廃墟と化した鎮守府の夜明け

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440 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:10:18.58 ID:JmASTJOw0
時雨「無茶だ! 1人でなんて……! 夕立でも敵わなかったんだよ!?」

吹雪「……みんなをお願い。時雨ちゃん!」ダッ

時雨「吹雪っ!」


電「――――!」

吹雪「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」ドカッ!

電「――――!?」ググッ

吹雪(弾薬もない……私は夕立ちゃんみたいに素手で戦うとかも出来ないけど……)

電「――」キッ!

吹雪(せめて……時雨ちゃんたちが逃げられる時間稼ぎだけでも……!)

吹雪「私がみんなを……護――」

電「――――!」シュルルッ!

吹雪「っ!?」
441 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:15:06.20 ID:JmASTJOw0
電「――――」グググ

吹雪「……あ……が、っ」メキメキッ


時雨「吹雪っ!?」


電「――――」グイッ

吹雪「ぐっ……しぐ……にげ……ぎゃ……ぁっ」ベキッ、バキッ!

吹雪「……ぁ」プラン…プラン…


初霜「吹雪……さ……」ガクガク

時雨「あぁ……そん、な……」

442 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:20:34.74 ID:JmASTJOw0
中将「まずは1人。よくやった、電」コツ…コツ…


時雨「っ!」


中将「……愚かな選択をしたな。私の邪魔をしなければ、生かしてやったものを」

中将「ここまで辿り着くほどの知恵と勇気、それに運も持ち合わせていた稀有な存在だというのに……実に残念だ」

中将「……ん?」


吹雪「……ぁ……ぅ」


中将「ほう……尾で絞め上げられ全身を潰されても、まだ微かに息があるか。このままでもすぐ死ぬだろうが……」

中将「せめてもの情けだ。止めを刺して楽にしてあげなさい」


電「――――」グッ!

ゴキンッ!

電「――――」シュルッ

吹雪「」ドシャッ


時雨「ふ……ぶき……」

初霜「あ、あぁぁ……」ガクガク


中将「さあ、次はそこの2人……ただし時雨は殺さず、逃げられぬよう足を折る程度に止めておくれ」

電「――――」ジロッ


時雨「ぐっ……」

時雨(負傷した初霜を抱えたこの状況じゃ……さすがに逃げ切れない)

時雨(さっきのような手も……2度は……)

時雨(これまで、か……)

443 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:23:04.12 ID:JmASTJOw0
(あれ……?)

(目の前が……真っ暗だ……。ああ、そうか……私は、電ちゃんに……)

(結局……護れなかったんだ……時雨ちゃんたちも……司令官との、約束も……)

(ごめんね……みんな…………)

(ごめんなさい……司令官……)

(…………)

(……?)

(なに……この感覚……胸の辺り、暖かい……)

(……! 光……? 小さな光が……だんだん、大きく……)


ピカッ!

444 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:26:13.15 ID:JmASTJOw0
電「――――?」

中将「何だ……?」


「2人に手を……出すなぁぁぁぁっ!!」ドカッ!


電「――――ッ!?」ヨロッ…

ガシャァァァンッ!!

中将「電!?」


時雨「……えっ?」

初霜「な、何……? いったい、何が……」


吹雪「……っ、時雨ちゃん、初霜ちゃん!」


時雨「ふ、吹雪!?」

初霜「吹雪さん……! いったい、どうして……」

吹雪「私にもよくわからないけど……気が付いたら、意識が戻ってきて……身体も元通りに」

初霜「! 吹雪さん、そのお守り……」

時雨「お守りが光を……吹雪、それ……」

吹雪「これって……」

女神妖精 ( ^ー゚)bグッ
445 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:30:21.73 ID:JmASTJOw0
吹雪「応急修理女神……これがお守りの中に?」

初霜「そのお守り……確か……提督に……頂いたもの、ですよね?」

時雨「なるほど。確かに、最高のお守りだ」

吹雪「司令官……」ギュッ


ガララッ… ガシャァン!

電「――――っ」スクッ


吹雪「!」

時雨「安心してる場合じゃなかった。この状況をどうにかしないと」

初霜「吹雪さん……女神の力で、甦ったなら……弾薬も」

時雨「そうか! その手が――」

吹雪「だけど……私が装備してるのは魚雷だけで、砲系統の艤装は……!」


中将「貴様……よくも……よくも、電を……!」

中将「許さんぞ……貴様はより惨く殺してやる! 四肢を削ぎ! 臓物を撒き散らして殺してやるッ!」

中将「殺せ電っ! お前を痛めつけたゴミ屑を、誰かも解らぬほどバラバラに引き裂いてやれッ!」


電「――――!」ダッ


時雨「っ、また来る!」

吹雪「……やるしかない!」

吹雪「時雨ちゃん、初霜ちゃんと一緒に伏せてて!」ダッ

時雨「! 吹雪っ!?」

446 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:33:02.86 ID:JmASTJOw0
中将「愚か者が! 馬鹿の一つ覚えの如くまた体当たりか!」

中将「今度こそ仕留めてやれ! 電!」


電「――――!」シュルルッ

吹雪(っ! 尻尾の攻撃……これさえ避けられれば!)

電「――」シュッ

吹雪「っ!」

吹雪(避けられた! このまま巻き付かれないように……!)

電「――――!」シュルッ!


時雨「後ろだっ!!」

447 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:37:45.62 ID:JmASTJOw0
吹雪「っ!」

吹雪(避けた尻尾の先が、こっちを……!)


中将「終わりだ! そのまま刺し殺してしまえッ!」


電「――――」シュルッ

吹雪「……でも、ここまで近づけば十分」ガチャン!

電「――!」


中将「っ! 馬鹿が、陸では使えもしない魚雷だけで何が――」

中将「!?」


時雨「ま、まさか……」


電「――!?」

吹雪「確かに魚雷は海でないと使えない……けど」

吹雪「信管を作動させて、直接当てれば――」

吹雪(チャンスは1度だけ……全ての魚雷を、ゼロ距離で叩き込む!)


試製61cm六連装(酸素)魚雷 カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷   カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷   カッ!


電「!?」

吹雪「お願い、当たってください!」


チュドオォォォォンッ!!

448 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:40:28.05 ID:JmASTJOw0
時雨「っ!!」

初霜「きゃっ!」

時雨「……! 吹雪っ!?」


ドサッ! ドザザッ


吹雪「……っ、ぐ……っ」


初霜「吹雪さん……!?」

時雨「吹雪!」ダッ

時雨「しっかり……! 吹雪っ!」

吹雪「時雨ちゃ……」ゲホッ

時雨「! 吹雪!」

時雨「なんて……なんて馬鹿なこと……っ!」

吹雪「ぁはは……それより……電ちゃん、は……?」

時雨「!」バッ


中将「電!? 電ぁっ!?」


電「――ッ、――」フラフラ…


初霜「!」

時雨「!? 炎の中から……ダメージは入ったみたいだけど、まだ動けるのか」


電「――――っ」

電「――ァ」ヨロッ…

電「」ドシャッ!


中将「い、電……!?」

中将「あ……あぁ……いなず……電っ!?」

449 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:42:06.69 ID:JmASTJOw0
初霜「!」

時雨「やった……やったみたいだ、吹雪!」

吹雪「よ……かった……」


タッタッタッタッ…


時雨「……!」


阿武隈「今の爆発は……! 時雨ちゃん!」

時雨「阿武隈さん! それに、不知火と夕立も……!」

不知火「夕立と合流した後、阿武隈さんとも合流を……それより、吹雪さんと初霜さんは」

夕立「吹雪ちゃん!」

時雨「2人とも負傷してる。すぐに命に係わる心配は無さそうだけど……特に吹雪は、電を倒すためにゼロ距離で魚雷の爆発を受けたから……」

不知火「!」

阿武隈「なんて無茶なこと……っ!」

夕立「吹雪ちゃん……」

吹雪「そんな顔しないで……大丈夫、だから」
450 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:43:32.11 ID:JmASTJOw0
不知火「それじゃあ、電は……?」

時雨「……」


中将「あぁ……電…………電ぁ……!」

電「――ガ…――グ」プルプル

中将「大丈夫だ……電…………私が治す。治すからな……また、私が……おぉぉ、電ぁ……」

電「――ッ」


阿武隈「電ちゃんに寄り添って泣いてる……どうしてあの人は、あそこまで電ちゃんに……?」

時雨「……」


ドオンッ!


時雨「!?」

451 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:44:43.30 ID:JmASTJOw0

ドカンッ…ドンッ! チュドンッ!!


不知火「炎と爆発が……広まってる!?」

時雨「! さっきの爆発の炎が、近くの兵器や弾薬に誘爆し始めたのか!?」

阿武隈「嘘でしょ!? 作りかけの兵器とか弾の他にも、燃料とかもたくさん置かれてるのに……!」

時雨「それだけじゃない……ここには、深海棲艦を絶滅させる為の兵器もあるのに!」

不知火「!!」

時雨「ここに居たらまずい。すぐに逃げないと!」

阿武隈「っ! 時雨ちゃんと夕立ちゃんは吹雪ちゃんを、不知火ちゃんはあたしと一緒に初霜ちゃんに手を貸してあげて!」

不知火「了解しました」

夕立「吹雪ちゃん、私たちに掴まって」

吹雪「……ごめん……夕立ちゃん、不知火ちゃん」

時雨「しっかり掴まってて……夕立、君は左側からお願い」

夕立「ぽいっ!」
452 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:50:33.67 ID:JmASTJOw0
阿武隈「初霜ちゃんも、肩に手を回して」

初霜「阿武隈さん……電さんたち、を……」

阿武隈「……!」

不知火「何を……」

初霜「……見捨てていくなんて……あの2人も……一緒に、脱出を」

阿武隈「初霜ちゃん……」


ドカンッ! ボオッ…!


時雨「……火の回りが早い! 阿武隈さん、早く!」

阿武隈「っ! 不知火ちゃん、初霜ちゃんをお願い!」

不知火「まさか……正気ですか!?」

阿武隈「見殺しには出来ないわ。あたしが2人を連れていくから、みんなは先に出口を――」

阿武隈「っ!」ボウッ!

阿武隈「……! そんな! あの2人の周りが、炎に……!?」

不知火「っ! もう無理です! このままだと阿武隈さんまで炎に……!」

阿武隈「でもっ……!」

不知火「早くっ! このままだと全員死んでしまいます!」

阿武隈「……っ!」ダッ


メラメラ… ボオッ!


中将「電……私の愛しい……電……」

中将「もう1度……見せておくれ……私の大切な……この世で、たった1人の…………私の……」

電「――――ッ」

電「――ォ…ト……」ツー


グラッ… ガシャァァァンッ!!

453 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 10:57:01.19 ID:JmASTJOw0
不知火「っ! 出口は……出口はどこ!?」

阿武隈「電ちゃんたちから逃げ回ったせいで、来た道すら分からない……。炎もどんどん広まってるし、このままじゃ……」

時雨「……! この機械……見覚えがある。あっちだ!」

夕立「吹雪ちゃん、もう少しだから頑張って!」

吹雪「うん……」

阿武隈「初霜ちゃんも、頑張って!」

初霜「申し訳ありません……2人とも……」

時雨「……! 見えた、出口だ!」

阿武隈「みんな、急いで!」

吹雪「…………」


『――の――――――――っ―……そ――――に』


吹雪「……!」

夕立「吹雪ちゃん、出口が見えたっぽい! もうすぐだからね!」

吹雪「……うん…………」

454 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 11:07:32.26 ID:JmASTJOw0
-地下施設 地下実験場〜階段間の通路-

不知火「何とか……炎からは逃れられましたね」ハァハァ

時雨「でも、まだ安全って訳じゃない。あの兵器が誘爆してしまう前に、早くここから脱出して出来るだけ離れないと……!」

阿武隈「とにかく階段のところに! 地上に上がって、そのまますぐこの島から海に出ましょう!」



不知火「分岐が見えました!」

時雨「よし……。あそこを左に曲がって階段を上れば……」

時雨「……!?」

不知火「か、階段が……」

阿武隈「塞がってる……!? 天井の部分が崩れて……階段が……っ!?」

時雨「さっきの爆発のせいか……っ!」

不知火「ど、どうすれば……地上に出るには、この階段を上がるしかないのに!」

時雨「くっ……」



自由安価>>456

※※実現不可能なことや、あまりに話から外れた内容の場合は再安価と致します。

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:39:49.82 ID:DqJqwKqIO
確か海に通じる出口みたいなのがあったはずだったからそこに
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:54:05.84 ID:bj7PbJp8o
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/26(水) 19:14:38.11 ID:pF7we9H60
これ、このスレでの選択肢次第でもエンディングの分岐がありそうだな。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 20:13:18.65 ID:X5ppCLuCo
スーパータイラントならぬスーパー電くるか?
459 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 21:40:20.68 ID:JmASTJOw0
吹雪「……!」

吹雪「みんな……、あそこに……あそこから、海に……」

夕立「吹雪ちゃん?」

時雨「海? あそこからって、いったいどこに……?」

吹雪「地下の……っ、『出撃ドック』。あそこから、海に……出られるかも」

阿武隈「!」

初霜「……そういえば、私と夕立さんも……最初に目覚めたとき……あの場所に」ハァ…ハァ…

時雨「! そうか、出撃ドック……あそこは外――海と繋がってるのか!」

夕立「じゃあ……!」

時雨「時間もない……一か八か、行ってみよう」

阿武隈「でも、よく気付いたね。出撃ドックのこと」

吹雪「声が……聞こえたんです。さっき……誰かの声が……その声が、『出撃ドックから海に』って……」

阿武隈「声?」

吹雪「よくわからないけど……確かに聞こえた気がするの。女の子の声が……頭の中に」

時雨「女の子の声……」


ズズンッ…


時雨「!」

阿武隈「っ、今は考えてる場合じゃないわ! 早く出撃ドックに向かおう!」

460 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 21:52:58.91 ID:JmASTJOw0
-地下出撃ドック-

不知火「潮の匂い……! ドックに着きました!」

阿武隈「ここは電気が点いてないから全貌が分からないけど……どこかに、外に出れる場所があるはずだわ」

阿武隈「みんな、艤装のライトで辺りを照らして!」ピカッ

不知火「っ!」ピカッ

時雨「……」ピカッ

夕立「何もない……っていうか、向こう側は完全に冠水しちゃってるっぽい……?」

不知火「っ、そんな……ここまで来て……!」

初霜「でも……私と夕立さんが、海からここへ……流れ、着いたのなら……」

時雨「まだ外には繋がってる……? この水の先にさえ行ければ……」

阿武隈「でも、どうやって……!?」

時雨「……泳いでいくしかないね」
461 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:03:22.81 ID:JmASTJOw0
夕立「ぽいぃ!?」

阿武隈「泳ぐって……潜水艦でもないあたしたちが艤装を抱えたまま水の中になんて入ったら……!」

不知火「たちまち水没して……水死するのが関の山。さすがに、それは……何か別の方法を」

時雨「残念だけど他に方法はない。あったとしても、今からそれを探してるような時間はない」

時雨「それに、ここに流れ着いた初霜たちがこうして生きている事や、艤装にも問題が発生していない所を見ると――」


ズズンッ! ドォォンッ!


阿武隈「爆音がすぐ近くにまで……! それに、何かが崩れる音も……!」

時雨「地下が崩落し始めたんだ……迷ってる時間はない。行こう、みんな!」

不知火「〜〜っ! 分かりました。迷いながら瓦礫で圧死するくらいなら……ここからの脱出に賭けましょう」

夕立「でも、怪我してる吹雪ちゃんや初霜ちゃんは……!?」

吹雪「……っ」

初霜「……」ハァ…ハァ…

阿武隈「このままあたしたちで支えて、みんなで一緒に行くよ。見捨てていくなんて、絶対にイヤ!」

不知火「1人でも欠けて自分だけ生き残るくらいなら……皆で一緒に死んだほうがマシです」

時雨「そうだね。みんなで一緒に行こう」
462 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:12:29.42 ID:JmASTJOw0
阿武隈「じゃあ、みんな……準備はいい?」

不知火「初霜さん、傷口に水が障って辛いでしょうが……何とか頑張ってください」

初霜「はい……ごめんなさい、よろしく……お願いします」

時雨「水の中に入って少し泳いだら、とにかく上を……海上を目指そう」

夕立「吹雪ちゃん、水の中に入ったら頑張って息を止めて。出来るだけ早く、外に出るから……!」

吹雪「うん……」

阿武隈「じゃあ……いくよ!」ザバッ

初霜「――っ!」ズキッ

不知火「初霜さん、頑張って……。では時雨さん、不知火たちが先に潜り先導します」

時雨「うん。光もない、本当に手探りになるだろうけど……何とか頑張って海上を目指そう」

阿武隈「いくよ、不知火ちゃん」

不知火「はい……っ!」スゥッ

ザバッ!

時雨「僕たちも行くよ。夕立、吹雪をしっかり抱えて」

夕立「ぽいっ!」

時雨「よし……いくよ!」ザバッ

夕立「っ!」ザバッ

463 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:31:43.84 ID:JmASTJOw0


コポッ……コポポッ


時雨「――――」

夕立「――――」


吹雪(真っ暗で……暗くて……寒い……)

吹雪(これが暗い海の中……光の無い……世界……)


ズキッ!


吹雪「――――ッ!?」


吹雪(身体が……っ、どんどん……冷たく、なって……)

吹雪(……そうか……これが、あの人が言っていた……これが……深海棲艦の……)


夕立「――――っ、――!」

時雨「――――!」


吹雪(あぁ……そうか……わたし……)

吹雪(ごめん……夕立ちゃん……わたし……眠く…………)

吹雪(だめ……意識が……また…………)


『―――――』


吹雪(…………?)


『―――――――――、―――――― ――――――――――――……』



コポポッ…!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


464 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:00:28.85 ID:pwqOUEe30
吹雪「…………ん……」

吹雪「……あれ……ここは……?」

夕立「……! 吹雪ちゃんが起きたっぽい!」

吹雪「その声……夕立ちゃん?」

吹雪「ここ……ベッドの上……?」

吹雪「っ!」ガバッ

夕立「おはよう。吹雪ちゃん」

吹雪「夕立ちゃん! どうしてベッドの上に? 阿武隈さんや他のみんなは? それにここは……!?」

夕立「吹雪ちゃん、少し落ち着いて」

吹雪「私……どうして、あの地下施設から脱出して……それから……記憶が……」

初霜「私たちは助かったんですよ、吹雪さん」

吹雪「! 初霜ちゃんも、無事だったんだね!」

初霜「ええ。他の皆さんも……入院しているのは私たち3人だけなので今ここにはいませんが、全員無事ですよ」

吹雪「入院……それに助かったって……じゃあ、ここは……」

夕立「ここは鎮守府の病院棟だよ」

初霜「無事に帰れたんですよ、私たちの鎮守府に」

465 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:03:54.76 ID:pwqOUEe30
吹雪(それからしばらくの間、私は状況が掴めなかったけど……初霜ちゃんたちの話を聞いてようやく理解することが出来た)

吹雪(私たちがあの廃墟と化した鎮守府に迷い込み、地下施設からの脱出を図ってから、なんと3日も経っていた)

吹雪(あの地下のドックから海上を目指した私たちは、幸運にも水没することなく全員無事に海上に浮上出来たらしい)

吹雪(私は水の中に潜った直後気を失い、夕立ちゃんと時雨ちゃんの支えで何とか海上へと辿り着いた。けどその後もずっと気絶したままだったらしい)

吹雪(海上に上がった私たちは、すぐにあの島を脱出し、その後、私たちの捜索に出ていた味方の艦隊を発見し合流を果たした)

吹雪(そうして私たちは、無事に鎮守府へと帰還することが出来たのだ)

吹雪(負傷していた私と初霜ちゃん、怪物に襲われた夕立ちゃんは帰還後すぐに入院。幸いみんな命に別状はなかったものの、大事を取り1週間は入院生活を言い渡されたという)

吹雪(私はついさっき目を覚ますまで、3日間も眠ったままだったらしい……)



吹雪「私が眠っていた間に、そんなことが……」

初霜「入院している私たちの代わりに、阿武隈さんや時雨さんたちが提督に事情を説明しているそうです」

夕立「昨日もお見舞いに来てくれたけど、色々大変そうっぽい」

吹雪「……でも、私たち……帰ってこれたんだね」

初霜「……はい。帰ってこれたんです。皆さんの元に……私たちの、居場所に」
466 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:07:33.98 ID:pwqOUEe30
吹雪「あれ? そういえば、この花瓶の花……私たち全員の横に置かれてるけど」

初霜「ああ、それは青葉さんがお見舞いに持ってきてくれた物なんですよ」

吹雪「青葉さんが?」

初霜「私たちが帰還して入院した後、わざわざ全員の分を持ってお見舞いに来てくれたんです」

吹雪「青葉さんが……なんか、珍しいって言うか……以外って言うか」

夕立「でも、その代わりに色んなこと根掘り葉掘り聞かれたっぽい」

初霜「質問攻めにされて、最後は『これでいい記事が書けます!』って感謝されましたね。途中からはお見舞いというより、完全に取材になってましたね……」

吹雪「あはは……やっぱりいつもの青葉さんだ」

吹雪「……でもこの花、とても綺麗。ピンク色の……えーと、なんていう花だろう?」

初霜「ガーベラ、だったと思います」

夕立「夕立的には食べ物の方が嬉しかったっぽい」

初霜「……夕立さん」

夕立「うそうそ! 冗談っぽい」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 01:09:07.20 ID:+CphB0M0o
実はこれbadendでは?
468 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:14:34.37 ID:pwqOUEe30

コンコン


初霜「はい。どなたですか?」

白雪「白雪です。吹雪ちゃんのお見舞いに。深雪ちゃんと初雪ちゃんも一緒に」

初霜「ちょうどよかった。ついさっき吹雪さんが目を覚ましたところで――」



吹雪(何はともあれ、私たちは全員無事に……私たちの鎮守府に帰ってくることが出来た)

吹雪(でも、私たちがあの鎮守府で知ったこと――知ってしまったことは、この先大きな混乱に繋がってしまう。そんな予感を感じていた)

吹雪(私たちの行く末……この先に待っているのは、いったいどんな未来なのか?)

吹雪(それはまだ分からない……でも、きっと方法はあるはず)

吹雪(私たちと深海棲艦……終わることの無いというこの戦争を、どちらかを滅ぼさずとも終結させる方法が……)



吹雪(そういえば……あの鎮守府を脱出するとき……水の中で、また……あの声が聞こえた気がする)

吹雪(あれはいったい……誰の声だったんだろう。あの声は、どうして……)

吹雪(どうして私に、謝ったんだろう……)









――巻き込んでしまって ごめんなさい  と   を許してあげて……―――









【Good End】
469 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:22:51.90 ID:pwqOUEe30
ようやく終わりが見えました
気が付いたら半年以上ずるずると続けてしまい本当に申し訳ないです

近日中に最後の話を書いて、それでこのSSは完結となる予定です

お付き合いありがとうございました
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 01:42:10.84 ID:80CcWx8Wo
おつおつ♪
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 01:52:56.93 ID:3+uw6cQk0
乙です

待ったかいがあったぜ
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 02:00:30.13 ID:KT/TYDZbo
乙!

出来ればでいいからtrue endも書いて欲しい。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 02:10:16.07 ID:LcdQbGBzo
やっぱどこかにtrueにつながる鍵があるんだな
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 02:12:32.44 ID:pvC6cE8No
乙乙
ガーベラの花言葉は希望とかだっけか
......青葉には似合わんな
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 05:24:52.53 ID:YTCmbR6+0
おっつおっつ

最後のは『おとうさんを許してあげて』かな
あと爆発で冷凍庫の保冷機能停まったら怪物復活するんじゃ…
ネメシス少将爆誕フラグ?
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 09:44:30.50 ID:B21AA15sO
お守りマジか・・・
って事はあの時阿武隈が持ってたままだと阿武隈と先に合流しないとやられてたパターンっぽかった?
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 12:24:35.71 ID:6O2nxwLnO
やっぱり潜水艦じゃない彼女たちは泳ぐことができないんだよな
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 12:26:12.53 ID:6O2nxwLnO
あの2人と救うのがベストエンドなのかな
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 12:36:09.07 ID:QB4ji1SDO
ガーベラの花言葉は希望・前進。
ピンク色のガーベラだと思いやり・崇高美・感謝・童心に帰る。
なんか意味深だな・・・
わざわざ色まで描写してるし
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/31(月) 01:57:47.11 ID:Q4tm9MZE0
これ完全完結後に最初からどのルートをどう選択したらどうなるのか全部欲しいな。
しかしこれ、RPGツクールとかでプレイしてみたい
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/01(火) 04:02:31.25 ID:6AjFNNR+O
言い出しっぺの法則というモノがあってな…
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/05(土) 01:27:42.51 ID:6qXeEAO+o
機種変してログ消えたからすっかり忘れていた間に続き来ていたのか
やっぱり主人公さんが主人公なのか
483 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/08/06(日) 00:57:12.81 ID:GU5W5Tx40
〜事件から1週間後〜


-柱島鎮守府 執務室-


コンコン


時雨「提督、入るよ」

提督「やあ時雨。せっかく休養しているところ呼び出してすまない。調子はどうだ?」

時雨「僕は平気だよ。それに僕も提督と話したかったし」

提督「とはいえ皆が帰還してから検査や聴取の連続。特に時雨たちには何度も話を聞く為に呼び出しているからな」

提督「本来ならゆっくり休ませたいところなんだが……」

時雨「仕方ないさ。それより、吹雪たちの退院が決まったって聞いたけど?」

提督「ああ。負傷していた吹雪と初霜、それと怪物に襲われたという夕立も、明石の精密検査の結果特に異常は見られず、命に別状もないとのことだ」

提督「唯一意識が戻らなかった吹雪も数日前に目を覚ましたし、夕立もそろそろ入院生活に退屈し始めたようだからな。予定より早く退院の許可を出した」

時雨「……よかった。阿武隈さんと不知火は?」

提督「あの2人も帰還後しばらくは聴取続きにしてしまったからな。今はゆっくり休ませてる。2人共姉妹達と一緒に過ごしているようだ」
484 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/08/06(日) 01:25:20.19 ID:GU5W5Tx40
時雨「……それで提督。僕をここに呼んだのは、やっぱり」

提督「ん、ちょっと待ってくれ。もうすぐ――」

コンコン

大淀「失礼します。提督――あら、もう時雨さんが来られてましたか」

提督「いや、良いタイミングだ。これで役者も揃った」

時雨「大淀さん……?」

大淀「遅れて申し訳ありません。時雨ちゃんもお休み中にごめんなさい……疲れとかは大丈夫ですか?」

時雨「大丈夫だよ。大淀さんこそ色々大変みたいだね。中央は今、大変な騒ぎになっているみたいだし」

提督「……大本営の中央人事を中心に一部現役の元帥。さらには政府関係者まで、一斉に告発と調査の手が入ったからな」

大淀「ええ。大規模な調査が入ったことで中央の機能は停止状態です」

大淀「幸い戦線に関しては、前以て行っていた根回しが功を奏し、各主力鎮守府の迅速な対応で戦線の維持に問題はありませんが。やはり各所は大混乱ですね」

提督「彼らが長年隠蔽し続けてきた事……それが白日のもとに曝されたのだから、そうなるのも仕方がない」

提督「しかし、だからと言って真実を有耶無耶にする訳にはいかない。我々は向き合わなければならないんだ」

提督「人間が作り出した闇にも、この戦いの真実にも、な」

時雨「……」
485 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/08/06(日) 01:33:45.08 ID:GU5W5Tx40
時雨「やっぱり……知っていたんだね」

提督「……!」

時雨「僕たちがあの廃墟と化した鎮守府を発見し、そして持ち帰ったあの資料……」

時雨「ここに帰って来て提督に渡した『証拠の書類』。あれが大本営を告発する為の弾丸になったのは想像が付く」

時雨「でも、それにしても手際が良すぎるよね?」

提督「……」

時雨「僕たちが帰ってきてからまだ1週間。こんな短期間で国家と大本営という大きな存在を相手にする準備を整えるのは、ちょっと不自然だ」

時雨「大淀さんが言っていたように、事前に根回しでもされてなければね」

大淀「……」

提督「……」

時雨「提督は、あの鎮守府の存在を知っていた……そうだよね?」
486 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/08/06(日) 01:43:21.40 ID:GU5W5Tx40
大淀「提督……」

提督「……」コクッ

提督「時雨の言う通り、私はあの鎮守府の存在について知っていた。いや、気付いていたと言うべきか」

時雨「やっぱり……。そうだったんだね」

提督「今日、時雨をここに呼んだのはそのことを話すためだ。1からあの地のことを突き止めた君は知りたいだろうと思ってな」

提督「それにあの施設で行われていた研究や中将氏のことについて。その後の調査で新たに判明したことも出てきたからな」

時雨「!」

提督「だから今、あの鎮守府について私が知る全ての事を……君に話そう」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 05:16:21.23 ID:+zPj8EJio
乙。
うーん。
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 11:07:00.05 ID:csSuSIyao
乙カレー
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/16(水) 08:48:11.60 ID:hQAFmrRA0
わっふるわっふる
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 23:15:13.07 ID:uKbfrXvvo
残りにも期待乙
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 17:31:50.60 ID:+FDtqkBxO
支援
492 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:43:28.55 ID:FtlCc3g90
提督「きっかけは2年前。ある海域で任務中の我が艦隊が、単艦で海上を彷徨う所属不明の艦娘を発見し保護する出来事があった」

提督「初めは艦隊から逸れた他の鎮守府の艦娘だと思ったが……回復したその艦娘の話を聞いて事態は一変した」

時雨「まさか、その艦娘って……」

提督「あの鎮守府に所属していた艦娘。その唯一の生き残りだ」

時雨「! 驚いたね……生き残った艦娘がいたのか……」

提督「彼女の証言によって、我々は知られざる謎の鎮守府が存在すること。そこで起きたという惨事と、その地にまつわる重大な秘密……その疑惑を知った」

提督「だが、事が事だけに迂闊に動くことも出来なかった」

大淀「それが事実なら背景には大本営――いえ、国家そのものが関わっているのは明白でした。真相を探るにしても慎重にならざるを得ません」

大淀「下手をすれば私たち自身に危害が及ぶ可能性も十分にあり得えます。国がその気になれば、我々の口を封じることぐらい造作もないでしょうから」

時雨「……口封じ」

大淀「そこで提督は、信頼できる他の提督や軍警察の監査機関などと秘かに連絡を取り、秘密裏に調査を進めていたんです」

提督「同業の提督内でも、大本営に関して疑念や不信感を抱く者は少なからずいたからな……私も含めてね」
493 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:46:20.28 ID:FtlCc3g90
提督「疑惑を知った私は彼らと連携して調査を始めた……だが、いくら調べても核心に迫れるような情報は一向に見つからなかった」

時雨「そうだろうね。島ごと一般の海域図から消して存在を隠蔽するくらい、大本営もあそこの隠滅には徹底していたみたいだし」

提督「ああ……。それに協力を仰いだ軍警察も大元は軍の一部。中央の息がかからず本当に信頼できる人間はごく少数に限られた為、彼らの力にも限界があった」

提督「そんな中で分かったのは、過去に国の主導で何処かの孤島に極秘の研究施設が設けられ、そこで軍関係の機密に纏わる研究が行われていたという事実だった」

提督「我々は生き残った艦娘からの情報と照らし合わせ、彼女の証言にあった『鎮守府』とその『研究施設』が同一の物である可能性に着目した」

時雨「やっぱりそこに気が付くよね……」

提督「といっても当時は確証もなく、ただの仮説に過ぎなかった。これが正しかったと証明されたのは、時雨たちからの報告を受けてからのことだ」

大淀「ですがその施設に関する情報は少なく、そこを糸口に調査を進めていくのは困難を極めました」

大淀「当時そこで研究に関わったとされる職員の何人かにまで辿り着けても、その多くは既に死んでいるか消息不明という有り様でしたから」
494 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:49:25.29 ID:FtlCc3g90
時雨「それって……」

提督「偶然の可能性もあるが、口を封じられたと見るのが妥当だろう」

時雨「……絶対に漏らすわけにはいかない秘密なら、それを知る者自体を最小限に止めるのは定石。ってわけか」

提督「唯一生き残っている可能性があったのは、その施設の主任だったという人物」

提督「その男は後に軍籍を得て海軍所属となり、開戦と共に何処かの鎮守府に司令官として赴任した。追うことが出来たのはそこまでだった」

提督「我々は2つの施設が同一という仮説に基づき、その男が施設を閉じたあと跡地に作られた鎮守府に司令として着任し、秘密を守る役割を担っていたのでは?と考えた」

時雨「それがあの人……中将提督だね」

提督「そう。彼こそが唯一の生き証人であり、一連の疑惑の確たる証拠になり得る人物」

提督「生き残った艦娘の証言によれば、今も生存している可能性があるとのことだった」

大淀「ですがその方の居場所もまた鎮守府と共に謎のまま……。事実上、私たちは八方塞がりの状況に陥ってしまったんです」
495 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:50:45.24 ID:FtlCc3g90
提督「そんな状況下で残されていたのは、生き残った艦娘の証言だ。彼女の証言を基に大本営を告発し、暗部を暴く突破口に出来ないかと考えた」

提督「だが彼女の情報だけでは、全容解明に至るには決め手に欠けた」

大淀「国家と大本営が秘密裏に行っていたという研究。それを裏付ける証拠も一切得られていませんでしたからね」

時雨「その生き残った艦娘から、あの島の所在を聞き出すことは出来なかったの?」

提督「無論、私も最初にそれを考えたさ。しかし彼女は自分が所属していた鎮守府の場所や詳細に関して、一切のことを知らなかったんだ」

時雨「知らなかった?」

提督「恐らく艦娘の脱走などが起こった場合を想定して、予め所属する艦娘たちには鎮守府に関する情報が伏せられていたんだろう」

時雨「……そういえば、あの鎮守府で見つけた艦娘たちの痕跡の中に、自分たちの鎮守府や他の鎮守府に関する話はあまり出てこなかったけど」

時雨「なるほど……そう考えれば、確かに辻褄は合うね」

大淀「それに加えて、生き残った艦娘は記憶の一部を失っており……それも私達にとって不利に働きました」

大淀「曖昧な部分のある証言では証拠としての信憑性は失われます。とても大本営を告発するための証拠にはなり得ませんでした」

提督「詰まる所、我々は大本営が隠す鎮守府の存在と疑惑について、ある程度の所までは辿り付いていた」

提督「だがその鎮守府自体も、その存在を証明するための証拠も得ることができず……それ以上の動きが取れない状態になっていた訳だ」

時雨「そんな時に偶然、僕たちがあの廃墟と化した鎮守府に迷い込んだ……」

提督「私も帰ってきた君たちに話を聞いた時は驚いたよ。……あるいは偶然ではなく、何らかの必然だったのかもしれない。と思うくらいにね」
496 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:53:48.46 ID:FtlCc3g90
提督「時雨たちから話を聞き、すぐに廃鎮守府の場所を特定し、調査の為に艦隊を派遣した」

提督「しかし、調査隊が島に到着した時には、鎮守府――時雨たちが見たというそれは、既に存在していなかった」

時雨「えっ」

時雨「存在していないって……まさか、そんな……」

提督「報告では僅かに人工物の痕跡は確認できたようだ」

提督「だが、島の一部が不自然に大きく崩落し、港湾や建物の類はそれに呑み込まれたかのように跡形もなかったそうだ」

時雨「! それって……」

提督「おそらく時雨の言っていた……」

時雨「地下の崩落……それに、あの地下施設に準備されていたあの兵器……」

大淀「その影響と思われます。現に調査隊が確認した島の状態は、科学的汚染はみられないものの草木の一切が枯れ果て、周辺には生物の気配すら感じられない惨憺たる状態とのことでした」

提督「中将氏が作っていたという深海棲艦を根絶やしにする為の兵器……。島の惨状は、報告にあったその効能にも合致する」

提督「今となってはその兵器の全容は不明のままだが、どうやらその効力は本物だったようだな」

時雨(もし僕たちがあの島から逃げ遅れていたら、今頃は……)ゾクッ
497 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:54:46.89 ID:FtlCc3g90
提督「……結局、中将氏も鎮守府も纏めて消滅してしまった」

提督「時雨があの資料を持ち帰ってくれていなければ、今頃全ては闇の中に葬られていただろう」

時雨「それじゃあ、やっぱり……あれは役に立ったんだね」

提督「役に立つどころか、最大の証拠品といっても過言ではない代物。我々が探し求めていた物だったよ」

大淀「あの書類には、施設で行われていた実験の数々。艦娘開発の為に行われた人体実験や、その為に国家が行った非合法な行為に関する記述が残されていました」

大淀「中には当時計画に関わっていた大本営や政府の人間――今は軍令部次席や元帥、政府高官に出世している方の名前まではっきりと」

大淀「大本営と国家の犯した罪を裏付けるには、これ以上ない証拠です」

時雨「それが決め手になり、提督たちは大本営の告発に踏み切った……。ってことだね?」

提督「その通りだ」
498 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:55:53.31 ID:FtlCc3g90
時雨「でも……あの鎮守府で唯一生き残った艦娘。そんな娘がこの鎮守府に居たなんて、知らなかったよ」

提督「時雨たちには悪いが、事の性質上何があっても彼女の事を外部に漏らすわけにはいかなかったんだ」

大淀「もし彼女の生存が大本営に知れれば、彼女はもちろん保護している私たちにも危険が及ぶことは明白でしたから」

時雨「大本営にとって暗部ともいうべき施設……。消し去ったはずのそれの存在を証明してしまう生存者がいるなんて知られたら、大本営は確実に消しにかかっていただろうね」

提督「故に彼女については徹底して情報を伏せることにした」

提督「事実を知っているのは私と大淀、秘書艦の3人以外には、彼女を発見し収容した艦娘たちのみ。艦隊でもごく数人だけにとどめた」

時雨「その娘は今もここに?」

提督「ああ。正体を隠す為に、出自に関しては我が艦隊が作戦中に邂逅した未所属の艦娘という経緯に書き換え、普通の艦娘としてここに所属したことになっている」

提督「彼女もここに来た当初は、仲間を見捨てて自分だけ生き残ってしまったことを相当悔いていたが……。今はそれを乗り越えて精一杯今を生きてくれているよ」

時雨「そうだったんだ……」

大淀「ある意味、今回の一件で真実が明らかにされたことを一番喜んでいるのは、彼女かもしれませんね」
499 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:57:02.06 ID:FtlCc3g90
提督「……さて、少し話を戻そう。時雨たちの報告によって判明したあの島で起きていた出来事。その黒幕である中将氏に関してだが」

時雨「何かわかったの?」

提督「ああ。監査部が大本営に本格的な捜査の手を入れたことで、今まで秘匿されていた資料なども多数見つかったそうだ」

提督「その中には中将氏に関する物もあり、彼の経歴や過去についても色々とわかったことがある」

時雨「経歴や過去……。それで、わかったことって?」

提督「大淀」

大淀「はい。監査部が押収した資料によると、中将氏は元々民間の出身で、艦娘の開発計画にあたって外部から招聘された科学者だったようです」

大淀「彼が提案した開発理論の成功によって艦娘の基礎が確立され、そのまま艦娘開発の研究主任として開発の中心人物になっていった」

大淀「この辺りは時雨ちゃんの報告からも聞いていた通り。その裏付けのようなものでしたが……」

提督「気になったのは、中将氏自身に関する内容だ」

時雨「と、いうと?」

大淀「中将氏には近しい親類縁者は殆どいなかったようなのですが、ただ1人。娘さんがいたそうです」

時雨「娘……?」
500 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:58:43.05 ID:FtlCc3g90
提督「中将氏にとって確認できる唯一の肉親。その子の母親も早くに亡くなっており、中将氏が1人で育てていた愛娘だったらしい」

提督「しかしその娘は幼くして重病を患い、病が発覚した時には既に手遅れに近く、延命は絶望視される状態だったそうだ」

時雨「……」

大淀「その子がどうなったのかは分かりませんが……その影響か直後に中将氏は民間の研究機関を辞め、軍からの招聘に応じるまで長らく音信不通だったそうです」

時雨「瀕死の、娘……」

時雨「……」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『健常者と身体障碍、脳死などで分けた場合、健常の方が成功率は31.4%程高く――』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


中将『戦船の魂という大いなる存在を収めるには人工物などでは到底不可能な話。つまりは器となる存在が重要だったのだよ』

中将『その結果考案されたのが人間を器とした兵器の開発。お前たち艦娘の原型となる研究が始まったのだ』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


中将『唯一救いと言えるのは、脳死や重篤な障碍を持つ者でも艦娘として適合すれば新たに健常な生を受けられるということ……。その場合は未来を与えられると言える』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


中将『電……私の、愛しい愛しい電……この子の為に私は、他の全てを捨てた』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



時雨「そうか……あの人が、あれほど電に執着していたのは……」

時雨「あの電は……中将の娘だったんだ」
501 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 01:59:59.26 ID:FtlCc3g90
提督「艦娘が誕生した経緯。生きた人間を器にする研究という話を、時雨たちからの報告で知った時は言葉を失ったが……」

時雨「……中将は艦娘として適合すれば新たに健常な生を得られる。って言っていた」

時雨「あの人は……自分の娘を救うために……」

提督「瀕死の娘を生き永らえさせるため。娘を艦娘の器に使い、艦娘として蘇らせようとした」

提督「その結果誕生したのが、時雨たちの言っていた艦娘『電』だった……ということだな?」

時雨「……」コクリ

大淀「では、中将氏が艦娘を生み出す過程で、人間を器にするという狂気的な理論を提案したのは……」

提督「あるいは中将氏が艦娘の開発に協力した理由も、最初からそれが目的だったとも考えられるな」

提督「病を患い、現在の医学では救うことの出来ない娘の命を救う……それこそが中将氏の目的だったのかもしれない」
502 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:01:08.37 ID:FtlCc3g90
提督「しかし中将氏の娘が艦娘として蘇っても、それはあくまで艦娘……。彼の娘ではなかったはずだ」

時雨「うん……。あの鎮守府跡に残されていた電の日記とかをみても、彼女は艦娘の電だった。器になった中将の娘の記憶は持ち合わせていなかったんだ」

時雨「でも……それでも中将は電の事を愛して、傍に置いていたんだ」

時雨「自分の娘の生まれ変わりともいうべき存在として」

大淀「……」

提督「……そういえば、時雨たちが持ち帰ってくれた資料の中に『人間を器にした艦娘』に関するものもあったが」

提督「それによると、本物の人間が器になっている艦娘は器が何らかの影響を与えるのか、時として意識や人格が不安定になる等の不具合的な特徴が確認されていたらしいが」

時雨「……器の影響」

時雨(だとしたら……あの日記の違和感は……)

時雨(もしかしたら……電の中には、まだ残っていた?)

時雨(電としての意識以外にも、別の……中将の娘としての記憶が……)
503 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:02:29.16 ID:FtlCc3g90
提督「いずれにせよ、全ては消えてしまった。今となっては中将氏とその娘、そして電の関係……その真相は闇の中だ」

時雨「……もしかしたら……中将提督がああなってしまったのは……」

時雨「あの人が、艦娘と深海棲艦の関係……それを知ってあそこまで狂気に憑りつかれたのも、電という存在の為だったのかもしれない」

提督「……」

時雨「僕たち艦娘の正体と運命……。娘を助けるために行ったことが、結果的にさらに過酷な運命に娘を投じる形になってしまった」

時雨「だから中将提督は……あの人なりに、娘を……電を救おうとしたんじゃないかな……」

提督「中将氏が唱えた、艦娘と深海棲艦は同一の存在。という話か」

時雨「…………」

時雨「……提督はどう思う? この戦争の行く末と、僕たち艦娘の運命を」

時雨「僕たちも薄々感じてた……深海棲艦って一体何なのか。僕たちはどうして戦うのか、って」

提督「……」

時雨「僕たちは、何のために戦っているんだろう……このまま戦い続けて、その先には本当に終わりがあるの?」

時雨「あの人が言っていたように、僕たちの力が、抵抗が限界に達して……全滅し滅亡する形が唯一の終わり」

時雨「それが僕たち艦娘の運命なの……? 命を懸けて戦い続けた先に待っているのは、そんな暗い未来だけだっていうの……」
504 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:03:45.01 ID:FtlCc3g90
大淀「……」

提督「……時雨が持ち帰ってくれた資料の中に、こんな物が混ざっていた」バサッ

時雨「……これって、手記?」

提督「中将氏が書いたと思われる手記の一部だ。彼が唱えていた深海棲艦という存在の正体。それに関する考察を書き記したものと思われるが」

時雨「内容を見ても?」

提督「もちろん。構わないよ」

時雨「……」ペラッ


『本来ならば科学者として、このような非科学的な説を唱えるのはおかしな話かもしれない。』

『しかし、深海棲艦の研究を進めていく中で、負の力という因子の存在はもはや否定しえない事実であると認めざるを得ない。』

『深海棲艦を形作る「負の力」。人智を超えたこの力は、万物に宿る魂や生ける生命。それらが死を迎える間際に抱く未練や絶望、憎悪、生への執着といった負の感情が具現化したものと考えられる。』

『この強力な負の感情こそ、深海棲艦の異常な憎悪と攻撃性の要因になっていると思われる。』

『では何故これほど強力な負の感情が海の底にあるのか? その理由は嘗てあった大戦が原因であると考えられる。』

『過去にこの海で繰り広げられた大きな戦争。その戦いの中で犠牲となった多くの人間。彼らが抱いたであろう負の感情。そして魂を宿した艦艇たちの声無き想い。』

『彼らの悲痛な叫びと無念。あるいは怨念ともいうべき意思が今も暗い海の底に渦巻き、強力な負の源泉となっているとしたら。』

『そうした負が暗い海の底で長い年月を経て増幅され、やがて具現化された力が海の底で眠っていた人や艦艇たちの魂と結びついて誕生したモノ。それが深海棲艦の正体であるというのが私が至った結論だ。』

『深海棲艦が艦艇の姿であることに加え、艦娘の力の源になっている在りし日の戦船の魂。これらが全て、嘗ての大戦に纏わる船であることが何よりの根拠であろう。』

『深海棲艦とは、大戦で犠牲になった人間と沈んだ艦艇。それらの怨念が形となり甦った過去の亡霊。』

『過去の怨念や憎悪に駆られ、我々人類への復讐を果たすこと……それが奴らの目的であろう。』

『我々人類に破滅をもたらすこの存在を討ち倒すには、奴らを形作る負の力。これをどう取り払うかが最大の鍵となるだろう……』


505 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:04:57.17 ID:FtlCc3g90
時雨「…………過去の亡霊」

提督「深海棲艦を形作る負の存在。その正体は嘗ての大戦で犠牲になった者達の思念……」

提督「……正直私も、この推論はおそらく正しい。深海棲艦の正体について、限りなく真相に迫ったものだろうと思う」

時雨「じゃあ、提督も……」

提督「いや待て。確かにこの推論の一部は肯定する。だが全てとは言っていない」

提督「深海棲艦の正体が怨念によって生まれた亡霊……私はこれが深海棲艦という存在の全てだとは思えないんだ」

時雨「なら提督は、深海棲艦っていう存在をどう考えているの?」

提督「……中将氏は深海棲艦の目的が『人類への復讐と破滅をもたらすこと』と断じていたが、私はその逆ではないかと思う」

時雨「逆?」

提督「彼女たちが破滅をもたらすのではなく、『破滅への道を進もうとしている人類に警告』している……。それが深海棲艦という存在なのではないか?」

時雨「深海棲艦が、僕たちに警告……?」

大淀「どういうことですか、提督」

提督「……私は常々思っていた。深海棲艦が過去の亡霊なら、なぜ今この世に現れた?」

提督「大戦から長い年月が経ち、世界は完全ではなくともある程度の平穏を得ていた。そんな折に深海棲艦は現れた」

提督「私はこれが深海棲艦という存在を窺い知る重要なファクターだと思う」
506 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:06:57.69 ID:FtlCc3g90
提督「以前、ある深海棲艦が言っていた言葉で、今も頭から離れないものがある」

提督「『何度でも繰り返す。変わらない限り……』。私はこの言葉に強い意思を感じた。憎悪や怨念などではなく、もっと明確な……我々へのメッセージのようなものを」

大淀「メッセージ……」

時雨「……つまり、僕たちはあの大戦から何も学んでいない。変わっていない、と?」

提督「……ここから先は私の想像。私なりの解釈だが」

提督「過去の大戦を経て人類は平穏を掴み、平和を享受するようになった」

提督「しかしそれと同時に、いつしか人々は忘れてしまったんだ。その平穏の為に犠牲になった存在のことを」

提督「国や人を守る為に命を懸け、散っていった無数の命と魂。戦禍に巻き込まれ犠牲となった命。彼らの存在と想いと犠牲があって今の平和があるということを」

提督「それだけじゃない。長い平和は、戦いそのものを全て忌むべき悪しきものとして捉える歪んだ価値観も生み出した」

提督「あの惨禍を再び繰り返すことが無いように……そんな想いから生まれた価値観なのだろう」

提督「しかし皮肉にも、それがより一層人々の記憶から過去を遠ざけることになってしまった。人々はいつの間にか、過去から目を背ける道を選んでしまったんだ」

時雨「……」

提督「過去から目を背け、本当に考え学ぶべき事を考えず歩んできた我々の何が変わったのか? 結局我々は変わった気になっていただけで、本当は何も変わってなどいなかったのかもしれない」

提督「故に我々は、このままではいずれまた繰り返す……嘗ての悲劇よりも更に大きな惨禍を。その果てに待っているのが、人類の終焉……」

提督「深海棲艦たちはそれを伝えようとしているのではないか?」
507 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:09:04.39 ID:FtlCc3g90
時雨「何度でも繰り返す……変わらない限り……か」

提督「……中将氏の唱えた通り、深海棲艦の正体は過去の残滓……いや、過去そのものなんだ」

提督「過去を忘れつつある今の人類に、もう一度それを思い出させる為に甦った存在……それが彼女たち深海棲艦の、真の正体ではないかと思うんだ」

大淀「怨念に駆られた亡霊ではなく、私たちの未来の為に警告をする……それが深海棲艦の目的だと?」

提督「無論これは私個人の考えに過ぎない。確証もない今の段階では、くだらない妄想と切り捨てられても仕方のない話だ」

提督「しかし思えば私たちは、大本営の命じるまま、彼女たちを悪と定め討滅することだけを考えて行動してきた」

提督「だから彼女たち深海棲艦のことを何も知らない……。知ろうとすらしてこなかった」

時雨「……」

提督「私の考えがもしも正解に近いものだとしたら……我々は『深海棲艦という過去』から目を背けず、向き合う必要があるのかもしれない」

提督「今まで聞こうともしてこなかった彼女たちの言葉。それに耳を傾け、その想いについて考えることで初めて、変わることが出来るのではないか?」

時雨「彼女たちの、言葉を……」
508 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:11:16.07 ID:FtlCc3g90
提督「奇しくも国家と大本営が隠し続けてきた過ちが暴かれ、その体制が大きく変わろうとしている今こそ、我々が変わるチャンスなのかもしれない」

提督「深海棲艦との対話……講和とまではいかなくとも、彼女たちとの向き合い方を再考し、新しいアプローチを試みる価値は十分にあるはずだ」

提督「深海棲艦を形作るという負……。これについても中将氏が残した研究の資料に基づくなら、我々の行動如何でそれを取り払うことが出来るかもしれない」

時雨「それが……僕たち艦娘の未来に繋がる新しい希望……」

提督「これだけじゃない。まだまだ方法はたくさん残っているはずだ。むしろ今までが偏った方針に傾倒し過ぎていたんだ」

提督「大本営も私たちも……そしてあの中将氏もね」

時雨「……うん」

提督「何にせよ、私たちにはまだ可能性は残されている。今話した方針を含めて、試してみるべき方策も決して少なくない。やることは山積みだ」

提督「その為には時雨たちの力が必要だ。依然として険しい道のりになるだろうが……力を貸してくれるか?」

時雨「……うん。もちろんだよ、提督」

大淀「私も、微力ですが最後まで力を尽くします」
509 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:15:00.75 ID:FtlCc3g90
提督「――さて、少し長話になってしまったな。これで時雨に話そうと思っていたことは全て話せた」

提督「まだ何か聞きたい事などはあるか?」

時雨「ううん、大丈夫だよ。僕も気になっていたことは解決できたと思うし、提督のおかげで不安も晴れた気がするよ」

提督「そうか……。じゃあ、もう1つ。時雨に言っておきたいことがある」

時雨「なんだい、提督?」

提督「皆を護ってくれて……生きて帰ってきてくれて本当にありがとう。これだけは直接時雨に伝えておきたくてな」

時雨「僕の力なんて些細な物だよ……。皆が居てくれたから、僕もこうして提督の元に帰ってこれたんだ」

時雨「それに皆を護ったってことなら、僕よりも吹雪に言ってあげるべきだよ。彼女がいなければ、僕も今頃はあの地で果ててたかもしれない」

提督「……時雨らしいな」ハハハ

時雨「……そういえば提督。1つだけ聞きたいことがあったんだけど、いいかな?」

提督「何だ?」

時雨「吹雪が持っていたお守り。あれのおかげで僕たちは帰ってこれた訳だけど……どうして吹雪にだけ渡してたのかな?」

時雨「僕は、提督からああいうものを貰った記憶ないんだけど?」

提督「あー……そのことか」

提督「特に深い意味があるわけではないんだが……強いて言うなら、吹雪だから。だな」

時雨「?」

提督「吹雪とは長い付き合いだが……未だに色々と危なっかしいだろ? あの子は」

時雨「あぁ……まあ、確かにそうかもね」クスッ

提督「本当は艦隊の全員に渡してあげたいんだが、いかんせん中身の数が足りないからな……」

時雨「だから、危なっかしくて提督も心配で仕方ない吹雪に?」

提督「色々含みがあるのが気になるが……まあ、そういうことだ」

時雨「ふふっ……ま、そういうことにしておくよ」
510 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:17:53.84 ID:FtlCc3g90
時雨「それじゃあ、最後の疑問も晴れたことだし。そろそろ失礼しようかな」

提督「ああ。これ以上時雨を拘束してると山城辺りが艤装をつけて乗りこんできそうだしな」

時雨「山城なら本当にやりそうだね」

提督「それだけ心配してたってことさ。――さて、わざわざ呼び出したりしてすまなかった。今度こそしばらくの休暇を与えるからゆっくり休んでくれ」

時雨「うん。お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃあ提督、大淀さん。失礼するね」

大淀「身体に気をつけて、ゆっくり休んでくださいね」

提督「……そうだ。最後に1つだけ、まだ言ってなかったことがあったな」

時雨「えっ?」


提督「おかえり。時雨」


時雨「……うん」



時雨「ただいま。提督」








【True End】
511 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 02:26:42.17 ID:FtlCc3g90
半年以上、というかほぼ1年近く長々とお付き合い頂きありがとうございました
これでこのSSは完結となります。散々待たせてこんなオチかよという批判があれば甘んじて受けますです…

一応物語内の謎に関して大部分は明らかに出来たはずですが、もし疑問点などがあればお答えします

最後に、本SSにお付き合い頂いた方々に心からの感謝を
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 02:40:44.68 ID:7/KqTK7xo
お疲れ様

取りあえずお疲れ








オチはベタな展開だったね
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 09:11:15.93 ID:doVgQiqKO
乙、楽しませて貰ったよ

ちなみになんだけど…例の鎮守府唯一の生存者って誰とか決めてたりしてる?
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 10:18:20.16 ID:jsNNPea60

さっきこのシリーズ見つけて追いかけたら、完結したのが今日とかなんか嬉しかった。
楽しかったよ。
515 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 10:46:13.18 ID:FtlCc3g90
>>513
生き残った艦娘に関しては明確に決めてあります
作中ではあえて個人名は明かしませんでしたが、それを匂わす描写だけは少し残したつもりです
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 10:54:56.22 ID:1uTbSuoJ0
乙でした
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 11:40:48.06 ID:ENio6e0Q0
うーちゃん……
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 12:21:37.45 ID:5Oi9nSXjo
乙乙
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 12:35:54.88 ID:ZIohK8W0O
一番の問題は次回作の有無
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 13:09:16.03 ID:07fl1ps9O
まあうーちゃんか睦月型の誰か辺りだよね察するに
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 15:52:24.05 ID:/LnqcvRDO
まとめで完結してたこと知ったけど、とりあえず乙

ところで見落としかもしれんが
本庁舎の入り口が内側から針金で封じられてた謎って触れられた?
鎮守府にいた艦娘が終末計画?で消し去られたならそんなことする理由がわからないし、する暇もないはず
ここがかなり気になってたんで教えてほしい
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 17:16:54.28 ID:HAzhOu920
今1スレ目から一気読みした乙乙
オチはベッタベタだけどすっきり終わってよかった

ありがとうを届けてるんだからあの子しかないよね、生き残った子
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 17:44:59.80 ID:2FExd3UD0
>>1
完結乙。楽しかったよ
次回があったらまた参加したいな

ちょっと気になったのは蔵書室で呉軍港の歴史って本にアンノウンについてのメモが挟まってたのは何でなん?
あと漂着した腐乱死体っていうのは全然関係ない人のだったの?
まぁただの忘れ物とか運悪く深海棲艦に襲われた民間人とかだったらそれまでなんだけど
524 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 18:27:40.17 ID:FtlCc3g90
>>521
やはり指摘があったので正直にお答えします

本庁舎の正面入口の封鎖についてですが、
作中で描写の入れ忘れをやらかしてしまい、最後まで触れないまま終わらせてしまいました

本来の予定では、
実は時雨たちが来る前に別の艦娘数人があの鎮守府に迷い込んでおり、
扉の封鎖や本庁舎内の一部の乱れはその艦娘たちが行った。という設定でした

その艦娘たちは鎮守府の探索中に怪物A(少将)によって襲われ、本庁舎に逃げ込み正面入口と東側出入口を封鎖。
しかし結局逃げ切ることが出来ず、最後の1人が本庁舎のトイレに逃げ込んだのちその場で怪物によって止めを刺されました
トイレの個室内に東側出入口の鍵が落ちていたのは、その艦娘が落としたから。
鍵のあった個室の床が妙に汚れていたのも、そこで襲われたことを示す伏線にする予定でした

そして本来なら、鍵の落ちていた個室のドアの内側に「その艦娘が残したメッセージ」が記されているのを時雨が見つけるはずだったのですが、
その描写を入れ忘れてしまい、その後に描写し直すことも難しかったのでお蔵入りにしてしまいました

私が把握してる中でも最大のミスです…申し訳ありません
525 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/10(日) 18:47:13.65 ID:FtlCc3g90
>>519
次回作の予定はないですね。書くとしてもたぶんもう長編は無理です…

>>523
蔵書室にあったメモの正体は、青葉の取材メモです
取材で得た情報を走り書きしたメモの一部が偶然あの場所に残っていたという設定でした
ちなみに呉軍港の本ということには特に深い意味はなく、
呉軍港=そこと縁のある青葉 で、そのメモが青葉の物であることを暗に示そうとしただけでした

腐乱死体について
あれは元々、見つかった死体は中将のもので彼は既に死んでいる。という可能性に誘導するためのものでした
死体については書類の記述にもあったとおり、戦いで撃破された深海棲艦か艦娘の残骸などのいずれかが正体です
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 19:06:40.76 ID:dSOe1Ga6o
完結乙
楽しませてもらいました

たまに直接脳内に語りかけてたのは電の中の人ってことでいいのかな?
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 19:10:03.32 ID:2FExd3UD0
>>525
サンキュ
メモはやっぱ青葉のだったか
死体のあれはミスリードかなとも思ったけどノーマルエンドとトゥルーだと廃墟鎮守府が消失したり崩壊したりとえらい違ったから
実は進め方次第じゃサウンドノベル的な感じで意味が変わったのかな?と勘繰っちゃったよ
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 22:45:40.46 ID:9GUv19vQo
完結乙!
長い間楽しませてもらった
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 22:59:34.72 ID:/LnqcvRDO
>>524
おお、回答サンクス
入れ忘れたっていう描写もできれば知りたかったり・・・
質問続きで悪いけどもう一つだけ
選ばれずに終わったBadEndとか未回収のアイテムとかはあったの?
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:18:04.70 ID:FbSNfzNL0
見ることなく終わった独房の残り5/6のバッドの内容も気になるのう、ギギギ…
サウンドノベルやゲームブックではバッドエンドも気になるんじゃあ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 01:16:23.38 ID:BmhMk4Sq0
話に登場した文書をすべて読みたいです…
読めなくなる前の文書の設定とかってあるんですか?
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 01:18:36.10 ID:eLph6Gw0o
待っててよかったべ
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 01:23:33.45 ID:6/D4lJpA0
お疲れ様でした。
良い作品だった。
534 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/11(月) 10:57:56.60 ID:5SN/bMP00
>>529
まず、没にした話についてですが、
東側出入口の鍵があった個室の壁に
『わたしたち  とんで ない  迷い込 し った』
『わたした  食べ 怪物  はじめに われた  の姿になって   けてきた』
『怪物におわれてこの  ものににげ込んだ 入り口もむりや とじてだれも に入ってこれ  よ にしたのにあいつ 入ってきた』
『  ともはぐ て1人ここに    だけどもうだめ  あいつ くる』
という走り書き(時雨たちの前に廃鎮守府に迷い込み全滅した艦娘の1人が書いたもの)があるのを時雨が見つける予定でした
これにより怪物の正体や目的に関するヒントと伏線にするはずだったんですが、
時雨が鍵を見つけるシーンで描写し忘れてしまい、
なおかつ次に本庁舎にくるときには怪物の正体は判明してしまっていて再描写も難しかったので没にしました


Badendについて
作中に設置したBadendは結構多いので全部の解説は遠慮させてもらいますが、
最初の吹雪ルート最初の行動で『演習場』にいくと怪物に襲われBad

時雨ルートでは、庁舎内を徘徊し始めた怪物と遭遇してしまうと1度目は回避できますが、
怪物に時雨たちの存在を認識されてしまい、次から怪物が部屋に隠れるなどの行動が追加されます。
そこで怪物が潜んでいる部屋を選択してしまうと奇襲を受けてBad

初霜ルートでは冷凍室の事故endの他、独房での即死罠などが設定として用意していました


未回収のアイテムについて
重要なアイテムはすべて回収済みで終わりましたが、
一部日記など攻略には必要ないアイテム類はいくつか未発見のまま終わった物もあります
その大半は艦娘の寮の各部屋に配置されており、金剛や赤城、響などの手記や日記が設定としては用意されていました
535 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/11(月) 11:02:42.50 ID:5SN/bMP00
>>530
初霜ルートでの独房の選択肢の内訳は
独房1  :当たり 収容者のメモ発見
独房2 5 6:ハズレ 何もなし。他の独房再選択へ
独房3 4 :即死 中にいた怪物(個体BとC)に襲われBadend
でした
独房の中にいたのは初霜たちと入れ替わっていた個体BとCです
彼女たちが入っている独房を選んでしまうとその場で即Badendになっていました
536 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/11(月) 11:12:35.68 ID:5SN/bMP00
>>531
登場した文章資料の類はすべて元の文を作ってから重要個所を虫食いにしていたので設定上は残ってます
ただ、一部は最初から虫食いのまま(細かい設定はしていなかった部分等)の文もあり、
途中で虫食いにしたまま間違えて上書き保存してしまい、元の文を忘れてしまったものなどもあります…

全部は多いので、虫食い個所を特に多くしてしまった資料を抜粋します

・実験記録E-5 (実験室)
『13´12.17』
『この日は3名の健常な艦娘に対する「深海棲艦細胞移植実験」を実行。その経過観察と結果について記載。』
『検体A:腹部に戦艦ル級の細胞を移植 検体B:左上腕部に空母ヲ級の細胞を移植。 検体C:深海棲艦のDNAから生成した試製α11を注射により体内に投与。』
『経過観察においては、より正確な観察の為にβV型は用いず、検体の自我を残したうえで観察を行った。』
『 術後6時間を経過したところで、2体の検体(AB)は一様に移植箇所の激痛を訴え始め、絶え間ない絶叫や自傷行為を始める。』
『この時点から検体A、Bには移植箇所周辺の侵食現象(深海化)が見受けられ、特に検体Aの侵食は著しく早い。』
『検体Cに関しては、身体への深海化は見受けられないが精神汚染が進行しているものと見られ、異常行動や発狂、錯乱などの他、幻覚症状も出ていると推測される。』
『 術後17時間が経過すると、検体Aは身体の7割が深海化し、精神面でも自我を喪失。周囲に対する激しい攻撃衝動が確認された。』
『検体Bは細胞を移植した左上腕部を中心に左腕全体と左胸付近までの深海化が確認されたが、それ以降の深海化は著しく遅い。』
『施術箇所による違いとも考えられるが、それ以外にも検体自身が深海化に対して抵抗している様子が見受けられ、個体による適性が存在する可能性も否定できない。』
『 術後24時間経過時点で、検体Aは完全に深海化。検体Bも一部に艦娘の痕跡を残しているものの精神は完全に深海化した。』
『検体Cのみ、術後13時間経過後から一切の反応を示さなくなり、生命活動は停止していないが精神が破壊され廃人と化した。』
『この検体のみ身体の深海化は見受けられなかったが、実験後の生体解剖の結果、内部に未知の変質現象が起こっている事が発覚した。』
『以上の実験結果を基に、今後の研究指針を×××の××に着目した××××××とする。』


・作戦ファイル:特殊弾特効実証実験 結果報告 (開発室)
『特殊弾特効実証実験 結果報告』
『5回目となるこの実験では、先の実験によって得られた××××に関する仮説を基に試作した特殊弾の効能試験を目的とし、』
『「γ-8号弾」を特別任務部隊として編成した艦隊の戦艦に搭載し、××海域××××点での交戦で使用。実証実験が行われた。』
『結果は、観測班として秘かに派遣し本艦隊から離れた位置にいた艦娘1名を除く敵味方全艦が消滅する結果となった。』
『特殊弾による効果範囲は当初の予測よりも広大に及ぶとみられ、生き残った観測班の艦娘も帰還直後から身体の不調を訴え、』
『翌02:00(実験12時間後)に容体が急変し死亡した。』
『この艦娘の遺体を解剖し検死した結果、艦娘を構成する細胞組織に重大な破壊が生じていることを確認。』
『特殊弾の効能が理論通りに作用した事を証明する結果となった。』
『しかし、艦娘を巻き込んだ事を除けば、深海棲艦に対する特効は極めて高いといえ、実験としては成功と結論付けて良いだろう。』
『さらに興味深いことに、帰還後に死亡した艦娘の解剖の際、人間としての細胞にも未知の変化が見受けられることが確認された。』
『この詳細に関しては別の研究報告に記載する。』
537 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/11(月) 11:17:54.79 ID:5SN/bMP00
・深海棲艦細胞に関する記録 (検体保管室)
『採取した深海棲艦の細胞はまさに神秘の結晶。我々人類が長く知り得なかった全く未知の情報が無数に詰まっている。』
『これら深海細胞が持つ強力な力は、深海棲艦が持つ因子である強力な「負」が関係していると思われ、以降これを「負の力」と呼称する。』
『深海細胞は我々の常識を遥かに超越した能力を持ち、一部は自然をも捻じ曲げる程の力を持つ。これを完全に解析することは今の科学では不可能と言わざるを得ない。』
『しかし、既にこの細胞を用いた一部の実験では一定の成果を挙げることに成功しており、深海細胞を基に生成した試作品の開発と研究も順調である。』
『当初の目的である「深海棲艦に対する特効」に関しても、先日この細胞を素に生成した試作γ17が深海細胞に対して強力な破壊効果を発揮することが確認された。』
『打ち破れぬ盾を破壊するには、盾を形成する物質を調べそれと同じ物を用いた矛を作ればいい。』
『暴論に近い無謀な賭けであったが、神は私の味方をしてくれているようだ。神といっても死神かもしれないが……』


古びた手記 (オフィス)
『夢を見た。一昨日使った少女の夢だ。』
『あの子は健常組としてここに連れてこられた子供の1人。おそらく孤児だったのだろうが、こんなところに相応しくないほど明るく屈託のない子だった。』
『私のことを先生と呼び、健康診断と称した適性検査のときにも他の子供たちとは違い心の底から私のことを慕ってくれているようだった。』
『そんな子を実験に使い、死ぬより辛い苦しみを負わせ、そして殺してしまった。』
『実験の日。施設に連れて行くためにあの子を呼んだときの、私を信頼しきった疑いの欠片も感じさせない笑顔が今も頭から離れない。』
『数時間後。自分が実験に使われるということを知ったあの子の怯えた顔、私に助けを求める顔、実験が始まってあの子の命が尽きるまで響き続けた悲鳴と助けを求める声が今も頭から離れない。』
『実験が終わり、物言わぬ無残な死体に変わり果てたあの子の、苦しみに歪んだまま固まった顔が今も頭から離れない。』
『僅かなデータと引き替えに失われたあの子の……いや、それ以前の子たちも含めた無数の命。それらを奪った張本人である私に非難する権利などないことはわかっている。』
『私に出来ることは、一刻も早く研究を完成させて、これ以上の犠牲を生まないようにすることしか出来ない。』
『国家の為とはいえ、我々は決して許されない罪を犯してしまった。』
『血に塗れたこの悪魔の研究が生み出す結果は、果たしてこの国の希望となるのか、それとも……』


・前任提督の日記 (オフィス)
『我々が行ってきたことは果たして正しいことだったのか? 初めて実験を行ったあの日から考え続けていることだが、未だ結論は出ない。』
『研究の為に、実験の為に、多くの子供を殺してきた事は逃れようの無い事実だが、』
『同時に我々は、死ぬはずだった子供たちを蘇らせることに成功したともいえる。』
『今では開発資材の導入によって、少女を器として使用する必要はなくなった。』
『故に多くの人間が知らないままに艦娘たちを運用している。彼女たちが生まれるまでにどれほどの犠牲が払われたかを。』
『この秘密は恐らく一生明るみに出ることはない。彼女たちの犠牲は時と共に歴史の闇の中に埋もれて消えていくのだろう。』
『果たしてそれが良いことなのか……その答えが出ることは恐らくないだろう。』
『仮に私が良心に訴えて、この秘密を世に知らしめようとしても、大本営がそれを許さないだろう。この秘密が明るみに出ることを誰よりも恐れているのは彼らなのだから。』
『何より私は、××の為にこの禁忌に手を出したのだ。その結果として××を救えたのだから、後悔などありえない話か。』
『我々の罪。そして受けるべき罰がわかるのは恐らくあの世に行ってからだろう。』
『今となっては生き残りは私だけになってしまったが、他の連中はあの世でどのような沙汰を受けているのだろうか?』
『死んでいったあの子たちに詰め寄られ、恨まれ、あの子たちが受けた苦しみと同じ目に遭わされているだろうか。』
『いや、あの子たちが行くべき先は天国。我々が行くであろう地獄とは別の場所になるだろう。きっと会うことはない……』

『信じられない。我々が行ってきたことは一体何だったというのだ!?』
『元からおかしいとは思っていた。時が経つにつれて新たに確認されていく新型の深海棲艦。よもやと思い調べてみたが、まさかこんな……』
『極めつけは大本営だ。この調査結果を早急に知らせたにもかかわらず、その回答は現状維持だと? ふざけるな!』
『奴らは気付いていたのだ。この戦争が決して終わることのないループの中にあるということを。戦場で倒れ沈んで行く艦娘たちが全くの犬死であることを!』
『奴らは認められないのだ。自分たちが莫大な予算を投じると共に、歴史の暗部になる程の非人道的な実験まで行って生み出された「艦娘」が、』
『戦争を終わらせることができないどころか、この戦争をより混迷化させているという事実が発覚することを、恐れているのだ。』
『それでは我々が行ってきたことは何だったのだ……この戦争の為に失われていったあの子たちの命は、何だったというのだ!?』
『なにより、私の××は…… 私はあの子を、死よりも辛い輪廻の中に送りこんでしまったというのか……』

『なぜ気付かなかったのだろう。答えは簡単ではないか』
『敵はすべて滅ぼせばいい。最後の一体まで根絶やしにするその時まで……滅ぼすことは人間の得意技ではないか。』
『だがその為にはまだ何もかもが足りない。まずは研究を進めていく必要があるだろう。』
『大本営の愚か者共は、この事を知れば間違いなく妨害を企てるだろう。奴らは××で××××××だから。』
『私の邪魔をするならば、すべてが敵だ。深海棲艦もろとも消し去ってやればいい。』
『必ずやり遂げて見せる。××を、こんな腐った輪廻の中から救い出すために……』

※ここの一部××には中将の娘の名前が入ります



538 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/09/11(月) 11:23:15.95 ID:5SN/bMP00
・作戦ファイル:終末計画 (オフィス)
『ついに通告がきた。これ以上調査に進展が見られない場合、任を解任し新たな手段を講じるとのこと。』
『少将を使い、今まで可能な限りの引き伸ばしを図ってきたが、もう限界だ。』
『もはや大本営の本格的な調査隊が派遣されてくるのは時間の問題だろう。』
『研究はあと1歩という所まできているというのに……時間がない。』
『こうなってしまっては、もはや手段を選び良心の呵責に苛まれる暇もない。』
『「終末計画」を実行する時がきたのだ。』
『何があってもこの研究を大本営に知られる訳にはいかない。』
『終わることの無い戦いを終わらせる為に、艦娘たちを知らされることの無い絶望の運命から救う為に、』
『そして何よりも大切な××の為に。』
『より大きな善の為に……犠牲は必要不可欠なのだ。』
『最終判断は大本営による通告期限が過ぎる3月を目途に判断する。』
『既にこれまでの実験結果から、計画に使用する試製×××××の効力は実証済みだ。』
『計画が実行されれば、間違いなく鎮守府にいる艦娘ごと地上の痕跡全てを消し去ることが出来る。』
『死の光を浴び、廃墟と化した鎮守府の様相を見れば、大本営の連中の目も欺けるだろう。』
『無論そう簡単にはいかないかもしれない。しかし、最後の研究が完成するまでの時間さえ稼ぐことが出来れば、それでいい。』
『願わくば、この計画が実行に移されることがないことを……』


・手記の切れ端 (工廠の隠し部屋)
『大本営の疑惑の目が強まってきた。』
『少将を使い偽の報告を上げることで奴らの目を逸らす予定だったが、大きく予定が狂った。』
『私の死を確信させる為に偽の死体まで用意したが失敗に終わった。予想以上に奴らは神経質になっているようだ。』
『このままでは、奴らは新たな守り人となる人材を送ってくるか、それとも本格的な調査にまで乗り出してくるかもしれない。』
『研究の完成にはどうやってもあと数年はかかる。それまでこの事を隠し通すのはもはや不可能か。』
『最悪の事態に備えて新たな手段を考えておく必要がある。』
『少々強引だがつい最近完成した試作品を使う手もある。だが、その場合は鎮守府の艦娘たちを犠牲にすることに』


・報告書の写し:身元不明の遺体 (入渠ドック内の手術室)
『先週、鎮守府東の海岸に漂着しているのを発見された身元不明の遺体に関する検死結果について報告します。』
『遺体は人間の年齢にして10代〜50代と推定。腐乱と損壊が激しく、当施設の設備では年齢特定及び性別に関する特定は不可能。』
『遺体からは人間のDNAと深海棲艦固有のDNAが検出されましたが、漂着場所付近に多数の深海棲艦の残骸も流れ着いていた為、』
『検出されたDNAからこの遺体が人間か艦娘か深海棲艦かを特定することは極めて困難であると結論。』
『なお、この遺体は少将提督の命令により××××××』
『××××年1×月 ×××××』


だいたいこんな感じです
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 11:45:42.71 ID:I5gba/62o
ひえー改めて乙
凄い設定量だなこりゃ
最初から追ってたが最後まで読んで本当に良かった
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