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【艦これ】大井さんの女子力事情
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31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/15(土) 07:05:10.04 ID:Kb9/3wxg0
>>30
ちくしょうネットの回線が違ったからこれじゃあお前誰やねん。しかもプライベートゾーンだろ何やってんだ。全て台無しだよもう.....。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/15(土) 07:13:57.91 ID:Kb9/3wxg0
>>31
IDが違う。もう黙ります名誉挽回の為またこつこつがんばります。やかましくてすみません。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 09:12:04.65 ID:cchzq+Kf0
まあ落ち着けよ
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 10:35:47.79 ID:7z2IBxtsO
もうノーパンでいいじゃん
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 11:25:11.78 ID:47prGGFjO
大丈夫だよ。大井っちはいつもノーパンノーブラだって北上が言ってたし
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 11:33:17.43 ID:931GD1qDO
>>32
間違いなんて誰でもあるんだから気にせんでいいのよ。
ちょっとぐらいだったらみんな脳内変換できるし、大きなミスしちゃった時は
スンマセーン「〜」でした〜テヘペロ、って感じでシレッと更新してけばいいんだよ
要は続けること、エタらないこと
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 12:36:56.33 ID:cl3VVOAKo
別に違和感ないし、気にするほどのことでもないよ
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/20(木) 18:12:54.11 ID:aZrxeSyq0
大井「私の最終的な目標は、全員分のビー玉を見つけて、それをアクセサリーにして渡すことなんです」
提督「全員分ですか。こりゃまた大変ですねぇ....」
大井「仕方ないじゃないですか....」
横目でちらりと視線を動かすと大井さんは眉間を摘み、心底呆れ果てたようにため息をこぼしていた。
提督「.....なによ。ため息なんかこぼしちゃってさぁ」
何が一体大井さんを呆れさせるのか、全く見当がつかない。私はシーグラス採取を中断し大井さんのため息の理由を問うた。
大井「......ここの鎮守府ってみんな自分に無頓着な人や艦娘が多いんですよ。いいえ、私以外全員ですね。みんな少しも飾ろうとしない。もうそれが気になって気になって....」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/20(木) 18:13:42.10 ID:aZrxeSyq0
自分に無頓着か。
提督「そう?みんな可愛いし女の子らしい子ばっかりだし、大井さんの勘違いじゃないの? それにみんなそのまんまでいいと思うよ、私は」
艦娘はみんな可愛いし。それにとびっきり性格がいい。
人間以上のものを持つ艦娘に大井さんはこれ以上何を求めようか。
私は人間が嫌いだ。胡散臭い言葉を並べ、他者を蹴落とし、下にいる者を貶しては恍惚とする。
重ねて言おう。そんな醜悪を詰め込んだ人間が私は嫌いだ。
だからこんな提督業だなんて人と関わることの少ない職種を選んだ。
なまじ頭は良かったため、最前線に飛ばさせることもなく、かといって形だけの鎮守府でもない、少し危なっかしい所に配属された。
私には無駄なプライドと、できれば楽をしたいっていうふざけた考えがある。だから最低限必要とされる今の現状はかなり気に入っている。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/20(木) 18:15:21.92 ID:aZrxeSyq0
私が艦娘に出会う前、艦娘は姿形が人間だもの、告白しよう。私は艦娘を一切信用していなかった。
どうせ人間と変わらないだろう。そう思っていたわけで、私には人間が少ない戦場が安寧の地にみえた。おかしな理由だけどね。
そんな疑心暗鬼な私が提督になって最初に支給された艦娘は、簡単に予想がつくわね。大井さんだった。
まぁそれまで艦娘だなんて写真とかでしかお目にかかった事がなかったから驚いた。
艦娘は本当に可愛いかったから。写真写りがいいとかそういうもんじゃない。あぁ可愛いなぁと何度も思っていた。
しかし綺麗な花には棘がある。ことわざは言い得て妙。物事の真理をつく事が多い。だから余計に私は訝しんだ。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/20(木) 18:16:52.08 ID:aZrxeSyq0
なぜなら、大井さんは裏表がある艦娘だからだ。
今じゃそんな大井さんが大好きでしょうがないのだけれど、当時は見え隠れする本性に、他の艦娘より特に警戒心を払う対象だった。
穏便に済ませようと表面上だけを意識する。私の得意分野で大井さんを避けていた。
でも大井さんはそこんとこ敏感だった。最初は大井さんも私と同じ様にしていたけど、段々私に対して苛立ちを隠せず、ある日とうとうブチ切れた。
覚えてるなぁ。私の何が気にくわないの?ですって。
まぁびびったわ。だってそんな事言う人なんていないわけだから。
みんな表面上を意識するもんだから、わざわざ生暖かな関係を壊す一言をぶつけるわけない。
だからこの一件が私の考えの根底を一気に塗り替えることになった。
艦娘は人とは違う。こんなにも素直で自分を隠さない生き物なんだ艦娘って。
感動して私は泣いた。それも切れてる大井さんの目の前で。大井さんはそんな私を見て慌てふためき、何も言わず抱きしめて、泣き止むまであやしてもくれた。
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/20(木) 18:17:53.92 ID:aZrxeSyq0
たまに大井さんはこの事を冗談交じりで弄るけど、何も気分を害する事がない。だって私は艦娘に恋してるのだから。
だから、私は自分を着飾るだなんて艦娘のみんなにはしてほしくない。
何か変わってしまいそうで、不安でしょうがないんだ。
大井「そのまんまでいいなんて勿体ないですよ。せっかくみんな可愛いんですから、そうなった以上最大限良さを活かすべきなんです」
提督「そのままで十分可愛いなら、何もしなくても大丈夫!大丈夫!私に比べてみんな可愛いひお洒落さんだからね」
私は軍服以外の服はジャージ二、三枚とシャツと下着しかない。特に鎮守府から外出する事なんてないんだからこのくらいで丁度いい。
はぁ、とまたため息をこぼす大井さん。
大井「やっぱり提督もですね.....。提督、あなた自分が美人って事に気がついてますか?」
提督「へ?美人?」
初めて言われた。私が美人だなんて。言われるのは目つきが悪い、姿勢が悪い不健康だ。こればっかり。
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/20(木) 18:19:47.03 ID:aZrxeSyq0
更新できなくてすみません。そろそろお暇を頂けるのでその時はガツンと更新します。また頑張ります。
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/21(金) 00:15:55.02 ID:gfbGRXbyO
乙
期待し待機してる
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/23(日) 16:22:38.70 ID:C4fl9xjM0
大井「中身はどうしようもないですけど、多少気を使えば誰にだって負けませんよ?」
癪ですけど、本心ですよと付け加えた。でも私はそうは思えない。
提督「私は、嫌だな。だってそう思わない?お洒落をしている人って、なんか自分を良くみせようと必死にしてるっていうかなんて言うか....。自分に嘘ついてるみたいに思うのよ」
私はそう言って意味もなく親指の爪を弄る。 これは私の悪い癖だ。誰とも真正面から討論をせず適当に流し続けてきたせいで、本音を呟くことが苦手だ。そういう時、決まってこうやってしまう。
この癖をもちろん大井さんは知っている。
付き合いが長いと見えてしまう数多い私の癖は、大井さんには気になって仕方がないらしい。
それに大井さんは世話焼きだ。少しでも悪い癖を見つけると私はご指摘を頂く。例に沿って今回も同じだ。
大井「提督、爪」
提督「あ、はい....」
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/23(日) 16:25:00.21 ID:C4fl9xjM0
大井さんは提督と言い、気になったことを言ういつもの流れ。
別にこれ以上何かあるのかと言われると、何もないし、どうして指摘するのかっていう理由を述べるわけでもない。
大井さんはそれが気になったから言う。ただそれだけ。
癖は言われてから気がつく事が多いし、客観的に見直して変だと思えば気にして矯正するもの。
それを理解しているから大井さんは必要以上の事を言わない。
直そうと思っているから私も有り難くその言葉を受け止める。それでよし。
大井「で、まとめるとお洒落な人が提督は気にくわない、と」
なら私はどうなんですかと、大井さんはまたもや私を試すように言う。にやにやしながらと。
提督「いぃやぁ!!大井さんは良いんですよ!だって生きる女子力の塊、ですから副産物としてお洒落が付いてくるのは当然の事なのよ」
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 16:37:57.10 ID:C4fl9xjM0
我が鎮守府が誇る女子力マイスター大井さんの実力は定かではない。
なぜなら、私達は大井さんが行う数々の女子力行為を理解できないからだ。
このシーグラスを拾い集めてるのだってそうだった。何か悩み事や病んでるだなんて言われる始末で、誰一人として理解する事が出来なかった。
他にも理解できなかった事として、大井さんはついこの前まではお茶について勉強していた。
我が鎮守府にはお茶にうるさい金剛型の艦娘は一人としていないので、飲めればいいのだと誰も気にしなかった。そんな中を、大井さんが研究していたのは、紅茶についてだった。
話を聞くとお茶はお茶でも、ほうじ茶。麦茶に緑茶。枝の広がりみたいに分岐する種類は紅茶でも同じだった事を知り私は驚いた。
私は紅茶という飲み物はどれも同じ物で、違うとしたらレモンティーやミルクティーとか紅茶に加える物だけの違いだと思っていたからだ。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 16:39:28.43 ID:C4fl9xjM0
だから大井さんが得意げに話すダージリンだったか、ダイエットに効果があるという耳寄りな情報とか、フレーバーがどうのとか、殆どまるっきり私を含め女子力の欠けた我々鎮守府の面々には理解できなかったのだけど、飲むとダイエット効果があるって事が一人歩きし空前の紅茶ブームか訪れたのだ。
しかし時同じくしてトイレが大混雑になったことは今でも謎のままだ。
大井さんが新しい事を始め、みんながその話を聞くとやっぱ女子力高いなぁと納得できる。女子力未知数でも大井さんブランドが物語るのだ。
そんな大井さんだからこそ許される自分磨き。ちゃんと訳があるのですよ。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 16:41:25.27 ID:C4fl9xjM0
今日は暇ですのでちまちま更新していきます。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 17:01:24.71 ID:C4fl9xjM0
大井「.....毎回思うんですけど、私とみんな。一体何が違うんですか?女子力とかお洒落さんとか抜きとして、気にはならないんですか?服装もそうですけどお化粧の仕方とか、女の子なら調べて当然なことがみんな欠けていて?」
提督「さっきも言ったけど、やっぱ自分らしさって大切じゃない?無理して着飾るのは良くない.....」
大井「それは違いますよ」
キッパリと言葉を遮る。それに強い口調だ。私の癖に指摘する時とは違って。
大井「みんなお洒落の楽しさを知らないだけなんです。それか嘘で固めて意固地になっているか、この2つです。どうせ提督の事ですから、あなたは後者だと思いますけど」
提督「心外だなぁ....」
でも間違っていないのかも知れない。私が気がついてないだけで、大井さんから見たらそう思えるのだろう。
大井「提督はともかくとして、他の艦娘のこは違いますよ?知れば興味を示して始める。知らないから手を出さない。みんな、何にでも興味があるんです。お洒落だってそうです」
そう言われて紅茶の件を思い出した。
みんな興味がなかっただけで、大井さんが始めて良さを知ると、こぞって私もと広まった。
それに波は去ったが今でも紅茶を飲み続けている艦娘だっている。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/23(日) 23:56:13.74 ID:OmQeebMl0
大井「かっこいい服がいい、可愛い服がいいシンプルな服がいい。漠然とした願望は誰にだってあるんです。でもそれを表現する知識がなく考えあぐねてしまい、結果これでいいやと妥協する。勿体無いですよ。雑誌一冊買って勉強して、服屋さんに勇気を出して買いに行けば成長だってする。勉強する過程でまた新しい事に興味を持つ事だってあるんですから。初めから諦めてちゃダメなんです」
つまり大井さんはこう言いたのね。
着飾る事、お洒落をする事は普通で、そしてそれは自己表現であり自分らしさの延長線だと。
しないのは最初から諦めているからだと。だけどさ、世の中そんなに上手くはいかないってもん。
羞恥心。日本人に力強く根付く恥の文化。これは中々捨てる事はできない。
私が僕が、こんな服装をしていいのか。これは似合っていないと客観的に自分を見直すことは誰にだってあるはず。これはどうなの大井さん、と私は問うた。
すると大井さんはおもむろに砂浜に手を伸ばす。そして緑色の破片を一つ摘み上げ、シーグラスと同じですねと呟いた。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/23(日) 23:59:54.15 ID:OmQeebMl0
大井「提督はこの砂浜にただの瓶の破片があったらどう思います?」
なるほど。大井さんの意図に察しがついた。
提督「嫌だな、だってそのままだとゴミだから。それに踏んづけたら怪我だってする」
大井「なら、こうやって砂と岩にお化粧を施されて瓶の破片がシーグラスになったら、どうですか?」
提督「綺麗だね。ほんとおかしな話だけどさ」
大井「わかりまたね?提督」
提督「参りました.....」
それでいいんですよまったく。そう言うと長らく中断していた前進を再び始めた。
大井「罰として今度提督には私のマネキンになってもらいます。嫌とは言わせませんよ。そしていつかはこの鎮守府の一人一人を私のマネキン....。私が手伝って無理にでも服を選ばせて着させてみせます」
大井さんの熱い覚悟が繋がった。私はマネキンにすると言ったけど他の子達にはその表現は使わなかった。なぜだろう。
大井さんを見ると若干鼻息を荒くしていて手を動かすのも早くなっていた。
しかし、そこまでして熱くなるのはなんでだろうと私は思った。
このシーグラス採取もそう。この最終的な目標は鎮守府面々のアクセサリーを作る事と言っていた。でもわざわざそんな事しなくたっていいのに。
大井さんがお節介を焼くのはみんな知っているけど、実力行使だなんて珍しい。
さっきの説明にもあった様に、勉強して自分で行く事に意義がある、興味があるなら教えるって考えのはずなのに。私はまたもや気になったことを聞く。
提督「なんでそんなにやる気満々なわけなの?大井さんは?」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/24(月) 00:02:25.93 ID:GMH9qGQh0
思いのほか進みませんでした。また頑張ります。あとこのお話が終わったらちょっとした小ネタを考えていますのでよしなに。よしなに。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/24(月) 00:19:46.44 ID:nGT2Q7RSO
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_ わ た し で す _
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55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/27(木) 18:22:46.68 ID:Ugt8L+Ki0
大井「なんでって....」
そう言って大井さんは項垂れる。その声色には飽きれが混じっているのを私は聞き逃さない。
それにしてもなんで飽きれるてるのかな、って思ったけど、私の鈍感は直ぐに今までの話と直結しているだと察した。
提督「何があったのさ?一体全体?」
大井さんは突然頭をかきむしり、ああ思い出しちゃったと珍しく大きな声で叫んだ。
大井「いいですか?誰にも内緒ですからね?....冬の時期に、私と北上さんが一緒に休みを取ったのを覚えてますか?」
提督「ええ知ってるわよ?あれ、デートでしょ」
二人とも、お熱いですねと付け加え、私はさっきまでのお返しとばかりににやけ面をする。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 18:25:23.19 ID:Ugt8L+Ki0
その日は鎮守府内で大騒ぎになったからよく覚えている。
なんと二人が一緒に休みを取ってお出かけするんだとさ。遅かれ早かれ明るみになる話だったけど、大問題だこれと、私は頑張ってこの話を隠した。
はずなのにどこかの、青の葉さんが前日に嗅ぎつけやがった。おかげで知れ渡ってしまい次の日鎮守府は機能停止にまで陥りそうになった。
追いかけるだなんだ、失恋的センチメンタルや、ノスタルジーに浸ったのか知らんが出撃できませんといい、みんな嫌だと言う。
そのせいで私があっちこっちに行き説得したり、叱ったりとで、忘れられない一日だったのだ。
もちろん北上さんと大井さんは私の奮闘劇を知らないだろうけどね。
そんな私が孤軍奮闘の真っ最中に二人は甘々な関係を築きあげていたんだろう。その惚気話を私にしようだなんて、まったく大井さんは。
大井「えぇ、まぁ、そうなんですけど、ね」
妙に歯切れが悪い。趣味の話をするみたいに早口でまくしたてると思っていたのに。
大井「....あの日、結構大きなデパートに買い物とデパ地下のお惣菜屋さんで、みんなのお土産買いに行ってたんですよ」
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 18:33:10.95 ID:Ugt8L+Ki0
提督「あぁ、あれのことね。久し振りにがっつり食べたわ。美味しかったわよ」
我が鎮守府が誇る料理担当の艦娘、通称「お艦さん」は和食を作る。
そりゃそうだろって思うだろけど、いかんせん、洋食はてんで駄目なのだ。
不味いわけじゃない。いざ張り切って洋食を作ろうとしても、何をどう間違えたのか、結局和風洋食になってしまうのだ。
ポトフを作ろうとして、なぜか肉じゃがになったり。かといってカレーを作るとカレーになる。カレーは日本のソウルフードとはいうけど何か腑に落ちない。
気になって私が厨房を覗いてみると、置かれていた調味料は醤油、酒、みりんの三種の神器と日本食に必要な調味料ばかり。
それらを手にとって「どうして私は....」と日本に縛られた我らが誇る料理担当「お艦さん」がいたのだ。
見なかったことにした私だけど、こりゃ洋食は食べられないわと思ったわけだ。
大井「それはどうも。....それでですね、北上さんの服装が.....」
そう言って口を開けたまま硬直した。私に次の言葉を紡げということだろう。大方、察しはつく。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 18:47:52.99 ID:Ugt8L+Ki0
提督「相応しくなかったのね。服が」
こくんと、大井さんは小さく頷いた。
うるさくした北上さん、なんて二つ名がある私だけど、それは何も性格が真逆でも似たり寄ったりだからというわけじゃない。
北上さんの服装は、私と同じだからだ。一度、見たことがある。北上さんが制服以外の服を着ているのを。
まるで瓜二つだった。よくわからない英語のシャツと短パン姿で、自販機で飲み物を買っていた姿を。まさにあれは私と同じだったのだ。
その姿と私の服装を思い返したわけじゃない。なんせ私も自販機に飲み物を買いに行っていたところだったから。
目に映るは英語が違うだけのシャツと、色が違う短パン姿の小さな私。
私は北上さんにバレないようそそくさと退散した。妙に恥ずかしかったからだ。
あの時は理由はわからなかったが、今ならわかってしまう。そりゃ恥ずかしいわけだ。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 21:31:19.21 ID:Ugt8L+Ki0
大井「さすがにマズイって思ったんですよ。だってジャージ上下で特攻しようだなんて、考えられないですよ」
まさかそんな服装で行ったのか。部屋着ならともかくとして、私だってジャージ上下で大きなデパートに行こなんて思わない。
私は北上さんと違って軍服があるからなんとかなる。きっちりとしてるあの服なら到底浮くことは、ないない。
提督「それでどうしたの?」
どうしたも何も。
大井「一旦退却して私の服を着させたんですよ。でもコートは重い、マフラーは邪魔だって言って嫌がるんですよ北上さんは。それで無理やり」
提督「いやぁお疲れさまです.....」
両手を合わせて合掌する。まったく、必要最低限の服は持っていて欲しいもんだね。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 21:31:55.08 ID:Ugt8L+Ki0
大井「.....北上さん以外にも言えたもんですからね。だから、こんなにやる気になってるんです。それに買いに行くにも、よそ行きの服が無いと難しいですから、私が付いていかないと」
女子力を忘れすぎか。まぁこれは男にも女にもいえたことだね。
大井「そんなみんなですから、こうやってちまちまとアクセサリーになりそうな物があれば拾って、いつかはプレゼントするつもりなんです」
提督「なんだかお母さんみたいだね。大井さんは」
料理担当の「お艦さん」に服担当の「大井さん」。なるほど、これなら鎮守府は安泰だ。
鐘の音がなった。学校でよく聞くチャイムの音だ。その音に続き拡声器から、みなさん朝です。今日も1日がんばりましょう。と、大淀さんの声が響き渡る。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 21:35:34.15 ID:Ugt8L+Ki0
私は立ち上がり伸びをする。そして朝の澄んだ潮風を大きく吸い込んだ。
提督「そんじゃあいい時間ですし、戻りますか」
大井「そうですね。今日も1日よろしくお願いします、提督」
大井さんも立ち上がり膝小僧にこびりついた砂を払い落とした。
よし。
提督「それじゃあ最後に、大井さんに細やかながらプレゼントを」
私はポケットを弄る。そしてそれを掴み取るとあの時の大井さんと同じく拳を突き出す。
それを大井さんは受け取ると目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
大井「提督!?これいつ見つかったんですか!?」
私は踵を返し歩き始めた。丁度向かい風だから髪が靡く。そして少し顔を傾け振り返り、できるだけかっこよく。
提督「大井さんのパンツを拝見させてもらった時にね、なんか掴んでたんだよ。お礼だよ、とっときな」
そう言うと大井さんは顔中真っ赤にし、勢いよく走ってきて、私の背中を思いっきりぶん殴った。
私が大井さんに手渡したのは、細かな凹凸が刻み込まれた、大井さんが堪らなく欲しいと言っていた、透明のビー玉だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/27(木) 21:54:08.63 ID:Ugt8L+Ki0
いつもの鎮守府の午後は、私が業務に飽きて散歩に出かける時間帯だ。なにせ眠いのだから仕方ない。
適当にぶらぶらと歩き回って散歩にも飽き、そろそろお仕事しないと怒られると思い、執務室に戻ると誰もいない。
代わりに執務机の上に一枚の置き手紙がある。二つ折りにされていて、右端に小さく、提督へ、と丸っこい私がいつも見る字体で書いてある。
どうやら私以外に誰もまだ見ていないんだろう。
大井さんは几帳面だから折った紙が直角に開くのが許せない。
力を込めて、体重全体を込めて綺麗に二つ折りにする。
そんな事をするのだから、一度誰かが目を通すと紙が上を向いてしまい痕跡が残る。
それを大井さんが知ると、まぁうるさい。それをみんな知っているから誰も大井さんからの手紙は自分以外のを開こうと思わない。
無論そんな事をするのはいないのだけれど。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:07.28 ID:Ai0dGl3UO
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64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:13.44 ID:arj3I6P4O
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65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:23.99 ID:d5g5dApZO
\ ヽ | / /
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66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:29.01 ID:TfwQBkSMO
\ ヽ | / /
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67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:33.83 ID:oAROVMK/O
\ ヽ | / /
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68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:39.64 ID:/49iVNWRO
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69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:44.59 ID:bT54j93/O
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70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:49.74 ID:Yt0xZ3OgO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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 ̄  ̄
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:24:54.68 ID:vIgBFodGO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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 ̄  ̄
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:25:02.10 ID:FRzhm1HOO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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 ̄  ̄
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:25:07.81 ID:pGjRaY7nO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
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74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:25:12.70 ID:jD0e4isWO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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 ̄  ̄
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/ / | ヽ \
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75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:25:17.45 ID:pXFoQzE/O
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/27(木) 22:25:57.17 ID:Ugt8L+Ki0
私はあの日以来大井さんのお尻を執拗に追い回している。
朝のランニングはやめて、シーグラス探しに熱を注いでいるということ。
どうしても探す場所は同じだから、シーグラスの先輩である大井さんを差し置いて前に出ることは言語道断だ。
従って大井さんの後ろを追う。致し方ないのだ。
手紙にはその行為は迷惑だからついて回るなと書いてあり、それと今夜浜辺に来てくださいとも書いてあった。
私はふらふらと椅子に座わる。なんだかお風呂上がりでのぼせたみたいだ。
そして確認の為、もう一度手紙の内容を見る。同じ内容だった。私は声ならぬ声を上げ足ををばたばたした。
なるほど実ったのか成就したみたいだ。大井さんにしてはなんて大胆なんだ。
もっとこう、お洒落なレストランに私を呼びつけて、指輪を入れたシャンパンを運ばせるなんて計画を練っていると思ってた。
珍しく私は化粧をしようと思った。自室に着くなり服を脱ぎ捨ててまず禊のため風呂に入る。いつもより丁寧に髪の毛を洗い、いつぶりかのトリートメントを丹念に塗りたくる。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:26:24.66 ID:cdJib6NoO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/27(木) 22:27:14.50 ID:Ugt8L+Ki0
今日はここまでにします。そろそろ終わるのでまた頑張ります。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:27:56.42 ID:1xIEA8s/O
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:01.55 ID:oCd2TtZ3O
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:06.38 ID:KNlPDUBJO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:12.02 ID:sp8/ofm6O
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
/ / | ヽ \
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:16.79 ID:71Bo7ekWO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:24.06 ID:lNI4hebmO
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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/ / | ヽ \
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:28:29.27 ID:6bCVIuQ1O
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
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_ わ た し で す _
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86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:36:04.40 ID:GosgO7ZkO
乙
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 22:41:14.68 ID:IimmjvZyo
おつです
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/30(日) 21:42:00.86 ID:jsurYAsW0
しかし困ったことなった。
風呂から上がり化粧台に着くなり私の手は止まったからだ。
目の前にある化粧道具を前にした瞬間、私は何から手をつけたらいいのかまるっきりわからなくなった。
私は化粧用品の裏に書いてある使用方法をひたすら確認する。どこに塗るのか、どんな効果があるのか、書いてあることはわかる。でもいくら読んだって順番がわからない。
いつもなら大井さんにアドバイスをもらいに行く私だけど、今回はそうはいかない。
下手に多く使うとかえって逆効果だと思い、確かこんな感じだったなと適当にファンデーションと口紅を塗る。そして完成。
したのはいいが、鏡に映っているのはまるで化け物。
ファンデーションをこれでもかと塗りたくったせいで顔が不自然に浮き上がり、唇はいつもより2センチましに広がっている。
ふと頭の片隅に真っ白な顔で、たらこ唇のおばけがよぎった。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/30(日) 21:54:59.64 ID:jsurYAsW0
私は急いで風呂に舞い戻り顔をリセットする。
壁に手をつき、シャワーを浴びながら愕然としていると、大井さんが言っていた、ここの鎮守府の面々は女子力以前の問題だ。そう言っていた事が身に染みてよくわかった。
私は諦めた。もうどうしようもない。このままだ。
さてと、と。風呂から上がりもう一度髪を乾かして、軍服のボタンを締める。小休止と一服にコーヒーを飲みながら私は時計を確認した。
時刻に血の気が引いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ごめん大井さん!まった?」
大井「えぇ約束の時間からもう10分ぐらい待ちましたよ」
私が息を切らして到着すると、大井さんは苛立ちの矛先を地面に向け右足首でとんとんしていた。顔を見ると眉間には皺がよっていて、視線は私の心に突き刺さる。
提督「ほんっとすみません!」
私は両手を合わして頭を下げた。遅れた理由を話そうと思ったけど、まさか慣れない化粧に戸惑っていたなんて恥ずかしくて言えたもんじゃない。
大井「まったく、提督が時間に遅れるなんて珍しいですから、心配してたんですよ?」
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/04/30(日) 23:03:13.76 ID:jsurYAsW0
あぁもう髪の毛がぐしゃぐしゃじゃないですか。そう言って大井さんは私に近付いて髪の毛を整える。
いつも大井さんはいい匂いがする。なんて言うのだろう。女の子の匂い。これ以外に言葉が出てこないから困る。その匂いに今日はやけにどぎまぎする。いつもと変わらないのに、高鳴る心臓の鼓動が強すぎて張り裂けそうだ。
化粧も上手だなぁ。それに髪の毛の艶も私とは大違いだ。よく手入れしてるなぁ。
大井「提督、動かないでください。やりにくいです」
提督「ごめんなさい....」
大井「あと視線。気づいてますよ。あんまりじろじろ見られると恥ずかしいからやめてください.....」
そう言い終わると大井さんは私から離れ、そして、恥ずかしそうに顔を逸らした。私も大井さんに視線が気づかれていた事に恥ずかしくなって視線を逸らす。
長い長い沈黙が私と大井さんを覆い隠す。普段なら冗談の一つを言って大井さんを呆れさせるのに、なぜだか今は緊張しているせいで、いつもみたいに馬鹿な事が言えない。
でもそんな事を知らない大井さんは私の一言を待っている。そんな気がするからなんとか頭を捻る。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/04/30(日) 23:05:55.62 ID:jsurYAsW0
2日3日あたりになんとかお話を終わらせます。それで終わったら小ネタをやるって言いましたけど、内容はこの前に横須賀の軍港に行って軍艦の写真を撮ってきました。それらを貼っつけようと思ってます。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/30(日) 23:36:07.21 ID:jPweblZQo
待ってるぞ
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/01(月) 01:21:47.70 ID:4lmOYaTA0
おつおつ
まったり続けてくれてもいいのにw
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:48:58.55 ID:wgnqeKgI0
提督「あっ!え、えっとさ。私を呼び出した理由ってなんなの大井さん?」
そう言った後に私は思った。なんてつまらない返しだと。
こんな重苦しい空気の中で、私は気の利いた返しをせずに、呼び出した理由を聞いたのか私は。意気地なし、へたれめ。
大井さんは私は見つめ、少し口を開く。そして数秒して話し始めると思ったけど、表情を変えないままゆっくりと口を噤んだ。
躊躇っているのかな。大井さんは。私に何かを伝える事を。
その何かに期待し私の胸はますます高鳴るけど、同時にそれはあり得ない事だって頭が理解している。
大井さんの中で私は「提督」であり、仕事上の付き合いでしかない。そのドライで親密な関係が私の頭を冷やすんだ。
栗色の髪が柔らかな潮風でそよいだ。月光を浴び、光を纏った髪の毛は毛先に向かうほど白銀を帯び、ゆらゆらと照り輝く。
乱れる髪の毛を煩わしそうに搔きあげる大井さん。そのアンニュイな表情はなぜだか神秘的だ。
大井「月が綺麗ですね。提督」
そう呟くと大井さんの瞳は私を真っ直ぐに見つめた。
提督「そ、そうね!空気も澄んでるし、雲は一つないから、よく月が見えるわね!」
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:50:33.08 ID:wgnqeKgI0
そう言って私は笑う。そうするしか誤魔化す方法が思い浮かばなかったからだ。
誰だって意味がわかるあの謳い文句を言われたら動揺するに決まってる。
私はなぜだか親指の腹と人差し指の腹とでポニーテールの毛先を伸ばしたり弄ったりする。
大井さんの瞳は依然として私を見据えている。私は何を言ったらいいのだろう。さっぱりわからない。わからないからずっと弄り続ける。すると。
提督。
大井「私のことは、好きですか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:51:57.60 ID:wgnqeKgI0
意気地なし、へたれ、甲斐性なし。
私がここまでお膳立てしてるっていうのに、なんなのよ。
それらしい言葉を並べて提督の出方を伺っているっていうのに、それに便乗したりしない。上っ面だけを取り繕って事なきを得ようとしてる。
提督がそういう人間だってことは私は知っている。
だけど、ここぞって所は決めてほしい。そうならなくちゃ一歩も進めないじゃない。
大体何よ。約束の時間も守らないって。それに時間が掛かってるって事は服やお化粧やらしてくるって思ってたのに、いつもどおりじゃない。それに、それに。
挙げれば幾らでも出てくるこの提督への不満。
はっきり言って、いい所より悪い所の方が多い。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:54:03.55 ID:wgnqeKgI0
でも初期艦としてこの人に付き従った私は、その数少ない良い所が、悪い所を打ち消すくらいに素敵な事だと。
それは、艦娘を人間として見ていないこと。
艦娘は人間だっていう人はいる。
私がこの提督に出会う前にそう主張する人間が数少ないけどいたからだ。
私はそれが堪らなく嫌だった。虫唾が走るほどに。
どう取り繕ったって艦娘は人間なんかじゃない。そんな事そこら辺にいる子供達に聞いたってわかること。
それなのに、艦娘は人間だなんて。目の前の現実を否定している。
頭の中ではわかっている筈なのに、受け入れたくない。そうやって私は他の提督とは違う、いい人だって思い込みたいだけ。
いいえ、違う。彼らは本心から艦娘は人間だって思っている。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:55:49.89 ID:wgnqeKgI0
期待や願望じゃなくて、心の底からそう思っているはず。
同じ目線で痛みを分かち合って、苦難を乗り越えるから、人間と変わらない。そう結論に至ったんだ。
でも私は、それが重い。
彼らが私に「人間なんだ」って求めることが。その期待にはどう頑張ったって絶対に応えられないから、心はすり潰される。
だから逃げ回るように色んな鎮守府を巡り回った。
そして出会った、この目の前で髪の毛を弄くり回す提督に。疑心暗鬼の塊で、どっちにも肩入れすることが出来ない半端者の人間。
一目でわかったわ。類は友を呼ぶっていうあれね。
陰気な空気を醸し出すこの存在は、私の本性と似ていると。そう思った。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 19:59:10.90 ID:wgnqeKgI0
人として半端者の提督は、艦娘の扱いも半端だった。
それは指揮が下手くそってことじゃない。
しっかりと引き際をわきまえているし、勝負に出た時は必ず勝利を収める。
今まで見てきた多くの提督の采配よりも確実で、どうしてこんな辺鄙な鎮守府に配属されたのか理解できなかったほど、聡明で頼もしい。
じゃあ何が半端だったかというと、この提督は聡明すぎるがため、艦娘を「兵器」か「人間」かはたまた「艦娘」か、どう扱っていいのかわからず思い悩んでいた。
その考えが艦娘の扱いが半端だったというわけ。
今ならよくわかる。この提督は「人間」が苦手。それだから姿形が人間の「艦娘」に不信感を持っていた。でも艦娘を「兵器」として扱うのは良心が苛まれると。こう考えていたはず。
今までの提督とはまるで違った。どの人も艦娘を、兵器ならば兵器とし、人間ならば人間として扱っていたのに、そんな事に思い悩んでる人間は初めてだった。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 20:01:20.15 ID:wgnqeKgI0
だけど私は物事は白黒つけたい性格で、そうやってうじうじする態度が目に見えて露わになった時、ついつい怒ってしまった。私の何か気にくわないのって。
その一件から提督の艦娘に対する感じ取り方がいい意味でも、悪い意味でも変わったと思う。
提督は私に気持ち悪いほどスキンシップを行うようになったし、なにより艦娘に対する見方が変わった。
扱いは今までと変わりはなかったけど、提督の艦娘を見る瞳は少しずつ不信から信頼に変わっていった。
それは提督が、艦娘は人間ではないという結論に至ったというわけ。
どうしてそう思えるのか。なにせ提督の人間嫌いは直っていないから。
艦娘を信用していても、人間として見ていない。その視点が私には心地いい。
取り繕うことなく自分を出せる人間は今の今までこの人しかいなかった。と私が気が付いた時、私はこの人の虜になっていた。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/09(火) 20:03:37.28 ID:wgnqeKgI0
北上さん、ごめんなさい。私は沢山存在する魅力的な「北上」さんよりも、唯一無二の存在である提督に惹かれてしまいました。
どうか、どうかこんな私を許してください。
そして私は、この人が私と同じ気持ちである事を託し、勝負に出る。
必ず掴み取ってくださいよ、提督。
大井「提督、私のことは好きですか?」
聞こえなかったとは言わせない。風にも負けず、しっかりと聞き取れるくらいの音量で問う。
それを聞き取ってしまった提督は、まあなんて情けない。顔を真っ赤にして髪の毛を弄る手も止まり、鳩が豆鉄砲を食らったみたい。
さぁどうやってこの問いを返してくれるの、提督は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/09(火) 20:07:27.58 ID:wgnqeKgI0
GW中に終わらせようと思ってましたけど彼方此方に行ったり、イベ掘りでまったく進みませんでしたごめんなさい。大井さんと提督の駆け引きはまだ続く予定です。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 09:12:15.27 ID:9VqVo/8no
これは楽しみですわあ
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/22(月) 00:19:38.16 ID:c4JYKnfD0
昔々その昔。まだソロモンの悪夢がそれほど力を持っていなかった時。
昔々その昔。まだ双璧をなすもう一人も力を持っていなかった時。
昔々。まだみんなが弱かった頃に、私は覚悟したんだ。
大井さんを殺そうと。
提督稼業をする者、いつかは訪れるだろう災厄に私が直面したあの日、私は大井さんを殺そうとしたんだ。
その方法は至ってシンプルで、尚且つ、遠回しな艦娘への死刑宣告だ。
今からこの海域に行って敵を迎撃してきて。この命令一つで、私は、大井さんを殺そうとしたんだ。
私が大井さんからストレートな告白の促しを受けた瞬間。私は防ぎ混んでいたこの記憶がフラッシュバックした。
狼狽え呆けていた口が急に塞がり、一瞬にして顔が青ざめたはずだ。
ただでさえ低血圧な私は、その変化にくらりとしたのだから間違いない。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/22(月) 00:20:16.07 ID:c4JYKnfD0
大井「どうかしましたか?提督?」
その変化に気がついたのだろう、心配そうに私の顔を覗き込む大井さん。
提督「ううん。なんでも、ないわ」
そう言って首を振る。私の変化した心境を悟られないようにするが、いかんせん大井さんは私の考え事をよく当てる。
しかし今回は察することはできないはず。なぜなら自分が一度殺されそうになっていることを知らないはずだからだ。
あの日、卑怯な私は大井さんへの死刑宣告を、いつも通りの指令の言葉に塗り替えたから知る由もない。
それに危機的状況にこの鎮守府が陥っていたなんて知らない可能性だってある。
だから急に甘々なムードから一転し、何やら急に蒼白した私への追求は終わらない。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/22(月) 00:21:17.02 ID:c4JYKnfD0
大井「そんな嘘ついたってバレバレです。何が気になったのかちゃんと話してくれないとわからないです」
そう言うとぐいと私との距離を縮めてきた。
罪悪感からだろう。いつの間にか背中はねっとりとした汗が接着剤となり、服と皮膚が密着していた。
提督「だから、何でもないって」
自分でも驚くくらい冷ややかな声色。この八つ当たりにも似たこの言い様が私にできるだなんて思わなかった。
それに本人でさえ驚いたのだから、付き合いの長い大井さんだって相違ない。
びくりと背筋を震わせると、偏に見つめていた瞳を広げ、大井さんは初めて私から視線を逸らした。
そして苦しそうな表情を浮かべ、右腕を強く握りしめると、微かに開いた唇から、弱々しく言葉を吐き出す。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/22(月) 00:23:12.46 ID:c4JYKnfD0
大井「.....引きました、よね。だって、女の子同士ですもんね。.....ごめんなさいさっきの話は忘れてください」
後退り、今すぐにこの状況から逃げだしたいと言わんばかりに勢いよく踵を返すと、大井さんは走った。
遅れて我に返った私は慌てて大井さんを追いかける。
提督「まって!!違うの大井さん!!」
私は大井さんの腕を掴みとる。
とても冷たかった。
大井さんの冷たさに私の異常な程高ぶっている体温が高い根こそぎ移ってしまいそうだと思うくらいに。
ふと私は大井さんは、一体いつからこの浜辺にいたんだろうと思った。
こんなにも冷え切っているのだから約束時間の何十分も前から、もしかしたら一時間くらいかもしれない。
今だ寒さが残る潮風を浴び続けていてのなら、この冷たさは何らおかしくない。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/22(月) 00:32:54.28 ID:c4JYKnfD0
私はそんな大井さんの本心を無下にしようとしている。
気持ちは一緒なのに。本当は舞い上がってしまうほど嬉しいのに。秘密にした過去に蝕まれ、気持ちに応える資格がないと思っている。
あぁクソ。何だって私は愚かなんだ。
想い人を死に追いやろうとした真実を暴露し、拒絶されるのが怖い。
だったら最初からあんな作戦なんか計画するんじゃなかった。
でもそれは結果論だ。あの時一番強かった大井さんが敵を道連れ覚悟で出撃しなければ、今この時すら存在しなかったんだから。
それに結果論で締め括るなら大井さんは今こうやって生きている。なら難しいことなんてかなぐり捨てて、もう忘れてもいいじゃないか。
だから大井さんを捕まえても、ぐちゃぐちゃな考えのせいで、言わなくちゃいけない言葉ががんじがらめになる。私が捲したてる言葉は単なる喚き声にしかならない。
私の意味のわからない言い訳を聞いても、大井さんは振り返らない。
だからどんな表情をしているのかわからない。泣いているのかもしれないし、想い人がこんなにも情けのない奴の知って、落胆し、無表情かもしれない。
大井「.....もう、いいです」
この一言が、何よりも辛く心に響いた。
そして私は、これで大井さんを本当に掴みそこねたのだと知った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/22(月) 00:34:53.24 ID:c4JYKnfD0
中々時間がとれないので、中々進みませんですみません。書いてて楽しくなってきたので、思っていたよりも長くなりそうです。また頑張ります。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/24(水) 22:54:53.08 ID:DbQfPPCyo
丁寧な描写はよいぞお
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:25:28.19 ID:qNL29ZGy0
もう、いいです。そう言って振り返らず、そのまま歩み始めた大井さんの後ろ姿を、記憶の狭間から何度も呼び起こす。
風鈴の冷たい音色が執務室に響き渡る。透き通る音色に私は突っ伏していた机から顔を上げる。
誰もいない執務室。鎮守府の午後だ。
あれから1ヶ月たった。涼しさを含んでいた風は、今ではねっとりとしていて、皮膚にまとわりつくようになった。
そして風鈴の音色に微かに混ざる賑やかな声達。
これだから夏は嫌いなんだ。なんだか私だけ除け者にされているみたいで。
私だけ季節に取り残されているみたいで。すごく嫌だ。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:26:31.40 ID:qNL29ZGy0
私は足を執務机に乗っけ、帽子を顔に被せる。そして腕を組む。
夏だからってだらしないですよ、と大井さんの声。風鈴なんかよりも心の奥底に響き渡る声。
うちわ片手にだらしないと言いながら、私しかいないのをいいことに、勝手に私の冷蔵庫を開けてポッキンアイスを取り出している姿がある。
提督「そんなわけないじゃん」
私は一人呟く。大井さんがいるわけがない。大井さんはここにはいないのだから。
あれから私は、大井さんとは一度も言葉を交わしていない。
出撃の際、作戦概要を説明し軽い事務的な会話を含めると会話がないわけじゃないけど、無表情で、はいと軽く会釈するだけなのを会話とはいえない。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:27:45.56 ID:qNL29ZGy0
秘書艦も辞めてしまった。代わりに誰か来るかと思っていたけど、誰もこない。
みんな自分のことで精一杯なのだろうか。それか私に人望が無いのかもしれない。
大体、手伝ってもらうのはなんだか気がひける。あれこれ考えていると胸がきりきりと痛み始めた。
私は三段目の引き出しを開ける。書類と筆記用具がごちゃ混ぜになっている奥底に手を突っ込む。
一つだけ質感が変わった。私は指先でそれを撫でる。すると痛みをあげていた患部は徐々に落ち着き始めた。
そうすること2分。私はそろそろ仕事に戻ろうと思い、引き出しをしまう。
代わりに使い慣れた真っ黒の万年筆を手に取る。万年筆をいつも握るポジションに指が滑り込むと、私は感傷には浸った。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:30:15.49 ID:qNL29ZGy0
懐かしい。この万年筆は大井さんの誕生日にプレゼントしたものだからだ。
7月15日。丁度今みたいにむしむしと熱苦しい夏の日に贈った万年筆は元は白と黒のセットだった。
それを選んだ理由はペアルックみたいで面白いと思ったからだ。
黒は私の。白は大井さんの。特注でキャップには私の本名と、大井さんの名前が筆記体で刻印されている。
渡す日はわくわくしたもんだ。大井さんは一体どんな反応をするのか、色々と考え夜もまともに眠れなかったくらいだからだ。
今でもよく覚えてるあの光景。なんなら一語一句間違えることなく大井さんが言った言葉を覚え、仕草、表情の全ても覚えている。何度も忘れないようリフレインしたからだ。
大井さんが万年筆を受け取って放った第一声は、ありがとうごさいます。と非常に喜んでもらえたが、刻印の説明をすると顔色が変わった。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:31:42.91 ID:qNL29ZGy0
冷ややかな視線を私に向け、なんで私の刻印はOiだけなんですか。提督だけ名前が長くてずるいです。と言った。
大井さんにしては珍しく駄々をこねる姿に私は腹を抱えて笑い、ならOi sanがよかったのと返したのだ。
それが癪に触ったのだろう、そういう問題じゃないですと叱られた思い出。
だからって大井さんはその万年筆を使わないような薄情な艦娘ではない。その日以来真っ白の万年筆以外のペンを使っているのを見たことがない。
それはほぼ絶縁状態に近い今でも同じで、やはりその万年筆を使っている。だから余計にわからない。今の大井さんとどんな距離感でいたらいいのか。
一人で思い出話に花を咲かすのを止める。
我に帰った私は、馬鹿みたいに山積みになっている書類の天辺を一束下ろし、黙々と作業を始めることにした。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:33:41.94 ID:qNL29ZGy0
来月分の資材申請書だ。1ヶ月毎にグラフ化されたそれぞれの資材の消費量を見ると、不自然に右肩上がりだ。
経験上、この鎮守府では戦艦に正規空母の艦娘はいないため、消費される資材は少ないはず。
気になって入渠と出撃の際に補充した資材を纏めた資料とで照らし合わせる。微妙に数が合わない。
まぁいつものことだけどね。気がついてないと思っているのだろう。
少しぐらいなら私だって目を瞑るけど、最近ちょろまかしている数が調子に乗って増え続けている。一体何に使っているのか知らないけど、近いうちに説明してもらおう。
そう思った矢先、扉が勢いよく開け放たれた。
球磨「提督ー生きてるクマかぁー?」
開け放たれた扉は、反動で元凶である球磨さんの元に戻っていくがそれを片手で受け止める。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:34:45.80 ID:qNL29ZGy0
提督「球磨さん、扉壊れるからそれやめてって言ってるよね」
球磨「元気そうでよかったクマ」
そう言うと球磨さんは扉を閉め私の言葉に耳を貸さずにづかづかと歩き、ソファに座り込んだ。そして足を組み左手を私に向けてくいくいとする。
どうやらアイスをご所望のようだ。
大体、球磨型の考える事は根っこの部分が似たり寄ったりだからわかりやすい。
それは積極的な大井さんと性格が真逆な、いつもアンニュイそうな北上さんだって同じことだ。
私はため息をつき、冷蔵庫に向かう。
冷蔵庫の中で山積みなっているポッキンアイスから球磨さんに渡すのを選ぶ。
実はこの奥に高めのアイスが入っていることは私以外誰も知らない。木の葉を隠すなら森の中、というわけだ。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:35:35.50 ID:qNL29ZGy0
球磨「大井とはうまくやってるクマか?」
なんの前触れもなく球磨さん言う。縛り付けられる様に、私の手はポッキンアイスを取ったところでぴたりと止まった。
手のひらに感じる冷たさとは裏腹に、体は熱く、心臓の鼓動は強く高鳴り始めた。動悸でめまいもした。
私は悟られないように、何も返答せず、取り出したポッキンアイスを折り、球磨さんに片方を差し出した。
ありがとうクマと言うと、球磨さんはポッキンアイスを一口齧り、咀嚼する。私も一口齧る。ぶどう味だ。
ごりごりと氷を噛み砕き、私も球磨さんも何も喋らない。
でも球磨さんは、隣に座れということだろう、ソファを叩いた。
それに従って私は球磨さんの左隣に座る。口火を切ったのは球磨さんだった。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:37:02.59 ID:qNL29ZGy0
球磨「....球磨は妹達の関係とか、他の艦娘の関係にはなるべく口を挟まないようにしてるクマ。なんでかわかるクマか?」
提督「巻き込まれたくないからでしょ」
球磨「そう。よくわかってるクマね。いくら可愛い妹達だとしても、交友関係は球磨には関係ないし、いざこざだって知らないクマ。自分達で解決しなくちゃいけない。球磨はそう思ってるクマ」
それに狭い交友関係を円滑に保つには、ある程度の距離感が必要だと思うクマ。
球磨さんはそう言い終わると食べ終わったプラスチックのゴミを、器用にゴミ箱に投げ入れる。
提督「そう思ってるんだったら、どうして口を挟むの?間に入れば面倒になるのは目に見えてるはずなのにさ」
言ってしまえばこれは一番たちが悪くて、思惑が交差しすぎて、がんじがらめになってしまう問題。恋の問題だ。
当事者も巻き込まれた第三者も結果としていい目をみないことが多く、球磨さんが一番避けていそうな問題なのに、どうして口を挟んだのだろうと私は思うと、口に出ていた。
120 :
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[saga]:2017/06/15(木) 01:38:36.82 ID:qNL29ZGy0
球磨「見てて危なっかしいからクマね」
提督「危なっかしい?何がさ」
球磨さんは立ち上がると自ら冷蔵庫に向かう。
他に何かないクマかと、鼻歌交じりで冷蔵庫を物色する姿はさながら本物の熊だ。
私がその後ろ姿に目を凝らしながら、山積みしたアイスの底にある収納に気がつくなと念を送っていると、諦めたのか再びポッキンアイスを握りしめ戻ってくる。
球磨「大井は最近ちいさなミスが目立つクマ。別に大事になる様なレベルじゃないクマけど、いつもの大井ならありえないクマ。それをみんなは、たまにはそんな時もあるって締めくくってるけど、球磨はそうは思わないクマ。あれは前兆クマ。近いうちに絶対やらかすって思ってるクマ」
そう言うとポッキンアイスをへし折った。
私は唖然とした。あの大井さんがちいさなミスすることに。几帳面で真面目な大井さんはミスをする側ではなくて、ミスを見つける側だ。
私の癖を指摘するくらいに、その目は行き届いている。
嵐の前の静けさはみんな察知していても見て見ないふりをする。
それはその人の事がどうでもいいからではなく、現状問題無しと判断し、そのうち治るだろうと高を括るからだ。
危うい。球磨さんの言うとおりだ。大井さんはそのうち取り返しのつかないことをしでかしそうだ。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:39:35.03 ID:qNL29ZGy0
球磨「今回に限っては別問題クマ。下手したら大井がどうなるか、提督はわかってるクマね」
私はだんまりした。言葉が出てこないからだ。
球磨「提督、大井に何したクマ?」
そして私の隣に座った。ポッキンアイスを齧る球磨さんの姿はいつも通りだ。
だけど私を見据える眼光に微かに潜む殺気。妹を思う気持ち、仲間を思う気持ちが重なり合い、一人の艦娘の抜く末を案じているんだ。
私は拳を強く握りしめる。溶けたアイスが体温と気温を吸って生暖かい水となり、私の手をつたう。私はそれを舐めとり、溶けたアイスを飲み干す。
何から、話せばいいのか。私が大井さんから受けた告白の謳い文句を話せばいいのか。それに動転していたってことも。
それとも、かつて私は大井さんを作戦という言葉で包み隠して、明確な殺意を向けたことか。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:41:02.55 ID:qNL29ZGy0
何から話せばいいのか考えあぐね、しどろもどろになる。
私の悪い癖だ。口下手な私はいつもこうやって話のねたの優先順位を見失う。
アイス二つを一気口にねじ込み、食べ終えた球磨さんは口を開いた。若干の冷気のせいで、この暑苦しい夏場なのに息は白かった。
球磨「.....だんまりクマか。まぁいいクマ。提督はそういう人間だってことは球磨も知ってるクマ」
提督「なにその言い方」
球磨「そのまんまクマ。提督はそういう人間だってことクマ。言いたいことをハッキリと言わないから勘違いされて、自分に自信がないから、いや違うクマね。次の答えがわかっているのにそれに乗っかろうともしない。それがお膳立てされていても同じクマ。ようは、意気地なしで根性無しの人間ってことクマ」
提督「ちがうよ!!!」
私は立ちがり球磨さんを睨みつける。
確かに私は意気地なしで根性無しだ。
だけど違う。それは違う。球磨さんは何も知らないから、そうやってとやかく言える。
現実はもっと複雑なんだ。そんな簡単に想いを伝えられないし、答える資格が私にはないのだから。
そんなこともわからない球磨さんに、簡単に言われたくない。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:42:18.41 ID:qNL29ZGy0
球磨「何が違うクマ。事実だクマ。違うって言うなら一人一人に聞いて回るといいクマ。私は意気地なしで根性無しかって。みんなそうだって言うクマ」
球磨さんも立ち上がると私の胸倉を掴む。いつもの私ならここで怖気付いてすぐに謝るだろう。
艦娘とやりあったって敵いっこないから。そもそも私は好戦的じゃない。
でも今回はなぜか違って私を掴む球磨さんの腕を掴み返していた。それには球磨さんも驚いたようで少しだけ戸惑う。
球磨「違うなら何したのか言うクマ」
提督「....それは、言えない」
球磨「じゃあ意気地なしクマ」
提督「うるさい!人の気持ちも知らないくせに!」
球磨「何様だクマ」
急に体が宙に浮いた。起こった現象に理解が追いつかず、妙な浮遊感が引き伸ばされたように続き、気がつくと私はソファに叩きつけられていた。
そういえば大井さんにも浜辺で似たようなことをされたなと、ふと思い出す。そして球磨さんは私の膝の上に対面するように脚を広げ座わった。
球磨「うちの可愛い大井をあんな風にしといて、何様だクマ?球磨が気を遣って助け船を出してるっていうのに、それも意固地になって突っぱねるなんて、いい加減にしろクマ。.....球磨はこんな雰囲気だから提督は気が長いと思ってそうクマね。今回はそれに免じて、最後のチャンスとしてもう一度聞くクマ。うちの大井に何したクマ?理由が理由なら、提督でも容赦はしないクマ」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/06/15(木) 01:43:18.85 ID:qNL29ZGy0
瞳孔が完全に見開き一寸の動きも見せない。そして、ゆっくりと私の首元に球磨さんの手が忍び込んだ。
私は球磨さんを勘違いしていた。放任主義だと思い込んでいたけど、長女の責務として妹達を案じていたんだ。
そしてその責務から球磨さんは本気だ。嘘を言っていない。
返答次第では私は殺される。抵抗したって無駄だ。相手は艦娘なのだから。私はストレートに事実だけを述べることにした。
提督「大井さんに告白を促された」
球磨「それで?」
提督「それでってなにさ、驚かないの球磨さんわ」
球磨「別に驚かないのクマ。想定してたとおりクマ。問題はそこから先、提督が大井に何をしたのかってことクマね」
提督「まさか、勘違いしてない?私は大井さんに無理矢理手を出してないよ」
球磨「それも知ってるクマ。「根性なし」「意気地なし」の提督にそんなのはできっこないクマ」
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/06/15(木) 01:49:12.38 ID:qNL29ZGy0
忙しかったので全くですみません。明日も更新する予定ですので頑張ります。大井さんのSSが心なしか増えてる気がするので嬉しい限りです。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/15(木) 01:58:18.21 ID:vrJtJIkyo
く、球磨さん
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/12(水) 01:51:03.07 ID:3WoN5Fuho
待ってる
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/27(木) 00:42:46.99 ID:8wtBZ2Zr0
それでなんて返したクマ。そう言い終わると球磨さんの手は私の首元から静かに消えた。
提督「覚えてない」
球磨「覚えてない?そんな馬鹿なことがあるクマか」
提督「本当だって。大井さんになんて言ったのか、まるで覚えてない」
球磨「つまりは、好きとも嫌いとも言わなかったってことクマか?」
提督「そうなるわ」
球磨「提督、一つ聞いていいクマか」
大井のことが本当に好きなのか。そう言い終わると球磨さんは私を訝しむ表情を浮かべるわけでもなく、怒りで我を忘れるわけでもない、ただ冷ややかな真顔を私に向けた。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/27(木) 00:43:23.26 ID:8wtBZ2Zr0
大井さんのことが好きか、嫌いか。球磨さんの問いはlikeかLoveかの問答であるのは確か。
その問いに対し、私は大井さんが好きだ。そしてその解については後者であり、愛の奉仕を一生かけて捧げることができると思っている。
風鈴が風になびき音色を奏でる。私の思考によって均衡していた静寂はそれを機に崩れ、私は球磨さんの問いに応じる。
提督「好きだよ。....うん、この返答じゃダメだね。私は大井さんを愛してる。愛してるよ」
球磨「どうしてクマ?提督はどうして大井が好きクマ?」
提督「好きに理由はいるの?私が大井さんを好きになる理由なら、言わずともわかるはずだよね」
球磨「違うクマ。球磨の聞きたいのはそういうことじゃないクマ。球磨が聞きたいのわ....。すまないクマ。気を悪くするのは承知で言うクマね。どうして、女の子の大井を好きになったクマ?」
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/07/27(木) 00:44:46.25 ID:8wtBZ2Zr0
根本的な問題だ。私はそう思った。そう思うことができる余裕が私にあるのが不思議だけど。
普通だったらこんなにもストレートで、面食らう問い掛けをぶつけられたら、怒りに我を忘れてしまっても仕方がないはずだ。
それは私が同性愛者かを確認するための質問だからだ。なのに、私の頭の中は落ち着きを払っていた。
球磨さんは言葉を紡ぐ。ずっと不思議に思っていた疑問のはけ口をやっと見つけたかのように。
球磨「球磨は別に同性愛者がどうとか言わないし、差別意識もないクマ。こんなご時世だし仕方がないし、なにより、艦娘は愛情の矛先を提督か艦娘に向けることしかないできないクマ」
この時代、艦娘は差別の対象だ。理由は色々とある。
彼女達が人間紛いの兵器であることに生理的嫌悪を持つ人間がいたり、戦時中であるのに関わらず、兵器のくせに毎日欠かさず3食を取れることはおかしい、税金の無駄遣いだという浅ましい考えによるものだったりと色々だ。
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