永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 19:38:29.04 ID:eRuspO3go



レイセン「殺す”のガ……アダジを……?」



【急場】



薬売り「いやぁ、楽しませてもらいました……」

薬売り「さすがは元・月の人気者。あっしもついつい、最後まで聞いてしまいましたよ……」



【打込】



レイセン「姉弟子ノ”……ア”だジヲ”……?」



【後手】



薬売り「しかし肝心の貴方自身がわかっていなかった……何故に貴方の芝居が人を魅力するのか」

薬売り「それは……全てが真であったが為です」


レイセン「ア”…………?」


薬売り「わかりますか……? ”真”があったからこそ、貴方の織成す芝居は、鮮やかな色々に染め上がったのです」



【六死八活】



薬売り「それ故に……勿体ない。最後の最後で、”芝居は色を失った”」


 ”昨日今日会ったばかりのお前に何がわかる”――――兎は濁った声で、そう吠えた。
 確かに、赤の他人に知った風な口を聞かれる事ほど不快な物はないよの。
 それもそれも、見るからに胡散臭い男の、あからさまに見下した口ぶりとあらば……
 ったく、まっこと度し難い。
 何故にあやつは、ああも人の気を逆立たせるのやら。







301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 19:50:43.33 ID:eRuspO3go


薬売り「確かに、会ったばかりのあっしに、貴方の全てを理解できる道理はありませぬ」

薬売り「ただし……それが、”貴方をよく知る者”だったら、どうでしょう」


レイセン「は”…………?」


薬売り「過去から現在に駆けて、貴方の存在をよく知る者が……」

薬売り「”貴方はこう言う存在ですよ”と、あっしにこっそり教えていたとすれば……」

薬売り「意味合いは、少し変わります……」


 「誰だそいつは――――」兎はまたも、擦り切れそうな声でそう吠えた。
 自分を知る者を名乗る者が、自身の事を勝手に第三者に語っていたとあらばなおさらである。



【定石】


 だが、少なくとも身共は、その怒りにはやや賛同しかねるな。
 だって、そうではないか。よく考えてもみよ。
 別に、「悪口を言っていた」とは限らぬであろう?
 さもあれば、もしかすると……身共の事を陰ながら”讃えておる”かもしれぬではないか。



【大高目】



302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:30:53.90 ID:eRuspO3go


薬売り「貴方が恐れ敬う師・永琳……つい先刻、モノノ怪に憑りつかれ、どこぞの果てに消え失せた」

薬売り「しかしその顏はどうでしょう……苦痛に歪んでおりましたか? 恐怖に怯えておりましたか?」

薬売り「あっしにはとてもそのようには……まるで、”自ら望んで消えた”ようにすら見えました」



レイセン「望ん”デ……消え”ダ……?」



薬売り「永琳も、最初から知っていたんですよ――――貴方の事を、”もう一人の貴方を含めて”ね」



レイセン「あだジを”……知っでダだど……!?」



【相似】



薬売り「ともすれば、”未曾有の危機は絶交の機会である”とでも思っていたのかもしれません」

薬売り「まるで……この機に乗じて逃げ出そうとしている、貴方のように」



 確かに、あの時の永琳は、恐れる表情など微塵も見せておらなかったな。
 御身に無数の目が蔓延る最中にて。
 異形同然になり果てど、さりとてその姿勢は、最後まで「威風堂々」を貫いたままであった。
 「永琳程の賢人になると、恐れを跳ね除ける強靭な胆力が備わっておる」とも考えられるがの。
 が、あの場合は……”そもそも恐れる必要がなかった”と考えた方が、幾ばくか自然であろうて。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:31:46.61 ID:eRuspO3go



薬売り「そんな、貴方を深く知る永琳が、消える間際にあっしへ五つの示唆を託しました」

薬売り「それは、貴方を深く知る永琳をも深く知る、永遠亭の真の主からの教授でした」



薬売り「――――”姫君が残せし五枚の符”。そこに貴方の、答えがある」



レイセン「ズベル…………ガード…………?」



 そうそう永琳と言えば、これを忘れてはならなかったな。
 永琳が薬売りに託せし「符」は、別に姫君だけのものではなく、この幻想郷では広く知れ渡った常識なのじゃ。
 幻想郷に住まう者なら誰しもが持っておる物。故にその使い方も多種多様。


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 とは言いつつも、此度の符は、この幻想郷に置いてもやや特殊だったようで……
 流石の身共も、少してこずらされたわい。
 



【難題】龍の頸の玉-五色の弾丸-
【神宝】ブディストダイアモンド
【難題】火鼠の皮衣-焦れぬ心-
【神宝】ライフスプリングインフィニティ
【難題】蓬莱の弾の枝-虹色の弾幕-




――――この符が示す、”答えの解き方”にはな。



304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:51:16.58 ID:eRuspO3go


薬売り「この符は……竹取物語における五つの難題を模した物」

薬売り「して五つの難題とは、かぐや姫が求婚を断る為に用いた方便」

薬売り「故に”難題”。これらの品々は、どこを探そうと、どこにもありはしない」


 そう、かぐや姫が課した難題は、最初からこの世に存在せぬ物。
 存在せぬが故に提示できるはずもなく、よって大手を振って求婚を断れると言う、なんともまぁ〜意地の悪い難題じゃ。
 さりとて「はいそうですか」と引き下がれぬのが貴公子の辛い所。
 果たせぬとわかりつつ、あの手この手で何とか難題に答えんと奮闘していた小話は、まぁ皆も知る所じゃろう。
 

薬売り「しかしどうでしょう……果たせぬが故の【難題】。にも拘らずその頭文字には、確かに【神宝】の文字があるではありませんか」

薬売り「あるはずがないのに、あたかもそこにあるように置かれる【神宝】の頭文字」

薬売り「これは一体……何を意味するのでしょう」


 【難題】が果たせぬ「幻」を意味するならば、【神宝】は存在そのものを指す「現」。
 言い換えれば「在る・無し」と置き換える事が出来よう。
 姫君の符は、その名の通り「五つの難題」を模した者である。
 その中に「在る」を意味する頭文字が混ざる、その所以は――――


薬売り「言い換えるならば、【難題】と【神宝】の頭文字こそが、姫が示した”答え”」

薬売り「ほら、よくご覧なさい……三つの【難題】と二つの【神宝】」

薬売り「この中に、確かに……”貴方を指す”言葉が、あるじゃありませんか」


 ふふ……ッと失礼。いやはや、関心しておったのだよ。
 「嫁ぎたくない」ただそれだけの為に咄嗟に出た方便にしては、よくできた御題目じゃと思うての。
 かの書を読んだ際は「なんだこの性悪女は」とタカをくくっていたが、しかし改めて見てみれば、こう……
 確かにこの難題ならば、相手の身分に関係なく、まんまと求婚を断り抜けようものぞ。



薬売り「目を背けてはなりません。貴方を知る者が、貴方を一体どう思っているのか」


薬売り「それこそが貴方の望みを果たす唯一の術……隔てし境を打ち破る、唯一の答え」



 この姫君、やるのぅ。どうして中々、存外に賢しき姫君じゃ。 
 これほどに頭の回る姫ならば、うむ。なるほどの。
 咄嗟の間際であろうとも、このような示唆も十分できようものぞ。




薬売り「その全てが……ここにある……!」




 確かにこの符には、しかと記されておるわ――――”兎はモノノ怪ではない”とな。



305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:11:08.53 ID:eRuspO3go


薬売り「今一度思い出すのです。かつて貴方が、何を欲していたのか」

薬売り「欲した物を手に入れるために何を交わしたか。奈落の底に堕ちてまで手に入れたかった物は何か」


レイセン(――――???)


薬売り「してそれは――――誰に与えられた物だったのか」


レイセン「ぞ…………レバ…………」





【鈴仙】





(随分……待たせてしまいました)

(あの約束を交わしたあの時から……何がふさわしいか、ずっと悩んでいたのです)

(ずっとずっと、長い時間をかけて……考えてたのです……)

(……姫様と、二人でね)




レイセン「アダジガ…………欲ジガッダ物…………」




(こうして渡せる日が訪れた事を……心から感謝します)

(さあ、受け取りなさい……今日から貴方は――――)




薬売り「その言葉は、永遠を生む枝から咲く、一輪の花から取った言葉だった……」



【憶】



うどんげ「――――その意味を知ったのは、此処へ来てしばらく後だった」




レイセン(じゃあ…………)


レイセン(うどんげって…………!)




【覚】

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:23:54.77 ID:eRuspO3go


薬売り「ずっと……気になっておりました……」

薬売り「存在せぬはずの五つの難題の中で……何故姫君は、蓬莱の玉の枝のみ”本物を所持している”と、言い張っているのか」



【蓬莱の玉の枝】



うどんげ「あたしがこいつに……教えたのよ……」


レイセン(じゃあ…………)



 先ほど述べた通り、蓬莱の玉の枝とは、不老不死の薬の元になる原料である。
 多少の差異はあれど、不老不死に纏わる大抵の物語に出てくる故な。
 五つの難題の中では、最も名の知れた品なのではないだろうか。

 さもあれば、不老不死と言う広く知られた表の顏もさることながら……
 実はこの蓬莱の玉の枝。もう一つ”裏の顏”がある事は、ご存じかな?



レイセン(”本物の蓬莱の玉の枝”って…………!)



 それは――――枝に咲く花の逸話じゃ。
 蓬莱の玉の枝には、もう一つの伝説があっての。
 それもズバリ”三千年に一度だけ花を咲かす”と言う伝説じゃ。



【咲】



 三千年に一度……おそらく大多数の者共が一生お目にかかる事はないであろう、大変に珍しい花よ。
 そんな、あまりに度を超えた希少さが故に、じゃ。
 一度咲けば――――”三千年分の吉祥を振りまく”と言う、これまた大層な逸話もあるのだ。



薬売り「あくまで、推測にすぎません……が」



 そんな二つの顏を持つ蓬莱の玉の枝。
 その枝に咲く花は、誰がつけたかこう名付けられた――――
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:25:27.12 ID:eRuspO3go







【開花】






薬売り「――――”貴方の事”だったんじゃないですか」


薬売り「姫君だけが所持する……”本物の蓬莱の玉の枝”とは」




【――優曇華ノ花――】



 ……もう、お分かり頂けただろう。
 優曇華の花を咲かす蓬莱の玉の枝に、無しを意味する【難題】が頭についておる。
 よってこれらを結び合わせれば、浮かび上がる意は「蓬莱の玉の枝は無し」となる。
 つまり、言い換えれば――――「モノノ怪は優曇華ではない」と読める。と、言う事じゃな。


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308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:29:02.74 ID:eRuspO3go
メシ
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 21:38:40.56 ID:3yWtMGbTO
一旦乙
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 22:12:16.33 ID:9VrC1l3u0
スペカが難度取り混ぜだったのはこういう仕掛けか、見事
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:55:04.32 ID:eRuspO3go


レイセン(ウソ……)


 いやぁ、にしても……何と言おうか……
 竹取物語などさして興味はなかったが……なんだか、段々と身共も興が湧いて来たわ。



レイセン(じゃあ……あたしは……あたしには……!)



 月よりいずるかぐや姫……か。
 まだこの地上におるならば、是非一度お会いしたいものよ。



薬売り「恐れる必要はなかった……いや、恐れなど、最初からありはしなかった」

うどんげ「ありもしない恐れに怯え、ありもしない幻に、勝手に狂気に満ちた鬼を想像していた……」



……阿呆! 求婚を申し込みに行くわけではないわ!
 身共はただ、測りたいのだよ。 
 この聡明精錬にして明晰な頭脳を存分に発揮できる、知恵比べ相手としてな。
 


【至】



薬売り「あるのただ、単純な一つの事実のみだった」

うどんげ「あたしがお師匠様から最初に教わった、教え……それが全てだった」



レイセン(あたしが…………あたしも…………)





【答】





薬売り・うどんげ「――――(私・貴方)は”愛されていた”」




 ブワリ――――その瞬間、薬売りが貸し与えた札が、辺り一面に飛び散った。
 ひらひらと周囲に舞い散り、瞬く間に闇夜に消えゆく札。
 それはまるで、春の終わりを告げる桜の花びらのようであった。


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 しかしそこに、風はなかった。
 風無き空に札だけが舞う……そうじゃ。
 兎の中の”恐れ”だけが、形を失ったのだ。




【解】     【恐】     【之】

    【放】     【怖】     【殻】



  
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:06:57.67 ID:eRuspO3go



レイセン(嗚呼…………)



【塵】



レイセン(消えていく……あたしが……あたしの存在そのものが……)



【理知】



薬売り「貴方を知る者は……何も、貴方自身だけとは限りません」

薬売り「貴方と同じ過去を過ごした他人もまた……貴方を知る者の一人であるのです」



【反転】



レイセン(じゃあ……あたしも……他人なの……?)


薬売り「あなたは一体誰なのか――――そんな事は、最初から分かり切った事だったのですよ」



 してそれらの舞い散る札を、薬売りは気にも留めぬままに、懐からまた私物を一つ取り出した。
 それは、モノノ怪を斬る退魔の剣にあらず。
 掌に収まる程度の、おなごが身なりを整える際に使われる物――――
 一枚の、手鏡である。


313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:30:46.23 ID:eRuspO3go



薬売り「ほら、ここには……”最初から一羽の兎しかいない”」



【反射】



レイセン(ほんとだ……)


レイセン(おんなじ…………だ…………)



 鏡越しに見る闇夜には、しかと映っておった。
 舞い散る札の一枚一枚の、その中心に――――
 優曇華と名付けられし、一羽の兎が。



レイセン(最初から……おんなじだったんだ……)



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――――故に願いも、また同じとなりし。




【同】



【願】



【――――安ラギヨ永遠ニ】


       
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314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:31:18.25 ID:eRuspO3go
本日は此処迄
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 01:24:31.91 ID:3hpyWw77O
乙!
お見事です…!
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 20:41:41.09 ID:qusnPhudo
いよいよクライマックスかな
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:04:34.16 ID:3uu0rWtyo


ドーン


【散】



ゴーン



【札】



ボーン



【紛・闇夜之中】



――――静寂が、辺りを包んだ。
 丑三つ時に相応しき、闇夜にあるべき静けさである。
 その静けさは、意図的に作られた静けさであった。
 薬売りと兎。
 この両名が黙す事によって、出(いず)る事を許された、いとも儚き静寂なのだ。
 


薬売り「…………行くのですか」


うどんげ「…………ええ」



 儚きが故、打ち破るのもまた容易な事で――――
 薬売りが、ポツリと訪ねた。
 してその返答は、すぐに返ってきた。
 そしてその返答を気に、飛び交う音のやり取り。
 結果、あっという間に静寂は消え申した。
 しかし返事の主の姿は、もはや背中でしか見えなくなっていたのである。 


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薬売り「そんなに息を押し殺して……一体何処へ行こうと言うのです」

うどんげ「行くんじゃない。生むの」

うどんげ「永遠亭が永遠足りえる……いつまでも変わらない静寂を」


 玉兎の決意は、この一言に集約されておった。
 こうまで言われては、もはや誰にも止める事はできぬ。
 まぁ、なんだ……結局また、振り出しに戻ったわけだ。
 紆余曲折を経て導き出された答えは、最初の通り、亭から逃げ出す事のままだったのだ。



【元ノ鞘】

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:17:29.28 ID:3uu0rWtyo


【満】


うどんげ「止めないの?」

薬売り「止める必要がない……貴方がモノノ怪ではないのなら、どこで何をしようが貴方の勝手」

うどんげ「冷たい奴。こういう時は、社交辞令でも止めるフリくらいはするものよ」

薬売り「それに……自信がないのですよ」

うどんげ「自信?」

薬売り「あっしにはどうも……兎の脚に追いつける自信がありませぬ」


 それは何も心のあり様の話ではない。実際問題無理なのだ。
 一度逃げ始めた兎を捕らえる事は、本当に至極困難である。
 と言うのも――――単純に”速い”のだよ。


うどんげ「頼りない奴……ほんとに大丈夫なの?」

うどんげ「あんた……言ったわよね? ”モノノ怪は必ず斬る”って」


 知っておるか? 兎は時として、馬よりも速く駆けるのだ。
 さもあれば、人の脚程度では到底追いつけぬ速さである。
 「脱兎の如く」の語源は、まさにそこにあるのだ。

 そんな兎の脚を止めるには、何か別の手段が必要となろう。
 そうじゃな……まぁ、強いて言うならば、だ。
 「罠を仕掛ける」事。それが一つの、定石であろう。


薬売り「ええ……斬りますよ、モノノ怪はね」

うどんげ「だったら……モノノ怪を斬り終えた暁には……」


 玉兎は、言伝を頼んだ。
 それはモノノ怪が去りしこの地にて、残されし者への”声明”であった。

 玉兎はその身に宿せし思いを、こう言い表した。
 「永遠は終はらず」――――。
 自分が逃げ続ける限り、亭の永遠は潰える事はないと言う意である。


薬売り「確かに……承りました」

うどんげ「……はぁ、あたしもヤキが回ったわ」

うどんげ「あんたみたいなうさんくさい奴にしか、こんな大事な頼み事をできないなんて」


 モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事なら、亭を守るのが玉兎の仕事。
 一見なんら関係のない責務であるが、両者の利害が一致しているとあらば、手を組まぬ道理はない。

 しかし玉兎からすれば……まぁ、やはり不安であろうよの。
 手を組む相手が、どうにも”うさんくさすぎる”。



【夜八つ】

319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:32:22.30 ID:3uu0rWtyo


薬売り「僭越ながら、あっしからも、お節介を一つ……」

うどんげ「あによ」

薬売り「貴方の中に在りし、もう一人の貴方の事です」


 亭を守るのが玉兎の仕事なら、モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事。
 玉兎が不安を感じると同時に、薬売りもまた、一抹の不安を抱えておったのだ。
 
 よって薬売りは、身の丈もわきまえず、釘を刺した。
 姉弟子に対し末弟子の分際で、指図紛いの忠告を、最後の最後に言い放ったのである。


薬売り「モノノ怪を成すのは、人の因果と縁(えにし)――――」

薬売り「人の情念や怨念がアヤカシに取り憑いた時、それはモノノ怪となる」


うどんげ「……」


薬売り「貴方の中のもう一人の貴方……モノノ怪でこそなかったものの、その情念は十分モノノ怪を成すに足り得る」

薬売り「よって万が一、優曇華の幕が下り、レイセンなる一匹のモノノ怪の幕が開けた、その暁には……」

薬売り「斬りに来ますよ――――”約束通り”ね」 


 にしても、言い方が……
 要するに「お前がモノノ怪になったら、追い掛け回してぶった斬る」と言う事だろう。
 別れの言葉とは思えん。これではまるで脅迫ではないか……
 彼奴の態度もまた、永遠なのかのぅ。



うどんげ「……”そうなったら”ね」



 陰ながら切に願っておるぞ……二度と再開せぬ事を。


320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:48:37.92 ID:3uu0rWtyo



うどんげ「んじゃ――――」



薬売り「お達者で――――」




【疾風】


【消失】




薬売り「…………」



――――別れは、存外に淡泊な終わり方であった。
 大層な餞もなく、淡々と。まるで一時の別れであるかのようである。
 しかしながら、双方共に、再び会いまみえるなど思っていない。




【土煙】




薬売り「…………ふぅ」




【脱兎の如く】




 「脱」――――兎が蹴った駆け足だけが、最後の音であった。




【来たる】


【――――暁七つ】




321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:04:21.85 ID:3uu0rWtyo


薬売り「いやぁ…………」


薬売り「にしても…………」


薬売り「なんと言いましょうか…………」


薬売り「存外に…………”良い話だった”と言いますか…………」



 兎は、本当に瞬きをする間もなく、闇夜に消えた。
 その地には、兎が掘った穴と、兎が蹴った痕しか見えなかったと言う。

 そして一人残されし薬売りは……月を見上げながら、ポツリ言葉を呟いた。
 傍から見ればまるで、月に語り掛ける、面妖なうさんくさい男が一人である。
 しかしそれは――――確かに”会話”であったのだ。



薬売り「”守る為に逃げる”ですか……確かに、少々わかりづらいでしょうな」

薬売り「ですがその理は、確かに繋がっていた……兎の、嘘偽りなき真と」



 薬売りは語った。
 玉兎の秘めし思い。決意。そしてそこから伴う行動が、やや”分かりにくかった”事を。
 しかし幸運にも、兎が話し上手であった為か。
 その理は、最後には”理解足り得る物”であった事も。



薬売り「臆病な兎だから……いや、臆病な兎だからこそ、辿り着く事のできた兎の理」

薬売り「だったのかも知れません……ねぇ?」



 理解足り得るが故に、結ぶことができたのだ。
 兎なき後の永遠亭の、あってはならぬ”怪”を排除する役目。
 「モノノ怪を斬り払え」――――薬売りにしか託せぬ、兎の命である。



薬売り「そう、思いませんか…………」



 だからこそ、だろうなぁ……
 如何に見聞に長けた兎とて、よもや、露も思わなんだろう。

 




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 その薬売りが、まさか――――先に”モノノ怪と手を結んでいようとは”。



322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:06:50.29 ID:3uu0rWtyo
メシ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:27:56.64 ID:yA5aoPY9o



(ハァ――――……ハァ――――……)



【同刻】



(ハァ――――ハァ――――)




【兎側】




「ハァ――――ハァ――――ッ!」



【止】



うどんげ「あ”〜……」




【竹林の境にて】




うどんげ「喉……渇いたぁ……」




――――ウサギは、あっという間にゴールまで到着しました。
 馬より速いと評判のウサギの瞬足を持ってすれば、どこであろうと、辿り着くのはいとも容易い事だったのです。


 ですが最終的にその脚は、カメより遅い鈍足となってしまいます。
 瞬足にかまけ、あろうことか、ゴールの手前で居眠りをしてしまうからです。



うどんげ「またあんたなの……」


324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:40:11.89 ID:yA5aoPY9o


 ウサギがのんきに熟睡している間に、カメはウサギを抜かし、結果カメはウサギより早くゴールに辿り着きました。
 そうです。これは所謂「ウサギとカメ」。
 このまさかの結果に終わった事で有名な、ウサギとカメのかけっこですが……
 実はこの話には、続きがあったのはご存じでしょうか。


うどんげ「…………」


 負けたウサギはその後どうなったのか。
 勝ったカメは何を得たのか。
 勝者と敗者。栄光と挫折。
 この相反する二匹が辿る、数奇な運命とは一体――――


うどんげ「…………」



――――知りません。
 むしろこっちが聞きたいくらいです。
 話し手はまだ、続きを読んでいないですから。 



うどんげ「ってオイ」


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:51:18.16 ID:yA5aoPY9o


 だって……しょうがないじゃない。
 読もう読もうって言ってたくせに、今やすっかり忘れちゃってるんだから。


うどんげ「っさいな〜、あんときゃ勉強で忙しかったのよ」


 だったら、最初の行先は人里で決定ね。
 頼めば一冊くらい、貸してくれるかもよ?


うどんげ「バカね、なんでわざわざこんな夜更けに童話を読みに行かないといけないのよ」

うどんげ「あたしらと違って、人は夜眠る生き物なのよ。人里に向かうなら、その辺考えないと――――」



(ぐぅ〜)



うどんげ「……」



――――とか言いつつも、やっぱり最初の行先は人里でした。



うどんげ「……食料よ! 食料の調達に行くのよ!」

うどんげ「ほら、腹が減ってはなんとやらって言うじゃない!? ていうか、そもそもまだなんも食べてなかったし!?」


 はいはい、そういう事にしてあげる……
 別に、どうとでも言えばいいんです。
 どんな屁理屈を述べたって、結局は意味がないんだから。
 いくら言い訳を並べたって、結局は筒抜けなんだから。



うどんげ「ほら、行くわよ…………”一緒に”ね!」



 だって、あたし達はずっと一緒なんだから。


326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:04:51.85 ID:yA5aoPY9o


うどんげ「……でも」


 でも?


うどんげ「許されるなら、まだ……」

うどんげ「あんたさえよければ、もうちょっと、あと少しだけ……」



 あ〜……


 ……どうぞ、ご自由に。



うどんげ「…………」



 優曇華は、体を前にしたまま、首だけでくるりと振り返りました。
 そしてしばしの間、夜のくらぁい竹林を、じ〜っと見つめ続けていました。


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 じぃ〜……ちょっとだけと言う割には、結構な間です。
 やっぱりこいつは、嘘つきだと思いました。



うどんげ(さよなら……あたしの永遠亭……)



 でも、「別にいいんじゃない?」って感じです。
 もう互いに、目を逸らし合う必要はないんですから。
 誰にも言う必要はないんです。
 その時の優曇華が何を考えていたのかは、あたしだけが知ってれば、それでいいんです。



うどんげ(さよなら……あたしの故郷だった場所)



327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:21:27.84 ID:yA5aoPY9o


 思い出を過去に。未来を眼に。
 これから兎は、ご自慢の逃げ脚で、どこまでも走り続けます。
 


うどんげ(さよなら…………永遠と思ってた今)



 時に疲れてしまう事もあるでしょう。
 時には脚を止め、休息に浸る事もあるでしょう。 
 それらと同じく、もしいつか、今のように振り返りたくなる時が訪れたなら……
 いつだって、目を合わせてあげるつもりです。



うどんげ(さよ…………なら…………)



 だって、あたしはあなた。あなたはあたし。
 鈴仙と優曇華は、どっちも同じ、兎なのだから――――。




うどんげ(――――)




――――そして今から、始まるのです。







ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1257894.png








 新しい二人のk






――――





――











【鈴仙・優曇華院・イナバ】×


328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:42:56.11 ID:yA5aoPY9o



薬売り「…………」



 薬売りは兎が去りし後、立ち上がる事すらせぬままに、じぃ〜っとその場に座し続けておった。
 喋らず、動かず、瞼すら開かず。
 兎去りし夜の竹林にて、ただ、静かなるままに……


 ……何? この時薬売りが何を考えていたかだと? 
 知るか。どうせ眠くなったから目を閉じたとかそんな所だろう。
 というか、わかるわけがなかろう……身共とこやつは、赤の他人なのだから。



薬売り「……逝ったか」



 ああでも、一つだけわかるぞ。
 ……いやだから、薬売りの事ではないと申すに。
 そっちじゃなくて、身共が言いたいのは、ここの”面子”の事よ。



薬売り「ではこちらも……そろそろ、参りましょうか」



 ひーふーみー……ほれ、おぬしらもやってみよ。

 よいか、最初に面子は「六」人おったのじゃ。
 そして後に「三」人がいなくなり、「一」人は無関係とわかり、たった今「一」羽が逃げ出した。
 ならば残りし数は何とならん。

 如何に平民風情とて、このくらいはできるであろう?


329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:47:37.99 ID:yA5aoPY9o




【八意永琳】×

【鈴仙・優曇華院・イナバ】×

【蓬莱山輝夜】×

【八雲紫】×

【藤原妹紅】×





 ま、と言うわけで、残りし数は後一人……いや、一羽じゃな。





【残】因幡てゐ



 

 果たしてこの最後の因幡兎は、一体どんな因果を抱えておるのやら。
 してその因果は、一体どのような形でモノノ怪と結びついておるのやら。
 目玉を形作るモノノ怪は一体何を見据え、薬売りはその視線に、一体いかような理を見出したのやら。
 


ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1257934.jpg



 全てが明らかとなる時は近い。
 ではでは皆の衆。
 直に訪れる終幕を、努々見逃すことなかれ――――。
 



【突入】



【寅の刻】




薬売り「残る因果は――――”後一つ”!」





                         【後編へつづく】



330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:48:30.04 ID:yA5aoPY9o


【御知らせ】

またしても書き溜めが尽きました
なのでしばらく休みます
感覚は前と同じくらいだと思います
例によって、再開の目途が立てば報告しにきます
一応次の再開で完結する予定です

ではではそういうわけで、しばし御免
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 01:55:32.73 ID:NIA92u12O
乙でございまする!
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 09:13:35.82 ID:sHFix48co
乙!

こんだけ意味ありげな回だったのにうどんげ犯人ではなかったというw
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 12:45:14.09 ID:zyPN71K0O
紫以外で目に関係するキャラってうどんげしかいないと思ってたが、違うのか
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 23:04:55.19 ID:Du2MhX33o
スペカのヒントおかしくね?
読み方はわかったけどこれだと犯人二人いる事になるじゃん
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 23:17:40.56 ID:DbQfPPCyo
んんんマジかぁ!
楽しみに待ってるよ!
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/26(金) 08:17:10.80 ID:c84eJ9WMO
>>334
共犯がいるって事だろ
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 12:24:35.12 ID:Ippp5Mj90
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 00:01:34.31 ID:Pe//o5w/o
【御知らせ】
すんませんもうちょいかかりそうです
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 00:04:02.76 ID:BHH5fiKJo
了解
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 10:43:02.54 ID:jUhe9nJZO
待ってるよー
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 18:15:12.28 ID:iRUhd6Uho
おk
焦らず無理なくやってね
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 04:58:39.87 ID:5iAcMxhD0
追いついた
これは近年稀に見る東方SSですねえ・・・
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/16(日) 02:29:23.41 ID:imehHrz2o

【定時報告】

少女書溜中……………………
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 14:25:23.50 ID:XD/2BLtNo
がんがれ
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 00:39:33.81 ID:U1mHusAko
俺の退魔の剣がカチカチ言ってる
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 21:21:39.57 ID:vHqjlvRXo
【定時報告】
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1339642.jpg
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 21:23:06.05 ID:vHqjlvRXo


■■■■■■■■■■■■□□□□
                 ↑
               今この辺
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 21:25:29.64 ID:i/Gof5RBo
待ってる
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 21:26:36.18 ID:azE3kceWO
舞ってる
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 21:28:23.00 ID:bdRTNWJro
このスレ好き
何時までも待ってる
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 12:19:14.40 ID:Cn4G/k50o
乙ですよ
生存報告さえ時々あればいつでもok
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/16(土) 21:58:42.55 ID:D3H37+Wjo

【定時報告】

ttps://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1367343.png
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/16(土) 21:59:47.31 ID:D3H37+Wjo
遅れてる理由=画像増やしすぎたから(言い訳
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/16(土) 22:00:24.95 ID:D3H37+Wjo


■■■■■■■■■■■■■■□□
                    ↑
                  今この辺
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/16(土) 22:01:00.96 ID:3GgtAC4Ho
すげえ…

待ってます
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 16:47:49.58 ID:Ozt+8u+zo
画像凝りすぎィ!
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 20:25:17.11 ID:u+qtu9s4O
これ全部1から描いてるのか・・・?
大変だろうに別にそこまでやらんでも
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/15(日) 22:55:20.03 ID:4p4TfLqBo

【定時報告】

ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1364077.jpg
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/15(日) 22:56:18.03 ID:4p4TfLqBo

■■■■■■■■■■■■■■■□
                      ↑
                    今この辺
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/15(日) 22:57:08.33 ID:4p4TfLqBo
今月中に正式アナウンスできると思います(勘
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 00:39:36.30 ID:7tUa7hTI0
わぁい
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 12:42:30.84 ID:FD4TjOtwO
相変わらず謎の画力だな
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 22:01:23.78 ID:BjNblBIbo
絵描けないからホント尊敬する
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/29(日) 21:48:53.17 ID:A7eP/3iAo
【御知らせ】
来月に再開します
詳しい日程はまだ未定ですが、さすがに11月を超える事はないと思います(と思いたい
というわけで、決まり次第また言いに来ます
そろそろいい加減にします。はい。いや、マジで
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1375320.jpg
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 21:50:16.26 ID:GckSN+8Co


ぶっちゃけ絵が大変なんじゃないか?w
文字だけでも全然いいのよ
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 12:53:15.00 ID:MGWIW1cxO
何枚描いてんだ?
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 01:07:04.23 ID:ZSrYbvzNO
作者のこだわりを読者が止めるのは無粋よ
思う存分つくりこんでええんやで
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 16:28:21.58 ID:pWNyoXozo
待ってる
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 19:27:09.48 ID:vwCayPXXo
【御知らせ】
来週再開します
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/19(日) 23:17:07.17 ID:1RSPGFSy0
やったぜ
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 12:39:18.26 ID:/WzIJq06O
ずいぶんかかったな
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 23:51:17.59 ID:7IHPOuqW0
ガタッ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/23(木) 16:19:37.86 ID:7wR2/Lo+0
てす
https://imgur.com/lTl5YjE
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/23(木) 16:31:02.53 ID:7wR2/Lo+0
こうか
https://i.imgur.com/lTl5YjE.jpg
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/23(木) 16:37:56.89 ID:mgCwioc2o
見える
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/23(木) 17:22:59.34 ID:7wR2/Lo+0
>>375
あざす
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 21:25:31.81 ID:cTjbZ6OQ0



――――問題は、まだ誰も見ていない物を見る事ではない


    誰もが見ているのに


    誰もが考えなかった事を考える事である――――
  


https://i.imgur.com/AXBskxw.jpg

378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 21:37:31.54 ID:cTjbZ6OQ0


【ギイ】


 草木も眠る丑三つ時。
 家々から明かりが消え、人々は寝静まり、安らかな吐息に包まれる時間。
 それらを生むが、すなわち、闇――――
 夜と名付けられた闇は、一時の休息を齎すと同時に、とある目覚めを呼び覚ますのだ。


https://i.imgur.com/7ocVFIy.jpg




【ギイ】


 人々はその闇夜に目覚める存在を、妖と名付けた。
「人が寝静まる頃に目を覚ますのだから、やはりそれは、人ならざる存在なのだ」。
 実に人間本位な理屈である。
 だがその理屈は、あながち間違いではない。


https://i.imgur.com/V1YYzOs.jpg




【ギイ】


 妖は、往々にして怪を成す。
 程度の差は万別なれど、人の理から大きく外れた妖の理は、やはり人からすれば奇怪そのものなのだ。
 いつしか人々は、その怪を書物と言う形で残すようになった。
 妖の存在を認め、妖の存在を受け入れたのだ。


https://i.imgur.com/BIy0zkP.jpg




 だがそれでも人々は、最後まで認める事はなかった。
 「妖は常に我らと共にある」。
 しかしながら、いくら歩み寄ろうとも――――”決して相容れぬ存在である”と。



「…………おっ」



 草木も眠る丑三つ時。
 この世ならざる存在が跋扈し始める、妖の刻。
 しかしその妖ですら眠りにつく、真なる静寂の刻がある。


https://i.imgur.com/fII0iOn.jpg



 その名も――――【寅】の刻。
 この世の何もかもがいなくなる刻。
 全ての存在を食らうが如き刻。
 偶然か必然か、寅を冠するその名は、まさにおあつらえ向きであろう。








379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 21:47:15.06 ID:cTjbZ6OQ0


「…………」


https://i.imgur.com/Ln3HLjQ.jpg



 そんな、誰しもがいなくなるはずの、無常の刻の最中……
 その場にはただ一つだけ、足音を擦りながら潜む、一つの影があった。



「…………ははぁん」


https://i.imgur.com/LsqqHHx.jpg



 影は、かのような夜更けにも関わらず、明かりもつけぬままに歩を進めておった。
 その様はまさに忍び足。
 音を立てまいと必死に忍びつつも、やはり少しばかり漏れる足音は隠せない。



「なんか……意外な形してるわね」


「まぁ……いっか」



 ギィ……ギィ……闇に鳴る小さな音。
 してその音を鳴らす、小さな影の正体とは――――




(いただき…………まーす…………)




https://i.imgur.com/eEvmLJJ.jpg


380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 21:54:01.31 ID:cTjbZ6OQ0



「…………う”ッ!」



【詰】




「う”っ…………ん”っ…………ぐぅ…………ッ!」




【積】




「う”…………」




【摘】

 


「…………んんんんま”ッ! 何これ!?」



「――――超”旨い”んですけど!」




【舌鼓】


381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:02:32.48 ID:cTjbZ6OQ0


「ちょ、ほんとうまい! ヤバイヤバイ、マジ止まんないって!」


「こんな事なら皿持ってこればよかったわ――――”みんなにも”ちょっと分けてあげたいくらいよ!」


 口いっぱいに広がる旨味は、影本人も想定外だったのであろう。
 予期せぬ舌鼓に、最初の警戒も何のその。乱雑に鷲掴みにしたあげく、一心不乱に食し始めたのだ。
 ガツガツ、ボリボリ、ゴリゴリ……静寂であるはずの刻に食の音がなる。
 さながら腹をすかせた猛獣のように、食にありつくその姿は、まさに寅の如くである。 


「さすがお師匠様だわ……まさか、”食べれる薬”だったなんて」


「なんて、なんて画期的なアイデアなの!」


 影は、人知れず感動していた。
 伸ばす手が止まらぬ程に旨い薬。
 しかもその効能が、自身が長年追い求めていた”薬”だったとあらば、その感動はさらに倍増である。
 

「だめよあたし、耐えるのよ。これ以上はきっと、もう……」


「一つだけ! 後一つだけ…………やっぱ無理!」



 誰もがいなくなる寅の刻。
 妖すらも眠る闇夜に、ただ一つ、身を震わしながら食にありつく影が一つ。

 しかし影は、舌鼓にかまけすっかり忘れておった――――
 いくら旨かろうと、所詮薬は薬。
 薬を服用する事は、決して「食べる」とは言わない事を。





(ダメですよ……そんなにがっついちゃぁ……)



「――――ッ!?」





 そんな当たり前の忠告が、影の耳に届いた――――その時。





(薬は……用法、用量がキチンと決められているのですから……)





https://i.imgur.com/8PZnFNX.jpg





 「あんぎゃあ――――……」
 静寂は、絶叫にかき消された。

382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:09:01.35 ID:cTjbZ6OQ0


薬売り「おや……」


【反転】


てゐ「あ、あひゃ、あひゃあ……」


【半天】


薬売り「大丈夫……ですか?」


 次の瞬間、その場に影はいなくなった。
 影は盛大にひっくり返った後、その勢いで持って、偶然にも近くの明かりを灯したのだ。
 そして影は露と消え、代わりに現れたるは――――奇怪にも頭と足が逆さになった、「妖兎」の姿であった。


てゐ「おば、おば、おばおばちんどん屋ァッ! い、一体どっから湧いて来てんのよ!?」

薬売り「そちらこそ……あっしは最初から、ここにおりましたが?」

 
 そして、ついに姿を現したる妖兎は、起き上がると同時に溢れんばかりに言葉を放つ――――ありったけの「文句」を載せて。
 まぁ正直、「またか」と言った所である。
 薬売りに文句を垂れる者は、何も妖兎に限った話ではないのだ。
 

薬売り「いえね、足音が聞こえましたので、”明かりがついたら”声をかけようと思ったのですが……」

薬売り「姉弟子様が、いつまで経っても、明かりをつけないもので……」

薬売り「故に、声をかける機会を……失ってしまった次第で……」


 薬売りの悪い癖だ。こやつはいつも、本当に唐突に現れよる。
 このやりとりはもう幾度となく見せられた事やら……もはや思い起こすのも億劫である。
 と言うわけで、夜更けが織りなす雅な静寂は……この相も変わらずな薬売りのせいで、文字通り台無しとなったのだ。


薬売り「むしろ、こちらの方がお尋ねしたい――――”何故に明かりをつけないので?”」


 今回の弁明は曰く、「声をかける機会がわからなかったから」と言う事らしい。
 ただでさえ暗い亭の中。さらにはその中で、明かりもつけずに忍び足を擦っているとあらば、まぁそうなる気持ちもわからんでもない。


てゐ「何故もなにも……あんたさぁ、空気読めないって言われない?」

薬売り「空気……ですか?」


 にしても……こいつに限っては、やはり”わざと”だったと、身共は断じよう。
 だって、そうであろう?
 いくら暗がりとはいえ、そこで誰が、何をしているかなど……薬売りだけはハッキリとわかっていたはずではないか。


てゐ「ったくもう……まじで……心の臓が飛び出るかと思ったわよ……」

薬売り「床が、汚れてしまいましたな」

てゐ「おかげさまでね。口ン中おもっきし吹き出しちゃったわよ、このアホンダラが」

薬売り「ご心配なく……後ほど、雑巾を御貸ししますので」

てゐ「――――お前が拭けよ!?」


 まぁ……薬売りの倫理感など、所詮はこの程度である。
 そういうわけで、だ。
 床に散らばった吐しゃ物は「誰が拭くのか」など、そんな事はどうでもよいのだ。
 肝心なのは――――この妖兎が”何を吐いたのか”にかかっているのである。



【零】

383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:19:41.35 ID:cTjbZ6OQ0


てゐ「……で、いつ戻って来たの?」

薬売り「つい先ほど……ちょうど、寅の刻を過ぎた頃合いでしょうか」

てゐ「あっそ。じゃあ……”先にうどんげと会ってきた”わけね」

薬売り「ええ……まぁ……」


 そう、この目前における、至要たる事実は決して忘れてはならない。
 この妖兎・てゐは此度の騒動に置ける唯一の生き残り。
 モノノ怪の神隠しを逃れし唯一の存在であり、なおかつこの消失劇を”他人事”のようにふるまい続けたあの態度は、決して忘れてはならない事実なのである。


てゐ「で…………うどんげは」

薬売り「行きましたよ……一足先に、ね」

てゐ「……あっそ」


 薬売りは慎重を期すかのように口数を減らした。
 それはやはり妖兎が、この期に及んでまだ態度を変えぬ事に一因する。
 その証拠に……薬売りの返答に対する妖兎の様相は、やはり顔色一つ変えぬままであった。
 悲しむでもなく喜ぶでもなく……同胞の兎が”どこに行った”のかなど、おのずと想像がつきそうな物なのに。


てゐ「あいつもバカよね。逃げるつもりで飛び出して、逆に取っ捕まってりゃ世話ないわ」

薬売り「見ておられたのですか……?」

てゐ「ハハ、違う違う――――想像よ」

てゐ「あいつがなんで逃げ出そうして、どんな決意で逃げて、んでどこで転んでほえ面下げたか……なんて」

てゐ「ほんともう、手に取るようにわかるわけ」


 そして薬売りは確信するに至る。
 やはりこの妖兎は、”全てを知っている”。
 先ほど玉兎が見せた、玉兎の中だけにある闇。
 してその闇に解を示す、真と理と――――


https://i.imgur.com/ZcU67Vs.jpg



薬売り「してその心は……」

てゐ「そんなの簡単な話よ」

てゐ「あいつ――――”バカだから”」

薬売り「…………」



 さらにはそれのみならず――――永琳、妹紅、姫君。
 彼女らが如何様な理を持ち、そして何ゆえにモノノ怪に狙われるに至ったか。


https://i.imgur.com/cltz2Fb.jpg


 妖兎は全てを知っている。
 故に深入りを避けた。
 それは――――”モノノ怪の獲物に自分が入ってない”と、密やかに確信していたから。
 もはやそうとしか考えられないのだ。



【確信】

384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:27:58.92 ID:cTjbZ6OQ0


てゐ「だってあいつ、まじバカじゃん? ”この薬”の事だってそう……」

てゐ「そもそも……誰も……蓬莱の薬だなんて……」

てゐ「一ッ言も! 言ってなかったのにさぁ!」


(――――蓬莱の薬は、絶対に知られてはいけなかったのに!)


薬売り「確かに、貴方様は「知られてはいけない薬」の事など、一言も漏らしていなかった……」

てゐ「なのに勝手に勘違いして、襲い掛かってきて、発狂ついでに全部ゲロってんの」

てゐ「言ってはいけないはずの秘密を、自分から……しかもみんなに聞こえるくらいの大声でね」


 そう言う妖兎の語りは、やや恨み節のようにも見受けられた。
 それはやはり、先刻の玉兎との痴話喧嘩が起因であろう。
 あの時は、薬売りを尻目に随分と派手な弾幕が飛び交っていたが……その原因が”玉兎の勘違い”であったとあらば、そりゃまぁ腹正しいであろう。
 喧嘩両成敗とはよく言うがな。あの場に限っては、妖兎は一方的な被害者であったと言えようて。


てゐ「正直まだヒリヒリするんわ。あのバカ、マジで弾幕ぶっ放してきやがったかんね」

薬売り「災難……でしたな」

てゐ「ほんとほんと、とんだ災厄兎よね」

てゐ「月の兎だかなんだかしんないけど、新参者の分際で無駄に偉そうだし」

てゐ「拾ってやったのに感謝しないし。アホの癖にやたら賢ぶるし……」


薬売り「……」


てゐ「勘違いを認めないし、謝らないし、詰めたら発狂しだしてめんどくせえし」

てゐ「ていうかそもそも、なんでタメ口なのこいつって話だし?」


 よほど溜まる物があったのか、妖兎はよい機会だと言わんばかりに、あらゆる愚痴を綴り続けた。
 妖兎の玉兎に対する悪態は個人的な不満でありながら、そこまで的外れでもなかったのは流石である。

 そんな妖兎からすれば、玉兎の失敗に終わった脱走は「ざまぁ見晒せ」と言った所であろう。
 相手の失態をあざ笑う趣向は、この妖兎の大好物である事を薬売りは知っている。
 しかし薬売りは、煽り建てる妖兎の口調から――――”一筋の本音”を感じ取った。



てゐ「あんなバカでアホでトラブルばっか起こす問題兎…………”外に出しちゃダメ”」

てゐ「そう、思わない?」



 悪態と嘲りの末に、導き出された結論――――
 それは此度のモノノ怪騒動と、同じであったのだ。



【籠の中】


385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:39:27.88 ID:cTjbZ6OQ0


薬売り「とどのつまり……貴方もまた、最初から知っていたのですね」

薬売り「あのうどんげの中に御座す――――もう一つの影の事を」


【物問】


てゐ「知ってるも何も、見るだけでわかるっつーの」

てゐ「あいつをここへ運んだのは、他でもないあたしよ? この竹林のど真ん中でぶっ倒れてた、見知らぬ謎の長身兎」

てゐ「しかもしかもいざ亭へと運んでみれば、なんとお師匠様のお知り合いだって言うじゃない」

てゐ「んなの……どー考えても”ワケアリ”なの、丸出しじゃん?」


 妖兎は語る。
 あの竹林で行き倒れた玉兎を最初に発見したのは、他でもない自分である事を。
 次いで語る。
 身なり、経緯、生活態度、その他諸々……
 同じ兎と括られる事が多い二羽の間で、あまりにも相違点が多すぎる事を。


てゐ「むしろ、わかんない方が不思議って感じ」

薬売り「見るだけで……ですか」


 そして最終的に結論付けた。
 単なる性格の違いと片づけるには、どうにも理屈が合わない。
 よって「こいつには何かある――――」そう察するのは自然な成り行きであると。
 してその察しは、結果として大正解であったのだ。


てゐ「ついでに言っとくけど、あんたが”うどんげに何をしたか”も想像つくわよ」 

薬売り「ほぉ…………してその心は」

てゐ「気持ちよかったでしょ? あいつ、かしこぶってるけど基本バカだし」


てゐ「――――”獲物が狙い通りに罠にかかる姿”なんて、愉快痛快もいい所よね」


薬売り「…………」


 このように、妖兎はやたらと”察する力”に長けていた。
 それは月とは違う、地上の兎であるが故なのか。
 はたまた出生など関係なく、この妖兎だけが持つ特技であるのか……
 とかくいかような経緯であろうと、そこは臆病で非力な兎。
 食われる立場の多い兎からすれば、それは紛れもない「長所」と言っても差し支えないであろう。

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:52:15.96 ID:cTjbZ6OQ0


てゐ「最初は新参者の癖に生意気だから懲らしめてやろうって、ただのそれだけだったんだけど」

てゐ「おもしろいくらい引っかかるから、なんかもう、いつの間にか病みつきになるくらいハマっちゃって……」

薬売り「向こうからすれば、災難そのものでしょうな……」

てゐ「そんなのお互い様よ。だから、あんたの気持ちも、よーくわかる」

てゐ「高飛車で偉そうで思わせぶりな素振りしてる奴を……”一発引っかけたくなる”その気持ち」

薬売り「…………」


 しかし薬売りにとっては、その長所は壁でしかなかった。
 妖兎のやけに鋭い「察し」の前に、薬売りの企みは、明らかに発覚していたのである。


(――――だったのかも知れません……ねぇ?)


 そう……先刻、薬売りは確かに、玉兎を”ハメ”たのだ。
 言葉巧みに理を聞き出した挙句、果てにその理が、不要とわかるや否や――――まるで、紙屑を屑籠に入れるように。
 

てゐ「おあつらえ向きじゃない。残り物には福があるってね」

てゐ「てなわけで……続きしよっか。ちんどん屋」

薬売り「続き……?」


 同じ兎がそんな目にあわされたとあらば、ただでさえ臆病な兎の猜疑心を揺り起こすのは必須。
 そしてそんな悪行をしでかした薬売りの人となりは、こうしてすでに発覚し終えている。
 しかも不幸な事に――――よりにもよって”最後に残した一羽に”である。


てゐ「ほら、余計なチャチャ入って中断してた……」



てゐ「――――【弾幕勝負】の続きをよ」



薬売り「…………」


 薬売りは、妖兎の問いかけに応ずることなく、そっと瞼を閉じた。
 それは心を落ち着けんが為。
 強いては妖兎の嘲りに、心乱され隙を見せぬ為である。



てゐ「ゲロさせてみなさいよ。ほら――――”うどんげの時みたいに”さ」



 薬売りにとってはまさに、ここが正念場であった。
 モノノ怪へ至る各々の理。その最後の一つが、こうして明らかなる対峙の姿勢を見せている。
 さもあらば、この妖兎を攻略せぬ限り、モノノ怪へと辿り着けぬが同義である。


https://i.imgur.com/wBeFKtu.jpg


 避けて通るはもはや不可能なこの状況――――
 仮に如何なる不足があろうとて。
 よもや、しくじる事など、許されるはずがなかったのだ。



【夜明けの番人】

387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 22:59:24.64 ID:cTjbZ6OQ0


てゐ「何よ、何今更ビビってんのよ」

てゐ「あんときゃノリノリで刀突き立てて来たじゃない――――”あたしをモノノ怪と思って”さ」


 薬売りは、しばしの間押し黙った。
 口を閉じ、眼を閉じ、座を保ったまま、妖兎の煽りに堪えておった。

 まぁ……迷っておったのだろうな。
 「この圧倒的に不利な状況を、以下にして乗り切らんか」。
 まさに難題を突き付けられた、貴公子さながらである。


てゐ「何を迷う? 単純な話じゃない」

てゐ「あたしとの弾幕勝負に勝てたら、全部吐いてあげるつってんの」


 しきりに弾幕勝負にこだわる妖兎の姿勢。
 薬売りにとっては慣れぬ文化であろうが、この幻想郷ではこれが当たり前なのだ。

 弾幕勝負――――弾幕で決着をつけ、弾幕で持って白黒をハッキリさせる、弱肉強食の如き絶対の掟。
 妖らしい、実に野蛮な掟である。だが必要な掟であるのもこれまた事実。



てゐ「でも、万が一あんたが負けたら…………」


てゐ「負けたら……負けようものならば…………」



 此度の対峙も、まさにその範疇であろう。
 弾幕至上主義の幻想郷の理。
 それはこの地に足を踏み入れた以上、何者であろうと、一切の関係がないのである。



てゐ「…………ごめん、あたしが勝ったらどうするか、そこ考えてなかったわ」



【度忘れ】
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 23:11:05.67 ID:cTjbZ6OQ0


薬売り「…………」

てゐ「ごめんごめん、ごめんって! そうよね、これじゃあ決闘が成立しないわよね!」

てゐ「だからぁ〜…………えっとぉ…………」

薬売り「…………」


 そしてその掟は、以下の契りで終結する。
 「――――弾幕勝負は、勝者が敗者のスペルカードを奪い取る事ができる」。
 もう一度言うが、これは幻想郷そのものの理である。
 よって、妖兎の提案は至極真っ当。妖兎はあくまで、この世の理に従っただけにすぎない。



【幻想郷――――之・理】



 故に、薬売りに拒否する権利などあるはずがなかったのだ。
 如何に不利であろうと、受け入れる以外に術はなかった。



てゐ「――――わかった! じゃあ、こうしましょ!」



 その結果が、齎した物は――――



https://i.imgur.com/meOQIXg.jpg



てゐ「あたしが勝ったら――――”退魔の剣を貰う”」


てゐ「どう? これで対等な条件じゃない?」


薬売り(こいつ…………)



 薬売りの勝機を、さらに狭めた。



【籠の中の鳥】


389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 23:21:38.86 ID:cTjbZ6OQ0


てゐ「そりゃそーでしょ。あんたの持ち物でスペカに相当する物って、ソレしかないじゃない」

てゐ「モノノ怪を斬る事ができる唯一の剣……だっけ? 唯一無比の価値だからこそ、勝ちの証に相応しい」

てゐ「違う?」


 妖兎の謀りは留まる事を知らず、確実に薬売りを追いつめつつあった。
 一見すると平等な賭けの提案であるが、当然その腹に平等の二文字などありはしない。

 地の不利。弾幕の不利。理の不利。能力の不利――――
 あらゆる状況が、すべからく妖兎の味方をしている事実。
 「妖兎の提案が、確かな勝算に基づいている」。
 如何に夜更けであろうとも、そんな露骨な打算に気づかぬ程、未だ薬売りは呆けていなかったのだ。


薬売り「一つ、お聞きしたい……」

てゐ「あ? 何よ」

薬売り「この退魔の剣を指定すると言う事は……万一あっしが負ければ、もはやあっしにモノノ怪に対抗する術がなくなると同義」

薬売り「そして、術がなくなる事で……”得をするのは一体誰か”」

てゐ「まどっろこしいなぁ。一体何が言いたいわけ?」

薬売り「貴方はやはり、モノノ怪の正体に気づいている……そして”全てを知った上でモノノ怪を庇おう”としている」

薬売り「あっしに斬らせない為に……退魔の剣を奪い、モノノ怪すらも永遠の一部にする為に」


 うむ……身共も薄々感じていたが、やはり薬売りもその結論に達したか。
 これまでの妖兎の態度から察するに、妖兎も”モノノ怪側”であったと断じざるを得ないのだ。
 それが如何様な理か、推し量る術はない。
 しかしやはり、妖兎の今迄の軌跡を振り返るに……”モノノ怪に組していたから”と考えれば、全ての合点が通ってしまう。

 
てゐ「何……探り入れてんの?」

薬売り「いえ、滅相もない……しかしそう感ずる程に、貴方の行動は不振に塗れていたのもまた事実」

薬売り「差し支えなければ……理に触れぬ範囲で結構ですので、お教え願えませんか?」

薬売り「貴方の行動が……”一体何に沿った行動であったのか”を」


 それは、今の薬売りにできる、精一杯の足掻きであった。
 かつて数多の「真と理」を白日に晒してきた薬売りが、今や懇願する事でしか知る術がないのだ。
 こうなれば、よもや……妖兎が上手い事、口を滑らす事を願うばかりである。


――――しかし




てゐ「ちんどん屋さぁ……”シュレディンガーの猫”って知ってる?」


薬売り「猫……?」



 かのようなか細い稀など、往々にして起こるはずもなく――――
 妖兎の口から、またも新たな謎が生まれたのだ。



【理論】
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/25(土) 23:22:13.71 ID:cTjbZ6OQ0
夜中また来る
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 02:21:18.77 ID:N+y5bzEE0


てゐ「あのね、とある猫を箱の中に入れて、一緒に50%の確率で毒になる餌を入れたのね」

てゐ「その状態で丸一日くらいほったらかしにしました。さて、では箱の中の猫は生きてるでしょうか、死んでいるでしょうか……って奴なんだけど」

てゐ「聞いたことない?」


 妖兎は薬売りの問いかけに、問いで返すと言う手段を取った。
 しかもその問は何ら関係のない問い。話題逸らしもいい所である。
 ううむ、やはりそこは謀り上手な妖兎。そう簡単に、尻尾は掴ませてくれないか……


https://i.imgur.com/jCqGQe1.jpg


 ……で、結局その「すれてんがーの猫」とやらは生きているのか? 死んでいるのか?


薬売り「……その時の状況によりますな」

てゐ「お、なんか新解釈」


薬売り「50%の確率で毒になるならば、運がよければ毒にならずにすむ可能性もある」

薬売り「それ以前にそもそも猫は腹をすかしておらず、一日程度なら餌を口につけないかもしれない」

薬売り「それにその箱の中に入れたと言う状況……その箱がどのような箱だったのかで話は変わる」

てゐ「おお、なんかドンドン深い話に」


薬売り「箱の中は快適な小屋だったのか、はたまた粗雑なただの物入れだったのか……」

薬売り「そして猫は、飼い猫だったのか野良猫だったのか」

薬売り「言い換えれば、”飼い主”に入れられたのか、”見知らぬ人間”に入れられたのか」

てゐ「ははーん、なるほどなるほど……」


薬売り「猫は箱に入れられる事をどう感じていたのか。それによって、結果は随分と左右されましょう」

てゐ「で……つまり?」



薬売り「――――”開けてみるまでわからない”。これが答えとなりましょう」


 な……なんだその答えは!  
 「開けてみるまでわからない」って……そんなもの、誰だってそう答えるわ!
 新たな頓知だと思い少し考えてしまったではないか……ったく。
 妖兎も妖兎だ。素直に話を逸らせばよかろうに、よりにもよってこんな思わせぶりな台詞を吐くなどと……


てゐ「あー、結局そうなるわけ……」



 ……ん? 思わせぶり?

392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 02:35:00.34 ID:N+y5bzEE0


てゐ「これはね、実はちゃんとした答えがあって」

てゐ「開けてみるまでわからないってのは正しいんだけど……この問に関して”だけ”で言えば、残念ながらハズレなのね」

薬売り「して……その心は」


てゐ「正解は――――生きてもいるし、死んでもいる状態」


てゐ「つまり、”生死が同時に起こっている状態”が答え……ってわけ」


薬売り「……えっ」


 ……はぁ? こやつは一体何を言っているのだ。
 生死が同時に起こるだと? おいおいバカを言うな。
 毒を食らわば猫は死ぬし、食わねば無事生き残る。
 答えがどちらかこそ開けてみるまでわからぬが、結果はどちらか”片方しかない”のは明白ではないか。


薬売り「受け売り……ですか?」

てゐ「鋭いわねちんどん屋。そーよ、これはお師匠様から聞いた、ただの丸暗記」

てゐ「”りょーしがくりきろんに基づくしそー実験”って奴らしいわ。正直、あたしもちんぷんかんぷんなんだけどね」

薬売り「それがモノノ怪と……何の関係が……」

てゐ「その話は、いつぞや、うどんげといた時に聞いた話だった」

てゐ「うどんげはわかったフリしてウンウンうなづいてたけど、その実全然わかっていなかった」

てゐ「だからちょっと突っ込まれたらアッと言う間にボロを出して……って、そこは関係ないわね」


 ぬぬ……これが月の英知の片鱗か……
 何が何やらさっぱりわからぬが、永琳直々の教授ならば、それは確かなる一つの論理なのだろう。
 むぅ……修験ではなく、学者にでもなるべきだったかのぅ。
 さすれば今頃、身共も賢者と讃え呼ばれておったやもしれぬのに。


てゐ「でも……あたしは何となく、こう……理屈じゃなく、感覚でわかった」

てゐ「なんとかかんとか論とか、小難しい事は一切わかんないけど……でも”確率”の事を言ってるんだってのは、すぐに理解できたの」

薬売り「確率……?」


【学論】


てゐ「こう見えて、昔から”確率計算”だけは得意でね。ま、使う機会のない特技なんだけど」

てゐ「でもその分、何かに例える事が出来る」

薬売り「差し支えなければ……お教え願えませんか」

てゐ「そうね……あんたっぽく言うと……」



【――――確率之・理】



てゐ「と、言った所かしら」

393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 02:48:21.81 ID:N+y5bzEE0


てゐ「確率は、不確かなようでとある理に沿って動いている」

てゐ「そしてその理は、人には決して理解できない理」

てゐ「理解できないけど、確かに存在する理。全てが異なる独自の理」

てゐ「なのにその理は、時として現実世界に影響を及ぼす」

薬売り「それは……」

てゐ「これって……あんたの言う”モノノ怪と同じ”じゃない?」


 まったく、何を小難しい事を言い出すのだと思ったが……「理解できずとも問題ない」とわかれば一安心だ。
 すれてんがーの猫とやらは、要は例え話。
 確率が持つ独自の法則が、モノノ怪の生態と酷似すると、妖兎はそう言いたかっただけに過ぎないのだ。
 

てゐ「お師匠様は、この確率が起こす矛盾を、こういう風におっしゃったわ」


てゐ「――――”確率は観測される事で初めて一つに集約される”」


薬売り(観測……)

てゐ「これがその、りょーしなんとか論の結論らしいわ……まぁ、そっちはさっぱりわかんないけど」


【理屈】


てゐ「でも……最初にその剣の抜き方を聞いた時、あたしはピーンと閃いた」

てゐ「退魔の剣が【形と真と理】を必要とするのは――――このシュレディンガーの猫と同じなんだって」


 しかしながらその例えは、実に興味を引く話であった。
 箱の中の猫云々は存ぜぬが、確率の話ならば身共もわかる。
 要は、「丁半博打」の事を言っているのだろう?
 ふふ、懐かしいのぅ……身共も若かりし頃、夜な夜な街に繰り出しては博打に明け暮れたものよ。


てゐ「退魔の剣を抜く事は、猫の入った箱を開けるのと同じ事……見えない世界にいるモノノ怪を、観測することで一つの結果に表す事と同じ」

てゐ「だから斬る事ができる……いや、”斬ると表現”する事ができる」


 そういえば、この薬売りは博打を嗜むのかのう。
 なさそうだな……なんとなくこいつは、そう言った運否天賦とは無縁な気がするよの。
 ま、元々が薬売りである故な。こやつは理に沿ってのみ動く「お堅い」人種と言えよう。

 だからこそ、疑問に思うはずだ。
 薬売りが持つ退魔の剣。と、その所以。
 何故に剣は、形と真と理を求め、何故にモノノ怪を斬る事ができるのか。


 
薬売り「この剣が……観測を……?」


 ひょっとしたら、妖兎の説は図星だったのかもしれん。
 今だからこそ言うが、身共もほとほと不思議に思っていたのでな……
 あんな摩訶不思議な刀、一体どこで手に入れたのやら――――そして如何様にして、抜き方を知ったのか。


https://i.imgur.com/8aBMcb2.jpg

394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 03:03:58.61 ID:N+y5bzEE0


てゐ「あんたの言う通り、結果は開けてみるまでわからない」

てゐ「でも言い換えれば、開けてみるまで”確率は無数に存在している事になる”」

てゐ「だから、生きてもいるし、死んでもいる状態……そんな矛盾が、確率の世界では往々にして起こる」


【確率解釈】


てゐ「その剣は、そんな矛盾を紐解くことができる。矛盾を観測することで、一つの事象に表す事ができる」

薬売り「この剣が…………確率を…………?」

てゐ「だから、退魔の”見”。もしかしたらそれ……刃はついてなかったりして?」

薬売り「…………」


 ひょっとして……知らなかったのか?
 おいおい頼むぞ薬売り。自分の得物を昨日今日会ったばかりの兎に看破されたとあっては、今迄斬られたモノノ怪達が化けて出よるわ。

 妖兎の仮説は、今の所筋が通っておる。
 というか、たった一晩でよくぞまぁ……そこまで推察できた物よ。
 身共も全てを知るわけではないがの。
 身共の知る範囲の中では、今の所妖兎の説は、見事なまでに的中しておるのだ。


てゐ「その剣に顏みたいなのついてんのも、ひょっとしたらそういう事なのかもね」

薬売り「考えた事も……ありませんでしたね」

てゐ「アホ、薬売りなんだから自分の商売道具くらい知っときなさいよ」

薬売り「肝に銘じて……おきましょう……」

てゐ「まっ、でも――――”剣がなくても薬は売れる”わよね?」

薬売り(くっ…………)


 妖兎が剣を引き合いに出したのは、やはり謀りの範疇であった。
 得意な確率論とやらで結論を導き出し、その果てに「剣の取得が絶対条件である」と結論付けたのだ。
 そうなれば、いよいよ持って窮地である。
 かつて数多の真と理を紐解いてきた薬売りが、よもや……
 ”自分が解き明かされる側になろうとは”、一体誰が想像できたであろう。 



395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 03:45:11.08 ID:N+y5bzEE0


てゐ「わかる? 今のあんたから見たあたしは――――”モノノ怪でありモノノ怪でない”」

てゐ「仮にあたしがモノノ怪なら……退魔の剣を奪う事は、あんたから身を守る事と同じ」

てゐ「逆にあたしがモノノ怪じゃなかったなら……あたしはその剣を手にする事で、モノノ怪から自力で身を守る事ができる」


薬売り(その所以は……おそらく……)


てゐ「何故ならば、モノノ怪の理に最も近いのはこのあたし」

てゐ「どちらの確率も観測できるのは、最後に残ったこの因幡てゐしかいない」



【丁半】



てゐ「その剣を抜くのは――――あたしこそが相応しい!」



薬売り(自らの手で退魔の剣を抜こうと言うのか――――!)



 この妖兎……小さき成りで、とんだ食わせ物であった。
 かのような童さながらの姿から、如何様な怪奇極まる論理が飛びでよう等と、一体誰が予見できたであろうか。
 薬売りがしくじる姿を見るのは愉快ではあるがな。
 しかし、事はあまりにも……本当に、後一歩の所なのに。


https://i.imgur.com/dWuqAgV.jpg

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 04:36:25.02 ID:N+y5bzEE0


てゐ「まさにシュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーの兎?」

てゐ「箱の 中の 兎は いついつでやる――――ってか?」


 他の者にかまけ、不振とわかりつつ放置してしまったせいか。
 月の話に魅せられ、地上の兎に目を向けなかったせいか。
 薬売りは妖兎の煽り言葉を前に、実しやかに噛み締めておった――――この妖兎は”最後に回すべきではなかった”。

 タガの外れた妖兎は、もはや誰にも止める事が出来ぬ。
 何故ならば、妖兎を諫める唯一の存在……”八意永琳”。
 彼女はもう、とおの昔にいなくなってしまったのだから。


てゐ「――――さぁてちんどん屋ァ! おしゃべりタイムはもう終わり!」

てゐ「あたしってば、決闘の前にベラベラおしゃべりすんの、あんま好きくないのよね!」


 あわよくばを狙った薬売りの儚い企みは、こうして露も残らず消え失せた。
 これから決闘をする者同士、交わすべきは言葉でないのは明白である。

 ベラリ――――次の瞬間、妖兎は意気揚々と一枚の札を取り出した。
 その札こそが、この幻想郷に置ける決闘の合図。
 その名も「すぺるかうど」。
 妖兎の持つこの特有の符が、もはや待てぬと言わんばかりに今、薬売りの眼前に突き付けられていたのだ。


https://i.imgur.com/Q8ttjXJ.jpg

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 04:44:14.28 ID:N+y5bzEE0


てゐ「【カード宣言】――――これからあたしは、この符であんたに弾幕を仕掛ける!」


てゐ「――――一つ! 妖怪が異変を起こし易くする為!」


てゐ「――――一つ! 人間が異変を解決し易くする為!」


 妖兎が数える掟は、薬売りに対する秒読みと同義であった。
 この秒読みが始まってしまえば、もう誰にも止める事はできない。
 再三に渡って繰り返すが、これはあくまで幻想郷そのものの理。
 よって始めると宣言した以上、勝敗を決することでしか、もはや逃れる道理はないのだ。



てゐ「――――一つ! 完全な実力主義を否定する為!」


薬売り「致し方…………ありませぬな…………」



 薬売りはポツリと諦めの言葉を吐いた後、懐に入れた退魔の剣に、そっと手を伸ばした。
 それは弾幕勝負に乗る事の表れ。
 妖兎が声高らかに告げる最後の理念が伝え終われば、次の瞬間、あの無数に飛び交う「弾幕」が、薬売り目がけて一斉に飛び込んで来るのである。

 それらを空手で捌ききれるはずもなく、薬売りもまた、弾幕で対応するしかなかった。
 札か、天秤か、はたまたイチかバチか――――”退魔の剣が抜ける事”に賭けるのか。
 如何様に対処するのかは、これから薬売り自身が決める事である。



てゐ「――――一つ! 美しさと思念に勝る物は無し!」


薬売り(くる…………!)



【来光】
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 04:47:27.85 ID:N+y5bzEE0


――――幻想郷に置ける弾幕を用いた決闘法。通称「弾幕ごっこ」
 至る所で当たり前のように起きるこの決闘法であるが、此度の決闘は、ちと特殊であった。
 それは、対峙する片方が”幻想郷の住人ではない”と言う事。
 郷に入っては郷に従えと言わんばかりに、半ば強引に決闘へと引きずり込まれた、哀れな一人の対峙者である。



てゐ「さあ――――行くわよ!」



薬売り「…………!」



 そんな事情など知った事かと、幻想郷は、掟を容赦なく新参者に押し付けた。
 妖兎・てゐ――――この者の宣言によって、夜更けの晩に、一つの決闘が幕を開いたのだ。




(――――)




 そして決闘は、幕を開くと同時に――――




(………………えっ)





https://i.imgur.com/1Tif662.jpg






薬売り「――――参りました」





(ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?)




――――無事、閉幕を迎えた。



【投了】

399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/26(日) 04:47:58.08 ID:N+y5bzEE0
本日は此処迄
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