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永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」
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以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/13(土) 23:55:50.34 ID:c7/SmhYwo
(………………静か)
月の表側は、それはそれは静かでした。
レイセンにとっては初めての経験です。
レイセンの耳を以てしても、何も聞こえない”真の静寂”が、そこにはあったのですから。
(何にも…………聞こえなぁ〜い…………)
静寂は、全ての音をかき消しました。
今頃必死になって探しているであろう追っ手の声。
自分の噂話をしているであろう月人の声
心配しているであろう飼い主の声。
部屋の中で聞こえた、穢れ人の声。
そして――――”自分自身の声”すらも。
(………………まぁ)
月の表側は、もう一つ、とある法則がありました。
それは「全てが軽くなる」事です。
足元の小石を少し蹴とばしただけで、石はまるで、土煙のようにどこまでも漂っていきます。
ふわふわと心地よさそうに浮いていく小石を見て、レイセンはふと思いました。
この場所で、この何もかもが浮つく静寂の場所で――――
もしも、自分の脚で、”思う存分跳んだなら”。
(気持ち…………よさそ〜…………)
レイセンは、何も考えていませんでした。
本当に、何も考えていませんでした。
考える声も、月で過ごしたたくさんの思い出も、自分が最も恐れた顏さえも。
脳裏によぎる全てが、目の前の単純な好奇心に上塗りされていきます。
(何やってんだ―――― や め ろ ! )
何も聞こえませんでした。
何も見えませんでした。
だから跳びました。
だから跳べました。
それが――――穢れた地への落とし穴だとも、気付かずに。
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