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【ミリマス】「走れ麗花」
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66 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:11:47.65 ID:Bywxa4b00
===
「困ったことになりましたね」
開口一番これである。
彼女も困るがこちらも困る。
何が困るかと言えばこの霧に困る。
「天気予報、晴れじゃなかった?」
「急に曇り始めたとは思ったけど」
「まさか霧が出るとはねー、にゃはは♪」
あれだけ晴れていたのが嘘のように、お昼時が近づいて来るにつれて街は深い霧に包まれた。
まるでホラー映画さながらの急激な天候変化に見舞われて、カメラマン、早坂そらは困り顔だ。
「青空ショッピングのピンナップ……そういう予定だったのに」
「肝心の天気がこれじゃあねー、まさに一寸先の霧!」
「それを言うなら『一寸先は闇』よ、恵美ちゃん」
「んもう! わーかってるってー」
その隣では所恵美と百瀬莉緒の二人が同じように空を見上げて立っている。
もちろん、二人とも遊んでいるワケではない。
どちらも仕事でこの場所にいる……そういうことに、一応はなっていたのだが。
67 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:13:13.53 ID:Bywxa4b00
「はぁ〜……困った」
全ては憎き霧のせい。これでは撮影になりはしない。
恨みがましく呟くうちに、パラパラと小雨も混じり始める。
辺りの通行人が一斉に足を速め、軒下に避難する者も現れる中で、
恵美は霧の中からこちらへと近づいて来る一つの人影があることに気がついた。
「目標発見! ハグしちゃいます!」
例えるならそれは、ホップステップハイジャンプ。
不意をつかれてハグされた莉緒が、バランスを崩して恵美の方へと倒れ込む。
「ひゃっ!?」
「わわっ!」
「えっ? えっ!? なにが……あう!」
まるでドミノのように美しく、綺麗に倒れる四人の娘。
一番最後に倒されたそらが、尻もちをついた状態で子供のように声を上げた。
68 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:15:48.62 ID:Bywxa4b00
「もーっ! 一体何なんですか!」
それでもカメラが壊れぬよう、
手にした両手を咄嗟に掲げているのは流石はプロと言ったところ。
彼女の足の間に挟まった、恵美が笑いながら言う。
「何ってほら、お客さん」
「てへへ……勢い、余っちゃいました」
それはもちろん北上麗花。
彼女と恵美の間に挟まれた莉緒が、
身じろぎしながら起き上がろうと試みる。
「とりあえず立って、立ち上がるわよ二人とも!」
「やん! ちょっとそこは……莉緒激し〜♪」
「変な声出さない!」
「よいしょ、よいしょ……あれぇ?」
「麗花ちゃんは先に、回した腕を外しましょ!」
「ああ、お尻がどんどん濡れて行く……」
「そらちゃんゴメン! もう少し、あと少しだけ待っててね!」
三人寄ればかしましい。四人もいれば騒がしい。
雨降り霧立つ歩道においてイチャイチャ……いやドタバタしている彼女たちの姿に、
通行人の何人かは笑いを堪えながら通り過ぎてゆく。
69 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:17:13.89 ID:Bywxa4b00
「疲れた……」
そうして起き上がった四人はものの見事に濡れネズミ。
水も滴るとは言うが、これだけ水気を放つと悲惨の一言。
とはいえ、悪いことばかりかと問えばそうでもない。
「おい見ろよ……あそこの四人」
「濡れシャツがぴっちり張り付いて……」
「くぉ〜! 眼福、眼福っ!」
雨宿りをしていた男共の視線が集まっていることを感じると、莉緒が真面目な顔で呟いた。
「あら? 案外受けがいいわね……こうなったら、もう少しぐらい濡れちゃっても」
するとそらが慌てた様子で「何言ってるんですか莉緒さん!」と彼女を止め、
麗花までもが「そ、そうですよ! 恥ずかしいです!」と頬を赤らめる。
どうやら我らが麗花にも、羞恥心の持ち合わせはあるらしい。
70 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:18:31.87 ID:Bywxa4b00
「麗花がまともなこと言ってる!?」
「どういう意味かな? 恵美ちゃん」
「言い合う前に移動しましょう。このままじゃ増々雨に濡れて……くしゅんっ!」
そらが、可愛らしいくしゃみを一つ。
莉緒が自分のハンドバッグから、
紫外線対策の為にも持ち歩いている折り畳み傘を取り出した。
「四人が入るには小さすぎるけど、何もしないよりはまだマシよね」
そうして傘を広げる莉緒を、麗花が手を合わせながら褒めたたえる。
「準備がいいね、お母さんみたい♪」
「やめて! 女子力よ女子力!」
「お母さーん♪」
「恵美ちゃんも乗らない! お姉さんったら傷つくわ!」
「私も傘を持ってますから、一人はこっちで預かりますよ」
こうして咲いた、相合傘の数二つ。
一行は霧から雨に変わった街中を、莉緒に先導される形で進んで行く。
「それで莉緒。アタシたちをどこに連れてくつもり?」
尋ねた恵美に振り返ると、彼女は意味深な表情でこう言った。
「勿論こういう時にピッタリの、飛び切りホットで素敵な場所よ♪」
71 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:20:19.53 ID:Bywxa4b00
===
鋭い勘をお持ちの方ならばこの擬音「かぽーん♪」
一つで彼女たちが向かった先を瞬時に理解したことだろう。
そう、霧のお次は湯気である。
莉緒たちはその冷えた体を温めるために、銭湯へとやって来たのだった。
「ふぇー……溶けれぅ」
際限なくその顔を緩め、思い思いの至福を噛みしめる四人娘。
そのあられもない姿については各自脳内で妄想し、
正しく補完して頂きたいと思うのだが……とにかく凄い、凄いお山と谷である。
まさに絶景壮観この世の春か、
浴槽の縁に頬杖をついた恵美が、惚けたように口を開く。
「まっさかねー……お風呂に連れて来られるなんて」
72 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:21:27.84 ID:Bywxa4b00
すると彼女同様頬を上気させた莉緒が
「ふふん。だから言ったじゃないの」と得意そうに鼻を鳴らす。
「毎日ってワケじゃないけれど、仕事帰りに寄ってるの」
「今日はまだ、お仕事始まってすらないですけど」
「もうそらちゃん。そういうの、空気読めてないぞ」
「私も汗を掻いてましたから。お風呂に入れてラッキーです♪」
両手で作った水鉄砲でお湯を辺りに飛ばしながら、麗花が嬉しそうに微笑んだ。
そんな彼女に向かって「そういえば」と、恵美が身を乗り出しながら訊く。
「麗花は一体何してたの? 今日って確か、オフだったよね」
「うん、そうだよ?」
答える麗花が恵美の顔に、飛ばしたお湯を命中させた……
皆さんは、人の不意を突く形で湯を飛ばしたりなどしないように。
さもないと今の恵美同様、相手がむせることになる。
73 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:22:35.48 ID:Bywxa4b00
「だから今日は、みんなの所に会いに行こうって」
「麗花ちゃん。まさかとは思うけど全員のところに顔を出す気?」
「はい! まだまだ先は長いですけど、頑張って今日中に回ります!」
「……麗花ならなんとかやれそーだって、思っちゃう自分がいるのが怖い」
そうして湯を堪能する麗花たちの姿を眺めていたそらが突然、悔しそうに拳を握って言い放った。
「くぅ……アイドルたちのオフショット。どーしてカメラが持ち込めないの!?」
「そらちゃんってば、またそんな……」
「にゃはは、亜利沙みたいなこと言って」
「だってだってこの光景、ぜひともピンナップにすべきです!」
「前言撤回、亜利沙とはまた違ーう」
「変わってますよね、そらさんも」
「……麗花ちゃんがそれ、言っちゃうのね」
真面目な性格が災いし、時として妙な方向へと人が走り出してしまうのもこの世の常。
仮に発売されたとすれば即日完売待ったなしであっただろう珠玉のアイドルピンナップは、
残念ながら一人のカメラマンの前にしか公開されぬ幻となった。
74 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:24:03.87 ID:Bywxa4b00
「それじゃあそろそろ、のぼせちゃう前に出ましょうか」
入浴を始めてから数十分。莉緒の号令に娘たちがぞろぞろと湯船を後にし脱衣所へ。
他のメンバーが簡単な身支度を整える中、
真っ先に着替えを終えた麗花が言う。
「みんなとお風呂、楽しかったです♪」
だがしかし、そのまま部屋を出て行こうとした彼女のことを、莉緒が慌てて引き留めた。
「ちょっとちょっと麗花ちゃん。そのまま外に出るつもり?」
「そのつもりですけど……いけませんか?」
「ダメってことは無いけども、一応お風呂上りなんだから」
そうして莉緒が手に持った、一本の化粧水を彼女に渡す。
「急いでるのは分かるけど、メイクぐらいちゃんとして行けば?
……と、いうか。貴女すっぴんでそれだけ綺麗なのね……」
「そんなことありません! 莉緒さんの方が綺麗ですよ」
「あら本当?」
「はい。特にこの、おでこの辺りがチャーミングです! 剥き卵みたいで♪」
「お、お肌ツルツルってことかしら……ありがとう!」
「莉緒がいいならいいけどさ、それビミョーに誉められて無くなくない?」
75 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:24:51.99 ID:Bywxa4b00
とはいえ恵美の言葉など、喜ぶ莉緒の耳には入っていないようで、
彼女は「それね、私のオススメなの。麗花ちゃんに上げるから、良ければ使ってみてちょうだい!」と上機嫌。
こうして思わぬお土産を受け取った麗花は、三人と笑顔で別れて建物の外へ。
「あっ♪」
あれだけの雨が嘘のように晴れ渡った空の下。
麗花は出来たばかりの水溜まりを無邪気な笑顔で踏み散らすと、再び元気よく走り出すのだった。
76 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:26:37.89 ID:Bywxa4b00
===
虫の知らせというものがある。
彼女の身に起きたことを考えると、夢枕に立つと言った方がより的確か。
気づけば少女星井美希は、誰もいない教室で一人座っていた。
辺りを見回してもクラスメイトは見当たらない。
どころか自分の分の机以外は、誰の机もありはしない。
普段は狭く感じる教室が、机一つしかないという状況により、
これほど広く感じるものか……そんなことをついつい考えてしまう。
「ミキ、お仕事してたハズだけどなぁ……」
だがしかし、現に自分は制服を着て、ぽつねんと教室に居るのである。
とはいえこのまま座っていても仕方ない。
彼女が人を探しに行こうとお尻を上げかけたその時だ。
77 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:27:54.35 ID:Bywxa4b00
キンコンカンと鐘が鳴り、教室の扉が無造作に開いた。
誰かやって来たのかと、反射的に美希が腰を下ろす。
ところが扉の傍に人影は無く、誰か入って来る気配もない。
不思議に思って首を捻る美希だったが、遥か目線の下の方。
床の上でもぞもぞと動く物体を見つけ、思わず驚嘆の声を上げた。
「カ、カモ先生っ!?」
それは正真正銘見紛うことなく鴨だった。カモ目カモ科のカモである。
鴨はひょこひょことした足取りで教壇の上までやって来ると、
そのまま教師が使う机の上に、ピョンと跳躍して飛び乗った。
78 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:29:14.89 ID:Bywxa4b00
「おはようございます星井君。早速ですが、号令を」
喋った。何処からどう見ても鴨なのに。
その声も柔和で落ち着いたものであり、例えるならそう、CV.大川透である。
「き、起立!」
「はい」
「礼っ!」
「はい」
「着席! ……なの」
「はい。どうもありがとう」
言われるままに号令をかけ、椅子に座った美希が再び席を立ちあがる。
「な、なんで先生!? ミキはお仕事で、学校で! カモ先生は鴨かもカモで……!」
「まぁまぁ少し落ち着いて。順番に説明しますから」
「でもでもだってこんなのって……夢でもなくちゃありえないの!」
79 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:32:07.54 ID:Bywxa4b00
瞬間、教室に備え付けられたスピーカーから「ぴんぽーん♪」と気の抜ける音が鳴り響いた。
そうして教壇の上の鴨……知る人ぞ知る美希の先生。
彼女が人生の師と仰ぐ鴨はその片翼を広げ、ふんぞり返るとこう言った。
「その通り! ここは星井君の夢の中、そして私は夢の鴨!」
「やっぱり夢! 夢なんだね!」
「しかしですね、本当のことも少しあります。休憩中の星井君を、この夢の世界に連れて来たその理由」
「り、理由?」
「ズバリ、世界に危機が迫ってる! このままでは君のいる世界が、とんでもないことになりますよ!」
そうしてカモ先生は語り出した。
地球に、世界に、現在進行形で迫りつつある恐ろしい非常事態について
詳しく、優しく、過不足なく図に書き、要点をまとめたプリントも渡し、読み聞かせ、
ありとあらゆる専門的な見地から得られた情報と個人的な主観による考察を交えつつ面白おかしく時にはほろりと涙する
そんな超弩級の一大エンターテイメント作品の如きストーリーをたった一人の少女に何時間にも渡って説明し、
最後には過去の似たような事例から構築された全部で765通りの対応策を、
これでもかというほどに話して聞かせ終えたのである。
80 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:34:06.15 ID:Bywxa4b00
「……と、いうわけです。分かりましたか?」
まさに自身が一生のうちに費やすことができる情熱の半分以上を今燃やし、
疲労困憊といった様子で教壇の上にへこたれるカモ先生。
しかし悲しいかな、彼の唯一であり絶対の教え子は、申し訳なさそうにチロリと可愛く舌を出すと。
「ごめんね先生、分かんない」
「星井君ッ!?」
「あはっ☆ でもでも心配しなくていーよ? 宇宙の歴史とかなんだとか、その辺のことは全然だけど……」
美希は自分の席から立ち上がり、鴨が寝そべる机の前までやって来た。
「とにかく、麗花に教えてあげればいーんだよね? その、えっと……何とかってヤツの止め方を」
「その自信満々の顔を前にして、不安が拭えないのは何故でしょうねぇ」
鴨が心配そうな顔で美希のことを見上げ、
教鞭の代わりに持って来ていた一本の長ネギを構えなおす。
81 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:35:46.98 ID:Bywxa4b00
「とはいえ責任重大です。いいですか? 現時点では君にしか、我々もコンタクトを取れませんし――」
「もう、くどいよ。お説教はいいから早く夢覚まして? ミキ、今すぐメール送らなきゃ」
「ああ、ああ! 全くこれだから人間は! 時間の捉え方という物がなってない!」
面倒くさそうな美希の態度に、鴨が嘆かわしいと言わんばかりに首を振った。
それから彼は持っていたネギで美希の頭を軽くこずくと。
「さぁさぁ席に戻りなさい! 今度は時間と次元、それから時空についてもう一度、みっちりきっちり教えてあげます!」
「い、急いでるんじゃないの先生!?」
「心配ご無用ですよ星井君! 何せここは夢の世界。現実とは時間の流れが違いますので」
「そ、そんなぁ〜!!」
こうして始まった補習授業。
美希が夢の中で悲鳴をあげている丁度その頃、
現実世界の彼女のもとには件の北上麗花が現れていた。
82 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:37:11.94 ID:Bywxa4b00
「おっとぉ? その特徴的なシルエットはもしかして麗花ちゃ〜ん!」
ドラマの撮影現場にやって来た麗花のことを、彼女と顔見知りの監督が迎え入れる。
「監督さんこんにちは。今日もお髭が素敵ですよ♪」
「はっはぁ! 早速褒めてもらって光栄だよぉ。それで今日はどうしたの? いつものプロデューサー君は来てないの?」
「はい。今日は一人で……美希ちゃんに差し入れを持って来たんです」
そうして麗花は監督に、自身の背負うリュックを見せる。
だがしかし、監督は残念そうに肩をすくめると。
「おっと、そりゃあ来てくれたのに悪いねぇ〜。美希ちゃんは、ちょうど今お昼寝休憩中」
「えぇっ!?」
驚く麗花の視線を誘導するように監督が、現場の隅を指さした。
そこにはパイプ椅子に腰かけて、長机に突っ伏すようにして眠る美希。
83 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:38:22.18 ID:Bywxa4b00
「あらら……あれだけ気持ちよさそうだと、起こすのも可哀想ですね」
「本当なら今だって、絶賛撮影中だったはずなんだけど……共演者が渋滞に巻き込まれたとかで遅れてねぇ」
「はぁ」
「こうやって人を待ってると、いつぞやの銀行ロケを思い出すよ」
「銀行ですか?」
「ああ! いやいやこれは、こっちの話」
そうして「気にしないで気にしないで」と両手を振って、監督が続きを喋り出す。
「まぁそれで、始められずに暇してるの。……麗花ちゃん知らない? 今朝からやってる交通規制」
84 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:39:27.81 ID:Bywxa4b00
すると麗花は、少しの間考えるように視線を泳がせ。
「う〜ん……ごめんなさい」
「まっ、しょーがないか! 霧も出るし雨も降るし、かと思えばすぐに晴れ出すし」
監督がそう言って、大げさな動作で空を仰ぎ見た。
「なーんか今日は妙だよね。まぁでもこれは、麗花ちゃんに言っても仕方が無い事なんだけどさ」
その時、大きな影が地上を覆った。
続いてバラバラとプロペラの回る音が聞こえ、
麗花たちのすぐ上を、数台のヘリコプターが通り過ぎて行く。
だがそれは一般的な報道用のヘリコプターとは異なる、
もっと物々しいシルエットをした鉄塊だった。
「……珍しいね、あんなヘリがここらを飛んでるなんて」
監督がそう呟いて、視線を元の場所に戻す。
するとそこには、コンビニのビニール袋をリュックから取り出す麗花の姿。
85 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:40:52.85 ID:Bywxa4b00
「これ、美希ちゃんの好きなおにぎりです。代わりに渡してもらってもいいですか?」
「オッケー、オッケーダイジョブジョブ。しっかりキッチリ渡しておくよ」
折角会いに来はしたが、寝ているのなら仕方がない。
麗花は監督におにぎりの詰まった袋を渡すと、そっと撮影現場を後にした。
そうして彼女が走る道の向こうには、先ほど通り過ぎたヘリの編隊が。
これから僅か十数分後に人類は、未曾有の大混乱に見舞われることとなるのだが……
現時点でその結末を知っていたのは、未だ夢見る美希一人だけだったのだ。
86 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/04(火) 19:45:10.54 ID:Bywxa4b00
とりあえずここまで。「カモ目カモ科のカモである」という一文はニコ百カモ先生の記事より引用。
こういう素敵フレーズ、思いつきたい。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 20:39:37.47 ID:fHAqn1dno
乙
>>1
のSSは素敵フレーズ満載だと思うよ
88 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/04(火) 21:06:11.55 ID:mElUxAzz0
未曾有の大混乱、いったい何が起きるんだ.....
一旦乙です
>>66
早坂そら(?) Ex
http://i.imgur.com/8CYHEIQ.jpg
所恵美(16) Vi
http://i.imgur.com/TaxnIwo.jpg
http://i.imgur.com/ZCvE0Mf.jpg
百瀬莉緒(23) Da
http://i.imgur.com/w74d62y.jpg
http://i.imgur.com/h7hbwj7.jpg
>>76
星井美希(15) Vi
http://i.imgur.com/dEsfqIb.jpg
http://i.imgur.com/gnVT0z4.jpg
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/05(水) 17:56:52.26 ID:NLx4s9FFO
内容ももちろん面白いけど、各アイドルの口調を勉強するのにもってこいのSS
90 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:31:09.20 ID:jBD9dDSp0
===
男にとって、これは初めての出撃だった。
上官に言われるままに集められ、
装備を纏って他の兵士たちと共にヘリの中へと詰めこまれる。
手には、武骨で冷たい銃が一丁。
それは男にとって唯一無二の相棒であり、同時に彼を人殺しか……
あるいはそれに類する何かに変えるだけの力を持つ武器だった。
「おいお前。辛気臭い顔は今すぐ止めろ」
彼の隣に座っていた、にやけ顔の男が声をかけて来る。
「もっとワクワクとか、ドキドキした顔しろよ。楽しもうぜぇ? 折角の出撃なんだからよぉ〜」
するとにやけ男の真向かいに座るベテラン兵士が不機嫌そうな顔をして
「不必要に煽るなよ。奴さん、初めての出撃で緊張してんだ」と睨む。
91 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:31:52.73 ID:jBD9dDSp0
「おお怖っ……でもよ、戦場でしけた面はダメさ。陰気臭い奴のところにゃ、同じく陰気臭い死神がすぐ寄って来る」
「だからてめぇはそのにやけ面を引っ込めねぇって言うワケか?」
「ご明察。オレは人一倍の怖がりでね。強面の爺さんとお化けの類は苦手なんだよぉ〜」
そうしてお化けの真似をするように、
おどけた調子で両手をブラブラとさせるにやけ男をベテラン兵士は鼻で笑ってあしらった。
その後は、二人とも黙ってしまって喋らない。
同乗している他の兵士たちも、それぞれが思い思いの方法で移動時間を過ごす……
ある者は装備の点検を、ある者は聖書の黙読を、静かに腕を組んで目を瞑り、寝ているように見える者も居た。
92 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:33:15.26 ID:jBD9dDSp0
「……もうそろそろで、目的地です」
それからおよそ十分後。彼等を率いる部隊長の一言で、兵士たちに流れる空気が変わる。
あのにやけ男ですら真面目な顔で、今は隊長が話す作戦前、最後のブリーフィングを聞いていた。
「我々が部隊を展開するのは、未だ市民が残る真昼の市街地。
先だって閉鎖してある交差点の真上にヘリを寄せ、そこからはロープを使って降下します」
「待って下さいよ隊長殿。これからドンパチやり合おうってのに、市民が残ってるたぁどういうことです?」
ベテラン兵士が手を上げて、隊長に質問を投げかける。
するとヘリの最奥に座っていた面長の男が「的でも盾でも好きにしろってこったろう」と茶々を入れ
「なるほど、そいつは名案だな」とにやけ男が後に続いた。
しかし、部隊長はそんな二人のやり取りを軽く流すと。
「市民の避難が遅れている……いえ、行われていないその理由は、
今回のミッションが極めて特殊な物だからです」
「特殊だって?」隊長の言葉を聞いたにやけ男が、さも可笑しいと言わんばかりの笑顔を見せる。
93 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:34:24.92 ID:jBD9dDSp0
「オレたちに回されて来た仕事に、特殊じゃないもんなんてあったかな……あいてっ!」
「黙ってろこのにやけ面。隊長の話は終わってないぞ」
ベテラン兵士がにやけ男の頭をはたき、ヘリ内に押し殺したような笑いが広がった。
そんな部下たちの態度に隊長は「こほん」と一つ咳払いをすると。
「とにかく、今回の相手は特別中の特別です。兵力も、目的も、そして実際に現場に現れるかどうかも未確定。
唯一ハッキリとしているのは、コンタクトが予測されている時間及びその出現範囲のみ」
「それはつまり、我々の出撃が空振りに終わる可能性もあるってことでしょう?」
「ええ」
「なんだ……まるで幽霊退治にでも行くような話だぜ」
「当たらずとも遠からず。その例えは、意外と間違っていないと思いますよ」
面長男の呆れたような物言いを、隊長がくすりと笑って肯定する。
「なにしろ作戦室の報告によると、私たちの相手は人間では無いそうです。
……とうとうこの時がやって来た。インベーダー、襲来だぞ」
94 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:35:30.20 ID:jBD9dDSp0
滅多に笑うことの無い隊長が、兵士たちの緊張を解こうとでもするかのように彼らへ見せたひょうきんな姿。
彼女がそんなジョークを飛ばす時というのは決まっている……
つまりそれは、今回の任務が相当な危険を孕んでいることを意味していた。
男たちの間に緊張とはまた違った、身を引き締める思いが走る。……覚悟だ。
ところが、ヘリ内で行われる会話を初めの男だけは
――今回の出撃が初めての実戦になる彼のことだ――どこか他人事のように聞いていた。
まるで現実味の無い兵士たちの話。
作戦前の説明を受けても、意識はまるで夢の中にいるようにぼんやりとしている。
……いや、実際にこの光景は夢なのかも知れない。なぜなら彼には――。
「どうしました?」
不意に呼びかけられる。
顔を上げると、部隊長と目が合った。
男は何でもないと言うようにその首を小さく横へ振り、視線を再び床へ落とす。
抱きしめた武器の重みと冷たさだけが、彼の感じるリアルだった。
95 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:36:18.97 ID:jBD9dDSp0
===
かの北上麗花の自由奔放な歩みを止められる物があるとするならば、
それはプロデューサーによる「麗花、ストップ」か、彼女が知り合いと出会った時だろう。
例えばそう、こんな風に。
「瑞希ちゃーん! 何してるのー?」
まさか、こんなところで声をかけられることがあるなんて。
その聞き覚えのある声を聞き、見覚えのある人物の屈託のない笑顔を目の当たりにした時、
真壁瑞希は自分に課せられた任務も忘れ、ついつい彼女の傍までやって来ていた。
「それはこちらの台詞です。北上さんこそ、どうしてここに?」
「えっとね? 向こうの道路を走ってる時、丁度瑞希ちゃんの姿が見えたから」
96 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:37:15.80 ID:jBD9dDSp0
そうして麗花が指さす「向こうの道路」とやらは今、大勢の人と車でごった返して大渋滞。
よくもまぁあれだけの人混みと車を縫って、
自分を見つけられたものだと瑞希は一人感心する。
「ヘリコプターからスルスル〜って降りて来るの、すっごくカッコ良かったよ♪」
「そうですか? ……照れるけど、嬉しいな」
とはいえそういう瑞希の表情は、
注意深く観察しないと本当に照れているのか分からない程に平静だ。
「……ところでこれって何の撮影? 映画の撮影だったりするのかな」
辺りをぐるっと見回して、麗花が瑞希にそう尋ねた。
一般人の侵入を拒む為に設置された、バリケード越しの二人の会話。
瑞希の後ろでは武装した屈強な男たちが忙しそうに動き回り、
上空では卵のようなフォルムのヘリコプターが、先ほどから周囲を警戒するように飛んでいて……。
確かに事情を知らぬ者が見れば、大規模な映画の撮影準備にも見えるだろう。
97 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:38:46.75 ID:jBD9dDSp0
だがしかし、瑞希は不思議そうに首を傾げると。
「これは映画の撮影ではありません。国家機密の任務です」
そしてそのまま背負っていた対空用のランチャーを構え、ミサイルを空へと放ったのだ。
次の瞬間、煙の尾を引きながら飛んで行ったミサイルが空中で派手に爆発し、辺りの注意を一気に集める。
ざわめく野次馬たちが注目する中、
瑞希たちがいる交差点目がけて空から何かが落ちて来た。
「北上さん」
瑞希が落ちて来た『何か』からは視線を逸らさずに、隣にいるハズの麗花の名を呼ぶ。
「逃げてください。なるべく遠くへ……ここはすぐにも戦場になる」
だが、麗花からの返事は無い。
不審に思った瑞希が彼女の方へ振り向くと、そこには既に麗花はおらず……。
「隊長! ゲストの到着です!」
部下に呼ばれ、瑞希は思考を切り替える。
突然彼女が消えたのは不思議だが、自身のライバルとも言える存在が
この程度のことでどうにかなったりはしないだろう。
……ならばまず、自分は自分のやるべき事をこなさねば。
98 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:40:03.07 ID:jBD9dDSp0
見上げた空には先ほど撃ち落とした物と同じ形の浮遊物が多数。
瑞希は部下たちのもとへ駆けていくと、
愛用の軽機関銃を防衛陣地で構えながら指示を出していく。
そうして彼女たちのすぐ目の前。
道路へと突き刺さるように落下した『何か』から、煙と共に外へと這い出て来たモノがいた。
それはとても一言では言い表せないほど奇妙で不気味な生命体。
三角形の体から空へ向かって伸びる触覚のような謎の器官に、カタツムリを彷彿とさせる飛び出た両目。
おまけに子供が描く棒人間のような手足を器用に動かし、瑞希たちの方へと向かってくる。
「……なんてこった。こいつぁパニックムービーさながらですよ」
自分の隣で銃を構えるベテラン兵士の発言にさもありなんと思いながら……
瑞希は機関銃の照準を、謎の生き物に合わせて呟いた。
「だからこそ、ここで死力を尽くしましょう。
……どこからだってかかってこいべいびー。ダンスパーティーの始まりだぜ」
99 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/07(金) 18:43:45.94 ID:jBD9dDSp0
とりあえずここまで。残り40人8ステージ。
100 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/07(金) 19:09:22.66 ID:rrz3Qkgr0
最初別スレへの投下ミスかと思ったぞ
一旦乙です
>>95
真壁瑞希(17) Da
http://i.imgur.com/cnPsc1b.jpg
http://i.imgur.com/HUp8fv1.jpg
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/08(土) 11:04:30.40 ID:MqO0CmgAo
でんでんむす君が2足歩行だとは
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/10(月) 23:09:14.80 ID:9RvswhxqO
乙乙
思わず読み直したぞw
103 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 04:56:18.03 ID:WiwQ6d+j0
===「経過観察報告書」
残念ながら、事態は悪化の一途を辿っていると申し上げる他にありません。
既に一部の地域において〇※▽×の仕業によると思われる書き換えが行われ、その効果も確認されています。
今回の騒動においてメインとされる発生源、
協力者の特定には未だ至っておりませんが、
部下からの報告を受けるとろこによりますと、それとはまた別の非常に興味深い
〇※▽×作用例があがって来ているのも事実です。
先にそちらへ送ったサンプルは、既にご確認して頂けておりますでしょうか?
彼等はこれを現地生命体の呼び名に倣い「茜ちゃん人形」と呼んでおりますが……
その製造プロセスは全くもって我々の、理解の範疇を超えています!
そもそも我々のバイオテクノロジーにおいてもこのような――
(以下、遺伝子工学の蘊蓄及び生命倫理についての見解が延々と綴られており省略)
104 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 04:57:17.19 ID:WiwQ6d+j0
===「セカンドステージ:山」
山は良い、良いぞ。
特に緑の匂いを肺一杯に吸い込める、
雨上がりの山道なんかは最高だ。
マイナスイオンだとか何だとか、そう言った科学的な効能についてはひとまず置いておくとして……
とにかく山に登れば簡単に「新鮮さ」のような物をたらふく味わうことができる。
そして今まさに雨上がりの山道を行く天海春香は、
この自然の恵みを堪能しているところであった!
105 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 04:59:11.72 ID:WiwQ6d+j0
「うぁ〜……濡れた山道って歩きにくい」
堪能、しているところであった。
「ひゃっ!? ぬかるみの泥跳ねちゃった……もう最悪! 新品のシューズがドロドロだよぉ〜」
ま……まぁ、形は違えど堪能である。
右手でリュックの肩紐を持ち、左手には杖代わりのピッケルを。
こちらも履いている靴と同様に、この日の為に用意した新品だ。
そんな春香と共に歩くのは、何やらむすりとした少女。
「山を登っているんですから。靴くらい、汚れて当然なんじゃないですか」
「そうは言うけどおろしたてだよ? ……なるべく綺麗に履きたかったの」
不貞腐れたように答えた春香に不機嫌そうな顔の少女、
北沢志保は自身の着ていた泥だらけの服を指さして。
106 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:02:02.62 ID:WiwQ6d+j0
「私の服も、新品でしたが」
「あぅ! ……ご、ごめん」
はいそこの、天海春香を知っている君。
「ま〜たドジっ子春香ちゃんは転んだのか? しかも他人を巻き込んで」なんて思ったとしたら、残念ながら不正解だ。
正しくは春香はただ転びそうになっただけであり、
それを慌てて支えようとしたどんくさ志保が自らぬかるみへとダイブしただけである。
ちなみにその時の春香の「やっちまった」感溢れる表情と志保の悔し恨めし恥ずかしいといった羞恥に満ちたあの顔は、
A2サイズのポートレートにして飾っておくだけの価値があった。
「別に……謝らなくていいですよ」
志保は春香にそう言うが、傍から見れば彼女の態度は十分に、
謝罪の言葉を引き出すだけの雰囲気を周囲へ向けて放っている。
現に、春香は申し訳なさそうな顔になると。
107 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:02:57.54 ID:WiwQ6d+j0
「志保ちゃん……怒ってないの?」
「怒ってません」
「ホントのホント?」
「怒ってませんよ」
「……怪しい」
「だから、怒ってなんかいませんってば」
「嘘だぁ〜! ホントは怒ってるんでしょう? 怒ってる人はみんなそう言う」
「……どうして信じないんですか。怒って無いって言ってるのに」
「でもでもだって、志保ちゃんの顔……」
「顔がキツいのは生まれつきで……転んだのも自分のせいですし、怒る理由はありません」
「だったら志保ちゃん、一つだけ」
「なんですか?」
「さっきの転んだ時の写真、皆に見せても構わないかな♪」
目を閉じ、両腕を組み、顔を斜め四十五度に伏せて受け答えをしていた志保が
驚き顔になって声のした方向へと振り返る。
108 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:04:26.13 ID:WiwQ6d+j0
「すっごく可愛く撮れてたから。事務所に飾ってもらっちゃおっと!」
天使のような微笑みで、悪魔のような計画を口にする女性は何を隠そう北上麗花。
手にしたカメラのファインダーはいつでもシャッターを押せるよう、春香たちの方へと向いていた。
「あっ♪ 今の表情も凄くイイね!」
「ア・ナ・タ・は、一体何をしてるんです?」
苦々し気に問う志保だけでなく、我々だってそう訊きたい。
ところが麗花が答えるより先に、ドスの効いた志保の声に春香が瞳を潤ませて。
「ふぇっ……志保ちゃんが怒った」
これである。
両手をぶりっ子のように口に当て、
怯えたような視線を志保へと向ける。
「は、春香さんには言ってません!」と志保が慌てて弁解するその様子を
「パシャパシャパシャ♪」なんてシャッター音を真似ながら写真に収めていく麗花。
混沌ここに極まれり、同時多発的に発生したトラブルへの対処に追われる志保の姿を例えるならば、
多数の園児を相手取る先生……そんな表現がピタリと嵌る。
109 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:06:24.79 ID:WiwQ6d+j0
「ぐすん、ぐすん……!」
「あらら、春香ちゃん泣いちゃって可哀想……パシャ」
志保にとってはただひたすらに、マズい状況というものであった。
泣きじゃくる春香の隣に立つは不機嫌志保。
こんなところを写真なんかに残されたら、それこそ「生意気な後輩、先輩を泣かす!」だとかなんだとか、
後々まで語り継がれてしまうは必至。
動揺した志保が麗花を睨みつけ「写さないでくださいこんなトコ!」と怒鳴る。
が、迂闊!
志保が悟った時にはもう遅い。
既に麗花はカメラを納め、泣きそうな顔でこちらを見ているではないか!
「わ、私も……志保ちゃんに怒られた……!」
「いえ、怒ったんじゃなくお願いを――」
しかし、志保の言葉を春香が遮る。
「ふえぇ〜んっ! 志保ちゃんに、志保ちゃんに本気でおーこらーれたー!!」
「私も、ただ、写真を撮ってただけなのに……ぐすん」
「だから私は、怒っているつもりなんて!」
「ふえぇ〜ん! えぇ〜んっ!!」
「ひっく、えっく、めそめそめそ……」
「ああ、ああっ! もう、この二人は……!!」
110 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:08:50.41 ID:WiwQ6d+j0
さてさて、ここで一つお話を。
ご存知の方もいるとは思うが、子供の涙は伝染する。
皆さんは赤ちゃんが一人泣き出すと、周りにいる赤ん坊も一緒になって泣き始める……
そんな光景に出くわしたことはないだろうか? これがいわゆる「つられ泣き」だ。
春香が泣き、麗花も泣いた。
エンエンと山道に木霊す泣き声を聞かされる志保が唯一取れる行動は、彼女たちをあやすことだけか?
幼い弟が駄々をこねた時にのみ抜かれるという、北沢家に伝わる伝家の宝刀
「何でもいうこと聞いたげる」をここにきて、とうとう抜かざるを得ないのか……!?
否! 志保は強い女である。
根性と頑固さと反骨精神で理不尽な世と渡り合う、傷だらけの女戦士でもある!
さらには「弱さなんて見せない」と志保が持つプライドは、いつも彼女に冴えた冷静さを取り戻させてくれるのだ。
……だからこそ志保は、目の前の光景の不自然さを発見する。
そして皆さんにも思い出して頂きたい。
志保は春香に怒って無いし、麗花も特につられて泣き出したワケではない。
さらに言えば先ほどの「つられ泣き」の話は、全く一切本筋とは関係が無い。
要するに、今泣いているこの二人は……。
111 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:10:57.39 ID:WiwQ6d+j0
「……嘘泣き」
余りにも白々しく、大げさでわざとらしい二人の泣き方から考えれば、もはや疑う必要すら無いだろう。
その証拠に二人は先ほどから、チラチラと志保の様子を盗み見ていた……
まるで「構ってくれ」と言わんばかりに。
「楽しいですか、お二人とも」
冷静、かつ落ち着いた声で行われた質問。
それでも志保が下唇を噛んでいるのは、
ここで怒ったら負けだぞと、自分に言い聞かせている為である。
「私で遊ぶと楽しいですか? 一応言っておきますけど、これ以上くどいようだったら……」
「ううん全然、楽しくない!」
「だけど志保ちゃんも、少しノリが悪いかなーって」
志保が見せた本気の怒りの片鱗に、悪ガキ二人がすました顔で首を振る。
そのあっけらかんとした態度を見て、叫び出したい志保であったが……
これはあれだ、弟が自分をからかう時と同じなのだ。二人はただ、自分に構って欲しいだけ。
「……なら、もう少し別のやり方にして下さい。
こんな人の神経を逆なでするような方法じゃなく――」
「麗花さん。あそこに居る鳥はなんて言うんですか?」
「あれはね、幸せの青い鳥♪」
「聞けーっ!!」
無理だった。
志保の怒鳴り声は木々の間で響き渡り、それは見事な木霊を生んだと言う。
112 :
ついつい志保をいぢめたくなる
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/12(水) 05:16:26.30 ID:WiwQ6d+j0
とりあえずここまで。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 10:52:53.29 ID:X7ulOCTGO
新品の靴で山登りはどうかと思うぞ春香
あとどんくさ沢志保のぬかるとダイビング写真を早く下さい
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 18:34:57.74 ID:2vlswl650
弟沢になってなんでもいうことを聞いてもらいたい人生だった
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 20:32:28.11 ID:PKQS0LjN0
翼兄になって妹甘やかしたいわ
116 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/12(水) 21:18:59.45 ID:VajA7x8S0
戸惑った志保かわいいからね
しかたないね、乙です
>>105
天海春香(17) Vo
http://i.imgur.com/GqqGaDu.jpg
http://i.imgur.com/Bj27weU.jpg
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/zITrqx7.jpg
http://i.imgur.com/00gG7br.jpg
117 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:29:13.39 ID:lf3HgNKC0
===
コテージ。響きは似ているがステージでは無い。
周囲をうっそうとした森で囲まれたその宿泊用の一軒家は、
さながらお金持ちが持つ別荘のように立派な造りの洋館で……と、いうより本当に金持ちが所有する別荘なのだ。
持ち主は何を隠そうあの水瀬。
どの水瀬かって? それは後々語ることとして。
「ふぅ、到着っと!」
春香が額の汗をぬぐい、建物を見上げて深呼吸。
その隣では麗花が大きく伸びをしながら「山登り、楽しかったなぁ〜♪」とご満悦だ。
118 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:31:29.19 ID:lf3HgNKC0
さらに二人の後方から、息も絶え絶えに歩いて来るのは志保である。
その目は光を失って、足元はよたりよたりとおぼつかない。
彼女はやっとの思いでコテージの前まで辿り着くと、
玄関柱に体を持たれかけさせながら、背負っていた荷物をずり落とす。
「ば、化け物……」
志保にしてみれば疲れ知らずな麗花たちを表した一言だったが……
悲しい事実を伝えよう。志保、単に君の体力が無いだけだ。
「志保ちゃん、だいぶ疲れてるみたい」
そんな志保の隣にしゃがみ込み、麗花が心配そうに声をかける。
しかし志保は大丈夫だというように首を振り。
「まだやれます。……この後は、陶芸体験のお仕事だってありますから」
「陶芸?」
瞬間、志保はしまったと後悔した。
今や麗花の瞳はランランと輝き、興味津々といった顔で自分のことを見つめている。
119 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:33:00.45 ID:lf3HgNKC0
「ねぇねぇ志保ちゃん。それって私も――」
「邪魔しませんか?」
その一言はジャックナイフ。
志保の口から飛び出した切れ味鋭い一言は麗花の言葉を遮ると、
そのまま彼女の動きまで牽制する。
「邪魔しないって約束、できますか?」
「あぅ」
「で・き・ま・す・か?」
猛獣使いは自身の放つ気迫によって、獰猛なライオンを従えると言う。この時の志保がそれだ。
その並々ならぬ迫力に押され、あの麗花が僅かに後ろへと身じろぐ。
「そ、そうだ! 私、まだ会いに行かなきゃダメな人がいるんだった!」
わざとらしくパンと手を鳴らし、麗花が慌てて立ち上がった。
……どうやら厄介な乱入者は、未然に追い払うことが出来たらしい。
いそいそとコテージへ向かう麗花の姿を見送りながら、志保は静かに口の端を上げ……
そのままガクリと頭を垂れて、意識をまどろみへと託すのだった。
120 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:34:52.43 ID:lf3HgNKC0
===
「志保ちゃんは……どうしたんだい?」
玄関を開けたら志保がいた。
しかも満足そうな顔でスヤスヤと、寝息を立てているのである。
例え発見した木下ひなたでいなくとも、
誰もが「何があった?」と疑問に思うことだろう。
だが、その答えを麗花に求めるのはよろしくない。
それは道端に転がるたい焼きに、真理を尋ねるような物である。
要は、てんで見当外れということだ。
「ふふっ、可愛い寝顔……パシャ♪」
カメラを片手にウキウキと、志保の寝顔を撮影する彼女の姿を横目にしながらひなたは悟る。
これは触れない方が良い。どうせ聞いても分からないと。
121 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:36:09.48 ID:lf3HgNKC0
考えても理解できないことは、やはり考えない方がいい。
ひなたは「したっけ」と呟いて、思考を切り替えることにした。
「出発しようか麗花さん」
「うん、いいよ!」
今から二人が向かうのは、コテージから少し離れた場所にある渓流だ。
ひなたの腕にはバスケットが一つ。
中にはできたてのサンドイッチや飲み物が入った水筒が。
彼女の着ている赤いフード付きの洋服とも相まって、
その姿はあの有名な童話の主人公、赤ずきんを思い起こさせる。
「ところで、渓流までの道は分かる? 迷子になったりしないかな」
麗花がふと浮かべた素朴な疑問に、ひなたは「勿論だべさ」と応えると。
「このコテージの管理人さんが、案内してくれる約束なんだわ」
122 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:39:05.98 ID:lf3HgNKC0
そうして彼女が指さした先。
自分たちが登って来たのとははまた違う山道の入り口に、
大きな影が立っていることに麗花は気づく。
「見た目はちぃとおっかないけど、親切で優しい人なんだぁ」
だがしかし、ひなたの言うその人物はなんとも奇怪な見た目をしていた。
恐らくは、そう、常識的にはあり得ない。
「ひなたちゃん、準備はできたみたいだね」
ニタリ。笑うと白い歯がこぼれるのは、ある意味ナイスガイの条件だ。
とはいえそれも、人を基準としてのこと。
ゆっくりとこちらへ近づいて来るその生き物の姿はまるでそう……。
「どうも、コテージ管理人のオオカミです」
大神? いや狼である。決して人狼などでもない。
どこからどう見ても二足歩行で歩く獣。
一般的な成人男性よりも高い身長の、見紛うことなき狼が、麗花たちの前まで来て立ち止まった。
ひなたが目の前の巨大狼に、麗花のことを紹介する。
123 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:40:40.76 ID:lf3HgNKC0
「オオカミさん。こっちは同じ事務所の……」
「き、北上麗花です。初めまして」
「ええ、ええ、もちろん存じてます。なにせ、わたくしアナタのファンですから」
まさか自分に、狼のファンがいたなんて! 世界は広く、不思議だらけだ。
麗花はオオカミが差し出した毛むくじゃらの手を握ると「ありがとうございます」とお礼を言う。
(ついでに彼女はオオカミの手についていた、肉球の感触を確かめることも忘れなかった)
「では、わたくしの後について来てください」
見た目からは想像もつかない爽やかな声でオオカミは言うと、麗花たちの先に立って歩き出す。
どうやらひなたが言うように、本当に害は無いらしい。
……どころか彼は山道を進みながら「途中、はぐれないように気をつけて。
ココだけの話、この森には熊も出ますからね」なんて二人を気遣うほどだった。
124 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/16(日) 19:43:37.30 ID:lf3HgNKC0
とりあえずここまで。
全ての元凶は麗花さんの書いた日記なんだ……。
http://i.imgur.com/w0mr8cG.png
125 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/17(月) 01:03:47.35 ID:9R6v4DQ20
ホントだ....おおかみいる..ニホンオオカミかな?
陶芸するんだ、忘れてたよ.....
http://i.imgur.com/SOfcYG2.jpg
一旦乙です
>>120
木下ひなた(14) Vo
http://i.imgur.com/511O6tp.jpg
http://i.imgur.com/OHpuTej.jpg
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/17(月) 11:39:21.26 ID:XCqoczrWO
狼が二足歩行した記憶はないぞ(震え声)
案内人は熊かなと思った自分もすこし嫌になる
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/17(月) 12:54:47.58 ID:8mfqafxHO
狼じゃなくて犬かもしれないだろ(適当)
128 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:09:38.00 ID:t7R9m5Up0
===
オオカミの後について歩く森の散策は、それはそれは楽しいものであり、貴重な体験だったと言えるだろう。
彼は実に紳士的で、何より山に詳しかった。
山道に生えた花の名前やこずえにとまる鳥の生態などを、
三人が目的地に着くまでの間中、面白おかしく説明してくれるのである。
そうして一行が渓流に着く頃には、麗花と彼は互いに「ウルフ」「レイカ」と呼び合うほどに打ち解けて……
おっと、この話題はまた別の機会に語ることとしよう。
なにせ彼女たちを満面の笑顔で出迎えた、小さな釣り人がいるからだ。
129 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:10:40.60 ID:t7R9m5Up0
「オオカミさんにひなたちゃん!」
大きな岩が転がる河原。焚き火の為に用意されたと思われる薪の傍で、
アウトドア用の小さな椅子に座っていた中谷育が三人の姿に立ち上がる。
「それに、麗花さんまで!」
「こんにちは、育ちゃん。お魚さんは釣れてるかな?」
麗花が育の手に握られていた、釣り糸と針を見てそう訊いた。
すると彼女は誇らしそうに胸を張ると。
「もちろんだよ! ほら見て、こんなにたくさん釣れたんだ!」
そうして育が置いてあった、魚籠の中身を彼女らに見せた。
130 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:11:43.89 ID:t7R9m5Up0
「ホントだ! お魚さんが一杯♪」
「凄いねぇ……これ全部育ちゃんが釣ったんかい?」
「オオカミさんも手伝ってくれたけど……この一番大きいのはわたしだよ!」
素晴らしい釣果に口を開け「はぁ〜……!」と感心するひなた。
その横では麗花がオオカミに呼び出され、マッチをその手に渡されていた。
「レイカ、これで火をつけてはもらえませんか?」
「了解です♪ じゃあじゃあ背中をこっち向けて?」
「おっと、その手のジョークには乗りませんよ? わたくしの毛皮ではなくて、この積んである薪にです」
受け取ったマッチを擦りながら、麗花が不思議そうな顔になる。
「ウルフはマッチ、つけれないの?」
「……お恥ずかしい話になりますが、わたくし火の類が苦手でして」
「なるほど!」
131 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:12:48.06 ID:t7R9m5Up0
合点がいったと頷いて、麗花が薪に火をつけた。
それから彼女は両手で何かを握るようなジェスチャーをとると。
「ふぁーってする竹はある? 私、アレ得意なんだよ」
「ブロアーならありますよ」
「う〜……そうじゃなくて。もっとちゃんとした棒がいいなぁ」
オオカミが荷物の中から取り出した、小型の自動送風機に難色を示す。
麗花は風の子元気な子。折角のアウトドアなのだから、なるべく天然物を使いたい。
「一応、自作できないことはありませんがね」
「材料がいる?」
「はい。ですが森の木々や植物は――」
その時である。まるで二人に釘を刺すかのように、一発の銃声が山に木霊したのは。
「……わたくしの管轄外なので。例え野草の一つ取るだけでも事前に許可がいるんです」
「怒られちゃうんだ」
「その通り。今回の釣りに関しても、それはもう面倒な手続きが幾重にも……」
132 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:13:39.02 ID:t7R9m5Up0
ここで麗花はやれやれと肩をすくめるオオカミが、
その身に長話をする者特有のオーラを纏ったことに気がついた。
何、このぐらいの気配の感じ分けなど彼女には容易いことであり、日頃の研鑽の成果でもある。
何せ麗花は週に一度と言わず二度、三度。こういうオーラを向けられていた……主な相手は律子から。
その理由を説明することはあえてしないが、
これまで彼女の人となりを追って来た皆さんならば、簡単に想像がつくだろう。
「それでウルフ? この焚き火で何をするのかな」
メラメラと燃え盛る火の塊へと視線を移し、流れるような話題転換。
するとオオカミは川辺で戯れるひなたと育の方へと顔をやり、舌なめずりしながらこう言った。
「なに、料理を始めるんですよ。レイカもお腹、空きませんか?」
133 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:15:23.05 ID:t7R9m5Up0
===
食事、それは生き物が生き物である証明。
生きとし生けるモノは皆、
これ無くして存在しえない程に大切な生命維持の必須事項。
「アカン、本格的に目ぇ回って来た……」
堅苦しい事を抜きにすれば、腹が減っては戦は出来ぬと。
つまりはそういう話であると、横山奈緒のキュートなお腹が知らせている。
彼女は右も左も分からぬ森の中を、鳴りやまぬ腹の虫に辟易しつつ、
かれこれ一時間以上はさ迷い続けていたのだった。
134 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:16:15.81 ID:t7R9m5Up0
「大体な、前提からすでにおかしい思わな。なんで私がこんな山中、うろつく羽目になっとんの」
愚痴る彼女の右手には、それは立派なピストル一丁。
六連発のリボルバーが、木々の木漏れ日によって鈍く光る。
「おまけに行けども行けども道はない。独り言も多なってるし」
「もうボケが始まってんのか? まだ若いのに苦労するね」
奈緒が突然、その場でピタリと立ち止まった。
そうして警戒するように、辺りをキョロキョロと見回すと。
「……またや。また幻聴が聞こえよる」
「さもなきゃ頭がイカれたか」
「私はそんな、オカシクなんかなっとらへん!!」
叫びながら、奈緒は銃を握る手に力を込める。
135 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:16:48.83 ID:t7R9m5Up0
「さっきからホントなんなんもう! 誰っ!? 誰がそこにおるん!?」
「別に人がいるワケじゃあないんだぜぇ〜」
「やったら余計おかしいやろ!? こんなハッキリ、近くで声が聞こえるなんて……」
その時彼女の耳元で、くっくと笑う声がした。奈緒が右手を高々と上げ。
「やかましい!」
怒鳴ると同時に引き金を引く……静かな真昼の山中に、無機質な銃声が木霊した。
136 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:18:14.36 ID:t7R9m5Up0
===
「焦がさないように気をつけて……よいしょっと」
パチパチと煙を上げる焚き火の傍に、育が棒刺しにした魚を突き立てるようにして並べていく。
その横ではオオカミに教えられながら、魚を捌くひなたの姿。
「うん、中々スジが良いですよ」
「そ、そうかい? あんまし自信ないんだけども」
「いやいやいや、レイカに比べれば随分マシです」
そうしてチラリとオオカミが、ひなたの隣へと視線をやる。
そこでは鼻歌なんかを歌いながら、麗花が調理と言うよりも解剖と言った方が
しっくりくる行為に夢中になっているところだった。
「ねぇねぇ見てみてひなたちゃん。お魚さんの中からこんな物が♪」
「うぷっ……」
麗花が指先で摘まみ上げた、得体の知れない謎の物体
――まるで煮凝りのような見た目の何かだ――を見てひなたが思わず口を押さえる。
137 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:20:27.68 ID:t7R9m5Up0
「な、なんだいその……気味の悪いもん……」
「なんだろう……溶けかけた虫やミミズかな?」
後悔したってもう遅い。わざわざ聞くんじゃなかったと改めて青ざめたひなたと入れ替わるように、
魚を並べて戻った育が好奇心一杯といった表情で問いかける。
「麗花さん麗花さん! それなーに?」
「これはね、お魚さんのお腹に入ってた――」
「い、育ちゃんはこういうのも平気なんだねぇ……あたし、年上なのに情けないべさ……」
しかしまぁ、全体的には楽しい調理風景だ。
そのうち辺りには魚の身が焼けるなんとも香ばしい匂いも漂い始め、すっかり食事のムードである。
焚き火の周りに転がっている丁度よい高さの岩を椅子にして、各々が好きな場所へと腰を降ろす。
「それじゃあ皆さん手を合わせて」
「いっただっきまーす!」
育の号令に合わせる形で、賑やかな昼食が始まった。
だがしかし、麗花よ。君は焼けたばかりの魚にかぶりつき
「んぅ〜♪ 美味しい!」なんて呑気に喜んでいる場合では無かったのだ。
138 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:21:31.69 ID:t7R9m5Up0
===
突然、何の前触れもなく鳴り響く銃声。手元に走る強い衝撃。
麗花の手から弾け飛んだ串焼きの岩魚が無残にも、河原の上に横たわる。
「危ない!」
オオカミが吠える。第二撃。今度は彼女の近くの石が跳ね、チュインと甲高い音が響く。
「な、なんですか!?」
「銃撃です! こちらへ、早くっ!」
言いながら、彼の行動は迅速だった。
既にひなたと育の二人を自分の影へと移動させ、銃弾が飛んで来た方向を探している。
その間にも、三発目、四発目の弾丸が麗花たちの傍を通り過ぎ、
火薬特有の胸にくる臭いが麗花にだって感じ取れた。
139 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:22:46.90 ID:t7R9m5Up0
「な、何!? 何っ!?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だよぉ……!」
オオカミの巨体に隠れながら、ひなたが震える育を抱きしめる。
と、オオカミの睨みつけていた方向にある藪をならし、姿を表す影が一つ。
「つぅ〜……なんで真っ直ぐ飛ばへんのやろ……」
その襲撃者……とでも言うべきか。少女の姿を目の当たりにして、麗花が驚きの声を上げる。
「な、奈緒ちゃん!?」
「麗花? ……なんや、ひなたに育もおるやんか」
だが、麗花たちの前に立つ奈緒の目はどこか虚ろで……右手に握る銃の存在が、
増々彼女の異常性を際立たせているようにも見えた。
140 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:23:51.58 ID:t7R9m5Up0
「アカンで、そんな狼なんかと一緒におったら」
一歩、彼女が前に出る。
「腹ペコ狼の話しらへんの? 丸々餌で太らせて……油断したところをペロリ一口」
そうしてゆっくりと舌なめずり。銃口をオオカミの方へ向け、ニヤリと奈緒が顔を歪める。
「せやから私が助けたらな。動かんといてな……流れ弾が当たったら痛いでぇ……」
彼女の目は正気を失っているが、その迫力だけは本気であった。
一体全体この場に何が起きてるのか?
理解できないでいる麗花の後ろから、緊張した口調でオオカミが囁く。
「レイカ、アナタは足が早いですか?」
「逃げ足ってこと? ……一応、人並みには自信あるかな」
「結構。ならこちらの合図で走りだして……向こうの茂みに入ってください。
そしてそのまま真っ直ぐに行けば、大きな道に出るハズです」
141 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:24:44.60 ID:t7R9m5Up0
とはいえ、麗花も素直に頷けない。
目の前の奈緒は明らかに普段と様子が違っていたし、何より銃を持っている。
一体どうしてそんな物を持っているかはこの際置いておくとしても、
自分だけ逃げるなんて……ひなたや育はどうなるのか?
けれども、そんなことはオオカミだって承知の上の話である。
彼はひなたたちに自分の背中へおぶさるよう指示を出すと。
「いいですか? 3、2、1……」
咆哮。オオカミの本気の唸り声で威嚇され、奈緒が慌てたように銃を撃った!
すると麗花たちの遥か後ろ、水面に上がる水しぶき。
142 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:25:29.25 ID:t7R9m5Up0
「走って!」
言われるままに走り出した麗花を追い越して、オオカミが先導するように駆けていく。
その背中には振り落とされないよう必死に彼にしがみつく、ひなたと育の姿も見える。
「ま、待たんかーいっ!!」
後ろからは奈緒の怒声が響き、そうして次の銃撃がすぐさま自分たちを襲ってくると麗花は覚悟を決めたのだが――
幸い四人が茂みの中に飛び込むまでの間、新たな銃声が鳴ることは無く。
麗花たちは木々の間をすり抜けながら、
とにかく河原から距離を取るために、只々走り続けたのだ。
143 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:26:51.06 ID:t7R9m5Up0
===幕間「忍び寄る厄災とその末路」
まさかまんまと逃げられるとは。獲物を取り逃した悔しさに、思わず唇を噛んで悔しがる。
顔見知りの人間が相手なら油断して、労せず事を成せると思っていたというのにだ。
「ったく! どれだけ銃の扱いが下手なんだ! 肝心な時に弾切れなんて……」
そして怒鳴った後に気がついた。アイツは一体どこへ行った?
今の今までは確かに目の前で、銃に弾を込めていたハズだが……。
「ほぉ〜……アンタが声の正体か」
ギクリ、体が固まるとはこのことだろう。背後からかけられた声に振り向くと、奴はそこに立っていた。
しかもご丁寧にも銃口を、ピタリとこちらへ合わせてだ。
144 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:27:33.66 ID:t7R9m5Up0
「お、お前ッ! どうして正気に……!?」
言いかけてまた気づく。その左手に握られた、少々焦げた魚の串焼きに……ジーザス。
腹が減ったから飯を食う、まるで欲望の権化じゃないか。
人間ってのは意地汚い、全く持って意地汚い!
「なんやよう分からんけど、小腹が満ちたらハッキリ見えるようになってきたで。ついでに頭の方もスッキリや」
そうしてこともなげに奴はそう言うと。
「ほな、しっかり説明してもらおうやない。一体何があったんか……でないと鉛弾喰らわすでぇ〜」
まるで悪魔のような微笑みを浮かべて言ったのさ。
そう、オレ様よりもよっぽど悪魔らしい微笑みだ。
145 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/22(土) 14:29:23.41 ID:t7R9m5Up0
とりあえずここまで。訛りはほんと難しい…
146 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/22(土) 14:42:19.17 ID:wdpSGhg/0
よかった、また炭が出来るとこだった
http://i.imgur.com/3tUfpFX.jpg
乙です
>>129
中谷育(10) Vi
http://i.imgur.com/rhoZm3h.jpg
http://i.imgur.com/CkhktZa.jpg
>>133
横山奈緒(17) Da
http://i.imgur.com/nbThsrf.jpg
http://i.imgur.com/w8WBkxh.jpg
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/22(土) 22:03:34.98 ID:N0StwDK6o
乙乙
あー、あの悪魔かw
148 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:21:11.90 ID:EdLzCxeD0
===「セカンドステージ:山その2」
麗花は足に自信があった。
見た目ではなく機能についての話だが。
そのスラリと伸びた健脚は一蹴りで普通の人よりも前に出られたし、
登山で鍛えた肺活量とスタミナは、彼女の化け物じみた体力を語るうえで外せない。
ただ単純に「走る」という行為において麗花は自分が人よりも少しは優れていると、そういう自覚があったワケだ。
149 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:22:14.35 ID:EdLzCxeD0
しかし彼女は今まさに、上には上がいるものだと改めて思い知らされていた。
何を隠そう麗花の前を走り行くオオカミ――いや、大神環によってである。
「速いなぁ、環ちゃん」
思わずそんな言葉を口にする程、麗花は驚いていたと言っていい。
実際、この追いかけっことも呼べる競争が始まった時には麗花の方が先頭だった。
街を過ぎ、山に入り、うねるように続く道路というのは多少の起伏があったものの、
彼女にとっては平地を行くのと大差ない。……けれども、だ。
150 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:23:10.13 ID:EdLzCxeD0
>>149
訂正
〇彼女にとっては平地を行くのと大差ない。……ところが、だ。
×彼女にとっては平地を行くのと大差ない。……けれども、だ。
151 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:24:51.92 ID:EdLzCxeD0
「ここから先は、たまきだって負けないぞー!」
小さな彼女の宣言通り。舗装された道が途切れ、
石や土が剥き出しにされた山道に入った途端、環の走りは格段に良くなった。
岩から岩へ、高所から低所へ。
まるで獣のように卓越したバランス感覚であちこちを飛び跳ねるように駆けていく環には、
さしもの麗花も見失わないようについて行くだけで精一杯。
それに何より彼女には、走りやすい場所を嗅ぎ分ける「勘」とでも言うべき物が備わっているようで……
こればかりは一朝一夕で身に付く物でも、まして盗める物でもありはしない。
152 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:26:03.24 ID:EdLzCxeD0
この辺りは山育ちだという彼女の生い立ちにも関係しているだろうが、それ以外にも……。
「うぅーん……私の名前にも、馬とか鹿とか入ってたら」
もしかしてもしかすると、名前にも秘密があるのかも?
麗花は足の速そうな動物をいくつか浮かべ、自分の名前につけてみる。
それは馬上麗花だったり鹿上麗花だったり……二つ並べて馬鹿麗花。
「……あぅ!」
自分で立てた仮説によって、勝手に小さなダメージを受ける。環と二人でかけっこ勝負。
森の中をビュビュンと駆け抜けながら、麗花はそんなことを考えるのだった。
153 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:27:24.63 ID:EdLzCxeD0
===
「で、二人はこんな馬鹿したって?」
すんでのところで事故を回避し、山道と国道がちょうど交わる地点にて
真新しいブレーキ痕を作った福田のり子はそう言うと、
乗っていたバイクを道端に寄せて困ったものだと腕を組んだ。
彼女にしては珍しい浴衣姿なのは、お祭りの帰りだからである。
「ふん! ほうはんは」
「はひっへはらふうへんへ!」
「ちょっと、食べながら返事するなー!」
そんなのり子から貰った焼きトウモロコシを食べながら、麗花と環が揃って頷く。
その際、ポロポロとコーンの粒が口からこぼれるのもご愛嬌。
154 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:29:30.93 ID:EdLzCxeD0
「ホント、麗花さんが気をつけてくれないと」
「うん、ごめんね?」
「……お願いしますよ。大人なんだから」
とはいえ、素直に笑顔で謝られるとそれ以上何が言えようか。
事故は起こらず、怪我人は無し。
愛車の状態も少しは気になるが、それはまぁこの際置いておくとしてだ。
「ところで……麗花さんはなんでここに? アタシてっきり、街にいると思ってたんだけど」
のり子はこの「山中飛び出し事件」に早々とピリオドを打つと、怪訝そうな顔で麗花に訊いた。
すると麗花は首を傾げ。
「どうしてって……環ちゃんたちと競争を」
「ああ、いや、そうじゃなくて」
麗花の答えに、のり子が頭を掻く。
自分の中にある疑問を、どう説明しようか迷っているようでもある。
155 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:31:37.10 ID:EdLzCxeD0
「その……麗花さん聞いてないの? 突然やって来たヘンな生き物が、街でおにぎりを配ってる話」
それは全く……なんとも突拍子の無い話だった。
その証拠に聞かされた麗花たちも、キョトンとした顔でのり子のことを見つめている。
「今じゃどこも大騒ぎだよ。アタシの行ってたお祭りだって、この騒動で急遽中止になって……」
けれども大変なことが起きたといった様子で語るのり子とは違い、麗花たちは呑気そのものだ。
……はて、それのどこが一大事なのか。
ヘンな生き物が食べ物を配るくだりが妙だとでも?
「いいんじゃないかな、おにぎりくらい」
「だよね……たまきだってそう思うよ?」
156 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:32:18.31 ID:EdLzCxeD0
この二人にとって怪生物の出現ニュースなど、新しいお友達が増える程度の認識でしかないらしい。
だが、一般的な常識をわきまえたのり子にとっては大問題。
今度は真剣な顔で二人に詰め寄り。
「よくないよ! 噂じゃ宇宙人の襲来だとかなんだとか、軍隊まで出動したって言ってるのに!」
「軍隊かぁ……アイドルフォースの撮影を思い出すね♪」
「ちっがーっう! 映画の撮影じゃないんだから!」
そうして腕にさげていた巾着からスマートフォンを取り出すと、のり子はいくつかの写真を二人に見せた。
「ほら! これ見たら嘘じゃないって分かるでしょ?」
向けられたスマホの画面を覗き込み、麗花が驚きの声を上げる。
157 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:33:37.26 ID:EdLzCxeD0
「瑞希ちゃんに……でんでんむす君!」
彼女が驚いたのも無理はない。
そこには自分の生み出したキャラクター「でんでんむす君」が、
まるで軍人のような装備を身に付けた真壁瑞希と固く握手を交わす姿が写されていたのだから。
他にも兵士と思われる屈強な男たちと共に、
この奇妙な生物が人々に炊き出しを行っている様子なども収められている。
「あっ、これ天むすだ」
環がでんでんむす君の手を指さし、持っているおにぎりの種類に言及した。
確かに彼女の言う通り、その海苔で巻かれたおにぎりからは、
ぴょこんとえび天の尻尾が飛び出しているじゃないか。
158 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:35:20.10 ID:EdLzCxeD0
「いいな〜……たまきもおにぎり、食べたくなっちゃう」
「いや、私が言いたいのはそこじゃ無いんだけど……」
しかし、なぜこんな写真が撮られているのか?
環の気の抜ける発言に思わず頭を掻くのり子を横目に、麗花は記憶の引き出しを開けていく。
そもそもでんでんむす君は、天むすのイメージキャラとして作られた一介のぬいぐるみに過ぎず
――とはいえ麗花はこの奇妙な生き物を、世間に浸透させたいという大それた野望も抱いていたが――
生みの親の麗花自身がその存在を忘れてしまっていたという、
悲しい事件によって一般にはお披露目すらされていない物なのだ。
にも関わらず、写真には幾体ものでんでんむす君が街中を闊歩している様子が写っていた。
麗花に内緒で着ぐるみを作っていたなんてことも無いだろうし、
大体そんな予算が事務所にあるとも思えない。
だとすればのり子が言う通り、彼らは本当に宇宙からやって来たということなってしまうが……。
159 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:36:29.93 ID:EdLzCxeD0
珍しく深刻な顔つきになった麗花に、のり子が言う。
「やっぱり、でんでんむす君だよね?」
「うん……間違いないよ」
「私、麗花さんが関わってるイベントか何かだ思ってたけど……その様子じゃ、麗花さんも知らなかったんだ」
のり子の言葉に、麗花が「まさか!」と首を振る。
「だけど、ちょっと嬉しいな」
「嬉しい?」
「だって皆にでんでんむす君のこと、知ってもらえたってことだもの」
野望はここに成就された。呆気にとられたのり子を他所に麗花は自分の携帯を取り出すと、
この素晴らしい出来事を拡げるために軽やかに指を躍らせる。
160 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:39:20.86 ID:EdLzCxeD0
「これでよしっと♪」
麗花がボタンをタッチして、満足そうに頷いた。
すると三人が話し込んでいた道の向こうから、猛スピードで駆けて来る人影一つ。
もうもうと土煙を上げながら、一昔前のポストマン風の恰好で
颯爽と現れたその人物は麗花たちの前で立ち止まると。
「お待たせ麗花! 運ばなきゃダメな荷物は何? 全部私にまっかせてよ!!」
持ち運べる物ならば何だって、何処へだって配達する手荷物専門配達人。
弾ける笑顔と汗をキラめかせて高坂海美参上である。
161 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:41:32.43 ID:EdLzCxeD0
とりあえずここまで。海美は男装もできて可愛い服も似合って……完璧じゃない?
162 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/04/29(土) 23:44:46.42 ID:EdLzCxeD0
訂正 書いてる方は完璧じゃなかった……。
>>158
〇「いや、アタシが言いたいのはそこじゃ無いんだけど……」
×「いや、私が言いたいのはそこじゃ無いんだけど……」
>>159
〇「アタシ、麗花さんが関わってるイベントか何かだ思ってたけど……その様子じゃ、麗花さんも知らなかったんだ」
×「私、麗花さんが関わってるイベントか何かだ思ってたけど……その様子じゃ、麗花さんも知らなかったんだ」
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/30(日) 01:09:44.54 ID:Nn1XT+nMO
うみみん速くて可愛くて最高だな
おつ
164 :
◆Jnlik0MEGA
[sage]:2017/04/30(日) 01:40:58.82 ID:xEo3BaTg0
うみみだからな
乙です
>>151
大神環(12) Da
http://i.imgur.com/Mgm0RQg.jpg
http://i.imgur.com/tbXPtna.jpg
>>153
福田のり子(18) Da
http://i.imgur.com/ldY4G6G.jpg
http://i.imgur.com/ZA0tPip.jpg
http://i.imgur.com/3l1jJ2n.jpg
>>160
高坂海美(16) Da
http://i.imgur.com/JPItfX0.jpg
http://i.imgur.com/CldMQT4.jpg
165 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2017/05/04(木) 21:01:39.79 ID:UJ+jWkXE0
===
バイクの後ろに環を乗せて「それじゃアタシ、環を送って帰るから」と言ったのり子と別れて海美は元気よく走り出す。
山越え谷越え川を越え、そうしてもう一つおまけに山を越え。
握った荷物の送り先、訪れた小さな山小屋の前で彼女のことを出迎えたのは、
少し開けた地面に正座して、目を閉じ瞑想にふける金髪少女。
着物に袴というこてこての和装を纏ったその少女は、海美が傍にやって来ると閉じていた瞼をそっと開け、
手にしていた瓢箪を地面に置くとこう言った。
「こんにちは海美さん。本日は一体、どのような御用件でここまで参られたんですか?」
彼女の名はエミリー・スチュアート。
流暢な日本語を操るが、英国生まれの淑女である。
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