【艦これ】大井さんの女子力事情

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116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:33:41.94 ID:qNL29ZGy0

来月分の資材申請書だ。1ヶ月毎にグラフ化されたそれぞれの資材の消費量を見ると、不自然に右肩上がりだ。

経験上、この鎮守府では戦艦に正規空母の艦娘はいないため、消費される資材は少ないはず。

気になって入渠と出撃の際に補充した資材を纏めた資料とで照らし合わせる。微妙に数が合わない。

まぁいつものことだけどね。気がついてないと思っているのだろう。

少しぐらいなら私だって目を瞑るけど、最近ちょろまかしている数が調子に乗って増え続けている。一体何に使っているのか知らないけど、近いうちに説明してもらおう。

そう思った矢先、扉が勢いよく開け放たれた。

球磨「提督ー生きてるクマかぁー?」

開け放たれた扉は、反動で元凶である球磨さんの元に戻っていくがそれを片手で受け止める。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:34:45.80 ID:qNL29ZGy0

提督「球磨さん、扉壊れるからそれやめてって言ってるよね」

球磨「元気そうでよかったクマ」

そう言うと球磨さんは扉を閉め私の言葉に耳を貸さずにづかづかと歩き、ソファに座り込んだ。そして足を組み左手を私に向けてくいくいとする。

どうやらアイスをご所望のようだ。

大体、球磨型の考える事は根っこの部分が似たり寄ったりだからわかりやすい。

それは積極的な大井さんと性格が真逆な、いつもアンニュイそうな北上さんだって同じことだ。

私はため息をつき、冷蔵庫に向かう。

冷蔵庫の中で山積みなっているポッキンアイスから球磨さんに渡すのを選ぶ。

実はこの奥に高めのアイスが入っていることは私以外誰も知らない。木の葉を隠すなら森の中、というわけだ。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:35:35.50 ID:qNL29ZGy0

球磨「大井とはうまくやってるクマか?」

なんの前触れもなく球磨さん言う。縛り付けられる様に、私の手はポッキンアイスを取ったところでぴたりと止まった。

手のひらに感じる冷たさとは裏腹に、体は熱く、心臓の鼓動は強く高鳴り始めた。動悸でめまいもした。

私は悟られないように、何も返答せず、取り出したポッキンアイスを折り、球磨さんに片方を差し出した。

ありがとうクマと言うと、球磨さんはポッキンアイスを一口齧り、咀嚼する。私も一口齧る。ぶどう味だ。

ごりごりと氷を噛み砕き、私も球磨さんも何も喋らない。

でも球磨さんは、隣に座れということだろう、ソファを叩いた。

それに従って私は球磨さんの左隣に座る。口火を切ったのは球磨さんだった。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:37:02.59 ID:qNL29ZGy0

球磨「....球磨は妹達の関係とか、他の艦娘の関係にはなるべく口を挟まないようにしてるクマ。なんでかわかるクマか?」

提督「巻き込まれたくないからでしょ」

球磨「そう。よくわかってるクマね。いくら可愛い妹達だとしても、交友関係は球磨には関係ないし、いざこざだって知らないクマ。自分達で解決しなくちゃいけない。球磨はそう思ってるクマ」

それに狭い交友関係を円滑に保つには、ある程度の距離感が必要だと思うクマ。

球磨さんはそう言い終わると食べ終わったプラスチックのゴミを、器用にゴミ箱に投げ入れる。

提督「そう思ってるんだったら、どうして口を挟むの?間に入れば面倒になるのは目に見えてるはずなのにさ」

言ってしまえばこれは一番たちが悪くて、思惑が交差しすぎて、がんじがらめになってしまう問題。恋の問題だ。

当事者も巻き込まれた第三者も結果としていい目をみないことが多く、球磨さんが一番避けていそうな問題なのに、どうして口を挟んだのだろうと私は思うと、口に出ていた。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:38:36.82 ID:qNL29ZGy0

球磨「見てて危なっかしいからクマね」

提督「危なっかしい?何がさ」

球磨さんは立ち上がると自ら冷蔵庫に向かう。

他に何かないクマかと、鼻歌交じりで冷蔵庫を物色する姿はさながら本物の熊だ。

私がその後ろ姿に目を凝らしながら、山積みしたアイスの底にある収納に気がつくなと念を送っていると、諦めたのか再びポッキンアイスを握りしめ戻ってくる。

球磨「大井は最近ちいさなミスが目立つクマ。別に大事になる様なレベルじゃないクマけど、いつもの大井ならありえないクマ。それをみんなは、たまにはそんな時もあるって締めくくってるけど、球磨はそうは思わないクマ。あれは前兆クマ。近いうちに絶対やらかすって思ってるクマ」

そう言うとポッキンアイスをへし折った。

私は唖然とした。あの大井さんがちいさなミスすることに。几帳面で真面目な大井さんはミスをする側ではなくて、ミスを見つける側だ。

私の癖を指摘するくらいに、その目は行き届いている。

嵐の前の静けさはみんな察知していても見て見ないふりをする。

それはその人の事がどうでもいいからではなく、現状問題無しと判断し、そのうち治るだろうと高を括るからだ。

危うい。球磨さんの言うとおりだ。大井さんはそのうち取り返しのつかないことをしでかしそうだ。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:39:35.03 ID:qNL29ZGy0

球磨「今回に限っては別問題クマ。下手したら大井がどうなるか、提督はわかってるクマね」

私はだんまりした。言葉が出てこないからだ。

球磨「提督、大井に何したクマ?」

そして私の隣に座った。ポッキンアイスを齧る球磨さんの姿はいつも通りだ。

だけど私を見据える眼光に微かに潜む殺気。妹を思う気持ち、仲間を思う気持ちが重なり合い、一人の艦娘の抜く末を案じているんだ。

私は拳を強く握りしめる。溶けたアイスが体温と気温を吸って生暖かい水となり、私の手をつたう。私はそれを舐めとり、溶けたアイスを飲み干す。

何から、話せばいいのか。私が大井さんから受けた告白の謳い文句を話せばいいのか。それに動転していたってことも。

それとも、かつて私は大井さんを作戦という言葉で包み隠して、明確な殺意を向けたことか。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:41:02.55 ID:qNL29ZGy0

何から話せばいいのか考えあぐね、しどろもどろになる。

私の悪い癖だ。口下手な私はいつもこうやって話のねたの優先順位を見失う。

アイス二つを一気口にねじ込み、食べ終えた球磨さんは口を開いた。若干の冷気のせいで、この暑苦しい夏場なのに息は白かった。

球磨「.....だんまりクマか。まぁいいクマ。提督はそういう人間だってことは球磨も知ってるクマ」

提督「なにその言い方」

球磨「そのまんまクマ。提督はそういう人間だってことクマ。言いたいことをハッキリと言わないから勘違いされて、自分に自信がないから、いや違うクマね。次の答えがわかっているのにそれに乗っかろうともしない。それがお膳立てされていても同じクマ。ようは、意気地なしで根性無しの人間ってことクマ」

提督「ちがうよ!!!」

私は立ちがり球磨さんを睨みつける。

確かに私は意気地なしで根性無しだ。

だけど違う。それは違う。球磨さんは何も知らないから、そうやってとやかく言える。

現実はもっと複雑なんだ。そんな簡単に想いを伝えられないし、答える資格が私にはないのだから。

そんなこともわからない球磨さんに、簡単に言われたくない。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:42:18.41 ID:qNL29ZGy0

球磨「何が違うクマ。事実だクマ。違うって言うなら一人一人に聞いて回るといいクマ。私は意気地なしで根性無しかって。みんなそうだって言うクマ」

球磨さんも立ち上がると私の胸倉を掴む。いつもの私ならここで怖気付いてすぐに謝るだろう。

艦娘とやりあったって敵いっこないから。そもそも私は好戦的じゃない。

でも今回はなぜか違って私を掴む球磨さんの腕を掴み返していた。それには球磨さんも驚いたようで少しだけ戸惑う。

球磨「違うなら何したのか言うクマ」

提督「....それは、言えない」

球磨「じゃあ意気地なしクマ」

提督「うるさい!人の気持ちも知らないくせに!」

球磨「何様だクマ」

急に体が宙に浮いた。起こった現象に理解が追いつかず、妙な浮遊感が引き伸ばされたように続き、気がつくと私はソファに叩きつけられていた。

そういえば大井さんにも浜辺で似たようなことをされたなと、ふと思い出す。そして球磨さんは私の膝の上に対面するように脚を広げ座わった。

球磨「うちの可愛い大井をあんな風にしといて、何様だクマ?球磨が気を遣って助け船を出してるっていうのに、それも意固地になって突っぱねるなんて、いい加減にしろクマ。.....球磨はこんな雰囲気だから提督は気が長いと思ってそうクマね。今回はそれに免じて、最後のチャンスとしてもう一度聞くクマ。うちの大井に何したクマ?理由が理由なら、提督でも容赦はしないクマ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/15(木) 01:43:18.85 ID:qNL29ZGy0

瞳孔が完全に見開き一寸の動きも見せない。そして、ゆっくりと私の首元に球磨さんの手が忍び込んだ。

私は球磨さんを勘違いしていた。放任主義だと思い込んでいたけど、長女の責務として妹達を案じていたんだ。

そしてその責務から球磨さんは本気だ。嘘を言っていない。

返答次第では私は殺される。抵抗したって無駄だ。相手は艦娘なのだから。私はストレートに事実だけを述べることにした。

提督「大井さんに告白を促された」

球磨「それで?」

提督「それでってなにさ、驚かないの球磨さんわ」

球磨「別に驚かないのクマ。想定してたとおりクマ。問題はそこから先、提督が大井に何をしたのかってことクマね」

提督「まさか、勘違いしてない?私は大井さんに無理矢理手を出してないよ」

球磨「それも知ってるクマ。「根性なし」「意気地なし」の提督にそんなのはできっこないクマ」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/15(木) 01:49:12.38 ID:qNL29ZGy0
忙しかったので全くですみません。明日も更新する予定ですので頑張ります。大井さんのSSが心なしか増えてる気がするので嬉しい限りです。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 01:58:18.21 ID:vrJtJIkyo
く、球磨さん
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 01:51:03.07 ID:3WoN5Fuho
待ってる
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:42:46.99 ID:8wtBZ2Zr0

それでなんて返したクマ。そう言い終わると球磨さんの手は私の首元から静かに消えた。

提督「覚えてない」

球磨「覚えてない?そんな馬鹿なことがあるクマか」

提督「本当だって。大井さんになんて言ったのか、まるで覚えてない」

球磨「つまりは、好きとも嫌いとも言わなかったってことクマか?」

提督「そうなるわ」

球磨「提督、一つ聞いていいクマか」

大井のことが本当に好きなのか。そう言い終わると球磨さんは私を訝しむ表情を浮かべるわけでもなく、怒りで我を忘れるわけでもない、ただ冷ややかな真顔を私に向けた。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:43:23.26 ID:8wtBZ2Zr0

大井さんのことが好きか、嫌いか。球磨さんの問いはlikeかLoveかの問答であるのは確か。

その問いに対し、私は大井さんが好きだ。そしてその解については後者であり、愛の奉仕を一生かけて捧げることができると思っている。

風鈴が風になびき音色を奏でる。私の思考によって均衡していた静寂はそれを機に崩れ、私は球磨さんの問いに応じる。

提督「好きだよ。....うん、この返答じゃダメだね。私は大井さんを愛してる。愛してるよ」

球磨「どうしてクマ?提督はどうして大井が好きクマ?」

提督「好きに理由はいるの?私が大井さんを好きになる理由なら、言わずともわかるはずだよね」

球磨「違うクマ。球磨の聞きたいのはそういうことじゃないクマ。球磨が聞きたいのわ....。すまないクマ。気を悪くするのは承知で言うクマね。どうして、女の子の大井を好きになったクマ?」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:44:46.25 ID:8wtBZ2Zr0

根本的な問題だ。私はそう思った。そう思うことができる余裕が私にあるのが不思議だけど。

普通だったらこんなにもストレートで、面食らう問い掛けをぶつけられたら、怒りに我を忘れてしまっても仕方がないはずだ。

それは私が同性愛者かを確認するための質問だからだ。なのに、私の頭の中は落ち着きを払っていた。

球磨さんは言葉を紡ぐ。ずっと不思議に思っていた疑問のはけ口をやっと見つけたかのように。

球磨「球磨は別に同性愛者がどうとか言わないし、差別意識もないクマ。こんなご時世だし仕方がないし、なにより、艦娘は愛情の矛先を提督か艦娘に向けることしかないできないクマ」

この時代、艦娘は差別の対象だ。理由は色々とある。

彼女達が人間紛いの兵器であることに生理的嫌悪を持つ人間がいたり、戦時中であるのに関わらず、兵器のくせに毎日欠かさず3食を取れることはおかしい、税金の無駄遣いだという浅ましい考えによるものだったりと色々だ。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:46:54.12 ID:8wtBZ2Zr0

でもそういう人間はいつの時代にだっているし、何より、その声達の存在はとても大きい。

そしてその声達は次々に汚らしい言葉に文字に変わり、思想になり、しまいには伝染病の様に蔓延する。

そして触発された考えなしの人間は艦娘を無条件で非難するようになる。非難っていうものは、的外れであっても多少因果関係があると、気がつかないうちに心に潜り込み、徐々に肥大する性質がある。おかげで艦娘の肩身は狭い。

大体、戦時中だからって1日3食は可笑しいだなんて甚だおかしい。

自分達だって3食食べれるくせに。昔と何も変わりようの無い生活を送れているはずだ。物価は高くなったけど、お金さえあれば今でもなんだって食べられる。

そもそも艦娘が食べ物を摂取することがおかしいだと。彼女達が燃料や弾薬を補給するのは艤装を動かす為だ。エネルギー源は人間となんにも変わりない。

それに艦娘が深海棲艦と戦う理由なんて本当は存在しない。

本来なら、彼女達は暗い海の底で永遠にも近く眠り続け、緩やかに朽ちていくのを待つか、漁礁となって魚達の住処になるはずだった。

それなのに人間の身勝手な都合でもう一度海原を駆けさせている。そしてあろうことか、無関係にも関わらず、人間をその身で呈して守る献身的な艦娘を少しも労おうともしない。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:48:29.85 ID:8wtBZ2Zr0

でもそういった現実はフィルターを介して意図的に排除される。

見たくないものは見ない。聞きたくないことは聞かない。真実ってものはいつだって弱いんだ。

艦娘は好意を人間に向けても帰ってこない。

故に艦娘の、人間に対する淡い恋慕は一方通行で終わることが多い。

なしくずしに恋の対象が艦娘に移り変わることだって何もおかしな話じゃない。艦娘は相思相愛になれる対象が少なすぎるんだ。

その現実が、艦娘の心には根付いている。それは球磨さんにだって同じはずだ。

球磨「でもそんな時代でも、球磨からみて提督と大井がおんなじ気持ちだっていうのは、一目瞭然クマ。それは球磨の見間違いクマか?」

提督「いいえ、見間違えなんかじゃないわ」

球磨「ならなんで大井にその気持ちを云えないクマ?好意をいくら行動で示したって、恋慕を成就するには言葉をで繋ぎ止めないといけないクマ。そんなこと、提督にだってわかるはずクマ!」

提督「球磨さん落ち着こうよ」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/27(木) 00:49:35.48 ID:8wtBZ2Zr0
球磨「いつまでもそうやってスカしてんじゃねークマ!うじうじばっかしやがって、お前がそうやってる間に大井がどんな気持ちかどうか考えたことがあるクマか!?」

大きく声を荒げる。そして立ちあがると再び私の胸倉を掴み取る。馬鹿みたいに強い力で私の意思とは関係なく無理矢理立ち上がらせた。

球磨「大井は、お前に拒絶されたんだって思ってるクマ!その心の負担を少しは考えたことがあるのかクマ!?」

提督「そんなことぐらいわかってるって!」

わかってる。わかってるって。どんな気持ちか。私がこんなにも憂鬱なんだから、大井さんの心情なんて痛いくらいにわかる。

毎日船酔いみたいに吐き気と頭痛に苛まれて、過去にあった幸せだった思い出を噛み締めては現実に苦しめられる。その心の負担なんか手に取るようにわかる。

球磨「いいやわかってないクマ!どうせお前のことだから感傷に浸って思い出に浸ってるクマ!そんな過去にを思い返す暇があるなら、さっさ今をなんとかしろクマ!」

首袖を掴む力が強くなる。でもそんな小さな変化よりも意識は心を読まれ、冷や汗が背中に溢れ出したことに向いていた。遅れて私は狼狽えるようにし反論してしまう。

提督「っ!!うるさい!何も知らないくせに!」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/27(木) 00:51:04.68 ID:8wtBZ2Zr0
だいぶ期間を空けてしまいました。エタらせず黙々と頑張りたいと思います。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 02:10:01.44 ID:z+VmcKHf0
おつ
待ってる
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 07:20:34.67 ID:t/iOAVR9O
おつ
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:23:33.82 ID:mhjGCyBT0

球磨「そうだ、何も知らないクマ。お前の過去に何があったかなんて知らないし、知りたくもない、興味もないクマ。だから一石投じることに躊躇いはないクマ。あぁ、やっぱもうめんどくさいクマ。提督、歯をくいしばれクマ」

五、四。球磨さんのカウントダウンが始まった。

突然のことで何が何だかさっぱりわからないけど、着々と数字はゼロに近づいていく。

嫌な予感に、必死に振り解こうと球磨さんの華奢な腕を掴み、力を込めるが、やっぱりというか、見た目とは裏腹な艦娘の握力を前にはうんともすんともいわない。

覚悟を決め、私は歯を目一杯のくいしばる。同時に瞼が閉じられ目の前が真っ暗になった。

暗闇の中、刻一刻と迫るその瞬間を私は待つ。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:24:47.34 ID:mhjGCyBT0

ゼロ。そう聞こえると何かが頬に当たり、爪切りで爪を切ったような切れのいい音が鳴った。

痛みはないけど、そんな音が私から鳴るのはどう考えたって体に悪い。

その衝撃で私は部屋の片隅まで飛ばされ壁にぶつかる。

鈍く肩に広がる痛みを感じ得ながら、ほっぺを球磨さんにビンタされたと知ったのは、球磨さんが足を突き出し、大きく開いた手のひらを宙に浮かべた状態で静止している姿を見てからだ。

私はじんじんと痛む頬に触れた。馬鹿みたいに痛かった。まるで自分指が注射針になってそれを突き刺したと思ったくらいにだ。それに今頃私の頬には球磨さんの手の平の跡が赤く残っているだろう。

球磨「これで少しは目が覚めたがクマ?」

提督「いや何が何だかさっぱりわかんないんだけどさ、球磨さん」

球磨「はあ、もう呆れたクマ....。まぁ、元々そんなのだったクマね....」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:26:09.20 ID:mhjGCyBT0

球磨さんはそう言うと眉間の間を摘み、大きくため息をつく。ビンタされ、挙句の果てに馬鹿にされるのは意味がわからない。

いやわからなくないはずだ。自分の嫌な所は痛いほど知っているのだから。駄目な所はもうはっきりと分かり切っているのだから。

球磨さんは歩き始める。そして私が尻餅をつき、壁にもたれかかっている所までやってくると、私の目の前に同じく座り込む。そして赤く腫れ上がった頬に突然触れる。

提督「痛いんだけど」

そう私は言うが球磨さんは何の反応もない。無表情で、ずきずきと痛む頬を触り続ける。

球磨「痛かったクマか?」

提督「そりゃね。私も球磨さんを一発ぶん殴りたいくらいだよ」

球磨「そうかクマ」

そう言い終わると触るのをやめた。

私には球磨さんの考えがさっぱりわからない。

妹達の人間関係、もとい艦娘関係をどうでもいいといいながらしっかりと見守ったり、こうしていつまでも無表情で私を見据える。

球磨さんは何を考えているのだろう。その球磨さんの口はほんの少しだけ開き、静止する。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:27:19.29 ID:mhjGCyBT0

球磨「提督、お前はほんと愛されているクマね」

そしてこう言った。

提督「何さ突然」

球磨「ほんと不思議クマね。みんなにお前に対してどう思っているかどうか聞くと、いい反応なんてないクマなのに。意気地なし、いつもヘラヘラしててムカつく、積極性に欠ける、観察してるといつも可笑しなことをするからネタに尽きない、あの歳なのに親心をくすぐられる、こんな感じばっかりクマ。でも、みんな最後にこうやって締め括るクマ。嫌いじゃない、好きだって」

独り言のように沢山の言葉が溢れ出している。

私は何も言えない。間を挟む余地もないし、この言葉達が意味する球磨さんの真意を知りたいからだ。

球磨「球磨だって色んな提督を見てきたクマ。クソみたいな奴だっていれば、艦娘と関わりを持とうとせず執務に没頭する奴、優しかった奴、それは色んな提督がいたクマ。大抵は、ろくな奴しかいないクマけど。別にお前は例外なんかじゃないクマ。その今までの奴らのうちの1人と変わらないクマ」

私も昔は執務に明け暮れていた。そうやって人間や艦娘と距離を取ることが私の生き方だったからだ。

そんな生活をしていたから、私は大井さんに怒鳴られた。言いたいことがあるならはっきり言えと。

私は今でも人間は苦手だ。だけど、艦娘との接し方はその日を機会を起点に変わったはずだ。よくも悪くも。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:28:43.98 ID:mhjGCyBT0

球磨「球磨は一度だって人間を信用したことないクマ。期待したって得られない、使い潰されるのが艦娘だからクマ。それは球磨以外の艦娘だって大差ないクマ。でも何でかクマね。お前だけは違うクマ。球磨だってみんなだってお前を信用してるクマ。だから特別な「提督」。球磨はみんなに愛されている提督には掴み取って欲しいクマ。ここまで駄目で駄目な提督なのに愛されている、あとは提督の勇気だけなんだクマ。一歩、一歩踏み出せば提督は摑み取れるんだクマ。そのことに球磨は気づいて欲しいんだクマ」

いつまでも幸せな今が続くわけじゃない。いつかは終わりが訪れるのかもしれない。

それは戦時中だからだけじゃない。様々な要因が私たちの繋がりの糸を断ち切ろうと、綻びを探しているだ。

私は、恐れてる。私の言葉によって全てを終わらせ、みんなに拒絶されてしまうことを。

例えそれが良き方向に舵を向けているって知っていても、ほんの僅かな不安が私を覆い隠す。

だから、自然にやってくることを望んでいた。でも訪れても私にはそれを掴みとる勇気が無いこと知ってしまった。あの月夜の海辺で。

私は、何度、同じことを繰り返すつもりなんだ。

本当はわかってるはずなんだ。私は、みんなから。

球磨「提督は、誰にも拒絶されないクマ。だから、大井の気持ちを踏みにじまないでほしいクマ。たとえそんな気がなかったとしても、結果として大井を拒絶しているクマ」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:32:09.46 ID:mhjGCyBT0

ああ、やっぱり艦娘はすごい。なんでこんなに私の思いを読み取ることができるんだ。

そうだ、私はこれから先の人生、本気で向き合わないといけないだ。人の気持ちに正面から向き合い、艦娘と本気で心をぶつかりあう。

その為に、私は大井さんに本心からの気持ちをぶつけないといけないんだ。

提督「....球磨さん。私、行かないと」

壁に手をつき立ち上がる。その時に貧血でくらりときたけど、気をしっかりと保つ。

こんな事でへこたれてちゃ、この先何も変われやしない。もうやめにするんだ。向き合わないことや、後回しにすることは。

球磨「やっとかクマ。まったく、これで何も変わらなかったら本気で考えたクマよ...」

提督「何を考えてたのさ.... 」

球磨「気にすんなクマ。もう終わったことクマ。ほらさっさといくクマよ。善は急げクマ」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:33:41.31 ID:mhjGCyBT0

そう言いながら球磨さん床に大の字になって寝っ転がる。そして鬱陶しそうに手を払っている。

提督「....ちょっと待って!私化粧してないから!あぁえっと何からやるべきだったっけ...。そうだ!まず私室に戻らないと!いやでも戻ったってまたオバQじゃ....」

球磨「あぁめんどくさいクマね!ほんとお前は!そのまんまでいいクマ!どうせやり方わかりゃしないくせに、気取ったってしょうがないクマ!そのまんまでいいクマ」

球磨さんは立ち上がると私のお尻に一発蹴りを入れた。でも不思議と痛くはない。痛いんだけど、どこか優しげだ。

提督「このまんまでいいの球磨さん?」

球磨「いいクマ。大井は化粧無しのお前を好きになったんだクマ」

提督「服装はこれでいいの球磨さん?」

球磨「それ以外まともな服持ってるのかクマ?」

言えてる、私は私だ。飾りっ気無しで服で着飾るやり方も全然知らない、私だ。

大井さんそんな私を好きになってくれた、はず。まだわからないけど。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:34:34.44 ID:mhjGCyBT0

球磨「まったくもう行けクマ。もう球磨は何も知らないし、何も聞かないクマよー」

執務椅子に座り込み、足を机に乗っけて球磨さんは腕を後ろに組んだ。本当に何もする気はないってことらしい。

そうだ、行く前に私は大切な物を忘れていた。

私は執務机の三段目の引き出しを引っ張り出す。ごちゃ混ぜになった奥に手を突っ込み必要なあれを抜き取る。

まだ何かするのかと言いたげだった球磨さんの呆れ顔が、それを目にした瞬間、にやにやとし始めた。

球磨「やるクマね〜見直したクマ!それでこそ男クマ!」

提督「いや私女だから....」

しっかりとそれを握りしめ、私はポケットにしまった。準備はできた、後は私の勇気と気持ちしだいだ。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:38:09.34 ID:jPp49MF80

扉まで歩きドアノブに手をかけた辺りで、私はここまで付き合ってくれた球磨さんにお礼をしないといけないと思った。

変わるきっかけをくれたんだ、今は大した物なんか渡せはしないけど、ささやかな前金として渡しておかないと。

提督「球磨さん。冷蔵庫の中にあるアイス何だけど、ポッキンアイス達の下に隙間があって、そこに高いアイスが隠してあるから食べていいよ」

球磨「ほんとかクマ!」

提督「お礼だよ。受け取っといて」

球磨「いやまだ食べないクマよ。提督の結果を聞いてから食べるクマ」

提督「そう。まぁいいや、じゃあ行ってくるね」

扉を開ける。この一歩で、私は変わる。変わらなくちゃいけない。踏み出す。

球磨「提督」

球磨さんの呼ぶ声に私は私は止まってしまった。いや仕方ないんだけどさ。幸先は良くない、心をの片隅でそう思ってしまった。

球磨「....さっきは殴ってごめんクマ」

提督「なに、そんなこと?ああでもしないと私は変わるきっかけを得られなかった。逆に私はありがとうって球磨さんに言うよ」

球磨「....そうかクマ」

提督「うん。もう行くね球磨さん」

球磨「よし!行ってこいクマ!ばしっと一発決めてこいクマ!」

幸運を。その言葉を背に、私は大井さんの元に向かう。

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146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/19(土) 22:42:08.70 ID:jPp49MF80
なんかID変わってますけど一旦お終いです。ガチ体育会系球磨さんお疲れ様です。もう少しで終わります。がんばります。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/22(火) 01:22:10.03 ID:EljDIwyxo
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:36:47.46 ID:u0fZkAxu0

大井っち?そういえば昼から見てないねぇ。あっ、そうだ大井っちで思い出したけど、大井っち今度はさぁ。

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大井さん?見てないっぽい。そうだね、僕もみてないよ。

なになに恋の予感っぽい?今回ばかりは茶化したら駄目だよ、察してあげないと。

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大井?さぁ見てないわね。海岸沿いのどっかで黄昏てるんじゃないの?誰かさんのせいでね。

ま、急いでるみたいだからこれ以上は何も言わないわ。

でも、今回はしゃんとしなさいよ。後で幾らでも飲みに付き合ってあげるから、ついでにカツの一つや二つ揚げてもあげるわ。だから気張って行きなさい。

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大井さんですか。...見てないですねぇ。...ダメですか?えぇ...ダメですか...。

みなさん2人の今後の行く末に興味津々なんですから、ここは私の記者魂が震え上がっ...。

あっ!まって!逃げないでくださいよぉ!!

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いえ、お見受けしませんでしたね。

提督、まぁまずはそこに座っていただいて。今、もう一度ぽとふを作っていたんですよ。それを食べてからお探しになられてわ?

急いでる?....腹が減っては戦はできぬ、急がば回れ。何事も性急にことを成すのは禁物ですよ。

まずは頭を冷やして、落ち着きを取り戻すことに専念してはいかがでしょうか。

と、いうわけで召し上がれ。え、また肉じゃがに見えますか....。

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149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:41:32.42 ID:u0fZkAxu0

海岸沿いに、大井さんはいない。

あの浜辺にも大井さんはいなかった。廊下にも厨房にもどこにも見当たらない。

手当たり次第あっちやこっちに走り回り、聞き込みをするけど、みんな知らないと言う。

外に設置されている自販機で水を買う。通常100円するけど、鎮守府補助で50円と今ならお得だ。

だけどそんなことはどうでもいい。乾ききっていがいがする喉に無理やり流し込む。どうせだったら頭だってこの水で冷やしてやりたい。

けど、後々のことを考えるとやめた。それにしても私は体力がない。グリーンカラーよりのホワイトカラーとして恥ずかしい。最近ランニングしてなかったせいか。

あれやこれやと散漫とした意識を集中させる。考える事は一つでいい。それは大井さんが一体どこにいるか。それだけでいい。

あと残るのは、大井さん兼北上さんの私室。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:44:28.70 ID:u0fZkAxu0

艦娘寮は、昔懐かしき赤煉瓦の鎮守府長官官舎から500mくらい離れた場所にある。

艦娘寮は赤煉瓦ではなく、木造モルタルと軽量鉄骨、アパートと同じ材質でできており、外壁は緑の迷彩柄が施されている。

みんなからは不評で、ダサいから早くなんとかしろと言われているけど、艦娘寮が迷彩柄である理由は、全体を覆い隠すように植林された木々とで迷彩効果を高めるためだからだ。しっかりとした理由があるっていうのに、誰も納得してくれない。

私はなんとなく、大井さんがそこにいるとはわかっていたような気がする。

わかっていたけど、回り道を、あえてしたような気がしてならない。無意識に。

あまり深く考えないように頭を切り替える。考えたら、ネガティヴな気持ちになってしまいそうで、すごく嫌だ。

大井さんの言葉を借りて言うならば、そんなことを考えるよりもこれから先、私が大井さんになんて告白するのか考えた方が、よっぽど堅実的なんだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:47:08.53 ID:u0fZkAxu0

私は大井さんを、私は大井さんが。

まぁ、なんだっていい。今どうせ考えたって、やっぱ意味はないんだから。

当たって砕けろ。玉砕あるのみだ。

残りの水を飲み込む。これで少しは回復した。

私は腕時計を確認する。時計の指針は天辺を過ぎ、ぐるりと半周し終える所まできていた。

よく耳をすますと、ひぐらしが夜の訪れを遠くの山から知らせている。

頭上にもくもくと広がる積乱雲が、夕焼け空の赤を背景に、うっすらと影絵になりつつあった。

今日が終わるのも近い、後回しはまずい。急がなければ。

ペットボトルをキャップと分け、ゴミ箱に放り込み、私は走った。何としてでも今日中に、大井さんにこの気持ちを伝えたい。何が何でも、そうしたい。

足が痛い、ふくらはぎが引きつって今にでもこむら返りをしそうだ。一歩一歩がこんなにも重く、足を前に出すことが苦痛なのは初めてだ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 21:48:11.06 ID:u0fZkAxu0

大井さん。大井さん。心で大井さんの名前を呼ぶ。

ありがたい小言が多い大井さん。私に対して注意深く警戒してるのに、肝心な所で気が抜けてしまい、あげく、その事にも気がついてない大井さん。実は嫉妬深い大井さん。

走れ、止まるな、止まるんじゃない。足の裏が痛んだ、大井さん。

水を飲んで少し回復したっていうのに、もう喉が乾き切って限界だ。でも生暖かな新鮮な空気が更に事態を悪化させようとしてくる。血が出そうだ、あぁ大井さん。

そうやって現実逃避していると、私は気がつかないうちに艦娘寮にたどり着いていた。

自販機からここまでの記憶がぽっかりと抜けきっていて、覚えているのは、ただ大井さんの名前を心で叫んでいた、それだけだった。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/24(木) 21:51:58.90 ID:u0fZkAxu0
展開に迷ったら投稿する。そうすればエタらないと気づいたので、すみません短くて。心が叫びたがっている提督さん頑張ってください。またがんばります。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/24(木) 22:54:28.62 ID:u0fZkAxu0
宣伝くさくてあれですけど、また長く空けるかもしれないんで今まで書いたSSをよければ。

鳳翔「大断捨離」
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1483417144/
艦娘と人間が家族みたいに過ごしたらこんな風になるといいなと思って書きました。

那珂ちゃんは申したい!
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1483949214/
捨て艦の那珂ちゃんのお話です。艦娘と人間の違いってなんだろうと思って書きました。

五航戦瑞鶴の暗躍
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1485521533/
安価物です。難しい話は無しでとにかく面白くなるように書きました。

【艦これ】深海の濃淡は僕と同じ
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1488290777/
短いです。抽象的に書いてありますけど、シズメシズメや渚を超えてなど聞いて、艦娘が何を思って沈んでいくのか、どうやって自分を見失うのか、艦娘は何者なのか。それを考えて書きました。

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 18:49:55.28 ID:YHqaoFQ2o
エタらない、ウレシイ、まってる
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:18:27.14 ID:4at+WzIq0

大井さんと北上さんの私室は二階の一番端っこにある。痙攣しそうな脹脛の意識を切り離し、私は痛みを殺す。

一段。一段と階段を登り、私はその一室の前に立つ。

ふと懐かしく感じたOiと、Kitakamiと書かれたピンクの表札の文字に、私はその時が本当に来たのだと実感する。

その表札の文字の周りには、じょうろと趣味の悪い魚雷のシールが貼ってある。

前々から大井さんが探していた魚雷のシール。どこにも売ってないと不満を漏らしていたのに、とうとう見つけたのか。

一体どこに魚雷のシールなんて売っているのだろう。拘りってのは本当に見境いがないと私は思った。

何度目かの深呼吸、肺に突き刺さる空気に少し私はむせる。若干鉄分の味、血の味がした。

インターフォンを押す。山から降りてきたひぐらしの声に混じり、機械的な音が響き渡った。

私は髪の毛を弄り始め、何から話そうか考えを巡らせる。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:19:27.61 ID:4at+WzIq0

そうやって風や汗のせいでしっとりと、ぐちゃぐちゃに絡まった髪の毛を解いているけど、なぜか全く大井さんはやってこない。

気がついてないのだろう。そう思った私はもう一度インターフォンを押す。

足音一つ聞こえない。大井さんは人を待たすのは嫌いだから、大体返事をしながらすやってくる。

だから私は大井さんが居留守を使っているんじゃないかと思い、確認の為ドアノブに手をかける。

もちろん大井さんがそんな不行儀をするはずないのだけれど。

うちの鎮守府は小規模だ。北方や南方、太平洋に晒された激戦区の鎮守府とは違い、付近で発見されたり、巡回で対敵した深海棲艦を殲滅することが主な業務。

時に大隊率いてやってくる場合もあるけど、そんなの稀だ。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/15(金) 02:22:45.75 ID:4at+WzIq0

そんな理由も相まって、うちの鎮守府に当てられる予算はいつもぎりぎりだ。

実のとこ、ぎりぎりなんかじゃなくて回せていない。削れるところは削って、節約できるところは節約してなんとか凌いでる。

いつもうちの経理担当さんが電卓を叩いては紙面の数字と、眼鏡越しににらめっこしている。本当に苦労をかけているなと思っている。これは企業努力ならぬ鎮守府努力だ。

だから艦娘寮はオートロック式ではなく鍵式だ。そんな所にまで予算は回せないのだ。

小耳に挟んだ話だと、他の鎮守府はオートロック式が主流になりつつあるらしい。うちはまだまだ先の話だ。

ドアノブを下げて引っ張ってみる。すると音を上げすんなりと扉は開けられた。

おかしい。几帳面な大井さんが鍵を閉めない訳がない。

開けたら閉める、食事中のペットボトルだって一度飲んだらキャップを必ず閉める。

よく北上さんにそう教育しているのだから。もちろん私も言われてるんだけどさ。そんな大井さんがずぼらをする訳ない。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:25:00.05 ID:4at+WzIq0

まさか、大井さんに何か起きたのか。ふと脳裏を過ぎる球磨さんの言葉が私の動悸をさらに加速させた。

あれは前兆クマ。近いうちに絶対やらかすって思ってるクマ。

提督「大井さん!!」

我を忘れて部屋に飛び込んだ。玄関の段差に足を引っ掛け転びそうになったけど壁に手をついてこと無きを得る。

短い渡り廊下を抜け2DKの奥の一部屋。大井さんの部屋を勢いよく、文字通り転がり込むと、女の子の部屋特有の、甘ったるくも心地いい匂いが肺いっぱいに流れ込む。

ゆっくりと起き上がり周りを見渡す。恥ずかしながら、実は大井さんの部屋に入るのはこれが初めてなのだ。

恥ずかしい、物色されそうだから嫌だと遠回しに一度断られ、本音を呟かれてから私は訪れる機会を失っていた。

広がっていた景色はアジアンテイストの暖色系のカーペットに、小さく丸い木製のテーブルが置いてある。

卓上には緑の粘土板があり、懐かしいシーグラスが円形に積み重なっている。

横に接着剤があるのを見ると、大井さんは何かを作っているみたいだ。見当は私にはつかない。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:26:10.46 ID:4at+WzIq0

見る限り、大井さんはいない。隠れているのだろか。それとも、何か大井さんの身に起きたのか。私はこの小さな一室から大井さんを探し出すことにする。

クローゼットを開ける。中には目がチカチカする四季折々の服が掛けてあった。

まだ着るのには早い冬物のコート類は、きちんとクリーニングに出してあり、ダニ防止用品と一緒にビニールの袋に保管されていた。

下には靴やバッグ。これもまた整理整頓されていて、大井さんが入り込む隙間はない。

ベットの下を覗いた。古今東西、ベットの下には見られたくない物が隠されているとかなんとか。

少し邪で、淡い期待を抱きながら覗いたのだけど、あったのは収納箱で中には雑誌が入っていた。

もちろん期待通りにはいかず、買い溜めたファッション雑誌に、終わらせた通信の資格教材が入っているだけだった。一応、布団もめくり中を確認しておいた。

立ち上がり指を顎につける。さて、大井さんは一体どこにいるだろうか。

161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/15(金) 02:33:06.42 ID:Vhjfmw2O0

もしかしたら北上さんの部屋かもしれない。そこに隠れているのかも。

ちなみに北上さんの部屋には入ったことある。あるのはベットと沢山のゲームだ。

最近はドイツの色んな仕事が体験できるシミュレーションゲームが流行りだそうだ。何が流行るかわからないね、ほんとうに。

大井「....何してるんですか」

提督「....大井さん?」

後ろで大井さんの声が聞こえた。驚いてゆっくりと、後ろを振り返ると、若干頬が引きつっていて、自販機で買ってきたのだろうペットボトルを床に落としている大井さんの姿がそこにはあった。

胸が高鳴った。あんなに焦がれて、東奔西走した大井さんが目の前にいる。

伝えたいことが山ほどあるんだ。謝りたいことだって馬鹿みたいにある。

臆するな、考えたら負けだ。その場の勢いで向かわなければ私は何もできないんだから。

提督「大井さん!私、大井さんに伝えたいことが!!」

涙で大井さんが霞む。私は駆け出して飛びついた。

大井「勝手に土足で踏み入るなぁあ!!」

気がつくと私は宙に浮いていた。人間危機的な状況になると、体感時間が引き伸ばされてとても長く1秒を感じるらしい。

そういえば前にも似たような事があったなと思い出す。そうだ、私が大井さんにあの浜辺で背負い投げされた時だ。

あの時と同じく、今回もどこか懐かしく感じるその大井さんの表情があった。

そういえば私、靴脱いでなかったわ。急いでたもんね、仕方ないよ。

こうして私の視界と思考はブラックアウトした。

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162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/15(金) 02:34:51.44 ID:Vhjfmw2O0
若干駆け足気味ですけど、そろそろクライマックスです。終わり方は考えてあるので、後は気合でしっかりと終わらせたいと思います。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/15(金) 07:57:33.22 ID:1FkU54d9o
乙、待ってるぞ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 11:46:29.25 ID:hdqJBox50
今日は一日中暇ですのでゆっくりと更新していきます。もしかしたら今日中に終わるかもしれません。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 11:47:48.91 ID:hdqJBox50
まず最初に視界に入ったのは、大井さんのうつらうつらとしている顔だった。

次の瞬間には落っこちて来そうな、私と真逆に平行した大井さんの風景に、寝起きでぼんやりとしていた私は、こう思った。

ああ天使がいるわ、早く堕天してこいと。

思考が一気に覚醒した。この状況が読み取れない。私は一体どんな体勢で大井さんを見ているんだ。

そういえば、どうやら私は寝っ転がっているみたいだ。お尻あたりが少し痛む。ついでに腰も痛い。

憶測を確かめるため、私は頭を左右に揺する。じゃりじゃりと髪の毛が何かに擦れる音がした。

今度は少し圧力を加えてみる。頭を押し返す、柔らかで弾力のある物が頭の下にある。

手を動かしてそれを触ってみる。とってもすべすべしてて心地が良い。

なるほど、これは大井さんの太ももだ。

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 11:57:18.78 ID:hdqJBox50

嬉しくてにやにやと笑ってしまう。ここまでやってもまだ間の抜けた表情をしているから、私は滅多に起こらない奇跡を堪能する。トランポリンで遊ぶ子供みたいに。

そうやっていると大井さんの頭の揺れが収まる。目を覚ましたようだ。すかさず私は手を引っ込め、さも今ちょうど起きたような顔をする。

大井「....やっと目が覚めたみたいですね、提督」

提督「おはよう...。大井さん」

何も知らない大井さんは目頭を擦り、押し殺すようにあくびを抑えた。それでも若干漏れた吐息が私のおでこを撫でる。

大井「ごめんなさい。突然投げ飛ばして」

提督「いいよ気にしないで。貴重な体験できたから」

大井「...なんの話ですか?...まぁいいですけど。靴、玄関に置いときましたから」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 12:10:03.38 ID:hdqJBox50

そうだ土足で上がり込んだったんだ。そりゃ吹っ飛ばされても文句は言えない。

大井さんの手が静かに私の髪に滑り込んだ。そしてべとべとして、少し縮れた前髪を解くように優しく引っ張りはじめ、大きく息を吸い、ゆっくりと鼻から吐き出した。

大井「汗でべとべとしてる。一体提督は何していたんですか、今日?」

提督「大井さんを探してたんだよ。色んなところ行ってたのに、どこにも居ないから、最後に大井さんの部屋に来たんだよ」

そういえば。

提督「そうだ、大井さん。無用心じゃないの?部屋の鍵閉めないでどっか出かけるのわ。もし変な人が入って来たら危ないじゃない」

そう言い終えると、いきなり大井さんは私のおでこを弱い力で叩いた。そして、馬鹿ですかと呟き、ため息を漏らす。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 13:11:53.90 ID:hdqJBox50

大井「合い鍵全部北上さんが失くしたじゃないですか。私の分も。それで、今申請中なのに一向に渡されないんですけど」

ぺちぺちと私のおでこを一定のリズムで叩き続ける。そして段々と強くなり始めた。

忘れていた、北上さんは部屋の鍵を失くす常習犯だった。この前も失くしたと私に言いにきていたんだった。

その件を経理担当さんに報告すると、ここにも無駄な経費があると、嬉しそうに眼鏡を光らせていた艦娘の姿がついでに呼び起こされる。

大井「それに、今ちょうど変な人が入ってきてばっかですから、提督、早く何とかしてもらえませんか?」

最後に明らかに強く叩くと、大井さんは目を細めた。

変な人とは私のことを言っているのだろう。

まったく心外だ、今日一日どんな日だったか大井さんは知らないから、そんなことを言えるんだ。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 13:12:54.06 ID:hdqJBox50
お昼ご飯食べてました。ちらし寿司でした。再開します。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 13:36:44.37 ID:hdqJBox50

提督「色々とごめんなさい。大井さん」

言いたいことをぐっと抑え込む。だって私が大井さんに言いにきてのは今日の嫌味を言うためじゃないからだ。余計なことを言ってタイミングを逃すのはもうごめんだ。

大井「まぁ、いいですけど。...今気づいたんですけど、頬、どうしたんですか?綺麗に赤い手形が染まってますけど。私、ビンタしましたっけ?」

提督「ああこれは、...気にしないで。大井さんのビンタじゃないから」

そうですか。なら気にしません。

冷たく言い放った大井さんだけれども、おでこを叩いていた右手は私に赤く残るビンタの跡に移動していた。

そして優しく撫でる。さっき髪の毛を解いてもらっていた時よりも優しく。

触れられるとひりひりと痛むのに、なんだか妙に心地よかった。

大井「こうやってゆっくり話すのは、なんだか、久しぶり、ですね」

提督「...そうだね」

本当に久しぶりだ。いつ以来、決まってる。あの夜の浜辺以来だ。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 15:05:47.76 ID:hdqJBox50

そうかあの日以来なのか。ふいに私の胸の奥がひどく痛んだ。

私は大井さんと話すことができなかった期間、無意識に避けていた時間が悲しかった。

突然当たり前にあって物がなくなった。しかもそれは私にとって唯一無二の存在で、心の支えだったものだ。

そんなありきたりな言い伝えなんか、耳が痛くなるほどみんな聞いている。そんなこと当たり前だ、だから大切にするんだ。なんて。

大切にしてたって、いつかは失くなる。

物は壊れ、人は変わり、真っ直ぐ引いたはず直線だって少し曲がっていれば、気がつかないうちに明後日の方向に向かっている。

普遍という言葉は嘘偽りで塗り固められ、希望にすがる他ないんだ。

私の頬をさする手がふと止まった。

大井「それで、急に何しにやってきたんですか?」

私は生唾を飲み込み、その時が来たんだと覚悟する。大井さんの柔らかな太ももからゆっくり離れ、自然と正座をし、大井さんと向き合う。

大きく、深呼吸。

提督「今日は、大井さんに、大事な話しがあって来ました」

私の手が無意識に反対の手の爪を弄ろうとした。それに気がついた私は握り拳を作り、手のひらに爪を食い込ませる。

提督「あの日、大井さんに言わなくちゃいけないことを、言います」

私は視線を上にあげる。そして大井さんのしなやかな栗色の髪の毛と同じ、透き通る瞳が映る。

汗で背中に張り付いたシャツが、さっきまで冷たかったのに熱を帯び、私を急かしはじめた。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/19(火) 15:07:34.99 ID:hdqJBox50
すみませんゲロ吐きそうなんでまた次回になりそうです。季節の変わり目なので、みなさん体調には気を使ってくださいね。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 17:22:20.68 ID:74ryuXxZO

体調には気をつけろよ?(パンツ一丁)
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 02:06:10.28 ID:/GsPM1Dwo
体を暖かくして寝ろよ(裸ソックス
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 18:17:55.99 ID:9Yx7nbA30

大井さんの無表情が怖いからだ。

蛇に睨まれた蛙の文字がふと脳裏をよぎる。たぶん蛙はこんな私と同じ状態になるのだろう。

平衡感覚が狂い、自分がどこに腰を下ろしているのかあやふやになり、対面する相手に吸い込まれるように視覚を奪われる。それ以外は見えているのにわからない。

いつも私は人の表情から事の真意を読み取っていた。

この人は嘘をついている、この人は私のことが嫌いなんだ。

顔は口ほどにものをいい、人を馬鹿にした笑いをする人は引きつった口角をし、そういう人は大抵なぜか年齢よりも若く見える。私は吐いた言葉よりも目に見えるものを優先したきた。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 18:19:31.38 ID:9Yx7nbA30

だから大井さんの読み取ることができない無表情が恐ろしい。

ここまでやってくるのに様々なことがあり、それが拍車をかけているせいでもある。

もちろん大井さんが知らないこともある。でもその積み重なりの結果が、この大井さんの表情を作り上げたとなると考えると。情報が交錯しすぎているんだ。

唯一、この大井さんは初めてではないことだけは知っている。

提督「私は、」

紡げ、言葉を繋げて思いを伝えろ。ヘタレと言われるのはごめんだ。意気地なし、甲斐性なしとよばれるのはもうここまでにする。

提督「大井さんのことが、好きです」

大井「イヤです」

提督「大井さん....。、、、え?大井さん?」

脱力感が私を襲う。全身の張り詰めた筋肉が過剰に送り込まれた血液を抑制したのだけど、私は興奮していてよく聞き取れなかった大井さんの返事を信じられず、もう一度告白を言い直す。私は大井さんのことが好きですと。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 18:20:30.15 ID:9Yx7nbA30

大井さんは依然として同じだ。むしろ常にぱっちりと大きな瞳と、綺麗に整った二重が細まり、私を訝しむように見つめている。

私の予想だと頬を赤らめ、恥ずかしそうにしているはずだったのに、どうしてだ。球磨さん。

大井「イヤです」

提督「....なんでですか?」

球磨さん、大井さんは、ずっと私を好きでいてくれるはずじゃなかったのか。

一体どういうことだ、まるで意味がわからない。私自身球磨さんと同じでそう思っていたんだ、世の中そんな甘くないっていうことか。それじゃ困る。

大井さんはため息を漏らすと、机に置いてある粘土板の上に置かれたシーグラスを手に取り始めた。

そして接着剤を一つ一つに塗り、そしてそれを粘土板に鎮座する、塔のように連なっているシーグラスにくっつけ始める。

よく見るとその傍らには電球が置かれ、大井さんがランプシェードを作っているのだとやっと知った。

反対からだと、ランプシェードに電球が隠れていたので見つけられなかったようだ。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/24(日) 18:21:52.56 ID:9Yx7nbA30
シーグラスにマニキュアを塗るように丁寧に作業しながら大井さんは言った。

大井「一体、どの面下げて、今更そんなこといいにきたんですか?もう遅いですよ。私は、「今の提督」にこれっぽっちも魅力を感じません。1ヶ月前に戻ってから言い直してください」

振られたのか私は。

大井「....いつまでそこで正座しているつもりなんですか?私の返答はNOですよ、提督。わかったならさっさと」

提督「大井さん」

私は大井さんの言葉を遮った。

告白が失敗したのは大誤算だったけども、私は、大井さんに一つ。他に言わなくちゃいけないことがあるからだ。

大井さんの私に目もくれず作業をしている。それでもいい。

むしろ、そうしていてほしい。私はこれから、大井さんに本当に嫌われないといけないから。

大好きで仕方のない大井さんに嫌われること。生きる糧を失うのに等しい。

面と面を合わせ言ってしまえば、途中で私は言葉を見失ってしまうだろうから。都合がいいのかもしれない。

提督「そのまんまでいい。耳だけ私に向けてほしい」

私があの日、大井さんの告白に答えられなかった理由。それを言います。

私は目を瞑った。全ての感覚はこれから過去の贖罪を紡ぐことになる口に注がれる。

言い終わったら私、消えてもいい。そんな覚悟が私にはある。

提督「私、一度大井さんを殺そうとしたんだ」

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179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 18:22:47.61 ID:9Yx7nbA30

私たちは、この鎮守府にそれなりに平和に暮らしてる。

ご飯をみんなで囲って、笑って、騒いで、どうでもいいことで一喜一憂する。

今が戦時中だなんてまるで信じられないような日々を送ってる。

けど怪我をして帰ってくる時だってある。ボロボロになって、ひどい時は目を背けそうになるくらいに大破して帰ってくることもある。

それはもちろん極々たまに起こることで、大井さんだってみんなだって経験してる。

私、一度聞いたことあるだよね。そんな目にあっても怖くないの?どうしてまた笑顔で私に手を振って出撃できるのって。

そしたらさ、こう答えたんだよ。この鎮守府に帰ってきたら、楽しいことが待ってるからって。だから頑張れる。そう言ったんだよ。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 18:24:36.55 ID:9Yx7nbA30

それ聞いて、私怖くなったんだよね。

だってそれは虚構だから。「提督」が創る偽りの幸せがみんなの拠り所だなんて。

それを支えにして戦ってるって聞いて、私は怖くなったんだよ。

世の中鎮守府を出れば他にやりたい事、楽しい事なんて山程あるっていうのに、艦娘はこの鎮守府しか知らない。

だいたい、私自身「楽しいこと」ってのが、イマイチよくわからないのに、私が創る鎮守府の世界を楽しみにして、毎日どんな瞬間に死が訪れるのかわからない理不尽な戦いに身を投じてる。

そんな風に思ったらさ、何が何でも、あなた達艦娘を楽しませさせないといけない、そう思った。強くても弱くても等しく忍び寄る、死の時、その最後まで。

大井さんは、その理不尽な戦いに一度出くわしてるんだよ。

いや出くわしてる、じゃない、私が仕組んだ。私が、大井さんをその瞬間に出会わせた。





181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/24(日) 19:01:58.53 ID:9Yx7nbA30
今回はここまでです。また頑張ります。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 10:38:26.43 ID:eGC9jYSS0
楽しみにしているよ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 21:56:21.47 ID:JHkYN6Jv0
続きが楽しみだ!
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:29:51.88 ID:+wWQUoMO0
私と大井さんの間に隔たれていた心の壁が、やっと少し崩されてきた頃の話。

球磨さんの剥き出しの警戒心も落ち着いて、北上さんと廊下ですれ違えば、にやにやと笑顔で挨拶するようになり始めた、みんな私との距離感を探り始めた時の話。

実はこの鎮守府さ、全滅するかしないかの瀬戸際に立ってたことがあったんだよ。

どう足掻いても誰かが死んじゃうし、どう艦隊を編成したって死は免れられない。

鎮守府を起点に、一定の防衛ラインを組んで、交代しつつ守るっていうマニュアルだってあるけど、それも通用しない。

ほんとに八方ふさがり。それを大井さんやみんなが知っているかどうかは、知らないけどね、確実に、この鎮守府は危機に陥った。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:30:50.15 ID:+wWQUoMO0

私はね、みんなが大好きなんだよ。大井さんだって北上さんだって球磨さんも。

みんな、ここにいるみんなが大事だった。疑心暗鬼な私が見つけた居場所。

だから、艦娘に生死の優劣をつけてしまうのは、私のエゴなんだよ。指揮官として、立場上艦娘の優劣をつけるわけにはいかない。優劣をつけてしまえば、それは私情を挟んだことになる。

そうしてあなた達の誰かが死ねば、私は艦娘みんなに顔向けできないだよ。この先あなた達を笑顔にする資格はなくなる。私にとって艦娘は全てだから。

何よりも大切で、何よりも変えがたい。別に軍法会議で裁かれるのはどうだっていいの。

私一人くらい死んだところで、私の代わりの「提督」があなた達を絶対に幸せにするから。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:32:29.45 ID:+wWQUoMO0

だから、私は、大井さんを見捨てて、みんなを助けることにした。

一番練度と経験がある大井さんを、単機出撃させることで、囮にし、深海棲艦を鎮守府から遠ざけることを選択した。

これが私が大井さんに告解しなくちゃいけない罪。許されない、私の大罪。

私は、大井さんに向き合わず、何食わぬ顔で、いつも通り出撃を命じた。普段の雰囲気と変わらずこれが最後かもしれないっていうのに、謝る機会だって一生訪れないのに私は、平気な顔をした。

大井さんをそうやって出撃させて私はわかったんだ。私は私の意思を持って大井さんを見殺しにするのを選んだ。

そうして、もう私は艦娘に顔向けできなくなったんだって。

私は艦娘を殺した。そんな私が艦娘と笑いあえるか。できるはずない。そうでしょ、でも、してる。

私はこの罪をひた隠しにする事にしたからだ。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:33:20.25 ID:+wWQUoMO0

私はクズだから、どうやって大井さんが帰ってきたのかわからないけど結果的に誰一人死ななかった。それに甘んじて私はみんなと笑いあってる。

私が大井さんの促した告白に答えられなかったのはこれが理由。私は答える資格がない。応じてはならない、こんな私だから。

もちろんこの話はみんなにも説明する、当然のことだけど。

でも大井さんには一番に知ってもらいたかったんだ。知ってもらって、選んでほしい。

もう振られてるから私のことが好きか嫌いからの、そういう話じゃなくて。

私をもう二度と見たくないか、それとも、まだ一緒に戦ってくれるか。

だから大井さん....。

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188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:34:27.76 ID:+wWQUoMO0

大井「もう十分ですよ」

柔らかい匂いがして、暖かいものが私を覆い隠した。そして力強く私を締め付けると、子供をあやすように背中をさすられる。

大井「もういいです。十分です。だから黙ってそのままにしてください」

目は開かないでください、提督今泣いてますから。動かれると面倒です。

大井さんはそう耳に呟くと私をあやし続けた。ああどおりで目が痛いわけだ。一体いつから、気がつかないうちに泣いてたんだろう。

小さいな、私はそう思った。背丈は私の方がちょっと大きいだけで、他は胸以外変わらない。

そのせいで大きく見えた大井さんだけど、人って、艦娘って近づいて触れるとこんなにも小さいだな。

私はずっと手の置き場所に困まりながら、大井さんが満足するまで耐える事にした。

大井「提督は、もしかして気がついてないと思ってたんですか?私を囮に使ったことを」

声色は変わらない。私に優しく囁き、満たされるような幸福感を与える大井さんの、優しい声だ。

でもそれが一層私の鼓動を加速させる。大井さんが何を思って、変わらずにいられるのかがわからない。知っていたのか、大井さんは。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:35:21.43 ID:+wWQUoMO0

提督「....知ってたの?」

大井「当然です。何年艦娘やってると思ってるんですか」

一つため息をつく。なんだかこの大井さんにすごく安心した。いつもの近くにいた大井さんだからだと思う。

大井「それに私だけじゃないですよ。みんな知ってます」

みんな知っている。大井さんはそう言った。でもそんなわけない。だって私は意図的に、誰にも悟られないように振る舞ったはずだ。

もし知っていたのなら、私に接する態度は変わるはずだ。生きてても、死んでいても。自分を殺そうと命令した人間に、いつも通りなんてできっこない。私はそのことを大井さんに告げる。

大井「自分の死に場所くらい、察せますよ。だって私達艦娘は、ほとんどが一回死んでいるんですから」

提督「そんな悲しいこと口に出さないでよ」

大井「だって事実なんですから」

私が言える立場なんかじゃないことは知っている。でも、言わざるをえなかった。

だって大井さんの声は震えていたから。目を瞑っているから、研ぎ澄まされた聴覚が些細な変化を聞き取ってしまった。

一回死んでるからってなれるわけじゃない。死ぬのは何回でも怖いはず。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:36:07.12 ID:+wWQUoMO0

大井「一回みんな死んでるから、死には敏感なんですよ。隠せていたと思っていても、ほんの些細な違和感に、艦娘は死を悟るんです。だからって提督を恨まないですよ。なんせ戦時中なんですから、いつ死んだっておかしくないんですよ。だからみんな常に覚悟はできてる」

提督「だからって死ぬのは怖いでしょ」

大井さんは無理をしてる。本心に塗り固められた嘘を本心だと信じきっているんだ。

大井「いいえ怖くないです」

提督「嘘だ。死んだら元も子もないじゃない。何も残らないんだよ?」

大井「....そうですね。提督の言い分に間違いはないです。死んだら何も残りません。いえ、残るのは生き残った者に渡される悲しみの置き土産だけ、ですね。でも提督、一つだけ知っていてほしいことがあります。私達と提督、昔の人と現代の人の死生観は違うってことです」

提督「何が違うっていうのさ...?」

大井「提督は死は誰かに意味をなさないと考えてますね。死んだらその場でおしまい、残るは悲しみと骨くらいって。でも私は違うと思ってるの。死は誰かを成長させる。私が死ぬことで、誰かが強くなって、強くなった誰かが弱い誰かを助ける。そして強い誰かは死んで、弱い誰かを強くする。それがずっと続く。だから私の死は、誰かの死は無駄なんかじゃない。弱い誰かを強くする礎になれるって、思ってるわ」

でもまぁ、死ぬのはごめんだわ。最後にそう言い終わると小さく笑う。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:40:52.27 ID:+wWQUoMO0

死は誰かを強くする、か。彼女たちと私の見ている世界は同じなのに感じ方は違うんだ。

大井「それでさっき提督は、私がどうやって帰還したのかわからないって、言いましたよね」

提督「言ったね。不謹慎だけど本当に大井さんが帰ってきたのかわからない。だって...」

そこまで言って最後を出し渋る。帰ってくるはずがないからだ。一人でどうにかなるんだったら、私は大井さんを単機で出撃させるわけがない。できないから、囮に使った。

大井「帰ってこれるわけない、ですね。じゃあどうやってあの死屍累々を掻い潜って、こうして不甲斐ない提督をあやしているんでしょうかねぇ〜」

意地悪そうに、それでいて愉快そうに大井さんは喋る。まるで自分の武勇伝をこれから話すみたいだ。

大井「気合いですよ。気合い」

提督「はっ?気合い?」

随分と短い武勇伝だ。気合い、この三文字で締めくくるくらい簡単な話だったのか。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:42:08.67 ID:+wWQUoMO0

大井「そう気合いですよ。積めるだけ酸素魚雷を搭載して単機決戦です。それにしても甲標的と試製61cm六連装酸素魚雷の雨あられのあの様を、見せてあげたかったですね〜」

提督「え、うちにそんな装備今でもないよね」

大井「そうです。「公式」には存在しない装備を使いました。資材を懐に蓄えて遊んでいた艦娘が功を成した、というわけです。まぁもう使い切りましたけど」

ああ、後でしっかりとお礼を言っとかないと。今回の件で水に流してあげよう。ありがとう。でも。

提督「でもその装備でも大井さんが帰還するのは」

大井「そうです。極めて低いです。でもゼロじゃない。ほんの数%、コンマ代の確立を私は勝ち取ったんです。気合いで」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 01:43:55.26 ID:+wWQUoMO0
今日で終わりそうです。また更新します。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 17:32:15.47 ID:ANVQ24Nk0

提督「なにそれ」

私は涙を拭うと思わず笑ってしまった。まるで私がバカみたいじゃないか。

大井さんの気合い一つで終わらせた問題を、私はいつまでも苦しんでいたんだと思うと、なんてバカバカしいんだ。

大井「なんで笑うんですか」

提督「だって大井さんの気合いで片付く問題だったんでしょ。もちろん装備のことも....」

大井「なんで気合いでなんとかなったのか。提督は、その気合いの根源が何なのか、考えもしないんですね」

大井さんは抱きしめる力を弱め、私から離れた。そして太ももの方へ握りこぶし作り置くと、私を睨みつけた。

大井「死んでやるか、意地でも死んでやるか。そう思ったからですよ。あいつは私を囮にした。死ぬのはわかっているけど断れない。断ったら、私以外のみんなに不幸が起こるはず。それでもムカつくもんはムカつくんですよ。現実の理不尽なんか慣れっこですけど、絶対、生きて帰って、何食わぬ顔で提督に接してやるって、そう決めたんです」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 17:33:41.37 ID:ANVQ24Nk0

提督「ごめんなさい...」

大井さんは私に近づくと私の太ももをリズムよく叩き。

大井「なんで謝るんですか?私の復讐は成功してたんですから、これっぽっちも、まったく全然、気にしてませよ」

言い終わると私をじっと見つめた。

大井「まだたくさんありますよ。提督が気づいてないだけで、デリカシーに欠ける言動や行動。あぁもうこの際だから全部言ってやる。いいですか....」

それから大井さんはひたすら私の悪い所を喋りまくった。とても楽しそうに。

やれ髪の毛をシャンプーで洗った後はリンスじゃなくてコンディショナーにしろとか。やれ風呂上がりはアイスなんか食べてないでさっさと髪を乾かせ。

やれ、やれ。まったく提督は。

お節介だな、本当に、大井さんは。でも嫌じゃない。こうやって楽しそうに駄目出しするけど、私だってこんな喋り倒す大井さんは見てて飽きない。

だいたいこんなことうちの親だって言わなかった。やりたいようにやれ、そんな放任主義で私のやる事なす事に口出しをしなかった家庭だから。

それに引っ込み思案で、これといって非行行為はしなく、勉学に打ち込む学生だった。おかげで「提督」になれたわけで願ったり叶ったりだ。

そう考えると思わず私は笑ってしまった。人生いいことなんて一つもない。つまらない灰色の人生だ。そう思っていた学生時代の私にこう言ってやりたい。

苦難や諦める時はいずれやってくる。そういう時は一人じゃ太刀打ちできないけど、周りにいる強いみんなが必ず助けてくれるはず。その瞬間から、あんたの人生は灰色から色彩を変え、彩り豊かになる、って。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 17:40:18.18 ID:ANVQ24Nk0

大井「何笑ってるんですか?こっちは真剣なんですけど」

提督「ごめん、ほんとおもしろくって」

大井「私がこうやっているのが、ですか?」

提督「いや違うよ、なんか私の人生がおもしろいなって思って」

大井「なんですかそれ?まぁ、いいですけど。それと、これで最後です」

提督「はい。なんですか」

大井「提督、さっき私に泣きながら色々話しましたけど、一つだけ訂正してください」

私の代わりの「提督」があなた達を絶対に幸せにするから。ここを直してください。

大井「私は、いやみんなですね。みんな、不甲斐ない提督が好きなんです。どうしようもない駄目な提督、あなたががんばって創るこの鎮守府が好きだから、時に理不尽な現実が姿を表そうとも、何よりも、一番大切だから、守るために命だっけ掛けることができる。そんな鎮守府を、創ったあなた以外の、私達の提督はありえないんです。だから訂正してください」

提督「いいの?だってこの鎮守府から出れば、私なんかよりもずっと楽しいことがあって、私なんかより、魅力的で優しい人だって本当はいるのに」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 18:31:28.71 ID:ANVQ24Nk0

嘘はついてない。艦娘は鎮守府以外を知らないんだ。

いつかは深海棲艦との戦いは終わりを迎える。

絶対に、終わってしまう。終わってしまえば彼女たちは、解体され跡形も命もなくなるはずだけど、私はそうはさせない。

どんな手段を使ってでも、せめて、私に付き添ってくれた艦娘のみんなを解放する。

その明るさによく助けてもらった夕立さん。

感傷的だから私とよく気があう時雨さん。

怖いところもあるけど優しい球磨さん。

鬱陶しいけどよく笑わせてもらった青葉さん。

おもしろいゲームをよく貸してくれる北上さん。

飲み仲間の足柄さん。

よく私の悩みを真摯に聞いてくれた鳳翔さん。

装備とか資材を管理するけど懐に蓄える明石さん。

がんばって経費削減してくれるおかげで何度も助けられた大淀さん。

それに私が愛してやまない、大井さん。

私は。

大井さんはおもむろに立ち上がった。そして。

大井「提督は、今日はどんな用があって、私のもとに尋ねたんですか」

私は無意識に片膝をついて大井さんを見上げる。窓から見えるシルエット調の木々と夕焼け空の赤、それを背にする大井さん。見惚れるほど綺麗で神秘的な状況の中、私は大井さんの顔だけを見つめ、本当にすんなり、必要な言葉だけを口に出した。

提督「大井さん好きです」

大井「ええ、私もですよ、提督」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 18:37:51.53 ID:ANVQ24Nk0

そう言うと大井さんは私の頭を優しく撫でた。すごく心地いい。張り裂けるほど膨らんでいた私の心が、今ここで爆発し、露わになった部分を大井さんに撫でられているみたいだ。

受け入れられた、実り叶う。そのずんと重い幸福感が私を包み込む。

大井「やっと言いましたね。長かったですよ、もう」

それを聞いて私はふと疑問に思った。

提督「告白二回めだよ。どうして一回目は断ったのさ、最初に言ってくれればいいのに」

一回目に応えてくれれば話は早かった、私はそう思ったけど、大井さんの溜息がそれを否定する。

大井「まず一つ目、女の子には告白はシチュエーションが何よりです。あんな勢いよく飛びついてきた後で、あれはないです。そして二つ目、その時の提督は本当に嫌いだったんです」

提督「じゃあなんで今受け入れたの?」

するとあの笑顔だ。私はイジってはにこにことするあの笑顔。

大井「それは、「さっきまでの提督」と、「今の提督」はまったく違うからですよ。人は一分一秒ずつ移り変わり、ほんの少しの時間で見間違える。男子三日会わざれば刮目して見よ。ですね。今の提督はさっきまでと違って素敵です。いえ、今ままでの中で、一番素敵です」

私は立ち上がった。嬉しいんだけど何だか腑に落ちない。大井さんの手のひらで踊らされていたみたいで一言言ってやりたい気持ちになった。

提督「なによそれ!なんかムカつくんだけど!」

大井「ま、まぁいいじゃないですか。こうして丸く収まったわけですから」

大井さんは後退り木製のパソコンデスクまで退がり、お尻を当てた。こんなに遊ばれたんだ、私は負けじと大井さんに詰め寄る。

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:04:25.08 ID:ANVQ24Nk0

いつのまにか鳴きやんだひぐらしの声。おかげでこの部屋はしんとして、私と大井さんの少しだけ荒い息遣いだけが響く。

大井「提督、次は、私になにをしてくれるんですか?」

大井さんの熱を帯びた瞳が少しだけ下がったのを感じた。熱い視線は鼻を通り抜け唇に注がれる。そして私をもう一度見ると、静かに瞳を閉じた。

私はポケット中に手を突っ込む。そして今までに大切に、その時が来るまで隠していた、柔らかい手触りの箱から、大井さんにずっと渡すと決めていた物を取り出す。

大井さんの左手をとる。冷え性の大井さんとは思えないくらい熱く、火照っている。そして私はその暖かな左手、薬指を手に取りそれをつけた。

近くだからよくわかる。それをつけた時大井さんは目を閉じたまま、今の私と多分同じだろう表情をした。嬉しくてたまらない。そんな顔。

大井「....負けました。今のは提督の勝ちです」

提督「大井さん。目を開けてください」

大井「はい」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:06:00.24 ID:ANVQ24Nk0

薬指の付け根を隠す銀色。私が執務室で珍しくうたた寝をしている大井さんからこっそり採寸して、注文した、指輪。結婚指輪。

それを大井さんはゆっくり目線より上に持っていくと、じっと見つめ、微笑んだ。そして口もとに運び指輪キスをした。

大井「じゃあ今度は私から」

デスクの引き出しを開けた音がした。今度は提督が目を瞑ってください。そう大井さんに促され私は瞳を閉じた。

大井さんの腕が首に回される。一瞬期待したけどそれは覆され、首元に冷たい、金属の温度が伝わる。そして金具が閉じる音がした。

提督「もう大丈夫?」

大井「ええ、いいですよ」

目を開け、首元に付けられた何かを手に取る。アルミワイヤーが巻きつけられた透明な一つの丸い物。どこか見覚えがあるそれはネックレスに変わっていた。これは。

提督「私が拾ったシーグラスのビー玉」

大井「そうですよ。こういう時、指輪で返すのが一番ですけど、用意してないですし、元々渡そうと思っていたこれをお返しにします」

提督「これ北上さんに渡すんじゃないの?」

私はてっきり北上さんにプレゼントすると思っていた。

大井「なに言ってるんですか。ずっと、最初からこれは提督の物じゃないですか」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:06:38.56 ID:ANVQ24Nk0

それにしても考えることは同じなんですね。大井さんはそう呟くと私を抱きしめる。私も大井さんを抱きしめ返すと、考えることが同じとは何か。そう思いつく。

提督「何が同じなの」

大井「それ、私が告白を促したあの日に渡すはずだったんですよ。この指輪を提督はお返しとして、あの時渡してくれましたか?」

提督「ノーコメントで」

言えない。急いでて持っていってなかったなんて。

大井「まぁいいですけど。わざわざ問い詰めることでもないですし。なにより、今はこの時間が嬉しいんです」

首元に掛かる力が弱まった。大井さんが私と目と鼻の先まで移動したみたいだ。そして五秒くらい見つめ合うと、また大井さんは瞼を閉じた。

私は大井さんの髪をかき分け、そのおでこにキスをする。

大井「....そこはなんで唇じゃないんですか?」

私は大井さんの唇に人差し指をあて、こう答える。

提督「そこは、正式に結婚してからだよ。大井さん」

大井「あら、ロマンチックですね。嫌いじゃないですよ、その理由。じゃあ首を長くして、待ってますね」

今度は逃さないで、しっかりと私を捕まえてくださいね。提督。


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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:35:00.09 ID:ANVQ24Nk0

提督「で、何これ」

私が手にしている通称艦隊新聞。鎮守府のあれこれを勝手に纏めた新聞雑誌だ。作成者は考えなくともわかるはず。その新聞の見出しに大きくこう書かれている。提督、結婚式までキスはしないと発表。

大井「まぁほんとのことですし、いいじゃないですか」

乱雑になった書類を纏めると珈琲を置いた大井さんは言った。そういう問題じゃない一体どこから情報が漏れたっていうんだ。あの場には私達以外誰もいなかったはず。

北上「んあーそれ、私が言っちゃったわ...」

ソファで寝っ転がって漫画を読んでいる北上さんはこっちを見ないでそう言った。

提督「なんであれから結構たったのに言っちゃったのかなぁ....」

北上「青葉しつこいもん。しょーがない、しょーがない。ねぇ〜」

体制をうつ伏せにして机に置いてあるポテチをとる。

大井「北上さん、だらしないですよ....」

北上「そーだね大井っち。それにしても、最近は雨続きだねぇ」

大井「ほんと、これじゃ洗濯物が乾かせないって鳳翔さんが嘆いてましたよ。それに私ドライフルーツ作り始めたっていうのに、はぁ」

季節は過ぎ、夏場の蒸し暑さはとうに去って肌寒くなった。それにここ最近は三日三晩雨が続いて、おまけに季節外れの台風も来てるって話だ。

あの日から、だいぶたったけどまだ式を挙げれていない。どうも最近深海棲艦の動きが活発になり始めたせいだ。タイミングを考えろ。

それにしても、北上さんは大井さんの小言を避けるのが上手い。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:35:25.88 ID:ANVQ24Nk0

球磨「提督ー!生きてるかクマー?」

勢いよく扉が開け放たれ球磨さんが入場した。

提督「だからそれやめてって....」

青葉「ども!こんちわーす」

どの面で下げて、そんなに嬉しそうに挨拶ができるんだまったく。

足柄「あら裏切り者さんこんにちわー」

青葉さんに続いて足柄さんも入って来た。ここ最近は私のことを、裏切り者さんと呼ぶ。相変わらず飲みの回数は変わらないから、冗談で言っている。

提督「足柄さん、どうしたの?」

青葉「あれぇー私は?」

足柄「鳳翔さんが差し入れですって。洗濯物が乾かせないからストレス発散で」

鳳翔「あらこんにちわ提督。ふふ、幸せそうですね」

足柄さんの後ろからひょっこり鳳翔さんが現れた。足柄さんは身長が大きい、小柄な鳳翔さんならすっぽり隠れてしまう。

提督「ええ、まぁ...」

大井「鳳翔さん、今日は何作ったんですか?」

ふんと鼻を鳴らした鳳翔さんは自信作ですという。そして足柄さんは北上さんの足を退けソファの上に腰を下ろし、漫画を手に取り読み始めた。球磨さんはというと私の冷蔵庫を漁り始めた。最近高いアイスの減りが早い。どうも専用のの冷蔵庫が必要だと思った。

青葉「あ、珍しいですねぇ。これは大成功です
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:36:08.10 ID:ANVQ24Nk0

鳳翔さんが持っていたのは大きいイチゴのワンホールケーキだった。珍しい、同じイチゴならイチゴ大福とかだと思ったのに。

大井「私飲み物準備しますね」

そう言うと大井さんは給湯室にむかいはじめた所で私は呼び止める。

提督「せっかくだから、夕立さんと時雨さん、明石さんに大淀さんも呼ぼうか」

大井「いいですね、じゃあ全員分作って来ます」

球磨「夕立と時雨ならさっき見たクマ」

ソファに座った球磨さんはアイスを食べながらそう言う。

足柄「どーせ雨だから外なんでしょ」

球磨「正解クマ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

全員集まった。そんなに広い執務室じゃないから、私の机は廊下にほっぽり出され、応接机を少し移動させ部屋の真ん中に置く。

そして机の上には全員分の飲み物が置かれ、イチゴのケーキが鎮座する。

夕立「まっだかっなーまっだかっなー」

時雨「美味しいねこのお茶」

鳳翔「はいはいみなさんお揃いですから、そろそろ頂きましょうか」

明石「乾杯の音頭は誰が取りますか?」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:36:57.91 ID:ANVQ24Nk0

びしっと手を挙げたのは足柄さんだった。

足柄「はぁい!!乾杯の音頭は、ぜひこの私めに!!!」

大淀「もしかして、酔ってますか?」

足柄「酔ってます!この雰囲気に!」

上手いこと言ってやったみたいな顔をした。そして立ち上がる。

球磨「別に上手いこと言ってねークマよ足柄」

足柄「さぁ立った立った!!」

そう促され私は立ち上がり、みんなも立ち上がる。

鳳翔「誰に乾杯します?」

そりゃ決まってるでしょ。そう言った足柄さんは深く深呼吸する。そして。

足柄「提督と大井に乾杯」

そう真面目な声で呟く。乾杯とみんなは言うと思い思いにグラスを当て合う。

夕立「時雨、なんでこの前振りがいるっぽい?」

時雨「これは様式美っていって必要なことなんだよ」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:37:29.57 ID:ANVQ24Nk0

夕立「ようしきび?何か結婚式の日にちみたいでおもしろっいっぽい!」

球磨「そうだクマ。そういえば提督、お前まだ式あげてなかったクマねぇ」

飲み物を飲み干した球磨さんは、姉妹揃って意地の悪い、あの笑顔で私に呟いた。

そういえばそうだ。まだあげてない。

鳳翔「あら、こんなところに丁度いい包丁が... 」

そういって私と大井さんが座っている目の前に包丁が置かれる。元々ケーキを切るようだったのに、こんなところとはなんだろう。

青葉「おっとこんな、私の目の前に一眼カメラが....。しかも単焦点50o。写真にはうってつけですねぇー」

大淀「いつもと持ち歩いてるカメラですよね」

足柄「きーれ!きーれ!」

完全にシラフじゃなくなった。

提督「えぇ、みんなの前で?」

当然と言わんばかりに、みんなもコールを始めた。まぁ式を挙げたらそうなんだけど、急すぎて心の準備が。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:38:01.93 ID:ANVQ24Nk0

私の左手に手が添えられた。ひやりとした、心地よい大井さんの手だ。

私は大井さんの方へ向く。一瞬、大井さんの服装が純白のドレスに変わったけど、それはすぐに消えていつもより真剣な大井さんがいた。

大井「て、提督!切りますよ!!」

提督「なんだか怖いよ大井さん....」

北上「大井っちは大人数だとこうなるよー。ほら、引っ張って挙げないと、新郎さん」

にやにやとした北上さんはそう言う。私が男役なのか。

大淀「新郎新婦によるケーキ入刀です!さぁみなさんBaby I Love Uを歌いましょう」

明石「どんな曲かわからないんですけど」

北上「まぁいいよ切っちゃいなよ〜」

私は震える大井さんの手を覆い隠す。

提督「大井さん、いい?」

大井「は、はい!」

青葉「シャッターチャーンス!」

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208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:38:57.51 ID:ANVQ24Nk0

普段無駄なところでしか役に立たなかった青葉さんの写真が、今ではうちの家宝になっている。

漫画だったら目がぐるぐるしてそうな表情をした大井さんと、私が丁度目を瞑っている写真。

どう見たって失敗だけど、これがあの時の私と大井さんをよく表していると思い、これを大切にしている。

思えば、あれから先が一番の苦難だった。

私は病院の窓辺から見える高層マンションと木々のアンバラスな風景を見る。まぁなんて風情がない。潮風が恋しい。

私は首元にぶら下がるネックレスを手に取る。ここ最近大井さんに会えていない。これと写真だけが私の心支えだ。

こんこんと扉がなった。そして少し困り顔の看護師の方が入ってきて、面会にきた人がたくさんいると言った。その上がった数々の名前に心が踊る。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:40:03.08 ID:ANVQ24Nk0

苦難や諦める時はいずれやってくる。

そういう時は一人じゃ太刀打ちできないけど、周りにいる強いみんなが必ず助けてくれる。

それは何も私に限った話じゃない。私以外の素晴らしい数々の「提督」達がいて、艦娘がいる。

そしてその人達は誰かの犠牲の上に立ち、死んでは犠牲になり、その上に誰が立ち上がっていく。そうやって積み重なった犠牲で、何かを掴み取るチャンスは必ずやってくるんだ。

物事、なんにだって終わりは訪れる。それを忘れちゃいけない。

入りますねと、一つ声が聞こえると、わいわいと賑やかな声が後ろから続いてくる。

私は、大切なもの達を最後まで守れた。でも覚えておかないといけない。私の幸せは、顔も知らない、知っていても、会ったことのない人達に作られたことを。

提督「ひさしぶり、みんな」

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210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:40:48.77 ID:ANVQ24Nk0
おしまいです。読んでくださった方、ありがとうございました。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/21(土) 20:42:35.27 ID:ANVQ24Nk0
それと2ヶ月くらい放置してエタりそうになった時、レスしてくれた方、ありがとうございます。おかげでがんばれました。まだ色んな物語が山程あるんで、また会える日を楽しみにしています。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/22(日) 00:34:32.45 ID:vpAaC42bo
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 11:57:31.65 ID:u7aVpSTOO
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 05:27:45.02 ID:eI5Y8CFxo
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 00:57:07.16 ID:Chfb/N6s0
よかったよ
綺麗な風景を見ているような感覚があった
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