゾルダは左手に持つ
マグナバイザーを零距離で連射し、タイガのデッキと関節部分を特に集中的に狙い、
撃ち続けた。
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
マグナバイザーの連射を強引にデストクローで断ち切り、ふらつく身体で
何とか距離を取ろうとするタイガだったが...
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:02:46.71 ID:Nkr8DRMT0
「どこに行こうとしているんです?」
ギガホーンの砲口から放たれた緑色の一撃に意識を刈り取られてしまう。
タイガを超える鮮やかな奇襲を成功させたベルデは、バイオグリーザが
戻ってくる前に、確実にタイガを仕留めようとギガホーンの角部分を
その無防備な腹部のカードデッキに狙いを定め、一息に振り下ろす!
「ガオオオオオオオオオオオオ」
だが、間一髪の所で満に渡したデストワイルダーのアドベントカードが
その効果を遺憾なく発揮する。
「なにっ!」
無制限に成長を続けるワイルドマッスルと、契約主である東條の死後も
定期的にミラーモンスターを与えられたデストワイルダーの強さは、既に香川の
契約していたサイコローグのAPを超えるまでに成長していた。
血に飢えた左右のデストクローが袈裟懸けにベルデを正面から切り裂く。
ゾルダは左側の攻撃は回避したものの、背後を晒してしまう。
そして右側からの横薙の一閃を躱し損ね、大量の血を撒き散らす重傷を
負ってしまう。
441 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:03:24.67 ID:Nkr8DRMT0
「先輩ーーーーー!」
そして、タイガのアシストによりバイオグリーザに捕食される間一髪の
タイミングでアビスラッシャーに命を救われたアビスが、猛然とタイガと
交戦しているベルデめがけて猛突進をかましてきた。
「アビスラッシャー!」
「ッシャアアアアアアアアアアア!!!!」
「くっ!」
「clear vent」
自分の不利を悟ったゾルダは、最後の力を振り絞りマグナバイザーで
デストワイルダーの目に発砲し、その隙を突いて姿を消して離脱する。
「アビスラッシャー!追うな!」
手負いのゾルダを追撃し、トドメを刺すよりも、アビスは目の前に倒れている
仲村の安全を優先する事にした。
「先輩!先輩!しっかりしてください」
「あ、ああ。間に合ったか。佐野」
フラフラになりながらも、なんとか立ち上がったタイガは周囲を警戒し、
姿を消したゾルダとの距離を稼ぐべく、満の肩を借りながら這々の体で
今いる場所から離脱を始めたのだった。
442 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:04:14.75 ID:Nkr8DRMT0
〜〜
タイガとアビスが月下の砂漠を模した鏡の中の戦場で戦う中、オルタナティヴと
龍騎は荒れ果てた瓦礫の山を模した廃墟で激しい戦闘を繰り広げていた。
鉄骨、瓦礫、コンクリートの破片。そしてミラーモンスター。
それらが10mを超える小高い塔の様にそびえ立つ戦場の中で、真司と
香川の二人を待ち受けていたのはリュウガだった。
既にリュウガはアドベントのカードで自らの契約獣ドラグブラッカーを召喚し、
先手必勝とばかりに空の利を生かしたドラグブラッカーによる絨毯爆撃で龍騎と
オルタナティヴを抹殺せんと躍りかかった。
黒き龍の口から吐き出される漆黒の火炎弾は、全てを焼き尽くす赤き龍の
灼熱の火炎弾と異なり、全てを凍てつかせる波動を纏った死の吐息だった。
瓦礫の根元にドラグブラッカーのブレスが着弾する。
凄まじい反動と共に石化した瓦礫の塔が粉砕され、その破片が散弾の如く
周囲に撒き散らされる。
「香川さん!オーディンはどこにいるんですか!」
「おそらく静観を決め込んでいるのでしょう!」
「私と君、仲村君と佐野君のどちらかが弱った所を叩くはずです」
「更に!あの黒い龍の放つ炎は当たった物を全て石化させます!」
「なんだって!」
「だから...今は隠れましょう!」
瓦礫の塔に身を隠しながら全てを石化させる死の吐息をかいくぐり、二人は
ようやくドラグブレッカーとリュウガを振り切り、未だ無事な瓦礫の山の隙間に
身を隠すことに成功した。
443 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:04:50.05 ID:Nkr8DRMT0
「だぁっ!埒があかねぇ!このままだとじり貧だ。体力が尽きる!」
「香川さん!俺がドラグレッダーを出して奴を叩き落とします」
「良いですよ!ですがあの炎に焼かれれば君の契約獣が石になります」
「だから...今から私が説明する通りにリュウガと交戦して下さい」
息切れしながら龍騎がドラグレッダーを使った空中戦を提案する。
オルタナティヴもそれには概ね賛成したものの、リュウガの契約獣である
ドラグブラッカーのブレスの石化効果を考慮した作戦を練っていた。
「まず最初にこの戦場に潜む大量の雑魚モンスターを私が引きつけます」
「おそらくリュウガはサバイブのカードをあるタイミングで使う筈です」
「全てのカードを使い切る寸前、互いのカードが一枚になった時...」
「ファイナルベントを使用して君にトドメを刺そうとするはずです」
「その時君は敢えてリュウガから離れ、私のいる場所へ合流して下さい」
「勝算は?!ハッキリ言ってそれ、上手くいくのかよ?」
矢継ぎ早に出される香川の指示に疑問を呈しながらも、真司は直感で
リュウガが現時点の自分を上回る力を持っているのではないかと考えた。
「ええ。上手くいきますよ。更に言えばリュウガは私を狙うはずです」
「故に、城戸さんにはリュウガのカードを限界まで削って欲しいのです」
「サバイブの猛攻を耐えきる策は既に備えています」
「この勝負、リュウガのサバイブの猛攻を耐えきれば我々の勝利です」
「香川さん....。わかった。陽動をお願いします」
ドラグブラッカーのブレスが真司と香川の隠れている場所のすぐ隣の
瓦礫の塔を直撃し、粉々に砕け散る。
「wheel vent」
まず最初に瓦礫の山の隙間から飛び出したのはオルタナティヴだった。
デッキからサイコローグをバイクに変形させるホイールベントのカードを
引き抜き、スラッシュリーダーへと読み込ませる。
444 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:05:40.03 ID:Nkr8DRMT0
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
雄叫びを上げ、猛然と主の元へと駆けつけたサイコローグは己の身体を
一瞬のうちにバイクへと変化させ、オルタナティヴをその背中に乗せる。
「ふん、陽動か...」
仮面の下で不敵に微笑んだ城戸真一は、ミラーワールドでのぞき見た
オルタナティヴの使用カードの枚数と内容を踏まえた上で、眼下の地上で
五月蠅く這い回る疑似ライダーを確実に葬る為の策を発動した。
「やれ!」
自分の左手に隠し持つコアミラーの欠片をリュウガは躊躇なく使った。
神崎士郎から渡されたミラーワールドの権限にアクセスできる、いわば
一度限りの使い捨て程度の力しかない欠片だが、それでも所持カードが十枚
未満の疑似ライダーを葬り去ることが出来るだけのミラーモンスターを
一斉に召喚する事等、今のリュウガにとってはいとも容易いことだった。
「なにっ?!」
リュウガの攻撃を真司から自分へと移し替えるべく、サイコローダーを
駆りながらドラグブラッカーの照準を狂わせていたオルタナティヴだが、
地面が爆発し、地中から大量出現するシアゴーストを初めとする夥しい
ミラーモンスターの大群には為す術がない。
(くそっ!これでは...為す術もなくやられてしまう!)
リュウガが呼び出したミラーモンスターの総数は約300体。
リュウガにとっても一度きりの使用しかできないものの、カードという
枚数の制限された戦闘手段しか持ち得ないライダーにとって、この数の
暴力は、まさに打つ手無しの絶体絶命の窮地に追い込む常勝の策と言える。
445 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:06:23.60 ID:Nkr8DRMT0
サイコローダーから人型に戻ったサイコローグも懸命に二本の得物を
振り回し、自らを押しつぶそうと攻撃を加え続けるミラーモンスターを
切り捨てていくが、それでも単純で圧倒的な数量を捌き切れない。
オルタナティヴもカードがあるだけ、サイコローグよりかは今の所は
善戦出来ているが、ジリ貧な事には変わりは無い。
更に最悪なことに、巨体を誇るディスパイダーが蜘蛛の糸で雁字搦めに
されたサイコローグへと襲いかかった。
蜘蛛の糸で全身をミイラの様に絡め取られたサイコローグは、身動きが
出来ないまま為す術もなく、蜘蛛の口の中へと運ばれていく。
「ならば!」
ここまで追い込まれた以上、躊躇う必要はもう無い。
そう判断したオルタナティヴは、コールサモンと時を同じくしてロール
アウトされた、疑似ライダー専用の新たなカードの使用へと踏み切る。
「Accele vent」
瞬間加速のカードを使ったオルタナティブは、そのスペック上の限界の
三倍を超えるジャンプ力で空中へと跳躍した。
そして同時に黒いライダーは己のデッキから三枚のカードを引き抜き、
一枚を地面にもう一枚をサイコローグへ、最後の一枚をディスパイダーへ
投げつける。
「Seal!」
「Aports!」
「Contract!」
スラッシュリーダーに読み込まれた三枚の虎の子のオルタナティヴ専用の
カードは誤作動を起こすことなく、その効果を覿面に発揮した。
446 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:06:57.10 ID:Nkr8DRMT0
地面に突き刺さった「封印」のカードは、その半径100m以内に存在する
ミラーモンスターの身体の自由を奪う。
二枚目の「呼び寄せ」のカードはサイコローグの肩に突き刺さると同時に
彼を糸の牢獄から解き放ち、一秒も経過しない内に空中に留まる自らの
契約主の傍へと呼び寄せた。
そして最後の一枚である契約のカードは狙い誤る事なくディスパイダーの
背中に突き刺さり、そのままオルタナティヴの新たな契約獣(戦力)として
吸収されたのであった。
「今だ!やれッ!」
「しゃあっ!」
ドラグブラッカーの背に乗り、空中で未だ事態を静観し続けるリュウガに
一気呵成に勝負を決めるべく龍騎とドラグレッダーが急襲を仕掛ける。
赤と黒、限りなく同じ存在でありながらどこまでも正反対な二匹の龍と
二人のライダー達は死力を尽くし、今ここで雌雄を決さんとばかりの覇気を
身体から立ち上らせながら、己に相対する敵(自分)へと刃を向け、敢然と
斬りかかっていく。
447 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 22:07:43.04 ID:Nkr8DRMT0
互いの契約した赤龍と黒龍が一つの身体を持ちながら二つの頭を持って
生まれた憎しみ合う双頭の獅子の如く、目の前に現れた不倶戴天の仇敵の
首を叩ききろうと、その身を絡ませ合いながら死に物狂いの死闘を開始する。
ドラグレッダーがドラグブラッカーの喉首を振り向きざまの一瞬の刹那の
交差で噛みちぎったかと思えば、ドラグブラッカーの返す石化の炎の一撃で
ドラグレッダーの鋭利な尾が脆くなった石像の如く砕け散る。
敵意と殺意と憎悪が一つの形を取り『怨』という明確な互いを排除する
域にまで達した二体の龍は、眼下で戦いを続ける主達そっちのけで高ぶりに
昂ぶり続けた己の殺意を眼前の相手へとぶつけるべく、最上の威力を誇る一撃を
吐き出そうとした。
そして、地上に降り立ったリュウガと龍騎の戦いも熾烈を極めた。
先に仕掛けたのは龍騎だった。
しかし、ソードベントのカードをバイザーにベントインして呼び出した
龍騎へと敢然と殴りかかり、素手でありながら、まるで数秒先の未来を
予知しているかのようなトリッキーな動きでリュウガは龍騎を圧倒する。
大上段に振りかぶった龍騎の右肘を押さえ、前屈する左膝の皿を目掛け
強化された脚力による下段蹴りを龍騎へ放とうとするリュウガ。
「おわぁっ!」
膝を蹴り砕かれれば、その時点で著しい戦闘力の低下は免れない。
敵の次の一手を読み切った龍騎は、手首を器用に回転させ、その鋒をリュウガの
頭上へと突き立てようと試みた。
リュウガもまた龍騎の攻撃の意図を察知したのか、瞬時に自分の危機を悟ったと
同時に退き、龍騎との間に充分な距離を取る。
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