廃墟と化した鎮守府の夜明け

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369 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 00:26:59.53 ID:CXFmgjhU0
吹雪「電ちゃんが……」

初霜「中将提督の、協力者……」

時雨「少将の手記によれば、少将は着任後の秘書艦選びに難航していたらしいけど、前任の代でも秘書艦を務めていた電の手腕に着目し高評価していた」

時雨「対する電も、少将への不満などは口にせず彼に従っていた。長門さんら他の艦娘達が不審がるほど忠実にね……」

時雨「おそらく電は少将に接近する為に、彼に気にいられるよう演技していたんだ。秘書艦の日誌や他の資料等でも、この頃から電の様子が変わったことが示唆されていたしね」

時雨「そうやって電は見事に少将の信頼を得て彼の秘書艦に任命された。秘書艦になれば少将に薬を盛るチャンスはいくらでもあったはずだ」

時雨「少将が中将たちの手に落ちたのは、あの手記が途絶えた頃……9月の中旬頃には、既に操られていたんだろう」

不知火「しかし、どうしてそんなことを……?」

時雨「理由は大本営の捜索から逃れるため」

時雨「地上で自分の生死と地下施設を探っている少将は、中将にとって目下の脅威であり邪魔な存在だったんだろうけど、だからといって下手に手出しも出来ない」

不知火「強引に排除なんてすれば、それこそ大本営に怪しまれてしまいますね」

時雨「そこで薬を使って少将を操ることで、少将という存在は排除せず脅威だけを取り除くことを思いついた」

阿武隈「なるほどね。少将を操っていたのなら、少将を装って大本営に偽の報告を上げるなんて事も出来るだろうし……。始末するより利用価値があったって訳ね」

時雨「うん。そうやって目下の脅威を除き、さらには地上に便利な代理人を置くことまで成功した中将は、地下での研究に専念できる環境を手に入れた」

時雨「細部まで合ってるとは思ってないけど、だいたいの流れとしてはこんな感じのはずだ」

370 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 00:40:52.85 ID:CXFmgjhU0

ピピーッ ピピーッ ピピーッ


時雨「!」

阿武隈「なに……?」


中将「……」カタカタ...ピタッ


時雨(機械の操作を止めた……?)


中将「…………」

中将「……お前は駆逐艦時雨か?」

時雨「! ああ……そうだよ」

中将「大したものだ。まるで見てきたかのようだ」

阿武隈「じゃあ、やっぱり……!」

時雨「僕の推理は正解だった。ってことでいいのかな?」

中将「ああ。まさか時雨がここまで頭が切れるとは……」

中将「私の元にいた時雨はすぐに使ってしまったが……惜しいことをした。いや、個体ごとの差かもしれんがな……」

時雨「!」

不知火「こいつ……っ!」

時雨「なるほどね……。この艦隊の僕は、既にあなたの実験に使われていたから居なかったのか」

夕立「……!」

中将「そこまで分かっているのなら、その先のことも突き止めているのか?」

時雨「……ああ。だいたいのことは、ね」
371 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 00:51:50.37 ID:CXFmgjhU0
時雨「少将を支配下に置き、大本営の目をかわせるようになったあなたは、本格的に研究を進め始めた」

時雨「その研究とはさっきも言った『深海棲艦を絶滅させる』為の研究」

時雨「たぶん最初は深海棲艦を倒す糸口を探る為に、深海棲艦に関する研究から始めたんだろう」

不知火「『検体保管室』にあった深海棲艦の標本や資料は、やはり深海棲艦のことを調べていた痕跡だったのですね」

時雨「少将を介して艦隊にも指示を出せるようになったことを利用して、艦娘たちに深海棲艦の残骸等の実験に使う素材を集めさせていたんだろう」

時雨「実際、執務室に残されていた『極秘命令書』にも、それを匂わせる記述があったからね」

時雨「だけど深海棲艦の残骸程度の素材で研究が捗っていたとも思えない……。おそらく研究は直ぐに暗礁に乗り上げたはずだ」

時雨「そこであなたが目をつけたのが……」

吹雪「鎮守府の艦娘、だね?」
372 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 00:56:06.71 ID:CXFmgjhU0
時雨「そう。生物の生死に関わる研究なら当然生きた素材が必要になるはずだ。あなたはその素材に艦娘を利用することを思いついた」

時雨「少将を操っていたなら、地上の艦娘たちを秘密裏に攫うことくらいそう難しくはないはず」

時雨「しかも鎮守府では、少将が敷いた厳格な行動規定が設けられていたんだから尚更さ」

吹雪「そうか。任務以外の鎮守府内での行動が制限されてて、人が居ない状況を作り易い環境だったなら」

不知火「他の艦娘たちに知られることなく、特定の艦娘を攫うことも可能……」

初霜「少将提督が敷いた体制を逆に利用したんですね」

時雨「うん。僕の予想通りなら、少将は比較的早い段階で操られ始めたはず」

時雨「しかしその後も鎮守府の自由は制限されていった……これは少将に成り替わった中将の思惑で、実験に使う艦娘を攫い易くする環境を作ることが目的だったんだ」

阿武隈「つまり地上で起きていた『神隠し事件』の真相は、中将によって艦娘たちが次々と拉致され……地下で実験に使われていたってことね」


中将「……ふん」

373 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 01:10:21.59 ID:CXFmgjhU0
夕立「でも深海棲艦を絶滅させることと、艦娘への実験っていうのにどういう関係があるの?」

時雨「それに関しては、検体保管室にあった記録から考えることが出来るけど……夕立と初霜は実際に見てはいないね」

夕立「ぽい」

時雨「検体保管室には『深海棲艦細胞に関する記録』が残されていたんだけど、その内容を見ると中将は深海棲艦の細胞に注目していたようなんだ」

時雨「同時にその記録の中には、深海細胞を素に何かを生成したという記述も残っていた」

初霜「何かを生成……?」

時雨「その記録から分かる限りでは『γ17』って名称の物質が実際に深海細胞から生成されたらしい」

吹雪「γ……あれ、これってどこかで……」

時雨「気付いたかい? そう……僕たちが見つけてきた資料の中にもう1つ。同じγという記号の入った物について書かれている資料があるんだ」

時雨「それは……ここにある『真新しい手記』。ここに書かれているγ-13号弾という物にも同じγの記号が使われているんだよ」

時雨「この手記に書かれているγ-13号弾という物は、おそらく『開発室』で研究されていた深海棲艦に対する新型の特殊弾。それの完成品だ」

時雨「そしてこの特殊弾の名称に使われているγという記号が、深海細胞から生成したというγという物質を示すものだとしたら……」

阿武隈「まさか……中将提督が作っていたのって」

時雨「深海細胞を使った対深海棲艦用の生物兵器。これが中将が目論んでいた『深海棲艦の根絶やし』の鍵。その正体だよ」

時雨「地下に連れてこられた艦娘たちは、この兵器を作るための人体実験に使われたんだ」
374 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 01:15:39.78 ID:CXFmgjhU0
吹雪「生物、兵器……」

初霜「そんな物を作っていたなんて……しかも実験の為に艦娘たちを……失踪する以前には一緒に戦ってきたはずの艦娘を使うなんて……」

不知火「この男も少将と同類……我々艦娘のことなど、消耗品程度にしか思っていなかったのでしょう」


中将「……」ピクッ


時雨「……だけど、その兵器が完成するまでの間にもう1つ。事件が起きていたんだ」

阿武隈「もう1つの事件?」

時雨「この手記にも書かれている通り、この生物兵器はまだ最終実験というものも済んでいない。完成に至ったのは本当にごく最近のことなんだろう」

時雨「つまり、生物兵器の開発にはかなりの時間が掛かっていた。その間に起きたのさ……この鎮守府を廃墟に変える出来事が」
375 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 01:24:53.96 ID:CXFmgjhU0
時雨「操った少将を使って大本営に偽の報告を送り追及をかわし続けていたんだろうけど、やがてそれにも限界が来てしまったんだ」

時雨「不知火、執務室のゴミ箱に捨てられていた命令書を覚えてる?」

不知火「ええ。あのクシャクシャにされた……何かの催促状のような書類ですね」

時雨「そう。不知火の言った通りあの命令書は、大本営から送られてきた少将への報告の催促だったのさ」

時雨「命令書の日付は2014年の1月。この頃にはもう少将を使った時間稼ぎは限界を迎えていたんだろうね」

時雨「一向に調査に進展を見せない少将を不審に思い始めた大本営は、たぶん少将に代わる新たな人間の派遣か、もしくは本格的な調査の手を入れるくらいの検討に入っていたんだろう」

時雨「もしそうなれば、せっかく作り出した研究環境は台無し。それどころか生物兵器が完成する前に全てが露呈してしまう危険すらあった」

阿武隈「進退窮まった、ってことね……」

時雨「追い詰められたあなたは、遂に最悪の手段に打って出た……それが『終末計画』だ」
376 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/15(土) 01:39:28.81 ID:CXFmgjhU0
初霜「終末計画?」

時雨「『オフィス』に残されていた書類の中に、そういう名称の作戦書があったんだ」

時雨「おそらく終末計画とは、大本営に中将の企みを察知された場合を想定した最終手段」

時雨「全てが露見する前に、全てを巻き添えに自爆する計画ってところだろう」

吹雪「じ、自爆!?」

時雨「正確には、自爆した風を装うのが目的。って言うべきか」

時雨「この頃にはまだ生物兵器自体は完成してはいなかったのだろうけど、試作品くらいは出来上がっていたんだろう」

時雨「開発室にあった報告書によると、特殊弾の実験自体は既に何度か行われていたみたいだしね」

阿武隈「じゃあ……それを使って」

時雨「試作段階の生物化学兵器を使い、大本営の手がこの施設に及ぶ前に鎮守府ごと崩壊させたんだ」

時雨「もちろん単なる事故――生物兵器が誤って使用されてしまった可能性も考えられるけど」

時雨「この計画の存在を考えれば、事故ではなく意図的なものだったとみてほぼ間違いないはずだ」

時雨「全ては大本営の目を今度こそ完全に逸らせる為……その為に地上で未知の生物化学兵器が使用されたんだ」

不知火「では、地上に残っていた艦娘たちは……」

時雨「開発室の報告書では、試作の段階でも艦娘と深海棲艦に対して何らかの強力な破壊作用が認められていたみたいだからね」

時雨「詳しい作用は分からないけど地上の惨状を見るに……鎮守府に残っていた艦娘たちは為す術もなく全滅したんだろう」

初霜「なんてことを……」

時雨「結果として計画は成功し、大本営も鎮守府は完全に崩壊したものと判断したんだろう」

時雨「後に大本営が調査の手を入れたかどうかは分からないけど、今日までこの地下施設が閉ざされていたことから、遂に発見されることはなかったんだろう」

時雨「あるいは、ここが崩壊した時点で下手に手出しせず、存在自体を本当に無かった事にしようとしたのかもしれない」

時雨「この地の存在そのものが、大本営にとってかなり都合の悪いものだったみたいだからね」


中将「……」


時雨「これが僕の考えるこの鎮守府で起きた異変の真相。そして鎮守府が廃墟と化した理由だ」
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 08:44:20.59 ID:qdW64reb0
良いところで……続きが気になる
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/15(土) 09:28:22.46 ID:Bd1adNLjo
待っててよかった......
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 22:16:39.75 ID:as2Fl4bmo
お疲れさんデース
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 01:15:25.68 ID:L6MlvDiyo
更新待ってました
381 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/16(日) 01:59:02.64 ID:gilXGWMN0
阿武隈「でも、あたしたちを襲ったあの怪物は……」

阿武隈「あれは一体何だったの? やっぱり、実験に使われた艦娘の成れの果てだったとか……?」

時雨「少なくとも初霜と夕立に化けていた2体に関しては、中将が意図的に作り出した物だろう」

時雨「だけどもう1体……。地上からずっと僕たちを襲ってきたあの怪物は、全く異なる経緯から生まれた文字通りの怪物だったんじゃないかな?」

吹雪「ど、どういうこと?」

時雨「地下の『資料室』で阿武隈さんと不知火が見つけたレポートに、あの怪物たちのことと思われる記述があったのを覚えてる?」

阿武隈「うん、覚えてるわ」

時雨「あの記述をよく読むと……深海棲艦化するパターンや、生身の人間に深海の力が作用するとどうなるか? ってことが書かれていると読み取れたんだ」

初霜「生身の人間……」

時雨「仮定だけど、これがもし終末計画実行後に確認されたものだったとしたら?」

吹雪「えっ」

時雨「生身の人間なんて鎮守府の環境上限られるよね。ここにいた人間は2人だけ……今目の前にいる中将でないとすれば、残るのは1人」

不知火「あの怪物の正体は……少将司令、だと……?」

時雨「おそらく終末計画が実行された際、既に用済みになった少将も他の艦娘と共に生物兵器によって始末される計画だったんだ」

時雨「だけどそこで生身の人間だった彼は、中将も予想していなかったような未知の変化を遂げ……結果、あの怪物に変貌した」

阿武隈「じゃあ、あれは少将提督の成れの果て……」


中将「……」パチ...パチパチパチ

382 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/16(日) 02:06:20.63 ID:gilXGWMN0
時雨「!」

中将「見事だ。まさか部外者の艦娘にそこまで突き止められるとはな」

中将「本当に大したものだ。仮に大本営の手の者がこの場にまで辿り着くことが出来たとしても、そこまで突き止めることは当的無いだろうと思っていたが……」

中将「やはり艦娘にはまだまだ可能性がある。あるいはこの場を……人間ではなくお前たち艦娘が突き止め、足を踏み入れたことも……奇妙な宿縁なのかもしれないな」

阿武隈「何なの……この人」

不知火「イカレてる……」

時雨「……」

初霜「時雨さん、1つ聞いてもいいですか?」

時雨「なんだい?」

初霜「今までの話でこの鎮守府で起きていたことは分かりました。だけどまだ気になることがあります」

初霜「最初に言っていた『この地に初めからあったという前身の施設』という存在……。それは一体何なんですか?」

時雨「ああ、まだそれが残っていたね」
383 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/16(日) 02:15:28.79 ID:gilXGWMN0
時雨「ここが鎮守府になる以前から存在していたもう1つの施設。鎮守府になった後もリスクを承知でわざわざ残しておく程に重要な存在だったことは間違いない」

時雨「正直、この部分に関しては僕自身まだ半信半疑……確証といえるものが無いんだけど。ここにあったのは恐らく……」

夕立「恐らく?」

初霜「……時雨さん?」

時雨「……」

中将「その様子では、お前は既に察しているのだろう? お前は頭が切れるようだ。何よりあの金庫の中身を見たのであれば、辿り着いているはずだ」

中将「この地で行われてきた悪魔の研究のことに。お前たち艦娘の原点に」

時雨「! それじゃあ……まさか……」

吹雪「艦娘の原点……?」

不知火「この男は、いったい何を言って……」

中将「言うなればここは始まりの場所。お前たちにとっては生まれ故郷ともいうべき場所なのさ」

阿武隈「生まれ……故郷……?」

時雨「やはりそうか……。ここは……ここにあったのは……」

時雨「艦娘の、開発施設」


中将「……素晴らしい」

384 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/16(日) 02:21:15.48 ID:gilXGWMN0
阿武隈「艦娘の……開発って……」

不知火「待っ、待ってください……時雨さん……何を言って……」

時雨「僕だってまだ信じられない……信じたくない……でもあの金庫……」

時雨「あの中に入っていた10年以上も前の日付が記された資料……。あれはどう考えても、今まで僕が話したこの鎮守府での出来事とは辻褄が合わないんだ」

時雨「資料に書かれていた内容に、この地下施設の設備……それに地下施設で見たあの本……このことから考えられるのは……」

中将「そう……ここは全て元々はお前たち艦娘を生み出す為に用意されたもの。そしてあの金庫の中の資料は、その記憶なのさ」

時雨「!」

中将「お前たちも知りたいだろう? 自分たちがなぜ今ここに存在するのか? どうやって作り出されたのか?」

中将「せっかくここまで辿り着いたのだ……知りたいのなら教えてやろう」

中将「大義の名のもとに狂気の実験に手を染めた、罪深き人間たちの話を。その果てにお前たち艦娘が生み出された……血の歴史をな」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 03:54:42.29 ID:AlpkXBud0
おうふ…中々にヤバそうな内容来たな…
死ぬしかないじゃない展開に発展しなければいいが…
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 19:35:46.67 ID:kv9HpIic0
誰かがマミって全滅エンド?
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 21:39:53.52 ID:wajQ+S3Z0
待ってた
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 23:41:12.23 ID:Td20OLGGo
乙カレー
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 20:50:44.88 ID:WxEICQEo0
待っとったで〜
390 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 00:48:50.68 ID:qx7bPAFX0
中将「全ての始まりは、ある日突然海の底から現れた謎の艦艇――後に深海棲艦と呼ばれる存在の出現」

中将「人類の持つあらゆる武器の効力を受け付けぬ未知なる存在を前に、人類は成す術なく世界中の制海権を失い、滅亡の危機に立たされた」

中将「その脅威に対抗できる唯一の存在。それが在りし日の戦船の魂を持つ娘――艦娘」

中将「その力と活躍により、人類は制海権奪還に向けた最後の希望を艦娘に託した」

中将「世に広く知られるこの戦争の経緯、お前たちも当然知っていよう?」

時雨「……」コクリ

中将「では不思議に思ったことはないか? 劣勢に立たされていた人類側に突然現れた深海棲艦への対抗手段……艦娘とは一体何なのか? いつ、どのような経緯で誕生したのかと」

中将「お前たち自身答えられるかね? 自分たちが一体何者なのか。どうやって生まれたのか?」

吹雪「そ、それは……」

阿武隈「……確かに、あたしたちは知らないわ。艦娘として今の鎮守府に着任した事以外……それ以前の事も、何も……考えたことも無かった」

中将「だろうな。知るはずがない。何せ今となってはそのことを知る者は殆どいない。お前たちの指揮官である提督も知り得ぬことなのだから」

初霜「何だって言うの……あなたは、何を知っているというんです!?」
391 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 00:58:02.34 ID:qx7bPAFX0
中将「きっかけは些細な、誰も予期していなかった小さな出来事だったそうだ」

中将「その出来事の詳細は既に伝承が途切れ、もはや誰も知り得ぬことだが……劣勢に立たされていた人類はある事件をきっかけに、嘗て世界に巻き起こった大戦で用いられた戦船。その魂というべき物の存在と、それが深海棲艦に対する有効手段に成り得ることを知った」

中将「希望を得た人類はすぐに研究を始め、在りし日の戦船の魂を用いた兵器の開発を急いだ」

時雨「……」

中将「当初こそ開発は順調に進み、戦船の魂を機械を通じて伝達させる技術の確立や、それを用いた試作第1号の開発にまでこぎ着けた」

中将「だが開発計画は直ぐに暗礁に乗り上げた。1号を始め、試作される兵器はどれも戦闘での実用性はおろか安定した運用すらままならない失敗作ばかりだったからだ」

初霜「失敗作……」

中将「何故だと思う?」

吹雪「なぜって……」

時雨「……わからないね」

中将「器だよ」

阿武隈「器?」

中将「それまで開発計画を進めていた者たちは、戦船の魂を機械の器――人工物に適応させることで対深海棲艦用の兵器を作ろうとしていた。それ自体が誤りだった」

中将「戦船の魂という大いなる存在を収めるには人工物などでは到底不可能な話。つまりは器となる存在が重要だったのだよ」

初霜「! まさか……」

時雨「……っ、そういう…ことか」

中将「その結果考案されたのが人間を器とした兵器の開発。お前たち艦娘の原型となる研究が始まったのだ」
392 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:03:54.76 ID:qx7bPAFX0
不知火「人間の……器……」

吹雪「それが……私たち艦娘の……?」

中将「そう、原点だ。そして思った通り人間を器に作り出した試作品はこれまでにない成績を叩き出した」

中将「これにより開発計画の方針が確定し、開発推進の為にさらに多数の人間が器として研究に投じられ、開発は飛躍的に進んだ」

阿武隈「……」

中将「だが計画はまたしても大きな問題に直面した。研究の為に必要不可欠な素材――器となる人間が不足したのだ」

吹雪「……!」ゾクッ

中将「それまでは国家が戦時動員した挺身隊と呼ばれる志願者たちが主に使われていたが、そんな人材はすぐに底を尽きた」

中将「何せまだ手探り状態だった研究では、使用した素材はほぼ使い捨て……再利用率が極めて低かったからな」

初霜「素材……再利用率……っ!?」

不知火「人をどこまで……どこまで愚弄すれば……ッ!」プルプル

中将「……ふん。その台詞はそれを勧めた国家に言うべきだな。我々は国家の命に従ったまでなのだから」

不知火「……貴様はッ!」

阿武隈「不知火ちゃん! 落ち着いて!」

時雨「……」

中将「フッ、フフフ……。この程度で頭を熱くしていては、この先の話はまともには聞けないぞ」

中将「この先こそ……人という愚かな生き物の業の極み。本当の地獄が始まるのだからな……」
393 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:07:57.20 ID:qx7bPAFX0
中将「素材となる人間の不足により開発計画は中断寸前にまで追い込まれ、より多くの素材の確保は急務になった」

中将「だが自ら進んで生贄になるような志願者はそうそう居るはずがない。追い詰められた国家は、遂に禁忌に触れる決断を下した」

阿武隈「禁忌に触れる……?」

時雨「……それが、あのリストに書かれていた子供たちなのか……!?」

吹雪「リストって、あの」

初霜「金庫の中にあった……まさか、あの資料は……」

中将「そう。あれは狂気に駆られ禁忌に触れた国家により犠牲となった無数の命を記した唯一の記録であり、記憶」

中将「深海棲艦の脅威から国を護るという大義の為と銘打ち、この国は秘密裏に戦災孤児や重病等で回復の見込みがないと判断された子供を集め、兵器開発に利用するという悪魔の手段を計画したのだ」

394 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:17:40.30 ID:qx7bPAFX0

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『これまでの研究の結果、器には大人の人間よりむしろ子供――特に少女に適性が高いことが判明しています』

『それはむしろ好都合だ。深海棲艦の襲撃により親を亡くし孤児となった子供、重傷を負った子供は国家が保護しているだけでも数百と居る』

『それだけ居れば、研究もより進展するだろう?』

『正気ですか? いくら何でもそのようなことは……』

『今は戦時下だ。それも国家……いや、人類存亡の危機といっていい情勢。人道だ人権だ等と平和だった時代の価値観を持ち出すのは筋違いもいいところだ』

『よいかね。これは必要な犠牲だ。子供たちには人類の生存と未来の為、今出来る最大の貢献を果たしてもらうのだ』

『それに使うのは身寄りのない孤児や、脳死などで植物状態になり回復の見込みもない子ばかり。未来の無い子供たちが人類の未来のための礎となる……素晴らしいことではないか』

『しかし……』

『海路を寸断され、これまで国家の生命線を他国との貿易に依存していた我が国に時間がないことくらい、君にも分かるだろう?』

『このままでは深海棲艦共の侵攻を待つ前にこの国は終わりだ。下らない議論で時間を費やす余裕は無い』

『…………』

『君とて自ら望んでこの研究に携わったのだろう? 人間を器にするという案も、君が発案したのではないか』

『……』

『実験に使う子供たちと必要な設備の手配は我々が何とかする。軍にも協力を仰ぐ手筈だ』

『君たちは一刻も早く、奴らに対抗しうる兵器の開発に全力を注ぐのだ。無駄な情など捨てたまえ』


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395 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:28:51.79 ID:qx7bPAFX0
中将「そして造られたのがこの施設」

中将「表向きは孤児や重篤な障害を持つなど様々な理由で身寄りのない子供たちの為の保護施設を装い、裏ではその子供たちを使った人体実験を行う『艦娘開発施設』それがこの島の正体」

中将「ここは正に、人間の狂気を具現化したような、呪われた聖域」

中将「艦娘という未来を生み出すために……この地では数えきれない程の小さな命が、身勝手な国家と浅ましい人間の都合で無残に奪われたのだ」

吹雪「そん……な……」

中将「駆逐艦時雨。先ほどお前は、この地下施設を閉鎖したあと地上に鎮守府を造ったと推理していたが、それは正確ではない」

時雨「!」

中将「地上の施設自体は元からあった物なのだよ。この島に連れてこられた子供たちは、地上に設けられた施設で普通に生活していた……順番が来るまではな」

阿武隈「順番?」

時雨「……なるほど。あなたが鎮守府の艦娘たちに行っていたのと同じことを、前身の施設でも行っていたのか」

夕立「同じって……」

時雨「つまり、地上には連れてきた子供たちを収容するための施設が、地下には本来の目的である研究施設がそれぞれ存在していたんだ」

時雨「地上の子供たちは何も知らず普通に生活し、実験の順番が来ると地下に移され実験に使われた」

中将「そう。あの子たちは地下に連れられるまで、真実を知らされてはいなかった……」

396 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:34:32.43 ID:qx7bPAFX0

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『ねぇ先生。今日の健康診断って、注射とかもあるの……?』

『……注射は嫌いかい?』

『うん……痛いし、きらい』

『……大丈夫。今日の健康診断に注射はないよ』

『ほんと!?』

『ああ……。だけど、注射の代わりにお薬を飲む必要があるんだ。それは平気かな?』

『うん! 注射に比べたらお薬飲むのなんてへっちゃらだもん!』

『……いい子だ』




『心拍数が急上昇しています。血圧も――』

『ユニットの出力が強すぎるんだ! 出力を弱めろ!』

『出力40まで低下。検体の心拍数、依然戻りません』

『くっ……もっと下げろ! 急げ!!』

『! 主任、検体の脳波が――――』




『やはり今の出力では検体がとても耐えられないようですね』

『……ああ。1度ユニットのほうを調整する必要があるな』

『わかりました。では今回の実験はこれで……この遺体はいつものように処理を――』

『…………』

『主任?』

『…………』


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397 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:39:36.27 ID:qx7bPAFX0
中将「自分たちが元から殺される為に集められたということ……屠られる家畜のように生かされていたことを、子供たちはこの場所に連れられて初めて知らされた」

初霜「っ、なんて……酷いことを……」

中将「唯一救いと言えるのは、脳死や重篤な障碍を持つ者でも艦娘として適合すれば新たに健常な生を受けられるということ……。その場合は未来を与えられると言える」

時雨「……」

中将「そうして作り出されたのがお前たち、艦娘。数多の命の犠牲の果てに生み出された存在。それがお前たちの正体だ」

阿武隈「犠牲の、果て……」

不知火「馬鹿な……そんな与太話……信じるとでも」

中将「信じられぬかね? 私の言う事など」

中将「なら、そこの名探偵に聞いてみればいい。私の話は全て口からのでまかせ、妄言なのか? とな」

不知火「! 時雨さん!?」

時雨「……不知火」

不知火「なっ……そ……そん、な……」

中将「フッ、フフフフ……」

吹雪「それじゃあ、私たち……元は人間から……」ブルブル
398 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:48:27.95 ID:qx7bPAFX0
中将「ふん……安心しろ。お前たちはそうではない」

吹雪「えっ?」

阿武隈「どういうこと……?」

中将「ここでの研究によって作り出されたのは、いわば艦娘の原型。艦娘という形態を確立するための試作品」

中将「しかし人間を器にする形式では量産性・安定性共に難があった……」

中将「その問題が解決し、最終的に艦娘が国家に承認され量産に至ったのは、人間に代わる器――『開発資材』と呼ばれている代替品が開発されたことが決め手になった」

中将「人間に限りなく近い人工の器。安価で大量生産でき、尚且つ安定性も高いそれは、まさに画期的な発明だった」

中将「それが出来たことで艦娘を作るのにわざわざ人間の器を使う必要は無くなった」

夕立「じゃあ、それがもっと早くあれば……!」

中将「もっと早くあれば、ここでの犠牲は必要なかった。が、ここでの犠牲が無ければ開発資材もまた生まれなかった……皮肉なものだ」

夕立「……」

中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」

中将「その殆どは既に喪失している。今となっては僅かな記録と私の記憶に残るのみ……歴史の闇に、というやつだろうな」

不知火「っ!」ギリッ

時雨「……そうはさせないさ」ボソッ
399 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:53:14.30 ID:qx7bPAFX0
訂正>>398

中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」 ×

中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された完成品といえる艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」 ○
400 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 01:58:40.26 ID:qx7bPAFX0
中将「やがて完成した艦娘は人類側の希望として大々的に公表され、本格的な配備が始まった」

中将「だが、同時にこの施設の存在と行われてきた非人道的な実験の数々は、決して表には出せない国家の暗部になった」

中将「国民に広く周知され、希望として持て囃されるようになった艦娘という存在は清廉潔白でなければならない」

中将「その為に払われた犠牲と経緯は、国家が喧伝する希望のイメージに相応しくない……そんな理由で、艦娘に関わる闇は徹底して隠蔽されることになったのだ」

初霜「っ、身勝手過ぎますッ!」

中将「ここを管轄していた大本営は、証拠隠滅の為に施設と研究にまつわる資料の全てを破棄することを考えたようだが……結果的には貴重な研究施設と記録の数々を捨てることを惜しみ、残すことを決めた」

中将「これだけの事をして……自ら暗部と認めてもなお、悔悟するどころかまだ利用価値があると打算し、そしてまた繰り返す……。人間の浅ましさ、愚かさ、ここに極まれりだ」

不知火「……くっ」プルプル

中将「そこから先はお前が推理した通り……。地上の施設は鎮守府へと改装され、地下施設は残したまま存在のみが隠蔽された」

中将「そして施設の職員だった私は秘密を守る管理人の役目を帯び、提督という肩書を与えられた」

中将「これが、この施設と……お前たち艦娘の真実だ」

吹雪「そんな……」

時雨「……」
401 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 02:12:32.56 ID:qx7bPAFX0
阿武隈「……1つ、聞いてもいい?」

中将「……何だ?」

阿武隈「あなたは……実験に使われた子供や、ここにいた艦娘を……どう思っていたの?」

中将「……なに?」

時雨「阿武隈さん?」

阿武隈「時雨ちゃんの話と、今あなたが言った話の通りなら……あなたは、ここで艦娘開発用に集めた子供たちと指揮下の艦娘に実験を行っていた当事者だった」

阿武隈「でも、地上で見つけた艦娘たちの記述の中でのあなたは、どれも艦娘想いで優しい人。ってものだったわ」

阿武隈「入渠ドックの中にあった数々の娯楽施設だってそう。あれはあなたが艦娘の為に用意した設備……そうでしょう?」

中将「……」

阿武隈「あたしは、あなたが艦娘の前で見せていたっていう優しい顔が演技だったとは思えない……少なくとも、最初の頃は」

阿武隈「なのに……あなたは、艦娘たちを深海棲艦を根絶やしにする為って理由で実験に使い、殺した……」

阿武隈「あなたは本当はどう思っていたの? どれがあなたの本心なの?」

中将「フッ……フフ、フハハハハ!」

阿武隈「!」

時雨「!」
402 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/22(土) 02:14:17.50 ID:qx7bPAFX0
中将「本心……本心か……フッ、フフフフ」

中将「先ほどお前は……私があの少将と同じように、艦娘たちを道具のように思っているに違いないと言ったな」ギロッ

不知火「!」ビクッ

中将「あんな俗物と私を一緒にするなッ! あの若造は艦娘を道具として見ていたが、私は違う! 愛していたさ! 兵器や道具としてではなく、艦娘という人と変わらぬ存在としてな!」

中将「子供たちも同じだ。理不尽に未来のない者と決めつけられ、大義の為と言って本当に未来を奪われた、罪なき……哀れな子供たち……」

不知火「なにを今更……それを奪ったのは、あなたでしょう!」

中将「黙れッ! ……っ、分かっているさ、私の罪くらい……決して許されない罪を犯してしまったことくらいな。しかし私は……やらなければならなかったのだ!」

不知火「!」

中将「お前などに分かるものか……私の気持ちが……私を信頼する子たちを裏切り、手にかける気持ちが……」

吹雪「じゃあどうして……どうしてそんなことをしたんですか!?」

中将「確かに愛していた……子供たちも、艦娘たちも……心の底からな」

中将「だが、それ以上に、私には大切な存在が居る。その為に私は……他の全てを切り捨て、犠牲にしたのだ!」

中将「電……私の、愛しい愛しい電……この子の為に私は、他の全てを捨てた」


電「――――」コポッ


中将「この子を守る為なら……他の全ての艦娘……いや、人類の命であろうと、私にとっては軽いッ!」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 02:57:05.80 ID:ZZ4R+3f10
まさか電は…中将の…
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 09:58:05.11 ID:BaC8jJm40
気になる
405 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 08:26:31.97 ID:9gQXKZzr0
時雨「電のため……?」

夕立「っ! そんな……電ちゃん1人の為……それだけの為に、他のみんなを!?」

中将「それだけ……しかし、私にとってはそれが全てだった! 電以上に大切なものなど存在しない!」

中将「それにこれは、お前たちにとっても無関係という訳ではない。むしろ私の研究こそ、お前たちの希望なのだ」

阿武隈「あたしたちの……」

初霜「希望、ですって……?」

時雨「僕もそれだけが分からない。あなたが狂気に駆られた理由……艦隊運用に異変が起こり、大本営からの解任決議に至るきっかけになったのであろう出来事」

時雨「あなたはいったい、何を知ったんだ?」

中将「……私が、罪なき子供たちを手にかけ、膨大な犠牲の果てに生み出された人類の希望、艦娘」

中将「私は信じていた……信じていたからこそ、あのような実験に手を染め……完成させたのだ……しかし、裏切られた」

時雨「裏切られた?」

中将「無駄だったのだよ……全て……。艦娘は、深海棲艦との戦いを終わらせる希望などではなかったのだ!」
406 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 08:34:55.89 ID:9gQXKZzr0
中将「きっかけは開戦直後、人類初の大規模反攻作戦となった戦いで確認された新型の深海棲艦」

中将「人型で高い戦闘力に人語を話す程の知能を持った姫級と呼称される新型の敵……それは、時が経つにつれ次々と出現が報告されるようになった」

中将「それと同じくして、艦娘にも弱点というべき部分があることが判明した。激しい戦闘の中で撃破され、轟沈する事例が挙がり始めたのだ」

中将「私はこの2つに奇妙な因果関係があることに気付いた。半信半疑のまま、奴ら深海の細胞を採取し調べた……。そして、身の毛もよだつような事実が判明したのさ」

阿武隈「……」ゴクッ

時雨「……何が、分かったの?」

中将「同じだったのだよ。奴らと艦娘、この2つには共通するDNAが存在したのだ。艦娘と深海棲艦にしかない、未知のDNAが」

時雨「なっ!?」

中将「そして私は気付いた。なぜ在りし日の戦船の魂という存在が深海棲艦にとって有効なのかということ……戦船の魂も深海棲艦も、同じ海から現れた存在であることにね」

中将「2つは同じだったのだ。日を浴びて育った植物と浴びずに育った植物が異なる姿となるように……」

中将「艦娘と深海棲艦。2つは姿こそ違えど本質は同じ……同一の存在同士なのだ」
407 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 08:49:47.78 ID:9gQXKZzr0
阿武隈「あたしたちと深海棲艦が……同じ……?」

中将「艦娘と深海棲艦の関係……それはコインの表と裏に等しい」

中将「表が艦娘という面とするなら、深海棲艦は裏……。同一である2つの存在は、同時に2つの面を持つ表裏一体の関係にある」

中将「これが意味することが分かるかね?」

時雨「……表裏一体」

時雨「じゃあ……僕たちが沈むということは……」

中将「そう。2つの面は常に隣り合わせ。それが逆転するきっかけになるのは、深海棲艦が持つ固有の『負の力』という存在」

吹雪「負の力……?」

中将「生への未練、執着、無念といった、死の淵に立つ生物が抱く負の感情。それこそが深海棲艦を形作る最大の要素であると私は考えている。それを抱くのは艦娘も同じ。それが艦娘と深海棲艦を分けるのだ」

中将「戦いの中で沈んだ艦娘……彼女たちが死に際に抱く死への恐れ、生きたいという想い。自らの境遇と運命を恨み、憎む怨嗟……それらが暗く深い海の中で増幅され、負の力となって艦娘を呑む」

阿武隈「ま、まさか……」

中将「そして生まれ変わるのさ。艦娘は深海棲艦に……これがこの戦争の本当の姿だ」
408 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 08:57:02.54 ID:9gQXKZzr0
吹雪「嘘……」

不知火「馬鹿な……そんなこと……あるはず……」

中将「……信じられぬなら、この子の姿を見るがいい。この中で今も眠る電……その姿が何よりの証拠だ」

夕立「!」

中将「厳密に言えばこの子がこんな姿になってしまったのは違う理由だが……。しかし、艦娘が深海棲艦になるという例を証明するのに、これ以上の証拠はあるまい」

阿武隈「それじゃあ……本当に……」

中将「そう。これが真実だ。初めからこの戦争に我らの勝利という形での終わりは存在しない……いくら深海棲艦を倒しても、戦いの中で艦娘が沈めば、彼女たちは深海棲艦になって帰ってくる」

中将「人間との絆が強ければ強いほど……最期に抱く無念や執着が強いほど、沈んだ艦娘は、より強力な深海棲艦となって人類の前に現れる」

中将「繰り返される輪廻の如く戦いは続くのだ。やがて人類の力が尽きるとき、ようやく戦いは終わる。人類の敗北と滅亡という形の終焉がな」
409 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:17:20.90 ID:9gQXKZzr0
時雨「でも……それが事実なら、逆のパターンも考えられるはずだ」

初霜「逆?」

時雨「艦娘と深海棲艦が表裏一体……艦娘が負の力の影響で深海化するなら、逆に深海棲艦が艦娘に転生するってことも、あり得るはず」

不知火「!」

中将「確かにその通りだ。艦娘が深海棲艦になるように、深海棲艦が艦娘に生まれ変わるということも当然起きる」

中将「お前たちが海域に出撃し、深海棲艦を倒した際に新たな艦娘と邂逅する現象……あれは正に、深海棲艦を形作っていた負の力の呪縛から解かれ、艦娘に生まれ変わることで起きているのさ」

初霜「なら……!」

中将「解けるかね? 全ての深海棲艦の呪縛を。艦娘の数は分かっていても、海の底にいる深海棲艦がどれだけの規模なのか……いや、このメカニズムが果たして全て正しいのかすら、我々には分かっていないというのに」

初霜「そ、それは……」

時雨「……くっ」

中将「だから不可能なのだ。この戦争で我々が正攻法で勝つ事など……今までお前たちが必死で戦ってきた奮闘も、勝利も、全て無駄な足掻きに過ぎないのだ」

吹雪「そ、そんな……」

不知火「なら……私たちは……私たちは、いったい……何の為に……」

阿武隈「っ! みんな、しっかりして! あの人に呑まれちゃ駄目っ!」

時雨「あなたは、それを知ってしまったから……だから、急に艦隊運用が消極的になったのか」

時雨「……!」

時雨「じゃあ、その直後に大本営があなたの解任に向け動き出したのは…………まさか、大本営も……」

中将「……私はこの事実に辿り着いた後、すぐに大本営にもこのことを知らせた」

中将「しかしこの国は……その事実すらも、自分たちの保身の為に握り潰したのだ!!」

410 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:23:50.65 ID:9gQXKZzr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『現状維持!? いったいどういうことですか!!』

『……慎重に協議した上での結論だ。当面、深海棲艦に対する新たな対応策が見つかるまで、現状のまま艦娘は運用し続ける』

『っ! 艦娘の存在が……彼女たちが戦いに身を投じ倒れていく限り、深海棲艦は現れ続けます! 我々は方向を間違えていたんです。艦娘は戦争を終わらせる希望などではなかった!』

『……』

『すぐにでも再度の検討を! このまま艦娘の運用を続けても、戦況の打開など不可能です。それどころか、さらに混迷を深めること――』

『もういい。黙りたまえ』

『!』

『君の話は全て推測だ。そのような話で、今や国防の要となっている艦娘の運用を止めろというのかね?』

『し、しかし……現にDNAの一致や実例の確認も……!』

『艦娘は希望でなくてはならないのだ。莫大な資金を投じ……あんな暗部を作ってまで開発し、国民にも鳴り物入りで喧伝した存在が……今更、使い物になりませんでした。で済むと思うかね』

『っ、ですが!』

『使わねばならんだろう。たとえ君の言う通り、艦娘が使い物にならない存在だったとしても……作ってしまった以上、使わねば国家と軍の沽券に関わる』

『無論、我々もただでは済まない……。それは艦娘開発計画を主導した君も同じだ。そのことをしっかりと認識してから口を開きたまえ』

『っ!』

『とにかく、この事は決して口外してはならん。もし外部にでも漏れれば、軍や国家への重大な影響は避けられんだろう』

『……しかし、艦娘に替わる新たな対策の研究も秘密裏に進めておくべきだな。それまでは今まで通り艦娘を使い、国民には戦局は好転していると信じさせるのだ』

『では、彼女たちは……今も戦場で真実を知らずに、戦争を終わらせる為に命がけで戦っている艦娘たちは……犬死にではないですか!』

『……だからどうした?』

『!?』

『希望になり得ぬ役立たずだったのなら、せめて奮闘しているというパフォーマンスでもやってもらわねば割に合わんだろう』

『何よりあれは、人ではなく兵器。多少金の掛かった消耗品を合理的に活用するのに、何を躊躇う必要があるのかね?』

『……ッ!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

411 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:28:54.00 ID:9gQXKZzr0
中将「だから私は始めたのだ! 己が保身とくだらぬ体面の為に真実を隠し、今も自分たちの都合で艦娘たちを要らぬ死地へと送っている大本営に代わってな!」

中将「本当にこの戦争を終わらせるには、奴らを根源から絶てばいい! それしかない!」

中将「敵を1匹残らず全て滅ぼし! 根絶やせば!! 戦争は終わるッ!!!」

吹雪「ひっ……」ゾクッ

中将「そして作り上げたのさ! 深海棲艦共を細胞の根源から破壊し、消滅させる最高の兵器を……! この力を以てようやく戦いは終わるのだ!」

中将「これを世界各地の海底に存在するであろう深海棲艦の本拠地に向けて放ち! 奴らの全てを消滅させれば、この戦争を終結させられる!」

阿武隈「!?」

中将「フッ、フフフフ……フハハハハハ!!アッハハハハハハハハハ!!!!」

中将「間もなくだ! もう間もなく、私の大望が……遂に成就する! ようやくこの子を、この狂った連鎖の中から救い出すことが出来るのだ!」

中将「そしてこの戦争に! 世界に! 新たな道が拓かれる! 私が拓くのだ! この終わりなき戦いに終止符を打つために!!」
412 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:43:06.72 ID:9gQXKZzr0
中将「お前たちは運がいい。全くの部外者だというのに、自力でこの隠された場所を探しあて、今この場に居合わせている」

中将「特に駆逐艦時雨。お前の頭脳には脱帽だ。ここに辿り着くだけでなく、この地の秘密まで暴くとは……今からでも私の元に置きたいくらいだ」

時雨「あり得ないね」

中将「フフ……まあいい。その勇気と頭脳に敬意を表し、これから始まる歴史的瞬間に立ち会うことを許してやろう」

時雨「!」

中将「完成したγ-13号弾。これの最終実験を今より行う。お前たちは、戦争を終わらせる真の希望が誕生する瞬間に立ち会うのだ!」

中将「最後の実験は、海上の敵に向けた使用を想定した空中炸裂実験。もし今地上にいれば跡形もなく消滅していただろう……本当にお前たちは運がいい」

阿武隈「!?」ゾクッ

中将「邪魔さえしなければ殺さずにおいてやる。そのまま大人しく見届けるがいい」
413 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:49:30.26 ID:9gQXKZzr0
時雨「地上にいたら跡形もなく……ってことは、やはりその兵器は深海棲艦以外にも影響を及ぼすのか」

中将「……そうだ。やはり深海棲艦と同一の存在である艦娘。そして人間を含む生物への影響だけは改善のしようがなかったからな」

時雨「そんな物を使ったら深海棲艦だけじゃない! 人間も艦娘も……生きる物すべてに甚大な被害が出てしまう!」

初霜「!」

中将「戦争を終わらせる為だ。多少の犠牲はやむを得ない」

吹雪「そ、そんな……」

時雨「っ! それじゃあ、あなたも……艦娘を生み出す為に子供たちを犠牲にした大本営と、彼らと同じじゃないか!」

中将「ふん……初めにそうしたのは奴らだろう! 己の都合で他者の命を弄び、大義の為にとそれを奪う! それこそ奴らが、人が示し進んできた道ではないか!」

中将「だから今度は奴らが犠牲になるのだ! 私と電の為に……嘗て奴らがそうしたようにな!!」

初霜「大本営の人たち以外にも……全く無関係の人々を多く巻き込んでも、それでもあなたは! そう言うのですか!?」

中将「言ったはずだ。私にとって大切なのは電のみ! 電以外の存在など全て等しく無価値! どうなろうと知ったことではない!」

初霜「っ!」
414 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 09:54:26.00 ID:9gQXKZzr0
阿武隈「あなたは狂ってる……あたしには、あなたの考えなんて微塵も理解出来ないわ」

中将「……」

時雨「僕もだ。あなたの考えに全く共感なんて出来ないし、したくもない」

不知火「不知火も同じです」

初霜「あなたの境遇に関しては僅かに理解出来るところもあります。けど……あなたのやろうとしている事を、許すわけにはいきません!」

中将「……理解出来ぬというのか。お前たちが救われる唯一の方策だというのに、なぜそれが分からない!?」

吹雪「……わかりませんよ」

夕立「ぽいっ」

中将「……お前たちも所詮その程度か。そしてお前たちも、私の邪魔をするのか」


中将「ならば貴様らは全員、私の敵だ」ギロッ

415 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 10:00:21.06 ID:9gQXKZzr0
時雨「っ!」ゾワッ

不知火「いくら弾薬がないとはいえ、不知火たちが人間のあなたに後れを取るとでも?」

中将「本来なら、侵入者に備えて独房の中で待機させていた怪物どもを使う予定だったが……ここに辿り着いたという事は、奴らは既に倒されてしまったか」

中将「……予定より少し早いが、仕方ない」カチッ


ピピーッ ピピーッ ピピーッ

ガチャン!


時雨「!」

阿武隈「この音……! あの機械から!?」

吹雪「み、見てください! 電ちゃんの入ったカプセルが……!」


電「――――」コポポッ…


中将「もう1度……私の為に力を貸しておくれ。私の可愛い、電よ」


電「――――!」パチッ

416 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 10:03:58.05 ID:9gQXKZzr0
夕立「電ちゃんの目が!」

時雨「っ、僕としたことが……! さっき機械を操作してたのは……」

中将「フフ…ハハハハ! 成功だ! 再び電が……私の元に帰ってきてくれた!!」


電「――――」スッ


ピシッ… ピシピシッ…


阿武隈「! カプセルが……!」


電「――――!」


ガシャァンッ!


時雨「うわっ!」

初霜「きゃっ」


電「――――」

電「――――」ジッ…

417 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 10:08:37.28 ID:9gQXKZzr0
中将「おお……! 電……私が分かるか?」

電「――――」


吹雪「電……ちゃん?」

時雨「……!」


中将「あぁ……やはりまだ言葉は……自我もはっきりとしないか……。だが、再びお前は、私の元に帰ってきてくれた……」

中将「必ず取り戻してるからな……昔のお前を……この角も、髪も、目の色も、肌もすべて、私が必ず元通りにして見せる」

中将「……しかし、その前に」ギロッ

中将「私たちの邪魔をする愚か者共を、綺麗に片付けておくれ」

電「――――」ギロッ

418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 10:11:29.05 ID:FbM38fL/0
あっ……(察し
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 10:13:22.48 ID:+je0/NNC0
このパターンはなぁ…
420 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 10:44:59.22 ID:9gQXKZzr0
初霜「っ! 電さん!」

時雨「駄目だ……あの電はもう、電じゃない」

吹雪「そ、そんな……」


中将「さあ、電……強化したお前の力を見せておくれ」

中将「ただしあの駆逐艦――時雨は生かして捕えるんだ。あの頭の切れはとても興味深い……薬で自我を消せば、いくらでも有効に活用出来る」

中将「あとはどうでもいい。皆殺しにして構わない」

電「――――!」ダッ


不知火「!? 早――」

夕立「! 不知火ちゃん!」バッ


バキィッ!


電「――――!」ググッ

夕立「ぐっ……凄い力……っぽいぃ!」ググッ…


吹雪「夕立ちゃん!」

時雨「駄目だ! 夕立っ!」


電「――――」シュルッ

夕立「うわっと!?」バッ


阿武隈「夕立ちゃん!?」

初霜「あれって……尻尾?」

時雨「尾の先に刃が付いてる……深海化の影響であんな物まで……」


夕立「……不意打ちとか、危なかったっぽい」

電「――――」シュルルッ

421 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 11:08:10.95 ID:9gQXKZzr0
夕立「でも、不意打ちなら夕立も得意っぽい――!」ダッ


時雨「夕立! 今の電とまともに戦うのは無茶だ! 戻って!!」


夕立「ふっ――!」シュッ

電「――」シュルルッ…

電「――!?」ピタッ

夕立「残念。正面はフェイク。脇腹がお留守っぽい!」シュッ

電「――!」

ドスッ!

電「――――」

夕立「……あれ?」

電「――――!」シュルッ

夕立「うぐっ……!」


吹雪「夕立ちゃん!?」

422 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 11:16:14.85 ID:9gQXKZzr0
夕立「ど、どうして……確かに脇腹に1発……手ごたえもあったっぽいのに」

電「――――」


時雨「っ! 強化された電の耐久が高過ぎるんだ、いくら夕立でも素手じゃ勝ち目はない……!」

時雨「早く電と距離を取って! 逃げて夕立!!」


電「――――」シュルッ

夕立「っ……!」ダッ

電「――! ――――っ!」ダダッ!


吹雪「夕立ちゃんを追ってくる!」

不知火「ど、どうすれば……!?」

時雨「今の僕等に勝ち目はない……逃げるしかない!」

阿武隈「み、みんな逃げてっ!」

423 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 11:24:56.57 ID:9gQXKZzr0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


時雨「っ……はぁ……はっ……」

時雨「はぁっ……はっ……! しまった、みんなと逸れたか……」

時雨(……広い実験場内だけど、色々な機械やガラクタが積まれてて……まるで迷路のようだ)

時雨(近くに電はいないみたいだけど……この状況じゃいつ鉢合わせになってもおかしくない……)

時雨「……っ、何とかみんなと……合流しないと」





時雨「……」コツ…コツ…

時雨「……!」ピタッ

時雨(この先から何か……気配がする……。阿武隈さんたち……? それとも……)

時雨(くっ、薄暗くてよく見えないけど……)

時雨(あれは……)



行動安価>>426

時雨が出会ったのは?

1阿武隈
2吹雪
3不知火
4初潮
5夕立

424 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 11:27:13.63 ID:9gQXKZzr0
知らない子がいたので訂正


行動安価>>427

時雨が出会ったのは?

1阿武隈
2吹雪
3不知火
4初霜
5夕立
425 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/07/24(月) 11:34:02.35 ID:1XbLRcUsO
ドシリアスな展開の中で初潮に吹いたw
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 11:34:31.85 ID:1XbLRcUsO
消し忘れました、逝ってきます……
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 11:44:04.51 ID:VD8PDxjNo
初霜
428 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 12:28:55.26 ID:9gQXKZzr0
初霜「時雨さん!」

時雨「初霜! よかった、無事だったんだね」

初霜「時雨さんこそ……他の皆さんは?」

時雨「僕もわからない……。どうやら散り散りになってしまったみたいだね」

初霜「じゃあ、一刻も早く皆さんを探さないと」

時雨「うん。バラバラになってしまった状況で、もし電と遭遇してしまったら……急がないと」

初霜「でも……皆さんと合流出来た後、あの電さんをどうすれば……」

時雨「……今はとにかく逃げるしかない。みんなと合流した後は、すぐにここから脱出するしか」

初霜「そうですね……っ!?」

初霜「時雨さん! 危ないっ!」

時雨「!?」


ザクッ!

429 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 12:35:03.87 ID:9gQXKZzr0
初霜「っ……く……」ポタ…ポタッ

時雨「初霜っ!?」

時雨「っ!」バッ


電「――――」シュルルッ


時雨「電……いつの間に……っ!」

時雨「初霜……! しっかりして、初霜!」

初霜「だ、大丈夫です……お腹を少し掠っただけで……それより、時雨さんは……?」ハァ…ハァ…

時雨「僕は大丈夫だったけど……っ! ごめん、初霜……っ!」


電「――――」コツ…コツ…


時雨「くっ……」

初霜「は……早く……私を置いて……逃げてください」

時雨「駄目だよ! そんなこと絶対に!」

初霜「早く……このままじゃ、時雨さんも……」ハァハァ…

時雨(このままじゃ……このままじゃ、2人ともやられる!)

時雨(何か手は……何でもいい、何か…………)

時雨(……あれは!)
430 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 12:38:06.86 ID:9gQXKZzr0


電「――――」コツッ…


時雨「……一か八か。やってみるか」ボソッ

初霜「……時雨、さん?」

時雨「……初霜、少しの間目を瞑ってて」

初霜「は……はい……?」

時雨「……」


電「――――?」


時雨「っ!」ダッ


電「――――!」


時雨「よし……取れた!」ギュッ

時雨「これでも……くらえっ!」シュッ


電「――――!」


時雨(お願いだ……佐世保の時雨と言われた幸運……今こそ、力を発揮してくれ……!)


電「――――」シュルッ ガキンッ!

電「!?」ピカッ!

431 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/24(月) 12:42:54.13 ID:9gQXKZzr0
初霜「っ!? きゃっ!」

時雨「目を瞑ったまま! 開けちゃ駄目だよ!」


電「――!? ――っ――っ!?」フラフラ…


時雨「……よし、光が治まった。今のうちに逃げるよ!」

初霜「時雨さん……いったい何を……?」

時雨「閃光弾さ。近くに偶然積まれていたのを咄嗟に見つけたんだ」

初霜「閃光弾……?」

時雨「たぶんここで作っていた試作品か何かだろうけど……正直、使い物になってくれるかは賭けだったよ」

時雨「でも……まだまだ僕たちには、運が味方をしてくれるみたいだ」


時雨(これで少しは電を足止め出来るはず。その間に何とか逃げながら、他のみんなを探さないと)

時雨(掠り傷って言ってたけど、初霜の様子も……あまり悠長なことは言っていられない)

時雨(お願いだ……僕の運。もう少しだけ味方してくれ……)



行動安価>>433

時雨たちが次に出会ったのは?

1阿武隈
2吹雪
3不知火
4夕立

432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 12:44:23.58 ID:p6DemnRJ0
2
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 12:45:38.35 ID:VD8PDxjNo
もしかして順番重要だったりするかな…
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 12:46:07.20 ID:VD8PDxjNo
ごめん安価下で
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 13:23:27.57 ID:mUL+HmFmO
2
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 13:29:48.08 ID:7LRqVp6vO
4
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 14:50:29.69 ID:RhXJERKDO
いよいよクライマックスか
438 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:00:24.31 ID:JmASTJOw0
時雨「しっかり……頑張って、初霜」

初霜「すみません……急いで逃げなくてはいけないのに……肩を借りてしまって」

時雨「元はといえば僕が油断したせいだ……ごめん、初霜」

時雨「……!」ピクッ

初霜「……時雨さん?」

時雨「しっ、この先に誰かいる……」

初霜「!」

時雨「……誰? そこにいるのは」


?「その声……時雨ちゃん?」


時雨「! 吹雪?」

吹雪「時雨ちゃん! それに初霜ちゃんも!」

初霜「吹雪さん……無事でよかった」ハァ…ハァ…

吹雪「初霜ちゃん!? その血……大丈夫!?」

時雨「僕を庇って、電にやられたんだ……。掠り傷みたいだけど、あまり余裕も言ってられない」
439 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:05:58.45 ID:JmASTJOw0


ガシャァァァンッ!!


時雨「!」

吹雪「!?」

初霜「この音……後ろの方から……まさか」ハァハァ…

時雨「っ! まずい……急いでここから離れないと! 吹雪、手を貸して!」

吹雪「う、うん!」

初霜「……! 時雨さん、吹雪さん!」

時雨・吹雪「「!!」」


電「――――!」タッ…タタタタッ


吹雪「電ちゃん!? は、早い……!?」

時雨「くっ……こっちは走る余裕はないって言うのに……」

初霜「……時雨さ――」

時雨「置いて行かないよ、絶対に! 吹雪、左側から初霜を。2人で左右から抱える形なら――」

初霜「もう、間に合いません……早く、私を捨てて、ください……」ハァハァ…

時雨「駄目だって言ってるでしょ!」

吹雪「っ! 時雨ちゃん……初霜ちゃんを連れて先に行って」

吹雪「電ちゃんは、私が食い止める」

時雨「吹雪!?」
440 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:10:18.58 ID:JmASTJOw0
時雨「無茶だ! 1人でなんて……! 夕立でも敵わなかったんだよ!?」

吹雪「……みんなをお願い。時雨ちゃん!」ダッ

時雨「吹雪っ!」


電「――――!」

吹雪「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」ドカッ!

電「――――!?」ググッ

吹雪(弾薬もない……私は夕立ちゃんみたいに素手で戦うとかも出来ないけど……)

電「――」キッ!

吹雪(せめて……時雨ちゃんたちが逃げられる時間稼ぎだけでも……!)

吹雪「私がみんなを……護――」

電「――――!」シュルルッ!

吹雪「っ!?」
441 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:15:06.20 ID:JmASTJOw0
電「――――」グググ

吹雪「……あ……が、っ」メキメキッ


時雨「吹雪っ!?」


電「――――」グイッ

吹雪「ぐっ……しぐ……にげ……ぎゃ……ぁっ」ベキッ、バキッ!

吹雪「……ぁ」プラン…プラン…


初霜「吹雪……さ……」ガクガク

時雨「あぁ……そん、な……」

442 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:20:34.74 ID:JmASTJOw0
中将「まずは1人。よくやった、電」コツ…コツ…


時雨「っ!」


中将「……愚かな選択をしたな。私の邪魔をしなければ、生かしてやったものを」

中将「ここまで辿り着くほどの知恵と勇気、それに運も持ち合わせていた稀有な存在だというのに……実に残念だ」

中将「……ん?」


吹雪「……ぁ……ぅ」


中将「ほう……尾で絞め上げられ全身を潰されても、まだ微かに息があるか。このままでもすぐ死ぬだろうが……」

中将「せめてもの情けだ。止めを刺して楽にしてあげなさい」


電「――――」グッ!

ゴキンッ!

電「――――」シュルッ

吹雪「」ドシャッ


時雨「ふ……ぶき……」

初霜「あ、あぁぁ……」ガクガク


中将「さあ、次はそこの2人……ただし時雨は殺さず、逃げられぬよう足を折る程度に止めておくれ」

電「――――」ジロッ


時雨「ぐっ……」

時雨(負傷した初霜を抱えたこの状況じゃ……さすがに逃げ切れない)

時雨(さっきのような手も……2度は……)

時雨(これまで、か……)

443 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:23:04.12 ID:JmASTJOw0
(あれ……?)

(目の前が……真っ暗だ……。ああ、そうか……私は、電ちゃんに……)

(結局……護れなかったんだ……時雨ちゃんたちも……司令官との、約束も……)

(ごめんね……みんな…………)

(ごめんなさい……司令官……)

(…………)

(……?)

(なに……この感覚……胸の辺り、暖かい……)

(……! 光……? 小さな光が……だんだん、大きく……)


ピカッ!

444 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:26:13.15 ID:JmASTJOw0
電「――――?」

中将「何だ……?」


「2人に手を……出すなぁぁぁぁっ!!」ドカッ!


電「――――ッ!?」ヨロッ…

ガシャァァァンッ!!

中将「電!?」


時雨「……えっ?」

初霜「な、何……? いったい、何が……」


吹雪「……っ、時雨ちゃん、初霜ちゃん!」


時雨「ふ、吹雪!?」

初霜「吹雪さん……! いったい、どうして……」

吹雪「私にもよくわからないけど……気が付いたら、意識が戻ってきて……身体も元通りに」

初霜「! 吹雪さん、そのお守り……」

時雨「お守りが光を……吹雪、それ……」

吹雪「これって……」

女神妖精 ( ^ー゚)bグッ
445 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:30:21.73 ID:JmASTJOw0
吹雪「応急修理女神……これがお守りの中に?」

初霜「そのお守り……確か……提督に……頂いたもの、ですよね?」

時雨「なるほど。確かに、最高のお守りだ」

吹雪「司令官……」ギュッ


ガララッ… ガシャァン!

電「――――っ」スクッ


吹雪「!」

時雨「安心してる場合じゃなかった。この状況をどうにかしないと」

初霜「吹雪さん……女神の力で、甦ったなら……弾薬も」

時雨「そうか! その手が――」

吹雪「だけど……私が装備してるのは魚雷だけで、砲系統の艤装は……!」


中将「貴様……よくも……よくも、電を……!」

中将「許さんぞ……貴様はより惨く殺してやる! 四肢を削ぎ! 臓物を撒き散らして殺してやるッ!」

中将「殺せ電っ! お前を痛めつけたゴミ屑を、誰かも解らぬほどバラバラに引き裂いてやれッ!」


電「――――!」ダッ


時雨「っ、また来る!」

吹雪「……やるしかない!」

吹雪「時雨ちゃん、初霜ちゃんと一緒に伏せてて!」ダッ

時雨「! 吹雪っ!?」

446 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:33:02.86 ID:JmASTJOw0
中将「愚か者が! 馬鹿の一つ覚えの如くまた体当たりか!」

中将「今度こそ仕留めてやれ! 電!」


電「――――!」シュルルッ

吹雪(っ! 尻尾の攻撃……これさえ避けられれば!)

電「――」シュッ

吹雪「っ!」

吹雪(避けられた! このまま巻き付かれないように……!)

電「――――!」シュルッ!


時雨「後ろだっ!!」

447 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:37:45.62 ID:JmASTJOw0
吹雪「っ!」

吹雪(避けた尻尾の先が、こっちを……!)


中将「終わりだ! そのまま刺し殺してしまえッ!」


電「――――」シュルッ

吹雪「……でも、ここまで近づけば十分」ガチャン!

電「――!」


中将「っ! 馬鹿が、陸では使えもしない魚雷だけで何が――」

中将「!?」


時雨「ま、まさか……」


電「――!?」

吹雪「確かに魚雷は海でないと使えない……けど」

吹雪「信管を作動させて、直接当てれば――」

吹雪(チャンスは1度だけ……全ての魚雷を、ゼロ距離で叩き込む!)


試製61cm六連装(酸素)魚雷 カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷   カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷   カッ!


電「!?」

吹雪「お願い、当たってください!」


チュドオォォォォンッ!!

448 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:40:28.05 ID:JmASTJOw0
時雨「っ!!」

初霜「きゃっ!」

時雨「……! 吹雪っ!?」


ドサッ! ドザザッ


吹雪「……っ、ぐ……っ」


初霜「吹雪さん……!?」

時雨「吹雪!」ダッ

時雨「しっかり……! 吹雪っ!」

吹雪「時雨ちゃ……」ゲホッ

時雨「! 吹雪!」

時雨「なんて……なんて馬鹿なこと……っ!」

吹雪「ぁはは……それより……電ちゃん、は……?」

時雨「!」バッ


中将「電!? 電ぁっ!?」


電「――ッ、――」フラフラ…


初霜「!」

時雨「!? 炎の中から……ダメージは入ったみたいだけど、まだ動けるのか」


電「――――っ」

電「――ァ」ヨロッ…

電「」ドシャッ!


中将「い、電……!?」

中将「あ……あぁ……いなず……電っ!?」

449 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:42:06.69 ID:JmASTJOw0
初霜「!」

時雨「やった……やったみたいだ、吹雪!」

吹雪「よ……かった……」


タッタッタッタッ…


時雨「……!」


阿武隈「今の爆発は……! 時雨ちゃん!」

時雨「阿武隈さん! それに、不知火と夕立も……!」

不知火「夕立と合流した後、阿武隈さんとも合流を……それより、吹雪さんと初霜さんは」

夕立「吹雪ちゃん!」

時雨「2人とも負傷してる。すぐに命に係わる心配は無さそうだけど……特に吹雪は、電を倒すためにゼロ距離で魚雷の爆発を受けたから……」

不知火「!」

阿武隈「なんて無茶なこと……っ!」

夕立「吹雪ちゃん……」

吹雪「そんな顔しないで……大丈夫、だから」
450 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:43:32.11 ID:JmASTJOw0
不知火「それじゃあ、電は……?」

時雨「……」


中将「あぁ……電…………電ぁ……!」

電「――ガ…――グ」プルプル

中将「大丈夫だ……電…………私が治す。治すからな……また、私が……おぉぉ、電ぁ……」

電「――ッ」


阿武隈「電ちゃんに寄り添って泣いてる……どうしてあの人は、あそこまで電ちゃんに……?」

時雨「……」


ドオンッ!


時雨「!?」

451 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:44:43.30 ID:JmASTJOw0

ドカンッ…ドンッ! チュドンッ!!


不知火「炎と爆発が……広まってる!?」

時雨「! さっきの爆発の炎が、近くの兵器や弾薬に誘爆し始めたのか!?」

阿武隈「嘘でしょ!? 作りかけの兵器とか弾の他にも、燃料とかもたくさん置かれてるのに……!」

時雨「それだけじゃない……ここには、深海棲艦を絶滅させる為の兵器もあるのに!」

不知火「!!」

時雨「ここに居たらまずい。すぐに逃げないと!」

阿武隈「っ! 時雨ちゃんと夕立ちゃんは吹雪ちゃんを、不知火ちゃんはあたしと一緒に初霜ちゃんに手を貸してあげて!」

不知火「了解しました」

夕立「吹雪ちゃん、私たちに掴まって」

吹雪「……ごめん……夕立ちゃん、不知火ちゃん」

時雨「しっかり掴まってて……夕立、君は左側からお願い」

夕立「ぽいっ!」
452 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 03:50:33.67 ID:JmASTJOw0
阿武隈「初霜ちゃんも、肩に手を回して」

初霜「阿武隈さん……電さんたち、を……」

阿武隈「……!」

不知火「何を……」

初霜「……見捨てていくなんて……あの2人も……一緒に、脱出を」

阿武隈「初霜ちゃん……」


ドカンッ! ボオッ…!


時雨「……火の回りが早い! 阿武隈さん、早く!」

阿武隈「っ! 不知火ちゃん、初霜ちゃんをお願い!」

不知火「まさか……正気ですか!?」

阿武隈「見殺しには出来ないわ。あたしが2人を連れていくから、みんなは先に出口を――」

阿武隈「っ!」ボウッ!

阿武隈「……! そんな! あの2人の周りが、炎に……!?」

不知火「っ! もう無理です! このままだと阿武隈さんまで炎に……!」

阿武隈「でもっ……!」

不知火「早くっ! このままだと全員死んでしまいます!」

阿武隈「……っ!」ダッ


メラメラ… ボオッ!


中将「電……私の愛しい……電……」

中将「もう1度……見せておくれ……私の大切な……この世で、たった1人の…………私の……」

電「――――ッ」

電「――ォ…ト……」ツー


グラッ… ガシャァァァンッ!!

453 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 10:57:01.19 ID:JmASTJOw0
不知火「っ! 出口は……出口はどこ!?」

阿武隈「電ちゃんたちから逃げ回ったせいで、来た道すら分からない……。炎もどんどん広まってるし、このままじゃ……」

時雨「……! この機械……見覚えがある。あっちだ!」

夕立「吹雪ちゃん、もう少しだから頑張って!」

吹雪「うん……」

阿武隈「初霜ちゃんも、頑張って!」

初霜「申し訳ありません……2人とも……」

時雨「……! 見えた、出口だ!」

阿武隈「みんな、急いで!」

吹雪「…………」


『――の――――――――っ―……そ――――に』


吹雪「……!」

夕立「吹雪ちゃん、出口が見えたっぽい! もうすぐだからね!」

吹雪「……うん…………」

454 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 11:07:32.26 ID:JmASTJOw0
-地下施設 地下実験場〜階段間の通路-

不知火「何とか……炎からは逃れられましたね」ハァハァ

時雨「でも、まだ安全って訳じゃない。あの兵器が誘爆してしまう前に、早くここから脱出して出来るだけ離れないと……!」

阿武隈「とにかく階段のところに! 地上に上がって、そのまますぐこの島から海に出ましょう!」



不知火「分岐が見えました!」

時雨「よし……。あそこを左に曲がって階段を上れば……」

時雨「……!?」

不知火「か、階段が……」

阿武隈「塞がってる……!? 天井の部分が崩れて……階段が……っ!?」

時雨「さっきの爆発のせいか……っ!」

不知火「ど、どうすれば……地上に出るには、この階段を上がるしかないのに!」

時雨「くっ……」



自由安価>>456

※※実現不可能なことや、あまりに話から外れた内容の場合は再安価と致します。

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:39:49.82 ID:DqJqwKqIO
確か海に通じる出口みたいなのがあったはずだったからそこに
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:54:05.84 ID:bj7PbJp8o
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/26(水) 19:14:38.11 ID:pF7we9H60
これ、このスレでの選択肢次第でもエンディングの分岐がありそうだな。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 20:13:18.65 ID:X5ppCLuCo
スーパータイラントならぬスーパー電くるか?
459 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 21:40:20.68 ID:JmASTJOw0
吹雪「……!」

吹雪「みんな……、あそこに……あそこから、海に……」

夕立「吹雪ちゃん?」

時雨「海? あそこからって、いったいどこに……?」

吹雪「地下の……っ、『出撃ドック』。あそこから、海に……出られるかも」

阿武隈「!」

初霜「……そういえば、私と夕立さんも……最初に目覚めたとき……あの場所に」ハァ…ハァ…

時雨「! そうか、出撃ドック……あそこは外――海と繋がってるのか!」

夕立「じゃあ……!」

時雨「時間もない……一か八か、行ってみよう」

阿武隈「でも、よく気付いたね。出撃ドックのこと」

吹雪「声が……聞こえたんです。さっき……誰かの声が……その声が、『出撃ドックから海に』って……」

阿武隈「声?」

吹雪「よくわからないけど……確かに聞こえた気がするの。女の子の声が……頭の中に」

時雨「女の子の声……」


ズズンッ…


時雨「!」

阿武隈「っ、今は考えてる場合じゃないわ! 早く出撃ドックに向かおう!」

460 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 21:52:58.91 ID:JmASTJOw0
-地下出撃ドック-

不知火「潮の匂い……! ドックに着きました!」

阿武隈「ここは電気が点いてないから全貌が分からないけど……どこかに、外に出れる場所があるはずだわ」

阿武隈「みんな、艤装のライトで辺りを照らして!」ピカッ

不知火「っ!」ピカッ

時雨「……」ピカッ

夕立「何もない……っていうか、向こう側は完全に冠水しちゃってるっぽい……?」

不知火「っ、そんな……ここまで来て……!」

初霜「でも……私と夕立さんが、海からここへ……流れ、着いたのなら……」

時雨「まだ外には繋がってる……? この水の先にさえ行ければ……」

阿武隈「でも、どうやって……!?」

時雨「……泳いでいくしかないね」
461 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:03:22.81 ID:JmASTJOw0
夕立「ぽいぃ!?」

阿武隈「泳ぐって……潜水艦でもないあたしたちが艤装を抱えたまま水の中になんて入ったら……!」

不知火「たちまち水没して……水死するのが関の山。さすがに、それは……何か別の方法を」

時雨「残念だけど他に方法はない。あったとしても、今からそれを探してるような時間はない」

時雨「それに、ここに流れ着いた初霜たちがこうして生きている事や、艤装にも問題が発生していない所を見ると――」


ズズンッ! ドォォンッ!


阿武隈「爆音がすぐ近くにまで……! それに、何かが崩れる音も……!」

時雨「地下が崩落し始めたんだ……迷ってる時間はない。行こう、みんな!」

不知火「〜〜っ! 分かりました。迷いながら瓦礫で圧死するくらいなら……ここからの脱出に賭けましょう」

夕立「でも、怪我してる吹雪ちゃんや初霜ちゃんは……!?」

吹雪「……っ」

初霜「……」ハァ…ハァ…

阿武隈「このままあたしたちで支えて、みんなで一緒に行くよ。見捨てていくなんて、絶対にイヤ!」

不知火「1人でも欠けて自分だけ生き残るくらいなら……皆で一緒に死んだほうがマシです」

時雨「そうだね。みんなで一緒に行こう」
462 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:12:29.42 ID:JmASTJOw0
阿武隈「じゃあ、みんな……準備はいい?」

不知火「初霜さん、傷口に水が障って辛いでしょうが……何とか頑張ってください」

初霜「はい……ごめんなさい、よろしく……お願いします」

時雨「水の中に入って少し泳いだら、とにかく上を……海上を目指そう」

夕立「吹雪ちゃん、水の中に入ったら頑張って息を止めて。出来るだけ早く、外に出るから……!」

吹雪「うん……」

阿武隈「じゃあ……いくよ!」ザバッ

初霜「――っ!」ズキッ

不知火「初霜さん、頑張って……。では時雨さん、不知火たちが先に潜り先導します」

時雨「うん。光もない、本当に手探りになるだろうけど……何とか頑張って海上を目指そう」

阿武隈「いくよ、不知火ちゃん」

不知火「はい……っ!」スゥッ

ザバッ!

時雨「僕たちも行くよ。夕立、吹雪をしっかり抱えて」

夕立「ぽいっ!」

時雨「よし……いくよ!」ザバッ

夕立「っ!」ザバッ

463 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/26(水) 22:31:43.84 ID:JmASTJOw0


コポッ……コポポッ


時雨「――――」

夕立「――――」


吹雪(真っ暗で……暗くて……寒い……)

吹雪(これが暗い海の中……光の無い……世界……)


ズキッ!


吹雪「――――ッ!?」


吹雪(身体が……っ、どんどん……冷たく、なって……)

吹雪(……そうか……これが、あの人が言っていた……これが……深海棲艦の……)


夕立「――――っ、――!」

時雨「――――!」


吹雪(あぁ……そうか……わたし……)

吹雪(ごめん……夕立ちゃん……わたし……眠く…………)

吹雪(だめ……意識が……また…………)


『―――――』


吹雪(…………?)


『―――――――――、―――――― ――――――――――――……』



コポポッ…!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


464 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:00:28.85 ID:pwqOUEe30
吹雪「…………ん……」

吹雪「……あれ……ここは……?」

夕立「……! 吹雪ちゃんが起きたっぽい!」

吹雪「その声……夕立ちゃん?」

吹雪「ここ……ベッドの上……?」

吹雪「っ!」ガバッ

夕立「おはよう。吹雪ちゃん」

吹雪「夕立ちゃん! どうしてベッドの上に? 阿武隈さんや他のみんなは? それにここは……!?」

夕立「吹雪ちゃん、少し落ち着いて」

吹雪「私……どうして、あの地下施設から脱出して……それから……記憶が……」

初霜「私たちは助かったんですよ、吹雪さん」

吹雪「! 初霜ちゃんも、無事だったんだね!」

初霜「ええ。他の皆さんも……入院しているのは私たち3人だけなので今ここにはいませんが、全員無事ですよ」

吹雪「入院……それに助かったって……じゃあ、ここは……」

夕立「ここは鎮守府の病院棟だよ」

初霜「無事に帰れたんですよ、私たちの鎮守府に」

465 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:03:54.76 ID:pwqOUEe30
吹雪(それからしばらくの間、私は状況が掴めなかったけど……初霜ちゃんたちの話を聞いてようやく理解することが出来た)

吹雪(私たちがあの廃墟と化した鎮守府に迷い込み、地下施設からの脱出を図ってから、なんと3日も経っていた)

吹雪(あの地下のドックから海上を目指した私たちは、幸運にも水没することなく全員無事に海上に浮上出来たらしい)

吹雪(私は水の中に潜った直後気を失い、夕立ちゃんと時雨ちゃんの支えで何とか海上へと辿り着いた。けどその後もずっと気絶したままだったらしい)

吹雪(海上に上がった私たちは、すぐにあの島を脱出し、その後、私たちの捜索に出ていた味方の艦隊を発見し合流を果たした)

吹雪(そうして私たちは、無事に鎮守府へと帰還することが出来たのだ)

吹雪(負傷していた私と初霜ちゃん、怪物に襲われた夕立ちゃんは帰還後すぐに入院。幸いみんな命に別状はなかったものの、大事を取り1週間は入院生活を言い渡されたという)

吹雪(私はついさっき目を覚ますまで、3日間も眠ったままだったらしい……)



吹雪「私が眠っていた間に、そんなことが……」

初霜「入院している私たちの代わりに、阿武隈さんや時雨さんたちが提督に事情を説明しているそうです」

夕立「昨日もお見舞いに来てくれたけど、色々大変そうっぽい」

吹雪「……でも、私たち……帰ってこれたんだね」

初霜「……はい。帰ってこれたんです。皆さんの元に……私たちの、居場所に」
466 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:07:33.98 ID:pwqOUEe30
吹雪「あれ? そういえば、この花瓶の花……私たち全員の横に置かれてるけど」

初霜「ああ、それは青葉さんがお見舞いに持ってきてくれた物なんですよ」

吹雪「青葉さんが?」

初霜「私たちが帰還して入院した後、わざわざ全員の分を持ってお見舞いに来てくれたんです」

吹雪「青葉さんが……なんか、珍しいって言うか……以外って言うか」

夕立「でも、その代わりに色んなこと根掘り葉掘り聞かれたっぽい」

初霜「質問攻めにされて、最後は『これでいい記事が書けます!』って感謝されましたね。途中からはお見舞いというより、完全に取材になってましたね……」

吹雪「あはは……やっぱりいつもの青葉さんだ」

吹雪「……でもこの花、とても綺麗。ピンク色の……えーと、なんていう花だろう?」

初霜「ガーベラ、だったと思います」

夕立「夕立的には食べ物の方が嬉しかったっぽい」

初霜「……夕立さん」

夕立「うそうそ! 冗談っぽい」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 01:09:07.20 ID:+CphB0M0o
実はこれbadendでは?
468 : ◆Paxl0Q5Mlk [saga]:2017/07/27(木) 01:14:34.37 ID:pwqOUEe30

コンコン


初霜「はい。どなたですか?」

白雪「白雪です。吹雪ちゃんのお見舞いに。深雪ちゃんと初雪ちゃんも一緒に」

初霜「ちょうどよかった。ついさっき吹雪さんが目を覚ましたところで――」



吹雪(何はともあれ、私たちは全員無事に……私たちの鎮守府に帰ってくることが出来た)

吹雪(でも、私たちがあの鎮守府で知ったこと――知ってしまったことは、この先大きな混乱に繋がってしまう。そんな予感を感じていた)

吹雪(私たちの行く末……この先に待っているのは、いったいどんな未来なのか?)

吹雪(それはまだ分からない……でも、きっと方法はあるはず)

吹雪(私たちと深海棲艦……終わることの無いというこの戦争を、どちらかを滅ぼさずとも終結させる方法が……)



吹雪(そういえば……あの鎮守府を脱出するとき……水の中で、また……あの声が聞こえた気がする)

吹雪(あれはいったい……誰の声だったんだろう。あの声は、どうして……)

吹雪(どうして私に、謝ったんだろう……)









――巻き込んでしまって ごめんなさい  と   を許してあげて……―――









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