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メイド「私の嫌いな貴方様」
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1 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 17:03:09.19 ID:NEjKxo6m0
メイド「そもそもから言って、私は貴方様との婚姻に賛成しているわけじゃないんですよ」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1488096188
2 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 17:19:21.05 ID:NEjKxo6m0
メイド「覚えています? 初めて出会った日のこと」
ヤカタ
メイド「我が家に突然お館さまがいらっしゃって、婚約者にしたからと言うんですよ」
メイド「なにも知らされてなかった私は大変驚きましたよ。……まあ、私に話がいくわけないですけど……」
メイド「納得は勿論しませんでしたよ。……けれど、旦那さまが決めたこと」
メイド「メイドの私が口出しできるわけがございません」
メイド「ええ、内心どれだけ怒りの火が燃えたぎっていたことか!」
メイド「しかも、貴方様に少しでも時間ができると、顔を見たかった〜とかなんとか申し上げられて屋敷まで押し掛けて」
メイド「貴方様はそのとき十三歳ですよ」
メイド「来訪なされたとき、貴方様なんて言ったか覚えてます?」
メイド「将来のお嫁さんと早く仲良くなりたくて、ですよ!」
メイド「普通、十歳の女の子にそんなこと言いますか?! ませてますねっ!」
3 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 17:37:37.21 ID:NEjKxo6m0
メイド「え? えぇえぇ確かに喜んでいましたよ。貴方様がいらっしゃる〜って」
メイド「ですが、それはそれです」
メイド「いま私は貴方様との結婚に賛成できない、という話をしているんです」
メイド「だったら君の話も関係ない、ですって?」
メイド「そんなこと一々気にするような人と結婚するんですか……ふぅーん……」
メイド「話を続けますよ」
メイド「次は貴方様の別荘に行ったときのことを思い出しましょうか、ねぇ……簡単に思い出せるでしょう」
メイド「あれだけのことをおやりになられたのだから」
メイド「――そう。そうです。そのことです」
メイド「つかぬことをお聞きしますが、貴方様は当時何歳でいらしたでしょうか?」
メイド「――。そうですね、十六歳です」
メイド「と、いうことは?」
メイド「――。勿論そうですね。三歳差なのですから、十三歳ですね」
メイド「そんな男女が? ええ? 夜に別荘を抜け出して二人きり?」
メイド「どれだけ責任感無いんですかね? どんな間違いが起こるか分かったもんじゃないですよ? ねえ?」
メイド「星を見せたかった。ふぅん……見せたかっただけじゃないですよね?」
メイド「そうですね。それを言って泣かせましたね」
メイド「なんですか? 一生幸せにするって? そのフェイスに似合ったあまあま告白ですね」
メイド「古くさいプロポーズにうんざりです」
4 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 18:31:14.98 ID:NEjKxo6m0
メイド「で、ですよ。泣いて帰った理由を聞いた旦那さまが……」
メイド「うちの子を君に頼んだ正解だったって」
メイド「奥様も似た調子で」
メイド「はあ……ほんと何かあったらどうするつもりだったんですか?」
メイド「……はあ……もういいです……これだけじゃありませんからね」
メイド「――って、ため息を吐かせている原因は貴方様でしょう!!」
メイド「h……っ! つぎっ!」
メイド「お祭りです! そうお祭り!」
メイド「あの頃はおたがい受験生だったのにも関わらず、よくそんなものにつれていきましたね」
メイド「確かにね、よろこんでいましたよ。わーいデートだ、といって」
メイド「……は? いまはそんなこといいでしょう。結局楽しんでたのでいいんです」
メイド「で、これまた二人で抜け出して? え? 何をしたんですか? え?」
メイド「……。しつこいとか言わない! 照れて顔を赤くしない! ほら……」
メイド「……。そうですよ。そうですそうです。ちゅーですよ、ちゅー、初めての」
メイド「おう、唇は柔らかかったか? ええ? ふざけんじゃねえよ! ……おっと、失礼……なにおふざけあそばれやがりましたのですか?」
メイド「ずっと、ずっと……私はね、大切にしていたんですよ」
メイド「それに突然手を出されたわけですよ。いやね、確かに……」
メイド「確かに許嫁同士、いつかはされるのだと思いましたよ」
メイド「けれどね――え? 嬉しそうだった? だからどうしたのです? 相手が喜べばなんでもしていいと申すのですか? 貴方様は?」
5 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 18:53:23.27 ID:NEjKxo6m0
メイド「まあ、もういいですよ。キスの話は」
メイド「そんな色恋に惚けた貴方様の顔を見るのは耐えないことですからね」
メイド「……はあ? それは知っていますよ。私を誰だと思っているんですか?」
メイド「なんだかんだと言いましても、やっぱり一番信用されているのは私ですからね、残念でした!」
メイド「じゃあこの調子で話していきますか」
メイド「ちょっとそこ、逃げない。なんのために内緒で呼び出したと思っているんですか」
メイド「まあ、逃げたくなるのは分かりますよ……。だって、ねえ?」
メイド「キスの次といえばねぇ?」
メイド「……ええ、聞きますよ。聞きますとも」
メイド「貴方様が大学四年になった頃ですか……」
メイド「免許をとった貴方様は、受験の終わった許嫁を連れて遠出しましたね」
メイド「想像してください。互いに将来を約束しあった者同士だけで遠出……」
メイド「相手は明らかにこちらに好意を寄せている……」
メイド「……。間違いが起こらないわけないですよね? ね?」
メイド「……はい。なにも言わなくて結構です。その反応が全てを語ってます」
メイド「やだやだ、これだから最近の若い人は……。男女七歳にして同衾せずって言葉をしらないんですか」
メイド「どうです? 可愛かったですか? どうでしたか?」
メイド「そうですよね。ずっとずっと一緒に居たんですもの、知ってます」
メイド「というより、貴方様より知っています……」
メイド「私だって……」
メイド「……。…………」
メイド「黙ってください……。泣いてませんよ……ただ、好きだったんです……」
メイド「私は……」
6 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 18:54:25.71 ID:NEjKxo6m0
メイド「お嬢様のことが……」
7 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 19:11:57.13 ID:NEjKxo6m0
メイド「……お嬢様と私は、お友だちとして、貴方様より前に、お嬢様と仲良くしていたんです」
メイド「優しくて、守ってあげなくちゃいけないくらいおちょこちょいで、やっぱり優しくて……」
メイド「――私の一番の人。この人になら殺されてもいい、それぐらい大切な人」
メイド「それなのに……」
メイド「どうして貴方様なんているんですか? どうして、私は貴方様じゃないんですか? どうして……」
メイド「お嬢様……私を選んでくださらなかったのですか……?」
メイド「……。……黙ってください。しゃべらないでください話しかけないでください!」
メイド「――私にそんなに優しくしないでください……」
メイド「嫌いです。嫌い嫌いきらいっ! 男だからって、許嫁だからって、お嬢様と結婚できる貴方様が嫌いです!」
メイド「――っ!!! 知ってますよ! 貴方様がお嬢様のことを大切にしていることくらい」
メイド「お嬢様が嬉しそうに話すんですもの。今日はあれを頂いたとか、手を握って連れていってくれたとか」
メイド「私だってできますよ! プレゼントも、手を握ることも!」
メイド「でも、私は知っています……貴方様からだからあんなに嬉しそうにお嬢様は語っていらしたのだと」
メイド「それに、このことも知っています」
メイド「――貴方様がどれだけお嬢様のことを愛しているのかということを」
8 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 20:27:40.93 ID:NEjKxo6m0
メイド「私もね、賛成したくなんかありませんよ、貴方様とお嬢様の結婚なんて」
メイド「でも、認めるしか無いじゃないですか……!」
メイド「私はただのメイドで、お嬢様を連れ出して逃げる力もなければ、旦那さまに婚約を反故にしてもらえる立場でもない」
メイド「それにですよ……」
メイド「お嬢様を一番幸せにできるのは貴方様なんです」
メイド「家柄的にも、経済的にも……それにお嬢様の気持ち的にも……」
メイド「ねえ……貴方様……」
9 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 20:31:51.51 ID:NEjKxo6m0
メイド「………………」
メイド「………………はい……」
メイド「そうですか…………」
メイド「……貴方様……」
メイド「どうか……どうか……お嬢様のことをよろしくお願いします……」
メイド「…………」
メイド「はい……そんなこと、当たり前ですよ」
10 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 20:46:13.69 ID:NEjKxo6m0
メイド(翌日、お嬢様は嫁ぎ先に行ってしまわれた……)
メイド「ああ……」
メイド(昨晩の式の後始末。散らかった紙吹雪。汚れた食器)
メイド(どれもこれもいなくなってしまったあかし)
メイド「……っ!」
メイド(心中にどうしようもない寂寥感がつまり、私を突き動かす)
メイド(気づいたら駆けていた)
メイド(後ろから、どこいくのよ掃除サボんなとか聞こえたがそんなもん知るか)
メイド(私は――)
メイド「はあ……はあ……」
メイド(お嬢様の部屋……)
メイド(ドアを開け、中に入る)
メイド(そこには当然、誰もいなかった)
メイド「お嬢様……」
メイド(足は無意識のうちにヨロヨロとベッドの方へ……)
メイド(誰もいないベッドへと倒れこむ)
メイド「お嬢様……」
メイド(鼻孔をくすぐる大好きな匂いが、つーんと目奥を撫で上げた)
メイド「っ……お嬢様ぁ……」
メイド(私の大好きな人は、私の大嫌いな人のところへといってしまった)
メイド「私の嫌いな貴方様」
メイド(お願いです。どうか……どうかお嬢様を――私の大好きな人を――幸せに……)
11 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/02/26(日) 20:48:04.82 ID:NEjKxo6m0
【メイド「私の嫌いな貴方様」】 おわり
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/26(日) 22:28:32.31 ID:/8nlRx4I0
パールとグレッグみたい
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/27(月) 01:53:54.15 ID:nc9+kS0Ao
メイドを愛人にすればずっと一緒にいられるやん
14 :
◆TEm9zd/GaE
[saga sage]:2017/02/27(月) 19:41:38.72 ID:Q61ryPN30
【女吸血鬼「いつまで君のことを覚えていられるかな……?」】
15 :
◆TEm9zd/GaE
[saga sage]:2017/02/27(月) 20:15:15.45 ID:Q61ryPN30
少女「はやく起きてください……もうとっくに日が暮れましたよ……吸血鬼さま……」
女吸血鬼「ん? くぁあ〜。……そうかい」
女吸血鬼「君、つかぬことをきくが……人間は起きている間何をしている?」
少女「あっ! ついに人間の生活に興味を持ちはじめたんですね!」
少女「いいですよ! 不肖この少女、吸血鬼さまの気になること、頭から尻尾揺りかごから冥府まで、なんでも教えますよ!」キラリーン
女吸血鬼「…………」
女吸血鬼「で? 私の質問の答えは、どうしたんだね?」
少女「ああっはいっ!」
少女「ええっとですね……男は村の外にいって狩りを、女は家で洗濯裁縫、子供は畑や田んぼの手入れですね」
女吸血鬼「つまり生産的に過ごしていると?」
少女「そうですね。生きてくために必要ですから」
女吸血鬼「ふむ……。では私はなんだ? 言ってみろ。人間か、私は?」
少女「は? 嫌ですね、吸血鬼でも痴呆ってあるんですか?」
女吸血鬼「……」ピクッ
女吸血鬼「……そうだな……私は吸血鬼だ」
女吸血鬼「……そう、私は吸血鬼である」
少女「……そうですね。爪先から頭の先まで純吸血鬼ですね」
女吸血鬼「そうだそうだ。いいか君、この私が自身の種族について忘れると言うことは一切ない!」
少女「……名前は?」
女吸血鬼「は?」
少女「自分の名前です……言えるでしょ? ……言えますよね?」
女吸血鬼「………………」
女吸血鬼「……ァ、――ノ……二世だ!」モゴモゴ
少女「はい? そんな噛みきれないものを食べているんじゃなんですから言葉をモゴモゴさせないでください。……ひょっとして……入れ歯が必要ですか?」
女吸血鬼「…………」ブチッ
女吸血鬼「なんたら、なんたらーノ二世だ! ……ふんっ」
少女「なんたらって……覚えてないじゃないですか……!」
女吸血鬼「ええい! そんなことはどうでもいいのだ」
16 :
◆TEm9zd/GaE
[saga sage]:2017/02/27(月) 20:27:43.02 ID:Q61ryPN30
女吸血鬼「あれだ……! 吸血鬼になるときに名前を捨ててきたのだよ! 私は!」
女吸血鬼「ともかく、いま! 大事なことは、私が吸血鬼だということだ!」
少女「はぁ……」
女吸血鬼「君、吸血鬼が死に物狂いで生きるために何か活動していると思うか?」
少女「血を吸――」
女吸血鬼「そう、無い! 無いのだ!」
少女「――? いや、ですから……吸血――」
女吸血鬼「な・い・の・だ!」
女吸血鬼「吸血鬼は優雅であり、気まぐれであり、恐怖の象徴なのだ!」
女吸血鬼「そんな私がだ! なんだ、学者だかなんだかの小娘に起こされなあかんのだ!」
少女「つまり……ここまで散々声を荒げたのは……」
女吸血鬼「そう。私はもう一度眠りにつかせてもらう!」
少女「……正直、目……覚めましたよね?」
女吸血鬼「…………うむ」
17 :
◆TEm9zd/GaE
[saga sage]:2017/02/27(月) 20:34:25.50 ID:Q61ryPN30
少女「一回……おちつきましょう……?」
女吸血鬼「……そうだな……うむ……」
女吸血鬼「…………」
少女「…………」
女吸血鬼「…………」
少女「……落ち着きました……?」
女吸血鬼「…………」
少女「……? 吸血鬼さま? …………?」
女吸血鬼「……くぅ……くぅ……」スヤスヤ
少女「いや、なに二度寝してるんですか! 起きて! 起きてください!」
少女「起きて、私に研究されてください!」ユサユサ
女吸血鬼「ママぁ……あと五分……」
少女「誰がママだ?! あと、ベタだな、おい!」
18 :
◆TEm9zd/GaE
[saga sage]:2017/02/27(月) 21:04:58.45 ID:Q61ryPN30
――――――
――――
――
女吸血鬼「……今回のことは私が寝ぼけていたということで……」
少女「はい……私も吸血鬼さまに不敬な言葉使いを……大変失礼しました……」
女吸血鬼「いいんだ、いいんだ。……忘れてさえくれれば」
女吸血鬼「さて、本題に入ろうか。君、昨日の続きでいいのかね?」
少女「はい。まだまだありますよ」パサァ
少女「ではこのカード、裏に何がかかれているか、分かりますか?」
女吸血鬼「分からない。どうやら私には透視の力はないようだ」
少女「そうですね。次、じゃあ……このカードを手を使わずに動かしてください」
女吸血鬼「同じく無理だ。念動の才能もない」
女吸血鬼「……なあ君、本当にこんな不毛なこと今晩も一晩中続けるのか?」
少女「そうですよ。何かあるはずなんです、吸血鬼の隠された力が」
少女「だってそうですよね。日光に弱い、十字架がだめ、銀のナイフで即死、流水に勝てない、ニンニクアレルギー」
少女「そんな弱点の多い吸血鬼の力が、不老不死(笑)と夜目がきく(爆死)だけですよ!」
少女「そんなわけないじゃないですか!」
女吸血鬼「……君……バカにしてるだろ……?」
少女「いいえ、まさかそんな滅相もない」
少女「ただそんなに多くの弱点があるのなら、不老不死(笑)なんてあってないようなものだと思いますけどね」
女吸血鬼「君…………まあいい……で、そう思ったから、私には何かしらプラスになる能力があると思った訳だ」
少女「ええそうです、さすが聡明でいらっしゃいますね、吸血鬼さまは」
女吸血鬼「……まあ暇潰しになるからいいか……で、次のは?」
少女「そうですね――」
女吸血鬼「――――ほうほう」
19 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 16:25:34.37 ID:+/5mbZAU0
――数年後
女「吸血鬼さま、起きて……あれ?」
女吸血鬼「今日は遅かったね、君」
女「吸血鬼さまの起きるのが早いんですよ」
女吸血鬼「そうかい……まあそんな些末事はどうでもいいことだろう」
女吸血鬼「君から譲ってもらった茶をだそう」
女「おねがいしますね」
女吸血鬼「ふむ……そういえば覚えているかい、君がここに通い始めた頃のこと」
女吸血鬼「なんだったか……吸血鬼には何か知られていない力が隠されてるとかなんとか言って色々なことをしたね」
女「……結局すぐ試すことを思い付かなくなって……」
女吸血鬼「そうそう。君はそうして世間話の相手兼、ときどき検査調査の間柄になったんだけっか」
女「早いものですね……あ、ミルクありますか?」
女吸血鬼「ふむ、あるにはあるがもう少しできれるな……申し訳ないが次はミルクを持ってきてくれ」
女「はい。と、ありがとうございます」
女吸血鬼「うむ。熱いからな、気をつけて飲めよ」
20 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 16:49:15.85 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「ところで、君……最近こっちに来る頻度が上がったんじゃないかね」
女「そうですか?」
女吸血鬼「ああ、前は――君が少女だったころは――週に2日3日顔を出す程度だったが……」
女吸血鬼「ここ最近はほとんど毎日だぞ」
女「……居心地がいいんでしょうね、きっと」
女「吸血鬼さまはどうなんですか?」
女「ずっと一人だったでしょう、寂しくなかったんですか?」
女吸血鬼「そうでもない。何せ君たちの村が近くにあるからね」
女吸血鬼「定期的に君のような物好きが来たものさ」
女「物好き……ですか……?」
女吸血鬼「そうだね。わざわざ何が出るか分からない夜の森を抜けてここまで来るんだ」
女吸血鬼「これを物好きと言わずになんと言えばいいか、私は分からないな」
女吸血鬼「それに――」
女「それに、なんです?」
女吸血鬼「寂しさ、という感情が分からなくなるくらい、長く、生きすぎた」
女吸血鬼「寂しさだけじゃない。覚えたことよりも、忘れたことの方が多いくらいだ」
女「…………」
女「それでも――」
女吸血鬼「それでも、なんだい?」
女「……私のことは覚えていてくれますよね……?」
女吸血鬼「――…………」
女吸血鬼「どう……だろうね……」
女吸血鬼「なにせ自分の名前を忘れたくらいだ」
女「……」
21 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 17:31:25.90 ID:+/5mbZAU0
――――
――
女「……こんばんは」
女吸血鬼「おや、ひさしぶりだね君」
女吸血鬼「あんな話をしたんだ、もう来てくれないと思ったよ」
女「そうですね、暗にお前のこと忘れるからと言われて、正直悲しかったですよ」
女吸血鬼「すまないね……軽率な発言だった」
女「ええ、本当に軽率……」ピトッ
女吸血鬼「……? どうしたんだね、君。そんなにくっついて……」
女「たいした理由はありませんよ。ただ、忘れてほしくないからです」
女「私が吸血鬼さまの近くにいたということを……」
女吸血鬼「……そうかい」
女吸血鬼「……君は――」
女吸血鬼「君は……随分と年をとったな……」
女「あらひどい。まだ30手前ですよ、私」
女「でも、そうですね、確かに年をとりました。もう少女とは口が割けても名乗れない」
女「……吸血鬼さまは変わりませんね。出会ったころのままです」
女吸血鬼「不老不死だからね。数多くのバッドステータスに埋もれた唯一……いや二つある長所の内の一つだ」
女吸血鬼「これがなければとっくに自殺していたところだよ、私は」
女「……自殺?」
女吸血鬼「気が狂うくらう長く生きているということさ」
22 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 18:00:59.48 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「おっといけない、またも軽率なことをいってしまったよ。失敬失敬。忘れてくれ」
女「……」
女吸血鬼「――おや? よく見ると君、指が綺麗だな」
女「え? 指、ですか?」
女吸血鬼「うむ、指だ」スルリ
女吸血鬼「長くて、白くて、ふむ……」ギュ
女吸血鬼「――絡ませがいのある指だ」
女「……あまり日に焼けませんから……だから白いんです」
女吸血鬼「私と一緒だな」
女「……吸血鬼さまの指も綺麗ですよ……」
女吸血鬼「ありがとう」フッ
23 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 18:16:00.55 ID:+/5mbZAU0
――――
――
女「吸血鬼さま……起きてください……」
女吸血鬼「もう、少し……」ムニャムニャ
女「もう……吸血鬼さまったら……」
女「――!」ハッ
女「……」イソイソ
女吸血鬼「……くぅ……くぅ」スヤスヤ
――数時間後
女吸血鬼「んっ……ふわぁ、よく寝た〜〜っ……」
女吸血鬼「……ん? なんだこれ――」
女「あっ、起きましたか?」
女吸血鬼「……棺桶のなかは狭いんだけどな……」
女「けど、二人寝転がれる広さはありますよ?」
女吸血鬼「ぎゅうぎゅうだけどな」
女吸血鬼「ほら、出るから……動くな」
女「いいじゃないですか。もう少し一緒に入ってましょうよ」
女吸血鬼「……まあ、君がいいのなら」
女「ふふ……」ギュウッ
女吸血鬼「君はいい匂いがするな」ギュウ〜
女「吸血鬼さまこそいい匂いですよ」
24 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 22:29:12.72 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「ふはっ、いい年こいた大人二人が何をやってるんだって話だな」
女「……私は、好きですよ。こういうの」
女吸血鬼「そうかい……」
女吸血鬼「じゃあ、もう少しこのままでいようか」
女「眠っちゃうかもしれません……」
女吸血鬼「いいのだよ、君……」
女吸血鬼「夜は長いのだからな、少しの間眠ってもなんら問題はない」
女「はい……」
25 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 22:39:08.37 ID:+/5mbZAU0
女「クゥ……クゥ……」スヤスヤ
女吸血鬼「まさか本当に寝るとはな……」クスッ
女吸血鬼「狭いというのに良く寝れるものだ」ナデナデ
女吸血鬼「……大きくなったな。なめた口を利かなくなったのは大人になった証か否か……」
女吸血鬼「そのくせ甘ったれなところは変わらない」フフッ
女吸血鬼「……」
女吸血鬼「この子も、すぐ……」
女吸血鬼「…………」ナデナデ
26 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/02(木) 23:12:19.37 ID:+/5mbZAU0
――数日後
女吸血鬼「――」ムクリ
女吸血鬼「――――」キョロキョロ
女吸血鬼「……今日もいないか」ハァ
女吸血鬼「最近来ないな、あの子……」
女吸血鬼「……事故にでもあったか……? いや事故じゃなくとも怪我をしたのかもしれない……」
女吸血鬼「大丈夫か……?」ソワソワ
女吸血鬼「――ん? あれは……」
女「……久しぶりです、吸血鬼さま……」
女吸血鬼「まったくだ。どうしたんだね、君。心なしかやつれて見えるぞ」
女「身内に不幸がありまして、回るような忙しさをなんとか身一つで回しまして……」
女「やっと落ち着いたので、こちらに来たしだいです」
女吸血鬼「そうか……それは……災難だったな……」
女「いえ…………あの申し訳ありません、忙しさにかまけて顔も出せずに……」
女「心配しましたか……?」
女吸血鬼「……そうだな、心配した。それに謝る必要はない」
女吸血鬼「身内が死んだんだ。私のことよりそちらを優先するのは当然のことだよ……」
女「……父だったんです」
女吸血鬼「そうか……」
女吸血鬼「……話を聞こうか? 思うところがあるのだろう」
女「……父は私にとって唯一の肉親だったんです」
女「学者としても尊敬していたし、男手ひとつで私を育ててくれたことにすごく感謝もしています」
女「それに吸血鬼さまのことを教えてくれたのは父だったんです」
女吸血鬼「……ということは昔君のお父さんと会ったことがあるんだろうな、覚えてないけど……」
女「ええ、父も一度あっただけだけと言っていました」
27 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/03(金) 08:36:01.61 ID:D0i1iU+T0
女吸血鬼「ふぅん……」
女吸血鬼「……寂しいかい?」
女「はい……」
女吸血鬼「……」
女吸血鬼「あーあれだ、君。前にも言ったが夜は長い」
女吸血鬼「君の寂しさをまぎらわすにはちょうどいい」
女吸血鬼「思い出話でも何でもいい……話そうか」
女吸血鬼「誰かと何か話したくてここに来たんだろう?」
女「ありがとう、ございます……」
女吸血鬼「感謝はいらないよ、君」
28 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/03(金) 09:16:14.54 ID:D0i1iU+T0
……
女「――――ということがあったんです」
女吸血鬼「そうかそうか。それは可笑しいな」ケラケラ
女「……ふぅ……ありがとうございますね、吸血鬼さま」
女吸血鬼「君はさっきから感謝してばかりだな」
女吸血鬼「もちろんその言葉を受けとるのはいささかでなく嬉しいのだが……」
女「……吸血鬼さまは……」
女吸血鬼「なんだい? 私としては話せる身の上なんか無いぞ、全部忘れてしまったからね」
女「年を取ったから?」
女吸血鬼「そうだそうだ……悲しいがそんなものだ」
女「不老不死って悲しいですね……」
女吸血鬼「まあ望んでなるものじゃないな……」
女「……」
女「私は――」
女吸血鬼「……君、外に出ようか」
29 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/04(土) 19:03:48.49 ID:TH3KD0540
――外
女吸血鬼「ふむ、私には涼しいくらいなんだがどうかね、君?」
女「そうですね……寒くは、ないです」
女吸血鬼「そうか」
女吸血鬼「……君、こちらにおいで」
女「なんですか……?」
女「――うわっ!?」ビクッ
女「これって……?」
女吸血鬼「私の眷属……こうもりだよ」
女「……多く、ないですか……?」ウジャウジャ
女吸血鬼「これだけいないと……できないからな」
女「なにを……って、きゃあっ!」グワッ
女吸血鬼「間違っても、手を放すなよ……」グイッ、タッタッタ
女「そんな――こうもりの上を歩くなんて無理です!」
女吸血鬼「昔な……それこそ人類が衰退する前の映像作品に、こんなシーンがあった……こうもりではなくてカラスだったが……だから大丈夫だよ!」
女「そんな無茶苦茶なっ!!!」
30 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/04(土) 19:23:54.79 ID:TH3KD0540
女吸血鬼「ふふっ、どうだい空に近づいた感想は?」
女「死んじゃいますって、へたしたら……」
女吸血鬼「そうはならないよ、君。私がいるからね」
女吸血鬼「そんなことはさておき……ほら――」
女「はい? ぁ…………」
女「星が綺麗……」
女吸血鬼「良いだろう……ここまで空に近いと手が届きそうで……」
女「はい……」
女吸血鬼「星の海。あの中の一つに君のお父様が要るかもしれない……」
女「父が……?」
女吸血鬼「ああ、人は死んだら星になるんだ……」
女「そう、なんですか……? ……そうなんでしょうね…………」
女「…………」ヒトッ
女吸血鬼「…………」シン
31 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/04(土) 19:38:47.05 ID:TH3KD0540
女「……ありがとうございました、吸血鬼さま」
女吸血鬼「お別れの言葉は言えたかい?」
女「はい……」
女「――」
女「吸血鬼さまは、こういうこと何度もしているんですよね……?」
女吸血鬼「こういうこと?」
女「死んだ人とのお別れ……」
女吸血鬼「ん……ああ……あるな、私が大好きだった人とも、私を大好きだった人とも……」
女「それは……悲しくないんですか?」
女吸血鬼「不老不死だもの、こればかりはしょうがない……」
女吸血鬼「それにだね、愛した誰かの顔ももう覚えていないし、愛してくれた人の言葉も覚えていない」
女吸血鬼「覚えていない事をどう悲しむのかというのが本音だよ……」
女「……それは悲しいことですよ……」
女吸血鬼「そうなのか……君が言うのなら、そうなのだろうな……」
32 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/04(土) 20:18:01.21 ID:TH3KD0540
女「吸血鬼さま……私は……不老不死というものに憧れていました……」
女吸血鬼「……そうじゃないかとはうっすらと思っていたよ」
女「それが吸血鬼を調べている第一の理由です……」
女吸血鬼「ということは、私が付き合わされたあの実験は……」
女「第二理由ですよ。だってもし吸血鬼になれても、あんなに弱点が多いだけだったら生きづらいじゃないですか」
女吸血鬼「まあ、そうだな……中々に不便な体だと日々難儀しているよ」
女「……それに不老不死だと最後には一人ぼっちになってしまう」
女「ねえ、吸血鬼さま――私を――」
女吸血鬼「馬鹿なことを言うんじゃないよ、君っ――! その言葉の先は一時の感情に任せて言っていい台詞ではない!」
女「何でですか?! 吸血鬼さま……あなたのことが好きなんです! あなたを一人にはさせたくない! 悲しい思いにも――」
女吸血鬼「……望んでなるものじゃないんだよ、不老不死なんて――! 吸血鬼になんて――!!」
女吸血鬼「分からないようだから、はっきりと言おう」
女吸血鬼「――私は君を眷属にする気はない!」
女「……」
女「……私もいつかあの星々の中に入ってしまいます……」
女吸血鬼「そうだろうな、君は人間なのだから……」
女「私がそうなっても吸血鬼さまは覚えていてくれますか……?」
女吸血鬼「………………」
女吸血鬼「私は――」
女吸血鬼「――昔、今までで一番愛し愛された人と似たような約束をしたことがある……」
女「はい……」
女吸血鬼「……私はな……その人がどんな名前で、どんな顔をしていたか……まったく思い出せないんだ」
女「…………」ウルッ
女「……ひっ……すん、うぇえ……ん」ポロポロ
女吸血鬼「……地上におりようか」
女「……ひっく……ひっく……は、ぃ……」コクン
33 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/04(土) 20:36:06.90 ID:TH3KD0540
――――――
――――
――
女吸血鬼 (あの夜以来、あの子は来なくなった)
女吸血鬼 (これでよかった、これが一番いい結果だ)
女吸血鬼「はぁ――」
女吸血鬼 (窓から身を投げ出し空を見上げる)
女吸血鬼 (まぶしい星の海が目に痛い程突き刺さる)
女吸血鬼 (あの中をあの子のお父様は漂っているのだろう……)
女吸血鬼 (ひょっとしたらもうあの子がいるかもしれない。そう思えるほど時間感覚が狂っていた)
女吸血鬼「……私は……」
女吸血鬼 (あの夜がどれくらい前のことだったか思い出そうとして、止めた)
女吸血鬼 (代わりに星空を睨み付け――)
女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」
女吸血鬼 (誰ともなしに私は呟き、星を見るのに飽きたため窓をそっと閉めて、出涸らしの紅茶を飲むためカップを探した)
34 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2017/03/04(土) 20:40:05.39 ID:TH3KD0540
>>14-33
【女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」】 おわり
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/04(土) 21:13:16.97 ID:WNUWpdYSO
悲しい世界
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/05(日) 01:16:04.03 ID:QcYJhc9DO
惹かれる
まだ書いてくれるんかな?
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/05(日) 03:44:22.92 ID:SYZnlIqr0
素敵な文章
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/05(日) 13:45:31.19 ID:FWjKmiLWO
救いは無いんですか…(泣
39 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 12:09:52.97 ID:AwGk61Ed0
【女「バカじゃないの……」】
40 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 12:44:36.86 ID:AwGk61Ed0
女の子「お姉ちゃんどこか行っちゃうの……?」
女性「……うん」
女の子「やだ! だめ! どこにも行かないで……ずっと一緒に遊んでよ……!」
女性「ごめんね、女の子ちゃん……」
女性「でも、夏休みとかには帰ってくるから……そのとき一緒に遊ぼう? ね?」
女の子「……なんで行っちゃうの?」
女性「……お姉ちゃんね――」
女性「先生になりたいんだ……。だから、そのための勉強を大学ってところでしなくちゃいけないの」
女性「その大学ってところはね、この家から通うには遠いから」
女性「だからね、家を出て遠くに引っ越すの」
女性「けっして、女の子ちゃんが嫌いだからって理由じゃないから」
女の子「ほんとう……?」
女性「うん、本当」
女の子「……うぅ……」カチャリ
女の子「これ……あげる……作ったの」ソッ
女性「かわいい! いいの!? 大事にするからね」
女性「そうだ――はい、これあげる。ビーズのブレスレットのおかえし」ソッ、チャラン
女の子「ネックレス――! いいの?! 貰っても!」
女性「うん……前に綺麗って言ってはしゃいでたから。私だと思って大事にしてね」
おばさん「ちょっと女性――もう時間が――!」
女性「ちょっと待ってお母さん――」
女性「ごめんね、女の子ちゃん……お姉ちゃん、もう行かなくちゃ」
女の子「うん……」
女の子「夏休みには帰ってきてよね……ぜったいだよ、ぜったいの約束だよ!」
女性「うん――約束」
女性「じゃあ、またね――」
41 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 13:05:34.66 ID:AwGk61Ed0
――――――
――――
――
目覚まし時計「――――」ジリリリリリッ
女「……ん」ガチャ
目覚まし時計「――――」ピタッ
女「……なんで今さら、あんな夢……」ムクリ
女「――お姉ちゃん……」
女 (お姉ちゃんが隣の家からいなくなって数年……)
女 (私は――高校生になった……)
女「入学式って何時からだっけ……」
女 (そう言いながら、ベッド脇を探りあの時のネックレスを掴む)
女 (それを首からかけ、姿見に目を向けた)
女 (そこに写っているのはネックレスをかけたパジャマ姿の私。当たり前だ)
女「よしと……お母さん起こさないと……」
女 (ある種の失望とともに鏡から目を背け、ベッドから立ち上がる)
女 (その時見慣れない制服が壁にかかっているのを見た)
女「はぁ……」
女 (ため息を吐き、部屋を出る。見慣れない制服を着るのは朝食を食べてからでいいだろう……)
女「……」
女 (ぶら下がっているネックレスに触れる)
女 (ここ数年お姉ちゃんとはあっていない……)
42 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 14:26:26.44 ID:AwGk61Ed0
女 (朝食は手堅くサンドイッチにした)
女 (何が手堅いのかと言われたら――)
女 (簡単に作れる。お腹にたまる。野菜もとれる。コーヒーによくあう。と、答える)
女 (『手堅い』の意味はよく分かっていない。……きっとみんな納得する事柄、ぐらいの意味だ)
女 (忙しい朝にピッタリ)
女 (だというのに――)
母「また、これ?」
女「……不満があるなら自分で作ってよ」
母「せめて暖かいものが食べたいなあ、お母さんは……」
女「コーヒー飲め」
母「苦いから嫌いなのよね……コーヒー……せめてゆで卵くらいだしてよ」
女「殻剥くのが面倒くさい……」
母「……あんたよくそんなんで片道二時間もかかる高校選んだわね……」
女「……」ムシャリ
女 (黙ってレタスキュウリマヨネーズを挟んだ真っ白くてパサパサしたパンにかじりつく)
女 (電車に乗って二時間の学校)
女 (そこに今日から通うことになる。知り合いはいない。たぶん)
女「自分にとって手堅く選んだらそうなっただけだし……」
母「あんた……手堅くの意味間違ってる」
女 (白けた目をしたお母さんはコーヒーを流し込み、心底苦そうに顔を歪めると)
母「手堅いってのはね、やることが確実に成功して万が一にも危険がないことをいうのよ……」
女「………………ふぅん」
女 (お母さんから目をそらしコーヒーに逃避した。苦かった。人生のよう)
43 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 14:48:38.89 ID:AwGk61Ed0
女 ( “ 本当は私も入学式行きたかったんだけど ” とはお母さんの弁だ)
女「仕事だからしょうがない……」
女 (そういう訳で一人電車の座席で外を見る)
女 (乗った電車はダイヤを上から数えた方が早い。ので、もちろんがらがら)
アナウンス「ツギハ――、――」
女 (目当ての駅がアナウンスされる。お降りの際は〜足下に〜)
女 (そのアナウンスからちょっとして電車は止まった)
女「さて――」カタン
女 (お降りの際になったのでお足下に気をつけてホームへと……)
女「――んんっ……」
女 (伸びをして、階段へ……)
女「――乗り換えるか」
女 (遠いというのはだてじゃない)
44 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 15:35:01.82 ID:AwGk61Ed0
女 (席に座ってガタゴトと揺れる。学校が段々と近づく……)
女 (比例的に乗車する人が増えた)
女 (おお、これが満員電車……)
女 (ある種の感動と共に全国の毎朝頑張っているお父さんへ合掌、もちろん心のなかで)
女 (目新しくて、行儀の悪いことだと分かりながらもついついキョロキョロしてしまう)
女「あれ――?」
女 (今一瞬……)
女 (再度、そこに目を凝らす)
女 (これって――)
女 (そこにはスーツを着たいかにもイケてなさそうな男と、見知らぬ制服――つまり私と同じ制服を着た女の子が……)
女「マジか……」
女 (痴漢でござる)
女 (イケてなさそうな男――略して池男の手が制服JK――恥ずかしそうに口をぎゅっと結んでいる――のお尻をサワサワと触っている)
女 (どうしようどうしようどうしよう)
女 (助けるべきなのだろう。だけど、どうやって……?)
女 (私だって非力な女の子だ、助けにいって逆に餌食になるかもしれない。だからと言って見て見ぬふりをするのも――)
女 (こうしている間にも調子にのって鼻を伸ばした池男の手がスカートの中へ――)
女 (って、スカートの中――!? アグレッシブすぎるだろ。膝丈まであるんだぞ、そんなまくし上げて……)
女 (てか、周りのやつは気づけよ。それかそこのJK声をあげろよ)
女「――」ハッ
JK「……――っ」ブルブル
女 (……震えてる。……怖いよね、そりゃ。怖くて声もでないのか――)
女「………………」ソッ
女 (私はスマホを取りだしカメラを起動。そして池男へと向けた)
スマホ「」カシャリ
女「――すぅっ」
女「そこの人、痴漢です!!!」
45 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 16:26:26.90 ID:AwGk61Ed0
女 (車両内の視線を一斉に受ける)
女 (私が伸ばした指の先には、呆然として動けずにいる池男が)
女 (やつはすぐにはっとして手を離したがもう遅い)
おじさん「おいお前、そこの女子高生のスカートの中に腕いれてたろ、見たぞ」
スーツマン「押さえろ押さえろ、次の駅で駅員につきだすぞ」
ギャル「つーか、さっき叫んだ子が写真撮ってたし、言い逃れできないってゆ〜か」
女 (瞬く間に池男が追い詰められる)
女 (やさしい世界)
女 (そうしている間に、電車が駅についた)
女 (大人の男に連行される池男。天誅でござる)
ギャル「ちょっと、あんた」
女「なに?」
ギャル「あんたもいった方がいいんじゃね、写真のことがあるわけだし」
女「ふむ……」
女 (それもそうか)
女「すみませーん、私も降ります」
女 (人垣を掻き分け車外に降りる)
女 (ちょっと向こうで例のJKがオドオドアワアワしていた)
女「あの……」
JK「あっ……ありがとうございます……」
女「いいよいいよ、これから駅員さんのとこ? 私もいくよ」
JK「えっ!? そこまでしていただかなくても……」
女「写真のことがあるから、いった方がいいかなと思ったんだけど……」
女 (JKは小さく、あっ、と言うと……)
JK「よ、よろしくお願いします……」
女 (消え入りそうな声でそう言った)
46 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 20:09:21.47 ID:BCcOAnPz0
女 (話は簡単にまとまった。証拠が有るのだから当然)
女 (池男が睨み付けてきたが、スルースキルAを発動し、視界からアウト)
女 (しばらくして無事、池男はお縄についた)
女 (めでたしめでたし……ではあるが……)
女「まあ、入学式には遅刻だよね」
JK「すみませんすみませんすみません」ペコペコペコリ
女「ああうん……。そんなに謝らなくてもいいから……」
JK「すみません……」
JK「……あ、あの……お名前……」
女「名前? 私は女。見たところおんなじ学校でしょ、よろしく……えっと……?」
JK「ぁ……わ、私の……名前は……お嬢様、です……」オドオド
女「うん、分かったお嬢様さん」
女 (JK改め、お嬢様さんは尚もオドオドして視線が安定しない。視線だけでなく指の動きもせわしない。挙動不審というやつだ)
女「学校が迎えに来てくれるっていうし、気長に待とう」
女「どーせ、入学式っていっても偉い人のやんごとないお話聞くだけだし」
お嬢様「は……はぃ……」ビクビク
女「……」
女「そ、それにしてもさ災難だったね、まさか高校生活最初からこんな目に遭うなんて」
お嬢様「っそ、そう……ですね……」オドオド
女「……お嬢様さんってさ……もしかして、しゃべるの得意じゃない?」
お嬢様「…………はぃ……」ビクッ
女「そっか……ごめ――――」
お嬢様「で、でも! 女さん、が……はなしたいなら……だいじょう、ぶ……ですっ。つ、つつ、つきあい……ます!」
女「――ふふっ」
お嬢様「えっ!?」ビクンッ
女「いやごめんごめん、バカにしてるんじゃないんだよ……ただ、かわいいなって思って……」
お嬢様「かっ!? かわいいっ!? そんな……私……かわいいだなんて……」カアァッ
お嬢様「それにかわいいのなら、お、ぉ……女さん、のほうが……」
女「あっ――私のことは女でいいよ」
47 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/07(火) 20:37:41.80 ID:BCcOAnPz0
女「私の方はお嬢様って呼ぶからさ」
お嬢様「そんなっ!? おそれ多いですよ!?」
女「ふふっ、なにそれ? 面白いね、お嬢様は」
お嬢様「そ、そんな笑わなくても、いっ……いいじゃないですかっ!?」
女「ごめんごめん……ついね」
お嬢様「もう、女さ――お、女は……」
女「うんよろしい」
女「ん――? あの車……」
お嬢様「止まりましたね……あ、でてきた……」
女「え……?」
お嬢様「……? どうか、した? お、お……女!」
女「お姉ちゃん……?」
お嬢様「え……」
?「よかった、見つかった……」
?「お嬢様さんよね? 大丈夫だった……?!」
お嬢様「え、あっ……はい――!」
お嬢様「あの……あなたは……」
?「あっ、ごめんなさい、名乗ってなかったわね――」
女教師「私は女教師……あなたの担任に――」
女「お姉ちゃん――」ギュッ
女教師「えっ?! きゃっ……ちょ……え?」ギュウ
女教師「もしかして女ちゃん……?」
女「うん……」
女教師「じゃあお嬢様さんを助けた新入生っていうのは……」
女「私……」
女教師「すっごい、こんなことってあるんだ――!」
女教師「とりあえず車、乗って乗って……今からなら入学式が終わる頃にはつくから、LTには間に合う」
女「……ねえ、お姉ちゃん、なんで夏休み帰ってこなくなったの?」
女教師「……忙しかったから……ごめんね、帰るって約束したのに……」
女「………………いいよ、気にしてない」
48 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/16(木) 21:52:46.87 ID:/Yrn7xeM0
――――。
女 (お姉ちゃんの車に乗って学校へと向かう)
女 (助手席が空いていたが、座る気になれずスルーして後部座席に座った)
女 (私の横にはチラチラとこちらをうかがうお嬢様が)
女 (何か話したいのかしら、などと思いつつもこちらもスルー)
女 (私は斜め前にある運転席の彼女を見た)
女 (大人の女性)
女 (そんなお姉ちゃんの顔をにらみつける)
女 (ちょっと見ない間に随分変わったこと)
女 (嫌みったらしく内心で毒づいた)
女 (何故だか悲しくなって、そうっと制服の上からネックレスを掴んだ)
女 (お姉ちゃんはここ数年、家――実家に帰って来ていない)
女 (忙しいとかそんなのが理由だろう……)
女 (夏になると、今年こそは帰ってくる、そんな期待を抱いて過ごした)
女 (今年はどうかと夏休みの始め。まだかまだかと待った盆。来なかったとしょぼくれる始業式)
女 (そんな自分に嫌気がさしたのが去年。その夏)
女 (自分の進路を決めあぐね、どうしようかと悩んでいたころ)
女 (いや悩んでいたのは進路のことだけじゃない。手持ち部沙汰な自分の気持ちにも)
女 (そして決めた。今年の夏、お姉ちゃんが帰ってこなかったら遠くの学校に行こうと)
女 (地元にいるとお姉ちゃんといった場所、遊んだことがいちいち感傷を刺激して辛かったから)
女 (新しい場所で人間関係のすべてをリセットして、普通の青春をおくろうと――)
女 (その結果が……)
女「はぁ……」
ドライブ
女 (とうの待ち人と同じ車に乗って登校か……)
女 (再びお姉ちゃんをじっと見つめる)
女 (シャギーが入ったセミボブの髪、うっすらとされた口紅、甘い匂いの香水……)
女 (化粧なんて私の知っている頃よりしっかりとしている)
女 (やっぱり、大人だ)
女 (ネックレスから手を離した)
女 (いやに悲しくなった……)
女 (あの頃のお姉ちゃんはもういないのだ……)
49 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2017/03/16(木) 22:17:53.41 ID:/Yrn7xeM0
お嬢様「ぁ、っ――あの、女、ちゃん……?」
女「どうかした?」
お嬢様「ぇ、いや、女ちゃんが変な顔して、先生のこと見てるから……」
女「……知り合いでね、お姉ちゃ……先生と」
お嬢様「そっ、そうなんだ――!」
女教師「ええ、女ちゃんの小さい頃だって知ってるのよ、私」
お嬢様「へっ、へ〜。ど、どんな子供だったんですか……その、女ちゃんは……」
女教師「そうね〜、よく私の後ろをちょこちょこついてくる子だったな女ちゃんは」
女教師「それがかわいくってかわいくって……どうしたの、女ちゃん……?」
女「いいから……赤信号もう終わってるから、前向いて運転して……」
女教師「あっ、おっけおっけ……むふふっ……!」
女「なに?」
女教師「いやね、かわいいって言われて、赤くなった顔を隠すためにうつむいた女ちゃんもかわいいなって」
女「なっ――!? そんなわけないでしょ!? ただ車酔いして気持ち悪くって俯いただけ! 照れてない!」
女教師「うふふ〜そっかそっか〜、じゃあ酔った女ちゃんのために早く学校につかないとね」
お嬢様「ぉ、女ちゃん……」
女「お願い……なにも言わないで……」
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