会長「音が紡ぐ笑顔の魔法」

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247 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:03:51.24 ID:go9hQ4YNO
>>246
訂正 正しくはこちらです

先輩「……持ってよね」

ドラム「順番が来たぞ」

ロリ「絶対に入賞しよう」

キーボード「ねぇねぇ」

先輩「どうしたっ゛……の?」

キーボード「ありがとう」

先輩「え?」

キーボード「“女”のおかげでかけがえのないものものに、大好きなものに出会えたからさ」

ドラム「面白い高校生活だったけどさ、“女”のおかげでもっと楽しくなったわ」

ロリ「ねぇ、先輩……」

女「……名前で呼んでよ」

ロリ「……」

ロリ「女」

ロリ「女のおかげでね、まだ生きたいって思えたんだ……」

女「あはは……っ」

女「そんなの、あたりまえじゃん」

ロリ「でね、音楽の魔法にはつづきがあるって分かったんだ」

笑顔から絆が生まれて。

女「……後で聞かせてよ」

――奇跡が起きる。

女「さーって、これを終わらせたら」

ドラム・キーボード「「先輩に自由天文部存続を知らせなきゃ」」

女「……うん」
248 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:17:37.29 ID:go9hQ4YNO
ワアア

女「下馬評は低いなこりゃ」

先輩は苦笑いで観客席の反応を確かめていた。

ドラム「こういうのは大抵、実績を残している学校が目立つもんだよ」

キーボード「カッキーン。学生スポーツとは違うのにねー」

女「スポーツでも番狂わせくらいあるでしょ」

ロリ「ほんの僅かだけど……」

女「見せてやろうよあいつらにさ」

女「私達の実力を」

女「かましてやろうよ、この歌で」

私が作曲して先輩の先輩、自由天文部の設立者が歌詞を書いた曲。

所々不完全な面があるけれど、現時点の私達が出せる最高の曲だ。

女「よし、始めよっか」

最高の舞台。

先輩の絶叫がその舞台の上から会場全体に響き渡る。
249 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:32:42.47 ID:go9hQ4YNO
ロリ「……」

凄い、最高潮だ。

私達の演奏は今までに無い程の出来だった。
全てが噛み合っているかのような、全員が同一人物ような……つまりは出来過ぎている。

気がかりな事がある。

『かましてやろうよ、この歌で』

この発言に私は違和感を覚えている。

いつもの先輩ならば歌とは言わずに曲と言っていた筈なのだ。

ずば抜けた歌唱力を持っている先輩は、楽器の力があってこその歌があるというポリシーを持っている。
歌と演奏が合わさって曲になる。
そう言っていた筈なのに――

いや、気にする必要は無い。

私達が持てる限りの力で、先輩を――

女「っ゛!!」

ロリ「!」

ドラム「おいっ!」

キーボード「女!?」

女「そ゛ら゛に゛――」

ロリ「……」

一瞬だった、ほんの一瞬の出来事で全てが決まった。

先輩の夢は潰えた。
250 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:47:40.26 ID:go9hQ4YNO
ドラム先輩とキーボード先輩は泣いていた。

それでも辛うじて演奏を続けていた。

先輩は無表情で掠れ掠れの声、先輩の本来の声からはかけ離れた醜い歌を続けていた。

これまでのやり取りは全て虚勢だったのだろう。
先輩の喉は限界だったのだ。

先輩の事だから皆には喉の事を話せなかったのだ、医者に無理を言って……この日の為だけに照準を合わせて……手術が必要なら手術を先延ばしにして……

先輩が大好きな人の為に……最大の機会を逃さずにはいられなかった。

私には分かる。

辛いよね、ごめんね、無理をさせて。

先輩一人に背負わせ過ぎてしまった。

女「――゛――゛♪゛」

声が掠れてしまってからの先輩は仕方が無く歌っていた。
せめてもの意地だろう。
この舞台に立っていると言う責任が、この舞台に私達を連れて来たと言う責任が先輩を晒し者にしていた。

先輩「……ありがとうございました」

曲が終わり、私達は不測の事態に騒然とする会場を後にした。

アンコール?あってたまるものか。
251 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:05:45.95 ID:go9hQ4YNO
ロリ「先輩?」

ロリ「先輩!?」

ドラム「おい!気にするなよ!?」

キーボード「大丈夫だよ!大丈夫だから!」

ロリ「私が自由天文部を存続させるから!先輩!!??」

先輩は無表情のまま私達の呼び掛けにも答えず、瞳から涙を零しながら覚束無い足取りで全てを遮断するかのように私達から離れようとしていた。

狂ったのか壊れたのか、ぶつぶつとお経のような独り言を垂れ流している先輩は無表情……能面を保っていた。

ドラム「おい!」

キーボード「待って!!」

ロリ「先輩!!」

急に私達をふり払うと、宛もなく一人で歩き始めた。

これ以上私達には止める気力が無かった。
私とドラムとキーボードも限界だったのだ。

私は気丈に振る舞うと決めていたのに……泣き崩れてしまった。
252 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:39:05.45 ID:go9hQ4YNO
あれから先輩は学校に顔を出す事が無かった。

単位がどうなのか、中退なのか退学なのか卒業出来たのか私には分からなかった。

ドラムとキーボードもあれから先輩がどうなったのかは知らない。

喉が無事だと良いな……それだけで私は満足だから。

ロリ「……」

ドラムとキーボードが卒業し、誰も居ない自由天文部で私は一人で表情を作っていた。

私には人を惹きつけるキャラクターが無い、それならばキャラクターを作ればいい。

ツッコミ所があり、だれからも愛される。
そんな存在になる為には別の自分を演じるしかなかった。
自由天文部の存続の為には――

ロリ「うん、この口調でばっちりだにょ?」

きっと私も先輩と同じ様に壊れていた。

このまま一人で卒業するのだろう、先輩の夢は叶えられないのだろう。

ガチャ

「えーっと、新入部員募集してる?」

信じられなかった。

ロリ「!」

初めてのライブで悪口を吐いた人間が新入部員になるのだ。

ロリ「……どうして?あの時、先輩に打ちのめされたのに?」

「……///」

「それでもさ、単純に楽しそうだったんだよ」

ロリ「え?」

「あのライブを見てさ、俺もあそこに立ちたいなって……女先輩のようになりたいって」

ロリ「……」

「おい!泣くなよ!」

ロリ「……」

ロリ「――歓迎するにょ!」

私は決めた。

自分を偽ってでも、犠牲にしてでも、余命を先輩が望んだ自由天文部存続の為に捧げると――
253 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:04:44.15 ID:go9hQ4YNO
先輩の意思は波及する。

先輩は主人公。

跡を継ごうとする人が現れる。

そう信じていた。

だからこそ新入部員が来てくれた。
あの時の私には一人だけでも十分だった。

だからこそ留年する勇気を貰えた。

あれから世代の移り変わる様を私は見守ってきた。

道化を演じてでも私は自由天文部を存在させたかったのだ。








ロリ「……」

こうして目が覚める。

3年生のグループチャットには私の正気を疑うメッセージが残っていた。

私は本気だ。

部長に電話をかけても出ようとしない。
優しい子だ、部長はいつも私が無理をして動くのを止めようしてくれる。

それでも今回の私は止められない。

私は電話をかけ続けた。

死んでも良い。
私は諦めない。

『もしもしー!?』

『おい!』

繋がった。
254 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:31:17.52 ID:go9hQ4YNO



 



作詞「もういいよ部長、作曲」

作詞「そもそもロリの事を止めようとする事自体がお門違いだったんだ」

男「ロリ先輩……」

副部長「え?うん!分かった」

『聞こえるかな?』

副部長は通話をハンズフリーに切り替えた。

今回のロリ先輩はいつもと違った。

『実はもう長くないんだ』

真剣なトーンで会話を進め、変な語尾も使う事が無い。
いつもと違うロリ先輩。
しかし、それが本当のロリ先輩かのように俺の目には映った。

不良「長くない?」

『うん。このままだと長くない』

『すぐにでも外国で手術を受けなければならないけど、後回しにするよ』

副部長「!?」

『次に出場するイベントが終わるまでは頑張りたいな』 

部長「やめろよ……!そうやって自分を犠牲にするなよ!お前が頑張ったって変わらねぇよ!今は俺達が……!」

ロリ『違う、わたしのわがまま』

ロリ『私の挑戦に皆を付き合わせているだけだよ』

部長「どうしてそこまでして自由天文部に拘るんだよ!?」

ロリ『残したいんだ……先輩が好きな自由天文部を』

部長「……ばかじゃねーの」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 18:13:43.90 ID:PJlc+VBvo
辛い
256 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/05(日) 00:11:52.22 ID:mBsBk4u3O
部長「俺はお前に……ロリ先輩に死んで欲しくない」

部長は涙ながらに訴えた。
この人がここまでも感情を露わにするのは初めて見る。

作曲先輩と作詞先輩はやるせない表情に涙を浮かべながら副部長のスマートフォンを見つめていた。

『あはは、大丈夫だよ』

『次に出るイベントは何?』

作詞「ロック・スター」

『大丈夫。ロック・スターで入賞したらすぐに手術を受けるから』

会長「どうして今まで明かさなかった自分の寿命を伝える気に?」

『ケジメかな?隠し事をしてはいけないって反面教師が居たからね』

『それと決意表明』

『私が足を引っ張らないって』

『この部活でも噂する子が居る、部長のバンドか真剣に活動していないって』

幼馴染「……」

『本当はあの活動の量でも正解』

『私が休みがちだったから』
257 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:51:41.28 ID:cq6gh92HO
男「それに関しては聞いていましたけど結果が全てですから」

不良「お前……ちょっと引くわ」

男「お前も俺側の人間だろ」

現状に対して部長達がどのような行動を起こしたのか俺には分からない。
ロリ先輩が部長達を庇うというのならば、それなりに取り組んでいたのだろう。

『ごめんね、私が足を引っ張ってた』

『その癖会長達に付きっきりだったから』

『上手くいかないよね……』

男「……」

ただ練習に励むのが正解なのかも分からないのも事実、個々のスキルだって周りと比べても遜色が無い。

『会長の歌を初めて聞いた時の事は今でも思い出すよ……正直に言うと衝撃的だった』

不良「あぁ……覚えてる」

『それでも会長の入部時期が遅かった。もっと早かったら色々と教えられたのに』

作詞「……」

『嫌味や飾りが無い歌……それって本当に凄い事なんだ。もう少しでもうちに入部してくれるのが早かったら……ライジングロックに参加してもらってたよ』

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

現実主義者。

会長の入部がもう少し早ければ、部長よりもずっと上手に歌えるようになるのが早かった場合は平気で部長の代わりに会長を据えていただろう。

会長に付きっきりだったのも会長の成長度合を確かめる為だ。

結局部長を起用したのは損切りだろう、会長と部長のどちらを起用しても結果は変わらないと踏んだロリ先輩は思い出作りの為に上級生を起用した。

ロリ先輩の思い描いていた結果は……そういう事だろうな。
258 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:59:39.79 ID:cq6gh92HO
>>257
この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていたけど俺の見当違いだったようだ。

以上、訂正です。
259 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/23(木) 22:43:20.81 ID:c+zKH7EIO
『諦めようと何度も思ったけど……ズルズル言っちゃったよアハハ』

本当のロリ先輩、俺達が知らないロリ先輩と呼ぶべきなのだろうか。
話し方で分かる。
本当の彼女は陰険だ。

部長「おかしいだろ。留年を繰り返してまで、時間を無駄にしてまで……余命を削ってまでうちに固執するなんて」

『話が二転三転して申し訳ないけど、本当はね』

『先輩が建前、自由天文部そのものが私の一部になっちゃったんだ』

『私にとっては我が子同然だから諦められないんだよね』

『何度もやめようと思ったけど……』

『可愛い可愛い後輩達が卒業する度に頼まれてきたから……ね?』

部長「っ!」

男「俺は……尊敬します」

『ありがとう』

『男は私とそっくりだよ、うん』

『ロック・スターで入賞しようね』

『すぐに復帰するから、また頑張ろう』

部長「迷惑かけるなよ」

部長なりの虚勢、この人は今にでも泣いてしまいそうだった。

『大丈夫、私は皆を頼るから』

『会長なら先輩を越えられると信じてる』

会長「……」

プツ……ツ-ツ-

電話が切れると同時に部長はその場で崩れ落ちると同時に言葉にはならないうめき声をあげていた。

部長はロリ先輩の事が好きなのだろう、俺にだって分かる。

ロリ先輩は例の先輩が好きだって分かるが……未だに人物像が捉えられない。
話にはよく出るのだがこれでは何が何だか分からないままだ。

会長「今日は解散しよう、男。帰るぞ」

男「え?」
260 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/25(土) 01:39:28.47 ID:ONekfHsdO
男「えっ?ちょっと急じゃ……」

会長「活動にならないだろう」

会長「私が指揮を執るのも今日までにして欲しい」

会長「部長、分かるだろう?」

会長は膝を着いて部長に語りかける。

部長「……」

見かねた会長は部長の肩に手を置くと、付け加えるように優しく囁いた。

会長「ほぼ1年前……初めて自由天文部のライブへ行った時、部長と会った時の事は今でも思い出します」

会長「むせ返るような暑さの校舎隅で当時の3年生と一緒にグラウンドを盛り上げていた。夏休みでしかも無許可。ふふっ……先生に呼ばれた時は驚いたな」

会長「当時、思い描いていた夢と大きくかけ離れた現実を叩きつけられてもがき苦しんでいた私にとって、自由気ままに歌いたいように歌う貴方は本当に眩しかった」

会長「子供の時から習い事で楽器を嗜んでいたが、あの時はとある事情で音楽に関わる物全てが嫌いになっていた」

男「……」 

アイドル時代か。

会長「あの時の部長が居たからこそ、私は嫌いになってしまった音楽をもう少し頑張ろうと思ったんです」

会長は部長の前から踵を返して立ち上がると俺の手を引っ張って部室を後にしようとしたが、扉の前で立ち止まる。

男「ちょっと……!」

会長「明後日の放課後から夏休みだ、四限が終わったら各自でこの部室に集合すること」

と、一言を付け加えて部室を後にした。
261 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/26(日) 10:08:11.31 ID:J5/9IAGSO
男「ちょっと!会長!」

校門の前まで来てしまってはどうしたらいいのか分からないが、やっと手を振り払う事が出来た。

男「良いんですか?あのまま解散させて」

会長「3年生が憔悴しきっていたから無理だ。放っておこう」

男「でも……」

会長「男は強いが……周りも尊重した方がいいと思うよ。全員が全員が同じペースで走れる訳が無い」
 
男「ペースを合わせろって?」

会長「少し引っ張ってやるくらいでいい」

男「俺からしたら貴女の方が……」

会長「私だって皆と走りたいさ」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/26(日) 21:30:32.61 ID:1DIbf0i0o
強いな
おつ
263 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/15(月) 12:24:22.67 ID:YzHlGJ9vO
テス
やっと復活した、、、
264 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/16(火) 00:54:15.54 ID:3YvXXP+eo
会長「放っておくのが正解かは分からない」

会長「それでも下手に構うよりかはマシだと思うんだ」

男「良いんですか?あのまま来なくなっても」

会長「良いよ、そうなるとは思えない。そうなってしまうのならハナから無理な話」

会長「凄く立派な人だから大丈夫さ」

男「ふっつーの学生だと思いますけど?」

会長「そんな事はない。バイタリティは誰よりもある」

男「だからと言って、今回は様子がおかしいでしょ」

男「あのまま不貞腐れておしまい……」

会長「部活動とは言え私だってすぐやり直せたんだ、部長ならすぐ立ち直るさ」

男「やり直すのが今だとしたら、その前のアイドル時代ってそんな辛かったんですか?」

ふざけたメイクが印象的な会長のアイドル時代。
ちょっとした嗜虐心がそれを掘り起こそうとする。

会長「あれでも本気だったんだ」
265 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 13:40:24.26 ID:2/sMNUDao
会長「でも、違った」

男「違う?」

会長「方向性の違う努力、自分に合わない目標はただただ自身の首を絞めるという事を私は知らなかった」

今の俺なのかな、それ。

陽射しよりも身に染みる。

会長「ダブルフェイスのようになりたかったんだ。正体不明でも実力で輝けるような圧倒的な存在」

男「顔を半分しか晒していないのにあの人気は信じられませんから。ただ、全てが優れてた」

加工とはいえ歌もダンスもトークも仕草もファンサービスも何もかもがトップだったと……思う。

綺羅星ソニアの座がいつ脅かされてもおかしくない存在だった。

会長「思い描いていたんだ曖昧な偶像を漠然と輝いている姿を」

会長「現実は違った。歌はとにかく、周りに知られたくない一心で厚塗りしたメイク、一向に上達しないダンス。失敗するに決まっていたんだ」

会長「逃げるように離れておいて言うのもなんだが、私の居場所では無かった」

男「居場所を作る努力しました?」

会長「してなかったな」

嫌味で言ったつもりだがこの人はとっくに切り替えている。

過去の事は振り返らない。

会長はいずれどうなって行くのだろうか、これからもずっと音楽に関わるつもりなのか。

俺は……
266 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 14:16:03.88 ID:2/sMNUDao
会長「今の状態がどれだけ続くかもわからないから楽しみたいんだ」

男「ずっと続きそうですけどね」

たとえ上体が悪くなったとしても上達し続けてしてしまいそうな人だ。

会長「皆、私の事を過大評価しているよ」

会長「砂上の楼閣だよ」

男「……その原因って」

会長「色々あるよ、簡単に言ってしまっても良い事ではない」

会長「いつ追いていかれてもおかしくはない……かな?」

男「ずっと先に行ってる癖に……」

会長「それなら、追いついてくれるか?」

男「!」

会長「皆と一緒に私の所まで来てくれるのか?」

男「……」

はいと返事をすればいいだけなのに、それだけなのに。

自信が無かった。
俺自身が会長に追いつけるかどうかも、自由天文部の全員で会長に追いつけるかも。

返事が出来なかった理由である会長の言い草、それは俺自身が自由天文部を導けば良いかのような口振り。

男「はい……」

少しだけ覚悟を決めた。

いいたいことはたくさんあるけれど。

会長「そうか、男の事だからとんでもない事をしてくれると信じてるよ。私の予想を遥かに上回るような……」

そうなるのかも知れない。

男「今弾いているギターだって怪しいのに……会長ってたまにロリ先輩のような事を言いますよね」

男「勝手な期待とか特に」

会長「……少し付き合え」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 18:32:09.67 ID:lOXtBKYdo
おつおつ
268 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 17:45:14.62 ID:bQ119exQO
訂正

>>266
たとえ上体が悪くなったとしても

状態が悪くても
269 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 23:41:27.27 ID:sQjXwa9UO
数十分後、予想もつかない場所に連れて来られた。

男「どうしてここに?」

会長「た、たたたた、たっ、たまには息抜きも必要だと思ってな!」

男「遊園地でしょこれ」

会長「1度行ってみたかったんだ」

男「だれかと……あっ、友達居ないんだった」

会長「……居るからな」

男「え?」

会長「男と行ってみたかっただけだからな、私にも友人は居る」

会長「むしろ、男こそ友達が居るのか?」

男「居ます!居ますから!友とか不良とか!!」






友「男の跡を着いて行ったら……あの女……やっぱり男の事を……」コソコソ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 00:30:54.50 ID:RN/Xx2Zso
おつおつ
修羅場か?
271 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/11(日) 10:18:20.53 ID:qlzx5d80O
会長「もしかしてそれだけしか?」

男「さてと……」

男「ジェットコースターとかどうですか?」

会長「……」ジト-ッ

男「うぐっ」

自分からけしかけておいてこれは非常に恥ずかしいのだが、無理にでも話を逸らすしかない。

友達……当時の俺が唯一、人間関係を築けそうな同業アイドルも男である事がバレてしまうのを嫌った結果、親しい間柄になれたのは結局ツンデレもとい幼馴染のみとなってしまった。

幼馴染に正体を隠し通すなんて今考えれば信じられないな。ゾッとする。

だからと言って友達が居ないと言うわけでは決して。

ギュッ

男「ふぇっ?」

会長「ジェットコースター、乗るぞ」

そ、そんな俺の手を握り引っ張ってまで乗りたいのか?

会長「はやく」

駄目だ。

普段の会長からは考えられないほどに目が輝いている……
272 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/27(火) 23:25:38.51 ID:3sqohgBMO
全てのアトラクションを楽しんでいる内に気が付いたら日が沈んでいた。

男「うーん……」

会長「まぁ、こんなレベルだとは思っていたよ」

分かりきっていたことだが、感想としては

男・会長「「普通」」

男「でしたね」

会長「否定しないよ」

男「会長は楽しかった?一緒に居ましたけど、どうでした?」

普通と楽しいは違う。

男「俺は、どうだろう……正直に言うと……会長はどうしてくれますか?」

女々しい奴だとは思う。
会長の事なんかこれっぽっちも興味が無いのに思わせ振りな態度をとってしまう。

更に言うと1人の男性とは思えない答えだな、女性優先に話を進めようとする。

ひとりで勝手に話を進める癖に答えを求める。
ただの自己中心的な人間だ

会長「男と一緒だとすると」

会長「うん、楽しかったよ」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 12:45:11.58 ID:ytvop2ibo
青春だな
おつ
274 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/16(日) 23:12:03.59 ID:ReHUvjz1o
男「俺もたのしかったですよ」

会長「それに、どうしてくれるかと言われても分からないよ」

会長「どうしたらいい?」 

男「さあ?」

会長「嫌な奴だな」

男「またこうして遊べるといいですね」

会長「皆とも行きたいな」

男「うわっ……サイテー」

会長「え?そうなのか?」

男「かなり」

会長「本心だが」

男「しっかりとしているのか、抜けているのか……」

この人にとっては俺をこの場に誘うだけで精一杯だったのか、一度アトラクションに乗った後はずっと無愛想ないつもの会長だった。

会長「明後日、来てくれるかな」

男「……」

平気そうに取り繕っていたのは演技か。

本当は会長も不安だった。

男「来ますよ、皆ロリ先輩の事が大好きだから」
275 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/16(日) 23:37:10.23 ID:ReHUvjz1o
男「とりあえずロリ先輩が居ても楽な空間づくりをしなければいけません」

会長「……」

会長「本音を言うとあの人にはこれ以上無茶をして欲しくない」

男「それは無理な相談ですよ、あの人は目標を達成するまでは死ぬまで無茶をする」

会長「どうして分かる」

男「俺と幼馴染とロリ先輩って少し似ていると言うか……」

だからこそ今まで静観を保って来た幼馴染が理解出来なかった。

ダブルフェイス解散はお前なりの禊なのか?だったのなら理解出来る。

男「少なくとも俺がロリ先輩なら同じ事をします」
276 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/17(月) 00:04:58.53 ID:jgrVU/g0o
会長「男のそういう所、理解出来ないな。うん」

男「うーん、そうですか?」

男「まぁ、理解されようとも思っていませんよって……」

男「!」

会長「男?」

友「ん……?男の様子がおかしい」コソコソ

男「マネージャー……!」

会長「マネージャー?」

マネージャー「あれ?ソニア?って……今は男だったね」

男「プロデューサーは?」

男「もしかしてまた1人でスカウトさせられてるの?」

マネージャー「あはは……バレたか」

マネージャー「男をスカウトしてからずっとこうだよ……でも中々いい子が居なくてさ……ってあれ隣の子は彼女?」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/18(火) 09:45:23.52 ID:IN06ocPgo
続きがすごく気になる展開
おつおつ
278 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/24(月) 18:15:29.90 ID:GLctfL+jO
男「ちがいます」

マネージャー「食い気味だね……」ハハッ

会長「はじめまして、男とは同じ部活です」

マネージャー「お名前は?」

会長「会長と言います」

マネージャー「アイドルに興味ある?可愛いからアイドルに向いてるよ?」

会長「御遠慮します」

マネージャー「そんな!声も綺麗なのに!」

マネージャーの見る目は間違っていない。
会長はアイドルにも向いている。

男「あれ?プロデューサーは?」

マネージャー「今日は会議に出てるよ!」

会長(今日の男はよく喋るな……)
279 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/29(土) 00:42:22.85 ID:eOJliWyMO

マネージャー「あっ……ソニアって言っちゃってたよね?私」ゾワツ

男「今更?」フフッ

男「安心して、この人は知ってるから」

マネージャー「嘘……?」

マネージャー「どどどどどどうして!?」

男「ソニアと俺を見たら分かったみたい、うん」

マネージャー「内緒にしてください!お願いします!事務所が潰れちゃう」

会長「土下座しないでください……顔をあげて……」

マネージャー「おおおお、お命だけは……」

会長「取りません」

会長は土下座するマネージャーの脇を持ち上げてなんとか立ち上がらせようとするが、マネージャーは宙吊りのマリオネットのようになっても抵抗する。

マネージャーが抵抗すればするほど人の目が増える。
この場に居るのが苦痛になってしまう。

男「マネージャー、大丈夫。」

男「この人はいいひとだから」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:53:03.49 ID:0TdvJqBNO
男がなんか穏やか
おつおつ
281 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/31(月) 21:43:26.30 ID:wmFkEBSMO
会長「……」ムッ

マネージャー「そっか……」

マネージャーはようやく立ち上がった。

マネージャー「男がそんな表情をする人、私以外で初めて見たな」

男「そう?」

マネージャー「うん!昔はすっごくムスッとしてて扱いに困ったなぁ」

マネージャー「あっ!」

マネージャーは何かを閃いたかのように人差し指を立てる。

マネージャー「思い出した!デパートの子だよね?」

男「――!」

驚きを隠せなかった。
ほぼ別人と言ってもいいアイドル姿から会長を見抜くとは。

デパートの時にマネージャーは居なかったので、きっと映像越しに見たのだろう。
そもそも映像越しで分かるか物なのか?

会長「あはっ、ははは、分かるのか?」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/31(月) 22:06:11.83 ID:WwrfsYGmo
天性の才能か
おつ
283 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/31(月) 22:52:05.30 ID:wmFkEBSMO
会長「どどど、どうっ、どうして?」

会長の驚き方もまた尋常ではない。
俺の正体が会長に気付かれてしまった時だってそこまで動揺していない。

会長「私の黒歴史が……」

黒歴史だったのか。

マネージャー「そんな事ないよ?」

マネージャー「必死に頑張ってたでしょ?」

会長「うっ……」

男「努力の方向が違ってただけ」

男「今では会長も凄いボーカルなんですよ」

マネージャー「え?男は歌わないの?」

マネージャー「ギターなんて背負っちゃって……」
284 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/02/24(日) 22:58:19.39 ID:80Mig672o
男「えっと、それは……まずはギターを覚えようとしているから歌は一旦置いといているだけで」

マネージャー「噓、歌わないと勿体無いよ」

マネージャーは幾つになっても無垢な瞳で俺の事を見ている。
奥の奥まで見透かされている気がして、俺はいつもその予想を覆そうと――

男「歌う」

会長「え?」

男「あっ」

マネージャー「やった!」

言ってしまった。マネージャーに言ってしまったからにはもう後戻りは出来ない。
俺の、僕の、私の中ではそう決まっている。
それが綺羅星ソニアとしての矜持、会長とは決して違うのはそこだ。

マネージャー「今度は二人の歌をきかせてね?出来たら男の歌が良いな……いつかきっと」

男「ライブがあったら呼ぶよ」

マネージャー「あっ!これからオーディションの時間だ」

男「あっ、俺が辞めてから良い人は見つかった?」

マネージャー「会長ちゃんかな?」

男「!」

俺の決意はここで固まったと思う。

マネージャー「じゃーね!」

会長「ま、また今度!」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 09:51:26.66 ID:fpwdeJfeO
こういうの好き
286 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/03/22(金) 23:05:48.64 ID:Kq4RO6WhO
嵐のように去っていったマネージャーはしっかりと爪痕を残した。

会長「歌うのか?」

お前が聞くなよ。

妬ける。

男「はい、これから夏休みだし良い機会だ」

会長「そうか、やっと……歌う気になったのか」

会長「もう男が歌うつもりが無いとばかり」

そうか、この人はロリ先輩とは違う。
俺は何かを勘違いしていた。

ロリ先輩なら俺が女装しなければ歌えないという事実も理解してくれていた筈だ……

男「勿体ないでしょ?」

女装しないと歌えないからって、どう説明したら良いのか……ソニアの時とは化粧を変えて男と分かるようにしたらソニアとバレることもないだろう。

会長「その通り、綺羅星ソニアが居るのなら」

男「ロック・スターなんて簡単、ですよ」

男「最初からそうしていれば自由天文部の問題なんてすぐに解決する」

会長「百人力と言うつもりだったのだが」

もう、ライバルなんだ。
言ってしまえ。

男「あんたより俺の方が歌えるんだよ」
287 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/03/22(金) 23:20:50.28 ID:YMM2cXR+O
夏休みだから偽れる。

それはすなわち。

歌えるという事。

俺は最初から認めていなかった。

会長のほうがぼくよりもうたえるんだっていうことを!!

会長「バンドはどうするつもりだ?」

男「問題なく続けますよ」

男「それに……ロック・スターに限った話ではないけれど、女装した俺は特定の人物を除いて簡単には見抜けない。バレてしまったとしてもロック・スターはライジングロックとは違い、学校毎の参加ではなくバンド毎の参加だからメンバーの重複は意にかえしませんよ」

会長「なら私が歌う必要は」

腹が立つ、こうやって一歩引いてしまう所が特に。

男「あるんだよ、あんたに勝ちたいから俺が歌うんだ」

そして夏休みが始まった。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 17:53:48.00 ID:PvEUNWW4o
熱い夏が始まりそう!
おつおつ
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/28(日) 01:32:23.87 ID:J7fwRFkoo
まってる
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/13(月) 03:31:12.28 ID:t51E+8UVo
まだか
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/10(月) 01:14:12.55 ID:reWPaXZbo
まってるぞ
292 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 20:01:34.17 ID:NjgE3cN8O
部長「うぃーすっ」ガチャ

誰も居ない部室、俺の言葉だけが響く。
夏休みからではあるけど誰よりも早く来て準備する。
会長が歌に専念できるように、これが俺が出来るせめてもの努力。

部長「なんだよ、誰も居ねーのな」

会長に全てがかかっている。

部の存続のためなら、三年の夏を全て捧げるつもりだ。
今まで散々足を引っ張ってきてしまったのだから、この程度の事は――

男「とか思ってんだろうな」

部長「はぁ!?」

男「部長、誰かのお膳立てで最後の夏を終わらせるつもりですか?」

部長「お前誰?女子なのに制服が男子だけど」

男「誰って、そうか。分からないですよね」

男「男です」

部長「は?」

男「声で分かりますよね?鈍い人はいつも誰かの後塵を拝する」

男「俺、会長のバンドを抜けますから」

部長「……」

ウィッグの毛先が肌に刺さった気がした。
293 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 20:28:13.11 ID:NjgE3cN8O
部長「自由天文部をやめるの?」

男「軽音部にするつもりで頑張りますよ」

部長「ほんと合わねぇな、自由天文部はずっと自由天文部だ」

男「それでもいいですよ」

俺にとっては関係の無い事でも部長にとっては大きな意味があるのか、明らかな苛立ちは舌打ちという形で現れた。

部長「お前さぁ、今のバンドから抜けてどうするつもり?カツラを被ってまでして何がしたいんだよ」

次は溜め息。
怒りを抑えて後輩の暴走をなだめてやろうとしているのだろう。
俺は至って冷静だ。

男「本当はね、歌いたいんですよ。やったことの無いギターをやりたかったのも本当です」

男「ギターを弾くよりも歌いたいんです」

部長「ロリから歌えないって聞いたけど?」

男「歌えますよ」

部長「はぁ?意味わかんねぇ」

性別を偽っていると歌えるなんて誰が信じる?
良いさ、歌って黙らせよう。

男「何聞きます?洋楽?邦楽?ジャンルは?」

部長「……貶されても文句言うなよ」

きっとこの男は自分の方が歌えると思っているけど無理もない話だ。

部長「邦楽バンド、流行りの奴なら良いよ」

男「女性ボーカルだったらあそこだな……歌います」

アカペラで十分だ。

部長「女性の歌?」

男「〜♪」
















294 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 21:34:16.83 ID:rJGBXHUwo
部長「……」

男「〜♪」

綺羅星ソニアとは違う女性の歌。
男性として、男としては歌えない。
けれど、外見を偽ってなら誰よりも、会長よりも歌える。

歌ってみせる。

男「〜〜♪」

この曲は簡単だ、歌い込まなくても声だけで誤魔化せる。

ソニアなら、綺羅星ソニアの曲なら全てを完璧に歌えるだろうけどそれでは俺自身がつまらない。

それに、多少のアレンジを加える事だって出来る。
ちょっとした抑揚で部長の反応が伺える。

部長「会長以上……」

何か聞こえた気がする。
その瞬間に最高潮を迎えた。


男「歌えるでしょ?」




295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/28(金) 01:05:24.32 ID:NHyioHrBo
男が輝く時が来たか
296 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/28(金) 23:11:26.83 ID:t2Wn3/bzO
部長「悔しいけど本物だよ」

部長「俺なんかよりずっと……な」

男「このまま俺を置いておくのは勿体無いと思いませんか?」

男「ギターはまだ弾きたいけど、俺の実力では足を引っ張ってしまう」

部長「……」

何も言わないが暗に肯定している。

男「作詞先輩の方がずっと向いている」

部長「う〜ん……あいつが承諾――」


作詞「するに決まっているだろう?」

部長「めんどくせ」

作詞「今言った事は水に流してあげよう。何故なら今の私の機嫌がとても良いからだ、男君の歌は女性の中でもトップクラスの魅力持っている。現時点では会長よりもずっと上、これからは男君が自由天文部を引っ張り会長がその後を追うだろう。しかし、私は男君にギターを教えたように完成品には興味が無いのであって可能性を秘めている方が共に歩んでいくには」

部長「つまり?」

作詞「弾は二発あった方が良い。どうせロリはまともに動けないんだ。ある程度の配置換えは必要さ」

作詞「文化祭の時とは状況がは違うからね」

部長「急だろ、色々とさ」

男「一昨日、部長はもう部活に出ないと思ってた」

男「でも違った。1番に来た」

男「良いですか?俺が一緒にバンドはやりたいと思ったメンバーを言っても」
297 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/28(金) 23:28:27.15 ID:t2Wn3/bzO
いつの間にか部室に居た作詞先輩は俺の代わりになってもらう。
はっきり言って会長のバンドは更に輝きを増すだろう。

男「どちらかと言うと燻っている人の方がやりやすい」

副部長「何何!?すっごく素敵な歌声が聞こえたよ!?って〜!!何このお人形さん!?誰!?何年生!?何組!!!!???」ガチャ

男「ギターは副部長」

副会長「ちょっと副部長……落ち着いて?ね?」

男「ドラムは副会長」

ガチャ

幼馴染「誰?あんた」

男「ベースは幼馴染」

作曲「男……君?」

男「キーボードは作曲先輩が良いな、出来ると思う」

作曲「楽器は出来ない」
男「嘘だね、出来ますよ。幽霊部員程ではないけど」

作曲「っ……」

男「“メイン”ボーカルは――」

男「部長、お願いします」

部長「はぁ!?」





298 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/07(日) 08:48:49.79 ID:meyuQHT/O
男「俺と歌ってもらいます」

部長「言っても俺なんかお前や会長と比べても」

男「てんで魅力が無いけど。貴方が必要なんだ」

男「可能性がある」

足手まといが居た方が良い。
会長よりも俺の方が優れている明確な証拠になる。

幼馴染「こんな可愛い子居たかしら?聞いてないわよ?」

男「俺だよ、幼馴染」

幼馴染「あんた本当に男なの……?」

男「声で分かるだろ?小さな時に暫く会わなかった内に女声の方が得意になったんだ」

男「それよりもベースやってくれよ、得意だろ?」

幼馴染「私はロリの代わりに会長のバンドで弾くつもりで、ましてや掛け持ちなんて」

男「ロリ先輩は必ず来るよ、本番だけでも」

部長「すぐに復帰するって言ってたな」

幼馴染「そうね……そうだったわ」

幼馴染「良いわよ、あんたのワガママに付き合ってあげる」

幼馴染「死ぬ程嫌だけど!!!なんかムカツク!」





299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/07(日) 10:25:36.96 ID:4b0YJ2zno
青春って感じだ
おつおつ
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/14(日) 00:00:41.64 ID:S1y6LRWto
幼馴染みに殺されそう
301 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/25(木) 23:50:59.79 ID:TR86hXKSO
男「死ぬ程嫌がられる意味が分からないけど助かるよ」

幼馴染の鼻の下が少しだけ伸びている。
紫がかった黒髪ロングのウィッグが幼馴染のタイプだったのか。
俺の顔がタイプなのか。

幼馴染「本っ当に可愛いわね……メイクも少しだけ」

近くでまじまじと見つめられても困るな、俺が綺羅星ソニアと分かる筈は無いが正直緊張する。

幼馴染は女の子の方が好きだと思う。
ただ、幼馴染が一番好きであろう綺羅星ソニアは俺なんだけどね。
笑えないよね。

男「あ、そうだ。」

男「部長と作曲先輩は協力する気が無かったら別に参加しなくても大丈夫ですよ」

部長は今日一番早くに来た、この人が一番燻っているのは間違いない。
問題はそれをどこに向けるかだ。

作曲先輩の本職がキーボードだって事は何となく分かる。
曲調と曲が流れている時の手の動きは鍵盤を叩く動きだった。
癖だろうけど。

部長「俺はやるよ」

男「ならお願いします」

部長「あ゛」

明らかに怒ったな、この男は暴力に訴える事をしない分扱い易い。

副部長「あっさり……男君ってこんなキャラだっけ?」

副会長「今までは猫を被っていただけかと」

そう、猫を被っていただけ。
今までの俺はソニアと同じように猫を被っていた。

だからこそ酷い言葉を使って二人を試す事になんの躊躇いもない。

男「作曲先輩?」

副会長「男君、もう少し後輩らしく………」

教室の隅で俺の出方を伺うだけの作曲先輩、違うだろ。
貴女はもっとエゴのある人間だ。

男「そうですか、だったらこのバンドのキーボードも作曲も全部幽霊部員先輩にやってもらおうかな」

作曲「!!」

作曲「っ……やる……やらせて……」







302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/27(土) 05:52:45.30 ID:zg7REJjeo
芸能生活で得た経験が違うな!
おつ
303 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/27(土) 22:55:02.84 ID:Js1diIMdO
笑いがこみ上げてくる。
そう、このバンドは誰かよりも劣っている人間がいい。
会長には完成品を押し付けてやる。

ギターは副部長より作詞先輩のがずっと上手、副部長は本当に普通の音しか出ない。

ドラムの副会長と不良なんて比べるまでも無い、不良のがいい音をだす。
副会長には遊び心って奴が無い。

作曲先輩は幽霊部員先輩に勝てなくなった結果、音を作る事を選んだのだと思う。
作曲先輩が気を病むのは仕方がないと思う、幽霊部員先輩だけは正直言ってプロの域に達している。
音楽で一生食べていける人間。

部長と会長なんて比べるまでも無い、会長はステージが違う。
そう、綺羅星ソニアの域へ向かってる。

幼馴染?
世間の評価で言えば俺に勝てなかったアイドル。
絶頂期の人間が負けたままアイドルを辞めるって事は、本当に負けたままって事になる。
そう言う意味でも幼馴染がロリ先輩を超える人材とは思えない。

男「はっきり言います」

男「仲良しこよしでは会長、会長のバンドどころか一発勝負のロック・スター入賞なんか夢のまた夢」

男「会長のバントを超えるつもりでこのバンドは動きます」

そう、会長だけではない。
プロになる資格がある人間、大人になってもひたすら努力を重ねている人間、同年代の天才もライバルになる。

期待に胸が踊る、このメンバーがどのよう成長するのかが俺にはまだ分からないのだから。








304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 13:44:17.28 ID:MU2YMvQ/o
吹っ切れた男は強いな
おつ
305 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/08/30(金) 22:50:24.19 ID:rwH+KsCwO
1時間後、遅れて来た会長は明らかに動揺をしていた。

どうやらこの先も俺とバンドを組めると思っていたらしい。
そんなもの通る訳が無い、俺自身が敵意を剥き出しにしたのを貴女は見ていただろう?

ずっと俺の事を睨んでいるが、ギターは俺よりも作詞先輩の方がずっと上手。
どうして怒っているのか。

歌詞の事は全く分からないが、作詞先輩のギターは飛び抜けている。

この人から教わったからこそ分かる。
2年生でまだ先がある会長とは違い、3年生であるこの人は燃え尽きる場所を探している。
生真面目すぎる会長にはこういう人の方が合う。

こんな機会をずっとまっていたんだろう?作詞先輩。

会長「私は認めたくない」

男「部の為です。勝負する弾は多い方が良い」

不良「男、私は反対しないけどさ」

不良「お前、ギターやめるの?」

男「……やめないよ」

不良「そっか、なら頑張れよ」

この部の中でも不良だけは俺の事を分かってくれている気がする。

幽霊部員「会長!これからよろしくっす!」

作詞「どうせ短い付き合いさ、よろしくね」

会長「……どうして?」

男「俺が歌う方が部の為だと思ったから、俺のギターでは幽霊部員先輩が納得しないから。なによりもこの部の為に」

何も嘘は言っていない。
その通りなのだから、会長のバンドで足を引っ張っていたのは明らかに俺。

会長「男なら幽霊部員だって……」

幽霊部員先輩は自分自身が気に入った人間としか演奏しないのは目に見えていた。
会長に対しては幾度も賞賛の言葉を浴びせていたのにも関わらずバンドに入ろうともしなかった。

男「幽霊部員先輩」

幽霊部員「男君の言う通りっすよ」

会長「……!!」

男「ほらね」
306 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/07(土) 22:55:07.55 ID:W6n3gUc/o
幽霊部員「会長の事は気に入っていたんすけど、どうしてもバンドに入る気がしなかった」

幽霊部員「それこそ成り行きや、強制でないと」

幽霊部員「それでも良かった。でも嫌だなって……歌はすっごく魅力だけど、今の男君のギターテクは正直に言うと会長のバンドの基準に達していないっすよ」

“今の男君”ね……まるでいつかは基準達する事ができるかのような言い方だな。
本人は言葉を選んでいるつもりなのだろうが癪に触る言い方だ、それでいて本当の事を臆する事も無く話す。
幼馴染や作詞先輩とはそれでも問題が無かったのだろうが、その前は?まともな感性を持った人なら一緒にバンドを組む事は疎か、仲良く話す事も難しいと思う。

副会長「幽霊部員!貴女はいつも空気を……どうして!?」

幽霊部員「あっ……ご、ごめんなさい」

不良「謝んなよ、逆にカンジ悪ぃ。そもそも男のギターは悪くないっての」

幼馴染「男、幽霊部員と副会長を入れ替えても良いかしら?」

男「ダメだね、俺達のバンドには副会長と幼馴染が居る分揉め事が少なくて済むだろうけど仲良しこよしでは無いってさっきも言っただろう。ねぇ?部長」

部長「あぁ、そうだな」

部長は本当に器が深い、ありとあらゆる人間を自由天文部に受け入れている。幽霊部員先輩を筆頭に“実力のある問題児”を制した事も無いのだろう、だからこそ今ここで先輩として敢えて厳しく接するように仕向けた。
この男だって幽霊部員先輩自身の問題に気付いている筈。
かっこいいね、面子が砕かれても後輩の事を思うなんて。

作詞「幼馴染、大丈夫さ。私が居るよ」ニコッ

幼馴染「……そうね」

幼馴染と作詞先輩と幽霊部員には同じバンドだからとか、友達だからとか、そういったものとは違う奇妙な絆がある。



307 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/11(水) 20:14:29.79 ID:uJ5CxtMsO
男「それに、あれだけ言われたんだ」

男「絶対に嫌だね、気に食わない」ボソッ

幼馴染「……困ったちゃんばっか」

部長「早く練習するぞ、これ以上はやめよう」

男「完全復活って奴?ちょっと前までは死にそうな顔してたのに」

部長「お前のおかげさんでな」

男「ふーん」

部長「急に馴れ馴れしいな」

会長「待て」

会長「歌を聞かせてくれ、その上で考える」

この人もしつこいな、周りだって納得している。形はともあれ全員が貢献出来る様になった今ではわがままを言っているのは明らかに会長のみだ。

男「練習の時に聞けますよ、行きましょう」

会長「……」

作詞「男君ばかりに執着されると傷つくね、私だって居るんだよ?決まった事はもう覆せないのだから今居るメンバーを大事にして欲しいね、うん」

不良「ロリ無しでもやるしかないな」

会長「仕方ないな、違和感はあるけど始めよう。男の言っていることは正しい」

作詞「うん?慣れているから怒らないけど本当はショックなんだよ?聞いてるかな?何回無視するんだい?」








308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/12(木) 22:17:00.83 ID:KL48j8HRO
続きがたのしみだ
309 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/20(金) 22:47:33.52 ID:l1dYtCkgO
不良「……滅茶苦茶引きずってんじゃん」

会長「なにが?」

作詞「男君の事に決まっているだろ。全く君は昔から意固地になる癖がある」

作詞「もう少し周りとの協調性を持って欲しい所だが……もう治らないのかな?」

会長「協調性はあると思ってます。生徒会とかそういった物は関係なく高校生活で」

作詞「そういった物って自由天文部の事だろう?全く、やはり見当違いだったかな?」

会長「見当違い?私を会長に推薦したのは貴女でしょう。私は書記で満足だった」

作詞「対抗馬が居ないのさ、幽霊部員にほんの少しの社交性があれば幽霊部員にしていたかもしれない」

作詞「例えばだ、私と会長で生徒会総選挙を行うとしよう。」

作詞「大差で私が勝つよ」

男「……」

それは嘘だろう、会長はカリスマって奴だ。
作詞先輩は何をけしかけているのか。

作詞「君はなんの取り柄もない私に負けるよ」

作詞先輩は自己評価が恐ろしく低い。
きっと自分では気付いていないのだろうか、俺には分からない。
作詞先輩も会長には劣らない物がある。
カリスマとか曖昧な言葉を何度も使いたくはないが、きっとそうだろう。

会長「そうですね、生徒会だって貴女よりまとめられていない」

副会長「会長、決してそんな事は……」

男「敵を心配する必要はありません。早く練習しましょうよ、時間の無駄」

作詞「そうかいそうかい、自由天文部の君は私よりも上だよ。みんなをその気にさせてしまったのだから」

男「……」



310 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/22(日) 23:39:45.13 ID:AV374J46O
不良「上とか下とかバカじゃねーの」

作詞「むっ」

不良「生徒会の時は〜自由天文部では〜ってギスギスしても仕方ないだろ?」

不良「今を全力でやろうぜ」

不良「私は男に勝ちたい」

幽霊部員「ちゃかちゃん、とんとん」

幽霊部員「会長に合わせた音……うーん困るっす」

不良「とりあえずセッションするか」

作詞「そうだね。らしくないな……私も」ボソ





311 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/23(月) 14:44:08.69 ID:0yUGjT34O
〜♪

男「向こうも始めた事ですし、こっちも始めましょうよ」

男「部長、お願いします」

部長「俺が仕切るのかよ……」

部長「うーん、このメンバーで演奏した事ってそもそも無かったよな」

部長「作曲も2年生になった途端、キーボードをやめるし」

やっぱり幽霊部員先輩の影響だな。

部長「幼馴染も副部長、副会長とは数える程しか演奏してなかったんじゃないか?」

部長「作曲のキーボードなんか俺を含めて今の3年生しか知らないだろ?お前、よく作曲がキーボードやってたって分かったな」

男「たまーに鍵盤を叩くように指を動かしていましたから、もしかしてと思って」

部長「作曲も本当に良いのか?」

作曲「やる……うん」

部長「じゃあ一度演奏してくれよ」

部長「曲決めてさ」

幼馴染「副部長、副会長、足引っ張らないでね」

312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/25(水) 16:57:32.22 ID:xDsyt1n9O
幼馴染み何時気づくかしら
313 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/10/13(日) 02:05:39.26 ID:go9BVJnCo
男「……は?」

副部長「……」

男「急に毒づくなよ」

幼馴染「事実よ、一年生の時なんてほんと酷かったものね」

幼馴染「だからバンドなんて組みたくなかったもの、今はどうかしらね?」

刺々しい物言いだが柔らかな口調から敵意のような物は感じられない。

発奮しているつもりか。

副部長「入部したばかりの時、幼馴染ちゃんは可愛くてベースが上手で可愛くて……本当に遠い存在だった」

可愛くてが重複してるけど。

副部長「あれからたくさん練習して……」

副部長「その結果副部長を任されたんだから、足なんて引っ張らないよ!」

幼馴染「そう、なら」チラッ

男「!」

幼馴染「良いけど」

むしろ気にされていたのは俺の方だったのか、一瞬だけこちらを向いた影響で幼馴染のツインテールがふわりと揺れた。

幼馴染の奴、大きな勘違いをしているな。
俺は最初から副部長、副会長、作曲先輩に期待なんかしていない。
割り切っているんだよ、お前もプロなら分かるだろう?
あのお遊戯会の仲良しこよしをやるつもりは無い。
駄目なりにも最善を目指さなければ。

〜♪

やっと始まったか。


314 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/10/13(日) 03:10:20.54 ID:go9BVJnCo
男「ん〜」

このメンバーで曲を弾いたの初めてだそうだが、特筆して悪い訳でもない特に作曲先輩。

この人も技術だけなら幽霊部員にも負けていない。
どうしてキーボードをやめてしまったのか……と考えた時、作詞先輩の言葉が脳裏に浮かび上がった。

『あ、そうだ、技術と上手い下手は関係ないってのも覚えてね』

先輩は偉大だ、幽霊部員先輩と作曲先輩の大きな差はセンスって奴だろうか。

作曲先輩程のレベルでも諦めさせる幽霊部員先輩はやはり恐ろしい。

部長「お前キーボードの事分かるの?」

男「どうしてそんな質問を?」

部長「ずっと作詞の事見てるからだろ」

男「ああ、技量を見てました。ピアノ弾いてた時もあったので少しは分かりますよ」

部長「ふーん、副部長と副会長はどうなのよ?」

男「ギターはとにかく、ドラムの事なんか分からないからなぁ……」

副部長は勿論俺よりも上手で個性もある、強すぎる。
副会長も不良程の腕は無いけど激しいんだよなぁ、音楽の事になるとじゃじゃ馬で手がつけられそうに無い。

男「指導が必要ですね 」

部長「俺が言うか?」

男「頼もしいけど大丈夫です」


315 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/10/13(日) 04:40:12.59 ID:go9BVJnCo
部長「あんまり言いすぎるなよ」

男「一番指導が必要なのは部長ですので悪しからず」

部長「……何すりゃ良いんだよ」

男「とりあえず腹筋」

男「テクニックとか大事なことは後で教えますけど、根本的に肺活量が足りてません。腹筋の次は走り込み」

部長「げっ」

男「皆上手ですね」パチパチ

男「副部長のギターも良かった、やっぱりバンドの花形であるギターがしっかりしてないとね」

男「それをふまえて練習に取り組みましょう」

幼馴染「やけに知ったような口を効くわね、間違ってはないけど」

男「いちいち答えるほど暇じゃない」

男「副会長、早く叩けるのは良いけどリズムが正確じゃない。正確に早く叩けるようになってください」

副会長「……どうしても?」

男「そこでごねる意味が分からない。貴女の欠点は丸分かりですよ?ロリ先輩なら長所をどうとか言うかも知れませんけど、このバンドは違う」

副会長「しかし、今更低速からなんて」

男「その低速もおざなりでしょう」

男「次、副部長。俺の方が下手な分言い辛いですけど」

副部長「大丈夫!気にしないで!」

男「なら言わせてもらいます。もっと丁寧に目立ってくださ」

副部長「難しい……」

男「演奏に力強さがあるけどたまに少しだけズレてるのズレてるのを見かけます、あとは前から周りに遠慮しすぎ


男「ギターだし俺のように下手くそじゃないんだから、もっと周りを引っ張ってください。パフォーマンスでも演奏でも一番になるつもりでね」

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/13(日) 23:17:01.45 ID:oTLxLiyKo
男が頼もしいな!
おつおつ
317 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/01(金) 20:07:06.95 ID:gwofvGOsO
部長「曖昧なご指摘じゃね?」

幼馴染「そうね、でも間違ってはいないわ」

男「そこをどう認めさせるかが俺の仕事だと思っていますけど、悔しくないんですか?」

男「強い個性をさらに引き出す方向にしたのは間違いか……うーん」

男「そもそも副会長にセンスがあるのか……」

部長「こいつさ、感覚的な事ばかりを話しているんだけど」

幼馴染「だから不安なのよ、頭ごなしに」

男「てかさ、副会長に至っては自分の欠点が明確ですよね」ハァ

副会長に関してはとことん煽ってやろう、学業を真面目にする人間の癖して音楽は適当?舐めてるのか?こいつ。

男「勉強と同じように弱点を補ってください。やる気あるの?勉強と一緒でしょ?お遊びのつもりですか?」

副会長「……」

男「副部長」

副部長「はっ、はい!」

男「自分よりも上手な人に教わってください」

男「作詞先輩に」

俺には無理だ、ごめんなさい。

部長「……」

幼馴染「サイッテー」



318 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/05(火) 01:43:34.10 ID:8f8i8MaCo
副部長「うん!分かったよ!!」

作詞「うん?全部聞こえているからね?筒抜けだよ?この部室狭いから、君達が演奏を始める時に僕達は黙ってその場からどいていたからね?流石に図々しくないかな?」

男「うそ?まじで?本当に聞きに行くの」

幼馴染「何自分で言って驚いてるのよ」

作詞「頼む側の癖に無視とはこれ如何に?もっと話しても良いけど、どうせ無視するだろうね」

男「俺の方がギターヘタクソだし」

副部長「作詞先輩、ギター教えて!」

作詞「駄目に決まってるよね?私だって練習があるんだから昔のように教える事は出来ないよね」

男「教え子だったんだ」

副会長「副部長は入部当初、殆ど初心者でしたから」

男「そうなのか……」

この人、あれだけ言っても平然としているな……

いや、そんな事よりも副部長のスキルアップが問題だな。

副会長は考えて行動する力があるけれど、副部長は標識を立ててあげないと動けないタイプの人間だ。
何とかしないと……






319 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/05(火) 02:12:56.69 ID:8f8i8MaCo
部長「今日の練習、終わりー」ゼェゼェ

日が落ちた頃になって、汗塗れの部長が顔を出した。
授業後もしっかりとメニューをこなしたようだ。

男「疲れてますね」

部長「お前は、走らねーのかよ……」ゼェゼェ

男「メインで歌う箇所が多いのは部長ですよ?その分俺はテクニックとリズムを磨いておいた方が効率的ですよ」

本当はもっとこなしたかったな。
授業を挟んだとはいえ圧倒的な練習不足……交代交代で機材を使うのは非効率極まりない。
仕方ないな、明日からは俺の家を使おう。

不良「午後からお前ん家使えば良かったじゃん、どうしてやんねーの?」

様子を伺う事が大事だった。
お互いに誰が仕切って行くのかを見定める必要があった。
互いに新バンドで息が合わないなんてなったら本末転倒だからな。

会長のバンドは作詞先輩がまとめてくれていたが、今日1日ずっと不機嫌だった会長も放っておけばしっかりとするだろう。
歌も聞いていて不調だった。

俺達のバンドはまぁ、俺と部長だろうな。部長が全面的に俺の事をフォローしてくれている内は問題無い。
部長は吹っ切れていた。
本当は俺1人で歌うつもりだったけれども部長の熱意って奴を買った。
……会長、部長に説教をした貴女はどこへ行ったんですか?

男「連れて来たじゃないか」ボソッ

不良「は?」

男「あっ、違う違う。明日からは俺の家に連れて来ようと思って」

不良「だよなー、お前達のが連取量多くなるからフェアじゃねーよ」

男「そうでも無いよ、人間の集中力なんかたかが知れているし」

不良「男らしい事言うよな、じゃあな!」

不良は足早に去っていった。
用事でもあるのだろうか。
320 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/05(火) 02:27:56.47 ID:8f8i8MaCo
男「さてと、帰るかー」

授業前と授業後でメイクと服を切り替えるのは大変だった。
明日から女装だけで良いとは言え、今日は本当に疲れた。

男「……」ゴソゴソ

お守りとして持ってきたソニアの時代のウィッグを被る。
ほんの僅かな高揚心が、誰も居ないからと言う理由でとんでもない行動をさせた。

男「ははっ、何やってんだよ俺は」ゴソゴソ

ものの数秒でソニアのウィッグを外して元々被っていたウィッグに切り替える。
メイクの違いはあれど、ウィッグを被れば簡単にバレてしまうな。

副会長「……何をやっているんですか?」

男「っ!」

副会長〜っ!?
よりによって最も険悪な人間に!?
何時から!?いや、まだ見られているとは限らない。ソニアのウィッグはすぐにしまった。

男「いやっ、ちょっと考え事を」

副会長「話したい事があったので戻ってみたのですが……」ズイッ

副会長「少し、付き合ってくれますか?」

距離が明らかに近くなる。
どういう事だ?

副会長「この部活、やめて貰えますか?」

とんでもない話しだな、何を言い出すのかとおもったが勿論答えは――

副会長「綺羅星ソニアさん」ニコッ

イエスかなぁ……






321 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/05(火) 02:49:21.48 ID:8f8i8MaCo
男「俺が綺羅星ソニア?何を根拠に?」

副会長「写真、間に合ったので事務所に送りますね」

男「それはやめて貰えますか?」

副会長「写真なんて撮ってませんよ……それよりも認めましたね」

男「……信じる人の方が少ないと思いますけど」

くそっ、まんまと騙された。

副会長「まあ、部活動を辞める必要は無いですけど……ただの脅し文句ですから」

男「ほっ……」

副会長「私、夢があるんです」

男「夢?」

なんだ?お堅い副会長の事だから何かしらの大企業とのコネか?
確かに出来ない事も無いが、どうせ通うであろう大学を出た後の話しになるのでは?

副会長「それに協力してくれたら何も言いません」

男「出来る範囲なら……」

副会長「声優になりたいんです」

男「本気ですか!?」
322 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/05(火) 03:34:50.59 ID:8f8i8MaCo
副会長「と言うのも、男君と会わなければ諦めていた夢でした」

副会長「最初は男君の家にある機材を使わせていただくだけのつもりでした」

確かに必要な物は一通り揃っているからなぁ。

副会長「しかし、考えが変わりました」

さっきの出来事だな。

副会長「全面的なバックアップを得たい、と」

男「でしょうね……けど」

男「この部活は?どうでも良いんですか?」

1番知りたいのはそこだった、それ次第でどういう人間か分かる。

副会長「私が子供の頃に流行ってたアニメが音楽物で、特にドラムがカッコよくて」

副会長「あっ、私はオタクですよ」

男「話を途中で変えない」

副会長「その影響でドラムを始めましたけど、続けて行く内に本当に好きだった物が何かと自問自答をしていました」

副会長「ああ、キャラが好きなんだ。キャラクターを声だけで表現するなんて憧れるなと」

副会長「そして声優になりたいと漠然と考えながら、日々が過ぎて気がつけば男君と出会いました」

副会長「居てもたったも居られなくなった私は……どちらかに専念する必要なあるとも……考えています。だから」

男「……分かりました」

男「今すぐに自由天文部をやめて声優に専念するか、ロックスターが終わった後に声優に専念するか……ですね。弱みを握られた以上は強力はしますよ。けど、副会長はこの部に必要です」

明らかに未練があった、夢を追いかけるのは自由だがこの人が抜けたら困るのも事実。

副会長「分かりました、ロックスターが終わった後に取り組みましょう。その方が踏ん切りがつきます」

もしかしたらこの人は俺にそう言ってもらいたかっただけなのかも知れない、心の整理がつくような言葉をだ。

男「本当に声優を目指しているんですか?」

副会長「ええ、勿論」

男「嘘でしょ、普通ならすぐに専念する」

副会長「……」

副会長「どうせ廃部になるこの部活に未練はありません。けど、見届けないとバツが悪いので」

男「廃部か……」

今は廃部になっても良いと考えている。
どうでも良いんだ、会長に勝つ事さえ出来たら。

副会長が本当に考えている事は分からないが、全力で練習に打ち込んでくれると助かるよ。

323 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/21(木) 23:37:12.54 ID:aHd2Mtw8O
翌日、バンドのメンバーを自分の家に集まるようにした。

昨日から呼び掛けていたので集まりは良かった。

男「副部長だけが来ません。部長は一体どのような教育をされてきたのでしょうか?理解に苦しみます」

部長「うるせーな、今着くって言ってたし……って、うわぁ!!!」

男「っ」ビクッ

副会長「副部長、物音くらいは立てて
ください」

副部長「あっ……ごめんね。ついうっかり」

様子がおかしい。
目の焦点が合っていない。
副部長が挙動不審なのは初めて見るのかも知れない、この人はいつも脳天気にどうどうと振舞っていた。

その前にどうやって玄関を開けた。

副部長「あのね、私……皆の足を引っ張ってるって思うから辞めようと思ってるの」

幼馴染「!!」

予想の範疇だった。

ここで副部長が抜けるのは正直に言ってかなりの痛手だ。

作詞先輩の掛け持ちを視野に入れなければならない。
最悪の場合は俺自身が弾く事に──

男「昨日の幼馴染が言った事を気にしていますか?本人がいる前で言うのも何ですけど、あれは悪気がないしなんなら副部長を勇気付けようとして」
副部長「違うよ」

俺が原因だな、

副部長「作詞先輩に教えて貰って気付いたんだ、私は居ても意味が無いって」

副部長「私よりも作詞先輩が、たとえ掛け持ちになってもこのバンドでギターを弾いた方が良いと思うし、ずっとがむしゃらに練習してきたけど上手になれない。個性も無い、技術もない、ぽつんと浮いてい」
男「そうですか、それならお疲れ様です。今までありがとうございました、副部長にギター教えて貰った時の事は忘れません」

幼馴染「──っ!」

ポカッ

男「えっ?」

優しく頭を殴られた。

ポカポカポカッ

握り拳が俺の頭を弱い力で何度も何度も叩く。

副会長「もう少し優しくしても良いでしょ!?」

副会長「どうして!?折角新しいスタートを切ったのに、簡単に人を切れるの!?」

部長「久しぶりにキレたな」

幼馴染「私、こんな副会長知らない。敬語キャラだったし」

部長「たまたまお前が居ない時にあるんだよこんな時が。それに……幽霊部員の話じゃ敬語を使うようになったのは高校生になってからだって聞いてるぜ?」

幼馴染「悪かったわね、知らなくて」

作曲「……」

副会長「副部長もどうしてここまで来て諦めるの!?」

副会長は力が抜けたようにへたれこんだ。
目には涙を浮かべている。

副会長「悲しいよね?そんな簡単に諦めたり割り切れたり……どうしてまとまる事ができないの?どうして!?」

昨日の今日でそんな事を思うのは安直なのかもしれないが、素直に感じた。

副会長は未練なんかでは無い。

自由天文部、自由天文部の全員が大好きなんだ。




324 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/23(土) 01:04:38.98 ID:SLLdA7FXo
副会長は副会長らしく、物事を現実的に見ているフリをしなければならない。
生徒会の一員である事を自分自身の中で誇大解釈しているのかも知れない。

だからこそ何が起きても冷静なフリをしなければならない。

このように振る舞うようにした理由もきっかけも分からない。
真面目に生きる美徳があるのだ。
だからこそ自由天文部ではまぁまぁ貢献している様には見えるけど自分自身での限られた範囲内でしか動けていなかった。

それを反省したからこそ俺に接触しようとした。
今までろくに話したことが無いのにも関わらず……

俺が今見ているのは副会長と言う人間そのものだった。

――が、副部長の退部願いとは全く関係ない。

副部長「……」

副部長「ごめんね」

副部長「私、まだ頑張るよ」

何言ってるんだこの人。

男「ハァ!?ここまで来て!?どうして?」

副部長「副会長を見たら頑張らなきゃって思ったんだ!まだ必要とされてるんだって!」

この人……
マネージャーにそっくりだ。
中身も、見た目も同一人物と思うほど。

副会長「副部長はどうしていつもこうして皆を困らせるのかな〜!?」

副部長「ごめんね、私って本当に要らないのかなって思ってた!」アハハ

あっけらかんとしてやがる。
本当に言葉の通りの事を考えている。

男「部長……」

部長「あ?」

男「疲れた……」

部長「あぁ……うん」

幼馴染「それよりも男、あんた副部長の事を簡単に切り捨てようとして――」

副部長「さぁ!練習しよー!」

あなたのおかげで出来てなかったんだよ。

それにしても少し見直す必要があるな、練って考える必要がある。
副部長、副会長が何を思っているかを。

作曲「……」

あなたもね……

部長「副部長はずっと人の前に立ってきた人間なんだよ、だから人を試す」ボソッ

男「俺だけに聞こえるように話してくれてどうも、おたくのバンドって意識高い系ばかりですね」ボソッ

部長「まぁ、今時の高校生って奴だろ?」


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/23(土) 11:28:04.87 ID:6WH6qbJhO
【決講】可奈「飛べ飛べ神鳥〜♪る〜ぐ〜ちゃん〜♪」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1574466531/
326 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/24(日) 14:04:20.10 ID:7iOeEy3Xo
男「副部長は俺の事をどう考えたか分かりますか?」ボソッ

部長「ロリに似てるとか?」ボソッ

男「……」

部長「前にも同じ様な事があったんだよ、本当に」ボソッ

部長「当時のロリはお前のような反応だったよ」ボソッ

男「ロリ先輩……」

あの人は普通の人とは異なっているけれど、俺に似ているとも考えた事がない。
ただの病弱な留年生。
けれど、自由天文部にかける思いだけは誰にも負けない。
そう思っていた。

けれど、二面性があった。

あるのは分かっていたけれど、見えない。ひとつは陰険としか分からない。
そして、今も尚この人の影が大きく残っている。
ロリ先輩……助けてくれよ。

あなたは俺に似ているのか?教えてくれ。

ロリ先輩はこういう時にどうする?

俺は俺のやり方を貫く事しか出来ない。

男「副部長、次に問題発言をしてしまう場合は本当にやめてください。貴女の機嫌を伺ってまでバンドを続けたくない」

副部長「ごめんね……」エヘヘ

全く、何を考えているのか……

327 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/24(日) 14:35:23.86 ID:7iOeEy3Xo
作曲「男君……」

男「?」

作曲「女の子の格好は続けるつもりなの?」

女装をしていないと上手に歌えないって言っても信じて貰えないだろう………
女性の歌になるが。

男「まぁ、これが一番調子出るので」

幼馴染「ほ、本人の好きにさせれば!?仕方ないじゃない」

鼻の下を伸ばしながら庇うな。

早い所で話を逸らして置くべきか。

男「と言うか、部長はどうしてぼけっと突っ立って居るのでしょうか?この部の部長ですよね?」

部長「へ?」

男「部長以外は皆、機材の準備をして練習に取り掛かる所ですよ?」

部長「いや、あいつらも丁度今始めた所……」

男「一番の足手まといが人と同じでどうするんですか?」

部長「……」ムカッ

男「仕方ない……今日は歌い方を教えましょう」

部長「えっ!?マジ!?」

まぁ、この調子でしっかりと練習を続けたらきっと悪くない結果を残せる筈……





328 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/11/24(日) 15:17:50.50 ID:7iOeEy3Xo
同時刻。

女「外……無理……やだ」

幽霊部員「もうすぐ部室っすから!!ワガママ言ってると住ませてあげないっすよ!!」

女「それは嫌〜」エヘヘ

幽霊部員「下手な愛想笑いは禁止!」

幽霊部員「ほらっ!着いたっすよ!!」ガチャッ

幽霊部員「おはようっす!!」

会長「おはよう、この人は……?部外者なら立ち入り禁止だが」

幽霊部員「OGの女さんっす!」

女「サボり魔だけどね……どうも、女です……あはっ」アハハ

作詞「おや、大先輩じゃないか。どうもどうも、おはようございます」

不良「誰だよ、この人……変なの」

幽霊部員「ずっと部屋に置いていると酒とタバコだけでもうっ!見てらんないんすよね!」

女「あれ?怒ってた?」

会長「まぁ、OGなら良いか……」

不良「基本的にはここに先生も来ないし」

女「あ、ごめんね。タバコの時間」スパ-

会長「」ピキッ

幽霊部員「携帯灰皿は?」

女「ある……」

幽霊部員「偉いっすねー!」

作詞「まぁ、この部室には探知機なんて無いけど……マナー違反なのではないかと思うよね。喫煙所があるからそこで吸って欲しいという気持ちは正直に言うとあ」

幽霊部員「女さんは他人が苦手なんすよ」

作詞「また切ったね?これで何回目かな?君はよく私の話を切るよね?」

会長「まぁ、邪魔をしないのなら……許容しようか」

プシュ

ゴクゴクッ

女「ふぅ〜っ缶チューハイは最高っ……あっ、持ち帰るからね?」

幽霊部員「僕のうちなんすけどね……」

会長「さぁ、練習しよう」

不良「あ、現実逃避したな」

作詞「ベースが居ないから個々の練習になるけどね」

不良「ロリ先輩が元気な時にはできるだけ音を合わせたいな」

女「……」ゴキュッゴキュッ
329 :綺羅星ソニア [sage]:2019/12/05(木) 19:10:20.34 ID:/5FE6297O
会長「〜♪」

幽霊部員「あっ、もう練習してる」

不良「相変わらず上手だな、さっさと歌手にでもなった方が良いんじゃね?そうじゃね?」

作詞「昨日とは違って鬼気迫る物があるね」

女「……下手」

不良「は?マジで言ってんの?」

女「感情の出し方が下手っぴ、これじゃあ誰も着いて来ないよ」

会長「っ、」ピタッ

会長「申し訳ない、邪魔をするつもりなら帰って頂きたいのですが」

女「なんだ、感情あるじゃん」

女「歌う時もそうしなよ」
330 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/05(木) 19:19:26.52 ID:/5FE6297O
会長「……」

女「あのね、今時仏頂面で歌う人なんて居ないよ?」

女「周りは君の歌を聞いていると同時に君の事を見ているんだから」

会長「!」

女「なんてね、ごめんね邪魔して」ゴキュゴキュ

プシュ

幽霊部員「流石っすね……」

会長「私の事を……」

会長「〜♪」

不良「顔がひきつってるぞー」

作詞「幽霊部員、あの人は全然部活に出ていなかったんだろう?随分と分かったように話すじゃないか?」

幽霊部員「あー……分かってるんすよね、色んな意味で」ボソッ

幽霊部員「お姉ちゃんが帰って来てからは特にっすけど」

作詞「? すまない、もっと私にも分かるように話してもらえないかな?」

幽霊部員「うーん、私と一緒で才能があるんすよ、きっと」

作詞「自負が凄いね、事実たけどさ」
331 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/06(金) 22:14:07.65 ID:FZtz1xKEO
作詞「まぁ、相変わらず会話が通じていないけれど、女先輩について何か知っているのかな?」

幽霊部員「!……何かって何すか?」

作詞「さぁ?」

幽霊部員「ほんと、読めないっすね」

作詞「お互い様だろう?お互い部活に出ていなかったんだから、サボっている間は何をしていたのかな?あっ、また深掘りもせずに意味深な発言をしたね?」

不良(二人共楽器の練習だか作詞だかしてたんだろ。そもそもお前らの会話には誰もついてけねぇしよ、本当にめんどくせぇ)

不良「あ〜〜〜男が居る時が一番楽しかったな、ロリも居ないし」

不良「会長は……単純に様子がおかしいんだよな。朝からだけど、昨日からだけど」
332 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/06(金) 22:25:51.13 ID:FZtz1xKEO





会長「今日はこれくらいにしようか」

作詞「おや?急に仕切り出したね?私が前に出る必要は無いのかな?」

会長「お節介はやめてください、この前の失態は反省しています」

作詞「復活かな?うん」

幽霊部員「今日の会長……目がギラギラしていて怖いっす……」
不良「お前本当に空気読めないのな、そんな事皆分かってんだよ、今日は本当に気色わりぃしよ」

作詞「ん?今の言葉は言う必要があるのかい?」

幽霊部員「……気色悪いとまでは言ってないっすよ」

女「若いな〜」スパ-ッ

作詞「煙草はひかえて欲しいなぁ……」

不良「言いすぎたか……でも実際に様子はおかしいだろ」

会長「私を差し置いて好き勝手言ってくれるな……帰るぞ」
333 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/06(金) 22:37:20.92 ID:FZtz1xKEO




会長(なんだかんだで解散はしたものの、私の中では様々な感情が渦巻いている)


会長(男……)

会長(自由天文部……)

会長(ロリ先輩の体調……)

会長(何よりも――)

会長(先生)

会長(昨日の事は――)




会長(うん)
334 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/06(金) 23:00:15.67 ID:FZtz1xKEO
昨日 夜

会長「先生、今日はどのようなレッスンを……?」

受付「……え?」

会長「先生?」

受付「誰……?」

アルバイト「あのね、落ち着いて聞いてね?」

アルバイト「前から体が悪いのはわかっていたと思うけど……あの、ごめん、分かってたけど……ウッ……どうして先生が……ウッ……」

会長「認知症……ですか?」

アルバイト「うぅん……違うよ、アルツハイマー……ここ最近で急に悪化していって……先生もまだまだ若いんだよ?」

会長(愕然とした、この人が居なかったら今の私は居ないだろう。私は男の事で気を悩む余裕なんてないと薄々と感じた)

会長「持病の方は?」

アルバイト「相変わらず悪いよ……もう、長くないって聞いていると思うけど…… やり切れないよね」

受付「早く歌いな、あんたは将来的には業界を――」

受付「賞を……」

会長「任せてください、賞を取りますから」

アルバイト「っ!」

アルバイト「そうだよね、最後の教え子だもんね……先生、ごめんね。私、なんの役にもならなかった」

会長(使命だ)

会長(前々から予兆があった、変に感情を爆発させる事が多々あった)

受付「可愛い私の娘〜♪」

会長(話も合わなかったことが多い。けど、私は先生に大切な事を教わった)

受付「ああ、私の可愛い、可愛い……」

アルバイト「もう、娘さんは帰ってこないのに……」

会長「絶対に先生を喜ばせる、賞を取る。アルバイトさん、見ていてください。先生が生きている間に私と言う存在を見てもらいたい」
335 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/06(金) 23:10:12.51 ID:FZtz1xKEO
現在

会長(私は決めた)

会長(必ずライジングロックで入賞すると)

会長「先生、見ていてください」

会長(必ず……)

会長(今までの成果を見せます)

不良「……」

会長「男……」

不良(急に男を呼ぶのかよ)

会長「私には時間が無いんだ」

会長「待ってろ、またバンドを組もう」

不良(……男はあんたとバンドを組みたくないと思うけどな)

不良(コンプレックスの原因だろ、正直に言って)
336 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/12(木) 00:29:25.68 ID:VP+sw7DHo
不良(正直、男はずっと会長に対してコンプレックスを抱いていたと思う。劣等感とかそう言うのは分からないけど……男と会長がまたバンドを組む事は無いと思う)

不良(――“私達”のように)

会長(男とまたバンドを組めるとしよう、その為にはライジングロックで私が男の隣に立てる存在だと認めさせる必要がある。先生が望む“入賞”も出来る。一石二鳥だ)

会長(が、しかし)

会長(先生は私が何をしても分からない……?先生は今、居ない娘と私を重ねている?今の先生には私が入賞したとか何だとか、分かる筈が無いんだ)

会長(一石二鳥なんて、あまりにも失礼な発想だ)

会長(だからこそ分かる。嫌な程分かる。私はもう、先生から歌を教わる事が出来ない……)

会長(取り返しがつかない程に身体を壊している事は知っていたが、まさか脳まで――)

会長(どうして先生が?)

不良「ほら、帰るぞ」

会長(私はどうしたら?)

会長(そもそも娘、お子様は生きているのか?何をしているのか?)

会長(先生――)
337 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/12(木) 00:56:36.94 ID:VP+sw7DHo
不良「帰るぞ!!!!!」ガアアア

会長「わっ!!すまない!」

不良「たくっ……」

不良「色々と鈍感なんだよ、あんた」




男の事、受付の事、練習が終わり、下校の道を歩いている今尚も会長は悩み続けていた。

受付に対しては答えが出ていた。
絶対にライジングロックで入賞する。

会長は受付の言葉を思い出していた。


『 私のレッスンが終わる頃に、あの子達があんたを忘れたって良いじゃないか』

『 その時にはあんたの歌を聞かせてやればいい。それだけで、元通りさ』

なんて立派な人なんだろう、本当に一人一人を見ていた。

会長は気付いた、今の受付は自分を叱らない。
レッスンは終わったのだと、そう思うとこれまであった感情が波のように押し寄せてきたのだった。

男に対する色恋と混ぜていた自分が恥ずかしいが、それ以上に悲しかった。

ただただ苦しかった。

もう受付から教わることは二度と無いのだと、大切な人と関われなくなるのだと、もっと甘えれば良かった、話せば良かった。

しかし、二度とまともに話す事は出来ないのだ。

会長(私に出来る事は――)

会長(今よりも更に歌えるようになる事だ……っ!)

不良と二人で帰っている今、みっともないタイミングで来てしまった。
感情の渦。

大切な人を失った事実は、会長の心に遅れてのしかかってきたのだった。

帰り道半ばで膝を崩して泣いてしまった。
受付が亡くなるまでは泣かないと決めていた。
好きな人から拒絶されるのも辛かったが、それ以上に受付の現状は会長の心を感情の濁流で飲み込むには充分だった。

会長「うっ……うわあああああぁぁ!!」

不良「会長……大丈夫か?どうした?水買ってくるからさ、落ち着けよ」
338 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/12(木) 01:16:18.68 ID:VP+sw7DHo
波と渦と濁流が同時に会長の心を襲う。

会長自身も訳が分からなくなっていた。

少しでも感情を声にして出さないと死んでしまいそうだった。

不良「どうした?男か?」

会長「ちがう……」

不良「ならどうして?」

会長「先生が……」

不良「先生……あぁ、あんたに歌を教てたあの……受付ね」

会長は叫ぶように現状を説明した。
受付の事を全て、例え不良達にとっての印象が悪くても関係なく話した。

不良「立派な人だったんだな」

理解せざるを得なかった、会長が知っている以上に受付の人間性は優れていた。

だからこそ不良の脳裏にロリがよぎる。

ロリも体が悪く、いつどうなってもおかしくない状態。

会長自身が認識していなくとも、ロリの件も会長に多大なストレスを与えているのは明らかだった事を不良は分かっていた。

不良「ロリはまだ生きているし、自分を保っている」

だからこそ言える。

ロリ「手っ取り早くロリに楽をさせてやろーぜ?」

会長「!」

自然と涙が止まった。

ロリはまだ生きている。

会長は不良に諭されてようやく分かったのだった。
大事な人が沢山居る。

そして、会長としてでは無い自由天文部としてロリと受付に“入賞”を知らせる必要があると――
339 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/15(日) 22:22:35.26 ID:1vgy8i/4O
会長(ロリ先輩に知らせる?)ハッ

会長(そもそもロリ先輩は舞台に立てるのか?)

不良「なぁ、病院抜け出してきたの?」

ロリ「さっさと私に楽をさせろっつーの、だにょ」

不良「語尾変、語尾変」

入院をしている筈のロリは会長と不良の前に胸を張って立っていた。

会長「い、いつから?」

ロリ「内緒だにょ」

ロリ「私を楽にしてやろーぜって言ったのに無視するなんて酷いにょ」

不良「……」

不良は訝しむように、じっとロリの顔を見詰めている。

不良(化粧で誤魔化しているけど、明らかに弱ってんな……)

ロリ「そろそろここを通ると思ってたにょ〜」

不良「はぁ〜、早く病院に戻れよ」

街灯がロリを照らしつける。
強い光が更に厚手の化粧を映やすがそれ以上目立っているのは衰弱しきった身体。

ロリ「そうもいかないにょ」

意志の怪物。
女が去ってからはずっとやりたいようにしてきた。
背負う物も増えすぎた。
意志半ばに去った人の分も抱えていた。

ロリ「ここまでの話は色々と聞いているにょ」

ロリ「体制を変えるなんて思い切った事を男はまぁよくも……」
340 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/18(水) 22:49:46.65 ID:QpkAA3q9O
ロリ「う〜ん、まぁいい、同じバンドのよしみだにょ」

ロリ「そこでまぁ、提案……お願いだにょ」

ロリ「私個人として……」

ロリ自身が持つ朗らかで甘い雰囲気が一転、棘のように鋭くなった。

ロリがこれから話す言葉を会長と不良は何となく予想が出来ていた。
しかし、それは気持ちよりも準備が足りていない事だった。

ロリ「お願い、私の代わりにベースを担当して」

出てきた言葉は無理だとか出来るとかではなかった。

会長「ロリ先輩と舞台に立ちたかった……」

不良「ほんとそれな、一人だけ抜けやがってさ」

ロリ「二人共、ごめんね……」

今の二人がロリの口調を気にするはずが無かった。
どうでもいい些細な問題だった、会長のベーステク、全体への報告、セッション、二人はこれから起こるであろう問題なんて気にしていなかった。

会長が一通り泣いた後に自分よりも強い人を見た。

会長は泣いている場合では無いと思った。

不良は負けていられないと思った。
341 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/19(木) 20:40:45.11 ID:mA8bpdg5O
ロリ「じゃあ……」

会長「お願いです。私にベースを教えてください」

こちらから言わないといけないと思っていた。ロリの体調が悪いのは百も承知だ、会長はそれでも教わるのならロリが良かった。

ロリ「勿論!」

あっけらかんとした即答、いつも通りのロリに戻っていた。

不良「は?体悪いんじゃねーの?大体病院で楽器なんて弾けないだろぉ?」

会長「不良、きっと文章で教えるつもりだろ」

不良「そんな一朝一夕で楽器が出来るかよ、」

ロリ「今日から自宅療養を始めたにょ、私はベッドで横になりながら教えてあげるから安心するにょ」

不良「あ〜大丈夫なのか?それで」

ロリ「ロック・スターまで持てばそれで充分……」

ロリ「会長と不良達がロック・スターで勝って、私が手術を成功させる!!それで万事解決だにょ!」

ロリは今、こうして話している内にも倒れそうだった。
全身の血が引いていく感覚がずっと続いている。
身体は今まで以上に悲鳴を上げていた。

ロリ「じゃあ、明日からはしばらく私と練習だにょ。暫くは部室に顔を出す事を禁止、毎朝私の家に来るにょ」
342 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/19(木) 21:10:43.99 ID:r9EIx4I2o







男「……」

今頃、会長とロリ先輩が会っていることだろう。

19時10分、いつもの帰り道で待っているから久しぶりに会わないかとの誘いがあった。
俺は大事な用があるのと、何となくバツが悪いのもあって断ってしまった。

大事な用とは……副部長を知ると言う事だった。

今のバンドで成長のきっかけ、人間性、思考を掴めないのはこの人だけだった。

だからこうして今、副部長の帰りを送っている。

副部長「……あ、ありがとうね?送ってくれて」

男「いえいえ、色々と聞きたい事が山積みですから」

今からの俺は副部長を死ぬ覚悟で“攻撃”する、一度でも殴られたら終わりだろう。

はっきり言って貴女には困らされているんだよ、さっさとその醜い本性を表せよ猫被り。

副部長「聞きたい事?なにかなぁ?」ン-?

男「どうして皆に一番迷惑をかける時に後先考えずに自己中心的な思いをぶちまけるような考えに至ったのはどうしてかなって?」

あ、言い過ぎたかも。
343 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/19(木) 21:12:06.20 ID:r9EIx4I2o
>>324
訂正


それにしても少し見直す必要があるな、練って考える必要がある。
副部長、副会長かが何を思っているかを。

それにしても俺は今一度見直す必要があるな、更には練って考える必要がある。
まず最初に、副部長が何を思っているかを。
344 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/12/24(火) 21:55:09.70 ID:tXvq6AqWO
男「迷惑なんですよね、空気読めてます?」

副部長「ご、ごめんね……」

副部長「必要とされているのかが分からなくて」

男「状況的に必要でしょ、俺よりもずっとギターうまいし」

副部長「でも作詞先輩ほどでは無いよね?」

男「そうだけども、まぁ……そこは何とかなるんじゃないかなぁ」

副部長「私って平凡なんだよね、何をやらせても中の上で人の目を気にしてしまう」

副部長「男君にギターを教えたのも何かしらの存在感を出す為で、男君の為なんて一つも考えてなかった」

こいつ、恥ずかしげも罪悪感も無い。
人としての感覚を疑うような事を平気で……

男「自由天文部の事はどう考えてます??自分の為?目立てるから?」

副部長「そんな自己中では無いよ。うん、大事……自由天文部が無ければきっとつまらない生活を送ってた」

男「そうか……自由天文部で役に立ちたい……とか?」

副部長「自由天文部で一番役に立ちたかったなぁ」

この言葉で俺は気付いた。
あぁ、エゴの塊なんだと。
自由天文部が好きな事は前提にあるけれども、これからの出来事でも先頭に立ちたいのだ。

文化祭ではどのような感情だったのだろうか、きっと良いものでは無い。
純粋に嫉妬をしている、きっと自由天文部もその部員全員の事も大好きなんだろう。

幼馴染以外は使い物にならないと思っていたが、とんでもない逸材がここに居るじゃないか。

男「――副部長」

男「このバンドの主役になりませんか?」
345 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2020/01/03(金) 05:06:26.74 ID:vcsVU35Io
副部長「えぇ!?どうして私なんか!?」

心底嬉しい癖に謙遜をしておられる。

そんな事はどうでも良いけれどこの方はサイコパスの分類に入るタイプの人間だ。
間違いない、俺はアイドル時代に同じような人間を沢山見てきた。成功の為に他者を潰しても何とも思わないタイプ、人の気持ちを何一つ考えないタイプ、結果至上主義。

副部長は自身の過度なエゴイズムを守るために平然と嘘を吐いている、俺に言われるまでの今まではずっとこうしてきたのだろう。自分からは言えないけど誰かが自分自身を囃し立てるのを待ってきたが、それに相応する実力が無い事もきっと理解しているだろうが俺にとってそこは問題ない。
この手のタイプは他者との協調力が芯の部分で欠けている所為で才能を使う向きを間違えてしまう人間ばかりだが、俺が正してやれば良い。

技術だとか才能だとかと人は言うけれど、この人は違う。
“没頭”させればさせる程人を凌駕するタイプの人間、何人も見てきた。

何よりもルックスが万人受けするのも主役に立ってもらう理由の一つ、どうしても目立つのはボーカルになってしまうのだろうが副部長のソロパートを増やしてステージでも前に立ってもらう。
メイクと衣装選びは全て俺自身が手がける事にした、俺が主役にする。

問題はギターのテクニック、一人で上達するには限界があるタイプ。
付きっきりで見ていたいからこそ一人で作詞先輩の元に行かせる事なんて絶対にしたくは無かったからどうにかして現状の解決策を見つける必要があるのだが……

「あれ?君たちはもしかして自由天文部の子?」
346 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2020/01/03(金) 05:32:57.25 ID:vcsVU35Io
男「え?」

副部長「そうですけど……」

気がつけばギターを背負っていて尚且つ派手な風貌をした金髪の青年が目の前に立っていた、年齢は俺や副部長よりもずっと上の二十代前半だろうか。

口振りからすると自由天文部のOB――

「あっ、ごめんごめん」

ギター「俺はギター、元自由天文部でロリとタメだな」

副部長「えっ!?聞いた?男君!ロリちゃんと同級生だよ!伝説の先輩の事も知ってるのかな!?」

ギター「あ〜、蹴られた記憶しか無いし俺が入る時にはもう辞めてたよ」

副部長「???」

ギター「まぁ昔話は置いといて、君たちはギターかな?」

男「まぁ一応は」
副部長「ギターです!」

ギター「じゃあさ、弾かない?一緒に」

副部長「怪しい人じゃないよね……?」ボソッ

男「たとえそうであったとしても副部長先輩の前では何の意味も無いと思うのですが……」

ギター「?」

ギター「俺、こう見てもさ一応はプロのギタリストだから何かしらのアドバイスは出来ると思うんだ――」
男「行きましょう」

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