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見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)
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420 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/20(土) 03:29:00.46 ID:X0NSnIeo0
「この娘は?」
「はい、少々事情がありまして」
「やっぱり、旧世界の?」
「ええ。こちらはジョニーさん、以前こちらの世界で一方ならぬ協力を」
「いやー、そんな大層な事じゃねーって」
「どうも、鹿目まどかです」
「ははっ、素直でお嬢ちゃんだな。あいつらの事思い出すよ。
ま、ここじゃあ大船にいるつもりでいてくんな」
「有難うございます」
ジョニーの言葉に、まどかがもう一度頭を下げる。
ーーーーーーーー
「まどかちゃん」
飛行船のリビングで、木乃香がまどかにスマホを差し出す。
「この娘、この娘がゆえや」
「へえー………ウェヒヒヒ………」
まどかがそれを目にした瞬間、一挙に高まった背後の密度に
まどかが乾いた笑いを漏らす。
「夕映さんは一時期彼女達、アリアドネー騎士団で
共に候補生として参加していた事があります」
「アリアドネー騎士団」
刹那の説明を聞き、先程も聞いた単語をまどかは聞き返す。
「アリアドネーはこの魔法世界の都市の名前です。
極めて高い独立性と学術水準を持つ独立学術都市だからこそ、
その中立かつ高度な技術のアリアドネーに属する魔法騎士団の意義があります」
「その通りですわ」
刹那の説明に、エミリィが腕組みしてうんうん頷く。
421 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/20(土) 03:32:27.77 ID:X0NSnIeo0
「夕映さんは私達の同級生ですが、
事情によりそのアリアドネー騎士団候補生としてに参加し、
今でもその身分を持っている筈です」
「ま、まあ、そういう事もありましたわね。
それで、そのお話に出て来た旧世界に戻った候補生は
その後如何です事?」
「はい、すこぶる元気に、
あなた方との再会を心待ちに勉学、修行に励んでいます」
「それは結構」
刹那の言葉にエミリィが頷くが、
既に周囲もくすくす笑いが我慢出来ないエミリィの顔の緩みが、
まどかにも何となく関係性を察知させる。
「でもさ、凄かったんだよユエ」
笑いを噛み殺しながら、コレットが話に加わった。
「最初は全然だったけどメキメキ上達して
あの時の選抜チームにも実力で選ばれて」
「ま、まあ、向上心と努力は立派なものでしたわね」
「凄かったんだ」
「ん」
呟くまどかに、木乃香が声を掛けた。
422 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/20(土) 03:35:43.43 ID:X0NSnIeo0
「ゆえはな、うちのクラスメイトで学校の図書館探検部でも一緒、
それで、おんなじぐらいに魔法に関わったけど、
頭が良くて一杯勉強してなぁ、ほんまに凄い娘や」
「それは、お嬢様も同じです。
溢れる程の才に驕らず、幾度となく地獄の特訓を繰り返して」
刹那の言葉に、木乃香ははにかんで小さく頷く。
綾瀬夕映、まどかも、女子寮に行った時も含め
ちょいちょい写真を見せてもらったが、
もっさりなぐらいたっぷりとした黒髪でまどかよりも更に小柄な女の子。
何時も一緒の娘とは対照的におでこが光り、
そして、ちょっと冷静に見えながら
みんなと一緒にいい笑顔で撮影されている少女。
「さあさ」
エミリィがぱんぱん手を叩く。
「そろそろ支度の時間でなくて?」
「そうだね、マドカ」
「はい?」
にっこり笑うコレットにまどかが聞き返す。
「こちらへ」
「よろしく頼みますわよ、ビー」
「かしこまりましたお嬢様。
ベアトリクス・モンローと申します」
案内の分隊メンバーの中から、この中では珍しく
生物学的に人間の少女にしか見えない黒髪の娘がまどかに一礼した。
423 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/20(土) 03:39:02.11 ID:X0NSnIeo0
ーーーーーーーー
「上がりました」
「それではこちらに」
VIP待遇とは言え大混雑のスタジアム帰のまどかが、
高級飛行船らしくシャワーでさっと汗を流してバスローブ姿で戻った所で、
ビーことベアトリクス・モンローが飛行船内を先導する。
ベアトリクスは、生物学的にやや人間離れした面々の多い中、
余り長くないかちっとした黒髪の、
元の世界でまどか達の側にいてもおかしくない少女だった。
そして、ビーに連れられた飛行船の奥で扉が開くのを見て、
まどかはわあっと声を上げた。
「パーティー会場になりますので、お好きなものをお選び下さい」
「え、ええーっと、ウェヒヒヒ………」
素人目にも分かるゴージャスな臨時クローゼットのラインナップに、
まどかは乾いた笑いを漏らす。
だが、それでも、中の上以上の家庭に育ち、
友達付き合いで上条恭介のコンサートにも出入りしていた。
そんな経験があって本当に良かったとまどかは有難く思う。
「こちらですね? 社交場の嗜みも騎士の任務の内、
万全に淑女を完成させていただきます」
「うらー、良いではないか良いではないかー」
「ウェ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒ」
閉ざされた扉の向こうからの声を、
残された一同は大汗を浮かべて聞いていた。
==============================
今回はここまでです
>>417-1000
続きは折を見て。
424 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 02:48:04.20 ID:l+RyK1Mr0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>423
ーーーーーーーー
「ウェ、ヒヒヒヒ………」
陽もとっぷり落ちて、まず、坂の上に見える建物、
到底お役所等と言う規模ではないオスティア総督府の
宮殿そのものの威容にまどかの口から乾いた笑いが漏れる。
あんな所で開かれるパーティーと言ったら、
それこそガラスの靴を履いていく世界にしか見えない。
「あ、あの、刹那さん、このかさん」
「はい」
「変、じゃないかな?」
「よく、お似合いです」
「可愛えぇなぁ」
「ウェ、ヒヒヒヒ………」
刹那と木乃香は褒めてくれるが、
まどかはそれに対して乾いた笑みを返すばかり。
「我々は伝統と栄誉ある騎士団。
まして、ビーは幼少時より私の側にいた者。
公の場における嗜みも身に着けています」
「あ、すいません」
エミリィの言葉に、まどかが小さく頭を下げる。
425 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 02:51:32.68 ID:l+RyK1Mr0
「とても、よくお似合いです」
「うんうん」
コレットはとにかく、と言っては何だが、
如何にも真面目そうなベアトリクスの言葉は文言によらず
何となくまどかを安心させてくれる。
そうすると、コレットの誉め言葉も素直に聞こえる。
まどかとしても、多少の余所行きの経験はあるが、
本格的なパーティードレスは初めて。
それでも、微かな鴇色を流したふわふわの白いドレス、
両サイドをリボンでくくりながらも長めに垂らした後ろ髪。
飛行船の姿見で見た自分の姿がちょっとだけ誇らしくなる。
そして、改めて元々の同行者である二人を見る。
今回の木乃香の服装は白いドレス姿。
前の茶会の振袖も見事なものだったが、
白を基調としたパーティードレスも木乃香の違った魅力を引き出す。
素晴らしい黒髪の美少女の、日本人形の様に清楚な魅力と共に、
やや大人びたパーティードレスは、
一つ年上の先輩の綻ぶ様な色気すら匂わせてまどかを魅了する。
先に記した事情で、
まどか自身にクラシックコンサートに行く機会があった事も、
まどかに木乃香の魅力をより感じさせる。
そんな木乃香の隣に控える刹那は、格好良すぎる。
ボディーガードそのものの黒服パンツスーツ姿。
それは、凛々しいと言う言葉がぴったりであり、
それでいて、その凛々しさは同時に美しい女性、
と言う評価を邪魔しない。
426 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 02:55:38.83 ID:l+RyK1Mr0
「手間のかかる事で申し訳ない」
そこで、又、刹那が一つ頭を下げた。
「本来であれば勝手に巻き込んだ鹿目さんを
一刻も早くお返ししなければならない所。
只でさえ気苦労の事を異国で強いる事となってしまい。
今はこのルートから通した方が話が速いものでして」
「こちらこそ色々していただいて有難うございます」
刹那の真摯な態度に、まどかもぺこりと頭を下げた。
ーーーーーーーー
「それでは、私達はこれで」
「有難うございました」
宮殿の門番は騎士団が書面を示して交渉すると易々と道を開け、
途方もなく広い宮殿の一角のエントランスで、
まどか達から離れる騎士団の面々にまどか達は頭を下げた。
「えっ、と、綺麗なお料理もあるけど………」
「肉、やな」
「肉、ですねウェヒヒヒ」
「飛行船のサンドウィッチは美味しかったけど、
色々あってお腹ペコペコやな」
立食パーティーに潜入したまどかは、
目の前の木乃香の豪快な、それでいて汚さを感じさせない動きを
早々にトレースして実行を開始する。
「チキンも美味しいけど、
あれ、子豚の丸焼き、美味しい所切ってもらおな」
「はいっ」
まどかとしては、年頃の女の子として、
ここを出る迄にドレスのお腹周りは、等と思わないでもないが、
一方で、まだまだ色気より食い気の精神年齢。
正直知らない世界を動き回って、その上こんなに美味しければ尚の事。
普段から豪快美人が身近にいる可愛い女の子の鹿目まどかとしては、
既に鳴り始めたお腹、それが最優先だった。
427 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 02:59:05.69 ID:l+RyK1Mr0
「あ、これも美味しそう」
木乃香を追跡していたまどかが、途中で視界に入ったテーブルに進路を変える。
「こっちも美味しそうだけど、このお皿で一緒だと、
えーと、やっぱりこっちを………」
「おい」
やけにドスの利いた声にまどかが振り返ると、
やけにガタイのいい給仕の男性が
両腕に大量の皿を携えて眉をひくひく動かしていた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「人の行く先行く先のたのたしやがって」
「す、すいませんでしたっ!!」
そう言えばテーブルの上もかなり隙間が開いている。
まどかが青い顔で頭を下げながらざざっと横に移動し、
給仕はざざざっと料理を並べ直す。
「ちょいと」
聞き覚えのある声を耳にしてまどかが顔を上げると、
ガタイのいい給仕がボロボロになる迄
でっかい熊のぬいぐるみにじゃれつかれている所だった。
「ウェ、ヒヒヒヒ………」
「すいませんねぇ、お客様に失礼な態度を」
そして、ぬいぐるみは、
大汗を浮かべて突っ立っているまどかに声を掛ける。
428 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:02:31.75 ID:l+RyK1Mr0
「い、いえ、私も不注意でしたから。
クママさんですよね」
「ああー、マドカちゃん。コノカ達と一緒かい?」
「はい。クママさんはここで?」
「ああ、私は仕事でね。あっちに活きのいい魚が届いてるよ、
ニホンの子って好きなんだろ?」
「はい、有難うございます」
「うん、そのドレスと髪型も、よく似合ってるよ」
「有難うございますっ」
まどかがぱたんと体を折り、
クママチーフはのしのしとその場を後にする。
「よう」
「あ、ごめんなさいっ」
「いや、俺が悪かった、いや、申し訳ありませんでした」
「アウウ………」
凄味駄々洩れな給仕の男に給仕に丁寧に頭を下げられ、
まどかは対応に困る。
「ったくっ」
「ひっ」
顔を上げた給仕の呟きに、まどかがたじっと足を引く。
429 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:06:21.43 ID:l+RyK1Mr0
「もしかして、例の旧世界の迷子ってお前か?
コノカって言ってたからな」
「は、はい、鹿目まどかです」
「そうかい、俺はトサカ。コノカ達とは知らねー仲じゃない」
「そう、なんですね。クママさんも」
「まあな。まあ、なんつーかあれだ、
いい加減おどおどしてないでもうちょっとしゃんとしとけ。
そっちじゃ馬子にも衣装って言うのか?
見栄えがしないでもないんだからよ」
「あ………有難うございます」
ふんっ、と、もう一度鼻を鳴らしたトサカが、
近くの柱の陰で顔を見合わせくすくす笑っていた給仕二名への
鉄拳的教育的指導を実行するのを
まどかは大汗を浮かべて眺めていた。
ーーーーーーーー
ちょっとはぐれたものの無事木乃香と合流し、
お腹いっぱい夕食をいただいたまどか、
そこに刹那も加わって宮殿の廊下を移動していた。
「刹那さんっ!」
その声を聞いた瞬間、まどかは、
刹那の顔がぱあっと明るくなるのを見た。
「刹那さん、こっち来てたんだ」
「お久しぶりですっ」
「もぉーっ、やめてよ。友達だって言ったでしょっ」
そうやって、頭を下げた刹那と言葉を交わしたのは、
恐らく刹那と同い年と直感出来る。
まどかから見るとすっきりとしながら出る所はそこそこ出ている、
盛装の夜会ドレスがスタイルの良さを引き立てている
中身は快活な少女だった。
430 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:09:28.88 ID:l+RyK1Mr0
「アースナっ」
「このか、しばらくっ。
そっちの娘ね、あっちの世界から来たって」
「あ、あの、鹿目まどかです」
「私は神楽坂明日菜、よろしく」
ぺこりと頭を下げるまどかに、明日菜がにかっと笑って答える。
長い髪の毛を鈴つきの髪飾りでツインテールに束ねた、
少なくとも美少女の部類には入る年上の少女。
確かに、先に見せてもらった写真の中にも彼女はいた。
だとすると、相当親しい間柄だと言う事も頷ける。
何しろ、木乃香が迷いなく明日菜の首っ玉にしがみつき、
明日菜がそれを軽く振り回しながら、それを見ている刹那共々
とってもいい笑顔なのだから。
「刹那さんっ」
「ネギ君」
「ネギ先生」
そして、近くの曲がり角の向こうに、
ひょんなきっかけで指先にキスを受けて真っ赤な顔でぐるぐる目を回した
褐色角つき騎士団候補生とそれを介抱する仲間達を残して
ぱたぱたとこちらに近づいて来たのは、
つい何時間か前にスタジアムでとんでもない激闘を見せてくれた、
刹那達の担任教師、弱冠十歳のネギ・スプリングフィールドだった。
「鹿目まどかさんですか?」
「はい、鹿目まどかです」
「騎士団から総長経由で刹那さんからの報告は届いています。
今回は大変な事に巻き込んでしまいました」
「い、いえ、あの、珍しい世界も見れましたし、
刹那さんもこのかさんの良くしてくれましたから」
「そう言っていただけると」
白人の少年だが日本語ぺらぺら、何よりも優しく礼儀正しい。
あれだけ勇壮な戦士が今は小さな紳士。
まどかにも、彼が慕われるのが分かり過ぎる程に分かる気がしていた。
「しかし、丁度本日がこちらでのイベントだったんですね」
「そぉーなの」
刹那の言葉に、明日菜が苦笑を見せた。
431 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:10:51.27 ID:l+RyK1Mr0
「外交日程って奴でさ、ネギ共々ね。
歓迎イベントで、その中でネギとラカンさんのエキシビジョンとか、
引き受けるネギもネギなんだからねっ!」
「ほへんははいっ」
あの勇壮で桁外れに途方もなく強い
ネギ・スプリングフィールドの口に明日菜の指が突っ込まれ、
唇が左右に広げられるのをまどかはくすくす笑って見ていた。
「な、お姉ちゃんみたいやろ」
「はい」
木乃香の言葉にまどかが快活に答える。
その辺、まどかの本音としては、きょうだいネタによくある
実物はこんなに可愛いもんでもないよな感情も無いではなかったが、
それは逆に実物も遠慮が無いぐらいに可愛いと言う事でもあり、
それでも微笑ましいと素直に思った。
「それでは」
刹那が、尽きない話を一旦引き取った。
「私と鹿目さんは明日一番にメガロメセンブリアに向かい、
政府と折衝の上であちらのゲートから鹿目さんを送り届けます」
「せっちゃんと二人で?」
木乃香が、ちょっと不思議そうに尋ねた。
「はい。今は鹿目さんの帰還が優先になりますから。
お嬢様はこの機会です、お二人と旧交を温めて下さい。
ネギ先生、ご多忙の所すいませんが、
お嬢様の帰還の手配を願えますか?」
「分かりました」
「まあ、そういう事情ならね」
刹那の言葉に、ネギと明日菜も名残惜しそうに承諾した。
432 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:14:04.26 ID:l+RyK1Mr0
「あ、あの、ごめんなさい。何か、凄くお邪魔と言うか………」
「いい娘ね」
まどかの言葉に、明日菜がくすっと笑って言った。
「でも、まどかちゃん? あなたが悪い所なんて一つもないでしょ、
事情はよく分からないけど
本当なら私達魔法使いが思い切り文句言われる所なんだから。
優しいのはいいけど、あんまり卑屈にならないの」
「有難うございます」
明日菜の優しさに、まどかはもう一度頭を下げた。
ーーーーーーーー
「はあーっ」
新・オスティア観光エリア、リゾートホテルの客室で、
浴衣姿のまどかが、ベッドの上にうつ伏せに体を投げ出した。
「気持ち良かったですね」
隣のベッドに座った刹那が、にっこり笑って声を掛ける。
「はい。なんか体の中から
悪いものがぜーんぶどばどば出て行ったみたいで、
すっごく疲れてたんですねー」
岩盤浴マッサージつきの入浴を終えて、
このツインルームに戻って来ていたまどかが長く息を吐く。
433 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:17:30.90 ID:l+RyK1Mr0
「流石に、一般人の立場では
ここまで肉体的な負担だけでも甚だしいものでしたし、
まして、普通の外国ですらない未知の世界でしたから
精神的な緊張も大変なものだったと」
「それでも、そんな所で私の負担が最小限になる様に
色々手を尽くしてくれて、本当に有難うございました」
「いえ、魔法の立場で巻き込んだ以上当然の事です」
「ここでも、普通に見ても人が一杯来てる時に、
こんないい部屋とってもらって、それに、浴衣ってウェヒヒヒ………」
「確かに、こちらから見たら異文化ですが、
なんと言いますかこちらでは我々は少々顔が利きます。
それに、こちらには立派な温泉もありますからね。
簡単に用意出来る良き風呂文化は導入も速いです」
「やっぱりドレスのパーティー緊張したから、凄く楽になりました」
「お似合いでしたよ」
「刹那さんもティヒヒヒヒ」
「有難うございます」
隣り合ったベッドで互いにうつ伏せになり、
まどかの言葉に刹那もにこっと笑って応じた。
その後で、刹那はよいしょとベッドの上に座り直す。
「鹿目まどかさん」
「はい」
改まった呼びかけに、少々砕けていたまどかも口調を切り替えた。
「あなたに一つ、お伺いしたい事があります」
「はい」
まどかの返答を聞き、刹那はベッドを降りてまどかの方に歩き出した。
434 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:21:09.90 ID:l+RyK1Mr0
「鹿目まどかさん」
ベッドの上に座り直したまどかは、
ベッドサイドから声を掛ける刹那を見ていた。
「あなたは、自分の人生が貴いと思いますか?
家族や友達を、大切にしていますか?」
まどかは、既視感を覚えながらも顔を上げた。
刹那は、まどかを静かに見下ろしていた。
「私、は」
まどかは、立ち上がっていた。
「大切に、思っています。
家族も、友達のみんなも、大好きで、
とっても大切な人たちです」
「そうですか」
言葉を選びながらも言い切ったまどかに、
刹那は静かに微笑みかけた。
「そうですね。わた………」
「?」
まどかが、異変に気付いた。
何かを言いかけた刹那がぱちぱちと瞬きをしている。
目を見開き、口をぱくぱくさせている。
「刹那、さん?」
まどかに問いかけられ、顔を上げた刹那は、
ごくりと息を飲んだがぱくぱく動く口から声は出ない。
その代わり、ぽろりと一筋、刹那の頬に涙が伝っていた。
「あ、鹿目、さん………」
「はい」
刹那がようやく声を絞り出し、まどかが応じる。
だが、その後に刹那の口から漏れるのは小さな呼吸音だった。
435 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/22(月) 03:25:22.10 ID:l+RyK1Mr0
「刹那さん? あの、大丈夫ですかっ?」
まどかの問いかけに、刹那は小さくうんうん頷く。
丸で、強力な腹の差し込みでも耐えている様な顔で。
「刹那さん、刹那、さん」
自分でも気が付いた時には、まどかは刹那に抱き着いていた。
「あの、何処か痛いんですか? 刹那さん?」
刹那に抱き着き、背中を撫でながら問いかけるが、
まどかの頭の上から刹那が発するのは、言葉にならない嗚咽だった。
刹那が、きゅっとまどかに抱き着き、
刹那が静かに呼吸を整えるのをまどかも感じる。
刹那の手が離れる。
まどかから離れた刹那が、ゆっくりと息を吐く。
「醜態を失礼しました」
「う、ううん」
馬鹿丁寧に一礼する刹那に、まどかが小さく首を横に振る。
「あ、あの………」
「ええ、大丈夫です。やはり少々疲れた様です。
休みましょう、明日は早くから遠出になりますので」
「はい」
まどかが見たのは、完璧なスマイルだった。
そこには、首を縦に振る以外の選択を即座に失わせる力が込められていた。
==============================
今回はここまでです
>>424-1000
続きは折を見て。
436 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/23(火) 03:51:28.53 ID:lWROmukU0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>435
× ×
大切、だよ。
家族も、友達のみんなも、
大好きで、とっても大切な人たちだよ
ーーーーーーーー
鹿目まどかは、自分の声を聞いた様な気がした。
そんな気がしながら、温かなベッドの中で薄目を開く。
(雨?)
耳からの情報で、なんとなくそんな事を考える。
見知らぬ天井。まどかはそのまま記憶を整理する。
魔法の世界に来て、
色々あってホテルのツインルームに宿泊して朝を迎えたらしい。
その辺りの諸々の事情を、
何とか頭の中で論理化しながらベッドの上で身を起こす。
口に手を当てながらふぁーっと大口を開けた辺りで、
視線の先のドアがガチャリと開いた。
「ああ、お目覚めでしたか?」
「あ、はい」
そこから現れたのは、桜咲刹那だった。
先程までの水音も今はやみ、
浴衣姿の刹那はバスタオルで黒髪を挟みながら
ツインルームのベッドサイドに戻って来た。
437 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/23(火) 03:57:45.10 ID:lWROmukU0
「鹿目さんも先にシャワーを使いますか?」
「あ、はい、そうします」
んーっと伸びをして、
そこで気が付いてベッドに垂れた浴衣を右肩に掛け直してから、
まどかは帯を締め直して立ち上がる。
その間に、刹那は着替えを用意している。
下着はドレス合わせのついでの様に簡素なものを用意してもらえたが、
それ以外は旧世界で着ていたものをクリーニングしたものだ。
まどかがふいっと刹那を見ると、
まどかと目が合った刹那がふふっと微笑み、まどかはバスルームに向かう。
まどかはシャワーを浴びながら考える。
あれは、自分の知っている桜咲刹那。
頼もしくて、誠実で優しい先輩。
さ程長い付き合いでもないが、
まどかが知る限りの今迄の桜咲刹那像と合致すると。
シャワーが朝の眠気を払っている事を自覚しながら、
まどかはそんな感じで自分の記憶と感覚を整理する。
眠気と寝汗をシャワーに流し、まどかは浴衣姿でベッドに戻る。
そこで着替えを終えると、洗面台に立った。
438 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/23(火) 04:04:56.38 ID:lWROmukU0
「あの………」
「はい」
洗面台から戻ったまどかが、刹那に声を掛けた。
「あの、このリボンって似合ってますか?」
「え? あ、はい。とてもよく」
刹那は、優しく微笑んだ。
常識的に考えるなら、今の状況の常識人なら誰でもそう答えるだろう。
そんな思いもあったが、それでも、まどかは異郷で鏡の前に立って、
ふとこの先輩に尋ねてみたくなった。
「良かった。このリボン、マ………母が選んでくれたんです。
私の隠れファンもメロメロだとか」
「そうですね」
刹那が、又、にっこり笑った。
そして、つかつかとまどかに近づく。
「戦術的観点から申し上げますと、
性格も体格も大人し目で優しい、小動物的に可愛らしい。
同じ教室にいれば引かれる異性も一定数してもおかしくないでしょうね。
そんなあなたの派手過ぎない、強めの色のリボンはさり気なく目を引く
いいインパクトになります」
「ウェ、ヒヒヒ」
大真面目に語る刹那にまどかが大汗を浮かべ、
その様子に刹那はふっと破顔した。
439 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/23(火) 04:08:29.71 ID:lWROmukU0
「一応、女性として一年程先に生まれていますのでこのぐらいは。
私から見てその様にとても魅力的です。
もっとも、専らこちらの武骨者で通っているのが女子校ですから
当てにして頂いても困りますが」
夕凪を手に大真面目に説明する刹那を前に、
まどかはとうとうくくくくと腹を抱えてしまった。
「あ、有難うございます。
刹那さんみたいに格好いい人にそう言ってもらえて
とても嬉しいですウェヒヒヒ」
「こちらこそ、光栄です。
それではそろそろ。やはり文化交流でしょうか、
ここはイギリス風の朝食が美味しい様です」
「はい、なんか、お腹がすきました」
優しく微笑む刹那に、まどかも元気よく答えていた。
==============================
今回はここまでです
>>436-1000
続きは折を見て。
440 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/24(水) 03:26:28.73 ID:usJB+thL0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>439
ーーーーーーーー
「それでは、お嬢様をお願いします」
「分かりました」
「ほなな、まどかちゃん」
「はい」
新オスティアの飛行船港で、桜咲刹那がネギに後を託し、
にこにこ微笑む近衛木乃香がまどかと挨拶を交わしていた。
そんな様子を、神楽坂明日菜は人差し指の背で顎を撫でながら眺めている。
「刹那さん」
「はい」
「帰ったらゆっくりお茶しよう。
最近ちょっと忙しかったから、みんなで原宿とかお出かけして」
「そうですね」
明日菜の言葉に、刹那はにこっと笑って即答した。
そんな刹那の笑顔を見ながら
人差し指の背で顎を撫でていた明日菜は、破顔して小さく頷いた。
「それでは」
刹那に促したのは、一見して彼女よりも年下の執事風の少年だった。
かくして、刹那とまどかは用意された飛行船に搭乗する。
ーーーーーーーー
「うわぁー………」
飛行船の窓から景色を眺めていたまどかが、声を上げた。
前例をほとんど知らないまどかであっても、
これがかなり高級な飛行船である事は分かる。
何時間かの飛行の間、乗り心地も上々の船内で、
まどかは雲を眺めたり軽く昼寝をしたりお菓子を摘まんだりと
いい加減異常事態にも慣れつつある移動時間を満喫していた。
441 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/24(水) 03:30:09.26 ID:usJB+thL0
「メガロメセンブリアですね」
「あれが………」
刹那にそれが目的地である事を告げられ、まどかが呟く。
程なく、魔法世界内の大都市メガロメセンブリアに到着した刹那とまどかは、
執事風少年の案内で徒歩での移動を開始していた。
「刹那さん」
「はい」
「魔法世界でもちょっと、感じが違うって言うか」
「そうですね」
まどかの言葉に刹那が頷いた。
「あちら、と言うよりもこの世界の南側はいわゆる亜人、
獣とか魔族に繋がる人達が多く、オスティアはいわば中間点です。
対して、北側の政治的中心に当たるこのメガロメセンブリアは、
私達にとっての元の世界に近い世界で、
魔法こそポピュラーでも住人もそういう事になっています」
刹那が噛み砕いて説明を行う。
確かに、飛行船から見た景色も今の道行きも、
丸で未来都市を思わせる、それでいて魔法らしさも全開の摩天楼。
そこに、いかにも魔法らしい色々なものが空中を飛び交っている。
行き交う人々も刹那の説明通りに見えた。
そして、一同が行き着いた先は、
見た目からして壮大にして由緒正しきホテルだった
「こちらです」
少年が案内した先は、
そこに至る過程と扉だけでも特別さが理解出来る程の、ホテルの特別室だった。
442 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/24(水) 03:37:12.17 ID:usJB+thL0
ーーーーーーーー
「初めまして」
特別室に入ったまどか達を出迎えたのは、
眼鏡をかけた、背の高いスーツ姿の男性だった。
「鹿目まどかさんですね?」
「はい」
ちらっ、と、このだだっ広い部屋の
さり気なくも高級な調度品を気にかけていたまどかに、
男性は歩み寄り声を掛けた。
「メガロメセンブリア元老院議員、クルト・ゲーデルです」
「あ、鹿目まどかです」
求められるまま、まどかはゲーデルと握手を交わす。
「報せは受けています、この度は思わぬ事態となった様で。
帰国の事はこちらで準備させていただきます」
「有難うございます」
肩書も本人の雰囲気も間違いなく偉い人らしいゲーテル相手に、
手を離されたまどかがぱたんと頭を下げる。
「サクラザキセツナ君」
「はい」
「お嬢様共々元気そうで何よりだ」
「はい、有難うございます」
「………お知合い、ですか?」
「神鳴流門下として親類筋に当たります。
少々込み入った経緯があるのですが、
私等は到底及ばないお方です」
「そういう事ですから、妹弟子の大切なゲスト、無碍にはしませんよ」
「は、はい、ありがとうございますウェヒヒヒ」
まどかににっこり語り掛けるゲーデルにまどかは頭を下げるが、
まどかの本能は彼の微笑みに微かなアラームを鳴らしていた。
443 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/24(水) 03:38:23.17 ID:usJB+thL0
「それでは、こちらに」
かくして、ゲーデルの案内でゲーヂルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。
「………お粥? それに………味噌汁?」
「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。
豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」
「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」
ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。
==============================
今回はここまでです
>>440-1000
続きは折を見て。
444 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/24(水) 03:40:44.74 ID:usJB+thL0
すいません
>>443
差し替えます。
==============================
「それでは、こちらに」
かくして、ゲーデルの案内でゲーデルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。
「………お粥? それに………味噌汁?」
「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。
豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」
「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」
ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。
==============================
今回はここまでです
>>440-1000
続きは折を見て。
445 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 12:53:41.70 ID:+EHgy1Jh0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>444
「お口に合いましたか?」
「はい、何日も経ってないのに和食がこんなに美味しくて、
有難うございました」
「そう言っていただけると」
一見素朴にして十分な仕事の為された昼食を前に、
ぱたんと頭を下げた鹿目まどかにクルト・ゲーデルが紳士のスマイルを返す。
お粥と汁、お菜の食事が終わった辺りで、緑茶が出される。
「これ、お味噌?」
「いかがですか?」
「美味しいです」
お茶請けに出されたのは、
味噌を付け焼きにした小麦粉や蕎麦粉の和風クレープだった。
446 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 12:56:50.90 ID:+EHgy1Jh0
「私はオスティア総督でもありまして」
「オスティア? じゃあ、あのパーティーに?」
「ええ、会場にはいました。
しかしああいう日だからこそ公務が立て込んでいまして。
ゲートのあるこちら側で一度に話を済ませた方がいいと言う事になりまして」
「そうだったんですか」
「ええ。色々と支度は整っていますので、
鹿目さんの旧世界への帰還とそれまでの安全は保障します。
そこに至る迄、留守にした事の辻褄合わせに就いても
あちらの魔法協会の方で根回しが行われている筈です。
特に旧世界における魔法と言う性質上、
何かあった時の隠蔽工作には習熟していますからね」
「ウェヒヒヒ………」
にこにこ微笑んで語るゲーデルのやや人聞きの悪い言葉に、
まどかは汗を浮かべて笑みを返す。
「しかし、それまで時間もあります。
手始めに、映画等如何ですか?」
まどかの目の前で、ゲーデル総督は両手を広げて微笑んだ。
447 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 12:57:59.94 ID:+EHgy1Jh0
× ×
明石裕奈は、振動するスマホを取り出し通話状態にする。
「もしもし?」
「もしもし、明石だな?」
「そうだけど、千雨ちゃんだよね?」
「ああ」
取り敢えず、互いにスマホの画面表示通りの相手である事を確認する。
「その後、例の件どうなった?」
「現在調査中。千雨ちゃんには悪いけど、私達も動いてるからね」
「今何処だ?」
「あすなろ駅」
「一人か?」
「メイちゃんも一緒」
「だったら、学園警備、少なくとも高音さんは知ってるって事だな?」
「ま、そういう事。今回の千雨ちゃんの仕切り、
高音さん相当キテたから、覚悟しといた方がいいよ」
「だろうな、分かってる。
二人であすなろに来てるってんなら、
ちょっとセッティングさせてもらっていいか?」
448 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 12:59:56.07 ID:+EHgy1Jh0
ーーーーーーーー
あすなろ市内のカラオケボックスの一室に集合したのは、
明石裕奈、佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子の四名だった。
尚、彼女達の家族構成に就いて少々触れると、
明石裕奈は母を亡くして父一人娘一人、
巴マミは両親、佐倉杏子は両親と妹を亡くして他に家族はおらず、
佐倉愛衣はステップファミリーで実父と義母、義姉の家族構成だった。
「もしもし」
「はい、もしもし」
そして、現在裕奈のスマホにテレビ電話で繋がっているのが長谷川千雨だった。
「取り敢えず、その面子で協力する、って事でいいのか?」
「ええ、構わないわ」
千雨の問いに、答えたのはマミだった。
「私は、明石さんにも魔法使い一般にも、
正直悪い感情は持っていない。
もちろん魔法の関係で鹿目さんが行方不明になっているのはその通りだけど、
その事ではあすなろの魔法少女も疑わしい。協力出来るものなら協力したい。
こっちで繋いでくれてあなたには感謝する」
「まあ、エージェントって言うには単純そうだからな」
真面目に言うマミの横で、早速お摘みに手を伸ばしながら杏子が笑った。
「まあ、そうだね。正直私、騙しとか腹芸とか無理っぽい」
「私もそう思います」
「言ってくれるよ魔法使いの先輩」
自分で認めた裕奈に愛衣が続き、笑い合った。
「それじゃあ、本題に行くか」
千雨が話を切り替える。
449 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 13:01:14.90 ID:+EHgy1Jh0
「現時点で、あすなろ市での第一ターゲットは御崎海香。
データから言って、彼女の豪邸を拠点とする
魔法少女グループが関わっている可能性は小さくない」
「だから、これから探りに行こうって途中でそっちから連絡があったんだけど」
「そりゃ良かった」
杏子の言葉に千雨が応じた。
「情報を総合すると、御崎邸には現在中学生だけで生活している。
それだけにセキュリティーは万全だ、
下手打ったら一発で近所中に鳴り響いた上に
警備会社に直通でそのまま警察沙汰だ」
「機械的、電子的な防壁は魔法使いにとっても侮れない。
街中で、社会的な地位もある相手では特にそうです」
千雨の指摘に、愛衣が言った。
「しかも、グループの全員が魔法少女だとすると、
科学と魔法、両方を相手にする事になるわ」
マミが言葉を続けた。
「そこで、狙い目になるのが、御崎海香グループのイレギュラー………」
「和紗ミチルか」
「ああ」
答えた杏子に千雨が言う。
450 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/01/30(火) 13:02:18.87 ID:+EHgy1Jh0
「彼女を中心に、防犯カメラや携帯電話の位置情報を洗い直した。
電話会社側の全データから合致するものを特定する感じの荒業だったがな。
ミチルの行動パターンは、
確かにグループの一員ではあっても独自の部分も目立つ」
そして、一同はマミのスマホを見た。
「鍵になるのはここ、ビストロ「レパ・マチュカ」だ。
確定は出来ないが、関連情報が集まっている地理的に言って
ポイントは多分ここだ。
ずっとは無理だが、後何時間か、私はこの近辺に電子情報の網を張る。
あんたらは周辺に配置して、引っかかったら動く。
こういう作戦でどうだ?」
マミのスマホに地図情報を送った千雨が裕奈のスマホ越しに言い、
個室にいる一同は小さく頷いていた。
==============================
今回はここまでです
>>445-1000
続きは折を見て。
451 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/05(月) 03:11:38.48 ID:EoPZtMcQ0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>450
ーーーーーーーー
「よう」
ビストロ「レパ・マチュカ」店内で、
巴マミを伴った佐倉杏子がテーブル席の少女に声を掛けた。
「?」
「しばらくだったな」
「あの………どちら様ですか?」
「何?」
きょとんとして問い返す相手に、杏子が聞き返す。
「私の事、知ってるの?」
「何言ってんだ、お前?」
「お客さん」
厨房からマスターの声が聞こえる。
「ごめんなさい。少し、同席してお話いいかしら?」
マミの言葉に、着席している少女はこくんと頷いた。
452 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/05(月) 03:14:39.12 ID:EoPZtMcQ0
ーーーーーーーー
「レモンティーを」
「チョコレートパフェ、もらおうかな?」
「あの………」
「ん?」
「ここ、バケツパフェが美味しいんだけど、
良かったら一緒に」
「へえー、変わったメニューだな。そうさせてもらうかな」
「この量なら、二つを三人で分けない?」
「それでちょうどいいと思う」
「それならそれでいいや」
「じゃあ、レモンティー一つとバケツパフェ二つ、
取り皿とスプーンをもう一つお願いします」
取り敢えず、マミがオーダーを出す。
「最初に聞くけど、あなた、私達の事を覚えてる?」
マミの問いに、少女は首を横に振った。
「そう。私は巴マミ」
「………佐倉杏子だ」
マミの肘が軽く当たり、杏子が名前を伝える。
「巴さんに佐倉さん………」
「名前でいいよ、ちょっとややこしい事もあるから」
「私はかずみ」
「かずみ?」
名乗った少女に、杏子が訝し気に聞き返す。
453 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/05(月) 03:17:58.00 ID:EoPZtMcQ0
「それが、あなたのお名前?」
マミの問いに、かずみが頷いた。
「ちょっと待て、かずみ、って言われても、
大体お前………」
「お待たせしました」
マミが杏子を手で制し、注文の料理が運ばれて来る。
ーーーーーーーー
「うん、旨い」
杏子の反応に、かずみがとろける様な笑みを見せる。
それを見て、杏子も不敵な笑みを返した。
「話を戻すが、あんた、あたしを担いでるんじゃないだろうな?」
「違う」
杏子の問いに、かずみは真面目に答えた。
「多分、佐倉さんも気が付いてると思うけど………」
「ああ。けど、今の顔見ても、あんたはあたしが知ってる奴だ」
「私の事、知ってるの?」
「ああ、知ってる」
「私もあなたの事は覚えがあるわ」
「分からない」
杏子とマミの答えに、かずみは改めて答えた。
「双子の姉妹とか、いないのか?」
「いない、と思う」
「あなた、記憶が?」
マミの問いに、かずみが頷き杏子が天を仰いだ。
454 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/05(月) 03:21:11.09 ID:EoPZtMcQ0
「和紗ミチル、鹿目まどか、この名前に心当たりは?」
マミの問いに、かずみは小さく首を横に振った。
「それじゃあ、御崎海香」
「知ってるの?」
「ちょっとな、あんたの仲間か?」
杏子の問いに、かずみは頷いた。
「ソウルジェム、って知ってるかしら?」
マミの問いに、かずみはそれを取り出した。
「変わってるわね」
マミが、自分のソウルジェムを差し出して言った。
「普通、底は台座になってるけど、
あなたのはトゲなのね。まるでゴルフのティー」
「ああ、確かに見た事ないな」
「あなた達も魔法少女なのね」
「ええ」
かずみの問いに、マミが答えた。
「あたしの知る限り、あんたの名前は和紗ミチル。
あたしと他の魔法少女が揉めてる時に、
あんたが仲裁に入った事があった」
「他の、魔法少女」
「覚えてない?」
マミの問いに、かずみは首を横に振った。
「私は、魔女に襲われていたあなたを助けた事がある。
まだあなたは契約していなかったと思う」
マミの言葉に、かずみは首を横に振る。
455 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/05(月) 03:24:29.36 ID:EoPZtMcQ0
「御崎海香達の事、聞かせてもらえるか?」
「私の、友達、仲間」
「魔法少女?」
マミの問いにかずみが頷いた。
「私達のグループ、プレイアデス聖団」
「プレイアデス?」
「確か、ギリシャ神話ね」
「うん、ギリシャ神話から名前を取った、って聞いた事がある」
「じゃあ、麻帆良学園都市の事、なんか知ってるか?」
「知らない」
「あんたのお仲間が麻帆良学園都市に行ったってのは?」
「知らない」
「それ、マジで言ってんだろうな?」
ずいっと視線を向ける杏子に、かずみが小さく頷く。
「だけど………」
「ん?」
「珍しく他のみんなが、
全員用事があるって言ってほとんど一日会えなかった」
「それって………」
マミがかずみから日付を確かめ、「当たり」である事を確認した。
そして、マミがスマホを取り出す。
「少し、付き合ってくれるかしら?」
==============================
今回はここまでです
>>451-1000
続きは折を見て。
456 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/06(火) 17:13:30.94 ID:+2ytnorA0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>455
ーーーーーーーー
「あなた、確か店に?」
マミと杏子に連れられ、トタン囲いの中のビル工事現場に入ったかずみが
目の前に現れた少女に言った。
「はい、私達もあの店にいました」
明石裕奈を伴った佐倉愛衣が返答する。
「改めまして、佐倉愛衣です」
「どうも、私は明石裕奈。
こんな所に来てくれて有難う」
「正直、助かりました。
すんなりついて来てくれて」
裕奈の言葉に、愛衣も続く。
「食べ物に配慮が出来るマミさんと美味しそうに綺麗に食べる杏子、
悪い人だと思えなかったから」
かずみの回答に、マミが苦笑し杏子が肩をすくめた。
「あの………あなた達も魔法少女?」
「いいえ、私達は魔法使いです」
かずみの問いに、愛衣が答えた。
457 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/06(火) 17:16:31.75 ID:+2ytnorA0
「魔法使い?」
「ええ、魔法少女とは別に、
元々の才能と特別な訓練によって魔法を使うのが私達魔法使いです。
事情があって巴マミさん、佐倉杏子さんと協力して行動しています。
なお、私の知る限り、私と佐倉杏子さんは親戚的な意味では赤の他人です。
本来であれば魔法使いと魔法少女は不干渉が原則ですけど、
そうも言っていられない事情がありまして。
取り敢えず、一つ確かめたい事があります」
「確かめたい事?」
「ええ、あなたの記憶の事です。
あなたは過去の記憶を失っている、そうですね?」
「うん」
「それは、どの様に?」
「…………より前の事は全然分からない」
「最近ね」
かずみの説明に、マミが言った。
「日常生活は大体大丈夫なんだけど、
私が誰で、過去に何があったのかは全然覚えていない」
「いわゆるエピソード記憶、ですか」
かずみの回答に愛衣が言う。
458 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/06(火) 17:19:52.75 ID:+2ytnorA0
「確認のためにいくつか質問をします、
Yes or Noで答えて下さい。
あなたの名前はかずみですね?」
「Yes」
「あなたは12歳よりも年下ですね?」
「No」
「あなた、本当は記憶喪失なんかじゃないですね?」
「Yes 私は本当に記憶喪失だよ。
本当に、昔の事は何も分からない」
「そうですか、失礼しました。
………問題はその記憶喪失の理由です。
何か魔術的な理由があるのかも知れない。
その事を確かめたいのですが」
「うーん」
愛衣の言葉に、かずみが腕組みして唸る。
「それなら、海香が気が付きそうだけど………」
「あなたのお仲間ですね?」
「うん、海香とかニコとか魔法分析が専門だから、
私の記憶喪失の原因が魔法なら分かるんじゃないかって」
「成程………一応、確認だけさせてもらってもいいですか?」
「………いいよ」
かずみは、愛衣を真っ直ぐ見て答えた。
「感謝します。
メイプル・ネイプル・アラモード………」
ぺこりと頭を下げた愛衣が、
呪文を唱えながら右の掌をゆっくりかずみに向ける。
そして、掌をかずみの額に当てた。
459 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/06(火) 17:23:04.80 ID:+2ytnorA0
「………!?」
「メイ、ちゃん?」
その場にすとんと腰を抜かした愛衣に、裕奈が目を見開く。
「…ケ…ノ………」
「ちょっとメイちゃん」
「………な………なんなんですか、あなたは………」
裕奈の口調も変わる中、
その場にへたり込んだ愛衣は口の中でぶつぶつと呟いていた。
==============================
今回はここまでです
>>456-1000
続きは折を見て。
460 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/07(水) 17:50:28.53 ID:q9fpzJGT0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>459
「メイ?」
心配そうに言うかずみを前に、愛衣はごくりと喉を動かし、立ち上がった。
「メイちゃん」
懸念をにじませて声を掛けた裕奈に、呼吸を整えた愛衣は小さく頷く。
「かずみさん」
「はい」
「これから少し、付き合っていただけますか?」
「えっ?」
「麻帆良学園までご同行願います」
「メイちゃん?」
大真面目な眼差し、硬い口調で言う愛衣に、
裕奈も真面目に問いかける。
「おいおいどうなって………」
杏子が言いかけ、鋭く視線を走らせた。
その視界に入ったマミも同様だった。
「アデアット!!」
愛衣がざざっと後退し、裕奈が斜め上に向けて魔法拳銃を連射した。
こちらに飛来中に銃撃を受け、
複数のミサイルが白煙に包まれて空中爆発した。
「!?」
次の瞬間、強烈な衝撃を受けて愛衣の体が吹っ飛ぶ。
461 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/07(水) 17:54:31.52 ID:q9fpzJGT0
「野郎っ!!」
愛衣と敵との間に杏子が割って入り、
杏子が振るった横殴りの槍が跳び越された。
「!?」
地面に投げ出された愛衣がとっさに地面を転がり、
愛衣がいた地面に一撃が叩き付けられる。
愛衣の目が、乗馬服風の衣装で鞭を振るう眼鏡の魔法少女をとらえる。
(さっきの体当たり、魔法防壁が無ければ感電で卒倒してた。
武器は帯電、それに魔法で強化した鞭)
「このっ!」
杏子の剛槍が、でっかいぬいぐるみを思わせる熊を切り裂いていた。
その間にも、熊の群れが工事現場に殺到し、
大量のマスケットを空中に呼んだマミと
魔法拳銃の裕奈が弾幕でその進行を阻止する。
「デフレクシオッ!!」
愛衣の側でしなる鞭が、風の楯に弾き飛ばされる。
(無詠唱光の矢!)
愛衣が背後の空間から発した光の矢を鞭使い浅海サキが交わし、
サキは帯電と共に愛衣に急接近する。
「貴様はボクを怒らせた」
「伸縮自在、ですか」
サキの鞭が猛獣調教から乗馬用に変化し、
サキが呟きと共に放った一撃を愛衣は箒で受け止める。
462 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/07(水) 17:58:23.14 ID:q9fpzJGT0
「サキッ」
「かずみ、逃げろっ!」
「え、えっ?」
「いいから、ここから離れて、戻ってるんだっ!」
「浅海サキさん」
愛衣の声に、サキは愛衣の目を見た。
「彼女、かずみさんは、自分の事を知りたがっています」
「黙れ………行くんだ、かずみ」
得物が弾け、双方距離をとる。
「気が付きませんか?」
「何?」
「あなたの言動こそが、私を核心に近づけている」
「黙れえっ!!!」
サキの放った猛獣鞭が、愛衣の風楯に弾き飛ばされる。
「お返しです」
愛衣から近距離で無詠唱の一撃を食らい、
サキが体を折った。
(まだ、魔法少女相手にはサギタ・マギカ一発二発は威力が………)
畳みかけようとした愛衣が、ゾクリとした悪寒と共に振り返り、箒を振るった。
「黙れよ、お前」
たっぷりの髪をふわっと膨らませ、ピンク色のふわふわメルヘン系な衣装。
それにしては武器が凶悪にゴツ過ぎる。
愛衣の使うオソウジダイスキは魔法具の箒だが、
ふわふわピンクが振り下ろす
魔力を帯びたクレイモアの振り下ろしを捧げ持った箒で受け太刀するのは、
かなり手の痺れる事だった。
若葉みらいがそのクレイモアを振り上げ、愛衣が後ろに跳んだ。
463 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/07(水) 18:01:53.95 ID:q9fpzJGT0
「サキを惑わせやがって、潰してやるよ………!?」
「怨み事の前に手ぇ動かすんだなっ」
みらいの腰に背後から鞭が巻き付き、がくんと後ろに引っ張られる。
鞭は杏子の槍が化けたものだった。
「くそっ!」
振り返ったみらいが幅跳びで杏子に斬りかかり、
杏子は鞭を解いてそれを交わした。
「かずみ、今は逃げろっ!!」
「!?」
サキが呼んだ落雷が愛衣を足止めし、
サキの叫びにかずみが踵を返した。
「明石さん追ってっ!」
「オーライッ!!」
愛衣の叫びに、ようやく熊が片付いた裕奈が応じる。
裕奈の側では、手刀をマミに向けた神那ニコと
マスケットをニコに向けた巴マミが互いの手の内を晒した形で睨み合っていた。
「!?」
工事現場の中に、再びミサイルと熊のぬいぐるみが殺到する。
==============================
今回はここまでです
>>460-1000
続きは折を見て。
464 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 01:36:53.46 ID:Vo/udzBi0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>463
ーーーーーーーー
「待って、かずみちゃん、っ!?」
工事現場の資材や骨組みから塀を飛び越え、
屋根から屋根へと跳躍するかずみを裕奈が追跡する。
追跡しながら、裕奈は空き地に飛び込んでいた。
(資材やクレーン車とか、さっきの工事のかな?)
着地と共に一瞬周囲を見回した裕奈が、ダッと横っ飛びする。
(光の矢? いや、もう少し大きい)
斜めに降って来た光球が猛スピードで地面を抉り、
裕奈が発砲した魔法拳銃の銃弾が次に飛来した光球を消滅させる。
そして、走り去るかずみと裕奈の間に、
近くの資材の山から二人の少女が着地した。
どちらもフードつきの白い装束、半ばフードに隠れているが、
一方はロングヘアで一方はショートボブ。
「………(確か、ロングが御崎海香、ショートが牧カオル)
どう見ても魔法少女、だよね」
「そっちも、魔法を使うみたいだな」
牧カオルが裕奈の言葉を返す。
「お互い素人じゃないって事で。
麻帆良学園学園警備魔法使い明石裕奈。
御崎海香さん、学園での事件に関して聞きたい事がある。
少し、付き合ってくれる?」
「断る、と言ったら?」
御崎海香が聞き返す。
465 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 01:40:27.05 ID:Vo/udzBi0
「そもそも、私はかずみちゃんを追っていた」
「させないっ!」
(ボレーシュートッ!?)
海香が開いた本から光球が弾け出し、
とっさに身を交わした裕奈の側を通って光球が空中を突き抜ける。
「(行け行けにジグザグっ!)デフレクシオッ!」
駆け寄って来るカオルの複雑な動きとスピードに魔法拳銃での銃撃を諦め、
裕奈は防御魔法と共に弾き飛ばされていた。
(鋼鉄の腕のクロスガード突進、
防壁が一瞬遅れてたら血反吐吐いてるねこれ)
跳躍しながら、裕奈は小さな魔法練習杖を握ったまま、
痺れの走る左腕を振る。
その時には、カオルは海香からの光球を跳ね上げていた。
「くっ!」
裕奈がカオルに向けて発砲し、
カオルが蹴り出した光球が銃撃を受けて消滅する。
その時には、裕奈はずしゃあっと足を滑らせて
カオルのクロスガード突進を交わし、
裕奈の発砲をカオルが身を反らして交わす。
「デフレクシオッ!」
たたっと双方距離を開き、裕奈が練習杖を突き出して風楯を張るが、
とっさの未熟な楯を威力ピーク距離からの光球が一撃し
衝撃を察した裕奈がそれを受けながら背後に跳ぶ。
裕奈が、背後に跳躍して鉄材の山に乗る。
すると、カオルは更に跳躍して、裕奈が乗った山の背後にある
更に高い鉄材の山に飛び乗っていた。
「くっ!」
上からの光球シュートを交わし、山を飛び降りながら、
裕奈は上の山のカオルを銃撃する。
カオルも又、それを交わしながら山を飛び降りていた。
466 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 01:44:03.70 ID:Vo/udzBi0
(上からオーバーヘッドキックッ)
海香が高々と放った光球が空中のカオルに追い付き、
カオルは空中でくるりと回転しながら下の裕奈へとシュートを放った。
とっさに張る事が出来た一杯いっぱいの魔法防壁が、
光球が帯びた強烈な衝撃波に押され、
裕奈の背は辛うじて魔法防壁に守られながら
バウンドする勢いで地面に叩き付けられていた。
カオルが着地する。裕奈は痛む体を引きずって即座に跳躍し、
クロスガードタックルを交わした。
そして、クレーン車のコクピットの上に飛び乗る。
その頃、カオルは海香からの光球をトラップしている所だった。
「ちょこまかと、結構いい動きじゃん」
資材や重機の上を飛び回る裕奈を、
リフティングしながら目で追ったカオルは不敵な笑みを浮かべていた。
(背中が痛いけど、雨は降ってない。
祈るから上手く当たってっ!!!)
「カオルっ!」
「!?」
裕奈の発砲した魔法銃弾は、
身を交わす迄もなくカオルの周辺を突き抜けた。
「チッ!」
幸い、ダンプからは若干の距離があったものの、
裕奈の動きの緩みを見て瞬時にシュート体勢に入っていたカオルの耳に、
すぐ側のトラックの荷台や資材の山からの荷崩れの轟音が突き刺さった。
カオルが、そのまま光球を裕奈に向けて力一杯シュートする。
467 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 01:48:02.84 ID:Vo/udzBi0
「!?」
裕奈が、魔法使いの出力で大ジャンプをした。
そして、カオルと、カオルの側に駆け寄った海香の側に勢いよく着地する。
二人がとっさに身を交わし、
裕奈は着地しながら両手持ちした光球を勢いよく振り下ろしていた。
「とっ!」
そして、裕奈は鋭い足払いを交わす。
御崎海香は、目の前で展開される団子状の混戦を呆然と見ていた。
手出しが出来なかった、と言うのが正しい。
物理的に手出しが出来ず、
裕奈とカオルは不敵な笑みと共に走りながらもつれ合っている。
「つっ!」
「もらっ………」
「チェックメイトっ!」
「こちらがね」
カオルの鋭いスパイクの足裏が、裕奈の脛を一撃した。
と、次の瞬間には、裕奈は転倒がてらカオルの胸倉を掴み、
二人もつれての回転が終わった時には、
裕奈の魔法拳銃の銃口がカオルの額に押し付けられる。
そして、その裕奈の背中には海香の向けた槍先が向いていた。
海香は、槍を向けながら、目の前の二人がくくくっと笑い出すのを見た。
「やってくれたね、牧カオル」
カオルの上に乗っかって拳銃を向けていた裕奈が、
ごろんと地面に転がり大の字になった。
「明石裕奈? あんた、バスケやってるの?」
あははっと笑ったカオルが質問した。
468 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 01:51:55.74 ID:Vo/udzBi0
「まーねー、うちの部は弱いけどね、つっ」
「大丈夫? 結構思い切り削った筈だけど」
「まあね、これぐらいなら私の初歩的治癒魔法でもなんとか」
立ち上がった裕奈が、とんとんと脚の具合を確かめ軽く顔を顰める。
「お互い、ホントんとこはボールは友達、でいたいもんだね」
「全く」
裕奈の言葉に、カオルが苦笑しながら立ち上がる。
「で、あんた達プレイアデス聖団?
実際ん所、麻帆良学園都市で一体何してた訳?」
「ちょっと観光に、って言ったら納得していただけるかしら?」
「正直、かなり難しいと思う」
海香の返答に裕奈が苦笑する。
裕奈が、そろそろと拳銃を差した腰に手を動かし、
海香が手にした本を槍に変化させる。
「カオル、かずみはあなた達を友達だと言った。
カオル達もそう思ってる? それでいい?」
裕奈の問いに、カオルが頷いた。
「あたし達の大事な友達だ」
「そう………!?」
裕奈が、とっさに腕をクロスして魔法防壁を張った。
殺到するカササギの群れが裕奈の側を通り過ぎた時には、
資材置き場には裕奈だけが取り残されていた。
469 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 02:01:32.41 ID:Vo/udzBi0
ーーーーーーーー
さっとシャワーの湯を浴び、少しばかりの英気を取り戻す。
脱衣所からバスローブ姿でリビングに戻り、
二枚のバスタオルの内一枚を解いて
豊かな黒髪を解き放ってからどうとベッドに倒れ込む。
(十分、ぐらい目を閉じようか)
麻帆良芸術大学附属中学校女子寮の一室で、
夏目萌はスマホを手元に心の中で呟いていた。
(出来る所までやっておかないと。
本当はデータの持ち返り自体違反なんだけど、
本部の、上の方がきな臭いって………)
政治的事情に加えてそのために公的設備の使用も制限される。
IT系要員でもあるナツメグこと夏目萌にとってはダブルパンチで頭が痛い。
「ん………」
ナツメグがスマホの着信に気付いたのは、
意識が飛ぶ寸前の事だった。
「メイ? ………
もしもの時は、送られて来たものに
ナツメグさんの生年月日末尾二桁を足し算して下さい。
それがパスコードです。
現時点では他言無用、このメールは即座に削除して下さい、
って………何やってるのよあの娘………」
470 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 02:07:18.25 ID:Vo/udzBi0
ーーーーーーーー
「もしもし、明石か?」
「佐倉愛衣です」
スマホの電話に出た長谷川千雨に、愛衣が電話越しに告げた。
「ご協力いただけるのでしたら、一つお願いしたい事があります………」
愛衣の生真面目な声を聞きながら、千雨はメモを用意した。
「………ああ、イミグレの………分かった、やってみる」
「有難うございます。それから、そちらに送ったメール、
出来ればすぐにでも読んで下さい」
「ああ、分かった」
千雨が電話を切り、メールを読む。
「まず、メモに書き写してこのメールは即座に削除して下さい。
定期連絡が途切れたら、
これをこのまま指定のアドレスに転送して下さい、か。
クラウドストレージのサービス名とID、パスだな。
どんな危ない橋渡ってやがる」
ーーーーーーーー
「有難うございます」
あすなろ市内、漫画喫茶の多目的ルームで、
愛衣が裕奈にスマホを返却した。
「PCとメイちゃんのスマホから何か色々送信してたよね?」
「はい」
「一体何を?」
「すいませんが、その答えは少しだけ待って下さい」
「お前、絶対何か隠してるよな?」
杏子が、愛衣に剣呑な視線を向ける。
471 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/09(金) 02:10:49.30 ID:Vo/udzBi0
「あんたは箒で追跡して、あたし達には屋敷を見張る様に指示を出した。
それから、ここを待ち合わせ場所に指定して来た。
あたしらから連絡内容を隠すために時間稼ぎをしたって事か」
「申し訳ありません」
愛衣が、ぱたんと体を折って頭を下げた。
「これだけは、確証無しに口に出せる事じゃないんです」
「かずみさんの事?」
マミの問いに対して、
愛衣の反応は沈黙は肯定と受け取るに十分なものだった。
「明石さん、確認します」
「うん」
「牧カオルは、かずみさんの事を友達だと言った、そうですね」
「うん」
「その言葉に嘘は無かったですか?」
「なかった、私はそう思う」
愛衣を真っ直ぐ見て返答する裕奈に、
愛衣は小さく頷いて、斜め下を見た。
==============================
今回はここまでです
>>464-1000
続きは折を見て。
472 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:18:33.14 ID:2egH53yq0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>471
ーーーーーーーー
「もしもし?」
あすなろ市内の漫画喫茶多目的ルームで、
そろそろ次の事を考えようかと言う矢先に明石裕奈がスマホを取った。
「明石か?」
「うん」
相手は、長谷川千雨だった。
「今、何処にいる?」
「ああ、………って漫画喫茶の個室」
「そこ動くな、大丈夫だと思うけど防戦の準備だけしとけ」
「マジ?」
「ああ、流石にそこでドンパチはないと思うがな。
少しだけ待ってくれ」
「分かった」
裕奈が電話を切り、口調が変わった裕奈を同じ部屋にいた
佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子も見ていた。
「千雨ちゃん、なんか、近くに敵がいるみたいだね」
へらっとした口調で言うが、伝わるものは伝わった。
「どうするんですか?」
「仮にプレイアデスだとすると、
ここでおっ始めるって事は無いんじゃないの?
次の連絡あるまでここで警戒しつつ待機、って事でいい?」
愛衣の問いに裕奈が答え、一同が頷いた。
473 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:21:50.26 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「もしもし」
千雨からの次の連絡を、裕奈他の一同はスマホのスピーカーで聞いていた。
「もしもし、千雨ちゃん? みんな聞いてるけどいい?」
「上等だ。佐倉のがどうも嫌な予感がし過ぎる言い方だったからな。
念のためこっちで色々確認して見た。
結論を言う、そこ、御崎海香のグループに張られてるぞ」
「プレイアデス聖団に?」
「プレイアデス?」
「御崎海香達の魔法少女のグループの事です」
裕奈の言葉を愛衣が補足した。
「携帯電話会社と防犯ビデオのデータで把握した。
現在進行形でそっちの店を包囲してる」
「相手も魔法少女、今までのパターンから言っても
街中戦う事はないと思うけど」
「ああ」
マミの言葉に千雨も同意する。
「だがな、そのプレイアデスのメンバーの神那ニコってのが
ちょっと厄介な代物を使ってる」
「厄介?」
「お前ら四人の魔力の波長をスマホに記録させて探査してやがる」
「魔力の波長、スマホに、って、本当ですか?」
愛衣が食い気味に尋ねた。
「ああ、想像以上のハイテク魔法軍団だ、
放っておいたら地の果て迄でも追いかけて来るぞ」
「面倒だな」
千雨の答えに、杏子も苦り切った。
「私に考えがある」
474 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:25:22.58 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「動きは?」
「ノン」
ドーナツショップのテーブル席で、
浅海サキはスマホ越しに神那ニコの返事を聞く。
「いいか、動きがあったらすぐに報せろよ」
「よござんす」
サキは、ふうっと息を吐いて通話を終えた。
「サキ………」
「押さえるぞ」
同席した若葉みらいに、サキが言う。
「多少危ない事をしても、あの魔法使いの身柄を全力で抑える。
言っておくが殺しちゃ駄目だ。
ネカフェって事を考えても、あの箒女の口は絶対に割らせるんだ。
後の三人も………絶対に、足止めする。
対策出来ないなら、絶対にこのあすなろ市から出さない」
「分かってるよ、サキ」
「………」
みらいとサキのやり取りを見ていた宇佐木里美が、
自分のスマホを見た。
「動き出したみたい」
里美が、何処ぞのビルの屋上から
ニコが送って来た通話アプリの言葉を示す。
475 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:28:22.30 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
御崎海香と牧カオルが、裕奈達から少し遅れて漫画喫茶の個室を出て
裕奈達とは一見逆方向に歩行する。
「駅方向」
「人通りの多い所を通ってこの街を脱出するつもり?」
それぞれスマホを見ながらカオルの言葉に海香が続き、迂回路へと急ぐ。
ーーーーーーーー
「………丁目方面」
「よし」
スマホの地図を見ながら進む里美に、同行するサキが呟く。
「この先のオフィス街だ」
サキが言った。目標の地点はこの時間は閑散とする、
何度か魔女狩りで出向いて土地勘もある。
「どうしてそのルートを?」
サキの差しているイヤホンに、海香からの声が聞こえる。
「駅からも反れて、無意味なオフィス街に向かっている意味は?」
「海香はどう見る?」
サキが、スマホに繋がるマイクに問いを吹き込む。
「釣り野伏せかしら?」
「あたしもそっちの線だね。
明石裕奈、グラウンドが無限大なら伏兵ぐらい仕込んでるかも」
海香の言葉にカオルが続く。
「今、先行して洗う様にニコに伝えた」
「じゃあ、私達はこのまま、タイミングを見て、狩る」
海香の言葉に、サキが告げた。
476 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:32:02.89 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「路地裏に入った?」
スマホの地図に表示される魔力探査情報と
直接追跡しているサキ隊からの連絡に海香が呟いた。
「ニコ、どうだ?」
「伏兵らしき姿は見えない」
ーーーーーーーー
「こちらも同じね」
サキ隊の中で、宇佐木里美が通話状態のスマホに告げた。
「鳥と猫の伝言からも、待機している者はいない」
「へぇーっ」
既に営業終了状態のオフィス街で、
クレイモアを肩がけにした若葉みらいが暗い声を出す。
「つまり、身を隠すつもりか、
それとも、四人でカウンターでもかけるつもりなのかなこれ?」
「好都合だ」
サキの手にした乗馬笞が鋭く空を切る。
「海香、絶好のチャンスだ。
大至急追い付いて挟撃をかけてくれっ」
「サキ、もう行く? この場所なら」
「ああ。だけど、海香達も到着するから手堅く行くぞ」
「でも、倒しても構わないよね?」
「箒の魔法使いの口だけは割らせる、それが優先なの忘れるな」
「分かってるよ………」
オフィス街の歩道から路地裏の突入しようとした
サキ隊の三人が、動きを止めた。
「爆発っ!?」
477 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:35:40.58 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「状況はっ!?」
「壊れた音は聞こえない、煙幕弾かな、これは?」
スマホでの海香の問いに、ニコの返答が聞こえて来る。
「?」
そして、カオルが自分のスマホを見た。
「かずみからのメール? こんな時に」
「私も」
ーーーーーーーー
「敵襲、って?」
「あいつら自体がデコイっ!?」
スマホに届いたメールを見たみらいの言葉に、
同じくメールを見ていたサキが叫んだ。
「敵の写真、ね」
「ぼやけててよく見えない、っ………」
その時、新たな着信に気付き、サキが電話に出る。
「かずみメール今すぐ破棄しろ、添付ファイルは絶対開けるなっ!!」
それはニコの怒声だった。
「添付ファイル………まさかっ!?」
478 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:38:40.61 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「やられたわ」
思えば単純なやり口に、海香は笑いを禁じ得なかった。
だが、プレイアデス聖団、神那ニコを相手にやってのけたと言うのは
とてもじゃないが単純では済まない。
「被害状況、分かる範囲で」
「取り敢えず、魔力探査アプリを集中的にやられた。
特に、最近十何時間以内の更新データは回復不能じゃないかな。
私達の間なら、一人が添付ファイルを開いただけでも瞬時に食い荒らしにかかる、
それぐらいヤバイ奴だよこれは」
「ええ、こちらも、今の所探査アプリを使えない事だけは確かね」
ニコからの説明に海香も応じた。
ーーーーーーーー
「くっそおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」
路地裏で、若葉みらいの振るったクレイモアが深々と地面に叩き付けられる。
「ニコ、どうなってるっ!?」
「ノン、分からない。そっちにいない?」
「いないから聞いているっ!
奴の、箒女の魔力波長を記憶させたソウルジェムにも反応は無い。
遠くに逃げたとしか思えないが、気づかなかったのかっ!?」
「サキ達、海香達のルートを考えて、抜け道を上から見張ってた筈だけど、
そこから逃げた奴はいない筈だ」
苛立ちも露わに尋ねるサキに、ニコも感情を秘めた声で応じた。
「里美っ!?」
みらいの問いに、里美は首を横に振る。
「探してもらってるけど、情報網に引っかからない」
479 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:55:35.17 ID:2egH53yq0
ーーーーーーーー
「助かったわ」
見滝原市内のマンション玄関で、巴マミと佐倉愛衣が言葉を交わした。
「あのさ、マミ」
「安全のためよ」
マミの隣で何か言いたげな杏子に、マミはキリッとした顔で言う。
そして、二人は一緒に玄関から建物に入って行った。
ーーーーーーーー
麻帆良学園女子中等部寮廊下。
「助かりました」
「助かった、有難う」
礼を言う愛衣と裕奈に、長瀬楓と村上夏美が笑顔で応じた。
そして、そのチートな隠密能力の魔法で
あすなろ市からの脱出を手伝ってくれた楓、夏美と別れ、
裕奈と愛衣は女子寮大浴場「涼風」に向かう。
「ああー、しんどかったぁー」
浴槽に浸りながら裏声を出す裕奈に、愛衣は苦笑する。
この時間は、言わば魔法使いタイムだった。
既に通常の使用時間は終了しており、
通常時間から完全終了までなんとなくラグを作っておいて、
魔法使いのルートで裏で申請したら使用出来る
魔法使い作業用のちょっとした便宜だった。
シャワーを浴び、汗を流してサウナに移動する。
少し遅れて、二人から見たら立派な金髪美女がサウナに入って来た。
二人の学校の先輩であり、
既に「仕事」らしき事を始めている二人にとっては上司でもある
高音・D・グッドマンが裕奈、愛衣の隣に座る。
480 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 03:59:20.96 ID:2egH53yq0
「何か、分かりましたか?」
愛衣からメールでの帰宅報告を受け、
待ち合わせを指定して来た高音が尋ねる。
「まず、御崎海香のグループは、プレイアデス聖団を通称とする
魔法少女のグループでした」
「魔法少女、ですか」
「………お姉様」
少しだけ目を閉じ、目を開いて呼びかける愛衣を、裕奈は見た。
「なんですか?」
「もう少しだけ、時間を下さい。
相手が魔法少女であっても、
今回は麻帆良学園、魔法使いに関わっている可能性は捨て切れません。
今、何とか接点が出来つつあります。
この段階で魔法少女と魔法使いの関係で公式に扱えば逃げられる恐れがあります。
ですから………」
「………明後日一番に詳しい報告をしなさい。
それまでは現場の判断での対応を許可します」
「分かりました」
「………メイ」
立ち上がった高音が、二人に背を向けたまま口を開いた。
481 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/10(土) 04:02:02.12 ID:2egH53yq0
「はい」
「あなたは、年齢的には優秀な魔法使いです、私はあなたを買っています」
「有難うございます」
「そして、魔法使いのなんたるかを、
少なくとも隣の見習いよりは弁えていると、
その様に理解しています。
魔法使いとして為すべき事、為さざるべき事、
その最低限弁えるべき事は弁えていると、
私はあなたの事を、そう理解しています。
自分の身を守り、驕る事なく、
魔法使いとしての為すべき事を為す事です。いいですね」
「はい」
高音が、ようやく振り返る。
「それを理解して、今夜は休みなさい」
「はい、お休みなさい」
「お休み、高音さん」
「あなたも余り無茶はしない様に………
メイの手助けをして下さい」
「うん、はい、了解しました」
高音が頷き、サウナを出て行く。
残された二人も、スリリングな一日の疲れがいよいよ
眠気になるのを自覚しながら腰を上げた。
==============================
今回はここまでです
>>472-1000
続きは折を見て。
482 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 02:28:14.66 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>481
ーーーーーーーー
高音は水風呂とシャワーだけを使ってさっさと大浴場「涼風」を後にし、
明石裕奈と佐倉愛衣はひと風呂浴びて修羅場の垢を落として脱衣所に移動する。
「メイちゃん………佐倉先輩」
愛衣は、髪の毛をバスタオルに挟みながら、
声を掛けて来た裕奈を見た。
「最悪、私の独断専行って事でいいですから」
「?」
「先輩、メイちゃんが、
何かかなり危ない事をやってるって事ぐらいは分かる。
メイちゃんが任務中に、高音さん相手にもそれをやるって事は、
それは本当に考えた末の事で、決して只の馬鹿や我が儘じゃないって事も。
でも、佐倉先輩は魔法協会で上に行く、行かないといけない人だから」
「高音お姉様に任されたあなたに独断専行で無茶をされては、
私はひどく間抜けな先輩と言う事になりますけど」
何でもない事の様に着替えを始める裕奈に愛衣が答える。
「だよね」
裕奈がふうっと息を吐き、
愛衣は丁度裕奈が下着を身に着けた辺りを手の甲でぽんと叩く。
「僅かな勇気は使いどころが肝心。
今の所はその立派な胸にしまっておいて下さい」
「言うね、メイちゃん」
「魔法使いですから」
へへっと笑った裕奈に、愛衣はとびきり可愛らしく微笑んだ。
483 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 02:32:35.02 ID:nTewOq/m0
「魔法使いですから………
彼女達は、希望を願った魔法少女ですから………」
「ん?」
さっぱりとシャツ、パンツ姿になった裕奈が、
気が付いて自分のスマホを手にした。
「メイちゃん、これ、千雨ちゃんがメイちゃんにって」
「私に?」
裕奈に言われ、愛衣がスマホを見た。
「神那ニコのスマホから気になるものを見つけた?」
「これって、何? イングリッシュ?」
「英字新聞みたいですね。
分かりました、私のスマホに送って下さい。
私の方から長谷川さんに連絡します」
「りょーかい」
「………明石さん」
「何?」
「明日、私の背中をお願いします。
それが、当面の明石さんのお仕事です」
「了解、先輩」
484 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 02:35:48.24 ID:nTewOq/m0
ーーーーーーーー
「一体、何がどうなってるのっ!?」
御崎海香邸のリビングに、かずみの叫びが響き渡る。
「魔法使いって何なの!?
どうしてこんな事になってるのっ!?」
「かずみ、かずみが心配するのは分かる。
でも、大丈夫だ。ちゃんと、対処出来るから」
「そういう事を言ってるんじゃないっ!」
なだめる浅海サキに、かずみが叩き付ける様に叫んだ。
「魔女、魔法少女、それに魔法使いまで関わって、
わたしの事でわたしに隠れて何をやってるのって言ってるのっ!!」
「分かってる、かずみが怒るのはもっともだ」
牧カオルが割って入った。
「そうね………」
腕組みをして立っていた御崎海香が片目を開いて口を開いた。
「見ての通り、魔法使いまで関わって来て状況が混沌としてる。
きちんと説明したいのはやまやまだけど、
事情が凄く込み入ってて………」
「海香っ!」
「ええ、だから、明日………
いえ、早ければ明日、二、三日、少しだけ時間を欲しい。
ちゃんと説明はする。
当座の問題は魔法使いよ」
「そうだ!」
海香の言葉に、狼狽していたサキが勢い込んで言った。
485 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 02:39:23.99 ID:nTewOq/m0
「あいつを何とかしないと、
明日にでもこっちから………」
「サキが行くならっ」
「落ち着けっ!!」
前のめりなサキと若葉みらいをカオルが一喝した。
「そんな事、出来る訳ないだろっ!!
佐倉愛衣、明石裕奈、あいつら単体であれだけ強いんだ。
魔法使いの本拠に殴り込みなんてしてみろ、
拷問不要で全部吐き出すのはこっちの方だっ!!」
「何か、魔法使いと揉めてるの?
あの人達、悪い人には見えなかった」
「ええ、そうよ」
かずみの言葉に、海香も応じた。
「魔法使い、魔法使いは魔法使いのルールを守っているだけ。
それは決して悪い事じゃない。
だけど、今回はちょっと私達と利害が合わない、それだけの事だから、
今は防御を固めて、傷が浅ければ時間をかけて調整できる事だから」
「うぅー、だから、その理由をちゃんと教えてって言ってるのっ!!」
「ええ、分かってる。分かってるから、
だけど、色々込み入った事情があって、
分かる様に説明するのには材料が必要なの。
だから、少しだけ私達に時間を頂戴」
「そうだ、かずみ。頼むから今はあたし達を信じて待っててくれ」
サキの絶対零度の視線を浴びつつ両肩を掴んで迫るカオルに、
かずみはみらいの絶対零度の視線を浴びながら僅かに唸って頷いた。
486 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 02:43:13.86 ID:nTewOq/m0
「アプリの再インストールはどう?」
「取り敢えず、全員のスマホを預かって点検してるけど、
あれだけのサイバー攻撃だ。
こっちの安全確認と相手のタイプからのセキュリティー設定をやらないと
危なくて使い物にならない。もう少し時間をくれ」
海香の問いに神那ニコが答えた。
「只のサイバー攻撃じゃないんだよな」
「辛うじて痕跡を見つけた、
微かに「魔法があった」と言う事だけが分かる微量の痕跡がね。
間違いない、敵は魔法を使う。
十中八九魔法使い、それも科学的見地から見て極めて高度なハイテク魔法。
こんなハイテク魔法使いがいるって、
時代は変わるモンだね。くわばらくわばら」
ニコの答えに、カオルは天を仰いだ。
==============================
今回はここまでです
>>482-1000
続きは折を見て。
487 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 22:51:17.29 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>486
× ×
「いやぁー、何度見ても、この件はいいですねぇ」
「ウェ、ヒ、ヒヒヒ………」
臆面もなく大泣きしているおっさんを隣に見て、
鹿目まどかは大汗と共に乾いた笑い声を漏らしていた。
だが、それも無理のない事である事も、まどかは理解していた。
魔法世界メガロメセンブリアの高級ホテルの高級会議室で、
美味しい和風ランチをいただいてから唐突に三部作の映画の鑑賞が始まり、
今、第二部が終わった所。
この魔法世界の歴史を描いたスペクタクル超大作映画は、
笑いあり涙あり手に汗握り感涙にむせぶ、
まどかが映画として観て素直に面白いものだった。
本当はとても三部作の、それもこの鑑賞時間では済まないものを
徹底厳選編集して、それでも結構な長さだったがここまで決して飽きさせない。
そして、まどかの隣で映画を鑑賞しているこの魔法世界の偉い人、
メガロメセンブリア元老院議員にしてオスティア総督であるクルト・ゲーデル。
物腰柔らかな紳士にして何処か油断ならない曲者。
これだけ偉いんだからそうなのだろうとまどかにも分かる人物であるが、
この涙に嘘はないのだろうと言う事も分かる。
取り敢えず、彼自身が映画の中の登場人物の一人として
描かれたあの体験をしているのだから。
「あ、あの、刹那さん」
第三部が始まる前の休憩時間、まどかは、
ここまで同行して来た桜咲刹那に声を掛けた。
488 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 22:54:19.02 ID:nTewOq/m0
「はい」
「あの、あの映画に出て来た
ナギ・スプリングフィールド、って、
もしかしてネギ先生の………」
「はい、お父君です」
刹那があっさり返答し、まどかは目をぱちくりさせた。
魔法少女に魔法使いと関わって来て
現在地が魔法世界であるまどかであるが、
その状況に頭が完全について来ている、とは言い難い。
只、名字と顔立ちが余りにもあからさまだったものを質問した結果がこうだ。
「えっ、と、これ、本当のこの世界の歴史、なんですか?」
「ええ、当時の事を忠実に再現しました」
鼻をかみ終えた議員先生の提督閣下がソフトに返答する。
だとすると、刹那達の担任教師だと言うネギ・スプリングフィールドは
とんでもない人物、掛け値なしの英雄の息子だと言う事になる。
「それじゃあ、ネギ先生のお母さん、って………」
「それは、今私達が答える事は出来ません」
刹那の穏やかな言葉に、まどかは自分の不躾を反省する。
そして、この映画と今迄の体験から、もう一つ、
何か引っかかるものが喉迄出かかっていた。
「では、そろそろ最終章の上映を」
ゲーデルが言い、まどかは椅子に座り直した。
「本邦初公開。何しろ、今年の夏の出来事なのですから」
489 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 22:56:05.42 ID:nTewOq/m0
ーーーーーーーー
「無事でしたか」
「お互いにな」
明石裕奈と共に見滝原市の通称マミルームを訪れた佐倉愛衣に、
部屋で待っていた佐倉杏子が応じた。
前日、あすなろ市の漫画喫茶からなんとか脱出して、
翌日、マミは普通に学校に、杏子はこの部屋で留守番をしていた。
一般的な魔法少女の性質上、後の面倒を考えても
登下校や学校に殴り込む事迄はしないだろう。
常識的な多人数の中にいた方がいいと言う判断の結果で、
マミは学校、実質的な所在不明女子の杏子は
マミが事前の合言葉で連絡する迄は絶対に部屋を開けない。
それは裕奈、愛衣も同様の判断で半日を過ごしていた。
「始めましょうか」
甘い香りに釣られ、裕奈がマミの出て来るキッチンを見た。
部屋の主、巴マミの用意したお茶とケーキは美味しかったが、
会議は大真面目に行われた。
「長谷川千雨さんが用意してくれたプレイアデスのデータ」
言いながら、マミが広げたのは地図だった。
「これを見てて、気になった事があるの」
490 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 22:58:39.48 ID:nTewOq/m0
ーーーーーーーー
日も暮れて、佐倉愛衣、明石裕奈、巴マミ、佐倉杏子の四人が
あすなろ市内工業団地跡地に集結していた。
「そこに目を付けたか」
電話の相手は、長谷川千雨だった。
「ええ。携帯電話の位置情報の地図データ、見せてもらった。
プレイアデス聖団が魔法少女のグループであれば、
魔女の出易い場所を移動するのは説明出来る」
スマホのマイクを手にしたマミが言った。
「だけど、ここだけはそのパターンを外れてる。
確かに、閑散としていて魔女が出て来ても不思議じゃない
だけど、パトロールにしても
何もない場所にみんなで来ている頻度が多すぎる。
それも、かずみさん抜きでね」
そして、千雨とイヤホンマイクを装着したのは、
魔法装束姿の明石裕奈だった。
「GPS作動してる?」
「OK、茶々丸衛星映像と一緒にリアルタイム把握した。
それを、プレイアデスの過去データを最高精度で照合して………
もう少し、もう少し右回り………そっから真っ直ぐ!」
明石裕奈が、閑散とした跡地に向けて魔法制限弾を発砲した。
491 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 23:00:41.52 ID:nTewOq/m0
ーーーーーーーー
「!!」
御崎海香邸の食後のダイニングで、
神那ニコが何やら言葉を吐き捨てた。
「どうしたっ!?」
「やられた………」
浅海サキの問いに、ニコが改めて答える。
「再インストールしたアプリ、汚染が………」
「そんなっ! あれは………」
「ああ」
声を上げたサキにニコが説明を続ける。
「再インストールしたのはラボにあったバックアップ。
それを、新品の機材を使って有線から有線にコピーして、
最終的に、新しく用意した全員のスマホにインストールした。
徹底的にチェックした筈だが、
バックアップそのものが、ラボにまでサイバー攻撃が及んでいたか、
厳重に調べて、どうしてもこれはと
前のスマホからコピーしたデータにウィルスが残っていたか」
「アプリは正常に動いている様に見えるけど」
ニコの言葉に若葉みらいが言う。
492 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 23:04:10.63 ID:nTewOq/m0
「それはダミーだ。
書き換えられたのは魔力探査アプリのあの四人の探査プログラム。
ある時点を最後に、そこから過去五時間以内の
行動の往復を表示するだけのループプログラムに切り替わって
魔力データそのものはデリートされてる」
「それじゃあ、奴らは………」
「!?」
サキが言いかけた時、ニコはスマホからの警告音にスマホの操作を再開する。
「結界が、破られた………」
ーーーーーーーー
通話を終えた長谷川千雨は、猛烈な速さでノーパソの操作を始めた。
そして、がたりと立ち上がり、詠唱を始める。
「広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え………」
ノーパソが短いステッキに変化して、千雨の手に戻った。
「我こそは、電子の王!」
493 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 23:07:26.57 ID:nTewOq/m0
ーーーーーーーー
「今回は又、一段と薄気味悪いな………」
長谷川千雨は、周囲を見回して呟いた。
そこは電脳世界がイメージ化された世界であり、
得体の知れない絵画の様に、今までにもまして得体が知れない。
そこを、アニメキャラクター
ルーランルージュを模した魔法装束姿で歩いている、
と、千雨は認識している訳だが、
本来の千雨の肉体は別の場所で意識を失っている筈だ。
つまり、魂だけ電脳世界に吸い込まれた、
これに近いイメージであり、それが千雨の能力でもあった。
「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」
そして、半回転しながらステッキ状の魔法具「力の王笏」を振るう。
「アハッ」
千雨に迫っていた大量のケーブルが弾き飛ばされ、
微かに声が聞こえた。
「今の、分かるんだ」
半透明のケーブルがちらっ、ちらっ、と
微かに姿を見せながら四散する光景する中、
千雨はその声に目を向ける。
「ああ、魔法だけでもエレキだけでも駄目だっただろうな。
重ねがけの反則技でギリギリ分かった」
千雨が返答する。
494 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/11(日) 23:10:12.45 ID:nTewOq/m0
「出やがったな」
「私の事を?」
「ああ、連続少女失踪事件。
公式にはバラバラの扱いだが、それでも捜査は進んでる。
失踪した少女の中には、メールで接触を受けていた者がいた。
だが、その発信元は不明だった。
海外串とかなんとかチャチな話じゃねぇ。
電話会社、接続業者の鯖から、都合の悪い情報を丸ごと消しちまう
電脳世界の化け物が一枚噛んでやがる」
「電脳世界の化け物、か。
君に言われたくはない所だが」
「ま、私も結構大概だけど、さぁ。
だから、今回の件であすなろ市中心に動き回ってりゃあ、
何れ出て来るだろうとは思ったけどね」
「成程、まんまと得意フィールドに呼び出されたって訳か」
「
あんたが相手じゃあ舐めプ、って訳にもいかねぇだろうがな。
なぁ、
ヒュアデス
」
==============================
今回はここまでです
>>487-1000
続きは折を見て。
495 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:13:29.75 ID:/WZ1nIy00
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>494
「チャオ♪」
「お前がヒュアデスか、聖カンナ」
簡単に言えば魂が電脳空間に飛び込んだ状態である千雨が、
その電脳空間内で、目の前に現れた少女の姿に呟く。
帽子を被った黒い魔法装束。
その顔立ちは、プレイアデス聖団のメンバーの一人に瓜二つ。
「ゴーストダイブ………いや、ケーブルつきのデコイか」
「ご名答。君の言う通り、
この状況では私の絶対のコネクトすら分が悪いらしい。
直接仕掛けようとしたら僅かにでもリスクがある。
だから、コミュニケーション用のダミーインターフェイスを仕立てた。
私の事は何処から知った?」
「御崎海香のグループを調べ始めてすぐだな。
顔認証の分析に使ってたAIが、一卵性双生児の可能性の確認を要求して来た。
機械的に分析にかけた結果、そのレベルで外見が酷似した二人の人間が
あすなろ市の近いエリア内で同時に動き回ってる。
しかも、接触した形跡がない。その時点できな臭いってレベルじゃない。
二人の内の一人は神那ニコ。
御崎海香のグループ、つまりプレイアデス聖団のメンバー。
もう一人があんた、聖カンナ。
二人共アメリカ帰りなのは共通していたが、
神那ニコは辛うじて実在が確認出来るってレベルで公式記録が薄い。
形式上一応存在している、って言うレベルだ。
対して、聖カンナは普通に家族、学校に繋がっていた。
ああ、コネクトだな。
神那ニコのコネクトは事実上プレイアデス聖団だけに近いが、
聖カンナは普通の中学生の社会、生活にコネクトしてる」
496 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:21:43.51 ID:/WZ1nIy00
「流石、と言っておこうか電子の王。
見事な電脳ストーカーだ」
「リソースは使い放題だし必要に迫られたからな。
あんたと神那ニコ、
引いてはプレイアデスの行動パターンその他を分析する限り、
単に近いってだけじゃない。
プレイアデスに対して何等かの暗躍をしている、
あんたこそがストーカーって考えるのが自然だろうな。
さっきちょっと触ったが、あんたのコネクト、
電子と魔法の重ねがけが最強な私だからこそ、
この電脳空間では対処出来たが、それでもあそこまで迫られた。
魔法少女としてまともに仕掛けたらどれだけのモンなんだろうな」
「まあ、万能の透明ケーブル接続だとは言っておくよ」
「ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
あすなろ市で失踪した少女の一部が、
「ヒュアデス」からのメールを携帯に残していた。
メール本文に加えて電話会社、接続業者側のログが綺麗に消されていたから
警察はそこから先を追えなかった。
だが、私はあんた自身をマークしていた。
同時にあすなろ市を中心にした魔法少女関係の情報を収集していた。
その結果、あんたとヒュアデスの一致度が高過ぎる、と言う結論に達した。
ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
ヒュアデスを名乗る魔法少女がプレイアデスの周辺に現れた。
これは、偶然じゃあないよな」
「そうだね。だから、何?」
カンナに問われ、千雨は取り出したスマホの画面をカンナに示す。
カンナが見せた笑顔に、千雨の足は退きそうになっていた。
497 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:23:29.40 ID:/WZ1nIy00
「カリフォルニアで発生した拳銃暴発事故。
これが全ての始まり、って事でいいんだよな?」
「Yes 曖昧なものの無い零と壱。
その世界の電子の王が確信しているのなら、
答えは二択の内の一つ」
笑顔で答えるカンナに、千雨は天を仰いだ。
「三人の子どもが、ちょっとした手違いで
放置されていた実弾入りの拳銃を手にした。
その結果が二人死亡一人重傷。
この、重傷を負って生き残った子どもが聖カンナだ」
「私の事か」
カンナの言葉に、千雨は僅かに口角を上げる。
「家で友達と遊んでいた幼児が、身近にあった拳銃に興味を抱いただけの事故。
親の方も、多分な不可抗力と遺族の厚意と元からの財力によって、
社会的に死なない程度の示談金で刑務所行きを免れた。
だが、この結果は子どもにとって余りにも重過ぎた。
その子は以後十年余り、神に許しを請い、笑顔を失って過ごして来た」
「今時のネット社会はそんな事迄?」
「確かに、かなりの所まで入手可能だったが、
種を明かせば私一人の調べじゃない」
「それにしても、よく調べたものだ。
聖カンナの物語を」
「お褒めに預かって光栄、と言っておこうか」
そう言って、千雨はちらりと横を見た。
「?」
千雨とカンナの視線の先から現れたのは、
麻帆良学園が誇る魔法ガイノイド、絡繰茶々丸が引く屋台だった。
498 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:25:55.70 ID:/WZ1nIy00
「釜揚げもらおうか」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと待て」
屋台のカウンターに立ち、
茶々丸と注文を交わす千雨にカンナが口を挟んだ。
「ん?」
「おかしいだろ、明らかに」
「科学的な非科学的上等だからな。五感全部支配されるVRなんて、
推理漫画発のアニメ映画やらWeb小説発のラノベ経由のアニメやら
今時珍しくもない。電脳世界の何丁目かは分かってるから、
ちょっと味覚データの出前してもらったって事さ。食わんのか?」
「………パスタの屋台? おかしいだろ、明らかに。
ちょっと調べたけど、麻帆良の名物屋台はチャイニーズじゃないのか?」
「多角展開って奴だ。何作っても及第いける技量だしな。
それに、最近の屋台はこれが流行りらしい」
「じゃあ、鉄板ナポリタンもらう」
「ありがとうございます………出来ました」
「おう」
「………」
深めの皿の中に手際よく卵を割り入れ、鬼の様に七味をぶっ込んで
混ぜ込まれた卵の絡む熱々のパスタを猛然と食らい始める千雨の隣で、
カンナが突っ込む言葉を探している内に
カンナの前のカウンターにいい匂いの皿が置かれた。
「成程」
フォークに巻いたパスタを口にしながら、
カンナの語彙はそれだけだった。
そして、その響きは、間違いなく好意的なものだった。
499 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:28:49.01 ID:/WZ1nIy00
「聖カンナの物語」
皿を拭ったパンを口にしながら、カンナが言った。
「君が調べたのは、聖カンナの物語なのか?」
「まあ、そういう事になるかな」
いっそ清々しくパスタを掴んでいた箸をおき、千雨が答える。
「つまり、私の物語か?」
「ああ、そういう事になるな」
「それにしても、よく調べたものだな」
千雨は、すっと隣のカンナを見る。
「あんたが生まれた物語だ」
カンナの顔から、笑みが消えた。
「聖カンナの物語は、私が生まれた物語。
今の言葉を繋げるとそういう事になるんだけど?」
「それで合ってる。そうだろ聖カンナ」
「どういう意味かな?」
静かに微笑んだカンナの手で、
皿の上のパンにすとっとフォークが突き立つ。
「だから、言っただろ。科学的な非科学上等だと」
「流石に、今のこの時代の科学だけなら、
電脳世界でこの美味はやり過ぎだろうね」
カンナの言葉に、茶々丸が一礼する。
「そうじゃないと繋がらないんだ」
そう言って、千雨は改めて英字記事が表示されたスマホを掲げる。
500 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:31:42.86 ID:/WZ1nIy00
「それは、精神攻撃か何かのつもりか?」
「只の物証だ」
口だけ微笑むカンナに、千雨は淡々と答える。
「笑顔を失い贖罪意識に囚われた少女。
事件の事を知る、知らないに関わらず、
聖カンナを知る者は皆、聖カンナに就いてそう評価している。
事件後からつい最近までな」
「つまり、過去の話だと?」
「そういう事になる。最近の聖カンナは変わったと。
この一年足らずの事だ。家族にも友達にも恵まれた快活な少女。
それが、今の聖カンナの評価。
心境の変化なんてちゃちなもんじゃない。
分厚い黒雲が突風で綺麗さっぱり吹き飛ばされた、
そんな変わり様だ」
「それは、おかしな事なのかな?」
「本来歓迎すべき事だと思うが、客観的に見ておかしい。
おかしいかどうか、まずそれを判断して見た。
結論を言えば、明らかにおかしい。
聖カンナがそうなった経緯から言ってな」
「聖カンナがどうしてそうなったのか、
勿体付けずに口に出して言ってみたらどうだい?」
「二人が死亡し聖カンナ自身が重傷を負った拳銃暴発事故、
物理的に引き金を引いたのは聖カンナだ」
「零と壱、君が断言するなら、そうなんだろう」
「ああ、既に調べはついてる。
自らの大怪我、それ以上に二人の友人を死亡させた、
その引き金を引いた聖カンナの事件後の言動。
今の聖カンナは、過去から現在までの流れと噛み合わない。
だからと言って、全くの別人にすり替わった訳でもない。
関係者が多いだけに、流石にそれは無理がある。
余りに非論理的であり得ない事が起きた。
だったらいっそ、こう考えたらすっきりする。
これは、非科学的な現象なんだとな」
501 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:35:18.63 ID:/WZ1nIy00
「魔法少女の契約、か」
「最初は、自分の事件の記憶だけを消したのかとも思った。
こっちの魔法にそんな都合のいいモンはちょっと見当たらない。
都合よく自分の記憶を操作するカードゲーム、
なんて都市伝説も無いではないが、
取り敢えず本人の素質があれば
無制限でピンポイントなオーダーが可能な魔法少女契約が一番適しているし、
結論としてあんたも、そして神那ニコも魔法少女だった。
遠いアメリカでの事件、法的な責任が問われた訳でもない、
日本で直接知っている者が限られているならうってつけだ」
「最初はそう思った。今はそう思わない」
「ああ、思わないね」
そう言って、千雨はスマホを見た。
「過去の惨劇、罪悪感、一人で苦しんで来た聖カンナが、
例えそのチャンスを得ても記憶を消して逃れようと考えるか?
もちろん、もう嫌になったと、苦しみを手放す事はあり得るだろう。
だが、聖カンナはそうしなかった。私はそう思う」
「何故?」
「こちらの事情でプレイアデスを調査した時にこいつを見つけた。
神那ニコ、聖カンナのそっくりさんのスマホからだ。
それも、常時と言っていい程この記事を見ている。
聖カンナは、過去の惨劇、大き過ぎる罪悪感を抱えて、
決してそれを手放そうとしなかった。
そして、非科学的上等、その中でも、
とびきりのご都合主義が可能な魔法少女の契約。
これで、理屈が繋がる」
「どういう風に?」
502 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:37:37.03 ID:/WZ1nIy00
「もう一人の自分、理想の自分、
あの事件が無かった自分。
その一方で、現実の自分の罪悪感は、
償いを忘れる事を自分に許さなかった、
だけど、空想するぐらいは神も許すだろう。
その足を、あくまで現実に留めながら、
なりたかった理想の自分を作り出した。
それが聖カンナの魔法少女契約の概要、
私は、そう考えた」
ぱん、ぱん、ぱん、と、手を叩く乾いた音が響くのを、
千雨はつーっと汗を浮かべながら聞いていた。
「じゃあ何? 私は、聖カンナは、
聖カンナの空想上の産物って事なのかな?」
「私の推測ではそういう事になるな。
過去から契約時点までの聖カンナは、
魔法少女契約で生み出したニュー聖カンナを現実社会に結び付けて、
元の聖カンナは神那ニコと名前を変えて闇に消えた。
恐らく、一つの願い、契約に基づく包括的な効果で、
神那ニコとしての最低限の公式記録もセットだったんだろう」
「随分と、想像力が逞しい」
「だが、現実問題として、
非科学的だが一定の法則がある現実を受け入れた以上、
実際に存在する材料から私が見る限り、
それが不可能を除いた残りの真実、って事になっちまう」
「素晴らしい。流石は電子の王、君は全てをお見通し。
この時代においては、君は丸で神様だ」
「いながらにしてその目で見、その手で触れぬ事の出来ぬあらゆる事を知る。
何一つしない神様。少し前までそうだった。今も似た様なものか。
もっとも、全部が全部私が安楽椅子で検索したって訳でもないけどね」
「だったら、次に私がどうするつもりかも分析済みかい?
誰かの都合で作り出されて、
己の罪も知らずに幸せごっこを満喫して来たおめでたい私が、
そうやって、丸で神様の様に私を作り出し、高見から見下ろして来た者に対して
どうするつもりでこの魂を契約に差し出したのかを?」
503 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:41:09.15 ID:/WZ1nIy00
「まあ、どう考えても不穏な事だろうな。
割り切れるぐらいならこんな話にはなっていないだろうし。
相手が神様なら、神がやらなきゃ」
「人がやる。そのために私はこの力を得た。
祈りの心は向こうに置いて来ても、
バイブルはその役割を教えてくれた。
そう、私が何処から来た何者なのか、それを知った時にね、
何処に行くべきか、そして、何をするべきか。
私が、何を齎すために生まれたのか、そこに赴くのか」
「ルカによる福音書、か」
「Correct」
「とっさにそれが出るって、
あんたのデータベースもちっと偏向してるな」
「お互い様だ」
テーブルの下での蹴り合い、と言う比喩が相応しい空気の中、
茶々丸は綺麗に平らげられた食器を黙々と片付ける。
「そういうあんたはどうするつもりだ? 電子の王?」
「さあな、元々、こっちの都合で必要があって当たってただけの事だ。
そんなクソ重いモンどうにか出来る柄じゃない。
只、デジタルな情報、
一部は足で稼いだモンを使わせてもらったのも含めてだが、
それだけでも分かる事もある。
旨いものを食って喜び、身近な人に愛され愛する人といる事を喜び、
そして、失う事、傷付く事を悲しむ。
少なくともあんたの心は本物の筈だ」
バン、と、両手でカウンターを叩いたカンナを、千雨は静かに見ていた。
「魔法少女の事は詳しく知らない。
だが、非科学的上等に馴染んだ私として、知ってる事はある。
一歩前に進むための、願いをかなえる魔法の契約は、
宿った心がその意思を決める、生きている魂と結ぶものだってな。
私が知ってるのは、その程度の事だ」
504 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:43:30.82 ID:/WZ1nIy00
「………美味しかったよ、ご馳走様」
横を向いたカンナに、茶々丸が一礼した。
カンナが、数秒間茶々丸をじっと見る。
「私にとって害はなさそうだし、
ここで不利な喧嘩をするメリットは無い」
「それは、利害が一致して助かる」
「チャオ♪」
ーーーーーーーー
あすなろ市内のビルの屋上で、望遠鏡を覗いた聖カンナはくっくっ笑い出した。
「おいおい、派手に喧嘩売ってるじゃないの魔法使い………」
そして、左手でスマホを見る。
(魔法使いは何処迄把握して何処迄介入するつもりだ?
長谷川千雨、電子の王………最悪を考えるなら、
PCにスマホ、ラボも全てハッキングされたとしたら………)
………チリン………
「………教えて………」
「ん?」
「貴方の名前」
「我々は何者なのか!?」
振り返ったカンナの手にしたバールと天乃鈴音が振るった剣が激突した。
「アテンション!」
「!?」
バールと剣が弾けた刹那、
左手からの叫びと共にカンナの意識が強烈に左手に引っ張られる。
同性から見ても美人な、スタイルのいい同年代の魔法少女の姿が
嫌でもカンナの目に入る。
次の瞬間には、カンナは新手の敵による銃撃をまともに受けて、
それと共にカンナの魔法少女の変身自体が解除され、
カンナは丸腰状態で鈴音の剣と死神規格の鎌を向けられていた。
505 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:45:26.88 ID:/WZ1nIy00
「なんなんだ、あんたら?」
「初めまして、私は奏遥香。
ホオズキ市で魔法少女グループのリーダーをしています」
「堂々とした縄張り荒らしだね」
スタイル美女の言葉にカンナが毒づく。
「それなんだけどさぁ」
口を挟んだのは、
カンナに鎌を向けているツインテールの魔法少女成見亜里紗だった。
「あんたがけしかけた双子もどきの変態牝郎がこっちで悪さしてくれてね。
スズネっちが追っ払ったからカナミは無事で済んだけど、
大元叩こうって事でこっち来た訳。
ま、それは口実で借りを返しにってのも大きいんだけどさ」
「何を………」
「なんか、あんた随分物騒な事計画してるんだって?
文字通りの世界平和ってなると、
結局こっちの縄張りにも引っかかるしね」
「世界の平和、ね」
刃を向けられながら、カンナはくっくっ笑い出す。
そんなカンナの前に、
フードを被った白いローブ姿の魔法少女が姿を現した。
「そんな訳で、あんたは全部喋ってもらってから地元に任せるから。
ま、周りに迷惑かけるのは程々にして、
精々当事者同士でドツキ合って解決するんだね」
「おーおー、あんたが言うと重みが違うわ」
亜里紗の茶々を聞き流しながら、
白い魔法少女日向華々莉がフードを脱いでカンナの頭を掴み、
カンナの目を見ながら告げた。
506 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/17(土) 03:47:46.25 ID:/WZ1nIy00
ーーーーーーーー
長谷川千雨は、椅子の背もたれを軋ませて一言呟いた。
「只の、時間稼ぎだよ」
ーーーーーーーー
「ヒュアデス、聖カンナは確保しました。
後はこちらの領分で処置します」
「分かった。有難う詩音さん」
住まいの女子寮の一室で、
ナツメグこと夏目萌は手にしたスマホで詩音千里からの電話を切る。
ゲートの暴走事件後、
独自に御崎海香グループの内偵を進めていたナツメグだったが、
明石裕奈等の情報を得た後、秘かに長谷川千雨にも連絡、
非公式に情報をすり合わせて調査を進めていた。
アメリカに関わる当事者が多いと言う事で、
佐倉愛衣の留学時の友人に依頼してそちら側からの情報も得ていた。
最終的に、行き掛り上知り合った奏遥香のチームに
駄目元で協力を依頼した事も含め、
いつの間にかキーステーションになって
綱渡りな事をしていた状況にどっと疲れを感じるが、
であるからこそ、取り敢えず今夜の状況が確定する迄一風呂浴びて休む、
と言う訳にはいかないらしい。
「後は、メイ達がどう決着つけるか………」
==============================
今回はここまでです
>>495-1000
続きは折を見て。
507 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/18(日) 03:30:56.19 ID:Hj5Wsof20
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>506
ーーーーーーーー
「海香、カオルっ!」
正に出撃、出陣の様相を呈した
御崎海香邸リビングで、かずみは叫んだ。
「私も連れて行ってっ!」
「待て、かずみ………」
割って入ろうとした浅海サキを御崎海香の腕が制する。
「分かった、付いて来て」
「海香!」
海香の返答にサキが叫ぶ。
「相手があの四人ならなまなかな事じゃ収まらない。
留守番が安全だと言う保障も無い。
向こうで説明する事になると思う」
「腹、くくれ、ってか」
海香の言葉に、牧カオルが空笑いした。
508 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/18(日) 03:33:23.25 ID:Hj5Wsof20
ーーーーーーーー
「これが隠れてたってか?」
「魔法で異界、異次元空間に隠匿していた、そんな所ですか」
あすなろ市内工業団地跡地で、
明石裕奈の魔法制限弾を受けた空間から唐突に表れた建物を見て
佐倉杏子と佐倉愛衣が言葉を交わす。
「確かに」
続いたのは巴マミだった。
「魔女の結界も異次元空間だから、こんな魔法があっても不思議じゃないわね」
「鍵、かかってるね」
唐突に現れた大きな洋館の入口を調べていた裕奈が、
玄関ドアを確認していった。
「お願いします」
「了解」
ドアを確認してそこから下がった愛衣の言葉を受けて、
裕奈がドアに魔法拳銃を向けた。
509 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/18(日) 03:35:55.66 ID:Hj5Wsof20
ーーーーーーーー
「凄い………」
裕奈の銃撃による魔法のロックが解除され、
建物の中に入ったマミが中の光景に呟いた。
「これ、全部テディ・ベア?」
「可愛い、けどちょっと怖いわ」
膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。
「明日葉、ですか」
「?」
「Anjelica Bears
この建物の名前として表の壁に書かれていました。
ベアーズは熊達、熊々、アンジェリカは人の名前かとも思いましたが、
元の意味は明日葉と言う日本の植物です。
生命力が強く栄養価も高い、医学的な薬効もありますから、
魔法使いによる研究対象にもなっています」
「なんとなく、アンジェリカってだけでもありそうな名前だけどな」
杏子の言葉に、愛衣は小さく頷いて言葉を続けた。
「前の戦いで熊の使い魔を使っていたのは若葉みらい。
漢字の意味が似ている若葉と明日葉を
当て字にした名前と見るのが自然かと」
「だとしたら、恐らく魔法少女としての願いそのものね」
愛衣の推測にマミが続く。
「建物の規模と隠匿、魔法少女の普通の魔法にしては規模が大き過ぎる。
このテディベア博物館を願いにして契約した、
そう考えるのが自然よ」
マミの推測を聞きながら、
愛衣は静かに片膝をついて床に手を当てていた。
510 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/18(日) 03:38:31.81 ID:Hj5Wsof20
ーーーーーーーー
「どうしたっ!?」
屋根から屋根へと移動するプレイアデス聖団御一行様。
最終目的地に到着間近と言う時、
偵察ポイントに予定していたビルの屋上で、
先行して棒立ちになった御崎海香に浅海サキが声を掛けた。
「炎の、文字?」
サキの隣で、若葉みらいが呟く。
確かに、アンジェリカ・ベアーズの屋根より少し高い空中に、
炎が浮遊しているのをサキも見て取った。
「アルファベット? アール、イー………
イー、エム………」
宇佐木里美が呟く側で、海香の顔から血の気が引き、
カオルもぐっと前を睨み付けている。
「何語?」
かずみが首を傾げる屋上で、バチッ、と、不穏な響きが伝わる。
「あ、あああああ………
魔法使いいいいいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!!!」
「サキっ!!!」
==============================
今回はここまでです
>>507-1000
続きは折を見て。
511 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:27:08.28 ID:VZJbN5Sj0
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>510
ーーーーーーーー
若葉みらいの魔法少女契約で作られたテディベア博物館
「アンジェリカ・ベアーズ」。
その中で、雷の勢いで飛び込んで来た浅海サキが、
佐倉愛衣の魔法箒「オソウジダイスキ」ですぱーんと足を払われ
テディベアが陳列されている壁際の棚へと雷の勢いで体ごと頭突きするのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。
「風花・風障壁」
その間に愛衣は呪文詠唱を終え、雷の勢いで突っ込んで来た浅海サキが、
ダンプカーのカチコミにも耐える魔法障壁に雷の勢いで体当たりし、
自分が崩壊させた棚の穴へと背中から戻っていくのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。
「明石さん」
「お、おう」
ガラリ、と、崩壊した棚から立ち上がり、
両手で猛獣鞭を振り上げたサキに明石裕奈の発砲した魔法制限弾が直撃した。
「なっ!? 変身がっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」
そして、魔法少女への変身が解除されている事に戸惑うサキに、
既に呪文詠唱を終えた愛衣からの捕縛魔法が飛ぶ。
512 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:30:18.09 ID:VZJbN5Sj0
ーーーーーーーー
「な、に、やってんだてめえぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!」
決して弱くはない筈だが、完全に感情に飲まれてる。
そんな浅海サキの有様を大汗浮かべて眺めていたマミと杏子は、
絶叫が聞こえた時には戦闘態勢をとっていた。
だから、殺到する熊の使い魔の群れは、
マミの周囲を包囲回転する大量のマスケット銃と
杏子の豪快な槍使いを前に次々と消滅していく。
「サキいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!
どけやああああああっっっっっっっっっっ!!!!!」
そして、その熊の大群の向こうから
小柄な体躯と正反対のクレイモアを振り上げて絶叫する
若葉みらいが突撃して来ると、
マミと杏子はさささっと彼女の言う通りにした。
「ああああ………あああああっっっっっ!?!?!?」
「あなたの熊さん達、いいカモフラージュになったわ」
邪魔者ことごとくを一刀両断し、愛するサキを救出する。
脳内リソースをそれ以外に欠片も利用するつもりのなかった若葉みらいは、
足元から噴出した大量のリボンに雁字搦めを通り越して
顔だけ出した繭包みにされてその道行きを強制中断し、
巴マミが胸の下辺りで腕を組んでその理由の一端を告げていた。
「デフレクシオ(風楯)ッ!!」
愛衣が魔法防壁を張り、裕奈も魔法拳銃を発砲して、
博物館に飛び込んで来た光球を回避する。
「サキっ!?」
「酸欠で意識を飛ばしました、一時的なものです。
但し、ソウルジェムはこちらで預かっています」
博物館に飛び込み、声を上げる牧カオルに愛衣はむしろ淡々と答えた。
513 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:33:36.63 ID:VZJbN5Sj0
「メイ、杏子、これはどういう事なのっ!?」
次に叫んだのは、かずみだった。
「改めまして、
関東魔法協会麻帆良学園学園警備魔法使い佐倉愛衣です。
浅海サキさんの身柄はこちらで預かります」
「なっ………」
かずみの後には残りのプレイアデスメンバーも揃っており、
平然と通告する愛衣に、カオルは絶句した。
「それは、随分横暴な話ね」
言ったのは、御崎海香だった。
「横暴かどうかは、彼女に確かめればすぐに分かります。
彼女が口に出さなくても確かめる方法は幾らでもあります。
我々は、魔法使いですから………
(サギタ・マギカ・ウナ・ルークスッ!)」
「きゃっ!」
愛衣がとっさに床に飛び込みながら無詠唱で光の矢を放ち、
その一撃を食らった宇佐木里美がのけぞる。
「里美っ!!」
カオルが叫んだ時には、
里美は横っ飛びした裕奈の魔法制限弾の連射を受け、
跳躍したマミと杏子に取り押さえられていた。
514 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:36:43.59 ID:VZJbN5Sj0
「危なかったぁ、メイちゃん撃ちそうになってた」
「タイプは違いそうですが、同士討ち系の魔法少女には
最近少々痛い目を見せられましたから。
巴さん、こちらは浅海サキ一人で十分です、
こちらが見えない様に拘束しておいて下さい」
「分かったわ」
「おいっ!」
愛衣とマミとのやり取りにカオルが声を荒げた。
「お前達、魔法少女だろ。
魔法使いにこんな事やらせておいていいのかっ!?」
「あなた達から確実な情報を引き出す、
と言う点では私達の利害は一致している」
「魔法少女同士でも随分ドンパチしてたからな。
興味があるのはこっちの身内がどう噛んでるか、それだけだ」
カオルの言葉に、マミが真面目に応じて杏子が鼻で笑う。
「えっと、メイ。サキも里美も、私の大事な友達で………」
「こちらも大切なお友達の安否がかかってる」
「我々としては、サキさんが知っている事を把握したいだけです。
手荒な事はしませんし、する必要もありません」
マミと愛衣が、怖々口を挟むかずみに告げる。
「明石さん、浅海さんを運んで下さい」
「了解、先輩」
愛衣の指示も、それに対する裕奈の返答も手堅いものだった。
515 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:43:44.11 ID:VZJbN5Sj0
「待てって言ってるだろっ!!」
「Shut up!!」
声を荒げて愛衣に迫ろうとしたカオルは、
愛衣の一喝を聞きながら箒の先を向けられていた。
「そもそも、気に食わないんです」
「は?」
ぐっ、と、一歩前に出た愛衣に、
箒を向けられたままのカオルがじりっと一歩下がった。
それを見て、愛衣はどん、と、箒の先で床を叩く。
「人道上、やむを得ないケースもあるのでしょう。
but いい加減な契約で強力な魔法をデタラメに使う。
私にとっては不愉快です」
「この………」
「今更何キレてんの?」
今度こそ愛衣に掴みかかろうとしたカオルの鼻先に槍の穂先が向けられ、
その出所を見たカオルの前で佐倉杏子が鼻で笑っていた。
「だから、私達魔法使いとも不干渉と言う事になったのでしょうね。
街の裏側で魔女を退治しているだけなら
こちらからどうこう言う筋合いでもありませんが、
それで済ませるには、目に余る」
「言ってくれるね、魔法使い」
応じたのは、神那ニコだった。
「しかし、よく無事にここまで入れたモンだね」
「ああ、ここのトラップの事?
なんか随分悪戯好きって感じで色々仕掛けてあったけど、
それはこっちも負けてないからね」
ニコの言葉に、魔法拳銃を振りながら裕奈が答える。
516 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/20(火) 02:47:15.93 ID:VZJbN5Sj0
「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」
ニコが指折りして仲間に迫る。
「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」
「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」
海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。
「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」
一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。
==============================
今回はここまでです
>>511-1000
続きは折を見て。
517 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/22(木) 03:28:22.60 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>516
「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」
見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。
「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」
佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。
「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」
難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。
「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」
リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。
518 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/22(木) 03:31:27.67 ID:0SoCioM80
「若葉みらいさん」
愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。
「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」
指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。
ーーーーーーーー
海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。
「な、んだよ?」
ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。
「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」
水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。
「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」
オブジェを調べていた愛衣が呟いた。
519 :
mita刹
◆JEc8QismHg
[saga]:2018/02/22(木) 03:33:15.07 ID:0SoCioM80
「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」
その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。
「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」
振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。
「覚悟して聞いて欲しい」
そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。
「魔法少女は、魔女になる」
「何?」
目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。
「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」
マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。
「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」
海香の言葉に、マミが応じる。
「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」
マミに代わり、杏子が返答した。
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