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佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/23(日) 23:51:15.50 ID:p+cBhhHk0
このssは仮面ライダー龍騎の仮面ライダーインペラーである佐野満を
主役とした、いわば仮面ライダー龍騎の再構成ものです。
人によって好みが分かれる作品となっています。
舞台はタイムベントでやり直された龍騎のとある世界です。
無残な最後を遂げた彼が、城戸真司と同じ位の時期に神崎士郎から
インペラーのカードデッキを渡された設定で物語が始まります。
話の展開上、佐野君の性格やら頭を色々と良くしてあります。
二次創作なので、オリジナルのカードや本編に出てこなかった
ライダーとかも出します。
ご都合主義だろ!と思うような展開が一部ありますが、そこは二次創作
ということでさらりと流して下さい。
以上のことを踏まえて、拙作を読んで頂ければ幸いです。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1492959075
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:52:08.70 ID:p+cBhhHk0
第一部 一話 戦いの始まり
東京 某所
「はぁーあ、今日もまたコンビニ弁当かぁ...」
ビルの警備員の夜勤のバイトを終えた一人の青年が眠い目を擦りながら
タイムカードを押し、職場から退勤する。
「ったく、人生の選択肢ってのはやり直しが利かないから嫌だね〜」
雲一つない爽快な朝に似つかわしくない独り言を呟きながら、とぼとぼと
ボロアパートへの道を歩くのは、佐野満という成年だった。
彼は自分の事を、人より特別優れたことはない凡庸な人間であると自認
していた。何かにつけて楽をして良い暮らしをしたいどこにでもいそうな、
一言で言えば全てが並の、ただ幸せになりたかっただけの男である。
「いらっしゃいませ〜!」
近くにあったコンビニへとふらりと足を運ぶ。
このコンビニは満のお気に入りだった。
台風の日も、大雨の日も、近くで強盗殺人事件が起きても決まった日には
必ずお気に入りの週刊少年漫画雑誌を入荷して、陳列しているからだ。
眠い目を擦りながら、ペラペラとページをめくる。
(おっ...なんだよ、また次回に引き延ばしかよ〜)
漫画の半分を読み進めた辺りからだろうか?
なにか微かな音が聞こえてきた。
キィィィィ....ン、キィィィィ....ン。と、途切れ途切れの金属に
なにか振動するものを置いて震わせるような音は徐々に弱まっていった。
(気のせいかな...まぁいいや。早く帰って寝よう)
バサッ。
雑誌を下に置いた満は先程の音を頭の中から閉め出し、チキンカツ
弁当とカップ味噌汁を購入した後、コンビニを後にしたのだった。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:52:47.91 ID:p+cBhhHk0
ボロアパート
「んあ〜!疲れたー!」
清潔とは言いがたい6畳1間の万年床に身を横たえた満はそのまま
グウグウといびきをかいて夢の世界へと旅立っていった。
後悔先に立たずという言葉がお似合いの半生だった。
やり始めたことを最後まで自分の意思でやりきったという実感を
得ないまま肉体だけが大人になってしまった子供。それが一人の人間として
お前を見たときに出た言葉だよ、それが父から最後に親として言われた
言葉だった。
幼い頃に離婚して、物心ついたときには仕事で家に帰ってこない父親と
虚しい義務感だけの家族ごっこをしていた。
母親や父親に頭を撫でられるそれなりに仲の良い友達や、誰からも
慕われる人の良い先輩になろうと、そうした連中の後をついてまわった
小中学校時代は、結局何も得ることが出来ずに都合の良いイエスマンに
徹することで終わりを告げてしまった。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:53:25.53 ID:p+cBhhHk0
誰でも良いから認めて欲しかった。
だけど現実は誰からも認められず、誰からも相手にされない自分が
こうして一人で眠っているだけでしかない。
「くっ...」
ポロポロと涙がこぼれて、汗と垢まみれの枕にしみこんでいく。
(俺だって、俺だって...自分を変えたかったよ!)
(人にへいこらしないで、自分で主役張って頑張りたかったんだよ!)
(でも誰も教えてくれなかったじゃねぇか!方法を!やりかたを!)
「クソッ!」
何も変えられなかった苛立ちを自分にぶつけることしかできない。
「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!チクショオオオオオ!!!」
何も掴めなかった拳を握りしめる。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:54:06.13 ID:p+cBhhHk0
漫画に出てくる主人公は拳を握りしめたら、まるで天からの恵みのように
摩訶不思議な力を授かっていた。
現実だってそうだ。
なにかに愛された人間が実現不可能な奇跡を手に入れ、今までの苦境を
跳ね返して大逆転なんて話は決して珍しくない。
それにすら選ばれない人生の落伍者に自分はなってしまった。
「変えたい...こんなの...いやだ...」
その時、先程聞こえて来た微かな金属音のような音がより明瞭に
満の耳の中に飛び込んできた。
「欲しいか?お前の人生を変える力を」
「欲しい!...って、あれ?」
現実<まえ>を見ることなく伏せていた顔を上げた時、満の身体は
得体の知れない力によって、目の前の鏡へと引っ張り込まれたのだった。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:54:31.24 ID:p+cBhhHk0
〜〜
鏡の中
何もかもが反転した鏡写しの世界。といっても、そこは自分の部屋と
何もかもが、全てが鏡映しになっている以外は瓜二つだった。
「えっ?どういう...ことだよ...?」
「佐野満だな?」
「そうだけど...って、アンタ一体何者だ!?」
布団の中に居る自分の背後から厳かな声が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこには黒いコートを着た陽炎のような存在感の
男が幽霊のように自分のすぐ後ろに立っていた。
「うわああああ!あ、アンタど、泥棒か?」
「違う」
音もなく忍び寄った男にビビった満はそのまま壁へと後ずさった。
しかし、男はそんな満の行為を一瞥するだけで、泥棒がするような
凶器を出して脅迫するような行為は一切しなかった。
「名乗るのが遅れたな。私は神崎士郎」
「かんざき...しろう?」
「そうだ。これからお前の運命を変える存在と言えるが」
「運命を、変える?」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:55:05.67 ID:p+cBhhHk0
そうだ。確かにさっきの声はこいつの声だった。
欲しいか?お前の人生を変える力を。
ああそうだ。欲しいとも!
(何だって良い。今のこんな惨めな暮らしから抜け出せるならな!)
満は失念していた。
彼の愛読する少年漫画の主人公の大半が、自分が使う異能力を望まぬ
形で入手し、その力のせいで自分の周囲を不幸にしていくことを。
だが、今の彼にはそんなことを冷静に考えるだけの思考力はなかった。
手軽に手に入った力できっと俺の都合の良いように面白おかしく楽しく
生きていけるんだ。程度の実感しか、目の前の脅威に対して抱くことが
出来なかったのだ。
そんな目の前のバカを見下すような薄ら笑いを浮かべた神崎士郎は、
自分の懐から一枚の茶色い板のような何かを取り出したのだった。
「これが、お前が手に入れる力だ」
「ん〜?なんだこりゃ?」
まるでプラスチックと鉄が入り交じったような材質の、掌にすっぽりと
おさまるような板を手に取った満を見ながら、神崎士郎は訥々とこれから
始まるであろう戦いの説明を始めたのだった。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:55:33.03 ID:p+cBhhHk0
「なるほど。つまりライダーに変身し、ライダーやモンスターを倒せ」
「ふーん。これを持ってるやつを倒せばいい訳ね」
「要するに、このカードデッキってやつで変身してこの世界で闘う。と?」
「そうだ。制限時間の中で相手のライダーを全て戦闘不能に追い込め」
「タイムリミットは1年間。その間に最後の一人になれ」
「最後の一人になった時、お前の望みは叶う」
「一年もかかるのかよ?!なんだよ、じゃあ前払いとかないの?」
「ああ。ない」
「ちなみにその戦い、何人くらい参加してるの?」
「13人だ」
「彼等もお前と同じように叶えたい願いを抱えて闘っている」
その後、神崎士郎からライダーバトルと並行してミラーワールドに
生息するミラーモンスターという化け物も倒さなければならないことを
聞いた満の心は、先程の心の中に湧き上がった怒りにも似た決心を
鈍らせたのだった。
誰に見つかることなく素知らぬ顔でたった1年間を隠れてやり過ごすと
方針を決めた直後にこの対応である。
この神崎士郎と言う男は、きっと場の空気を読むどころか自己中心的で
高圧的な嫌なやつとして周囲の連中に嫌われていたに違いない。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:56:06.17 ID:p+cBhhHk0
「ライダーはカードを使い、相手やモンスターを倒す」
「お前のデッキを貸せ」
満からデッキを渡された士郎は、その中から何枚かのカードを引き抜き、
満の目の前に広げて見せた。
「えっと、この鹿みたいなカードは何?」
「アドベントのカードだ。契約したミラーモンスターを召喚できる」
「えっと、ようは助っ人として加勢してくれるってこと」
「そういう事だ。そしてこれがスピンベント。お前の主な武器だ」
「ドリル?え?この取っ手のついたドリルでチャンバラやれって言うの?」
武器は銃がいいなぁと密かに憧れていた満にとって、鹿のねじ曲がった
角のような武器は到底受け入れがたい代物でしかなかった。
なんとか気を取り直して、次のカードに目を向ける。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:56:33.62 ID:p+cBhhHk0
「うん、まぁ...で、次のカードは...ん、紋章か、これ?」
「それはファイナルベント。必殺技のカードだ」
「相手に直撃すれば、一撃でとどめを刺せる切り札だ」
「そっかぁ。で、この5000APってのは高い方なの?」
「そうだ。それより下のAPのファイナルベントも存在する」
「ふーん。で?まだあるんですよね?俺のカード」
「いや、お前の使えるカードはこの三枚だけだ」
「はぁ?!」
これはもしや縛りプレイと言うやつなのか?
冗談にしても笑えないどころか、俗に言うゲームで言う所の、最低限の
装備すら用意されていないという、最悪の状況ではないのか?
カードが少ない=圧倒的不利ということを一発で悟った満はなんとか
一枚でも多くのカードを手に入れようと、必死の形相で目の前の男に
食ってかかった。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:57:16.29 ID:p+cBhhHk0
「ふざけんなよ!これ思い切り外れじゃねぇか!」
「なんだよ鹿って?舐めてんのかお前!」
「ガゼルだ」
「言い方変えても無駄だよ?!だってガゼルって鹿の仲間でしょ!」
「そのモンスターは群れを成して行動する習性がある」
「聞けよ!」
「他のライダーは原則として、一人一体のモンスターだが...」
「いやいやいや!鹿ってあれだよ?捕食される側だよ?」
「いくら群れを成すって言ったって、強いやつには喰われるんだよ?」
「っていうか、これは依怙贔屓認めたようなもんだよね?ねぇ?」
「他のライダーにはもっと強い装備を渡したんだろ?違うのか?」
「...」
「認めてるじゃねぇか!話にならねぇ!」
かつてここまで不平等な運営を見たことはないと憤った満は、しかし
この全てが反転した世界から出る方法がないことに気が付いてしまった。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:57:51.70 ID:p+cBhhHk0
「...そうだ。お前はこの装備で戦うしかない」
「分かった...なんて言うわけないだろ!」
「いいか、じゃあ一つ聞かせてくれ。ちゃんと答えろよ?」
「契約したミラーモンスターが喰われた場合、俺はどうなるんだ?」
「一応、デッキが無事ならミラーワールドからは出られるが」
「その場合、契約は無効になり、装備は初期状態に戻る」
「大幅に弱体化した状態で一からモンスターと再契約、ねぇ」
「俺が聞かなかったら教える気なかったろ?」
どうやら目の前の男は本当に性格が悪いらしい。
自分の目的のためには手段を選ばない。
それがこの男の行動原理だと長年のゴマすり経験から見抜いた満は、
一枚でも多くのカードを目の前の男から毟ろうと目的を変えた。
「いいよ。アンタの言う条件で闘ってもいい」
「だけど、契約モンスターがすぐに喰われた場合のことも考えて...」
「せめて、後一枚でいいから契約のカードを俺にくれよ?な?」
「他のライダーは楯とか特殊なカードがあるんだろ?」
「三枚だけじゃあんまりにも不公平すぎるだろ〜?なぁ頼むよ〜」
「アンタのバトルにも協力するからさぁ〜。お願いだよ〜」
沈黙が部屋を支配する。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:58:27.29 ID:p+cBhhHk0
「...いいだろう」
熟考の果て、神崎士郎は契約のカードと封印のカードを満へと渡した。
「ありがとうございま〜す。いや〜これで一安心、一安心だよ〜」
ゴネ得に頬が緩んだ満は先程の態度を一変させて、もみ手をしながら
士郎に最高の笑顔を向けて礼を述べた。
その礼に何も感じない士郎は、最低限の補足だけを付け足してさっさと
満をミラーワールドから追い出しに掛かった。
「そうか。ならそのデッキを鏡にかざせ。それで元の世界に戻れる」
「オッケー」
近くにあった窓硝子にカードデッキをかざす。
「うおおおおお?!」
次の瞬間、満は鏡の世界から現実世界へとはじき出されていた。
「夢じゃ...なかったんだ」
惚けたように呟く満に、神崎士郎は鏡越しに最後の忠告を送った。
「一度ライダーの資格を得たものは死ぬまでこの戦いから抜け出せない」
「ミラーモンスターを飢えさせるな。飢えさせたらお前が喰われる」
「また、どのように闘うのかは自由だが、闘わなければ生き残れない」
「最後の一人になるまで、闘え...」
そう言い残し、神崎士郎は忽然と姿を消したのだった。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:58:59.04 ID:p+cBhhHk0
「ライダーの戦い、ねぇ...」
手元に残ったカードデッキからカードを引き抜く。
アドベント、コントラクト、シール、スピンベント、ファイナルベント。
そのうちの一枚、ミラーモンスターから狙われないというシールの
カードを財布の中に入れて、これでカードは残り四枚となった。
「もしかして俺、とんでもないのに参加しちゃったのかな?」
じっとりと濡れたパジャマが物語るのは半端でない程の嫌な予感。
「はは...よせよ。今時鏡にお化けが写るなんて流行らない..だろ」
布団から身体を起こす自分が映る窓硝子。
その向こう側の世界から、足のついた鹿の化け物がこちらを覗いている。
爛々と輝く赤い目と、口からもれるどう猛な鳴き声。
「やめてくれよぉ...泣きたいのはこっちなんだって」
こうして、やり直された世界での佐野満の戦いが幕を開けたのだった。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/23(日) 23:59:33.64 ID:p+cBhhHk0
第二話 鏡の中の怪物
あれから三日後、満の日常に特に変化はなかった。
掛け持ちのバイトに合わせた不規則な毎日を送りながら、機械的に
生きていくような、そんな日々に埋没し始めている実感が愛おしい。
鏡の向こうからは未だに自分を見つめる視線を感じるが、それを
無視させるほどの集中力を仕事がもたらしてくれる。
「おう、佐野!今日は珍しく真剣じゃねぇか!」
「あ、どうも監督。いや〜真剣に仕事するのも悪くないですね〜」
「なんて言ったって、後もう少しでこの工事終わりますからね」
「僕はアルバイトですけど、なーんか頑張ろうって思えてきちゃって」
「こいつ!思ってもないことをべらべらしゃべりやがって」
「まぁいい。もう上がりだろ?ラーメン奢ってやる」
「本当ですか?いや〜嬉しいです。ありがとうございます!」
「一時間後に駅前のラーメン店に集合な?」
「はいっ!」
朗らかな笑みを浮かべた五十歳の工事現場の監督はそう言い残して、
しっかりとした足取りで更衣室へと向かっていった。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:03.90 ID:WOJJWRsc0
「よっしゃ!今日の夕食代一食分浮いたぁっ!」
適当にサボっていると目をつけられない程度に適度に手を抜きながら
退勤時間を10分オーバーしたところで、そつなく仲間達に挨拶を済ませた
満は足取りも軽やかに自分の荷物を置いてあるプレハブ小屋の更衣室の
扉を勢いよく開けた。
「お疲れさまでしたー!」
時刻は既に午前を回っている。
しかし、何かがおかしい。
男特有の鼻をつく饐えた汗と体臭の合わさった臭いは鼻が曲がるほどの
悪臭を放っていたが、問題はそこではなく...
(あれ?なんで服脱ぎっぱなしで散らかってるんだ?)
その悪臭の元となった人間が監督を含め、誰一人としてその姿が全く
見当たらない。
まるで神隠しに遭ったかのようだ。
「シャワー浴びてるのかな?」
奥のシャワー室から微かに聞こえるしゃああああ...という水音に
気が付いた満は意を決し、その扉を開く。
「...なんだよ、これ?」
いつだって後悔というものは先に出てくることはない。
なぜなら、後で悔いるから後悔というのだ。
扉の向こうから満の目に飛び込んできたのは...
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:30.97 ID:WOJJWRsc0
「何で血がそこかしこに飛び散ってるんだよ...」
惨たらしい惨殺現場から遺体だけを取り除いたかのような夥しい
血がシャワー室を鮮やかな赤色で彩っていた。
「うげぇ...」
その光景のあまりの恐ろしさに、満はたまらず嘔吐した。
「どう...なってんだよ...これは...」
何がどうなっているのかをハッキリと理解できない。
そのうち、今度は外からも悲鳴が聞こえてきた。
助けてくれ!なんだこの化け物はー!!
「はっ?!」
化け物という単語に満はあの日のことを思い出していた。
神崎士郎と初めてであった日、アイツは...
「ミラーモンスターを飢えさせるな。飢えさせたらお前が喰われる」
みたいなことを言っていた...。
もし、自分が契約しているあの鹿の化け物みたいなのよりも強いのが
この場所に何体もいたとしたら?
もし、自分のポケットの中にカードデッキが入っていなかったら?
その答えに辿りついた瞬間、満の身体は驚くべき早さで最善の動きを
やってのける。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:58.08 ID:WOJJWRsc0
慌ててロッカーの扉を開き、鞄の中からカードデッキを取り出す。
取るものもとりあえず慌てて外に飛び出した満は一台の車の前に立つ。
「へ、変身」
車のサイドミラーの前にカードデッキを突き出す。
次の瞬間、自分の腰にベルトのようなものが巻き付いていた。
デッキを持つ手をベルトの空白部分へと押し込む。
「うおおおわぁああああ!」
ガシャン!ガシャン!という音と同時に自分の身体を包むスーツが
一瞬のうちに装着された。
茶色い、まさに鹿のような意匠のスーツはこれ以上ないほどに自分の
身体へとピッタリ馴染んでいた。
「インペラー...」
それが、自分の戦士としての名だということに満は唐突に気が付いた。
震える足を無理矢理動かし、鏡の中へと一歩踏み出す。
のめり込んだからだが吸い込まれるようにして鏡の中に突入する。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:01:37.23 ID:WOJJWRsc0
プシューッ!
鏡の中、そのすぐ傍にバイクのような乗り物が音を立てて自分を
乗せるために、その屋根を開いた。
「行くしか、ない...よな?」
初めて下す自分自身による決断は前進だった。
引き返せない戦いへと身を投じた一人のライダーは、ただただ前を
見据え、待ち受ける敵へと挑みかかっていった。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:02:19.96 ID:WOJJWRsc0
〜〜〜
ライドシューターに乗り、鏡の向こうの世界へと辿りついた満が
目にしたのは、阿鼻叫喚の地獄の光景だった。
深夜の道路の工事現場の近くにはこれまた建設途中のビルがあった。
ライダースーツによって強化された視力は、鉄骨の上に実に6体もの
ミラーモンスターが陣取っていることを目ざとく捉えていた。
口から吐き出す糸で絡め捕って、鏡の世界へ引きずり込む半人半獣の
蜘蛛型モンスターが一体。また赤、青、黄色の人型の昆虫型モンスターが
それぞれ一体ずつ。そして翼の生えた鳥みたいなモンスターが二体。
モンスター達は手当たり次第にプレハブ小屋の中に突入して、先程まで
汗を流して働いていた仲間達を頭からボリボリと音を立てながら旨そうに
むしゃむしゃと貪っていた。
(やべぇ...もし、見つかっちまったら...)
クソ装備の今の自分では絶対に勝てないだろう。
いや、そもそも見つかった時点でアウトだ。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:03:50.78 ID:WOJJWRsc0
「あっ...」
モンスター達の一部がプレハブ小屋の外に出てきた。
慌てて車の横に身を隠した満は、満腹になった鳥型と蜘蛛型となんだか丸い形の
ミラーモンスター達がめいめいに散っていくのを息を殺して見守る。
これで残りのモンスターは3体になった。
(どうするよ?確か変身時間は10分くらいって言ってたしなぁ...)
(このまま今回は見過ごした方が良いかな、いやダメだ)
(モンスターに餌やらなきゃ喰われるとか神崎が言ってたしな...)
せめて1対1なら劣勢に陥ったとしても、あるいはなんとか...
だが、ミラーモンスターにとってミラーワールドは勝手知ったる自分の
庭に等しい。道路に止めてある車の影に隠れていた満の姿は、まさに
頭隠して尻隠さずを地で行くものだった。
「?!」
背後から各層ともせずに襲いかかる殺気を敏感に感じ取った満は、咄嗟に
プレハブ小屋から見て、後ろにあたる左方向の道路へとその強化された
脚力で飛びずさった。
一瞬遅れで自分の居た場所に轟音を立ててのめり込む二つの拳。
「ぎえええええええ!!!!」
餌を取り逃した苛立ちの叫びを上げたモンスターは先程満が発見した
どのモンスターにも該当しなかった。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:04:19.81 ID:WOJJWRsc0
ゼブラスカル・アイアン。
身長2.45m。体重140kgのシマウマを模したウマ型のモンスター。それが
満と対峙する化け物の名前だった。
普通の人間よりも一回り全てのスペックが強化された化け物は、まだ
心の準備も出来ていない目の前のよく分からない餌に飛びかかっていった。
「うわっ...わぁぁああああああ!来るなぁああああ!」
いかに神崎士郎から闘うための武器を貰ったとしても、肝心のそれを
使う使い手が臆病者だったら話にならない。
逃げ足だけが強化された情けない仮面ライダーはミラーモンスターの
魔手から逃れる為に猛然と駆けだしていった。
100mを5秒で駆け抜ける脚力は伊達ではなく、その早さについていく事を
諦めたゼブラスカルは唐突に体を後転させ、そのまま走りさってしまった。
「はぁ...はぁ...助かった....」
久々に全速力で息切れするまで走った満は、そのまま疲労のあまり、
道路の真ん中にへたり込んでしまった。
「なんだよ...ぜぇぜぇ...なんなんだよ、あの化け物どもは!」、
「冗談じゃねぇ。冗談じゃねぇよ...こんなの」
誰も居ない夜の閑静な住宅街に満の憤懣やるかたない叫びが木霊する。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:04:47.30 ID:WOJJWRsc0
「くそっ!鏡...鏡見つけないと」
息切れしている状態でいるのをモンスターに見つかってしまえば
一貫の終わりだ。
呼吸を整え、ゆっくりと体を動かす。
「よし、誰も居ないな...」
注意深く闇に目をこらして前へと歩き出す。
幸い100mもしないうちにカーブミラーがある。
(ゆっくりだ。そう...ゆっくりと、気が付かれないように)
10、20、30、40、50と徐々にミラーと自分の距離が詰まっていく。
このまま何事もなく進めば、あっという間に残りを歩ききれる。
(念のため、武器は持ってた方が...いい、よな?)
膝についたバイザーにカードデッキから取り出したカードを手早く
挿入する。一秒後、バイザーの無機質な音声と同時に自分の手には
ガゼルの角を模した柄のついたドリルが握られていた。
と、その瞬間!
「ぐぎゃごおおおおおお!!」
猛然と唸りを上げ、背後からモンスターが襲いかかってきた。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:06:23.92 ID:WOJJWRsc0
襲いかかってきたミラーモンスターは先程見かけたモンスターの近種である
ゼブラスカル・ブロンズだった。
アイアンと異なり、体の各部位を繋ぐ筋肉がバネ状に伸縮し、
攻撃を受けてもダメージを軽減する能力を備えている。
破壊力に欠けるインペラーにとって、非常にやり辛い相手である。
「チックショォオオオオオ!やっぱり間違って無かった!」
振り向きざまにモンスターへとインペラーはドリルを振るう。
だが、怪物はそれを易々と交すと両方の腕についた手甲を滅茶苦茶に
振り回し、インペラーへと襲いかかった。
「くっ、早い!早えええ!」
放たれた10発の拳の内、3発が足と手を掠めた。
ブロック塀に逸れた拳は当たった壁を粉々に粉砕する。
もし一撃でも直撃すれば、きっと運が良くても瀕死の重傷は間違いない。
恐らく粉砕骨折は免れないだろう。
「くそ!カードを入れる暇すら貰えないのかよ!」
鏡がある場所は既に通り過ぎてしまった。
カーブミラーを背後にしたゼブラスカルは絶対に逃がさないとばかりに
更に鏡のある場所からインペラーを遠ざけ始める。
振るわれる拳も蹴りも徐々に様子見から全力へと引き上げられていく。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:06:57.68 ID:WOJJWRsc0
(この先は十字路だ。あそこでトドメを刺すしかない...)
あと100mもしないうちに見える道路の交差点でケリをつけなければ
きっと自分はこのモンスターに確実に食べられる。
骨が折れるのは嫌だが、死んでしまえばもう何も出来ない。
体から立ち上り始めた茶色の粒子が活動時間の限界を教える。
「わぁあああああ!」
恥も外聞もなく、ただ自分が生き残れる確率に全てを賭けた満は
「ここで死ぬなら」
「最後くらい格好くらいつけさせろよぉ!」
腹を括り、ドリルを楯代わりにしてゼブラスカルに突っ込む。
悲鳴にも似た威嚇の声をあげたゼブラスカルは、正面からバカ正直に
突っ込んできた哀れな獲物の武器を、その豪腕で一気にはじき飛ばした。
ガゼルスタッブが空を舞う中、インペラーは体制を崩したゼブラスカルに
最後っ屁の全力のドロップキックを見舞い、十字路の真ん中に吹き飛ばす。
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:07:27.59 ID:WOJJWRsc0
「Advent!」
ガゼルバイザーに突っ込んだアドベントカードが効力を発揮する。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
交差点の左右、正面、背後からどこからともなく湧き出てきた無数の
契約モンスター達がゼブラスカルを一斉に取り囲んだ。
いかにダメージ軽減に優れていようと、集団攻撃による絶え間ない
継続的なダメージを与え続けられてしまえば、ミラーモンスターとて
ひとたまりもない。
蹴る殴るは当然だが、更に一部の契約モンスターの仲間達は槍などの
どこからどう見ても危険な得物でゼブラスカルを串刺しにし始めた。
「はぁ...はぁ...お前なんか、お前なんかぁ...!」
「Final vent!」
「うおああああああ!!!!!」
この瞬間、ゼール達による集団リンチが更に加速する。
ありとあらゆる暴力に晒されたゼブラスカル・ブロンズの肉体は
既にダメージを軽減できない程、ボロボロに壊れていた。
「あああああ!決めてやるぅうううう!」
ゼール型モンスターの一体がゼブラスカルを放り投げる。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:08:03.56 ID:WOJJWRsc0
「喰らえええええええええええええ!!!」
全ライダーの中で最高のジャンプ力を誇るインペラーが、それに呼応する
ように宙高く舞い上がり...
「終わりだアアアアアアア!!!!」
ゼブラスカルの土手っ腹に最高威力の跳び蹴りを見舞ったのだった。
爆散するミラーモンスターの身体から一筋の光が球体のような形を取る。
それを群れの中から飛び出した一体のギガゼールが捕食した。
きっとあれが、俺と契約したモンスターなのだろう。
「どう...だ。やりゃ、俺だって出来るんだよ!」
身体の節々が軋みを上げる。先程殴られた場所も徐々に痛みを帯び始めた
しかし、まだ自分は生きている。生きているのだ。
「早く、早く...外に行かなくちゃ...」
重い身体を引きずった満は、左手に止まっている軽自動車からほうほうの
体で現実世界へと帰還した。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:08:34.39 ID:WOJJWRsc0
「〜〜〜〜〜ッ!はぁ〜〜〜〜〜!」
生きている。
死を覚悟したというのに、未だに自分は生きている。
「やった...ははっ、俺、生きてんじゃん...」
そう言った満は、久しく浮かべなかった心からの充足を味わいながら
近くにあったブロック塀に体を預けて、気を失ったのだった。
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:09:06.59 ID:WOJJWRsc0
第三話 仮面ライダー
朝八時過ぎ、朝日が昇らない曇り空とは関係なく新しい一日が唐突に
始まりを告げる。
「ねーねー、お兄ちゃん、ここで何やってんの?」
「はっ?!」
昨夜の死闘によって、体の節々が痛む中、深い眠りに落ちていた満を
不思議そうな顔をした小学生が覗き込んでいた。
「えっと...いや、疲れてつい寝ちゃったみたいだ」
「ふぅん。ま、いいや。じゃ〜ね〜」
「ああ。じゃあね」
黒いランドセルを背負った少年は、そのまま学校へと走って行った。
(そうだ...俺は、昨日...)
時間にしてわずか10分の死闘だった。
初めて武器を取り、初めて自分が生きる為に『何か』を殺した。
それは、今までのぬるま湯のような自分の人生観を根底から揺るがす
ような大きなショックをもたらしていた。
「そうだ。俺は、勝ったんだ...」
呆けながら口に出した言葉はまだ軽かった。
ギリギリの所でつかみ取った明日が今ここにある。
今は、それだけでよかった。
「行かなきゃ...あそこに...」
だが、勝利以上に今の満の心を占めていたのは...
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:09:45.39 ID:WOJJWRsc0
工事現場
「ねぇ?一体何があったのかしら?」
「さぁ?でもただごとじゃないわよ。このパトカーの量は」
「そ、そんな...」
昨日まで働いていた工事現場に大量のパトカーが停車しているのを
見つけた満はあまりのことに言葉を失った。
そりゃそうだ。
ミラーモンスターによるあれだけの大量殺人が行われていたにも拘らず、
あの化け物達に殺されてしまった人達の遺体がどこにもないのだ。
「どいてください...どいてください!」
そうだ、監督はどうなったんだ?
俺より先に仕事を上がったあの人は無事なんだろうか?
説明のつかない感情に突き動かされながら、満は人混みをかき分け、
立ち入り禁止のテープを乗り越えて、現場となったプレハブ小屋へと
急いで向かおうとした。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:10:11.82 ID:WOJJWRsc0
「何をしている!君!」
「離せよッ!俺は、ここで働いてるアルバイトなんだよッ!」
「なんだって?」
不意を突かれたように目を丸くした警察官は、佐野を引き留めることなく
そのまま現場検証をしている現場へと向かわせてしまった。
「おい、誰だコイツ?放り出せ!」
現場を血眼になって捜査している刑事や鑑識課の人間に怒鳴られながら
満は懸命になってある場所へと向かっていった。
「待ってくれ!確かめさせて欲しいんだ!」
「ロッカー!誰か監督のロッカーを開けてくれ!」
形相を変えて叫び続ける満の言葉に、一人の刑事が動いた。
「開けるぞ」
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:10:42.33 ID:WOJJWRsc0
閉ざされたロッカーが音を立てて開く。
そこには...
「あっ...あ、ああ...」
何も手つかずで残っていた監督の私物が仕舞われていたのだった。
それだけで、全てが分かってしまった。
この世界のどこにも昨日まで働いていた監督や仲間達は存在しないと
いうことが、全て理解できてしまった。
「...重要参考人として、署まで同行願おうか?」
言葉を失い、気を失った満はまるで犯人のようにその場にいた警察官に
引き立てられ、警察署へと連れ去られてしまったのだった。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:11:18.05 ID:WOJJWRsc0
取調室
「さぁ吐け!お前が犯人なんだろう?!」
「違う!俺は誰も殺してなんかいないんだ!」
昨日まで働いていた仲間の安否を確かめようと軽率に動いた満は、
代償として重要参考人として、警察署で激しい取調を受けていた。
警察も遺体のない迷宮入り事件の犯人として、昨日深夜に居なくなった、
正確にはミラーモンスターに食べられてしまった人間の唯一の生存者として
アリバイのない容疑者からの自白を取ろうとするのは当然の帰結だった。
既に三時間にも渡る尋問により、満の心はすり減っていった。
「答えろ!お前が殺した従業員達をどこに隠した!」
「知らないよ!だから言ってるだろう?!俺は誰も殺してないって」
「嘘をつけ!じゃあなんであの時監督のロッカーって言ったんだ?」
「お前が何か知っていることは確かなんだ!」
知っているもなにも、あの夜に従業員達を襲った犯人は全て知っている。
ただ、そいつらが人にあらざる怪物だと言うことが自分の状況を
とんでもないところにまで追い詰めているのだ。
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:11:51.38 ID:WOJJWRsc0
「勘弁してくれよ...俺が何をしたって言うんだよ」
「先輩、コイツが一番怪しいのに、凶器もなにも出てきません」
「探せ!草の根分けても探せ!」
部下を叱責した年配の刑事は苛立ちを隠そうともせず、パイプ椅子に
乱暴に腰掛ける。ギシギシと軋む耳障りな音が満の頭をかき乱す。
「はぁ...もう、三時間か」
「おい、須藤を呼べ。俺はすこし外で休む」
「はい」
事ここに至って、なにも答えない満にあきれ果てた刑事は同室した
部下に別の取り調べをする人間を呼びに行かせた。
「おい、お前いまいくつだ?」
「21です」
「21か。お前、家族になんて言い訳するんだよ?」
「ええ?どうして職場の仲間を皆殺しにする必要があったんだ?」
「...だから、俺は無実なんだって!」
不毛なやりとりは、五分後に先程部屋から出て行った部下が一人の
若い刑事を連れてきたことにより、一応の終結を見た。
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:12:17.33 ID:WOJJWRsc0
「お待たせしました。では、ここからは私が引き継ぎますので」
「おう、頼んだぞ。須藤」
須藤と呼ばれた二十代後半の若い刑事は、ニコニコと笑いながら
今まで満の尋問を担当していた刑事達を部屋から送り出していった。
「佐野、満さんですね?」
「はいそうです。なんだよ、もう何がやりたいんだよアンタ等」
「申し訳なく思っています。ですが、私達の事情も分かって下さい」
「凶器も遺体も見つからない中、唯一貴方だけが生存している」
「ほー。そうやってそれっぽい証言引き出して犯人に仕立てあげんだろ!」
「白も黒も関係なく、私達は貴方から情報を引き出すしかないのです」
申し訳なさそうな表情を浮かべた須藤は、なんとか怒り狂う満を
宥めようと言葉を尽くして、懸命に言葉を重ね続けた。
「どうしても俺を信用させたいなら証拠を見せろよ!証拠を!」
「そんな...」
「見せられないだろ?そりゃそうだよ!」
「お前らは俺を犯人に仕立ている最中なんだからなぁ!」
言葉を失った須藤は、そのままうつむいたまま黙ってしまった。
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